2007年7月 8日 (日)

【入門】株式譲渡自由の原則(4)

ブルドックやら、司法試験ネタで、中断していた株式譲渡自由の原則の続きを
やりましょう。

株式譲渡自由の原則は、株主の投下資本回収手段を確保するために重要な原則
ですが
 「法律による制限」
 「定款による制限」
の2種類の制限があるというお話をしました。

今日は、法律による制限について、お話しします。

法律によって株式譲渡自由の原則が制限される場合を、さらに2つに分類する

(1)株券発行前の譲渡に対する制限
(2)会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限
に分けられます。

(1)株券発行前の譲渡に対する制限

 最初に「株式」と「株券」を区別することからはじめましょう。

「株式」というのは、株主が会社に対して持っている「権利」のことであり、
目に見えないもののです。

 「株券」というのは、株式という権利を流通させるための有価証券(=紙)
です。
 株券は、すべての会社について発行されるものではなく、株式会社は、定款
で「株券」を発行するかどうかを決めることができます。

 そのため、株式という権利を譲渡する方法としては
  ① 定款に「株券」を発行する旨の定めがある場合
       ・・・契約+株券の交付(128条1項)
    ②その定めがない場合
         ・・・契約のみ(ただし、株主名簿の名義書換が第三者対抗要
    件)
という2つのパターンがあります。

 この要件だけを見ると、株券を発行する会社の株式の方が、株券の交付が必
要な分だけ、譲渡がしにくいようにも見えますが、第三者対抗要件の具備まで
含めて考えると、
    株主名簿の名義書換をしなくても、株券の交付だけで第三者対抗要件が具
    備できる
いう点で
  株券発行会社の株式の方が流通させやすい
ということができます。

 しかも、株券発行会社の株式ならば、無権利者と株式売買契約をしても、善
意取得できますから、株式が欲しい人にとっては
  株券の交付さえ受けていれば、安心して株式を取得できる
ということができます。

以上の理解を前提に、株式譲渡自由の原則の例外と言われる128条2項を見
てみると、

「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。」

と規定されています。

 先ほど説明したように、株券発行会社の株式は、株券の交付によって、権利
移転が生じますから、株券の発行前に株式を譲渡しようとしても
   株券の交付ができません
から、本来、権利移転の効力は生じないはずです。

 それにも、かかわらず、なぜ128条2項のような規定が置かれているので
しょうか。

 この点について、反対説は
 
 株券は「有因証券」であり、株券を発行しなくても、株式はすでに成立して
いる。
 そのため、株券の発行前は、本来、意思表示によって、株式を譲渡すること
ができるはずである。
 しかし、株券発行前の譲渡を認めると、株券を渡す相手がどんどん変わって
しまうから、事務処理が大変である。
 そこで、128条2項は、会社の株券発行事務の渋滞を避けるために、会社
に対する対抗要件を定めたものにすぎない。

ということを考えているようです。

 しかし、この反対説は、次のような問題点をはらんでいます。
 
(1)128条1項は、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券
を交付しなければ、その効力を生じない。」と規定しているが、同項は、条文
上、株券の発行の前後を問わず、適用される。
 とすると、「株券の発行前は、意思表示によって株式の譲渡ができる」とい
う前提が間違っている。
(2)新株予約権証券や社債券も有因証券であるが、128条2項のような規
定はない。その考え方に立つと、新株予約権証券や、社債券が発行される前に
、意思表示でどんどん譲渡していいことになってしまう。
(3)反対説は「第三者対抗要件」をどう考えるか不明である。論理的には、
株券発行前の株式を指名債権ととらえ、確定日付ある証書による通知又は承諾
とすることになろうが、そうすると、株券の発行前の譲受人と発行後の譲受人
が存在する場合の対抗関係の処理がよく分からなくなる。

 (3)は、わかりにくいので、例をあげて説明しましょう。

 株式会社正直法務が、松真さんに新株を発行しましたが、株券の発行前に松
真さんは、湯水さんに株式を譲渡し、正直法務に対し、確定日付ある通知をし
たとします。
 正直法務は、128条2項があるので、そんな通知を無視して、松真さんに
株券を交付したところ、松真さんは、法曹川さんに、その株券を譲渡しました
。法曹川さんは、松真さんが湯水さんに株券発行前に譲渡したことは知ってい
ましたが、確定日付ある通知をしたことは知りませんでした。法曹川さんは、
「株券発行前だから譲渡は無効なはずだ」と思っていたのです。

 以上の事例で、仮に、株券発行前に譲り受けた湯水さんが、法曹川さんに勝
つということになると
        法曹川さんは、株券を譲り受ける前に、正直法務に、自分に優先
    する譲受人がいるかどうかを確認しなければならない
というルールを採用したことになってしまいます。

 もし、そんなルールになると、株券を譲り受ける人は、皆、その確認をしな
ければならなくなり、「株券の交付を受ければ、安心して株式を取得すること
ができる」という株券制度の目的を達成することができなくなってしまいます

 他方、悪意の法曹川さんが勝つというルールだとすれば、株券発行前の湯水
さんは、第三者対抗要件を備える方法がないということになりますが、これで
は、「128条2項は、対会社対抗要件の問題にすぎない」という反対説の前
提と矛盾します。だって、128条2項は、松真さんと湯水さんとの間で第三
者対抗要件を備える方法がないという法的効果も導いていることになりますか
ら。

ということで、どうも、株券発行前の株式の譲渡は
   対会社対抗要件の問題ではなく、
   権利移転の効力の問題
ととらえる方が合理的だと思います(条文も「その効力を生じない」となって
います)。つまり、128条2項は、1項から導かれる効果を注意的に規定し
たものと考えるわけです。

ただし、株券発行会社が、株主が株券の発行請求をしたにもかかわらず、不当
に株券を発行しなかった場合には、会社は、信義則上、株券の交付が欠如して
いることを理由に株式の譲渡の効力を否定することはできないと考えるべきで
しょう。

なお、以上の説明から、よくよく考えてみると、128条2項は
 株式譲渡自由の原則の「例外」
というのは適切ではないと思いませんか?

 手形を譲渡するときに、手形の交付が必要なことを、譲渡の「制限」とは言
わないのと同じように、128条2項は、譲渡自体を制限していないので、本
当は、「例外」というのは、不適切なのだと思います。

しかし、伝統的に「例外」に分類されているので、ここでも、一応、「例外」
扱いしてきます。

(2)会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限

 会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限は、

a 会社又は子会社が取得する場合(買い手)
b 会社が自己株式を譲渡する場合(売り手)
 (子会社が親会社株式を譲渡するのは、制限がありません)

に区別できます。

 aは、資本の空洞化を防止する観点から課される制限
 bは、会社が新株発行手続きを潜脱しないようにするための制限
です。

aも,bも、会社法において、非常に重要なところなのですが、他で詳しく説明
しますから、ここでは、説明を省略させてもらいます。

では、また。

(質問コーナー)
Q1
防衛策は「理論的には抑止力にならない気がするのですが。」という私の質問
に対して、
「①時間稼ぎにはなりますし、②8割の株主が防衛策に賛成したとなると、
TOBをかけても売り手がいないのではないかと思わせる政治的効果があります

とお答え頂きありがとうございます。

ただ、①についてはあまりに費用対効果が悪すぎますし(防衛策の目的が「交
渉のための時間稼ぎ」という点にあるのはよく言われることですが、発動効果
も「時間稼ぎ」の効果しかないという防衛策では、買収者との交渉材料にすら
使えない気がします。その割には、コストがかかりすぎると思います。)、②
については、むしろ防衛策発動の必要性を失わせる理由になるのではないかと
思います。そういう意味では、今回のブルドックの防衛策自体の効果は、「導
入のセレモニーを通じて、スティール死ね死ねモードを盛り上げた」という効
果があったにすぎないように感じるのですが、いかがでしょうか。

また、それだけの効果しかない防衛策であれば、そもそもスティールの訴えに
は保全の必要性がないことが明らかのような気がします。

投稿 paripasu | 2007年7月 1日 (日) 21時18分
A1
防衛策は、多分に政治的効果をねらって導入発動するものですから、費用対効
果は、あまり気にならないのでしょう。

Q2
早速質問ですが,ロー生はとにかく答案を書く量が少ないので,たくさん書け
とおっしゃっていたと思います。
これは,書くことが分からないような純粋未修者にも共通するのでしょうか。
参考答案の丸写しでもいいから書いたほうがいいのでしょうか。

また,葉玉先生が純粋未修者と仮定して,先生なら3年間を通じてどのような
自主ゼミ(生徒のみで組織)を組んで,どのように活動していきますか?具体
的にお答えいただければ幸いです。
お手数をおかけいたしますが,ご教授の程,よろしくお願いいたします。

投稿 絶対合格! | 2007年7月 2日 (月) 13時29分
A2
純粋未習であろうと、書いてみることです。
同じ問題を合格するまでに3回も4回も書きましょう。
見ながら書く丸写しは、駄目です。
まず、参考答案を読んで、その後、何も見ずに書くのはOKです。
自分で考えながら、書きましょう。

なお、3年間のカリキュラムをここで書くのは難しいので、また今度。

Q3
株式交換完全子会社に対する株式買取請求について、書き込ませていただいた
ものです。

丁寧にご回答していただき、ありがとうございました。

私の理解では、以下の通りたったのですが、よくわからないので再度確認させ
てください。

反対株主⇔株式交換完全子会社:
反対株主には、株式を引き渡す義務+対価をもらう権利(協議or裁判所で価格
決定)が生じる。要するに、株式は一瞬自己株式になる。

株式交換完全子会社⇔株式交換完全親株式会社:
株式交換完全子会社が自己株式(反対株主から取得した株式)を保有している
ので、株式交換完全子会社を株主として、株式交換完全親会社の株式(金銭等
)が割り当てられる。要するに、上記自己株式は、親会社に移転するとともに
、株式交換完全親会社の株式が株式交換完全子会社に割り当てられる(株式交
換も効力発生しているので。また、こう考えないと、当該株式交換により完全
親会社が発行すべき株式の数が変わってくる。)。

なので、反対株主は、「原則としては代金をもらう。786条3項の撤回をしたと
きは、代金を返して(or代金請求権を失って)、株式交換完全子会社が保有す
る親会社株式をもらう。」と考えております。

投稿 ぞう | 2007年7月 2日 (月) 15時26分
A3
一番、最後の「なので」と言うところが、問題なのだと思います。
つまり、株主は、買取請求をすることで、完全子会社との間で、完全子会社株
式の売買契約を締結したのと同じ効果を生じます。
 これを撤回するということは、完全子会社は、本来、株主に「完全子会社株
式」を返還すべき義務を負うということです。
 普通に考えれば、完全子会社は、完全子会社株式を返還することが履行不能
になっていますので、これが金銭返還義務に転化することになると考えるので
はないでしょうか。
 ぞうさんは、ここで、で「親会社株式」を返還する義務を負うと考えている
のですが、なぜ、そこで「親会社株式」になるのでしょうか?

Q4
見せ金による払い込みは無効で、これが会社の設立段階では、設立無効原因に
なります。
では、これが募集株式の発行の場合、株式会社の成立後における株式の発行
(828条1項2号)の無効原因になりうるでしょうか。
旧商法下の判例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrch
Kbn=02&hanreiNo=25537&hanreiKbn=01
の(四)は、会社法の下でどう考えれば宜しいでしょうか。
投稿 去年商法C | 2007年7月 3日 (火) 01時06分
A4
その判例自体を変更する必要はないと思います。

Q5
葉玉先生。
初めまして。
僕は司法試験ではないのですが、弁理士試験の勉強をしています。
葉玉先生の勉強法を参考に初心者の僕は、刺激を受けています。
基本的な質問で、申し訳ないですが
法律の勉強の仕方・条文を読む上で注意すべきこと
是非アドバイス頂ければと思いコメント書きました。
是非アドバイス宜しくお願いいたします。
投稿 ガンバ | 2007年7月 3日 (火) 12時16分
A5
会社法100問の最後の方にある勉強の仕方を読んでください。
詳しく書いています。

Q6
会社法の条文について質問させてください。
「支配人の競業の禁止」(会社法12条)については、
「支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為〔ニ 自己又は第三
者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。〕をしてはならない。

と規定されており、他方、取締役の「競業(および利益相反取引)の制限」(
会社法356条)については、
「取締役は、次に掲げる場合〔一 取締役が自己又は第三者のために株式会社
の事業の部類に属する取引をしようとするとき。〕には、株主総会において、
当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」
と規定されており、その体裁が異なっているように思います。

これには理由があるのでしょうか?

両者は対偶関係(許可がない→競業取引ダメ⇔競業取引をする→許可がいる)
にあり、実質的には同じことを言ってるような気もするのですが、支配人の場
合は競業取引は原則ダメといっているのに、取締役の場合はそうはいっていな
いので、取締役の場合は、少なくとも会社法上は「競業<避止>義務」なるも
のは観念できない(そのため、356条も「禁止」ではなく「制限」としている
)のかと思っていたのですが、100問をみると、普通に「取締役の競業避止
義務」という言葉が使われており、どうもこの理解は誤っている気がします。

長くなりましたが、
①支配人の競業の禁止と取締役の競業の制限の条文の体裁が異なる理由
②取締役に競業「避止」義務はあるのか
③競業「避止」義務違反があるとすると、その違反行為に対して、会社自身が
、直接会社法上の条文を根拠として差止請求をすることができるのか(360条
、385条による差止請求を除く)
という点について、よろしくご教授願います。

投稿 さる | 2007年7月 4日 (水) 05時56分
A6
①使用人と役員の違いを踏まえた、伝統的な表現の仕方の違いで、実質はそん
なに変わらないと思います。
②取締役も、株式会社の事前承認を得る必要があるので、避止義務はあるので
しょう。
③直接の差し止めというのは、ちょっと根拠が弱いかな。委任契約の内容にな
っていると考えれば、契約上の義務履行として差し止めはできると思います。

Q7
失念株がらみで、ご教授ください。
剰余金配当について、当事者意思が不明確な場合、民法575条1項を類推す
る、というくだりです。
民法の知識で言えば、575の趣旨は果実と利息と管理費などの簡易決済のた
め認められた規定であり、バランスが崩れたら、すなわち金払った場合には5
75条い1項は適用されず、果実は買い主の物になると思います。
とすれば、同条類推ならば、失念株主が譲渡人に支払いを済ませていれば配当
金は失念株主のものになると考えるのが素直と思いますが、如何でしょうか?
(そう書いても間違いではないでしょうか?)

投稿 択一通りました | 2007年7月 4日 (水) 22時36分
A7
それも、一つの考えです。

Q8
種類株式発行会社における会社法188条3項及び191条に関する質問です。
ご教授の程お願い申し上げます。

①普通株式と、配当優先株式(議決権なし)を発行している種類株式発行会社
(公開会社)において、会社法第115条の措置のために普通株式のみ株式分割
(1株→2株)と同時に単元株式数設定(2株を1単元)の効力発生するよう
第191条に基づき取締役会で定款変更決議をし、配当優先株式についてはなん
ら変更を加えなかった場合、普通株式についての単元株式数設定による定款変
更の効力は発生しないのでしょうか。
会社法第188条3項では単元株式数は全ての種類株式に設定しなければならない
とされています。

②①の説例で、第188条3項の文面どおり優先株式についても単元株式数を設定
する必要があるならば、1単元を1株とせざるを得ません。(商法時代の法務
省民事局商事課の商業登記事務取扱のQ&Aに同様の解釈があります)
普通株式については①のとおり、株式分割と同時に単元株式数を設定し、優先
株式については株式分割をせずに1単元を1株とする単元株式数を設定する場
合は、191条の適用はあるのでしょうか。
191条は株主にとって明らかに不利益が発生しない定款変更にまで、株主総会
の特別決議を求める必要がないと理解しているのですが、そうであれば本件説
例の場合も取締役会の決議をもって定款変更は可能と考えますがいかがでしょ
うか。
投稿 seiquro | 2007年7月 5日 (木) 13時48分
A8
なかなか悩ましい問題ですね。
①は、形式的に考えると、各種類について単元株式数を定めていないとすると
、191条の要件を満たさないと考えるんでしょうね。

なお、方法とししては、優先株式について、1:1.00000000000
001の株式の分割をすることが考えられますが、そんな姑息なことをするく
らいなら、正面から、分割も単元株式数の設定もなしでいいと考えたいところ
ですよね。でも、なかなか難しいです。

Q9
株式会社の発起設立において、設立時取締役の報酬を発起人会ないしは発起人
全員の同意で決めることはできませんか?
投稿 中小企業の味方 | 2007年7月 6日 (金) 00時09分
A9
定款で決めればできます。

Q10
最近会社法の勉強をはじめたばかりのものです。会社法199条4項や200条4項が
具体的に適用される場面がイメージできません。会社法の本は高いので本屋で
立ち読みしますがこの点を具体的に記述している本はないようです。第三者割
り当てにおいて種類株主総会の特別決議がいる場合とはどのような場面なのか
恐れ入りますがご教示ください。(できれば非公開会社と公開会社の場合の両
方についてくわしくおねがいします。)当該種類の株式は譲渡制限株式のこと
なのでしょうか。
投稿 初心者 | 2007年7月 6日 (金) 11時48分
A10
会社法の勉強をするのなら、高くても会社法の本を買わないといけないと思い
ます。
とりあえず、種類株主総会を詳しく勉強するより、もっと別のことを勉強しま
しょう。

Q11
監査委員の兼任禁止規定について教えてください。「当該会社の執行役又は業
務執行取締役」と監査委員の兼任が禁止されていますが当該会社の業務執行取
締役つまり委員会設置会社の業務執行取締役とはどういう意味なのでしょうか
。原則的に委員会設置会社の取締役は業務執行できないので取締役が執行役を
兼ねている場合のことですか。ご教示ください。よろしくお願いいたします。

投稿 初心者 | 2007年7月 7日 (土) 23時45分
A11
委員会設置会社の業務執行取締役は、取締役と執行役を兼ねている場合や、取
締役が違法に業務執行をした場合等です。

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2007年6月 8日 (金)

【入門】株式譲渡自由の原則(2)

 新司法試験の択一試験(足きり)の発表がありました。
「去年あれほど言ったのに、東大は、あいかわらず択一が強くないなあ。受け控えも結構いるし」とか
「早稲田は知り合いが多いから、もう10歩くらい、がんばってほしい」とか
「九大、大丈夫か。福大はがんばってるけど、ちょっと受け控えが多いな」
等と、自分に係わり合いのある大学について、いろいろ感想はありますが、大事なのは最終合格の分析なので、論文発表後に詳しく分析します。

次に、ポップンさんに紹介していただきましたが、昨日から、日経ビジネスオンラインというところで、勉強術の連載を始めることになりました。題して
「葉玉匡美の脱時空勉強術」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20070524/125480/
 毎週木曜日に更新で、全12回の予定です。
 
 このブログでも、司法試験の勉強の仕方についてお話したことがありますが、今回は、ビジネスマン向けという依頼があったので、忙しいビジネスマンの顔を思い浮かべながら、書いてます。
 
 司法試験に特化したノウハウは紹介しませんが、どんな勉強もやり方は同じですから、受験生にも役に立つでしょう。無料登録をすれば、誰でも見られるはずなので、興味ある人は覗いてください。
 ちなみに、この連載、読者がコメントを書く欄があるのが特徴です。
 私がグータラ人間だと書いたら、何人かの人が「グータラ」観について語っていて、これが結構、面白い。
 私は、グータラで、面倒くさがりで、あまり人の言うことを聴きたくない人間ですが、いろいろな仕事が身の上に降りかかってきて、24時間ダラーッとしていられるような環境にありません。
 そこで、仕事を無視して文句を言われても、気にもとめずに自分勝手にダラーッとできるい人は、強いグータラなんですが、小心者の私は、そういうことができませんし、第一、文句を言われたら、ゆっくりした気分になれません。
 だから、私のグータラ感は、「やらなきゃいけないことを早めにこなして、他人に干渉されない時間を作るグータラ」。多忙グータラです。
 そういう人向けの連載なので、キッチリしたのが好きな人と、強いグータラの人には向かない勉強術かもしれません。

 さて、話題を変えて、株式譲渡自由の原則の続きをお話しましょう。
 
 前回は、株式譲渡自由の原則は
   譲渡禁止特約を許さない
という点で、民法の債権譲渡自由の原則よりも譲渡性が強化されていて
   譲渡制限株式ですら、株式会社の承認なく、有効に譲渡することができる
   (会社に譲渡を対抗することができないだけ)
というお話をしました。
   
 なぜ、そのように譲渡性が強化されているか、一言でいえば
   株主にとって、株式の譲渡が唯一の投下資本回収手段だから
ということになります。

 株主が、会社に出資したり、株式を購入したりするのは、究極的には、
   お金儲け
をするためです。
 例えば、裁判官の松真さん(仮名)が裁判所を退職し、退職金700万円を出資して、300万円を出資した湯水さんと一緒に、株式会社正直法務を設立したとしましょう(株式を1000株発行)。湯水さんは代表取締役として働き、松真さんは,単に株主としてだけ、会社にかかわっています。

 株主である松真さんは、通常は、1年に1回か2回、交付される
  配当
を楽しみにするでしょうが、湯水さんが常軌を逸するほど商売がうまいか、よほど手を汚すような商売をしない限り、短期間に配当だけで、松真さんに700万円相当額の元をとらせるのは難しいでしょう。

 もちろん、長年配当が続けば、松真さんは、700万円を超える配当を受け取ることができるでしょうが、1年あたりの配当額が、仮に出資額の5%(35万円)だとしても、松真さんは、「配当は、俺のタバコ代だな」という程度にしか考えないのでしょうか。

 松真さんとしては、退職金700万を元手にして、「10年後には、子供が私立の医学部に行くだろうから、そのときに入学金と授業料をまかなえるくらいのお金に換金できればいいな」などと夢を膨らませているでしょう。

つまり、株主は、通常、配当を受け取るだけではなく、いつか株式を手放して、お金に換えることを予定しているのです。このように投資により取得した株式をお金に換えることを、
 「投下資本の回収」
と呼んでいます。

この投下資本の回収手段は、理論的には、①持分の払戻しと、②株式の譲渡の2種類の方法があります。

1 持分の払戻し
1つ目は、退社による持分の払戻し。
たとえば、松真さんが700株を「消滅」させて株主ではなくなる代わりに、会社からお金をもらう方法ですが、この持分の払戻しは
  株式会社では、禁止
されています(ちなみに、持分会社では許されています)。

 通常、退社というのは、会社の「一部解散」というイメージで捉えられています。
 つまり、社員が全員社員でなくなるのが「解散」で、社員の一部が社員でなくなるのが、「退社」だから、一部解散。
 それで、解散時に社員に残余財産を分配するのと同じように、社員が退社するときに、その持分相当分の会社財産を分配するべきだという発想になり、それを「持分の払戻し」と呼んでいるのです。ですから、持分の払戻しは、いわば、共有物の分割みたいなものです。

 このように退社を「一部解散」というイメージで捉えてみると、
「なぜ、株式会社では、株式を消滅させて払戻しをするのを禁止するのか」
という理由が分かります。

 本来、会社が解散するときには、債権者が会社財産からまず支払いを受け、その残りの財産を社員で分配するのが原則です(このことを、社員は債権者に劣後するといいます)。このルールは、株式会社でも持分会社でも同じです(664条を見てください)。

 このように、会社を解散するときは、債権者への支払いが先なのだから、社員が退社する場合(つまり一部解散する場合)には
  「債権者との間の清算がまだ済んでいないから、お金はまだ返せないよ。」
というのが本筋なのです。

 しかし、会社が存続している限り、自分の出資したお金が戻ってこないとなると、出資をする方はたまったものではありません。

そこで、持分会社では
  債権者が、退社した社員に対して、退社前の責任を追及することができる(612条)
というルールを採用するかわりに、持分の払戻しを認めています(なお、合同会社のことを話すと話が複雑になるので、後日、詳しくお話します)。

これに対して、株式会社は、出資者のリスクを限定するために
  株主は、間接有限責任しか負わない
ということにしていますから、持分の払戻し後の株主の責任を追及させるわけにはいきません。

 それで、株式会社では、持分の払戻しは、原則どおり、禁止されているのです。

 ちなみに、株式の消却は、社員の地位を消滅させるので、退社に分類されます。しかし、会社法では、自己株式の消却しか認められていないので、株主が消却によって財産を受け取ることはなく、持分の払戻しに相当するものはありません。

2 株式の譲渡
 1で述べたように、株式会社では、持分の払戻しが禁止されているため、株主が投下資本を回収するためには、
   株式を他人に売って換金する
とことになります。
 たとえば、松真さんのお子さんが医学部に進学したとき、入学金が1000万円必要になったとしましょう。松真さんは、これまで貰った配当を全てタバコの煙に変えてしまっていたので、お金がぜんぜんありません。では、どうするか。松真さんは、湯水さんのところにいき
  「出資金1000万円で始めた正直法務も、10年で純資産が2000万円に増えた。湯水さん、俺の株式を1400万円で買ってもらえないだろうか」
と頼みにいけばいいのです。

 湯水さんは、松真さんの株式を買う義務はありませんし、値段は必ずしも、純資産ベースで決める必要はなく、税金の問題を抜きにすれば、交渉次第でいくらに決めても構いません。
 
 しかし、代表取締役の湯水さんが
 「ここで松真さんからの頼みを断ったりすると、松真さんは、ヤメ検弁護士の法曹川さんのところに株式の買取りを頼みにいきそうだな。法曹川さんが株主になると、僕が経営に失敗したとき「死ね!」とか言いそうだし、ここは松真さんの言い値で買っておくか・・・」
等と考えて、松真さんと株式の売買契約を結ぶかもしれません。
 もしそうなれば、一件落着。
 松真さんは、700万円で取得した株式を1400万で売って無事投下資本回収を完了したことになります。

 この例からもわかるとおり、
  株式の譲渡は、株主にとって唯一の投下資本回収手段
であり、もし、株式の譲渡ができなくなってしまうと、松真さんは、せっかく退職金をはたいて出資した株式を現金に換える方法がなくなってしまいます。
 だからこそ、会社法は、株式譲渡自由の原則を採用する必要があるのです(必要性)。

 しかも、株式会社では、所有と経営が分離していて、株主が必ずしも経営にタッチしていません。また、定款の変更等重要な事項も「多数決」で決めることになっていて、株主全員の同意が必要な事項は、ごく例外的なものにすぎません。

 先ほどの例でも、松真さんは、出資しているだけで、経営にはタッチしていませんでしたから、松真さんが株主でなくなっても、正直法務の経営には、何の影響もありません。
 すなわち、所有と経営の分離は、株式譲渡自由の原則を認める前提となっているのです(許容性)。
 
 この必要性と許容性を双方考慮にいれて、会社法の株式譲渡自由の原則ができあがっているのです。
 
  最後に2点だけ、注意点を。
(1) 株式譲渡自由の原則は、株主が、株式会社の承認なく、会社が株式を買い取ってくれることを保障しているわけではありません。 
 松真さんが、いくら投下資本を回収しようとしても、湯水さん、法曹川さんなど他の人が誰も買ってくれなかったら、投下資本を回収することはできません。
 初心者の中には、出資したお金が必ず回収できると勘違いする人がいますので、念のため説明しました。最悪の場合、会社が解散するまで、回収できない可能性もあるのです。

(2) 株式の交付を受けることができる権利である新株予約権にも譲渡自由の原則があります(254条)。しかし、新株予約権者は債権者であって株主ではないので、同原則は、株式譲渡自由の原則とは趣旨が異なりますし、譲渡制限についてのルールも違います。
 また、社債には、127条や254条のような規定はなく、譲渡禁止特約を付すことができます。
 このように会社法上の権利であっても、権利の性質によって譲渡性が異なることは、意識しておいてください。

次回は、株式譲渡自由の原則の例外についてお話します。

(質問コーナー)
Q1
「譲渡禁止特約に違反する債権譲渡の効力については、民法でも学説が分かれていますが、悪意の債務者との関係では譲渡は無効であると考えるのが判例通説です。」とありますが、
「悪意の第三者」または「悪意の譲受人」の誤りではないでしょうか
投稿 | 2007年6月 6日 (水) 19時47分
A1
おっしゃるとおり。ケアレスミスです。訂正しました。
ありがとうございます。

Q2
反対株主の株式買取請求における公告について質問させてください。
 785条4項および797条4項は 通知を公告に代えることができる例外要件を定めています。そして各条1号は 公開会社では会社の承認なく株式の譲渡ができるので、株主名簿に記載されたものに通知するよりも公告で株主名簿に記載されていない現在の株主に公告したほうが適切な場合があることを趣旨とすると理解しています。
 まだ各条2号は すでに株主総会の召集通知で株主に通知しているので再度通知する必要性が少ないことを趣旨とすると理解しています。
 この趣旨は新設合併等の手続きにも当てはまると考えますが、
806条4項は無条件に通知を公告に代えることができると定めています。
 この理由を教えてくだされば幸いです。
投稿 maru | 2007年6月 7日 (木) 00時08分
A2
承認決議を経ていますから。

Q3
弁護士の仕事について質問です。
学校の弁護士の先生が「弁護士の仕事は当事者のかわりにするケンカする喧嘩屋だよ」よくおっしゃられます。
そういう部分もあるのでしょうか?
投稿 yosh | 2007年6月 7日 (木) 13時35分
A3
喧嘩の定義によりますが、喧嘩したり、なだめたり、すかしたり、一緒に泣いたり、笑ったりする仕事です。

Q4
葉玉先生、会社法施行規則24条についてご教授ください。
当社の株主が所有する譲渡制限株式について、差押債権者が譲渡命令の申立(民事執行法161条)を行ったため、裁判所の譲渡命令が発令されそうです。
この裁判所の発令する「譲渡命令」は会社法施行規則24条1項2号にいうところの「確定判決と同一の効力を有するもの」と理解してよろしいでしょうか?
実務的な質問で恐縮ですがよろしくお願いいたします。
投稿 hi | 2007年6月 7日 (木) 21時02分

A4
譲渡命令そのものは、確定判決と同一の効力を有するものには、該当しないと思います。
ただ、設問の前提となっている事実関係や裁判所の命令の内容によっては、名義書換えに応じなければならない場合もあると思いますので、弁護士に相談されたほうがよいでしょう。

Q5
非公開会社(公開会社でない株式会社)で法務を担当している者ですが、
株式交換の株式交換完全親会社について質問させていただきます。
株式交換完全親会社は株式交換契約を締結する必要がありますが(767条)、
この契約は株式交換の効力発生日までに締結すればよいのでしょうか(吸収
合併契約等の内容の事前開示(794条)は締結前の契約でも可と考えてよろ
しいでしょうか)。
また、株式交換に関する取締役会決議が行われる前(総会召集や契約締結
等について何ら決議していない状態)で事前開示(794条)を行うことは可能
でしょうか(代表取締役の権限で開示)。
不躾かつ不自然な取り扱いについての質問ではありますが、よろしくご教授
ください。
投稿 OGT | 2007年6月 8日 (金) 00時42分
A5
株式交換契約前に事前開示をすることはできません。

Q6
種類株主総会について疑問に思ったことがあって質問です。
1 全部取得条項の付加する定款変更(111Ⅱ) の例なんですが知ってるのは100%減資だけなんですが、そのほかでどんな利用方法があるんですか??
2 それと、その場合で株主総会の決議があっても111条でこういった規定がなされているので種類株主は自己の不利益になるような場合には種類株主総会の決議で賛成しなければいい、という解釈であってますよね??
投稿 ksuke | 2007年6月 8日 (金) 00時49分
A6
1 全部取得条項は、少数株主の追い出しや取得条項付株式への転換のため等に使われます。
2 そのとおりです。

Q7
葉玉先生、ライツプラン事前警告型について、
財産権を侵害しないライツプランといってもなかなか難しい新株予約権の設計だと思います。
先生も「政治的な道具」とおっしゃっています。確かに米国の事例を見てても、ライツプランの償却や取り消しのプロクシーファイトが繰り広げられます。
しかし、普通決議のみで導入したライツプランで、差別的な予約権の付与が「不公正発行」として差止められることがある程度想定できれば、買収者側も「やれるものならやってみろ」ぐらいの形でドンドンTOBを仕掛ける可能性も考えられ、政治的道具の役割を果たさず、単なるお飾りと化さないか心配なのですが?
なぜ、ストラテジックでシナジーの見込める買収者(買収者側の弁護士)は、イケイケにならず、躊躇するのでしょう?(楽天とか)
ある弁護士には発動しない前提で導入するんです、といってましたが、絶対に発射しない核ミサイルだと解れば、抑止力としてすこし疑問を感じてしまいます。
投稿 katsu | 2007年6月 8日 (金) 02時23分
A7
買収者にも世間体があります。
株主総会でルールを決めたのに、そのルールを守らないと悪評が立ちます。
それが、買収者の商売に悪影響を及ぼすかもしれないし、TOBをかけたときに株主が売却を拒む理由になるかもしれない。
それが政治的な道具としての事前警告です。

Q8
定義規定の書き方についての質問です。
以前からすごく気になっていたのですが,定義規定(2条)の書き方には,2種類あります。一つは,「この法律において『破産手続』とは,XXX」という書き方です(破産法,独禁法など)。もう一つは,「一 会社 XXX」という書き方です(会社法,民事再生法,租税法など)。後者のほうが文字数が少なく簡明だと思うので,あえて前者の書き方をする理由が分からないし,新しい会社法が後者だったので,最近の法律は後者で書かれていると思っていました。しかし,一番新しいはずの新信託法は前者で書かれているので,なぜ使い分けるのかがよく分からなくなりました。初学者の私からすれば,どちらかに統一したほうがよいように思えるのですが,立法技術の慣習上,どのような理由によって使い分けているのでしょうか。
瑣末な質問で恐縮ですが,毎日条文を読んでいる学習者としてはとても気になるところです。
投稿 tom | 2007年6月 8日 (金) 17時58分
A8
趣味です。
が、一般的には定義すべき後が少なければ前者、多ければ後者かな。

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2007年6月 5日 (火)

【入門】株式譲渡自由の原則(1)

 金曜日は、ビジネスブレイクスルー大学院大学(http://www.ohmae.ac.jp/cls/)でセミナーの収録をしてきました。 

 ここは、日本で唯一文部科学省が認可した、インターネットによる経営大学院で、学長は大前研一さんです。これだけでも、ユニークな学校だということが分かると思いますが、ビジネスブレイクスルーでは、弁護士や企業法務に従事している方等を対象に企業法務セミナーをインターネットで開催していて、その名も「サイバー・ロースクール」(ちなみに、法科大学院ではありません)。
 申し込みをすれば、誰でもセミナーを受講できるので、興味のある方は覗いてみてください(企業法務担当者用なので、ロースクールの学生には、ちょっと受講料が厳しいかもしれませんが・・・)。ただし、今日、私が収録した買収防衛策についてのセミナーは、まだリリース前なので、ホームページを見ても載っていません。載ったら、お知らせします。

今日は、最初に、前回の答えの間違い直しから始めます。
前回のA14で、会社計算規則163条3号が「・・・監査役会又は監査委員会の監査報告に付記された内容が前号の意見でないこと。」という要件が定められていることから、監査役会や監査委員会のない会計監査人設置会社には、163条の適用がないというお答えをしました。
この点は、ある人と意見交換をして、それなりに考えた上で結論付けたのですが、私の回答を見た某立案担当者(現民間人)が
「3号だけを見ると、どちらとも読めるが、163条2号かっこ書や5号が存在するということは、監査役会や監査委員会のない会計監査人設置会社にも、163条の適用があることを前提にしなければ、説明しにくい」という趣旨のメールをくれました。
 そう言われてみれば、そのように思いますし、監査役会も監査委員会もない会社では、監査役会や監査委員会の監査報告そのものが存在しないことから、163条3号の「監査役会又は監査委員会の監査報告に付記された内容が前号の意見でない」という要件を充たすと考えることもできます。

3号は、ややミスリーディングかもしれませんが、実質としては、総会承認なく、確定させても特に問題はないので、前回のA14を訂正し
 監査役会・監査委員会のない会計監査人設置会社でも、規則163条のすべての要件を充たす場合はある

と考えます。

次に、久々の入門編「株式譲渡自由の原則」について解説いたします。

  25問「株式譲渡自由の原則とその制限について論ぜよ。」

 株式会社に出資した人は、出資と引き換えに、「株式」という権利をもらい、株主になります。お金を出したのだから、代わりに財産的な価値のある権利をもらうのは、当然のことです。
 株式譲渡自由の原則は、読んで字のごとく、株主は、株式を自由に譲渡することができるという原則です。会社法127条は、この原則を「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」と端的に規定しています。
 
 自分がお金を出してもらった権利を自由に譲渡できることは当たり前すぎて、このままでは「へえーっ、そんなものですか」で終わってしまいますので、一つ、皆さんに問題を出します。
  民法466条は「債権は、譲り渡すことができる。」と規定して債権譲渡自由の原則が採用されているのに、なぜ民法の特別法である会社法は、あえて127条で株式譲渡自由の原則を置いたのでしょうか?

 いろいろな答えが考えられると思います。

 例えば、「株式は債権ではなく、民法466条1項が適用されないから」という答えもあるかもしれません。しかし、つい最近まで民法は株式が債権であることを前提とした規定を置いていましたし、契約により発生する会社に対する権利である株式が債権としての性質を持つことは否定できないように思います。

 私は、会社法127条は、民法466条2項(譲渡禁止特約)の適用除外を定めたものだと考えています。

 譲渡禁止特約に違反する債権譲渡の効力については、民法でも学説が分かれていますが、悪意の譲受人との関係では譲渡は無効であると考えるのが判例通説です。

 会社法127条が、この規定の適用を排除すると、どういうことになるかというと
  会社と株主が、株式の譲渡を禁止する特約を結んだとしても、株主が、その譲渡禁止特約に違反して株式を譲渡してしまえば、譲受人がその特約について、知っていても(悪意)でも、知らなくても(善意)でも、譲渡は有効になってしまう
ということになるのです。

 正義感の強い人は、「悪意の人を何で保護するのよ!」と怒り出すかもしれません。

 しかし、このルールの良いところは、譲受人が「悪意」でも有効とするところなのです。
譲受人の善意や悪意という分かりにくい部分で、譲渡が有効かどうかを決めるルールは、争いのタネを残します。つまり、会社側に、「お前は悪意だったんだろう」という株式譲渡の効力を争うネタを与えてしまうことになるのです。
 本当は、善意なのに、悪意だと言いがかりをつけられて、譲渡の効力を争われるとすれば、株式を買う気がなくなる人もいるのではないでしょうか。
 
 逆に、悪意者でも保護するルールにしておけば、株式を買おうとしている人は、会社と株主との間でどんな約束があるかを気にせずに、株式を買うことができます。
 株主は、悪意の人に売っても譲渡が有効になるので、出資したお金(投下資本)を回収しやすくなります。

 このように株式譲渡自由の原則では、株主の投下資本回収手段を確保するために、譲受人の善悪を問わず、譲渡を有効とすることにその本質があるのです。
 
 このように説明すると、会社法を勉強しはじめたばかりの人は
  「でも、株式も、定款で譲渡制限ができるから、結局、債権譲渡自由の原則とあまりかわらないんじゃないですか」
という質問をしたくなるでしょう。

 確かに、株式には、定款で、譲渡に株式会社の承認を要するという条項を置くことができますが、株式の譲渡制限と、債権の譲渡禁止特約は、次の2つの点で大きく違います。

①   株式の譲渡制限は、譲渡自体は制限していない。
譲渡制限株式の譲渡を、株式会社が承認しないときには、会社又は指定買取人がその株式を買わなければいけません。
 つまり、いったん買い手がつきさえすれば、少なくとも、買い手か、会社か、指定買取人が買ってくれるわけで、譲渡自体が制限されるわけではありません。
 つまり、譲渡制限株式というより、譲渡『先』制限株式という方が実態を表しています。
 これに対し、債権の譲渡禁止特約は、悪意の第三者に対する譲渡は、譲渡自体が制限されます。

②  譲受人の善意悪意に譲渡の効力が左右されない。
 株主は、株式会社の承認を得ずに、譲渡制限株式を譲渡することができます。その際、譲受人が、譲渡制限について善意でも、悪意でも、譲渡自体は有効です。
 しかも、譲受人は、善意・悪意を問わず、会社に対して、
   譲渡を承認して自己を株主と認めてください
という請求することができ、もし会社がそれを断るのならば、会社か指定買取人が譲受人から譲渡制限株式を買い取らなければなりません。
 これに対し、譲渡禁止特約付の債権は、悪意の譲受人には譲渡することができませんし、悪意者が債務者に何かを要求することもできません。

以上の2点を見てもわかるとおり、実は、株式の譲渡制限という制度は、株式譲渡自由の原則の狙い(=民法の譲渡禁止特約を排除し、譲受人の善悪を問わず、譲渡を有効にする)を何も損なうことなく、譲受人が会社に株主として参加することだけを防止する制度なのです。

 しかも、譲渡制限は、定款の記載事項であり、株券の記載事項であり、登記事項でもありますから、株式を譲り受けようとする人は、その株式が譲渡制限株式であるかどうかを、すぐに調査することができます。これは、債権譲渡禁止特約が、債務者から話を聞かない限り、存在するかどうかはっきり分からないのと大きな違いです。

こうして見ると、譲渡制限株式は、一旦、買い手を見つければ、必ず誰かには譲渡できるように工夫されています。

 では、なぜ、株式に、これほどの自由譲渡性が認められているのか。
 それは、次回、お話しましょう。
 
(質問コーナー)
Q1
100パーセント子会社においても796条1項但書きの適用が除外されないのはなぜでしょうか。ご教示ください。
投稿 再編マン | 2007年6月 1日 (金) 08時20分
A1
特殊な一場合だけを捉えて、例外を認めるかどうかは、立法政策の問題です。
Q2
現在株主からの閲覧請求への対応を検討している者です。法定書類の備置・閲覧・保存に関して教えて下さい。
①株主名簿や議事録等は、「本店に」「支店に」等と備え置く場所まで規定されていますが、会計帳簿には同様の規定がありません。432条の保存場所は、本店、支店、倉庫等々、会社が任意に決められると解釈して良いでしょうか?
A2
そのとおりです。
Q3
②計算書類(等)には、備置本店5年、支店3年(442条ⅠⅡ)と保存10年(435条Ⅳ)があり、「備置」と「保存」の両方があります。基本的な質問で恐縮なのですが、そもそも「備置」と「保存」の違いは何でしょうか?
A3
備え置くのは、いつでも見せられるようにするために備え置くのです。
保存は、単に保存です。
Q4
③各書類に関して、株主は「株式会社の営業時間はいつでも閲覧等を請求できる」旨の規定がありますが、その請求先は、備え置くこととされている場所(本店または支店)に限ると解釈して良いでしょうか?またその場合、保存場所の規定が無い会計帳簿の請求先は、どこになると考えれば良いでしょうか?(旧商法293条ノ6Ⅰでは「本店において」請求可能となっていましたが、この限定が無くなっています。)
よろしくお願いいたします。
投稿 YKK | 2007年6月 1日 (金) 17時27分

A4
請求の一般原則によることになります。代表者宛に請求してください。

Q5
433条のように「総株主の議決権の百分の三以上の議決権を有する株主」といった規定の株主は1人に限られるのでしょうか?例えば、1/100の議決権を持っている株主3人が集まって請求すれば、会社は会計帳簿を閲覧させなければならないのでしょうか?
投稿 リアル初心者 | 2007年6月 2日 (土) 11時06分
A5
あわせ技で大丈夫です。

Q6
ロースクールの未修1年生です。
法学部卒ですが、未修に入りました。
勉強法について質問です。
私は、基本書と判例百選を読み込んでいくという勉強スタイルをとってきました。
それは学部時代からの習慣です。
でも、百選を読むのがとても時間がかかるし、解説も玉石混交で1年次のうちから百選を読み込むのは逆に基礎が固まらないうちは有害かなとも感じてきました。
そこで、事案と判旨だけ読んで、解説は読まずにという方法を取ろうと思うのですが、どうでしょうか?
基本を徹底的に作り上げることを重視するなら、そもそも百選なんて読まない方がいいのでしょうか?
投稿 ポン | 2007年6月 2日 (土) 23時11分
A6
百選というツールを使うかどうかは、どちらでもいいことです。
百選に載っている判例の事例の概要と判例の内容を知っておけばいいのです。

Q7
 論点でよくある、株券不発行会社が正当な理由なく名義書換を怠った場合、それにより当該株式譲受人と第三者との関係についてです。
 条文を素直に解釈すると、130条1項より、株式譲受人は第三者に対抗することはできません。
 ただ、江頭先生は、対抗できるとして、その理由を中少会社の株主名簿の記載はあまり信頼に値しない、としています。
 また判例は、指名債権の二重譲渡における優劣関係を決する基準によるべきとしています。
投稿 ももんにょ | 2007年6月 3日 (日) 19時53分
A7
130条1項という条文があるのですから、130条1項でしょう。

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2007年4月11日 (水)

【入門】株主平等の原則(4)

今日は、株主平等の原則の最終回です。

これまでの説明でサミーさんが言いたかったことをまとめると
 1 株主平等の原則の本質は、株主の非個性化にある。
 2 保有株式の数に比例的に取り扱うことは、株主平等の原則の本質的内容ではない。
   だからこそ、比例的に取扱わなければならない剰余金の配当、議決権、残余財産の分配等については、明文で、比例的な取扱いが強制されている。
ということでしょう。

 これを前提に、旧商法で株主平等の原則の「例外」と呼ばれていた諸制度について外観してみましょう。

1 単元未満株主
 単元株式数に満たない数の株式のみを有する単元未満株主は,株主総会等における議決権を行使することができません(189条1項)。これは、株主管理コストを低下させるための制度です。
 「比例的な取扱い」を株主平等の原則の内容と考えるならば、単元株式数の制度は、「例外」になりますが、保有株式の数のみに着目して差別的取扱いをするものですから、109条1項の例外ではありません。ですから、188条1項には、「109条1項の規定にかかわらず」という文言がありません。

2 剰余金の配当における基準株式数
 現物配当をする場合には、基準株式数以上の株式を有する株主に対しては当該財産を,基準株式数未満の株式しか有しない株主に対しては金銭を交付するという取扱いの差異を設けることができます(456条)。
 これも、「比例的な取扱い」を株主平等の原則の内容と考えるならば、単元株式数の制度は、「例外」になりますが、保有株式の数のみに着目して差別的取扱いをするものですから、109条1項の例外ではありません。「109条1項の規定にかかわらず」という文言がないのもそのためです。

以上のように、会社法の明文上の「例外」と言われていた制度は、いずれにせよ、109条1項の「例外」ではなくなったと考えるべきでしょう。

次に、従来から、解釈上認められていた制度について説明します。

3 株主優待制度
 株主優待制度は、内容が各社ばらばらなので、109条1項に違反するかどうかは、その内容次第です。
 保有株式数に純粋に比例するのではなく、
① 階段型 1000株につき割引券1枚
② ハードル型 10000株以上なら、皆、割引券1枚
のように、株主の個性に着目することなく,株式の数のみに着目して株主を別異に取り扱う限りにおいては,109条1項には違反しません。
③ 逆ハードル型  1000株以下の株主様には、割引券1枚

これは、株式の数に着目しているので、109条1項の本質には触れませんが、合理性がなければ、109条2項違反になる可能性はあります

 駄目そうなのは、
 3年以上保有している株主様は、割引券1枚
というもので、これは、株式の数に着目していないので、109条1項違反でしょう。
 これについては、http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50979279参照です。

 まして
 「株主のうち、創始者は・・・」「偉大なる松真様は・・」とか、そういうのは、駄目です。
 109条2項でいきましょう。

 また、財産を株主に配分するような優待制度は、株主平等の原則とは別に、現物配当に係る手続的規制(453条以下)や財源規制(461条)に触れる可能性が高いと思います。

4 日割配当
 事業年度の途中で新株を発行した場合にその発行時期に応じて日割りで配当する日割配当は、会社法では禁止されましたので、もはや論ずる必要はないと思います。

最後に、従来、あまり論じられなかった「株式の内容」と109条1項の関係をお話ししましょう。

5 株式の内容
 これは、商事法務の論文で書いたところです。
 109条1項は、「株式の数」だけではなく、「株式の内容」に応じて、取り扱わなければならないことを定めたものです。
 この「内容に応じて」という部分は
 種類が違う株式を差別的に取り扱うのは、平等原則の内容である
ということを意味しています。
 では、内容自体が差別的なものは、どうでしょうか。

 従来は、株主平等の原則は、明文化されていなかったので、株式の内容自体の差別性も平等原則の問題とすることができました。

しかし、会社法では、条文の文言を見てもわかるとおり、109条1項は、内容自体の差別については、無力です。
 「株式の内容に応じて、株式の内容を平等に取り扱わなければならない」
というルールでは、何を言っているか意味がわからないでしょ?

とはいえ、定款で
  株主が偉大なる松真様である場合には、拒否権がある
という内容の株式が定められるとすれば、それは
 109条2項の「株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定め」
になります。
 ですから、公開会社では、そのような内容の株式を発行することはできません。

 そういうことを考えると、109条1項と、2項が合わさって、株主平等の原則を形作っているということはできるかもしれません。

 サミーさんの時代から、長々と、株主平等の原則について説明が続きました。
 今までは、明文がなかっただけに、その射程もあいまいでした。
 射程があいまいであることは
  ① 規制すべき事実について、規制できないおそれがある。
  ② 規制していない点について、威嚇効果を与えるおそれがある。
という点で、あまりいいことではありません。
 109条1項2項は、一般条項的側面もあるので、絶対的な明確性があるわけではありませんが、この条文を足がかりに、株主平等の原則の射程を以前より明確化することができのではないか、というのが、今回の一連の入門記事の望むところです。

(質問コーナー)
Q1
今回は会計参与が取締役会に出席した場合の議事録への署名等の義務につきご教授ください。
会計参与は計算書類の承認を受ける場合等一定の場合は、取締役会への出席義務があります(376条1項)が、この場合当該会計参与は議事録への署名等の義務が規定されていません(369条3項参照)がこれはなぜでしょうか?
会計限定監査役にも署名義務を認める(千問№505)点、一定の会社では監査役と会計参与は同機能の機関と位置づけられている(327条2項)点、損害賠償責任は会計参与も監査役も「役員等」の責任として負う点、等を考慮すると疑問に感じました。
以上の点宜しくお願いします。
投稿 NK | 2007年4月 8日 (日) 00時54分
A1
取締役が出席義務を負うのは、取締役会の一員として、審議・決議に参加するため
監査役が出席義務を負うのは、監査のため
会計参与が、出席義務を負うのは、基本的には、取締役等から質問等を受けるためです。
会計参与は、受け身の立場なので、議事録への署名義務は規定されていません。

Q2
789条1項3号及び810条1項3号では、株式交換(or移転)契約(or計画)新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合、当該新株予約権付社債についての社債権者は、当該消滅会社等に対し、異議を述べることができると規定されています。
この点につき、単なる新株予約権ではなく、新株予約権付社債と限定をつけているのはなぜでしょうか?
基本的なことが分っていないからだと思いますが、宜しくお願いいたします。
投稿 NK | 2007年4月 8日 (日) 15時40分
A2
株式交換は、基本的には、完全子会社の債権債務に影響を与えない行為なので、原則として、完全子会社の債権者に異議権はありません。
そして、株式交換契約新株予約権の新株予約権者については、新株予約権買取請求で対応すれば十分なので、あえて異議権を認める必要はなく、弁済等による救済も難しいので、認められていません。
他方、株式交換契約により完全親会社に移転する新株予約権付社債の社債権者は、新株予約権買取請求をできる場合もありますが、できない場合もあり(787条2項)、弁済等による救済も可能なので、債務者の変更という重大な利害関係を生ずることに鑑みて、異議権が認められているのだと思います。

Q3
合併の場合、合併比率が5000円:5000円とします。消滅会社の株主のうち残る株主には、1:1で株式を交付しますが、現金で渡す株主もいる場合、この「5000円」より極端に多い(1万円渡す)のは、構わないのでしょうか?つまり、残る株主との間に差があっても構わないかということですが
投稿 ひみこ | 2007年4月 8日 (日) 15時45分
A3
原則、駄目だと思います。いろいろな可能性は考えられますが。

Q4
事業報告の「会社役員に関する事項」について、根本的なことを教えていただけますでしょうか。
会社法施行規則121条各号に定められている事項のうち、
・「会社役員の氏名」(1号)
・「会社役員の地位及び担当」(2号)
・「会社役員が他の法人等の代表者その他これに類する者であるときは、その重要な事実」(3号)
については、7号(重要な兼職の状況)等と異なり、「当該事業年度に係る」という限定が付いていませんが、どの時点での状況を事業報告に記載すればよいのでしょうか。
①事業年度の末日時点でしょうか、②事業報告作成時点でしょうか、それとも、③事業年度中の異動をすべて記載する必要があるのでしょうか。
①または②だとすると、例えば、定時総会以降、事業年度末日の前日までに退任した役員については、退任時点で他の法人等の代表者であったとしても、その事実を事業報告に記載する必要はないという理解でよいでしょうか。
投稿 今さらですが | 2007年4月 8日 (日) 19時49分
A4
③事業年度中の異動をすべてです。
事業年度末日までに退任した役員は、含まれます(119条2号)。

Q5
葉玉先生,補欠役員の選任について教えてください。
監査役が3名で、うち社外監査役2名の監査役会設置会社です。
次回定時株主総会で補欠監査役1名を選任しようとしております。
①会社法施行規則96条2項3号によって補欠の社外監査役として選任した場合、選任後、社外でない監査役が辞任した際には監査役に就任できないのでしょうか?
(補欠の社外監査役として選任しなければ、このように悩まなくとも良いのですが、社外でない監査役が辞任した際でも、補欠監査役を社外監査役として就任させたい事情があります。)
②定款規定で補欠監査役の選任決議の有効期限を選任後4年まで伸張している場合です。
補欠監査役Aの選任の後、監査役Bが次の総会終結の時をもって辞任することになりました。その際、既に補欠監査役Aが選任されているにもかかわらず、別の人Cを監査役候補者とする監査役選任議案を出せるのでしょうか?
(補欠監査役選任時に会社法施行規則96条2項6号も決議しておけば、その決議された手続きに従って補欠監査役Aの選任決議を取り消せば良いのでしょうか?)
(96条2項6号を決議していなければ、総会での監査役Cの選任議案のなかで同時に補欠監査役A選任決議を取り消す旨、決議すれば良いのでしょうか?)
投稿 | 2007年4月 8日 (日) 22時08分
A5
①補欠選任時の決議の趣旨にもよりますが、監査役に就任することはできます。
②これも補欠選任時の決議の趣旨にもよりますが、別の人を監査役候補者とする議案を出すこともできます。

Q6
葉玉先生、「会社法マスター115講座」を拝見しました。
レイアウト(見開き2頁:左に解説・右に図表)は、以前、ブログで推薦
されていた「ビジュアル 株式会社の基本」に似ていると感じましたが、
執筆の際、意識されたのでしょうか?(笑)
投稿 玉屋 | 2007年4月 8日 (日) 23時29分
A6
レイアウトは、郡谷さんが担当していたので、意識はしていないと思います。

Q7
新株予約権買取請求について質問させてください。
787条1項2号においては 吸収分割契約新株予約権、
787条1項3号においては 株式交換契約新株予約権が
あげられています。
 ところが 787条1項1号においては 吸収合併契約新株予約権
なるものはあげられていません。
 これは、そんなもの(吸収合併契約新株予約権なるもの)が存在しないからなのでしょうか?
 仮に存在しないなら なぜそのような概念を認めることは出来ないのでしょうか?
投稿 maru | 2007年4月 8日 (日) 23時32分
A7
合併は、包括承継であるため、新株予約権者が消滅会社に留まることはできないからです。

Q8
337条3項2号で「公認会計士若しくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者」とは具体的にどんな人を指すのですか?
 例えば、子会社の役員がこの具体例として挙げられるのでしょうか?その他にも具体例を教えてください。
投稿 maru | 2007年4月 8日 (日) 23時34分
A8
子会社の従業員等です。

Q9
1.立法者は「効力を生じない」(128条など)と「無効とする」(352条2項など)とを区別して規定していますが,どのような違いがあるのでしょうか。初学者の私には,どちらも講学上の「無効」を指しているように読めます。民法でも,「無効とする」(94条・95条など)と「効力を生じない」(113条1項)のように区別しており,例えば,前者が有効要件を欠く場合,後者が効果帰属要件を欠く場合という説明がされることがあります。この説明が一般的かはわからないのですが,会社法にもあてはまるという前提で,起案されているのでしょうか。基本的な法制用語が分からず,困っています。
2.108条1項9号の種類株式を「選解任」付種類株式と教科書ではされているのですが,この条文を読む限り,「解任」権限が付与されているとは読めません。どう考えればよろしいのでしょうか。
投稿 とむ | 2007年4月 9日 (月) 14時34分
A9
1 民法の該当条文で、たまたまそうなっているだけで、他の法律では、必ずしもそのような区別になっていません。あまり気にしない方が合理的です。
2 347条を見てください。

Q10
非公開会社の従業員持株会について教えてください。配当優先・完全無議決権株式です。当該会社(存続会社)が債務超過会社(消滅会社)を合併したい場合、従業員持株会の種類株主総会で拒否したら、他の者がどれだけ合併したくても、合併できないということになるのでしょうか?
投稿 はる | 2007年4月 9日 (月) 14時46分
A10
322条の適用があるならば、そうでしょうね。
種類株式を消す工夫はできるでしょうが。

Q12
「千問の道標」の種類株式の箇所に「株主総会の決議および種類株主総会の決議が必要‥」とあります。
この意味は、すべての種類株式の株主が出る株主総会
特定の種類の株主が出る種類株主総会があるということですか?
このように種類株主総会の賛成が必要だと、定款を二度と改訂できなくなる可能性もしょうじてしまう。そんなことはあるはずがないと思うのですが
投稿 くぼ | 2007年4月 9日 (月) 16時43分
A12
322条等に列挙された定款変更であれば、そのような場合もありえます。
種類株主総会は、種類株主の権利を守るためのものですから。

Q13
監査役会設置会社において,「各監査役の監査報告」と「監査役会の監査報告」があります。招集通知に添付すべきは後者のみとされていますが(会社法437条を受けた施行規則133条1項2号ロ),備え置くべき監査報告(会社法442条1項)については両者であると解されています(千問410頁)。
会社法437条と442条の規定ぶりは同じなのに,どうして異なる解釈をとるのでしょうか。
「株主への情報提供の充実」を備え置きに際してのみ,特に重視されたのでしょうか。
そうであれば,たとえば,「監査役会の監査報告」の作成のための監査役会の議事録に,「各監査役の監査報告」を添付する(閲覧に際して裁判所許可等の要件が加重されますが),というような実務も許容されるのではないかと考えますが,いかがでしょうか。
投稿 のぞみ | 2007年4月10日 (火) 01時26分
A13
形式的には、省令に委任されているか、委任されていないかの違いでしょう。
省令に委任されている部分については、コストが沢山かかるものなので、楽にしてあげているということです。
監査役会の議事録添付は、裁判所の許可が必要になるので、駄目でしょう。

Q14
 募集株式の発行の際の検査役の選任不要事由についてお聞きします。会社法207条9項1号は,旧商法280条ノ8第1項但書にあった「現物出資を為す者に対して与ふる」に相当する文言がありませんので,金銭出資者も含めて今回割り当てる株式の総数が発行済の10分の1であることを要求しているようにも読めます。
 しかし,この点について言及している参考書は見当たらず,旧商法と同様の取扱いで説明している参考書を多数見ました。旧商法と取扱いに変更がないっていうことでいいんですよね?それと,上記文言がないことが気になる私みたいな困った性格の人のための,会社法207条9項1号の読み方も教えていただけるとありがたいです。
投稿 みわ | 2007年4月10日 (火) 15時13分
A14
 現物出資を行う引受人が引受ける株式数という意味です。
 読み方といわれても、ちょっと難しいですが、209条8項で「募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者に限る。以下この条において同じ。)」とありますので、9項も同じ意味になります。

Q15
1.設立時発行株式の引受の取消についてです。
発起人については、会社法33-8で1週間以内とされています。
募集設立の設立時株主は、会社法97で2週間以内とされています。
発起人も設立時株主である(会社法65)ので、募集設立の発起人は、2週間以内なら取り消すことができるということになりませんでしょうか?
2.合同会社の減資の効力発生日は、債権者保護手続きが終了した日で、株式会社と異なりますが、何か理由があるのでしょうか?
投稿 パラリーギャル | 2007年4月10日 (火) 15時46分
A15
1 33条8項は裁判所が定款を変更した場合、97条は創立総会で定款を変更した場合なので場面が違うのですが。
2 実質的には、あまり違いはないと思います。

Q16
葉玉先生、引越しお疲れ様です。CBについて、ご質問させてください。
CBについて、新株予約権の数が、新株予約権付社債についての社債の金額ごとに均等に定められているという条件が必要と規定されている(会社法236条2項)のは、CBホルダー間の公平、というのが理由、という理解で正しいでしょうか?
従って、例えば、新株予約権行使時に、
社債100円につき、20円分については株式が交付され、残80円分については期限前償還される、というCBも設計可能でしょうか。
上記が可能な場合、社債100円につき、[現在の時価―転換価額]分について株式が交付され、残額については、期限前償還される(株式交付部分がmoving)という設計も可能でしょうか。
会社法上、転換社債型の新株予約権付社債に係る社債の発行価額と新株予約権の行使に際して払い込むべき金額とが同額でなければならないとする規制は廃止されているので、可能と理解していますが、ご意見よろしくお願いします!
投稿 かおるん | 2007年4月10日 (火) 18時15分
A16
設問のような転換社債も可能だと思います。

Q17
計算書類等の株主への提供についてお尋ね致します。
計算規則第161条2項などで規定される計算書類等の電磁的方法による提供につき、書面による交付又はEメールの添付書類としての送付といった請求権を全ての株主に保障した上で、当初の提供方法としてはWebサイトへの掲載による方法で行うことは可能でしょうか?
計算書類については、いわゆるWeb開示制度の対象外とされている点からすると、Webサイトへの掲載による方法は難しいのではと考えています。
もし上記事例において可能であるとされるならば、一般的な電磁的方法による提供とWeb開示制度の違いは、どの点にあるのでしょうか?
投稿 ここあ | 2007年4月10日 (火) 18時34分
A17
WEBとE-MAILの差をどう考えるかですが、WEBは株主が見に行くもの、E-MAILは株主に送られるものという理解を前提にすると、WEB化するのは難しいでしょう。

Q18
吸収合併時の株式買取請求通知(会社法785条、同797条)についてです。
上記通知は、効力発生日の20日前までに行えばよいこととされております。
また、全ての株主に通知を要するともされていますが、合併承認総会を効力発生日の20日前より前に行っていた場合に、総会後、効力発生日20日前に通知をする場合には、買取請求権を行使することができない総会で反対した株主には、通知する必要はないと思いますがいかかでしょうか。
投稿 k.y | 2007年4月10日 (火) 18時54
A18
意味が分かりにくいのですが、反対した株主が、反対した後に、株主ではなくなったということでしょうか?それならば、通知する必要はありません。
株主ならば、通知が必要です。

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2007年3月27日 (火)

【入門】株主平等の原則(3)

今回は、株主平等の原則を定めた109条1項の
 「その有する株式の内容及び数に応じて」
の意味を探りましょう。

 旧商法の時代は、株主平等の原則は
   保有株式数に応じて比例的な取扱いをする原則
と考えられていましたから
   株式の内容が異なる株式(種類株式)について比例的な取扱いをしないこと
は、
  株主平等の原則の「例外」
と言われていました。

 しかし、109条1項は
   「株式の内容に応じて」取り扱わなければならない
旨定めているので、種類株式について比例的な取扱いをしないことは、
  株主平等の原則の「例外」ではなく、原則そのもの
になったということができます。

 また、「数に応じて」という文言についても、必ずしも、比例的な取扱いを意味するのではなく、「株主の個性に着目してはいけない」という趣旨であるということは、すでにお話ししたとおりです。

1項は、言い換えれば、、109条2項の「株主ごとに異なる取扱い」をすることはできないということを意味しているのです。

 なお、この「株主ごとに異なる取扱い」の意味は、
   創業者、代表者、相続人など株式の保有数とは無関係の事情
に基づく取扱いを意味します。

 学説の中には、例えば
   総議決権の20%以上の株式を保有する株主
という属性で区別することも、「株主ごとに異なる取扱い」であるという見解もあります。
 株主平等の原則を、従来のように、比例的な取扱いを求めるものだと考えれば
   比例的でない取扱いは、すべて株主ごとに異なる取扱いになる
という考えにいきつくのが自然なのでしょう。

 しかし、109条1項が、比例的な取扱いを強制する原則であるとすれば、議決権や配当等について、わざわざ比例的な取扱いを強制する規定を設けていることをうまく説明することができません(個別規定は、確認的なものと解釈するのでしょうか?)。
 また、会社法上、比例的な取扱いをしない制度(単元株式数、現物配当における基準株式数等)について
   109条1項を適用除外した文言(「第百九条第一項の規定にかかわらず」)がない
ということも不自然です。現代の立法は、適用除外規定については、相当シビアな検討を行っていて、たまに失敗することもないとはいいませんが(汗)、会社法のいたるところに散らばっている「比例的な取扱いをしていない制度」について、一切、適用除外の文言が入っていないということは、それらの制度は
   109条1項の「例外」にはなっていない
ということを意味すると考えるべきです(109条2項だけは、「前項の規定にかかわらず」という文言がありますので、1項の例外です。)

 以上のように、条文構造を考えると、109条1項の「数に応じて」は、必ずしも、比例的な取扱いを意味しないと解するのが、ごく普通の解釈ですし、実際上も、109条1項が比例的な取扱いを強制するものだとすると、買収防衛策であるとか、株主優待制度であるとか、比例的な取扱いをしていないものが、軒並み、109条1項違反になってしまい、現実に支障が生じます。

 まあ、従来の考え方でも、「明文にない例外」を認めることで、実際上の不都合を回避してきたわけですが
    実際に困るから、明文にないけど、例外的に認める
という論理は
    超論理・超科学
であって美しくありませんし、「どこまで例外が認められるか」という限界も不明確になります。

 そういうことを考えて、109条1項は、株主の無個性化のみを原則化し、比例的取扱いの強制まで踏み込んでいないのですから、
   一定の数以上の株式を保有する株主にのみ異なる取扱いをすること
は、109条1項に違反しないと考えるべきであり、そうすると、109条1項の例外を認める2項の「株主ごとに異なる取扱い」にも該当しないと考えないと理屈にあいません。

 本日は、条文操作ばかりで、つまんなくて、申し訳ありません。
 条文の文言と構造から、ある規定の文言の意味と適用範囲を明確にすることは、法律家の基礎なので、何事も勉強だと思って、我慢してくださいね。

(質問コーナー)
Q1
345条4項・2項・3項の辞任監査役の意見陳述権について
辞任した監査役につき辞任後最初に招集される総会における辞任した旨およびその理由の陳述権が認められておりますが、319条の株主総会書面決議はこの「招集される総会」には該当しないと考えてよいのでしょうか。
すなわち、直近で新たな監査役選任の319条の書面決議を予定しており、実際に開催する株主総会は3ヶ月後の定時総会となってしまうという状況において、345条2項の辞任監査役への通知は、3ヶ月後の定時総会の招集について行なえば足りると考えればよいのでしょうか。
投稿 マナカナ本購入しました | 2007年3月23日 (金) 00時52分
A1
そうです。正確には、書面決議ではなく、決議の省略なのです。

Q2
取締役会設置会社、会計限定監査役設置会社、非公開会社、毎年1月1日から12月31日までの1年が事業年度、定款に「定時株主総会は、毎事業年度末日の翌日から3ヶ月以内に開催する」旨の定めがある会社において、
3月15日に計算書類およびその附属明細書を完成させて監査役に提出したものの、監査役が監査期間の短縮に同意せず、4週間めいいっぱい使って監査報告を作成しようとする場合には、どうするのが良いでしょうか。
1)監査報告の提出まで待って、取締役会で計算書類および附属明細書を承認し、監査報告を含めた総会招集通知を出す。定款の定めに違反する。
2)監査報告の定款を待たずに、3月23日までに取締役会で計算書類および附属明細書を承認し、監査報告を付けず、監査を受けたものとみなされた旨の記載もせずに、総会招集通知を出す。3月31日の総会で計算書類を承認する。監査役には総会後に監査報告を出してもらう。定款の定めに違反しないが、法に違反するかも。
3)その他。
1)では定款に違反していることが、2)では監査を受けていない計算書類を承認していることが、計算書類の有効な確定にどのように影響するのかよくわかりません。
監査役に早く監査報告を出してもらう以外の方法で、有効に計算書類を承認・確定するにはどうしたら良いでしょうか。
 上記事案が、監査役が2名いるうちの1名はすぐに監査報告を提出してくれるが、もう1名が上記事案のように言い張っているというものである場合、結論は変わりますでしょうか。
投稿 間に合わない | 2007年3月23日 (金) 09時35分
A2
1)招集手続きの定款違反ですから、決議取消事由になります。したがって、株主総会が計算書類を承認して確定しても、その承認決議が取り消される可能性があります。
2)監査を受けていない計算書類ですから、取締役会が承認しても、その承認は効力がありません。

結局、取締役が、3月15日に計算書類を監査役に提出したというのが、失敗です。
監査役が2名いるうちの1名はすぐに監査報告を提出してくれるが、もう1名が上記事案のように言い張っているというものである場合でも、結論は変わりません。

Q3
 まず、吸収合併、吸収分割、株式交換をする際、消滅株式会社等が新株予約権を発行しており、236条1項8号の定めをしていた場合、合併契約や分割契約などで存続株式会社等の新株予約権を交付しない(交付するとの定めを置かない)ことはできるのでしょうか。
もしできるとすると、そのような新株予約権者は、吸収合併の場合であれば787条1項1号により、吸収分割の場合であれば787条1項2号ロによって、新株予約権買取請求によって保護されるだけになると思われるのですが。
A3
236条1項8号の定めをしていても、存続株式会社等が新株予約権を交付しないという場合はありえます。

Q4
 消滅株式会社等の新株予約権について、236条1項8号の定めがなく、合併契約や分割契約において、存続株式会社等の新株予約権の交付についての定めがなかった場合、合併については新株予約権の買取請求ができるが、吸収分割においては買取請求はできない、との結論でよろしいですか。
投稿 ダダ ハナコ | 2007年3月23日 (金) 18時37分
A4
 そうです。

Q5
 199条4項につき教えてください。
 ①譲渡制限普通株式と②譲渡制限優先株の2種を発行している非公開会社で、普通株式につき追加発行の増資を予定した場合に、199条4項の優先株の種類株主総会は必要ですか。
 当初、私は、①も②も譲渡制限株式だから、①②の種類株主総会が必要だと考えましたが、種類株式ごとに募集を決定する会社法の立場からは、発行する種類の株式の種類株主総会という意味だと考え直しています。その種類の中の持分比率の維持を目的とした規定だとの思いです。
 同項の「当該種類の株式」の意味は、どちらでしょうか。
投稿 KE | 2007年3月25日 (日) 05時16分
A5
 設問の事例では、199条4項は、①普通株式についての種類株主総会です。

Q6
何故、会社法は445条1項により、資本金の額を原則として「払込み又は給付を
した財産の額」とするとしたのでしょうか?
「資産=負債」配当制限ラインではなく、「資産-資本金=負債」ラインにより、
債権者保護を充実させるため、設けられたのですが、何故その資本金の額は
原則として、「払込み又は給付をした財産の額」なのですか?
もちろん、その後の手続きで資本金の額の減少をすることができるので、
論理必然性は無いのですが、「原則」とした理由はなぜなのでしょう。
A6
 歴史がそうさせたのでしょう。
 詳しい説明は、過去ログを読んでください。

Q7
こんばんは。株主総会の招集についてお教えください。
招集通知の発出は原則総会の日の2週間前までであるが、非公開会社の場合は、書面による議決権の行使を定めていなければ1週間前まででよい(会社法299条)。これに関連して質問です。
①書面による議決権の行使を定めるというのは、定款で定めているか、あるいは総会招集を決議する取締役会において定めるということですか?
②書面による議決権の行使を定めず、議決権の代理行使を定款で定めている場合、その代理人は株主でなければならないと思いますが、株主が極めて少数で実際のところ決議事項について事前に全員から同意を得ている場合について。総会に株主が1人も出席しないとすると、委任状を託す代理人(株主)が出席しない総会で決議をすることはできないということになりますか?親会社なり誰か必ず1人は株主が出席し、これに他の株主が委任状を託す形を取る必要があることになりますか?
③定款で総会招集通知の発出を総会の1週間前までと定めている場合、当然のことながら、書面による議決権の行使を定めることはできないということになりますね?
投稿 きんた | 2007年3月26日 (月) 22時52分
A7
①総会招集の取締役会決議です。
②株主総会を開催する場合には、株主か、代理人が出席しないと、定足数を充たしません。
③「1週間前まで」という定款の定めが、どういう趣旨で定められたものかによって、異なるでしょうが、文言通りに受け取ると、書面による議決権の行使は、難しそうですね。

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2007年3月23日 (金)

【入門】株主平等の原則(2)

1 比例的取扱い
 株主平等の原則のあらわれとして、よくあげられるのは
  剰余金の配当(454条3項)
  議決権(308条3項)
  残余財産の分配(504条3項)
です。
 これらは、いずれも、株主が保有している株式の数に比例的に権利が与えられるのが原則となっている条文です。

 株主の保有株式数に比例的に権利が与えられるものには、その3つ以外に
 全部取得条項付株式の取得対価の割当て(171条2項)
 株式無償割当(186条2項)
 新株予約権無償割当(278条2項)
がありますし、公開会社において、株主に募集株式の割当を受ける権利(202条)を与える場合には、有利発行の場合でも株主総会の特別決議がいらないというのも、株主平等の原則に配慮した規定ということができるでしょう。

2 均等条項
 以上に対し、少し毛色の違うものとして、「均等」条項があります。

 「均等」という言葉が使われている条文のうち
 「自己株式の取得の条件は、決定ごとに均等に定めなければならない」という157条3項
は、その決定によって取得される「株式」について均等な条件が定められる結果「株主」は保有株式数に応じて取得の対価が貰えるという意味では比例的な取扱いを求めているのなので、株主平等の原則の現れということができるかもしれません。
 また、自己株取得を行う場合に原則として行われるミニ公開買付のような手続きは、株主に平等に売却の機会を与えるという意味では、株主平等の原則の表れでしょう。
 
 しかし、「募集株式についての募集事項は、募集ごとに、均等に定めなければならない」という199条5項は、株主ではなく、株式引受人が平等な条件で引き受けられるようにした規定ですから、株主平等の原則を直接定めたものとは言うのは難しい。募集新株予約権についての募集事項の均等性を求める238条5項も同様です。

 ただ、199条5項や238条5項は、
  「同じ機会に、同じ条件で株主になったのだから、株主になった後も平等にするよ」
という理屈で、株主平等の原則の前提を整える規定であるということはできるでしょう。
 同じ募集で、松真さんは1円、湯水さんは100円出資したのに、どちらも1株ずつ株式を取得したというのでは、
   出資額に応じて株主としての権利を取得する
という合理的な取扱いができませんから。

 ただ、例えば、最初の募集のときに1株1円だったものが、設立1年後には、1株100円になっていることはありますから
   募集が異なれば、募集条件も異なる
のは、当然です。
 こういうと、悪い人は
   同じ日に、同じ種類の株式を、「2回」募集して、募集ごとに条件を変える
ということをやりたくなってしまいますが、あまりに悪どいと、裁判官の逆鱗に触れ、差し止めの憂き目にあうことになるでしょう。

 以上に対し、「新株予約権付社債に付された新株予約権の数は、当該新株予約権付社債についての社債の金額ごとに、均等に定めなければならない」(236条2項)という規定は、同一種類の新株予約権付社債について、単位を均一に揃えるための規定で、株主平等の原則とは関係ありません。

3 109条1項の意味
 こうして明文で、株主平等の原則が具体化した条文を見ていると
  109条1項なんて、いらない
ような気がしてきます。
 実際、109条1項が適用される場面というのは、限定的であり、
   公開会社が、株主ごとに異なる取扱をする定め(例えば、創業者の松真さんは、株式の保有数にかかわらず、51%の議決権を行使することができる、とか)をすることができるか
と聞かれれば
   109条1項に反するのでできない
ということはできますが、法制的には、109条2項さえ置いておけば、その反対解釈で十分なような気もしますが、最近の条文の書き方では、例外を書くときには、必ず原則を書くというのが流行りですから、109条2項という例外を設ける以上、109条1項という原則も設けるのが常道なのでしょう。

 しかし、それ以上の意味を109条1項に求めようとすると、具体例に困るのが実情です。
 特定の株主に利益供与をすれば、それは109条1項の問題ではなく、剰余金の配当についての454条3項違反になるように、ほとんどの不平等取扱いは、具体的な条文に違反するものとして構成することができるからです。
 あえて、109条1項にのみ違反する事例を考えようとすると
   ①取締役が、与党株主についてだけ、招集通知の発送前に、議題や議案についての情報を提供した
   ②取締役が、創業者で大株主の松真さんの指示には従うが、他の株主の指示には従わない。
という
  株主に本来認められている権利以上の利益を特定の株主にのみ与える
事例がありますが、どちらの事例も
   取締役の裁量によって、ある程度、許されるべきもの
であり、これらを直ちに109条1項違反とはいえません。
 
 109条1項は、受験生が、株主平等原則の定義を暗記しなくてよくなったという意味では役に立つ規定ですが、
   平等を実現する実際上の効果は必ずしも高くなく
むしろ
  「株式の数と株式の内容に応じて」株主を取り扱えばよい
という意味で、株主平等の原則の範囲を限定したことに法的な意味があるように思います。

(質問コーナー)
Q1
全部取得条項付種類株式の定めを設ける場合についてお教えください。
現在,種類株式発行会社でない会社が全部取得条項付種類株式の定めを設ける場合,当て馬として別の種類株式を設け,現在発行している株式について全部取得条項を設けることになります。
その際,当て馬の方の種類株式について新株を発行しない場合,全体の株主総会決議のほかに,全部取得条項設定の対象となる種類株式の種類株主総会決議も必要となるでしょうか?
というのは,この場合,全体の株主総会でも,種類株主総会でも,構成員である株主は同じなので,全体の総会決議を種類株主総会決議でもあると評価することは可能でしょうが,そもそも,全体の総会だけでよいのではないか,と疑問に思ったのです。
投稿 たつきち | 2007年3月20日 (火) 01時08分
A1
株主総会と種類株主総会の招集手続きを兼ねることも、同時に行うことも可能です。
評価の問題ではなく、それぞれの招集手続がされたかどうかが問題だと思います。

Q2
整備法14条3項で会社法309条2項が読み替えられた特例有限会社の特別決議の決議要件のうち,議決権要件についてです。
これまでの立案担当者の方々のご説明では,法定の要件を上回る要件を定款で定めうることを明確にした点を除き,旧有限会社の特別決議と同様とされ,また会社法109条2項の株主のごとの異なる定めを設ける定款変更をする場合の決議要件(会社法309条4項)と同様とされています(商事法務1738号17頁の山本検事(当時)の解説及び郡谷局付(当時)編著の『中小会社・有限会社の新・会社法』188頁)。
ところが,読み替えられる条文の規定振りでは,議決権要件のところが「当該株主の議決権の4分の3以上」となっており,会社法309条4項(「総株主の議決権の4分の3以上」)や旧有限会社法48条(「総社員ノ議決権ノ4分ノ3以上」)とは規定振りが異なっています。
結論は上記の解説のとおりと認識しているのですが,なぜこのような規定振りの違いがあるのでしょうか?
投稿 たつきち | 2007年3月20日 (火) 01時14分
A2
読替えられたとおりというほかないでしょう。

Q3
会社法マスター115講座どこにも売ってないんですが、どこで売ってるか教えてください。
投稿 KATU | 2007年3月20日 (火) 12時36分
A3
紀伊国屋などの大手書店には置いていると聞いていますが、出版社じゃないのでよく分かりません。すいません。

Q4
はじめまして。fujiと申します。
「株主平等の原則」興味深く読ませていただきました。そこで質問なのですが、以前どこかのブログでインサイダー規制が話題になったとき、インサイダー規制の根拠の一つには「株主平等の原則」もあるはずだ、と書いたら皆から散々バカにされました。株式市場のインサイダー規制と株主平等原則は全く無関係なのでしょうか?
投稿 fuji | 2007年3月21日 (水) 08時25分
A4
 法的な意味での株主平等原則とは違うのでしょうが、「株主を平等に取り扱うべきだ」という広い意味では、株主平等の原則のあらわれでしょう。

Q5
事業報告の会計監査人に関する記載について質問です。
ある株式会社(大会社・公開会社・有報提出会社・3月決算)の会計監査人Aが2006年7月1日に業務停止の処分を受けて資格喪失により退任したため、当該会社は同日付でいわゆる一時会計監査人Bを選任しました。
質問1:この場合、2006事業年度に関する事業報告に記載する会計監査人(施行規則126条1号)は、1)Bだけ、2)Bだけ、但しAについて注記、3)AとB両方を在任期間毎に記載、等が考えられますが、どれが適切なのでしょうか。2006事業年度に在任した会計監査人を記載すると考えれば3)が妥当に思えますが、実務上2006事業年度の監査業務は2006年7月からスタートし、A会計監査人は2006年事業年度の監査には一切タッチしていなかったとすれば、1)か2)でもよいように思えます(但し業務停止という事情ですから、少なくとも注記は必要と思われますが。)。サミー先生はどのようにお考えでしょうか。
質問2:A会計監査人について、126条5号または6号による記載は必要でしょうか。
質問3:126条8号イの報酬は、A会計監査人に対するものも(もしあれば)記載が必要でしょうか。
投稿 丸坊主 | 2007年3月21日 (水) 16時02分
A5
質問1 A、Bともに記載する必要があります。
質問2 必要です。
質問3 必要です。

Q6
100%子会社(非公開小会社、取締役会非設置)の株主総会招集について、
①株主総会の招集は、定款に別段の定めが無い場合、348条3項3号により各取締役の決定に委任することができないので、株主総会の招集は取締役の過半数以上による決定が必要。
②過半数以上による決定がなされたことを「取締役の決定書」等で書面に残すことが必要。
なのでしょうか?
③また、①の場合の「定款に別段の定め」は「株主総会の招集は社長がこれを行う」とあれば該当するのでしょうか。このような定めはあくまで招集手続きのことであり、株主総会を開くこと自体の決定には①のように過半数以上による決定が必要なのでしょうか。

100%子会社で取締役会を非設置とした理由は業務の簡素化であり、株主総会招集の決定に取締役の過半数の決定が必要だとしても、決定の存在自体を書面に残す必要性は感じられないのですがいかがでしょうか。
投稿 RF | 2007年3月21日 (水) 22時16分
A6
取締役の決定書のようなものは、不要です。
定款の解釈の問題ですが、社長に総会招集決定権まで与えたと認められれば、あたります。

Q7
株券提供公告について
 株券提供公告について、会社法第219条第1項で、「公告し、かつ、通知しなければならない。」とされていますが、公告はしたが、通知はしなかった場合の効力は、どうなりますか? なお、登記については、通達で公告をしたことを証する書面のみが添付書類とされています。
投稿 橋爪 | 2007年3月22日 (木) 13時26分
A7
 株券提供の通知義務に違反していますから、手続きは瑕疵を帯びます。
 ただし、その瑕疵が、行為の効力にまで影響するかどうかは、行為ごとに解釈すべき問題です。
 なお、過料の制裁はあります。

Q8
当社は閉鎖会社であり、中小会社です。
(他に1名監査役はいますが、親会社都合により)監査役を追加選任する必要があり、4月に臨時株主総会を開催する必要が生じました。でも、面倒なので会社法319条により書面決議にしたく思いました。
しかし、昨年6月に辞任した監査役がおりまして、同法345条により招集通知を送付する必要があるのではないかと言うことに気づきました(辞任以降株主総会は開催しておりません)。
この場合、
1.345条には臨時株主総会は含まない解して良いのでしょうか?(含むかなあ・・・と思っております)
2.このケースでは、「招集通知」を発送する必要があるので、同法319条による書面決議はできないということでしょうか?
投稿 pin | 2007年3月22日 (木) 17時56分
A8
1 臨時株主総会を含みます。
2 調整マターですが・・・。
 319条は、株主総会の決議とみなすだけで、株主総会を開催するわけではありません。したがって、345条2項の「辞任後最初に招集される株主総会」に該当しません。
とすると、設問のケースで、319条の決議は可能です。

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2007年3月20日 (火)

【入門】株主平等の原則(1)

久しぶりの入門編ですが、今日は、23問の
  「株主平等の原則について論述せよ。」
について説明しましょう。

1 平等とは?
 株主平等の原則は、旧商法では明文のない原則として理解されていましたが、会社法は、109条1項に
「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」
と規定しました。

 「平等」という言葉は美しいため、株主平等の原則を聞いたばかりの会社法初心者は
   人間は、皆、平等。
   会社法も、憲法と正義の観点から「平等」を定めているんだな。
と勘違いしてしまいます。
 また、その勘違いが
   公開会社の株主は平等だけど、非公開会社は不平等だから、非公開会社は、ずるい。
   合同会社は、出資者の平等がないから、時代遅れだ。
という誤ったイメージにつながってしまいます。

 はたして、株主平等の原則は、「正義の原則」なのでしょうか?

 憲法の平等原則を思い出してください。憲法14条には
   形式的平等=すべての人を一律に取り扱う
   実質的平等=その人の個性に応じて、取り扱う
2種類の平等が規定されています。

 株主平等の原則は、憲法14条の平等と同じですか。違いますよね。
 株主平等の原則は、
   すべての株主を「一律に取り扱わず」、株式を沢山持っている人には、沢山の権利を与える
ものですし、
   「株主の個性に応じて取り扱うのではなく」、むしろ株主の個性を無視して、持っている株式の内容と数だけで、その株主の取り扱いを決める
というものです。

 ラフに言えば、株主平等の原則は
   「沢山、会社に出資した株主が、それだけ多くの権利をもらえる。」
というルールであり、偽悪的表現を用いれば
   金こそ力
という金銭至上主義的なルールです。

 小学校で学級委員を決めるとき
   俺は、給食費を5000円払っているから、5票。
   お前は、給食費を払っていないから0票。
などと言う小学生がいたら、相当、嫌な奴です。

 株主平等原則というのは、そういう「嫌な奴の論理」なので、この原則を勉強するときは
   美しい法原理
などという訳の分からないものは追い求めず
   株主平等により、どんな政策目的を実現しようとしているか。
というプラグマティックな目で制度を眺めた方がいいと思います。

2 株主の非個性化

 さて、株式会社が、株主平等の原則を採用している理由は、大きく分けて、2つあります。
 1つは、株主の非個性化。
 2つは、少数派株主の保護です。

 「株主の非個性化」というのは
   忙しくて会社経営に参加できなくてもいい。
   無能で、経営のことが何も分からなくてもいい。
   借金まみれの無資力でもいい。
   とにかく、金さえ出資してくれたら、きちんと株主としての権利を認めます。
ということです。
 株主が非個性化すれば
   株主が、会社に出資をするときに感じるハードルが低くなり、出資しやすく
なります。
 
 また、株主の非個性化(=経営能力・資力不問)を実現することにより、
   株式譲渡は自由にしてよい=株式譲渡自由の原則
というルールを実現することができますし、そのことにより
   会社債権者の保護のため、株主の出資の払戻しを禁止する
というルールも実現することができます。

 このように株主平等の原則は、間接有限責任や、所有と経営の分離などと並び、株式のの非個性化のためのルールであり、究極的には、会社が出資金を集めやすくするためのものなのです。

 なお、本の中には、株主平等の原則について
    保有する株式の数に「比例的に」取り扱うべきこと
を強調するものもあります。

 確かに、1株の株主と1000株の株主が、同じ額の配当、同じ額の議決権しかもらえないとしたならば、みんな1株しか出資しなくなりますから
   会社が出資金を集めやすくする
という株主平等の原則の目的を考えれば、「比例的」な取扱いをするのが一番合理的です。

 しかし、株主による取締役の違法行為差し止め請求権のように、1000株の株主に1000個与えるようなことができない権利もありますし、株主管理コストを低くするために、単元株のように一定以上の株式数を持っていない株主には権利を認めないという場合もあります。
 これらの場面でも、株主は、保有株式数「以外」の要素で差別されているわけではないので、株主の非個性化は実現されていますが、比例的な取扱いはされていません。

 ですから、株主の非個性化と、比例的な取扱いは、必ずしも同じ意味ではなく、株主平等の原則の本質は、「株主の非個性化」にあり、
   「比例的」取扱いは、他の政策目的を達成するために、合理的な範囲で、修正される場合もある
ということを覚えて置いてください。

3 少数派株主の保護
 株主平等の原則の2番目の政策目的は、少数派株主の保護です。

 株主平等の原則には、1株1議決権という資本多数決も内容も含まれています。
 つまり、株式を沢山持っている株主が、少数派の株主の反対する議案を、多数決で決議することができるというのも、株主平等の原則のあらわれです。

 他方、多数派株主が、どんなに定款を変更しようとしても、
   少数派株主が、保有株式数に応じて有する配当や議決権を奪う
ことは、株主平等の原則に反するので、できません。

 これが、株主平等の原則の持つ少数派株主の保護機能です。

 初心者の皆さんの中には
   やっぱり、少数派の人権を守るための正義の制度だったんだ
と嬉しくなる人や
   金をあまり出していない貧乏人が少々迫害されてもいいじゃないか。
   会社は、金持ちさえ相手にしていれば、出資は沢山集まるよ。
という荒んだ心の人もいるでしょう。

 しかし、どちらの考えも、ちょっと足りません。
 
 少数派の株主の権利が多数派の株主によって自由に奪われてしまうと、自分が少数派になりそう会社には、誰も出資しなくなってしまいます。

 また、多数派株主としても、少数派に絶対転落したくないので、第三者への新株発行に必死で反対することになるでしょうし、株式を譲渡したくても、少数派への転落リスクが高すぎると、譲渡することもできなくなってしまいます。

 このように多数派株主が、少数派の株主の権利を奪うことができないという株主平等の原則は
    出資を確保する
という点においても重要なルールなのです。
 
実際、株主平等の原則が問題となる場面は、主として、この少数派株主の保護の局面ですから、初心者の皆さんは、少数派の株主が困っているような事例問題のときに
  「株主平等の原則は使えないだろうか。」
と発想するということも覚えておきましょう。

 次回は、株主平等の原則の具体的な現れについて説明します。

(質問コーナー)
Q1
 「取締役が自らの法律上の行為を何も介さずに(代理ではない)、
  自分の妻をして第三者との間で
  会社の事業の部類に属する取引を行わしめ、
  これによって会社に損害を与えうる場合」です。
イメージとしては、会社のノウハウ等を妻に直接こと細かく言い含めているが、
実際の法律行為が、本人(妻)・相手方(第三者)で行われている場合、です。
この場合、行為主体が妻、効果帰属は妻(と相手方)、となります(よね?)。
「行為主体が取締役でないことから、競業の要件の1つである
 『取締役の行為』がない以上、名義説、計算説のいずれを
 採ったとしても競業に当たらない」とされていましたが、実際問題として、
このような取締役の事実行為を抑制する方法はないのかなぁ、と思った次第です。
投稿 受験生 | 2007年3月15日 (木) 08時16分
A1
 ご指摘の場合であれば、競業取引にはあたらず、忠実義務違反で損害賠償を求めていくことになるでしょう。

Q2
優先株式と普通株式を発行する種類株式発行会社の定款に
「自己株式を消却したときは、消却した株式の数について発行可能株式総数を減少する。」旨の定めだけがあり、発行可能種類株式総数については別段の定めがない場合に、例えば、「発行可能株式総数100、優先株式の発行可能種類株式総数100、普通株式の発行可能種類株式総数100」の会社で、優先株式1株を消却すると、「発行可能株式総数99、優先株式の発行可能種類株式総数100、普通株式の発行可能種類株式総数100」とはならないということでしょうか?
ということは、当該定款の定めは、目には見えないが、「一つの種類の発行可能種類株式総数を下回らない限度で…」という文言があるという理解で宜しいのでしょうか?
まあ常識的に考えて、一つの種類の発行可能種類株式総数が発行可能株式総数より大きい数というのはおかしいですね。
投稿 南斗六星 | 2007年3月15日 (木) 09時31分
A6
 ご指摘のような場合には、発行可能株式総数が発行可能種類株式総数を下回ることもありうるでしょう。
 会社法が、「発行可能株式総数が発行可能種類株式総数以上でなければならない」というルールを強制しているわけではなく、定款という意思表示の解釈の問題です。定款の定めを置くときに、「発行可能株式総数<発行可能種類株式総数」という規定にすると、一体、どういう規律にしようとしているのか、その内容を特定することが困難になるということです。
Q7
当社では、監査報告の通知期限の取扱いにつき、これまでのQ&A等の回答にもあるように、監査役の裁量で監査期間は短縮可能と考えて総会スケジュールを構築してきました。

しかし先日、ある先生の講話を聴いたところ、「監査役が計算書類等を受領した日と総会開催日との間に4週間以上の期間がなければ、規132・152の規定により法令違反となる」旨の説明をされておりました。
この点につき、「どの時点で」「誰の」「どのような」違法になるのかを質問したところ、「同規定は、取締役が計算書類等を監査役に提出すべき期限をも定めたものであり、現実の監査期間にかかわらず、監査役に提出した時点で4週間以上の監査期間が確保されていなければ、取締役の忠実義務違反となる」との回答を受けました。
当該条項を素直に読む限り、旧商法のように取締役の義務を明記したものとは思えず、そもそも、計算書類等を監査役に提出した時点で、必ずしも総会開催日を確定させておく必要もないのではと考えています。
そこで、例えば、総会開催日(6/20)、取締役が計算書類等を監査役に提出した日(6/1)、監査報告を受領した日(6/5)の場合、他の手続が適正に行われていても、取締役の忠実義務違反となるのでしょうか?
投稿 悩める子豚 | 2007年3月15日 (木) 10時52分
A7
取締役が監査役に強制しなければ忠実義務違反にはならないでしょう。

Q8
3月15日A4に関して質問させてください。
「株主総会は、取引ではないので、民法142条は適用されません。」ということです。そこで、総会の招集に関する日程等の問題ですが、例えば非公開会社の場合に会社法299条で総会の日の1週間前までに招集通知を出す必要がありますが、「この過去に遡る期間計算は、民法の規定(140~142条)を準用し、中間に1週間(7日間)を要すると解するのが通説、判例である」(商事法務No.1690 p20)とあります。このような日程の計算には民法を準用するのではないのでしょうか?何が根拠になるのかお教えください。
投稿 きんた | 2007年3月15日 (木) 22時44分
A8
取引ではないので、142条が適用されないというだけで、それ以外は適用されます。

Q9
Q27を見ると
持分会社の場合、資本剰余金を減少し、利益剰余金に振り替えた場合、資本剰余金減少分については、出資の払戻を受けることはできないが、持分はあるので利益の配当を請求することができる(621条)ということでしょうか?
投稿 青葉 | 2007年3月16日 (金) 13時47分
A9
「資本剰余金を減少し、利益譲与金に振り替えた場合」というあたりが、すごく気になります。どうも何かの誤解があると思います。
 私が言っているのは、利益の配当と、出資の払戻と、持分の払戻は全部違うとうことです。

Q10
【状況1】
社外監査役AがXの代表取締役の指揮の下で業務執行を行った場合
【状況2】
XがAが取締役を務める株式会社Bを買収して子会社化した場合
【考え得る回答】
状況1では、前回の回答と同様に、Aは兼任禁止違反状況になることを知って業務執行を行うことになっているので、①監査役辞任の意思表示を行ったということになるのでしょうか。この場合の登記において、本人がかかる意思表示を行ったことはどのような添付書類で証明することになるのでしょうか。
状況2については、旧監査特例法に関して、稲葉威雄他編「実務相談株式会社法 補遺」(商事法務研究会)215頁以下では、「社外監査役の要件は、就任時に満たしていることを要し、かつ、それで足りる」ため、「当然に、Aの社外性が失われるものではありません」として、③の社外監査役のままであるという回答となっています。仮に、この場合でも監査役を辞任する意思表示があるとみなすのであれば、どの時点で意思表示があったことになるのでしょうか。また、登記において、どのような添付書類で証明することになるのでしょうか。
投稿 ぞう | 2007年3月16日 (金) 16時33分
A10
登記の添付書類のことは、すいませんが、調整が必要なので、答えられません。
社外監査役の要件が、就任時に充たしていれば足りるかどうかは、稲葉先生にお聞き下さい。

Q11
会社法第828条第2項第12号に、「株式移転について承認しなかった債権者」が含まれていないのはなぜでしょうか?
 これは、立案上のミスなのでしょうか?
投稿 受験生X | 2007年3月16日 (金) 17時02分
A11
 「ミスです」と認めると、叱られます。
 ですから、ミスではないものの、端から見ると、ミスに見えますね。

Q12
合併契約の株主総会における承認についての質問があります。
特別支配会社において株主総会の決議による承認が必要とされる場合で、消滅会社の承認を要する場合、784条1項ただし書の「承認」は特別決議なのですか、それとも特殊決議なのですか。
投稿 ぴろ | 2007年3月16日 (金) 22時26分
A12
784条1項ただし書には、「承認」はありませんが、要するに、同項ただし書の場合の承認要件を聞きたいということですね。
784条1項が適用されないので、単に原則に戻るだけであり、公開会社の株主が譲渡制限株式等の交付を受ける内容の合併なので、特殊決議です。

Q13
早速質問なんですが、会社法100問の93講の事業の重要な一部譲受けと合併・事業譲渡は如何なる点で異なるんでしょうか。783条(吸収合併)・469条(事業譲渡)の条文を挙げられていますが、これはどういう意味なんでしょうか。
A13
 ご質問の意味がよく分からないところがありますが、
 事業の重要な一部の譲り受けは、譲り受ける方。事業譲渡は、譲り渡す方です。
 合併は、消滅会社の法人格が消滅し、包括承継が生じる点が違います。

Q13
95講の全株取得条項付株式の取得なんですが、A社側の手続がよくわかりません。種類株式発行会社でなければ、種類株式発行会社になる為に定款を変更、その上で発行株式を全部取得条項付種類株式にする為の定款変更をする、ここまではわかるのですが、「取得条項付株式を対価として発行される株主に種類株主総会が必要になる」がよくわかりません。そもそも取得条項付株式を取得の対価として株主に交付することに意味があるのでしょうか。募集株式発行とは種類株式発行もありうるという意味なのでしょうか。ということは、募集株式を受け取った株主の中でも種類株主のみが保護されることになりませんか。
投稿 会社法大嫌い | 2007年3月16日 (金) 22時51分
A13
 基本的なところに誤解があるようなので、非常に答えにくいです。
 まず、「全株取得条項付株式」ではなく、「全部取得条項付株式」です。
 種類株主総会が必要になる場合は、111条2項の条文のとおり書いているだけです。
 X株を対価とする取得条項付株式がある場合には、対価の内容(X株)が全部取得条項付に変われば、取得条項付株式の内容も変わるため、種類株主総会が必要だということですね。
 それから、よく読んでいただければ、「取得条項付株式を取得の対価とする」とは、言っていないことは分かるはずです。
 種類株式の発行は、募集株式の発行の一場合です。
 最後の一文は、意味が分かりません。

Q14
1、確認なのですが、304条は、いわゆる動議を定めたものとの理解でよろしいでしょうか。
2、監査役設置会社では、「著しい損害」が生ずるおそれがある場合には、差止請求権は株主ではなく監査役にあるとのことですが、この時株主は監査役を法的に突っつけないのでしょうか。
投稿 あと2ヶ月 | 2007年3月17日 (土) 20時36分
A14
1 「動議」の意味次第ですが、動議も304条に含まれます。
2 株主が、監査役に何か言うことはできませんが、損害が生じれば、代表訴訟をするぞと言えばいいでしょう。

Q15
反対株主の株式買取請求権ですが、会社法117条4項で裁判所の価格決定がなされた場合には、効力発生日から60日の満了後は年6分の利息を支払うこととされていますが、117条6項で株券発行会社の場合は対価の支払いを株券の交付と引き換えとされています。これは株券の交付と対価の支払いにつき同時履行の抗弁権を認めたものでしょうか?そうであるとすれば利息についても同時履行の抗弁権を主張している間には発生しないこととなるのでしょうか?
A15
117条4項は、債務不履行責任ではないので、株券未交付の場合でも、適用されると思います。

Q16
千問のQ120についての質問です。全部取得条項付種類株式の対価として取得条項付株式や譲渡制限株式を交付する旨の決定をする場合にも株主総会の特別決議で足りるとされておりますが、定款に取得条項付株式や譲渡制限株式を発行できる旨の定め(これは株主全員の同意ですよね?)を設けていない場合でも、全部取得条項付株式の対価としてこれらの株式を発行する場合にはこれらの株式を発行できる旨の定款の変更についても特別決議で済むという趣旨でしょうか?Q122の中で個々の株主の同意がなければ付すことができない取得条項を株主総会の特別決議を持って付すことができるということはこの意味で解してよろしいのでしょうか?江頭憲治郎『株式会社法』149頁注30では既発行の株式を株主全員の同意なしに取得条項付株式へ切り替える方法として上記のような同一の会社内での全部取得条項付株式を用いる場面を例示しておらず、取得条項付株式発行会社を存続会社とする合併をあげておられるので、取得条項付株式を発行できる旨の定款の定めについては株主全員の同意がやはり必要なのではないのかと思った次第です。
投稿 MZM | 2007年3月18日 (日) 00時01分
A16
ご質問の場合でも、特別決議でできます。

Q17
会社法上、会社は自己株式を消却せずに保有しておくことが認められていますが、この「消却せずに保有しておき、必要な時にそれを新たに処分(譲渡)する」ことと、「消却しておいて、必要な時に新たに発行する」こととの違いは何でしょうか?
投稿 paripasu | 2007年3月18日 (日) 00時08分
A17
 自己株式の処分では、資本金が増えないので、登録免許税が安くすみます。

Q18
 お聞きしたいのは、株主総会招集通知時期についてです。
・平成14年改正前は2週間とされ、平成14年改正で「定款で規定」した場合に限り「1週間」とすることができるとされていました。
 新会社法によると、法299条1項で、公開会社は2週間・非公開会社(取締役会設置会社)で署名投票制度・電子投票制度を採用しない場合は、「1週間」とできる。そしていくつかの文献によれば、「定款に規定なくても、1週間とできる。」
と解されています。
 ここで、A会社は、従来の定款に、署名投票制度等の記載はないが、総会招集について、「2週間」の規定を設けていた(会社法施行にもかかわらず、定款変更を行わず、そのまま放置していたようです)場合に、会社法の規定に基づいて299条で「1週間」で総会招集通知を行うことは適法かという問題です。
 この場合、1週間で行うことは会社法299条の規定には違反しませんが、定款の定め(2週間)に抵触することになり、株主総会決議取消事由になってしまうのではないかと疑問を持っております。
投稿 コロロ | 2007年3月18日 (日) 05時05分
A18
 定款の定めに違反するから、決議取消事由になるでしょう。

Q19
私は、会社法362条4校1号の「重要な財産の処分」の該当性判断は代表取締役に業務執行の決定権限が委任されている場合に問題となると考えています。
代表取締役は業務執行権しか持たないはずなので、そもそも決定権限の委任がない場合には「重要」かどうかにかかわらず取締役会の決定が必要になると思うのです。
しかしながら、ちまたの答案例などを見ているとあまり決定権限の委任の有無について配慮している答案が少ないのです。
あえて重ねて疑問点を言いますと、決定権限の委任の有無にかかわらず、「重要」かどうかが当然問題となるのか、です。
この点について、私の基本的な考えが間違っているのでしょうか。
投稿 とんかつ | 2007年3月18日 (日) 20時10分
A19
 362条4項1号は、委任できない事項をあげたものですから、委任がなければ、重要かどうかにかかわらず、取締役会が決定します。

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2007年2月20日 (火)

【入門】募集株式の発行(4)

 これまで、3回にわたり、第三者に対する募集株式の発行が行われる場合に既存株主の利益や種類株主の利益を守るために
    どのような手続きが用意されているのか
ということについて、お話ししてきました。
 さて、今日は、会社が、そのような手続を無視する等して違法な募集株式の発行が行われる場合に
    どのように救済がなされるのか
という点についてお話しします。

(なお、募集株式の発行(3)で、株主に割り当てを受ける権利を与える募集株式の発行で種類株主総会が必要な理由について、うっかり間違った設例をしてしまったので、訂正しました。興味のある方はもう一度該当箇所を見ておいてください。)

1 救済の分類
 どんな問題にせよ、当事者の救済のことを考えるときには
   「どの時点で」「どんな」救済をしようとしているのか
ということを頭に浮かべる必要があります。

 こういうとき、法律家は、ある違法行為が行われる前なのか、後なのかに応じて
  事前の救済=差し止め・・・・・・・「たんま!」
  事後の救済=行為の無効・取消・・・「無しね!」
     and/or 損害賠償・担保・・・「金をくれ!」
という基本的な救済手段を思い浮かべなければいけません。
 いわゆる「困ったときの、たま無し金」です。

この「たま無し金」を募集株式の発行について言えば
 事前=差し止め=株主の株式発行差し止め請求権(210条)
 事後=①行為の無効=株式発行無効の訴え(828条1項2号)
          株式発行不存在確認の訴え(829条)
    ②損害賠償・担保責任
         =業務執行者・引受人に対する担保責任(212条・213条)
になります。
 これらの条文さえ出てくれば、後は、それぞれの趣旨と要件・効果を述べるだけでOKです。

2 株式発行差し止め請求権
 株主による差し止め請求権というと
  違法行為差し止め請求権(360条)
を思い浮かべる人が多いと思いますが、同請求権は
  「会社に」損害が生じそうな場合に、株主が会社のために行使する権利
であるのに対し、
  株式発行差し止め請求権は、「株主に」損害が生ずるおそれがある場合に行使する権利
です。

 株式の発行というと、募集株式の発行のほかに、新株予約権の行使に伴う株式発行や合併等の対価としての株式発行、株主無償割当てもありますし、「発行」ではありませんが、株式の分割により株式の数が増加する場合もあります。

 これらの株式の発行の中で、差し止め請求権が明文で規定されているのは、
  募集株式の発行差し止め請求権と略式合併等の差し止め請求権(784条2項等)だけ
です。
 ただ、それ以外の場合に一切差し止めが認められないかというと、そうでもなく、いろいろな法律構成でこれを認めるべきではないかと考えられています。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50499174
 まあ、適用要件をどう考えるのか、なかなか難しいところではありますが。

 他方、募集株式の発行差し止め請求権は、適用される要件は明確であり
  ① 法令又は定款違反
  ② 著しく不公正な方法
により株主が不利益を受けるおそれがあれば、差し止めができます。
 
 ①は、法定の手続に違反する場合等です。
 実務的には、「有利発行であるにもかかわらず、特別決議を得ていない」という主張で用いられるのがほとんどです。
 その他、「発行可能株式総数を超える」とか、「非公開会社会社なのに、株主総会の決議を経ていない」とかいうのも、①になります。

 ②は、形式的には法律の手続きに則っているものの、著しく不公正な方法による場合です。実務的には、「経営者が自己保身の目的で株式を発行する」ような場合に主張される要件です。

 これらの要件が充たされれば、裁判所は、会社に対して、株式の発行の差し止めを命じます。
 ただ、本案で、差し止め請求をしていると時間がかかるので、まず、株主は、差し止めの仮処分を求めるのが常識です。
 しかも、差し止めの仮処分が出てしまうと、本案についての裁判を行うまでもなく、会社側が株式の発行を中止してしまうのがほとんどなので、この株式発行の差し止め請求権は、まず99%は仮処分段階で決着がつきます。

 逆に、差し止めの仮処分が出たにもかかわらず、会社が、株式の発行を強行すれば、その株式発行の無効事由となります(判例)。
 初心者は、「差し止めを無視したのだから、当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、「違法行為差し止め請求権」については、差し止めを無視して、取締役が行為を行っても、その行為は有効であり、差し止めには法的な効力がほとんどないので、それと比べると「株式発行差し止めの仮処分」は、なかなか強力な武器だということができます。

3 株式発行無効の訴え
 「差し止めは無視したら、無効」と言ったばかりで恐縮ですが、差し止めを無視して株式を発行しても、「とりあえずは有効」です。
 というのも、株式の発行が行われると、
 ①発行された株式について議決権が与えられ、株主総会が行われる場合がある
 ②株式が譲渡されて転々流通することがある
など利害関係者が沢山出てくるため、もし、これを当然に無効とすると
 ①議決権のない者が議決権を行使したことになり、総会の決議取消事由となる。
 ②無効な株式が譲渡されたことになるので、株式譲渡契約が全て債務不履行になる
という混乱が生ずることになるので、会社法は
  無効事由があったとしても、株式が一旦発行されたら、とりあえず有効
とした上で
  株式発行無効の訴えの認容判決が確定したら、将来的に無効になる
という制度を採用しているのです。

 この株式発行無効の訴えのように
   有効な行為を、判決により無効にする
というような訴訟を「形成訴訟」といいます。

 この形成訴訟のポイントは2つあり、一つめは
  形成訴訟には、提訴期間が設けられているため、提訴期間内に提訴が行われないと有効のまま法律関係が確定する
ということです。
 なぜそうするかというと、
   株式を無効にすると、いろんな人が迷惑するから、文句を言う人がすぐに出てこない場合には、法律関係をさっさと確定させたい
からです(法律関係の早期安定)。

 もちろん、提訴期間内に提訴されちゃえば、法律関係が早期に確定することはないですが、そのような場合でも
   判決を将来効にして、法律関係が混乱しないようにする
という制度設計になっています(将来効)。
 これが2つ目のポイント。

 このように見てみると、株式発行無効の訴えというのは、株主の保護の制度というより
   株主の無効主張を制限して、会社その他の利害関係人の保護を図る制度
という方がふさわしいことが分かるでしょう。

 そのような制度趣旨も踏まえ、株式発行の無効事由については、大変、制限的に解釈されています。

 株式発行差し止め請求権の差止め事由と違って、株式発行無効の訴えにおける無効事由については、明文がありません。

 そこで、無効事由を解釈によって導くことになっているのですが、判例通説は、
 ① 差し止めの仮処分を無視した場合
 ② 差し止めの機会を保障するための手続きである通知・公告を怠り、かつ、差し止め事由がある場合
等極めて限られた事由だけを無効事由としています。
 これは、一旦、株式が発行された以上、それを無効にすることは、法律関係を混乱させるという価値観に基づくものです。
 そのため、公開会社において、株主総会の決議を経ずに、有利発行をした場合等は、無効事由にはならないと考えるのが判例・通説です。
 差し止め事由があるにもかかわらず、差し止めをしないまま、放置した株主が悪い、という厳しい考え方が根底にあるわけです。

 もっとも、会社法の下では、非公開会社の株式発行無効の訴えの提訴期間が1年に延長されたことから
   非公開会社において株主総会の決議を経ずに株式が発行されたことは、無効事由となる
と考えるべきでしょう。
 それが無効事由になるということを前提に、その主張させるために、わざわざ1年間に提訴期間を延長したのですから。

4 株式発行不存在確認の訴え
 3で述べたように株式発行無効の訴えは、提訴期間により株主の主張を制限するところに本質がありました。
 しかし、実務においては
   「株主が全然知らない間に、株式が発行されたことになっている。」
ということも、よくあることで、提訴期間の制限が、株主に可哀想な結果をもたらす場合もあります。
 そこで、株式の発行手続きが全く取られておらず、株式が発行されたとは認められないような場合には
   株式発行不存在確認の訴え
をすることができます。
 この訴えは、確認の訴えであり
   提訴期間に制限がない
というメリットがある一方で
   「不存在」の場合にしか、訴えは認められない
という点では、株式発行無効の訴えよりも、制限されています。

 なお、民事訴訟の一般原則によっても、「確認の訴え」が認められる場合があるにもかかわらず、あえて明文でこの訴訟類型を認めているのは
  ①確認の訴えの利益があることを明文化する
  ②判決効の第三者に対する拡張を認める
という2つの目的があるからです。

5 損害賠償・担保責任
 以上のように、一旦、発行された株式を無効にするというのは、なかなか難しいので、既存の株主の救済は、多くの場合、「金」で解決する必要があります。
 
 金で解決する方法には
  ①会社に金を入れてもらい、低下した株式の価値を復活させる間接的な方法
  ②株主が金をもらい、損害を回復する直接的方法
の2種類があります。

 「不公正な価額で引き受けた引受人に対し、差額を会社に支払わせる」
 「価値の低い現物出資財産を給付した引受人に、差額を会社に支払わせる」
という212条の担保責任は、①の考え方です。
 また、取締役の213条責任も①ですね。

 これに対し、株主が、有利発行によって株式の価値が低下したこと等を理由として、429条1項に基づき業務執行者等に対し損害賠償を求めるというのが②です。
 もっとも、このような損害賠償が可能かどうかについては、難しい問題があるので、この問題で触れる必要はないかも知れません。

6 まとめ
 4回にわたって、募集株式の発行について説明してきました。この問題は、解釈論が沢山あるため、これまでも何度も試験に出てきたところですし、敵対的買収に対する防衛等、最近の実務でもホットな話題でもありますから、基本的な要件・効果がすらすらと出てくるように訓練し、かつ、事例でも適切な当てはめができるようにしておいてください。

(質問コーナー)

Q1
前回のQ15について確認させてください。
>全員の同意があるのに、通知はないという事態がどんな場合か想定できません。
>遅くとも同意をとる直前に内容は知らせていますよね。
>同意は、当然のことながら、内容を理解していることが前提です。

ということは,知らせるべき事項の一部を欠く通知しかされなかった場合に,株主全員が同意していても,適法なものとはならないという理解でよろしいでしょうか?
投稿 たつきち | 2007年2月16日 (金) 23時03分
A1
同意が錯誤に基づくものであれば、駄目でしょう。

Q2
早速ですが、種類株式発行会社において、ある種類の既発行株式の一部を別の種類株式に変更する場合、例えば、普通株式から無議決権配当優先株式への変更をする場合、株主全員の同意が必要でしょうか?旧商法時代は、明文の規定はありませんでしたが、全員の同意が必要という実務上の運用だったと思いますが、会社法上はいかがでしょうか?
投稿 法務部員1 | 2007年2月17日 (土) 20時52分
A2
 全員の同意が必要です。

Q3
最近、分配可能額を超えた違法な自己株式取得の事例が出たようです。
http://www.nos.co.jp/ir/pdf/r070216.pdf
このケースでは、上記ニュースリリースを見ると、違法な自己株式取得について無効説を前提として処理するようです。もちろん現時点で最高裁の判断があるわけでもないですし、有効説、無効説どちらを取っても解釈論としては成り立つと思うのですが、サミーさんはこの件について何かご意見・ご感想とかを持っていらっしゃるのでしょうか? もしよろしければ教えてください。
投稿 ymchn | 2007年2月18日 (日) 00時44分
A3
まあ、いろんな考え方があるということでしょう。
皆、オウンリスクで頑張っているのです。

Q4
社債権者集会の召集について質問させてください。
ある種類の社債の総額の10分の1以上にあたる社債を有する
社債権者は召集の請求をすることができます。(718条1項)
 ここで なぜ 「ある種類の社債の総額の10分の1以上」
という 株主総会召集請求権(297条 総株主の議決権の
100分の3以上)に比べて厳しい要件を718条で定めているのですか? 
 そもそも、社債権者集会の決議は出席した議決権者の議決権の2分の1を超える議決権を有するものの同意でたります。
(724条1項)そして、これは議決権の要件を軽減することで
社債権者の権限を強化する趣旨だと理解しています。
この流れからいくと、社債権者集会の召集についても
もうすこし緩やかな要件で定めた方がいいのでは と考えてしまいます。
投稿 maru | 2007年2月18日 (日) 01時14分
A4
 社債権者は、所詮、債権者です。
 社債権者集会の決議事項を考えれば、株主総会の招集請求の要件と比べるのは、意味がないと思います。

Q5
組織再編行為と情報開示のうち事後の開示について
分割会社・承継会社・新設分割により設立された会社で
事後の開示をされた書面につき、株主・債権者・その他利害関係人が閲覧・交付請求等をすることができます。
 ここで「その他利害関係人」とは具体的にどのような人を指すのでしょうか?
 また、株主・債権者に加えて「その他利害関係人」まで
広く閲覧・交付請求等をすることができると定めたのは何故ですか?ご教授ください。
投稿 maru | 2007年2月18日 (日) 01時16分
A5
 分割により承継された財産の担保権者等利害関係を有する人は、見せた方がよいからです。

Q6
 株主総会における書面投票および電子投票について教えてください。
①株主の数が1000人未満であれば、株主総会の電子投票を認めて書面投票を認めない(=298条1項3号を定めずに4号のみ定める)ことも可能と理解しています。その場合、会社には全株主に対して参考書類を交付する義務がある(302条1項・2項)が、299条3項の承諾をした株主以外の株主に対しては、302条4項の請求がない限り、議決権行使書面(に記載すべき事項の電磁的方法による)提供の義務がないように読め、結論にやや違和感を覚えるのですが、当方の理解に何か誤りがあるのでしょうか?

②株主総会の書面投票も電子投票も認めており、全株主に書面で招集通知・参考書類・議決権行使書面を送付している会社に対して、299条3項の承諾をしていない株主から302条4項の請求がなされた場合、会社にはなお議決権行使書面に記載すべき事項の電磁的方法による提供の義務が発生するのでしょうか。

投稿 まいたけごはん | 2007年2月18日 (日) 10時46分
A6
① 誤りはありません。電子投票に興味のない人に、教える必要のない事項を教えないだけのことです。
② 面倒くさいのは分かりますが、法文上は、必要と考えた方が素直ですね。

Q7
 会社法817条1項と同法933条1項1号括弧書との関係についてお聞きします。
 817条1項では,日本における代表者のうち一人以上は日本に住所を有する者でなければならないと規定しているので,外国に住所を有する者でも日本における代表者となりうることを前提としていると思います。他方,933条1項1号括弧書では,「日本における代表者(日本に住所を有する者に限る。以下この節において同じ)」と規定しているので,外国会社の登記を定める第3節においては,「日本における代表者」とは日本に住所を有する者に限られ,例えば日本における代表者として登記されるのも日本に住所を有する者のみということになると解釈するのでしょうか?
 それとも,933条1項1号括弧書は登記の管轄についてのこのだけに限定して読むべきで,管轄以外のことについては,外国に住所を有する者も「日本における代表者」に含まれ,例えば外国に住所を有する日本における代表者も登記事項となると解釈するのでしょうか?
投稿 パケット | 2007年2月18日 (日) 12時10分
A7
 外国に住所を有する日本における代表者は、登記事項ではないと思います。

Q8
100問の第62問です。小問1で、名義説を展開して356条1項2号に当たらないとしています。
もし計算説をとって、自分に経済効果が帰属すると考えれば「自己または第三者のため」に当たるのだと思うのですが、そうだとしてもそもそも同条は「取締役が」「株式会社と」取引しようとする場合の規定なので、どのみち同条には該当しないように思えるのですが・・。
何故2号を検討しなければならいのでしょうか?
投稿 マーキュリー | 2007年2月18日 (日) 16時38分
A8
 株式会社と取引をしないのだから、2号ではないというのでも良いと思います。
 ただ、3号は、2号で拾いきれないものを拾う規定なので、「2号ではない」ということは、論じる必要があると思います。

Q9
親子会社間で、親会社が子会社を吸収合併することがありますが、メリットは何でしょうか?考えられるのは、子会社の管理部門の整理等の無駄をなくすことが考えられますが、これは親子のままでは無理なのでしょうか?
敢えて合併するメリット(税金や労務関係等)がありましたら、教えて下さい。今度、グループ会社の再編を行うについて、意見を求められそうなので・・・
投稿 のりのり | 2007年2月18日 (日) 21時21分
A9
法律論ではないので、お答えしづらいです。

Q10
「取締役会の決議の省略」(会社法370)「取締役会への報告の省略」(同372)「監査役会への報告の省略」(同395)についてお尋ねします。
いずれも議事録作成が義務付けられており、いわば「みなし取締役会(監査役会)」とでもいうべきものかと理解しておりますが、事業報告における社外役員の活動状況にいう取締役会/監査役会への出席状況(施行規則124④)との関係がよく判りません。
「みなし取締役会(監査役会)」もここでいう「取締役会(監査役会)」にカウントすべきでしょうか? (全株懇ひな型などでは、「○回中△回出席」などと書くべし」とされていますが、ここでの回数に算入すべきか、という趣旨です。)
確かに、議事録にする以上「取締役会(監査役会)」には違いないのでしょうが、他方で「出席」という概念には入って来ないように思います。
また、もしこれを算入すべしとなると、多忙な社外役員の立場からすると、現に開催される取締役会(監査役会)は少な目にして貰って、「みなし」を多用して貰うと出席率が向上する、という誠に奇妙な”メリット感”が出てしまい、実質的にもおかしいように思います。
というように考えますと、このような「みなし取締役会(監査役会)」は、事業報告での開示においては、回数に算入すべきではなく、必要があればその旨特記する(例:「○回中△回出席。なお、このほかに、当期中において×回『報告の省略』がありました。」などと)のが妥当ではないかと思うのですが、サミーさんのお考えをご教示頂ければ幸いです。
投稿 ETC | 2007年2月18日 (日) 22時53分
A10
ETCさんの言うとおりでしょう。

Q11
同回答において「監査役会で監査報告の内容を決議する必要がありますから、現に監査役会を開催してください。」とありますが、
①監査役会の監査報告は、監査委員会のそれと異なり、「決議」の必要はないのではないでしょうか(施行規則156条3項vs.同157条2項)。「決議」だったら、過半数とか全員一致とかの「決議要件」が必要になってしまいますが。
②施行規則156条3項に「会議を開催する方法又は・・・」とありますから、監査報告作成にあたっては、「現に監査役会を開催」する必要はない、ということになりませんか。
実はここが元のQの根底にある疑問です。「監査役会が監査報告を作成」する(因みに、サミーさんが仰るように、監査役会「で」ではなく、監査役会「が」の筈です)以上、現に監査役会を開催しなければ作成できない筈なのに、なぜ施行規則は、わざわざ「必ずしも現に会議を開催しなくてもよい」と読めるような条項を入れたのが理解できないのです。結局整合的に理解するためには、
1)現に監査役会を開催して監査報告を作成するのが原則だが、
2)その監査役会に欠席した監査役がいる場合、これを”救済”するために(旧商法下では、欠席監査役は署名押印できず、その旨を注記していましたね)、敢えて入れた条項が施行規則156条3項であると、理解せざるを得ないのですが、いかがでしょうか。
投稿 ぽっぽー | 2007年2月18日 (日) 23時39分
A12
①監査役会の決議要件は、393条にあるとおりです。
②情報の送受信により同時に意見の交換をすることができる方法も監査役会の開催方法の一つと考えているのでしょう。

Q13
会社法100問第2版のP.102、№105についてです。

誤:
募集株式の引受人が株式会社に対して金銭債権を有している場合は、
株式会社は、当該金銭債務について引受人に対する出資履行請求権を
自働債権として、相殺により消滅させることができる。
とあり、
正:
募集株式の引受人は、出資の履行をする債務と、株式会社に対する債権とを
相殺することができないが(208条3項)、株式会社による相殺は禁止されていない。
とあります。
誤では、「会社からの相殺」が記述されているように思えます。
とすれば、正の後段の「株式会社による相殺は禁止されていない」に
あたり、正しい記述のように思えます。
どの点が誤りなのかがよくわからないので、
よろしければ簡単に指摘していただけるとありがたいです。
投稿 受験生 | 2007年2月19日 (月) 12時23分
A13
 以前も訂正したのですが、「誤」の部分が、実は誤りではなかったという誤植です。

Q14
「つまみ食い問題」とはどういうことでしょうか?
聞きたかったのは、連結計算書類作成会社の事業報告において、会社の現況に関する事項(施行規則120条)に掲げる事項の一部を企業集団について記載し、一部を単体についてのみ記載することは可能かということです。
同条2項で「前項各号に掲げる事項については、・・・企業集団の現況に関する事項とすることができる。」とありますが、これは、企業集団についての記載にする場合は、「前項各号に掲げる事項」の全部を企業集団についての記載にしなければならないと読めますし、そうでないようにも読める気がします。全体として統一するべきとは思っているのですが、確認させていただければと。。。
投稿 んーー | 2007年2月19日 (月) 13時17分
A14
 つまみ食い問題というのは、会社が、自分に都合のいいように、企業集団の現況に関する事項と、単体の事項をつまみ食いして、自分の実体を良く見せることです。
 120条は、そういう会社側の恣意的なつまみ食いを認める趣旨ではないので、あまり答えたくないということです。

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2007年2月14日 (水)

【入門】募集株式の発行(3)

 前回は、募集株式の発行を行う場合に、既存の株主の
 ①議決権比率の維持の利益
 ②株式の経済的価値
の2点がどのように保護されているかについてお話ししました。

 今日は、募集株式の発行と種類株主の保護について説明します。

1 種類株主の保護
 初学者の中には、「種類株式」と聞いただけで
   難しい。よく分からん。どうせ試験には出ない。
と考え、思考停止に陥ってしまう人がいます。
 しかし、種類株式は、株式の内容について特別の約束がされているだけで、普通株式と本質的な違いはありません。

 株式の内容は、会社と株主との間の権利義務を定めたものであり、契約自由の原則の下では、本来、どんなものを定めても良いはずです。
 しかし、株式の場合には、株主平等の原則や「権利内容を定型化することで株式を安心して取得することができるようにしたい」という要請から、契約自由の原則が修正されていて
  ① 定款で内容を定める(明確化)。
  ② 株式の内容を登記する(公示)。
  ② 107条1項・108条1項に掲げられた条項以外の種類を認めない(定型化)。
というルールが採用されています。
 これが、種類株式制度の第1のポイントです。

2 種類株式と単元株式数
 ちなみに、「単元株式数」も、定款で定めることにより株式の内容になりますが、これは、108条1項に掲げられた条項ではないので
  単元株式数だけが違う種類株式
というものを設計することはできません。

 単元株式数は、108条1項に掲げられた条項のどれかを定めたときに、オプションとして付加できるもの、いわば
  「グリコのおまけ」
  「チョコエッグのフィギュア」
なのです。

 「おまけ」や「フィギュア」だけでは買えないため、マニアの人たちが
  グリコやチョコエッグを大人買いしてお菓子は食べない
というようなことがあるように
   単元株式数だけを変えて、複数議決権株式を作りたい
という要望があるような場合には
   残余財産分配など、どうでもいいようなところを、チョコっとだけ変えた種類株式を定めた上で、その種類の株式に単元株式数を定める
ということも行われているという噂があります・・・。
 まあ、おまけ目的でチョコを捨てると非難されるように、単元株式数目的でチョコっと変えた種類株式を作ると、裁判所が怒りだす心配はありますが。

 話は脱線しましたが、
   「株式の内容」については、定款で定めなければならない
というルールはすべての条項について共通するものの、「株式の内容」の中には
  ①その条項だけで種類株式になるもの
  ②その条項だけでは種類株式にならないもの
  (単元株式数・種類株主総会を不要とする定め)
の2種類があるということを覚えておいてください。

3 種類株主総会
  種類株式は、株式の内容の一部を変えただけのものですから
   その変えた部分だけが普通株式と違うだけで、それ以外の部分は普通株式と同じ
です。

 ですから、例えば、配当優先株式(例えば、1株あたり50円の配当を優先的に行う)と普通株式の2種類の株式があるからといって、別々に株主総会を開くわけではなく、
   配当優先株の株主も、普通株式の株主も、入り乱れて「株主総会」を開催する
ことになります。
 株主総会というのは、株式の種類とは関係なく、全ての株主が集まる総会なのです(もちろん、議決権制限株式の株主は、議決権がない場合には出席はできませんが)。

 これに対し、種類株主総会は、ある特定の種類株式の株主だけが集まるものである上、株主総会のように、毎年、開催されるようなものではありません。実務的には

  種類株主総会を開くくらいなら、何もしない方がましだ。

と思われるくらい滅多に開かれないものです。
 
 例えば、株主総会で、配当優先株主の優先額を1株50円から1株30円にする定款の変更決議があったとしましょう。
 配当優先株主も、株主総会に参加して、その議案に反対しましたが、普通株式の株主の方が多数派だったので、配当優先株式に不利な決議が多数決で通ってしまったのです。

 しかし、このような種類株主を無視したような決議が何の制限もなく行われてしまうと、誰も、種類株式を取得しなくなってしまいます。
 これは、定款の変更だけでなく、株式の分割のように取締役会の決議で行われるような行為でも同様ですし、配当優先株主の方が多数派のときに、普通株主に不利な定款変更をやるような場合には、普通株主を保護する必要がある場合もあります。

 そこで、会社が322条1項に掲げられている行為を行う場合、ある種類の株式(普通株式も含む)の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、「種類株主総会」の決議を得ない限り、その効力を生じないものとして、歯止めをかけているのです。
 逆に言うと、種類株主総会を開くということは

 あなたたちに不利なことをしていますよ。

と公言しているようなもので、会社が種類株主総会を開きたくないのは、当然ですね。

これが、第2のポイント。

4 募集株式の発行と種類株主総会
 それでは、募集株式の発行が行われる場合に、種類株主は、どのように保護されるのでしょうか。

 322条1項の中で、募集株式の発行に関するものとしては、
 1号 次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
  イ 株式の種類の追加
  ロ 株式の内容の変更
  ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
 4号 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ですね。
 
 この322条1項については、
   限定列挙説 各号に掲げる行為以外の行為については、損害を及ぼすおそれがある場合でも、種類株主総会は不要
   例示列挙説 各号に掲げる行為以外の行為でも、種類株主総会を要する場合がある。
という説の争いがあります。
 私達も当初、ある理由から例示列挙説を採っていましたが、その後、議論して
   条文の文言を見る限り、どうひっくり返っても、例示列挙というのは無理だろう。
   種類株主総会の範囲を明確化するために明示したのに、わざわざ例示列挙説に立つ必要はないだろう
ということから、その後は、限定列挙説で書くようにしたというイワク付のところです。

 限定列挙説に立った場合、募集株式の発行について、株式の種類の追加等の定款変更を伴って募集株式を発行する場合(1号)と株主に割当を受ける権利を与えて募集する場合(4号)以外には、種類株主総会は、不要となります。

 つまり、発行可能株式総数・発行可能種類株式総数の範囲内で、通常の募集をやる場合には、種類株主総会はいらないのです。

 確かに、配当優先株式を追加で1000株募集するときには、普通株主は、その分、配当が減るので「損害を及ぼすおそれ」はありますが、
  定款で定められた発行可能種類株式総数の範囲内の発行については、普通株式も不利益を覚悟しておくべきである
という価値観から322条1項各号には、通常の募集株式の発行は、列挙されていません。

 他方、株主に割当を受ける権利を与える場合については、募集株式の発行であっても、不利益を受ける種類株式の種類株主総会が必要です。

 一見、「株主に割当を受ける権利を与える方が、株主平等なんだから、種類株主総会なんかいらないんじゃないの?」という気持ちになりそうですが、実は、その「株主平等」がくせ者です。

 株主に割当を受ける権利を与える場合、株主平等であることを考慮して、公開会社が有利発行を行う場合でも、役会決議で行うことができるなど、募集手続きが軽くなっています。

 しかし、種類株式は、本来、種類株主を特別扱いをするために設計される場合もあるので、「株主平等」だからといって、手続きを軽くされては困るのです。

 例えば、松真さんが配当優先株式、湯水さんが普通株式を持っているときに、取締役会で、配当優先株式を著しく安い価格で割当を受ける権利を与えると、普通株式よりも高い価値のある配当優先株式を安く引き受けることができ、現在、普通株式をもっている湯水さんだけが、相対的に損をします。
 つまり、「平等に扱うべきでない種類株主について、全株主を平等に扱ってしまうことの不都合」を回避する必要があるのです。

 そこで、202条で募集手続きについて特例が置かれている株主に割当を受ける権利を与える場合に限っては、募集株式の引受人の募集の場合も、損害を受けるおそれのある種類株式の種類株主総会が必要であるという整理がされているのです。

 種類株主総会については、以上説明したほか、322条の特則的な規定である111条の存在を理解しておけば、とりあえず十分なので、今日の記事をきっかけに勉強してくださいね。

(質問コーナー)
Q1
新株引受権付社債について質問いたします。
平成12年発行の新株引受権付社債があります。
今般、その「新株の引受権を行使することができる期間」を延長する変更をしたいのです。
①変更できますか?
②決議は「株主総会」なのか「取締役会」なのか「種類株主総会」なのか???
③決議以外に何かしら手続は必要ですか?
投稿 しずおか | 2007年2月 9日 (金) 16時52分
A1
 私の記憶に間違いがなければ、なお従前の例により、旧商法どおりだったと思います。

Q2
 非取締役会設置会社における191条の意義について質問させてください。
 株式会社は191条の要件に当てはまる場合、株主総会の決議によらないで単元株式数の増加または設定をすることができます。
 そして取締役会設置会社では 株式分割も取締役会の権限なので 株式分割及び191条による定款変更ともに取締役会の決議でなされます。
 つまり株式分割と191条の定款変更はともに取締役会によってなされます。この場合、株式分割と単元株式数ともに取締役会の決議でなされるから費用の節約になるし 楽に決めることができます。そうだとすれば取締役会設置会社における191条の意義は非常に分かりやすいです。
 ところが、非取締役会設置会社では、株式分割は株主総会の権限です。そこで 株式分割は株主総会の決議でなされるが、191条による定款変更は取締役によってなされることになります。
 この場合わざわざ費用をかけて株主総会を開いたのだから株式分割と単元株式数ともに株主総会で決定してしまえばいいわけで、191条という特則の意義が見えてきません。
 そういうわけで非取締役会設置会社における191条の意義についてご教授ください。
投稿 maru | 2007年2月10日 (土) 00時02分
A2
 特則に実益がない場合があってもよいのではないでしょうか?
 非取締役会設置会社だけ、適用除外する必要はないように思います。

Q3
委員会設置会社の委員会が業務執行の決定を執行役に委任できない場合について(416条4項但書)質問させてください。
 委員会設置会社では、譲渡制限株式の取得について承認をするか否かの決定について執行役に委任することをできません(1号)
 しかし、委員会設置会社でない株式会社では 代表取締役に
譲渡制限株式の取得について承認をするか否かの決定をさせることもできます。(139条1項但書による定款の定めによる)
 委員会設置会社と委員会設置会社でない会社とでこのような違いが生じる理由についてご教授ください。
 また、法が416条4項但書各号に定めるものに何か基準があればそれについてもご教授くだされば幸いです。
投稿 maru | 2007年2月10日 (土) 00時04分
A3
 株主総会で選んだわけでもない執行役が、株主構成を判断するのは僭越だからなんでしょうね。
 416条4項ただし書各号の選別基準は特にありません。政策です。

Q4
分配可能額の計算についてでございます。ある3月決算会社が、昨年、経過規定により、旧商法の利益処分案を承認し、利益処分によって役員賞与金を支払ったものとします。この会社が、本年2月現在の分配可能額を計算する場合、当該役員賞与金の支払額は、最終事業年度の剰余金から控除されるのでしょうか?されないのでしょうか?(昨年3月期が最終事業年度であり、臨時決算や決算期変更もないと仮定します。)
投稿 こころん | 2007年2月10日 (土) 00時50分
A4
分配可能額からは控除する必要はないと思われます。

Q5
 株式会社の解散に際しての株式譲渡制限規定の変更の要否について質問致します。
 取締役会設置会社であって,譲渡制限株式についての譲渡承認機関を「取締役会」として定款に規定し,かつ登記している株式会社が解散して清算会社となった場合,取締役会が存在しないことになりますので,それに伴って譲渡制限株式の譲渡承認機関(株式譲渡制限規定)を変更する定款変更をしたり,その旨の登記をしなければならないのでしょうか?
 上記は,清算会社においても株式譲渡制限規定が有効であるという前提での話ですが,それとは逆に,清算会社においては株式譲渡制限規定の効力が停止されるのでしょうか?
投稿 hige | 2007年2月10日 (土) 19時27分
A5
 譲渡制限をかける以上、譲渡承認機関を変更する必要があるし、登記も必要です。

Q6
剰余金の分配可能価額について質問させてください。
期中に再評価した事業用土地を売却し、土地再評価差額金取崩額を計上しています。会計上損益計算書に計上されることなくその他利益剰余金が直接増加となります。446条・計規178条に剰余金の額に加算すべき項目としてあげられていないので、「現段階で」分配可能価額算定する上で土地再評価差額金取崩額を考慮しないという理解でよろしいでしょうか。
投稿 初心者 | 2007年2月11日 (日) 14時06分
A6
 そうなるでしょう。

Q7
3月決算の当社は、負債基準(2Ⅰ⑥ロ)にて大会社と判定され、会計監査を受けておりますが(328Ⅱ)、2月現在、負債が100億円まで減額しています。
資本金は3億円で、会計監査人設置の定款規定(326Ⅱ)はありません。
さて、このままの場合、2007年6月に承認される(予定である)2007年3月期の決算書をもって大会社ではなくなり、2007年度より会計監査も不要となる(おまけで6月の総会まではついてくる(338Ⅰ))との認識でよいのでしょうか?
また、6月の総会では、現在の監査法人を解任し(339)、その後、会計監査人につき消滅登記(909)を行うとの認識でよいのでしょうか?
投稿 ITロマンス | 2007年2月11日 (日) 20時14分
A7
 会計監査人設置の定款はあるはずです(多分、経過措置で、みなされているはず)。
 したがって、大会社ではなくなっても、定款を変更して、会計監査人を置く旨の定めを廃止しなければ、会計監査を受ける必要があります。

Q8
監査役(会)の監査報告の記載についてアドバイスをお願いいたします。
当社(3月決算)は、当期中に、会計監査人が金融庁の行政処分により欠格事由に該当したため退任となり、一時会計監査人を選任し今日に至っております。
このような状況下、監査報告で会計監査人に言及する際は、全て「一時会計監査人」と表記しなければならないものでしょうか。それとも「会計監査人」でいいのでしょうか。あるいは、文脈により使い分けすべきなのでしょうか。
昨年9月に公表された監査役協会の指針によれば、「監査の結果」のところでは「一時会計監査人」と表記すべしとしていますが、「監査の方法」のところでは「会計監査人」のままになっており、しかもその点につき何ら注釈を付しておりません。
そもそも論で言えば、会計監査人と一時会計監査人はその職務(権利義務)において何らの差異はない訳ですから(因みに、会計監査人不在で、一時会計監査人が就任しているに過ぎない会社でも、やっぱり「会計監査人設置会社」ですよね)、一時会計監査人も概念として包含されるという意味で単に「会計監査人」と表記すれば十分であるとも思えるのです。
監査役協会の指針を強いて善解すれば、上記のような考えに立ちつつも、「監査の結果」のところでは、”肩書”としての表記ですから、「一時会計監査人」とせざるを得ないでしょう、ということかとも思われます。
投稿 black out | 2007年2月12日 (月) 22時39分
A8
 会計監査人と表記してもよいと思います。

Q9
1000問P682「Q917 3」についてお伺いいたします。
吸収合併存続会社株主が、会社法798条3項の規定に基づいて、価格決定の申立てがなく効力発生日から60日が経過したことにより、株式買取請求を撤回した場合であっても、当該撤回により、存続会社の株主に留まることはできないという意味でしょうか?
A9
 そうです。

Q10
事業報告とその附属明細書における、役員の兼務状況の記載についてです。
事業報告の記載事項は、施行規則121条3号及び7号に、同附属明細書は施行規則128条1号に規定されておりますが、この違いはあるのでしょうか?
条文だけ見ると、附属明細書に記載すべきものは、事業報告で既に記載しなければならないように思えます。
投稿 tanukick | 2007年2月13日 (火) 20時38分
A10
附属明細書は、「明細」です。

Q11
委員会設置会社において、会計監査人の設置が義務付けられている理由を教えてください。
本には、執行役へ権限委譲した正当化根拠のひとつだからとありますが、どういう意味ですか?
投稿 プリン | 2007年2月13日 (火) 21時20分
A11
 法制審議会で、「委員会設置会社には、必ずしも会計監査人の設置はいらないのではないか」という提案がありましたが、反対意見が強かったからです。
 会計監査人がいることも、執行役の適正な活動を確保するための正当化根拠だからということです。

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2007年2月 6日 (火)

【入門】募集株式の発行(2)

 募集株式の発行が、既存の株主にどのような影響を与えるかについては、既に「設立と新株発行」の問題で説明しました。
 http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13272409

1 概観
 株主は、原則として、①議決権、②配当請求権、③残余財産分配請求権等を有しており、これらの権利は、いずれも法的な利益として保護に値するものです。
 他方、既存の株主の持株比率を絶対的に維持しなければならない(=新株発行に、全株主の同意を要求する)とすると、株主が多数いる株式会社では、新株発行により資金調達等を行うことが極めて難しくなってしまいます。
 
 出資者が、持株比率を絶対的に維持したいと思うのならば、「持分会社」を作ればいいのですから、株式会社は
  自分の意思によらずに、持株比率が変更されるのは、ある程度仕方がない。
  それよりも、株式の発行による資金調達がやりやすい方がよい。
と考えている出資者のための制度設計がされています(つまり、株主全員の同意は不要)。

 とはいえ、持株比率の変更は、会社の支配権(議決権比率)や株主の財産権(株式の経済的価値)に影響を与えますから、会社法では、次のような整理をして、会社と既存株主との間の利益調整を図っています。

  非公開会社 ・議決権比率維持の利益を保護する
          =募集事項を株主総会の決議で決定する。
             但し、持分会社のように全員の同意は不要
        ・一株の経済的価値は保護する
            =募集事項を株主総会の決議で決定する。

  公開会社  ・議決権比率維持の利益は原則として保護しない。
            例外 発行可能株式総数による歯止めがある。
               不公正な株式発行は差し止めの対象となる。
         ・一株の経済的価値は保護する。
            =有利発行の場合には、募集事項を株主総会の決議で決定する

2 議決権比率維持の利益
 なぜ、公開会社では、議決権比率維持の利益は、保護されないのでしょうか。

  公開会社(2条5号)というのは、簡単に言えば、
    譲渡制限の付いていない株式を発行する株式会社
のことです。

 東京証券取引所等に上場していなくても、譲渡制限が付いていない株式を発行していれば、「公開会社」ですし、一部の株式に譲渡制限が付いていたとしても、他の株式に譲渡制限が付いていなければ、「公開会社」になります。

 この定義から分かるとおり、公開会社では、株式の譲渡によって
 ・氏素性が分からないような人が、突然、株主として会社の運営に参加する(株主総会で議決権を行使する等)ようになったり、
 ・去年まで少数派株主だった人が、今年は多数派株主になったり
ということがありえます。

 既発行の株式を「譲渡」することと、新しく株式を「発行」することは、別のことではありますが、
 ・既存の株主以外の人が株主となったり
 ・少数派株主が、多数派株主になったり
することがあるという点は同じです。

 ですから、「公開会社」においては、募集事項の決定について株主の判断を仰ぐほどの必要はないだろうという判断のもと、原則として
  取締役会
が募集事項を決定することとなっているのです。

 もっとも、株式の「譲渡」では、自己の議決権比率が下がることはありませんが、募集株式の「発行」がされると、既存株主の議決権比率は下がります。

 そのため、取締役が、オーナー(大株主)に反旗を翻して、募集株式の発行を行って多数派株主に成り上がろうとしたり、議決権比率を下げて少数株主権を行使できないようにしたりして、募集株式の発行は何かと悪用されることが多いのです。

 まあ、多数派を少数派に転落させる募集株式の発行が、常に違法というわけではありませんが、取締役が、自己の保身のために、募集事項の決定権を濫用することは許されないので、そのような
  「著しく不公正」
な募集株式の発行が行われそうなときは、株主による株式発行の差し止めが認められています。

3 一株の経済的価値の保護
ところで、民商法の世界には、「個人の財産を、その人の意思によらずに、奪ってはいけない」という基本ルールがあります(財産権の保護)。

 株式会社が、募集株式の発行を行う場合には、既存の株主の株式自体を奪うわけではないものの、現在の株価よりも、著しく安い価格で株式を発行すると、一株あたりの経済的価値が下落してしまい、実質的には財産を毀損することになってしまいます。

 そこで、公開会社であっても、特に有利な金額で募集する場合には、株主総会で、その払込金額で募集する理由を説明し、株主総会の決議で募集事項を決めなければならないこととされています(199条3項・201条1項)。

一通りの説明は、以上のとおりなのですが、実際には、払込金額がどの程度になったら、「特に有利な金額」になるのか、その判断は容易ではありません。

「特に有利」かどうかの判断は
 ①現在の株価をどう評価するか
 ②どの程度、ディスカウントすると「特に」有利な金額となるか
という2段階の検討が必要であり、そのいずれにも確定的な基準はありません。

 株価の算定方法の一つとして「純資産方式」があります。
 これは、単純に言えば
  「純資産1000万円の株式会社が1000株発行しているとすれば、1株あたり、1万円である」
というようなに、会社財産を株式の数で山分けするという発想の評価方式です。
 この他にも、
 ・資産や利益を他の会社と見比べてみて評価する方法(類似業種比準方式)
 ・配当から逆算して評価する方法(配当還元方式)
 ・収益から逆算して評価する方法(収益還元方式)
 ・将来の現金をどの程度生み出すかから逆算する方法(DCF方式)
等様々な評価方式がありますし、上場株式であれば、
   市場価格
が、株価算定の大きな指標になります。

 もともと、199条3項が「有利」ではなく、「特に有利」と規定してるのは、上場株式の場合、募集事項の決定時から、払込期日までの間に株価が下落する可能性があるため、ある程度、ディスカウントして払込金額を決めておかないと、引受人が、払込期日にお金を払い込まない可能性があるからです。

 例えば、払込金額1000円で引き受けた人は、時価が900円の時には払い込んでくれません。市場から900円で買ってくる方が得ですからね。
 だから、会社法は、「特に」という文言をくっつけて
  「払込金額を決めるときに時価1000円であったとしても、払込金額を100円引きの900円にするくらいなら、わざわざ株主総会の決議を開かなくてもいいですよ」
と言っているわけです。

この「特に有利」の基準を、どの程度と考えるのかは、解釈に委ねられているのですが、100問にも記載したとおり、裁判所は、発行決議前3か月の平均株価の10%引きというのを一応の基準にしているようです。

本当言うと、株価の変動率が大きい株式ならば、30%引きでもおかしくないし、逆に変動率が小さいならば、10%でもディスカウントし過ぎだと思いますが、規範としての明確性を考えると10%という基準を採るのは、それなりに合理的です。

 また、株価は毎日変動する(1日で10%以上変動することも希ではありません)ので、発行決議時の株価ではなく、3か月の平均株価とするのも合理的です。

 ところが、平均株価の期間を3か月に固定すると、都合の悪い場合があるためか、最近の証券発行実務の世界では
  6か月以内で任意に設定した期間の平均株価の10%引きならよい
という解釈も一般的になってきました。

 その解釈が悪いというわけではありませんが、巷の発行手続を見ていると、会社が、株主総会の決議をせずに第三者に株式を割り当てるために、恣意的に平均株価の算定期間を設定しているんじゃないかと疑われることもないわけではありません。

 いずれにせよ、明文に基準のない世界の話なので、裁判所も杓子定規に3か月とは判断してはいませんが、もし、裁判所から発行手続の公正さを疑われたら、いくら6か月以内で適当な期間を定めていたとしても、「特に有利」だと認定されてしまうリスクはあるでしょうね。

 他方、非上場株式は、相場の変動がない世界ですから、「10%引き」という基準は、あまり合理的ではありません。

 例えば、純資産方式(簿価純資産で評価すると、不動産や有価証券等相場の変動があるような財産について、含み損や含み益が評価されないので、実質純資産で評価するとします)の場合、資産の評価の誤差をある程度見込んでディスカウントすることはできるかもしれませんが、それを超えて払込金額をディスカウントする場合には、何らかの合理的理由がない限り「特に有利」なものと認定されるのではないでしょうか。

 また、非上場株式について、株価の評価方式がいろいろあるからといって、取締役が、自分勝手に、募集ごとに評価方式を変えて、株主総会の決議を回避するのは、許されませんし、DCF方式(将来の収益をどう予測するかによって、株価が左右されるため恣意的な評価を行いやすい)で「特に有利」かどうかを判断する場合には、評価の基礎となるデータの信頼性を詳細に検証しなければならないでしょう。

 まあ、非上場株式の多くは、非公開会社ですし、非公開会社ならば「特に有利」かどうかにかかわらず、株主総会の決議が必要なので、これまで、非公開会社における「特に有利」の判断基準は、あまり深く論じられてきていなかったように思います。

 しかし、最近は、公開会社が、新株予約権を用いた買収防衛策を導入したりすることがあるため、市場価格のない新株予約権について、どの程度の払込金額を「特に有利」とするかの判断が求められる場合も多いのです。
  特に新株予約権は、権利内容を工夫することにより、その価格を左右しやすいため、株式よりも恣意的な「総会決議外し」がされやすく、この分野は、もっと研究が進んで欲しいところですね。

 初心者の皆さんは
   公開会社でも、株式の経済的価値を保護するために、「特に有利な」株式発行については、総会決議が要求されていること
   「特に有利」かどうかは、一般には、3か月(又は6か月)の平均株価の10%引きが基準となっていること
くらいを覚えておけば、とりあえずOKですが、発行差し止めの仮処分という修羅場では、
 ① 払込金額が特に有利かどうか
   →役会で発行決議をしている場合がほとんどなので、特に有利だと、総会決議の欠缺という違法が生じる
 ② 主たる目的が取締役等の保身にあるか
   →もし、そうならば、著しく不公正な発行になる
という点が主たる争点になることが多いというのも、知っておいて損はありません。

(質問コーナー)
Q1
社外役員(候補者)に係る事業報告と総会参考書類の記載事項に関する質問です。
似たような規定を並べて見てみると、何とも趣旨を理解し難い微妙な差異があります。

例えば、
①親族関係の開示:事業報告では「その事実」とあり、「重要でないものを除く」とある一方、参考書類では、「その旨」とあり、「重要性」による限定はありません。全株懇は、前者は具体的事実を書く必要がある一方、「重要性」基準で絞り込むことが可能、後者は抽象的・包括的な記載で足りる一方、「重要性」基準による絞込みは不可、と解説しています。
②兼務状況の開示:事業報告では「代表者その他これに類する者」とあり、参考書類では「代表者」とだけあります。前者の方が範囲が広そうです。

このような微妙な差異を設けた趣旨・狙いはなんでしょうか。そして、そういった差異にきめ細かく対応した厳密な書き分けが必要なのでしょうか。所詮最後は、株主の判断に委ねる、ということでしょうか。
投稿 ぽっぽー | 2007年2月 2日 (金) 00時53分
A1
差違は、歴史的な経緯等から設けられたもので、理屈で説明できるようなものではありません。
「書き分け」の意味は分かりませんが、最低限の開示をしようとするのではなく、各規定の趣旨に沿って、株主に誠意をもって開示すればいいのだと思います。

Q2
問33の失念株主の問題ですが、
甲社株主AがBに株式を譲渡したがBが名義書換を行わず、Aに甲社から株式に割り当てを受ける権利(新株引受権)が渡された場合の話です。
判例からいくと、Bは何もAに追求することはできません。しかし、不当利得を論拠としてこれに反論する場合、なぜ「不当利得は売買契約の当事者でない場合の規定から適用しない」と判断できるのですか?(通説はこっちをとっていると聞きますが)
また、「AはBに新株引受権分のプレミアムを付加した価格で株式を譲渡した」と捉えれば、やはりAは不当利得を得たと考えられるため、BはAにプレミアム(新株引受権相当分の金額)を請求できるのではないでしょうか?(株式そのものは請求できないとしても)
公認会計士試験受験者のため、民法をして勉強していないのでここがよくわかりません。
投稿 あっきん | 2007年2月 2日 (金) 01時24分
A2
 問題意識が、今ひとつ、よく分かりませんが、不当利得というのは、法律上の原因がない当事者間の利益調整の問題です。
 有効な売買契約が存在する当事者間の利益調整は、普通、不当利得ではやりません。
 目的物に、果実・従物・従たる権利がある場合でも、当事者の意思によって、それを決めるのが原則です。

Q3
決議の省略の場合、株主総会参考書類の交付は不要であると思うのですが、そうすると、100%子会社の社外取締役を書面決議で選任する場合に、会社の提案の内容や同意書、議事録に、施行規則74条4項の「社外候補者である旨」等の記載はなくてもよいということになるのでしょうか。
つまり、どこにも社外取締役である旨の明示がなくても、書面決議の場合には取締役として選任の決議をしてしまうだけで「社外取締役」としてしまうことができるのでしょうか。
投稿 カフェイン中毒 | 2007年2月 2日 (金) 10時22分
A3                                                   
 社外取締役は、社外として選任するから、社外になるのではありません。
 客観的に社外取締役に該当するかどうかで決まります。
 決議の省略のときには、株主総会参考書類は不要です。

Q4
株式会社同士の合併の際、合併の効力発生日をもって消滅会社は解散するため、消滅会社の監査役は、存続会社の監査役として新たに選任されない限り、合併の効力発生日をもってその任を終えるものと理解しています。
さて、ここからが質問ですが、例えば、決算期が3月の消滅会社が4月1日に合併する場合、その前日(3月末日)までの会計年度の決算については、消滅会社の監査役による監査と監査報告は不要なのでしょうか? あるいは、存続会社の監査役が代わりに消滅会社分の決算の監査も行うのでしょうか? また、仮に監査報告を行う場合は、存続会社の株主総会で行うのでしょうか?             
投稿 やむ | 2007年2月 2日 (金) 11時53分
A4
消滅すれば監査は不要です、というか、できません。

Q5
【入門】募集株式の発行(1)は大変勉強になります。ところで,会社法の基本書にはよく「割当自由の原則」があるとされていますが,根拠条文が分かりません。204条1項がその旨を規定しているとは思えるのですが,正面から定めた規定とは読め無いのです。一般に,「○○の原則」とされるような会社法の原則は,127条の株式譲渡自由の原則のように明文規定があるものなのでしょうか。明文規定を設ける場合とそうでない場合とでは,立法技術上の配慮があるのでしょうか。
投稿 とみん | 2007年2月 2日 (金) 16時56分
A5
 204条には、何の制限もされていないので、割当ては、誰に対してしてもかまいません。
 「原則を正面から定める」という意味がよく分かりません。法律は、要件と効果があるだけです。それを、説明をするために、「○○の原則」と呼んでいるだけです。

Q6
本日の記事の件ですが、「募集手続は202条等の手続に従ったのに、結果的に、株主の一部にしか「発行」されなかった」場合には、株主以外の者に対する発行という整理になるのでしょうか。
投稿 DAN | 2007年2月 2日 (金) 18時30分
A6
 「株主以外の者に対する発行」に整理するかどうかは、単に便宜的な分類に過ぎませんので、質問の場合をどちらに整理するかについて「正解」というものはありません。DANさんは、どちらで整理する方が書きやすいですか?法律効果を考えれば、おのずと答えがでるはずです。

Q7
株券発行会社が、自己株式の消却について取締役会で可決した後、取締役が当該株券をシュレッタにかけるのを忘れて、会議室の机の上に放置したままにしていたところ、泥棒に入られ、当該株券が盗まれ、それを何も知らない第三者が買受けた場合、第三者の運命は、どうなるのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2007年2月 3日 (土) 10時55分
A7
 消却の効力が生じていれば、その株券は、無効で、善意取得の余地はありません。
 しかし、会社に損害賠償を請求することはできるかもしれません。

Q8
民法では「仮理事」という言葉が使われ、証券取引法では(金融商品取引法になっても)「仮取締役」などといった言葉が使われています。他方、新しい「一般社団法人・・・法」では、旧商法・会社法と同様、「一時○○の職務を行うべき者」といった言葉が使われています。また、商業登記の実務では「仮○○」といった言葉が使われているようです。
とまぁ、とても付き合いきれないなぁ、所詮どうでもいいということでしょうか。
A8
そのとおりです。

Q9
サミーさんのご回答で「正式名称は『一時会計監査人の職務を行う者』」とありますが、正確には「一時会計監査人の職務を行うべき者」かと思います。ご確認を頂きたく存じます。
投稿 ぷろめてうす | 2007年2月 3日 (土) 10時59分
A9
失礼しました。そのとおりです。

Q10
米国の州会社法では,労務出資は禁止されていないと聞きます。また,民法上の組合も労務出資はOKです(民法667条2項)。一方,なぜ,日本の会社法は,労務出資は駄目なのでしょうか。基本書を読んでも,当然のこととしてあまり丁寧な説明がされていないので,よく分からなくて困っています。初心者の質問で恐縮ですが,教えていただけたらと思います。
投稿 会社法初心者 | 2007年2月 4日 (日) 08時30分
A10
労務は、将来の給付なので、株式の発行時点において、未給付とみられるから、また、金銭的評価がしにくいので、資本金を確定できないからです。

Q11
100問2版P498What's Misssing1030についてお伺いいたします。
465条を「配当を受けた財産の帳簿価額ではなく、欠損額である」としてますが、446条6号イの配当財産の帳簿価額の場合もあるのではないでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2007年2月 4日 (日) 16時47分
A11
○×問題ですから、配当財産の帳簿価額になる場合「も」あるからと言って、帳簿価額であるという選択肢が正解にはなりません。

Q12
サミー先生、本日は株券提出公告(219条)について教えてください。
219条1項は、各号の行為を株券発行会社がする場合、公告かつ各別の通知をする日と、各号の行為の効力発生日までに一箇月の期間があることのみを要求しており、株券の実際の提出期限はこの一箇月の期間内であれば適法と読めますが、実際に株券を提出する日は一ヶ月の期間内のいずれの日でも会社が任意に定めても構わないのでしょうか?極端な話ですが、公告時に「明日までに株券を提出してください。」と定めても問題はないのでしょうか?
投稿 NK | 2007年2月 4日 (日) 18時48分
A12
株券の提出期限は、「効力を生ずる日まで」ですから、勝手に短くすることはできません。

Q13
先日,株式の引受は契約か?という質問をした者ですが,ご回答ありがとうございます。ところで,出資の不履行による失権は,契約の終了原因ではなく、債権の消滅原因とすると,出資の不履行後も契約関係は残るということでしょうか。観念的な質問で恐縮ですが,ご教授ください。
投稿 とむ | 2007年2月 5日 (月) 13時33分
A13
「契約」は要件であり、効果が重要です。
 契約上の付随的義務が残る場合はありうるでしょう。

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2007年2月 1日 (木)

【入門】募集株式の発行(1)

今日は、第21問「第三者に対する新株の発行」です。

問題文:「株式会社が株主以外の者に対して募集株式の発行を行う場合、会社法上どのような問題があるか。」

1 「問題」って何でしょう。
「会社法上どのような問題があるか」という抽象的な質問の仕方は、初心者が苦手にする問いかけの一つです。
「問題」という言葉自体が、微妙な響きがあって
 問「サミーさんにどのような問題があるか」
 答「女好きだという問題がある。」
 問「松真さんにどのような問題があるか」
 答「締め切り日を過ぎないと原稿を書き始めないという問題がある。」
 問「湯水さんにどのような問題があるか」
 答「夜、何をしているか分からないという問題がある」
という例で分かるように、一般に「問題」というと「悪いところ」「改善すべきところ」という意味で使われます。

 他方、法律の世界で「○○法上どのような問題があるか」と聞いてきたときには、若干、意味合いが違っていて、
 ① その行為を行うと、関係者の間で、どのような法律関係(権利・義務)が形成されるか。
 ② 関係者は、どのような場合に、どのような不利益を受けるおそれがあるか(=法律上の問題点が生ずるのか)。
ということを尋ねた上で
 ③ その不利益を受ける関係者を保護するために、どのような法的制度があるか。
  また、その不利益を回避するために、どのような解釈を採るべきか
というところまでを答えさせようとしていると考えるのが普通でしょう。

 したがって、第21問に対して解答するときは、「株式会社が株主以外の者に対して募集株式の発行を行う場合」について上記①から③までの事柄を淡々と書いていくことになります。

2 募集株式の発行
 次に「募集株式の発行」という意味についてお話しします。

 募集株式は、199条で定義されていて
「株式会社が、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときに、当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式」
のことを言います。
 この複雑な定義のために会社法は嫌われているのですが、同じ文章の構造で、「花嫁募集局付」を定義してみると
  「花嫁募集局付」とは、「民事局が、民事局付の花嫁を募集しようとしているときに、その募集に応じて、申込みをした花嫁に対して割り当てられる民事局付のことをいう」
というと、少しイメージがわきますでしょうか?
 
 例えば、民事局が湯水さんの花嫁を募集しているときの、湯水さんが「花嫁募集局付」ということになります。

 なぜ、持って回った言い方をするかというと
  湯水局付(株式)が花嫁(引受人)を募集しているのではなく、民事局(株式会社)が花嫁(引受人)を募集しているので、「花嫁を募集している民事局付」とは定義できないし
  民事局(株式会社)によって募集されているのは、湯水局付(株式)ではなく、花嫁(引受人)であるから、「募集されている民事局付」とも定義できない
という日本語の難しさが原因です。

 脱線したため、余計、分からなくなった、という声が聞こえそうになるので、ここら辺でやめますが、要するに、「募集株式」というのは、「株式の引受人を募集するときに、引受人に割り当てられる株式」のことです。

 したがって、「募集株式の発行」という問題文は
 ・設立時に株式が発行される場合
 ・新株予約権の行使によって株式が発行される場合
 ・合併等によって株式が発行される場合
については説明しなくてもよいということ、さらに
 ・募集株式の処分(=自己株式の処分)
についても説明しなくても良いということを言っていることになります。

 ちなみに、募集株式の「発行」と「処分」の募集手続は同じです(というよりも、一つの募集手続で、1万株を発行し、5000株を自己株式の処分するというような場合が多い)。
 また、株主にとっては、「発行」された株式も「処分」によって取得した株式も、中身は全く同じですから、引受人が
 「僕は、新品の株式が良いので、中古品(自己株式)は嫌です」
というワガママを言うことはできません。
 
 しかし、募集株式の「発行」と「処分」は、会社側にとっては
  発行=発行済株式総数・資本金が増加する=登記が必要=登録免許税が必要
  処分=発行済株式総数・資本金が増加しない=登記が不要=登録免許税がいらない
大きな違いがあります。
 登録免許税は、資本金の額が高くなると、高くなるので、登記の手間や税金のことを考えると、一般的には、自己株式の処分の方が会社にとっては得ですが、自己株式を保有していない場合や、何らかの理由で資本金を増加させたい場合には、募集株式の「発行」を行います。

3 「株主以外の者に対して」
 第21問は、「株主以外の者に対して」募集株式を発行する場合のことを尋ねています。
 逆に、「株主に対して」募集株式を発行する場合(いわゆる株主割当て)のことは尋ねていません。
 初心者は、この「株主以外の者に対して」という言葉の意味を勘違いしやすいので、その意味を確認しておきましょう。

 例えば、株式会社正直法務の株主が松真さん(500株)と湯水さん(500株)である場合に、600株の募集株式の発行を行うとしましょう。
  a.サミーさんに600株を割当てて、発行する=株主以外の者に対する発行
  b.松真さんに300株、湯水さん300株分の株式の割当てを受ける権利を与えた上で、両者の権利行使を受けて、600株を発行する=株主に対する発行
ということは誰でも分かりますが、

  c 株主の一人である松真さんに600株を割当てて発行するのは、「株主に対する発行」ではなく、「株主以外の者に対する発行」である

と理解するのが法律家の常識です。
 日常用語としては、「松真さんは、株主なんだから、株主に対する発行だろう」というのは、ごもっともな指摘ですが、伝統的に
 「株主が保有している株式の数に応じて、割当てがされない場合」
は、「株主に対する発行」ではないと整理されています。

 もっとも、このようにザクッと説明するときは、株主以外の者に対する発行かどうかは、「株主平等かどうか」で区別すると言えば足りるのですが、実際の会社法の条文は、もう少し微妙な違いが設けられています。

 例えば、「募集手続」という面から見ると
 会社が、株主に対して、
  株式の割当てを受ける権利を与える=202条・203条・204条4項の手続
  与えない=199条~201条・203条・204条1項~3項の手続
という違いをもたらします。
 具体的には
 「松真さんに300株、湯水さん300株分の株式の割当てを受ける権利を与えたが、湯水さんは、銀座でお金を使いすぎていたので、その権利を行使せず、結局、松真さんだけが300株を引き受けた」
という場合のように、募集手続は202条等の手続に従ったのに、結果的に、株主の一部にしか「発行」されなかったということもありうるわけです。

 これに対し、俗に「第三者に対する有利発行」と呼ばれる199条3項は、
   「募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には」
と規定していて、「第三者に割り当てた場合」に限定していません。
 言い換えれば、株主に割当てを受ける権利(202条)を与えずに、募集手続を行った場合には、結果として、株主に平等に割り当てたとしても、199条3項が適用される可能性がないとはいえないのです。
 もちろん、
  「募集事項は、募集ごとに、均等に定めなければならない。」(199条5項)
ので、株主に平等に割当てがされた場合には、通常、「特に有利な金額」(199条3項)には該当しないでしょう。
 しかし、取締役会設置会社において、株主に平等に割当てをしたが、199条5項に違反して、こっそり特定の株主に有利な条件を定めていたような場合に、株主が「199条3項に該当するから、株主総会の特別決議が必要だった(201条1項)」と主張することは許されるものと思います。

 さらに、株式の発行差し止め請求権(210条)や新株発行の無効の訴え(834条1項2号)等は、募集手続がどうか、割当てがどうか等で区別されていませんから、どんな場合でも、適用される余地があります。
 もちろん、これも、株主に平等に割当てがされれば、通常、「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」(210条)に該当しないので、差し止めはされないと思いますが、具体的な事情によっては、差し止めの対象になる可能性もないわけではありません。

 このような細かい話を初心者を絶望させるつもりはないのですが、私の経験からすると、初心者の皆さんは
  第三者に対する新株発行かどうか
というザックリした理解をしただけで、条文をあまり見ずに、各種制度を分かったような気持ちになる傾向が強いため、せめて
  会社による募集事項の決定
   →引受けの申込み
   →会社による割当て(引受人の決定)
   →引受人による払込み
   →株式の発行
という基本的な手続きを抑えた上で
  募集事項そのものが不平等なのか。
  株主に株式の割当てを受ける権利を与えたのか、与えていないのか。
  株主に平等に割当てられたのか。
  結果的に株主に平等に発行されたのか。
というのはそれぞれ意味が違うんだということを漠然と意識しておいてもらいたいのです。
 そうした意識が、複雑な募集手続の条文を読むときの理解を助けることになると思います。

(質問コーナー)
Q1
会社法第483条第1項ただし書において「その他清算株式会社を代表する者」とありますが、この者は具体的にどのような者を指しているのでしょうか。
投稿 きゅーちゃん | 2007年1月30日 (火) 09時57分
A1
 代表清算人の職務代行者等です。

Q2
事業報告における「会計監査人に関する事項」の記載(会規126条)について、当該内容には「一時会計監査人」に関する内容も含むのでしょうか?
会社法346条5項では、「一時会計監査人」については会計監査人の規定を準用する旨定められており、このことからも、「会計監査人」と「一時会計監査人」は区分されていますが、会規126条にはそのような準用規定が存在しないため、記載対象となるのは、あくまで「会計監査人」に関する内容に限定されるのでは、と考えております。
となると、事業年度中に会計監査人が欠格事由に該当し退任した場合、会規126条により記載対象とされるのは「会計監査人」であって、「一時会計監査人」に関する内容は「原則として」記載不要と思いますが、この考え方で正しいでしょうか?
投稿 naga | 2007年1月30日 (火) 11時12分
A2
 会計規則126条の趣旨から考えれば、会計監査人の職務を行っている以上、一時会計監査人についての情報も提供すべきではないでしょうか。
 「一時会計監査人については書かない」という解釈を採ることを否定するわけではありませんが、常識的に不当な結論になる解釈は、裁判所が採用しないような気がします。

Q3
法442の計算書類の備置は、監査役の監査報告と監査役会監査報告の両方を対象としているとのことですが、この時の備置義務者について、同規定では、「株式会社は、次の各号に掲げる・・・備え置かなければならない。」とあり、この「株式会社」とは、具体的に誰を指しているのでしょうか?
仮に代表取締役(乃至は担当取締役)とすると、備置書類との関係で矛盾が生じる気がします。即ち、計算規則160①では監査役会は監査役会監査報告のみを特定取締役に提出するのであり、各監査役の監査報告は提出対象となっておりません。つまり、代表取締役は、法定備置書類である監査役の監査報告を受取っていないことになると思います。
また、単に誰ということではなく、会社として備置しなさいということであれば、それはそれで少々疑問ではあります。監査役会監査報告は取締役が備置し、各監査役の監査報告は、監査役会(もしくは各監査役?)が備置するというのも不思議な感じがします。
 また、法394①で監査役会設置会社は議事録を本店に備え置かなければならないとありますが、この備置義務者についても、ご教示頂けると助かります。
投稿 山田 みどり | 2007年1月30日 (火) 15時44分

A4
 備置義務は、直接には株式会社が負っていますが、過料の対象となるのは、備置をしなかった業務執行者(代表取締役等)です。
 ご指摘のように、監査役会設置会社において、監査役が監査役監査報告を特定取締役に提出する手続きは設けられていませんが、計算規則160条等は、監査手続における手順と期日を定めているだけであり、誰が備置義務を負うかという点とは無関係です。
 会社法は、何もかも、手取り足取り手順を書き下しているわけではないので、会社が、それぞれ、備置義務を負っている者が監査役監査報告を所持している者に監査報告の提出を求める方法を決めればよいのです。
 監査役会議事録についても同様です。

Q5
 取締役会規定ですが、定時取締役会と臨時取締役会を規定しています。
定時取締役会は毎月10日の午前10時と規定した場合、定時取締役会について招集の手続きは必要でしょうか?§368 2項で全員の同意がある場合招集手続きの省略は可能ですが、規定に盛り込むことが全員の同意と考えることは可能でしょうか?
A5
 一般には、事前に包括的に、招集手続の省略の合意をすることはできないと思います。
 もっとも、毎月10日の午前10時という定め方をした規定について、「各取締役が、自己の在職中の毎月10日の午前10時に開催される取締役会について招集手続を省略することができることを同意した」という事実認定ができるようならば、省略は可能かもしれません。

Q6
 退職慰労金規定ですが、使用人兼務役員の退職金を算定の基礎となる報酬に、使用人給与分を含めることは可能でしょうか?本来は役員報酬のみを総会で決議すればいいと思いますが、使用人分を算定の基礎に含め、その合計額の承認を得るということは可能でしょうか?
役員の報酬と使用人はやはり別立てがいいのでしょうか?
A6
 株主総会で役員分の最高限度額を定めることも可能ですから、使用人分を上乗せして合計額を承諾することもできるでしょう。ただ、その旨開示する方が望ましいでしょう。

Q7
 取締役から監査役になり、退職した役員は、その退職慰労金の決議は、取締役分は取締役会において監査役分は監査役の協議において決めると言うのはいかがでしょうか?
 一般的には取締役⇒監査役で退任の場合、慰労金規程にのっとって、監査役の協議でそのすべての合計額を決定する用に感じますがいかがでしょう?もしくは、取締役退任時に一度慰労金をもらい、監査役退任時に再度慰労金をもらうのはどうでしょうか(渡り鳥みたいですが・・(笑))
投稿 あっ!と法 無 | 2007年1月30日 (火) 16時31分
A7
 387条2項は、監査役の報酬等について規定していますから、総会で取締役としての退職金と監査役としての退職金が分けられれば、ご質問ようなことも可能かもしれません。
 取締役を止めたときに退職金、監査役を辞めたときに再度退職金というのは、会社法としては明確です。もっとも、濫用的なものだと、所得税の観点からは、微妙な問題はありますが。
 そうでない場合、一般の退職慰労金支給規定を見る限り、退職金が、そんな風に明確に分けられるものなのかどうか、怖いところですね。

Q8
一時役員(346)の名称についてです。
「一時会計監査人(346条4項)」の名称は「仮会計監査人」ですね?
登記される場合(911条3項20号)も「仮会計監査人」ですよね?
選任される場面の雰囲気は違いますが、100問 p.431で「仮代表取締役」とありましたので…
職務代行者と欠員による一時役員とを区別して呼ぶのであれば、
それも併せて教えて下さい。
投稿 法学ベイビー | 2007年1月30日 (火) 18時52分
A8
 正式名称は、「一時会計監査人の職務を行う者」であって、「一時会計監査人」も「仮会計監査人」も、会社法上の用語ではありません。逆に言えば、通称なので、どちらで読んでも構いません。
 職務代行者と一時役員は、全然別の制度なので、区別して呼ばなければいけませんが、一般に前者は職務代行者と呼んでいます。

Q9
会社法437条では計算書類等について「提供」、438条では「提出」または「提供」と、取り扱いが異なっていますが、438条の場合は招集手続きの要否により取り扱いが変わるからでしょうか。437条ですと招集通知の発送が前提ですが、438条はそうじゃないですよね?
投稿 空海 | 2007年1月30日 (火) 23時11分
A9
 437条の「提供」の意味と、438条の「提供」の意味は違います。
 前者は、招集通知の際に省令で定める方法で提供することをいい、後者は電磁的方法により提供することを意味しています。

Q10
 会社法では、株主に提供すべき(招集通知に添付すべき)は「謄本」である必要はなくなった(「内容」の「通知」で足りる)ものと理解しております。
 そうだとすると、会社法下の招集通知(の添付書類)においては、頁欄外に「謄本」と書く必要はなく、また「謄本」らしく、改行の位置などレイアウトも原本と同様にする必要もない、要するに、「内容」さえ「原本」と全く同一であれば、体裁などはどうでもよい、ということになりそうなのですが、そのような理解で宜しいのでしょうか。
投稿 ぽ | 2007年1月31日 (水) 00時30分
A10
 内容が同じならば結構です。
 なお、「謄本」というと「コピー機で採ったようなもの」=「レイアウトも同じ」というイメージがありますが、法的には、レイアウトが同じである必要はありません。

Q11
100問2版P488の非取締役会設置会社の157条の取得価格等の決定について確認させてください。

100問2版の記載では「授権に基づき取締役が自己株式を取得することを決定」と記載されてますが、授権をせずに295条に基づいて157条1項各号の事項を株主総会で決定することは可能ですよね?
投稿 南斗六星 | 2007年1月31日 (水) 15時14分
A11
 そうですね。295条1項によるという方法も可能でしょう。

Q12
 会社法初心者なのでいまいちピンとこないのですが基本的に、取締役会を設置しない会社においては、株式の消却などあることの決定機関について個別の規定が存在しなければ、取締役の決定・株主総会の決定のうち、いずれの方法で決議をしてもかまわないのでしょうか?
投稿 ユダ | 2007年1月31日 (水) 20時50分
A12
 質問がラフですから、答えもラフにいきますが、そのとおりです。

Q13
「ストック・オプション等に関する会計基準」と会社法の考え方についての質問です。

会計基準によれば、会社がストックオプションを付与すると、株式報酬費用を認識し新株予約権を計上する処理が行われます。その後ストックオプションが行使されると、付与時に計上した新株予約権と払い込まれた行使価額の合計を資本金に振り替えます。

以上の処理を考えると、結果的には、資本金の金額のなかに金銭の払い込み等の無い労務出資的な部分が入り込むような気がします。これは労務出資の禁止に反しないのでしょうか?
投稿 間黒男 | 2007年1月31日 (水) 22時38分
A13
 反しません。
 労務出資が禁止されているのは、将来に給付され、かつ、価額が不確定な「労務」自体を出資することを認めると、株式の発行時点で、資本金に組入れなければならない額を確定することができないからです。
 逆に、具体化した労働契約に基づく賃金支払請求権を現物出資することが禁止されているわけではないし、ストックオプションについても、株式の発行時に、資本金に組み入れるべき額が確定できる以上、労務出資の禁止に反するものではありません。

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2007年1月25日 (木)

【入門】発起人の権限(4)

 前回は、発起人の権限と設立費用の関係についてお話ししましたが、一点だけ、設立費用について、補足します。

 会社法の本を読んでいると、たまに
「発起人が設立前に支出した費用を第三者に支払った場合は、発起人は、定款に記載されている費用の限度で、検査役の調査や裁判所の監督・創立総会の承認を経たことを条件として、会社に求償することができる」
という記述があります。

 この記述には、不正確な点がいくつか紛れていますが、どこか、分かりますか?

 まず、変態設立事項について、「創立総会の承認」というものはありません。
 発起人は、検査役の報告内容を、創立総会に提出しなければいけませんが、それは報告事項であり、「承認」は不要です。もっとも、創立総会が変態設立事項について定款変更をすることはできます。

 次に、変態設立事項の記載がある場合、検査役の調査が必要であり、裁判所が、不当であると認める場合には、変更命令が発せられますが、変態設立事項の効力が認められるかどうかは、「定款への記載の有無」だけが要件であり、検査役の調査(それに続く裁判所への報告等を含め)は、要件となっていません。
 変態設立事項の記載がある場合、33条10項の例外要件を充たさない限り、検査役の報告に関する書面を添付しなければ、設立の登記ができませんから、事実上、「定款に記載はあるが、検査役の調査を受けていない」という場面は極めて希ですが、条文の正確な理解のために、検査役の調査は要件ではないということは認識しておいた方がいいと思います。

 余談めいた話は、そのくらいにして、今日は、
  開業準備行為
についてお話ししましょう。

③ 財産引受け
 前三回で、何度もお話ししたように、財産引受けというのは、発起人が、設立前に、設立後の会社のために財産を購入することです。
 発起人が、設立のために必要な財産(定款を印刷するための用紙等)を購入するのは、財産引受には含まれず、設立事務で使う財産以外の財産の購入が財産引受になります。
 
 当然のことですが、財産を「売却」することは、財産引受にはなりません。
 設立前に、商品を売ったりすると事業をしたことになってしまい、「会社の成立前に当該会社の名義を使用して事業をした者は、会社の設立の登録免許税の額に相当する過料に処する。」(979条1項)ということになるので、注意してください。

 さて、定款に記載の「ある」財産引受が、設立後の会社に効果が帰属する(=会社が財産を取得する代わりに、代金の支払い義務も負う)ということは争いはありません。
 また、定款に記載の「ない」財産引受は、設立後の会社に効果が帰属しないという点も争いがありません。

 争いがあるのは、後者の場合(定款に記載のない場合)に
 設立後の会社が「追認」することができるか。
ということです。

 この問題については、理屈で説明するパターンと、28条の趣旨から説明するパターンの2種類の説明の仕方があります。

 理屈で説明する場合は

 ・追認否定説 設立中の会社は、設立を目的としているから、その実質的権利能力は、原則として、設立準備行為にのみ及ぶから、例外である28条2号の要件を充たさない以上、当該財産引受は、実質的権利能力の範囲外の行為となり、絶対的無効である。

 ・追認肯定説 設立中の会社の実質的権利能力は、開業準備行為にも及んでいるから、28条2号の要件を充たさない場合でも、効果帰属の余地はある。

という対立であると説明します。
 
 難しいことを言っているようですが、自然人に置き換えて説明すると、
 追認否定説 「死人であるサミーさん=権利能力なし」を本人として、無権代理人が行為を行った場合、その行為は、追認しようがない
 追認肯定説 「生きているサミーさん=権利能力あり」を本人として、無権代理人が行為を行った場合、追認することができる。
と言っているような話で、大した理屈ではありません。
 
 しかし、この理屈による説明は、「設立中の会社の実質的権利能力」という明文のない世界において、お互いにマニアックに論争しているだけですから、どちらの説に立つにせよ、会社法28条2号の趣旨から実質的権利能力の範囲を説き起こさざるを得ません。

 とすると、実質的権利能力の範囲などという理屈っぽい話は止めて、
 28条2号の趣旨
 =円滑な開業のために発起人に財産引受を認めているが、財産の価額を不当に高く評価する等して会社の健全な設立を害することがないように、原資定款への記載を要求している。
という立法趣旨を実現するためには、追認を認める方がいいのか、認めない方がいいのか、という点から論じれば十分であると思います。

 この点について、追認肯定説は、
   会社は、追認する義務はないので、有利と思えば追認すればいいし、不利なら追認しなければいい。
   例えば、財産引受契約後に、財産が値上がりしている場合には、新たに契約を結び直すよりも、追認して、昔の価格で締結した契約を選択する方が得でしょ。
と主張しています。さらに、追認肯定説は、旧商法時代は、財産引受の規定(特に検査役の選任・裁判所の変更命令)の趣旨を没却しないように、
  「事後設立の規定を類推適用すべきである」
というフォローをしていました。私も、司法試験受験時代は、追認肯定説を採っていましたので、肯定説の言い分も分からないわけではありません。

 しかし、会社法では、事後設立は、変態設立事項ではなくなり、検査役の検査等は不要になりました(総会決議は必要です)から、財産引受の手続と事後設立の手続に大きな差が生じてしまいました。

 それにもかかわらず、「有利な場合にのみ追認すればよい」という考えを取ってしまうとどうなるでしょう。
 例えば、松真さんが90%、湯水さんが10%の株式を引き受ける予定で、二人が発起人となって会社を設立するとしましょう。
 松真さんが、自分の持っている中古のHなDVDを1本3万円で、会社に買わせようと考えたとき、松真さんは
  財産引受を定款に記載するためには、発起人全員の同意が必要だけど、湯水さんは、こんな値段じゃ納得しないだろうなあ。
  しかも、検査役に検査されて、裁判所に報告されると、裁判所の変更命令が出される可能性もあるな。今の民事8部の裁判官は、昔、一緒に仕事をしていた後輩だから、俺が、HなDVDを3万円で売りつけたと分かると恥ずかしいし。
  定款に書かずに、設立後に代表取締役になってから、追認した方がいいな。
と考えるかもしれません。そのことを解答例では
  「当初から追認を予定して法定の手続を無視した財産引受をすることを誘発するおそれがある」
と表現しています。

 また、財産引受契約の相手方が第三者の場合である場合、追認肯定説に立つと、発起人が、定款に記載のない財産引受をもちかけ
  「必ず追認するから心配しなくていいよ」
とか言いそうですが、追認否定説だと、そういう話もできませんから、その意味でも追認否定説の方が、定款に記載のない財産引受契約の締結の抑止につながります。
 
 そうした点からすれば、追認否定説の方が、
  発起人は、設立事務の担当者であり、業務の決定を行う立場にはないから、財産引受という業務に密接に関連する行為は、法定の要件を充たしたときだけ認められる特別な行為である
という28条の趣旨に合致すると思うので、解答例も判例と同様、追認否定説を採っています。

④ 財産引受以外の開業準備行為

 次に財産引受以外の開業準備行為です。事務所の賃貸や事業資金の借入等が、これにあたります。

 さて、28条は、この財産引受以外の開業準備行為については、何も触れていませんから、当該行為には、28条は適用されません。

 28条の適用がないものとしては、
  ① 設立を直接の目的とする行為(28条4号かっこ書)
がありましたが、こちらは、
  発起人が定款に記載されていなくても当然に「できる」行為
ということで、28条が適用されません。

 これに対し、今回の④財産引受以外の開業準備行為は
  発起人が、定款に記載しても、そもそも行うことが「できない」行為
ということで、28条が適用されないという違いがあります。

 ①も④も、「28条の適用がない」という点では同じなのに、なぜ結論が正反対かというと
  発起人は、設立事務の担当者であり、設立事務はできるが、開業準備行為はできない
という「書かれざる原則」があるからです。
 そのため、28条という条文は
  設立に関する行為(28条1号3号4号)については、定款に記載がない限り、無効になるという「制限規定」として働き
  開業準備行為(28条2号)については、定款に記載があった場合には、有効になるという権限の「拡張規定」として働く
という2面性を持っていることになります。

 こうした考え方に対して
 財産引受以外の開業準備行為についても、28条2号を類推適用して、定款に記載があった場合には、有効にするべきである(28条2号類推適用説)
が存在します。

 この考え方は、開業準備をより円滑にできるようにしようという価値観に基づくものだと思いますが、発起人は、設立事務の担当者に過ぎないのですから、法律が認めた以上の開業準備行為を行わせるのは妥当ではありません。

 発起人は、経営の専門家として選任された者ではないのですから、定款に記載すれば、何でもできると考えるのは、会社の設立の健全性を害するおそれがあります(特に、28条2号類推適用説と③の追認肯定説が結びつくと、危険はもっと高まります)。

 こうした観点から、解答例は、28条2号類推適用説を否定して、財産引受以外の開業準備行為は、常に、無効であるという結論をとっています。

<最後に>
 4回にわたって、発起人の権限について説明してきましたが、私の考え方を一言でまとめれば
  28条を「発起人の権限」を定めた規定と考えれば、各論を含めて一貫して説明できるし、結論も妥当なところに落ち着く
ということです。
 判例実務と学説との対立が根深いところで、判例が目の敵のようにされるところではあるものの、私は、判例実務の方がよっぱど優れた見解だと思うのですが、いかがなものでしょうか。

(質問コーナー)
Q1
決算スケジュールで4週間または1週間を経過した日が土曜日の場合は・・・とい質問に対し、先生は「休みは、関係ないです。休みでも受け取ってください。」とご回答されておりますが、そうは言うものの、世の中の活動が休みであれば、現実不可能だと思います。本当に休みは関係ないのでしょうか。かなり納得いかないです。この場合は月曜日にあたる日ではないのでしょうか。必ずご回答願います。
投稿 ケンチャンの質問にさらに質問 | 2007年1月23日 (火) 21時11分
A1
 既に回答したとおりです。
 他の方もお答えになっていますが、起算日の調節や提出日を話し合うことで、対処可能な問題です。

Q2
 会社法789条3項括弧書きに(吸収分割をする場合における・・・)とありますが、どうして「吸収分割」の場合だけに限定されているのでしょうか?
吸収合併における吸収合併消滅株式会社の場合も、存続会社に不法行為によって生じた債務が承継され債務者が変わるわけですから、消滅会社の債権者への催告の重要性は変わらないと思うのですが。
A2
 まず、前提の確認ですが、789条3項は、債権者保護手続を二重公告によって簡略化できるという規定であり、債権者保護手続を不要にするものではありません。したがって、リスクが高いものだけについて簡略化を認めないという発想があります。
 合併の場合は、法人格が一つになってしまうのに対し、吸収分割の場合は、資産の一部しか移転せず、債務の切り離しに利用されるおそれがあるので、リスクの高い後者についてだけは、簡略化を認めていないのです。
 
Q3
会社法789条1項2号に、「債務の履行を請求することができない吸収分割株式会社の債権者」とありますが、具体例としてはどのような債権者の事を指すのでしょうか?
吸収分割は業務に関する権利義務が承継されるわけですから、承継された債務の債権者は基本的に吸収分割後吸収分割株式会社に対して履行を請求できないのではないのかなと思うのですが。
A3
承継会社に承継される債務の債権者です(承継後も分割会社が保証するような場合は除きます)。

Q4
会社法309条3項1号の特殊決議は、種類株式発行会社が同内容の定款変更をする場合には適用されないようなのですがなぜでしょうか?
問題集の解説などには、特別決議(309条2項前段11号)が適用されているのですが理由が記載されておらず分りません。
種類株式発行会社とそうでない会社とで、なにか大きな違いがあるのでしょうか?
投稿 虹色魂 | 2007年1月23日 (火) 22時31分
A4
種類株式発行会社では、複数の種類株式に一つ一つ譲渡制限を設けることができますが、「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける」ことはできません。

Q5
取締役会設置会社の業務執行取締役について
363条1項二号の取締役を選定する取締役会では、「どの程度」の決議内容が必要でしょうか。例えば、●●氏を専務取締役に任じる、としただけで担当業務の範囲を定めない場合、会社の全般的な業務を執行する権限(例えば、事務所の賃貸契約や取引に付随する機密保持契約の締結権限)があるのでしょうか。また、「常務取締役」でも結論は同じですか。
A5
専務・常務が何をするかは、各会社で決めることです。
通常は、分掌規程があって、その規定の範囲の権限があるはずです。
そういうものがないならば、決議の趣旨から推認するしかありません。

Q6
取締役会で平取締役をある事業部門の「分掌」(社内では担当取締役といってます。)とした場合、取締役会決議を経るべきものを除けば、その事業部門の全ての業務を執行できると考えて問題ありませんか。
A6
それも、各会社が決めることです。

Q7
従業員である部長課長等に一定の物品調達権限、契約締結権限等を与えているのですが、これは法的にはどのように論理付ければよいでしょうか。
投稿 新任取締役 | 2007年1月24日 (水) 00時10分
A7
 通常は、使用人に代理権を与えていると解釈するのだと思います。

Q8
私の会社で、定款の見直しをすることになりました。
閉鎖会社で、株式の譲渡制限については定款にすでに規定されているのですが、株式の質入や信託についても制限をかけたいのです。
(以前、オーナーの変更があり、旧オーナー側の株主がまだいるため、
旧オーナー側の株主から株式が拡散することを可能な限り防止したいのです。)

①会社法では、質権の設定自体は直接制限できないようなのですが、
定款で規定すれば、制限は可能なのでしょうか?

②定款での定めで制限ができないとしても、定款上の定めで、質権設定を
しにくくする方策はないでしょうか?
投稿 法務部員 | 2007年1月24日 (水) 11時07分
A8
 信託は、譲渡なので、譲渡制限がかかると考えていいでしょう。
 質入を制限するのは、なかなか難しいですね。定款で定めても、効力はないと思います
 実行時には、譲渡制限がきくので、拡散のおそれはないですが。
 質入を制限するために、会社と株主で契約を結ぶことは考えられると思います。

Q9
自己株式の消却について質問させて頂きたくお願いします。
企業会計基準委員会・企業会計基準第1 号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(最終改正平成18 年8 月11 日)には、以下の記述があります。
「45. 従来、本会計基準では、資本剰余金又は利益剰余金のいずれから減額するかは、会社の意思決定に委ねることとし、消却した場合に減額するその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)については、取締役会等の会社の意思決定機関で定められた結果に従い、消却手続が完了したときに会計処理することとしていた。しかしながら、会社計算規則において優先的にその他資本剰余金から減額することが規定された(会社計算規則第47 条第3項)ため、平成18 年改正の本会計基準では、これに合わせることとした。また、自己株式を消却したことにより、会計期間末におけるその他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、その他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額することとした(第12 項及び第42 項参照)。」
そこで、質問です。
上記会計基準によれば、その他資本剰余金がない場合、自己株式消却は繰越利益剰余金を減額することで会計処理するということになると思いますが、消却分に対応する繰越利益剰余金がない場合、自己株式消却の際に繰越利益剰余金をマイナス(負の値)にし、その後の定時株主総会において剰余金の項目間の計数を変更(別途積立金の取崩し)することにより繰越利益剰余金のマイナスを消す、という対応は法的に許されますでしょうか?
投稿 あつし | 2007年1月24日 (水) 14時44分
A9
 会社が、独自に、その他利益剰余金を、繰越利益剰余金と別途積立金に分けて計上している場合に、繰越利益剰余金をマイナスにしていいかどうかは、その会社が決めたルールにしたがって行うことです。

Q10
以前このブログで、会社法には「普通株式」という定義はなく、「普通株式」も「種類株式」だというお話がありました。
私もまさにそのとおりだと思いますが、多くの会社は「普通株式」の内容を定款で定めていません。
私としては、定めた方が良いと思うのですが、ちょっと恥ずかしいです。
大人の世界ではどうなっているのでしょうか?
投稿 パラリーギャル | 2007年1月24日 (水) 16時46分
A10
 特別の定めがないものを「普通株式」と呼んでいるので、その内容を定款で定めることはしていないのです。もし何かを定めても、会社法で定めた内容を確認したものにすぎないので、その定め自体に独自の効力はありません。

Q11
内部統制の関係でおたずねします。
監査役の職務を補助する使用人である、監査役室の長が出張をする場合、その出張命令をするのは会社の取締役ではなく監査役である必要があるでしょうか。
取締役が出張命令や出張旅費に関する承認行為を行うとしても、実際上は監査役の意思に反して否認することはないということであれば、特に問題視する必要はないと見てもよいでしょうか。
投稿 smoky | 2007年1月24日 (水) 17時15分
A11
監査役が、大阪支店の支店長であるA取締役の不正行為について秘密裏に調査しようとしているときに、A取締役の出張命令や出張旅費に関する承認行為が必要であるとすると、まずそうですね。

Q12
取締役会において、特別利害関係を有する取締役は「議決に加わることができない」とされており、100問の256頁に「当該決議につき議決権を有しないばかりでなく、当該決議に至る審理に加わることもできないと解される。」とありますが、当該議案の内容の説明者になることは問題ないでしょうか?

例えば、取締役・会社間の自己取引の承認議案などにおいては、当該取引の当事者である取締役(=特別利害関係人)が最も当該取引内容に詳しいはずですし、説明もできないとなれば、それこそ十分な審理・決議ができないと思われます…。
投稿 グッジョブ | 2007年1月24日 (水) 17時29分
A12
取締役会に参加している取締役が、特別利害関係取締役に説明を求めることはできます(1月30日訂正)

Q13
本日のQ4の発起人の議決権基準と頭数基準につき、ご丁寧な説明をありがとうございました。
先生は、募集設立のお話をされていましたが、取締役会を置かない会社(設立後は株主総会で代表取締役を選定する会社)の発起設立の場合には、発起人が設立時代表取締役を選定するのは、設立時取締役と設立時代表取締役の地位が一体ですので、共に株式引受人(出資者)としての立場ととらえ、発起人の議決権基準でよろしいでしょうか(1000問では、この場合も頭数基準にみえますが)。
以前は、会社設立前の登記に絡む事項では、取締役会の議事録を付けていた(発起人の頭数基準が適用になる場面はなかった)のですが、会社法では、発起人の権限が増えてしまい、困惑しています。
投稿 教えて下さい2 | 2007年1月25日 (木) 00時08分
A13
 「設立時取締役と設立時代表取締役の地位が一体」の意味がよく分かりませんが、代表取締役を定めないのならば、発起人の議決権の過半数で設立時取締役を選ぶだけですよね。
 それを超えて、設立時取締役の中から設立時代表取締役を選定するのならば、それは頭数基準です。

Q14
累積投票について質問させてください。
会社法347条(種類株主総会における取締役の選任)では、会社法342条(累積投票による取締役の選任)の規定を読み替えていないのですが、種類株主総会においては、累積投票による取締役の選任をすることができないものと考えてよいでしょうか。
理由も簡単で結構ですので教えてください。お願いします。
投稿 H.K. | 2007年1月25日 (木) 02時01分
A14
 種類株主総会では、累積投票請求権はありません。

Q15
2006年12月22日改正後会社計算規則第59条第2項第3号の読み方についてです。

①完全子会社同士(兄弟会社間)の無対価吸収合併ではイとロのいずれが適用になるのでしょうか(あるいはそれ以外?)。
②完全子会社同士(子孫会社間)の無対価吸収合併ではイとロのいずれが適用になるのでしょうか(あるいはそれ以外?)。
③①と②でロが適用になるとすると、合併契約書において、会社計算規則59条を適用する旨の記載をすることを要するのでしょうか。

特にイの読み方が分かりませんでした。1項で2項を見ろと言っておきながら、2項で1項を見ろと言っているので、たらいまわしにされているような気がしてしまいます。
2項の1号と2号を満たしていれば、(1項を満たしていることになり、)自動的に2項3号イを満たしていることになるのでしょうか。
投稿 まいたけごはん | 2007年1月25日 (木) 10時18分
A15
 2項3号イの「すべき場合」は、1項とは関係ありません。会計基準で、1項の規定に従って計算すべき場合を意味します。したがって、1項と2項でたらい回しにしているわけではありません。
 会計基準どおりの処理をしてください。

Q16
会計監査人設置会社で且つ監査役会設置会社における計算書類の監査に関して質問させてください。

①株主に対して行う提供計算書類の提供に関しては、監査役「会」の監査報告で足りますが(会社法437条、436条、会社計算規則161条1項3号ホ)、
②計算書類の備置(会社法442条)に関しては、「各」監査役の監査報告が必要である、と聞きました。

②を裏付ける根拠条文、及び、①と②で取扱いが異なる根拠をご教示くださると幸いです。本店に来社すれば、より詳細な情報を得られるようにするためでしょうか?

投稿 ヒゲマン | 2007年1月25日 (木) 11時11分
A16
 監査役会設置会社は、監査役が監査報告を作り、監査役会も監査報告を作成します。442条は、単に「監査報告」と規定していますから、双方が対象になります。
 これに対し、437条は、法務省令に方法を委任し、規則161条1項3号ホにおいて、監査役会設置会社においては監査役会の監査報告でけを提供すればいいと規定されています。
 なぜ違うかといえば、株主に提供する場合に、似たようなものをいくつも提供しても意味がないから監査役会のものだけで十分だし。逆に、閲覧においては、監査役会の監査報告の検証のために、監査役の監査報告を見たいという人もいるからです。

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2007年1月23日 (火)

【入門】発起人の権限(3)

 前回は、発起人の行為を分類した上で、その分類は28条と、次のように関連しているという話をしました。
 A 設立準備行為 ①設立を直接の目的の行為・・・・・28条4号かっこ書
         ②設立のために必要な行為・・・・・28条4号
 B 開業準備行為 ③財産引受・・・・・・・・・・・・28条2号
         ④財産引受以外の開業準備行為・・・条文なし

 そして、
 判例・100問 28条=発起人の権限の範囲(会社に効果帰属する範囲)
         →発起人がその権限の範囲で自ら費用を支出した場合は、求償可能
 学説の多く  28条4号≠発起人の権限の範囲
         →発起人の権限の範囲について独自の理論で解釈を示す
という意見の対立があるところだというところまで、お話ししたと思います。

 今日は、上記①と②の行為について、順次、発起人の権限が及ぶかどうかを検討していきたいと思います(開業準備行為③④は次回に回します)。

① 設立を直接の目的とする行為

 ①の行為は、定款認証の手数料、定款に係る印紙税など設立に必要不可欠な費用であり、設立前に支払をしなければ、設立手続きが進まないので、普通、設立時に未払いということは考えられないものです。
 あえて言えば、払込取扱銀行の手数料・報酬は、払込取扱銀行がボーッとしていれば、未払いということも理論的には考えられますが、まあ、普通はない。
 
ですから、従来から「発起人の権限の範囲か?」ということは、あまり論じられてきませんでした。

 言い換えれば、①の行為にかかる費用については、発起人が払った上で、それを会社に求償するしかないのが普通なので、
 「定款に記載がなくても、発起人の会社に対する求償権を制限されないものは何か」ということだけが、関心事だったわけです。

 ところが、会社法になって、発起設立では、払込金を、設立前に、払込取扱銀行から下ろしてきて、それを設立費用の支払に充てることができるようになりました。

 そのため、旧商法のように「発起人の求償権の制限」の問題だけではなく、
   「発起人が、払込金(設立中の会社が実質的に所有する金銭)から設立費用を支払うことができるのは、どの範囲か?」
という問題が生ずることになったのです。設立中の会社が実質的に所有する金銭は、設立後には、当然に、会社の財産となるものですから、後者の問題は、まさに「発起人の権限」の問題として把握されるべきものです。

 この問題について触れられた基本書はあまり見たことがないのですが、私は、28条と発起人の権限をリンクさせて考えるべきであるという立場なので、

  ①の行為は、28条4号かっこ書で、定款の記載にかかわらず、「その効力」(28条)を生ずる=発起人の権限の範囲内になる

と考えていますし、②の行為についてどのような見解に立つ人も、この範囲内では、発起人の権限を認めるのではないかと思うのです。
 もちろん、未払い設立費用について、会社に一切効果帰属を認めないという後記A説に立つ論者の立場を理論的に突き詰めていけば
    発起人には、設立中の会社の実質的な所有に属する金銭の処分権はない
    =払込金から、登録免許税等を払うこともできない。
という結論を取ることになるのかもしれませんが、そのような考えは、発起設立について、払込保管証明制度を廃止し、払込金を設立費用に支出することができるようにした改正の趣旨に反するでしょう。

 ですから、おそらく①の行為については、そんなに大きな論点は存在しないのではないかと思います。

② 設立のために必要な行為
 
 これまで、盛んに論じられてきたのは、「②の行為が発起人の権限の範囲に属するか」という点です。

 何度もいいますが、私は、28条4号は、発起人の権限の範囲をも定めたものだと考えていますので、「定款に記載のある範囲では、会社に効果が帰属する」という判例と同じ見解に立っています。

 これに対し、学会では、この判例の見解では、不都合な場合があるから、今では
  「誰一人、この見解に立つものはいない」
と言われています。

 ここまで言われながら、判例の見解を支持する私は、変わり者のように思われるかもしれませんが、決して、変人と思われるために、判例を指示しているわけではありません。
 学説が「不都合」と指摘する点が、全く不都合ではないから、判例を指示しているのです。

 この不都合な点というのは、
  発起人が設立のために必要な行為を複数行った場合において、それらの行為によって生ずる債務の総額が定款に記載された費用を上回るときに、どの行為が会社に帰属し、どれが帰属しないかを判断することができない
という点であるといわれています。

 この問題意識は、もともと、定款において、財産引受と設立費用の記載の仕方に違いがあるところに起因しています。つまり、

 財産引受(28条2号)
 =定款に、財産の内容及び価額・譲渡人の氏名を記載する
 (例えば、東京都千代田区霞が関1-1-1の土地333平米・10億円・譲渡人法務太郎)
 →この場合、財産が特定されているから、有効なものと、無効なものは定款を見れば、すぐ分かる。

 設立費用(28条4号)
=定款に、株式会社の負担する設立に関する費用(28条4号)の総額を記載することもできる
 (例えば、総額1000万円以内)
→ 費用の内容が特定されていないから、どの費用が有効で、どの費用が無効になるかが、定款を見ても、分からない。

という考え方ですね。

 しかし、私は、この問題意識が、いまいち、分かりません。
 
 まず、発起人の権限の話を外れて、普通の代理の事例を想定してみます。

 例えば、株式会社正直法務が、松真さんに「1000万円の範囲内で、Hな本を買付けしてきてくれ」と頼んだとしましょう。
 そのとき、松真さんが、最初に、人妻管理出版で700万円分、Hな本の購入契約をし、その後、ロリロリ文庫で500万円分の購入契約をしてきたら、人妻管理出版の契約は有効であり、ロリロリ文庫の契約は、無権代理(越権代理)になるだけです。
 契約が代理権の範囲内で行われたかどうかを、「契約時に判断する」という点は争いないはずであり、私の知る限り、代理の議論の中で
  授権行為において、具体的な財産が特定されていないから、どの契約が有効になるか、無効になるか、分からなくなる
という話は聞いたことはありませんし、「対象が特定されていないから、発起人の権限を認めない」という学説の考え方は
  財産を特定しない限り、代金総額を限定する方法等で、代理権を授与することは認めない。
と言っているのと同じで、どうにも理解できないのです。

 もちろん、設立費用の総額によって、発起人の権限が制限されるとすると、契約の相手方は、契約をする時点で
   設立費用の余力があるかどうか
を調査しなければならないという負担を負うことになります。
 しかし、相手方は、その調査が面倒くさければ、発起人個人と契約をするか、発起人に個人保証をしてもらえば、十分であり、相手方の保護を考える必要はありません。

 しかも、この「財産が特定できない」という問題は、実は、財産引受の場合でも生ずるのです。
 財産引受は、不動産等の特定物だけが対象になるわけではなく、種類物も対象になります。
 そうすると、
  発起人が、複数の契約によって、定款記載の数量よりも多い種類物を購入した場合、どの契約が有効になるか。
という問題はやはり生ずるのです。
 その場合、譲渡人が特定されているので、最初の契約から順番に数量を足していって、定款記載の数量を超えた時点の契約が無効になると考えるのでしょうが、この考え方は、設立費用について、先ほど説明した考え方と同じであり、こういうことを考え始めると、学説が、なぜ財産引受と設立費用を区別するのか、その理由がいよいよ分からなくなるのです。

 ちなみに、学説は
 A説 ②の行為は、一切、会社に効果帰属しない。
 B説 ②の行為は、全部、会社に効果帰属する。
 C説 ②の行為は、会社にも帰属するし、発起人にも帰属する。
という3説に分かれていますが、
 A説は、会社が最終的に設立費用を負担しなければならないことが明かな場合でも、設立後に、発起人が一回自腹を切ってから、会社に求償するというルートを取らなければならなくなり、不合理です。
 しかも、①で述べたように、会社法では、発起人の権限は、設立後の問題だけではなく、設立前の払込金の使用にも関わっているので、設立前に、払込金を設立費用に一切使ってはいけないという結論は、改正の趣旨に明らかに反します。

 B説・C説は、逆に、設立費用として定款に記載した額を超えても、会社に効果帰属すると考えるわけですから、何のために28条4号で変態設立事項にしたのか、その趣旨が分からなくなります。また、財産引受については、定款の記載の有無で効力を決するのに、なぜ設立費用は、そうではないのか、そこに合理的な区別がつくとは思いません。

 普通に考えれば、
 会社が最終的に負担すべき設立費用ならば、会社が義務を負い、
 会社が最終的に負担すべき設立費用でなければ、会社は義務を負わない
というのが、もっとも合理的な結論だと思うのです。

 また、学説は、どの見解も
  28条4号≠発起人の権限
と考えているわけですが、なぜ28条という同じ条文の中で、4号だけ「その効力を生じない」の解釈が異なるのか、合理的な説明がつくのでしょうか?

 現物出資(1号)、財産引受(2号)、発起人の報酬(3号)については、定款に記載があれば、その効力を生ずることは争いがないはずです。

 普段は、あまり語られない話ですが、現物出資も、財産引受も、発起人の報酬も、すべて契約によるものですから、28条の「その効力を生ずる」というのは、これらの契約が会社に効果帰属するということを意味しており、発起人の権限の範囲を画するものということができます。
 それなのに、なぜ4号だけ、「発起人の権限を定めたものではない」と解釈することができるのでしょうか?

 また、学説の中には、設立費用(4号)は、もっぱら発起人と会社との関係を定めたものであるとする見解(A説)があります。

 確かに、旧商法の立案担当者の気持ちとしては
   変態設立事項は、会社と発起人との間の契約について、濫用されるおそれがあるから、それを定款で制限する
という考えがあったのでしょう。旧商法において、財産引受や事後設立が変態設立事項とされる趣旨を「現物出資の潜脱防止」と説明していたのは、まさにその名残りなのだもと思うのです(なお会社法では事後設立は変態設立事項ではなくなりました)

 ところが、「財産引受」の規定は、
  発起人以外の者との間の契約
にも適用されますし、旧商法は、
  発起人等とは全然関係のない、会社設立後の代表取締役と第三者との契約
である事後設立ですら、変態設立事項にしていたのですから
   変態設立事項=発起人と会社との契約
という構図は、実は、旧商法時代から崩れていたといわざるをえません。
 財産引受や事後設立を採り入れた以上、変態設立事項は、「発起人の権限の範囲」を定めた規定と解釈するしかなくなったのではないかと思うのです。

 事後設立が変態設立事項から除外された会社法においても、財産引受契約に、発起人以外の第三者との間の契約も含まれる点は同じですから
  28条=発起人と会社との関係を規律したもの
と解釈するのは困難であり、やはり
  28条=発起人の権限の範囲を規律したもの
と考えるのが妥当だと思います。

 なぜ、判例の見解が、学説として廃れてしまったのか、学説史的には面白いかもしれませんが、処理の合理性という点からも、条文構造の観点からも、28条4号の設立費用については、判例の見解が妥当でしょう。

次回は、開業準備行為についてお話しします。

(質問コーナー)
Q1
先日,取締役の特別利害関係について質問した者です。宜しくお願いいたします。
改正会社計算規則58条及び59条の適用範囲について,まだあまり文献がないため困っておりますが,次のような理解でよろしいでしょうか。
1 取得の場合 → パーチェス法 → 会計規58Ⅱ①(ただし,逆取得の場合には会計規58Ⅱ⑤)
2 持分の結合の場合 → 持分プーリング法 → 会計規59
3 共同支配企業の形成の場合 → 持分プーリング法に準じる方法 → 会計規58Ⅱ⑤
4 共通支配下の取引等の場合
 ①一般の共通支配下間 → 会計規58Ⅱ②(ただし,対価の全部が存続会社の株式であるか又は無対価の場合には,任意的に会計規59)
 ②親子会社間 → 会計規58Ⅱ③
 ③子孫会社間 → 会計規58Ⅱ④
投稿 yasuko | 2007年1月22日 (月) 18時09分
A1
 会計基準との関連をあまり言いたくはないですが、まあ、そうですね。

Q2
サミー先生、ご回答願います。決算スケジュールの件ですが、会計規158、160条では、4週間を経過した日であるとか、1週間を経過した日とありますが、その経過した日が土曜日にあたる場合は、翌週の月曜(土日に会社、会計事務所が休みとすると)になるのでしょうか。またはこの場合、会計士さん、監査役会は、金曜日までに提出義務が発生するのでしょうか。
すいません、悩んでおります。何卒よろしくお願い申し上げます。
投稿 ケンチャンの質問 | 2007年1月22日 (月) 22時08分
A2
 休みは、関係ないです。休みでも受け取ってください。

Q3
 前回のQ8に関連してですが、ということは、持分会社相手の親子関係の判断については、無限責任、出資額に関しては考慮せず、議決権数等で判断するということで宜しいでしょうか? つまり、株式会社相手の判断基準と同じであると。
投稿 サミーさん頑張れ! | 2007年1月22日 (月) 22時51分
A3
 施行規則第3条と第4条以外に判断基準はありません。

Q4
立案された皆さんは、発起人の頭数基準説をとっているようですが、なぜ、取締役会設置会社の設立時取締役の選任は明文で発起人の議決権の過半数で決める(会社法40条)としながら、取締役会を置かない会社については、明文はないですが、発起人が設立時代表取締役を直接選定することも解釈上認められ、その場合には、同様に役員の選任なのにもかかわらず、なぜ、発起人の頭数で決すると考えるのでしょうか。
 議決権基準か頭数基準かは、事柄の実質に応じて決めるべきで、単に規定がないところは常に頭数によるとするのは疑問にも感じるのですが。。。
立案に際してどのようにお考えだったか、教えて頂けると幸いです。
投稿 教えて下さい | 2007年1月22日 (月) 23時25分
A4
 発起人は、設立事務の責任者であると同時に、出資者でもあります。
 つまり、発起人による決定には、設立事務の責任者としての決定と、出資者としての決定の両者があり、前者は、取締役が複数いる場合と同じ取扱い(頭数の過半数)をするのが妥当であり、後者は、株主総会や創立総会と同じ取扱い(議決権の過半数)をするのが妥当です。
 事柄の性質に応じて決めるべきというのは、おっしゃるとおりですが、事柄の性質に応じて検討したところ(例えば、募集設立の時に、創立総会が決定に関与できるような事項は、出資者として決定に関与する事項と考えるべき)、今の条文に落ち着いたのです。
 なお、「頭数の過半数」の規定を置かずに、「議決権の過半数」だけ規定を置くのは、旧商法時代からの名残です。
 また、設立時代表取締役の選定は、役員の選任ではありません。代表権の付与行為です。設立においては、定款に定めを置かない限り、創立総会に代表権の付与権限はありませんから、代表権の付与は、出資者としての決定ではありません。とすると、原則どおり、設立事務の一つとして、発起人の頭数の過半数で決めるべきだという考えです。

Q5
会社法の条文に使用されている用語の違いについて教えてください。
かなり前(2006年3月18日)のQ4で会社法438条の提出と提供についての解説
が為されていますが、その解説では「提供」は電磁的方法で情報を提供する場合の概念とされています。そういたしますと、437条は「提供」となっていますので、計算書類や事業報告の株主への提供は電磁的方法に依らなければならないということになるのでしょうか?また、会社法301条1項では、株主総会参考書類や議決権行使書について「交付」とされていますが、上記の解説からすると「提出」ではないのでしょうか?301条2項では、「電磁的方法により提供」となっており、単純に「提供」とはなっていませんが、提出、提供、交付はどのように使い分けされているのでしょうか?
投稿 四苦八苦 | 2007年1月23日 (火) 00時55分
A5
 「提供」という文言は、一般には、情報の提供のことを意味しますので、それだけで、「電磁的方法による提供」を意味するわけではありません。
 437条は、招集通知に際して、計算書類等に関する情報を提供する手段を法務省令で定めるための規定ですから、同条の提供は、「電磁的方法」に限りません。
 438条は、「提出し、又は提供し」と対として使われているので、「提供」は、電磁的方法であることが特定できます。
 301条1項の「交付」は、用例に従っているだけです。

Q6
だいぶ前の記事なのですが
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50316846.html
「上の図で,親会社の取締役等が子会社の会計監査人になれるように○がついていますが,子会社の会計監査人の欠格事由になりますので,その点を訂正いたします。」とあるのですが
ここでいう取締役等は執行役も含むのでしょうか?
取締役の欄と執行役の欄の○が×になるということですか?
投稿 兼任禁止の図 | 2007年1月23日 (火) 12時35分
A6
 執行役も、×です。

Q7
Q&A4について、便乗させてください。
商業登記の通達(H18.3.31-782)には、次のように書かれています。
1の(9)設立時取締役及び発起人の権限の見直し
会社の成立前は、定款記載の最小行政区画内における本店の所在場所の決定、支店の所在場所の決定、支配人の選任、株主名簿管理人の決定等は、定款に別段の定めがない限り、発起人の議決権の過半数によることとなる。
これは、変更になったと考えて良いのでしょうか?
投稿 パラリーギャル | 2007年1月23日 (火) 13時11分
A7
まあ、昨日のQ&A4を読んで、そういうことを聞かないのが、大人の世界です。

Q8
1/22のQ&Aの7に関連して質問させていただきます。「非取締役会設置会社においては、自己取引・利益相反取引の承認は株主総会で行うことになると思いますが、定款により議長となる者が当該決議において特別利害関係人に該当する場合、議長を交代する必要がありますでしょうか?」との質問に、「議長の交代は不要だと思います。」とご回答いただきましたが、特別利害関係人が“取締役会”において、議決に加わることはもちろん議長になることについても否定的な判例がありますが、株主総会の場合は違うのでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2007年1月23日 (火) 14時02分
A8
100問にも記載があると思いますが、取締役会における特別利害関係人は、取締役会の議事に加わることもできないと解するのが通説です。ですから、株主総会とは違います。

Q9
 会社計算規則159条には、会計監査人は会計監査報告の内容の通知に際し、独立性に関する事項、業務の継続方針、「会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制」(以下、まとめて「品質管理体制等」という)を通知しなければならないとしています。
 ただし、すべての監査役が既に当該事項を知っている場合は、この限りではないとも書かれています。
 また「品質管理体制等」に関する通知を受けた監査役は、その内容を確認し、「消極的な保証」のレベルの保証をすべきとの某大学教授の意見を読みました。
 当社では監査役が期初に監査法人から監査計画・監査方針の説明を受ける際、上記の「品質管理体制等」に関する説明も同時に受けています。
 この場合、下記の考え方で問題ないでしょうか?
①期初の説明で「すべての監査役が既に当該事項を知っている」ことになるので、期末に会計監査報告の内容の通知を受ける際、改めて「品質管理体制等」に関する通知を受ける必要はない。
②ただし、監査役は会計監査報告の内容の通知を受ける際、「品質管理体制等」が実際どのように運用されたかを会計監査人へ質問すること等により、その内容を再確認することが望ましい。
③「品質管理体制等」に関する通知を基に、監査役が会計監査人の「品質管理体制等」を「保証」する必要はないが、会計監査人の監査の方法を相当であると判断するための参考事項として、監査役(会)の監査報告に記載することが求められている。
投稿 迷える仔羊 | 2007年1月23日 (火) 14時33分
A9
 監査役は、会計監査人の監査の方法又は結果が相当かどうかを判断しなければいけませんので、②は、「望ましい」という訓示よりは強いでしょう。
 ③は、「保証」の意味がよく分かりません。

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2007年1月22日 (月)

【入門】発起人の権限(2)

 前回は、発起人が、設立にあたり、どんなことをやっているのかを概観した上で、その行為が
 ① 発起人の権限の「範囲内」の行為であれば、設立後の会社に効果が帰属する(=財産は会社のものになるし、債務も会社が負担する。)
 ② 発起人の権限の「範囲外」の行為であれば、設立後の会社に効果が帰属しない
ということを説明しました。

 今回は、まず、設立後の会社に効果を帰属させるための、発起人の権限以外の要件を説明します。

2 効果帰属要件
 取引をする相手側の立場に立ってみると、発起人の権限の有無だけで、誰に契約の効果が帰属するのかを決められると、困る場合があります。

 たとえば、サミーさんは、松真さんが、「元裁判官で立派な家に住んでいるから、きっと信用できる人だろう」と思って、松真さんにHな本を100冊を売ったとしましょう。
 ところが、月末に、松真さんに、その本の代金30万円を請求したところ、松真さんは
  あれは、俺が買ったのではなくて、株式会社正直法務の開業準備のために買ったんだよ。定款には、財産引受として「Hな本30万円」という記載もあるから、会社に請求してくれよ。
と言って支払いを拒みました。
 サミーさんは、松真さん個人を信頼したのですから、いまさら見も知らぬ株式会社正直法務に請求をしろと言われても困ります。

 こういう問題が生じないようにするため、法律の世界では、
  契約をする人(代表者・代理人)が、第三者(会社・本人)にその契約の効力を帰属させようというときには、顕名(けんめい)をしなければならない
というルールになっています。

 顕名というと難しそうですが、会社ならば
  「株式会社正直法務 代表取締役 湯水金使」
という名義を使って契約する等、誰に効果が帰属するのかを明らかにして契約をしろというだけのことです。

 もっとも、発起人が設立準備をしているときは、まだ効果帰属主体である会社が存在していないので
 ①「株式会社正直法務 発起人代表 湯水金使」等の名義を使ったり
 ② 発起人の個人名義で契約するならば、契約内容において設立後の会社に効果帰属することを明らかにする
などの方策を用います。

 逆に、発起人が、個人名義で契約をしている場合には、顕名がない限り、発起人に効果が帰属します。
 発起人が、内心で「会社のためにやっている」と思っても駄目であり、この場合は、発起人が、個人で財産を取得し、代金も自分で払わなければいけません。
 もちろん、その財産は、会社のために買ったものなのでしょうから、通常は、発起人が購入した後に、
  ①設立前に、会社との間で売買契約(財産引受等)を締結する
  ②設立後に代表取締役と売買契約を締結するか(もっとも、財産の額が一定以上になると事後設立と呼ばれ、株主総会の決議が必要になります)する
ということになるでしょう。

 以上の①発起人の権限、②顕名に加え、③発起人の意思表示が有効であることが、発起人の行為を会社に効果帰属させるための3要件です。基本的には、民法の代理と同じだということが分かりますね。

3 発起人の行為の分類
(1)設立準備行為と開業準備行為
 解答例にもあるとおり、発起人の権限の範囲を検討するときには
 A 設立準備行為 ①設立を直接の目的とする行為
         ②設立のために必要な行為
 B 開業準備行為 ③財産引受
         ④財産引受以外の開業準備行為
の4つに分けて考えます。

 極めて、ラフな話をすると
 A 発起人は、会社の設立をする人ですから、設立準備行為は、原則できますが、
 B 開業準備行為については、どんな商品を仕入れるか等は、経営の専門家である取締役が決めればよいので、会社を設立する人に過ぎない発起人が決めるのは、余計なお世話だから、原則できない。ただし、③財産引受は、会社法が例外的に認めている。
ということになるでしょう。

 しかし、仮に「発起人の権限が設立準備行為に無制限に及ぶ」という学説に立つと
   発起人が費用を支払った場合には、定款に記載された設立費用を超えて、求償することはできないから、それ以上に会社の財産が減少しないが、発起人が費用を払っていない場合には、会社が、その未払い債務を債権者に支払わなければならなくなるから、設立の健全性を維持するという28条の趣旨が没却される
等という問題が生じることになります。

それで、
  設立準備行為であっても、発起人の権限が及ばない領域がある(=会社に効果帰属しない場合がある)と考えるべきではないか?
ということ等が論点となるのです。

(2)「設立を直接の目的とする行為」と「設立のために必要な行為」
 では、Aの設立準備行為を、なぜ、①設立を直接の目的とする行為と、②設立のために必要な行為に分けるのでしょうか。

 ①は、定款の作成行為、認証の申請、払込取扱委託契約の締結、検査役の選任、登記の申請等、会社法で、設立手続の一つとして規定している行為です。これらの行為は、どんな株式会社でも、必ず行わなければなりません。

 これに対し、②は、①以外の設立準備行為であり、設立のための事務員の雇用契約、設立準備のための事務所の賃貸契約等です。

 ②も、設立に役立つ行為ですが、会社法が義務づけている行為ではありません。事務員がいなくても設立はできますし、事務所を借りなくても、設立できます。つまり、①の行為がどんな株式会社にとっても必要不可欠な行為であるのに対し、②の行為は、必要不可欠ではないが、設立に役立つ行為です。

 ①と②の区別がつかない人は、28条4号かっこ書・会社法施行規則5条を見てください。
 そこに列挙されている設立費用の根拠となる契約が、①の行為です。すなわち、当該条文には、定款認証の手数料、定款に係る印紙税、設立時発行株式と引換えにする金銭の払込みの取扱いをした銀行等に支払うべき手数料及び報酬、検査役の報酬、株式会社の設立の登記の登録免許税が書かれていますが、それらの設立費用の発生原因となる法律行為を考えれば、先ほど、①の行為として列挙した行為になります。

 この28条4号かっこ書は、直接には、
   発起人が費用を支払った場合に、定款に記載がなくても、求償することができる設立費用
を規定しています。設立を直接の目的とする行為に係る費用は、どんな会社でも必ず必要な費用ですし、その費用が法定されていたり(認証手数料・印紙税・登録免許税)、過大になる可能性が低い(検査役の報酬、払込取扱銀行の手数料等)ので、定款に記載しなくても、求償ができることにしているわけです。

 ところが、求償の制限にとどまらず、こうした設立を直接の目的とする行為については、
     発起人の権限が及び、仮に費用が未払いだった場合には、会社にその費用の支払い債務が帰属する
と解するのが通説です。
 つまり、①の行為については
   求償可能な範囲=発起人の権限の範囲
であることは、ほぼ争いがありません。

 これに対し、②の行為は、先ほど述べたように、会社ごとに、いろいろなバリエーションがあり、費用も一律ではありません。たとえば、設立事務所を借りるにしても、六本木ヒルズを借りるのと、多摩センターで借りるのでは、家賃が違うでしょう。
 そのため、②の行為については、
   定款に記載した設立費用の範囲内で求償可能である
という点については争いはないものの
  X説 ②の行為はすべて発起人の権限の範囲内である=会社に効果帰属する。
  Y説 求償可能な範囲(28条4号)=発起人の権限の範囲=会社に効果が帰属する
  Z説 ②の行為は、発起人の権限の範囲外である=会社に効果帰属しない
という争いが生じるわけです。

 学説では、X説が多数説ですが、判例と100問は、Y説を採っています。

 このように、発起人の権限の範囲を考えるときに、同じ設立準備行為であっても、①の行為については権限が及ぶことについて争いはないが、②の行為については争いがあるから、①の行為と②の行為を分類しているのです。

(3)開業準備行為の分類
 Bの開業準備行為についても、③財産引受と④財産引受以外の開業準備行為の2つに分類されます。
 ③財産引受は、既に説明したとおり、財産の購入契約であり、それに対し、④それ以外の開業準備行為は、店舗の賃借契約の締結や、事業資金の借入契約等がこれに該当します。

 この③と④も、③財産引受については、定款に記載した場合に発起人の権限が及ぶことについて争いが無いのに対して、④については
  P説 財産引受の規定を類推適用する
  Q説 発起人の権限が及ばない
という学説上の争いがありますから(Q説が通説・100問説です)、やはり分けて論じる方が無難です。

 それで、100問でも、開業準備行為についても、③と④を区別して、解答しています。

 こうして見ると
 A 設立準備行為 ①設立を直接の目的の行為・・・・・28条4号かっこ書
         ②設立のために必要な行為・・・・・28条4号
 B 開業準備行為 ③財産引受・・・・・・・・・・・・28条2号
         ④財産引受以外の開業準備行為・・・条文なし
というように、①~④と条文は対応関係にありますから、
  発起人の権限と28条をリンクさせて考えるのが自然
だと思うのですが
  そういう見解(=判例・100問の見解)は、学会の中では「不合理な見解」とされ
なぜかマイナーな説になっています。
 私は、ちっとも不合理じゃないと思うのですが、そこらへんは、また次回にお話ししましょう。

(質問コーナー)
Q1
会社法461条には「効力を生ずる日」って書いてありますが,これは違法配当が有効だということでしょうか?

もともと,違法配当は「無効」のはずですが,なぜ会社法条文はあえて「効力」があることを前提とした文言になったのですか?
投稿 貳 | 2007年1月17日 (水) 23時30分
A1
 違法配当は、有効です。その理由は、商事法務に掲載された葉玉論文か、このブログの過去の記事を参照してください。

Q2
ところで、質問があります。
「監査役の会社に対する責任」です。
商法では、「会社に対し連帯して」責任を負うと言うことでしたが(商法277条)、
この条数に相当するとされる会社法423条1項では、「連帯して」という文言がなくなりました。

①この商法の「連帯して」というのは、どういう意味だったのでしょうか?
②そして、会社法では実際に、監査役の任務懈怠により会社に損害を被らせた場合、取締役や当該会社の他の監査役は、「連帯して」責任を負うのでしょうか。
投稿 マルコ | 2007年1月17日 (水) 23時41分
A2
430条で連帯債務になっています。

Q3
株式交換が行われる場合の新株予約権の処理についての質問です。
新株予約権を発行する場合に236条1項8号ニでは、株式交換が行われた場合に、完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができる旨を内容とすることが定められています。
一方、773条1項9号では、768条1項4号では、株式交換完全子会社の新株予約権者に対して、当該新株予約権に代わる株式交換完全親会社の新株予約権を交付するときには各号に掲げる事由を株式交換契約に定める、と規定しています。
①これは、236条1項8号ニで新株予約権の内容として完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができる旨を定めていなくても、773条1項9号で、完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができるということなのでしょうか?
②そうすると236条1項8号ニで、わざわざ新株予約権の内容にそのような内容を盛り込むことは、新株予約権を取得しようとする人に対して、買取請求権(787Ⅰ③)を認めることになるだけで、会社側にとってはあまりメリットのある規定ではないのでしょうか?
投稿 Popeye | 2007年1月18日 (木) 01時31分
A3
① できます。
② 新株予約権者にメリットがあれば、新株予約権者は安心するので、高く発行できます。

Q4
 会社法では、発起人の権限の見直しがされていますが、権限及び決定の方法に関する総則規定が置かれていませんね。
 決定の方法に関して、登記実務は、会社法第40条第1項と同様に「議決権の過半数」説に立っていますが、学説では、従来どおり組合法理により「頭数の過半数」説のようです(江頭73頁ほか)。
 この段階で意思不統一のようでは、株式会社の設立に至らないので、あまり問題になることはないのかもしれませんが、条文の手当てが必要だったのでは、と思います。
投稿 内藤卓 | 2007年1月18日 (木) 10時30分
A4
 「発起人の議決権の過半数」による決定は、発起人が株式引受人として行動する場合、つまり、設立時役員の選任・解任に関する行為のときに限られます。
 発起人が、設立事務の責任者として活動する場合には、発起人の頭数の過半数です(組合法理という説明はおかしいと思いますが)。
 内藤さんが「意思不統一」とおっしゃている根拠は分かっていますが、すでにその点については、意思統一ができていると思います。

Q5
基本的な質問で申し訳ありませんが、監査役の設置について教えてください。
取締役会設置会社は、非公開会社でも会計参与を置いた場合を除き監査役を置かなければなりません。
そして、この監査役の権限を会計に関するものに限定する定款の定めを置いた場合なのですが、この会社は「監査役設置会社」にはならないが、「監査役を置かなければならない」という義務は果たしているということでよろしいのでしょうか?
条文上は、単に「監査役」となっているため、とりあえず監査役を置けば義務を果たしているとも読めるのですが、「監査役設置会社」の定義との関係で若干疑問に思ったので、回答よろしくお願いします。
投稿 飛来骨 | 2007年1月19日 (金) 15時04分
A5
会計監査限定監査役も、監査役ですので、義務は果たしています。

Q6
非取締役会設置会社において株主総会を招集する場合、議案については誰が決めることになるのでしょうか?
代表取締役がいる場合、当該代表取締役1人の判断で決定しても良いのでしょうか? もし、全取締役の協議で決める必要や、取締役会議事録に代わるような記録を残す必要があるでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2007年1月19日 (金) 17時42分
A6
取締役が二人以上いる場合には、業務執行の決定又はそれに準する決定として、取締役の過半数で決するべきでしょう。記録は不要です。

Q7
非取締役会設置会社においては、自己取引・利益相反取引の承認は株主総会で行うことになると思いますが、定款により議長となる者が当該決議において特別利害関係人に該当する場合、議長を交代する必要がありますでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2007年1月19日 (金) 17時44分
A7
議長の交代は不要だと思います。

Q8
親子関係について教えて下さい。
A株式会社とB合資会社がある場合。B合資会社の無限責任社員がA株式会社の代表取締役、有限責任社員の責任限度額の半額がA株式会社である場合、B合資会社はA株式会社の子会社となりますか?
会社法になって、株式会社以外でも親子会社の定義が当てはまると思いますが、無限責任社員がいる為、見分け方がよく分かりません。
投稿 サミーさん頑張れ! | 2007年1月20日 (土) 02時08分
A8
議決権の数等が分からないので、なんとも言いようがありません。

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2007年1月17日 (水)

【入門】発起人の権限(1)

 先日のアンケートで、このブログの検索の話が出ましたが、実は、私は、よく
http://krungtheep.exblog.jp/i10
というブログを参照しています。
 mashi_japanさんという方が管理されているようなのですが、ライブドア時代を含めて、記事が分類されているので便利です。
 困ったときは、参考にされるといいと思います。
 なお、mashi_japanさんへの連絡方法が分からないので、無承諾でご紹介いたしましたが、もし紹介するのがまずいということであれば、コメント欄にその旨書いていただければ、この紹介部分は削除いたします。

 今日は、第15問「発起人の権限」です。

 問題文
「株式会社の発起人の行為によって生じる権利義務のうち、どのような範囲のものが、設立の登記とともに、当該会社に帰属することになるのか。」

 発起人の権限については、典型的な論点であるにもかかわらず、初心者が理解できない分野の代表格です。

 私なりに、なぜ初心者が理解できないのか、その理由を考えてみますと
 ① 発起人が、実際に、どんなことをやっているか、よく分からない。
 ② 発起人の権限の話と、変態設立事項(設立費用や財産引受)の関係が分からない。
 ③ 発起人の権限と設立中の会社の話の関係がよく分からない。
という三重苦に苦しんでいるのではないかと思います。

 そこで、まず、①から③までを簡単に説明してから、解答例の解説に映っていきたいと思います。

1 発起人は、どんなことをやっているか。
(1) 発起人というのは、要するに、会社を設立しようとしている人です。
 ですから、会社の設立をするための事務は、基本的には、全部、発起人がやります。

 以前、お話ししたとおり、会社の設立のためには、最低限、①定款の作成、②社員の確定、③機関の具備、④設立の登記という4つの手続きをする必要があります。
                    
 いつものよう例を挙げて説明しましょう。
 松真さんと湯水さんは、本屋を開くため、株式会社正直法務を設立することにしました。その時には、次のような設立手続きを行います。

 ① 定款の作成
 発起人の松真さんと湯水さんは、二人で話し合って、定款の内容を決め、パソコンとプリンタと紙を買ってきて、定款の内容を入力して、印刷しました。
 そして、松真さんと湯水さんは、その定款を、街角にある公証人役場に持って行き、「認証」してもらいました。「認証」というのは、公証人に、定款の必要的記載事項が書いてあるか、発起人全員の意思に基づいて作られたものか等を確認してもらうことを言います。
 公証人は、公務員ですが、私達と違って定収はなく、手数料収入で生活しています。この認証の手数料は、現在、5万円です。
 (注)この時点までで
      ・誰がどんな名義でパソコンなどを買ってきたのか。
      ・パソコン・プリンタ・紙は、誰のものか。
      ・認証手数料は、誰が支払うのか。その精算はどのように行われるか。
    等の問題が生じています。

② 社員の確定
   松真さんと湯水さんは、定款で設立時出資額を100万円に決めていたので、1株1万円(一人50万円で50株ずつ)を引き受けることにしました(発起設立)。
   そこで、湯水さんは、ホーム銀行に「湯水金使(ゆみずかねし)」名義で普通預金口座を開設し、そこに50万円を入金し、松真さんも、その口座に50万円を振り込み送金しました(この場合、ホーム銀行が「払込取扱銀行」になります。)
   (注)
     発起設立をするときは、「普通預金」口座でよいので、通常、手数料等はかかりません。また、ホーム銀行に、「この口座は払込み用ですよ」と知らせる必要もないので、ホーム銀行は、何も知らない間に、払込取扱銀行になっている場合もあります。
     これに対し、募集設立をするときは、ホーム銀行に払込保管証明書を発行してもらわないと、設立の登記ができませんので、払込の前に、湯水さんは、ホーム銀行との間で、株式払込取扱委託契約を締結し、湯水金使名義の「別段預金」口座を開設します。
     そして、松真さんと湯水さんが、この別段預金口座に50万円ずつ振込をすると、ホーム銀行が「払込保管証明書」を発行してくれるので、それを持って、法務局に、設立の登記を申請することになります。この場合、ホーム銀行に、払込保管証明書の発行手数料等を支払う必要があります。手数料は、銀行や払込金の額によって違いますが、普通、数千円から数万円です。

③ 機関の具備
   正直法務は、定款で特に機関を定めなかったので、発起人の二人で話し合って、湯水さんを設立時取締役(設立の時に取締役になる人)に選任しました。取締役会がないので、湯水さんは、自動的に設立時代表取締役にもなります。
 (注)
  機関の具備には、普通、お金はかかりません。

④ 設立の登記
   設立時代表取締役の湯水さんは、司法書士に頼んで、設立の登記をしてもらいました。
   (注)
   このとき、法務局に支払う「登録免許税」と司法書士に支払う手数料が必要です。
 
 以上のように①から④までの手続が最低限必要な行為です。

⑤ さらに、松真さんと湯水さんは、実際には、設立後すぐに商売が始められるように
a 商品を仕入れておく。
b 本店にする事務所を借りる。
c 「正直法務ブックセンター 2月1日堂々オープン! 従業員募集中(私達とちへどをはきながら一緒に働いてみませんか?)」と広告をうつ。
等の行為(開業準備行為)も一緒にやるのが普通です。

2  変態設立事項との関係
 松真さん達が、①から⑤の行為をやるときには、何かとお金がかかります。
 では、このお金は、誰が支払うのでしょうか。

(a) 設立前にお金を支払わなければならないときは、株式会社正直法務がまだ生まれていない以上、松真さん達が、個人のお金で支払うのが普通です。例えるなら、妊娠したママが、生まれてくる子供のために、ベビー服やベビーベッドを買ってあげるのと同じですね。
 
 もっとも、ママが、子供が生まれた後に
  洋服代とベッド代を支払え。
等ということは、通常ありませんが、発起人である松真さん達が、正直法務の設立後に
  「設立のために使ったお金を、立て替え払いしているので、その分のお金を下さい。」
と請求することはできます(発起人の会社に対する求償権)。
 そうでないと
  「松真さんが定款の認証手数料を払い、湯水さんが登記費用を払う」
というような役割分担をしたときに、不公平が生じるおそれがあります。

 しかし、無制限に発起人が立て替え払いをしたお金を会社に請求できることとすると、過大な費用を支払ってしまうような発起人があらわれかねません。

 例えば、松真さんが、設立のコンサルタントをしたサミーさんに、10億円のコンサルタント料を支払ったからといって、それを全額会社に請求することができるとすると、会社が、設立当初から、松真さんに10億円の立替金の支払債務を負担することになり、生まれ立てで瀕死の状態になってしまいます。

 そこで、会社法は、「株式会社の負担する設立に関する費用」については、定款に記載しない限り、その効力を生じないこととして(28条4号)、発起人の会社に対する求償権を制限して、会社に過剰な負担が生じないように配慮しているのです。

 このように会社の財産が設立時から毀損されないようにするため、28条は、設立費用の他にも、財産引受(2号)や発起人の報酬(3号)も、定款の記載がない限り、効力を生じないこととしています。
 財産引受というのは、発起人が、設立前に会社の事業で使う物を購入する契約を結ぶことをいいます(要するに、売買契約の一種です)。発起人の報酬は、発起人が設立事務をしてくれた事に対する会社からのお礼です。そして、このような28条各号の列挙事由は、一般に「変態設立事項」と呼ばれています。
 なお、私も、たまに
  この変態!
と言われることはありますが、「変態」には
 (1)形や状態が変わること。また、その変わった形や状態。
 (2)「変態性欲」の略。また、その傾向のある人。
等の意味があり(goo辞書より)、変態設立事項の変態は(1)、「この変態!」は(2)を意味するので、誤解をしないようにしてください。

(b) さて、設立前に、設立費用等を支払う方法は、もう一つあります。
 これは、発起設立だけで許されている方法なのですが、払込取扱銀行(ホーム銀行)の発起人名義の口座から現金を下ろしてきて、それで設立費用を支払うことができます。

 募集設立の場合には、設立の登記をしない限り、発起人の別段預金口座から現金を下ろすことはできませんから、発起人が、設立前に必要な費用を立て替え払いするしかありませんが、発起設立は、発起人名義の普通預金口座に払込金を預金しているので、それを下ろして、設立費用に充てることができるのです。
 この場合、設立費用に充てた現金は、口座の名義こそ、発起人である「湯水金使」になっていますが、松真さんが払込みをしたお金もその口座に入金されていることからも分かるように、実質的には、会社の財産となるべきお金です。
 ですから、湯水さんが、払込金から設立費用を支払った場合には、(a)と違って、設立後に、会社に対して求償することはできません。

 (b)の場面では、あまり問題が生じないような感じがしますが、実は、湯水さんが、
   定款で定めた設立費用の額を超えて、払込金から設立費用を支払った場合にどうなるのか?
という問題が、会社法の世界では存在します(旧商法では、発起設立でも払込保管証明が必要だったので、この問題は生じませんでした)。これを、どう考えるかについては、(c)とも関連しますので、(c)で検討しましょう。

(c)  (a)(b)は「設立前」にお金を支払う話でしたが、「設立後」にお金を支払わなければならない場合は、どうなるんでしょうか。
 設立前は、会社が存在しない以上、発起人が払うしかなかったわけですが、設立後は、会社という法人格が存在するので
  発起人が支払うべきなのか、会社が支払うべきなのか。
という問題が生じます。

 法的に言い替えれば、発起人が行った行為が、発起人に効果帰属するか、それとも、会社に帰属するかということです。

 ある人の行為(契約等)の効果を、会社に帰属させるためには、代表権又は代理権が必要です。

 ご承知のように、会社の代表者は、代表取締役又は代表執行役ですし、発起人は、会社から代理権を授与されたわけでもありませんから
  発起人の行為が、会社に帰属するなんていうことはないんじゃないの?
という感じもします。
 
 しかし、28条2号の財産引受は、
  「発起人が、株式会社の成立後に(成立を条件に)、会社が財産を譲り受けることを約束すること」
を意味し、同号は、定款にその財産の価額や譲渡人の氏名等を記載すれば、「効力」を生ずることを前提にした規定ですから
  発起人は、28条2号の要件を充たす限り、会社が財産を譲り受ける契約を締結する権限(=成立後に会社に効果帰属させるための代表権のようなもの)を持っている。
ということができます。
 例えば、前記⑤のaで述べたように、正直法務が、設立後に、すぐに本屋を開けるように、湯水さんが法務関係の本を、松真さんは客寄せのためのHな本を、出版社から仕入れる契約を結び、代金の支払いは、設立後の2月末に支払う約束をしたとしましょう。
 このように発起人が、設立後に、会社の財産にするものを購入する契約が財産引受です。

 同じことを実現するために、松真さんが、まず個人でHな本を購入し、代金も自分で支払い、正直法務の設立後に、そのHな本を正直法務に購入してもらうという方法もあります。
 しかし、松真さんが、Hな本を個人で購入したことが奥さんに知られた場合のリスクはあまりにも高いですし、会社の事業で使う商品なのに、一旦、個人のお金を出したくないというのが、松真さんの気持ちでしょう。

 これに対し、松真さんが、発起人として、会社の成立を条件に、会社がHな本を購入する契約(本の所有権は会社に帰属し、代金の支払い義務も会社が負担する契約)を結べば、松真さんの家庭に荒波は生じません。

 そこで、会社法は、開業を円滑に行うことができるようにするため、「設立の責任者」に過ぎない発起人に、「事業の準備」をする権限を特別に与えているのです。

 しかし、先ほど申し上げたように、発起人が、不要な物を買ったり、高い買い物をしたりすると、設立の健全性を保つことができないので、会社法は、財産引受を定款の変態設立事項とすることで
  定款に記載した場合だけ、発起人の権限を認める
ということにしています。

 詳しくは、各論で述べますが、ここでは
  28条2号(財産引受の規定)は、発起人の権限を定めた規定であることについては、争いはない
ということを覚えておいていただきたいと思います。
 ちなみに、発起人の報酬(28条3号)も、発起人が会社に対して報酬を請求することができる範囲を制限するものですが、報酬請求権は、会社と発起人との間の報酬契約によって生ずるものですから
  28条3号(発起人の報酬)も、会社との間の報酬契約を締結する発起人の権限を定めた規定である
ということができます。
 そして、問題になるのが
  28条4号(設立費用)の規定が、発起人の権限を定めた規定と言えるか?
ということであり、これが第15問の主たる論点の一つなのです。

3 設立中の会社
 設立中の会社というのは、定款の作成等によって会社の実体は形成されたが、登記未了であるため、法人格を取得していない段階におけるその「実体」のことをいいます。
 
 この設立中の会社は、一般に「権利能力なき社団」の一つと言われます。
 私は、その考え方に反対するわけではないものの、同窓会などの普通の権利能力なき社団では、社団財産の帰属形態は「社員の持分のない総有である」とするのが判例・通説なので、「設立中の会社について「持分がない」と言い切って良いのだろうか?」という疑問はもっております。ただ、その話は、深入りすると危険なので、ここでは、「権利能力なき社団」だということを覚えておきましょう。

 この「設立中の会社」という概念は、会社法には規定がないのですが、払込金や発起人が会社設立のために取得した財産等が、会社の設立によって、当然に会社に帰属することとなることを説明するために分かりやすいので、「設立中の会社」の存在を認めるのが通説になっています。

 例えば、
 「松真さんが、設立前に、パソコン・プリンタ・紙を買ってきて、定款を作成しましたが、そのパソコンや印刷物は、誰のものなのでしょうか」
という問いに対して、
「設立前には、株式会社正直法務は存在しないので、その時点では、会社のものではない」
と答えざるをえません。
 しかし、「お金を出した松真さんの単独所有だ」とか、「発起人2人の通常の共有だ」とか考えると、会社が設立した後に、
  松真さんが、会社に売却しない限り、印刷物等の所有権が移転しない
ということになり、大変、面倒くさいです。
 また、募集設立の場合において、財産の購入時には存在しなかった引受人も、共有の主体になるのだろうか、という疑問も生じます。

 そこで、
① 設立手続中には、「設立中の会社」という権利能力なき社団が存在しており、発起人は、その実質的代表者となる。
② 発起人が、その権限の範囲内で行った行為は、設立中の会社に実質的に帰属する。だから、発起人が設立のために購入した財産は、設立中の会社のものになる。
③ 会社の設立によって、設立中の会社は、同一性を保ったまま、法人格を取得するから、発起人が、特に売買等をしなくても、設立中の会社に実質的に帰属していた財産は、会社の財産となる。
という説明がされているのです。

 ①から③までには、それぞれ理論を超えたレトリックが存在するのですが、これはこれで分かりやすいので、私もよく説明として利用します。

 しかし、このメジャーな説明を理論的に推し進める人がいて、会社の権利能力や代表者の代表権の範囲と同じ議論を設立中の会社に持ち込み
(a) 設立中の会社の実質的権利能力の範囲は、何か。
(b) 発起人の権限は、何か。
等が論じられることがあります。
 
 私は、個人的には、もともとレトリックの入った説明をどんなに論理的に説明しようとしてもしょうがないし、どうせやるなら、徹底的に、通常の「権利能力なき社団」との違いに踏み込んで検討してもらいたいと思っていますが、初心者の皆さんにそれを言っても困るだけでしょう。

 そこで、大事なことだけお話しすると
・ 設立中の会社は、発起人の行為が、設立後の会社に帰属することの分かりやすい説明に過ぎないので、そういうものと思って解答する。
・ 設立中の会社の実質的権利能力の論点は、条文から、かけ離れた議論であるし、特殊な説に立たない限り、結論に影響を与えないので、あえて論ずる必要は少ない。
・ 実際の問題において、発起人の行為が成立後の会社に帰属するかどうかは、発起人の権限がその行為に及んでいるかどうか(28条の解釈を含む。)ということを論ずれば足りる。
ということを覚えておきましょう。

次回は、各論に入ります。

(質問コーナー)
Q1
またまた質問させてください。下記の事例は可能でしょうか?
①定款に107条の定めをしたが、実際には普通株式のみ発行
②定款に108条の定めを2種類したが、実際には普通株式のみ発行
③定款に2種類の種類株を定め、実際には1種類の種類株と普通株式の発行
④例えば、役員選解任の種類株式だけ必要な場合、1つダミー株と役員選解任の定めを定款にしますが、今までの普通株式はそのままで、役員選解任のみ発行することは可能でしょうか?それとも、この普通株式に何かしらの変更を加える必要があるのでしょうか(例えば、他の種類株式に変更する等)?
宜しくお願い致します。
投稿 サミーさん頑張れ! | 2007/01/16 1:28:52
A1
「普通株式」というのは、会社法にはない概念ですが、とりあえず、特別な定めが何もない株式ということでお答えします。
普通株式と種類株式については、次の記事を参考にしてください。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50329193

①できません。
②③この場合、種類株式の一つとして、普通株式が確保されているんでしょうか?普通株式を入れて、合計3種類ならできますし、合計2種類ならできません。
④取締役等選解任権付株式を1種類だけ発行するという意味が分かりません。当該制度を誤解しているのではないでしょうか?

Q2
サミー先生、Q14とQ15のご回答有難うございます。
従業員の日常業務は代理権に基づくとのご回答でしたので、この従業員の代理権は会社(本人)の授権に基づくので、業務執行者の死亡により消滅しないとの法律構成だと思います。私は消滅すると考えていたのですが、それは従業員の代理権は、株主総会により代表権の委任を受けた業務執行者の授権に基づくもの、と考えていたからです。つまり、本人が当該会社で、業務執行者が代理人、従業員が復代理人との立場になるので、業務執行者による従業員への授権行為は、(授権行為を委任類似の無名契約ととらえると)民法653条1号の類推適用により消滅する、と解釈されるのではないかと考えていたのです。
従業員の代理権を会社からの直接の授権ととらえると、業務執行者の代表権(こちらも会社からの直接の授権)と並列的に従業員の代理権がある形になり、実態(従業員と業務執行者には上下関係がある点)とそぐわない気がするのですが、この点は如何でしょうか?
投稿 NK | 2007/01/16 3:20:56
A2
従業員への授権契約は、会社との間で締結されたものであり、業務執行者は法的効果の帰属主体ではありません。このような場面で、民法653条1項が類推適用されると、代表者が死ぬと、会社の締結した委任契約の全てが影響を受けてしまいますので、それはないでしょう。

Q4
Q20に関連してですが、322条1項1号括弧書きで111条1項又は2項に該当するものを除外しているのは、「当該括弧書きの行為は、立法技術上の観点(株主全員の同意を決議とは整理していないので、111条1項の行為を322条及び324条で規定できなかった等)から別の条文(111条1項又は2項)で決議が必要な旨を規定しているから重ねて規定する必要はないため」と理解しているのですが、これで宜しいでしょうか?
投稿 NK | 2007/01/16 3:22:19
A4
そんなところでしょう。

Q5
① 自己新株予約権の処分について、会社法上の差し止めの制度はありません。
 しかし、違法な処分をしようとする場合には、何らかの法的根拠により差し止められる可能性はあります。
とのご回答ですが、違法な処分とはどのようなものになりますでしょうか。
例えば、取得した新株予約権を、会社が好きな会社に割り当てた場合(買収防衛において、ホワイトナイトへの割当といった場面が想定されます)、
あり得るとすれば、取締役の善管注意義務違反、当該予約権の行使に対する新株発行無効(判例の流れを見るに、厳しいと思いますが・・・)くらいでしょうか?
何か思い当たる根拠があれば、イメージでも結構ですので、教えて頂ければ幸いです。
投稿 かおるん | 2007/01/16 11:25:40
A5
 差止めについては、簡単に語ることができない難問です。

Q6
 取締役の一人に募集株式を割り当てることが予定されており,取締役会において募集事項を決定する場合についてです。
 旧商法下では,当該取締役は特別利害関係人ということで,新株発行事項を決定する取締役会決議には参加できないという理解をしておりました。
 これに対し会社法下では,募集事項の決定と割当先の決定とが明示的に別個の決定事項とされたということで,当該取締役を必ずしも募集事項の決定から排除する必要はなく(又は排除してはならず),「割当先の決定」について議案を分けた上で,その利益相反の承認(又は会社法204条2項の決議)に参加できないことになるのではないか,という問題意識を持っております。

投稿 yasuko | 2007/01/16 12:33:14
A6
理論的には、おっしゃることは分かるのですが、第三者への有利発行の場合を考えれば分かるとおり、募集事項の決定を行う場合に、取締役が絶対に特別利害関係人にならないとは言い切れないように思います。

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2007年1月 9日 (火)

【入門】預合いと蛸配当(3)

2 蛸配当の禁止の趣旨
 蛸配当の禁止の趣旨は、「資本維持の原則」の説明で述べたとおり、
  「出資の払戻しの禁止」という株式会社の基本ルールを剰余金の配当によって潜脱することを防止する
という点にあります。
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13094420
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13151832

 こうした観点から、蛸配当は
  会社財産を危うくする罪(963条5項2号)
という罰則で禁止されています。

 また、民事責任については、462条に

 ① 株主は、会社に対し、受領した配当相当額の金銭を返還しなければならない
   (趣旨)本来、受け取ることのできない利益を受け取ったから。
       →利益を受けているから、無過失責任。

 ② 配当に関与した業務執行者は、株主と連帯して、会社に対し、①の額の金銭を返還しなければならない(462条)
   (趣旨)株主に返還請求するのは手間がかかるので、違法な業務を行った業務執行者に任務懈怠に基づく責任を負ってもらう。
       →業務執行者は、利益を得たわけではないので、この責任は「過失責任」(462条2項)。

ということが規定されています。

 まあ、この責任の趣旨を論ずる前提として、「違法配当は有効か」という論点もありますが、そこは、葉玉さんも論文を書いていますし、ブログでも何度も記事になっていますので、興味のある方はそちらをごらんください。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50094786
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50705214
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11883913

 学説は、無効説が多いですね(従来は、自己株式の取得は、相対的無説説が通説だったと思いますが、会社法では、無効説が通説になったのでしょうか?)。

 ただ、会社法の文理も有効であることを前提としていますし、無効にすると、現物配当や自己株式の取得のとき事後処理に困る(無効説からは事後処理についての明確な言及がありません)という難点があります。
 実務は、有効説で処理するのが安全でしょう。

 もっとも、金銭配当の場合には、有効説だろうと、無効説だろうと、結論に大した違いはないので、「蛸配当」がテーマとなっている本問の解答例では、違法配当の効力については論じていません(あえて言えば、現物配当の蛸配当ということも、ありえますが・・)

 さて、蛸配当については、罰則と会社に対する責任のほかに、あと3つほど覚えるべき制度があります。

 1つ目は、業務執行者の善意株主に対する求償権の制限(463条1項)です。

 462条により、株主と業務執行者は、連帯債務を負担していますが、利益を得たのは株主なので、業務執行者には、負担割合はありません。
 したがって、業務執行者は、本来、株主に対して、自己が会社に弁済した金額について、全額求償することができるはずです。
 しかし、違法配当を実行した業務執行者自体が、善意の株主に対して求償をするのは、禁反言の原則に反するということで、求償権が制限されています(ちなみに、この条文は、債権者保護とは無関係なので、解答例には記載していません。)

 2つ目は、債権者による訴訟担当です(463条2項)。
 会社は、462条に基づき株主に対する返還請求権を行使することができますが、自ら違法配当を行った代表者が株主に返還請求訴訟を起こすことは期待できません。
 このような場合、債権者が、会社の債権について債権者代位権を行使するのが普通ですが、通常の債権者代位権では、
  会社が無資力であること
という要件が必要です。
 しかし、分配可能額による配当制限は、
    会社が無資力になりにくくするために、一定のバッファを確保することを目的に設けられた制度
なのですから、無資力にならない限り、債権者は、株主に対する返還請求権を代位することができないとすると、配当制限をした意味がありません。
 そこで、463条2項において、会社が無資力でなくても、債権者代位権を認めるとい民法423条の特則が置かれているのです。

3つ目は、業務執行者の債権者に対する責任(429条1項)です。
 蛸配当によって損害を受けるのは、債権者です。
 債権者としては、463条2項に基づき株主から会社に金銭を返還させれば、損害は回復するはずですが、株主が多数であるため、実際には、その返還が困難な場合もあります。
 また、債権者が、会社の業務執行者に対する債権(462条)を代位行使する(これは、民法423条に基づくもの)ことも可能ですが、それが迂遠な解決になる場合もあります。
 そのような場合には債権者が、業務執行者に対して、直接、損害賠償責任(429条1項)を追求することも考えられます。
 この場合、「債権者は、間接損害について損害賠償を求めることができるか」という論点がありますが、この論点は、別の問題で勉強することにして、ここで学んで欲しいのは、蛸配当では
 429条2項の責任の追求は難しい。
ということです。
 以前もお話したとおり、蛸配当は、粉飾決算を伴うのが普通ですから、429条2項1号ロの計算書類の虚偽記載があるのが普通でしょう。
 そして、429条2項は、1項と比べると、①任務懈怠の立証が不要である、②軽過失でも責任を追及できる、③無過失の立証責任が取締役にあるという点で、有利です。
 しかし、429条2項は、虚偽記載を信頼した第三者を保護するための規定なので、債権者が計算書類を信頼して取引をする等の事情がない限り、適用されません。
 したがって、蛸配当のように会社と株主との間の関係で行われる行為については、残念ながら429条2項は適用されないのです。
 初心者が陥りやすい間違いなので、429条2項の適用場面については、頭の片隅にいれておいてください。

3 まとめ
 以上のように、本問は「預合いと蛸配当」を聞いているものの、少し裏を覗いてみると、
   「資本充実の原則と資本維持の原則」
を聞いているということもできます。
 最初に申し上げたように、「債権者の保護」という共通点と、その保護の仕方の違いを論ずることができれば、それなりの点数にはなるでしょう。
 受験生の皆さんは、預合いの効力や蛸配当の効力について立案担当者が過激な見解を展開しているため(「お前が言うな」という言われそう・・・)、そこに目を奪われがちですが、各制度の内容と趣旨を淡々と論ずることを忘れないことが一番大切です。

(質問コーナー)
Q1
 会社法施行規則124条7号の「当該会社の親会社の子会社」には、「当該会社の子会社」も含まれるというご説明ですが、これに関連してお尋ねします。
 「当該会社の親会社の子会社」には、文理的には「当該会社」も含まれるのではないかと思われます。もし、そうだとしますと、会社法施行規則124条7号の「当該報酬等の総額」として記載すべきものには、同条6号の(当該会社から受けた)「報酬等の総額」も含めるべきであるということになりますが、この理解で正しいでしょうか?(何かこんがらがってきました。)
投稿 みひろ | 2006/12/29 0:49:29
A1
 文理的には、おっしゃるとおりが、他の規定と整合的に解釈すれば、当該会社は含まれないものと解釈すべきです。

Q2
 会社法309条4項の決議が必要な事項が議題とされている株主総会の招集通知は,108条1項3号の定款の定めにより株主総会のすべての事項について議決権を有しないとされた種類株式を有する株主に対しても発することが必要だと思うのですが,この結論を導き出す会社法の読み方を教えてください(結論が違う場合にはその理由を教えてください)。
 以下2つに分けてお答え下さい。
1 298条2項括弧書の「株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主」とは,(a)今回招集される具体的な株主総会において議題とされている事項の全部につき議決権を行使できない株主を指すのですか。それとも(b)抽象的におよそ株主総会で決議することができる事項の全部について議決権を行使することができない株主を指すのですか
2 (a)の場合は表記結論を導き出せるのでいいのですが,もし(b)と考えるのが正しい場合,表記結論をどのように導き出すのでしょうか(298条2項括弧書の「全部」の解釈がまず問題となりそうですが)。
A2
 招集通知は、議決権を有しない株主には、発しません(298条2項かっこ書は、299条も同じとしています)。309条4項の決議が必要な事項が議題とされている場合について、特に除外規定はないので、同じ取扱いだと解すべきでしょう。

Q3
 1月4日Q11で、質問の表現を誤ってしまいました。インターネットで開示したい貸借対照表は設立後の定時総会で承認されたものです。その貸借対照表を(官報による決算公告の代わりに)インターネットで、5年間開示するためのウェブアドレスを、会社設立前に決定して、設立登記と同時に登記したいのですが、その場合の、ウェブアドレスを決定する機関は、設立準備中なので、(非取締役会設置会社ですが、取締役の決定によるではなく)発起人の決定のよるものでしょうか。との質問でした。繰り返しで申し訳ございません。よろしくお願いいたします。
投稿 はりこのとら | 2007/01/07 23:58:50
A3
 そういう意味であれば、公告方法の決定も、設立事務の一つなので、発起人が決めることができると思います。

Q4
 取得条項付株式(107条1項3号)について、質問させてください。
 A株式会社が、全部の株式を取得条項付株式とし、後に一定の事由が生じ、所定の手続にしたがってA社が全株式を取得するとします。この時、A社株主への対価として金銭を交付する場合(同条2項3号ト)、一時的にせよ株主がA社だけとなるように思います。
 かかる状況には違和感がありますし、神田先生も、「〔会社は〕発行済の議決権のある株式のすべてを取得することはできないと解される」とされています(神田「会社法〔8版〕」88頁注3)。
 私の理解はどこが誤っているのでしょうか。
投稿 探偵 | 2007/01/08 11:02:48
A4
 会社法においては、株主がA社だけになる自体を禁止しているわけではありません。
 ただし、そのままでは定時株主総会が開催できませんので、新株発行をする必要があります。

Q5
法として「分配可能額」を定めているのですから、その範囲であれば「問題ない」ことは理解いたします。ただ、株主としては「資本の払い戻し」なのか「利益の分配」なのかが重要であり、株主にそれを十分周知させる法体系になっていないのでは、とお恐れながらご指摘申し上げたいのです。 「業績も良くないのに配当していただいてありがたい」と思っていたら、実は1株あたりの純資産を目減りさせ、会社のオーナー経営者が自己の保有する株式を売却することなくキャッシュを得る手法だった。こんなことなら、配当議案に否を投じたらに、と今回のかかる上場会社の大半の株主が思っているのでは? 
投稿 T/A | 2007/01/08 12:15:29
A5
 その他資本剰余金を配当原資にしても、その他利益剰余金を配当原資にしても、1株あたりの純資産額を目減りさせるのは同じです。どちらを配当原資にするかは、会計的には意味がありますが、それ以上の経済的意味はありません。
 「資本の払戻し」か「利益の分配」かに興味をもつ株主が、どれだけいるかは、分かりませんが、その他利益剰余金とその他資本剰余金の金額は開示されていますし、もし気になるならば、株主総会で質問権を行使してみたらいいと思います。

Q6
連投で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
(1) 募集新株引受人が、払込みにつき会社に対する債権と相殺することは許されませんが(208条3項)、逆に会社から相殺を認めることは可能なのでしょうか。208条3項は「引受人は」と限定されていますが、246条2項と比較すると、できないように思います。
(2) 仮に、(1)につき、会社からの相殺もできないとします。この場合においても、募集新株引受人が会社に対する債権を現物出資(199条1項3号)することは、可能かと思います(207条9項5号参照)。そうすると、混同(民法520条)しますので、相殺禁止の趣旨が没却されてしまうように思います。それでも構わないのでしょうか。

投稿 探偵 | 2007/01/08 17:39:21
A6
 会社からの相殺は可能です。

Q7
サミー先生、Q6(株主総会の決議の省略について)のご回答有難うございます。
要するに319条3項が、「書面」と規定し、「書面の写し」の「閲覧又は謄写」を認めていないのは、株主が多数存在する場合(同意書が何万通もある場合)を想定した会社側の便宜を考慮した規定、とのご回答だと思います。とすると、なぜ319条3項において、債権者を除外したのでしょうか?結論としては、319条の書面等については、債権者は閲覧等の請求権がない、でよいのでしょうか?それとも318条4項の類推適用等の法律構成により、債権者に319条の書面等の閲覧等の請求権が認められるのでしょうか?
以上の点、宜しくお願いいたします。誤解している部分がありましたら申し訳ありません。
投稿 NK | 2007/01/08 23:03:54
A7                                          
 決議の省略の時も、議事録が作成されるので、債権者は、議事録を閲覧すれば十分です。
 同意書面の閲覧は、手間がかかるし、場合によっては各株主のプライバシーにもかかわるので、多数存在する債権者に認める必要はないと判断したものだと思います。

Q8
事業報告の記載事項についての質問です。
監査役に関し、「財務・会計の相当の知見がある者である場合はその旨を記載せよ」との条項が、施行規則にあります。これに関し、もしある監査役についてその旨を記載した場合、万が一のこと(不正会計)が起こったときには、その監査役はそうではない監査役より注意義務のレベルが上がる、つまり責任を問われ(認定され)易くなるのではないか、との意見をときどき聞きます。立案担当者の方々はどのようにお考えでしょうか。
投稿 ぐすたふまら | 2007/01/09 0:39:57
A8
 注意義務が、個々人の能力によって、レベルが変わるという考え方は、根拠もありませんし、不合理だと思います。

Q9
特例有限会社については、株式会社と異なり、「監査役の氏名及び住所」が登記事項となっております(整備法43条1項)。この点について、なぜ、有限会社法では株式会社と異なり、監査役の住所まで登記事項となっていたのでしょうか?
色々考えたのですが、積極的な理由が思いつかないので教えてください。
投稿 NK | 2007/01/09 1:30:15
A9
 有限会社法は、取り残された法律だったので、従来からの取扱いがずっと続いていたのでしょう。

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2007年1月 8日 (月)

【入門】預合いと蛸配当(2)

 前回は、預合いと蛸配当の意義についてお話しましたので、次に、預合いと蛸配当に対する会社法上の制度の内容とその趣旨についてお話します。

1 預合いの禁止の趣旨
 資本充実の原則の記事(http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13029793)で、詳しくお話しましたが、預合いは、設立や新株発行という
    会社に払込金が流入してくる場面
で問題となる事象であり、預合いによって、既存の債権者の債権が、直接、害される(回収不能になる)ことはありません。

 しかし、資本充実の原則の背後には、
  ① 株主になれば,会社財産に対する一定の支配力を持つことになり,その点では,債権者よりも有利な立場に立つのだから,現実に財産を拠出していない引受人には,株主としての権利を行使させるべきではない。
  ② 払込みが行われた場合、資本金(又は資本準備金)の額が増加し、債権者に対し
  「一旦は会社に資本金(又は資本準備金)の額に相当する財産が現実に拠出された」
ことを公示(公告・登記)することになるので、資本金等に対する信頼を保護する必要がある。
という価値観があります。

 預合いは、この①②の価値観からは、
 ① 預合いをした引受人は、自分の資金を拠出せずに払込みを行っているのだから、リスクを十分に負担したことにはならない。
 ② 預合いによる払込みにより資本金の額は増加するが、会社の払込取扱銀行に対する払込金の返還請求権は、借財が返済されるまで行使することができないので、「現実に拠出された」という信頼を害するおそれがある。
という点で問題があるので、
   預合い罪
という罰則により禁止されています。

 また、募集設立において、預合いが行われた場合、払込取扱銀行等には、
   保管証明責任(64条2項)
が生じますが、この保管証明責任も、債権者の保護のために役に立ちます。
 この保管証明責任は、本来
   発起人による払込金の持ち逃げ防止
という「発起人以外の引受人」を保護するための制度です。
 しかし、その制度が存在することにより、会社の債権者が、会社の払込取扱銀行等に対する払込金の返還請求権を代位行使するときに、「返還に対する制限」を対抗されないというメリットを受けるのも事実ですから、その点を指摘する必要はあります。

 もっとも、保管証明責任は、債権者保護自体を目的とする制度ではないため、発起人による持ち逃げ防止を考える必要がない
   発起設立や新株発行の場面
では、保管証明責任の制度はありません。

 そこで、そのような場面で、債権者を保護するための法律構成として、解答例では、
  民法94条2項
を適用しています。
 なお、「預合いによる払込みが有効」(後述)であるということと、「預合いには、虚偽表示が含まれており、その虚偽表示部分は原則として無効である」ということは、別の次元の問題であるというこを、解答例を見て理解してください。
 
<預合いによる払込みの効果>
 さて、預合いによる払込みの効果については、旧法における通説では、「無効」と解されていましたが、会社法の立案担当者である私達は、「有効」と説明しています。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50055555

 旧法では、
  資本金が株式の発行価額をベースに決定されていたこと
  発起人等に引受担保責任が課せられていたこと
から、預合いによる払込みを無効としても、特に問題が生ずることはありませんでした。
 また、先ほど述べた①の価値観、すなわち
  預合いをしたような引受人をに株主としての権利を行使させるべきではない
という価値観から、払込みを無効としたいという側面もあったと思います。

 そして、会社法でも、①の価値観を強調すれば、預合いによる払込みを無効とする考え方(無効説)も、成り立たないわけではないかもしれません。

 しかし、旧商法と異なり、資本金を払込価額をベースに算定し、かつ、引受担保責任を廃止した会社法で、預合いによる払込みを無効とすることは、
   払い込まれた金銭は、会社財産を構成しない。
   払込金は、引受人に返還しなければならない。
   資本金・資本準備金は増加しない
という、債権者にとって厳しい結論を導くことになってしまいます。
 
 「預合いによる払込みという禁止行為をやったのに、なぜ有効なんだ」
という素朴な疑問があることは理解できますし
 「有効説」の方が「無効説」よりも、債権者の保護に厚い
というのは、素朴な目から見ると、一見、奇妙な結論ですが、それは、あくまでも素朴な考え方であり、専門的な考え方ではありません。

 会社法の諸制度についてよく考えてみると、有効説の方が実際に債権者の保護に役立つというのは、極めて当たり前のことなのです。
 払込みというのは
   引受人の個人資産を、会社財産にした上、払戻を禁止する行為
なのですから、会社財産を増やすためには、払込みが多ければ多いほどいいのす(旧法における保管証明責任の考え方は、まさに、そういう考え方です。)

 第2版では、預合いによる払込みが有効であるという理由を詳しく書いていますが、要するに、
  「預合いから債権者を守るためには、有効説しか選択肢はない。」
わけで、正直なところ、私は
  「無効説にたって、どうやって債権者保護をはかればよいのか?」
という点については、想像することもできません(だから、そういう質問をしないでください。)。

 無効説から有効説に対する批判があるとすれば、前述の①の視点から
  払込みを有効とすると、預合いによる払込みをした引受人が株主としての権利を行使することになる。
という点でしょう。

 しかし、その引受人は、払込取扱銀行から借財をして払込みに当てているのですから、リスクを負担して、株主になったわけで、①の視点を強調しすぎるのは、おかしいと思います。
 また、見せ金と異なり、預合いをした引受人は、払込金を自己の借財の返済のために利用していません(利用しようにも、引き出すことができないので、利用できません)。言い換えれば、自己の借財は、自ら返す意思を有しており、会社の資産である払込金を、会社の資産のまま保有する意思を有しているのです。

 以上のように、引受人側から見ると、預合いによる払込みは、払込みの意思の面でも、払込みの事実の面でも、払込みの要件を充たしていますし、会社側から見ても、払込金の返還制限が、保管証明責任等により、無効とされることからすれば、通常の払込みと区別する合理的理由はありません。

 ということで、どこから、どう考えても、預合いによる払込みは「有効」と考えるのが合理的であると思えて仕方ありません。
 実は、私には、無効説の根拠が分からないので、「有効説以外ありえない」と言い切るのには、一抹の不安がありますし
   無効説から、説得的な反論をしてもらいたい。
という期待も持っているのですが、今のところ、私には有効説しか考えられないので、本日もそれをベースに説明しました。

 次回は、蛸配当について説明します。
(続く)

(質問コーナー)
Q1
「蛸配当」の話題ですが、最近の事例で資本剰余金による配当を行った上場会社がありました。
食べてもタコの生命維持に影響ないという点で、「足」は「配当原資」である(≒資本剰余金)と考えた場合(少し無理がありますか?)、今の会社法では「この配当は『足』を食うことによって実施していますよ」、という説明をせずとも良いのが「剰余金配当」の議案の建てつけですよね。
たしかに、B/Sを良く見れば判らないことはないですが、「規範法」たる会社法としてどうでしょう。もちろん、会社の開示姿勢の問題でもあるわけですが・・・。弁護士に聞けば、100人が100人とも「開示の必要なし」と答えると思います。
投稿 T/A | 2007/01/04 23:26:10
A1
 その他資本剰余金を配当減資にすることは、別に蛸足を食っているわけではありません。
 その他資本剰余金は、資本金の減少(債権者保護手続が必要)や自己株式の処分によって生ずるものであり、債権者の保護を図る必要はないからです。
 入門を最初から見てもらえばわかるとおり、資本金にせよ、資本剰余金にせよ、それ自体は、財産ではなく、単なる数字です。株主が食べていいものと、悪いもの(分配可能額を超えるもの)が区別されている以上、それがその他利益剰余金か、その他資本剰余金かを気にする意味はありません。

Q2
「説明責任」について再度質問させてください。
「取締役の株主に対する説明責任」についての質問です。
取締役が規則に従った情報開示をしたにもかかわらず、「説明責任」違反を理由として、株主総会決議が取り消されるという場面は想定できますか?具体例をご教示いただけますと幸いです。
投稿 ろびぞう | 2007/01/04 23:50:43
A2
 規則による開示の問題と、説明責任の問題は、全然、別の問題です。
 したがって、設問の「規則に従った情報開示をしたにもかかわらず」という部分は、何の意味もありません。
 また、前回もお答えしたとおり、「説明責任」は多義的に用いられる言葉ですから、「説明責任違反」という言葉も、法的にあまり意味のある言葉ではありません。
 ただ、例えば、質問に対し、虚偽の説明をして、決議を得た場合には、決議取消事由が生ずる場合もあるでしょう。

Q3
債務超過の疑いのある子会社の解散・清算手続についてご教示下さい。
旧商法下では、当該子会社が債務超過の疑いがある場合、特別
清算開始決定との絡みで、旧商法419条により代表清算人が裁判所
に対して清算貸借対照表を提出する際に親会社の期限付き債権放棄
書を提出することによって裁判所に特別清算開始決定を出さないでもらう
といったテクニックがあったかと思います。会社法では旧商法で定められていた
届出義務がなくなったため、債務超過の疑いがありつつも、特別清算を避け
通常清算を進めるにはどのような方法を取ることが可能でしょうか。
投稿 SMOKY | 2007/01/05 17:34:46
A3
 親会社の期限付債権放棄書だけで、債務超過にならないのならば、会社法でも債務超過にはならないでしょう。それは、テクニックではなく、債務超過の疑いがあるか、ないかという認定の問題ですよね。
 逆に、「債務超過の疑いがあること」(510条2号)の特別清算の要件なので、その要件を充たすならば、特別清算を避けることはできないでしょう。
 大事なのは、「疑い」をなくすことができるかどうかで、「疑いがありつつ、避ける」ことはできません。

Q4
普通株式の一部「転換」についてのご回答ありがとうございます。
私は、たとえ株主の全員の同意があっても、
取得請求権付株式又は取得条項付株式を使わないと普通株式の一部「転換」はできないと考えておりました。
「伝統的な解釈」
(可能であれば、記載箇所を教えていただけますでしょうか?)
の根拠は不明ですが、
一部の普通株式だけを転換することが可能な理由は、
実質的には
それによって害される(可能性がある)株主
の全員の同意があれば可能
という理解でよいような気がするのですが、
形式的な理由(条文上の根拠)がないように感じます。
会社法の立案過程で、
明文の根拠を置かなかった理由はあるのでしょうか?
投稿 初心者 | 2007/01/05 22:35:18
A4
伝統的な解釈に、形式的な理由はないです。
会社法が、明文の根拠を置かなかったのは、きちんとした理屈がつかないからです。
それでも、あえて、伝統を否定するほどのことはないだろうというのが、今の実務の立場だと思います。

Q5
A9についてです。
違法行為差止めの訴えの効力が会社に及ばないという解答でしたが、
民訴115条1項2号の適用がないということでしょうか?
責任追及等の訴えの判決の効力は、同条により及ぶと聞いたことがありますが…
投稿 法学ベイビー | 2007/01/06 1:17:13
A5
株主の取締役に対する違法行為差し止め訴訟は、株主の権利を行使する訴訟なので、訴訟担当ではありません。
したがって、民訴115条1項2号を適用する余地はありません。
責任追及等の訴えは、会社の権利を行使する訴訟であり、株主は、訴訟担当ですから、民訴115条1項2号が適用されます。

Q6
本日は株主総会の決議の省略(319条)について教えてください。
会社法が319条について、意図的に318条と異なる規定の仕方をしているのは、319条が比較的小規模の会社を想定しているから、との理解でよいでしょうか?
具体的には、318条と異なり、① 「支店」での備置義務が規定されていない、② 「債権者」の閲覧等の請求権が規定されていない、③ 「書面の写し」の閲覧ではなく、「書面」の閲覧請求権が規定されている、点は小規模会社を想定するが故の違いである、との理解でよいでしょうか?
議事録に関して別件ですが、会社法で書類等の備置義務が規定されている株主総会議事録等は、登記申請の際、添付書面になることがありますが、登記申請されている間、会社に書類等が備置されていない場合(後日原本還付をするにしても)は、違法になるのでしょうか?(実務ではいつも正副2通作成しております。)
投稿 NK | 2007/01/06 9:10:03
A6
会社が小規模かどうかは、あまり気にしていないのではないと思います。
議事録は写しを簡単に取れるが、同意書面は沢山ある場合があるから、写しを取るのは大変だ、という違いです。
なお、登記申請の添付書面の適法性と、備置は、全く別次元の問題です。

Q7
 基本的なことなのですが、株式分割について1点お聞かせください。
 分割会社となりうるのが株式会社及び合同会社に限られているのは(757条、762条)、なぜなのでしょうか。無限責任社員がいると、何かまずいのでしょうか。
投稿 探偵 | 2007/01/07 11:49:10
A7
 株式分割ではなく、会社分割ですね。
 合同会社しか分割ができないのは、大人の事情です。特に理論的理由はありません。

Q8
1株ダミー株を置いて、残りの株式をすべて全部取得条項付株式にして、会社が株主総会の決議を経て行使した場合を考えます。この時、株式に価格がある場合(例:50万円)、会社が取得する時に配当可能制限(461条4項)が生じるのでしょうか?
100%減資のケースでは、株式の価格は0円なので、会社は対価として何も交付する必要は無く、配当可能制限は生じないと思います。
また、461条の柱書の括弧内を見ると、対価から当該株式会社の株式を除くとなっています。
そこで、株式に価格がある場合でも、対価を株式(例:取得条項付株式)にすれば、単なる株式の交換(普通株式→取得条項付株式)と考えられるので、配当可能制限の考慮をする必要はないと考えてよいのでしょうか?
投稿 サミーさん頑張れ! | 2007/01/07 17:25:51

A8
結論としては、対価が株式ならば分配可能額の制限を受けることはありません。

 なお、質問に基本的な誤解があります。
 まず、株主総会決議を経て「行使した」とありますが、「取得した」ということですね。
 また、「100%減資のケースでは、株式の価格は0円という記述がありますが、100%減資でも、取得する株式も、対価として交付する株式も、その価格が0円になるとは限りません。

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2007年1月 4日 (木)

【入門】預合いと蛸配当(1)

 あけましておめでとうございます。
 正月は家族でスキーに行ったので、ブログをさぼらせて頂きました。
 休み中、一番驚いたのは、はじめてスキーに行った3歳の子供が、数時間の練習だけで、ボーゲンで曲がったり、止まったりできるようになったことです。
 3歳ですから、理屈は何も分かりません。
 「足をハの字にして」と言っても、カタカナを読めませんので、「ハ」の字が分かりません。
 ですから、親やスキー教室の先生が、手で子供のスキー板を押さえて、足をハの字にして、ゆっくり滑らせては、方向転換したり、止めたりするとの繰り返し。
 ところが、数時間、そのようなことをくりかえすうち、「曲がって」と言うと重心をかけて曲がり、「止まって」というと板を広げて止まるようになりました。
 
 実践することの威力を、まざまざと見せ付けられた思いです。

 法律の勉強も、理屈よりも、まず実践。
 初心者が「会社法は難しい」と感じる原因の一つは
  会社の運営と何も関係のない人生を送ってきたので、何を規律しているのかピンとこない                                           
ということが多いような気がします。
 学生さんも、難しい本を読む前に、会社を設立してみたり(キッザニアみたいに模擬でもいいです)、手形をきってみる。
 こうした実際の動きを体感することで、会社の動きが見え、会社法の条文や理論が頭に入りやすくなります。
 私は、「判例を詳しく研究するよりも、そういうことこそ、ロースクールでやってほしいな。」と思います。

 さて、今日は、第13問「預合いと蛸配当」。
 「預合いと蛸配当とは何かを説き、これらを抑制する必要とそのための法律規定を説明しなさい。」
という問題です。

 「預合い」は、仮装払込みの一種であり、「蛸配当」は違法配当の一種ですから、一見、あまり関係なさそうです。
 ところが、前者は、株主が会社に資金を注入する場合の問題(株主→会社)、後者は、会社から資金を流出させる場合の問題(会社→株主)で、ともに
   債権者の保護
という点では共通しています。
 ですから、「預合い」と「蛸配当」について、
  ①それぞれ債権者のどのような利益を侵害し、
  ②その利益を守るために会社法がどのような制度を用意しているか
ということを説明することができれば、及第点です。

1 預合いと蛸配当の意義
(1)預合い
 「預合い」という文言は、965条にありますが、法律用語としては、無茶苦茶あいまいな言葉であり、こんな言葉を、定義もすることなく、しかも、罰則で使うというのは、現代の立法では、100%ありえません。
 一般人に聞いても、意味が分からない人の方が多いと思いますし、私も、勉強したてのころは「あずけあい」と読むことができず
  『よごう』って何だ??
と思っていました。
 しかし、旧商法で「預合」という言葉が用いられ、事件ごとに微妙に表現を変えた裁判例が積み重なってしまったため(しかも、それらに判事された定義は、条文には使えそうにないくらい曖昧なものです)、今更、会社法で定義規定を置くのは難しく、仕方が無いので、そのまま「預合い」という文言が会社法に継承されてしまいました。
 こうした経緯から分かるとおり、「預合い」の意義は、理屈ではなく、「気合い」で決まるものであり、解答例では、とりあえず
  「株式会社の設立時又は成立後になされる株式の発行に際して、発起人又は取締役等が、株式の発行にかなる払込みを取扱う銀行等から借財し、借入金を会社の預金に振り替えることにより払込みに当て、借財を弁済するまでは、その預金を引き出さないことを約束すること等の方法により、株式の発行に係る払込みを仮装する手段のことをいう」
と定義しています。

 長い定義ですが、要するに、発起人等が、払込みをするための資金を払込取扱銀行から借りるときに、「個人の借入金を返済するまでは、会社の預金を引き出しません」と約束することですね。

 この定義を聞くと
   「そもそも、発起人は、財産引受け以外は、会社財産の処分権がないので、64条2項がなくても、会社の預金について発起人がした約束は無効ではないだろうか。」
と疑問に思う人もいるでしょう。
 しかし、設立前は、会社に法人格がないため、払込金は、発起人名義の口座に払い込まれますから、「発起人名義口座からの引き出しの制限は、当該発起人が決めることができる」という考え方もありえます。
 また、代表取締役は、会社の預金の引き出し制限約束をする権限を有していますから、新株発行の時に、代表取締役が預合いをすると、「権限論」で引き出し制限約束を無効にすることはできませんから、設立時と、新株発行時の取扱いを統一的に説明することができる理論構成の方がきれいです。
 ですから、「預合い」の定義を聞いたときに頭に浮かぶ素直な疑問は後回しにして、ここでは、とりあえず「預合い」の定義を暗記してください。

 なお、この預合いの定義については、
① 発起人が、払込取扱銀行以外の者から借財した場合は、預合いに当たるか。
② 発起人が、払い込みをしていないのに、銀行が払い込んだように仮装した場合は、預合いにあたるか。
等いくつかの問題があります。
 個人的には
① 預「合い」という以上、発起人が資金を借りた相手と、預けた相手が同じでなければ、罪刑法定主義に反するおそれがあるので、原則として、発起人が払込取扱銀行以外から借財した場合は、預合いには当たらないと解するべきである。ただし、払込取扱銀行が迂回融資したような場合には、預合いに当たる。
② 罪刑法定主義の見地からすれば、借入れも、払込みもしていない場合は、「預合い」に該当しないと解するべきである。ただし、現代の銀行実務において、貸付けも、払込みも、現金の交付ではなく、預金口座への記帳等によって行われているこうとを考慮すると、現金の動きがない場合であっても、事実認定として、借入れや払込みがあるものと認められ、「預合い」と評価される場合もある。
と考えています。
 まあ、一行問題で、そこまで踏み込んだ説明をする必要はないので、解答例では省いていますが、この2つの問題は、事前に頭を整理しておくべき問題でしょう。

(2)蛸配当
 「蛸配当」という言葉は法律用語ではありません。
 昭和28年の出題とはいえ、法律用語ではない俗語の意味を説明させるのは、いかがなものかと思います。
 特に、現物配当が可能になった会社法においては、受験生が
  「蛸配当とは、会社が蛸を現物配当することをいう」
と解答したとしても、×をつけるわけにはいかないからです(嘘)。

 それはともかく、俗語であろうとも、まともに解答する以上、もっともらしく定義する必要があります。その場合、
  「蛸配当とは、蛸が食べ物がないときに、食べてはいけない自分の手足を食べるように、株主が配当してはいけない財産を配当することをいう。」
と俗っぽく定義するより
  「剰余金の配当により株主に交付する金銭等の帳簿価額が分配可能額を超える場合における当該剰余金の配当をいう。」
と法律的に定義した方が、後に法律論を展開しやすいと思います。

 なお、蛸配当は、違法配当の一種ですが、違法配当の中には、例えば、
  「株主総会の決議が必要なのに、その決議をせずに、配当を行った」
という単純な手続違反の違法配当もあるので、
   分配可能額を超える配当
であることを明確にする定義を書くべきでしょう。

 <次回に続く>

(質問コーナー)
Q1
 私は今、民事訴訟法の「法人の内部紛争における当事者適格」という論点についての論文を書いています。この論点では取締役選任決議取消訴訟などにおいて法人のみが被告適格を有するのか、または直接の利害関係人(当該決議によって選任された取締役)も当事者となれるのかが問題となります。
 しかし新会社法834条17号では株主総会等の決議取り消しの訴えの被告は「当該株式会社」と規定されており、この論点は立法解決されたようにも感じられます。従来は被告適格につき旧商法に明文がなかったために論争が起きていたという理解は正しいのでしょうか。また明文に規定がなされた今でもその解釈や、「当該株式会社」の範囲をめぐっての議論がなされる実益はあるのでしょうか。
 直接会社法に関係する論点ではないのですが、サミーさんのご意見をお聞きしたく質問してみました。宜しくお願いします。
投稿 あんじー | 2006/12/29 0:50:41
A1
 被告適格は、会社に関していえば、立法的に解決されました。
 ですから、議論の実益はないでしょう。

Q2
T&A MasterのNo.192に掲載された記事「種類株式の活用と評価」においては「種類株式自体を相続しなくても、株主全員の同意があれば、相続した普通株式の一部だけを種類株式にすることもできます」とあるのですが、①会社法の条文上の根拠がわかりません。②実質論としては株主全員の同意が必要なことは理解できるものの、具体的な手続きもイメージがわきません。③発行済みの普通株式の一部だけを別の種類に転換することが可能なのでしょうか?
投稿 初心者 | 2006/12/29 22:11:23
A2
 伝統的にできると解釈されているんですよね。それで、それを否定する必要は無いので、今もできるとお答えしているところです。なぜ、できるんでしょうね?極めてラフに言えば、全員の同意があるから、どの株主の利益も害されないということでしょうが、厳密に論証しだすと、なかなか難しい問題があるのです。こういうのが、大人の事情というものでしょう。
 発行済みの普通株式の一部を別の種類に転換することもできます。

Q3
公開会社における募集事項の決定は、原則として取締役会の決議によるとされています(199条1項2項、201条1項)。このような会社法で取締役会決議事項とされているものを、定款によって、株主総会が決すると定めることができるのですか?
某書籍(学者執筆ではありません)には、定めることができると明記してました。
確かに、株主総会が、会社所有者により構成されている事を考えると、そのように定めることができるように思えます。また条文上の295条2項の「定款で定めた事項」との文言からも、できるように思います。
しかし、201条1項は、定款変更の限界を画しているとも考えられます。条文解釈としては、295条2項の「定款で定めた事項」とは、会社法上「別段の定め」を置くことが許された事項に限られると考えるわけです。このような考えは、間違ってますか?
御教示のほど、宜しくお願い致します。
投稿 かなり苦学生 | 2006/12/31 5:29:38
A3
 定款で定めれば、募集事項の決定を株主総会で定めることができます。
 295条2項が根拠です。201条1項が、295条2項を制限する根拠にはなりません。

Q4
会計監査人とか取締役会設置会社の取締役が機関でなくてただの人っていうのの法的根拠って何でしょうか?条文のどこみてもわからないのですが。
投稿 貳 | 2006/12/31 20:47:52
A4
 それは、昔の考え方です。会社法では、「株主総会以外の機関」の中にすべて整理しています。

Q5
12/28のQ2に関連して、①取締役会非設置会社で取締役1名の場合には、348条2項の反対解釈として、(法令または)定款に別段の定めがある場合を除き、当該1人の取締役が株式会社の全ての業務の決定をすることができるということでよろしいのですよね。また、②取締役会非設置会社で取締役が複数存在する場合、348条3項には362条4項には規定されている重要な財産の処分及び譲受けや多額の借財等が掲げられていないのですが、取締役会設置会社で各取締役に委任することができない事項についても、取締役会非設置会社では各取締役に委任することができるという考え方でよろしいのでしょうか。
投稿 ハニャ? | 2007/01/01 21:15:12
A5
①1人のときは、1人で決定します。
②委任できます。

Q6
吸収合併の決議要件(消滅会社)について質問があります。
以下の理解でよいのでしょうか?
吸収合併消滅株式会社(公開会社とする)の株主総会の決議要件について
①発行株式が1種類で、対価が譲渡制限株式のとき
  特殊決議
②発行株式が2種類
  甲種類株式(譲渡制限なし)→対価が譲渡制限株式
  乙種類株式(譲渡制限なし)→対価が譲渡制限株式
 のとき
  「全体総会の特別決議」
    +「甲種類株主総会の特殊決議」+「乙種類株主総会の特殊決議」
③発行株式が2種類
  甲種類株式(譲渡制限あり)→対価が譲渡制限株式
  乙種類株式(譲渡制限なし)→対価が譲渡制限株式
のとき
 「全体総会の特別決議」+「乙種類株主総会の特殊決議」
④発行株式が2種類
  甲種類株式(譲渡制限あり)→対価が譲渡制限株式
  乙種類株式(譲渡制限なし)→対価が譲渡制限なしの株式
  「全体総会の特別決議」のみ
投稿 XYZ | 2007/01/02 23:54:57
A6
 そうです。

Q7
 取締役会設置会社における取締役の権限はかなり制限されてる(というか取締役会に大幅に権限委譲されてる)から機関じゃないとかんがえてもいいのでしょうか?取締役会が存在するからこそ取締役というポストもある、というように。
 それに対して監査役は、監査役会設置会社においても独立の権限は保持されてるから単独の機関としても存在意義があるということになるのでしょうか?
投稿 貳 | 2007/01/03 0:28:18
A7
 取締役会設置会社の取締役も、機関と整理されています。
 取締役会が存在するから、取締役があるのではありません。条文構造上、取締役は、株式会社の必置機関です。

Q8
最近、経営者の「説明責任(アカウンタビリティ)」という言葉を耳にするのですが、この議論は法解釈論的にはどう位置付ければよい議論なのでしょうか?
たとえば、「説明責任」に違反すると、役員等の損害賠償責任を生じさせたり、あるいは、株主総会決議の取消事由になったり…ということはあるのでしょうか?
私の理解では、結局は、「善管注意義務」の議論に解消されるように思うのですが、このような理解でよろしいのでしょうか?
また、施行規則ではかなり「情報開示」が進んでいるように思いますが、このような規則を遵守してもなお「説明責任」が問われる場面というのは想定できますか?
投稿 ろびぞう | 2007/01/03 3:40:12
A8
 説明責任は、誰に対するどんな場面の説明責任なのかによって、法的意味が全く違います。
 施行規則を遵守しても、「説明責任」が問われる場合は山ほどあるでしょう。

Q9
 未熟なロー生ですが,違法行為差止請求権(360条)についてご教授ください。
 一問一答(Q219)によれば,違法行為差止請求について濫訴防止規定(例えば,847条1項但書き)がないのは,「個々の株主が有する実体法上の差止請求権の行使」であるから、その訴えの提起を制限することは、裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の点から妥当でないから,とされています。
 そうすると,株主による違法行為差止の訴えの判決効は,会社にも及ぶのでしょうか。株主を「法定訴訟担当」と見ると,判決効が会社にも及ぶのは分かるのですが(民訴115条1項2号),株主が有する固有の権利と捉えると,どのようになるのでしょうか。
投稿 イロハ | 2007/01/03 17:05:00
A9
 取締役に対する違法行為差し止めの訴えの判決の効力は、会社には及びません。
 
Q10
事業譲渡について債権者保護手続がないので、債権者をどう保護すればよいのか、自分で考えた以下の事例で教えてください。
資産:50、負債:40の会社が資産50部分のみの事業譲渡を行った場合で、譲受人が譲渡人の商号を利用しないとき。
考えられる債権者の保護は、詐害行為取消権(民423条),です。しかし、詐害行為時に債務者の無資力が必要であると判例はしています(大判大正15年11月13日)。上の事例では,詐害行為時=事業譲渡時には資産+10の超過なので、詐害行為取消権を行使できないことになり、債権者は口をくわえたまま事業譲渡が行われるのを見るしかないのか。そうすると、おかしな感じがします。
投稿 たけし | 2007/01/03 19:02:58
A10
当該行為により債務超過になるならば、詐害行為です。

Q11
 発起設立で、公告方法は官報掲載を採用するときの株式会社が、設立当初に、貸借対照表をインターネットで開示することとする場合、ウェブページのアドレスを決定するのは発起人でしょうか。また、発起人が複数のときは、その過半数の一致で決定できるのでしょうか。
投稿 はりこのトラ | 2007/01/03 22:00:44
A11
 成立時の貸借対照表は、公告義務がありません。そのため、それは、公告ではなく、成立後の会社の業務執行者が行う単なる情報開示なのではないでしょうか?いずれにせよ、発起人ではないですね。

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2006年12月31日 (日)

【入門】設立と新株発行(2)

 大晦日です。
 つらいことを忘れるために「今日は、つらかった今年の最後の日だ」と考えるもよし、
 気合をいれるために「明日からは、勝負の年が始まる」と考えるもよし。
 何かと区切りにしやすい日です。

 30日から31日にうつるのも、31日から1日にうつるのも、時の流れは平等なように見えますが、人間にとって、「時」は、物理的なものではなく、精神的なものだということを忘れるべきではありません。

 「年を取れば時が立つのが早くなる」
 「仕事に集中していて、あっという間に時が過ぎた」
 「ボーッとしていたら、いつの間にか朝だった。」
 「ピッチャーの投げたボールが止まって見える」
などなど、人の精神によって、時の流れは変化します。
 
 原稿の締め切りに追われる私がいうのもなんですが、時を味方につけて、時をコントロールすることを心がけると、きっと来年は、充実した一年になると思います。
 
 さて、今日は役所が休みなので,質問コーナーはお休みさせていただき,設立と新株発行の残りを片付けたいと思います。

前回は、解答の全体像を説明しましたので、本日は、設立と新株発行の手続に差異をもたらす
  資金調達の迅速性
  株主の保護
という二つの視点について、もう少し詳しく説明します。

2 迅速性
 設立にせよ、新株発行にせよ、手続で、一番問題になるのは
  資金調達の目的を達成することができない場合に、手続きをどうするのか
という点です。
 
 「資金調達の目的を達成することができない」場合には、2つの場合があり、一つは
   目標の資金が調達できる見込みがなくなった場合
であり、もう一つは
  予定している期限までに、目標の資金が調達できない場合
です。

 例えば、サミーさんが11月1日に「12月28日発売のドラクエMJが発売されるらしい。」という情報をつかみ、「もし発売日に買うことができれば、ヤフオクで高く転売できるから、どうしても、12月28日までに買付資金がほしい。」と考えたとしましょう。
 この買付資金を調達するためには、銀行から借り入れをしたり、社債を発行したり、株式を発行したり、いろいろな方法がありますが、そのような資金調達行為をするための手続自体に、多大な時間が必要とされるのではな、タイムリーな資金調達はできません。
 
 また、手続が迅速に開始できたとしても、資金を提供してくれる人が見つからなかったり、資金を提供してくれる予定の人が28日までに資金を提供してくれなかったら、資金調達手続きを続けてもあまり意味がありません。
 「時は金なり」というように、必要な時機を逃し、コストに見合うだけの利益を得られる見込みが無いならば、無用な資金調達自体をやめるか、利益を得ることができるように資金調達の条件を変更したりする方が賢明なのです。
 このように
   資金が必要な時期に、迅速に資金調達の手続きをすることができるようにしたい。
   必要な時期までに資金が集まらなかったら、資金調達の全部又は一部を打ち切りたい。
ということを「資金調達の迅速性」の要請といいます。

 設立にせよ、新株発行にせよ、資金調達を目的とするのならば、ある程度、資金調達の迅速性を確保したいというのは当然でしょう。

 しかし、「早ければ早いほどいい」というわけでもありません。
 手続を考える上では、
  「迅速にすることによって、利害関係者の利益が害されることがないか」
ということを慎重に考える必要があります。

 例えば、株式を発行すれば、引受人に株主としての権利が付与されますから、持株比率は変わるのが普通です。
 持株比率は、会社の支配のあり方に大きな影響を与えますから、本来、出資者である株主が「自分達で決めたい」と思うことも多いでしょう。
 しかし、株主総会を開催するためには、コストも時間もかかりますから、株式発行のために株主総会が必要であるというルールは「資金調達の迅速性」という視点からはマイナス要因です。

 そこで、会社法は、迅速な資金調達の要請と、株主保護のバランスを、次のような制度を設けることで図っています。

(1)設立時
 設立は、会社のはじまりで、まだ事業が始まっていないので、資金調達の迅速性は弱く、むしろ、株主となる発起人や引受人の保護を重要視しています。

① まず、発起人は、これからやろうとする事業の規模を考えて、どれくらいの資金が必要かを割り出し、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(設立時出資額・28条4号)を決めます。
 この設立時出資額に見合う資金調達ができないうちに、会社を見切り発車しても、会社は潰れてしまう可能性が高いので
  設立時出資額に見合うだけの出資がされるまでは、設立することができない。
というルールが採用されています。
 言い換えれば、資金調達の迅速性よりも、会社の健全な設立を重視しているわけですね。

② また、設立手続は、「公開会社にするのか、非公開会社にするか」、「どんな種類の株式を発行するのか」「どのようなパワーバランスで株主を構成するか」などの資本政策を決定する機会でもあります。
 この資本政策の決定は、会社設立の企画者である発起人が行います。
 つまり、発起人は、全員で、株式の内容を定め(26条1項、28条)、また、誰が、いくらで、何株の株式を引き受けるか等設立時株式の発行に関する事項を定める権限を持っている(32条等)のです。
 「資金調達の迅速性」を考えると、発起人全員ではなく、多数決で決めた方が早く決まりますが、設立における資本政策はそれぞれの発起人にとって非常に重要なので、発起人全員の同意が必要とされています。

③ さらに、発起人が、責任をもって設立手続をするように、発起人は、必ず出資して、一株以上の株式を引き受けなければいけません(25条2項)。これは、「設立手続きが失敗すれば、自分も損をする」という立場に発起人を立たせて、まじめに設立手続きをさせようという趣旨の規定です。
 ところが、この25条2項があるため、発起人の一人が資金不足等の理由で出資の履行ができず、株式を引き受ける権利を失うことになれば、そのままでは、会社の設立手続を継続することができません。そのような場合には、発起人全員の同意により、出資をしなかった発起人の引き受ける株式数を減らしたり、その発起人を外して、定款を作り直したりするなど面倒な手続きが必要です。

 ①発起人が株主となる権利を失って設立手続が混乱するのはできるだけ回避した方が望ましいですし、②先ほどお話ししたように資本政策の決定は発起人全員の同意によって行うので、発起人から株主となる権利を奪うのは慎重な方がよいことから、発起人が出資の履行をしないときは、「失権手続」をして、はじめて株主となる権利を失うこととされています(36条)。逆に言えば、失権手続きをしない限り、出資の履行をしなくても、株主となる権利は失われません。

 失権手続といっても、難しい手続きではなく、発起人が、出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日の2週間以上前に「○月○日までに出資の履行をしなければならない」と通知するだけです。
 この通知をしたにもかかわらず、○月○日までに発起人が出資の履行をしないときには、その発起人は、設立時発行株式を引き受ける権利を失うのです。

 この失権手続も、「資金調達の迅速性」よりも、他の政策目的を優先させた制度の一つです(ただし、発起人が一株も引き受けていないにもかかわらず、何らかの事情で設立の登記がされた場合には、発起人は、「設立時発行株式を取得する権利」を失います)。

 なお、この失権手続は、募集設立における
    発起人以外の引受人
については、適用されません。発起人以外の引受人は、払込期日又は払込期間内に全額の払込みをしなければ、当然に、株主となる権利を失うこととされています(63条3項)。
 このように払込みをしない引受人がいる場合や、そもそも引受人がみつからないような場合に、そこで募集手続を打ち切って、それ以外の引受人についてだけ株式を発行する方式を「打ち切り発行」といいます。
 設立においては、設立時出資価額は確保しなければならないので、純粋な打ち切り発行ではありませんが、
  一部の引受人が出資をしないからといって、発起人等の出資の履行によって設立をすることができるならば、設立を禁止する必要はない
という考えかたから、一種の打ち切り発行方式を取っているのです。
 
(2)新株発行
 ① 新株発行をするときは、最初に、募集株式の数(199条1項1号)や払込金額(同項2号)を定めますが、その募集株式の数の全部について引受人が決まらなくても、引き受けられた株式だけで、株式が発行されます。
 また、引受人が、払込期日又は払込期間内に払い込みをしなければ、失権手続きをすることなく、株主となる権利を失います(208条5項)。
 すなわち、新株発行では、典型的な打ち切り発行方式が採用されています。
 これは、(1)設立の①③と比べてみればわかるとおり、これが設立と新株発行との一番大きな違いです。

 会社法が、新株発行において、このような手続を採用しているのは、「資金調達の迅速性」を優先しているからです。
 言い換えれば、会社が、一旦成立して自立的な活動を行っている以上、払込期日・払込期間内に予定通りの資金が調達できなかったとしても、
   とりあえず調達できた分だけ新株を発行し、不足額は、別の資金調達手段を考えた方がよい
という考え方を取っているのです。

② また、新株発行において、募集事項は、株主総会や取締役会の多数決で決定しますし、(全員の同意ではありません)、特に、公開会社では
   取締役会
が募集事項の原則的な決定機関になっています。
 株主総会を開催するのは大変なので、募集事項の決定を迅速に行うことができるようにすることが目的です。

 このように新株発行は、設立と比べて、資金調達の迅速性を確保するという点から様々な手続きを整備しているのが特徴です(なお、無効の訴えの提訴期間の長短という違いもありますが、それは100問でその趣旨を調べてください)。

4 株主の保護
(1)設立時
 先ほど説明したとおり、設立時には「発起人」の意思を尊重する手続きが採用されています。
 また、設立時に株主となる発起人や、それ以外の引受人の間の「平等」が図られることも重視されています。
 このうち発起人は、自ら設立事務を行い、全員の同意で定款を定め、全員の同意で設立時発行株式に関する事項を定めますから、他の発起人との平等の確保を自分の力で実現することができます。
 これに対し、発起人以外の引受人は、設立手続を自分で行わないので、他の引受人との平等が確保されるような法的な手当てが必要です。
 そこで、設立時募集株式の募集の条件は、当該募集ごとに、均等に定めなければならないこととされています(58条3項)。

(2)新株発行
 新株発行でも、新株の引受人間の平等が図られる点では、設立と共通しており、新株発行においても、募集事項は、募集ごとに、均等に定めなければならない(199条5項)というルールが定められています。

 他方、新株発行では、設立時と異なり
   既存の株主の利益
を保護する必要があります。
 具体的には、既存株主の
  ①議決権比率
  ②一株の経済的価値
を保護の対象となります。

 例えば、発行済株式総数100株(純資産額100万円・1株あたりの純資産額1万円)の会社でサミーさんが51株、代表取締役の松真さんが49株保有しているとしましょう。
 このとき、代表取締役の松真さんが、1株1000円で3株の新株発行をして、自分で引き受けたとすると、松真さんは
 ① サミーさんの議決権比率を低下させる50%未満にした。
 ② 1株あたりの純資産額が1万円あった株式を1万円未満にした。
という2つの不利益をサミーさんに与えることになりますから、この不利益をカバーする手続きを設ける必要があるのです。

 そこで、会社法は
  a-1 非公開会社では、議決権比率維持の利益を保護し、募集事項を株主総会の決議で決定する。
  a-2 公開会社では、定款で定めた発行可能株式総数の範囲内では、原則として議決権比率維持の利益を保護せず、取締役会が募集事項を決定するが、発行可能株式総数で歯止めをかけている。

  b 非公開会社か、公開会社かにかかわらず、一株の経済的価値は保護する(公開会社でも、有利発行については、募集事項を株主総会で決定する)。
という整理をしています。

 こう説明していると、「既存株主の保護」という別の要請がある分だけ、設立よりも、新株発行の方が、株主の保護に厚いように勘違いされるかもしれませんが、先ほど説明したとおり、設立では、発起人の意思を尊重するため、株式の発行に関する事項等は、発起人全員の同意によって定められますから、手続の面からは、設立の方が株主(になる人)の保護に厚い面があります。
 ですから、
   資金調達の迅速性の確保の見地から、新株発行の手続きを、設立よりも簡易にしているが、「既存株主の保護」の見地から、一定限度、歯止めをかけている
というイメージの方が正しい理解だと思います。

 既存株主の保護のためのオリジナルな制度といえば
   株式発行の差し止め請求権
があげられると思いますが、これも
  設立時には、発起人の全員の同意によって、株式の発行に関する事項が決められるから、差し止め請求権を認める必要がない
というだけの話であり
  株式の発行を株主総会や取締役会で決めることにした反面で、株主の保護の見地から、新株発行に歯止めをかけるために設けられた制度
なのです。

5 まとめ
 資金調達の迅速性と株主の保護という2つの視点で、設立と新株発行を比較をしてみましたが、最初にお話したとおり、これが唯一の答案構成ではありません。
 ただ、以上の説明でも分かるとおり
 (1)設立と新株発行は、資金調達の迅速性の要請の有無が一番大きな違いである。
 (2)株主(となる者)の手続的保護は、設立の方が強いが、新株発行は、既存株主の保護のための制度が設けられている。
 (3)設立も新株発行も、債権者の保護手続きは用意されていない。
ということを理解した上で、論述していくことが大切です。

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2006年12月26日 (火)

【入門】設立と新株発行(1)

 クリスマスの夜は更けました。
 皆さんは、愛に囲まれた幸せな一夜を過ごされていますでしょうか。

 私の若い頃のクリスマスは、バブっていました。
 男も女も、本命・対抗・大穴のランクに応じて、クリスマス、イブ、イブイブと沢山の人とデートするのが「使命」であり、イブの昼と夜と深夜に、それぞれ別の人とデートするのが「達人」として賞賛されていました。
 逆に、クリスマスを一緒に過ごす人がいない者たちは、周りから、まるで人生の敗北者のごとく迫害されるので、26日になるまで、物陰に隠れながら過ごしたものです。

 バブルがはじけて約20年。
 「クリスマス=愛を深める日」という風潮はあいかわらずですが、以前に比べると、世間も、私の周りも、かなり健全になったような気がします。

 今の私にとって、クリスマスの喜びは、子供達の笑顔。
 朝、子供達が、ベッドから飛び起きて、クリスマスツリーに駆け寄り、プレゼントを見つけるなり
  「あっ、サンタさんが来てる!!」
と嬉しそうな声をあげるのを聞く瞬間が、私の至福の時です。
 あと何年、こうした楽しいクリスマスが迎えられるか分かりませんが、人と人のふれあいの中で、相手を大切に思う気持ちがあれば、最適の「愛」の形が見つかるはずです。
 家族愛も、人類愛も、ジャイアンツ愛も、皆同じです。
 残念ながら、会社法には「愛」という文字が入っていませんが、
   取締役と株主は、相互に愛をもって接しなければならない。
とかいう条文ができれば、会社法の印象が少しは改善するでしょうか?

 余談はこれくらいにして、今日は、第11問の「設立と新株発行の比較」について、お話ししましょう。

問題 「会社の設立に際して株式を発行する場合と、会社の設立後に資金調達を目的として株式を発行する場合とで、どのような差異があるか、また、どうしてそのような差異が設けられているかを論ぜよ」

この問題文に対し、端的に答えると、次のようになります。

1 差異
(1)発行する株式の内容等の決定手続き
  設立時:発起人全員の同意
  設立後: 公開会社 原則 役会決議
            例外 有利発行
      非公開会社 原則 総会決議
(2)失権手続の有無
  設立時:発起人については失権手続あり(その他の引受人については、なし)
  設立後:失権手続なし
(3)無効等の争い方
  設立時:設立無効の訴え
       提訴期間:2年
  設立後:株式発行無効の訴え
    公開会社:提訴期間6か月
   非公開会社:提訴期間1年
(4)差し止め請求権
  設立時:なし
  設立後:あり

2 差異が設けられている理由
 A 迅速性の要請 ・・・(1)(2)(3)について
  設立時:それほど迅速性は要求されない。
  設立後;すでに事業を営んでいる会社の資金調達のためのものなので、迅速性が要求される。

 B 既存株主との利害調整の要請・・(1)(4)について
  設立時:既存株主は存在しない。
  設立後:既存株主が存在するので、持株比率と経済的利益の維持を図る必要がある。

 以上を見ても分かるとおり、この問題は、それなりに拾い出すべき制度が多いので、受験生が実際に解答するときには
   差異(制度上の違い)を、もれなく拾うことができるか。
という点で結構な点差がつくと思います。

 また、ある程度、制度を拾えたとしても
 ① 手続きの差異が、設立時 VS 設立後の視点だけではなく、公開会社VS非公開会社等という視点から生じているものが多いので、この問題で、後者の視点をどの程度説明するか
 ② 制度の差異を述べて、淡々とその理由を書いていく方がわかりやすいか、理由ABという視点で、差異を2つに分類して説明する方が分かりやすいか
 ③ 理由Aに基づく手続上の差異と理由Bに基づく手続き上の差異を、どのように振り分けて、説明するか
等という点は悩むところです。

 会社法は、いろいろな種類の株式会社(公開VS非公開、取締役会設置VS非設置等)があるので、単一の視点で制度を分類して説明するのは、案外難しい場合が多いので、受験生が、試験本番で、見知らぬ制度間の比較をさせられるときには、整理のための「視点」を発見することに拘らず、制度の違いを淡々と述べる方がよいかもしれません。

 しかし、100問の解答例は、少しでも分かりやすくするために
   迅速性の要否から生ずる差異
   既存株主の存否から生ずる差異
に分けて、制度上の差異の内容を説明することにしました。

 どちらの答案構成でも構わないのですが、答案を書いているうちに
   設立時VS設立後の株式発行
という問題が
   発起設立VS募集設立
になったり
   公開会社VS非公開会社
になったりしないように注意する必要はあるでしょう。

 今日は、クリスマスの話題を書いているうちに、遅くなってしまったので、具体的な解説は次回に続きます。

(質問コーナー)
Q1
 本日は社外取締役の責任限定契約と社外取締役の登記義務について教えてください。
社外取締役等との責任限定契約(427条1項)ができる定款の定めがある会社において、社外取締役(2条15号)の要件を満たす取締役は、責任限定契約を締結していなくても社外取締役の旨の登記(911条25号)をしなくてはならないのでしょうか?視点を変えてお聞きすると、責任限定の定めの登記(911条24号)がされている会社において、取締役5名(ABCDE)のうちEのみ社外取締役の登記がなされている場合に、当該会社の登記事項証明書を見た場合、ABCDは社外取締役ではないと判断できるものでしょうか?
以上の点、宜しくお願いいたします。
投稿 NK | 2006/12/22 1:06:36
A1
 責任限定契約を締結しない場合には、社外取締役である旨の登記は不要です。
 したがって、ご質問の場合には、ABCDについて、「社外取締役ではない」という判断はできません。もしかしたら、社外取締役かもしれません。

Q2
 特例有限会社に関する整備法の規定に関してお教えください。
 郡谷氏編著の『中小会社・有限会社の新・会社法』P208によれば,特例有限会社の監査役の解任決議の決議要件は普通決議だとされていますが,なぜ,特例有限会社において累積投票で選任された取締役の解任の決議要件は特別決議であるのに,監査役の解任の決議要件は普通決議なのでしょうか?監査役について通常の株式会社と異なり,一方で,取締役について旧有限会社とも異なる規律にした理由をお教えください。
投稿 たつきち | 2006/12/22 1:30:29
A2
 大人の事情としかいいようがありません。

Q3
取締役会への報告の省略について、ご教示ください。
施行規則101条4項2号ロにおける「取締役会への報告を要しないものとされた日」とは、千問Q510を類推解釈して、通知が到達した時(通常到達した時を含む)になるのでしょうか?
取締役会議事録作成の実務を考えると、施行規則101条4項1号ハにおける「取締役会の決議があったものとみなされた日」とそろえておきたいのですが、通知を受けたことに対する期限付き意思表示を行うことによって日付をそろえるのは、無理がありますか?
投稿 としお | 2006/12/22 11:46:13
A3
 千問の類推解釈というのは、ちょっと笑えますが、通知が到達した日(通常到達した時を含む。)というのが妥当なところのように思います。
 なお、通知を受けることは、意思表示ではないので、「期限付き意思表示」という意味が分からないのですが、通知の効力発生時期について、特約をするということなのでしょうか?オウンリスクでということなのでしょうね。

Q4
非公開会社の募集株式発行承認の株主総会議案例として、199条1項にある募集事項と一緒に(同議案内で)割当者とその割当数まで決議しているものを見かけましたが、取締役会非設置会社の場合、この議案だけで第三者割当の際に必要な204条2項の「割当の決定もした」といえるのでしょうか?
私は、204条が「株式会社は、申込者の中から~」となっているので、第三者割当の場合「203条の申込の手続を経ずして204条の割当はできない」と勝手に解釈しているのですが・・・。
上記のような決議だけで手続が有効になるケースは、総会前に決議成立を条件に(もしくは決議後に)割当者と総数引受契約をする場合だけで、それ以外は上記の決議後、203条の手続きをして、改めて別の議案、もしくは別の回の総会で再度割当を決定しなくてはいけないと思っているのですが、この考え方で合っていますでしょうか?
投稿 かーご | 2006/12/22 16:44:14
A4
 実務上は、総数引受契約になっている場合もあるでしょうし、総数引受契約ではなくても、募集決議がされることを条件として、事前に申し込みをすることも可能なので、1回の株主総会で、募集決議と割当決議を続けてやることも可能です。

Q5
サミー先生、昨日21日(木)のQ10(A10)で回答いただいたことの続きなのです
が、A10でご回答いただいた①の計算規則の条文を教えていただけないでしょう
か。
また、黒字会社が赤字会社を吸収合併することによって、赤字会社で生じていた
欠損を引き続き存続会社である黒字会社で引き継ぐことができるでしょうか。
以前とは異なって税務上の取扱いが変更になり、このような場合も欠損を引き継
ぐことができるようになったとも聞いたため再度うかがう次第です。
投稿 DAN | 2006/12/22 17:59:11
A5
 組織再編をめぐる会計処理は、単純に計算規則の条文を示すだけでは誤解を生みますので、計算規則の詳解等の本を読んで勉強していただければ幸いです。

Q6
 19日のQ5のご回答に簡易・略式再編の要件を満たす場合には総会決議での承認は無効というようなご回答がありましたが、そういう意味でしょうか。
 もし、そうであれば、実務に大きな影響があります。登記でも100%親子の合併等において子会社の総会議事録を添付したら却下されてしまいます。実務では要件には該当するが、総会決議を経て確実な決定をしたということも多いですし、資産規模が20%前後で微妙な案件もあります。
 条文では「(総会承認の規定を)適用しない」とありますが、総会承認の規定には「(承認を)受けなければならない」ですから、「適用しない」とは総会の承認を受ける必要がない」という意味で、商法時代の解釈と変わらないと考えてはいけないでしょうか。商事法務1753号37頁以下の相澤・細川氏の解説文にも「総会の決議を省略することができる」とか「要しない」という表現を使っています。
投稿 司法書士K | 2006/12/23 13:02:15
A6
 簡易・略式再編の要件を充たす場合には、総会決議は無意味なので、それをやってもやらなくても、その再編行為は有効です(さらに言えば、その総会決議が他の要件で無効・取消しになっても、再編は有効です)。ですから、実務的には、何の影響もありません。

Q7
1 株式交換において、完全親会社となることができる会社を株式会社と合同会社に限る(2条31号)としたのはなぜか?
(株式を交換するんだから、株式会社に限る、と規定していれば分りやすいのですが、なぜ合同会社にも認めるのかが分りません。対価の柔軟性が許容されている会社法では、合同会社にも株式交換完全親会社となることを認めるとしても、なぜ合名・合資会社を認めないのかが分りません。)
2 株式移転において、完全親会社となることができる会社を株式会社に限る(2条32号)としたのはなぜか?
(なぜ持分会社を認めないのか、株式交換と異なり、なぜ合同会社を認めないのかが分りません。)
以上の質問は、葉玉先生時代に一部既出の質問なのですが、葉玉先生は「大人の事情」とのご回答でした。「大人の事情」=法務省の対内的政策理由と受け止めましたが、対内的政策理由はともかく、対外的政策理由(法務省が国民に説明するときの理由)について教えてください。
A7
 大人の事情というのは、「対内的政策理由」ではなく、「政治的な配慮で決まったものであり、理屈ではない。」という意味です。はっきりいって、法務省の対内的政策理由なんてものは、悲しいくらい何もありません。税収確保という発想は、会社法グループにはないし(むしろ、どうやったら税金が安くなるかと考えているかもしれません)、経産省や検察庁から来た人がいたにもかかわらず、経産省や検察庁への配慮もほとんどあまりません。

Q8
会社法298条第1項各号に掲げる事項は、その全部を一度の取締役会において決定しなければならないのでしょうか。
会社法施行規則67条には、「法第298条第1項各号に掲げる事項の全部を決定した日」という表現があり、部分的に日を改めて決定するケースも予定しているようなので、
全部を一度に決定する必要はないと考えていますが、それでよいでしょうか。
投稿 サラリーマン | 2006/12/24 1:05:19
A8
298条1項各号に掲げる事項を、数回の取締役会に分けて決定することもできます。

Q9
サミー先生、種類株式について以下の点につき教えてください。
1 甲種類株式(剰余金に関して優先的内容があり、取得請求権付。但し、取得請求権の対価は、金銭による時価)と乙種類株式(普通株)を発行している公開会社において、乙種類株式に譲渡制限を設定した場合に、甲種類株主総会の決議は必要か?
2 不要だとすると、条文上の根拠は、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」(322条1項本文)には該当しないから、でよいか?
3 必要だとすると、条文上の根拠は、「株式の内容の変更」(322条1項1号イ)に該当し、かつ「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」(322条1項本文)に該当するから、でよいか?
以上の点について宜しくお願いいたします。
投稿 NK | 2006/12/24 14:08:36
A9
 具体的なあてはめなので、具体的な条項を見ないで答えるのは危険ですが、ご質問の場合には、通常は、甲種株式には、損害を及ぼすおそれはなく、甲種株式の種類株主総会はいらないのではないでしょうか。

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2006年12月21日 (木)

【入門】資本三原則(5)

4 資本維持の原則
 前回,資本維持の原則について誤解を生じやすい点について,説明しました。
 今日は,資本維持の原則によって制限を受ける「剰余金の配当」について,基本的な理解を深めてもらいたいと思います。

(1)「出資の払戻し」と「剰余金の配当」の意義
 何度も書いてきましたが,株式会社の債権者は,出資財産について,株主よりも優越的な地位にあります(「株主は,出資財産について,債権者に劣後する」と言っても同じことです)。
 そのため,株式会社では,持分会社と異なり,「出資の払戻し」をすることができません。

 この「出資の払戻し」というのは,資本金を原資として,株主に会社財産を交付することをいいます。
 たとえば,松真さんが,株式会社正直法務に1000万円を出資した場合
  現金 1000万円 資本金 1000万円
という会社になり,その後,正直法務が,商売で200万円を儲けて
  現金 1200万円 資本金 1000万円
           その他利益剰余金 200万円
という会社になったとしましょう。
  ここで,松真さんが,「株主として,正直法務から100万円貰いたい」と考えたとき,正直法務は,どのような行為ができるでしょうか。

 このとき,初心者の皆さんは,正直法務が,松真さんに現金100万円を渡すのだから,単純に,現金を減らして
  現金 1100万円 資本金 1000万円
            その他利益剰余金 200万円
の会社にすればよいと思うかも知れませんが,会計の世界では,「複式簿記」というものがあるため,
   そういう会計処理はできません。

 複式簿記とは,Wikipediaによれば,「すべての簿記的取引を、資産、負債、資本、費用又は収益のいずれかに属する勘定科目を用いて借方(左側)と貸方(右側)に同じ金額を記入する仕訳(しわけ)と呼ばれる手法により、貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理する方法」のことをいいます。

 詳しくは,WIkipediaを見て貰えばいいのですが,ここで,ちょっと乱暴な説明をすれば,複式簿記では
   現金という資産(借方・左側)を減らすときには,貸方(右側)も何か減らさなければならない
というルールがあるということを覚えて貰いたいのです。

 例えば,先ほどの例で,正直法務が,株主である松真さんに,売買等の取引とは無関係に,現金200万円を交付したいのならば,貸方の「資本金」か,「その他利益剰余金」のどちらかを減らさなければいけません。

 このように株主に対して現金を支払うときに,減らす「貸方」のことを一般に「財源」と呼んでいます。
 「財源」というと,一般には
   パソコンを買いたいけど,俺には財源がないからなあ。
という風に,「現金を調達する方法」という意味で使ったりしますが,配当等においては,「財源」というのは,「現金を減らすのに対応して,どんな科目を減らすか」という会計的な意味で使われることがほとんどです。

 さて,先ほどの例で,松真さんが正直法務から200万円を返してもらうときに,仮に、「資本金」を財源とすることができるとすれば
 (借) 資本金100万円  (貸) 現金100万円
という仕分けがされて(複式簿記では,借方(左)の科目を減らすときには,貸方(右)に書き,貸方の科目を減らすときには,借方に書きます),正直法務は
 (借) 現金1100万円 (貸)資本金900万円
                その他利益剰余金200万円
の会社になります。
 これを見ると,借方と貸方は,どちらも合計1100万円で金額がそろっているので,複式簿記としては問題がなさそうですが
  資本金を財源として,株主に金銭を交付する行為は「出資の払戻し」と呼ばれ,株式会社では禁止されている
ので,このような処理をすることはできません
 (ちなみに,持分会社では,合同会社を含め,すべて出資の払戻しをすることができます)。

 これに対し,株式会社正直法務が,「その他利益剰余金」を原資として,松真さんに現金100万円を交付するとすれば
 (借) その他利益剰余金 100万円 (貸) 現金 100万円
という仕分けがされて(説明を簡単にするため、利益準備金の計上などの話は省略します)
 (借) 現金1100万円  (貸)資本金1000万円
                 その他利益剰余金 100万円
の会社になります。
 このように「剰余金」を原資にして株主に現金を交付することを「剰余金の配当」と呼んでいます。

(2)「剰余金の配当」と「利益配当」
 この剰余金の配当は、旧商法では「利益配当」と呼ばれていました。
 しかし、「利益配当」という概念は、
  「その他資本剰余金」を原資とする配当ができるか?
という疑問を生じさせます。

 そこで、会社法は、「その他資本剰余金」を原資とする配当をすることができることを明らかにするため「剰余金の配当」という文言を用いることになりました。

 ところで,「その他資本剰余金」とは,どんなものなのでしょうか。
 「その他資本剰余金」は、資本金の減少や自己株式の処分をした場合等に生ずる剰余金です。
 例えば、先ほどの例で、100万円の配当後に、正直法務が、500万円の資本金の減少(減資)をしたとしましょう。
 その場合
 (借)資本金500万円 (貸)その他資本剰余金500万円
という仕分けがされて
 (借)現金1100万円 (貸) 資本金500万円
                 その他資本剰余金500万円
                 その他利益剰余金100万円
という会社になります。
 この場合,正直法務は、「その他利益剰余金」を原資とする100万円のほかに,「その他資本剰余金」を原資として500万円の「剰余金の配当」をすることができます。

(3)分配可能額と「剰余金の配当」
 以上の理解を前提に,なぜ分配可能額による剰余金の配当制限(財源規制と言われます)がされているのかを理解してもらいましょう。

 前回お話ししたとおり,「剰余金の配当」を制限する分配可能額の基本となる額は
  最終事業年度の末日(期末)の
  「その他資本剰余金」+「その他利益剰余金」
です。

 例えば、(2)の減資の効力が発生した後にそのまま決算期を迎え、その後に,もし700万円の剰余金の配当がされたとすれば
 (借)その他資本剰余金500万円 (貸)現金700万円
    その他利益剰余金200万円
という仕分けがされて
 (借) 現金400万円 資本金500万円
             その他利益剰余金マイナス100万円
という会社になります。
 この状態は、
  資本金は500万円のままなので「出資の払戻し」はされていませんが、
  その他利益剰余金がマイナスになってしまっていて、資産が資本金よりも少なくなっているので、実質的には「出資の払戻し」をしてしまったのと同じ状態
です。

 このように「剰余金の配当」に制限をかけないと、株式会社において禁止されている「出資の払戻し」と同じことが実現されてしまうので、会社法は
  分配可能額=その他資本剰余金500万円+その他利益剰余金100万円
      =600万円
の範囲でしか,剰余金の配当をすることができないようにしているのです。

 そして,仮に分配可能額を超える剰余金の配当がされた場合(例えば,700万円の剰余金の配当がされた場合)には,
  株主と業務執行者が,会社に対し,受領した配当に相当する額(700万円)の金銭を支払う義務(462条1項)
を負うことになります。
 つまり,先ほどの例だと,株主の松真さんは,受け取った700万円の全額を会社に返還しなければならず,正直法務の業務執行者(代表取締役等)も,株主と連帯して,同一の責任を負います。

 また,故意に分配可能額を超える剰余金の配当を行うと,会社財産を危うくする罪(963条5項2号)が成立します。
 なお,分配可能額は,貸借対照表等から計算できるので,正確に貸借対照表を作った上で,そこから計算される分配可能額を超えるような配当をすると,すぐに犯罪がばれてしまいますから,いわゆる違法配当は,業務執行者が,粉飾決算をして,その他利益剰余金を水増しした虚偽の貸借対照表等を作成して行うパターンがほとんどです。

5 資本不変の原則
 資本不変の原則は,株式会社が,資本金を自由に減少させることは許されないという原則です。
 「不変」というと,増加と減少のどちらも禁止されているように見えますが,資本金が増加するのは,資本充実の原則に従っている限り,債権者にとっては何の不都合もないので
   資本金の減少のみ
が禁止されています。
 しかも,「禁止」といっても,絶対的に禁止されているわけではなく
   債権者保護手続(449条)を含む資本金の減少手続を取れば,資本金の減少が許される
ので,定義の中に「自由に」という言葉が入っています。
 
 以前,説明したとおり(http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/12786662),資本金の減少をするためには,欠損てん補の場合を含めて,どんな場合でも,債権者保護手続が要求されます(そこが,準備金の減少との大きな違いでした)。

 この資本不変の原則は,債権者の知らないうちに,資本金の減少により,その他資本剰余金が増えてしまうと,資本充実・維持の原則を採用した意味がないので,採用されているものです。
 個人的には,「資本不変の原則」というほど立派なものではなく,449条の内容と制度趣旨を述べているだけのような気もしますが,日本人は,「三」が好きなので,三原則目としてあげられているのでしょうね。

6 まとめ
 以上,「資本充実の原則」「資本維持の原則」「資本不変の原則」等の化けの皮を剥ぎながら,「債権者の保護」のために,どんな規定が置かれているのかを説明してきました。
 初心者の皆さんが,誤解をしないようにするため,普通の教科書に書いていないようなところまで説明をしましたが,理解していただけたでしょうか。

 長い文章を読んだ後は,簡単にまとめることが大事なので,最後にまとめを書いて終わります。

 <資本充実の原則>
 株式会社では
 ① 株主の間接有限責任を実現するため,引受人は,現実に出資を履行しない限り,株主になることはできないこととされている。
 ② 債権者は,出資された財産について,株主に対する優先的地位を有するが,株式会社では,株主に対して責任を追及することができないから,出資財産が株主へ流出することを防止する必要がある。
       そこで↓
 会社法は,株主が現実に出資した財産をベースに資本金の額を決定し(445条),出資の払戻し(資本金を原資として会社財産を株主に返還すること)を禁止した。
   この制度の下では↓
 資本金の額に相当する財産は,必ず,現実に会社に出資されているという意味で,資本充実の原則は実現されている。
        また↓
資本充実の原則を実現するための制度として
  ①設立・株式引受人の募集時における払込取扱銀行等の設置強制
  ②預合い罪
が設けられている。

 <資本維持の原則>
 債権者は,出資財産について,株主に対し優先的地位を有する。
  そのため↓
 株式会社は,出資の払戻しをすることはできないが,「剰余金の配当」「自己株式の取得」によって,出資の払戻しと同一の結果をもたらすおそれがある。
   そこで↓
 分配可能額による剰余金の配当等の制限(461条1項)等が設けられている。
  ←資本金の額に相当する純資産がない場合には,分配可能額は存在しないという意味で,資本維持の原則が採用されている。
      ↓
461条1項違反:
  ①株主・業務執行者の配当等相当額の金銭支払い義務(462条1項)
  ②会社財産を危うくする罪(963条5項2号)

<資本不変の原則>
 資本金の額が自由に減少されると,出資の払戻しを禁止し,剰余金の配当を制限した制度が容易に潜脱される。
  そこで↓
 資本金の減少をするためには,必ず,債権者保護手続(449条)を要することとされている。
 ←自由に資本金を減少することができないという