三角株式交換
いささか旧聞になってしまいましたが、シティグループ・ジャパン・ホールディングス株式会社(CJH)と株式会社日興コーディアルグループ(NCG)が、シティグループインク(CG)の株式を対価とする三角株式交換をやるそうです。
http://www.nikko.jp/ICSFiles/afieldfile/2007/10/03/071003.pdf
今日は、最初、「エリカ様と時津風親方の危機管理手法の比較」という記事をやろうかと思いましたが、書いてみたら「会社法であそぼ」の趣旨から外れてしまいそうだったので、やっぱり、三角株式交換のことをお話しします。
「三角合併の解禁」として騒がれていたので、「三角株式交換」にはピンとこないという人もいるでしょう。
三角株式交換というのは、完全親会社となる会社(CJH)が、そのさらに親会社(CG)の株式を,完全子会社となる会社(NCG)の株主に交付するという株式交換です。
つまり、三角株式交換をやれば、
既存のCGの株主 旧NCGの株主
↓ ↓
シティグループ・インク
↓
シティグループ・ジャパン・ホールディングス
↓
日興コーディアルグループ
という体制になるわけです。
三角合併と三角株式交換の違いは、
前者は日興コーディアルが消滅してしまうのに対し、
後者は、同社が存続する
という点にあります。
日興コーディアルが消滅してしまうと
(1)日興コーディアルグループが行政庁から受けている許認可等をCJHで取り直さなければならなくなる
(2)日興コーディアルグループ名義で登記・登録している財産について名義の変更が必要となる
など面倒くさいのですが、三角株式交換だとそうした面倒がないというメリットがあります。
今回のスキームは、日本初ということで注目されていますが、三角合併・三角株式交換は、外国会社との組織再編を可能にするという点に特徴があるので、当事者のひとつが外国会社である本件では、いたってオーソドックスな組織再編手法ということができるでしょう。
ざっと見たところ、対価の適正さの確保に配慮しているようですし、シティグループの株式を東京証券取引所に上場させる等流動性の確保にも気をつかっています。また、グループ会社内の再編なので、税制適格も大丈夫でしょう。
CJHがCGの普通株式を持つことは、親会社株式の取得禁止(135条)にはもともと該当しませんが、CG株式をCJHにどのような形式で交付するのかは興味があります(特に税制・会計面で)。
いずれにせよ、基本的には、三角株式交換のお手本のようなスキームですから、私の興味の中心は、どっちかというと、シティグループの普通株式が東京証券取引所に上場することによって、今後、どういう影響があるのかという点にあります。
ご承知のように、東証には、外国株式も上場しているのですが、お世辞にも、取引が活発とはいいがたく、日本の一般投資家も、あまり外国株式を買ってくれません。
しかし、今回の三角株式交換により、沢山の日本の投資家が、一気にシティグループの株主になるわけですから、これをきっかけに一般株主が外国株式を売り買いするのに慣れて、外国株式市場が盛り上がってくれるといいですね。
また、沢山の日本人株主が誕生するということは、議決権(というかproxy)や配当関連の株主管理事務も結構大変そうな気がします。日本上場分は、シティグループの時価総額からすればたいしたことはないですが、絶対的事務量は、他の外国会社よりも、かなり多くなるのではないでしょうか?
さらに、極めてマイナーな話ですが、「社債、株式等の振替に関する法律」は、外国株式には対応していないので、外国株式の振替に関する法律関係をもう少し頭を整理する必要があるかなあとも思っています。
以上のように私自身は、マニアックなところに関心が向かっているものの、何はともあれ、三角株式交換がうまく行くことをお祈りしております。
私がお祈りしても、何の役にも立ちませんが・・・。
追伸 「信託大好きおばちゃん」さん。「むぎゅ」さんモックの件で税金のことについて教えていただきありがとうございました。私はどちらかというと、「信託大好きおばちゃん」さんのご意見に近いです。ちなみに、「信託大好きおばちゃん」さんのブログは、マニアにはたまらない魅力があります。
(質問コーナー)
Q1
297条(株主による招集の請求)関連のご質問です。
同条4項の規定により少数株主が株主総会を招集した場合、株主総会の議長は誰が務めることとなるのでしょうか? (定款に議長についての規定がある場合)
1.定款に規定するもの(会長・社長等の代表取締役)
2.招集した少数株主
3.議場にて互選
仮に、2.が認められるとするならば、議事運営等を有利に運ぼうと企図する少数株主自身が議長となるには、どのような規定・手順に沿って議長となればよいのでしょうか?
投稿 ツェーベーツェー | 2007年9月28日 (金) 13時34分
A1
定款に規定があれば、定款でしょう。
定款の規定がない場合や定款では決められない場合には、議場で互選でしょう。
Q2
さっそく商事法務1811号に掲載されました先生方の論文を読ませていただきました。そこで気になる部分が1点あります。
(注21)の「会社法322Ⅱとの関係でどのような意味を持つのか明確でない部分」とは、どのようなことでしょうか?
とても気になりますので、是非ご教示いただきたく存じます。
投稿 気になります | 2007年9月28日 (金) 14時25分
A2
うーん。共同執筆で、かつ、お仕事に関連するものなので、即答は控えておきます。
Q3
非公開会社(取締役会設置会社です)で株式譲渡承認請求があり,承認をしない旨の通知を出し,会社が買い取る旨の株主総会決議も済みました。その間にも経営者と承認請求者との間でやりとりがあり,価格について合意が成立し,供託は面倒だからお互いしないことにしましょうという話になりました。(要するに,価格の合意が141条1項の通知前に成立して,供託はやめようという話になったという事例です)
この場合,履行の問題にすぎないとして供託をしないで法141条の買取手続をすすめてもよいものでしょうか?それとも特定株主からの合意による取得にあたるとして,他の株主に議案追加請求権行使の機会を与えた上で再度株主総会を開く等特定株主からの合意による取得手続ですすめなければならないでしょうか?
投稿 ポケット | 2007年9月28日 (金) 16時28分
A3
供託をしなかったら、会社に解除権が発生するだけでしょう。
それでよければ、手続きを進めて良いんじゃないでしょうか。
Q4
私は旧試験の受験生です。
前々回のQ・Aで、論文の演習は繰り返す必要はあまりないということでしたが、出来が悪かった問題についても繰り返さなくてよいのでしょうか。繰り返すよりも新しい問題を解くべきだとお考えなのでしょうか。
繰り返さなければ知識が定着しないのではないかと思ったのですが、どうでしょう。
演習するにあたって、間違えた知識・覚えていなかった知識をどう身に着けるのが効果的かという点につき、ご教示をお願いします。
投稿 受験生 | 2007年9月28日 (金) 19時47分
A4
受験生さんが、どの程度の時間を持ち、どの程度の力を持っているかによって、答えが異なります。
各科目100問の問題を8科目やれば、800問です。毎日2問やっても、400日。
これを単純に2回繰り返せば、800日で2年以上かかります。3回繰り返せば、1200日。受験生さんが、無限に時間をお持ちならば、繰り返し解くことを重視すればいいでしょうが、普通はそうではありません。
大事なのは、まず間違ってもいいから、すべての分野について書いてみること。
その後に、苦手な分野について繰り返して解いてみることです。
この順番を逆にすると、まず待ちがない無く、最後まで行き着けません。
受験生さんは、論文の問題を繰り返し解くと、その問題について、100点になると思いますか?残念ながら、そうはなりません。論文には「正解」がないため、どんなに頑張っても、そのときの実力を超える答案は書けないのです。
また、知識を身につけるのは、論文の演習を繰り返すことでやるのではありません。知識の習得は、論文の演習で間違ったポイントや分析不足の点をノートに書き写して、それを繰り返してチェックしたりすること等にやってやるのです。
Q5
会社法上、一つの規定を形式的に適用すればできそうだからといって、他の規定を含めて検討したときに実際に出来るかどうかは別問題であり、会社法全体として、それらの行為ができるのか、できないのかを検討するのが出発点だと思います。
↑
そのとおりだと思います。取得条項の付いた新株予約権を株主無償割当てで発行することもできるし、取得の対価を現金と定めることもできるが、配当可能額がないのに取得できるかとか、一部の株主を差別する行使条件・取得条件の付いた新株予約権を株主無償割当てで発行することはできるが、他の株主すべてが特別利害関係人になってしまい決議に瑕疵が生じないかとか、議決権制限株式を発行することもできるし、議決権行使の条件を持ち株比率20%以下と定めることもできるが、全株式をそういう議決権制限株式に替えることが許されるかも、同じような検討が必要ですね。
投稿 克匡恭 | 2007年9月29日 (土) 01時59分
A5
そうです。ただし、全株式を議決権制限条項付株式に替えることができるのは、論文で書いたとおりです。
Q6
先生のゼミ生の勉強方法について質問させてください。
質問への回答で、基本書は使用していませんというものがありました。
これは、葉玉先生のゼミ生は、ゼミ中に基本書を用いなかったという意味で、独自で学習する際には、基本書や百選は使用しているのでしょうか?
それともゼミ外の自分達で勉強する時間も含めて、論文、択一の問題集とそれに付属する解説を読むのみなのでしょうか。
もしくはその両者でもなく、中間的なものなのでしょうか。
宜しくお願いします。
民訴の過去問では、一行問題まで含めて演習をしていましたか?
投稿 | 2007年9月24日 (月) 15時22分
A6
私は、ゼミの中では基本書は使いませんでした。
基本書を使ってもいいですが、いちいち基本書を使って「調べる」ようなことをやっていたら、時間がいくらあっても足りません。
基本書を使うなら、「何度も通読して、3時間で1科目分を読めるようになる」というのが目標であり、演習時に問題となった点を検索する作業は、せいぜい5分以内にしておきましょう。
Q7
別サイトですが、先生の脱時空勉強術について質問をよろしいでしょうか。
それは、「説得文書」の書き方ですが、これは長文の論述の際にも、効果はあるのでしょうか(新司等)。
個人的には、十分効果的だとは思っております。
新司法試験では、長文化したため、その論述も長くなってしまいます。多くの答案を見る試験管に対し、説得ある論述をし、他の答案と差をつけるためにも、気をつけるべき点、効果的な方法がありましたら教えてください。
投稿 十六夜 | 2007年10月 2日 (火) 08時26分
A7
長文でももちろん有効です。
他の答案と差をつけることに気を取られるよりも、100問の最後に書いたように、オウムの力、キリンの力、サイの力を発揮できるようにがんばりましょう。
基本的なことを普通に書けば合格します。
Q8
先生のブログは受験のモチベーションをあげるのに、役立ち助かりました。
今回、司法書士筆記試験に合格することができました。
しかし、最近の記事は、私にはとても難しく、ぜひ、入門シリーズを復活させていただけたら、と、思っております。
沖縄では、会社法に詳しい司法書士はそんなにいないと思うので、会社法、税法にくわしい司法書士めざしてがんばりたいと思います。
投稿 むつみ | 2007年10月 2日 (火) 21時53分
A8
おめでとうございます。
入門編は長く中断していますが、そろそろ復活させましょう。
Q9
会社法116条について。
今回、株式の譲渡制限に関する規定を設定することになりました。
そこで、株式買取請求権の行使の判断材料として、効力発生日の20日前までに株主に通知しなければなりませんが、効力発生日を10月1日にすることになったとして、通知をしたいのですが、先に、10月1日を効力発生日とする、株式移転がなされ、1人株主となっております。
要するに、10月1日の午前中に、株主移転の設立登記が提出され、同日午後に、完全子会社の臨時株主総会を開いたということです。
このとき、通知をする相手方というのは、10月1日以前の株主ですか?
それとも、株主移転により、完全親会社となった株主ですか?
通知の相手方によっては、10月1日を効力発生日として、当該規定を設定できないのでは?と思い質問させていただきました。
投稿 ころまる | 2007年10月 3日 (水) 09時25分
A9
通知をするときの株主に対してです。
Q10
124条(基準日)関連で悩んでおります。なお当社は、100%親会社が存する完全子会社です。
1.臨時配当をする際に、完全子会社であることから株主を確定する必要がないため、配当を受ける株主について特に基準日を定めない場合、配当を受ける株主は、454条により決定する「配当がその効力を生ずる日」現在の株主と考えていいのでしょうか?
2.同様に臨時株主総会を開催する場合、298条により決定する「株主総会の日時」現在の株主が、当該臨時株主総会にて議決権を行使できる株主と考えていいのでしょうか?
3.上記1.および2.のように、基準日を定めずに臨時配当や臨時株主総会を行いたい趣旨は、基準日を定めると124条3項により公告をする必要があるからです。仮に基準日を設定しなければいけない場合、当社のような完全子会社であっても、124条3項による公告は免れないのでしょうか?
投稿 ツェーベーツェー | 2007年10月 4日 (木) 12時43分
A10
1 そうです。
2 基準日を設けない場合はそうです。
3 基準日を設定するならば、公告は必要です。
Q11
株主名簿の閲覧謄写請求で,実質的に競業を営み,または,これに従事している場合,拒否できることにされましたが,この趣旨は「本当のところは」難なのでしょうか。ダヴィンチアドバイザーさんが起こした仮処分で,東京地裁がおっしゃっている理由はどうもしっくりきません。帳簿閲覧権なら,競業している業者が帳簿を手に入れると商売の秘密がばれてしまうかも知れないので類型的に(実際利用可能か,利用する意図があるかを問わず)拒絶可能という法制は妥当だと思います。しかし,株主名簿はそんなことないと思います。特に上場会社でしたら,ライバル会社の株主名簿を見たところで何が問題なのかよくわかりません。事業会社が全うに公開買付をしたり,委任状勧誘を行って,戦うケースで,たとえば,現経営陣がおかしいのでまさに監視の趣旨で株主名簿を閲覧し,同志を募ろうとしたら,あなたは競業だからだめです,というのはやはりちょっと行き過ぎではないか,と思います。また,株主総会の招集決定を得ていたような場合を想定しますと,拒否できたら,もう適法に招集通知を出すことすら出来ません。この改正の趣旨を合理的にどうお考えだったのか,あるいは,この状態になった場合にどのような解決策があって妥当性が確保できるとお考えだったのか,ご教示願えませんか。
投稿 ik | 2007年10月 5日 (金) 02時52分
A11
これは、確か法制審議会で議論したところでしたね。ikさんのお気持ちもわからないではないですが、上場企業の株主には、その取引先も多いので、あながち不合理ではないように思います。
Q12
旧司法試験の口述試験について,伺わせてください。
先日の発表で,運良く論文を突破しました。しかし,私は法科大学院と二足の草鞋のため,基本書もここ1年以上,読んでおらず,夏休みは新試験の択一問題ばかり解いており,
口述過去問を見ても半分も答えられないようなひどい有様です。
そこで,もし先生が今の私の状況なら,何をされるでしょうか?
それから,実務家の先生からご覧になって,こういう奴は絶対に仲間にしたくない,こういう態度やこういう姿勢の奴は落としたい,と思うような人物像はありますか?もしありましたらご教示いただけないでしょうか。
投稿 ゆり | 2007年10月 5日 (金) 13時50分
A12
おめでとうございます。
口述対策は、
1 家族法や会社の計算などマイナーなところもフォローして穴を作らないこと
2 定義を覚えておくこと
3 一度は、口述の模試を受けること
4 試験管を論破しようなどと、思わないこと。
5 すぐに自分の意見を変えないこと
6 矛盾や問題点を聞かれた場合に、素直にそこが矛盾点であることを認めた上で、何か対策を提案すること
です。
Q13
定款に定めがないにもかかわらず、株主総会の決議を経ずに取締役会の決議のみで公開市場における自己株式の取得を行った場合、取締役・監査役はどのような責任を負わなくてはならないのでしょうか?
投稿 hiro | 2007年10月 5日 (金) 16時20分
A13
分配可能額があるという前提でしょうから、普通に423条、429条の問題なのではないでしょうか。
Q14
会社法の「会社分割」と「株式交換・株式移転」についての質問です。
従来の商法では、事業部門を切り離す場合、事業譲渡や、現物出資・財産引受などが用いられていたようです。(現在の株式分割)
また、完全な親子会社関係を作り出す場合、子会社となる会社の株式を全て買い取る方法や、子会社となる会社を設立し、親会社の事業全てを現物出資していたようです。
(現在の株式交換・株式移転)
ここでひとつ疑問がわいたのですが、何故、後者の組織再編には、財産引受が用いられなかったのでしょうか?分割で財産引受が可能なら、交換・移転でも可能のように思います。
投稿 nak | 2007年10月 5日 (金) 17時31分
A14
「従来の商法」は、大昔の従来の商法ですね(ちなみに「現在の株式分割」ではなく、「会社分割」ですね)。
また、「財産引受」についても用語の理解が不十分なようなので、質問の意味が、いまいちよく分かりませんが、後者の場合でも、法律上は、財産引受けをしたければできたと思います。たぶん、子会社に親会社の事業の全部について支払う対価がないだけの話でしょう。
Q15
459条1項1号に定めのある160条1項、156条1項の自己株式の取得は特定の株主からの自己株式の取得であると考えていたため、その取得方法には市場取引は含まれず、市場取引は165条2項の守備範囲だと解釈しておりましたが・・・459条1項1号の自己株式取得の方法に市場取引も含まれるということが書いてあるものを見つけました。果たしてこれは正しい解釈なのでしょうか?また、正しいのであればそういった解釈はどのように導き出されるのでしょうか?
投稿 hiro | 2007年10月 5日 (金) 19時39分
A15
市場取引は、特定の株主からの取得ではありますが、157条から160条の適用はありません(165条1項)。
ですから、156条1項の決定だけで、市場取引はできるわけです。
とすると、459条1項1号は、160条1項による決定以外の156条1項の決定を取締役会が定めることを認めているので、市場取引における156条1項の決定もすることができるという解釈だと思います。
| 固定リンク | コメント (21) | トラックバック (6)
最近のコメント