2009年10月29日 (木)

公開会社法講演会など

ご無沙汰しております。
「あっ」と気づくと前回更新から2ヶ月たっておりました。
仕事も色々やっていて、それなりに忙しいのですが、このブログを書く時間と決めている週末が、子供のための時間で埋められてしまうと、本当に更新中断期間がすぐに延びてしまいます。子供が4人いると、運動会に3回でなければならなかったり、成績が下がると即席家庭教師に早変わりしたり、本当に忙しいです。まあ、子供のための時間は、きつい時間ではありますが、楽しい時間でもあるので、削ろうという気持ちにはなれませんが。

さて、本日は、お知らせと近況報告をいくつか。

1 公開会社法講演会

まずは、公開会社法講演会のご案内です。
題して
 民主党公開会社法プロジェクトチーム事務局長が語る
      「公開会社法」

ご承知のとおり、、民主党政策集に盛り込まれている「公開会社法の制定」が注目を集めています。
IFRSへの対応で戦々恐々としている上場企業にとって、公開会社法がどういうものになるのか、内容が明らかになっていないだけに不安いっぱいというところであり、私も、上場企業のクライアントの皆様とミーティングのたびに、
「葉玉先生、公開会社法どうなっているか、知っていますか?」
という話題がでます。

民主党は、公開会社法プロジェクトチーム(PT)を結成し、2-3年以内には公開会社法を制定する方向で検討を進めていますが、実は、その検討結果は、いまだ公表されていません。

巷では、日本取締役協会が公表した
  「公開会社法要綱案」
の解説を行うセミナーが開催されているものの、
民主党の「公開会社法」と「公開会社法要綱案」は、似て非なるもの
です。
 私も、様々な筋から民主党の公開会社法案の情報を集めて,内容をそれなりに掴んでいますが、もし、公開会社法が成立すれば、上場企業の実務はかなり大きな変更をよぎなくされると思います。

そこで、私は、「上場会社の皆様の不安を少しでも和らげることができたらいいな」という思いから、
    私が、不正確な情報を皆さんにお伝えするより、
  民主党公開会社法PTの事務局長である参議院議員の大久保勉先生に直接公開会社法を語っていただくことが一番よいのではないか
と思い、大久保先生と親しくされているTMIの坂井豊弁護士と一緒に、このセミナーを企画し、大久保先生の快諾を得て、このたび、実現の運びとなったわけです。

詳細やお申し込みは、TMIのホームページを見ていただきたいのですが
http://www.tmi.gr.jp/information/topic/20091027.00002002.html?PHPSESSID=d79ff623baea845d4083dc8f33f47814

開催日時やプログラムの内容は次のとおりです。

【開催日時】
平成21年11月25日(水)午後4時30分 開場
【場所】 
アカデミーヒルズ タワーホール
東京都港区六本木6丁目10-1 六本木ヒルズ 森タワー49階
【プログラム】
1. ご挨拶にかえて(午後5時~午後5時10分)
  ~ 公開会社を取り巻くコーポレートガバナンスの現況 ~
  TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉 匡美
2. 講演(午後5時10分~午後6時30分)
  「公開会社法がめざすもの」
  民主党公開会社法プロジェクトチーム事務局長
  参議院議員 大久保 勉 先生
3. 質疑応答(午後6時30分~午後7時)
4. 懇談会(午後7時~午後9時)
【お申込期間】
10月27日(火)午後2時~11月5日(木)午後6時

当日は、大久保勉先生からPTにおける検討状況について語っていただくだけでなく、質疑応答により、参加者の皆様の不安や疑問を一掃していただく時間を設ける予定です。
また、講演会後には、大久保勉先生や当事務所の公開会社法研究チームの弁護士との懇談会を開催し、
より詳細な情報交換をしていただくこととしております。

公開会社法セミナー数あれど、大久保先生が直接語り、しかも、参加者が大久保先生と直接対話できるセミナーは、TMI総合法律事務所のこのセミナー以外にはありません。

しかも、無料。

しかも、六本木ヒルズの49階というすてきな空間で、美しい夜景を見ながら熱く公開会社法を語り合う懇談会あり(もちろん、これも無料)。

TMI総合法律事務所が創立20周年を記念して送る今年最大の企画です。

テーマの性質上、参加者は、上場企業又はその子会社の役職員の方に限定させていただきますし、応募多数の場合は抽選とさせていただきますが、
 「この講演会に参加せずして公開会社法を語ることなかれ」
と言われるような充実した講演会にしたいと考えておりますので、ふるってのご参加をお待ちしております。

2 日経ネットプラス「法務アリーナ」

 日経ネットプラスにおいて、最近、「法務アリーナ」というコーナーができました。
 岩倉先生や三宅記者という有名人が、すでに法律に関するホットなテーマについて記事を書かれていますが、私も、
「鳩山政権は納税者の権利守れ」
http://netplus.nikkei.co.jp/forum/law/t_560/e_2258.php
という税務訴訟等に関連する記事を書きました。

登録が必要なので、若干、面倒ではありますが、無料ですし、記事の内容も非常に充実しています。
コメント欄もあって、記事の内容について自由にコメントがつけられるというところが、ネットらしいおもしろさ。

私は日経新聞の回し者ではありませんが、登録されても損はないと思います。

3 「略式株式交換と株式買取請求権」
 以前、このブログでも取り上げました略式株式交換と株式買取請求権について論文を書きました。
 旬刊商事法務10月5日15日合併号
 「略式株式交換と株式買取請求権」

この分野については、弥永先生や郡谷先生の優れた論文があるものの、私もその論戦に参加したいと思い、裁判の経験を踏まえて執筆させていただきました。

 なお、この論文では、私は、弥永先生と違う見解を採っており、昔、違法配当の論文でも弥永説を批判していたので、私と弥永先生は仲が悪いのではないかという噂もありますが(笑)、そんなことはありません。
もちろん、私が一方的に弥永先生とは懇意にさせていただいていると思い込んでいるだけの可能性は否定しません。

弥永先生は、実務の動向に敏感で、誰よりも早く実務の関心の高いテーマの論文を書かれる素晴らしい先生であり、それ故に、私が関心領域について論文を書こうとすると,自ずと弥永先生の論文を引用し、弥永先生のご意見についての見解を示さざるをえないということであります。

M&Aの実務において、株式買取請求権の問題が大きくクローズアップされているので、興味ある方はぜひご一読ください。

<質問コーナー>
Q1
ポルシェが行ったワーゲンに対するTRSを利用したスキームについてどのように思われますか?
投稿: busynary | 2009年8月24日 (月) 23時50分
A1
ちょっと語れない事情がありますので、ご勘弁を。

Q2
過去記事に、未修に進学した人の3年間の勉強進度の目安がありますが、既修の場合は異なるのでしょうか?
投稿: 瑠璃 | 2009年8月25日 (火) 01時53分
A2
3年と2年では違いがありますが、基本的には、卒業後の司法試験の時に、どのような力が必要かを考えて、その時点から遡る形で計画を立てればよいと思います。

Q3
一般民事の事務所に就職しようと思っているのですが、司法改革の大混乱の中にあるため、まともな就職口はほとんどない状況で、仮に就職できたとしても、その後の顧客開拓はかなり厳しい状況のようです。

以前先生は、スーパーマーケットのような法律事務所(誰でもできるたぐいの案件を安くこなす事務所)が今後できるだろうとブログで述べられておりましたが、私もそのように思っています。

今のところ、それに近い事務所は、債務整理を大量の事務職員を私用して大量に処理している事務所であるように思われますので、そういう事務所に就職して、法律業務のシステム化を学ぶと共に、債務整理以外の他分野についても業務を広げていけたらいいなと思っております。

ただ一方において、そういう債務整理系の事務所は、非弁まがいの事務所として、法曹仲間からはきわめて評判が悪いです。

葉玉先生は、そういう債務整理系の事務所に就職することについて、どのようにお考えでしょうか?
投稿: bengoshi | 2009年8月25日 (火) 02時23分
A3
 債務整理は、通常の法律事務所でも収入源になっていますので、何をもって債務整理系の事務所というか難しいのですが、評判の悪い事務所には就職しない方が安全だと思います。

Q4
>私は、自分で言うのもなんですが、人並み以上に悲惨なトラブルに巻き込まれてきましたが、
>それを乗り越えられたのは、守るべき人がいたからだと思います。
とのことですが、このことについてお伺いしたいことがあります。長文ですし、何を書いているのか全く分からなければ申し訳ありません。
私も、家のことで非常に悲惨なトラブルにあっております。そして、その問題は、法律的要素が相当大きくからむ問題です。(建物や土地として、純粋に家の問題ということではなく、血縁や親戚の問題の方が大きく占めております。)それがさらに具体的に何かは、法律相談も数名の弁護士に受けておりますのでここでは書きません。

しかし色々と、法律相談に不満があります。弁護士の前では言えませんが、数名の弁護士に相談しましたが、みな、アドホックなその場限りの採算性のみを見て、長期的視野が欠落している解決(仮にA案とする)を出してきます。しかし、このA案は、私には、ローカルオプティマイズ、部分最適のように思います。(無論、私の方に、法律的知識が全くなく、依頼の仕方がまずかった部分もあります。)私のやって欲しい解決(仮にB案やC案とする)を言うと、「B案やC案をやれと言うなら法律的にできないことはないが弁護士の費用の費用倒れだ。この案件はA案でやるしかない。」「A案でやらないなら辞任する」の類の意見です。やってくれというならやると言った弁護士もいましたが、A案しかないと言っているような方で、どうもやりたくなさそうでしたから、そんな方に頼むとどんなやり方をされるか分からないので、その人にはお願いしませんでした。しかし、A案は、私の人生という長期的視野に立った場合、全くのローカルオプティマイズ、部分最適のように思え、むしろ弊害の部分もあるように思え、人生トータルで見たら、B案、C案に私には思えるのです。

 こうしたことを、何度か繰り返すうちに、私は思いつきました。私が弁護士であれば、もっと自分にあった方法を思いつくのではないか、と。
 直感としては、弁護士の数人に相談した感じからとしては、私が弁護士あったならば、短期的な視野に基づく解決ではなく、長期的視野にたった解決を取れそうな気がします。
  しかしながら、そもそも、私は、弁護士を職業にすることなんて全く考えていませんし、ご存知の通り、弁護士の資格を得るためには、膨大な手間がかかりますので、普通の家は、普通にうまくいっているのに、なんで、うちの家の場合だけが、あんなやつのために、私だけがそこまで尋常ならざる労力を割かなければならないのか、という思いもあります。

(無論、弁護士の資格を取れば、そのプライベートの問題の解決の手助け以外にも、ちょっとは色々良いことがあるかもしれませんが、それを差し引いても、手間がかかりすぎます。)

 長くなってしまいましたが、先生にお伺いしたいのは、「弁護士であった」からプライベート上でも、色々、問題が防げた、と感じられたことはありましたでしょうか。
投稿: 質問 | 2009年8月25日 (火) 19時15分
A4
私は弁護士生活3年目なので、「弁護士」というより「法律家」としてお答えしますと、法律家であったことが、プライベート上で起こった極めて大きな困難をいくつも乗り越えることができたと感じられたと思います。
ただ、あなたが、自分の問題を解決するために弁護士になるのは本末転倒であり、そのコストがあれば、弁護士に沢山のお金を払ってあなたの思う理想的な解決を図ればよいと思います。
 実際、弁護士費用を考えると金銭的には割にあわないが、どうしても解決しなければならない問題(たとえば、名誉毀損など)も沢山あります。

Q5
会社法354と908①の関係の論点です。
僕は354は908①の例外規定とする説を採ってます。
この問題が生じる典型例は、
代取を退任したAがいて退任登記は完了している。
しかしAに社長の名称がついていて、Aが取引した場合ですよね。
この場合にAが退任していて代取でないことについて、悪意擬制されるので
(911③14号、908①)、この論点が問題になるのはわかります。
事案
Bが代取で登記(911③14号)されている。
この場合に社長の名称を付されたAが取引をした。
(Aは代取ではなく、代取の登記もされていない。)
筋①
この場合、Aについては登記がされていない以上
第三者に悪意擬制(同条項号、908①)がされるのは
「Bが代取」
ということだけで、
「Aが代取ではない」
という悪意擬制はされない。
そうすると本件の論点は問題にならない。

筋②
Bが代取の登記をされていることをもって、
「Aが代取ではない」と登記がなされているのと同じと考える。
そうするとAが代取でないことについて悪意擬制がなされるので
本件論点が問題となる。

僕は筋①が正しいのかなと考えているのですが、
筋②を前提にした参考答案を見た事があるので
よくわからなくなっています。
投稿: 大学生F | 2009年8月28日 (金) 00時23分
A6
一般には、筋②と考えているように思います。

Q7
試験に受かるまでは、彼女をつくらないほうがいいですか?
投稿: ロー生 | 2009年8月28日 (金) 08時33分
A7
溺れなければ、つくってもいいと思います。

Q8
私は行政書士をやっていて、先生のブログで勉強させてもらっています。
ところで、法律に関する質問じゃないのですが、お聞きしたいことがあります。それはご長男をどのように教育をされていたかということです。
私にも8歳、5歳の子供がいるのですが、先生のご長男のように難関に向かっていく子供になってもらいたいと思い、いろいろ自分なりに教育しているつもりなのですが、彼らは未だに甘ったれです。上の子は今(8/28)泣きながらたまった夏休みの宿題をやっているありさまで、親として実に情けなく思っております。
先生はご長男をどのようにして、そんな頑張る子に育て上げたのか、教えていただけないでしょうか?
投稿: 一行書 | 2009年8月28日 (金) 19時49分
A8
うちの子も甘ったれなので、ご質問を見て戸惑っている次第です。
私には、まだ子育てについて語るほどの実績も自信もございません。
子供を、励ましたり、甘やかしたり、脅したり、怒ったり、日々、戸惑いの中で子育てしています。

Q9
自分は様々な論点の論証を作成して暗記し、本番ではそれを使うという風に勉強していたんですが、合格者の答案を検討すると新司法試験だと規範、論証をがっちり書くという風な答案は求めていないように思えます。(実際に期末試験でそうでした。)
今後もこのような勉強方法を続けていくべきでしょうか。
それとも判例の理解などを中心にして、旧司ではやった論証暗記は捨てるべきでしょうか。
今後の方針に悩んでいます。アドバイスお願いします。
投稿: | 2009年8月28日 (金) 23時29分
A9
論証の「暗記」という発想が私にはありません。
キーワードは暗記すべきでしょう。
判例の結論も暗記すべきでしょう。
しかし、新司法試験でも論証が不要になったわけではありません。
論証を訓練することにより、リーガルマインドが身につくので、論証の勉強は必要不可欠でしょう。

Q10
 会社法とは関係が無いですが最高裁裁判官の国民審査について、弁護士さんが意見広告に名前を連ねておられましたので此処に書き込みさせたいただきまして御意見御批評をいただければ幸いです。
  そこで意見として出されていた一票の価値ですが、
 学説では、1:2程度は是認し得る範囲とする意見が有力説ですが、広告主さんたちはこれを支持しなかった(と云うか1人1票を認めなかった)裁判官たちに罷免の投票行動を呼びかけていましたが
 これって良いの?と疑問を感じました。
1. 裁判官の良心の独立を脅かす事ではないのか
  (裁判官も思想信条は自由でしょう。広告打つのも自由ですが、結論が気に食わないからと云って、ああ云った広告は不適切かと思います)
2. 国民の生活に根ざした意見か?
    と云いますのも、サミーさんも既に御存じとおり、健康保険は 政府管掌
   健康保険から協会管掌健康保険に制度替えしています。
   この場合(来年以降ですが)各都道府県ごとに一般保険料が定められ、
   最大3.3倍の差が、保険料額に生じ得る事となります。
   同じ、療養の給付・高額療養費etc.の給付を受けるのにです。
    協会の都道府県ごとにおかれた各支部は、財政の均衡を保つために毎
   事業年度ごとに見直しを行う事とされていて、私どもの奈良をはじめとする       高齢化が進みつつある地域と、東京・南関東周辺の様に若年労働者が
   集まり、他地域と比較してサミーさんの様に高額所得者がたくさんいる地域
   とではその保険料に、今後差が生じて来るのは明らかです。
    もし仮に広告主の主張通り、単純平等の定数を割り当てれば東京・南関
   東地域選出の議員比率が高くなり、如上の健康保険上の不平等は完全に
   固定化され、益々、地方は疲弊する事と為るように思えてなりません。
    TMI所属の高名な弁護士さんも広告主に居られましたが、弁護士として運動を
   するのなら、自らの利便だけに捉われず、国民全体の平等を少しは頭にお
   いて頂きたいと思います。
    (高給取りだから、医療費に限らず湯水の如くお金を使える立場にある方
   にはチョット分かりにくいかも知れませんね)
投稿: 行書 | 2009年9月 1日 (火) 10時53分
A10
 私は、個人的には、1:3くらいは格差があってもよいという見解を採っており、意見広告の立場には反対ですが、意見広告そのものについては、別段、何の問題もないと思います。
 表現の自由ですから、いろいろな意見が国民の目に触れ、国民が自分で考える機会となることが一番重要です。

Q11
株式会社で譲渡制限のある会社で、平成18年2月期決算にあたり、
・平成16年4月に就任した任期2年内の最終決算期の定時株主総会終結のときまでが任期の取締役
・平成16年4月に就任した任期4年~の監査役
の役員について、定款では3ヶ月以内に定時株主総会をすることになっているので、会社法の施行を待って平成18年5月1日に臨時株主総会を開き、定款でそれぞれの任期を10年とする定めをした後、(同日中に)定時株主総会を開催しました。
自分の中では、こうしたことにより平成16年4月の就任時点から10年の任期に伸長されたものと考えていますがどうなのでしょうか?
最近登記簿を見直して急に不安になったので…。
投稿: kさん | 2009年9月 2日 (水) 11時55分
A11
よいです。委任契約が延長されることを監査役が承諾しているかは一応問題となります。

Q12
利息制限法の関係なのですが,
金融機関が1000万円の融資手数料として実行日に5万円徴求した場合,
利息制限法の範囲内である4109円を超える4万5891円は元本に充当される
と思うのですが,どうなのでしょう?
5万円×365/1÷1000万円×100=182.5%の利息の問題もあると
思うのですが・・・
投稿: jm | 2009年9月 2日 (水) 16時24分
A12
元本からの天引きですので、995万円を元本として以後の制限利息を計算します。
その時点での5万円は、利息の徴求とは考えません。

Q13
現在、欠損状態の会社なのですが、配当は当然、財源規制にかかり無理ですが、そのような会社が資本減少をして、その全額をその他資本剰余金とすることは可能でしょうか?
投稿: 会社法実務家 | 2009年9月 2日 (水) 17時54分
A13
できます。

Q14
法文学部4回生の会社法ゼミ所属の者です。会社法にちなんだ卒業論文のテーマとしておすすめなものはありますか?また、参考にするような文献があれば教えてください。
投稿: てんこ | 2009年9月 4日 (金) 19時05分
A14
自分の好きなことをやるのが一番です。

Q15
政権交代の興奮の中、「公開会社法」「従業員代表の監査役選任義務付け」という話が地味に現実化していますが、先生の意見を聞かせてください。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11313220090902
個人的には、「従業員の利益を守りましょう」という目的から、「従業員代表を監査役に入れる」という手段になっている点に、論理の飛躍がある気がします。
「従業員の利益は、本来、労働法で規制すべき分野であり、なぜ会社法という分野で規律する必要があるのか」という法律のすみわけの問題もありますし、「多数組合の意を受けた監査役が、非正規労働者の利益を害し、正規労働者の利益を守る判断をする場合には、どうするのか」という疑問、「日本の会社法では、会社の経営をするのは、取締役なのであるから、監査役に選出してどんな意味があるのか?」という原理的な疑問、「代表訴訟の対象になる監査役になりたがる従業員代表がどれだけいるのか」などなど。
「事務所のセミナーで答えるぜ」という場合は、セミナーの予定を教えてください。
投稿: ぐうたらP | 2009年9月 6日 (日) 17時35分
A15
セミナーで大久保先生に答えてもらいましょう。

Q16
会社法332条により、1年内に決算期が2回来る会社であれば、通常4回目
(最終)の決算期に関する定時株主総会までが任期となる、との理解で良い
でしょうか。
 先日、332条の「2年」は「事業年度2期」と言う意味なので、1年に2回決算期
が来る会社は任期は約1年になる、との回答を他で聞いたもので混乱しております。
A16
4回目です。

Q17
1月末が決算期の会社の決算期を平成18年7月に「2月末」に変更した場合、従前からの役員(平成18年3月就任)の任期は、本来、平成20年1月末の決算期に関する定時株主総会の終結までのところ、平成20年2月末の決算期に関する定時株主総会の終結まで、と少し伸びてしまう、との理解で良いのでしょうか。
投稿: 補助人 | 2009年9月 8日 (火) 18時20分
A17
会社法的にはできますが、税法上、ある事業年度を1年1か月にするのは難しいのではないでしょうか。

Q18
私の会社と権利能力なき社団とで締結した契約書がありまして、これは有効なものと言えるのでしょうか。債務は権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属するから、実害はないのかもしれませんが。この団体とはさらに別の契約を締結する話もあり、どうしたらよいものやら悩んでます。
投稿: 荒木 | 2009年9月 8日 (火) 23時21分
A18
権利能力なき社団としての実体があれば、有効です。

Q19
昨日新司法試験の合格発表があったようですが、
合格者数は前年から減員となったようです。
当局によれば、
「合否の判定基準は変わっていない。能力のある人が2043人にとどまった」と述べているようですが、
これについて先生はどうお考えになりますか?
受験生のレベルがあちら側の要求水準に達していれば、
当初の予定通り2500人~受からせていたと思いますか?
投稿: ファン | 2009年9月11日 (金) 10時46分
A19
まあ、大人の事情でそうなったのでしょう。

Q20
会社法の条文・規則を通読していると、グッタリと疲れ切ってしまうのですが、葉玉先生は、すべての条項をすべて覚えていらっしゃるのでしょうか?
投稿: 都市丸 | 2009年9月12日 (土) 22時09分
A20
会社法の条文を暗記するほど暇ではありません。

Q21
私は、今年の新司法試験択一で落ちた者です(一回目です)。
択一試験に落ちていることがわかってからは、必死になって勉強してきました。
私は現在40歳であり、合格しても就職状況が厳しいと思われることから、来年はどうしてもどうしても上位合格したいのです。
上位合格するには何が一番必要ですか?
投稿: いち | 2009年9月12日 (土) 23時29分
A21
基礎があり、かつ、現実を見据えた説得力を供えた答案でしょうね。

Q21
わたしは再来年の新司法試験を受験する者です。
新司法試験についての質問があります。
論文過去問(等)を時間を計って解く(実際に書く)という勉強をしはじめたのですが、その際何か気をつけるべきことがあったら教えてください。

特に、解いた後どうすればよいかが気になります。
私は大学の教授や予備校の先生や新司法試験合格者といった方に答案を見てもらったり、ましてや添削をしてもらったりといった環境にありません。
そこで、受験生同士でゼミを組んで答案を見せ合い良い点・悪い点を指摘しあうという方法を採ろうと考えています。
しかし、私はその方法を採用することに少し不安を感じています。私が危惧しているのは、
①ゼミを組むのはみな受験生ということなので、答案を見せ合って検討しても正しい指摘ができないのではないか。
②他人との能力の違いがあり自分のレベルに合わない
③無駄なおしゃべりなどをしてしまう
④他人に合わせなければならなくなり、自分の計画に支障をきたす
といったおそれがあるんじゃないかと思うからです。先生はどのように考えられますか?上記のような受験生だけのゼミを組んで答案を見せ合うことに大きな価値があると思われますか。それとも、出版や公表されている解答例・出題趣旨等を見て自分で検討したほうが効率がよいと思われますか?
投稿: jukensei | 2009年9月12日 (土) 23時41分
A21
友達同士で添削し合えばよいと思います。
実力はともあれ、他人の答案を採点することに大きな意味があります。
また、ペースメーカーにもなります。

無駄なおしゃべりをするかどうか、自分の計画に支障を来すかどうかは、あなた次第です。

Q22
私は検察官になることを目指しています。
そのきっかけはドラマなど些細なものですが、以来検察官という職業に興味を持ち、裁判傍聴に赴いたり、法学部に進学し、進路決定において就職活動と法科大学院のいずれにするか悩んだときも、検察官という職種を知ってから抱いていた「なりたい」という気持ちが払拭されず、就職活動という選択肢を納得のいく形できるまで考え抜き、その選択肢を切る、という作業を行いました。

そして、現在は大学院の2年生となったわけですが、これから大切なことは新司法試験へ向けた勉強はもとより(というかこの道を選んだ以上落ちたときのことを考える暇はないです)、合格後、短い修習期間で、検察官という仕事を自分が本当にやりたいのか、ということを改めて考え直し、かつ、その気持ちを検察の方たちに言葉と行動で示すということが具体的に求められてくると思っています。

そこで、、大学院生の段階でも検察の方と会える機会には積極的に赴く、そして、何よりも社会で起きている具体的な事象と大学院生で想像できる範囲内になる検察官像とを見比べて、検察官に何ができるのかを考え抜く、といことをしていこうと思っています。

ですが、なかなか検察にできること、検察がやるべきでないこと、という点について自分なりの具体的な考えに行き着く(大学院生段階で求められるレベルで)には至っていません。
なにか、この点について先生からアドバイスありましたら、ぜひよろしくお願いいたします。
投稿: 法科大学院生 | 2009年9月14日 (月) 10時56分
A22
あまり深く考える必要はないので、まずは司法試験に合格してください。
そして、検事に応募してください。
検事にならないと、検察ができることも、やるべきでないことも、具体的に考えることはできません。

Q23
私は,問題を読んで,ウンウン考えながらできる限りの答案の構成を考え,答案例をじっくり読んでいます.
ですが,答案例を読むだけだと今ひとつ頭に入りません.

過去問の答練は,上記のようなドロナワの記憶だけで点数を取って来ました.
なので,この勉強方法では自分の実力だとはいえない不安な気持ちで一杯です.

答案例を丸写し(模写する)する勉強は,力が付くと思いますが,自分で作ってきた論証や語句の言い回しの違う部分があり,頭に入れるのが大変です.
また,ただやみくもに覚えるものを増やしてしまう心配があり,単なる模写では効率的だとは思えない,という固定観念があります.

そこで,葉玉先生に「私はどうしたらいいですか」と言うのも,ちょっと自主性に欠けるなと思い,どうしたらよいか少し考えてみました(笑;).

・私が答案例を読んでいく中で,自分の用意ししている論証の部分をピックアップする
・上記部分は,自分の言い回しに変える.
・記憶しやすいように答案例の長さを短くする
・上記3つを念頭に,答案例を何度も書いて覚える.

考えた割には,これしか浮かびません.

そこで
(1)葉玉先生が論文の勉強で,上記以外に工夫されていらっしゃったことがありましたら教えていただけますでしょうか?

(2)葉玉先生は,「答案例」としてではなく,「構成」の形にとどめておいた問題のほうが多かったでしょうか?
 それとも逆に,「構成」の形にまとめるのがほとんどで「答案例」の形にしたものは重要問題(自分の苦手な問題など)・・・という風に,じぶんなりに臨機応変に変えていらっしゃいましたか?
投稿: ミナミアルプス | 2009年9月15日 (火) 16時31分
A23
答案例の丸暗記なんて、意味がないです。
答案構成をたくさんやること。
個別の論証については、キーワードと論理の流れ、結論を覚えること。
答案を沢山、書き捨てること。
(自分が書いた答案は捨てていました。二度と読まないので。)

Q24
組織変更について質問させてください。
Ⅰ 持分会社から株式会社への組織変更
組織変更をする持分会社の社員に対する株式の割当て(746条6号)は、
①株式会社に組織変更する前なので株主平等原則が働かない
②199条5項のような規定(「均等」)がない
ことから
社員の出資の額にとらわれる必要はなく均等に定めなくとも良い
という理解で正しいでしょうか?
※ 持分に代わる金銭等の交付はなし という前提です。

これに対して
Ⅱ 株式会社から持分会社への組織変更
では、
①199条5項のような規定(「均等」)はない、ものの
②株主平等の原則(109条1項)が働くので
社員の出資の価格(744条1項3号ハ)は
株主の持株数に比例して定める
という理解で正しいでしょうか?
※ 種類株式発行会社ではない、金銭等の交付はない(744条1項5号)という前提です。
投稿: 登記職人見習中 | 2009年9月18日 (金) 02時28分
A24
 株式会社から持分会社への変更は、株主全員同意なので、株主平等の原則は気にしなくてよいと思います。

Q25
会社法第750条では「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。 」 とありますが、
存続会社には契約の申込みの意思表示までも包括承継されるのでしょうか?
もしされるならば、承諾者は存続会社に承諾をすれば有効に契約は成立することとなるのでしょうか??
ぶしつけで申し訳ありませんが、根拠等も含め教えていただければ幸いです。
投稿: zetman108 | 2009年9月23日 (水) 14時50分
A25
包括承継という概念は、消滅会社に生じているすべての法的効果が存続会社に承継されるということなので、申込みの意思表示も包括承継されます。

Q26
利益相反取引と取締役の責任について質問させてください。

A社が関連会社のB社に貸付をした場合にB社を代表した代表取締役甲が
A社の取締役を兼ねていたのであれば利益相反取引としてA社において取締役会決議が必要になると思います(365条1項・356条1項2号)。

そしてその貸付が焦げ付いて返済不能になった場合にA社を代表して貸付けた取締役と甲に対して423条1項責任を問おうとするのであれば、貸付の当否について経営判断原則を考慮するまでもなく任務懈怠が推定されることとなると思います(423条3項1号、2号)。

この場合において429条1項責任を問おうとしたときには
任務懈怠は推定されないのでしょうか?429条1項も会社に対する任務懈怠であって、この場合の423条1項と同じ内容なのではないかと思うのです。
投稿: 白くまさんの友達 | 2009年9月25日 (金) 03時59分
A26
429条1項の責任については、直接には,推定規定は適用されませんが、事実上のすいていは及ぶでしょう。

Q27
今回は、法科大学院卒業生の需要について質問があります。
司法試験に合格しておらず(三振含む)、かつ正社員としての就業経験がない法科大学院卒業生について、法務職の需要というのはどの程度あるのでしょうか。企業や業界の雰囲気などはどうなっているのでしょうか。
投稿: べしべし | 2009年9月26日 (土) 07時27分
A27
普通の大学院卒並でしょう。

Q28
法曹としての有能さと、順位は、どれほど関連があると思われますか。当然、成績もよし、それにプラスアルファが理想と思いますが、有能とされる弁護士の方は、司法試験の順位も、よかったのでしょうか。仮に、順位以外に気をつけるべきことがあるとするならば、何を伸ばすことを、修習中、心がけたらよろしいと思いますか。
投稿: | 2009年9月26日 (土) 11時22分
A28
順位は、結果ですから、順位を上げるよりも、実力をあげる方が大事です。
修習では、「証拠から見える事実」が何かを知り、「今、証拠はないけど、きっと将来証拠が見つかるはずの事実」を見抜く努力をしましょう。

Q29
TMIは、予備試験組から採用する場合、何を重視するのでしょうか。
また一般に、司法試験と修習時の成績ではどちらを重視するのでしょうか。
投稿: | 2009年9月26日 (土) 19時08分
A29
予備試験だからといって、何か特別な考えはないと思います。
なお、修習前に採用しているので、修習時の成績はみていないですね。

Q30
ネット上で様々な会社の合併公告を見ると、「吸収合併存続会社:『会社法第796条第3項』に基づき合併承認総会は開催しません。吸収合併消滅会社『会社法第784条第1項に基づき合併承認総会は開催しません。」とされているのが非常に多く、吸収合併消滅会社について796条「第1項」を根拠に総会が不要としているものは皆無にも見えます。

吸収合併消滅会社が784条1項ならば、存続会社は796条「3項」ではなく「1項」とするほうが、総会承認が必要という例外(同条1項および3項の但書)にあたらないことが多いのが通常と思われるところ、なぜ「3項」を根拠にあげる公告が多く、「1項」を根拠にあげている公告が皆無なのか(または極端に少ないのか)疑問です。

私は、吸収合併消滅会社が被支配会社の場合、消滅会社においては784条1項で総会不要、存続会社においては796条「1項」で総会不要という理解なのですが、この理解が間違っているのでしょうか?
投稿: | 2009年9月29日 (火) 11時40分
A30
その理解は間違っています。
796条1項は、消滅会社が存続会社の株式の90%以上を有している場合(支配会社の場合)です。

Q31
金商法167条は、例えばA社がB社株式を公開買付することを決定した場合、その情報を知っている者X(A社社員)は、公表されるまで、B社の株式を買ってはいけないということを定めているものであって、XによるA社株式(自社株式)の購入は規制されていない・・・という認識であっていますでしょうか?

感覚的に、実際に公開買付をすることを決定したA社にとっても重要事実のような気がするので、XはA社株式(自社株式)も買ってはいけないんじゃないかと何となく思えてしまいました。

あるいは、このケースでのXによるA社株式(自社株式)の購入の規制については、一つ前の166条でカバーできているのでしょうか?

投稿: 金商法 初心者 | 2009年10月 2日 (金) 16時15分
A31
167条で禁止されるのは、B社株式の購入です。
もちろん、A社が他社について公開買付を行うことが、A社にとっての166条の重要事実となる場合はありえます。

Q32
100問3版が発売予定というのを聞いたんですが、年内には出るんでしょうか。
投稿: K | 2009年10月 2日 (金) 18時10分
A32
出ません。
発売の具体的予定もありません。

Q33
判例百選における判旨解説を読むべきか否かの選別基準はありますか?
また葉玉先生の受験時代と現在とでその違いがあれば、それもご教示ください。
投稿: 学部3年 | 2009年10月 4日 (日) 17時10分
A33
解説は不要です。良い解説もありますが、10秒くらい読んで、意味不明ならば、無視でもかまいません。

Q34
特別利害関係株主が株主総会で議決権を行使すると著しく不当な決議となる可能性が高い場合について質問させてください。

 特別利害関係株主は一般の株主と同様に株主総会において議決権を行使してなんら差し支えありません。しかし、決議を行使すると著しく不当な決議となるならば決議取消しの訴えを提起されかねません。(会社法831条1項3号)
 それでは、特別利害関係株主が議決権を行使したら著しく不当な決議となりそうな議案にたいして他の株主は全員賛成することが分かっている場合、且つ、特別利害関係株主が出席しないと定足数をみたさない場合(会社法309条1項)にはどのように対処すれば良いでしょうか?
 議決権自体を行使できるからといって行使すれば、取消しの可能性がうまれてしまう、だからと言って、議案を承認する必要性が高い場合です。
(他の株主はすべて賛成しているので株主からの取消し訴訟提起は考えられない、しかし取締役や監査役からの提起の可能性はあるという前提です。)

定足数を排除する定款変更決議を事前に行っておけば、特別利害関係株主以外の賛成で議案は成立しますし、議決権を行使しないので取消しの恐れもありません。ただ、やはりこういう方法は技巧的な気もします。
なにか良い手はありませんか?
投稿: 登記職人見習中 | 2009年10月 8日 (木) 22時38分
A34
 決議の結果が著しく不当にならないようにすればよいのです。取消の可能性に必要以上におびえる必要はありません。

Q35
以前、「代表訴訟の対象となる責任」の稿で、代表訴訟で勝訴判決を得ても、株主が強制執行する手段がないという代表訴訟の致命的欠陥と書かれておられましたが、そこのところを、もう少し詳しくお教え願えないでしょうか。
稿: 色即是空 | 2009年10月13日 (火) 16時22分
A35
そのまんまですが、民事執行法には、代表訴訟の規定が適用されないので、株主が債権者でない以上、強制執行手続きをすることができないということです。

Q36
「入門」募集株式の発行(3)(2007年2月14日)の最後の説例について質問させてください。
まず確認ですが、この例で、配当優先株式を著しく安い価格で割当を受ける権利を与えるのは、松真さんのみですよね。湯水さんにも同じ権利を与えるとすれば、当該株主の有する種類の株式と同一でない種類のものを割当てることになるため、202条1項の適用対象外となりますよね。
そうだとすれば、このケースでは、平等に扱うべきでない種類株主について、全株主を平等に扱ってしまうことにはならないのではないでしょうか?
また、仮に、湯水さんにも同じ権利を与えることにすれば、322条は気にしなくてよいことになるのでしょうか?
投稿: 色即是空 | 2009年10月16日 (金) 14時58分
A36
すいません。問題意識がわかりません。
なお、湯水さんに同じ権利を与えると,他の種類株主に不利になりますので、322条が適用されると思います。

Q37
経営判断の原則は、法令違反について適用されないということでしたが、法令の要件が抽象的な場合はどうなるのでしょうか。

例えば、定款の目的の範囲外の行為として民法34条違反であることを理由に、423条1項の任務懈怠責任を追及されたような場合が挙げられます。

この場合、目的の範囲内かどうかは取締役にとって明らかではありません。
そこで、目的の範囲について経営判断の原則が適用されるのではないかという疑問が友人との議論において生じました。

私は、この問題については善意・無過失で争えばよく、経営判断の原則は登場しないと考えるのですが、いかがでしょうか?
投稿: 別の法科大学院生 | 2009年10月20日 (火) 15時53分
A37
目的の範囲内か否かは、客観的に裁判所が認定することなので、経営判断原則は関係ありません。

Q38
ある種類の株式の発行済の全数が自己株式となっている場合において、この株式について分割を行うことは許されるでしょうか?
(発行可能株式総数・発行可能種類株式総数には余裕があるものと仮定します)
動機はご明察とは存じますが、近い将来自己株式を処分する構想があり、そのために自己株式の数を増やしておきたいというものです。

発行済の一部のみが自己株式の場合は分割の効果が自己株式にも及ぶと解されており、上記を妨げる規定はないと思いますが、いかがでしょうか。
自己株式を分割することへの法的な意味づけは困難で、上記のような姑息な動機しか考えられないのがネックだと思いますが。
投稿: えぬ | 2009年10月20日 (火) 23時15分
A38
株式の分割は可能です。

Q39
千問のQ392について疑問があります。
(先般、司法書士の内藤卓先生のブログで話題になった点です---内藤先生にいろいろとお教えいただきましたが、千問の記述については疑問がありますので、葉玉先生に伺います)

上記Qには、「3人の取締役を選任する場合において、ある取締役選任権付株式の内容として2名の取締役を選任することとされている場合、当該株式の種類株主総会において2名を選任し、残りの1名は、当該株式以外の種類の株式の株主によって構成される種類株主総会によって選任される」という例が記載されております。

この例が、「A・B・C3種の株式が発行されておりAのみが取締役選任権付株式」のような設定を想定しているとすれば(素直に読めばそう読めます)、上記記述は以下の点で不適当であると考えます。
1)B・Cについて明文なくして108条2項9号ロの共同選任の定めを擬制することになる(会社法のどこを読めばそのような擬制ができるのでしょう?)
2)Cが無議決権株式の場合も、取締役選任についてだけ突然議決権が発生することになる

「取締役選任権付株式が存在するときは通常の株主総会で取締役が選任されることはない」という前提であれば、「Q392の例でA・B・C3種の株式が発行されておりAのみが取締役選任権付株式ならば、取締役はAの種類総会による2名しか選任できない=3名の選任はそもそも不可能」ということになろうと思います(内藤先生のご見解もそうであると理解しております)。
いかがでしょうか?

もっとも、商法時代からの流れを知らずに素直に会社法を読めば、「取締役選任権付株式の種類総会によって選任される以外の取締役は通常の株主総会で選任される」ということになると思いますが(私もそう読みましたし、実務界が取締役選任権付株式を使う意図とも整合すると思います)。
投稿: ラッシャー木村 | 2009年10月21日 (水) 22時00分
A39

347条1項で、329条1項を読み替えますと

 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会(取締役については、第百八条第二項第九号に定める事項についての定款の定めに従い、各種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会)の決議によって選任する。

となります。

さらに、取締役の部分だけ抜き出しますと

 取締役は、第百八条第二項第九号に定める事項についての定款の定めに従い、各種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議によって選任する。

となります。
 つまり、種類株主総会の決議によってのみ、選任するわけです。条文上、株主総会の決議で選任することはありません。

Q40
お忙しい先生の状況を察しますが、そうではなくて、先生の体調不良とかいうことはないですよね。
あまりの更新のなさに心配になります。
投稿: 常連 | 2009年10月22日 (木) 08時57分

更新のないのが元気な証拠でしょう。
それだけ渉外弁護士というのは激務だということですよ。
長文のエントリーを推敲したり種々雑多な質問に応えたりする余裕などなく、できるのはつぶやく程度だと思います。
葉玉先生、お仕事がんばってください。
ブログはいいですから、睡眠の確保と家族サービスを優先してくださいませ。
投稿: ロム専ですが・・・ | 2009年10月24日 (土) 01時53分
先生は激務なんですよ…
でも忙しいという言葉は 使われないのでは!? 何故なら忙しい…は心を亡くすとも言いますね。
きっと先生はお元気ですよ私はお見かけしましたから。更新して頂けたら皆様も安心されるし喜ばれるとは思っています。
投稿: 佐倉 | 2009年10月24日 (土) 23時57分
つまり、…
「現在、本業が忙しくてブログを更新できる暇がありません。
 コメントや質問して頂いた方々には申し訳ありませんが、
 今しばらくお待ち下さい。」
程度の内容の更新もできない程、激務なのですね。30秒ぐらいあればできるとは思うのですが、それすらもできない程、激務なのか。凄いね。
確かにブログなんて義務じゃないけどね、それまでここでコメントや質問等に応えてきたという自らの行動による事実があり、そこに対する信頼があるからこそ、ちゃんと礼儀を尽くした上で質問等をしてきている人達がいる(たとえ全員でなくても)。
だったら、その信頼ぐらいは裏切らないようにするというのが、これまで自分のとってきた行動に対する責任じゃないのかな(あくまで道義上の話ね)。
何も、全部質問に答えてくれなんては言ってない。それこそ義務があるわけじゃないんだから。でも、上記のように、忙しくてできないんです、ぐらいあれば、そういった人達もちゃんと理解してくれるでしょう。「先行行為」みたいなもんですかね。
いろいろ価値観は人それぞれかもしれないけど、そういう行動が人と人との信頼を基礎づけるものなんじゃないかなと思うけどね。
投稿: うるさ型 | 2009年10月25日 (日) 01時08分
A40
 どうもご心配をおかけしてすいません。
 仕事もそれなりに忙しいのですが、ブログの更新ができなかったのは、プライベートや本の執筆が忙しいというのが本当のところです。
 このブログは、通常、金曜の夜から日曜のどこかで書くのですが、ここ最近、子供の勉強を教える時間に膨大な時間を取られたり、運動会(子供が四人もいるので、幼稚園、小学校、中学校と3回もありました)やら学校の行事が多かったり、冠婚葬祭が続いたりで、書く気力がわいてきませんでした。
 なお、私は、道義的責任などと考え始めると、書くのがおっくうになるので、うるさ型さんのような考え方はしていません。
 好きなときに書くというのがブログの良さですから、最近、会社法のネタも少なくなっているので、何が何でも更新しようという感じにならないのも、更新しない理由のひとつでしょうね。
 商事法務を見ていても、「これは、面白い」と思えるネタがあまり見つからなくて。

Q41
新会社法100問の51問目(新司法試験サンプル問題)なのですが、
資料4の3.会議の目的事項に貸借対照表及び損益計算書"報告"の件とありますが、
資料2の定款には会計監査人設置会社であることが読み取れません。
つまり会社法第439条の会計監査人設置会社の特則の"承認"の省略は使えないはずなのでそこも問題とするべきではないでしょうか。
A41
まあ、問題文から会計監査人設置会社と読み取るのでしょう。

Q42
これは素朴な疑問なのですが、会社法96条では定款は創立総会(つまり募集設立の場合)では自由に変更はできるのに対し、会社法30条では発起設立の場合は定款の変更には公証人による再認証を必要としています。
この違いはどこからくるものなのでしょうか。
例えば、商号の変更等の場合でも発起設立の場合は定款の再認証(高額!)を受けなければならないのは酷な気もしますが...
投稿: アボガド | 2009年10月25日 (日) 02時07分
A42
96条は、募集設立では、原始定款の作成に加わっていない引受人がいるので、不服があれば変更できるようにしているだけで、間違い直しや、思い直しのための規定ではありません。

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2009年8月11日 (火)

「内部統制って何?」出演後記

予告どおり、先週月曜日に「クローズアップ現代」に出演してまいりました。

おかげさまで、クライアントの皆様をはじめ、事務所のスタッフから遠い親戚まで様々な方に見ていただいたようで、出演後、メールや電話を沢山いただきました。

本番前に、NHKのスタッフの方から
  「すいませんが、携帯の電源を切っておいてください。この番組が生放送ということを知らずに、本番中に「お前がテレビに出てるよ」とかけてくる人がいるので。」
と注意されたことが身にしみてよく分かりました。

演劇少年だった私としては、本番の3時間前まで
   生放送なので、過激な発言をしても誰も止められない。
   企業の監査法人やコンサルへの不満をぶちまけた方が盛り上がるだろうか。
という「盛り上げ至上主義」に傾きつつあったのですが、本番の1時間半ほど前から行われた国谷さんやスタッフとの打ち合わせの中で、皆さんが「内部統制について少しでも視聴者の方にわかりやすく問題点を伝えたい」という視点から、真剣に議論しているのを聞いているうち
   「この熱意に誠実に応えたい」
という気持ちの方が強くなり
   要点を簡潔にわかりやすく話す
ということを重点にして発言しました。

 なにせ
   一般視聴者には「金融商品取引法」という言葉はなじみがないから、使わない方がいいです。
など専門家の私にとっては、なかなか厳しい縛りもありましたし、私の性格を知る人は
  葉玉にしてはおとなしすぎる。
  NHKだから台本どおりなのだろう。
と感じられたかもしれません。

 しかし、実は、ぜんぜん台本というものはなく
  1 本番前の打ち合わせで、国谷さんの色々な質問に私が答えていく
  2 私の答えの中で番組の趣旨に沿った質問と答えを選んでいき、大まかな順番を決める。
  3 スタッフが、その流れを簡単にメモする
というのが、番組前の準備で、その後、
  生放送で、国谷さんの質問に対し、メモに書かれていることについて、その場で回答する
という、ほとんどブッツケ本番に近い感じの真剣勝負が行われているのです。

 しかも、前半と後半、それぞれ4分強という絶対的な時間制限があり、しかも、国谷さんも、事前の打ち合わせとは違う即興的な発言をされるので
  国谷さんとの会話の中で、メモにあがっている内容を、時間内にきっちり話す
というのは、かなりの職人芸を要するところです。

 本番中の私は、残り時間を示す時計をチラチラみながら
   あと2分30秒で、国谷さんの質問があと2問あることを考えると、この話は30秒くらいで切り上げよう。
とか
   うっ、ディレクターから、あの話は入れてほしいといわれたが、最後に国谷さんに10秒は渡さなければいけないだろうから、あの話は5秒くらいで終わらせなければ間に合わない。
とか、自分の頭脳の80%程度は、時間管理に使用されていましたから
  とても、冗談を言えるような心理状況ではなかった
というのが正直なところです。

 ただ、私が、番組を通していいたかったことは
   内部統制は、企業の円滑かつ適正な運営のために、会社の風通しをよくすることに目的があり
   監査のために内部統制があるのではない。
ということでした。

 昨年からの「文書化騒動」について企業の方から質問を受けるたび
  文書化は手段であって、目的ではないのに・・
という歯がゆい思いをしてきました。

 理想的にいえば、内部統制に対する監査というのは、非破壊検査のように、現在効率的に動いている業務の流れを阻害しないような形で監査するべきであり、「監査のための文書化は、必要悪である」という自覚が必要だと思います。

 内部統制は、会社内部の風通しを良くして、トップの指示が末端に迅速に届き、末端の把握したリスクがすぐにトップに伝わってくるようにするシステムなのですから、業務の性質にかかわらず、現場に「監査するために、こういう文書を作れ」と押し付けるのは、本末転倒です。

 番組でも申し上げましたが
   「風通しを良くするための内部統制において、紙を要求することにより、紙が風を遮っている」
という状態を改善することが、今年の内部統制の課題であろうと思います。

(質問コーナー)
Q1
会社法100問に関する質問がございます。
183ページの承認を得ずに行われた譲渡制限株式の譲渡の効力についての
記述で、「当事者間では有効であり…会社に対抗することができないに
とどまる。」とあるのですが、これは相対的無効説、有効説いずれの見解に
立脚した記述なのでしょうか?
百選20事件の北村先生の解説などを見ると有効説のように思えたのですが、
「当事者間『では』有効」という部分にひっかかり、質問させていただきました

投稿: 引き続き受験生 | 2009年8月 5日 (水) 14時21分
A1
この部分は、すでに立法的に解決済みであり、承認なく譲渡制限株式を取得した
者も「取得者」という地位を有することとなります。
 この取得者という地位は、会社に対し、譲渡により株主たる地位が移転したと
いうことは主張できない(その意味では、会社との関係では譲渡の効力を対抗で
きない)が、譲渡承認請求はすることができる(会社や指定買取人が買い取る場
合には、取得者から買い取るという意味では、会社との関係でも譲渡は有効と主
張できる)というものです。
 これを相対的無効説というか、有効説というかは、言葉の問題に過ぎません。

Q2
葉玉先生、はじめまして。
株主平等原則の適用範囲を考え出したらよくわからなくなりました。
もしよろしければご回答ください。

株主平等原則(109①)は
株主を、数及び内容に応じて、平等に取り扱うものとされますが、
例えば以下のような場合なら、どう考えるのでしょうか。
(株主平等原則に反するか否か)
●1.種類株式を一方的に不利にする
A種類株式=1株5円  100株1議決権
B種類株式=1株10円 1株1議決権

→内容に応じて平等なのでOK?(株式を購入するのは自己責任)

●2.株主総会の質問時間を株式数に比例させる
1株=1分
1株の所有者は1分
100株の所有者は100分

→数に応じて平等(かつ比例的)なのでOK?

●3.株主総会の席順を株式数に応じて決める
株式数が多いほど前の席に座れる

→株式数に応じて平等なのでOK?
投稿: てつを | 2009年8月 5日 (水) 23時31分
Q2
会社法100問を見てもらえば、分かります。
1は、OK。
2と3は、駄目です。

Q3
前回、これを書いたの私なんですが、

>実際、妻が医師として働いている姿を見てうれしく思いますし、
それは、この人が結婚してくれたからでしょう。
またこの人にも嫌われていたら、その人についても、
「女にフラれることが・・・」となっていたことは容易に予測できます。

まぁ、言い合っても仕方ないことなのですが、
先生は、恋愛がからむと、感情をこめて「女」と言っていると言っておられます
が、
「女にフラれることが、自らの間違いの証明であるならば、
私は、数え切れないくらい間違いを起こしてきたことになります。」という
文脈の場合でこめられている感情は恋愛というよりも、
「自分をふったこ憎たらしいやつめ」という
憎しみのようなもののように思えてならないんですよ。
ふられた原因としては、先生の方に問題がある可能性も排除できないのに。
投稿: うーん・・・ | 2009年8月 6日 (木) 01時00分
A3
「うーん・・」さんと私の恋愛観は、全く違うようです。

私にとって女を愛するということは、
「裏切られても、傷つけられても、その人のために尽くし続ける」
ということです。

「うーん・・」さんの発言を見ていると
  相手が自分を好きになってくれたから、自分も相手を好きでいられる。
  相手が自分を憎んだら、自分も相手を憎くなる。
ということを前提にされているようですが、その愛は、「自分が相手から好かれ
たい」という欲を充たすための自己愛ではないでしょうか。

 私は、ふられたからといって、嫌いになることはありませんし、まして憎むこ
となどありません。
 むしろ、「かなえられない愛」「傷つついた愛」ほど、振り返ると、純化され
、心に刻み込まれるように感じます。

 「愛されるより、愛する方がよい」という私にとっては、「愛がかなえられな
いから、憎たらしい」というような発想は、あまりなじめません。

 若干、マゾっぽいですが、「踏まれても蹴られても愛し続ける」方が幸せなよ
うに思います。

Q4
新株予約権の行使に際しての現物出資につき、会社法281条2項後段と285条1項3号
は以下のような理解で正しいでしょうか?

 新株予約権者は、現物出資をする場合において当該財産の価額が236条1項2号の
価額に足りないとき、その差額に相当する金銭を払い込まなければならない(281
条2項後段)。
 そして、検査役の調査により(284条)、当該財産の価額が236条1項3号の価額
に著しく不足する場合には当該不足額を支払う義務を負う(285条1項2号)。
 すなわち、281条2項後段は、そもそも出資された財産の価額が出資される全体
の財産の価額(236条1項2号)を下回るときに、その不足分を金銭で補わせるもの
である。他方、285条1項2号は、募集事項決定後に出資財産が値下がりすること等
によって、募集事項決定の際に見込んでいた価値(236条1項3号)を有さなくなっ
たときに、その不足分を填補させるものである。
投稿: きむ | 2009年8月 9日 (日) 11時44分
A4
285条1項2号は、不公正な払い込み価額であることについて、通謀がある場合ですから、募集事項決定後の値下がりは予定していません。

281条2項後段は、現物出資財産の時価を問題にしているわけではなく、「第2号の額」が1000万円で、定められた現物出資財産の価額が「800万円」なら、200万円を現金で払い込めと言っているだけです。

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2009年4月22日 (水)

善管注意義務

1か月ほど前は、原稿書きの仕事が多くて死にそうだったのですが、その成果
が、また1冊の本になりました。

 会社法マスター115講座【第3版】
(ロータス21)
 本体 2400円+税

であります。

 先月出た
   株券電子化ハンドブック(商事法務)
は、実務本、特に弁護士に必携の本にしようという発想で作ったのに対し、会
社法マスター115講座【第3版】は、初学者から専門家まで、誰でも手軽に
利用できる本をめざした本です。

【第3版】は、私は、昨年、上智のロースクールで第2版を使って授業をした経
験を生かし、学習上も実務上も重要であるにもかかわらず、第2版では記述が
薄かった
   ○代表取締役
   ○善管注意義務と忠実義務
   ○役員などの報酬
   ○利益相反取引
   ○利益供与
   ○事業報告
を補充しました

また、
 「学習の効率化のために、本当に必要な判例だけを厳選した判例要旨集が欲
しい」
というロー生の要望を取り入れ、超重要判例集を巻末に載せています。

 しかも、編集中に、会社法施行規則・会社計算規則のパブコメが始まったも
のですから、
   日本で一番早く会社法施行規則・会社計算規則の改正に対応した本にし
よう
という野望に燃え、最新の会社法施行規則・会社計算規則に対応しました。

 会社法マスター115講座第2版は、会社法の教科書では3本指に入るくらい
売れている定評のあるテキストですし、実務家が会社法の全体像を知るために
必要十分な内容が詰まっているので、私が講師をしているDVD「会社法と実
務」
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115_DVD.html
でもテキストにしていました。

この第2版をパワーアップした第3版は、幅広い層にお勧めできる本ですので、
会社法の本をお探しの方は、ぜひ書店で手にとって検討対象の一つに加えてい
ただければ幸いです。

 さて、本日は、会社法マスター115講座【第3版】発売を記念いたしまし
て、第3版で加筆した項目の一つである
   善管注意義務
についてお話ししたいと思います。

 善管注意義務については、取締役の責任(423条、429条)との関係を含め、
会社法で最も熱い議論がされているところです。

取締役の責任の発生要件である任務懈怠は、一般に
  善管注意義務違反のことをいう
と理解されており
 ○ 任務懈怠と過失は、同一要件か、別の要件か
 ○ どんな場合に善管注意義務違反となるか
 ○ 経営判断原則の内容と位置づけ
 ○ 内部統制構築義務との関係
等の重要な論点が目白押しです。

しかし、司法試験受験生を見ていると、これらの論点をバラバラに理解してい
ることが多いので、今日は、こうした論点の相互関係を踏まえながら解説しま
す。

まず、「任務懈怠と過失は、同一要件か、別の要件か」という論点です。

この論点については、契約責任論や任務懈怠と過失の区別の困難性を理由とし
て、これらを同一要件と見る見解もありますが、私は、会社法423条では、任
務懈怠と過失は別要件であると解するのが当然だと考えています。

会社法の善管注意義務は強行法規であり、契約自由の原則を基礎とする契約責
任論を適用する前提が欠けていますし、任務懈怠と過失は、明確に区別するこ
とができるから、同一要件と考える必要はないからです。

 私は、任務懈怠と過失の区別について議論が錯綜している理由は
 1 業務執行・意思決定・監督という異なる性質を持つ職務を区別しないま
ま、業務執行の面ばかりが強調されて議論されていること
 2 任務懈怠とは何か、ということを明確にしないまま議論されていること
の2点にあると思います。

 会社の業務の執行は、
 ①取締役会等の意思決定機関が意思を決定し
 ②代表取締役・業務執行取締役等の業務執行機関が、その意思決定に従って
業務を執行する
というプロセスで行われます。
 そして、①や②について、取締役は
 ③他の取締役や従業員の行為を監督
しなければなりません。

 ①から③の職務のうち、よく問題にされるのは、②の業務執行ですが、取締
役の責任の要件を考える上では、①や③に関与した取締役の任務懈怠も統一的
に考える必要があります。

 任務懈怠は、取締役の①から③の権限の行使が
①会社法その他の法令・定款・株主総会の決議に違反する場合(逸脱)
②自己又は第三者の利益を図る目的又は会社に損害を与える目的で行使される
場合(濫用)
③関連業界の通常の経営者を基準として事実に基づく判断が著しく不合理であ
った場合(著しく不合理な判断)
に認められます。

 任務懈怠と過失の区別が最も付きやすいのは、①の権限逸脱の場合です。
 
 たとえば、食品会社の代表取締役Aが、取締役会の決議に基づき、無許可で
医薬品を販売したとしましょう。

 この場合、代表取締役による販売行為は違法であり、任務懈怠となります。
また、その販売行為は、取締役会の決議に基づくものですから、その取締役会
の決議において賛成した取締役も、任務懈怠は認められます。

しかし、例えば、その取締役会の決議で、提案した取締役が、その医薬品を、
医薬品であると説明せず、他の取締役に対し、「外国で見つけてきたおいしい
お菓子です。」と説明していた場合はどうでしょうか。

そのように虚偽の説明がなされた場合、取締役ごとに事実に対する認識の差が
出てくるわけですが、取締役がどのような主観的意図をもっていたにせよ、薬
事法上の許可をえずに医薬品を販売したという違法行為に賛成したのですから
、客観的には任務懈怠を構成するものと考えるべきです(善管注意義務の一内
容である忠実義務(法令、定款等に従って職務を行うべき義務)に違反します
)。

 また、任務懈怠と過失を区別するということは、423条の立証責任の分配を
   任務懈怠=損害賠償の請求者が負担する
   善意・無過失=取締役が負担する
とすることを意味します(逆に区別しない見解では、取締役の悪意・有過失に
ついて請求者が立証責任を負担するということになります)。

 この立証責任の分配という点についても、会社の稟議書や説明資料等にアク
セスすることができない請求者(例えば、代表訴訟における株主)が、各取締
役の認識という主観的要素についてまで、立証責任を負うというのは酷であり
、任務懈怠と過失を区別する方が公平であると思います。

したがって、①の権限逸脱場面では、任務懈怠と過失は、会社の行為が、客観
的に法律に違反しており、取締役がその違法な行為を直接行ったり、その意思
決定に賛成したりしたか否かで、任務懈怠を判断すればよいわけです。

 ①の権限逸脱を、より細かく分類すれば、
 ①-a 行為そのものが法令等に違反する場合
 ①-b  法令等の定める手続に違反して行為が行われる場合
の2つになりますが、いずれにしても、ある行為が法令等に違反しているかど
うかは、客観的に判断することができますので、この点については、経営判断
原則が出てくる余地はありません。

 次に②の権限濫用については、外形上は法律違反の行為ではないが、主観的
意図により任務懈怠となる場合です。

 たとえば、代表取締役が、愛人関係の維持を目的として、取締役会の決議に
基づき、愛人の経営するクラブに適正な利息を付し、かつ、担保をとって多額
の融資を行ったところ、クラブの経営が傾き、担保も値下がりしたため、貸付
が焦げ付いたという事例を考えます。

 この場合は、代表取締役の「愛人関係の維持を目的」がなければ、③の「著
しく不合理な判断」という類型に入りますが、そのような下心がある場合には
、いくら適正な利息・担保を取っていたとしても、「善良な管理者」というこ
とはできず、善管注意義務違反になると解されます。

 つまり、請求者が、「愛人関係の維持を目的としていること」を立証するこ
とにより、代表取締役による融資が権限濫用による任務懈怠行為だと主張する
ことができます。

 この場合、代表取締役は、自己の濫用目的を立証されてしまっているわけで
すから、無過失の反証は、ほぼ不可能ですが、取締役会の決議に賛成した取締
役についても、「代表取締役の愛人関係の維持を目的とした融資」に賛成して
しまったのですから、任務懈怠が認められると考えるべきだと思います。

 取締役が、代表取締役が、他の取締役に対し、その主観的意図を隠していた
場合もありえますが、裁判所で濫用的意図があると立証されるような取引は、
不自然な取引であることが一般的であり、その主観的意図が立証されたときに
、その取引に賛成した取締役に任務懈怠を認めても過酷とはいえません。
 また、取締役は「そのような目的があるとは知らなかったし、実際に知るこ
ともできなかった」という事実を反証すれば、善意無過失で免責されるのです
から、取締役が無過失の立証責任を負担する方が公平であると思います。

最後に、③の「著しく不合理な判断」の類型についてお話しします。

 この③が、「任務懈怠と過失の区別が困難である」と言われる典型的な類型
です。

 たとえば、代表取締役が、通常人ならば絶対にやらないような高リスク低リ
ターンの取引を、取締役会の決議に基づき、行ったという事例を考えます。

 この場合、代表取締役は、法令等に違反する行為を行ってもいないし、権限
乱用の意図もありませんが、
「関連業界の通常の経営者を基準として事実に基づく判断が著しく不合理であ
った場合」
には、その行為は善管注意義務に違反するものと評価されます。

 よく経営判断原則という言葉を耳にしますが、この原則は
 取締役の判断が、関連業界の通常の経営者を基準として事実に基づく判断が
著しく不合理であると認められない限り、善管注意義務に違反しない
という原則であり、③を裏から表現したものです。

 この③の類型で「任務懈怠と過失の区別が困難」という話が持ち出されるの

  法律には、取締役が、どの程度のリスクファクターを認識すれば任務懈怠
が認められるかという明文の要件がない
ということに起因しています。

 すなわち、任務懈怠と過失を区別することができないという論者は
  取締役が、通常の経営者ならば、その行為を中止するほどのリスクファク
ターを認識していたのならば任務懈怠も過失も認められるし、
  それほどのリスクファクターについて認識がなかったのならば、任務懈怠
も過失も認められないはずである
と主張しているわけです。

 しかし、私は、この考え方は、各取締役の認識という過失の要素を「任務懈
怠」の判断要素に先取りしているため、区別ができなくなっているだけだと思
います。

 会社の業務執行は、代表取締役、業務担当取締役、取締役、部長、課長等沢
山の役職員の関与を経て行われるのが一般的であり、ある会社の行為について
、役職員が知っている情報や執行への関与の仕方はバラバラです。

 この認識や関与形態がバラバラな役職員が、決裁規程等に基づき、稟議をあ
げ、場合によっては、取締役会や株主総会の決議を得ることによって、「会社
としての」意思決定や業務執行が行われるわけです。

 このように、ある業務執行や意思決定が、取締役の任務懈怠となるかどうか
を判断する際には、当該業務執行が、集団的な意思決定プロセスを経て集団的
に執行されていることに鑑み、
 ①まず、業務執行自体や意思決定の内容が、会社が把握していた情報を前提
として著しく不合理なものであったかどうかを検討し、そのように客観的に著
しく不合理な意思決定や業務執行に関与した取締役については、任務懈怠を認

 ②各取締役が、当時自分に与えられていた情報や権限等を主張して善意無過
失を立証すべきである
と考えます。

以上のように「任務懈怠」と「過失」の判断プロセスを理解すれば、任務懈怠
と過失を混同することはなくなりますし、実際に行われている裁判も、このよ
うなプロセスで判断されていると思います。

なお、取締役の監督責任についても、①から③の善管注意義務違反の類型が妥
当します。

 ただし、監督権の行使は、多くの場合、不作為による善管注意義務違反が問
題となるため、若干、ひねりが必要で、次のように考えます。
① 権限逸脱 法令等に定められた具体的な監督義務に違反する場合
  (例) 取締役会への出席義務に違反し、欠席した。
      
② 権限濫用 自己の利益を図る目的で監督を怠った場合
  (例) 取締役が、代表取締役から賄賂を受け取り、代表取締役の行為に
ついて詮索することをやめた。

③ 著しく不合理 取締役が、通常の経営者であれば、当然に行使する監督権
の行使を行わず、その監督権の不行使が著しく不合理であるような場合
  (例)代表取締役の背任行為を知ったにもかかわらず、監査役や取締役会
に報告をしない場合
  部下が会社に損害を与える事実を知りながら、これを放置した場合

なお、内部統制システムの構築は、③の著しく不合理な監督権の不行使と言わ
れないようにするために行うもので、具体的には

 その企業の規模等に応じて、適切な内部統制システムが構築され、かつ、そ
のシステムが機能していることを監督すれば、個々の取引について具体的な監
督を行っていないとしても、監督責任を負わない

というものです(内部統制システムの構築については、経営判断原則の適用が
あると言われているのは、内部統制性システムの構築も、③の分類に属する事
項だからです)。

 以上のような任務懈怠と過失の判断プロセスは、取締役の責任に関する条文
構造とも整合的ですし、裁判実務にも沿っていると思います。また、経営判断
原則や内部統制システムの構築の位置づけを合理的に説明することもできます

 「任務懈怠と過失の区別ができない」と嘆くのは簡単ですが、きちんと整理
すれば、区別するのは簡単で、理論的にもすっきりするので、特に司法試験受
験生の皆さんは、頭を整理しておいてください。

(質問コーナー)
Q1
突然の質問で申し訳ありません。
100パーセント子会社による親会社の合併の場合、吸収合併される親会社が持
っている子会社の株式は、合併により存続会社たる子会社の自己株式となり、
子会社の株式資本から控除されるとされています。
合併に際し、吸収合併される親会社の株主に、存続する子会社の株式を付与す
る場合、登記事項としての発行済み株式総数は、子会社の自己株式の消却が行
われない限り、子会社の発行済み株式総数と合併に際して吸収合併された親会
社の株主に付与された株式数の合計になると考えますが、いかがでしょうか。
会計上の処理がなかなか理解できず、悩んでおります。
投稿: さぬきうどん | 2009年4月 1日 (水) 02時06分
A1
そのとおりです。
前段は、会計上の金額の問題、後者は株式数の問題です。

Q2
今回の論点について
「取引債務限定説は捨てました。」「今回の最高裁判決は、ある意味、ほっと
しています。」
とのことですが,本最高裁判決が
 『土地の所有権に基づくAへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移
転登記手続請求(主位的請求)』
について却下した原審判断を結論において是認し,
 『Aとその取締役である被上告人との間で締結された被上告人所有名義の借
用契約の終了に基づく,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転
登記手続請求(予備的請求)』
を適法としたのであれば,取引債務限定説のように読めてしまうと思ったので
すが,読み方が間違っているのでしょうか。。。
会社法100問初版第1刷318頁では肯定されているCに対する移転登記請求も甲
株式会社の所有権に基づく請求とすれば,本最高裁判決に照らすと不適法却下
となってしまうのでしょうか?
投稿: 受験間近 | 2009年4月 1日 (水) 04時57分
A2
最高裁の射程をどう考えるかは難しいところです。
ただ、取引を取り消した場合の不当利得返還請求権には、代表訴訟を認めない
と都合が悪いでしょうし、物権変動的移転登記請求権も認めないと都合が悪い
でしょうから、真の意味での「取引債務限定説」は採れないんじゃないでしょ
うか。

Q3
4月1日の(質問コーナー)A12でご回答いただきありがとうございました。ご
回答は、「理論的にはおっしゃるとおりです。ただし、事業報告で書くべきと
きに書かなかったということで、独禁法違反行為のあった事業年度の事業報告
について不記載の違法があったことになります。また、処分があったときに重
要事実として書くべきであるという考え方もあるでしょう。」 ということで
すが、次の2点について確認させていただければと思います。
①「書くべきときに書かなかった・・・不記載の違法があった」とされており
ますが、当局の調査が入ったということを 『法令又は定款に違反する事実そ
の他不当な業務執行が行なわれた事実があるとき』 と判断しなければならな
いということになるのでしょうか。 調査に入られた時点では、会社は違法な
行為があったと考えておらず、処分があったときや調査の過程のなかで違法行
為と判断せざるを得ない状況になって初めて「違法行為があった」と考えると
思うのですが。
②「処分があったときに重要事実として書くべきである」という考え方は、
124条4号ニの内容として記載するのではなく、120条1項9号の内容として記載
するということでしょうか。
投稿: Oh NO! | 2009年4月 1日 (水) 09時32分
A3
① 主観をベースにするか、客観をベースにするかという問題です。私は、客
観的に独禁法違反行為があったとすれば、事業報告に書くべき義務はあるが、
違法性の認識がない場合には、記載者の悪意・過失の問題として処理するべき
だと思います。
 OhNO!さんのように考えるのならば、会社が違法性を認識した処分時に
事業報告に記載すべきであると考えるのが素直でしょうが、私は、客観説を採
ります。
② そうですね。

Q4
今回、ご質問させていただくのは、ロースクールの成績と就職についてです。
現在、私は、某都内私立ロースクールに通っています。先日今年度の履修科目
が決まったところです。
履修の際には、多くの学生が、GPAをあげようとして、いわゆる楽勝科目(
出席と1、2回の発表で履修者のほぼ全員にAがつく)をとろうとします。
そういう科目を中心に履修すれば、必修科目でミスをしてもGPAははねあが
ります。
ところで、いわゆる大手の事務所は、新司合格発表前に募集をするのでローの
成績を大きな考慮要素にしていますよね?
そうすると、上述したような楽勝科目でGPAをあげた人が有利になりはしな
いのでしょうか??
私は、はっきりいって楽勝科目の履修は、Aという成績は残るが、得られるも
のは少ないと思います。

私は、一年間ローで過ごしてみて、ローでは有能な先生の授業に真剣に取り組
めば、法的思考力はかなり研かれると実感しました。これは、新司のみならず
、二回試験にも役立つ土台になるものと考えています。

そのため、今期の履修も、楽勝科目とかではなく、思考力が研かれるであろう
授業を中心に履修しました。
しかし、そういった科目は、いわゆる楽勝科目ではないため簡単にAはつきま
せん(その中でAをとろうと努力するからこそ、力がつくのでしょうけど)。
っていっても、もう履修が決まってしまったので、後戻りはできないのですが
(笑)
先生は、採用に際して、ローの成績はどういった位置付けにあるとお考えです
か??
新司の順位は考慮なさらないのですか??
投稿: 新司まであと一年 | 2009年4月 1日 (水) 13時45分
A4
ローの成績も、新司法試験の順位も、当然、考慮の対象でしょう。
GPAをあげた人に有利なのは当然です。
あなたが、思考力が研かれる授業に取り組むのは、就職のためなのでしょうか
?自分に実力がつくのならば、就職とは関係なしに、その授業に没頭すればよ
いと思います。
GPAはあがらないけれども、就職で思考力が研かれる授業を受けたことを評
価してもらいたいということであれば、それを就職先に説得的にアピールすべ
きですが、相当難しいでしょう。

Q5
私は、今年ロースクール既習を卒業し、本試験を目前に控えているのですが、
ここにきて燃え尽き気味です。

ロースクール入学後すぐ母親の癌が発覚しまして、去年の夏季休講期間中に亡
くなりました。
1年目はそれなりに勉強したつもりでしたが、振り返ってみれば、やはり不足
だったかもしれません。
2年目は春から母の体調が悪化し、介護、通院により、時間が制約され、精神
的にも集中できず、春から開始した選択科目(労働法)の授業についていくの
がやっとで、それ以外は特にしていません。
夏休みはじめに入院し、危篤状態が続きましたので、家族で交代して病室に通
いつめたため、夏休みは全く勉強できませんでした。
葬儀終了後、2週間ほどで後期授業が開始し、やはり勉強不足と思われた労働
法と苦手意識のある行政法、会社法を中心に勉強し、1月の定期試験終了後は
総復習・記憶喚起を行ってきましたが、3月いっぱいで全科目を回し終えたま
した。

ところが、一通りやり終えたところ、今になってやる気喪失してしまいました
。いまさらですが、母が生きているうちに、部屋に引きこもって勉強などせず
に、もっと一緒にいてやればよかったなどと、考えても仕方のないことを考え
たり、他の受験生が勉強していないときに充分勉強していなった自分が受かる
わけないと客観的でないことを考えたりしてしまいます。

司法試験に受かるには客観的に実力も必要ですが、精神的な勢いも重要と思い
ます。先生なら、どう精神コントロールしますか。

投稿: ネネム | 2009年4月 1日 (水) 17時41分
A5
私の母が末期ガンの宣告を受けたとき、私は、検事3年目でした。
母は、会社を経営しており、急に入院となったため、私は、検事をしながら、
母親の看病と、実家の会社の経営の手伝い(資金繰り等)、そして、会社の売
却を同時にしなければなりませんでした。
私は、母が亡くなった後も、会社のM&Aがクロージングを迎えるまでの約5
年間は、「母が生きていたら、自分に何を望むのか」を考えて、自分や家族の
幸せ、そして、会社の従業員の幸せを実現するためにガムシャラにがんばりま
した。私は、会社の銀行借入で10億円の連帯保証をしていましたし、従業員
50人の生活を守らなければならず、「精神をコントロールする」という余裕
もなく、「やるべきことを精一杯やる」しかありませんでした。
ネネムさんが、受からないと思うならば、受からないでしょう。
でも、私の教え子には、試験の前年にお父さんが亡くなって、それでも旧司法
試験に合格した大学3年生の女の子がいました。
肉親の死があったからこそ、やるべきことをガムシャラにやったのだと思いま
す。

Q6
先生のポリシーは、「目の前の仕事を楽しんでやること」とおっしゃっていま
すが
その楽しみ方はどのような方法ですか?
成果か出て結果として楽しいと思うのか。それとも自分なりの楽しくするため
のグッツなどかあるのかなと思い質問させていただきます。
投稿: トモ | 2009年4月 1日 (水) 22時03分
A6
 自分の立てた作戦を確実に遂行するのは楽しいですし
 思う通りにいかないときに、苦しみ、工夫して、なんとかやり遂げるのも楽
しいです。
 楽しくするためのグッズは、「苦しさを楽しむ」マゾヒズムです。

Q7
司法試験論文試験において、法的三段論法が重要といわれていますが、あまり
よくイメージがわきません。

 ①法的三段論法とはどのようなものでしょうか。
 ②また、法的三段論法についてわかりやすく解説している本をご存知でした
ら、ご教示ください。
投稿: 不孤 | 2009年4月 2日 (木) 00時07分
A7
 会社法100問の最後にある勉強の仕方を見てください。

Q8
 さて、私は「5月には二度目の新司挑戦」という立場の者ですが、私も質問
させていただきたく思います。
 
 新司法試験について、予備校データによれば、現役組と浪人組の合格率にほ
とんど差がないということです(既修も未修も)。
 個々人の能力の差はあるにしても、手持ちの時間に大きな差がある以上、全
体として見れば浪人組の方が合格率が上がるに決まっていると思っていたので
、正直驚きです。
 例えば、時間をかけてもどうにもならない「何か」があり、司法試験では「
それ」が問われる側面もあるということなのでしょうか。
 是非、葉玉先生のご意見(できればそれについての対策も)をお聞かせ下さ
い。
投稿: べあ | 2009年4月 2日 (木) 01時04分
A8
 司法試験で1番になるかどうかは、才能もあるかもしれませんが、合格する
かどうかは、勉強時間によって決まります。
 通常、頭が良いと言われる人ほど沢山勉強し、才能がないと嘆く人ほど勉強
しません。
 未習か、既習か、司法試験受験歴があるかないか、など様々な要素が入り交
じっている現時点で、浪人と現役で比べるのはあまり意味はないです。

Q9
このたびの小沢代表公設秘書の逮捕につき、代表の検察批判には首肯しがたい
ところが多くあるのは同感です。
しかし、より一般的に、検察の問題として、
①政治資金規正法上の虚偽記載程度の被疑事実で、48時間+10日+10日の起訴
前勾留、そして起訴後勾留という長期の身柄拘束を続ける正当性につき、重大
な疑問があります。刑訴法上の要件を満たしているとは到底思えません。
付言すれば、自殺の可能性を危惧してのことと考えられますが、それが身柄拘
束を正当化できないことは当然で、脱法行為に他なりません。
次に、
②検察がマスメディアを通じて情報をリークし、世間に有罪の雰囲気を醸成す
る正当性も批判されるべきと考えます。
起訴前にも拘らず、記者クラブを通じ、情報を欲しがるマスコミを手玉にとっ
て、捜査状況・内容をリークし続ける行為は、著しく攻撃防御方法を欠く被疑
者・弁護人側に比して、極めてアンフェアでしょう。今回はこの傾向が顕著で
、不起訴や無罪が許されない(と思い込みすぎている)検察の自信のなさの表
れと思えます。
以上2点につき、お考えをお聞かせ願います。
投稿: そろそろ | 2009年4月 4日 (土) 18時29分
A9
① 政治資金規正法の虚偽記載「程度」という点が理解できません。法定刑も
軽いものではなく、また、企業献金を隠蔽するための虚偽記載であるならば、
罪状としても悪質です。刑訴法上の要件を充たしているからこそ、勾留状が出
たのだと思います。
 ちなみに、勾留されたのは、自殺の可能性を危惧したのではなく、罪証隠滅
のおそれがあったからだと思います。
② 検察が、捜査中にどの程度の事実をマスコミに公表するのかは、大変、難
しい問題です。検察が、マスコミからの取材を完全にシャットアウトすれば、
国民の知る権利を害するとして、批判されるでしょう。また、弁護人の中には
、マスコミのインタビューに答える人もおり、その点でアンフェアだとは思い
ません。
 ちなみに、刑事裁判は、捜査段階のマスコミ情報によって結論が左右される
ことはあまりないので、検察が「有罪の雰囲気を醸成」しても無意味です。
 また、被疑者・弁護人が「著しく攻撃防御方法を欠く」というのは誤った固
定観念です。被疑者は、一番、事件の核心部分を知っており、弁護人が適切に
被疑者から事情を聞き出せば、検察以上の証拠収集も可能な場合も多いのです
。実際、私は、刑事弁護もやりますが、必ずしも検察や警察より不利だとは思
いません。

Q10
私が今回の事件で一番疑問なのは,果たして今回の事件が(実質的な)刑法の
構成要件に該当するのか,ということです。
政治資金規正法では,個人献金は禁止しているが,政治団体からの献金は禁止
していないと理解しています。そうだとすると,仮に資金の拠出元が個人であ
ったとしても,それが政治団体を経由して献金されており,それが政治団体名
義で報告書に記載されている以上,少なくとも刑事罰に処するのは困難なので
はないでしょうか。
確か,だいぶ前の記事で,見せ金について預け合いの刑事罰の規定を「類推」
することはできない,とおっしゃっていましたが,実質的に云々というのが,
刑事法においても妥当するのかどうか疑問に思います。
政治団体からの献金を政治団体からの献金として政治資金収支報告書に記載し
ている場合に,その政治団体が形骸化していて実質的には個人からの献金と同
視でき,それを認識している場合に,刑事罰を科せられるのはなぜなのでしょ
うか。
資金拠出元に関しては,普通は形式説(名義説)をとると思うのですが,こと
政治資金規正法の解釈においては,「法の趣旨を没却する」という言葉で刑事
罰を科すことが正当化されるものなのでしょうか。
投稿: 巷 | 2009年4月 5日 (日) 09時14分
A10
 私は、経済事件の捜査経験が長いせいか、特捜部の法律構成には、違和感を
感じません。政治資金規正法の趣旨が、真実を正確に記載することである以上
、ダミーにより形式的な要件を整える行為は、処罰の対象となると考えます。

Q11
>可視化はラフジャスティスの採用とバーターです。
この意味がよくわかりません。もう少し噛み砕いてお教えいただけないでしょ
うか?
操作・取調べの可視化が、裁判コスト(弁護側・検察側ともに)増加とバータ
ーであると言うのであればわかります。
しかし、なぜラフジャスティスとバーターになるのでしょうか?
むしろ可視化されれば、自白や検面調書の正当性などが高まるでしょうし、正
確な裁判に繋がるというのが一般的な考え方のように思います。
それとも、「捜査の可視化なんかされたら、弁護サイドからの突っ込みどころ
満載になってしまう。強引な自白強要もばれちゃうだろ!だから、ラフジャス
ティスにしてもらわんと、全員無罪になっちゃうじゃないか!」と言う意味な
んでしょうか?
(別に皮肉でもなんでもなく、純粋な疑問です)
捜査の可視化の是非、というのは、多くの一般人が疑問に思う部分ではないか
と思うので、ぜひ葉玉先生のお考えをお聞かせください。
投稿: きたろう | 2009年4月 6日 (月) 12時54分
A11
私がイギリスに在外研究にいったとき、可視化の最も進んだイギリスの被疑者
の取調べは、重大な殺人事件であろうと、30分くらいしか行われないことが
多いと聞きましたし、実際に裁判の証拠を見せて貰ったら、日本ではとても有
罪にならないような証拠で有罪になっている例が多数ありました。

可視化するならば、短時間の取調べに留める必要があります。これは、録画コ
ストだけではなく、録画した取調状況を、裁判関係者(検事・弁護士・裁判官
・裁判員)が見るコストを考えると不可避です。たとえば、20日間連続で10時
間ずつ取調べをしたビデオを、裁判関係者が全部見るのは現実的ではありませ
ん。かといって、反訳させると、さらに莫大なコストがかかります。

短時間の取調べで、事実認定しようとするならば、少ない供述証拠で(犯行に
至る経緯や動機等が不十分でも)、被疑者や参考人の供述の矛盾や変遷等もあ
まり気にせずに、事実認定をしなければなりません。
これがラフジャスティスです。
現在、自白の任意性で、「強要」に該当するような主張がされること自体非常
に少なく、私は、そのような観念論ではなく、より良い事実認定のプロセスを
確保するためには、可視化などない方がよいと思います。

Q12
非上場子会社の80%の株式を親会社が持っており、子会社の取締役3名のうち
、2名が親会社の取締役です。(子会社代表取締役は親会社取締役です。)こ
の場合、子会社取締役会で親会社に対する配当の決議ができるのでしょうか?
投稿: 細マッチョ | 2009年4月 6日 (月) 17時53分
A12
 配当の決議は可能です。配当との関係では特別利害関係はないと考えます。

Q13
「剰余金の配当議案」の記載についての質問ですが、会社法454条1項1号では
「配当財産の種類」を決議しなくてはならない、とされています。
この点について、一般的には「1株当たり金○円」など記載することによって
、種類を金銭とすることを特定されていますが、これについて「金○円との記
載では、配当財産の種類を金銭と特定したことにはならない」とする見解が存
在するようです。
「金○円」と記載した場合でも、「金銭で○円」という意味を含む表現であっ
て、配当財産の種類は特定されていると思いますが、いかがでしょうか? 
投稿: | 2009年4月 7日 (火) 17時13分
A13
「金○円」で、当然、金銭として特定されています。

Q14
司法試験の勉強をしているものです。
勉強しながら、法律家は紛争解決を仕事にするものだと思っています。
自分はほとんど日常では争いごとやケンカをしたことありませんから、紛争の
中に自らはいっていって仕事をできるのかな・・と思ってしまい不安になるこ
とがあります。もし、紛争解決できればとてもやりがいが感じられる仕事だと
思っていますけど
そうはいっても資格をとってから考えるのもよいでしょうか?
投稿: 受験生 | 2009年4月 8日 (水) 10時51分
A14
資格をとってから考えてください。

Q15
金商法上の内部統制におけるリスクマネジメントは、会社法上の内部統制にお
けるリスクマネジメントに包含されると考えても良いのでしょうか?もし、包
含されると考えた場合、金商法上のリスクマネジメントも、弊社の「内部統制
システム構築の基本方針」中の「損失の危険の管理に関する規程その他の体制
」で定められた方針に従って整備されることになると思うのですが、いかがで
しょうか?
投稿: ゴリマッチョ | 2009年4月 9日 (木) 15時22分
A15
基本的には、そのとおりです。
詳しくは過去の記事を見てください。

Q16
 いわゆる取締役選解任権付株式により選任された取締役の任期は,選任後2
年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時
までなのでしょうか?
 選任・解任は,種類株主総会で行うにもかかわらず,会社法上は,定時株主
総会の終結時が任期満了の時点とされていることに疑問を感じています。
投稿: 司法書士X | 2009年4月11日 (土) 16時20分
A16
 そのとおりです。種類株主総会は、定期的に行うものではないので、任期の
基準には向かないんです。
 今の規範であれば、定時総会と同時に種類株主総会を開くので、問題ありま
せん。

Q17
代表取締役(A)を同じくする甲、乙会社間で土地の売買契約を締結する場合
に、取締役の決議においてその代表取締役Aは議決権を行使できるかにつき質
問させてください。
この場合当然に利益相反になりますが、代表取締役Aが特別利害関係人にあた
り議決権を行使できるか否かにつき疑義があります。
 登記実務では、この場合は会社間の取引なので(会社と取締役の取引ではな
い)Aは特別利害関係人にあたらないと解しているようです。(日本法令 事
項別 不動産登記のQ&A200選 登記研究139号49項 454号131項)
 また、特別利害関係人の具体例としては基本書には取締役と会社間の取引と
記載しており、代表取締役を共通する会社間の取引における代表取締役と記載
したものを目にしたことはありません。
 ただ、私見としては、本事例のAは「決議」(会社法369条)に利害関係を持
たないわけがないこと、会社を代表して行う場合にも 取締役の忠実義務違反
をもたらす恐れのある個人的利害関係(特別の利害関係)があると言えるので
はないかと考えております。
 現状の登記実務のあり方及び私見の是非につきご意見を伺えれば幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
投稿: 登記職人見習中 | 2009年4月12日 (日) 03時46分
A17
 代表取締役が共通の場合、利益相反取引になるのですから、特別利害関係が
あると考える方が素直だと思います。
 実務上は、一人会社の一人社長みたいな場合が多いので、特別利害関係の範
囲を広げると、違法な議事録ばかりが出てきて大変ですから、緩い方が楽です
が、コンプライアンスの見地からすれば、自分の利益相反取引について、自分
で一票投じるのは、あまりよろしくないので、特別利害関係があるとして処理
する方がよいと思います。

Q18
早速ですが、新司法試験の勉強の仕方について質問させて下さい。
私は、択一の会社法・商法9割(今は、5割にも届かない状態ですが。)を目
指して、判例六法の素読を始めました。
引用条文が多い章は、なかなか次の章に行けず、大変です。
時間を掛けてやっているのだから、漫然と読むのではなくポイントを押さえて
読みたいと思っています。
私なりに、
①主体(ex.「取締役」なのか「取締役会」なのか)
②ただし書き
③文末(「できる」なのか「しなければならない」なのか)
に気を付けて読んでいますが、その他素読をする際に気を付けることがあれば
、アドバイスを頂ければと思います。
投稿: もも | 2009年4月12日 (日) 14時07分
A18
素読はしなくていいんじゃないでしょうか。

Q19
取締役の責任について質問させてください。

423条も429条も任務懈怠が要件だと思うのですが、
文言上、423条は「任務を怠った」と直接的に書いてあるのに対し、
429条は「職務を行うについて」としかありません。
このように表現が違うのはなぜでしょうか?
投稿: くそべて | 2009年4月14日 (火) 09時28分
A19
歴史です。

Q20
「特別の利害関係」は取締役候補者としての欠格事由に該当するのでしょうか

また「特別の利害関係」を整理して理解するためには、どの条文を取り上げれ
ばよいでしょうか?
投稿: ポニョ | 2009年4月14日 (火) 18時28分
A20
欠格事由ではありません。
後段の質問はよく分かりません。
取締役会の議決権と、利益相反取引と、計算書類等ですか?

Q21
現在未修1年のロー生です。
ロースクールの教授は予備校本は論理が見につかないと口をそろえて言います
がそれは本当ですか?
私としては予備校本のほうがわかりやすいので新司対策として問題ないのなら
予備校本メインでやりたいのですが…。
科目ごとの意見や予備校本を使うとき気をつける点などもできればお伺いした
いです。
投稿: SS | 2009年4月15日 (水) 01時09分
A21
基本書でも論理が身につかないものが多いので、予備校本メインでも良いと思
います。

Q22
わが社は中小の同族会社ですが、親族の役員が退職する際は、その役員が保有
する株式を会社がいったん買取り、会社がその子息等に売渡してその者が役員
に就任するといった形をとっています。

そういった決まり事が、定款にではなく、取締役会が規定する株式取扱規定で
定められています。
しかも、その規定には「株式保有資格」という項目があり、株主が死亡したと
きや株主が役員の場合はその退任時に「保有資格」がなくなり、会社指定の譲
受人に譲渡する義務が盛り込まれています。

さらに、会社の決算が赤字でも一期限りなら株式の配当を行うという規定まで
あります。

最近総務?になったばかりなので、正直こういった株式取扱規定が通常のもの
かどうかもわかりませんが、これをこのまま会社法下の現行法規にも通用する
ものなのでしょうか?

また訂正するにしても定款で定めるような株主の権利義務などを株主総会の下
位機関である取締役(取締役会非設置)が定める株式取扱規定にゆだねる事は
適切なのでしょうか?
投稿: 中小企業の総務かな? | 2009年4月15日 (水) 15時56分
A22
その株式取扱規則は、法的には、効力がなさそうですね。
定款できちんと定めれば、法的に有効なものも作れそうですが。

Q23
会社法100問について質問させていただきます。
今,100問の各問題を1枚の紙にまとめて,短時間でざっと復習できるようにし
ております。なので,合計100頁になる予定。
そこで,質問です。
①会社法100問の使い方として,このような方法は適切でしょうか。
②まとめるにあたって,パソコンでも良いのでしょうか。パソコンのほうが早
いし見直すのにきれいだし。答案を書くわけではなく,ノートだからパソコン
でもいいのかなと。
投稿: こんにちは。 | 2009年4月16日 (木) 15時28分
A23
①②ともよろしいと思います。

Q24
強制わいせつ罪の上告審判決で逆転無罪判決がありました。
警察庁で痴漢捜査の検討会議もするそうです。

これまでは目撃者がなくたとえ立証が難しい場合であっても、無実の証明に成
功しない限り、有罪になることが多かったと思います。
今後冤罪のおそれが減るのは良いことですが、同種の事件の場合に、捜査がい
っそう難しくなりそうです。

痴漢の被害に会われた方は大変な心の痛み・苦しみをもっているのはわかりま
す。しかし、満員電車で間違われるのだけは勘弁して、と思ってしまいます。
痴漢捜査のあり方について先生のお考えをお聞かせください。
(疑われた場合の有効な対処も教えていただけますとなお嬉しいです!)
投稿: 満員電車 | 2009年4月17日 (金) 00時34分
A24
痴漢に限らず、被害者の証言しかない事件は沢山あります。私は、被害者の供
述の信用性も、事件ごとに異なるのだから、今回の最高裁判決も、「被害者の
供述しかなければ、無罪」という話ではないと理解しています。
 私の捜査の経験上も、被害者の供述だけで起訴したときもありますし、被害
者の供述だけでは無理と判断して不起訴にしたときもあります。このあたりは
、捜査側で、妙なルールを作らずにケースバイケースで対応した方がよいと思
います。
 
Q25
 会社法マスター115講座第3版を丸沼書店で購入した者です。臨時計算書類
の承認についてご教示賜りたくお願い申し上げます。
 千問のQ713で「臨時計算書類が株主総会の承認を経ずに確定した場合、株主
総会への報告をすることも要しない」とありますが、会社法マスター115講座
第3版 P.179では、一定の要件を満たせば報告で足りるとの記載があります
。441条4項ただし書の法務省令の要件に該当する場合には株主総会の承認は
不要だということはわかりましたが、この場合株主総会への報告は必要なので
しょうか。
投稿: 短答が近くて忙しい50歳 | 2009年4月17日 (金) 16時48分
A25
報告は不要です。

Q26
最近、条文との付き合い方に悩んでおります。
どんな問題であっても、条文があれば先に一言でも触れておかないと、どうし
ても気がすまないのです。 
 
例えば、違法な逮捕に引き続いて勾留請求できるかという論点がありますが、
参考答案などでは、「・・・勾留請求が認められるかが問題となる」と、いき
なり論点の問題提起に入っています。
でも自分の場合、まず勾留請求の条文を指摘しておかないと、どうしても気が
すまないのです。
 
条文を指摘すること自体は大事なことだと思うのですが、例えば訴訟物が売買
代金支払請求である場合でも、民法555条に一言だけでも必ず触れてしまい
ます。
 
条文があるなら条文を指摘して、
解釈はそのあとだと思うのです。
しかしこれは、論文の書き方という観点からは妥当でしょうか?
わざわざ民法555条まで挙げたりするのは細かすぎますかね? 
投稿: ぶるぼん | 2009年4月17日 (金) 21時16分
A26
条文を書くことは良いことです。

Q27
今年の4月1日付の施行規則、計算規則の改正を受けて、4月16日付で、日
本監査役協会の「監査報告の雛形」が一部改正されていますが、その解説では
「今年の3月決算会社が作成する監査報告については、計算規則の条数改正(
具体的には「会計監査人の職務の遂行に関する事項(159条→131条)」
)によって、改正後の条数を記載することになるが、施行規則の改正による条
数変更(具体的には「支配に関する基本方針(127条→118条)」)につ
いては、事業報告作成の経過措置により、改正前の条数を記載する」と言及さ
れています。

この内容について、計算規則の改正については、特段の経過措置が存在しない
ことから、対応が必要となることは理解できるのですが、施行規則の改正につ
いては、あくまで「事業報告の作成」について、従前の例によるとされている
ことから、事業報告作成後の監査報告で記載すべき条数については、監査報告
作成時の条数(118条)を記載すべきと考えるのですが、いかがでしょうか

投稿: naga | 2009年4月18日 (土) 07時23分
A27
難問ですね。監査報告は、事業報告を監査した結果を記載するので、事業報告
の記載と揃えるべきだという考え方もありえます。
分かりやすければ、どちらでもいいと思いますが。

Q28
株主提案権が行使された際の招集通知の記載について、会社法305条では、
その「議案の要領」を招集通知に記載する旨規定されていますが、書面投票に
よる場合にも、「狭義の招集通知」には「議案の要領」の記載が必要となるの
でしょうか?

施行規則93条は「株主提案」による議案の記載を定めていますが、これによ
り参考書類にその内容が記載されるので、同74条4項の「重複記載を避ける
」規定によって、狭義の招集通知には要領の記載は不要と考えますが、いかが
でしょうか?
投稿: | 2009年4月18日 (土) 07時42分
A28
招集通知の記載は、省略できません。

Q29
今度新司法試験を初めて受けるロー卒業生です。
既修なのですが旧試験の経験はありません。
択一の勉強について質問させてください。

これまで、択一は新試験の過去問(民法は旧もやりました)で勉強しました。

刑法や憲法について、新試験の過去問であれば、8~9割とれるのですが、
模試では、なかなか伸びず、平均点を下回るほど悪いです。

新試験は過去問がまだ量が少ないためにそういった穴ができてしまうのかもし
れませんが、予備校の問題や旧試験の問題を今からでもやり始めたほうがいい
のでしょうか。

記憶力が良くて、過去問を何回も解きなおしているうちに問題を覚えてしまっ
たようなのです。

傾向が旧と新ではかなり違うので、悩んでいます。
あともう20日前後しかないのも悩みですが。
投稿: まよまよ | 2009年4月20日 (月) 17時58分
A29
新試験の過去問だけでは、全く足りません。
予備校や旧試験の問題もやりましょう。
時間が足りませんが。

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2009年4月 1日 (水)

代表訴訟の対象となる責任

 大人は子供が悪いことをすると「謝れ」と怒るのに、大人はなかなか謝れないですね。

最近は企業不祥事で、謝り方が悪いと、マスコミに散々叩かれて瀕死の重傷を負わされることも多いので、リスク管理の観点から、取締役は、毎朝、「ごめんなさい」という練習をしてもよいくらいです(笑)。

 他方、小沢氏は謝り下手で、部下たちはその謝り下手をコントロールすることもできず、なんとなくミートホープとか、船場吉兆とかを思い出します。

 謝らないのは、報道ステーションも同じ。
 放送倫理・番組向上機構の放送と人権等権利に関する委員会(BPO)が、徳島県の土地改良区横領事件を伝えた報道ステーションで、重大な放送倫理違反があったと認定したにもかかわらず、古舘さんは
「勧告を真摯に受け止め、放送倫理や人権に十分配慮してまいります」
とコメントしただけで謝りませんでした。

BPOが名誉毀損を認めなかったから、謝らなかったのかもしれません。

しかし、自ら重大な放送倫理違反をやったにもかかわらず、謝罪できないようなキャスターが企業倫理違反や政治倫理違反を批判するのは、ちゃんちゃら可笑しいです。

 倫理違反は、法的責任をとる必要はありませんが、職業人として恥ずべき行為であり、倫理違反で人に嫌な気持ちを起こさせたのならば、その人に謝るのが常識です。
 字幕の誤字脱字は謝るのに、倫理違反の報道を謝らないのは事の軽重を取り違えています。
 倫理違反を犯した番組としては、プライドを捨て素直に謝った方が、今後の報道の信頼性を高めたのではないかと思いました。

まあ、自分自身、奥さんから「なんで謝らないの!」と怒られることもあるので、「謝らない」ことに批判めいたことを言うのはこの辺にしておきます。

さて、西武鉄道の損害賠償のニュースも気になりますが、「会社法であそぼ。」としては、

代表訴訟の対象となる「取締役の責任」について、損害賠償責任に限定されない旨の最高裁判決

に触れざるを得ないので、今日は、代表訴訟の話題にします。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37404&hanreiKbn=01

少しでも会社法の勉強をしたことがある人は、株主が代表訴訟で追求することができる取締役の責任が、会社法423条等取締役の地位に基づく責任に限定されるのか(限定説)、それ以外の取締役が会社に対して負っている債務も含まれるのか(非限定説)という論点をご存じであろうと思います。

今回の最高裁判決は、旧商法の判例ではありますが、
  「同法(商法)267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」
と判示して、限定説を採用しないことを明らかにしました。

実は、この論点は、会社法の立案当時、個人的に相当悩んだところでした。

旧商法267条1項は、会社法847条1項になり次のように規定されています。
「・・株主・・は、・・役員等・・の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。」

現代の法制執務では、基本的に、二義を許さないワーディングをする必要があります。
特に同項は、原告適格を定めるものですから、訴訟手続を混乱させないためには、「第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え」のように訴えの内容を条文によって明確にするのが普通です。学者の皆さんは、よく「解釈に委ねるべき」とおっしゃいますが、内閣法制局の参事官に向かって、「ここの文言の意義は、解釈に委ねます」とはなかなか言えないのです。

 立法は、ある文言について、日常用語を離れた特別な限定を加えるのならば、定義規定を置くのが当然という世界ですから、会社法423条の責任等に限定するのであれば、
  「第四百二十三条に規定する責任を追及する訴え」
と書くべきですし、逆に
  「役員等の責任を追及する訴え」
と書けば、責任は一般的な意味での責任を意味し、会社法上の責任に限定されないと解釈される覚悟をしなければなりません。

私は、個人的には、旧商法267条1項は同法266条の責任を意味すると解する方が論理的であると思っていたので、「第四百二十三条に規定する責任を追及する訴え・・」等とする案も作ってみました。

限定説の良さは、代表訴訟の対象となる権利の範囲が明確になることです。

非限定説は、取締役が取締役になる前に負った債務や、取締役を退任した後に負った債務も、代表訴訟の対象となるかどうかすら、よく分からないのが気持ち悪いし、所有権移転登記の申請義務等を代表訴訟の対象にすることを明らかにしてしまうと、代表訴訟で勝訴判決を得ても、株主が強制執行する手段がないという代表訴訟の致命的欠陥が目立ってしまうというのも嫌でした。

しかし、当時、非限定説を採っていた下級審判例もありましたので、こうした下級審判例が最高裁で破棄されるかどうかを考えてみたところ
代表訴訟の多くは、相続人らの身内の争いだから、金だけではなく、取締役が公私混同して会社から個人に移転させた財産を会社の財産に戻したりするのに使われる可能性も高いな。そうしたゴタゴタを解決しやすい方に最高裁は流れるんじゃなかろうか。
非限定説の方が、旧商法の条文とほぼ同じだから、法制局に指摘されにくいかもしれないし、非限定説に立っても、取締役の就任期間中に生じた責任に限定すれば、範囲が不当に広がることもないだろう。
と思い、結局、今の条文に落ち着いたのです。
 幸い、法制局でも民事局でも特にこの点について指摘をされなかったのですが、もし質問されたら、非限定説の合理性を説き、
  非限定説を殺すようなワーディングはすべきではありません
とでも答えようと思っていました。

なお、今回の最高裁判決を「423条の責任等+取引債務」を対象としたものと解釈する方もいらっしゃいます(取引債務限定説)。

取引債務限定説については、立案当時も考えてみたのですが、取締役の責任については、論理的には
    契約に基づく責任(取引債務・債務不履行に基づく損害賠償席に・法定担保責任等)
    契約以外の原因に基づく責任 不当利得・事務管理・不法行為等
があるわけで、このうち、取締役が債務不履行や不法行為をやれば、
    会社法423条の責任
になりますし
    取引行為についての責任
を認めるのならば、
   法定担保責任
   取引を解除した場合の現状回復義務
   取引が無効だった場合の不当利得返還義務
も認められるないのはおかしいだろうと考えました。

 すると、取引債務限定説と非限定説の違いは、実質的には、事務管理に基づく責任を認めるかどうかぐらいしかなく、会社法847条1項の文言を徒に複雑にする取引債務限定説を採る意味はないな、と思い、取引債務限定説は捨てました。

以上のようにいろいろ悩んだ末に会社法847条1項の原案を作ったので、今回の最高裁判決は、ある意味、ほっとしています。
立案担当者の考え方が、そのまま裁判で採用される保障などどこにもないのですが、作るときは、かなり真剣に先を読んで作っているので、読みがあたったときは、素直にうれしいところです。

(質問コーナー)
Q1
いつも楽しく拝見させていただいております。法科大学院未修1年の者です。
この春休みに百選をざっとさらって(いつでも見直して暗記できるように)ノートに数行で規範とあてはめをまとめているのですが、質問です。
(1)このようなことをやって意味がありますでしょうか(私は新試験の択一対策にとくに意味があると思っています)。
(2)百選の解説欄は事案や判旨が分からないときのみ読んでいるのですが(時間の関係でほとんど読んでいません。解説よりもむしろ多くは基本書を読むようにしています)、この方針について何かご指摘があればお願いします。
投稿: 公爵 | 2009年3月22日 (日) 20時38分
A1
大変素晴らしい勉強法であると思います。

Q2
今進路のことで悩んでます。
今日WBCの日本チームを見てて
「好きな事を仕事にする」っていいなあって思いました。
自分も「やりたいこと、したいこと」を仕事にしたいなとおもっています。
じゃあ自分の好きな事て何?と問いかけてもなかなか仕事につながるものがないおうな気がします。

自分の好きな事はスポーツ、特に海のスポーツをすることが好きですが、それが仕事になるともおもえません。
今は大学で法律を少しかじっていたので、自分で勉強して弁護士を目指そうとしてます。
でも、それは「好きな事」ではないような気がします。
実際よくわかりません。
「好きな事」を仕事にするってどういうことなんでしょうか?
投稿: 悩める子羊 | 2009年3月23日 (月) 14時41分
A2
「好きなこと」には2種類あります。

 憧れることと、やってみて楽しいことです。
 憧れることを仕事でやるのは、成功すれば楽しいですが、多くの人は挫けます。
 やってみて楽しいことは、やってみるまで本当の楽しさはわかりません。
 私のポリシーは、目の前の仕事を楽しんでやることなので、結果的には、いつも「好きなこと」を仕事にしています。

Q3
葉玉先生が早稲田のロー生にゼミを開いて大変よい成果をあげられたエントリーを拝見させていただきました。
そこでは、各自答案を書き、それを各自読んで、適当に採点して、議論は手短に、
という方針で行われていたとのことでした。
この各自で採点する際には、添削のようにコメントを入れたりしたのでしょうか。
これをやると時間が相当かかるのですが、
しかし、かといってやらないとどこが悪いのかよくわからないともいえます。
ゼミを行うについて、是非参考にさせていただきたいので、
ゼミでやった内容を具体的教えていただけると幸いです。
投稿: だる | 2009年3月23日 (月) 18時20分
A3
添削はコメントを入れることが大事だと思います。
それによって、はじめて採点者も考えるのです。
ゼミでやったことは、私が答案のポイントを解説したり、質問したりするだけでたいしたことはやっていません。

Q4
4月に既習に入学予定の者です。
(人によるとかいうのでなく、一般論として)新試験の合格者は旧試験の合格者より使えないという話を聞いたりしますが、葉玉先生はこの見解をどう思いますでしょうか。

わたしはローの理念(多様な科目を勉強できる)がいいと思うので様々な科目(複数の選択科目など)を履修しようと思っていますが、就職の際にはそのような点よりもやはり新司の順位などが重視されるのでしょうか。
試験科目重視で授業をとるべきか、さまざまな科目をとるべきか友人との間でも議論になっています。

あと、TMIは知財に特化してるという話や、実際はそんなことなくオールラウンドだという話など様々な話を聞くのですが、実際はどうなのでしょうか。

TMIを目指すならこれを特にがんばれ!みたいなことがあるなら教えてください。(経歴などでなく、努力でなんとかなるものです)

質問を羅列してしまったのですが、もしよかったら回答お願いします。
投稿: ななし | 2009年3月24日 (火) 05時34分
A4
新試験は、合格する人が多いので、実力のない人も合格しています。
上位の方は、能力的に昔と変わらないと思います。

いろいろな科目を履修しても就職では評価しません。どうせ役に立ちませんから。

TMIの知財の割合は25%くらいです。訴訟、M&A、ファイナンスなどいろいろやっています。
TMIを目指すなら、まずローの成績をあげ、司法試験の成績をあげてください。それが最低条件です。

Q5
検察の説明責任についてはどうお考えでしょうか。
同じ元検察でも不要という方と必要という方いらっしゃいます。
「法令遵守が日本を滅ぼす」を書いた郷原さんは、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090323/189737/?P=1
にて、民主主義という観点からその必要性を説いています。
私も法の運用如何でどうとでもなりそうな穴だらけの法律とも考えられるゆえ、
同感なのですが、葉玉さんはどのように考えますか?

「悪法もまた法なり」で、どんだけ悪用されようが公務員である以上、法には
従っていれば問題ないのでしょうか。
自身が検察をしているときに、そのような事態に遭遇したことはなかったですか?
遭遇した場合、思考停止させない限り、自身を正当化できないように思うのですが、どう思われますか?
蛇足ですが、私は特定の政党に思い入れはないです。

衆愚政と「遵法精神」の生み出した「あってはならないもの」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090319/189540/?P=1
投稿: | 2009年3月24日 (火) 15時21分
A5
私は、郷原さんの言っていることは間違いだと思います。
私は、今回の事件で、検察に説明責任があるとすれば
 悪質な犯罪なので公判請求しました
という一言で十分だと思います。。
そもそも、検察は、粛々と捜査と起訴又は不起訴処分を行うところであり、いちいち政治家関係の事件をやるたびに、なんで公判請求をしたのかという説明を求められるとすれば、処分に政治的配慮をいれるようになってしまいます。

総理大臣だろうと、野党の党首だろうと、その秘書だろうと、犯罪を犯せば、適切に処分するのが当然です。

私は、ほとんど無党派層ですが、小沢さんが言っているのは、
  みんながスピード違反しているのに、うちの秘書だけ捕まるのはおかしい
と言っているに等しいと思います。
 政治資金規正法が、献金の透明性を確保するという趣旨ならば、ダミーの政治団体を使って企業献金であることを隠す行為は、法の趣旨を没却することになります。
「記載しない」ことと、「ダミーを使って資金拠出者を隠す」のは、実質的には何もかわりません。
 正々堂々と、「小沢一郎は、西松建設から3500万円もらいました」と言えば良かったです。そうした事実が明らかになれば、国民は、「西松はなぜそんなに献金するのだろう」と不思議がるでしょうし、マスコミは献金の影響で公共工事が左右されるようなことがないかどうかを一生懸命監視するでしょう。
 政治団体の寄付にするから、監視の目が行き届かなくなった。それだけでも、大問題です。
 民主党は、党首の廉潔性が問われているのに、なぜ事実を調査しないのでしょうか?
 民主党には、自浄能力はないのでしょうか?
 国民は、小沢氏の秘書がなぜ政治団体を使ったのか、その理由も知りたいし、なぜダミーだとわかったにも、かかわらず献金を返金しないのか、知りたいと思っているのではないでしょうか。
 それとも、民主党は「企業が民主党の議員に献金する場合、ダミーの政治団体に寄付させれば問題ない」という見解を採っているのでしょうか。
 また、小沢氏は、「企業ならば、政党支部に寄付させればよい」という趣旨の発言をしていますが、この発言自体、政治家に対する企業献金を禁止した法の趣旨を無視しているように聞こえます。たとえ、それが実態だとしても、正々堂々と発言するような内容ではないと思います。
 企業献金であることを隠すためにダミーの政治団体を使って献金を受けたという行為自体、弁解できない行為であるにもかかわらず、つべこべ言い訳を続けるのは、傷を深くするだけです。

Q6
 やはり、全面的に開示すべきでしょうか?弁護士の先生は「被疑者の人権が」とか、検察の先生は「被疑者との信頼関係が」とか言いますけど、ビミョーな問題ですよね。葉玉先生はどうお考えでしょうか?
  私自身は、検察の説明責任含め、素人的立場からして、検察の実体みたいなものがイマイチ掴めません。(HEROとかそれでも僕はやっていないとか見たけど、やっぱわかんない。)捜査の密行性っていうけど、逮捕された後、どんな捜査が行われているのか全くわかりません。このような心境からいうと、やっぱり大なり小なり捜査の可視化は必要だ、と思うのですが、どうでしょうか?
投稿: しがない | 2009年3月24日 (火) 21時15分
A6
私はイギリスで、在外研究をやっていたので、捜査の可視化には一家言あります。
イギリスのように、むちゃくちゃ薄い証拠で有罪にできるラフジャスティスなら、捜査状況を全部ビデオにとっても問題ありません。
日本のように精密司法では、コストの面でも運用の面でも、可視化は、すぐに行き詰まります。
可視化はラフジャスティスの採用とバーターです。

Q7
事案:
株主に対しての貸付です。
取締役会での承認をとり、金利や担保を取ることで問題は無いことは確認をいたしました。
担保として、弊社の株式(譲渡承認が必要)をとることも問題は無いということです。

ただ、株主が期限に返済できず、他に財産がないとなった場合、弊社株式が担保としてあるわけで、それを実行したときです。

自社株式の取得となるわけですが、金庫株にするとき、その手続きをどうするかです。
取締役会の承認や臨時株主総会での承認やその他手続きが必要になるのでしょうか。

それとも、担保権実行として会社の金庫株とすることで名義を自動的に書き換えることで問題は無いのでしょうか。
投稿: ご苦労さん | 2009年3月25日 (水) 09時24分
A7
まず自己株式について担保権を設定する行為については、
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=3&CLASSNAME=Pcm1090&KID=300080050&OBJCD=&GROUP=
法務省の会社法施行規則の改正案のパブコメの結果概要第3の2を見てください。

Q8
弁護士の就職についてご質問があります。

現在、金融危機等の影響で、一般的な就職活動は大変厳しいものとなっています。

企業法務を専門とする大手ローファームは、ここ2・3年は大量採用による拡大傾向にありましたが、最近の景気後退により、弁護士の新規採用枠の減少や拡大路線の変更などの傾向の変化はあるのでしょうか。

弁護士はその職務の性質上、世間がダウンサイドにあるときにも逆に業務量が多くなるなどの特殊な事情がありますし、また各々のローファームの長期的な経営方針もそれぞれ異なるとは思いますが、現場の先生方の感覚としては全体の流れとしてどのようにお感じなのでしょうか。

漠然とした質問で申し訳ありません。お答えできる範囲で構いませんので、よろしくお願いします。
A8
事務所ごとに違うと思いますが、大手ローファームも、新規採用枠が広がるということはないように思います。現状維持か、減少傾向ではないでしょうか。

Q9
他学部から法科大学院に進学し、今年卒業しました。
本試験が迫ってきて、今何をすべきなのか、よく分かりません。
とりあえず、毎日、早朝から一日中短答の問題集ばかりやってます。
アドバイスをください。どうしても合格したいのです。
投稿: コヘレト | 2009年3月25日 (水) 21時50分
A9
その質問は、法科大学院に入学したときにしてもらいたいところです。
今、何をすべきかわからないこと自体が問題です。
私は、コヘレトさんの実力を知らないので、アドバイスをするのは難しいというほかありません。

Q10
企業が開示する「取締役選任に関するお知らせ」の中で、候補者について「当社との間には特別の利害関係はありません」という注意書が必ずといって良いほどありますが、これは法律上の規定に基づき、記載しなければならない事項なのでしょうか?また「特別の利害関係」は候補者としての欠格事由に該当するのでしょうか?
投稿: ポニョ | 2009年3月26日 (木) 11時06分
A10
特別の利害関係は、会社法施行規則74条2項3号で株主総会参考書類の記載事項となっています。

Q11
不祥事発覚の対応についてですが、
上智大学のローは長沼先生の問題について完全に隠れるという対策でいきましたね。
これが企業ならば正解だと思いますが、法科大学院としては法曹として廉潔性に欠けるところかと思います。
本人から最低限の釈明なり謝罪なりはするべきだと私は考えるのですが葉玉先生はどう考えられますか?
投稿: ロー生 | 2009年3月26日 (木) 12時13分
A11
私は、上智ローの教授なので、ここで私見を申し上げるのは差し控えさせていただきます。

Q12
事業報告への記載について教えてください。
最近、いろいろな会社で不祥事が発覚しており、該当する会社にとっては、事業報告に、会社法施行規則124条4号ニなどの記載をどうしようか悩むところだと思います。
同号ニでは、社外役員の選任議案のように「過去5年間」という文言がなく、「当該事業年度中に法令又は定款に違反する事実・・・が行われた事実があるとき」は、その予防のために行なった行為等の概要を記載しなければならないとされています。
しかし、事案によっては、法令又は定款に違反する事実が 「当該事業年度より前(数年前の場合もある)」 に行なわれ、これに対する行政処分などが 「当該事業年度」 になされる場合があります。
この場合、条文をそのまま捉えると、会社法施行規則124条4号ニの記載対象ではないと思えます。
もちろん、同120条1項9号などとして不祥事があった事実を記載することは必要だと思いますし、124条4号ニとして記載しない場合には「妥当性」の問題はあると思いますが 「適法性」からは問題ないような気がしますが、いかがでしょうか。
やはり、法令の趣旨は、この場合でも124条4号ニの記載を要求していると解するのでしょうか。たとえば、独占禁止法違反などは、調査が入ってもそれだけでは法令違反行為があったとは言えず、数年後に、「違反行為があった」 として排除命令などの行政処分が出ることがありますので、上記のようなことがおこると思いますが。
投稿: Oh NO! | 2009年3月26日 (木) 14時21分
A12
理論的にはおっしゃるとおりです。ただし、事業報告で書くべきときに書かなかったということで、独禁法違反行為のあった事業年度の事業報告について不記載の違法があったことになります。
また、処分があったときに重要事実として書くべきであるという考え方もあるでしょう。

Q13
役員の任期についてです。
会社法332条4項3号には『発行する全部の株式の内容として』譲渡制限の定めを廃止した場合に取締役は任期満了退任するとあります。他の役員(監査役・会計参与)も同様ですよね。
つまり、非公開会社が公開会社になった場合には役員が任期満了退任する。

では、ある会社(取締役3名・監査役1名・会計参与1名・役会設置会社)が普通株式とA種類株式(剰余金の配当につき普通株式より配当が多い株式)を発行していて現在は全部の株式につき譲渡制限の定めがある。この時に、臨時株主総会において定款変更決議がなされ『当会社の普通株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を要する』と言うように、A種類株式についてのみ譲渡制限の定めが外された場合、この会社は非公開から公開になります。そこで、役員の任期は満了するのでしょうか?

会社法332条4項3号を素直に読み取ると『全部の株式の内容として』との文言があるため、これは種類株式を発行していない単一株式発行会社の事を指しているのだと読み取れ、種類株式発行会社には適用が無いと解釈できる。
一方で、実質的には非公開から公開会社になっているのだから、役員を選び直す必要が生じ任期満了退任させるべきでは…。とも考えられ悩んでいます。
種類株式発行会社の場合には退任させるべきなのでしょうか?させないべきなのでしょうか?
投稿: るい | 2009年3月30日 (月) 01時33分
A13
役員の任期は満了すると考えます。

Q14
葉玉先生、こんにちは。先生は、ハーグ間接保有証券の準拠法に関わる条約に関わる作業にも従事されていたかと記憶しておりますので、以下のようなケースで振替株式を担保にとった際についてご意見をお聞かせいただければと思います。

現在の証券振替制度では、外国の金融機関が外国間接参加者として、日本国外でも口座管理機関になることができるのはご承知の通りです。それで、この外国間接参加者(例:ロンドンにある銀行等)が、振替株式を日本国内にいる担保権設定者から担保をとることになり、証券振替制度に基づいて、日本国外にある参加者の口座(帳簿)にその旨記載することになりました。この場合に、この担保権設定者(債務者)の債権者に対して、対抗要件の具備が日本法以外になってしまうリスクはあると考えるべきか、それとも、あくまで振替法の中の話で、日本法で問題ないと考えるべきでしょか?特に、この担保権設定者に日本国外の債権者がいる場合にどうでしょうか?  

とても「株券電子化ガイドブック 実務編」には出てきそうにないマニアックな話なので、お考えをお聞かせください。
投稿: ロンドン一番 | 2009年3月30日 (月) 04時58分
A14
この問題は、結構、複雑なので具体的な事情を聞かないと答えられませんが、外国法が準拠法になるリスクはあります。

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2008年8月 9日 (土)

金商法の内部統制と善管注意義務

 金商法の内部統制報告制度が本格始動しているせいか、最近、内部統制に関するアドバイスや勉強会の講師を頼まれることが増えました。
 特に内部統制報告書を、どういう方針でどう書くのかという点については、本番に備えて具体的な検討が進んでいますので、質問を受ける内容もどんどん具体的になっています。

 そうした、内部統制関係でよく聞かれる基本的質問が、金商法の内部統制と取締役の責任の関係であり、より具体的には、「重要な欠陥があった場合、善管注意義務違反となるのか?」ということです。

 この論点については、同質説とか異質説とか議論がありますが、私は、そもそも、そのような問題提起の仕方自体、意味がないような気がしてなりません。

 善管注意義務の問題は、通常、取締役の損害賠償責任の有無の判断において検討されます。
 損害賠償責任を検討する場合には
  ①どんな損害が生じたのか
  ②その損害をもたらした行為は何か(因果関係)
  ③その行為は、任務懈怠といえるか(違法)
  ④その行為を行った取締役に過失があるか(責任)
というプロセスをたどるのが通常でしょう。

 損害に結びついていない行為を検討しても仕方がないし、そもそも損害に結びつく可能性のない行為を義務違反ということもできないでしょう。

 たとえば、財務報告を信頼した人が損害を被ったとします。
 すると、その損害に因果関係のある行為は、「財務報告の作成行為」ということになりますが、それが③任務懈怠になるかどうかという検討においては
  財務報告が、客観的に法令に従っていない虚偽のものならば、内部統制に重要な欠陥があったかどうかにかかわりなく、その作成行為は、任務懈怠になる
と考えられます。

 任務懈怠と故意・過失の関係については議論があるところですが、私は、
  任務懈怠=法令違反(善管注意義務違反を含む)
と考えた上、いかなる事情であれ、取締役が法令違反の財務報告(虚偽の財務報告)を作成した以上、任務懈怠は免れないと考えます(この考え方は、会社法429条2項や金商法上の有価証券報告書の虚偽記載責任の趣旨と整合的です)。

 その上で、④の取締役の過失の有無において、当該取締役にとっての予見可能性・回避可能性を検討するのです。

 このようなプロセスの中で、「重要な欠陥」はどんな意味を持つのでしょうか。
 (1)重要な欠陥があって、財務報告も虚偽だった
 (2)重要な欠陥はなかったが、財務報告は虚偽だった
 (3)重要な欠陥はあったが、財務報告は虚偽ではなかった
という3つのパターンについて考えると、それぞれ、次のようになります。

(1)の場合
  → 財務報告が虚偽だから、任務懈怠です。

(2)の場合
  → 重要な欠陥がなくても、財務報告が虚偽である以上、任務懈怠です。

(3)の場合
  → 重要な欠陥はあっても、財務報告が虚偽でなければ、それを信じたことによる損害というのは生じません。したがって、重要な欠陥自体を善管注意義務違反かどうかを論ずる意味がありません。
 また、重要な欠陥を放置し続けても、客観的に財務報告が正確ならば、通常、重要な欠陥と因果関係のある損害は生じないので、重要な欠陥の放置を善管注意義務違反と構成することもできないと思います。
 もし、「重要な欠陥があること自体が善管注意義務違反である」「重要な欠陥を放置するのが善管注意義務違反である」という論点を論ずる意味があるとすれば、重要な欠陥から、直接、会社・第三者に損害が生ずる場合(財務報告が正確であっても損害が生ずる場合)ということになります。
 しかし、そのような事例というのは、想定することは困難です。
 たとえば、重要な欠陥があるだけで、課徴金を課されるような制度があれば、重要な欠陥から直接損害が生じることになりますが、金商法は、そのような課徴金を課していません。金商法は、内部統制の「報告」義務を課しているだけで、内部統制の「構築」義務は課していないのです。
 翻って考えれば、金商法上の内部統制というのは、財務報告の正確性を確保するためのものなのですから、その目的である財務報告が正確なのに、内部統制の重要な欠陥から直接損害が生ずるというのは、論理的におかしいといわざるをえません。

 結局、(1)から(3)までの検討を通じて言えるのは、「重要な欠陥があった」「重要な欠陥を放置した」という事実は、任務懈怠の要素になることはないのです。

 次に、④の取締役の過失の有無について考えます。

 財務報告に虚偽記載があり、任務懈怠となる場合をさらに分類すると
 (1)重要な欠陥が存在した
 (2)報告書に記載すべき不備が存在した
 (3)報告書に記載する必要のない程度の不備が存在した
 (4)不備が存在しなかった
という4つの場合が想定されます。

(1)の場合
→ 虚偽記載に因果関係のある重要な欠陥があれば、その重要な欠陥の存在についての予見可能性・回避可能性を検討することになります。
 この場合、事前に、当該欠陥について内部統制報告書や内部統制監査報告書で指摘されていれば、当然、予見可能性・回避可能性は認められるでしょう。

 この点を捉えて、「重要な欠陥の是正義務がある」という捉え方をする方もいらっしゃいますが、それは、ちょっと違います。取締役は、「虚偽のない財務報告の作成義務」に違反したことを責められているのであって、重要な欠陥自体を是正していないことを責められるのではないのです。
 たとえば、コンピュータープログラムにバグがあり、それを重要な欠陥として指摘されたとしましょう。この場合でも、そのバグにより虚偽記載が生じた部分を、人力で再検証し、財務諸表の正確性を確保すれば、バグ自体を放置しても任務懈怠ではありません。
 重要な欠陥の指摘は、財務報告の正確性を確保するためのきっかけを与えただけであり、法的には、指摘された重要な欠陥自体の修正義務を課したわけではないのです。

 違った方向から検討してみましょう。客観的に重要な欠陥が存在したが、取締役も監査人も気付いていなかった場合を考えます。この場合、財務報告の虚偽記載に結びついた重要な欠陥の存在が通常の注意義務をもってしても気付かないのならば、虚偽記載についても予見不可能だったのでしょうし、逆に、重要な欠陥の存在について通常人なら気付くような場合には、取締役や監査人には、過失が認められるでしょう。
 また、取締役の立場からすれば、監査で重要な欠陥を指摘されなかったからといって、過失がないとはいえません。
 結局は、重要な欠陥が内部統制報告書等で指摘されているという事実は、財務報告が虚偽であり、かつ、その虚偽がその欠陥によって引き起こされた場合に、取締役の予見可能性を基礎づける事情の一つにすぎないのです。

(2)(3)の場合
→ 虚偽記載に因果関係のある不備が存在する場合、それが、報告書に記載すべきものかどうかにかかわらず、虚偽記載の予見可能性・回避可能性を基礎付ける要素になります。
 たとえば、監査人から、事前に内部統制の不備が指摘されていれば、その不備が軽微なものかどうかにかかわらず、虚偽記載についての予見可能性が高まります。
 
 「重要な欠陥じゃなくて、単なる不備だから、予見可能性はなかった」
という抗弁は裁判官には通用しなさそうです。

 そもそも、「重要な欠陥」「不備」という概念は、どのような報告をするかという視点からの基準が設定されているにすぎず、具体的な損害との関係で任務懈怠の大きさや深刻さを示す概念ではありません。
 Aという不備が利益の3%の虚偽記載を生む不備である場合、Aだけなら単なる不備ですが、さらにBという3%の虚偽記載を生む不備があると、AとBは重要な欠陥になります。この場合、Aのみを原因として虚偽記載が生じたときの過失について、Bがあるのか、ないのかで結論が変わるのはおかしいですよね。

 結局、善管注意義務違反が問われる場面では、すでに財務報告の虚偽記載という形でリスクが現実化しているのですから、その虚偽記載が「重要な欠陥」によって生じたものか、「不備」によって生じたものかなどどうでもよいのです。
 検討すべきは、虚偽記載の原因についての予見可能性・回避可能性だけなのです。

(4)の場合
→内部統制について、金商法上の重要な欠陥・不備が存在しなくても、虚偽記載が生ずることはあります。その場合でも、取締役に過失がないとは言い切れません。虚偽記載が生じた原因が何かを特定し、その原因について予見可能性等があれば、過失はあります。

 以上をまとめると、「重要な欠陥」、「記載される不備」、「記載されない不備」、「不備なし」という金商法の概念は、過失の有無とは直接の関係がない概念であるということがわかります。
 せいぜい、重要な欠陥や不備を指摘されたことが、取締役の予見可能性を基礎付ける間接事実になるという程度のことであり、それをもって「重要な欠陥が善管注意義務になる」「重要な欠陥を是正する義務がある」という表現をするのは、法的には、不正確であるといわざるをえないと思います。

(質問コーナー)
Q1
合同会社の設立登記における資本金の決定について質問させてください。そもそも株式会社では、設立時の資本金の額に関する事項を定款または発起人全員の一致により決定するのだと理解しております。(32条)しかし、合同会社においては資本金が登記事項になっているにも関わらず、会社法本体には資本金の額に関する事項の決定方法につき具体的条文がありませんよね?そして、合同会社においては設立時の資本金の額に関する事項は会社計算規則75条をもとに社員になろうとするものが決定するのですよね?そもそも、私のこの理解は正しいのでしょうか?正しいとして、なぜ合同会社では、会社法本体に設立時の資本金の額の決定方法につき具体的条文をおかず会社計算規則に定めを置いているのでしょうか?
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月28日 (月) 00時33分
A1
株式会社よりも、資本金の額に関する自治を重視しているからでしょう。
資本金の額を小さくすることが経済的に大事な場合もありますから。

Q2
私は将来的に企業法務に携わりたいと考えていまして
そこで会社法はしっかり勉強しよとしているのですが、
どうも計算の分野が、教科書を読んでもなかなか理解できません。
会社法の本だけでは私にはイメージがつかめず、
ロースクールの講義も、単調な説明を受けただけで
制度をしっかり理解することができませんでした。
計算に関する理解を深めるにはどうしたらよいのでしょうか?
葉玉先生は修習生時代に会計の勉強をなされたという話を聞いたのですが、
やはり、会計の勉強をすべきでしょうか?
投稿 べってる | 2008年7月28日 (月) 00時44分
A2
とりあえず、会社法マスター115のビデオ講座の第2回を見ましょう。
それから、簿記2級を取りましょう。
その後に税理士用の法人税の勉強をしましょう。
最後に、M&Aとか、ストックオプションとか、ちょっと特徴的な会計を勉強しましょう。

Q3
持分会社の業務執行権について、どうしても分からないことがあります。
業務執行社員の加入と退社は登録免許税が1万円ですむのですが、退社を伴わずに業務執行権の消滅のみをする場合、3万円が必要なのはなぜなのでしょうか?
また、加入を伴わない業務執行権の授与のみの場合の登録免許税は想定されていないのでしょうか。
業務執行権だけ変更するという事態が滅多にないために、こういう風になっているのでしょうか?
投稿 kuro | 2008年7月28日 (月) 01時00分
A3
うーん、なぜでしょう。

Q4
一点、ベンチャー・キャピタル条項に関係して質問があります。
上場しているA社・Aの子会社B社・B社の投資先C社があるとします。(C社のマジョリティーをB社は保有しています。)
財務諸表規則上ベンチャー・キャピタル条項「財務上又は営業上若しくは事業上の関係からみて他の会社等意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる会社等はこの限りでない」を適用し、C社はB社の子会社ではないとし、これについて監査法人のお墨付きもいただいております。
一方で、会社法上「財務上又は事業上の関係からみて他の会社等の財務または事業方針の決定を支配していないことが明らかであると認められる場合は除かれる」という規程があります。
財務諸表規則と会社法の規定が同じだとすれば、C社がB社の子会社でないと考えることもできます。それであるならば、C社は、会社法上の子会社の規制も関係ないということになるのでしょうか?具体的には、上場しているA社の株式を取得できるのでしょうか?
日本版ベンチャー・キャピタル条項が出たばかりで実務上定着していないため、監査法人担当者に確認しても回答がない状況です。
投稿 PE | 2008年7月28日 (月) 10時38分
A4
C社がA社の子会社に該当しないのならば、当然、A社株式も取得できるでしょう。
ただ、C社がA社株式を取得すると、「A社の支配下にないというのは、本当かよ?」という感じを受けますが。

Q5
100問やストリームングの中で先生が用いられているバッファという言葉なのですが
日本語に置き換えるとどういう意味になるんでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月28日 (月) 15時52分
A5
「余裕」「あそび」でしょうか。

Q6
私は都内のロースクールに通う学生です。
仕事を持ちながらということもあり、まだまだ初学者の域を出ない状態です。
演習問題に取り組むに当たって以下の質問にお答えいただけましたら幸甚です。
①演習は、問題集を自宅で解くことで足りるか?その場合の注意点は?
②初学者の段階で、予備校の答案練習会に参加することに意義はあるか?
投稿 こぐちゃん | 2008年7月29日 (火) 14時48分
A6
①足りません。誰かに見て貰ってください。
②意味は大いにあります。強制的に書く機会を作るべきです。

Q7
先日、株券電子化に関する講演会に参加させていただきました。
講演での、買収防衛策の株券電子化対応についてのお話の中で、信託型の買収防衛策については対応が必要と仰っていましたが、具体的にどのようなことを株券電子化に向けて対応していかなければならないのでしょうか。
また、他の買収防衛策についても株券電子化に関する問題点等はあるのでしょうか。お忙しいところ恐縮ですが、ご教授願います。
投稿 TJ | 2008年7月30日 (水) 14時48分
A7
 信託型が、どんな設計をしているかによって変わりますので、一言では語れません。
 事前警告は、どうせ法的意味はないので、関係ないでしょう。

Q8
私は10年間企業で仕事をした後、今年から都内ローの既修に入学しました。
弁護士の就職難の話をいたるところで聞いて、とても不安で仕方がありません。
先生にお伺いしたいのですが、もちろん若いに越したことがないというのは分かっているのですが・・・
就職の際に年齢というのは重要な項目なのでしょうか。
投稿 年配ロー生 | 2008年7月30日 (水) 23時27分
A8
年齢が重要な項目であるのは確かです。
ただ、年齢だけで決めるわけではありません。
他のロー生よりも10年長く生きているだけの武器を年配ロー生さんが持っているかどうかということです。

Q9
株券電子化で、株券は紙切れ(株券としては無効)になると聞きますが、無効となった紙切れは、いったい誰の所有物になるのでしょうか?
株主が、収集家に「記念品」として売ってしまっても問題ないでしょうか?
投稿 コレクター | 2008年7月31日 (木) 02時56分
A9
その問題は、非常にデリケートな問題ですので、ノーコメントです。

Q10
公開大会社です。438条1項の解釈に悩んでます。
まず437条については、取締役会の承認を受けた計算書類・事業報告 等を定時株主総会の招集通知に同封して郵送することにより株主に対する提供義務を果たしていると判断しています。問題は438条の定時株主総会への提出義務です。437条を履行している場合、何をどのように行えば、438条1項3号の計算書類・事業報告の定時株主総会への提出義務を履行したと認められるのでしょうか。ご教授ください。
投稿 | 2008年8月 1日 (金) 11時55分
A10
 内容を説明し、承認を取れば(または報告すれば)、提出義務は履行されたと認められるでしょう。

Q11
前回のQ5
 合資会社で既存の社員が、無限A・有限B
  Bが死亡。その相続人たるCおよびDが遺産分割をし、Cのみが社員の持分を承継可能でしょうか?
  また、もし、Bが出資の一部未履行であった場合も遺産分割をし、Cのみが社員の持分を承継可能でしょうか?
投稿 たかだ | 2008年7月23日 (水) 08時18分
前回のA5
 608条1項の定めがあれば、可能でしょう。
 また、一部未履行分は、Cのみが債務を負うと考えるべきでしょう。

 旧法ですが、認められないと先例があります
投稿 みうら | 2008年8月 1日 (金) 18時54分
A11
 その先例は、どういう理由で否定したのでしょうか?
 その先例の合理性に疑いがあります。

Q12
譲渡制限株式会社の株主AがBに自己の保有する株式を譲渡したとします。
Bが会社に承認請求(137条1項)をし、会社が不承認決議をしたとします。
そして、会社がその株式を自己株式として取得する場合(140条)、株主として議決権を行使するのは譲渡人のAなのでしょうか。
140条3項の規定で譲渡等承認請求権者の議決権行使が排除されていることからすると、Bのような気もします。
Bだとすると株主だと擬制することになるのでしょうか。
投稿 kawai | 2008年8月 1日 (金) 21時53分
A12
 名義書換未了である以上、議決権行使をするのは、Aです。

Q13
現在、司法試験、合格目指して勉強しています。
法曹になるための現在の制度は、法科大学院に進学し、新司法試験を受けて、司法修習に行くというのが、主流です。しかし、旧司法試験もあと2年ほど継続され、その後も、予備試験を経れば、法科大学院を卒業しなくても司法試験の受験ができます。
このような中、私自身、法科大学院に進学しなくても、予備校などを利用し、旧司法試験が行われている間は、旧司法試験にチャレンジし、その後は、予備試験を経て司法試験の受験という方を選択した方が、一年でも早く法曹としてのスタートを切れるのではないかと思っています。
先生は、しっかりと、法科大学院に進学し、新司法試験を受験した方がいいと思いますか?それとも、多少は、リスクもありますが、予備試験を受ける方が賢い方法だと思いますか?
司法試験に合格するには、自分の努力が一番重要ですし、努力しなければ、どんな方法も意味がないと思います。ですが、私自身、すでに、大学を卒業し3年たっており、年齢を気にしていますし、また、私は法学部出身でもなく、法科大学院でどのような授業等が行われているのか、情報がなく、法科大学院に進学することに、二の足を踏んでいる状況です。
投稿 まんごー | 2008年8月 4日 (月) 00時17分
A13
 予備試験については、まだ十分に煮詰まっていないので、それだけを当てにするのはリスクがあります。
 お金と時間に余裕があれば、ロースクールに進学する方が現時点では正しいと思います。
 予備試験の方が早く資格が取れるなら、途中でロースクールを退学してもいいので。

Q14
「唯一、代用有価証券の取扱いについては、すべての証券会社が問題意識をもって、金融庁と折衝しないと大変なことになると思います。」
とは具体的にはどのようなことを仰っているのでしょうか??
投稿 一投資家 | 2008年8月 4日 (月) 12時37分
A14
 今の金融庁のパブコメへの回答どおりだと、証券会社は、代用有価証券についてのシステム対応が大変だということです。

Q15
私は現在26歳で、会社に勤務しながら司法試験の勉強をしております。
さらに、人と接する仕事、社会に意義の強い仕事がしたく、弁護士を志しました。旧司法試験、あと2回のチャンスに向け勉強中です。
合格後は、企業での経験、海外勤務の経験を生かして、渉外弁護士として働きたいと思っています。
企業を取り巻く環境も劇的に変化して、海外の企業が日本にも押し寄せてきています。将来的には、M&A、特に敵対的買収へ防衛策を講じる案件を扱うチームに入りたいと思っています。

そこで、TMIをはじめとする渉外事務所に勤務しようと思えば何歳までが好まれますか。
また、社会人経験のある人は好まれますか。
当方は、慶應大(非法学部卒)、企業勤務です。
投稿 ぽむj | 2008年8月 4日 (月) 20時18分
A15
 「社会人経験」という抽象的なものは評価されず、「どんな仕事をしていたか」で評価されると思います。
 年齢は、若い方が好まれると思いますが、30歳以上でも、特に優秀ならば採用します。
 30代後半になってくると、だんだん難しくなりますよね。結局、経験10年の法曹と同等の魅力がその人に備わっているかということが判断されるようになると思います。

Q16
私は某ロー未修者コース3年次に在籍する者ですが、最近、私の周囲でも就職のことがちらほら話題になっております。
そこで、先生にお伺いしたいのですが、
ローでの成績は必ず法律事務所に提出しなければならないそうですが、採用に当たってはどれほど重視されるのでしょうか?
もし、他に考慮要素があれば、どのようなことを考慮されるのでしょうか?
私は恥ずかしながら、訴訟法関係(特に民事訴訟法、要件事実)が非常に苦手で、ローでの今までの成績も良くなかったのですが、これでは就職が厳しいでしょうか(上3法、行政法は比較的高評価を頂いております)?
訴訟法関係の成績が芳しくないと、任官は更に厳しいでしょうか?
投稿 まゆまゆ | 2008年8月 4日 (月) 22時02分
A16
「どれほど」というのが難しいですが、まゆまゆさんが採用担当になったつもりで評価すると分かります。
 AさんとBさんがいて、Aさんは成績がよく、Bさんは悪い。その他があまり代わり映えしないならば、Aさんを採用するでしょう。
 また、司法試験の合格率も、一般的には、学校の成績に比例しますから、自ずと成績は重視されます。
 なお、各科目の成績の高低は、それほど気にしてないと思います。

Q17
はじめまして。「業務執行」の意義に関して、質問させて下さい。
過去のエントリ「業務の執行と職務の執行」を読んで、眼からウロコが落ちる思いでしたが、学習が進むとかえってわからなくなり困っています。以下の質問にお答えいただけますと幸甚です。
①「業務の執行」には「監査・監督」や「意思決定のプロセス(招集等)」は含まれないが、原則として法律行為のみならず会社運営にかかる事務全般が含まれる・・・と考えていましたが、持分会社の「常務」(590条3項)は業務執行権がなくてもできると知り、混乱しております。「常務」とはどのような行為を指すのでしょうか?
A17
 業務執行者社員を定めた場合には、常務も業務執行社員しかできません。

Q18
②以前、他の方の質問に対する答えとして、「業務執行しない取締役」の例として就任したばかりの平取締役を挙げておられましたが、新聞報道を見る限り平取締役でも職掌を決めた上で選任する企業が多いですし、取締役会における発言・議決権行使のためだけに役員報酬を支払う企業は少ないのではないかと思います。
 個人的には、業務執行しない取締役というものは(社外取締役or委員会設置会社を除けば)ほとんどいない(つまり大抵の取締役は業務担当取締役である)、と認識していましたが、この認識は誤っていますでしょうか?
A18
 取締役に業務執行権を与えている、または使用人兼務取締役が多いのは、事実上でしょうが、それは、会社が、取締役を業務担当取締役としているから、そうなっているだけであり、法律論としては、取締役であるというだけでは、業務執行権はありません。

Q19
③監査役設置会社の取締役は支配人を兼任できるのに対し、委員会設置会社の取締役は支配人を兼任できないのはなぜでしょうか?前者は業務担当取締役に選定された上で兼任しているということでしょうか?
A19
 取締役は、執行役を監督する立場なので、執行役の指揮下にある支配人にはなるのは、ガバナンス上問題があるという思想です。

Q20
以前の記事で「その他資本剰余金」というのは,
出資に関連して会社に入ってきた財産の価額のうち,資本金にも,資本準備金にも計上されていないものとあったのですが、どのようにして生じるのかよく分かりません。
例えば,1000万円出資して,800万円を資本金にしたら,残り200万円が資本準備金。このままだとその他資本剰余金は0円なの200万円のなかから計上しない額を決めるのでしょうか。
また「その他利益剰余金」というのは取り崩して、資本にあてることができないとうことは溜まる一方ということになるのでしょうか。
投稿 桜鯛 | 2008年8月 5日 (火) 00時47分
A20
 たとえば、自己株式の簿価が200万円で、それを300万円の払込を受けて交付すれば、100万円がその他資本剰余金となります。
 私のビデオの第2回をみて勉強してください。

Q21
会社法第427条第1項の責任限定契約を締結できる旨の定款変更を行った後に責任限定契約を締結する場合に、責任限定契約の締結について取締役会決議が必要でしょうか?会社法第362条第4項の「その他の重要な業務執行」に当たるのでしょうか?
投稿 ロニー | 2008年8月 5日 (火) 09時36分
A21
私は、当たらないと思います。

Q22
論文試験の学習方法について、葉玉先生は常々「答案を書け」「答練を受けろ」とおっしゃっておりますが、私も同様に考えます。
ただ、経済面等の諸事情により、予備校等の答練あるいは合格者・研究者による添削を受けることができない状況にあります。
そこで、答案練習を一人で行わなければならない状況であるのですが、一人で答案練習をするにあたって注意点ないし効果的な方法がありましたら、ご教授願います。
投稿 おそらく二振目 | 2008年8月 5日 (火) 23時33分
A22
 ① 定期的にやる
 ② 時間を絶対オーバーしない
 ③ 誰かに見てもらう。
でしょうか。

Q23
ここ数度「業務執行取締役」についてご質問させていただいたものです。ご回答により、ようやく頭の整理ができてきました。大変ありがたく、お礼申し上げます。
念のためですが私の理解が正しいか、ご確認させていただきたく、再度質問させていただきます。
業務執行取締役等を、以下のとおりにまとめたのですが、正しいでしょうか?
①代表取締役           業務執行できる   業務執行取締役
②業務担当取締役        業務執行できる   業務執行取締役
③使用人兼務取締役      業務執行できる   業務執行取締役
④かつて業務執行をし、 
 現在は①~③ではない
 取締役              業務執行できない  業務執行取締役
⑤社外取締役
 ⑤‐1 将来的にも業務執行を
    予定しない取締役     業務執行できない  not業務執行取締役
 ⑤‐2 将来、業務執行を予定
    する取締役         業務執行できない  not業務執行取締役
⑥従業員からの持ち上がりで
 まだ①~③になったことがない
 取締役               業務執行できない  not業務執行取締役

以上が正しいとしてですが、④は業務執行取締役なのに業務執行できない、というなんだかややこしい結果になるのですね。
また、社外取締役でも、典型的な社外取締役(⑤-1)もいれば、社外から招聘し、まだ業務執行権を与えていないが近い将来使用人兼務にするなどして業務執行権を与えることを予定している社外取締役(⑤-2)というのもありうる、ということですね。
細かい話ですが、この⑤-2で、使用人兼務取締役を任命されたがまだ業務執行していない、という状態(例えば入院中に任命され、入院中は事実上社長が直接業務執行した)というときは、業務執行はしようと思えばできるが業務執行取締役ではなく、依然として社外取締役である、ということになるんでしょうか?(これはあまりに細かい話ですが……)
投稿 | 2008年8月 6日 (水) 12時38分
A23
 使用人になったら、社外取締役の定義中の「使用人でなく」の要件を欠きますので、社外取締役ではありません。

Q24
会社法の立案に際して、民法の諸規定に問題を感じた部分はありましたか?
また、現在の実務で、何か問題を感じる部分はありませんか?
現在、旧商法・旧証券取引法に続いて、債権法の改正のための下準備が行われていると聞いております。内田貴先生(法務省民事局参与)の特別講義を2度拝聴して、特に興味をもっております。
投稿 一般法の民法 特別法の会社法 | 2008年8月 6日 (水) 19時03分
A24
民法の債権法分野は、基本的に任意規定なので、問題はあまり感じませんでした。
実務上も、特に問題を感じるようなことはありません。

Q25
100問の19問目の発行可能種類株式総数について教えてください。
発行可能種類株式総数は
発行可能株式総数より多くさだめることは可能
とありますが定めが可能なだけであって
実際に発行された場合は
発行可能株式総数の制限を受けるという理解でよいのでしょうか。
投稿 白玉 | 2008年8月 7日 (木) 20時19分
A25
発行可能種類株式総数の「合計数」が、発行可能株式総数を超えることができるという話でしょうか?
 いずれにせよ当然、発行可能可能株式総数の枠内でしか発行できません。

Q26
合併交付金の解釈についてご教示下さい。
合併比率が1(存続):0.001(消滅)という場合に、
消滅会社の株主に対し、比率に応じた合併交付金を支払うことを予定しております。
この場合、合併交付金を会社法234条の端数処理として支払ったという解釈は可能でしょうか?
このように解釈できた方が、税務的に有難いようです(経理担当曰く)。
如何でしょうか?
投稿 pin | 2008年8月 8日 (金) 10時21分
A26
合併交付金を支払うという合併契約ならば、234条の端数処理ではないです。
そういう約束がないならば、234条の端数処理が行われます。

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2008年7月13日 (日)

反社会的勢力への対応

 私は、TMI総合法律事務所の新人弁護士の採用担当なので、最近は、毎日のように面接しています(TMIに面接に来ていただいているロースクールの卒業生の皆さん、ありがとうございます)。
 他方、弁護士としての本業も一生懸命にやらなければならないので、おのずと趣味の時間が削られます。
 ということで、ブログの更新をさぼっておりました。読者の皆様ごめんなさい。

 さて、今日は、最近、重要性が増している「反社会的勢力への対応」について、お話ししたいと思います。

 私は、検事時代に、ある地検で暴力係検事をしていたことがあります。
 この係は、
   暴力をふるって否認している被疑者を自白させる係
ではなく
   暴力団関係の事件を担当する係
です。
 私が暴力係だったころも(14年前くらい)、警察は
  暴力団とつきあうのをやめよう
ということは言っていましたが、実際には
  銭湯やサウナで「入れ墨の方、お断り」という看板が出るくらい
で、なかなか社会のルールとしては浸透しませんでした。

 私は、拳銃の撃ち込みや抗争事件、恐喝事件等を処理しながら、暴力団の活動を止めるには、どんな事件をやったらいいんだろうと思っていました。
 そうして考えたあげく、活動資金を止めるのが一番だと思い、警察に「資金源を止める事件をやりましょうよ。」等と飲み会の席で言っていたところ、私が、暴力係になって2年目からは、高利貸し(出資法)や白タク(道路運送法)など暴力団の資金源になっている行為を摘発してくれました。
 やって見ると、この手の資金源になっている犯罪は、組長ほか幹部を逮捕するのにはもってこい事件でした。
 拳銃の撃ち込み事件は、実行犯が「組長の指示でやりました」とでも言ってくれないと難しいのですが、資金源の事件は、お金の流れを追えば、ほとんどの場合、組長に行き着きます。
 今まで暴力事件を主としてやってきた警察官に、経済犯罪の調べをさせて、調書をとってもらうと、財政経済担当の警察官とは色合いの違うユニークな調書ができあがってきて、それなりの苦労はありましたが、警察の方は、「暴力団のトップに切り込む手法として新たな発見があった」と言って大変喜んでくれました。

 その後、東京地検で、総会屋に対する利益供与事件をやったのですが、その事件が、商法改正(利益供与罪の強化)や上場会社の総会屋との関係断絶の本格化につながり、その動きが総会屋の衰退につながったのを見て、「金の流れ」を止めることが、暴力団や総会屋などの反社会的勢力の根絶に有効な手法であることを改めて実感しました。

 さらに、法務省民事局にいたとき、マネーロンダリング対策の国際会議であるFATF(Financial Action Task Force)に代表として駆り出されました。このFATFは、アルシュ・サミットをきっかけに立ち上がったマネロン対策の部会なのですが、私が何度かFATFに出ているうち、911テロが起こりまして、それをきっかけに、「テロ資金の流通防止」というやや趣を異にする目的がFATFに組み込まれたのです。

 今から振り返ってみると、最近、活発化している金融面における反社会的勢力排除の動きと国際連携は、FATFが起源となっている部分も多いように思います。

 さて、以上のような私の経験からすると、最近の反社会的勢力への対応の各界の動きは、本当に目を見張るものがあります。

 平成19年6月19日に犯罪対策閣僚会議が策定した                            
 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/dai9/9siryou8_2.pdf
を皮切りに、
(1) 全国銀行協会による「反社会的勢力介入排除対策協議会」の設置と、反社会的勢力のデータベースの共有化の検討
http://www.zenginkyo.or.jp/news/2008/05/27160002.html
(2) 日本証券業協会による「証券取引および証券市場からの反社会的勢力の排除」
http://www.jsda.or.jp/html/houkokusyo/hoan_g.html
(3) 証券取引所による反社会的勢力排除に向けた上場制度の整備
http://www.tse.or.jp/rules/comment/071127-jojo.pdf
等、急速に反社会的勢力排除の動きが現実化しています。

 昔から何度となく掲げられていた「暴力団とのつきあいをやめよう」という標語と、今回の動きの決定的な差は
  金融界が中心となって反社会的勢力の排除が行われている
ことです。

 このことは、
  上場企業のみならず、中小企業を含めて、すべての事業者が反社会的勢力排除を事実上強制される
ことを意味します。

 反社会的勢力とのつきあいがある企業は、場合によっては
   銀行から融資を受けられないし、
   証券取引もできない
    その企業が、上場企業であれば、上場廃止となる
ということですから、すべての企業にとって、その存続のために反社会的勢力との関係断絶が必要不可欠になったのです。

 他方、金融業界の急速な動きに対し、事業会社サイドは今ひとつ動きが鈍いような気がします。
 もちろん、上場企業は
  企業行動憲章や内部統制の中に反社会的勢力対応を盛り込んだり
  反社会的勢力と関係のないことの確認書を出したり
しなければならなかったので、まったく意識していないわけではないでしょう。
 しかし、それ以上のことはあまり進んでおらず、形式的な規定整備に止まっているような印象があります。

 でも、現実には、スルガコーポレーションのように反社会的勢力の利用が発覚したとたん、行からの資金調達がいきなりストップし、民事再生に追い込まれる事態も生じています。蛇の目ミシンのように反社会的勢力からの脅しに屈することにより、取締役が巨額の損害賠償責任を負わされることもあります。

 こうした動きを、会社法の側面から見ると
   反社会的勢力との取引については、その取引が適法か違法かにかかわらず、関係を維持すること自体が善管注意義務を問われるリスクが高い
 しかも、反社会的勢力との関係維持については、経営判断の原則が適用されない
ということなのでしょう。

 昔ならば、反社会的勢力との関係について、「事なかれ主義」に基づき特別な担当者をしつらえて窓口をしぼりこみ、くさいものに蓋して、経営者に伝えないのが、常道でした。
 しかし、今や経営者に求められる善管注意義務の要求水準が変化し、あらゆるレベルにおいて反社会的勢力と決別せざるをえなくなったわけです。

 もちろん、こうしたルールを適用する前提として
   取引先が反社会的勢力であるかどうかを確認する
という作業が必要になり、事業会社は、そこで
   「そんなの分からないよ」
と思考停止に陥りがちです。

 各社で反社会的勢力データベースを構築することを期待されていますが、実際には、個社で対応するのでは、有効なデータベースが構築できるはずはありません。
 といって、プロのコンサルに頼むと結構お金がかかりますし、そのデータの正確性もよく分かりません。

 そこで、私は、お客様から
  どうやって取引先が反社会的勢力かどうか見分けるんですか?
と聞かれたときは、とりあえず
 ①その取引先が、銀行から融資を受けているか
 ②その取引先が、証券会社に口座を開設しているか
の2点で判断すればよいとアドバイスしています。

 すなわち、現在の反社会的勢力への対応は、金融界を中心とした動きであり、全国銀行協会も、証券業協会も、データベースを構築して、顧客をチェックすることになるのですから、①②の要件をクリアするのならば、その2つの業界のデータベースでは、反社会的勢力とは認定されていないということが分かります。

 ①②のチェックをおざなりにやって、取引先の嘘を見抜けなければ意味がありませんし、チェックの手法は、これだけではありません。
 また、定期的なチェックもかかせません。
 ただ、企業が
  「どうせ反社会的勢力かどうか、分からないから、対策を何も採らない」
という最悪の選択をしないように
  調べようと思えば、それなりに調べる方法がある
ということを知っていただきたくて、簡単な判別法をアドバイスしているのです。

 一番、大事なことは
  取引先が反社会的勢力と関連している
と判明したときの対応であり、ここで失敗すると
  自社が、突然、倒産する
ということすらあるのです。
 現在の社会情勢は、反社会的勢力と付き合う会社は、たとえ被害者的立場のものであっても、反社会的勢力と同視されるという厳しいものです。
 この動きを逆手にとり、反社会的勢力が
  私と関係していることを公表しますよ。
  そうすると、御社は、おしまいですよ。
と脅しのネタに使ってくることも考えられます。
 また、トップの問題意識が高くても、一部の社員が反社会的勢力に取り込まれ、情報を上にあげてこない可能性もあります。

 しかし、どんな過去があろうとも
   経営者が、自社が反社会的勢力と取引を知ったときに、どう対応するか
という判断を誤らなければ、会社を救う道はいくらでもあります。

 反社会的的勢力は、裏の人間ですから、経営者が、裏に行こうとすれば、彼らの手に落ちます。そして、警察の捜査が入った瞬間に、その会社は死亡します。

 逆に、経営者が、すぐに弁護士や警察と協議し、表の世界で勝負すれば、今の世の中、普通だったら無理筋の解決法でも、反社会的勢力に対してならば通用するのです。

 内規の整備や契約書への反社条項の追加等形式面での対応も重要ですが
 取引先の確認と取引先が反社会的勢力であると確認された場合の適切な対応が100倍大事だと思います。

 

(質問コーナー)                                                             
Q1
387条2項は、会社法への移行に伴って実質的に改正されたところはないと認識しています(旧法の279条2項に同趣旨の規定があります)。会社法前段階での改正によって、判例の射程が制限されることになったということでしょうか。
判例百選等の解説にはそのあたりのことが詳しく解説されていません。
いつ、何が、どう変わったから、現在では役会への一任が駄目と解されるようになったのでしょうか。
また、上記質問中①の点からも、取締役と監査役で扱いを異にする理由を見出すことができません。
取締役会への一任が、取締役の場合は許容されることがあるが、監査役の場合は許容される余地がない、というのであれば、その理由を教えていただけませんでしょうか。
投稿 いつも質疑応答お疲れ様です | 2008年7月 1日 (火) 19時08分
A1
監査役は、取締役を監査する立場ですから、取締役会が報酬を自由に決めるのはまずいということでしょう。

Q2
「吸収合併」又は「株式交換」の場合、対価の全部又は一部が持分等であるときは、消滅会社において略式手続の規定(784条)が適用される余地はない
・「吸収分割」の場合、対価の全部又は一部が持分等であるときは、消滅会社において略式手続の規定(784条)が適用される余地がある
以上のように理解しているのですが正しいでしょうか。
(784条1項は「前条第1項の規定は、」適用しないと規定していることから、783条1項の適用される「吸収分割」の場合にだけ略式手続がある)
投稿 初心者 | 2008年7月 1日 (火) 22時30分
A2
そうです。

Q3
法律と関係のない質問で恐縮ですが、「情報整理」について質問させて下さい。
仕事をしていると、特に、日々大量の情報を扱うことになります。
その情報をバラバラにしていると、後先の検索が困難になるので、誰もが一度は情報を整理しようと考えると思います。
そして、時間を見つけては、情報整理に取り掛かるのですが、これが一筋縄ではいきません。
情報をある基準(属性)をもとに階層的に分類したとしても、その基準(属性)では分類できない情報が出てきたり、それを何とか分類しようとすると、階層がとてつもなく深くなったり、あるいは、情報分類の基準(属性)に一定の共通性を見つけようと思っても、結局その共通性を見つけ出すのが困難で、仮に、共通性が見つかったとしても、その再分類に時間がかかってしまう等、結局、時間がかかる一方で、最終的には、情報分類に意味はないのではないかと考えてしまいます。
しかしながら、情報を分類しないと、やはり、どこに何があったか探し出すのは困難ですし、情報整理をしないわけにもいきません。
周りの人間に聞いてみたところ、厳密なルールをもって分類をしていないとの答えが多く、それは正しいとは思うのですが、やはり、時間が経つと、情報がごちゃごちゃしてきますし、何より、心理的に何か気持ち悪さが残ります。
最近では、階層による分類ではなく、フラットに整理する方法も流行っていると聞きましたが、現在では、情報はデジタル化している以上、PC上の管理(ディレクトリ管理)をしないわけにもいきません。
前置きが長くなりましたが、葉玉先生は、私より、もっと多くの情報を扱っておられると思いますが、先生は、その膨大な情報をどのように管理・整理されていらっしゃるのでしょうか?
投稿 直樹 | 2008年7月 2日 (水) 02時43分
A3
私の考え方は、賛否両論ありますが、次のとおりです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20070628/128602/

Q4
取得条項付株式について
108条3項の要綱についてなのですが、会社法施行規則20条に1項5号ハのカッコ内がよく分かりません。
「当該種類の株式の株主の有する当該種類の株式の数に応じて定めるものを除く」
これは要綱よりも細かくなるから、要綱段階で定めなくてもいいという理解でよいのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月 2日 (水) 04時52分
A4
一部の株式を取得するとき、みんな平等に減らすのならば、定款で決めなくてよいという意味です。

Q5
司法試験の論文演習について質問があります。
先生のブログを読んで論述問題に解答することができるようになるためにはとにかく実際に時間を計って問題を解くことが重要であることがよくわかりました。
しかし、たとえば会社法100問にのってるような問題は難しくて、酷いときは条文を写すので精一杯いう状態になってしまいます。
そこで、会社法115講座を使いながらやろうと思っています。そこで、100問と115講座を併用しようという場合に何か効果的・効率的な方法がありましたら教えてください。
ちなみに私は入門者ではありませんが初学者です。
投稿 受験生 | 2008年7月 2日 (水) 15時34分
A5
論文を書いていて、「条文を写す」のに時間がかかるというのは、やり方がおかしいように思います。
100問と115講座の併用の方法ですが、まずは、115講座で概要を理解したら、後は100問で個別の問題演習をとことんやるのがいいと思います。

Q6
ジョイントベンチャー等のために合同会社を作ったとき、親会社は合同会社の持分を持っているわけですが、
株式会社の場合の親会社を持株会社と呼ぶのに倣って、この合同会社の親会社を持分会社と呼ぶのは不適切でしょうか?
「持ち持分会社」と呼ぶのが一番正確なのでしょうけれど、なんか変な感じがします。
投稿 巴 | 2008年7月 2日 (水) 22時30分
A6
呼び名は、自由にどうぞ。でも、変です。

Q7
自分は愚にもつかぬ屁理屈をこねてブログを荒らしているんだろうかと悲観しましたが、7月 1日A12を見てもう一度ご教授を乞う気になりました。
会社法で、持分会社の出資の払戻の規定を新設したのは何故ですか。
またその際、払戻が「できる」とはしないで、払戻を請求する社員と会社が対立すれば空文化してしまう可能性があるのに敢えて社員が請求できる規定にしたのは何故ですか。
投稿 ひで | 2008年7月 3日 (木) 14時37分
A7
今までの議論をよく読んでください。
もう語り尽くしました。

Q8
 発起人が見せ金で払込みをした場合、設立無効事由に当たることになると思います。そして、『会社法100問第2版』p118によりますと、設立の登記後に25条2項違反となることを回避する方法はない、とあります。しかし、このような瑕疵が常に治癒することができないとしては、厳格に過ぎないかと感じました。
 そこで、設立無効事由を緩和する立場に立ち、36条1項を類推適用することはできないでしょうか?すなわち、設立後であっても、発起人が改めて有効な払込みをした場合、瑕疵は治癒されて会社は有効に成立すると解することはできないのでしょうか?
投稿 にわか九州人 | 2008年7月 4日 (金) 21時00分
A8
 まあ、そういう解釈をすることを否定するものではありませんが、立案当時の議論では、無効事由になるということでした。

Q9
株主Aが基準日後に株式をBに譲渡した場合で、総会決議ではAが議決権を行使したという場合、総会決議の取消訴訟を提起できるのは、訴訟提起時の株主であるとのご回答で、Aは、もう会社と関係ないので、決議がなんであれ、構わないのではないでしょうか、ということですが、配当決議(実務においては、基準日株主に対して配当がなされることが多いと聞きます)においては、やはりAが実質的にその利害にかかわっており、むしろBに訴訟提起を認める必要がないのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
A9
配当決議を取り消しても、Aは、配当を貰えません。
Bは、会社から不当に財産が流出することを防止することで、利益を得ます。

Q10
Q19に関して確認させてください。
つまり、取締役選任決議に瑕疵がある場合に、決議が取り消されるまでに第三者に対して損害を与えた場合には、908条2項の類推などを媒介として、当該取締役は429条1項の責任を負うことはあるが、会社に損害を与えた場合には、423条1項は問題とならず、単に不法行為責任が問題となるということでよろしいでしょうか。
投稿 CCC | 2008年7月 4日 (金) 23時08分
A10
明示的に論じられてはいませんが、そうなるでしょう。

Q11
先生、勉強を継続するためにどうやったら精神的に強くなれますか?
自分に負けずに精神的に強くなりたいです。
弁護士の仕事でもプレッッシャー等はあると思いますが、どうやってそれらにうちかってますか?
投稿 司法受験生 | 2008年7月 5日 (土) 00時36分
A11
勉強を継続するのに「精神的な強さ」は不要です。
「義務感」と「楽しみ」と「刺激」をコントロールするだけです。
弁護士の仕事も同じです。

Q12
競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
多数説・判例は「計算説」で有力説は「名義説」ですか?
だったらそれで大勢についてよろしいかと。
計算説:法律上の権利義務が誰に規則するかではなく、経済上の利益が誰に帰属するかが重要。
名義説:当然逆で権利義務の帰属主体を重視。
そこそこレアなケースとは思いますが、下記のような状況設定で。
㈱松真商店は中古品の販売業とする。この商店をほぼ一人で切り盛りしているのがサミー取締役とします。
Xから、新しく事務所を開くので中古の机・椅子4セットを購入したとの意思表示があり、在庫があったので値段交渉もOKで商談成立。
時を同じくして偶然にも、Yから事務所を閉めるので机・椅子を買い取ってほしいとの要請がありました。
そこでサミー取締役は、Yのところに出向いて、机・椅子6セットを二束三文で現金で購入(仕入れ)しました。
商店の帳簿上は机・椅子2セット分の出金(仕入れ代金)と在庫計上をしました。
そして、いそいそと購入依頼のあったXのところに4セットを納入に行き、現金を受け取りました。
サミーさんの一連の商取引は、㈱松真商店のサミーとしてであり、販売先のXと仕入先のYも当然にそう思っております。
経済上の利益はサミーさんに帰属しますが、相手方からすると外見上は商店名義での取引となっております(Xには商店名義の現金受け取りの領収書を切るとか)。
が、帳簿上ではその形跡はいっさ残っていない。
しかし、これは競業忌避義務に違反であって、その利益はサミーさんに帰属している。
これを商店サイドで証明するには、X・Yとの取引を証明すればよいわけですよね。
各人に証言させて、「確かに私は、4セット購入しました。」、「私は6セットを引き取ってもらいました。」でそれぞれが「商店と取引したつもり。」でしたとの証言があればよいはず。
だったら、この証言により、取引の利益が商店に残らず、サミーさんにいってしまったことが判明。
よって競業取引義務違反。
なんか問題ありますか?
権利義務の帰属いかんやとかでなく、わかりやすいと思いますが?!
投稿 良きサマリア人 | 2008年7月 5日 (土) 01時46分
A12
問題あります。
その事例では、計算説より名義説の方が、会社にとって有利です。
名義説ならば、会社は、サミーに対して、サミーが横領した売却代金をについて不当利得返還請求権を行使すればよいだけです。

Q13
 司法試験論文試験においては論理の矛盾・破綻・飛躍などは絶対にしてはならないといわれています。
  ①論理の矛盾。破綻・飛躍をしないようにするためにはどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。
  ②また、論理の矛盾・破綻・飛躍をしてしまった場合、それを発見するにはどのような点に注目すればよいでしょうか。
投稿 | 2008年7月 5日 (土) 12時40分
A13
 論理の矛盾等は、よくあることなので、「絶対に」などと強迫観念に囚われる必要はありません。
 また、それを「発見」しようと考える必要もありません。
 まずは、判例通説の論理をきちんと追った論文を書く練習をしましょう。

Q14
会社法911条3項26号について教えてください。
「社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結について定款の定め登記があるときは社外監査役の登記を抹消を要しない」
とあるのですが理由がよく分かりません。
監査役会が存在するときに、責任を軽減してやったのだから、監査役会の定めを廃止してもそれくらいの責任は負うべきということなのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月 6日 (日) 04時39分
A14
意味がよくわかりませんが、責任限定契約も一緒に抹消しろという話ではないでしょうか。

Q15
社債の財務代理人について質問させてください。会社法上、社債管理者を置かなくてもよい場合(会社法702条但書き)においても、財務代理人をほとんどの会社で置いているようです。この財務代理人は 会社法上の要請なのでしょうか?
それともほかの法律の要請?もしくは実務上の慣習なのでしょうか?ご教授ねがいます。
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月 6日 (日) 13時29分
A15
実務の慣習です。

Q16
会社法855条について質問です。
同条は取締役解任の訴えを固有必要的共同訴訟と定めているものと理解していますが、訴状において誤って、会社のみ、あるいは当該取締役のみを被告とした場合には、「訴状が民事訴訟法133条2項(1号)に違反する場合」として裁判長の補正命令(民事訴訟法137条1項前段)の対象となるのでしょうか?
裁判所がこのような原告の過誤を見逃し、補正命令をせずに被告適格が欠けるとして訴えを却下するという処理には違和感があります。
投稿 今宵フィッツジェラルド劇場で | 2008年7月 6日 (日) 21時47分
A16
当事者は補正できると思いますが、133条1項は形式不備の場合なので、当事者適格の欠缺の場合には適用されないのではないでしょうか?きちんと調べていませんが。

Q17
退任登記未了の退任取締役の第三者責任で、
908条2項ではなく、1項の類推適用としているのは、どうしてですか?
908条2項を適用する点で、何が問題となるのですか?
投稿 はな | 2008年7月 6日 (日) 23時43分
A17
908条2項は「故意又は過失によって不実の事項を登記した者」です。会社は、退任登記をしていないだけで、「不実の登記をした」といえるかという問題があります。また、908条1項と比べると、「故意・過失」という要件も加わります。

Q18
公開会社法が将来的に制定されると聞きました。
会社法により、株式会社が公開会社と非公開会社に分かれましたが、登記簿上で公開会社かどうかを表示するような制度に変わることはあるのでしょうか?
投稿 uriya | 2008年7月 7日 (月) 00時19分
A18
公開会社法が制定されるかどうかは、未定です。
私は、不要または無意味だと思います。

Q19
「業務執行取締役」の定義がよく分からなくなりましたので教えて下さい。
(以下、取締役会設置会社を前提とする)
「業務執行取締役」は、会社法2条15号によれば、
①代表取締役(363条1項1号)
②363条1項2号の取締役
③業務を執行したその他の取締役(2条15号)
となります。
ところで2条15号は「業務を執行したその他の取締役」(③)と書いていますが、それでは「まだ業務を執行していないその他の取締役」はどうなるのでしょうか?というのが質問の趣旨です。
この人も「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったこと」(2条15号)の有無によって異なってきそうです。
以下、「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったこと」がある人を「経験者」、そうでない人を「未経験者」といいます。
1.「経験者」
a.取締役に選任された時から業務執行をするまで
 ⇒社外取締役でも業務執行取締役でもない取締役
b.業務執行をした時以降
 ⇒業務執行取締役
2.「未経験者」
a.取締役に選任された時から業務執行をするまで
 ⇒社外取締役
b.業務執行をした時以降
 ⇒業務執行取締役
こういうことになるのでしょうか?
だとして、会社法は
(1)1.a.における「社外取締役でも業務執行取締役でもない取締役」なる存在を想定しているのでしょうか?
また
(2)2.a.において「社外取締役」が業務執行をすることもあること、および「社外取締役」が業務執行をしたとたんに「社外取締役」でなくなるということを想定しているのでしょうか?(私は社外取締役はずっと業務執行はせず業務執行取締役の監視にあたるもの、と考えていましたので)。
そもそも上記のような解釈で正しいのでしょう?
投稿 息子 | 2008年7月 7日 (月) 05時44分
A19
(1)普通に存在します。従業員で働いていた人が、取締役に選任されたけど、単なる平取締役だという場面ですよね。
(2)社外取締役が、業務執行をしてしまったら、社外でなくなるということを規定するために、そういう定義を置いています。

Q20
2007年2月23日のブログ『種類株式と株主割当て』で、「322条1項は、明文上第三者に対する募集株式の発行については、原則として適用されないということになっているのは発行可能種類株式総数の範囲で、募集株式が発行されるのは、原則として、他の種類株主は覚悟しておきなさい。という趣旨です。つまり、配当優先株式の発行可能種類株式総数が1000株で、現在300株しか発行されないのなら、後700株について、募集株式の発行がされるのは、予想すべきことなのです。」とありました。このように会社法を理解する場合に、199条や200条のように、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会が必要となるのは何故なのでしょうか。
是非教えてください。
投稿 | 2008年7月 7日 (月) 18時17分
A20
 すいません。質問の趣旨がわかりません。譲渡制限株式の話ですか?

Q21
(1) 刑事又は民事訴訟において、書証として取締役会議事録の提出の要求がなされた場合、会社は拒否できるでしょうか。会社法371条3項、4項又は6項を拒否の根拠として主張して、認められうるでしょうか。
A21
 どのような根拠で、提出の要求がなされたかにより、刑事訴訟法・民事訴訟法によって規律されます。

Q22
取締役会議事録について、民事訴訟法271条4号ニの自己利用文書に該当するとして、文書提出を拒否することができるでしょうか。
A22
自己利用文書には該当しないでしょう。

Q23
米国訴訟のディスカバリー手続において取締役会議事録の提出を求められた場合、日本の会社法又は民事訴訟法を根拠に拒否することは難しいと考えられます。しかし上記(1)又は(2)の問いで「拒否できる」場合があるとしたら、日本の訴訟ですら提出義務がないのに、外国の訴訟で提出義務があるとされるのはおかしいように感じますがいかがでしょうか。
投稿 訴訟担当見習い | 2008年7月 8日 (火) 00時14分
A23
主権や法律に対する考え方の違いですが、米国法は米国法、日本法は日本法なので、「おかしい」とはいえません。

Q24
株主のプライバシーを事由に、閲覧禁止という立場ですか?その発想は、本当に株主のために考えたものでしょうか?自分は、ブログ全体に流れる、経営者御用達弁護士の限界を感じます。
投稿 カール | 2008年7月 8日 (火) 21時37分
A24
 カールさんのご家族が、上場株式に投資しただけで、家族の氏名・住所が第三者に知られることに違和感がないのなら、私の気持ちは分からないでしょう。
 また、私のようなビジネス法務で生きる弁護士は、株主名簿の閲覧請求権を拒む立場に立つこともあれば、請求するような立場に立つこともあります。カールさんは、企業が株主になることを忘れています。この問題は、経営者御用達かどうかは、無関係です。

Q25
葉玉先生こんにちは
2006年1月4日の解説についてご質問させていただきたいのですが、
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50447629.html

取締役会設置会社については、365条2項において
「……第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。」
という規律があり、 ここでいう「取引をした取締役」は、
①直接取引では、利益相反取引の相手方である取締役+会社側の代表取締役・代理人である取締役 (②間接取引 略)
を指します。 とあります。
ここで質問ですが、そうすると、2人の取締役が同じ報告をしなければならない、ということになるのでしょうか?それは(少なくとも実務的には)ナンセンスだと思いますが……
また、仮に会社側の代表取締役のみが報告した場合はどういう問題になるのでしょうか?
投稿 こども | 2008年7月 9日 (水) 18時49分
A25
 連名で、どちらかが報告すればよろいのではないでしょうか。
 ただ、言い分が食い違うことだってありえますから、そのときは別々でしょう。

Q26
会社法239条について質問させてください。
239条の委任をする場合でも、募集新株予約権の内容自体は確定的に定める必要があり、会社法236条1項各号の事由(行使に際して出資される財産の価格等)の決定まで委任することはできないと理解しております。
 それでは、239条に基づいて委任をうけた取締役(会)はいったい何を決定できるのでしょうか。
1、新株予約権を発行する数(上限の範囲内で)、とか、払込金額(下限以上で)ということでしょうか?
2、その他にも決定できる事項はありますか?
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月 9日 (水) 21時01分
A26
 238条1項のうち、239条1項各号に掲げられていないものです。

Q27
6月22日つけの勉強法に関して質問があります。先生は、適切な資料を、熟達者より尋ね、自分なりの言葉でまとめよ、とのことだったのですが、センスがないのか、司法試験科目に関しては、網羅的に理解したということもあって、ノートがながくなりがちになってしまいます。
 最低限の情報となると、法律の場合、定義、要件、効果、趣旨ということになるのではないかと思うのですが、正直なところ、それだけをまとめることは、市販されている教材もあることですし、あまり効果を発揮するように思えないのです。それでも、記憶の定着などの効果を信じ、作成するべきでしょうか。
 反対に、上述の通り、網羅的に(論理の運びを正確かつ到密に)行おうとすると、ものすごい分量のものができてしまいます。これでは、基本書を何度も読み返したほうが、効率的なように思えるんです。
 もしよろしければ、先生作成のノート、あるいは、その抜粋という形でもお示しいただけないのでしょうか。
投稿 司法試験受験生 | 2008年7月 9日 (水) 22時46分
A27
 まとめること自体が勉強です。
 手を動かすことによって、身につくのです。
 読むだけでは身につきません。

Q28
ロースクール2年生です。
新司法試験の勉強素材についてお伺いします。
新司法試験に1発合格するために,勉強素材を以下の3つに絞り込み,何度も繰り返すことを計画しています。
1.市販の予備校テキスト(情報集約・加工用)
2,新旧司法試験論文過去問集
3.新旧司法試験短答式過去問集(一部新作問題込み)
基本書も判例百選もケースブックも熟読しない,というお粗末な計画です。
しかし,新司法試験までの2年弱という短い時間,および,私の現在の能力を考えると,上記3つを何度も繰り返して身につけるのが,私にとっては精一杯のように感じています。

司法試験受験生の態度・覚悟として甘いでしょうか。
葉玉先生のご意見を伺えると幸いです。
投稿 ロースクール2年生 | 2008年7月11日 (金) 22時30分
A28
自分にあった勉強なら、それでも良いでしょう。

Q29
 地方の実務家です。
 全部取得条項付種類株式を利用した少数株主排除と株主総会決議無効原因について。
 例えば,普通株式のみを発行している会社がありました。発行済み株式総数は490株で,親会社が400株を所有しています。残り90株は少数株主です。
 少数株主を完全に排除するため,普通株式を全部取得条項付株式に転換し,会社がその全部取得条項付株式を取得し,その対価として別種類株式を交付することとしました。その割合は,全部取得条項付き株式100株につき,別種類株式1株です。これにより、親会社に整数の別種類株式を与えるが,少数株主には端数株式のみを与えて,会社法234条の手続きを経て現金を交付することを予定しています。これに必要な定款変更や株主総会特別決議は一日で完了しました。
 この場合,結局のところ,親会社には別種類株式を与えるが,少数株主は別種類株式の整数を取得する余地はないことになります。この場合,会社法171条2項や,株主平等原則に違反するなどとして,株主総会特別決議の無効原因となりうるでしょうか。
 先生の御見解や,参考文献等があればご教示ください。
投稿 | 2008年7月11日 (金) 23時
A29
 無効原因にはならないでしょう。
 決議取消事由は、ありえます。
 ただ、対価が適正であれば、著しく不当とはいえないと思います。、
 通常は、反対株主の買取請求で権利保護を図るべき場合です。

Q30
葉玉先生、はじめまして。
私は(20代後半の)大学1年生です。
2010年現行司法試験に合格するために、伊藤塾の本科生として司法試験対策に取
り組んでいます。
私が通っている大学では、単位取得要件として、新書を月最低10冊読んでレポ
ートとして提出する講義があります。
読書は楽しいのですが、司法試験対策に使える時間が激減してしまいますが、読
書と司法試験合格に相関関係はありますか?
例えば、読書をすればするほど論文を書くスピードや判例を読むスピードが速く
なるなど。
A30
読書は役に立ちますが、読書だけでは論文を書くスピードや判例を読むスピードは速くなりません。

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2008年7月 1日 (火)

競業避止義務における名義説

先週、告知するのを忘れていましたが、好評をいただいております
インターネット無料公開講座 会社法マスター115講座で学ぶ会社法
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115web_gaiyou.html

  第3回
がアップロードされています。
 会社法に興味のある方は、ぜひご覧下さい。
 台本無しのぶっつけ本番でやっていますから、2ちゃんねる等で若干「言い間違い」を指摘されていますが、可愛い間違い(自分で可愛いというな、というツッコミがありそうです)なので、その部分は
  「葉玉、アホやなあ」
と一言言って聞き流してください。

今日は、2つネタがあります。
 一つは、東京永和法律事務所の皆さんのTMIへの加入
 もう一つは、競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
です。

1 東京永和法律事務所の皆さんのTMIへの加入
 事務所による公表前だったのですが、日経で、升永英俊弁護士を始めとする東京永和法律事務所の皆さんがTMIに加入するという報道がされました。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080628AT1D2705T27062008.html

升永先生は、日本で最も有能かつ有名な訴訟弁護士といっても過言ではないほど訴訟に精通されている方です。

青色発光ダイオードの事件が特に有名ですが、税務訴訟等においても画期的な判決を得られており、法曹界において、升永先生が民事訴訟の第一人者であることを否定する方は誰もいらっしゃらないでしょう。

このニュースについて、「TMI説明会参加」さんから
「葉玉先生,TMIの説明会は人柄重視という点を全面に出しており,興味深かったです。ところで,TMIによる東京永和法律事務所の吸収は,TMIのクライアントにとってどのような効果をもたらすのでしょうか。」
というご質問を受けました。

 今回の加入により、TMIのクライアント様にもたらされる効果のうち最大のものは、
  「極めて有能な訴訟弁護士に訴訟を依頼することができる」
ということでしょう。
 升永先生は、職務発明等で会社を相手方とする訴訟も手がけられてきましたが(当然加入にあたってコンフリクトチェックをしています)、会社を代理した訴訟も数多くされています。
 TMIのクライアント様にとっては、紛争解決のための強力な武器を手にいれたと言ってもよいと思います。

 TMIは、もともと大手事務所の中でも訴訟が多い事務所だと自負しています。アソシエイトでも、一人2-3件の訴訟を抱えているのがザラで、難しい訴訟を20件以上抱えている猛者もいますから、訴訟はTMIの重点分野の一つであることは分かっていただけると思います。
 ですから、TMIに東京永和法律事務所の皆さんが加入していただくことにより、ノウハウの共有等を通じて、訴訟部門が一層強化されるというメリットも非常に大きいです。
 私も、訴訟をやっていますので、升永先生のお知恵をお借りする日が来るのを楽しみにしています。

2 競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
 司法試験的ネタです。
 上智で教えているときに、競業避止義務(会社法356条1項1号)における「自己または第三者のために」の解釈について質問を受けました。

 この「ために」については、
  自己または第三者の名義で(自己または第三者が権利義務の主体となる)という名義説
  自己または第三者の計算において(自己または第三者が実質的な損益の帰属主体となる)という計算説
の対立があります。

 この点、私は名義説を採っているのですが、江頭先生等有力な商法学者の皆さんが計算説を採られている(「株式会社法」第二版399頁等)ことから、上智で
  葉玉先生を信じていいんですか?
という質問を受けました。

 私を信じる信じないは別として、私的には、「名義説しかないだろう」と思っています。

 介入権が廃止された会社法において、「名義説」と「計算説」の違いが出てくるのは
   会社名義ではあるが、自己または第三者の計算で取引をした場合に、競業避止義務が生ずるか
ということだけです。

江頭先生は、この場合について、
  名義説では、「会社の知名度を利用し、取締役・第三者の計算(費用負担を含む。)で行う行為を規制できない」
という指摘をされています。

 この指摘に対する反論を考える前提として、「名義」とは何かを、もう少し具体化しておく必要があります。

 たとえば、株式会社松真商店(代表取締役 松真本男)の取締役であるサミーが、会社の知名度を利用して競業取引をしたとしましょう。

 会社の知名度を利用したということは、「株式会社松真商店」という名で取引をしたということです。
 しかし、サミーさんが、この取引を「株式会社松真商店」に効果帰属させる意思で行ったかというと、そうではない場合がほとんどではないでしょうか。
 すなわち、「名板貸し」という制度があるように、サミーさんが、「株式会社松真商店」という他人の商号を使用して、自己に効果を帰属させる意思で取引を行ったということです。
 この「自己に効果を帰属させる意思で、他人の商号を相手方に示す場合」を計算説の論者が「自己名義」と判断するのか、「他人名義(会社名義)」と判断するのか、よく分からないのですが、私は、これは「自己名義」であると考えます。
 名義説は、誰に法的な効果が帰属するかを問題にするので、サミーさんが、自己に法的効果を帰属させる意思で、実際に、サミーさんに法的効果が帰属する以上、「株式会社松真商店」は、サミーさんによる自己名義取引となり、競業避止義務の対象となるという理解です。

実際的にも、サミーさんは、株式会社松真商店が、この取引で生じた売掛金債権を取り立てたり、取得した財産を松真商店のものと主張されることを許したくないでしょう。
 また、サミーさんには代表権がないので、仮に、サミーさんがこの取引を会社に効果帰属させる意思で行ったとしても、原則として会社には効果帰属せず、サミーさんが、無権代理人の責任を負うだけですから、わざわざサミーさんが「会社に効果帰属させる」と考えたとも思えません。
 とすると、こうした商号の不正利用のほとんどは、「会社名義」ではなく、あくまでも、会社の商号を利用したサミーさん名義の取引としてされるのがほとんどであろうと思います。
 もし、計算説が、こうした「自己名義」として会社の商号を利用することをもって、「会社名義、自己の計算」と考えているということであれば、私の言うところの「名義説」と「計算説」は、同じです。

他方、計算説が、「株式会社松真商店に法的に効果帰属するが、自己または第三者の計算で行われた場合」という場面を想定しているのであれば、356条1項1号は、あまり意味のない規定になってしまうように思います。

そもそも、取締役に競業避止義務を課す意味は、説明義務を尽くさなかったり、承認を得ないで取引をした取締役に対する損害賠償責任について、「得た利益」の額を損害と推定することにあります(423条2項)。

しかし、会社に取引の法的効果が帰属しているとすれば、
  その取引によって取得した債権や物は、会社に帰属している
わけですから、少なくとも、会社は、現存している債権や物について、特に取締役や第三者の承諾を得なくても、当然に、直接権利を行使することができます。
 また、現在、取締役等が物を占有しているのならば、物上請求権で取り戻しをすることができるし、もし取締役等が売掛金を取立てて私的に流用していたとすれば不当利得返還請求権を行使することができます。
 とすると、その場面では、過失責任である423条1項よりも、無過失でも請求できる物上請求権や不当利得返還請求権の方が会社にとって有利です。

 しかも、423条2項の「利益」は、おおざっぱにいえば「収益-費用」ですから、会社は、収益と費用の両方について立証責任を負っていますが、不当利得返還請求権の場合には、会社はとりあえず「会社に法的に帰属する財産を取締役が私的に流用した」というこ事実を立証すればよいので、その点でも、不当利得返還請求権の方が有利です。
 また、計算説では、「会社に帰属している財産」と423条2項の推定規定の関係をどのように考えるのか、よく分かりません。会社に帰属している財産については、「利益」から除くのでしょうか?

 あえて、計算説で423条2項が生きる場面があるとすれば
  ①無権代表であるために会社に法的な効果帰属が生ぜず、取締役が無権代理人としての責任を負う場合において
  ②取締役に対する損害賠償責任を追及する
という場面か
  ①会社に法的効果が帰属し
  ②第三者の計算で行われた取引について
  ③すでに第三者が費消した会社財産について(会社財産が現存していない)
  ④取締役に対する損害賠償責任を追及する
という場面のどちらかになると思われます。

 前者は、取締役に法的効果が帰属するのと同一の効果が生じているので、名義説と事実上、異なりません。
 後者については、そもそも、そのような狭い領域を想定して、推定規定が置かれたものと考えるのは不自然ですし、第三者に対して不当利得返還請求権を行使できるにもかかわらず、取締役に対する推定規定を置く必然性もよく分かりません。

 他方、名義説に立てば、当該推定規定は
  取締役や第三者に法律上の効果が帰属し、会社が、取引によって取得した物や債権を取得することができないので、取締役に対する損害賠償によって、そこで得た利益の返還を求めるための規定
として意味を持ちます。
 こちらの解釈の方が推定規定の存在意義をよく説明できると思います。

 以上の理由により、私は、名義説の方が合理的で、かつ、実質的妥当性を有するものと考えています。

(質問コーナー)
Q1
100問の85で、「自己株取得が会社支配の公正害するという弊害については、主に『取得した自己株式の譲渡について特段の規制がなかった』ことから主張された」、のくだりが理解できません。
その主張は、自己株譲渡に規制がないことが、なぜ会社支配の公正を害することにつながると考えていたのでしょうか?                                                
投稿 アンナ | 2008年6月22日 (日) 09時57分
A1
 説明すると長くなるので、機会をあらためて説明します。
 ふに落ちなければ、とりあえず無視しても結構です。

Q2
>他方、正規の料金(通常、メーターで料金を算定しているはずです)を支払ったときに、タクシーから、ビールやおしぼりをサービスとしてもらうのは、犯罪でもないし、「倫理に反している」といって目くじらを立てるのは、馬鹿馬鹿しいことだと思います。
自由競争ならその通りだと思います。
ただ、実際はあの人達は自分に利益を与えてくれる特定の個人タクシーを携帯電話で呼び出して使っていたそうです。
そりゃ確かにどのタクシーでも料金は同じですけど、その中のどれかを選ぶときに
自分に物や金券をくれるタクシーを選ぶのは適切なのか微妙な気がします。
投稿 | 2008年6月22日 (日) 16時00分
A2
 「適切」かどうかは、評価が分かれるでしょう。
 同じ値段なら、普通のタクシーよりベンツのタクシーを呼びたくなるのは、「不適切」でしょうか。
 いずれにせよ「水増し」が違法であって、サービスを受けること自体は、違法ではないという一線を忘れるべきではありません。

Q3
サミーさんの方が,「水増し」の問題と、「ビール」の問題を混同しているようですよ。
「ビール」の問題はそもそも存在していないというか,たいして問題視されていません。一部の低レベルなコメンテーター等を除き,誰も問題視していないことを問題視されているような書き方をしていたので,私は感覚の違いを指摘し,むしろ論点を区別することを進言したのですが・・・
サミーさんの先日の記事には,「サービスのビール」という言葉がある一方,「ビールをキックバック」ともはっきり書かれてありますが,これこそ「水増し」の問題と混同していることのあらわれです。
好きなタクシーを選んで乗るということは,入札のしようがないことので,随意契約のお礼としてのビールのサービスが100%違法というつもりはありませんが,メーターを過剰にカウントしたり,チケットに過大な金額を記入することの温床になっていることは,TVレベルでの証言も複数なされています。そういう状況下で,公務員はサービス残業で大変なんだから,ビールくらい大目に見ろ的なコメントは,空気が読めていないと言われてもしかたないと思います。関係はありませんが,スノー印の社長のコメントを思い出しました。
ちなみに,いわゆる霞ヶ関の公務員に関しては,残業が大変なのは分かりますが,サービスで残業していることに,批判こそすれ同情の余地はないと思います。
投稿 ぉぃぅ | 2008年6月22日 (日) 19時38分
A3
 記事を読んでいただければ分かりますが、私は、「世間の人」が「キックバック」したと騒いでいると書いただけです。私自身は混乱していません。
 ぉぃぅさんのコメントを見て、こうした誤解を生むからこそ、居酒屋タクシー報道など大きく取り上げるべきではないと意を強くしました。
 不適切な報道にもとづき世論が誤解しているときに、「空気を読んで」その誤解をそのままにするのは、おかしいことです。
 また、「温床になっていること」が真実なのかどうかの検証も必要でしょうし、そもそも「温床に鳴っていること」と「実際に水増しをしたこと」は、明確に区別すべきです。
 「水増し」は処分の対象すべきですが、「水増し」なしで、単にビールをもらっただけの公務員は処分すべきではありません。

Q4
立案担当者が、会計書類と株主名簿の性質・制度趣旨の相違を捨象して安易に閲覧拒否事由を揃えたため、高裁は苦労したのです。無理のある解釈論を展開しなければ妥当な結論を導けない規定は、立法論的には間違っています。高裁決定は、3号を実質的に無効化したものと私は思います。なお、企業秘密の保護と株主のプライバシー保護とは、全く次元の異なる問題でしょう。
投稿 閲覧拒否事由 | 2008年6月22日 (日) 23時59分
A4
 高裁決定は、3号を無効化していません。情報の利用目的を制限することや、取得した情報を管理することを株主が疎明しなければならないという規範は、3号なしではありえません。
 株主の情報は、本来、企業秘密にすべき情報ですから、企業秘密と株主のプライバシーは切り離せません。顧客情報と株主情報は、保護の重要性において、区別すべきではありません。
 株主から議決権勧誘が行われた総会では、必ず一般株主から
  「私のところに○○から手紙が来た。会社は、株主情報をきちんと管理しているのか」
という厳しい質問が来るのが現実であることを認識すべきです。
 
Q5
356条1項2号3号の利益相反取引についてなのですが,2号が直接取引,3号が間接取引とされていますが,両者の区分がよくわかりません。

例えば,①P社取締役Aが取締役を務めるQ社とP社が取引をする場合は,当該取引はP社にとって直接取引か間接取引かいずれになるのでしょうか?
また,②P社取締役Aが30%の株式を有するQ社とP社が取引をする場合は,当該取引はP社にとって直接取引か間接取引かいずれになるのでしょうか?
投稿 受験生 | 2008年6月23日 (月) 09時28分
A5
 ①は、取締役AがP社に対し意思表示をしていないならば、直接取引ではありません。
 単にQ社の取締役であるというだけでは、間接取引にもなりません。
 ②直接取引にはなりません。間接取引にもならないでしょう。

Q6
裁判員制度による裁判に係る上訴との関係についてですが、
最高裁の広報活動でもマスコミでも、ほとんど触れられていないように見受けられますが、なぜですか。意識的に?
この点に関する広報内容次第では裁判員制度の危惧も緩和されると思います。
この制度と上訴との関係が今後の課題であるとの学術論文も拝見しました。
投稿 地方公務員OB
A6
私は、裁判員制度は間違った制度であると思っていますので、コメントを差し控えさせていただきます。

Q7
会社法の条文を見ていて思ったのですが、
332条4項3号「その発行する株式の全部の内容として~」
336条4項4号「その発行する全部の株式の内容として~」
の両者の条文は同じ意味内容を有しているのでしょうか?
結構会社法は細かい条文の文言まで拘っておられるように感じております。
これは単に言葉の順番が入れ替わっただけなので意味としては同じかと思いますが、もし同じ意味なのであれば統一してもらいたかったです。
投稿 | 2008年6月23日 (月) 12時33分
A7
 そうですね。気付いたときには、遅かったという感じのところです。

Q8
瑣末な件での質問ですが、「役員の欠格事由」で、役員は、破産法の犯罪者でなければ、現に破産者であってもよいのでしょうか。
委任ですと当然、破産者は除かれると思うのですが・・・
「業務執行確認書」を役員に求めている内に気になり始めて
しまいました。
よろしくお願いいたします。
(小会社の閑散役)
投稿 ご苦労さん | 2008年6月23日 (月) 15時57分
A8
 頻出論点です。
 破産者であっても、役員になることはできます。
 破産は、委任の終了事由ですので、在任中に破産手続きの開始決定がされれば、一旦、資格を失いますが、再度選任することはできます。

Q9
 判例によれば、多額の借財につき、取締役会の決議がなく、相手方が悪意又は有過失であれば、当該借財の法律関係は無効とされます。
 以上の状況を前提にして、当該会社が非公開会社で、株主の全員が当該借財につき同意している場合には、相手方が悪意又は有過失であっても、当該借財についての法律関係は有効になるのでしょうか?有効になる場合、その理由は、取締役会は、究極的には株主の利益のためにあるから、ということでよろしいのでしょうか?
投稿 べんじ | 2008年6月23日 (月) 17時55分
A9
 そうですね。株主全員の同意ならば、有効としてもいいかもしれませんね。理由も、そんなところでしょう。

Q10
現行法上、全部取得条項付株式は、種類株式として108条でのみ発行可能であり、107条により全部の株式にかかる条項を付すことはできません。
よって、いわゆる100%減資を行うためには、全部取得条項を付する定款変更に先立って、何らかの種類株式(いわゆる、当て馬株式)を定める定款変更が必要とされています。
しかし、100%減資の後に行われる募集株式の発行については、先の「当て馬」株式ではなく、取得した全部取得条項付種類株式を交付することも可能とされています(論点解説Q125)。
では、なぜ、このように「当て馬株式」を発行してまで全部取得条項付株式を108条の種類株式とのみする必要があったのでしょうか?取得条項付株式と同様、発行する全部の株式の内容として全部取得条項付株式を発行できる旨の定めを置くことができなかった理由はどこにあるのでしょうか?
投稿 全部取得条項付種類株式 | 2008年6月23日 (月) 18時15分
A10
 種類株式にする合理的理由はありません。
 偉い人の趣味です。

Q11
論点解説のQ122で、敵対的買収防衛策として全部取得条項付種類株式を用いることができるか、という問に対し、買収者の株式だけを取得することはできず、また、買収者のみに異なる対価を交付するようなことはできないから、それ自体を敵対的買収防衛策として機能させることは難しいとあります。
例えば、100%減資と同様に、いったん全株式を金銭等を対価に取得して、その後、非敵対的買収者のみを対象として株式を発行する、という方法により、敵対的買収者を排除することには問題ないのでしょうか?
法律上の問題はないが、財源制限がかかるから、現実問題として買収防衛策のために100%減資を実施することは考えにくい、と理解してよろしいでしょうか?
投稿 全部取得条項付種類株式 | 2008年6月23日 (月) 18時15分
A11
一旦、株主を0にするのならば、それもよいでしょう。
新株発行の決定を取得前にやってしまうと、新株発行の差し止めをくらいそうですね。

Q12
>A8
  学問として「法律を体系化する」ということがどういうことなのか、よく分かりません。
(中略)
…何か、会社法立案担当者の真骨頂、といった趣のコメントですね。
このブログでは長年、会社法の批判者たちからいろんな論争がふっかけられ、
サミーさんが決然と反論する、というのが繰り返されている。
しかし、いつまでたっても今一つ議論が噛み合わないように見えるのは、
こういう根本的な考え方の相違のせいなんでしょうね。
投稿 | 2008年6月23日 (月) 20時12分
A12
 私は、従来の通説が、合理的といえなくなっている部分については、率直に問題点を指摘してきました。その指摘をベースに反論が繰り広げられれば、学問的には進化です。
 他方、単に「そんなこと聞いてなかった」という手続論の批判だと、学問的には無意味です。
 法律は体系的なものであり、ある部分を変えることにより、別の部分を変えざるを得ないということは、よくあります。なぜ、改正されたのかという理由をできるだけお話しするのが私達の責任であると思います。

Q13
株式移転無効の訴えについて質問させて下さい。
 株式交換・株式移転は、消滅する会社はなく、各社の財産の変動もないことから債権者異議手続きを要しません。
 しかし、新株予約権付社債についての社債権者は、株式交換・株式移転によって債務者が変わるわけですから、例外的に債権者異議手続きを経る必要があります。(789条1項3号、810条1項3号、799条1項3号)。
 そこで、株式交換については承認をしなかった債権者は株式交換無効の訴えを提起できるわけですが(828条2項11号)、どういうわけか、株式移転無効の訴えの提訴権者に株式移転の承認をしなかった債権者は挙がっていません(828条2項12号参照)。立法ミス(?)でしょうか。
 現状としては、828条2項11号を類推適用して株式移転について承認をしなかった債権者は、株式移転無効の訴えを提起できると解するほかないような気がします。いかがでしょうか。
投稿 complex | 2008年6月23日 (月) 23時11分
A13
 3年前くらいに答えたような気がします。
 当事者適格に関する規程を類推適用できるかどうかは微妙な気がしますが、とりあえず、そのような主張をするのも、よいかもしれません。

Q14
葉玉先生の勉強方法は非常に参考になります。
一つお尋ねしたいのですが、
 2 調べたことを、どんどん自分の言葉で文章化し、声に出して読んでみる
ということは、まさしくその通りだと思います。
ローの実務家の教員の方も同じ趣旨のことをおっしゃっています。
私も論文を読んだり、激しい対立のある議論などを勉強するさいには
自分で文章化をしています。
しかし、そのように文章化をしていると、情報が多元化してしまうように思うのです。
葉玉先生も、以前優秀な人は一冊のぼろぼろの本を持っている
とおっしゃっておられましたように、情報の一元化は重要だと思うのです。
この場合、文章化したテキストは、どう一元化に利用したらよいのでしょう?
よろしければ、葉玉先生のお考えをお聞かせください。
投稿 マラネロ | 2008年6月23日 (月) 23時54分
A14
 一冊のノートにまとめればよいのではないでしょうか?

Q15
刑法のお話で恐縮です。
(1)罪数処理の問題なのですが、有償処分目的であっせんの依頼をうけて、盗品を保管し、その後、依頼どおりあっせんした者には、256条2項の盗品保管罪と、有償処分あっせん罪が成立し、保管行為は、あっせん行為の前提として類型的に評価され尽くしているとして「有償処分あっせん罪のみ」が成立するということでよろしいのでしょうか。
(2)とすると、この場合は数個の行為が異なる構成要件にまたがる場合の「包括1罪」ということになるのでしょうか。
(3)あるいは、そもそも、保管罪とあっせん処分罪が成立し、両者は併合罪ということになるのでしょうか(法定刑が同じと思いますので、併合罪としていいものか、悩んでおります)。
一般的基本書などでは触れていない箇所のようで、ご教示いただけますと幸いです(罪数処理は判例で触れていない場合には、実務家の方々は何を参考にされていらっしゃるのでしょうか。。)。
投稿 一般受験生 | 2008年6月24日 (火) 06時40分
A15
 包括一罪でしょね。
 実務家の罪数処理はフィーリングですね。よく分からなければ併合罪です。

Q16
「会社法マスター115講座(第2版)」図表84-1の1行目、
 持分会社の常務を行う権利(590Ⅲ)  については、
591Ⅰ後段があるため、「業務を執行しない社員の権利」には含まれないのではないですか?誤植でしょうか??
それとも、業務を執行する社員が一人しかいないときは、業務を執行しない社員にも持分会社の常務を行う権利(590Ⅲ)があるということでしょうか?
投稿 元 | 2008年6月24日 (火) 15時21分
A16
 誤植情報は、100問返品騒動以来、とりあえずお聞きして、そのうちまとめて発表することにしています。

Q17
新株発行予約権の発行については払い込みの相殺が可能なのに、なぜ行使段階では相殺はできないのでしょうか?
投稿 ドモホルンリンクル | 2008年6月24日 (火) 23時12分
A17
新株予約権は、無償でも発行できるし、単なる債権なので、発行時の相殺は特に禁止されません。
行使段階では、株式が発行されますので、現実の払込が重視されます。

Q18
株主Aが基準日後に株式をBに譲渡した場合で、総会決議ではAが議決権を行使したという場合において、その総会決議において決議取消訴訟を提起することができるのはAとBのいずれなのでしょうか。それとも双方でしょうか。
基準日制度が基準日時の株主を総会時の株主だとする制度である以上、取消訴訟についてもAができるとすべきだと思う一方、831条の条文上はあくまで訴訟提起時における株主を想定しているようですがいかがでしょうか。
A18
 訴訟提起時の株主です。Aは、もう会社と関係ないので、決議がなんであれ、構わないのではないでしょうか。

Q19
一般的に、取締役選任決議について瑕疵があり、その決議が取り消された場合においては、表見法理により取引相手等の第三者を保護できると説明されています。この議論というのは、取締役の第三者に対する責任などにおいては意味がわかるのですが、取締役の会社に対する責任についても妥当する議論でしょうか。実質論として、取り消されるまでに取締役が行った行為については、会社に責任を負うのが当然とも思えるのですが、会社が第三者でないとするとどういたロジックがあるのかわかりません。
A19
 会社の善悪は、代表取締役を基準にするので、普通、表見法理というのは難しいと思います。そもそも、損害賠償責任については、表見法理の問題ではないでしょう(外形標準は別として)。
 取締役が悪ければ、不法行為責任を問えばよいと思います。

Q20
上と関係するのですが、一般的に、選任決議が取り消されたとしても、それによって報酬を当然に返還する必要はないと説明されます。これは実質的には当然なのですが、形式的には法律上いかなる論理を踏んでいるのでしょうか。
A20
 取締役は、対価として労務を提供しているため、不当利得の要件のうち、利得がないということなのでしょう。

Q21
「会社法と実務」の無料講義を拝聴しております。非常にわかりやすく,真剣にDVDの購入を検討しているところです。(発売はいつ頃の予定なのでしょうか?)
さて,この「会社法と実務」の第3回講義で,代表権の制限について,対抗できない「第三者」は,直接の第三者に限られる,と説明しておられましたが,これは一般的な見解なのでしょうか?
表見法理的な規定については,それが直接の第三者に限るか否か,常に問題になるかと思うのですが,
①会社法908条の登記(特に2項)
②代表取締役の代表権の制限(349条5項)
③表見代表取締役
④手形法8条の責任
について,それぞれ,直接の第三者に限るのか,それとも広く第三者まで含むのか,について,サミーさんのご見解をいただけませんでしょうか?
なお,私は,直接信頼が必要な規定(③)については,保護されるのは直接の第三者に限定されるが,信頼をしていないものを保護しない規定(①,②,④)については,保護されるのは直接の第三者に限定されない,というのが判例等の態度かと考えています。具体的には,
①→直接の第三者に限らない
②→直接の第三者に限らない
③→直接の第三者に限る(民法の表見代理と同じ。)
④→直接の第三者に限らない
と考えておりました。
表見法理,ということを突き詰めていけば,いずれも直接信頼することが必要なのでしょうが,少なくとも登記に関しては,判例は直接登記を見て信頼していることを要しないとしていますし,②についても,表見支配人に関して最判昭和37年5月1日は,手形法の事案において,直接の相手方に限らず一般の第三者を含むと解したと評されているようで
投稿 めるも | 2008年6月25日 (水) 12時25分
A21
 そうですね。自説を言えとわれれば、めるもさんと同じです。
 おそらく、「善意」のみを要件としている規定は、転得者も含むと解してよいのではないかと思います。
 ただ、第三者が含まれるかどうかは、解釈が分かれるところであり、第三者の範囲を広げる解釈を是とするには勇気がいります。

Q22
取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付株式を取得する際の財源規制について質問させてください。
取得請求権付株式や取得条項付株式の取得の対価として株式以外の財産が交付される場合,会社法166条1項,170条5項によれば,財源規制の対象になりますよね。
株式以外の財産が金銭である場合は当然でしょうし,社債である場合もなんとなくはわかるのですが,新株予約権と新株予約権付社債の場合までが財源規制の対象になっているのはなぜなのでしょうか?
新株予約権であれば会社財産は全く流出せず,財源規制する必要がないように思えてしまうのですが,いかかでしょうか?
さらには,全部取得条項付株式の場合は,取得対価が当該会社の株式であっても財源規制の対象になりますよね(461条1項4号)。
投稿 飛鳥食品 | 2008年6月25日 (水) 16時33分
A22
 対価の交付により、資産が減少するのであれば、財源規制をかける必要があります。
 ご指摘の有価証券の交付により、資産が減少するかどうかを検証してみましょう。

 なお、全部取得条項付種類株式の取得対価が当該会社の株式の場合には、財源規制の対象とはならないと思います。

Q23
荏原製作所の定時総会で、計算書類が報告事項から決議事項になったことにつき、先生は、決議事項にする必要があったとお思いですか?
投稿 senchan | 2008年6月25日 (水) 23時01分
A23
事実認定の問題と、リスクヘッジの問題です。
現場にいないと判断しづらいですね。

Q24
A社とその完全子会社B社があります。A社の取締役甲はB社の代表取締役を兼任しています。A社は株主総会の決議により年額100百万円以内の取締役の報酬枠があります。このような状況で、①甲がB社から年額50百万円の報酬を受けることは問題ないでしょうか?②甲がB社から年額200百万円の報酬を受けることは問題ないでしょうか?
①、②それぞれ、B社の株主総会で当該報酬について承認されているとの前提です。どうか宜しくお願い申し上げます。
投稿 心 | 2008年6月25日 (水) 23時48分
A24
①② B社の総会決議があれば問題ありません。

Q25
今日の時事通信の「修習生約2400人のうち、現時点で約500人の就職が決まっていない」との記事(参照http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2008062500859)には正直びっくりしました。
法曹サービスの需要が今まで予測されていたように伸びないのなら、確かに同じパイの奪い合いになってしまい、新しく法曹の世界に入るものが活躍できる機会も少なくなると思います。 そこで将来法曹の世界に入り込むものとしては、未開拓の法曹の分野を切り開いていくしかないと考えます。 
ところがどうでしょう。 法科大学院では、法律の知識を持った人だけのギルドのようであり、積極的に新しい法曹サービスの拡大になるような努力をされているのでしょうか。 なぜ隣接分野の専門家を講師や、教授として受け入れないのでしょうか。 心理学、社会学、統計学などの他の分野の専門家を受け入れ交流することによって法曹サービスに新しい需要を喚起する起爆剤になると思うのですが。
 弁護士をされて、上智大学法科大学院で教えられている葉玉さんだからこそ率直な質問を投げかけたいです。
投稿 元アメリカ留学生 | 2008年6月26日 (木) 00時09分
A25
 法曹サービスの新しい需要を喚起する役割を、法科大学院に期待するのは無理です。
 隣接分野の専門家はすでにある程度入っていますが、新しい需要を喚起する起爆剤にはなりえません。
 おそらく、その役割を果たせるのは、頭が柔らかく、他人の話に耳を傾ける熟練した弁護士なんでしょう。
 もしかしたら、新人弁護士が捨て身で新分野を切り開くというパターンもありうるかもしれません(多くは、失敗に終わるでしょうが)。

Q26
会社法124条4項、基準日後株主に対する議決権付与に関して、質問させてください。
(中略)
これによれば、
 ・基準日後に株式を取得した者に対して、会社の判断で議決権行使させることを認めている一方で、
 ・基準日株主の権利を害することができない
ということですが、
基準日後株主に議決権を付与するとすれば、
基準日株主の議決権割合が減少してしまいますので、
基準日株主の権利が害されると思うのです。
-------
 基準日後に新たに募集株式の募集により新株を発行した場合には、当該発行した株式についての基準日株主は存在しないので、基準日株主を害する場合が生ずることはなく、124条4項を適用することができる。
 なお、この場合においては、株式会社が基準日後の株主に議決権を認めることにより、基準日株主の議決権割合を減少することとなるが、そのこと自体は、124条4項の規定が予定しているところであり、基準日株主を害する場合にはあたらず、124条4項ただし書は適用されない。(「論点解説 新・会社法 千問の道標」132、133ページから引用)
-------
ですが、
先生の「論点解説 新・会社法 千問の道標」によれば、
基準日株主の議決権割合を減少させてしまうことについては、
「124条4項の規定が予定しているところ」とあります。                  
Q1.具体的に、基準日株主の議決権割合を減少させることが、なぜ、基準日株主の権利を害さないのと言えるのか、お教えください。
Q2.基準日後株主への議決権付与が、全部だけでなく、一部を認めるということであれば、公平性にかけるとおもうのですが、これについては、なぜ、基準日株主の権利を害さないのでしょうか。これは株主平等の原則に反しないのでしょうか?
Q3.上記2つが基準日株主の権利を害しないのであれば、基準日株主の権利を害するとは、いったいどういったケースを指すのでしょうか。
投稿 かしだおレッド | 2008年6月26日 (木) 16時35分
A26
 Q1 公開会社の議決権割合は、基本的に保護されていません。
 Q2 問題意識が分かりません。
 Q3 失念株主に議決権を与えるような場合でしょう。

Q27
取締役会非設置会社の取締役決定書((決議書)作成義務について質問させてください。
 取締役会設置会社では、取締役会議事録作成義務があります。(会社法369条3項、会社法施行規則225条1項6号)
 これに対して、取締役会非設置会社では取締役会決定書(決議書)作成義務はあるのでしょうか?また、仮に作成義務があるとしたら根拠条文及び記載事項についてもご教授願います。お忙しいところ大変申し訳ないのですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
投稿 登記職人見習中 | 2008年6月27日 (金) 11時06分
A27
 作成義務はありません。

Q28
6/22のQ14について追加でご質問させていただきたいのですが、先生のご回答では、
>2 その開示方法は、条文に反しますので、開示分が含まれているならば、せめて、「含まれている」という開示が必要でしょう。
とありますが、この「含まれている」という開示について、具体的には「開示済の金額○○○円が含まれている」等、開示済である具体的な金額まで示すことが必要になるのでしょうか?
投稿 naga | 2008年6月27日 (金) 16時35分
A28
それが安全そうです。

Q29
司法試験の合格レベルの目標とはどういうことをさすのでしょうか?
模試で合格点をとること以外に何か具体的な例がありましたらおねがいします
単純に法律の要件、効果を知ってるだけでもダメだと思うんですけど
やはり事案が解決できるというものですか?
投稿 受験生 | 2008年6月27日 (金) 23時13分
A29
 事案解決能力です。

Q30
前回と今回の動画で「有限責任事業協同組合」という言葉が出てきましたが、正しくは「有限責任事業組合」ではないでしょうか?
投稿 | 2008年6月28日 (土) 00時37分
A30
 そのとおりです。
 台本なしで喋っているので、つい、「事業協同組合」っていっちゃうんですよね。
 「事業協同組合」の仕事をやっていたのでクセになっているんです。

Q31
親会社株式の取得制限について質問させて下さい。
135条において原則親会社株式の取得は制限されていますが、その立法趣旨は自己株式取得のように財源規制がおこなえないから、と習いました。
これはどのように困難なのでしょうか?どの基本書にも具体的な説明がなく、現在も技術的に困難なのかが気になってしまい、論文の理由付けで迷っております。
A31
子会社は、親会社の分配可能額を知らないし、コントロールもできません。
 親会社が、配当して、分配可能額が減っても気付かないことだってあります。

Q32
マスター115のWEB講義をありがたく閲覧しておりますが、こちらの更新スケジュールは不定期なのでしょうか?
次回の更新楽しみにしております。
投稿 受験生・甲 | 2008年6月28日 (土) 21時12分
A32
3回目がアップされました。
残りは有料です。

Q33
 検事についていくつか質問させてください。
  1、検察官の仕事は大変な激務で月の残業時間が130~150時間を超えることも珍しくないと聞いたことがあります。そのような中で葉玉先生はどのようにしてその日の疲れをとって翌日の勤務に向かわれていたのでしょうか。
A33
 否認している被疑者を最初に自白させれば、そんなに働かなくても大丈夫です。

Q34
  2、検察官は17年勤務すると年金の受給資格が得られるとある本(反転~闇社会の守護神と呼ばれて)に書いてあったのですが、本当なのでしょうか。
A34
 知りません。

Q35
  3、以前、論証集の作成についてアドバイスをいただき、現在作成に取り掛かっています。ただ、有職受験生ですので、平日には1日に多くて3時間くらいしか勉強時間がとれません。先生が論文を書けるようになるには1日1通は答案を書くようにとのアドバイスがありましたが上記のように論証カードの作成のため答案の作成が全くできていない状況です。これでは本末転倒のような感じがします。
論証カードの作成と答案作成のいずれを優先させたらよいでしょうか。
      ①論証カードの作成をやめ、答案作成一本に絞る
      ②論証カードの作成を優先し、完成後に答案作成をする
      ③仕事の出勤日は論証カード作成、休日は答案作成
      ④仕事の出勤日に答案作成、休日に論証カード作成
 パターンとしては上記の4通りがあると思われますが、先生が合理的だと思われる順番についてご教示ください。
投稿 不孤 | 2008年6月28日 (土) 23時22分
A35
④でしょうか。

Q36
葉玉先生、いや葉玉教授

葉玉教授が勤められている上智大学法科大学院は大変特徴のある入試選抜をされていると有名です。 つまり、外国語が堪能な受験生を別枠で採用するというものです。

そこで質問です。 外国語の堪能さと法律の習熟度とにはどんな因果関係があるのですか、葉玉教授個人が考える感想をお聞かせください。

投稿 上智ロー受験者 | 2008年6月29日 (日) 01時17分
A36
 因果関係はないでしょう。

Q37
葉玉先生は、最近ベストセラーとなった『公認会計士vs特捜検察』は、お読みになられたでしょうか。一部、弁護士のブログでも取り上げられています。

ここ数年、いわゆる国策捜査という言葉が一般にも語られるようになり、田中森一氏『反転』や佐藤優氏『国家の罠』といった、当事者の語った特捜検察の実情について、ベストセラーとなっています。それ以前にも、三井某氏の告発や、魚住某氏のノンフィクションもあります。

先生は、それらの本や、そこに書かれたことと、検察の実情について、どのように評価されているのでしょうか。それらの「暴露本」は、荒唐無稽なトンでも本なのか、一片の真実が含まれているのでしょうか。仮に、真実が含まれているとすると、(三井氏や、一部のローランキングの検察関係者は別として)、検察内部からの問題提起はあまり見受けられないのは、なぜなのでしょうか。----
投稿 一読者 | 2008年6月29日 (日) 17時05分
A37
そうした本は、事実誤認が多いから、検察は、面白がってはいるが、相手にはしていないという感じでしょうか。

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2008年6月14日 (土)

株主名簿の閲覧拒否

 お役所の「居酒屋タクシー」が叩かれています。
 私は、法務省時代、数え切れないほど深夜タクシーに乗りましたが、一度も、ビールも商品券ももらえませんでした。
 そもそも、法務省は、タクシーの予算が少ないせいか、実質「自腹」で帰らざるをえないときもありました。
 今回のニュースでビックリしたのは
   財務省は、タクシーに全額予算がついているんだ。スゲーッ
ということです。
 世間の人は、ビールを「キックバック」したと言うことで相当、公務員を非難してます。大臣も非難しています。
 私は、ちょっと貰いすぎの人は別として
    もらった公務員は、ちゃんと残業代を貰っていたのだろうか
ということを考えると、サービスのビールくらいで大騒ぎするのもどうかなあと思います。
 とはいえ、霞ヶ関における深夜タクシーの利用は、エコの観点からも減らすべきです。
 たぶん
    国会議員(特に野党)は、夕方5時までに、質問を明らかにする
    午後11時までに想定問答の決裁が終わらない場合には、決裁官だけ残して、下っ端はみんな帰宅する。修正は、家からメールで役所に送る
ということにすれば、相当減ります。

さて、今日は、株主名簿閲覧請求権について、原弘産 vs 日本ハウズイングの注目すべき裁判が出ましたから、その点についてお話ししましょう。

株主名簿閲覧請求権の拒絶事由(125条3項)については、会社法で新設されたわけですが、次の全5号のうち、3号について、よく批判を耳にします。

一 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
五 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

実際、このブログでも、大杉先生やIKさんと議論し、なぜ3号に合理性があるのかということを論じてきました。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_a7f9.html
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_0736.html

この一連の議論の中で、私が主張したのは、
  「3号は、合理性がある」
  「3号だけを、極めて限定的に解釈するというのは、解釈上無理でしょう」
  「不当な閲覧拒否は、閲覧拒否権の濫用という構成なら取れるんじゃないか」
ということでした。

 つまり、要件事実的に整理すれば
  請求原因 閲覧請求権(125条1項)
  抗弁   拒否事由(同条3項3号)
  再抗弁  拒否権の濫用を基礎付ける事実
ということです。

 今回の東京高裁決定も、判断構造は、私の見解に似ているのですが、若干、違います。
 つまり、
  請求原因 閲覧請求権
  ①抗弁1  閲覧請求権の濫用を基礎付ける事実(解釈上の拒否事由=最高裁判例)
        (1号・2号は、その確認規定)
  ②抗弁2  拒否事由(3号)
  再抗弁  請求権の濫用ではないことを基礎付ける事実
というように
  3号の正当性を認めた上で
  3号は、解釈上の拒否事由について、立証責任を請求者側に転換する規定
と解したのです。

 「拒否権の濫用を基礎付ける事実」と「請求権の濫用ではないことを基礎付ける事実」は、中身は同じなので、私は、この東京高裁決定の結論や基本的な発想は賛成です。

 ただ、当該決定に対しては
 (1) 3項の5つの拒絶事由以外に、解釈上の拒絶事由を認めるという解釈は正しいのだろうか?
 (2) 当該決定は、3項1号・2号に該当する場合には、拒否権の濫用という再抗弁は許さないということのようだが、本当にそれでいいのだろうか。
 (3)4号や5号では、再抗弁は許されるのであろうか。たぶん、4号は、駄目っぽい。5号で、再抗弁が許されると面倒くさそうだなあ。
 (4)3項各号の中に、立証責任転換と、そうではないものが混ざっているという解釈は、テクニカル過ぎるかなあ。
 (5)会計帳簿の閲覧拒否事由の解釈も同じように考えるのだろうか?
などという疑問がふつふつと沸いてきます。

 本件に限っていえば、3号だけが問題なので、東京高裁決定に違和感はありませんし、今後の閲覧請求事件で指針になる裁判だと思っていますが、以上の点については、少し検討しておく必要がありそうです。

(質問コーナー)
Q1
葉玉先生、はじめまして。
法律家として成功する上で大事なこととして先生がよくおっしゃる「一芸に秀でている」ということですが、普段、司法試験に向けた勉強をしているだけでは、なかなか他人とは違った能力を伸ばすことができません。
というより、そもそも、先生のおっしゃる「一芸」の具体的なイメージがわかないのです。
得意な法律分野がある、ということもその一つなのでしょうが、それに尽きないようにも思えます。
例えば、先生の周りには、具体的にどのような「一芸」を持った優れた法律家の方々がいらっしゃるのでしょうか?
ご教示くだされば有り難いです。
投稿 学部生 | 2008年6月 8日 (日) 00時52分
A1
 一芸は、なんでもよいです。法律分野でもいいし、そうでなくてもよい。
 「自分は、他人とどこに違いがあるのだろう。」
 「自分のどこが魅力的なんだろう。」
 と自問自答して自信をもって答えられるのが、一芸です。

 ちなみに、「ろぼっと軽ジK」さんのコメントが参考になります。
「 学部生さん。僭越ですが葉玉先生に代わりいち実務家として意見を述べます。
 「一芸に秀でている」「法律家として人並み以上である」、両者の関係はたぶん「かつ」なのでしょう。直後に「常識がある」が併記されていますから。
 普通に思い浮かぶのは、「他国言語を駆使できたり(英語以外の中国語など)、理系知識を有している」「人並みの法律家より、情報分析力・その表現力・構成力が優れている」といったところでしょうか。
 「かつ」を求めているとしたらさすがTMIですが、「演劇部を経験して表現力や聞く人の反応を知る感応力が人一倍豊か」というのも一芸に秀でていることに該当しているのかもしれません(^ ^)。
 いわんとしていることは「法律家の能力ばかり磨いた人ばかり集まっても物足りない。多様な経験を持つ人を歓迎したい」という意味に受け止めましたが。」

Q2
敵対的買収をかけられた時点では、チャレンジされている経営者に交渉当事者たる資格があるとなぜお考えなのか理由がわかりません。
米国型のライツプランを入れておきたいのなら、独立取締役を入れることを法律事務所の皆さんはアドバイすべきなのではないでしょうか?
昨今の日経の一部報道やACGAの主張を「無防備派」と呼称しているのなら、その表現は妥当ではないと思います。経営者が、マルチ・ステーク・ホルダー主義という自らの思想に基づき、買収防衛策を導入することには賛成できないといってるのだと思います。
私は数多くの買収防衛策議案を実際にみてきましたが、専ら株主共同の利益保護の観点から買収防衛策を組み立てていると納得できるできのものはまれです。
ちなみに中国やインドの企業は株主保護の仕組みの優劣に関わらず、経済成長の果実を求める投資家が投資しているのに対し、日本企業、中でも低ROE企業が安易に買収防衛策を導入してしまうと、経営者が自ら宗旨替えしない限り、永遠に割安かつ低株価に甘んじてしまう事になると思います。
法制度の比較だけでは経営者対株主のゲーム・バランスを論ずることはできないと思います。日本の経営者が、世界でも最強に近い株主権のもとでなぜこれだけ枕を高くして眠れて来れたかの理由は、決して世界に誇る経営成果を上げてきたためだとは思えません。
投稿 市場派の意見 | 2008年6月 8日 (日) 20時41分
A2
 記事をよく見ていただければわかりますが、株主意思確認プランは、経営者に発動の決定権を与えていませんから、「経営者に交渉当事者たる資格がある」という前提をとっていません。必ず株主の意思を確認することを前提としています。
 米型ライツプランよりも、ずっと株主重視のプランです。

Q3
 会社法831条1項3号の「特別の利害関係を有する者」について質問です。
 100問では、合併契約の相手方が親会社である場合に、その親会社は特別利害関係株主にあたるとのことです。しかし、そのように解すると、略式合併において、消滅会社の決議が省略できることの正当性が説明できないのではないでしょうか?
 特別支配会社も本来、特別利害関係株主にあたるはずなのに、消滅会社の決議が省略される結果、「著しく不当な決議」かどうかを争う機会すら与えられません。これは不均衡ではないのですか?
投稿 ロー生 | 2008年6月 8日 (日) 20時59分
A3
 略式合併に対する差し止め請求権を行使すればよいです。

Q4
株式交換で親会社が債権者への催告(799ⅡⅢ)を欠くと、株式交換は769Ⅵにより効力不発生となりますが、この場合の債権者は無効の訴え(828Ⅰ⑪)を提起できるのでしょうか?
「株式交換の効力が発生した日から六箇月以内」828Ⅰ⑪)との文言と、769Ⅵで効力が発生していないこととの整合性が問題となると思うのですが?
それとも、769Ⅵによる効力不発生の場合、そもそも無効の訴えは不要なのでしょうか?
また、株式交換や合併等は、設立や新株発行と異なり無効事由が基本書等でもあまり書かれていませんが、どのように解したらよいのでしょうか?
投稿 | 2008年6月 9日 (月) 13時34分
A4
 この問題は、以前から、資本金の減少無効の訴え等でもある問題です。
 私は、769条6項は、無効事由を定めるものであり、効力発生日になり、株式が発行される等株式交換の外形上の効果が生じた場合には、とりあえず有効となると考えています。

Q5
現在、司法試験の受験生ですが、会社法の勉強の参考にと、親戚が持っている株の株主総会に参加しようと考えています。
しかし、代理人による株主総会の出席については、
「代理人により議決権を行使される場合は、議決権を有する他の株主1名が代理人として株主総会にご出席いただけます」と、招集通知に書いてあります。
議決権の行使は代理により行える(会社法310条)とあります。まず、この代理人足りうる資格を、株主に限っていること自体は、株主総会の円滑な運営のため、有効です。そして、株主総会の円滑な運営に支障がない場合、すなわち、代理人が実質的な株主など一定の合理的な理由がある場合は、この適用が排除される、と(司法試験)受験上の理解として認識しています。
以上のことからですと、私の場合は、株主総会に参加できそうにも、できなさそうにも思いまが、やはり、親戚(祖父)だからと言って、さらに、祖父が勉強のためなら総会に出席してもいいと許可していても、孫と祖父の関係で実質的に株主とは、あまりにも飛躍でし、どうしても出席したいなら、株を譲渡して、改めて総会に出席すべきであると考えられます。
なので、私は、委任状を書いてもらったりしても、総会に出席できませんよね?(質問その1)。
A5
代理人として、総会に出席することはできないと思います。

Q6
また、私は、今回初めて、今まで机上の条文や解釈であったものを、現実のケースとして考えてみたのですが、その考えるプロセスは、
議決権の代理行使(会社法310条)の条文において、「政令で定めるところにより」(同法310条3項前文)とあったので、例外を定める規定があるのだと考え、政令(たぶん法務省令だと思うのですが)を検索してみました。ですが、政省令の多さにビックリし、途中で断念したというものでした。
実際の実務の方も、このように一つ一つ条文から政省令や判例と、辿って行って判断をするというプロセスを行うのですか??(質問その2)。
投稿 受験生 マンゴー | 2008年6月 9日 (月) 14時02分
A6
もちろん、そうです。

Q7
葉玉先生 こんばんは
ブログ楽しく拝見しています。
会社法なんてぜんぜん知らなかったのですが、先生のブログですごく興味もちました。 今、建設コンサルの仕事しているのですが、会社法(特にM&A)の仕事に転職したいと思ってます。
弁護士資格なくそのような分野に転職するにはどういった方法があるのでしょうか?やはり、司法試験受けて弁護士資格を取ったほうがよいものなのでしょうか?(今年42歳になりました。)
投稿 かっちゃん | 2008年6月 9日 (月) 18時04分
A7
会社法の仕事をするならば、弁護士資格が必要でしょう。
M&Aであれば、証券会社やM&Aコンサル会社に入ればできます。

Q8
ぉぃぅさん、私のコメントを読んでご意見をくださったのでしょうか。
先のコメントの中でぉぃぅさんがおっしゃっていることは間違っていないと思います。司法試験は天才と呼ばれる人しか合格できない試験ではもちろんありませんし、天才が法律家になる必要もありません。
ただ、そうであるからといって、日本人全員が司法試験に合格できる素質を持っているというわけではありませんよね。それと同じように、ロースクールの学生全員が、必ず5年以内に合格レベルに達すると言い切ることはできないように思えるのです。また、仮に合格レベルに達したとしても、諸々の原因から、たまたま試験当日に実力を発揮できずに不合格となってしまう可能性も否定できないでしょう。
そして、5年以内に合格できない受験生は、法律家にふさわしくない人間でしょうか。そうではありませんよね。少なくとも、私はそうではないと思います。
受け控えをするかどうかは、各自の責任・判断で決めれば良いことであって、受け控えるという選択をした人をさげすむようなことはすべきではないと思うのであります。
投稿 一市民 | 2008年6月10日 (火) 15時09分
A8
受け控えをするかどうかを各自の責任・判断で決めるのは当然のことです。
誰しも、間違った選択をする権利はあります。
私は、「受け控え」をした人を蔑んでいるのではないのです。
ただ、受験生として間違った選択をしたと言っているだけです。
人間は、誰しも間違いを犯しますから、二度とそういう間違いをしなければよいし
これから受験する人は、間違わないようにしてもらいたいと思い
「受け控えというのは、受験生の選択肢にはない」
と断言しているのです。
 私の言うことを信じないならば、それで結構です。
 私は、自分が20年間にわたって沢山の司法試験受験生・合格者を見てきた経験や、現在の就職状況から、「受け控え」は人生を浪費するだけであると確信しています。

Q9
先生、質問があります。先生のTMI、長島、西村、森、アンダーソン、いずれも7月下旬まで説明会をやっていますが、7月下旬の説明会を聞いてから個別訪問に申し込んでもおそくないですか?
長島はサマーアソシエイトをやっていれば、説明会はいいから兎に角7月1週目に個別訪問をいれろとメールを送ってきます。内定者のほとんどは、おそくとも7月中旬から下旬できまるというのは本当なのでしょうか。
投稿 出遅れ就職活動中 | 2008年6月11日 (水) 12時29分
A9
各事務所とも、採用人数が一杯になれば、よほど優秀な人でなければ、追加では採らないでしょう。
7月下旬の説明会の後でも、可能性は0ではありませんが、他人より遅れれば、それだけ不利なのは当然です。

Q10
会社法384条によれば、監査の範囲が限定されていない通常の監査役は総会提出議案等の調査を行い、法令・定款違反等がある場合に限り総会に報告すれば良いと読めるのに対し、389条3項によれば、会計監査限定監査役は会計に関する総会提出議案等の調査を行い、法令・定款違反等の有無にかかわらず無いなら無しと総会に常に報告しなければならないように読めます。
これは、389条3項を、384条のように表現すべきだったということはないでしょうか? ?
会社法施行規則73条1項2号に「法第384条 又は第389条第3項 の規定により株主総会に報告すべき調査の結果があるときは、その結果の概要(を株主総会参考書類に記載しなければならない)」とあるので、 そのような気がします。
また、一番懸念されるのが、無くてもない旨を監査役が常に総会で報告しなければならないなら、会計監査限定監査役の会社は、会社法319条の書面決議制度を利用できなくなると思います。書面決議制度は、会計監査限定監査役にしているような、比較的規模の小さい会社のためのような制度だと思われ、制度矛盾のような気がします。
投稿 某社法務担当者 | 2008年6月11日 (水) 13時24分
A10
 以前から指摘されている点です。
 本当は、
 1 会計監査限定にしない
 2 役会と監査役を廃止する
という方法をとれば、解決できます。

Q11
 論証について、以前、一字一句覚えるようなものではないとの指摘を頂きました。キーワードを記憶して行くべきであるとのことでした。
 ただ、現実の論証集はこのようなキーワードのみで構成されたものはありませんので自分で論証カードを作成した方が良いのでしょうか。
 現実には作成に取り掛かっていますが、結構時間をとられてしまいます。
 自分がやっている方法は、
   ①論証集の論証のうちキーワードを抜き出し
   ②特に重要なキーワードに関しては文章で抜き出す
   ③それを矢印と接続詞でつないでいく
 というようにやっています。
 このようなやり方でよいでしょうか。また、そもそも論証カードは作成する必要はないのでしょうか。
投稿 不孤 | 2008年6月12日 (木) 00時20分
A11
 方法は、そんなものでいいでしょう。
 抜き出しに時間がかかっても、それ自体が学習につながっています。

Q12
何週か前に書きこみさせていただいたロースクール生旧試受験者です。
先生のブログを見ていますと実際に答案を書く・答案構成をすることが重要であることがわかりました。
直前期ではありますがさらに質問させてください。
①愚かな質問だとは思いますが、先生は旧司論文に合格する上で、答案作成・答案構成をそれぞれ何問ほどこなせばよいとお考えですか?
もちろん一定数をこなせば合格するわけではないことは承知しております。ただ、私は自分の中でなんらかの目安があると非常に勉強しやすいタイプですのでそれを目標に勉強したいと考えているのです。
②直前期で勉強に優先順位をつける場合、答案作成・答案構成どちらを優先すべきでしょうか?
よろしくお願いいたします。
投稿 1000のバイオリン | 2008年6月13日 (金) 18時12分
A12
① 各科目、とりあえず50問くらいでしょうか。
② 直前は、答案構成をたくさんやりましょう。

Q13
 私は、今年、新司法試験を受験した者です。
 択一の点数は、自己採点では、合格者平均でした。論文に関しては、手ごたえは分かりません。落ちていた場合、論文の成績表を見て、司法試験から撤退するか否かを決めようと思っています。
 仮に続けると決めた場合、来年の試験に備えて、今から勉強をしようと思っています。しかし、どのような勉強をすべきか分からず、悩んでいます。
 私は、試験対策として、主に旧司法試験と新司法試験の過去問(会社法は100問です)を解き、できなかった問題、論点について繰り返し解き、ノートに書き込むという勉強を行ってきました。そして、直前期にノートを読みました。また、択一対策も兼ねて、基本書を直前期に全教科3回前後読みました。
 上記勉強法で、ある程度は対応できたと思っていますが、能力・理解不足も痛感しました。具体的には、事案、問題を素早く読み解く能力と、基本的知識の正確な理解です。
 そこで、先生は、上記能力を鍛えるためにどのような勉強方法がよいと思われますか?事案、問題を素早く読み解く能力ついては、判例をじっくり読むことで身に付けようと思っていますが、正しいかどうかわかりません。
 また、主に旧司法試験の過去問を解けるレベルを目標として勉強してきたのですが、それだけでは不十分でしょうか?新司法試験の問題は、難しいし(特に憲法、民訴が難しいです)、採点もブラックボックスなので、目標として設定しにくいです。新司法試験と旧司法試験の勉強法の相違点、あるいは、旧司法試験にはない新司法試験の特質の有無について、先生のご意見をお聞かせいただければ幸いです。
投稿 べんじ | 2008年6月13日 (金) 20時02分
A13
 判例をじっくり読むのは、効率が悪いです。
 時間を決めて、判例の事案を図に書き、争点整理をするのならばよいかも。
 時間を決めるのが大事です。
 旧試験が解けるなら、新試験も解けます。

Q14
葉玉先生は、「3年間、1日12時間勉強」」の勉強はどうやったら継続できるのでしょうか?精神論だけでこれを実現するのは難しいです。
投稿 受験生 | 2008年6月13日 (金) 20時46分
A14
人間は飽きる動物です。
1 1日に3科目以上する
2 1日のうちで、見る、聞く、書くを組み合わせる

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2008年5月31日 (土)

取締役の欠員

 おかげさまで、インターネット無料公開講座 会社法マスター115講座で学ぶ会社法
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115web_gaiyou.html
は、順調にアクセス数を伸ばしているようです。
 TMIのクライアント様からも
  「法務担当者の勉強用に最適」
という嬉しい評価をいただきました。
 また、会社法の苦手なロースクール生がいれば、ロースクールの会社法とは、ひと味違う説明になっているはずです(上智の私の授業とは、そんなに違いはないですけど)。

ところで、最近の時事ネタでは
  アデランス
が気になります。

もちろん、個人的には、アデランスの「製品」も気になるのですが(涙)、 どちらかというと、アデランスの「会社」の方がもっと気になります。

 ご承知のように、5月29日に、アデランスホールディングスの株主総会で、2名の社外取締役の選任は可決されたのですが、社長ら7人の取締役の再任は否決されました。
 
 これまでも、経営権争いで、会社提案が否決され、株主提案が可決されるという例はありますが、株主提案もなく、単純に会社提案のみ否決されたというのは、聞いたことがありません。
 その原因と対策を探るというのも意義深いものではありますが、「会社法であそぼ。」としては、とりあえず、この事例を会社法の勉強に役に立てようと思います。
 以下、クイズ形式で、今回の一連の動きを復習してみましょう。

 さて、アデランスは
 9名の取締役の任期満了に伴い
 2名の社外取締役は退任し
 ①2名の社外取締役の選任と、②7名の取締役の再任
を会社提案していました。

 ②の取締役の選任議案は、候補者ごとに賛否を表明することができる(施行規則66条1項1号参照)のですが、報道によれば、総会前日に締め切られる書面による議決権行使の段階で、①の社外取締役には○を、②それ以外の取締役には×をつけるものが多く、総会当日の出席者が全員②に賛成したとしても、②の再任議案は否決されることが明らかだったようです。

【第1問】
 書面による議決権行使の結果で②の議案が否決されることが明らかな場合、取締役は、そのまま株主総会で否決されることが明らかな議案を採決する以外に、何か打つ手があったのでしょうか。

【第1問回答】(6月6日修正)
 それ以外の手はなかったでしょう。
(解説))
 普通の場合ですと、否決されることが明らかな会社提案については、議題自体を取り下げるという選択肢もありますが、今回、取締役の任期満了に伴う選任については、株主総会で議題にせざるをえません。

 アデランスは、定款では取締役の員数を「12名以下」として、下限は設けていませんから、下限は3名(331条4項)になります。
 とすると、①の2名の取締役だけでは、下限に達しないため、員数を欠くことは明らかです。

 過料の制裁(976条22号)は、「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。」とありますから、議題の撤回自体は過料の対象とならないと思いますが、総会終了(=任期満了)によって、すぐに選任手続を執る義務が生ずるので、議題を撤回するのは勇気が必要でしょう。

 次に、株主総会の当日に、何かできることがあったかということについて検討すると、②の取締役7名の否決が目に見えているのですから
  株主総会の現場で、誰か別の取締役候補者を株主提案し、そこで決議を採る
という方法もありますが、書面による議決権行使は、出席者に数えられますから、株主総会の現場で過半数が取っても、全体で賛成多数が得られない限り、選任できません。

 とすると、今回は、員数を欠くことになるため、社外取締役2名のほか、従前の取締役9名(退任予定のものも含む)が、「新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する」(346条1項)ので、
      とりあえず、定時株主総会は、このまま取締役の選任議案を否決させ
      臨時株主総会を開催し、候補者の構成を少し変えて、もう一度、トライしよう
というのが普通の選択なのかなあと思います。

【第2問】
 もし、今回、社外取締役候補者が3名で、その3名のみの可決が確実であると仮定した場合、会社は、どうすべきでしょうか。
【第2問回答】
 その時は、議題を撤回するしかなかったかもしれません
(解説)
  もし、今回の①の社外取締役候補者が「3名」だったとしたら、「員数を欠く」ことになりません。
 とすると、その社外取締役3名だけで、経営をせざるをえないという異常事態になったかもしれないからです。
 そもそも、「社外取締役候補者」ということで議案を提出しているにもかかわらず、結果的に最低1名は代表取締役とならざるをえないというのは、どうにもおかしな話です。
 その3名では、代表取締役の就任承諾も取れないでしょうし。
 したがって、そのような場合には、議題自体を撤回せざるをえなかったのではないかと思います。

【第3問】
 今回、従来の9名の取締役が全員、「取締役としての権利義務を有する者」として残ったのですが、退任予定だった社外取締役は、辞められないのでしょうか。

【第3問】
 難問です。
(解説)
 今回は、従来の取締役の合計9名が同時に任期満了なので、346条1項によって、同時に「取締役としての権利義務を有する者」になります。これは、法律上、当然にそうなるので仕方ありません。
 しかし、もともと欠員は1名ですから、その9名中、2名が辞任しても、欠員にはなりません。
 そう考えると、取締役が辞任することができるのと同様、「取締役として権利義務を有する者」も辞任によって欠員が生じるような場合でない限り、辞任できると考えてもよさそうです(少なくとも346条1項の趣旨に反しません)。

 ただ、346条1項は、「新たに選任された役員が就任するまで」と規定しているので、条文上は、「辞任」という概念はなさそうで、この部分は悩みの種です。取締役として権利義務有するものと会社との間には、委任契約もないので、辞任は難しいかおしれません。

【第4問】
 今後、いつまでに取締役を選任しなければならないのでしょうか。
【第4問回答】
 選任手続を「怠る」と過料になるので、正当な事由がない限り、すぐに取締役の選任手続を行うべきです。
 この点、以前、某監査法人が金融庁から処分を受けて会計監査人の欠格事由が生じたときに、同じ問題が生じましたが、会計監査人の欠格については、監査役(監査役会)に一時会計監査人の選任権を認めた(346条4項)法の趣旨から、定時株主総会まで、会計監査人を選任しなくてもよいと解されています。
 これに対し、取締役の欠員は、そのような解釈はされていませんから、来年の定時株主総会まで放っておくことはできないでしょう。
 他方、このまますぐに臨時総会を開催して、何もせぬまま、取締役候補者もそのまま提案すれば、また否決されるでしょうから、経営者としては、スティールに限らず、株主と調整し、誰ならば選任してもらえるのか、調整せざるをえません。
 きちんと調整すれば、今回、否決された候補者が、次には可決されるかもしれません。

【第5問】
 どういう展開になると、会社にとってまずいでしょうか。

【第5問回答】
 今後、選任手続が遅れて、利害関係人の申立てにより、裁判所が、一時取締役を選任すると(346条2項)、従前の取締役は、皆、「取締役としての権利義務を有する者」でなくなってしまいます。それは、かなりまずい。
(理由)
 社外取締役2名+一時取締役1名で、取締役会を構成して、アデランスの経営をやるのは、事実上、困難です。今回、選任された社外取締役2名は、辞めたくても、辞められません(欠員になるので)。
 もちろん、裁判所は、「必要があるとき」に、一時取締役を選任することになっているので、選任手続が順調に進めば、それを尊重し、すぐに一時取締役を選任するということはないと思いますが。

【最後に】
 敵対的買収では、「大株主に経営責任があるのか」という問題によくぶつかります。
 よく買収者側は「純投資なんだから、50%以上持ったとしても、自分で経営計画を示す必要なんかない。」と言ったりします。
 それはそれで、理屈ではあるものの、今回のアデランスの事例を見る限り、ただ「NO」というだけの大株主だと、会社の存続にかかわる事態を生じかねないというのも、また真実です。
 
 報道を見ると、いつものように「今回の件で持ち合いが進むと、外国人の日本株への投資意欲が削がれる」というワンパターンの解説がされていますが、何の提案もせず、「NO」というだけの株主が会社の支配権を持つくらいなら、持ち合いでもいいので安定株主がいた方が、会社にとっても、少数株主にとっても幸せです。

 どんな形であれ、経営者が株主のことを重視し、株主が経営者を信頼するという状態が一刻も早く回復することを願うばかりです。

(質問コーナー)
Q1
①株券電子化について教えてください。以前質問させていただいた者です。
『社株法159条2項の「名義人等」について、同条項の委任に基づく命令26条で、株券の所持者による申請により株券喪失登録が抹消された場合は、当該申請者が「名義人等」になるとされていますが、この申請は決済合理化法の施行日以前のものに限られるという理解でよいでしょうか』というQに対し、『登録者の抹消申請は、施行後も可能です』というAをいただきました。Qにある『株券の所持者』は電子化により無効になった株券の所持者でもよいということでしょうか。
②先生がご提案される買収防衛策『株主意思確認プラン』の事前の意思確認手続も株主総会で実施するということなのでしょうか。
投稿 剣闘士 | 2008年5月29日 (木) 10時56分
A1
① 無効になった株券の所持者でもいいです。
② 株主総会で実施します。

Q2
家庭の事情や病気、仕事の都合で受け控える人もいます。
勉強を開始した時期も人それぞれです。
純粋未修の全員が、最低でも6年は勉強している既習を相手に3年で8科目をキャッチアップできるとは思えません。受け控えなければ勉強開始5年までに合格しなければ三振なのですから、受け控えを考える人の気持ちもわかります。受け控えなどせずとも合格して当然というなら、法学部不要論につながるでしょう。
また、任官を目指すなら下位合格よりも、受け控え後一桁二桁で合格したほうが可能性が高いというのも事実だと感じます。
受け控えが、減点事由になるのは当然なのでしょうが、欠格事由になるとは驚きました。
葉玉さんやTMIがそういうポリシーであることを公表していただけるのは、意味の無い履歴書を出して労力を無駄にする被害者を防止する上で好ましいと思います。
でも、これが「大手事務所」の常識なのでしょうか?
私には、「現役合格でなければ東大文一とは認めない」という発言と同じくらいの香ばしさを感じます。
もしこういうのが本当に常識であるならば、各事務所もそのポリシーを公表してほしいものです。
これから毎年何百人もの受け控え経験合格者、複数回受験経験合格者が出るのですから。
投稿 いちおう修習生 | 2008年5月29日 (木) 21時53分
A2
 「受け控え」とは、家庭の事情や病気等の事情がないにもかかわらず、受験しない人のことをいいます。
 以前の私の記事を見ていただければ分かりますが、私は、病気等で、受けようと思っても受けられないことがあるから、受け控えなどやめなさい、と言っています。病気等で受けられなかった場合は、当然、そのことは考慮されるでしょう。
 次に
「純粋未修の全員が、最低でも6年は勉強している既習を相手に3年で8科目をキャッチアップできるとは思えません」
とのことですが、それは、全く違います。
 はっきり言って、法学部生が漫然と4年で身につけてきたことなど、真剣に半年やれば、あっという間に乗り越えられます。
 今の新司法試験のレベルならば、たとえ、今、法律の知識が0であっても、真剣に司法試験に合格したいと考えて努力すれば、ほとんどの人は、2年あれば合格レベルまで行けると思います(早い人は1年)。そして、3年くらいで8割は合格するのではないでしょうか。
 それから、「任官を目指すなら下位合格よりも、受け控え後一桁二桁で合格したほうが可能性が高い」
とのことですが、私は、公務員を目指すならば、年齢を1歳加えることの方がリスクが高いと思います。
 また
「受け控えしたら、次の年、1桁2桁になる」
というのは、本当でしょうか?
 2000人以上合格する時代ですから、1点2点で、大きく順位は交代します。1-99番に入るというのは、誰も確実に成し遂げられるようなことではありません。
 私の経験によれば、その順位に来る人は、効率的な勉強をすることができる人であり、ロースクール時代にそこまで実力を高められなかったような人(=受け控えをする人)ではありません。

Q3
この度、親子会社間で吸収合併をすることになりましたが、
合併契約につき、合併比率についてご質問させていただきます。
甲を存続会社、乙を消滅会社とした場合
「合併に際し、乙の株式1株につき、甲の株式0.004を割り当てる。
但し、端株については四捨五入とする。」
といった規定は有効でしょうか。株主平等原則上、問題が生じるよう
にも思えます。宜しくご教授下さい。
例 乙株主 A:1800株 B:1700株
  合併に伴いA:1800×0.004=7.2
         B:1700×0.004=6.8
  それぞれ四捨五入し、
         ABともに7株
投稿 吉岡 | 2008年5月30日 (金) 19時01分
A3
一株に充たない端数は、まとめて売って、金銭処理です(234条)。

Q4
前回弁護士の仕事について質問させてもらったものです。
司法試験終わって、結果は不合格だと思います。
勉強の仕方がやはり甘いのかなって。
勉強だけに専念できた受験生なのに結果だせなかったので
才能がないのかなっておもってしまいます。。
投稿 受験生 | 2008年5月30日 (金) 23時01分
A4
司法試験には、才能は不要です。
「才能」といえるようなものを持っている合格者は、全体の1%でしょう。
努力が足りないことを才能のせいにしては合格できません。

Q5
そんな大手法律事務所があるのかは分かりませんが、その方は、受け控えしておりました。
葉玉先生が仰るように、3年間毎日12時間、効率的な勉強方法・内容で学習を継続すれば合格できるんだろうと思います。
ただ、純粋未修者は、最初のとっかかりが難しいと思います。何を使って如何なる学習方法がよいのかは、情報が多すぎて、選択に困るからです。
3年間勉強し、司法試験を受けて振り返ると、やはり優れた教え手がいるロースクールが強いのかなと思います。
投稿 しょ | 2008年5月31日 (土) 00時55分
A5
 既習者か、純粋未遂者かを問わず、受験生が「お客さん」のような気持ちでいる限り、合格するのには時間がかかります。
 「誰かが自分に合格法を教えてくれる」という受け身は絶対駄目です。
 合格者がどのような勉強をしていたのか知っている人に、しつこく話を聞き
 分からないところがあれば、しつこく、先生に食い下がり
 模試で点数が取れなければ、しつこく、しつこく、演習を繰り返す。
 かっこよく合格しようなどと考えず、恥を捨て、自分が合格する力を身につけるためには、どの人のところにいけばよいか、何を頼んだらよいか、をとことん追求することしかありません。
 いわば「営業型受験生」は、早く合格します。
 私は、上智ローで教えていますが、上智のロー生も、まだまだ「お客さん」気分が抜けない感じです。人の迷惑を顧みず、先生に食らいついていくことが重要です。
 先生というのは、「生徒から、面倒なことを頼まれる」ために、給料をもらっているのです。

Q6
 法205条に規定されている契約がないことを前提に、申込期日と払込期日を同日とする第三者割当増資は可能でしょうか。
 問題意識は、法204条第3項の払込期日の前日までに申込者に割り当てる募集株式数を通知しなければならないと言う条文の解釈にあります。申込者を「申し込んだ人」と解すれば、申込期日と払込期日を同日にすることは不可能になります。
 従来の分類で言う第三者割当増資の場合、発行決議と割当先の決定を同日に行うの通常かと思います。この場合、申込を条件として法204条第1項の割当をしたと解することになるかと思います。とすれば、同条第3項についても条件付きでの通知も可能かと考えています。
 また、申込者を申込予定者を含むと考えれば、同じ結論にたどり着けると思います。
 総会対策で有名な某事務所の先生に疑問を呈されて、条件付き通知で何が悪いと強弁してしまいました。
投稿 デラシネの法務 | 2008年5月31日 (土) 01時31分
A6
 申込者は、「203条2項の申込みをした者」と定義されています。
 それは、そうと、「申込期日」ってなんでしょうね。その「申込期日」という概念が法的概念でないとすれば、申込期日より前の日に、法的な申込みが行われていたということはできそうです。その場合、「条件付」という法律構成を取らなくても、「申込期日」と「払込期日」は同日でもよいことになります。
  デラシネの法務さんが、「こういうことをやりたい」ということが明確であれば、それを法的に説明することはできそうです。
 そういうのを実現してあげるのがプロの法律家の仕事でしょう。

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2008年4月19日 (土)

内部統制(続)

 内部統制報告制度は、上場企業およびその子会社の担当者が、昨年来、悩み苦しんできた問題です。
 ですから、前回の記事については、いろいろな反応があるだろうと思っていましたが、予想どおり、監査する方及び監査される方の双方から、沢山のコメントをいただきました。

本日は、それらのコメントのうち、「監査役さん」のコメントを中心に、前回の記事の補足をしてみようと思います。

監査役さんのコメント
「上場会社の監査役をしている者です。
先生のブログはいつも共感を持って拝見しております。
しかし本日のはかなり違和感というか反感に近いものを感じました。
三井さんの前の池田さんの時代から金融庁のいうことが一貫しているのはそのとおりでしょう。三井さんと葉玉先生がパネルディスカッションをすれば当然そういう結論になりましょう。
しかし公認会計士協会はどうでしょうか。協会の各種報告書に現れた監査の基準や手続は金融庁の言っている趣旨と全く異なるではありませんか。従来より金融庁や八田先生は上場会社に向かって「内部統制に誤解がある。SOXではない。既存の文書でよいのである」と言っていますが、それは会計士協会に対して言うべきことで、上場会社に向かっていうのは会計士協会に言えないから上場会社に八つ当たりをしている弱いものいじめでしかありません。
企業開示課が監査報告書をくれるわけではありません。
監査法人がOKといわない限り適正意見の監査報告書は出ないのです。
その監査法人は会計士協会の報告書どおりに動くのです。動かなければ上場会社の監査をできなくされます。
葉玉先生は本当に金融庁の「11の誤解」のように、3点セットは不要、既存の文書を活用すればよい、お考えでしょうか。そんな監査法人がいるのですか。TMI法律事務所のクライアントで、そのように内部統制を行っている会社が実在するのですか。」

 監査役さんが、私の記事について、「違和感」や「反感」をもたれるのは、よく分かります。監査役さんの監査法人は、きっと
  「3点セットは当然必要。
   既存の文書を活用するのは、一切認めない」
とおっしゃっているんでしょう。
 監査役さんの会社の監査法人の意見が正しいのかどうかは、監査役さんの会社の規模や既存の文書の整備状況によるので、なんともいえないのですが、私の知る限り、現実に
 ① 最低、RCMがあればよい
 ② 既存文書を活用してよい
という監査法人の方はいらっしゃいますし、そのような運用がされている会社もあります。

 もちろん、中には、「金融庁は、緩すぎる」という公認会計士もいますし、もしかしたら、監査役さんは、SOX法中毒の会計士さんに過剰な対応を求められ、「刷り込み」がされてきたために、私達の意見に「反感」すら感じていらっしゃるのかもしれません。

 私は、監査役さんのお気持ちは、分かるものの
  監査役さんのご意見には、3つの大事なことが忘れられている
と思います。

 一つ目は、「内部統制の基準は、ある特定の事例にその基準をあてはめると、自動的に答えが出るというようなものではない」ということです。
 基準についての解釈やあてはめは、人によって、時期によって、大きなブレが生じえます。監査人が変われば、意見も変わるし、同じ監査人でも、時がたてば意見が変わることもあります。
 経営者が、金商法の内部統制について正確に理解し、根拠を示して、監査人と議論すれば、監査人が譲歩せざるをえないことも多々あるでしょう。
 監査法人は、神様ではないのです。
 監査法人には、「不適正意見を出したら、会社や株主から訴訟を提起されるかもしれない」という不安感を持っている人も多いでしょう。経営者が、きちんとした論拠を示し、毅然として不当な要求をはねつければ、合理的な対応をしてくれる場合が多いと思います(もちろん、何の根拠もなく、泣きつくだけでは、相手にされないかもしれません)。

 二つ目は、監査法人は、金商法に基づいて監査を行うということです。
 金商法に反する内部統制監査報告書は、虚偽ないし違法なものであり、そのような不当な内部統制監査報告書を作成した監査法人は、金融庁の処分の対象となりえます。

 仮に、金融庁の見解に従えば、内部統制に問題がないのに、監査法人が過度に保守的になって、不適正意見を書くのならば、不当な記載のある監査報告書ということになります。
 監査人さんは、
   「金融庁が何をいっても、監査法人がウンと言わなければ仕方がない」
と思っていらっしゃいますし、それは、一面真理ですが
   「監査法人が何を言っても、金融庁がウンと言わなければ仕方がない」
というのも真理です。
 監査法人が「内部統制監査の見解の相違くらいで、金融庁が処分を下すはずがない」とタカをくくっていると、案外、痛い目に合うかも知れません。上場企業の多くが、監査法人の要求にヘキエキしており、政治家に泣きつき、何度も、金融庁が「過度な要求は辞めよう」と警告を発しているわけですから、今後、金融庁が、過度な要求をする監査法人に対して、どんな動きをするかなど、誰も予想はできないのです。

 三つ目は、内部統制監査は、はじまったばかりであり、内部統制監査報告が作成されるのは、来年だということです。
 経営者と監査人との見解の相違が、正式に顕在化するのは、来年ですから、監査法人と激論を戦わせるのならば、今年から来年にかけてが本番です。
 その本番に先駆けて、金融庁が
  「監査人の準備段階における各種言動は、まったくもって、正当である」
と言うのと
  「一部の監査人の言っていることは、おかしいぞ。」
と言うのとでは、どちらが望ましいかを考えてください。

 監査役さんは
 「従来より金融庁や八田先生は上場会社に向かって「内部統制に誤解がある。SOXではない。既存の文書でよいのである」と言っていますが、それは会計士協会に対して言うべきこと」
とおっしゃいますが、私は、「11の誤解」は、企業に向けられたものとではなく、真実は、監査人に向けられたメッセージであると理解しています。
 実際、昨年後半に、金融庁が火消しに入った頃から、公認会計士さんが、公式に内部統制について語るときのニュアンスは変化してきています。

 監査役さんのおっしゃるように
 「監査法人がOKといわない限り適正意見の監査報告書は出ない」
のですが、監査をするのは人間であり、監査法人は、金融庁や他の監査法人の動きを注視しながら、監査を行っています。

 監査法人の内部統制についての考え方が金商法に反していると思えば、監査役が
    監査報告の中で、「うちの会計監査人の内部統制の考え方はおかしい」
と書けばよいし、個別企業で対応するのは事実上無理だというのならば、上場企業同士で、連絡を取り合い
   「金商法の内部統制を理解していない監査法人を監視する会」
を結成し
  「不当な要求をする公認会計士リスト」
を作成して、金融庁に
  お殿様、助けてください。
  こんな悪代官がおります。
と駆け込むのはどうでしょうか(笑)。
 新聞ネタにもなるし、結構、効果が高いかも・・
(こんなこと書くと、公認会計士の皆さんから、監査の妨害をするな、と怒られそうですが)。
 いずれにせよ、内部統制報告制度の妥当な運用を導くために、
   金融庁が、SOX法的内部統制に否定的である
という態度を示し続けることは、意味のあることだと思います。

 なお、踊る内部統制さん、m.nさん、機野さんが、内部統制の不備を見逃した場合のリスクが、監査法人の過剰な対応を生んでいるというご指摘をされています。
 先週、金曜日に、大阪地裁で、トーマツの損害賠償責任を認める判決が出たと山口さんのブログに記事が出ていましたが(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/)、こういう判決が出ると、いよいよ監査法人が保守的になるのかもしれません。

 まあ、監査するのは、機械ではなく、人ですから、仕方ありませんし、内部統制の監査基準なんて、幅があるわけですから、厳しくもできれば、緩くもできます。会計処理には「正解」がありますが、内部統制には「正解」はありません。監査法人だって、本当のところ、何がその企業にとって必要な内部統制なのかなんて分からないはずです。抽象的な虚偽記載の可能性なら、いくらでもあるでしょう。しかし、真のリスクが何かを把握するのは、非常に難しい。だから、「過剰な対応」になるのか、そうではないのか、監査法人の態度によって大きく変わります。

 まあ、「内部統制の不備で訴えられるから、監査が必要以上に厳しくなる」
というのが本当ならば、
 「監査法人が、内部統制について、不適正意見を出したことを原因として、会社や株主が、巨額の損害賠償請求訴訟を、じゃんじゃん起こす」
ような世の中になれば、監査法人は、一気に、反対方向に流れるかもしれませんね。

 でも、そんなことで監査が厳しくなったり、緩くなったりするのは、おかしな話です。
 訴えられるかどうかにかかわらず、監査法人は、金商法の趣旨を踏まえた監査をすべきであり、それができない監査法人ならば、監査法人としての資格はありません。

 内部統制はプロセスであり、100点満点の内部統制などありえません。
 これまで気付かなかった不備や欠陥を発見したり、企業の内情の変化によって生ずる不備を把握したりしながら、それを補修する時期や予算を検討し、年々、改善していくのが正しい内部統制のあり方です。
 誤解を恐れずにいえば、「虚偽記載のある財務報告は一発アウト」ですが
   不備のある内部統制は、むしろ健全な姿
であると思うのです。

 監査法人の内部統制監査も同じです。
 100点満点の内部統制監査なんてありえません。
 監査法人による内部統制の「監査」だって、大きな目から見れば、会社法上の内部統制プロセスの一つであり、その監査に効率性を害するような不備や重要な欠陥がある場合もあるでしょうし、監査の方法も、会社の変化に応じて、年々、改善していくべきものです。
 そして、本来、それで足りるはずなのです。
 実施基準自体、きっと実際の監査経験をフィードバックさせながら、変化していくはずです。

 私は、「11の誤解」には、
  上場企業も、監査人も、冷静に金商法を見つめ直し、SOX法のような悪法のもとで培われた実務を真似することはやめ、合理的な内部統制報告制度を考えていきましょう
というメッセージが込められているものとと思っています。
 それなのに、経営者や監査法人が
  今更、言われても、何も変わらない。変えられない。
とあきらめているとすれば、それこそ、事情の変化に対応できない硬直的な内部統制システムが構築されている表れであり、そのような態度そのものが
  内部統制の不備
であると思います。

 なお、漉餡大福さんは、
「内部統制報告制度に関する11の誤解」批判
http://d.hatena.ne.jp/koshian_daifuku/20080312/1205240827
「内部統制報告制度に関する11の誤解」等に対する個人的な感想
http://lagrande.blog115.fc2.com/blog-entry-440.html
を引用されて、11の誤解は、批判されています。

 しかし、そこで引用されている「11の誤解」批判のほとんどが
  金商法の内部統制報告制度そのもの
に対する批判であり、「11の誤解」そのものに対する批判にはなっていないように思います。

 以前から申し上げていますように、私は、大きな不正は、内部統制報告制度では防げないので、内部統制報告制度への対応のために、巨額な資金と手間が投入されたと聞く度に、「そこまでして、やるようなことじゃないだろう」という気持ちがわき上がってきます。

 ただ、現実に、内部統制報告制度は存在していますから、その存在自体に文句を言うくらいならば、不当な要求をする監査法人に文句を言う方がよっぽどましです。
 また、アメリカ、イギリス、フランス等で内部統制報告制度が採用されたという潮流の中で、金融庁が、「何の法整備もしない」という選択肢を取ることはできなかっただろうし、今後、廃止することも、事実上不可能でしょう。

 「11の誤解」を始めとする金融庁の一連の「火消し」活動h
  上場企業と監査人の双方に、効率的で妥当な内部統制を考えるためのきっかけをあたえる
という点では、高く評価すべきであり、このきっかけを生かすも、殺すも、
  上場企業・監査法人、そして、金融庁の今後のフォロー(監査法人に対する監督も含む)
にかかっているのではないかと思います。

(質問コーナー)
Q1
葉玉先生
いつも参考にさせていただいております。
>誤解している人もいますが、4月1日から施行されている金商法には内部統制構築義務など存在しません。単に内部統制の「開示」義務が定められているだけです。
とありますが、「開示」のための根拠として、内部統制基準には、「財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果、並びに発見した不備及びその是正措置に関して、記録し保存しなければならない」とあり、内部統制実施基準には、「内部統制に係る記録の範囲、形式及び方法は一律には規定できないが」と言い訳したうえで、
>どーでもいいようなことを文書化・IT化すること
をしないと対応できないようなこと(「各業務プロセスにおいて重要な虚偽記載が発生するリスクとそれを低減する内部統制の内容(実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性との関係を含む。また、ITを利用した内部統制の内容を含む。)」など)が書かれていると感じるのですが、その点に関してどのようにお考えでしょうか?
投稿 ただの監査人 | 2008年4月12日 (土) 15時08分
A1
 実施基準は、開示を行う前提として、目安を提示したものであって、「義務」の根拠ではありません。
 それから、会計基準と実施基準の一番大きな違いは、会計基準は、どんな会社であろうとも、規模や性質にかかわらず、統一的に適用されるのに対し、実施基準は、会社が変われば、要求されるものが大きく変わるということでしょう。

 もちろん、多くの上場企業は、多かれ、少なかれ、文書化、IT化が必要な部分はあるでしょうが、金融庁が言いたいのは
1 国際的な拠点を多く持つ超巨大上場企業と、従業員30人で本店しかない上場企業では、要求されるものが全然違うということ
2 超巨大上場企業であったとしても、アメリカのSOX法のような業務プロセスを嘗めまくるような内部統制を、日本の金商法は要求していないということ
だと思います。

Q2
いろいろな使い方の一つとして私のような発想をする人種にとっての624の意義を考えあぐねているところです。
現行法の解釈と言うより立法の趣旨を知りたいと思っておすがりしております。
立法論としては、624を「会社は出資の払戻をすることができる」とすることは他の部分との整合性を保てるでしょうか?
もし可能なら、商法になかった規定を会社法でわざわざ明文化させるに当たり、なぜ会社の任意でなく社員の請求権の規定を選択したのか、その狙いはどこにあるのでしょうか?
投稿 ひで | 2008年4月14日 (月) 12時56分
A2
 ひでさんのような発想をしない人にとって、624条を使ってもらうためです。
 「払戻ができない」としたら、私が、これまで話していたような便宜をはかれるかどうか、考えてください。

Q3
東証マザーズ上場会社にはMSCBやMSワラントを発行して株価暴落している企業が多数あり,個人株主が市場から離れる原因の一つになっているようです。
株式会社がMSCBやMSワラントを発行して資金調達する場合,少数株主保護のため,議決要件を厳しくする法改正の動きなどはないのでしょうか?倒産するよりマシだからOKということでしょうか?
投稿 節約小僧 | 2008年4月17日 (木) 02時41分
A3
 そのような立法の動きはありません。
 むしろ、市場のルールの問題です。

Q4
剰余金配当についてご教示下さい。

当社のその他利益剰余金には「配当準備積立金」および「別途積立金」があります。
当期末時点で繰越利益剰余金がマイナスになっていますが、配当可能額の要件は満たしています。

1.この場合、「配当準備積立金」および「別途積立金」を直接の原資とする剰余金の配当決議は可能でしょうか?
(別段の手続きを経ることなく、各積立金を減額し剰余金配当を行うことの可否)
2.(1.が不可能な場合)
 株主総会による剰余金配当決議の前提として、各積立金の取崩し(結果として繰越利益剰余金の増加)を機関決定する必要があるでしょうか?
3.(2.で機関決定が必要な場合)
 各積立金の取崩しは取締役会決議事項か、株主総会決議事項か
(会社法452条の「任意積立金その他の剰余金の処分」にあたるか)
 ※会社法459条の要件をみたさないため、取締役会に決議権限はありません

4.(3.で株主総会決議が必要な場合)各積立金の取崩しと剰余金配当は同日の株主総会で決議可能でしょうか?
投稿 msm | 2008年4月17日 (木) 09時21分
A4
 株主総会が、配当準備積立金・別途積立金を積んだ趣旨が何かによります。
 会社が、任意で積んだものですから、会社で決めたルールに従って取り崩してください。不明ならば、総会決議で取り崩すのがいいでしょう。
 総会で取り崩すとして、剰余金配当決議と同日に取り崩すことは可能でしょう。

Q5
 3月28日のコメントにあった、事業報告に記載する会社役員に関する事項の基準日は、確かに考え出すと悩ましいですね。
私は、条文の表現が現在進行形のものは事業年度末日現在で記載し、「当該事業年度に係る」などの文言があるときは事業年度中の異動も含めて記載すれば良いと思いますが、いかがでしょうか。
つまり、施行規則121条の2、3、8号は末日現在で記載、7号は事業年度中のものも記載、124条の1~3、5号は末日現在で記載、4、6、7号は事業年度中のものも記載、ではないかと思います。
投稿 | 2008年4月17日 (木) 16時19分
A5
 私も基本的にはそれでいいと思っています。
 本来ならば、文言通りでいいはずですが、開示の問題ですので、条文の趣旨によって、広めに開示したほうがいいかもしれませんね。

Q6
 事後設立というのは事業譲渡等に含まれるのでしょうか?
 条文上は含まれるように読めますが、会社法マスター115では事後設立は株式買取請求はできないとなっております。
投稿 kingpsa | 2008年4月17日 (木) 22時25分
A6
 事業譲渡等には、含まれません。468条の定義を見てください。

Q7
  葉玉先生、こんばんわ。司法試験の論文作成能力について質問したいのですが、葉玉先生が、ライブドアブログの時代に初心者が論文作成能力をつけるためにはどうすればよいかということを書いておられました。その中に「一日1通は典型的な問題の答案を書こう」というアドバイスがありました。

  ①この典型的な問題とは、どのレベルの問題をさすのでしょうか。具体的には初級答練・本試験レベルの答練・過去問の中でも比較的素直な形式の問題が出題されていた昭和時代の問題をさすのでしょうか。

  ②1日1問を書いていくときのやり方としては、まず
      ア該当する範囲の論証集を読み、
      イ実際に書いてみる
      ウ復習時にオウム・キリン・サイの力をつけることを意識して事案の処理方法を確認する
投稿 不孤 | 2008年4月17日 (木) 23時49分
A7
 初心者であれば、平成の始めの方や、昭和30年代のシンプルな事例がよいでしょう。
 書く方法については、おっしゃるようなやり方で結構です。

Q8
司法試験択一まで1ヶ月になりました。
これまでやってきたことを出し切るためにどのようなことをしていけばよいとかんがえますか?
答案練習で時間ぎりぎりになってしまうのですが、本番でどのようなことを意識すれば時間内におわれますか?
私は一人暮らしで食事が不規則になってしまうのですが、先生は受験時代3食ちゃんと自炊されていたのでしょうか?
投稿 受験生 | 2008年4月19日 (土) 01時34分
A8
 1 択一を、毎日、各科目20問づつ解きましょう。
 2 論文は、毎日、2通ずつ書きましょう。残り2週間になったら、答案構成を山のようにやりましょう。
3 答案が時間ぎりぎりになるのは、当然ですが、答案構成の時間を決め、何分立ったら、絶対に書き始めるのか、決めておきましょう。
4 食事は、全部外食か、弁当か、パンでした。

Q9
B社株式を所有するA社がB社の株式を更に取得する場合に、その決議を行うA社取締役会にB社の取締役を兼任しているものが出席し決議に参加することには問題はないでしょうか(既に所有していた株式の数や追加で取得する株式の数は影響するでしょうか?)?また、決議に参加させてはいけないとした場合に、A社の取締役会が定足数を満たさなくなるような時にはどのような方法で会社は意思決定を行うのでしょうか?
投稿 Hiro | 2008年4月19日 (土) 10時19分
A9
 B社の代表取締役でしょうか?平取締役ならば、利益相反取引にはなりません。

Q10
葉玉先生、こんばんは
会社法の条文の趣旨にしばしば「取引の安全」というのがでてくるのですが、取引の安全を図る、つまり取引相手の保護を図るのは単純に取引相手がかわいそうという人情的な理由からなのですか?それとも、保護しないと取引に躊躇するものが出てきて経済の発展に悪影響を及ぼすからそれを阻止するというのが1番の理由なのでしょうか?
投稿 受験生K | 2008年4月19日 (土) 17時15分
A10
会社と取引した善意の相手方が保護されないと、会社と取引をする人がいなくなります。
会社という制度自体についての信頼を保護する必要があるのです。

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