2006年10月19日 (木)

定款自治の範囲(3)

「ふぉーりんあとーにーの憂鬱」で有名な47thさんから,ご質問をいただきましたので,今日も,定款自治の範囲の話をします。

「種類株主総会の拒否権に時間的制限を設ける件については、A「○○の事項につい
ては、▲▲までの間、X種種類株主総会の決議があることを必要とする。」という
ことは書けなくても、B「定款第×条に規定する事項につき拒否権を有する」とし
た上で第×条で「▲▲までの間になされた○○の事項」という書き方にすれば、
実質的に同様の効果を持つことができるという趣旨だと理解したのですが、その
ような理解で宜しいでしょうか。
もし、そうした理解で宜しいとした場合ですが(誤解があればご教示いただければ
幸いです)、B方式では会社法上問題なく認められることについて、敢えてA方式で
書くことが禁じられる理由はどこにあると考えればよろしいのでしょう?
また、○○の事項が取締役の選解任のように定款ではなく法令上既に株主総会の
権限とされている事項についてはB方式のような記載方法は難しいようにも思われ
るのですが、どう考えればいいのでしょう?」

 私達は,「定款への記載方法」については,当該定めについて一般的な解釈を行った場合に,会社法が明文で許容している定めと読めるのならば,有効であると考えています。
 説例でいえば,Aにせよ,Bにせよ,108条2項8号に掲げる事項を定めたものであるならば,許されるでしょう。
 ただし,種類株式の内容を登記する際に,AやBが,108条2項8号に掲げる事項を定めたものであるということが,誰にでもわかるようでなければ登記できないリスクがあることは,47thさんもご承知のとおりです。
 
 さて,トラックバックしていただいた47thさんのブログも拝見させていただきましたので,それを踏まえて,もう少し掘り下げてみますと
   「○○という定款の定めを置くことができるか」
という議論がされる場合,その定めは
 1 会社法で認められている定めを使えば,同じことが実現できるもの
 2 会社法で認められている定めでは,実現できないもの
の2つに大きく分類することができます。

 このうち,1に該当するような定めは,定款の定め方が,ノーマルか,アブノーマルかという違いに過ぎず,アブノーマルになればなるほど,「会社法で認められている定め」と世間の人が思ってくれなくなるだけで,会社法で認められる定めであると読める限りにおいては,有効です。

 たとえば,宍戸教授が提起された議決権拘束契約についていえば,一定の条件のもとで議決権拘束をやりたいというのであれば,ほとんどの場合,議決権行使条項付株式を用いることにより実現することができます。

 ただ,正面から
「議決権拘束契約を定款で定めることができるか」
と言われると,
「種類株式を発行するのかどうか」,「登記するのかどうか」
等を明らかにしてもらわないと判断できませんと答えるしかありません。

 種類株式であり,登記もするつもりだというのならば,議決権行使条項付株式について定めるべき事項がきちんと定まっているかどうかを検証すればよいだけです。

 逆に,議決権拘束契約の定めをしたいが,種類株式を出すわけではないということであれば,それは,2の問題,つまり,「会社法で認められている定めでは実現できないことをやろうとしている」ことになります。

 この場合,前回,分類したとおり,
「その定めが,会社法が規律している事項かどうか」
が問題になりますが,議決権拘束契約は,「株式の内容」に関する定めになるので,会社法が規律している事項になるでしょう。
 そして,会社法107条は,議決権拘束条項を認めていないので,そのような定めは認められないという結論になります。

 こうした論理に対し,議決権拘束契約の定めを肯定する論者の中には
   「株式の内容にはならないが,拘束力のある定めにはなる」
とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。
 しかし,定款の定めに同意した株主だけではなく,それに反対した株主や,その後に株式を取得した者に対しても,善意悪意を問わず,議決権拘束の効力を及ぼすとすれば,それは,「株式の内容」になっているといわざるをえないでしょう。

 宍戸教授は,会社法が,株式関係のところで定款自治の範囲を明確化していない部分が多いという分析をされていましたが,実は,「株式の内容」は,107条や108条など会社法に明文の規定がない限り,定款で定めることができないというルールがあるので,私は,定款自治の範囲は十分明確だと思っています。

 まあ,これを言うと
  「会社法=強行法規」という前提に立てば明確かもしれないが,そうでない立場の人に立てば不明確ではないか。
と反論されそうですが,逆にいえば,
 だからこそ,不明確性をなくすために,「会社法=強行法規」と解する必要がある
ということになります。

47thさんのブログにあった
 「何故,会社法の条文の任意法規性が限定されなければならないのか?」
という問に対する答えの出発点は,この「定款自治の範囲を明確化する」ことにあるでしょう。

 47thさんのブログを引用すれば,従来,商法の条文の中で,何を強行法規として,何を任意法規とすべきかという点についての関心は
「立法者よりも当事者の方が社会的に効率的なアレンジ(契約)を結ぶ情報と能力を有している場合があるという前提の下で、会社法規範 のうち、どの部分について当事者自治あるいは手続的規制に委ねることが可能で、どの部分についてはそれが許されないかという線引きをどうするかという問題」
だと捉えられてきました。

 しかし,株式会社の定款は,株主全員の同意によって成立する契約ではなく,多数決によって決められるものですから,少数株主や能力のない株主の保護の観点から,定款自治の範囲を限定する必要があります。
 「立法者よりも当事者の方が社会的に効率的なアレンジ(契約)を結ぶ情報と能力を有している場合がある」ことを否定するものではありませんが,そこでいう当事者は,必ずしも株主全体の利益のために活動する当事者ではなく,また,情報と能力のない当事者がいる場合にその者をどう保護するか,という限界があるのも,また事実です。

 能力のない者が不利益を受けるのは仕方がないという反面,そうした能力が無くてもお金を出資したら株主になれるようにすることで,お金を集めるのが株式会社制度であることを考えると,「株式会社」そのものに対する最低限の安心感を与えるため,強行法規性が必要であることは誰も否定しないでしょう。

 そして,その趣旨からすれば,高度な能力を持つ取締役や株主が
「この定款の定めと矛盾することが,会社法に書かれているけれど,この規定は任意規定だから,定款の定めは有効だよ」
と言って,能力の低い株主を説得できるという法制度よりも
「会社法には,こう書いてあるから,それと矛盾する定款の定めは無効だよ」
という法制度の方がわかりやすく,少数株主保護のためには効果的です。

 また,会社法は,登記を始め,形式的手続的要件の固まりであり,そうした方面から「画一性」が要求されることもあります。定款自治の範囲が不明確であれば,登記の前提となる手続きが履行されたかどうか,登記ができる事項なのかどうか等が不明確になり,審査が困難になるのは必定です。

 なお,私達は,世の中に,経営能力のある者同士がプライベートな会社を作るため,全員一致の定款を作り,新規株主も入ってこないという場面があることは,重々承知しています。

 ただ,
 「そういう用途で会社を作りたければ,合同会社でやったらいいのに」
ということは抜きにしても,
 「そうした用途については,普通,株主間契約で縛れば十分でしょう」
ということは言いたくなります。
 逆に,契約でまかなえないのだとすれば,それは,
「取締役が裏切って誰かに株式を発行した」
「株主の一人が破産して株式が差し押さえられ,見知らぬ株主がやってきた」
とかいう場面のことですから,やはり新規株主の保護を考えてあげなければいけません。

新規株主にについては,「定款を知り,または,知るべくして株式を購入したのだから,定款に何が書かれていても拘束されるのは当然」という理屈もあり,それを全否定はしませんが,「知るべくして」というところに擬制があることを忘れてはならず,また,三角合併や人的分割のように「欲しくてもらった株式じゃない」という場面もあることを忘れることはできません。そうすると,定款変更に参加していない新規株主をも拘束する定款は何かを明確にしてあげる必要はあると思うのです。
 
 以上のようなことをいろいろ考えると,会社法が
(1) 定款自治の範囲を商法よりも大幅に広げるかわりに,
(2) 会社法で規律している事項については,定款で別段の定めができるという規定がない限り,すべて強行法規(定款で変えられないルール)とし,
(3) それで,まかなえないニーズは,多数決ではなく,株主間で納得の上,契約ベースで処理してください(同意をしていない反対株主や,新規に入ってくる株主を拘束するのはやめてください)
というスタンスをとっているのは,正しいと思うのです。

 もちろん,定款自治の範囲の明確化といっても,
「会社法が規律している事項かどうか」
「会社法に違反しているかどうか」
という点については,当然,解釈の余地はあるわけですし,そんなところまで,
「全部決まっています」
というつもりは,毛頭ありません。

また,
「会社法に反する定款の定めでも有効とすべきものがある」
ということであれば,積極的に議論して,次期改正で採用するとうこともあると思います。

 その意味で,任意規定説の論者が,どんどん,会社法で実現できないような定めを提案し,その議論が深まるのは望むところであり,会社法が,定款自治を不当に狭くしていないかどうかを今後も検証していきたいなと思っています。

(質問コーナー)
Q1
従来から、定款に書くことができる事項には、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項があると整理されてきたと思います。その整理と、会社法29条の整理には対応関係があるのでしょうか?29条は、①27条、28条に掲げる事項、②この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項、③その他の事項でこの法律の規定に違反しないものという整理ですが、株主を代理人に限る旨の定款規定に関する本日の回答を考慮すると、相対的記載事項は、28条のほかに②と③に分散して整理されていることになりますが、任意的記載事項も③に含まれるという整理でしょうか?よろしくおねがいします。
投稿 ロゴス | 2006/10/17 23:59:08
A1
 相対的記載事項と任意的記載事項という分類は,論者によって意義が異なっていると思いますが,ロゴスさんは,どういう定義でその言葉を用いられているのでしょうか?

Q2
国公立ロースクール入試に向けて勉強中の大学4年の者ですm(_ _)m
入試に備えて葉玉先生の「会社法100問」で実力強化したいと思っているのですが、100問全てやり遂げる時間を確保できそうにありません。
そこで重要問題に絞って取り組みたいと思うのですが、重要度ランクの付いている改訂版の発売はまだ先になるようです。。
もし出来れば、100問のランク付けを先取りで教えて頂けないでしょうか?
投稿 だだ | 2006/10/18 0:34:02
A2
すいません。私も100問のゲラの校正をやっている最中ですが,自分の担当分しか分かりません。葉玉さんに聞きますから,もうしばらくお待ち下さい。

Q3
あまり実務上は問題にならないでしょうが,募集設立について質問させてください。
募集設立において,全部取得条項付種類株式の定めを設ける場合に,
種類創立総会における決議要件が,譲渡制限を設定する場合と同様に
されている(会社法85条3項)理由は何でしょうか?
「具体的な状況がまだない設立時においては,全部取得条項付種類株式の
定めを設けることには慎重になるべき」とか,
「創立総会の決議要件との調整」といった理由が成り立つかどうか
考えてみたのですが,どうもしっくり来ません。
以前,葉玉先生が回答されていたような気もするのですが,
どうも見つけられません。
立案にあたって,どのようなお考えで設立後とは決議要件を区別されたのか,
お教えただければ幸いです。
投稿 たつきち | 2006/10/18 1:13:52
A3
種類創立総会の決議は,いわゆる普通決議はなく,特別決議が原則です(85条2項)。
種類株主総会の決議は,普通決議が原則です(324条1項)。
全部取得条項の設置の定款の変更の決議要件は,原則的決議要件よりも厳しくすべきであるという価値観で考えると,種類創立総会では,特殊決議になるという感じでしょうか。

Q4
ある特定の者より会社に対して株式買い上げの依頼があったときは、会社は自己株式取得の決議を株主総会で行こなわなければなりません。
そして、議案及び招集通知には、取得株式の総数及び取得価額の総額のほかに、
「会社法第160条3項の規定に基づき、他の株主から本総会会日の5日前までに書面をもって売主として追加の申し出があったときは、上記株数、取得価額の範囲内おいてその株主からの取得も追加するものとする。」を記載することになっています。
この場合、取得株式の総数及び取得価額の総額を買い取り申し出があった株主の株数、金額と同数、同額にしておいたのでは、他の株主から申し出があったときに、最初に申し出のあった株主の希望数を買い上げることができなくなります。
方法として、
①取得株式の総数及び取得価額の総額を財源規制の範囲内で多目に設定しておく。
②株主総会当日に先ず追加申し出のあった他の株主からの株式数を追加して、
 取得株式の総数及び取得価額の総額について議案修正する。
ことが考えられますが、どちらが一般的なのでしょうか?また、②の方法だと欠席株主は議案の内容を知ることができないことになりますが、法律が許容した議案の追加なので、欠席者は保護されないと見ることでよろしいでしょうか?
投稿 KIRABO | 2006/10/18 8:58:47
A4
好きな方でやればよいと思います。
議案が総会で修正されることは,株主提案があった場合を含め,法が許容しているところなので,欠席する方が悪いというしかありません。

Q5
前回のQA11について:
「1.当会社の剰余金の配当の基準日は、毎年3月31日及び9月30日とする。」として
「2.前項に定める場合の他、当会社は基準日を定めて剰余金の配当をすることができる。」
の規定を置かないのは、定款によって取締役会の権限を制限したものとはなりませんでしょうか?
そもそも、配当決定の権限を取締役会に与えるには定款規定が必要ですから、会社法自体ではなく定款が与えた権限だと思いますが。
そういうのを「定款が与えた」といって悪ければ、「株主総会が定款を通じて与えた」権限と言ってもいいと思います。
まさに、本日の本文の「定款で定められる旨の規定がない事項で、この法律の規定の違反しないもの」ではないでしょうか。
投稿 銀行屋は荒野の藤袴 | 2006/10/18 12:14:46
A5
銀行屋は荒野の藤袴さんのような定款の解釈をすれば,定款で「基準日を定めて剰余金の配当をすることができる」と書かない限り,定款で,総会の配当決定権も制限したことになりませんでしょうか?
 「できる」という規定がないことを,制限規定と読む解釈は不自然だと思います。
 あえていえば,上記2の規定を
「基準日を定めずに剰余金の配当をすることを制限した規定である」
と解釈するのならば,わからないわけではありません。
 いずれにしても,定款で取締役会に配当決定権を与えた場合には,法律上,その配当決定権には何の制約もされていませんから,わざわざ「基準日を定めて・・」と書かなくても,配当をすることができます。

Q6
設立中の会社概念が会社法でも有用と解した場合、たとえば以下のように整理すれば、
「百問」(とくに第15問)の論筋と矛盾しないと考えたのですが
いかがでしょうか?
①発起人がなした行為は、その権限に基づくものに限り別段の意思表示なくとも、成立した会社に効果帰属する
②発起人の権限は、会社の組織的・財産的基礎をつくるために必要な範囲でのみ認められる(ゆえに開業準備行為・事業行為はそもそも権限外)が、権限の具体的範囲は法に規定するもののほか、定款で定めてもよい
(権限内での売買契約等は28条1号が根拠、賃貸借・雇用契約等は、その債務額を基準とし、同4号が根拠)
③発起人の権限外の行為を設立後の会社が追認することは、発起人の権限制限の潜脱に利用されるおそれがあり、ひいては出資者間の公平を害することになるから、認められない

どうやら私は、設立に伴う債務が会社と発起人のどちらに帰属するかについて、会社成立の前後で区別するのが原則だと誤解していたようです。
一般的には、発起人の権限の有無で区別するんですよね?
投稿 らくだ | 2006/10/18 15:57:00
A6
②の「権限の具体的範囲は法に規定するもののほか、定款で定めてもよい」というのは,言い過ぎでは?
 定款によっても,財産引受以外の開業準備行為はできないというのが財産引受の規定の類推適用を否定する立場の結論です。
 それ以外は,よいと思いますが。

Q7
完全孫会社への現物出資について、ご質問させてください。
1.完全親会社A⇒完全子会社B⇒完全孫会社C の関係にある場合、AがCに対して現物出資を行います。引受人Aに割当てる株式の総数がCの発行済株式総数の10分の1を越えなければ、検査役の調査は不要となると思います。AがそれでOKというのであれば、この方法は、常に法律上問題なく可能といういうことで宜しいのでしょうか。
2.たとえば現物出資財産の時価がにかかわらず、1株とするということも可能ということになりますでしょうか。
よろしくお願い致します。
投稿 moremi | 2006/10/18 22:02:31
A7
1 それで宜しいのでしょうかというのに答えられるほどの事実が記載されていませんが,発行済み株式総数の10分の1を超えなければ検査役の調査は不要です。
2 現物出資財産の時価がいくらであろうと,そのその価額はいくらにすることもできます。ただし,時価の方が著しく低ければ,責任が生じます。
 また,資本金は,時価がベースになります。

Q8
 会社法施行規則77条7号において記載しなければならない内容は「非監査業務の対価」だと思いますが、「・・・会計監査人としての報酬等及び公認会計士法2条1項の業務の対価を除く・・・」の「会計監査人としての報酬等」とは何が該当するのでしょう?
 また、会社法施行規則126条により記載しなければならない事項は、1号は「当該会社が監査業務及び非監査業務として会計監査人に支払わなければならない報酬額」、8号イは「当該会社及びその子会社が監査業務及び非監査業務として会計監査人に支払わなければならない報酬額の合計」を記載するという考えで、宜しいでしょうか?
なお、旧商法105条については旬刊商事法務1672号27頁を、126条については日本公認会計士協会「法務研究委員会研究報告第5号(中間報告)」を参考に質問させて頂きました。
投稿 AB | 2006/10/18 22:05:56
A8
・前段の質問
  会計監査人の職務は,会計以外の不正行為を監査役に報告する義務等必ずしも公認会計士法2条1項の業務でカバーできるものではないので,会計監査人としての報酬等の全てが,公認会計士法2条1項の業務の対価に含まれているとは限りません。
 それで,「会計監査人としての報酬等」が入っています。
・後段の質問
 「当該事業年度に係る各会計監査人の報酬等の額」は,会計監査人としての報酬等の額なので,非監査業務は含みません。

Q9
事業譲渡についての質問です。
467条1項1号2号により、株式会社は、事業の全部または重要な一部の譲渡には株主総会の特別決議が必要ですし、また取締役会設置会社では、362条4項1号により重要な財産の処分および譲受けの業務執行の決定には取締役会の決議が必要です。株式会社が重要な一部の事業を譲渡する場合には、まず株主総会の特別決議を経てから、取締役会決議で事業譲渡について執行の決定して、それから具体的に業務執行していくということですか?手続きの順番がよくわかりません。
投稿 リー | 2006/10/18 23:20:46
A9
取締役会の決議が1番です。
その後,総会決議をして,事業譲渡契約を締結するか,事業譲渡契約をして,その効力発生日の前日までに総会決議をするかは,どちらでもよいと思います。

Q10
取締役会設置会社で且つ、代表取締役がA・Bの2名いる会社で、代表取締役印はAのみ作成し法務局に登録してあります。この会社が契約を交わす場合、契約書の記名押印欄に代表取締役Bの名前だけしか記載していないにも関わらず、A名義で登録された代表取締役印で押印しても問題はないのでしょうか?
取締役会議事録のように厳格に考える必要はないのでしょうか?
投稿 アウトソーシング | 2006/10/18 23:57:08
A10
問題はないかと言う質問は,むずかしいですね。
押印というのは,契約成立要件でも,効力発生要件ではないので。
契約の相手方が問題だというのなら,問題だし,問題ないと言えば問題ないと思います。

Q11
整備法には「この法律の施行の際」(整備法10条など)と「施行日前」(整備法11条など)という言い回しが色々な条文で登場してきますが、両者の違い(施行の際と施行日の言い回しの違い)がよくわからないのでご教授いただければ幸いです。
投稿 KOKO | 2006/10/19 0:39:28
A11
単に言い回しの違いです。「施行の際の前」とはいわないので,「施行日前」になります。

Q12
新株予約権付社債の発行に瑕疵・無効原因が含まれている場合、新株予約権部分の差止・発行無効が問題となるだろうとは思うのですが、その際、社債部分についてはどのような処理になるのか、ご教示いただければ幸いです。
投稿 大杉謙一@異端児? | 2006/10/19 8:23:45
A12
 解釈によると思いますが,私は,差し止めと,発行無効は分けて考えるべきではないかと思います。

 まず,新株予約権の差し止めです。
 会社側は,新株予約権部分抜きで社債のみ発行する意思がないでしょうし,引受人側も,新株予約権がついているからこそ,低い利率で我慢するので社債だけならいらないというのが通常でしょう。
 ①新株予約権付社債の発行決議は,新株予約権と社債を一体的に決議するものであること,②新株予約権と社債を切り離して譲渡することができないため,新株予約権の発行の差し止めの仮処分がかかった状態で,社債部分だけを発行しなければならないことになると,後の差し止めの本案が認められなかった場合の処理に困難を来すこと等を考えると,新株予約権の発行の差し止めが行われる場合には,新株予約権付社債自体が差し止められると解すべきだと思います。

 これに対し,新株予約権発行無効の訴えが確定した場合には,既に効力の発生している社債をも効力を失わせるかという問題ですから,慎重に解すべきです。私は,新株予約権の行使期間が経過して消滅した場合であっても社債自体は存続することとパラレルに考え,無効の訴えが確定しても新株予約権のみが無効となり,社債としては存続すると考えています(会社法100問の58問の最後の方にこの論点が載っています)。

 ちなみ,大杉先生は,異端児ではなく,王道を行く者でしょう。
 会社法立案担当者の会のメンバーは,異端児というか,極端児です。

Q13
取締役会の決議の省略と会計参与の関係について質問します。
会計参与は、計算書類の承認に関する取締役会に出席する義務がありますが(376条1項)、計算書類の承認に関する取締役会を決議省略(370条)で行う場合、会計参与について何の手当も無いのは何故でしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/10/19 13:26:51
A13
会計参与が,取締役会に出席する義務を負うのは,主として,自己の作成した計算書類について,取締役からの質問等を受けたりすることができるようにするためであり,取締役を監査するためではありません。
そこで,会計参与には,取締役会の決議の省略について異議権を認めていません。

Q14
会社法11条3項について質問いたします。
支配人が,代理権に対する内部制限に違反して約束手形を振り出した場合,直接
の相手方だけでなく,手形の転得者も「第三者」に含まれ,転得者が善意の場合
には,会社は手形債務を負うことになるのでしょうか。
私は,民法上の表見代理規定が手形行為に適用される場合,「第三者」は直接の
相手方に限られる,という判例の見解を支持しております。この見解との整合性
を考慮すると,支配人の代理権に対する内部制限違反の場合も,「第三者」は直
接の相手方に限るというのが自然ではないか,というのが,私が到達した結論で
す。
A14
そのような見解もありでしょう。

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2006年10月17日 (火)

定款自治の範囲(2)

定款自治の問題の続きです。

 ロゴスさんから、次のような質問をいただきました。

「本日の記事の「会社法に規定されている事項であって、定款で定められると書かれていないことは、定款では定められないという整理は、間違っていないという感触を持ちました」という点に関して、お尋ねします。「代理人は株主に限る」旨の定款規定は有効のはずですが、議決権の代理行使を認める310条1項には、定款で可能とは書かれていません。冒頭の整理では、説明できないものがあるのではないでしょうか?よろしくおねがいします。」

この質問を答える前提として、29条の解釈をしたいと思います。
同条は、「第二十七条各号及び前条各号に掲げる事項のほか、株式会社の定款には、この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる。」と規定しており、同条から、定款に書くことができる事項には
①27条、28条に掲げる事項
②この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項
③その他の事項でこの法律の規定に違反しないもの
の3種類に限定されることを規定しています。

このうち①の内容は明らかですから、②と③の意味が問題となります。
②は、会社法に「定款に定める事項」「定款の定めの例に従い」「定款の定めがある場合」「定款で定めている場合」「定款に別段の定めがある」など文言上、定款で定めることができる事項のことを言います。
③は、①②の事項以外の事項、つまり、定款で定められる旨の規定がない事項で、この法律の規定の違反しないもののことを言います。
 問題は、③の「この法律の規定に違反しない」の解釈ですが、
(1) 会社法は、強行法規性を有するので、会社法が規律している事項については、定款で別段の定めをすることができるということが文言上書かれていない限り、それは定款自治を許さない趣旨なので、そのような事項については「この法律の規定に違反」する
(2) 会社法が規律していない事項については、会社法に違反(潜脱を含む)しない限り、定款に記載することができる
ということを意味するものと考えています。
 たとえば、
(1)取締役会から業務執行の決定権を剥奪する定款の定めについては、362条2項に定款で別段の定めをすることが認められていないから、無効
(2)株主の剰余金配当請求権に除斥期間を設ける定めについては、会社法ではそもそも規律していない事項であり、特に強行法規に反するものではないので、有効
というように考えます。

ロゴスさんの質問にある「代理人は株主に限る」旨の定めについてですが、
 代理人の資格については、特に会社法に規定は無いので、会社法に規律する事項に当たらないので、(2)の類型になり、議決権の代理行使を認める310条1項を潜脱するような定めでなければ有効になります。

宍戸教授が列挙された定めの有効性についても、上の基準で整理できるはずであるというのが、私達の考えです。

(質問コーナー)
Q1
会社側-知れていない債権者に催告する義務を負わない
不法行為債権者側-通常は、個別催告を省略できる場合であっても、個別催告を受ける権利がある。
この両者の均衡を図るため、自己を債権者と認識していない不法行為債権者には詐害行為取消権を認める。
以上のような考えで宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/10/16 9:01:31
A1
そうです。

Q2
会社法で「設立中の会社」概念は必要でしょうか?
以下の考えは、解釈として正しいでしょうか?
《私の考える答え》
財産引受の追認を認める(その法的説明として、設立中の会社概念を立てる)必要があったのは
①設立に時間がかかるため、成立を待っていたのでは、会社に有益な財産を獲得し損ねるおそれがある
②変態設立事項に当たる場合、定款変更が必要なのに、それが不可能ないし困難という理由だった。
・・・
従って、発起人(組合)と成立後の会社を同一視する必要はないし、すべきでもない
投稿 らくだ | 2006/10/16 17:06:01
A2
解釈は自由なので、正しいか間違いかということはありませんが、財産引受の追認を認めることと、設立中の会社の概念を認めることは、別次元の問題です。
たとえば、判例も、追認は否定していますが、設立中の会社の概念は認めています。
設立中の会社の概念は
①発起人の個人財産と、会社に将来帰属する社団財産を区別する。
②会社が、成立した時点で、社団財産については、特段の手続きを取ることなく、会社に帰属する
という効果を説明するための概念です。
 したがって、設立中の会社の概念は、会社法でも有用であると思います。

Q3
9月決算の大会社が18年4月に減資をし、資本金5億円未満の会社になり、その後、役員選任のための臨時株主総会を18年6月に開催しました。ご回答いただいた考え方でいきますと、この会社は18年9月期すなわち18年12月の定時総会まで大会社ということになり、18年5月以降の最初の取締役会で強制的に内部統制の構築義務が発生する、また、会社法施行規則附則第6条の規定も排除され、18年9月期の事業報告に内部統制の決議の概要を記載する必要があるのでしょうか
A3
そうです。

Q4
株主総会の議案につきお教えください。
剰余金の配当については、法454条1項で決議内容が規定されているかと思いますが、法445条4項との関係で、準備金を積立てる場合、配当議案1議案だけで準備金積立ても決議することができるのか、あるいは配当議案とは別議案で準備金積立議案をかける必要があるのか、どちらか迷っております。
投稿 ピエール | 2006/10/16 22:30:04
A4
配当議案だけです。

Q5
内部統制システムがらみで質問させてください。設定は、大会社・取締役会設置会社・監査役会設置会社・非公開会社という機関設計のオーナー会社(一人会社でオーナー社長)という会社です。
この会社が内部統制システムを設けないという決定をした場合、内部統制システムを構築しないが故に、構築した会社と比べて、何らかの法律上のリスク(不利益)はありますでしょうか?(1000問では423条1項の責任追及の可能性について示唆されていますが、設定の会社では事実上問題にならないと思います。)私が考えられるのは、429条の責任追及があった場合に、システムを構築していた方が取締役にとって有利になる場合がある、こと位です。勉強不足で申し訳ありませんが、ご教授頂ければありがたいです。
投稿 NK | 2006/10/17 0:54:16
A5
おっしゃるように、429条の責任追及時には、取締役の職務懈怠を問われるおそれはあるでしょう。

Q7
新株予約権の払込みに関する質問です。
新株予約権の払込みは246条2項で金銭以外の財産等に代えることができるとあり、これに対する検査役の調査は不要ということですが、その趣旨を教えてください。
それと、もし払込みとして給付された財産の価額が著しく不足する場合は、誰がどのような責任を負うのですか?
投稿 リー | 2006/10/17 9:40:50
A7
 現物出資の場合には、価額が不足していても、定められた現物を出資すれば、給付としては有効です。
 それに対し、246条2項の場合、給付した財産が払込金額に相当しないものだったら、246条2項が適用できませんので、払込未了になります。その結果、新株予約権は発行されても,行使することができません。
 だから、検査役の調査は不要なのです。
 なお、著しく不足しているにもかかわらず、新株予約権を行使させた場合には、瑕疵ある株式の発行をしたことになりますから、会社に損害(無効な新株予約権証券の回収費用等)が生じたら、任務懈怠責任が生じると思います。

Q8
損失の処理についてお教えください。
旧商法では当期未処分損失の全額を次期繰越損失としたい場合、株主総会にその内容の損失処理案を上程し決議をとれば良かったのですが、会社法では損失(利益)処分案を株主総会に上程できません。
会社法においてはこの場合、単に繰越利益剰余金の当期末残高がマイナスの株主資本等変動計算書を作成し、監査を受け、取締役会で承認し、株主総会で報告すれば足りるのでしょうか?
ちなみに、次期繰越損失を出さないため、会社法452条に定める剰余金の処分として、別途積立金を取り崩して繰越利益剰余金をその分増加させようと思えばできるのですが、あえて損失を次期に繰り越したい場合の話です。
また、会社法452条をみると「損失の処理」をする場合は株主総会の決議が要るように読めるのですが、本件のような旧商法でいうところの、未処分損失の全額を次期に繰越す場合は「損失の処理」には該当しないと考えてよろしいでしょうか?
投稿 おばかな総会担当者 | 2006/10/17 0:13:19
A8
452条は、任意準備金の取り崩し等なので、そのようなことを何もしないのならば、株主総会の決議は不要です。

Q9
問題:「全額払い込み義務を負う合同会社の社員(578条)は、間接有限責任であるから、直接責任を負うことはない」の正誤。答えは誤り。
宮島新会社法エッセンス第2版P369では、直接責任の余地はないとあります。しかし、払い込みが無効取り消しされた場合、未履行部分に直接責任を負う場合もあるからです。
宮島前掲も580条から合同会社は、本当に間接有限責任か?という書きぶりです。いかほどに考えたらよろしいでしょうか。
基本書を調べると、多数派は間接有限責任と書いてありますが、神田先生は直接とは書かずに有限責任とだけ書いてあります。
投稿 初学者の疑問 | 2006/10/16 21:40:19
A9
 会社法100問に載っていると思いますが、制度的には、間接有限責任を実現しようとしていますが、合資会社で未出資の有限責任社員がいる場合に、無限責任社員が全員死んだりすと、当然に合同会社になる結果、直接有限責任社員のいる合同会社になってしまいます。
 その意味で、株式会社のように間接有限責任が徹底しているわけではありません。

Q10
端数株式の処理に関してお伺いします。
会社法第234条および第235条において、株式無償割当や株式交換あるいは株式分割等の際に、1株に満たない端数が生ずるときは、その端数の合計数を競売または売却し、その端数に応じて代金を端数株主に交付するものとされています。
商法(第220条)下における上場会社の実務では、この端数の合計を、「**株式会社端株管理人」といった肩書をつけて例えば株式課長の名前で端株原簿に記載し、同人名義で端株の買取請求を行わせた上で、端数株主に代金を交付していました。これにより、計算の名義上、自己株式の取得/処分ではない形で処理していたのです。
このような処理は、会社法下でも認容されますか。
投稿 Junior Comptroller | 2006/10/17 19:22:06
A10
端数処理は、端株の買取ではないので、会社法上は、そのような処理はゆるされません。
端株制度が残っている会社でも、株式無償割当等の場合の端数については、端株は生じませんので、同様です。

Q11
サミーさん、定款について、基本的なことなのですが、ご教示ください。
剰余金の配当の基準日について、一般的な定款には、以下のように定められています。
1.当会社の剰余金の配当の基準日は、毎年3月31日及び9月30日とする。
2.前項に定める場合の他、当会社は基準日を定めて剰余金の配当をすることができる。

しかし、当社は、(剰余金の配当等を取締役会決議としておりますが)上記1しか定めておりません。中間・期末以外に配当を実施する場合は、取締役会で基準日を定め公告するつもりでおりましたが、定款に上記2の規定がないと、それはできないのでしょうか。(定款で基準日を定めると、それに限定されてしまうのでしょうか。)
投稿 しん | 2006/10/17 20:06:48
A11
剰余金の配当の決定権は、定款によって生じる権限ではなく、会社法によって生じる権限です。
したがって、2の規定がなくても、法律上、剰余金の配当の決議をすることができる機関が決定すれば、剰余金の配当をすることはできます。

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2006年10月15日 (日)

定款自治の範囲

 本日は、宍戸教授の「定款自治の範囲の拡大と明確化」(商事法務1775号)の中で、会社法上、定めることができるかどうか不明確な定款の定めと指摘されたものについて検討してみたいと思います。

 宍戸教授は、これらの定めを
1 定款自治が明文で認められていないが、一概に否定されるものではなく、解釈の余地が残るもの
2 明文で定款自治が認められているが、定款自治の限界が明らかでないもの
3 定款自治を認める規定はあるが、定款自治が認められる対象が明確でないもの
の3種に分類されていますので、私も、その分類にしたがって考えてみます。

1 定款自治が明文で認められていないが、一概に否定されるべきものではなく、解釈の
余地が残るもの                                                            
(1) 任意種類株主総会を、一定期間のみ存続するものと定めること
 種類株主総会の決議事項には、「定款で定めた事項」(321条)が含まれます。
 したがって、定款で、特定の事項について任意に種類株主総会を開催し、決議することはできますし、定款の「決議事項」の規定を一定期間のみ効力を有する旨規定すれば、設問の定めと同様のことが実現できます。
 宍戸教授は、この定めを1の、「定款自治が明文で認められていない」というところに分類していますが、私は、「定款自治が明文で認められている」と考える方がよいと思います。
                                                                           
(2) 議決権拘束契約
 議決権拘束契約の内容が不明なので、なんともいえないところですが、株主の議決権行使の賛否をあらかじめ定めておく契約のことだとすると、認められないと思います。
 賛否が決まっているのならば、もともと、当該内容の定めを置けばよいし、当該定めについて、すぐに効力を生じさせたくなければ、効力の発生時期の問題にすればよいように思います。
 そのような処置になじまないものだとすれば、株主総会の決議事項について、本来の決議要件よりも軽くするための定めになるか、株主総会が法律上決議できる事項について、決議をすることができないという定めになるか、どちらかになってしまいそうです。

(3) 普通株式のみが発行されている場合に、配当可能利益の一定割合を利益配当する旨
 「株式会社は、前条の規定による剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。」(454条1項)ので、定款の定めに基づき、当然に、剰余金の配当の効力が認められることはないです。
 次に、定款で、株主総会の決議の内容を「配当可能利益の一定割合」に拘束することができるかということですが、それは、107条1項各号の定めにないので、できないと思います。
 実質的に考えても、登記もされないような条項に株主が拘束されるのは、株式取得者に不測の損害を与えるおそれがあるように思います。このことは、全員一致の定款でも同じです。
 ただし、取締役会が配当議案を決定する際の制限としてならば、許される余地はありそうです。取締役の行動制限については、355条の忠実義務を根拠に幅広い定款の定めを置くことができるでしょう。

2 明文で定款自治が認められているが、定款自治の限界が明らかでないもの
(1)期間を限定して、無条件の譲渡制限を定めること
 無条件の譲渡制限というのは、取締役会が承認をすることもできない譲渡制限ということだとすると、それは、できません。139条1項但書は、承認機関について定めているだけで、承認機関を置かないことは定めていません。同項は、譲渡について「株式会社の承認」を要する株式についての規定ですから、「無条件の譲渡制限」というのは、そもそも対象外です。その意味で、この定めは、むしろ会社法に規定のない事項だと思います。

(2) 株主総会の普通決議要件を全員一致と定めること・頭数要件を加えること
  309条1項に基づきできます。
 (2)(3)は、いずれも株主平等の原則のもとで許される決議方法ですから、それを普通決議事項について定めることは可能です。

(4)議決権10%以上を有する株主全員の同意を決議要件に加えること
 これは、拒否権付株式と同じことを、普通株式でやろうとしているのでできません。

(5) 種類株主総会決議事由として、定款で具体的な契約等に言及すること
 321条に基づきできます。特に限界を考える必要は無いように思います。

 (1)から(5)までを見てみると、この分類については「原則として、定款でどんな事項でも定めることができるが、他の強行規定に抵触するものは許されない」という当然の結論になっているように思います。

(6) 利益配当に関する種類株式の配当額の算定の基準の具体性の程度・
(7)参加型配当優先株式に対する分配割合を、普通株式の2倍と定めること
 (6)(7)は、解釈論というより、単なる当てはめの問題だと思います。これは、会社法が、一般的な規定である以上、現行法以上に明確化することはできないと思われます。

3 定款自治を認める規定はあるが、定款自治が認められる対象が明確でないもの
(1)複数の種類株式について、単一の種類株主総会を設定すること
 「種類株主総会」の定義そのものは、そのような種類株主総会の存在を認めています。
 たとえば、拒否権付株式の種類株主総会や、任意的な種類株主総会では、そのような二種類以上の種類株式の株主が単一の種類株主総会を構成することはできます。
 ただし、文理上、322条の種類株主総会は、1種類ごとに構成される種類株主総会を予定しており、定款で、これを変えることはできないと思います。

(2) 残余財産の分配に関する種類株式につき、合併、企業買収等をみなし解散事由として定めること
 合併は、法定解散事由ですが、残余財産の分配は生じません。合併を定款で解散事由と定めることで、残余財産の分配が可能になればよいのでしょうが、合併の性質上、それは無理のように思います。
 逆に、TOB等の企業買収については、定款で解散事由にすることは可能ですし、残余財産の分配も可能です。

以上、ざっと検討してみましたが、1から3の結論を見る限り、今のところ、会社法に規定されている事項であって、定款で定められると書かれていないことは、定款では定められないという整理は、間違っていないという感触を持ちましたが、いかがでしょうか。

(質問コーナー)
Q1
旧商法214条2項および215条3項により、株式併合を行う際に「併合に適する株券」は併合後もみなし規定により発行不要でしたが、会社法には相当する規定が見あたりません(というより、会社法215条2項では発行しなければならない、とあります)。
で、旧商法時代に株式併合を行って、みなし規定により新たな株券を発行しなかった会社は、
・併合時点で「併合後の株数を表彰するものとなった」ので、会社法に相当規定が無くなっても発行し直す必要は無い、と考えるのか、
・旧商法215条3項はあくまで「みなす」規定なので、みなし規定がなくなった以上発行しなおす必要がある、と考えるのか、
個人的には前者でよいような気もするのですが、今ひとつよくわかりません。
投稿 たろすけ | 2006/10/13 10:56:03
A1
前者でしょう。

Q2
「確定していない計算書類に基づいてなされた剰余金の配当は瑕疵を帯びることになる」(法学教室no.307.2006Apr. P218)という記述を読みました。
会社法下において、瑕疵ある計算書類に基づく剰余金の配当決議は瑕疵を帯びるのでしょうか(直ちに法律上の問題が生じるのでしょうか)。
また、瑕疵を帯びるとした場合、取消、無効のいずれになりますでしょうか。
計算書類に問題がある場合、配当可能利益の算定には影響するかとは思いましたが、法律上、配当決議に直接影響を与えるものなのか、疑問を感じました。
投稿 ki | 2006/10/13 11:40:56
A2
法学教室の文章を読んでいないので、文脈がわかりませんが、会社法のもとでは、計算書類の確定の瑕疵と剰余金の配当は、直接の関係はありません。
ですから、計算書類が確定しなくても、分配可能額さえあれば、剰余金の配当が瑕疵を帯びることはありません。
もちろん、直近の計算書類が確定しなかったがために、増えると思っていた分配可能額が増えなかったという場合に、配当が分配可能額を超えれば、遺法配当になります。

Q3
内部統制の構築義務についてご教授ください。
大会社の定義としては、法2条6号に規定してあり、また「千問の道標」380問についても記載がありますので、3月決算の資本金1億円の取締役会設置会社が期中に増資し、19年7月に資本金が5億円になった場合には、翌20年6月の総会までは大会社ではないと考えています。
とすると、内部統制の構築義務についても、強制適用となるのは、同20年6月以降であり、総会後の取締役会で体制につき決議すればよいという認識でよろしいでしょうか?また、そうなると、翌21年3月期の事業報告に決議内容の概要を記載すればよいという認識でよろしいでしょうか?
投稿 ピエール | 2006/10/13 22:17:37
A3
 そのとおりです。

Q4
質問を確実に取り上げて貰える(回答して貰える)には、どうしたらいいのでしょう。
投稿 飢餓海峡 | 2006/10/14 0:20:21
A4
なるべく全部取り上げるようにしていますが、私は、普通の仕事についてさえ、忘れやすいので、確実に取り上げてもらえる方法はありません。
何度か、最新の記事にコメントしてもらえれば、普通は取り上げると思います。
過去の記事にコメントされると、見過ごす恐れが高いです。

Q5
 種類株主総会の決議について質問させて下さい。
 会社法322条1項2号~13号に掲げる行為をする場合であっても種類株主総会の決議を要しない旨を定めることができますが(同法322条2項)、これらの行為の一部だけにについて種類株主総会の決議を要しない旨を定めることができますか?
 「論点解説 新・会社法 千問の道標」P104・Q142・2・3段落目には、
 「同条1項各号に掲げられている事項ごとに定めることができる」とありますが、
 「立案担当者による新・会社法の解説」P89(商事法務1743号掲載分)には、
 「同条1項に掲げられている行為の一部につき同項の種類株主の決議を要しない旨を定めることはできないこととされている」
 とあります。
 どちらが正しいのでしょうか?
投稿 種類株主総会 | 2006/10/14 14:52:51
A5
 解釈にどちらが正しいというものはありません。
 当初は、「できない」という説明をしていましたが、その後、条文の文言を素直に解釈すると、例示列挙説は難しいのではないかという説が有力になり、千問を書く段階では、限定列挙+一部でも可能という説で書くことになりました。

Q6
 質問は、会社法100問のP283(66番)についてです。
[解答例]一1において、①~③の要件が挙げられています。
この根拠はどこにあるのでしょうか?
 条文の根拠なく要件列挙されているので、疑問に思いました。
 当然の前提のようなものに私が気づいていない可能性も大いにあるのですが、要件①~③の根拠教えていただきたく、質問しました。
 よろしくお願いします。
投稿 丁です。 | 2006/10/14 17:17:17
A6
 代理の3要件と言われるもので、根拠は、民法99条類推でしょうね。

Q7
民法の平仮名化でも、今日のコメントのように、
『法律の立案においては「二義を許さないこと」が求められますから,私達が「ここのところは,わざとあいまいにして,解釈に委ねようと思います」などと言えば,内外を問わず「バカ」という言葉がから返ってくるのではないかと思います。』
という状況だったのでしょうか。
葉玉先生の商事法務の論文のように、条文上一義的でないことが、最近になってあれこれ分かり、正直参っています。有限会社法時代から曖昧なことは、そのままにしておこうという意見は、立案担当者の中にはあまりないのでしょうか。
投稿 甲 | 2006/10/14 22:20:06
A7
 民法も、定義を置く案を公開したりして紆余曲折がありましたが、法制審議会も開かず、単なる現代語化をするということで改正しましたので、結果的には、旧民法の表現が残る形になりました。これは、最近の立法では、例外的なスタンスです。
 葉玉さんの商事法務の論文は、実務が混乱しないように、担当部署と話し合いの上で、これまでの実務を継続するために書いたものだったと思います。
 もともと実務上混乱していた部分もあったので、「これは、実務どおり」という声もあれば、「これは、従来の実務とは違う」という声もありましたが、基本的には、実務を基礎付けるための論文だったと思います。
 最後の質問については、一般的規範である以上、個別具体的な事実の当てはめにおいて、あいまいなものは、当然あります。ただ、「どういう規範なのかわからない」というものを、そのまま放置しようという意見はあまりありません。

Q8
私も実務家ですが、「解釈の余地のない」条文や解説が事後に邪魔になることがあります。起草時に想定もしていなかったようなことが起きるのが常ですから。
ついでにやや苦言めいたことを二つほど。
要綱できまったことから合理的に導かれると述べておられます。当の法制審部会長でさえ想像できなかったことを、会社法ユーザーに向かって、分からない方がおかしい旨を述べられるのは、やや思い上がりが過ぎるように考えます。
また、実務相談シリーズは、実務から相談に対して一問一答を行っていることが中心であるのに対して、今般の一連の著作は、問題にされてもいないことを先回りして「ペラペラ」と叙述されている部分があることに特徴があると思います。
投稿 通りすがり | 2006/10/15 10:01:55
A8
 条文が邪魔になれば、基本的には、改正するしかありません。
 解説が邪魔になれば、解説よりも説得的な準備書面を書いて、裁判所を味方につければ克服できます。
 記事を見ていただければわかるとおり、要綱できまったことから合理的に導かれるこちについて「わからない方がおかしい」とは言っておりません。要綱から合理的に導かれるよう制度の整備をしなければ、不合理な規定が残ったまま、審査を受けることになり、審査の過程で修正されることになります。ですから、要綱でも、所要の整備を行うことが織り込まれているので、そうした整備を行ったという話です。
 なお、会社法グループが「思い上がってる」という点は、本当にそうだと思います。
 次に、解説のスタンスについてですが、問題になって初めて解説するというスタンスをとれば、解説しないうちに「これはできるだろう」と思って色々とやった人が、解説によって、具体的な被害を受ける場合が出てきます。
 問題にされていない段階で先回りして「ペラペラ」解説するスタンスをとれば、その解説を見て、事前に問題が生じないような回避手段をとることができます。
 解説が気に入らない人は、「問題にもなっていないのに、解説しやがって」という気になりますが、そのような人は、リスクを覚悟で、解説と異なる手段をとる自由は残されています。
 また、事前に見解を発表すれば、こうしたブログを通じて、議論し、担当者が当初の見解を変える余地もあります。
 問題が生じた後に、初めて解説すれば、その問題に対して神の声で、「それは、ダメ」といわれるだけです。
 私は、事前に見解を明らかにし、オープンに議論する方が優れたスタンスであると思います。

Q9
「法令は国家権力が国民に提供する製品・商品・サービスである」というやや極端な「比喩」が許されるとすれば、「お客様(ユーザー)本位」で考えて欲しいと思います。そして、解釈・運用の局面は「アフターサービス」とすれば、こちらにも責任を持って欲しいと思います。法令は「独占的な商品」でユーザー側に選択肢はないのですから。・・・あまりに突拍子もjない比喩で単なる戯言にしか聞こえませんね。今日のやりとりを拝見した感想です。
投稿 法令ユーザー | 2006/10/15 12:48:09
A9
 会社法は、一般的には、「お客様本位」過ぎる、といわれている法律ですが、まだ、ユーザーサービスが足りないとすれば、今後も、サービス改善に勤めていきたいと思います。
 
Q10
人的分割においては、分割会社の全ての債権者が債権者保護手続きを受けるのに、「詐害行為取消権」(P693の下から2行目)は行使できるのですか?
投稿 南斗六星 | 2006/10/15 13:05:24
A10
「知れていない」債権者については、会社が催告をする義務を負わず、その結果、催告を受けなかった場合でも、分割会社と承継会社の双方に請求をすることができません。
 それで、会社に「知れていない」だけでなく、自己が債権者であることすら知らない不法行為債権者をどのように保護するかということが問題になります。
 そこで、そのような場合には、詐害行為取消権しか保護手段がないのではないかという解釈論を展開しているわけです。

Q11
譲渡制限株式に係る事項を変更,廃止する場合の株券提供公告についてですが,具体的な承認機関の記載び一定の場合には承認を要しないとする旨の定めは株券の記載事項となっていない為(会216③参照),株券提供公告は不要となるのでしょうか。ここのところの理由がわからないのでご教示ください。
投稿 迷いの森 | 2006/10/15 15:08:46
A11
譲渡制限を設定するときは、株券に記載しなければ、譲受人が不利益を受けるので、提出を求めなければならないこととされています。
それ以外の場合には、義務化されていませんが、任意に株券の提出を求めて書き換えることはできます。

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2006年10月11日 (水)

擬似発起人の責任

 昨日、私達は、葉玉さんと一緒に、日本私法学会のシンポジウム「新会社法の意義と問題点」に参加してまいりました。
 会社法の担当者としては大変有意義な意見を聞くことができて、参加した甲斐がありましたが、シンポジウムにおける質問の中でいくつか気になる点がありましたので、思いつくまま、本日から何回かにわたって、答えを探ってみようと思います。

本日は、擬似発起人の責任です。

<質問1>
 旧商法198条は、「発起人ニ非ズシテ株式申込証ノ用紙、目論見書、株式募集ノ広告其ノ他株式募集ニ関スル文書ニ自己ノ氏名及会社ノ設立ヲ賛助スル旨ノ記載ヲ為スコトヲ承諾シタル者ハ発起人ト同一ノ責任ヲ負フ」と規定していたが、学説上は、擬似発起人は、任務懈怠責任を負わないとするのが有力であった。
 これに対して、会社法103条2項は「第五十七条第一項の募集をした場合において、当該募集の広告その他当該募集に関する書面又は電磁的記録に自己の氏名又は名称及び株式会社の設立を賛助する旨を記載し、又は記録することを承諾した者(発起人を除く。)は、発起人とみなして、前節及び前項の規定を適用する。」と規定しているため、擬似発起人も、任務懈怠責任を負うことが明らかになった。
 これは、法制審にあがっていなかった実質的な変更ではないか?
<回答1>
 旧商法198条も「発起人ト同一ノ責任ヲ負フ」と規定され、文理解釈をすれば、発起人の任務懈怠責任を含むと読むのが素直な条文でした。
 それにもかかわらず、「擬似発起人には、任務は存在しないのだから、任務懈怠責任は含まれない」という限定解釈を採ることができたのだとすれば、会社法103条2項についても、同様の解釈をすることもできると思います。
 私は、擬似発起人の責任の趣旨は、募集の広告等を信頼した者の保護にあることにあると考えますし、取締役でないにもかかわらず、取締役として登記された者に任務懈怠責任を認めることができるのと同様、擬似発起人にも任務懈怠責任を認めることはできると思いますので、会社法103条2項を限定解釈するのは妥当ではなく、任務懈怠責任も含まれると思います。

<質問2>
 会社法103条2項が、擬似発起人に任務懈怠責任を認めることを明らかにする一方で、取締役でないにもかかわらず、取締役として登記された者に任務懈怠責任を認める条文がないことを考えると、後者に、908条2項(不実登記の規定)を類推適用して任務懈怠責任を認めることができなくなったのではないか?
<回答2>
  両者は、「法律上、任務を負っていない者が任務懈怠責任を負うか」という点では共通していますが、擬似発起人の責任の明確化と908条2項類推適用は、必ずしも論理的に関連しているわけではありません。
 そのことは、旧商法で、①擬似発起人の責任について任務懈怠責任を認めないが、②不実登記(旧商法14条)の類推適用で登記上の取締役の任務懈怠責任は認める、というのが通説であったことからも分かっていただけると思います。
 103条2項も、908条2項も、旧商法の条文を現代化したにすぎないので、いろいろな解釈があってよいと思いますが、私は、擬似発起人(103条2項)も、登記上の取締役(908条2項類推)も、任務懈怠責任を負うと解するのが妥当であると思います。

(質問コーナー)
Q1
会社法786条「消滅会社等の買取請求は、買取価格協議成立いかんにかかわらず、再編の効力発生時に、(無理やり?)売買が成立する」と、その5項に記載があります。となれば、売買効力が発生する以上、株券発行会社は株券を押さえにかかるわけですが、さらに、その6項で、「株券発行会社で株券がある場合は株券と引き換えに代金を支払う」とあります。つまり、代金支払まで株券を押えずして売買の効力を発生させることは困難かと思います。株主は、協議が成立し無ければ株券を提出しないので、株主のやりっぱなしが横行する気がいたします。上場会社での保振制度では、別の問題もあります。どのような実務対応を想定されておられるのか、ご教授ください。
投稿 T/A | 2006/10/08 1:03:24
A1
「株券を押さえにかかる」という意味が分かりません。
吸収合併の効力発生日に、株式買取請求の効力が生ずることにより、買取請求権を行使した者は、合併の対価の交付を受けることはできず、存続会社に対して、代金の支払いだけを請求することができます。
その者が、協議が成立せずに、消滅会社の株券を譲渡したとしても、その株券は、消滅会社の法人格が既に消滅している以上、株式を表彰するものではありませんし、合併対価の交付請求権を表彰したものではないので、「株主のやりっぱなし」というのはありえないと思います。

Q2
非公開会社が公開会社に移行する場合,取締役等選解任権付株式の定めは当然に失効すると解してよいのですか。員数に足りる数の取締役等を選任できない場合には定めのみなし廃止の規定を設けながら(会112),当該場合にはみなし規定を置かなかったのは,非公開会社が公開会社に移行する場合,取締役等が任期満了退任するとのみなし規定(会332Ⅳ③)を設けていることと何か関連しているのでしょうか。また,他の法律効果の発生により定款変更がされたものとみなす必要がある場合には,明文の規定を設けることとする整理とは,どのような関係に立つのでしょうか。
投稿 猫太郎 | 2006/10/08 8:53:58
A2
旧商法時代から条文構造が変わっていないので、解釈に委ねられているのだと思いますが、私は、取締役等選解任権付株式を発行している会社は、譲渡制限の定めを廃止したり、譲渡制限のない株式の定めを置いたりすることはできない(つまり、公開会社になることができない)と思います。

Q3
葉玉論文(商事法務No1778)によれば,間接選定方式で代表取締役を選定した場合の就任承諾の意味を就任拒否権を行使しない旨の確認行為と位置付けています。そうだとすれば,就任拒否権が行使されない限り,選定時点から就任の効力が発生すると理解する方が自然な感じがするのですが,なぜ,就任承諾の時点から就任の効力が生ずることになるのでしょうか。
投稿 猫太郎 | 2006/10/08 8:55:24
A3
葉玉論文でいう「就任拒否権」は、辞任権とは異なり、就任自体を拒否する権利です。代表取締役に選定された場合に、「就任承諾権がある」というのは表現としておかしいので、「就任を承諾しない限り、代表取締役としての選定の効力を生じさせない権利」という意味で「就任拒否権」と呼んでいるのだと思います。
 したがって、選定されて、いきなり就任の効力が発生してしまうと、就任拒否ができなくなってしまいますので、就任承諾の時点から就任の効力が生ずることになります。

Q4
ものの本には全部取得条項付種類株式について、いわゆる100%減資を可能とするために考案されたとあります。
しかしながらこれがどのように活用されるのかイメージがわきません。
倒産を前提として設立ないし新株発行をするとは考えられませんし、上場株式はほぼ普通株だけですので、仮に上場廃止したとしても全部取得条項付種類株式にいちいち転換するのは大変だと思います。
どのような使われ方が想定されているのでしょうか。
ついでに旧法下の倒産会社でしばしば強制的な100%減資が行われていましたが、同時に増資をするとはいえ株主を総とっかえするなんて、いかように実行され、また適法視されていたのでしょうか。
投稿 セガ | 2006/10/09 18:52:37
A4
債務超過の会社が、資金繰りに窮したとしても、その会社の事業自体に魅力があるのならば、その会社に出資して救済しようという人もあらわれることはあります。
たとえば、発行済株式総数1000株、発行可能株式総数4000株、債務超過が1000万円ある会社に、Aさんが、9000万円を出資して、会社を建て直したいと考えたとしましょう。
Aさんの出資により、その会社は債務超過を解消し、8000万円の純資産が形成されます。
Aさんに授権枠一杯の3000株を発行すると、発行済株式総数は4000株になり、1株あたりの純資産額は2万円になります。しかし、よく考えてみると、Aさんは、9000万円も出資したのに、6000万円分の株式しか取得することができません。
他方、既存の株主は、もともと債務超過会社の株式、つまり、一株あたり純資産額マイナス1万円(間接有限責任なので、株式の価値は0円未満にはなりませんが)の株式が、労せずして、一株あたり2万円の株式になります。
 債務超過分を負担するのならともかく、既存の株主に利益を享受させるために、出資してくれる人は、普通存在しないので、既存の株主に退場していただかないと、このような救済スキームを実現することはできません。
 そこで、すでに価値のない株式しか有しない株主を追い出す制度が必要とされたわけであり、さらに、会社法は、株式に価値がある場合であっても、買取請求権・価格決定申立権を株主に与えることにより、株式の全部取得を可能にしているのです。

Q5
簡易株式交換において、完全子会社株主に交付する対価を親会社株式のみとした場合、第799条の債権者保護手続は不要となるのですが、この際の資本金等について定めた会社計算規則第68条について教えてください。
この場合、同条第1項第2号によれば、資本準備金の増加額をゼロにすることはできないように読めます(資本金の増加額は株式交換契約によりゼロ)。
親会社株式のみを対価とする場合に、任意で債権者保護手続を行い、株主払込資本変動額を資本準備金ではなく資本剰余金に組み入れることは可能でしょうか。
できないとすれば、準備金減少に関する本則である第448条に基づいて株式交換により増加する資本準備金と同額を減少させる(減少の効力発生は株式交換の効力発生と同時とする)旨の取締役会決議を行い、第449条に基づく債権者保護手続を行うことで、同様の結果を得ることは可能でしょうか。
そもそも、対価が親会社株式のみの場合と親会社株式以外を含む場合とで、後者の方が簡易な手続となることに違和感を覚えるのですが、この点についても教えていただけると助かります。
よろしくご指導願います。
A5
 任意の債権者保護手続をするのは自由ですが、799条の債権者保護手続に該当しないので、それをやったからといって、その他資本剰余金に組み入れることはできないと思います。
 簡易株式交換による準備金の増加額と同額を減少させて、準備金を増加させない方法は可能でしょう(448条3項)。
 なお、最後の質問については、親会社株式のみの場合の方が債権者保護手続がないので、手続きは簡易だと思うのですが・・・。

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