2009年7月14日 (火)

振替株式の株式買取請求権

前回、株式買取請求権の話題を書きましたので、その関連で
   振替株式の株式買取請求権
についてお話しします。

 株式買取請求権には
   116条(譲渡制限等の付加の定款変更)
      469条(事業譲渡等)
      785条(吸収系組織再編の消滅会社等)
      797条(吸収系組織再編の存続会社等)
      806条(新設系組織再編の消滅会社等)
があり、その効力発生日(株式の移転の効果が生ずる日)は
  1 吸収合併・株式交換の場合の785条 吸収合併・株式交換の効力発生日(786条5項)
    2 新設合併・株式移転の場合の806条 新設会社の設立の日(807条5項)
    3 それ以外 代金支払日
とされています。

他方、振替法には、3の場合を念頭においた
  代金の支払いと振替の同時履行(振替法155条)
の規定は置かれていますが、1や2の場合の特則は置かれていません。

 そのため、上記1や2の場合に、実務上、どう取り扱ったらいいのか、ということが問題となってます。

 ここでは、
 上場会社であるA社とB社が、B社を完全子会社化するため、A社の振替株式を対価とする株式交換(交換比率2対1)を行う場合に、B社の株主XがB社に対して100株の株式買取請求権を行使した
という事例をあげて説明します。

 まず、この事例において、会社法では、どのような権利関係になるかを概観すると
<株式交換の効力発生日前>
 XがB社株100株を保有
<株式交換の効力発生日>
 ① XのB社株100がB社に移転
 ② B社が取得したB社株100は、株式交換によりA社に移転
 ③ B社にA社株50が割り当てられる。
ということになります。

 これに対し、振替口座簿の記録は            
<株式交換の効力発生日前>
 Xの口座にB社株100株記録されている
<株式交換の効力発生日>
 Xの口座のB社株100が抹消され、A社株50が記録される
   (B社株は、振替株式ではなくなるので、どこにも記録されない)
 B社の口座には何も記録されない
ということになります。

 このように会社法が予定している法律効果と振替口座簿の記録が対応していないので、
  会社法の法律効果のとおりに、振替口座簿の記録を合わせる処理を行うのか
    振替法が優先されて、振替口座簿のどおりの法律効果が生じるのか
ということが問題となります。

 特に問題になるのは、会社法の法的効果の①の部分、すなわち
  株式交換の効力発生日に、Xの保有するB社株式100株は、B社に移転するのか
というところです。

 というのも、振替法140条は
  振替株式の譲渡は、振替により、譲受人の口座に増加記録がされなければ効力が生じない
というルールを採用しているので
  XからB社へ振替が行われていないので、株式の譲渡の効力が生じないのではないか
とも考えられるからです。

 これを法的に表現すれば
  振替法140条は、会社法786条5項の特則か?
ということになります。

 株式買取請求権は、株主と会社との間で売買契約を成立させる権利です。したがって、株式買取請求権の行使による株式の移転は、基本的には、売買契約による株式の譲渡と捉えるのが素直でしょう。

 とすれば、振替法140条は、「振替株式の譲渡」についての特則なので、振替がない以上、株式の移転の効力は発生しないと考える見解もあります。

 ただ、このような解釈を採った場合

   Xが、株式交換の効力発生日の前日までに、B社に対して買取対象株式の振替をしていなければ、効力発生日の株主は、Xのまま

となり、XにA社株式が割り当てられてしまいます。

 他方、B社は、効力発生日までにB社株式を取得することができなかったので、A社株式の割当を受けることはできません。
 また、Xが行使した株式買取請求権については、Xが株式交換によりB社株式を失った以上、B社に対しB社株式を交付することはできなくなり、Xの義務の履行不能となります。そして、B社のXに対する代金支払い債務も、危険負担の債務者主義により、消滅します。
 つまり、
   Xの株式買取請求権は、効力を失う
ことになります。

 このように振替法140条を会社法786条5項の特則と捉えれば
  XがB社に対して株式買取請求権を行使する場合には、効力発生日の前日までに、買取対象株式をB社の口座に対し振替を完了させること
が法律上要請されることになるわけですが、
  振替の申請から振替の完了まで4営業日程度が必要なので、株式買取請求権が、株式交換の効力発生日の直前に行使されると、効力発生日までに振替が完了しない
という問題は解決することができません。

 そのため、本来、会社法上、株式買取請求権が行使可能であるにもかかわらず、事実上、これを行使することができない場合が生ずることを認めていいのか、という批判を受けることになるでしょう。

 それでは、このような不都合を避けるために
  振替法140条は、会社法786条5項には適用されない
という考え方はできないでしょうか?

 振替法140条は、「譲渡」に関する規定ですから、たとえば、株式交換による完全子会社株主から完全親会社への株式の移転のように「譲渡」以外の移転には適用されません。

 そして、会社法786条5項は、
  株式交換の効力発生日において、株式買取請求権の効力が発生しなければ、完全子会社が自己株式を取得することができなくなる
という問題を回避するために、本来、双務契約においては認められるべき代金支払義務と株式移転義務の同時履行を認めず、
  法律上、強制的に完全子会社への株式移転を認める規定
であり、同項による株式移転は、当事者の契約に基づく「譲渡」には該当しないものとも考えられます。

とすれば、会社法786条5項の株式移転については、振替法140条は適用されず、
  説例のXからB社への株式移転は、株式交換の効力発生日に効力を生ずる
ことになります。

 そして、B社がB社株式を取得することができれば
 ② B社が取得したB社株100は、株式交換によりA社に移転
 ③ B社にA社株50が割り当てられる。
という会社法の予定している法律効果が生ずるので、株券の電子化前の取り扱いとほぼ同様の取り扱いが可能になります。。

 もっとも、振替口座簿では、B社の有するA社株50株が、Xの口座に記録されているので、B社は、Xに対し、A社株50について、B社の口座を振替先口座とする振替の申請を求めることになるでしょう(不当利得返還請求権)。

 この際、Xは、B社による代金の支払いと、A社株50の振替の申請の同時履行の抗弁を主張することができるか、という点は難しい問題ですが、本来、代金の支払いと同時履行の関係にあったB社株の代替物としてA社株が記録されたことを考えると、同時履行を認める方が公平であるように思います(条文上の根拠がないので、これを否定するという見解もありうるでしょう)。

 以上のようにB社の株主Xについては
    1 株式交換の効力発生日前に振替が完了しなければ、株式買取請求権の効力が失われるという解釈
    2 株式交換の効力発生日に株式買取請求権の効力が発生し、完全子会社であるB社はXに対してA社株の振替の申請を求めることができる
という二つの考え方がありえますが、個人的には、2の方がマイルドで会社法と整合するので気に入っています。

 実務では、まだ固まりきっていないようにも思うので、今後の実務の進展が楽しみなところです。

(質問コーナー)
Q1
お聞きしたいのは、先生は、
①どのような基準で参照すべき文献を検索されるのでしょうか。
②また、どのような基準で、文献の取捨選択を行うのでしょうか。
③さらに選択した文献はどのように管理してますでしょうか。
 (ワープロでまとめる作業などはなさいますか)
膨大な量の情報がある場合の上記基準などについて、先生の術法を教えていただければと思います。
投稿: やまだ | 2009年7月 2日 (木) 13時27分
A1
 ① 検索の仕方は、問題によって様々ですが、最近は、判例、文献検索のデータベースが充実してきているので、まず、データベースで検索します。そして、原典をあたって、参考文献として掲げられているものをさらに調べるという感じが多いのではないでしょうか。
② 取捨選択は簡単です。最高裁判例は尊重する。地裁判例はあまり尊重しない。文献は、論理的に正しいと思うものは尊重する。非論理的なもの、商法改正や会社法で上書きされたものは、尊重しない。
③ 文献の管理は、データベースの結果は、1つのファイルに貼り付けます。文献は、重要部分のみ、PDF化してそのファイルに貼り付けるか、同じフォルダに保存します。

Q2
都内私大ローのW大、K大、C大、以上3校のうち、H22年4月入学者から、W大が定員を1割削減することを公式にプレスリリースしたようです。また、K大も「定員削減を検討中」とのことです。

そんななか、ひとりC大だけが「定員削減は予定していない」と文科省のご意向に頑なに逆らい続けています。
C大にはやはり、相応の報復措置が下されるのでしょうか。
投稿: 佐々木歓一 | 2009年7月 5日 (日) 02時53分
A2
 私は、文科省の役人ではないので、分かりません。
 行政指導に対して、「報復」したら行政法上問題ですが。

Q3
Q5に対する回答で、「女」と書かれていますが、女性から見たら不愉快です。
常識のある人なら「女性」と書くべきではないでしょうか。
大変ガッカリしました。
投稿: ひと | 2009年7月 5日 (日) 14時36分
こんばんは。いつもは読むだけですが、他の方のコメントでどうしても気になった
ので、一言書き込みます。
>女性から見たら不愉快です。
あなたとあなたの周りにいる女性だけが「女性一般」ではないでしょう。
>常識のある人なら「女性」と書くべきではないでしょうか。
どのような「常識」でしょうか。私が不勉強で知らないだけかもしれませんが、
「女」という言葉がそれほど避けなければならない言葉だとは思いませんが。
>大変ガッカリしました。
がっかりされるのは自由ですが、ブログ主に何を期待されておられますか。
投稿: John | 2009年7月 9日 (木) 00時14分
「女性」「女」論争はよく耳にするので、是非葉玉先生の御意見を御聞きしたいと思います。
私の意見としては、「女」と呼ばれることを不愉快と感じる女性は、男性のことを「男」と呼ぶことは果たしてないのでしょうか。一般的に、「男」という表現は差別的な表現とはされていないように思われます。男性については「男」という表現も一般的に使用されるにもかかわらず、女性は「女」と表現するべきではないというのは、一歩間違えると逆差別にもつながりかねませんし、また、そのように感じる女性は意識し過ぎ(あえて強い表現を使えば、男性以上の特別扱いを求めている)と言えるかもしれません。Lady Firstが当然のエチケットとされているアメリカでも、そのような特別扱いを逆に不愉快と感じる女性が増えているとよく聞きます。体力差もありますし、子育ての問題等もありますから、当然のことならが何でもかんでも男性と女性は同じように扱われるべきだとは思いません。もっとも、上記のような呼称についてまで拘られるというのは、少々行き過ぎではないかというのが私の意見です。

投稿: 男 | 2009年7月13日 (月) 09時17分

A3
 不愉快になったとすれば、すみません。
 でも、私の日本語の感覚では
   恋するのも、別れるのも、男と女
と思っています。
 「男と女」という映画がありましたが、「男性と女性」というタイトルではピンときません。
 男性と女性というのは、統計や論文の中で、性のカテゴリーや一般的な名称として使うのには適していますが、恋愛という情念の世界では、「男」「女」じゃないと、気持ちがこもりません。

Q4
株主名簿閲覧請求と、計算書類閲覧請求の拒否事由は同じですが、これは両者パラレルに考えていいということでしょうか。
会社にとって不利益の程度が株主名簿閲覧請求されるほうが高いとの思えるのですが、株主にとっては株主名簿閲覧請求のほうが不利益が高いとも思えるのですが、どのようにかんがえればいいでしょうか?
投稿: ほいほほい7 | 2009年7月 5日 (日) 16時15分
A4
なんとも答えにくいですが、過去の記事を参照してください。

Q5
完全親会社(A)とその完全子会社(B)があるとします。Bがその事業の一部(X事業)をAに会社分割の方法により移転し、Aはそれに対して分割対価を交付しなかったとします。他方で、BはX事業の他にY事業を営んでいて、Y事業については今後も営むことを予定しています。この場合、BはY事業の債権者との関係で債権者異議手続を履践する必要があるでしょうか?わざわざA株式の還流(AからBへ、そしてBからAへ)を行うのも面倒ということで対価を交付しない扱いとしているという意味では実質面では分類としては昔の人的分割(税務的には分割型分割(国税庁も一定の要件のもとにこのように理解していますね。))ですが、会社法の規定で債権者異議手続が必要とされているのは、吸収分割株式会社が効力発生日に全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当をすることについて吸収分割契約において定めている場合とされており(会社法第789条第1項第2号括弧書)、本件では、全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当はないことから、法解釈上は、債権者異議手続は不要と解さざるを得ないように思いますがいかがでしょうか。
投稿: 会社分割大好きおじちゃん | 2009年7月 6日 (月) 15時05分
A5
分割会社の承継対象となっていない債権者は、債権者保護手続きは不要です。

Q6
たとえば、株券発行会社で、譲渡制限株式を譲渡して、未だ株式の名義書換え未了の場合に、株主総会が開催された場合に、譲渡人に招集通知がなされなかったため、譲渡人が株主総会決議取り消しの訴えを提起し、会社としては、譲渡人の株主の地位を争っているという事例を考えた場合、招集通知もれという取消事由該当性の話の前提として、譲渡人は会社に株主であることを対抗しうるかということを論じることになると思います。

譲渡人が株主の地位にあるかどうかというのは、訴訟要件である「株主」(会831①)に該当するのかという、原告適格のところで論じるべき問題なのか、それとも、本案の取消事由の有無のところで論じるのか、どちらなのかがわかりません。
株主名簿上はいまだ譲渡人名義なので、形式的には「株主」に当たるとして、本案で実質的に判断するのか、それとも、原告適格の問題のところで、実質的に株主と言えるか、判断するのか…わかりません。
投稿: ロー3年生 | 2009年7月 8日 (水) 21時00分
A6
会社法100問を読んでください。
旧司法試験の過去問に載っています。

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2009年7月 1日 (水)

略式株式交換と株式買取請求権

6月29日号の日経ビジネスの「ビジネス弁護士ランキング2009」で
   総合部門 第2位
   M&A・企業再編・買収防衛策部門 第4位
に評価していただきました。
 投票していただいた方には、心より感謝します。
 特に顧問や個別案件についても評価していただいていたことは、心底うれしかったです。
 これからも、目の前の案件の解決に全力を尽くしますので、よろしくお願い申し上げます。

 さて、先週、先々週は、株主総会で忙しかったんですが、その間を縫って、5件も裁判があり、私は、毎日のように総会会場であるホテルと東京地方裁判所を渡り歩いていました。

皆様もご想像のとおり、私は、会社法関係の訴訟が多く、訴訟ならではの面白い論点もあるので、このブログでも時期を見ながらご紹介したいと思います。

ただ、訴訟係属中の事件は書きづらいので、本日は、すでに終了している
  略式株式交換における株式買取請求権行使者の株式価格の決定申立事件
についてお話をしたいと思います。

事案の概要は次のとおりです。

1 S社は、上場企業であるD社の株式の90%以上をTOBで取得した後、完全子会社化するため、S社とD社は、株式交換契約を締結した。
2 この株式交換において、D社は、基準日を定めて臨時株主総会を開催し、当該総会で株式交換が承認された。
3 X社は、当該総会の基準日後に株式を取得し、D社に対して株式買取請求権を行使したが、D社は、「基準日後の株式取得者は、株式買取請求権を行使することができない」として買取を拒否した。

以上の事案において、私は、株主のX社側の代理人として対応いたしました。
本来、私は、発行会社側の代理人になることが多いのですが、この問題は会社法の解釈上、大変興味深いので、X社のご依頼をお受けすることにしました。

この事案のように発行会社が株式買取請求権の存在を否定した場合、株主としては、代金の支払いを求めたいところですが、代金が決定しないことには、代金支払請求訴訟を提起することはできません。

そこで、こういうときには、発行会社と株主との間で協議がまとまらないという理由で、価格決定の申立(非訟事件)を行うのが一番適切な解決法だと思います。

価格決定の申立は、株式買取請求権の行使が有効であることを前提とした申立ですから、本事案では、発行会社は、その申立てに対し
「株式買取請求権は存在しないから、申立は不適法却下すべきである」
と主張しました。

 つまり、株式買取請求権があるのかないのかは、
   申立が適法とされ価格決定のプロセスに入るのか
   申立が不適法却下されるのか
というレベルで判断されることになるわけです。

この申立ての争点に入る前に、株式交換において完全子会社となる会社側の株式買取請求権について、前提知識の確認をしておきまししょう。

完全子会社となる会社側の株式買取請求権は、785条に規定されており
(1) 株主総会の決議を要する場合(2項1号)
イ 当該総会で議決権を行使できる株主は、反対の通知をし、実際に反対した者だけが株式買取請求権を行使できる(1号イ)。
ロ 議決権を行使することができない株主は、全員株式買取請求権を行使することができる(1号ロ)
(2) 株主総会の決議を要しない場合(2項2号)
 すべての株主(効力発生日の前日までに株式を取得した株主)が株式買取請求権を行使することができる
ということになっています。

たとえば、通常の株式交換は、「株主総会の決議を要する場合」なので、1号が適用され、普通株式しか発行していない会社であれば、1号イが適用されることになります。
 1号ロは、議決権制限株式の株主のことをいい、株主総会の「基準日後に株式を取得した株主」は議決権を行使することはできませんが、1号ロの適用はなく、株式買取請求権を行使することができないとするのが通説です(争いはありますが、実務では、この考え方で確立しています)。

こうした解釈を前提に、この事案では、
  略式合併の要件を満たしているため、本来、2号に該当して株式買取請求権を行使することができた株主が、会社が「任意の株主総会」を開催することにより、1号が適用されることとな、「基準日後に株式を取得した株主」として買取請求権を行使することができなくなってしまうのか?
ということが問題になりました。

実は、略式株式交換ではなく
  簡易組織再編
においては、「任意の株主総会」を開催し、その株主総会の基準日後に株式を取得した株主については、株式買取請求権の行使を認めないという有力な見解があります(武井一浩先生と郡谷大輔先生が論文を書かれています)。

私も、簡易組織再編については、
  組織再編契約の締結の時点では、効力発生日において簡易要件を充たすのか、充たさないのか、不明の場合があるため、株主総会の決議をスケジュールに組み込む必要がある
という理由から、任意の株主総会を開催すべき場合があることは認識しています。

 ただ、任意の株主総会を開催したとしても、基準日後に株式を取得した株主の株式買取請求権を制限することができるかどうかは、別問題です。

 理論的には、任意の株主総会を開催しても、簡易要件を満たした場合には、基準日後株主にも買取請求を肯定するという見解はありうるでしょうし、少なくとも、会社が、買取請求を封ずるために、株主総会を開催したような場合には,株主の保護のために、買取請求を認めるべきであるという見解もありうるでしょう。

 私は、簡易組織再編については、任意の株主総会を開催しても、必ずしも承認されるとは限らない状況であれば、組織再編の当否を問う株主総会を開催することは合理的であり、場合によっては、基準日後株主の買取請求を制限するという解釈もありうるのではないかと思いますが、常に制限することができるというのは、行き過ぎであるようにも思えます。
 少なくとも、簡易要件を定款で変更し、当該組織再編が、簡易要件に該当しないという形式を整えた上で、基準日後株主の買取請求権を行使する方が安全でしょう。

他方、略式株式交換については、任意の株主総会を開催することにより、基準日後株主の買取請求権を制限することには、かなりの違和感を感じざるを得ません。

 簡易組織再編と略式組織再編は、株主総会の決議を要しない場合として、同じ条文に規定されているので、なんとなく同じようなものと捉えがちですが、

 簡易組織再編は、当該組織再編が会社に与える影響が軽微であることから、総会を省略したもの(株主構成によっては、総会を開催しても、承認されるかどうか分からない)であるのに対し
 略式組織再編は、組織再編の相手方が90%以上を保有する株主であり、承認されるのが確実であることから、総会を省略したものである

という大きな違いがあります。

 そもそも、略式要件を満たした状態で、なぜ「任意の株主総会」を開催するのでしょうか?
 開催しても、承認されることは確実であり、簡易要件を満たす場合の任意の株主総会のように「株主の意思を確認する」という合理性はありません。

 結局、当該総会は、基準日後株主の株式買取請求権の行使を制限する目的で開催されたものと考えるのが素直であり、私は、会社法上の株主保護制度を、合理性のない総会を開催するだけで、無力化するのはおかしいと主張しました(相手方は、「新株予約権の償却のために株主総会を開催する必要があった」のだから、785条1項1号が適用されると主張しましたが、私は、「本来、償却できない新株予約権を償却するために任意の株主総会を開催することは、新株予約権者の利益を害するものであり、合理性がない」と反論しました)。

785条1項1号の文言を見ても、株主総会の決議を「要する場合」と規定されており、株主総会の決議を得た場合というような表現にはなっていません。
 略式要件(784条1項)を充たせば、783条の適用が除外され、株主総会の決議を「要しない」ことは明らかであり、このように「要しない場合」に任意に株主総会を開催したとしても、「要する場合」に変化することはないと思うのです。

実際の裁判では、もう少し、肌理の細かい議論をして学術的にも大変興味深い論争をしたのですが(相手方の代理人にも、有名な会社法学者が名を連ねていらっしゃったので、炉論争というのにふさわしい議論でした)、最終的には、裁判所(当初は単独でしたが、後に合議になりました)は
  株式買取請求権を認めざるを得ないので、価格についての主張をしてください
という指揮をされ、
  略式株式交換では、任意に株主総会の決議を得ても、基準日後株主の株式買取請求権を制限することはできない
という結論になりました。

 私は、自説が採用されて、とりあえず何らかの勝ちは得られると思ったのですが、その後、価格についての協議が長引きそうだったため、申立ての取り下げることとなり、結局、裁判という形で、裁判所の判断が示されることはありませんでした。

 最近は、株式買取請求権を行使する株主が増え、その点を巡る紛争が頻発しているので、個人的には、地裁の決定を見たかったものの、クライアントの意向が最優先なので、特に残念という気持ちはありません。

ただ、この案件で交わされた議論や裁判所の判断は、実務に役に立つと思いましたので、このブログで簡単にご紹介しました。そのうち、商事法務かどこかで論文を書いてみようかなと思っています。

 なお、登記手続では、簡易要件・略式要件を備えていても、任意の株主総会を開催して、議事録を添付すれば、組織再編の登記をすることはできます。その意味で「任意の株主総会」が認められるかどうか、という話と、その株主総会の開催で基準日後株主の株式買取請求権を制限できるか、という話は区別して理解していただければ幸いです。

(質問コーナー)
Q1
連結対象の会社がないのなら、いらないのでは。
投稿: | 2009年6月16日 (火) 00時46分
A1
適用除外規定がないので、義務がないとはいいづらいというところです。
義務があるけれども、連結対象がないのだから、単体と同じと考えるのが落ち着きどころでしょうか。

Q2
委員会設置会社において、内部統制(ガバナンス)の不備により当社において様々な不祥事が起きたとします。
 株主がその不祥事の責任を追求し解任を求める場合、取締役兼代表執行役(社長)の責任としてその社長のみを解任するか、416条1号1項・2項の取締役会の任務懈怠として取締役全員を解任するか、または監査委員の任務懈怠を重視し解任するか、どれが最も理論的でしょうか。
投稿: kuma | 2009年6月16日 (火) 02時50分
A2
論理の問題ではないですね。

Q3
> という法律家ならすぐに気づく大きな穴があるのですが・・。
二人が本当に隠したかったのは、最初の殺人そのものではなく、
雪穂が売春させられていたことです。
たとえ、少年法で守られているとはいっても、雪穂が売春させられていた事実を
他の誰にも知られたくないという気持ちが 2人には強かったのです。
投稿: 白夜行ファン | 2009年6月16日 (火) 07時26分
白夜行」は、原作も(のほうが)面白いですよ。
投稿: EQⅡ | 2009年6月16日 (火) 12時37分
白夜行は原作とドラマで描かれ方が全く違うので、是非原作を読んでいただきたいと思いました。
投稿: | 2009年6月17日 (水) 18時43分
A3
小説は、ドラマよりも知的・理系的、本格的な推理小説で、これも傑作です。余韻が多く、解釈の余地が大きいところが傑作たるゆえんでしょう。ただ、このまま連続ドラマにするのでは、視聴者がついてこれないから、ネタばらししながら、心の動きを演出をする必要があったのでしょう。
二人が何を隠したかったかについては、ドラマでは、時効に焦点があたっていましたから、殺人事件という方が強いのかと私は感じました。小説では、時効の要素はほとんどないし、雪穂は自分が売春させられた事実を義理の娘にほのめかしているし、よりミステリアスです。小説の雪穂の方がずっと強く、ミステリアスで、スカーレット的です。

Q4
会社の解散手続きについて質問なのですが、
清算人が弁済等の手続きを経て、残余財産の確定をする際に
実務上、財産目録等を作成しますが、この財産目録等に関しては
会社法492条3項の株主総会の承認決議は不要なのでしょうか。

法務省の方に電話で問い合わせをしたところ、株主総会の決議は必要だと言われました。法律上、作成が求められていない財産目録等に対して492条3項の決議が必要なのか疑問ですし、実務上は、清算人の決定もしくは清算人会の決議で残余財産を確定してしまい、株主に分配する処理をするところがほとんどだと聞きます。いったい、どちらが正しいのでしょうか。
投稿: おおい | 2009年6月16日 (火) 23時58分
A4
492条3項の財産目録以外に実務上作成される残余財産の確定の際の財産目録は、株主総会の承認の対象ではありません。

Q5
ろくにデートもせずに勉強ばかりしていてたら、彼女にフラれました。
僕は間違っていたんでしょうか。
(家族法に、妻のいいつけは守らなければならない。彼女には精一杯サービスしなければならない。と、ちゃんと書いてあれば、法令遵守したんですが…)
投稿: ニャア | 2009年6月17日 (水) 19時09分
A5
女にフラれることが、自らの間違いの証明であるならば、私は、数え切れないくらい間違いを起こしてきたことになります。

Q6
会社法360条について質問させてください。

先生は、「会社法の実務」の講義の中で、360条の法令違反には、善管注意義務は含まれないのが通説であるとおっしゃっていましたが、どの文献を見ても、善管注意義務が含まれると記載されています。

先生のお考えは、講義レジメに記載されているだけで、千問、百問、115講座を見ても書かれていないのですが、何か他の論文に書かれていますか?

今年の新司法試験の問題で類似の論点が出題されましたが、法令違反に善管注意義務違反は含まれないと論述したのは周りで私だけで不安を感じています。できましたら、右法令違反の解釈についてご教授していただけると助かります。
投稿: | 2009年6月18日 (木) 01時25分
A6
「通説」というのは言い過ぎでしたが、経営判断原則の問題となる狭義の善管注意義務については、監査役・株主の経営判断と取締役の経営判断が異なる場合に、事前の差し止めまで認めてよいか、という問題意識で、これを否定する見解はあります(百選にも少数説として紹介されています)。
 狭義の善管注意義務違反も差し止めの対象となる「法令違反」であるという見解が現在は一般的なようですが、取締役が行為を行う前に、株主が、当該行為を経営判断原則の適用のない著しく不合理な行為と立証するのは困難であり、実際には、否定説と肯定説は紙一重だと思います。

Q7
もし、定款変更が株主総会で決議された後に、明らかな誤植が見つかった場合、やはりこの誤植は、のちの株主総会で定款変更議案として決議しなければ修正できないのでしょうか?
投稿: mina | 2009年6月18日 (木) 22時33分
A7
考え方にもよりますが、私は、誤植は、総会の決議無く、修正できると考えます。

Q8
>outputが足りません。それと、穴埋めについての解き方のノウハウが足りないのでしょう。
過去問は1度解答したものですが、既出の問題を時間はかって解くの有益ですか?
あと、穴埋めのノウハウについてどこでならえばよいしょうか?
先生が講師をされていたとき択一の指導をどのようにされていました?
投稿: 受験生 | 2009年6月19日 (金) 21時02分
A8
過去問は、間違いをしなくなるまで、何回も解きます。
穴埋めのノウハウは、予備校で聞いたり、自分で試行錯誤して身につけます。

Q9
 A22のご教授ありがとうございました。
 実はこの案件は家族経営の中小企業で,発行済み株式の9割を保有していた社長が死亡して,会社を継いだ長男が社長となったが,共同相続人が相続について争っているので,この株式も遺産分割ができていないという事例です(他の相続人は長男を共有株式の代表者とすることに同意しません)。
 そこで,定時総会の時期となったので,被相続人名義の株式はどう扱えばいいですかという相談がきました。被相続人名義の株式に係る議決権が株主総会の定足数算定の基礎に入ると考えると,そもそも株主総会が成立しないし,長男が保有する残り1割の株式に係る議決権のみで株主総会決議ができるとすると,1割の議決権だけで本当にいいのだろうかという疑問が湧きます。先生は実務上は工夫しているので問題にならないとおっしゃっていましたが,具体的にはこういう場合も何か方策があるでしょうか。
 上記の補足です。会社の方から議決権行使を同意すればいいのではとも考えたのですが,こういう事例で社長という地位を利用して自分自身の権利行使を認めることは公正さに欠けますし,長男も,他の相続人から会社にどういう責任追及がされるかわからないので,できればそれはしたくないと考えています。
投稿: ポケット | 2009年6月20日 (土) 10時43分
A9
 具体的な案件は、オウンリスクで解決をお願いします。

Q10
農地も現物出資できるのですか??
加えて、会社法に禁止する条文、文言がないので、
どんな不動産でも現物出資可能となるのでしょうか??
投稿: 大志 | 2009年6月20日 (土) 16時58分
A10
株式会社でも農業ができる場合もあるので、農地も現物出資できる場合はあるでしょう。ただし,一般的には、農地を株式会社に移転することはできないので、現物出資は困難であると思います。

Q11
社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低限で除して得た数が50を下回る場合って、要はどういう意味でしょうか。
投稿: 簡単かもしれませんがご質問 | 2009年6月21日 (日) 01時35分
A11
15億円の社債券、5億円の社債券、5000万円の社債券が発行されたら、20億5000万円を5000万円で割ります。すると、答えは41ですから、50を下回っています。そういう意味です。

Q12
葉玉先生は学生時代に麻雀をかなりやっていたそうですが、
世間で黙認されている程度のレートのかけ麻雀は違法でしょうか?

同窓会とかで麻雀をすることになっても
最高で1、2万円くらいしか動かないレートであっても
お金を賭けることは拒否すべきでしょうか?
投稿: F | 2009年6月22日 (月) 21時42分
A12
お金をかけることは、賭博罪の例外には該当しないので、レートがどういうものであれ、基本的には賭博罪の構成要件に該当します。
ただ、同窓会で点ピンでやるくらいの麻雀を摘発する警察はいないと思います。

Q14
先生はお若い頃からハードワーカーでいらっしゃるとお見うけしますが、こだわりの健康法はありますか?
投稿: 山道 | 2009年6月22日 (月) 22時04分
A14
健康法をやっていないので、不健康です。

Q15
はじめまして。
先生のこのブログで会社法を勉強させていただきたく
コメントを書かせていただきました。
またよろしければ、私のブログとリンクを
貼らせていただければと思います。
投稿: 総務コンサルタント | 2009年6月23日 (火) 21時53分
A15
どうぞ、ご自由にリンクして宇田債。

Q16
24歳で、今年の2月から本格的に法律を勉強し始めた初心者です。
民法はとても興味深く楽しく勉強出来ているのでスイスイ進むのですが、会社法になるとと興味はあるものの、どうしても出て来るの言葉や、実際の生活からはかけ離れた内容のため分かり難いイメージを持ってしまいます。
慣れるしかないと言われればそれまでですが、何か良い方法はないものでしょうか?
投稿: まるこめ | 2009年6月25日 (木) 08時37分
A16
良い先生に話を聞くことがもっとも早道です。
次のコメントも参考にしてください。
 まるこめさんへ、企業小説を読んで少しでもイメージを持ちやすくするのがよいのではないでしょうか。私(47期)が受験生だった頃は、無味乾燥な鈴木会社法しか基本書がなく、それこそ予備校の手助けがなければ会社法の本を読むことすら地獄でした。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。かろうじて企業小説を読んだものの、清水一行と城山三郎しか著者がいず、これまた砂を噛むような思いをしたものです。
 今は、高杉良・牛島信・真山仁・・・むしろ枚挙に暇がありません。肝心なのはあくまで企業小説は会社法学習のスパイス、切欠に過ぎないと割り切ること。企業小説を読むことが楽しくなりすぎてしまえば、タダの読書家になってしまい、受験生ではなくなってしまいます。そういうバランス感覚も大事でしょうね
投稿: ろぼっと軽ジK | 2009年6月25日 (木) 17時31分

Q17
ご無沙汰しております。A12ですが、
>①462条は、債権者保護のための責任だからです。462における株主は、平等に配当をもらった立場であり、責任を追及する立場ではありません
850条4項の文言からすれば、462条の取締役の対会社責任は代表訴訟で追及可能であることが前提であるように思われますが、いかがでしょうか。
なお、462条に該当しない場合(たとえば監査役等)には、違法配当により役員等が423条により対会社責任を負うことはないのではないかと考えており、この点では葉玉先生のA12は正しいのではないかと考えております(という趣旨をブログで書いたところ、同業者からは批判されましたが(笑))。
投稿: 大杉謙一 | 2009年6月26日 (金) 09時33分
A17
株主は、取締役に対して、代表訴訟で、462条の責任を追求することは可能です。
株主vs株主と異なり、取締役は、善管注意義務を負っているので、取締役が会社に与えた損害を追求することを禁止する必要はないということでしょう。
特に善意の少数株主であれば、代表訴訟を起こす意味は大きいと思います。
逆に悪意の大株主だと、代表訴訟を起こすのは、訴権の濫用になるでしょう。

私は、462条は、423条の特則(損害額のみなし規定)と考えており、462条に該当しない者も423条を根拠に責任を負う場合はありうると思います。実際には、違法配当の前提として、粉飾決算が行われることがほとんどなので、あまり実益はない議論かもしれませんが。

Q18
新司法試験の受験生です。
このところ、法科大学院生を中心に、新司法試験に関する署名活動が行なわれています。
内容は、
1 新司法試験合格者数の目安維持、
2 司法修習の給費の継続
を法務大臣と最高裁に嘆願するものです。
http://syomei.seesaa.net/

私は、法科大学院を通じた法曹養成制度の立て直しにとって、上記の施策がベストかどうかはともかく、少なくともプラスに働くだろうと考え、署名活動に賛同しています。上記の施策は制度の信用を回復ないし維持させる方向にあるからです。
先生はどのように思われますか?
投稿: おおや | 2009年6月26日 (金) 16時42分
A18
私は、法科大学院を通じた法曹養成制度の立て直しには、法科大学院のカリキュラムをより実践的なものにし、学生のトレーニングを重視する方式に変更することが重要だと思います。「受験勉強」的かどうかなどを気にしながら、学生を教育しなければならないのは、ナンセンスです。

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2009年3月21日 (土)

会社訴訟・非訟と個別株主通知

 DVD「会社法と実務」全10巻は、おかげさまで、沢山のお申し込みをいただいております。大変ありがとうございます。
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115_DVD.html

 更新の度にコマーシャルをするのは申し訳ないのですが、実は、もう一つコマーシャルさせていただきます。

 この度、民事局時代に株券の電子化の担当者だった私と仁科さんで、商事法務から

 「株券電子化ガイドブック 実務編」

という本を出しました。

http://www.amazon.co.jp/%E6%A0%AA%E5%88%B8%E9%9B%BB%E5%AD%90%E5%8C%96%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF-%E5%AE%9F%E5%8B%99%E7%B7%A8-%E4%BB%81%E7%A7%91-%E7%A7%80%E9%9A%86/dp/4785716347

 この本は、上場株式の株主、質権者、株式事務に携わる担当者、株主名簿管理人、証券会社の法務担当者等、上場株式に関係する方にとって役に立つQ&Aや資料等を集めたものです。

 内容は、盛りだくさんですが、一般の株主さんをはじめ、株式質をとっている金融機関、弁護士、上場企業の総務法務担当者等あらゆる人に役に立つのは
  上場株式の株主・株式質権者のためのQ&A
というパートだと思います。
 
 たとえば、
  株式、新株予約権、転換社債、ETF, REIT等が株券電子化によってどうなったのか。
  失念株主や略式質権者が電子化後に自分の権利を守るためにどうしたらよいか。
  株主が配当を受けたり、少数株主権等を行使する場合の手続きはどうするか。
  株式を市場外で売買したり、担保に入れたりする場合の注意点は何か。
  振替株式に対して強制執行するときにどうしたらよいか
等上場株式その他の有価証券について、よくある質問に、できるだけ分かりやすく回答しています。

 回答の中には、この本にしか載っていないこともありますし、どの説明も、実務的な回答をしていますので、きっと役に立つと思います。

 それから、
 有価証券担保提供証書(担保差入書)
 売買契約書
 定款変更議案
 株式取扱規則
 ストックオプション引受契約
 持株会規約
等のひな型を、ポイント解説付で掲載しています。

 特に、有価証券担保提供証書は、金融機関や事業会社が株式担保を取るときのスタンダードになっているものですから、株式担保に関わっている方は、ぜひ逐条解説を読んでいただければ、と思います。

 また、情報提供請求権や総株主通知請求権における「正当な事由」について、株式取扱規則に規定していない上場会社も多数あるようですが、株式取扱規則のひな型と解説をみて、導入を検討した方がよいでしょう。

 さらに、主として弁護士向けに、
  振替株式の差押命令申立書、仮差押命令申立書
のひな型も掲載しています。これも、たぶん、この本にしか掲載されていません。

 このように、ひな型とポイントの解説だけでも価値のある本であると自負しております。

 そして、この本で、一番ページ数を割いているのは
     読み替え、折り込み版の振替法
です。
 振替法は、政令省令委任が多い上、株式等の規定を準用して読み替え表を置いている規定も多いため、弁護士でも、その内容を読み取るのに苦労します。
 そこで、読み替え規定が置かれているものは読み替えた上、政令省令の条文を法律の該当部分に織り込んで、読みやすくしました。
 振替法の条文を調べなければならない人にとっては、天国のような条文集です。

 さらに、
   振替法によって変更される会社法の規定
を抜粋して掲載しています。
 どのように会社法のルールが変容しているのか、コメントをつけていますので、上場会社について会社法の適用が問題になるような場合には、ガイドブックを参照していただき、振替法の特例が置かれていないかどうか、チェックしてください。

 この他、証券保管振替機構の業務規程のように、上場株式に関わる人にとって重要だけど六法に掲載されていないものや、情報提供請求権のガイドライン等、株券電子化に関わる資料がてんこ盛りです。

 弁護士だけではなく、上場株式の法務に携わる人にとって必携の本だと思いますので、よろしくお願いします。

 さて、「株券電子化ガイドブック」刊行記念として、
      株券電子化時代の会社訴訟・非訟の手続
についてお話ししたいと思います。

 会社法は
  代表訴訟や株主総会決議取消しの訴えのような特殊な訴訟手続
  株式買取請求における株式価格決定の申立てや株主総会検査役の選任申立てのような非訟手続
を用意し、株主に提訴権・申立権を認めています。

 このような提訴や申立ては、一定の要件を満たした株主だからこそ認められるものですから、
  原告・申立人が株主であることは、訴訟要件
であり、株主でなければ、訴えや申立ては却下されます。

 そこで、従来から、提訴や申立てにおいて、原告・申立人は、自ら「株主であること」を疎明しなければならないこととなっており、株主としては、株主名簿の謄本を示したり、株券を保有していることを示したりしていました。

 株券電子化後も、原告や申立人が自らが株主であることを疎明しなければならないのは、同じなのですが、振替法では
  株主が単独株主権・少数株主権を行使する場合には、個別株主通知をしなければならない
というルールがあるので、
  株主が、個別株主通知をし、会社に到達後2週間(改正後は4週間)以内に提訴・申立てをしなければ、当該提訴・申立ては、不適法
となります。

 つまり、振替法は、少数株主権等を会社に対して行使する場合においては、
   株主名簿ではなく、
   個別株主通知を会社に対する対抗要件にする
こととしているのです。

 したがって、裁判所が株主から提訴・申立てを受けた場合には、株式が上場株式であるときは
   株主に「個別株主通知をしたこと」を疎明させる
のが適切です。

 ところが、今のところ、裁判所は、このあたりの取扱いが確立していないせいか、従来のように株主名簿の謄本等をもとにした疎明が行われているようです。

 会社が被告となったり、申立ての相手方として審尋が行われれば、会社が
   原告・申立人が個別株主通知をしていないこと
を主張・立証することで、判決や決定がなされることを防止することができますが
      株主総会検査役の選任申立て
のように、会社が審尋を受けることがないまま手続きが進行すると
  申立人が個別株主通知をしていないにもかかわらず、選任の決定が行われる
ことになりかねません。

 裁判官も万能ではないので
   個別株主通知という制度を知らない
人がいるのは仕方がないことですが、その確認を怠ったまま、決定を出せば
   会社が即時抗告をすれば、取り消されてしまう
ことになり、裁判所や申立人にとって、手間、時間、コストの無駄が生じます。

 したがって、裁判所においては、上場会社の株主であることの疎明として
   個別株主通知の受付票
を確認する実務を確立させてもらいたいと思います。

 受付票は、振替法が義務づけている制度ではありませんが、株主が口座管理機関に個別株主通知の請求をしたときには、必ず交付される実務になっていますので、
  個別株主通知をしたこと
    請求日
    株式数
等を確認するには最適です。

 個別株主通知が会社に到達した日は、受付票からは読み取れないため、「到達後」2週間(改正後は4週間)以内の提訴・申立てかどうかは、分からない場合もあるものの、とりあえず通知の日付を基準に判断し、期限ぎりぎりの場合には、申立人に「会社への到達日がいつか」を疎明するよう指揮すれば十分だと思います。

なお、株主であることの確認において、注意を要するのは
  株式買取請求権における価格決定の申立て
のときです。

 たとえば、合併に伴う株式買取請求権の場合
   存続会社の株主からの買取の効力は、会社が株主に代金を支払った時
に生ずるのに対し、
   消滅会社の株主からの買取の効力は、合併の効力発生日
に生じます。

 そのため、価格決定の申立てを行う時点において
   存続会社の株主は、まだ株式を保有しており、個別株主通知をすることができますが
   消滅会社の株主は、すでに株式を失っており、振替口座上の記録も抹消されていますから、個別株主通知をすることはできません。

 したがって、消滅会社の株主が、価格決定の申立をする場合には

   合併の効力発生日の直前において、消滅会社の株主で「あった」こと
      (株式買取請求権の行使のときの個別株主通知の受付票)
を疎明すれば足り、
   価格決定の申立時の個別株主通知は不要
と解すべきです。

 理論的に言えば、会社法上、価格決定の申立権は
      存続会社では、「株主」に認められる権利であるのに対し
  消滅会社では、効力発生日の直前に「株式買取請求権を行使した株主であった者」に認められる権利
であるため、後者については、振替法の個別株主通知に関する規定が適用されないということになります。

 「株券電子化ガイドブック」には、こうした細かな問題点を含めて、実務の知恵が詰まっていますので、参考にしていただければ幸いです。
 
 商事法務の京美人編集者のボーナスが、この「株券電子化ガイドブック」の売れ行きにかかっているという噂もあるので、本日は、普段よりも五割増しのコマーシャルをさせていただきました。

(質問コーナー)
Q1
お忙しく働いておられる先生がスタッフとして一緒に仕事したい!と思われる人はどのような素質を備えた人でしょうか?
投稿: ruru | 2009年3月 6日 (金) 08時52分
A1
 スタッフは、それぞれの役割があり、必要とされる素質も役割ごとに違います。
 ただ、共通するのは、
  正直であること
  責任感があること
  時間を守ること
の3点です。

Q2
今回のA2でご紹介のあった下記の記事に目を通してみたのですが、そのなかに、、
「弁護士の年俸として、「年収500万円だと弥生時代から働らかなければならない」というほど稼ぐのは無理だと思いますが、アテネオリンピックくらいの収入がないと、先行きが不安になってくるでしょう。」
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_7d09.html
とありますが、
1、「弥生時代から働く」とは、具体的にどのくらい働くことを意味するのですか?
また、なぜその働きぐあいを「弥生時代から働く」と表現するのですか?
2、「アテネオリンピックくらいの収入」とは、具体的に年収にして何円のことを意味するのですか?
また、なぜその金額を「アテネオリンピックくらいの収入」と表現するのですか?
投稿: 平石眞男 | 2009年3月 6日 (金) 12時32分
A2
1 年表を見てください。表現はしゃれです。
2 あなたの思う金額です。表現はしゃれです。

Q3
弁護士という仕事(刑事弁護)について、「なぜ犯罪者の味方をするのですか?」と聞かれたら、葉玉先生はどのようにお答えになりますか?
また、仮にその質問をした人が小学生くらいであるとしたら、回答をどのような表現でお伝えになりますか。
投稿: あべ | 2009年3月 7日 (土) 02時02分
A3
 犯罪者も人間だからです。
 人間は、良いところも、悪いところも含めて一人の人間です。
 あなたも、お父さん、お母さんから叱られるような悪いことをしたことはあるでしょう。
 でも、一度悪いことをしたからといって、あなたは、救いようのない悪人というわけではないですよね。
 弁護士が犯罪者の味方をするのは、裁判官に、犯罪者の悪いところだけではなく、良いところも見てもらって、その人の「本当の姿」を分かってもらうためです。

Q4
小沢氏の秘書逮捕について、東京地検特捜部は、どうもその先の汚職逮捕を見据えて逮捕したようで、小沢氏はご自身の息のかかった幹部クラス検事がいることから、不起訴にさせる圧力の意味を込めて強気の記者会見をしたようですね。
A4
収賄罪は、あっせん収賄以外は、行為者に職務権限がないと成立しません。
小沢氏は、野党党首であり、国会議員に過ぎません。
プロであれば、汚職の成立は可能性が薄いことが、捜査の開始時から分かっていると思います。
 また、特捜部が、被疑者を逮捕して、起訴しないことは、普通ありません。逮捕の時から、起訴は決まっているといっても過言ではなく、不起訴にさせる圧力をかけても何の意味もありません。

Q5
実は、私、現行司法試験を7年ほど前に挫折したのですが、
葉玉先生のレジュメを使っていた(何回もまわした)憲法は
ずっと択一、論文ともに良い結果が出ておりました。
7年のブランク明けでも憲法は何もしないでもバッチリなほどです。
(私が大学入学するのと入れ替わりに葉玉先生は東京へ行かれた
 と伺っておりました。そのゼミからかなり合格者が出ておりました。)
一度はあきらめた司法試験ですが、退職して一念発起。
ロースクールの教授の中には、
新司法試験は旧司と違う、等と力説される方もいます。
ですが、入学して1年。私は勉強の基本スタイルは
旧司のときと何ら変わっておらず、
INPUT教材としてであれば、かつての葉玉先生の
レジュメがいちばんいいなと改めて痛感しております。
葉玉先生のレジュメは今もあるのでしょうか?
早稲田のロー生ゼミではあの形式のレジュメは
復活していたのでしょうか?
投稿: 葉玉ゼミ生の後輩 | 2009年3月 7日 (土) 14時52分
A5
 一問一答と、過去問の解答例ですね。
 昔のパソコンのハードディスクの中を探せば、どこかにあると思いますが、最近は使っていません。

  Q6
清算人の解任について質問です。
清算結了登記まで済んでいる会社の代表清算人(清算人は当該1名のみ)を解任して、新たに別の者を代表清算人に選任するには、どのような手続きが必要でしょうか。
会社法では株主総会の決議によって解任・選任できると規定されていますが、清算結了してしまっているので株主がおらず総会決議ができないと理解しています。
例えば、親会社のサラリーマンが子会社の代表清算人を引き受けて処理したが、その後退職するにあたり10年間の重要書類保管義務を後任に引き継ぎたい、といったケースです。
投稿: ジャッキー | 2009年3月 7日 (土) 15時54分
A6
 508条2項は使えませんでしょうか。

Q7
今回の地検は、あまりに政治的影響が強すぎる捜査ではないかと思うのですけれど、もと検事である先生はどうお感じですか。
国策捜査などというつもりはさすがにありませんが(笑)、
政治的な影響を司法が与えてしまうということについて、
無頓着すぎるような気がいたしますが、実際のところ考えないのでしょうか。
投稿: 教え子その1 | 2009年3月 7日 (土) 19時14分
A7
 今回の事件の着手時期は、適切です。
 証拠関係を考えれば、西松の事件をやっている最中なので、参考人聴取がやりやすいというメリットがあります。
 しかも、これから選挙が近づけば近づくほど、逮捕しにくくなりますし、小沢氏が総理大臣になった直後にその秘書を逮捕するのは、今よりももっと社会的影響が大きいでしょう。
 犯罪がそこにあり、逮捕しなければならないというシチュエーションに置かれたとしたら、どこで逮捕するのが適当か、考えてみてください。
 今がベストです。

Q8
今日は,株式市場の低迷についてお尋ね致します。
先生は日本株の低迷は今後何年間くらい続くとお考えでしょうか?
私は現在数銘柄を保有しておりますがどれも膨大な含み損で憂鬱な日々です。
「あと1-2年で底打つ」と根拠の無い希望を持っていますが,著明な経済学者の中にはあと10年間景気悪化は続くという方もいます。
法的問題ではないので根拠は不要です。
投稿: だいざぶろう | 2009年3月 8日 (日) 08時46分
A8
低迷というのは、相対的なものです。
日経平均7000円で株を始めた人は、短期間で10%以上利ざやが取れています。
バブル期に購入した株式は、いまだに含み損です。
株価の値上がり益を目指すならば、保有銘柄が値上がりすることを期待するよりも、損切りして、値上がりする銘柄に乗り換える方が得策です。
そうでなければ、配当のよい銘柄を長期保有した方が、普通預金よりも有利です。

Q9
先生の著書「新・会社法100問」の第3版について、近日中に出版される予定はございますでしょうか。

以前のブログ(2008年3月 9日 (日))では、現在発売されている第2版について、当分改訂のご予定はないとのことでしたが、ちょうど1年が経過していたので、ご質問させていただきました。
投稿: 法科大学院生 | 2009年3月 9日 (月) 23時50分
A9
改訂予定はありません。
省令改正があるので、改訂したいところですが、暇がありません。

Q10
ある要件の該当性(たとえば刑罰法規の明確性の有無)が問題となる際、判例や学説では、一般人を基準として判断すべきであるとしつつ、担当裁判官ないし学者の個人的見解をもって、(あたかもそれが一般人の見解であると断定するかのように)結論を導く、ということがよく見受けられます。その見解につき一般人多数からアンケートをとって検証したわけでもないのに、どうしてこのような判断が正当化されるのか不思議に思っていますが、裁判官や学者は、自らを一般人の代表であるかのように振る舞うことが許されるということでしょうか?
投稿: 一般人の一人 | 2009年3月10日 (火) 03時04分
A10
一般人として振る舞っているわけではありません。
裁判においては、裁判官が、法律を解釈・適用する権限を持っているので、法律要件として、一般人基準が要請されるのならば、裁判官が、自ら信ずるところに従い、一般人基準が何かを考え、事実に当てはめているだけなのです。もし、その裁判官の考え方が間違っていれば、上訴すればよく、裁判という制度の中で裁判官が下す判断の信頼性を確保しているのです。

Q11
先生は,「基本書の読み込みをしてもよいが,3時間で読めるものが良い」と,おっしゃっていると思います。
これは,「3時間で読めるものを選択すべき」なのか,「3時間で読めるように1冊を何度も読んで,最終的にそうなるようにする」なのか,それとも違う考えなのか,どうなのでしょうか?
一番膨大な量を読まなくてはならない民法に限っていいますと,試験に必要な知識が整理された予備校の択一本でも約700頁くらいあります。となると,これが最低限抑えておきたい知識の量だと思います。そうすると,なかなか3時間で読むことは難しいと思います。しかも,論文用も併記するとさらに困難が伴うのではないかと。
体的に,何をどのように「3時間で読む」かについて,教えていただければと存じます。
よろしくお願いいたします。
投稿: こんにちは | 2009年3月11日 (水) 13時52分
A11
もちろん最初から3時間で読めるはずはありません。
テキストを何度も読む中で、「読まなくてよい部分」「ここだけ読めばよいという部分」に印をつけていき、3時間で読めるようなテキストを自分で作るのです。

Q12
実務において英語はどういったところで役に立つのでしょうか。渉外事務所でしか役に立たないのでしょうか、教えていただけると幸いです。
投稿: | 2009年3月11日 (水) 17時54分
A12
私は、日本人を相手にする仕事がほとんどですが、今の日本企業は多かれ少なかれ、外国企業と取引をしていますし、検事だって、英語の証拠物が押収されることもありますから、時々、英語を使います。

Q13
弁護士の就職難が叫ばれるなかですが、なんとか就職口がみつかりそうです。
地方都市の小規模事務所です。いわゆる「マチベン」です。
私は脱サラして実家のある地方ローに入り、昨年の試験に合格しました。
もともとは渉外事務所で「最先端」の仕事に就くことに憧れがありました。
大手への就職が難しいと思ったとき、苦労しても都会の大きなローに行くべきだったかとも思いました。
しかし、ローで過ごした3年間の喜怒哀楽を思えば後悔はしていませんし、現実的にそれ以外の選択肢もありませんでした。
今年三十路を迎えるのに就職先が確保できるだけでも万歳と思っています。
そこで、地方の事務所で「最前線」の弁護士としてキャリアスタートする決意をしました。
どんな仕事でも誇りをもってやっていくつもりです。そして、最前線でキャリアを積みながら、いつか渉外事務所で勤務できるようになりたいとも思っています。弁護士の就職難は当分続くでしょうから、仮に渉外事務所への再就職の可能性があったとしても、即戦力を求められるでしょうし、その壁は中小企業に就職した新卒が国際優良企業に総合職として転職するより難しいことは想像できます。
 そこで、先生やお知り合いの事務所をみて、そのようなキャリア形成の方はいらっしゃるのでしょうか(おそらく過去にはいたでしょうが、5年、10年後にはどうでしょうか)。また、弁護士大増員を前提に、新人弁護士として、渉外事務所に再就職するために、どのような仕事や知識を身につけていくのがよいのでしょうか(はじめは仕事は選べないでしょうが、心持やあえて専門形成など)。
 それとも、いっそのこと「最前線の鬼小隊長」のような弁護士を目指すべきでしょうか。
投稿: 小隊長 | 2009年3月11日 (水) 20時45分
A13
 法律の世界には、事実と法律があるだけで、最前線というものはないように思います。
 どんなケースでも、そのケースに特異の部分があり、最適の解決法があります。あえていえば、目の前の事実に最適解を見つけることができれば、それが「最前線」でしょう。
 地方の法律事務所に勤めた後、お金を貯めて自費で留学したり、役所の任期付任用のキャリアを経て、大事務所に入っている人は、結構いると思います。
 夢があるのならば、それに向かって努力すれば、どうにでもなります。

Q14
2006年07月17日の会社法における基本的制度というテーマについて質問させてください。

『4 株主 vs 株式会社
  → 株主権(配当請求権・議決権・残余財産分配請求権・単独株主権・少数株主権)
  → 株式譲渡自由の原則
  → 反対株主の株式買取請求権』
とありました。ここに株主平等原則を加えるのは間違っていますでしょうか?
株主平等の原則は
『1 株主 vs 株主
  → 株主平等の原則』
とでておりました。
投稿: 短答が近くて忙しい50歳 | 2009年3月14日 (土) 12時01分
A14
 間違いではないでしょう。

Q15
今年の東大入試(前期)ですが、久留米大附設からの合格者は38人でした。
ちなみに、先生は中学から附設なのでしょうか?
また、東大を目指したのはいつ頃でしょうか?(小学生、中学生、高校生)
投稿: ルージュの伝書鳩 | 2009年3月14日 (土) 12時57分
A15
私は、中学から附設です。
附設は、中学入試の偏差値はそれほど高くないのですが、大学合格実績は、東京の有名私立高校よりも良いので、結構、お得な学校です。
東大を目指し始めたたのは、高2の3学期くらいだったかなあ。
法律家になることは全然考えておらず、「東大文Ⅰなら潰しがきくだろう。」と思って、決めましたね。

Q16
757条、762条、2条29号30号から、合名会社・合資会社は分割会社になれないと読み取れます。
その趣旨ですが、私が持っている教科書には「分割会社の債権者に不利益をもたらすから」と書いてあります(江頭)。これは無限責任に期待していた債権者が、無限責任社員にかかっていけなくなる可能性があるから、ということなのだと思います。
しかし、それは合併において持分会社が消滅会社になってしまう場合も同じことだと思います。しかし会社法は合名会社と合資会社が消滅会社になることを否定していません。
消滅会社になるのはOKで分割会社になるのはダメな理由は何なのでしょう。
投稿: yasuchan | 2009年3月14日 (土) 13時22分
A16
組織変更ができるのですから、合併ができるとしても問題ないからです。
会社分割は、分割会社の法人格を残したまま、債務だけを分割することもできるので、悪用されるリスクがあるから、制限しているのでしょう。

Q17
持分会社の種類変更につきまして質問させていただきます。
種類変更の際、債権者保護手続は不要でありますが、どのような趣旨で不要と解せばいいでしょうか?
合名が合同に種類変更しても従前の無限責任を負う社員として変更後も居続けるからといったことでしょか?
投稿: 匿名希望 | 2009年3月16日 (月) 14時27分
A17
そうです。

Q18
現在、毎日論文の勉強をしています。
具体的に申しますと、
1.パソコンで答案を作成する

2.予備校やローの勉強をする

3.2と同様の範囲の答案を復習する

4.2で参考になることがあった場合には、
それを具体的な答案の内容として反映させる
という形で勉強をしています。
 
こうして答案を日々更新しているのですが、
たとえ自分で納得のいく答案が出来ても、
独善的になっていないかどうか、それが気がかりです。
(もちろん誰かに見てもらうのが一番ですが、
すべての答案を添削してもらうことは不可能ですし・・・)
 
論文の勉強において、独善的な答案にならないために、
気をつけるべき点があれば、教えていただけないでしょうか?
大変恐縮なのですが・・・どうかお願いします。
投稿: モッフン | 2009年3月16日 (月) 20時08分
A18
声を出して読んでみることです。独善的な答案は、自分で読んでみても不自然さを感じます。
なお、「答案は絶対に手で書く」こと。パソコンは駄目です。書き始めたら、後戻りできないという手書きで答案を書くことに大きな意味があります。

Q19
記者会見についての法的判断と、政治的判断は、違うんですかね。
正直、最初の記者会見で、小沢さんがいわば平身低頭していたとしても、どれほどプラスだったか、疑問です。つまり、強面というイメージが、ある種の売りであったのに、捜査機関が出てくると腰砕けになる、というマイナスのイメージが出来てしまい、穏便にすませた会見が賢明だ、穏当だという評価を受けることは、なかったのではないかと思います。それに、今回の事件は無理筋のようにも思え、今後は、世論を見極めながら落としどころを探るという、後出し的な解決に落ち着くような気もします。印象論で申し訳ありませんが。法的な発想、過去の特定の経験に基づいたコツなるものの、限界を感じますが、いかがでしょうか。
投稿: 失礼しますが、 | 2009年3月16日 (月) 22時44分
A19
今回の事件は、全く無理筋ではありません。
事実の把握と処分の予測が正確であれば、起訴ないし有罪になったとき、小沢氏が不利な立場に置かれるのは、最初から見えています。
この確実な予測を前提に、最初の報道対応をすることが重要なのです。

実際、前回の記事を書いた後、小沢氏と民主党の支持が急降下し、小沢氏の態度はやや変容していますが、最初に検察批判を展開したため、小沢氏としては、対応が難しくなっています。

もし「政治資金規正法違反ではない」ということを前提に代表の座に居座り続ければ、選挙で政権交代を訴えても、有権者は、しらけてしまうのではないでしょうか。
他方、小沢氏が、世論の動きを見ながら、態度を変えてしませば、麻生総理と同じように、小沢氏も、「言うことがコロコロ変わる」と批判されるのではないでしょうか。

今後の展開としては、起訴時の記者会見が重要でしょう。
ここで小沢氏が徹底抗戦の構えを見せれば、民主党も、それに追随せざるをえず、選挙戦では窮地に立たされるでしょうし、小沢氏が、しぶしぶ「愚痴」「言い訳」がにじみ出るような謝罪会見をすれば、それも批判されるでしょう。

もし謝罪するのならば、「潔い」印象を与えてほしいところです。

ただ、私の勘では、仮に謝るとしても、プライドを捨てきれない会見になるような気がします。
最初に記者会見で言ったことを自己否定することは、人間にとって難しいことで、どうしても引きずられます。だからこそ、最初の記者会見で、先を見通すことが大事なのです。

マスコミ対応は、政策論ですので、どのような対応がベストなのかは、事後的に評価するしかないのですが、落ち着いた頃に、私の考えた対応が適切だったか、「失礼しますが」さんが考えた対応が適切だったかを、検討するのも面白そうですね。

Q20
合資会社が株式会社に組織変更する場合の登記手続きで要求される資本金の額の計上に関する書面について質問させてください。
 この書面の記載内容につき、「資本金○〇円は会社法第615条、会社計算規則第57条第1号の規定に従って計上されたことに相違ありません。」としている書籍と「資本金○〇円は会社法第615条、会社計算規則第57条第1号及び第53条第1項の規定に従って計上されたことに相違ありません。」としている書籍とに分かれています。
 合資会社が株式会社に組織変更する場合は、あくまで会社がその同一性を維持しながらその組織を変更する手続きであり、資本金の構成はそのまま維持されます。(会社法千問Q880)
 そこで、会社計算規則第57条第1号を資本金の額の計上に関する書面の記載内容とすることについては理解できます。
 しかし、会社計算規則第53条第1項の規定に従って計上されたことまで要求しているとすれば、それは組織変更時の資本金の計上だけではなく、合資会社が設立されてから組織変更するまでの資本金の計上まで証明しなければならないこととなりますよね?

このような理解を前提として、
1 登記の添付書面として登記が通るものかどうかということは抜きにして、理論的に、会社計算規則第53条第1項を資本金の額の計上に関する書面の記載内容とすることを先生はどう考えられますか?合資会社では、資本金が登記事項ではないので組織変更前の資本金の計上についても会社計算規則第53条第1項を記載内容とすることで証明しなければいけないのでしょうか?

2 仮に、会社計算規則第53条第1項を記載内容とするとして、

  ①社員が履行した出資の価格(②を除く)        金○〇円
  ②社員が履行した出資のうち帳簿価格を付すべき場合の帳簿価格の合計額
                                   金○〇円
  ③資本金の額又は資本剰余金の額から減ずるべき額と定めた額
                                   金○〇円
  ④資本金等限度額(①+②-③)             金●●円
  ⑤資本金の額                         金●●円

上記のとおり、資本金●●円は会社法第615条、会社計算規則第57条第1号及び第53条第1項の規定に従って計上されたことに相違ありません。

と記載することになりますが、最後三つの●●部分は同じ金額が入るという理解で良いでしょうか?

計算規則について、理解が不十分なため質問が膨大になってしまいましたが、
どうかご教授していただけませんか?よろしくお願いいたします。

投稿: | 2009年3月16日 (月) 23時33分
A20
合資会社も出資時に資本金を計上しますが、登記されないので、その計上の正確性について法務局は何の証明も受けていません。
 そこで、法務局に組織変更の登記をするときに、組織変更時の資本金の計上(=組織変更前の資本金)だけではなく、組織変更前の資本金がきちんと計上されたことを証明をさせるのは、理論的にはおかしくないと思います。

Q21
剰余金の分配に関してご教示お願いします。
中間期に利益が見込めない(中間期に赤字となる見込みの)場合に中間配当を行おうとする場合、その前の定時株主総会で任意積立金を取り崩して「中間配当積立金」などに計上して対応していたと思いますが、この考え方は会社法の下でも変わってないと考えてよいのでしょうか。(貸借対照表上、「別途積立金」は十分に計上されている前提です。)
投稿: 悩ましい | 2009年3月18日 (水) 19時31分
A21
変わっていません。

Q22
会社法31条で定款の備置き及び閲覧等とありますが、会社成立後は、本店及び支店にて、株主及び債権者と裁判所の許可を得た親会社社員が会社の営業時間内に会社の定めた手数料をもって閲覧可能となっていますよね。
では株主になろうとして、または自社の従業員がどんな定款なんだろうと調査の目的で定款(特に相対的記載事項など)を見る場合の方法はあるのでしょうか?
特に非公開会社で株主兼オーナーの場合になると、役員や幹部クラスすら定款を見せてもらえないような場合もあるとききます。
誰でも取得可能な登記事項証明書には必要最低限の事項しか確認できないようなので不思議に思っています。
投稿: ぴんぽん | 2009年3月18日 (水) 20時46分
A22
株主・債権者以外の者が定款を見る権利はありません。

Q23
ブログをいつも有効に活用させていただいております。先般取り上げておられました個別株主通知と総会検査役について質問させてください。実は総会検査役選任事件に仕事上よく関わるのですが、株主(原告)資格の確認(=継続保有)を裁判所が発行会社に対して照会しているケースを殆ど(≒全く)聞いたことがありません。電子化以前は、申立人が疎明していることなのかなあ、と思っておりましたが、電子化後は決定的に個別株主通知(現在は抹消減少証明も)での確認が必要ですよね。裁判所が原告資格を確認しているのでしょうか? 発行会社が株主提案(特に共同提案など)を受ける場合はかなり神経を尖らして資格審査をしていますが、一方似たような検査役選任申立では、会社法874で不服申し立てすらできないのに、裁判所の審査面でどうも疑問があるのですが・・・。
投稿: T/A | 2009年3月18日 (水) 23時51分
A23

Q24
現在会計士試験を目指しているものでして、度々、貴サイトを閲覧させて頂いております。
リンクの方はフリーでしょうか?
投稿: 作山 | 2009年3月19日 (木) 02時31分
A24
フリーです。

Q25
 葉玉先生、こんにちは。
 ロー未修(4月から)2年目の者です。
 今回のコメントにある「こんにちは」さんの質問ともかぶりますが、民法の「直前に見回す資料」として、「判例六法」を使うか「択一六法」を使うかで迷っています。
 ①両者のメリット・デメリット
 ②「判例六法」はどんな人向けで、「択一六法」はどんな人向けか
 ③どの時期から「買い替え」を控えるべきか(2011年に試験があるとして、現在出版されている択一六法or判例六法で臨んでもいいのか、それとも、2010年に出版される最新のものを買うべきか)
 ④それらをどのように使うか(間違った箇所にマークする、過去問に出た箇所をチェックする等)
 ⑤その他、思い浮かぶこと
を教えてください。
投稿: 春から未修2年目 | 2009年3月19日 (木) 09時22分
A25
 好きなものを使ったらいいでしょう。
 ただし、六法は、常に最新の六法を使うべきです。
 

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2009年3月 1日 (日)

個別株主通知

久しぶりの更新で、いきなりコマーシャルというのもナンですが、ずーっと以前に告知しておりました

  DVD「会社法と実務」 全10巻

が、LOTUS21のサイトで発売開始となりました。

http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115_DVD.html

 このDVDは、私が、全10回にわたり、

   企業の法務総務担当者
   法律専門家
   司法試験、司法書士試験、公認会計士試験等の受験生

等を対象に会社法の使い方を実務に則して分かりやすく解説したものです。

 1回から3回は、お試しでインターネットで見ることができますから、それを見ていただければ分かりますが、できる限り初心者にも理解できるよう心掛けて講義しているものの、実

務に役立たないことを勉強しても仕方がないので

  こういうことをやりたいときには、どうしたらよいのだろう?

  この規定が邪魔になるときには、どういう工夫をすればよいのだろう?

 というプロの疑問にも答えられるよう、実務上の小ネタ、裏技の類もふんだんに盛り込んでいます。

 
  講義は、各巻ごとに、独立したテーマを扱い、それぞれ完結しています。
  
  これは、条文に沿って勉強するよりも、あるテーマで問題になる条文を有機的に解説する方が「生きた知識」になると考えているからです。

  また、1回約2時間で1テーマとなっているので、会社の研修等にも使いやすいと思います。

 
 このDVDについては、さっそく「久留米在住の人」さんから、次のようなご質問をいただきました。

「ついに115講のDVD発売ということですが、このDVDの対象者に法科大学院の生徒は含まれますか?
つまり、率直に聞きますと、新司法試験に「使える」講義でしょうか?学生は常に金欠なものでして・・・」

 私は、「使える」と思います。

 このDVDは、具体的な答案の書き方を教えるものではありませんが、新司法試験は具体的事例に対し条文を使いまわす試験なので、このDVDの中で解説される事例の分析の仕方や

条文解釈のポイントは、新司法試験に役に立ちます。
(各種試験に役に立つと思われるので、学生限定のストリーミングサービスを用意しています)

 
 なお、各講義中、その場をもりあげるために、やや過激な発言をしていることもあります。
 そこらへんは、笑って許して下さい。

 価格は
  DVD10巻セット 98,000円(税込)のところを
           3月31日までの特別価格は、なんと「8万8000円」

  単品販売は、各回 1万2000円

  学生限定 ストリーミングサービス 10回 2万8000円

です。

 この手のDVDは数が出ないので、映画のように安くできないの心苦しいのですが、法律系のDVDとしては破格の値段に設定しているつもりです(通常、実務に役に立つ法律系セミ

ナーは、一人1回2-3万円はとられると思いますが、特別価格ならば、1巻8800円です。)
 
 会社で1セット購入して、毎年、新人研修に使ってもらえれば、非常にお徳用なのではないかと思います。

 また、学生限定のサービスは、予備校の会社法の講義より安くすることを目指しました。

 ちなみに、パブコメ中の会社法施行規則等の改正には、まだ対応していませんが、公布された時点で、購入者に対して、追加情報を提供する予定ですので、安心してお買い求めくださ

い。

 私のノウハウを詰め込んだDVDですので、一人でも多くの人に見ていただけると、大変、嬉しいです。

 さて、長い前振りはこの辺でおしまいにして、本日のテーマ

     「個別株主通知」

について、お話しましょう。

 最近、この個別株主通知について、「社債、株式等の振替に関する法律施行令の一部を改正する政令案」のパブリックコメントが開始されました。

 個別株主通知は、振替法(社債、株式等の振替に関する法律)の制度であり、振替株式(≒上場株式)の株主が、単独株主権・少数株主権を行使する前提として行わなければならない

通知のことです。

 
 株券の電子化の前は、上場会社の株主が、少数株主権等を行使するためには、株主名簿または実質株主名簿に株主の氏名等が記録されることが必要でした。

 そのため、株式を購入した人が、少数株主権等を行使したい場合には  

    (1)株券の交付を受けて株主名簿の名義書換をする
または、(2)証券保管振替機構に預託されている株券ならば、決算期・中間決算期に実質株主名簿が作成されるのを待つ

という方法を取る必要がありました。

 この方法については、株主にとって、それぞれ次のデメリットがありました。

 (1)名義書換

  ① 名義書換に時間と手間がかかる
  ② 株式市場で株式を売却するときには、株券を預託しなければならない証券会社が多いため、一旦、名義書き換えをすると、売却をしたくても、すぐに市場売却できない。
  ③ 名義書換をした後に、株券を機構に預託すると、機構名義に書き換えられてしまうため、次の実質株主名簿に載るまで、単独株主権・少数株主権は行使することができず、また

、継続保有期間が途切れてしまう。

 (2)実質株主名簿
  ① 原則として、1年に2回しかアップデートされないので、株式を購入してすぐに単独株主権・少数株主権を行使することはできない。
  ② 6か月の継続保有要件がある少数株主権等に関しては、実質的に約1年間行使することができない場合がある。
   (実質株主名簿に2回連続で株主の氏名等が記録されることが要件となるので、たとえば、3月決算会社の株式を4月に購入した株主は、その年の9月末の翌年の3月末の実質株

主名簿に記録される翌年の4月まで、当該少数株主権等を行使することができない。
  ③ 機構から株券の交付を受けた場合、次の基準日までに名義書換をしないと、機構名義の失念株主となり、名義書換をするまで株主としての権利を行使することができない。

 
 また、株券の電子化後は、上場株式は、すべて振替株式になり、株主名簿は、原則として、決算期と中間決算期の2回しか、アップデートされません。

 そのため、次のような問題を解決する必要がありました。

  ① 期中に株式を購入した株主が、すぐに少数株主権等を行使したい場合、従来のように株券を引き出して名義書き換えをするという手段を取ることができない。

  ② 株主名簿に記録されている株主が株式を売却しても、株式取得者が名義書換を行うことができないので、株主名簿に記録されている株主が、現在も株式を保有しているという蓋

然性は高くなく、会社が、期中において、株主名簿を基準に株主に少数株主権等を行使させることは困難である。
  (従来は、株主名簿に記録されている株主から株式を買った人は、すぐに名義書換をするため、株主名簿に記録されている株主が、現在も株式を保有しているという蓋然性が高かっ

た)。

 以上のような従来の制度のデメリットを克服し、かつ、新制度の問題点を解決するための制度が「個別株主通知」なのです。

 つまり、振替株式の株主が、少数株主権等を行使したい場合には、まず、その振替株式が記録されている口座を管理している証券会社や信託銀行等(口座管理機関等)に対し
    「個別株主通知」の請求
をします(その際、実務上、口座管理機関等から「受付票」を交付されます)。
 
 すると、口座管理機関等及び振替機関(機構)を通じて、その振替株式の発行会社に対し、
   ① その株主の氏名等
   ② その口座に、何株記録されているか
   ③ その株式が、通知対象期間(請求前6か月+14日間)において、いつ何株購入され、何株売却されたのか
等という情報が通知されます(個別株主通知)。

 これで、会社は、その株主が少数株主権等を行使することができる要件を備えているかどうかが分かるので
   株主は、株主名簿に記録されているか、どうかにかかわらず、少数株主権等を行使することができる
ようになるのです。

 この個別株主通知制度には、次のようなメリットがあります。
 
 ① 株主は、名義書換をしなくても、少数株主権等を行使することができるようになった。
 ② 6か月の継続保有期間は、実際に株式を購入した日からカウントされるようになった。
 ③ 従来のように機構への株券の預託や機構からの株券の引き出しによって、少数株主権等の行使が制限されるような事態がなくなった。
 ④ 少数株主権等を行使した株主であっても、株式を迅速に売却することができるようになった。
 ⑤ 会社は、個別株主通知を見て、株主の6カ月間の株式保有状況を知ることができるので、安心して株主からの権利行使に応ずることができるようになった。

 反面、従来の制度と比べると

  株主名簿に記録されている株主でも、個別株主通知をしなければ、少数株主権等を行使することができない

というデメリットもあります。
 
 ただ、このデメリットは、株主名簿のアップデートが年2回に限定されていることから、やむをえない制約です。

 
 立案プロセスにおいては、「株主名簿に記録されている株主の少数株主権等の行使については、個別株主通知は不要である」
という法制度も検討されたのですが、もしそのような制度を採用すると、

  ① 会社は、少数株主権等の行使の度ごとに、情報提供請求権を行使して、その株主の株式の保有状況を調査しなければならなくなる。
   (情報提供請求権は、会社が振替機関等に費用を支払って行わなければならないので、一部の株主の権利行使により、会社(ひいては、すべての株主)が高いコストを負担しなけ

ればならなくなる。)

  ② 会社が、その株主の株式の保有状況を調査している間は、履行遅滞に陥らないものとしなければならないが、その期間を法定することは困難であった。

  ③ 法律上、情報提供請求権は、会社が、株主の口座がどこの証券会社等に開設されているかを知らなければ行使できないこととされており、株主が、自分の口座の所在を隠すと、

会社は情報提供請求権を行使することができない(この問題点は、実務の工夫によって、解決されましたが、立案当時は、そのような実務上の工夫がされるかどうか不明でした)

という問題があり、採用されませんでした。

 つまり、個別株主通知は

  株主の少数株主権等の行使に伴うデメリットの解消と
  会社が情報提供請求権等により株主の株式保有状況を確認せずに権利行使に応じられる状況の確保

という2つの要請を満たすことを目的とした制度なのです。

そこで、今回のパブリックコメントに付された政令の改正について、その妥当性を検討します。

 今回の改正は、簡単にいえば、
  
  「個別株主通知が会社に到達した後、どのくらいの期間、その通知は有効か?」という点について、
   従来は、「2週間」だったものを「4週間」に延長する

というものです。

 この期間が短ければ
   株主は、個別株主通知が到達した後、すぐに権利行使をしないと、もう一度、個別株主通知をしない限り、権利行使できなくなる
ので、期間が長い方が、株主にとっては有利です。

 他方、個別株主通知は、個別株主通知の請求時までの株式の保有状況を通知するものですから、この期間が長くなりすぎると
   個別株主通知の請求後に、株主が株式を売却することができる期間が長くなり
   「個別株主通知の内容が、現在も継続している」という蓋然性
は薄れます。

 その結果、会社は、通知後の株主の株式保有状況を確認するために、情報提供請求等を行使しなければならなくなるでしょう。

 こうしたバランスを取るために、現行政令は、利害関係者の意見を聞きながら、その期間を
   2週間
と定めたわけです。

 この2週間は、理論的に導かれるものではなので、1週間でも、10日間でも、4週間でも、バランスが取れていればOKなのですが、それにしても、現行政令の施行直後に、いきな

   4週間

という案が出たのは何故なのでしょうか。

 通常、単独で株主権を行使するような場合には、2週間もあれば十分ですから、今回の期間の延長は、複数の株主が共同で株主提案権を行使する場合に対応するためであろうと推測さ

れます。

 提案権は、議決権の1%または300個以上の議決権を持っている株主が行使することができる権利であり、複数の株主であわせて300個の議決権を持っている場合には、共同で請

求することができます。

 共同請求の場合には、通常、各株主が個別株主通知の請求を行い、各株主が中心となる株主に受付表と委任状を交付し、中心となる株主が、他の株主を代理して、共同で提案権を行使

するという手順を踏むことになります。

 株主の一部について、個別株主通知が2週間以上遅れたり、証券会社の一部の対応が遅れたりした場合には、2週間以内に全員の受付表や委任状が集まらないこともあるので、改正案は、4週間に延長しようとしているのでしょう。

しかし、2週間を4週間にすれば解決できる程度の不都合なら、提案権を共同で行使する株主がきちんと協調すればよく、施行直後に政令を改正するほどの必要性があるのか、疑問は残ります。

そもそも、そうしたニーズに対応するためには、本当は、政令改正など必要ではありません。

証券保管振替機構の規則改正で、個別株主通知の通知対象期間を7か月に延長してもらえば十分です。

そうした上で、たとえば、ABCという3人の株主が、共同で提案権を行使する場合において、Cの個別株主通知の手続きが遅れたような場合には

 先に個別株主通知の手続きができたABが通知の到達後2週間以内に、後日、Cの提案権行使が行われることを停止条件として、共同の株主提案権を行使する

こととすればよく、わざわざ政令を改正するほどのことはありません。

 仮に、株券の電子化直後で個別株主通知に関する証券会社等のシステム整備が遅れているという理由で政令改正をするのであれば、

   経過措置として、今年に限って、4週間とする

ということでも良さそうです。

 さらに、どうしても政令の本則を改正するというのであれば

  株主提案権の行使のみ4週間とし、それ以外は2週間とする

という改正も考えられます。

 施行後に、実際に生じた不都合を是正するために、必要な政令の改正を行うのは当然ですが、施行直後のこの時期に、すべての少数株主権等について、具体的な不都合が生じていると

は考えにくいところであり、こんな時期に改正案が出てくると、多くの人が

   現行政令のときにパブコメをし忘れた声の大きな人が、株券の電子化後に法務省に圧力をかけたのではないか。

と憶測してしまいます。

 個別株主通知については、法制審議会以来、利害関係者との長く困難な調整と、パブリックコメント手続きを経て決定されたものであり

   施行直前に、よく分からないルートから苦情があったので、施行後すぐに改正する

というのは、あまり格好のよいことではありません。

 この改正は、理論的な話ではないので、前の記事にとりあげた

    200単元制限という理論的におかしく、誰の役にも立たない改正
   (しかも、わざわざ法制審議会を開いて改正するようなマターではないため、ずっと不合理な規定が残り続ける改正)

とは異なり、理論的に4週間がおかしいというわけではありません。

 しかし、現行政令の「2週間」は、法制審議会の当時から考えると、6年の歳月をかけて議論してきた結晶ですから、

   これが、実際の不都合が生じていないのに、あっけなく4週間に変わる

ということになると
   法務省は、当時の議論を反故にした
と感じる人もいるだろうというのが、気になります。

 少なくとも、当時、利害関係者が妥協した線とは大きく異なるので、個別株主通知をめぐる解釈論を少し会社よりにする必要がありそうです。

 たとえば、この期間が4週間に伸びれば、その分、通知の内容が、現在の状況と同じであるという蓋然性は下がるので

   会社が、情報提供請求権を行使し、情報を取得するまでは、株主の少数株主権等の行使に応じなくても、履行遅滞に陥らない。

と解釈すべきであろうと思います。

 さらに、過激なことをいえば

  会社は、株式取扱規則により、個別株主通知に記録されている株式が記録された口座の特定に関する情報(口座番号等)を株主に質問することができる

とか

  会社は、株式取扱規則により、情報提供請求権の手数料を株主に対して償還することができる

とか、そういう解釈を検討するのもアリなのではないでしょうか。
 

 株式取扱規則の部分は、半分、冗談ですし、きっと法務省も政治的に苦しい立場におかれたのだとは思いますので、4週間について反対するわけではありませんが、施行直後の政令改正案は、そうした政治的な部分が鮮明に見えてしまうため

   せめてシステムの対応の遅れを理由に経過措置のみ改正して、今年の年末ころに、再度、本則の改正について議論する

という落とし所の方が、関係者の理解を得やすかったのではないか、と思ってしまいます。 

(質問コーナー)
Q1
 葉玉先生が刑事弁護までされているのはちょっと意外でした。
 私は、検察の起訴罪名が謙抑的に過ぎるのではないかと思うことがあります。私なんかは「これだけの間接事実じゃちょっと弱いかもしれない。でも、裁判所が認めてくれる確率は五

分五分かな」と思ったら、重い罪を主位的訴因として、軽い罪を予備的訴因として起訴することは構わないと思うのです。それを軽い罪で起訴してしまうのは、被害者にとっては不満だ

と思います。
 もちろん捜査を尽くすことが前提ですが、それでも「五分五分」だと思ったら、検事はチャレンジすべきなのでしょうか?そうすべきでないとすれば、なぜでしょうか?
投稿: ロー生 | 2009年2月12日 (木) 15時21分
A1
 起訴時から予備的訴因として起訴することはないですね。
 私は、自分の事実認定の見通しについては、かなり絶大な自信を持っているので、「もしダメなら・・」ということは考えません。
 「証拠が弱いから、軽い罪で・・」というようなことも、ほとんどしたことありません。
 
Q2
今回は検察時代の話ですので、刑法がらみの話題でもよろしいでしょうか。
教室事例のような現実の事件です。
仮にこれが真実であれば、条件説といわれる判例の立場では既遂罪が成立すると思うのですが、
相当因果関係説では未遂罪にとどまるのでしょうか。
結構、限界事例だと思うのですが。
また、先生がこのような事件を弁護するとしても、
本日の記事のようにされるのでしょうか。
 A市で2007年某月、横断歩道上で女性が首を絞められている最中にタンクローリーにひかれて死亡した事件があり、殺人罪に問われた同市B区、元会社員○○被告の初公判が12日

、C地裁(××裁判長)で行われた。
 ○○被告は「殺意はなかった。首を絞めたことも覚えていない」と殺意を否定し、起訴事実を否認した。
 起訴状によると、○○被告は07年某月日早朝、B区の横断歩道上で、あおむけになった同区の飲食店従業員△△さんに馬乗りになって首を絞めた。
その後、〈1〉頚部圧迫による心停止〈2〉頸部骨折で身動きできなくなった後、通りかかったタンクローリーに頭部をひかれて脳挫滅――のいずれかで△△さんを殺害した、としてい

る。
2月12日の読売新聞HPより(実名等一部省略しました)
投稿: | 2009年2月12日 (木) 17時50分
A2
 経緯次第ですが、たぶんその事例は、実務的には、相当因果関係がほぼ確実に認められるでしょう。

Q3
 私は法科大学院の未修2年生です(もうすぐ3年生)。
 法科大学院の成績が伸びなくて悩んでいます。成績が優秀な人は、ローの授業も淡々とこなして着実に力をつけていっているように感じます。
 自分のように、法科大学院の授業にもあまりついていけず単位をとるので精いっぱいな人間は、これからどのように勉強していけばいいのかがわかりません。
2年間でたまった膨大なレジュメ、ケースブック等々も、結局積み上げてあるばかりで途方に暮れてしまいます。
 春休み期間中の勉強計画を立てていたら、こうした悩みで頭がいっぱいになってしまいました・・・
投稿: 苦労院生 | 2009年2月12日 (木) 19時26分
A3
 予備校に通い、 予備校のテキストと択一の問題集と論文過去問だけをやりましょう。たまったものは、全部捨てましょう。たまったものを見直そうなどと考えてたら、絶対に自滅し

ます。
 まず、勉強する対象を絞り込み、それを繰り返すこと。
 そして、勉強時間は1日12時間以上確保すること
 最後に択一と論文の演習を毎日すること
 これだけ考えてください。
Q4
現在パブリックコメント手続中の会社法施行規則の改定案を見てこれは無茶な改正
ではないかとふと思ったことがあるのですが、第74条2項2号の改正案です。
同改正では、候補者が選任された場合において重要な兼職に該当する事実があることとなるときは、その事実を参考書類に記載しろとあります。
従来では、参考書類作成時点での兼職の状況を書けばよかったと思いますが、この
改正案のとおり改正されると、参考書類作成時点ではなく、役員に就任した時点で、
要するに「見込み」で兼職の状況を書かなければならなくなってしまいます。
仮に自社の総会が6月26日に開催するとして、同日やその前日などに他の上場会社で役員(しかも代表取締役)に就任する予定がある場合なども参考書類に書かなければならないことにな

らないでしょうか?未上場会社での役員就任予定の話ならまだしも、上場会社で、しかも未公表の代表取締役就任予定の話を他の会社の参考書類で開示することは現実的に不可能ではな

いかと思いましたので。
投稿: ここりこ | 2009年2月13日 (金) 08時12分
A4
 そこらへんは、パブコメで指摘してください(と書いて気付きましたが今日までですね)。
 まあ、省令が交付されてから考えましょう。

Q5
どのテキストでも授業でも"株式"とは「均等に細分化された割合的単位の形をとる株式会社の社員たる地位」といった感じで書いてあります。
「均等に細分化された」とか「株式会社の社員たる地位」はわかるのですが、「割合的単位」という聞きなれない言葉の意味がわかりません。法律独特の言い回しなのでしょうか?
投稿: かな | 2009年2月13日 (金) 22時52分
A5
 割合的単位というのは、非個性化されていることを表す言葉です。
 持分会社の持分は、各社員がそれぞれ持分をもち、その持分の内容がそれぞれ違います。たとえば、Aは100万円の持分で業務執行権なし、Bは1000万円の持分で業務執行権あ

りというかんじです。
 株式会社の場合には、同一種類の株式の権利内容は、どれも皆、同じであり、それをAが100個、Bが1000個持っているというように、何個持っているかで、AやBが行使でき

る権利の内容が決まります(100個持っているひとは1000円配当をもらえ、1000個持っている人は10000円配当が貰えるとか)。
 つまり、株式は、各株主の権利内容を決めるための単位となっているということです。割合的というのは、各会社の配当や残余財産の分配は、配当原資や残余財産を発行済み株式総数

で割って配ることから、「割合的」といっているのでしょう。

Q6
前回Q15について、アドバイスありがとうございました。脱時空勉強術も非常に興味深く読ませていただきました。ところで「必ず真一に1時間以上」はどの程度の頻度でしょうか?

また、記憶用に何かツールのようなもの(単語カード等)は利用されたでしょうか?
投稿: hiro | 2009年2月14日 (土) 11時03分
A6
 毎日1時間以上ということです。
 単語カードはあまり使わず、A5カードをつかっていました。

Q7
1日12時間勉強するにはリビドーが必要だと聞きました。
葉玉先生のリビドーも知りました。
僕には1日12時間も頭をフル回転させるほどのリビドーが今現在ありません。
リビドーはどんな風に得られるものなのでしょうか。
投稿: ぱっしょん | 2009年2月14日 (土) 13時07分
A7
最近は、草食系男子が増えているようなので、リビドーが足りないのかもしれません。
私は、リビドーの塊なので、どんな風に得られるかと聞かれても困ります。
私が分けてあげたいくらいです。

Q8
株式移転について質問させていただきます。
株式移転の対価として、株式移転完全親会社の株式を交付する場合、完全子会社が自己株式を持っていたら、自己株式にも親会社の株式の割り当てを受けることができるとのことですが

、同様の事例で合併では消滅会社が所有する自己株式には存続会社の株式の割り当ては出来ないとされています。
 株式移転と合併でこのような違いがあるのはどういった趣旨なのでしょうか?
投稿: 匿名希望 | 2009年2月14日 (土) 22時08分
A8
 合併の場合には、存続会社が自分に自己株式を割り当てることになるので意味がありませんが、株式移転の場合は、完全子会社にとって自己株式の割り当てではなく、親会社株式の割

り当てだからです。
Q9
会社法制における役員等の相互間の信頼の原則と監視監督責任との関係を
任務け怠乃至過失責任の観点からなんらかの法令違反を考慮すべきときのファクターには、どのようなものがありますか?
A9
質問が抽象的すぎて何ともいいようがありません。

Q10
任務け怠と過失の関係について、前者があれば後者があると一応の推定があるのかないのでしょうか?
投稿: ある法学を学ぶ初学者 | 2009年2月15日 (日) 00時10分
A10
「一応の推定」というのは、立証責任が請求者側にある場合に、立証責任を転換するための概念です。
任務け怠を立証すれば、法律上、取締役が無過失を立証しなければならないので、「一応の推定」という概念は必要ありません。
また、任務け怠を立証できなければ、そもそも過失を問うまでもなく、責任は認められません。

Q11
今回は刑事実務の検察官側について主にご教授してもらったわけですが、個人的に疑問に思うのは、刑事実務の弁護人側における「真実義務」についてです。
弁護人は、人権保障のため、被告人にとって不利益になる行為をしてはならないわけですよね。でも、被告人が無罪を主張するけど、弁護人の内心・本音としては「絶対嘘言ってるよ」

と感じてしまった場合でも、やはり自分の本音は隠して被告人の主張どおりに弁護すべきなのでしょうか?または、被告人が本当のことを言ってくれるまで接見し続けるべきなのですか

?それとも、信頼関係が成り立ってないとして被告人の弁護人を降りるべきなのでしょうか?
さらに、刑事実務の大半は反社会的勢力関連の事件だと法曹の先生に聞いたのですが、実際私のように反社会的勢力とは縁の薄い者が、弁護士にしろ、検察にしろ、(裁判官にしろ?)

反社会的勢力と向き合っていくには、どのような信念をもつべきでしょうか?
お忙しいところなのは百も承知であり、守秘義務とかもあるとは思いますが、刑事実務の本音みたいなのが聞きたいので、可能な限りご教授よろしくお願いします。
投稿: しがない受験生 | 2009年2月15日 (日) 14時03分
A12
 被疑者・被告人が真実を言ってくれないことなんてよくあります。
 その「嘘」が証拠から明らかに嘘ならば、接見のときに「それは言わない方がいい。それなら黙秘の方がまし」と言います。
 それでも、「嘘」を前提とした主張をしたいというのなら、仕方がないので、私なら、捜査官の主張の中にある嘘を立証し、その信用性を疑わせる弁護をします。被疑者被告人が嘘を

言っているからといって、捜査官が本当のことを言っているわけではないので。
 それから、反社会的勢力についてですが、被疑者・被告人は、反社会的勢力じゃない人もたくさんいます(むしろそちらの方が多いでしょう)。長年刑事事件をやってきましたが、検

事でも、弁護士でも、反社会的勢力だからといって、特別に身構えないことが一番大事だと思います。普通のことをきちんとやれば、何の問題もありません。

Q13
会社法349条第4項で「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とあり、私は、代表取締役を設置すれば取締役会非設置会社にお

いても代表権だけでなく、業務執行権も代表取締役に一本化できると思っていたのです。
しかし今回のQ5や会社法第363条の規定から、取締役会非設置会社では代表取締役への業務執行権の一本化をはかるには、定款に記載する必要があるのでしょうか?
投稿: 中小企業の法務担当者? | 2009年2月16日 (月) 16時58分
A13
 取締役は、原則として業務執行権を持っていますから、代表取締役を選定しても、それにより、当然に業務執行権がなくなるわけではありません。ですから、厳密にいえば、業務執行

権を定款で制限すべきでしょう。

Q14
2008年2月28日のエントリ「失念株主に対する配当」で、先生は、外国人制限銘柄で、名義書換が拒否された外国人株主に配当をすることについて、①株主平等の原則、及び、②放送法第

52条の8第2項の趣旨(議決権制限制度ではなく、あえて名義書換拒否制度を残したこと)から、消極的な考えを示されておられました。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_4936.html
一方で、昨年末に、㈱フジ・メディア・ホールディングスが、名義書換が拒否された外国人株主にも配当する旨のニュースリリースを行いました。
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10114676/20081225165328.pdf
この件に関して、現時点で、先生はどのようにお考えでしょうか。
投稿: Koenig | 2009年2月17日 (火) 16時06分
A14
 他の失念株主との関係で株主平等の原則を守ることができるか、日本人株主が本来自分に配当することができるお金を株主名簿に載っていない外国人に配当することを認めてくれるか

、などの問題を経営者がリスクをとって、実行するというのですから、見守る以外に方法はありません。
Q15
「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」
で、「株式会社が資本金の額を増加する場合の原資を資本準備金及びその他資本剰余金に限定しないものとすること(同規則第48条)」
という改正案があるのですが、改正する趣旨がわかりません。
確か、商法の時代では配当可能利益の資本組入が認められていましたが、資本と利益の明確な峻別という観点から会社法では認められなくなったと記憶しています。
それを、今になってなぜまた改正するのでしょうか。
国際的な会計基準とのコンバージェンスが関係しているのでしょうか。それとも、金融不安の影響から資本金を増強できる選択肢を増やしたのでしょうか。
宜しくお願いします。
投稿: 猫野ゴエモン | 2009年2月19日 (木) 12時18分
A15
コンバージェンスや金融不安は関係ないでしょう。
理論的にも何の説明もつかないでしょう。
ただ、理論的でなくても、あった方が便利ですので、改正するのではないでしょうか。

Q15
役員報酬に関してちょっとお聞きしたいです。
明らかに過大な役員報酬につき一部の大株主の賛成により総会で承認されてしまったとします。その場合当該報酬の支払により流出した会社財産を取り戻すために株主が取れる手段とし

てはどのようなものがあるのでしょうか?
総会決議の取消(831条1項3号)をして不当利得返還請求(代表訴訟)でしょうか?この場合、報酬を受ける役員と決議に賛成した大株主が同一人物でなくても、ある種の緊密な関係があ

れば特別利害関係を有するといえるでしょうか?
この他なにか方法はありますでしょうか?423条の責任追及をしたり、120条の責任を追及することは厳しいですよね?
投稿: 素朴な疑問 | 2009年2月19日 (木) 20時42分
A15
明らかに過大なら、そのような議案を提出した取締役の責任が認められる可能性はあるのではないでしょうか。特別利害関係は、実質的に判断するので、場合によっては認められる余地

はあります。

Q16
一つ教えていただきたいのですが、葉玉先生が修習生の頃、簿記1級の勉強をされなかったのは、法曹として1級までは必要ないとお考えになったからなのでしょうか。
私は現在、司法修習生なのですが、簿記の勉強をどこまでやるべきか悩んでいます。
どうぞよろしくお願いします。
投稿: 大分トリニータ | 2009年2月23日 (月) 08時04分
A16
簿記2級でいいんじゃないでしょうか。
細かいことより、簿記の考え方、見方がわかればよいのです。

Q17
まず事業譲渡なんですが、事業と一緒に債権や債務も譲渡されることは多いと思うのですが、債権譲渡の場合の債務者対抗要件や第三者対抗要件、免責的債務引受の場合の債権者の承諾

についても、別途当然に手続をする必要があるのでしょうか。
A17
 普通の売買契約なので、対抗要件も債務者の承諾もそれぞれ必要です。

Q18
次に、株式交換の完全親会社に合同会社がなれて合名合資会社がなれない理由、株式移転の完全親会社に合同会社がなれない理由がよくわかりません。
基本的な質問で恐縮ですが教えてください。
投稿: Tak | 2009年2月23日 (月) 19時20分
A18
政策的なもので理屈はありません。
 
Q19
葉玉先生、こんばんわ。刑事訴訟法について質問させてください。
 捜査の論点で「捜査機関への不出頭と逮捕の必要性」があります。
 ここで、捜査機関への不出頭が重なった場合、逮捕の必要性を満たすかという論点で、肯定説をとる場合、
  1,刑事訴訟規則143条の3だけではなく、刑事訴訟法199条1項但書きも根拠条文とした方がよいでしょうか。
  2,刑事訴訟法199条1項但書きを根拠とした場合、但書きは「正当な理由なく、出頭要求に応じない場合、逃亡・罪証隠滅の恐れがなくとも逮捕を許す趣旨である」と読むべきなので

しょうか。また、そうであるとした場合、「限られる」の文言をどのように解釈したらよいでしょうか。
  3,2の解釈をした場合、逮捕の必要性については、逃亡及び罪証隠滅の恐れがある場合に限られないと解釈して大丈夫でしょうか(それとも、不出頭が重なる→経験則上、逃亡・罪

証隠滅の恐れが高まる→逮捕の必要性を推認しうるとした方がよいでしょうか)
  4,この論点について検察講義案や書研の刑事訴訟法講義案・元検事の渡辺咲子先生の刑事訴訟法講義を読んでみましたが、通常逮捕の要件として、「被疑者が~任意出頭の求めに応

じない場合に限られる」とあり、逮捕の要件を加重したように読めます。捜査実務や判例は一般的には肯定説をとっているといわれていますが、そのような理解でよいでしょうか。
投稿: 不孤 | 2009年2月23日 (月) 23時35分
A19
 1-3 いずれも自分の信じるところを書けばいいと思います。
 4 実務は、出頭拒否だけで、逮捕することはないように思います。ただ、通常、出頭拒否以外にも逮捕の必要性があることが多いので、それらの理由とあわせて出頭拒否についても

捜査報告書に書きます。

Q20
さて、「会社法であそぼ」で会社法以外の話題なのですが最近話題の(?)民法改正についてうかがいたいと思います。
民法の改正は、現在のところ某内○先生とする学者中心のメンバーで進められ、いわゆる実務家のメンバーがほとんど参加してないそうです。
ここのあたり、同じ大改正でも会社法の検討過程とは大分異なる(もっといえば正反対?)のような感じがしますが、葉玉先生は民法のような私法の大原則となる法律を改正するに当た

ってその改正案を考えるメンバーとしては、どのようなメンバーの配分が望ましいとお考えでしょうか?
投稿: いつかTMIを見返してやろうと企む修習生 | 2009年2月24日 (火) 21時49分
A20
法務省民事局の実力派参事官も入っていますし、内閣法制局があるので、あまり心配はしていませんが、現在公表されているのは、ちょっと気が遠くなる感じを受けています。
弁護士・裁判官・その他民間の方の意見も幅広く取り入れて、立案した方がいいのではないでしょうか。
特に、ニーズがないような改正は、実務家から反対されて、国会にたどりつかない可能性もありますから。

Q21
>A6
>持分会社は、多数決ではなく、社員の全員一致によって重要な意思決定をす>る点に意味があり、実際に、合同会社は、沢山、利用されています。
とありますが、590条2項では「社員が2人以上ある場合には、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定する。」と
なっております。
ということは、定款に別段の定めをして、「全員一致」とすることが常態化しているということなのでしょうか。それとも「業務」は「重要な意思決定」でなないということなのでしょ

うか。
投稿: 安直な初心者 | 2009年2月25日 (水) 14時50分
A21
合同会社をどう使うかは、人それぞれなので、何が常態化しているかというのは、私にもよくわかりません。株式会社よりも、各会社の定款に個性があるように思います。

Q22
葉玉先生の高校の後輩が、今度の日曜日にテレビに出ます。
もし、お時間があれば、ご覧に・・・
毎日放送(TBS系) 情熱大陸 3月1日 23:00~
上田泰己氏(理化学研究所)
http://www.mbs.jp/jounetsu/
投稿: カフェ丸 | 2009年2月25日 (水) 23時18分
A22
上田さんは、すごい人です。情熱大陸は、いつも見てます。

Q23
持分会社において社員Aが社員Bに対して持分の全部譲渡をした場合について質問させてください。この場合、社員Aは社員たる地位を喪失して退社し、社員Bの持ち分は増加します。
 この場合、社員Bの持分が増加するということの具体的な意味がよく分かりません。
このことについて、
1、社員Bが将来退社するときの持分払戻額が増加すると言う意味でしょうか
2、持分単一主義により、社員Bの議決権は持分を譲り受けたにもかかわらず、
一議決権のままですよね
という理解で正しいでしょうか? 
投稿: 登記職人見習中 | 2009年2月26日 (木) 00時48分
A23
 1・2ともそのとおりです。

Q24
先生の事務所のサマークラークは、GPAが3.0の私のような学生でもいかせてもらえる可能性はあるのでしょうか。
投稿: naoko | 2009年2月26日 (木) 20時47分
A24
可能性はあります。

Q25
旧商法時に設立された合資会社の有限責任社員について質問させてください。
旧商法時には、合資会社の有限責任社員は業務を執行することを禁じられていました(旧商法156条)
ということは、旧商法時には、わざわざ定款において合資会社の有限責任社員の業務執行を禁じる規定を授けることは少なかったと推測しています。 
 このように、旧商法時に定款において合資会社の有限責任社員の業務執行権を禁じる規定がなかった場合、この合資会社の有限責任社員は会社法上、業務執行権を有するのでしょうか


 整備法66条3項では、旧合資会社の定款は存続する合資会社の定款とみなされます。ということは、旧商法時に業務執行権を禁ずる旨定款に記載がなければ、存続する定款にも業務執行

を禁ずる旨の記載がないとみなすと考えられます。
 この場合、存続する合資会社の有限責任社員は業務執行権を有するとされるのでしょうか?
投稿: 登記職人見習中 | 2009年2月26日 (木) 22時46分
A25
 理論的には、定款の解釈の問題です。定款に明確に書かれていないから、業務執行権を有すると考えるのが素直だと思いますが、制限していると解釈することも不可能ではないように

思います。

Q26
 合資会社において、業務を執行する有限責任社員が無限責任社員に持分全部を譲渡した場合の同意書の記載方法について質問させてください。
 前提として、無限責任社員をA、有限責任社員をB,C,Dとします。この場合において①有限責任社員Bが無限責任社員Aに持分を全部譲渡します。
 次に②有限責任社員Cが無限責任社員Aに持分を全部譲渡します。
 このとき①においてⅠBからAへの譲渡及びⅡBを削除、Aの持分増加の定款変更につきACDの同意が必要となります。
 また②においてⅡCからAへの譲渡及びⅡCを削除、Aの持分増加の定款変更につきADの同意が必要となります。(Cは、すでに退社済みなので②の同意権者ではない)
 この場合、①②を同一の書面で同意の対象とした場合の同意書の記載をうまくかくことはできないでしょうか?
 ①ⅠBからAへの譲渡→②ⅡCからAへの譲渡→③B及びCの削除、Aの持分増加の定款変更という順に記載し、同意権者としてACDに押印してもらうと③において退社済みのCま

で同意をしているような記載になってしまいます。
 このような記載の仕方でやむを得ないのでしょうか?
 もしくは、一枚の同意書の中に①ⅠBからAへの譲渡及びⅡBを削除、Aの持分増加の定款変更②ⅡCからAへの譲渡及びⅡCを削除、Aの持分増加の定款変更という順に記載し同意

権者としてACDに押印してもらったほうがまだわかりやすいのか(②においてCも同意しているような記載になっているが項目をわけたのでわかりやすい?)、もしくは他にいい案が

あるのか、先生のご意見を聞かせてくださいませんか?どうぞよろしくお願いいたします。
投稿: 登記職人見習中 | 2009年2月26日 (木) 23時44分
A26
 わざわざ一枚で処理しなくてよいのではないでしょうか。

Q27
 葉玉先生こんにちは。「副検事」について質問をさせてください。
 私は現在ロースクールの学生で、将来、検察官検事、もしくは、検察官検事になれなかった場合、検察官副検事になりたいと考えております。
  現在、副検事になるためには、数種のルートがあると思いますが、私は、検察庁法18条2項1号で定められる、「裁判所法66条1項の試験に合格した者」、すなわち司法試験合

格者として副検事になるための考試を受けようと考えています。
 そこで、葉玉先生に質問をさせていただきます。
例年、副検事受験者は200人程度で合格者は20人程度ですが、そのうち、司法試験合格者あるいは弁護士有資格者の受験者・合格者はどれくらいなのでしょうか。
 また、選考基準に、筆記試験・口述試験の結果並びに「調査書」等と書いてあるので、検察事務官や裁判所事務官以外の出身の受験者は、「調査書」はどのように考慮されるのでしょ

うか。
 わかる範囲で構いませんので、回答よろしくお願いします。 
投稿: ロースクール生 | 2009年2月27日 (金) 09時29分
A27
 なぜ司法試験に合格しているのに、副検事なのか、よくわかりませんが、私の知る限り、司法試験合格者の副検事というのは聞いたことがありません。また、司法警察員等としての捜

査についての実務経験が全くないまま、副検事は厳しいのではないでしょうか。

Q28
会社法436条計算書類等の監査について質問をさせてください。
436条は、各事業年度にかかる計算書類および「事業報告」並びにこれらの付属明細書について、会計監査権限定の監査役であっても監査をしなければならない旨が規定されています

が、
会計監査権限定の監査役がなぜ「事業報告」を監査できるのでしょうか?
投稿: Tです。 | 2009年2月27日 (金) 19時37分
A28
会社法施行規則129条2項を見てください。

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2009年2月 1日 (日)

会社法施行規則等改正案

ご存知の方も多いと思いますが、現在、会社法施行規則・会社計算規則の改正案がパブリックコメント中です(2月27日まで)。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080050&OBJCD=&GROUP=

これが、なかなか大きな改正ですので、会社法の実務に携わる皆様は、特に会社法施行規則を読んで、法務省に建設的な意見を送っていただけると、民事局も喜んでくれると思います。

たとえば、
改正案122条に「当該種類株式」とありますが、同条には「種類株式発行会社」という文言は出てきているものの、「種類株式」という文言は出てきていないので、「当該」では受けられないし、まして「当該種類株主」という文言は、全く出てきていないので、「当該」は使えない
というような形式面の指摘でも、立案担当者は大変助かるはずです。

実質的な中身については、合理的な改正や従来の解釈をより明確にしたものが多いので、その点は賛成意見を法務省に出しましょう。パブリックコメントは、賛成する人はあまり意見を出さないので、意見だけ見ていると、反対ばかりに見えてしまうので、賛成意見もほしいでしょう。

他方、【H21.2.3追記 初出時「第20条のように会社のファイナンスの自由度を制限する条項」と書きましたが、逆に、自由度を増す条項でした。謹んで訂正させていただきます)「王政復古」的な改正もあります。

たとえば、改正案122条は、大株主の氏名等について、「発行済み株式の10分の1以上」から「上位10名」に戻っています。こうした改正は、私のように会社法を飯の種にしている弁護士にとっては、仕事が増えてうれしいのですが、上位10名に戻さなければまずいような出来事があったとも思えず、
  あえて今変更しなければならないのかなあ
と不思議に思います。

ただ、この改正は趣味の問題なので、最後は、どちらでもいいのですが、改正案34条の単元株式数の設定について
  「発行済株式の総数の二百分の一に当たる数」
を追加する改正は、改正をなすべき実質的な意味もなければ、会社法の規定とも整合しない不合理なものです。

この改正案は、要するに
  単元株式数を設定するときには、最低200単元以上になるようにしなさい
というルールであり、旧商法にあったルールを会社法で排除したものです。

このルールは、
  発行済み株式総数は、200株以上にしなければならない
  株式の併合により、200株未満になる場合には、株式の併合をすることができない
というルールが存在する場合に、はじめて意味を持つ規定であり、
  1円出資で1株の株式会社が存在する会社法の世界で、なぜ200単元以上ないと単元株式数が設定できないのか
  種類株式発行会社で、無議決権株式等を含めた「発行済み株式の総数」を基準とすることに、何の合理性があるのか
私には、全く分かりません。

 実質的に見ても
 株式市場は、単元が取引単位になっている関係で、200単元等という上場会社はありえず、この規定は上場会社には無関係な規制であり
 多くの非上場会社では、「単元株式数」を設定するほどの株式を発行していない上、単元株式数を設定する定款変更ができるオーナー株主ならば、少数派株主をスクイーズアウトすることも可能であり、わざわざ200単元以上という制限を設ける必要性もない
と思います。
そもそも200単元という数自体が
  最低資本金1000万円÷1株あたりの純資産額最低5万円=200単元
という、いずれも、会社法で存在しない制度をもとに算定された数なのですから、
  会社法において、なぜ200単元という数が基準となりうるのか
という点も、問われるべきです。

 また、単元株制度ができた平成13年当時の少数派株主の保護のあり方と、ブルドック事件を始め買収防衛策の採用が一般的となり、全部取得条項付種類株式や現金対価株式交換を用いたスクイーズアウトが多数行われている現在における少数派株主の保護のあり方は、根本的に変化しており、ここで200単元基準を復活させるのは、
  時代遅れ
というほかありません。

 しかも、仮に、この改正により
  既に200単元未満になっている会社が、変更登記をしなければならない
ということになれば、法務局は、全株式会社について200単元未満になっていないかどうかをチェックしなければならないし、会社は、会社法施行規則の改正によって、実質的な不利益を受けることになります。

当然、経過措置を置かれると思いますが、
 200単元未満の会社は許さない
という価値観で会社法施行規則を改正するのならば、猶予期間を置いて
 変更登記の義務を課す
ことにならざるをえないのではないでしょうか。

 この改正案は、
   既存の適法に登記している会社に対し、省令改正により、登記義務を課すことが許されるか
という憲法問題を含めて、検討すべきもので
   そこまでして、こんな意味のない不合理な改正をする必要はない
というのが、私の感想です。

【H21.2.3追記 経過措置を置くようです。ただ、自己株式の消却により発行済み株式総数が減少する場合などは、どうなるのか、よく分かりません。改正前の単元株式数がずっと有効であるという経過措置だとすると、なぜ200単元規制を復活させるのかよく分かりません。定款変更により少数株主の議決権を奪うのがまずいというのならば、設立時から単元株式数を規制するのは過剰規制ではないでしょうか。こうした問題が起こるのは、すべて、200単元規制がナンセンスな規制だからです。】

 昔、現行の会社法施行規則を制定したときに、200単元の規制を撤廃したときに、ある学者の先生から
  法制審議会で議論すべきだ
と批判を受けましたので、元に戻す場合も、法制審議会で議論した方がよいでしょう(笑)。

 以上のように改正案34条は
  多くの会社にとってほとんど意味がなく
  少数は株主の保護にも役に立たず、
 一部の会社には無意味に登記義務を課すという有害で、憲法違反の疑いがあり
 しかも、会社法との論理的整合性もない
ものであり、私は、この案だけは、削るべきだと考えます。

 せっかく書いたので、このブログを、このままメールにして、パブリックコメントに投稿しようかなあ、という気持ちになりました。私の意見に賛同していただける方がいらっしゃれば、ぜひパブリックコメントに応募してください。
 
(質問コーナー)
Q1
非取締役会設置会社(特例有限会社も同じ)の業務執行は、取締役の過半数で決定する(会社法348条2項)とありますが、取締役会設置会社における取締役会議事録のように、何か証拠となるものを書面などで残しておく必要はなく、任意の方法で決をとればよいのでしょうか?
そうであれば、株主3名全員が、そのまま取締役であるというような場合、株主総会を開くのも取締役会を開くのも手間はほとんど同じなので、取締役会を設置するよりも楽という気がしております。3か月に1回以上の業務執行報告取締役会も開催しなくて済むかと思いますので・・・。
投稿: 悩める法務担当者 | 2009年1月22日 (木) 13時08分
A1
 そうですね。非取締役会設置会社の方が楽です。

Q2
法学教室2月号で連載されている「事例で考える会社法」64頁で、
「東京高裁決定・平成20年6月12日」が、
125条3項3号を立証責任の転換規定と解したことで、
会計帳簿閲覧請求(433条)と株主名簿閲覧請求(125条)の拒絶理由は、
条文は同じ構造だが、株主名簿閲覧請求の拒絶理由だけ(125条3項3号)は、
立証責任転換規定だとしていると書いていますがどうなんでしょうか??
そんな解釈できるんですかね??
投稿: 太郎 | 2009年1月22日 (木) 17時02分
A2
私は、実質的には、同じ結論になりますが、拒絶権の権利濫用と考えた方がよいと思います。

Q3
非取締役会設置会社に関して3点お教えください!
① 株主総会で、例えば自己取引の承認を株主総会で決議する場合、利害関係を有する取締役は議長になれますでしょうか?
② ①の場合で、利害関係を有する取締役(議長を含む)が株主であったとしても、総会で議決権を行使できると考えて良いでしょうか?
③ 総会で決議する程でもない案件を、取締役の過半数で決する場合において、当該案件について利害関係を有する取締役がいるとき、その人は決を採ることに加わることができますでしょうか? 会社法348条2項は、同369条1項のように「議決に加わることができる取締役」というようには表現されていないので、加われるのではないかと考えておりますが…。
投稿: リアルヴォイス | 2009年1月22日 (木) 17時49分
A3
① なれます。
② できます。
③ できます。

Q4
いきなりで失礼なのですが、基準日に関して質問させてください。
(1)新・会社法百問51(296ページ二1)では、、基準日後に株式の第三者割当てを受けた者に対して議決権を付与できるかという問題について、「Cの議題提出権等の持株要件には影響を与えないから、」124条4項ただし書にはあたらないとされています。しかし、124条4項ただし書の、「当該株式の基準日株主権利」という文言からすれば、同ただし書は基準日の時点で存在していた株式についての条文であって、基準日後の第三者割当てのような場合にはそもそも適用がないように読めるのですが、いかがでしょうか。
(2)同じ問題についてのなのですが、297ページ二2において、議題提出権等の継続保有要件は、議題提出権等の行使日と基準日のいずれか遅い日まで充たし続ける必要があるとされており、その理由づけとして、「①議決権のない者に議題提出権のみ認めるのは不合理である」という点が挙げられています。しかし、本問においては、新株発行によって1%の保有要件は下回っているものの、議決権がなくなっているわけではないことから、上記の理由づけは説得的ではないように思えます。この点についてはどのように考えればよろしいでしょうか。
投稿: カリヨン | 2009年1月22日 (木) 23時00分
A4
(1) 124条4項は、基準日後の株式を発行を主として念頭においている規定です。
(2) 一般的な規範とあてはめを区別した方がよいでしょう。

Q5
会社法以外の質問で恐縮ですが、私も現在、小学2年生の子供を持っています。
先生は、「中高一貫の良さを長男にも経験させたいと思い」とありますが、
中高一貫の良さって具体的に何ですか??
私も、子供の進路を考えるのですが
私は中学受験したこともないし、私が小学生の頃は中学受験する子供なんて学年に1人いる程度で、中学受験に関してよくわからないですし。
中高一貫を経験したことがないのですが、
やはり先生のように上りつめた方から見ても中高一貫のほうが子供は伸びると思われますか??
投稿: 親子 | 2009年1月23日 (金) 00時13分
A5
 中高一貫もいろいろだと思いますが、私の母校久留米大学附設中学高校は、その良さを生かしている学校でした。
 私は、長年教える側だったので、生徒を伸ばす授業をするためには
  1 生徒の能力が均等であること
  2 習得スピードに応じた授業のスピードを確保できること
  3 同じことを角度を変えて、繰り返し教えること
が重要な要素であると感じています。
 中高一貫校は、中学受験を通じて、
  ある程度能力が均等の生徒に一から教えることができる
  能力の高い生徒を集めることで、授業スピードをあげられる
  6年間同じ先生が同一科目を教えることもできるので、計画的に反復をさせることができる
等のメリットもあります。
 また、友達も、中学から高校という思春期をともにすごすと
  30年経っても、あっという間に昔に戻れる
ような友達ができます。

Q6
はじめまして。いつも楽しく拝読させていただいております。
質問なのですが、新株予約権の行使に基づく株式の発行を差し止めることはできるのでしょうか。
判例タイムズ1282号の「ピコイ新株発行差止事件」で認められているのですが、判決文を読む限りでは特に争点とはなっていないのですが、210条または247条の文言とは整合しないような気がします(ちなみに判タは参照条文として247条を掲げています)。また、これが一般的に認められると、新株予約権者に新株予約権の取得額相当の損害が生じてしまい妥当でないと思います(もっとも、当該事件では無償割当のようです)。
手元の基本書等に当たっても判然としなかったので、ご教示頂けますでしょうか。宜しくお願いします。
投稿: 法科大学院生 | 2009年1月23日 (金) 01時42分
A6
 論点ではありますが、仮の地位を定める仮処分で差し止めをすることができると考えます。

Q7
当社非公開の会社です。今、合併といいますかM&Aの話があります。
相手も非公開の会社で、株式の取得による方法を考えていますが、
双方とも取締役会を設置しています。
この場合、発行済みの株式をそれぞれの株主が譲渡するについて
取締役会で承認をするだけでいいと思うのですが、その場合、
発行済み全株式について譲渡が結果的になった場合、完全子会社に
なると思うのですが、株式移転の場合、株主総会での承認が必要と
されているようですが、結果的に100%譲渡であっても、株主
総会での承認は必要なく、取締役会での譲渡承認だけで問題は
無いのでしょうか。

投稿: ご苦労さん | 2009年1月23日 (金) 11時30分
A7
譲渡ならば、取締役会の承認で結構です。

Q8
自己株式の消却が合理性を欠く件、なぜか投資家さんが理解してくれないので発行会社としても困っています。やむなく消却要請に応じるにしても、「希薄化防止」を理由にしてはうそになりますし、不合理と思っているので、開示文書が歯切れの悪いこと。財務指標の1株当たり情報では、分母から自己株式を除く(会計基準による)ので、こちらにも影響はありませんし。取引所を巻き込んで教育キャンペーンでも行うしかありませんかね。
投稿: 金庫株番 | 2009年1月23日 (金) 20時43分
A8
本当にそのとおりですよね。
まあ、世の中は、合理的なことばかりではないですが。

Q9
先生のいつも明朗かつ端的な回答に毎回感銘を受けているものです。
この時期に突然法務省から択一の配点が半分になることが発表されました。
この点について先生はどうお考えになるか聞いてみたく質問しました。
個人的には嬉しい変更なのですが、周囲は戸惑っている人が多いみたいです
投稿: 三十路 | 2009年1月23日 (金) 23時53分
A9
択一の点と論文の点は、相関関係にあるので(択一のできる人は論文もできる、択が苦手な人は論文も苦手)、実は、あまり関係ないように思います。

Q10
会社法第298条(株主総会の招集の決定)および同施行規則第63条(招集の決定事項)についてのご質問です。(当該会社は取締役会設置会社で、株主による招集の場合は除くものとします。)
前回の株主総会招集に関する取締役会において、招集決議事項とあわせて、「以後当社が開催する株主総会については、別段の決議がない限り、当該決議事項を有効なものとする」と決議することにより、今回の株主総会招集に関する取締役会決議を一部省略することは可能なのでしょうか。
例えば、前回の取締役会決議において、「日時:事業年度末から××日を経過した後の最初の木曜日、場所:○○市△△ □□ホール、株主総会に出席しない株主は、書面(電磁的方法)によって議決権を行使できる…」と決議している場合、当該事項に変更がなければ、当該事項については、今回の取締役会で決議しなくともよいのでしょうか。
施行規則63条に規定される事項(特に3号ロハニヘ)については、このような扱いをすることができると解される、とする実務書が多いようです。この扱いは、298条1項の各号(2号はさすがに無理だと思いますが…)においても、することが可能なのでしょうか。
以前、当ブログで「298条1項各号に掲げる事項は、複数回の取締役会決議等で決定することが予定されている(施行規則67条参照)」との記載を見た記憶があるのですが、上記は、まさにこのようなケースと理解すればよいのでしょうか。また、310条2項には「株主総会ごとに」との文言がありますが、298条ではそのような文言が特にないことから、上記のような扱いができると理解すればよいのでしょうか。
投稿: ツェーベーツェー | 2009年1月24日 (土) 13時34分
A10
 決議を一部省略するというよりも、前の決議で決められたことを取り込んで、決議をするという方が正しいでしょう。
 それは、決議内容の解釈の問題に過ぎず、適宜、かつての決議を援用することは可能でしょう。

Q11
前回Q6&A6の続きです。
監査役監査規程、監査役監査基準や監査役会議事録等は、取締役、監査役のどちらが整備すべきものでしょうか?
金商法上の内部統制に関して、「監査役の監査を適切に行いうる体制の整備」が全社統制評価項目の4,5辺りで問われており、評価を有効とするためには監査役監査規程、監査役監査基準や監査役会議事録等を整備する必要があると考えられます。
もしこれらを監査役が整備しなければならないとし、実際に監査役により整備が行われているとすれば、結果として内部統制上の統制環境の一部の整備を監査役が行っていることなりますが、その場合には監査役も内部統制整備の一翼(あくまでも一翼です)を担っていると考えることはできないでしょうか?
投稿: hiro | 2009年1月24日 (土) 15時30分
A11
監査役監査規定、監査役監査基準、監査役会議事録は、監査役会ないし監査役が作りますが、それは、会社法の善管注意義務や議事録の作成義務を果たすために作成するものであって、金商法の内部統制整備の一環として行うものではありません。

Q12
議題提案権(303)についてですが、
非公開会社かつ取締役会設置会社には議決権数要件を課しているのに、
非公開会社かつ取締役会非設置会社には議決権数要件を課していない、
これはなぜでしょうか。
私が学んだ範囲では「前者には議題提案権の濫用の余地があり、後者にはないから」という理由が思い当たりますが、どちらも非公開会社である以上、どちらにも濫用の余地はないのではないかと思われて仕方ありません。
濫用といえば総会屋や市民団体による濫用が思い浮かびますが、譲渡制限がかかっている以上、彼らのような方々による濫用の危険は、いずれにしても考える必要はないと思うのです。
非公開会社からスタートして更に類型分けをし、制限に違いを設ける必要が本当にあるのでしょうか。
これに派生して葉玉先生は
「非公開会社かつ取締役会設置会社」
をどのような会社とイメージしておいでなのでしょうか。非公開会社かつ取締役会非設置会社については所有と経営の分離を前提としていない家族経営の会社などを思い浮かべられますが、上についてはいまいちピンときません。
よろしくお願いいたします。
投稿: yasuchan | 2009年1月25日 (日) 11時06分
A12
旧有限会社と旧譲渡制限株式会社の違いでしょう。

Q13
先生、はじめまして。上場はしておりませんが、上場企業との取引がある地方中小企業の総務法務担当の者です。みずほセミナー「反社会的勢力の排除・関係遮断への組織的実践」(成21年3月2日)に参加させていただきます。
 基本方針の策定、一応の社内教育、暴排条項の装備は行いましたが、データベースについては構築や運用のノウハウ・ドゥハウがなく、田舎弁護士さんに聞いても、金融機関さまに聞いてもいまひとつな状況です。
 今回、有意義なセミナー参加にいたしたく存じますので、事前に確認しておくとよい資料、書籍やWEB情報等がございましたらご教授のほど、よろしくお願いいたします。また、BLOG記事でも反社会ネタを扱っていただければ幸甚です。m(_ _)m
なお小職では、次の確認をいたしております。
・BLOG内をキーワード検索
・「ビジネス法務 2009.3 特別企画」
・指針、指針の解説
・第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会のHPの確認
・「共生者」、「ヤクザマネー」、「ブラックマネー」
・「反社会的勢力関係遮断チェックリスト」
・「内部統制による企業防衛指針の実践」
投稿: | 2009年1月25日 (日) 12時23分
A13
それだけ勉強されていれば、十分です。
セミナーでは、かなり生々しい実践的な話をします。

Q14
進路に悩んでます。
以前司法試験を受験した動機についてのお話がありましたが、その後どの段階でどのように変わっていったのでしょうか?
弁護士の仕事は、やっているうちに意義などがわかってくるものでしょうか?
投稿: 受験生 | 2009年1月25日 (日) 15時51分
A14
 私は、弁護士の仕事に「意義」があるからやっているのではなく、好きだからやっているだけです。
 「意義」を求めるのならば、自分で意義を考えればよいし、わざわざ「意義」を求める必要もないように思います。

Q15
自己株式の消却について、おっしゃる通りだと思いますが、若干の補足です。
自己株式の処分の場合、金融商品取引法では売出しに当たり、第三者割当を行う際に、実務上、有価証券届出書、通知書による開示を不要としているようです。
企業の財務担当者としては、有価証券届出書を作成する手間は相当大変であり、自己株式を消却した場合、特定の相手先(持合先など)に対して、開示なしで割当できるというメリットを放棄することになるのではないでしょうか。
投資家やアナリストがそんなことまで考えているとは思えませんが・・・・
投稿: 竹下ゼミOB | 2009年1月26日 (月) 10時45分
A15
これまた、全くそのとおりです。

Q16
困ったことが起きそうで、ご質問させていただいております。ぜひともご教示くださいませ。
小さい株式会社で、株主は10人程度です。取締役会決議により書面投票制度を採用し、株主総会を開催しようとして、招集通知と議決権行使書用紙を株主に送付したところ、株主全員から行使書が返送されてきた場合、出席株主はいなくなってしまいますが、どのように開催したらよいのでしょうか? 無人の株主席に向かって、淡々と議事を進行したらよいでしょうか?
当日、先に行使書を返送した株主がやっぱり出席したいと言ってやって来るかもしれませんし、開催しないわけにはいかないと思っております。
投稿: いさりび | 2009年1月26日 (月) 12時13分
A16
無人でも開催しましょう。行使書を送った株主も出席株主です。

Q17
質問ではないのですが、一言お礼を言わせて下さい。
自分は、働きながら独学で司法書士試験の勉強をしているのですが、去年の秋に、腕試しに行政書士試験を受けたところ、こちらの方は本日結果発表で、合格する事ができました。
会社法については、このブログの入門編で、テキストだけでは解らない事を1から学ばせてもらっていたのです。
初学者にも優しく、かつ読んで楽しく学べるこのブログと、そして葉玉先生へ、本当にありがとうございます。また、これからも引き続き勉強させて戴きます。失礼致します。
投稿: ニャア | 2009年1月26日 (月) 21時25分
A17
おめでとうございます。
勉強になるようなことや、無駄なことなどを取り混ぜてこれからもがんばります。

Q18
親会社が子会社株式を売却する以外に親会社としての地位を失うパターンについて質問させていただきます。
とりあえず、典型例としては、子会社が第三者割当増資を行うとか、子会社がある会社から事業を譲り受け対価として株式を発行した場合に親会社の持分が減少するとかが考えられます。
その他にも何か典型例等あれば御教示いただければ幸いです。
投稿: ポン | 2009年1月26日 (月) 22時47分
A18
子会社が第三者に株式を交付する場合は、たくさんあります。新株予約権の行使とか、取得条項付株式の取得の対価として株式を交付する場合とか。

Q10
今回のブログに、「中高一貫の良さを長男にも経験させたいと思い」ということがありました。
実は私も中高一貫でしたが必ずしも子供に中学受験をさせたいという訳ではないというより、むしろさせたくないかな、と思っております。
私が通っていたところは都内でもそれなりに進学実績があるところで、私もそれなりの大学は卒業できましたが、学校内が勉強第一で中高の思い出のうち勉強が占める割合が多く、また男子校だったのでそういった面の思い出もなかったので、必ずしも中学受験したことがいいとは言い切れないかなと感じているからです。
ですので子供(まだ低学年です)を公立に進ませたほうがいいかと思っているのですが、葉玉先生が中高一貫がよいと感じられたところを教えていただけないでしょうか?(私が見逃している視点があるかと思うので。)
投稿: KK | 2009年1月27日 (火) 00時27分
A10
 学校によるのではないでしょうか。
 私は、あまり「勉強第一」という感じではなかったです。
 柔道部や演劇部の思い出や
 友達とむちゃくちゃなことをやっていた思い出
 の方が強烈です。
 附設は、基本的に自由な学校でした。

Q11
企業法務をするにあたって、葉玉先生は税務と会計が必須だとおっしゃられましたが、
就職の際にその能力を判断する基準はどのようなものなのでしょうか。
事務所によってその判断は様々だとは思われますが、
たとえば、税務だと税理士試験の法人税法だけ合格するとか、会計だと、簿記1級を取得するというのは、どのような評価なのでしょうか。
というよりは、まず事務所に入ってから、身につけるスキルなのでしょうか??

投稿: ほいほほい5 | 2009年1月27日 (火) 10時18分
A11
評価は、面接担当者によって違うのではないでしょうか。
資格があれば、それだけ客観的な根拠になるし、なければないで、どういうことをやったのかが明確に話せるのならば、プラスにすることもあります。

Q12
勉強の進め方についてご教示下さい。
個別の論点の論証はそれぞれ暗記をする必要があるでしょうか?先生は論証の暗記をなさいましたか?もし、論証の暗記をなさったのであれば、どのような点に留意して暗記をされましたか?また、具体的にはどのような方法で暗記作業を行われましたか(ツール、時間帯など)?
投稿: hiro | 2009年1月27日 (火) 13時23分
A12
 論証の丸暗記は無意味です。
 キーワードやキーフレーズが自然と頭に浮かび、それをその場で文章化する能力は必要です。
 私のノートは、キーワードと矢印と接続詞しかなく、私以外の誰も読めませんでした。
 「東大生のノートは例外なく美しい」という本があるそうですが、
 私は、例外に該当します。

Q13
1、新司法試験の配点変更は合格率で東大を凌駕する一橋、慶應、中央の3校を懲らしめるための高橋宏志氏のお灸だとの見解がまことしやかに人口に膾炙しています。この当否、適否、是非につき貴殿はどうお考えですか。
A13
 高橋先生に聞いてください。
 大変、馬鹿馬鹿しい意見です。
 東大ローの合格率が低いのは、受験勉強をしていないからではないでしょうか。

Q14
2、貴殿はごじぶんが資本の犬であるとのご自覚がありますか。
A14
 私は犬というより、熊に似ています。

Q15
3、貴殿はことわざの飼い犬に手を噛まれるよろしく資本を噛んだことがありますか。
投稿: 苅部徂徠 | 2009年1月27日 (火) 23時04分
A15
 資本を噛んだことはありません。

Q16
いわゆる「信託型ライツプラン」には,自ら委託者となる「直接型」と,間にSPCを介在させて委託者にさせる「SPC型」があると理解しています。しかしながら,間にSPCを介在させることに何の意味があるのか,いまいちわかりません。
形式的にでもSPCを委託者にすることで,直接型と比較して,何かメリットがあるとか,何らかのリスクヘッジになるのでしょうか?
投稿: 信託型ライツプラン | 2009年1月29日 (木) 10時27分
A16
SPC型の中身をみないと分かりません。
SPCを噛ませることにより、信託的譲渡が、会社の計算による自己株式の取得にならないようにしているんでしょうか?

Q17
株式会社の決算公告について質問があり、メールさせていただきました。
会社法第440条第3項の規定は、5年間提供を継続することを求めていますが、ホームページ等で決算公告をしている会社が、解散し清算結了する場合は、清算結了時まで提供が継続されていれば、法令を順守したことになるのでしょうか?
会社法第509条第2号で、第440条第3項が除外されていることからすると、清算会社にも同項の適用があり、5年間提供を継続することが必要にも読めますし、清算結了してしまえば(そもそも「清算会社」ではなくなり)、ホームページ等は当然閉鎖しますので、提供は必要ないようにも思います。
投稿: 夢男 | 2009年1月29日 (木) 15時57分
A17
清算結了により法人格が消滅するので、公告義務もなくなると考えるべきでしょう。
Q18
はじめまして、ペンギンと申します。くだらない質問ですがよろしくお願いします。
①、「通説」「多数説」などとありますが、ある説がどれに該当するかは法学会にて決められるのでしょうか?
②、最も権威ある学者数名が唱えるA説と、その他大勢の学者達が唱えるB説となら、どちらが有力になるのでしょうか?
③、会社法において最も権威ある学者はどなたでしょうか?

投稿: ペンギン | 2009年1月31日 (土) 21時55分
A18
① 教科書や論文を書く人の主観で決められます。
② A説です。
③ 「最も」という冠は、危険です。私に踏み絵を踏ませないでください(笑)。
権威のある先生でも、間違っていることだってあるし、
裁判所が、権威のある先生の意見書ではなく、権威のない先生の意見書を採用することも、頻繁にあります。
私は、誰が最も権威があるかより、誰の見解が一番説得的か、の方が大事だと思います。

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2009年1月22日 (木)

自己株式の消却

 現在、長男が中学受験の真っ最中で、願書の提出や受験の付き添いで、仕事以外の時間がふさがっております。

 自分が中学受験をしたころと比較して、問題が難しくなったように感じますが、テキスト等は飛躍的に良くなっており、レベルの高い勝負をしていますね。

 私は、中高一貫の良さを長男にも経験させたいと思い、小学3年生の頃から徐々に意識付けと勉強をさせてきました。なだめたり、すかしたり、怒鳴ったりの繰り返しの中、頑張ってきた長男の努力のことを思うと、本番間近の今、本当に「合格してもらいたい」という気持ちで一杯になります。

 長男もきっと不安を抱えていると思います。ただ、親も、期待と不安を抱えながら、ただ見守ること、励ますことしかできず、隔靴掻痒の思いで、アシストを続けなければなりません。
 これまで、司法試験受験生には
  「お前だけで受験してるんじゃない。親御さんが支えているからお前は受験できるんだ」
等と言って叱咤激励してましたが、自分が受験生の親になってみると、本当に親が支えなければならないことは多く、苦労の連続です。
 子供のために苦労するのは親の喜びですから、それ自体がつらいわけではありませんが、友人達が言っていた「自分が受験した方が気が楽」という言葉が胸に染みる今日この頃です。
 
 さて、本日は、自己株式の消却について、お話しします。

 先日、新聞で、最近、上場企業が自己株式の消却をする件数が増えたという趣旨の記事が載っていました。

 そういえば、最近、自己株式の消却の開示が多いような気がします。
 自己株式の消却の理由として上がっているのは
  資本効率の向上
  発行済み株式数の減少を通じた株主の利益の増進
等ですが、ほとんどは理由を書いていません。

 実際、機関投資家等の株主が、株式の希薄化を防止するという理由で上場会社に自己株式の消却を提言することもあり、上場会社側も、大量の自己株式を使用するあてもないので、消却してもかまわないと思って、消却しているのでしょう。

ただ、正直いえば、株主が、緊急の必要性がないにもかかわらず、自己株式の消却を求めるのは、法的には、無意味であるのみならず、株主の利益を自損することになります。

旧商法においては、自己株式の消却をすることにより、授権枠が縮減していたため、株式の希薄化を防止するために、買い入れた自己株式を消却する意味がありました。

しかし、会社法では、自己株式の消却をしても、授権枠が縮減しないため、消却では、株式の希薄化を防止することはできません。

たとえば、発行可能株式総数 1億株、発行済み株式総数5000万株の会社が、1000万株の自己株式を取得したとします。

この場合、会社が、新株の発行または自己株式の処分のための募集手続をすることができる株式数は、6000万株(=1億株-(5000万株-1000万株)となります。

他方、会社が、自己株式1000万株の消却を行い、発行済み株式総数が4000万株に減少した時点で、会社が、新株の発行のための募集手続きをすることができる株式数は、先ほどと同じ6000万株(=1億株-4000万株)です。

自己株式の消却により、発行可能株式総数が1000万株減少するという旧商法の解釈ならば、9000万株-4000万株=5000万株の授権枠となり、株式の希薄化の防止につながりますが、自己株式の消却では、発行可能株式総数は減少しないので、
 「株式の希薄化の懸念を払拭するために、自己株式の消却を行う」
というのは、間違いです。

 もし、その目的を達成したいのならば、発行可能株式総数を減少させる旨の定款変更決議を行い、登記すべきであり、そのような定款変更を行わずに、自己株式の消却を行うことが、株主の利益になるものとは思えません。

あえていえば、定款において、「自己株式の消却が行われた場合には、発行可能株式総数は、当然に減少する。」旨の定めがあれば、授権枠の減少を認める余地があるものの、それでも、発行可能株式総数の減少を行う旨の変更登記は必要となるでしょう。

そもそも、会社法では、新株の発行と自己株式の処分の募集手続は、同一であるため、代表取締役が勝手に自己株式の処分をすることはできませんし、違法な自己株式の処分であれば、株主が差し止めることも可能であり、株主の立場からすれば、どちらの方法によっても、既存株主に与える影響は同じです。

自己株式の処分という制度があるのは、募集手続や新株予約権の行使等株式を交付すべき場面において、発行済み株式総数や資本金を増加させることなく(=登記をすることなく)、株式を交付させるためです。

資本金が増えれば、登録免許税がかかりますし、新株予約権の行使等株式の交付が少数づつ行われる場合には登記手続きの手間と費用を回避するために、自己株式の処分が最良の方法です。

したがって、自己株式の処分は、会社のコスト削減のために有益な制度であって、株主に何の不利益ももたらしません。

もし、自己株式を多数抱えた会社が、資本金を増やすために新株発行をしたいと考えるのならば、その時点で自己株式の消却手続きをすれば、授権枠はそのままで新株発行をできる枠が広がります。手続きは、上場会社であれば、自己株式を記録した口座を管理する証券会社等に抹消の申請をすれば、すぐにできるので面倒なことは何もありません。

このように必要もないのに、自己株式の消却をすることは、株主にとって何のメリットもなく、会社が、自己株式の処分というコスト削減のためのオプションを奪うだけ行為といえるでしょう。

株式市場というのは、不思議なところで、法律的には誤った考えが、あたかも真実のように株価の上下に影響を与えます。自己株式の消却が、株式の希薄化を防止する効果が全くなくても、投資家が「きっとそういう効果があるだろう」と誤解すれば、株価の上昇に寄与するかもしれません(しかし、株式の希薄化を防止するというのは誤解ですから、誤解に基づき株式を購入したとしても、誰も守ってはくれません。)

法律的に正しいことが、経済的にも正しいとは限りませんが、自己株式の消却は会社の行為なのですから、開示においては、正確にその理由を説明しなければなりません。もし自己株式の消却の理由を開示するのならば、株主に「株式の希薄化が防止できる」というような誤解を与えないことが必要でしょう。
また、自己株式の消却をしても資本の効率化にはつながりませんし、それで株主の利益が増進することもありません。

株式の評価指標のうち、自己株式を含めた発行済株式総数を分母とするようなものは、自己株式を消却し、発行済み株式総数を減少させることにより、評価が上がることもあるでしょうが、それは、数字のマジック=見せかけであり、自己株式の消却により、株式の価値があがることはありません。

以上のように、必要もないのに自己株式を消却することは、会社にとって決してプラスとならないので、個人的には、あまりお勧めはできません。

(質問コーナー)
Q1
新司法試験に向けた学習について、質問させていただければ幸いです。
先生はよく、「基本書を通読したことはない(不要)」と仰っておりますが、その趣旨は、基本書を通読するのは、かえって有害だ、というところまで含んでいないとの理解でよろしいでしょうか。
最近、基本書を読むことの有用性を解く合格者の方も多く、場合によっては積極的に評価すべき点があるようにも思われます。(一貫した視点からの解釈に学ぶ、そこから応用力を養う、穴を作らない、等)
ただ、基本書を読むことが目的のようになって、これを通読することでかえって効率的な勉強が妨げられるならば、本末転倒である、という意味なのでしょうか。あるいは、もっと積極的に、基本書通読に落とし穴があることを指摘するものなのでしょうか。
投稿: 受験生 | 2009年1月 9日 (金) 17時23分
A1
1科目3時間で読めるようになるのであるならば、基本書だろうと、予備校のテキストだろうと何でも構いません。
また、最初に1読するのに、1科目50時間かかるような基本書は、通読は痛毒です。

Q2
昨年、恥ずかしながら法科大学院に落ちてしまい浪人が決定してしまいました。
学部の学歴がパッとせず、しかも今年上位といわれるローに受かっても学部浪人・ロー浪人という2年のマイナスがある状況ですが、英米資本の事務所を熱烈に志望しています。
このような経歴では上位ローに受かり、新司法試験に合格しても夢への道はかなり厳しい戦いになると予想しています。
そのため、この1年を使って法律以外にアピールできる武器を手に入れたいと思っているのですが具体的にはどのようなものが武器となりえるでしょうか。
先生のブログでTMIにおいては「一芸に秀でた」人は強いというアドバイスを参考にしていますが、なかなか思いつかず考えあぐねています。
TOEICは900点台まであと少しなので、それ以外に何かありましたら是非アドバイスをお願いいたします。
投稿: 受験生 | 2009年1月11日 (日) 07時53分
A2
まず、ローに合格してください。
ローに入ってから、英語の勉強をしてください。

Q3
大変お世話になっております(ブログ上で)。
会社法100問についてご質問させていただきます。
P525の(四)(1)の第2段落「間接取引にも該当しない」
とありますが,P355(三)の第2段落の「監査役は取締役と異なり,…業績連動報酬を受け」ないから,監査役の会社との取引は間接取引に当たらないとあります。
ということは,P525のところでは業績連動報酬を強調して間接取引に当たると認定することは可能ですか?
仮に可能なら,自社の取締役が相手方会社の取締役である場合,利益相反の間接取引にあたるのが有力なのでしょうか。それとも当たらないのが有力でしょうか。有力かどうかが不明であれば,葉玉先生のご意見で結構です。
投稿: こんにちは | 2009年1月13日 (火) 00時12分
A3
相手方の単なる取締役なら、間接取引にはなりません。
業績連動報酬であったとしても、原則として間接取引にはなりません。
ただ、取締役が、会社の利益の全部を報酬として取るような業績連動報酬であれば、100%株主のえる利益とあまりかわらなくなるので、間接取引とする余地が出てくるかもしれません。

Q4
訴外Aは、本件建物をXから賃借していたが、AはXの承諾を得ることなく、本件建物の賃借権をYに転貸し、現在はYが本件建物に居住している。Xは、Aの無断転貸を理由に賃貸借契約を解除し、Yに対して建物収去土地明渡請求の訴えを提起した。この訴訟において、「Xの同意」ならびに「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情」という事実の有無が争点となった場合に、
これらの事実についての証明責任の所在について、どのように論じればよいのでしょうか??
投稿: | 2009年1月13日 (火) 17時54分
A4
質問の趣旨がよく分かりません。訴訟物を特定し、法規説に従い、条文から淡々と証明責任を論ずればよいのではないでしょうか。

Q5
本日、買収防衛策のセミナーを受講させていただきました。
非常にわかりやすいご説明をいただき、ありがとうございました。
さて、ひとつ確認させていただきたいことがございます。
買収防衛策発動時には株主総会決議を得ておくことで適法性を高めうる、
というご説明があったかと思いますが、
大規模買付者が東京高裁4類型に該当すると考えられるとして、
取締役会で新株予約権無償割当て決議をした場合に、
裁判所で差し止められるリスクは高いとお考えですか?
投稿: msm | 2009年1月13日 (火) 22時34分
A5
4類型に該当することが疎明できれば、取締役会の決議でも差し止めを受けないでしょう(ただし、著しい財産的損害を与える場合は差し止められる可能性はあります)。

Q6
内部統制(全社統制)に関して、監査役との間に見解の相違があります。
内部統制のQ&A3では、「監査役が監査役の取締役職務執行に対する監視機能の状況について、監査人(監査法人)の確認を受ける。」とされていますが、ここで「確認を受ける」ということは、その前提として、監査役には監査人から確認を受ける事項について整備の責任があり、その根拠は、会社法施行規則上の「監査役に監査役監査の環境整備責任がある」旨の規定(100、105②)である、と考えています。
また、監査人(監査法人)から確認を受ける内容はQ&A3の(注)に記載されており、この点は全社統制の評価項目の一部に取り込まれています。
そこで、監査役が実際に整備を担当している監査役規程等の整備状況の評価の一部を監査役に依頼したところ、「内部統制整備の責任は取締役にあり、監査役が内部統制の評価に関わるわけにはいかない。」とのことでした。
上記回答の根拠には「金商法上、内部統制整備に監査役が責任を負うとは書いてない。」という主張があるようですが、冒頭のような考え方からするとこの主張には実質的に意味がなく、また、監査役が評価に関わることは内部統制整備の責任が取締役にあることと矛盾するものでもなく、かつ実際に整備を担当している監査役こそ整備状況を最も把握しており、全社統制上、監査役監査の環境整備に関して監査役も取締役の評価を受ける立場にある以上、むしろ環境整備の状況について表明すべき立場にあるのではないか。と思われますが、いかがでしょうか?
※弊社では整備状況の評価については、整備担当者による自己評価+独立的モニタリングで行うこととしています。
投稿: hiro | 2009年1月14日 (水) 11時26分
A6
監査役は、会社法上、内部統制の構築義務を負っていません。会社法施行施行規則100条等は、取締役会が内部統制を構築する上で、監査役の監査が適切に行いうる体制を整備することを求めているだけです。
むしろ、監査役が内部統制の構築に携わることは、監査役による内部統制監査が自己監査になってしまうため、避けるべきです「監査役監査の環境整備に関して監査役も取締役の評価を受ける」という点は、やや誤解があり、環境整備は取締役が行い、その体制を自己評価すべきであり、その環境において監査役の監査が機能しているかどうかが評価の対象になるだけであると考えます。
それから、金商法は、内部統制整備義務を課したものではないので、監査役のみならず、取締役ですら、金商法上の義務・責任を負ってはいません。

Q7
2008年7月1日付のブログ(競業避止義務における名義説、計算説に関して論じた部分があるもの)に関連して、質問させていただければ幸いです。

その1:次のような事例で、名義説、計算説から、自分なりに検討したのですが、葉玉先生はどのように考えられるでしょうか。念のため、自分は、現在は計算説に立ちつつも、名義説のほうが実は優れているのではないかと思えてきたところ、単純な事例ながら、計算説・名義説のいわんとしているのは、実は何なのか(バリエーションがあるのでは)、と思い始めているところです。

事例「A社の取締役Bが、C社の取締役となって、C社の名義において、A社と競業取引となる取引を行ったが、Bは、C社の代表取締役Dの夫であったような場合。」

名義説①:C社が名義であるので、取引の結果、Bが利益を得たとしても、規制の対象とならない。Bは、自分が利益を得られると思いつつも、法的効果としては、C社に帰属させようと思っているので。
名義説②:この場合、BとDは、経済的一体性があるので、名義説によっても、実質的には、B名義と同視できる。
計算説①:Bが実質的な損益の帰属主体となるので、規制の対象となる。
計算説②:Bは、Dとは経済的に一体的とはいえない経済・生活実態を有しているので(なお、別産制)、計算説にたっても、承認が必要とはいえない。
A7
BがC社のために取引を行っているのならば、Bは、C社の代理人として取引をしているのではないでしょうか。その際、契約書に「C社代表取締役D」と当事者名が表記されているとしても、意思表示をしているのは、あくまでもBなので、機関方式でC社に効果を帰属させる契約をしているに過ぎません(代表取締役Dが妻かどうかは、全く関係ありません)。そして、当該取引は、第三者C社のためになした取引となります。
 なお、計算説は①②とも成り立たないのではないでしょうか?

 計算説が意味をなすとすれば、「C社に効果帰属するように見えるけれども、C社の帳簿には取引の結果が何も記載されておらず、取引によって得たお金も、Bが公私混同で使いまくっている。」というような場合に、「第三者のために」ではなく、「自己のために」とする点にあるのではないでしょうか。ただ、名義説に立っても、C社という表記が、単にB個人の屋号として使われているだけで、その法的効果がBに帰属すると認定されるような場合は、「自己のために」になるでしょう。

Q8
その2:名義説が優れている点の一つとして、形式的な基準を提供しているところと思われます。(承認を得るかどうか、事前に判断する必要がある。)その点、計算説は、実質的な損益の帰属主体をみるので、競業避止規制が、予防的・形式的に規制を課したとするならば、名義説をとるのが簡明とも思われます。そこで、逆に計算説の立場にたったとすると、どのような反論が考えられるでしょうか。
投稿: まんじゅう | 2009年1月14日 (水) 23時34分
A8
計算説は、反論できないんじゃないでしょうか。

Q9
先ほどの事例、「A社の取締役Bが、C社の取締役となって、C社の名義において、A社と競業取引となる取引を行ったが、Bは、C社の代表取締役Dの夫であったような場合。」で、仮に、Bは、C社の代表取締役Dの夫ではなく、ただの取締役であったとしても、C社からは報酬を得られます。

そこで、計算説にたったとしても、(間接的に)報酬を得られることで、損益の帰属主体とみられるのでしょうか。若干、主体というにはためらわれます。(規制が広くなる)。他方、そうでないとした場合、競業避止義務をかけられないとなれば、A社の取締役であるので、A社の営業秘密も知っており、C社に間接的に貢献して、A社に損害を与える可能性もあるので、やはり、規制すべきようにも思われます。立法趣旨としては、いずれの説に立つかは別として、取締役が、自己・第三者に、いかなる程度で損益が帰属するならば、規制の対象とする趣旨である、とお考えでしょうか。このような場合には、忠実義務違反のみで捕捉しようとしているのでしょうか。
投稿: まんじゅう | 2009年1月15日 (木) 00時06分
A9
大事なのは、Bが取引(契約)をしたのか、Bが単に取締役に就任しているに過ぎないのか、であって、論点がずれているように思います。

Q10
司法試験合格後に税理士試験か公認会計士試験のどちらかを受験しようと私は考えています。
葉玉先生なら、どちらを勧めますか?
投稿: こんちゃん | 2009年1月15日 (木) 05時57分
A10
どちらでもいいと思います。

Q11
直接損害・間接損害について、ご質問させていただければ幸いです。直接的には、百問27問の問題です。
いちおう、ネットで検索して、2006年1月7日のブログに、間接損害も含まれる、その損害は、端的には株価の下落である、とありました。

そこで、間接損害について、もしかしたら定義の問題に過ぎないかもしれませんが、(百問27問を下敷きにして)

「親会社Pが、子会社Qに不当な影響力を行使して、廉価で製品を買い入れ、Q社に損害を与えた場合、P社(および代表取締役・取締役)との関係では、Q社の株主Aに生じた損害は、直接損害になるのか、間接損害になるのか。」

ということで頭を悩ませています。
Q社の取締役に任務懈怠があれば、間接損害となりそうですが、P社にとってみれば、Q社の株主は、第三者であり、Q社に株価の下落が生じても、P社への代表訴訟によるわけにもいかず、「P社」との関係では、直接損害になるようにも思われます。

そうすると、一般の教科書で、間接損害につき、「取締役の悪意・重過失による任務懈怠から会社が損害を被り、その結果第三者に損害が生ずる場合」とありますが、ここでの、「会社」は、任務懈怠をした取締役が属する「会社」であって、「第三者」も、当該「会社」が損害を被ったことにより、損害が生じた第三者であって、「他の会社」に損害を与え、当該「他の会社」の株主に損害が生じた場合は、間接損害にあたらず、「直接損害」にあたる、と考えることになりそうです。

議論の実益、前提に誤解があるかもしれませんが、考え方をご教示いただければ幸いです。
投稿: 論文は辛いよ | 2009年1月15日 (木) 15時47分
A11
Q社の取締役の責任を追及する場合には、Q社が損をした結果、Q社の株式の価値が下落したのならば、Q社の株主にとっては、間接損害です。
P社の取締役に対して第三者責任を追及する場合には、直接損害です。

Q12
刑法の学説は、行為無価値と結果無価値に大別されますが、実務ではどちらに立ってるのでしょうか。

法律の勉強を始めて、約1年になります。
実務は行為無価値だと聞いていましたが、実務家は行為無価値や結果無価値にとらわれることなく、妥当な結論を追求しているっていう人もいます。

個人的には、学説(理論)は虫眼鏡のような、物事を分析するための道具であり、行為無価値的な立場から検討している(=事実を行為無価値に合わせるのではない)と想像します。
投稿: | 2009年1月16日 (金) 21時58分
A12
行為無価値という言葉は判例にでてきません。
結果無価値も、行為無価値も、学者が自説を説明するときの説明の仕方に過ぎません。
ただ、実務は、結果のみならず、行為の悪質性も違法性の度合いとして評価しているので、行為無価値の方が説明しやすいでしょう。

Q13
完全子会社が債務超過の場合に、完全親会社と合併する場合のことで
御教授ください。増資で債務超過を解消してから合併する場合と債務超過の
まま合併する場合でそれぞれメリット・デメリットを教えてください。
なお、簡易合併ではありません。
投稿: 不景気 | 2009年1月17日 (土) 23時00分
A13
増資するなら、キャッシュが必要になりますし、登録免許税が高くつくでしょう。
キャッシュを出すのならば、簡易合併にできるような方法を採るべきで、あまり増資するメリットはないのではないでしょうか。昔は、実質債務超過会社は合併できないとかいう議論があったので、解消してましたが。

Q14
>30秒のキスはしてもらえたのでしょうか?
>さらに、その先に良いことはあったのでしょうか?
>教えて下さい!
>投稿: 受験生 | 2008年12月25日 (木) 18時33分
>A1
>この質問の回答には、チャージが必要です

この質問のチャージ料は、いくらですか?
面白そうなので、100円だったら送るので、100円でよろしい場合は、
振込先口座も合わせてご回答して下さい。
投稿: 質問者 | 2009年1月18日 (日) 14時49分
A14
私のチャージは、1時間4万2000円で、2時間程度必要になります。
聞くも涙、語るも涙の事件なので。

Q15
略式合併について質問です。
784条1項本文における略式手続において総会特別決議が不要とされることの例外として同ただし書が規定されていることの意味は,譲渡制限への定款変更と同じ(=特殊決議を要する)だからと説明されており,それは理解できましたが,

796条1項本文の例外である同ただし書について,その趣旨がよくわかりません。
基本書には,非公開会社が株主割当以外の新株発行をするのと同じだから,という説明があったのですが,非公開会社が第三者割当をする場合にも,特別決議で足りるのが通常のはずで,なお承認総会を要求しても,承認されることは明らかであり,あえて特別決議を要するとする意味はないように思えるのですが…
投稿: ビギナー | 2009年1月18日 (日) 20時36分
A15
著しく不当な決議が決議がされそうなときは、略式よりも少数株主にとって有利です。
取消事由があれば、合併無効事由にもなります。

Q16
この度、地方国立LSに未修枠で進学することとなりました。
そして合格者のブログ等で情報収集した結果、入学後は判例百選等判例を中心とした勉強をしようと考えております。
そこで質問です。
効率よく学習するにはどのように判例を読み進めるのがよろしいでしょうか?
できればオウム、キリン、サイの力を前提に、①初学者②中級者③上級者の利用法に分けてご教授ください。
もし過去に書いてある場合は「○年○月あたりに書いてます」と教えていただけませんか?過去ログも読んだのですが見逃した可能性があるので。
よろしくお願いします。
投稿: noah | 2009年1月19日 (月) 01時26分
A16
判例だけでは足りませんが、判例を勉強するのならば、判例百選を勉強すればよいのではないでしょうか。
ただし、解説は読む必要はないかも知れません。
民法は、判例六法とかに書いてある短いものを数多くこなすほうがよいかもしれません。

Q17
株主総会における定足数等について質問させて下さい。

 代表取締役である筆頭株主が死亡し、相続人は相続放棄を行なうかどうかの熟慮期間中のため、名義書換も、議決権行使の代表者届も行なわない場合、

1.上記の状態のまま、死亡者あての招集通知を送って欠席扱いとした場合、会社は善意無重過失と言えないので免責されないことになりましょうか?
2.上記の場合も、死亡者の株式は「議決権を行使することができる株主」として扱わざるを得ず、定足数には算入するしかない。従って、他の株主の議決権で定足数が満たされない場合は、議決ができないことになりましょうか?
3.上記1、2の結論は、実際に相続放棄が行なわれ、相続人が不存在となり相続財産管理人が未選任の場合も同じことになりましょうか?

投稿: genmai | 2009年1月20日 (火) 06時54分
A17
1 株主名簿記載の住所に送れば足ります。
2 相続人が相続している以上、議決権を行使することができる株主となり、定足数に算入されます。他の株主で定足数を充たさないならば、議決はできません。
3 同じです。

Q18
葉玉先生がロータス21さんから出される予定のDVDは、
いつ頃発売になるのでしょうか??
ロータス21のHPではかれこれ半年ほど編集中になっております。
地方のローに通っていますと、
どうしても会社法や知的財産系など新しい法律の授業がいまいちになり、
理解度も浅くなります。
選択科目は労働法とかをとればいいのですが、
会社法は避けて通れません。

そこで、先生のDVDで予習・復習しようと考えています。
来年度の授業のために聞くには2月中に手元に欲しいのですが、
それくらには発売されるのでしょうか?
また、内容は実務よりでローの授業・新試対策には向かないのでしょうか?

先生やロータスさんの懐事情もあるでしょうが、
購入者の何割かはロー生だと予想されますので、
貧しいロー生の懐にありがたい価格でとうれしいです。
投稿: | 2009年1月20日 (火) 14時54分
A18
お待たせしております。2月中は難しいと思いますが、もうほとんどできあがっています。
内容は実務よりですが、司法試験受験生も聞くべき事項がたくさん入っています。

代金はロータスさんが決めるので、きっとロー生に優しい価格も設定すると思いますが、あまりダンピングはできないかもしれまえん。

Q19
葉玉せんせー、あけましておめでとうございます。

某国立大未修一年の者です。
さて、今日はTMIの大御所、升永英俊先生についての質問です。
以前に升永先生のお話を伺ったことがあり、ものすごく情熱的で、半端じゃない人だなーと思っていたのですが、弁護士としては、イチロー並に凄い方ですよね。

TMIの同僚として、葉玉先生がプロの視点で、間近でごらんになっていて、どんな努力をしたらあそこまでいけるのか、とか、何が普通の弁護士と違うのか、とか、と升永先生の凄さについて感じられた点があれば、その辺をお教えいただけないでしょうか。

私が、世界で二番目に尊敬し、目標としている弁護士が升永先生なので、良かったら葉玉先生のコメントをお聞きしたいです。

(ちなみに、一番は、もちろん葉玉先生でございます( ̄▽ ̄)。)

投稿: はるくん | 2009年1月21日 (水) 15時14分
A19
私も知りたいぐらいです。
まずは、忙しいときは、事務所で寝袋で寝ることから見習おうかと思っています(笑)。
冗談はさておき、たぶん、升永先生の強さは、「信念の強さ」であるように思います。
他人と比較して自分を評価するのではなく、自分の信念に従って主張を組み立てる強さです。

Q20
株券電子化について質問いたします。
信託銀行が株主から上場企業の株券を提出された場合、無効になったからといって穿孔して細断廃棄してしまってもよいものでしょうか。あるいは株券はあくまでも株主の所有物なのだから返却すべきでしょうか。ご教示ください。
投稿: さかしら | 2009年1月21日 (水) 21時06分
A20
どういう経緯で株主から株券を提出を受けたかによります。
1年後に廃棄するのが無難でしょう。

Q21
 いつも楽しく拝見しております。上場会社の一担当者です。
 以前、インサイダー取引に関して、
「売買を禁止された役職員の不満のはけ口(代替措置)が必要」
とおっしゃってましたが、具体的にはどのようなものでしょうか。
 その後の世の中の状況も大して変わっていませんので、
会社としての実のある取組みの必要性を感じる今日この頃なのですが。。。
 チャージ料もお支払いできず不躾で申し訳ございませんが、
よろしくご教示くださいませ。
投稿: 悩んでいます。 | 2009年1月21日 (水) 21時39分
A21
すいません。代替措置については、飯のタネなので、公開は差し控えさせていただきます。

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2008年12月14日 (日)

敵対的買収成功後の行方

 最近、急速に景気が悪化しています。
 弁護士業界でも、就職難や、リストラ、分裂等の噂が聞こえてきますが、幸い、私は、景気が良ければよいなりに、悪ければ悪いなりに、時勢に応じたご相談をいただいており、日々、多種多様な案件を担当させていただいています。
 ただ、昨年から今年前半までは、どちらかというと
    予防法務・M&A・将来に向けての布石
という感じの相談が多かったものが、今年の後半に入り
   裁判・倒産・労務・具体的な問題についての善後策の検討
という感じの相談が増えているようで、リーガルの分野では
 「プロジェクト」の時代から、 「修羅場」の時代へ
と軸足が動いているように思います。
 私は、検事・法務省・私生活のどの側面でも修羅場ばかり生きてきたので
  笑って修羅場を切り抜けよう。
  修羅場こそ飛躍のチャンス。
というのが身上ですので、最近、とみに仕事に充実感を覚えていますが、さすがに、その内容を今すぐブログに書くわけにはいかないので、今日は、自分の関与していない修羅場の話をします。

それは、
  「春日電機」の話
です。

春日電機といえば、今年の株主総会で、創業者一族の取締役が再任されず、大株主のアインステラ社の代表が代表取締役に就任したという波乱で一躍有名になった会社です。
 アインステラ社は、TOBを利用せず、株式を買い進め、取締役を交代させることに成功したのですから、日本のM&A史に残る数少ない敵対的買収の「成功例」といえるかもしれません(ここでいう「成功」は、会社にとってプラスになるという意味ではありません。)

私も、M&Aセミナーや株主総会セミナーで、何度か、春日電機の役員交代について言及させていただいたことがありましたが、その間に、春日電機は相当な修羅場になっていたようで、ついには、12月3日に春日電機の監査役の申立により、
代表取締役に対し、株主総会開催禁止仮処分決定が下される
http://www.kasuga.jp/ir/pdf/6650_20081203_2.pdf
という前代未聞の事態に発展しました。
 仮処分決定の内容は、ここでは詳しくお話しませんが、申立書に記載されているのは
 司法試験の問題にそのまま出してもよさそうな事実
であり
 コンプライアンスとは何か
をつくづく考えさせられるものです。

 しかも、話はそれで終わらず、その仮処分決定において、ある事実を指摘されている株式会社ソフィアモバイルが、12月9日に、その仮処分決定を公表した春日電機等に対し
  名誉棄損に基づく損害賠償請求
  http://www.sophia.com/images/news/pdf/20081209_1.pdf
  売掛金支払請求
  http://www.sophia.com/images/news/pdf/20081209_2.pdf
の訴えを提起し、修羅場が多方面に拡大しているのです。

係争中の事件に口を出さないのが、このブログのポリシーなので、これ以上、この件の中身に評価を加えることはしませんが、これらの争いは、私たちにいくつかの示唆を与えてくれます。

 まず、この事件は
  敵対的買収は、経営者にも、買収者にも、ステークホルダーにも、難問をもたらすことがある
という実例を示しています。
 これまで、敵対的買収に対する防衛策について様々な議論がされてきましたが、そこでの議論は、敵対的買収についての抽象的なリスクと、市場原理との調整に終始していたような気がしてなりません。特に「大量買付行為は、善である。なるべくこれを邪魔しちゃいけない」という前提については、あまり疑問がさしはさまれなかったように思います。
 しかし、そうした前提が正しかったのかどうか、私は、どうもよくわからなくなってきました。
 少なくとも、企業価値研究会の報告書や、東京証券取引所の種類株上場に関する考え方を、この春日電機の事例にあてはめた場合に、妥当な結論を導くことができるのかどうかを、再度、検討する必要があるように思います。
 
次に、この事件は
 監査法人の役割
について考えさせてくれます。
 ここ数年、監査法人が任期途中に辞任し、その後、不祥事や不正経理が明るみになる会社がいくつかありましたが、私は、その度に、
  監査法人が、不正行為を発見しているのならば、会社法397条に基づいて監査役に報告すべきであるし、不正経理があるのならば、会計監査報告に不適正意見を記載するべきである。肝心なときに、辞任するのならば、会計監査人制度なんて要らないのではないか。
と思っていました。
 もちろん、監査法人は、会社が監査に協力しないため、会計監査人として代表訴訟等に堪えうるだけの事実認定ができず、かといって、適正意見も書けず、苦渋の決断で辞任しているのだろうとは思いますが、辞任ばかりが続くと、
  監査について責任を負っている以上、株主に何らかの形で報告するのが筋だろう
という気持ちになってしまいます。
 春日電機では、監査法人が金商法193条の3に基づき法令違反事実等についての措置を求める報告を行っており、これは、かなり画期的なことです。
 監査法人が、経営者の箸の上げ下ろしまで監視し、報告するようになるのはまずいと思いますが、瑣末な部分の内部統制監査に力を入れるよりも、こうした報告をたまに行う方が、内部統制の実があがるのではないでしょうか。

3番目は、「社外役員」「社内役員」の在り方についての示唆です。

 春日電機の仮処分の申し立ては、社内出身の常勤監査役が行っています。
 社外監査役2名は、辞任しており、本件は、あくまでも「社内出身」の監査役の判断で行われたものです。
 春日電機のケースは、取締役の交代があったため、社内の監査役が、代表取締役に違法行為の差し止めを行う動機があったという特殊性がありますが、長年勤務した会社に愛着があるからこそ、積極的に職権を行使する気力が生まれてくるという見方もできます。
 従来、「社外出身は、経営からの独立性が高いから積極的に監督し、社内出身は甘くなりがち」という議論が一般化していましたが、少なくとも春日電機のケースでは、そうではなかった。
 「社外者」の位置づけや機能について、具体的に検討する上では貴重なケースではないかと思います。

 現在、企業統治研究会は、社外取締役の概念の見直しや導入の促進を研究されています。
 私は、「社外取締役」「社外監査役」について、その現実の機能が検証されていないにもかかわらず、外国との平仄ばかりを気にして、その概念を見直したり、導入を義務づけたりするのは、反対です。
 まず、行うべきは、日米欧において、社外取締役のいない会社と、社外取締役のいる会社で、不正や経営上の失敗が生じた率が違うかどうかを比較した上、独立性の高い社外者が、本当に、会社のために行動しているのかどうかを実証的に研究することでしょう。
 
 また、不祥事を起こした日本の上場会社について、
   社外取締役・社外監査役が何をしたのか
   社内取締役・社内取締役が何をしたのか
   その両者について、どちらが会社の利益を保護するのに役にたったのか
という点を実証的に検証すれば、自ずと社外取締役を置く価値があるかどうかも見えくるでしょう。
 ついでに、アメリカの自動車御三家やリーマン等において、独立取締役がどのような役割を果たしたかという点も報告書にあげてくれると勉強になります。

 いずれにせよ、外国の制度が善であるという間違った前提を置かずに、真に機能するコーポレートガバナンスが何かを考えるためには
  現実に起こった事例をもとに、社外者の役割を実証的に検証する
ことが最も大切であり、春日電機も、重要な検証対象になるのではないかと思っています。

(質問コーナー)
Q1
実務では、合同会社が持分の払戻しのため資本金の額を減少することが認められているようです。しかし、根拠条文を見つけることができません。
出資の払戻しのための資本減少は626条1項にあるから、出資の払戻しは持分の払戻しも含んでいると考えるのでしょうか?
投稿: 会社法漫遊 | 2008年11月24日 (月) 11時53分
A1
ほとんどの場合、退社に伴う持分の払戻しは、出資の払戻しを伴うと思います。

Q2
1.会社法は機関の選ぶときに、「選任・解任」、「選定・解職」の言葉を使い分けています。基本は「選任・解任」を使っていると思いますが、委員会の委員を選ぶときなどは「選定・解職」(400条1項・401条1項)としています。立法当時にとくに言葉を分けた理由があるのでしょうか?
個人的な理解では、代表取締役や各委員は、取締役として「選任」された上で、さらに選ばれて「選定」されるためと思います(執行役と代表執行役の関係についても同じ)。
また、他の法律でもこれらの言葉使いがされていたら、同様に解してよいでしょうか?
A2
そのとおりです。

Q3
監査役会設置会社の監査役は、「半数以上」が社外監査役でなくてはならない(335条3項)としており、
また、委員会設置会社の各委員会の委員の「過半数」は社外取締役でなければならない(400条3項)としています。
このように社外の人材の割合が異なるのには理由があるのでしょうか?
会社法は新しい法律だけあって、論理的一貫性や細かい言葉の使い方にも
配慮されているように感じるのですが、上記の理由がわかりません。
細かい質問で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
投稿: ろん | 2008年11月24日 (月) 21時39分
A3
 どちらも、歴史的な経緯でそうなっています。

Q4
募集株式に係る取締役等の責任(会社法213条)について質問をさせてください。
募集株式を発行する際に現物出資財産価額に著しい不足がある場合は、所定の取締役等は当該不足金額を支払う義務を有しますが、この過失責任は、条文に規定されていないので、やはり総株主の同意で免除できないのでしょうか?
もしくは、任務懈怠として扱い、総株主の同意で免除できるのでしょうか?
投稿: | 2008年11月25日 (火) 12時48分
A4
52条1項は、免除できますから、理屈の上では、免除できてよさそうですね。

Q5
株券電子化の関係で質問にお答えいただけませんでしょうか。
平成21年1月5日施行後の振替法147条4項に定める「少数株主権等」には、株主総会において説明を求める事項の通知(会社法施行規則71条1号イ、この通知をすると、取締役は、株主総会において、調査が必要なことを理由としては、株主からの質問に対する回答を拒むことができなくなるものです。)も含まれるのでしょうか。
この通知は、会社法上明確に株主の権利として定められているわけではありませんし、もし、含まれるとすると、振替法154条に基づく個別株主通知をしないと事前質問状も受け付けてもらえなくなることになってしまうと思うのですが、この通知の効果からいって個別株主通知まで義務付ける必要はないように思います。
よろしくお願い致します。
投稿: 連休明け | 2008年11月25日 (
A5
質問権や動議を提出する権利は、株主総会に出席することができる権利に含まれているので、少数株主権等には該当しません。
したがって、個別株主通知は不要です。

Q6
会社法332条2項では、公開会社でない株式会社は、定款の定めによれば、取締役の任期を10年まで伸長できると定められています。
取締役会非設置会社であれば、公開会社でない株式会社であると思いますが、332条2項で、取締役の任期を伸長できる基準として取締役会設置・非設置という基準でなく、公開・非公開という基準によったのはどういう理由によるものなのでしょうか?
会社法では、公開・非公開という基準により区別を設けているものと、取締役会設置・非設置という基準で差異を設けているものとありますが、どのような理由により両者の基準は使い分けられているのでしょうか?

投稿: 大 | 2008年11月26日 (水) 12時14分
A6
取締役の任期延長は、株主があまり変更されない非公開会社にこそふさわしいと思います。
公開非公開を区別の基準とするか、取締役会の設置非設置で区別するかの理由は、会社法100問や会社法マスターを読んで理解してください。

Q7
旧商法76条と異なり、会社法においては総社員の同意で代表社員を定めることができると、条文には書かれておりませんが、定款に定めなくても、総社員の同意で代表社員を定めることは可能でしょうか。
A7
定款に基づく互選はあります。
総社員の同意というのは、定款変更したのと同じと考えれば、可能でしょう。
Q8
総社員の同意で定められた代表社員は、辞任することは可能でしょうか。この場合、総社員の同意がいるのでしょうか。
A8
結構難しい質問です。
そもそも、委任契約によって就任しているわけではないので、「辞任」という発想があるかということです。
その他の質問も、取締役と同じに考えてよいかどうかは、正直言って、頭を整理しないと答えにくいし、登記が絡むので、回答を遠慮します。
Q9
出資の払戻しにおいて、払戻しを請求する社員に計上されている資本金及び資本剰余金を超える、資本剰余金が会社に計上されているのであれば、各社員に計上されている資本金・資本剰余金を振り替えることにより、資本金を減少させないことも可能であると思いますがどうでしょうか。
投稿: 会社法愛好家 | 2008年11月26日 (水) 16時11分
A9
方法によっては、できないことではないですが、ちょっと工夫が必要です。

Q10
先生は、受験時代アルバイト代のみで生活されていたのでしょうか?
親の援助はなかったのでしょうか?
援助なしで厳しい環境のほうが追い込まれて受験、仕事でも成功するのでしょうか?
投稿: 受験生 | 2008年11月26日 (水) 20時35分
A10
私は甘やかされて育ちましたので、親からは手厚い仕送りをいただいておりました。
また、アルバイトも週3回はやっていました。浪費家なので。

Q11
会社法第459条第1項第3項にある「第452条後段の事項」について質問です。
第459条第1項各号で引用されている条項のうち、第452条だけ「株主総会の決議によって」の語句が条文の前段の方に記載されているのため、ここを読まれた方から「結局のところ剰余金の処分自体は依然、総会決議が必要なのでは?」と問われ、教科書的に「いや、定款の定めにより取締役会で定められますよ。」と答えたものの、どうやってそのように解釈するのかという説明ができませんでした。
投稿: ゆうくん | 2008年11月27日 (木) 16時25分
A11
452条後段の事項=当該剰余金の処分の額その他の法務省令で定める事項
これを、取締役会で定められるということを459条に規定しています。
条文を形式的に適用すれば、よいだけです。

Q12
少数株主権についての質問をお赦しください。
株主権として議決件数又は株式数の要件が定められている場合(株主総会招集権についての297条など)がありますが,この要件というのは,複数の株主で併せて満たすことは認められないのでしょうか?
例えば,大企業にもなるとこういった要件を単独で満たすことは困難かと思われます。そこで,零細の株主が集まって議決件数等の要件を満たすということも認められていいような気もしますが,条文上は難しいようにも思います。
会社法独自の解釈問題ではないので恐縮なのですが,ご教授いただけると幸いです。
投稿: v | 2008年11月27日 (木) 17時38分
A12
共同で提案権等を行使することは可能です。

Q13
こんにちは。会計士受験生ですが、株券電子化が試験に与える影響について、教えて頂きたいと思います。会計士試験の企業法の範囲は、会社法、商法(商法総則、商行為)及び金融商品取引法となっています。株券電子化により、例えば株券喪失制度や、株券の発行不発行等の会社法の条文にも影響はあるのでしょうか。宜しくお願いします。
投稿: 紅萠ゆる | 2008年11月28日 (金) 11時15分
A13
それは、私に聞かれても、責任ある回答ができません。
上場会社以外には、株券喪失登録等は、適用されますから、別に影響ないと思いますが・・。

Q14
大手渉外事務所の弁護士は、連日、たくさんの案件をかかえておら
れると思いますが、時間のない中、昼食・夕食はどこで、どのようなものを
召し上がっておられるのでしょうか。
また、葉玉先生が検察官をされていた際の食事についても教えていただけ
ないでしょうか。おかしな質問で申し訳ありません。限られた時間をどのように
して使っておられるのかを参考にさせていただきたいと思い、うかがう次第です。
投稿: smoky | 2008年11月28日 (金) 18時42分
A14
私は、時間があれば、六本木のおいしい店で食べるようにしています。
忙しいときは、ヒルズの弁当になります。
検察官時代も、原則、外に食べにいっていました。
法務省の地下も割とおいしいですけど、最近、店が代わって、いまいち、好きではありません。裁判所の地下よりは、まだましというくらいかなあ。

Q15
取締役が2人以上いる会社でも当然に自動的に
取締役会が設置されるわけではないと思うのですが??
そうですよね??
今年の新司法試験しかり、学者が作る問題は、そのへんが曖昧で、取締役会設置会社であると問題文にないのに、取締役が2人以上いると、どうも取締役会設置会社であることが前提に問題が作られているのですが、
実際の世界は、取締役が2人以上いれば取締役会設置会社であることが
当然なんでしょうか???
毎回、そんな問題に臨むたびに悩まされます。
投稿: よいこ | 2008年11月28日 (金) 19時53分
A15
きっと、場合分けをさせようとしているのではないでしょうか(希望的観測)。
2名だろうと10名だろうと、定款に取締役会を置く旨と書いてなければ、取締役会設置会社ではありません。

Q16
特別利害関係人について教えてください。
会社法上、株主と取締役について特別利害関係人の規定があります。
しかし、会社法の教科書をみても、特別利害関係人の意義や、該当するかどうかの
判断基準の記述が見当たりません。
特別利害関係があるとされる典型例の紹介がある程度です。
そこで、特別利害関係人にあたるかどうかの議論を展開する際に
どのようなことを考慮事項として判断すればよいのかにつきご教授ください。
投稿: 今石 | 2008年11月28日 (金) 20時32分
A16
それが、私たちの飯のタネです(笑)。
会社の意思決定によって、取締役の個人的利害に影響を及ぼすかどうかで実質的に判断するというほかありません。

Q17
元社会人として、以下の質問が「甘い理想」であることは承知していますが、
一度、葉玉先生のように、公務員から民間で働くようになった方の考えをお聞きしたかったので、よろしければご回答ください。
与えられた仕事が、事務所経営上では「善」であり、かつ、それが当然に合法であったとしても、個人的判断、価値観からみて「悪」であった場合に、その仕事を受けますか?、断りますか?
私は前職が金融関係で、証券化商品が全盛時代に働いていました。
サブプライム問題が表面化する前の話ですが、その取扱う仕事の中には、客観的にみて質が悪く、「よっほどのこと」がない限り、損失が発生することが明らかであるものがありました(もちろんそこまでのことは滅多にはありません)。それでも会社の「政策上」で、それを取り扱うことが必須であったときに、「笑顔」で顧客に勧めてきましたが、その後、当然のように値下がりしました。
社会人になって、はじめてお金を稼ぐことは大変なことだなと実感した思い出です。
渉外事務所で働かれていると、そのような葛藤を経験することも多いのではないかと思いまして。
私が、弁護士になれたとしたら、おそらくその仕事が違法でないか、それをするくらいなら事務所を辞めた方がよっぽどましだと思うような仕事でないかぎり、それをするでしょうね。
投稿: endou | 2008年12月 1日 (月) 19時24分
A17
弁護士は、クライアントの目前の利益の実現を図ると同時に、将来のリスクの除去をするのも仕事です。
前回のアーバンの開示のように、目の前の資金調達のために、開示しないことにより、金融庁から課徴金を科せられるようなことは避けなければなりません。
私は、結構、クライアントの要望の実現手段をあれこれ考えて、提案する方ですが、個人的に「悪」と感じるようなことを薦めなくても、なんとかなるものです。

Q18
突然ですが、清算について一つ質問してよろしいでしょうか。
X年度の決算期到来後、その定時総会開催前に株主総会決議で解散した会社が、X年度の計算書類の承認手続を行うためには、清算人が会社法438条以下の手続を行っていくのでしょうか?
会社法509条では、清算株式会社は計算書類の承認手続につき適用除外となっております。
それとも、この手続自体不要なのでしょうか?
投稿: first | 2008年12月 1日 (月) 20時25分
A18
不要です。

Q19
司法受験生です。
「不合格者は勉強できてないから受からない。」
やるべきことはわかっている不合格者は多いのでしょうか?
やるべきことがわかっているのだけれど、1年間でさえ死ぬ気になって勉強できない。勉強していますが
これは、どーすれば死ぬ気でになれるんでしょうか?
以前、勉強のために部屋の環境を整えるとありましたが、テレビを置かないとかそういう工夫も必要でしょうか?
投稿: 受験生 | 2008年12月 2日 (火) 12時57分
A19
私は、司法試験受験時代、勉強を必死にがんばった後、好きなビデオやドラマをみてました。
必死に勉強するというのは、勉強だけを行うということではありません。
自分の集中力とやる気を維持する工夫をするということです。

Q20
会社法における利益相反について、特別利害関係人の捉え方と取締役会の定足数についてお伺いしたいことがあります。
株式会社甲所有の不動産を株式会社乙に売却することになりました。甲の役員は、代取X・Y、取締役A・B・C・D・Eで取締役会に出席したのはX・Y・A・B・Cです。乙の役員は、代取X、取締役Y・A・B・C・Dで取締役会に出席したのはX・Y・A・Bです。
この場合、X及びYは甲、乙それぞれの会社の取締役会において特別利害関係人にあたるのでしょうか?
あたるとすれば甲の取締役会の決議要件は5人に対する過半数となるので3人以上となります。また、乙の取締役会の決議要件は4人に対する過半数で3人以上となり、こちらはそもそもXとYを除くとAとBの二人しか出席していないので、CかDのどちらかを加えて決議しなおさなければいけなくなってしまいます。
どうかよろしくお願いします。
投稿: とも | 2008年12月 2日 (火) 19時44分
A20
実質に影響を受けますが、Xについては甲乙、Yについては乙において特別利害関係人です。

Q21
自己株式取得の対価が異なる種類の自己株式というのは可能でしょうか??
会社法157条1項2号の金銭等には自己株式は含むのでしょうか?
例えば、甲会社が普通株式を持っている株主Aに対して、優先株式を与えたいが発行株式総数は増やしたくないと考えた場合、株主Aが所有する普通株式を取得する対価として甲会社の優先株式を与えることは可能なのですか??
他の株主の利害関係は全く問題ないことを前提として質問させていただきたいのですが。
株主の所有する株式の種類を変更する場合には、この方法が一番早いと思うのですが
投稿: さえこ | 2008年12月 2日 (火) 20時07分
A21
157条1項2号の金銭等には、自己株式は含まれません(156)

Q22
こんばんは。会社法の勉強に行き詰まり、グーグルで検索したところ、先生のブログにたどり着きました。
会社法の勉強法について、質問させて下さい。
私は今、大学3年生で、ロー入試の勉強中です。国立と私立の二校を受験しようと考えています。
会社法は範囲が広いため、細かい論点に深入りするなと、予備校講師に言われたのですが、私立大学院の択一対策をしていると、どうも細かい知識ばかりが問われている気がします。
このまま論文と択一の勉強を並行してすすめると、細かい論点に深入りし、自ら混乱させているようで、不安です。
論文の知識を基礎として、択一で問われる内容は補足的に追加していくしかないでしょうか。
投稿: なみ | 2008年12月 3日 (水) 22時41分
A22
会社法に「細かい論点」というのがあるのかどうかよくわかりませんが、細かいかどうかを気にする前に、予備校の先生の言うとおりにしてみたらどうでしょうか。
おそらく、なみさんの能力で、必要か必要でないかを区別することは難しいのですから、そんなことを考えても仕方がありません。
先生が「やれ」といったことをやれば十分でしょう。

Q23
今日は、今インターネット上で非常に大きく騒がれている事件について先生のご意見を頂戴したいと思い、コメントさせていただきました。
事件の概要は、ショッピングセンター受水槽(上水道用)の中から、自殺した(と思われる)男性の遺体が発見されたというものです。まだTVやほとんどの新聞紙等では取り上げられていませんが、地域の新聞や、一部のネット上のニュースでは取り上げられています。
http://www.asahi.com/national/update/1204/NGY200812030010.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081202-00000003-jct-soci
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1196563.html
本件は、多くの飲食店で提供される料理や給水機等に使用されると思われる水が、自殺した人間の遺体が(事件の経緯からすると、1か月程度?)浸かっていたものであったという、非常にショッキングであり、何より人体への多大な悪影響が想像される事件です。そうである以上、本来は、TV、新聞等あらゆる手段を用いて、事実の告知、必要と思われる病院での各種受診の呼びかけ(健康に対する影響は全くなく、必要がないのであればその事実の通知)、事件後に行った検査の概要等を公表すべきかと思われます(遺体の持つ病原菌や毒素の危険を考えると、その必要性はずっと過去に問題となった食品不祥事と比べても大きいと思います)。しかし、実際には当該ショッピングセンターのホームページにおいて、非常に簡単な経緯の説明がなされている程度です。
先生は昨年レビュテーションリスクの管理について記事を書かれていますが、本件の対応はどのような法的問題・企業の危機管理上の問題をはらんでいるのか、また本来はどのような対応を行うことがベストであったのか、ご意見をお聞かせいただけないでしょうか?会社法とは関係ない話であり、また、少々気分を悪くするような内容の話で恐縮ですが、コメントいただければ幸いです。
投稿: | 2008年12月 4日 (木) 01時38分
A23
証拠や事実を知らないのに、コメントすべき問題ではないと思います。

Q24
基本的なことを質問させてください。
100問の22を復習して気がついたのですが、非公開会社の新株発行で総会決議ケンケツが無効になる論証をする時に、譲受人についての許容性は書かれていますが、引受人については無効の必要性しか触れていません。
「引受人は、非公開会社ってことは登記簿見ればわかるので、株式を発行してもらう時には、総会特別決議くらい確認しておくべき」という判断があるのでしょうか?
また、ほかに許容性として挙げられる事項があれば教えてください。
投稿: 論文落ち | 2008年12月 4日 (木) 22時19分
A24
そのとおりです。

Q25
就職について質問です。
就職するにあたっては、自分を知ることが非常に大切だと思います。
自分を知ることによって、面接の自己紹介、志望動機にも説得的になると思うんです。
自分を知る、それが「自己分析」ということだと思うんですが、具体的にどーやったら自分のことがわかるんでしょうか?
なかなか自分のことってわかりにくいです。
弁護士になりたいんですが、自分に向いているのか、どういう分野の仕事がよいのかって・・
投稿: 悩んでます | 2008年12月 4日 (木) 23時21分
A25
私にも、どういう分野の仕事が自分に向いているのかなどわかりません。
面接で「正解」を探すのはやめましょう。
面接官は、あなた自身が、何に向いているのかを聞きたいのではないのです。
あなたが、どう考えているか、それをどう表現するかを見ているのです。

Q26
会社法362条4項1号、2号で重要な財産の処分、多額の借財等については、取締役会の専決事項とされていますが、416条1項では、特にそのような規定がないと思うのですが、これは、416条1項1号イの「経営の基本方針」に含まれていると解釈するからでしょうか??
投稿: 受験生 | 2008年12月 5日 (金) 18時23分
A26
委員会設置会社では、執行役に委任できます。会社法マスターを見てください。

Q27
アーバンのCBのスワップは、本来金融商品として時価会計の対象とすべきものではないのでしょうか?なぜ開示対象外という理解が一般的になっているのかよくわかりません。
投稿: KY | 2008年12月 6日 (土) 00時46分
A27
アーバンのCBのスワップは、開示対象です。
スワップ契約が一般的に開示対象になるかというと、そうではないという話だと思います。

Q28
会社法について質問があります。
会社法第423条3項3号で、
利益相反取引にかんして取締役の損害賠償責任が定められています。
同号、括弧書きで委員会設置会社については「~に限る。」となっています。
文面から、何かが限られていると読めると思うのですが、
委員会設置会社の取締役は、委員会非設置会社の取締役と比べどのような取引が除外されている(限られている)のでしょうか。
また限られている取引があるとして、なぜそのような規定が設けられたのか教えていただけないでしょうか。
投稿: ふくたか | 2008年12月 6日 (土) 13時57分
A28
423条3項は、執行役の利益相反取引について、その承認決議に賛成した取締役の推定を除外しています。

Q29
会社法108条1項6号の取得条項付種類株式を定める場合
当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとありますが、一定の事由には、客観的な条件ではなく「代表取締役が決定したとき」などのように代表取締役の裁量に求めることは可能なのでしょうか??
投稿: 法務部 | 2008年12月 6日 (土) 22時13分
A29
定め方の工夫の仕方では、そういうことも可能でしょう。

Q30
創立総会において発行する全部の株式の内容として譲渡制限規定を設ける定款変更の決議に反対した設立時株主は、会社成立後のような株式買取請求(会社法116Ⅰ①)が認められていませんし、また引き受けの取消も変態設立事項や100Ⅰの種類株式の譲渡制限、全部取得条項に限られていますが、設立時株主の保護はどうなるのかとでしょうか。
投稿: YUUKI | 2008年12月 7日 (日) 11時43分
A30
ずっと昔に答えましたが、まあ、大人の事情です。
不思議のままにしておいてください。
修正の機会は、何度かあったのですが。

Q31
さっそくですが、今回のアーバンの記事についてですが、最近大学院の金商法講義で「インサイダー取引」について発表する機会があり、直接題材になったわけではありませんが、非常に興味を持ち個人的に(限られた情報しかありませんが)考えてみました。
そこで気になったのは、今回の「CBとスワップが一体の資金調達」をいつ公表されたとみられるかです。単に当初の公表内容をもって新株等発行(166条2項1号イ)の公表だとするのもありかもしれませんが、(BNPを悪者にしたいというわけではありませんが)スワップをあわせてはじめて1つの資金調達の公表があった(だからBNPPの売買はインサイダー)と見ることはできると思われますか?会社に入る資金がいくらとなるか(または、実は金額は不確定であること)が出されなければ、本当の意味での「公表」とはいえないと思うのですが、どうでしょうか?
投稿: saitoh | 2008年12月 7日 (日) 17時36分
A31
おっしゃることは、正しいでしょう。

A32
会社の訴訟参加(849条)についておしえてください。
会社が、株主による取締役の責任追及の訴えにおいて、株主側に補助参加した場合、会社を代表するのは誰なのでしょうか。
取締役会非設置会社では349条1項で取締役、取締役会設置会社では349条4項で代表取締役ということでよろしいでしょうか?
投稿: | 2008年12月 8日 (月) 03時39分
A33
監査役設置会社は、監査役でしょう。

Q34
年3月16日の下記Q&Aについて、
回答に記載してある裏技とは具体的に何なのでしょうか?
>Q16
>子会社の合併について教えてください。
>100%子会社で当社が1億ほど貸付をしています。
>資本金は1千万ですが、債務超過(純資産の部は△1億)、
>資産合計は1000万です。
>当社は純資産5億、資産50億です。
>当社の株主は50名ですが、譲渡制限会社です。
>この場合当社において株主総会が必要となるのでしょうか?
>投稿 あっ!と 法無 | 2008年3月13日 (木) 19時11分

>A16
>そのままでは簡易合併はできないので、株主総会は原則として必要です。
>裏技はあります。
投稿: | 2008年12月 9日 (火) 00時02分
A34
裏技は、公開しないから、裏技なのです。

Q35
親会社の子会社に対する支配力・影響力行使は、株主としての地位に基づいて行われるものと思いますが、日常業務として実際に子会社に対して指示等を出したり、情報を得たりする場合、それが株主の地位に基づく権利行使であるとはなかなか思えません。株主としての地位以外に何か根拠があると考えることは出来るのでしょうか?また、子会社が上場している場合、日常業務として行われている、子会社の売上のような財務情報の取得等を始めとする親会社の権利行使が、株主平等の原則に反するということはないでしょうか?
投稿: hiro | 2008年12月 9日 (火) 17時58分
A35
指示する「権利」があるかどうかというと、難しいのですが、完全子会社ならば、完全親会社の指示は、株主総会の決議と同じなので、忠実義務に基づき従わなければならないということでしょう。
少数株主のいる会社なら、何でも親の言うことを聞くのはまずいです。
子会社の財務情報の取得は、契約または監査役の子会社調査権等によるものです。

Q36
会社法433条3項の親会社社員の会計帳簿閲覧請求権の議決権要件の要否について質問です。
 親会社の社員が請求する場合に、議決権要件を必要とする(A/T千問の道標)形式的・実質的理由は何ですか?
 千問や江頭先生の会社法では、要するとする図表または記述が見受けられるのですが、近藤光男先生の最新株式会社法(3版)では、「議決権要件が外されている」との記述があります。この点、条文上形式的には、要するということが明らかとまではいえないようにも思えます。他方、少数株主権の濫用の防止という、1項が議決権要件を定める趣旨は、親会社の場合にも当然当てはまると思え、その意味では、要するといえるようにも思えます。
投稿: 無知な人 | 2008年12月 9日 (火) 20時14分
A36
以前にもお答えしたことがあると思いますが、条文の文言上は、おっしゃるように根拠が弱いと思います。
ただ、旧商法の取扱との整合性というところあたりが理由でしょう。

Q37
略式手続(468条1項)の対象に事後設立(467条1項5号)が含まれないのは、どのような理由に基づくのでしょうか。
株式買取請求権などの救済措置の違いからとも思われたのですが、1号から4号までと揃っていない理由がよくわかりません。
どうかご教示のほど、よろしくお願いいたします。
投稿: けつき | 2008年12月10日 (水) 11時30分
A37
最近、事後設立は流行らないから、別に略式はいらないと考えたのでしょう。

Q38
企業の危機管理・リスク管理のうち、最近の新型インフルエンザいわゆるパンデミックリスクについて、企業に係る法的な面で整備が進んでいないのではと、最近、気にかかっています。
パンデミックが発生すると、事業の継続の要否にはじまり、従業員の労働管理(罹患してない従業員だけで業務をまわす場合、労基法との抵触など)、法定有資格者が大量に罹患し、法の定める要件を欠いた状態にもかかわらず、プラント(発電所や公共交通機関などでしょうか)を運転せざるを得ないが、その是非など)、取引先の協力の可否と、あらゆる面で、法律で定める規制をそのまま適用するわけにはいかない事態が発生しかねないように思います。
が、企業は、どうにも手の打ちようがありません。今の法令下では、ですが。
仮に、株主総会の開催直前に大流行が発生し、招集通知は発したものの、感染防止のため集会等が制限されることになりますと、総会の開催自体困難になりますよね。このような場合、総会の開催自体はどのように処理されるのでしょう。
こうした緊急事態の場合は、「超法規的措置」か、とよく耳にしますが、政府なり関係省庁がどこまでそれを認めるのかにより、法的な面に限らず、事業活動全般で企業にとって存亡が左右されることになると思います。
企業の法務担当としては、このようなことも気にかかりますが、葉玉さんはどう思われますか?政策の問題と言ってしまえばそれまでですが・・・。
(コメントに困るような質問になり申し訳ありません・・・。)
投稿: 空海 | 2008年12月10日
A38
パンデミック対策は、最近は、大手企業を中心に結構相談を受けているところですが、どちらかといえば、労務上の対策が中心ですね。株主総会は、開催できなければ、基準日を設定して、もう1回やるだけですから、あまり考えなくてもよいのかもしれません。

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2008年11月20日 (木)

直接金融と開示のあり方

本日は、記事にしたいと思いながら、ホットすぎる話題なので熱が冷めるのを待っていた
 アーバンコーポレーションの開示
についてお話をしたいと思います。

 金融庁は、平成20年11月7日に株式会社アーバンコーポレーションに対し、臨時報告書の虚偽記載を理由として課徴金納付命令を発しました。
 この課徴金納付命令のポイントについては、次回のT&Aマスターに掲載される予定ですが、このブログでは、この命令から読み取れる「開示のあり方」について考察を加えます。
 この課徴金納付命令は、アーバンが、平成20年6月26日に提出した転換社債の発行に関する臨時報告書の「転換社債の発行による手取金の使途」に虚偽記載があったという事実に対し下されたものです。

この経緯については、BNPPの外部検討委員会の報告書の概要が簡潔にまとまっていますので、参照してください。
 http://japan.bnpparibas.com/pdf/2008/2008.11.11.j1.pdf

簡単に言えば、6月18日にBNPPが、次のようなCB発行と2つのスワップ契約を組み合わせた資金調達を行う提案を行い、アーバンがその提案を承諾して実行したのです。
6月26日 CB発行決議+スワップ1契約
7月6日  スワップ2契約
7月11日 CB発行によりBNPPからアーバンに約300億交付
      同時にスワップ2契約に基づきアーバンからBNPPに約300億交付

この経緯から明らかなとおり、7月11日のアーバンに入った300億円は、すぐにBNPPに交付されてしまうことになっていたにもかかわらず、アーバンは、6月26日に提出した臨時報告書の「新規発行による手取金の額及び使途の欄」に
  「財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定」
と記載したことを虚偽記載と認定されています。

 さて、ここで、私が注目したいのは、虚偽記載の本質的部分であるアーバンからBNPPへの300億円の交付は、
   「スワップ2契約」を根拠としており、
   そのスワップ2契約自体は、臨時報告書の提出日である6月26日よりも後の7月6日に締結されている
ということです。

 通常、臨時報告書が虚偽かどうかというのは、その提出時の事実を前提に判断します。
 とすると、臨時報告書の提出時点の事実関係を「形式的に見れば」
   提出時点ではスワップ2契約は締結されていないのであるから
   CBの払込金の使途は、スワップ2契約の払込金ではない
   払込金を債務の返済に使おうと思えば使える
という外形が整っており、「虚偽記載」に該当しないように見えるのです。
 そして、その臨時報告書の提出の後にスワップ2契約が締結されて、300億円がBNPPに環流することが決まり、それが履行されたような外形になっていますから、これも「形式的に見れば」臨時報告書に記載されているとおり、CBの払込金を「債務の支払」にあてています(スワップ2契約により生じた債務の支払という意味ですので、世間の人が受ける印象と大きく違いますが)。

しかし、実質を見れば、こうした臨時報告書の記載の仕方が「虚偽」と評価されるのは当然でしょう。

BNPPは、6月18日の時点で、スワップ1契約のみならず、スワップ2契約も含めて提案しているのですから、スワップ2契約の締結日だけを7月6日にする必要はなかったはずです。また、万一、アーバンが、7月6日に、スワップ2契約を締結しなかったとしたら、BNPPは、300億円をアーバンに拠出し、大きなリスクを背負うことになるのですから、スワップ2契約の締結は、CBの引受けの大前提だったはずです。

それにもかかわらず、あえて、スワップ2契約を、CBの発行決議日(=臨時報告書の作成日)以降の日に締結したのは
  虚偽記載にならないような形式を整えようとした
という側面があったのではないかと思われます(関係者に真相を聞いたわけではないので、単なる推測です。別の理由であったかもしれません)。

言い換えれば、形式を整えることにより、開示を回避しようとしたようにみえるのです。
しかし、臨時報告書に書くべきは、「実質」であり、形式的な証拠があるだけでは、虚偽記載の責任を免れることはできません。

また、MSCBであれば、転換条件を含めて、すべて開示されるのに対し、今回のアーバンのスキームは、CB+2本のスワップという形式を取り、CB部分のみを開示しています。

CBの引受人と、スワップ契約の当事者が別人であるような場合はともかく、今回のように
  CBの引受人=スワップ契約の相手方
という前提では
  CBの内容の一部を、民法上の契約(スワップ契約)として外出しする
ということをやったとしても、法的には、ほぼ同じ効果を実現することができます。

逆もまた真なりで、今回のCB+2本のスワップ契約を、転換社債の内容に組み込み、開示することも可能だったはずであり、それにもかかわらず、あえてスワップ契約という形を取ったのは
  スワップ契約は開示の対象とならない
という一般的な考え方に便乗し
  市場受けの悪い情報については開示を回避した
ものと推認されます。

このように今回のスキームは、
  一般的な開示ルールに適合するように、形式だけを整えて、開示を避けた
ものと推認され、このような開示に対する姿勢は、投資家保護という視点からは、非難を免れることはできません。

 他方、金融の世界では、法形式を変更することにより、規制を回避することも法的テクニックと捉える傾向にあり、今回のスキームを構築し、リーガルチェックをするプロセスにおいて、アーバン・BNPPの関係者が、どこまで罪悪感をもっていたのだろうかということは気になります。

 私自身、クライアント様からの要望を、なるべく法規制の少ない方法で実現するという仕事をすることも多く、すべての規制に対して過剰・過敏に対応するのはよくないと思っていますので
   法形式を変更して規制を回避する
というテクニックが一切駄目だとは思いませんが、他方で、有価証券報告書等の虚偽記載は、巨額の損害賠償責任のみならず、課徴金や懲役刑が科されるリスクもある違法な行為ですから、自分がリーガルチェックした行為により、そのような責任を生じさせることが絶対にないように注意しなければならないのは当然です。

ですから、少なくとも開示にあたっては、
  形式を変更するのならば、それに伴い実質も変更する
  実質が変更できないならば、形式も変更しない
  開示においては、実質をそのまま開示する
という基本理念に忠実であるべきだと思います。

この案件については、インサイダー取引等も注目されていますが、その点は、また別の機会に。

(質問コーナー)

Q1
先生、今進路のことで悩んでます。
それは本当に心からその仕事がしたいって言いきれない点です。
私は弁護士になりたいです。
でも、なんとなく法律が合ってるんじゃないか、勉強しててもそんなに苦痛に感じない、弁護士がかっこいいイメージがあるからという理由からです。
会社を退職して、旧司法試験を目指して2回挑戦してだめだったんです。
そして、今は司法試験の勉強は続けるつもりです。
経済面からも職について勉強続けるため、地元の公務員として働こうと思い昨日面接を受けてきました。
面接で、司法試験を目指してたことを伝えると「受かったらじゃ職やめるの?」と聞かれました。
もちろん、「行政のために法律を活かしていくつもり」ですと答えたのですが。
そうしないと、採用は難しいからです。
これは自分の本音とは逆の発言なんです。
質問です。
いろんな職業を志望する際、どうしてもこれになりたい、これじゃないとだめって言い切れるものなんでしょうか?
私は、やりがいは仕事ができるようになって感じられるものだと思うんです。
だから、私はどーしてもこれがやりたいとかって言い切れないんです。。
でも、面接では、入る前から詳しく「なんで志望したの?」「うちの会社(自治体)でどーやったら利益が出せる?」って聞かれますよね。
その回答に困るんです。
これは、入った後のおぼろげながらもビジョンが描けているかを聞きたいのでしょうか?
先生は、司法試験を目指す志望動機はどういいうものだったのでしょうか?
先生の以前のコメントで「司法試験を目指すと決めたなら、勉強が嫌だとかうんぬんいわず勉強をすればいい」とありました。
将来どの分野をやりたいとかって正直わかりません。。
それでは、だめでしょうか?
投稿: 進路悩んでます | 2008年11月 3日 (月) 09時05分
A1
 駄目ではないと思いますが、面接のときは、自分が調べた範囲でやってみたいことを答えた方がよいでしょう。
「死んでも、この職につきたい」というほど、強い希望を持っている人は希であり、憧れ程度で進路を決めている人の方が圧倒的に多いと思います。
方向性を決めた後は、その職業について調べてみて、もう少し具体的に「やってみたい」という気持ちを固めますが、結局、その仕事の具体的イメージは、実際にその職についた後でなければ、分かりません。あなたの感覚は、きわめて正常です。
 ただ、面接のときは、あなたは、自分自身のセールスマンになっているのですから、売り込みが下手なら、面接に落ちることになるでしょう。
 なお、私は、当時好きだった人が、1年で司法試験に合格したら30秒キスしてくれると約束してくれたので、司法試験を目指しました。

Q2
買収防衛策について質問です。
少し古い話になりますが今年の6月
企業価値研究会から「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」が発表されましたが、この内容が今一つ理解できていません。
1.つまり、企業価値研究会は買収防衛策とはアメリカにおける買収者との交渉機会を得ることを目的とするようなライツプランを想定しており、そのような目的による防衛策と、
そんな機会を得ることは目的とせず、とにかく株主総会とかの賛成を得たりして実質的に判断して、会社の利益を図ることを目的とする防衛策とで、適法性の判断基準が異なるといっているのでしょうか??
憲法でいう職業選択の自由に対する規制目的二分論のような…単純に考えすぎなような気もしますが…
A2
その視点も、一つの要素と考えていると思います。
買収可能性を前提とした価格交渉と、買収の拒絶と比較すれば、前者の方が適法とされやすいというのは、理解しやすいところです。
ただ、実際には、両者を区別して、防衛策の適法性を区別するのは、困難だと思います。

Q3
買収防衛策における金員の交付について企業価値研究会は難色を示していますが、金員を交付したことを理由とする新株予約権発行差し止めというのは考えられるでしょうか??
その場合の根拠はなんでしょう??
A3
それは、普通はないでしょう。
対価が高すぎれば、利益供与や株主平等原則を根拠に違法とされる可能性はありますが。

Q4
ブルドックの買収防衛策は実質的には、株式分割とそれに続く買収者からの分割新株式の強制的な買取りであるとして、株主総会の特別決議および適正な対価(金員の交付)が必要となるという考えに対してはどうお考えでしょうか??
投稿: ほいほほい3 | 2008年11月 3日 (月) 15時49分
A4
分割新株式の「強制的な買取り」と捉えると、特別決議でもできないです。

Q5
役員等の会社に対する責任(423条等)の内,(ア)任務懈怠が推定されるのは利益相反取引のみです。他方,(イ)利益供与,剰余金配当では,任務懈怠がなかったこと(注意を怠らなかったこと)の証明責任が役員等に回っています。(ア)の「推定」は,暫定真実だと思われるので,(ア)(イ)の両者は一般論としては等価だと思われます。なぜ書き方を変えたのでしょうか。
投稿: 最終学年 | 2008年11月 3日 (月) 17時13分
A5
任務懈怠と、注意を怠らなかったことは、別の概念です。
それを、一緒だと考えると、役員の責任に関する規定は、まともに解釈できないと思います。

Q6
千問の道標の155頁の図表2-9について質問させていただきます。
この表を見ると、
459条1項1号の定めを定款に定めている会社(例外1に該当)が、例外3の、市場取引・公開買付等による取得の場合は、取締役会決議では自己株式を取得できないようにも見えるのですが、図表2-9でいう例外1(459条1項1号)と例外3(165条)の関係についてご教示いただけますでしょうか。
まとめますと、
459条1項の定款の定めをしている会社が、市場から自己株式を取得する場合は、
株主総会決議?取締役会決議?でしょうか?
投稿: kabukonmodel | 2008年11月 5日 (水) 16時21分
A6
2つの例外は、並列的なので、459条1項の定款の定めがある会社でも、取締役会決議で市場から自己株式を取得することもできます。

Q7
「株主Aには米を、Bには麦を、Cには金銭を配当する方式は”株式の種類及び数に応じて”配当財産を割り当てたとは認められず現物配当とは認められない」とありますが、この変形バージョンとして、「米5kgと麦5kgと金銭の選択制による配当」とした場合、現物同士の選択制だと価格の差がありますが、株主が自分で選択する以上、内容に差があっても平等原則には反しないと言えるでしょうか?
投稿: にこいち | 2008年11月 5日 (水) 16時25分

A7
選択制は、認められません。
ただ、「選択債権」となる1個の権利を創設することができれば、それを平等に分配することは認められます。微妙な違いですが、理論的には大きな違いです。
そうすると、株主平等減速にも反することはありません。


Q8
葉玉先生こんにちは。質問に何度か答えてくださってありがとうございます。
今回も質問なんですが、自分は理系出身で今年学部卒業と同時に法律を勉強して、今年中堅私立の既習に合格しました。
この場合は進学したほうがいいでしょうか。TMIのような法律事務所に入りたくてマスターに進学するのをやめてローを目指したんですが、やはりTMIなどは年齢よりもローのネームが聞いてくるのでしょうか?学部は東大なんですが、ローは違う場合はTMIはやはり厳しいでしょうか。東大も受けるつもりなんですが、私立に入学金を払うかなど悩んでいまして。。。
あと、質問なんですが、予備校の答練では自分ではできたと思うときに24点、失敗したと思ったときに27点をとったりすることがよくあるんですが、これは何か自分の答案作成の際の意識に何か問題があるんでしょうか。それとも一般的によくあるはなしでしょうか。意見を伺える人があまりいなくて。。。
お手数ですがよろしくお願いします。
投稿: 未修者 | 2008年11月 6日 (木) 23時38分
A8
ロースクールは、一つの要素に過ぎず、東大ローじゃなくても就職はできます。
答練の結果は、採点者の主観がある程度入りますし、相対評価という面もあることを忘れてはいけません。
あなたが、「できた」と思ったときは、他の人も「できた」と思っているのです。

Q9
会社法350条について質問させていただきます。
この条文は民法44条(削除)と同様の規定だと思うのですが、すると代表者が不法行為を行ったことが前提になりましょう。
では、会社法429条1項の責任を代表者が負う場合はどうなのでしょうか。
350条には、「株式会社は…代表者が職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」としか書いてないので、それだけ読むと、429条1項の「第三者に生じた損害」についても会社が賠償義務を負ってもよさそうです。
しかし、429条1項は(判例上)不法行為責任ではない法定責任ということになっています。すると、民法44条と同様に考えれば、429条1項の場合は350条は適用されないことになりそうです。
投稿: p17n | 2008年11月 7日 (金) 00時10分
A9
代表者は、429条1項の責任を負う場合でも、民法709条の責任を並列的に負うことはあります。
したがって、429条1項の責任が成立する場合に、会社に350条の責任が生ずることもありえます。

Q10
質問があるのですが、
①弊社は大会社でもなく、上場もしておりませんが、任意で②監査役会と会計監査人を設置しております。③また、将来的には上場も視野に入れております。
以上を踏まえ、まず、1つ目は弊社に会社法362条4項6号の事項の決議は必須であるのか?(条文を額面的に取れば必要ないように思えますが他社事例では決議している会社が多かったもので)。
2つ目に、これは会社の方針次第とも思えますが、仮に任意だった場合に、上場を目指すにあたり上記決議を行うことにメリットはあるのか?です
投稿: Tomo | 2008年11月 7日 (金) 10時54分
A10
内部統制システムに関する決議は、法的には必須ではありませんが、事業内容・規模によっては、取締役の善管注意義務の一環として決議すべきであると判断されることがあります。
また、上場を目指されているのであれば、上場準備のために決議するのが通常でしょう。内部統制がまったく構築されていない会社は、上場できないと思います。
どうせ金商法の内部統制報告制度の対象にもなるのですから、準備段階から構築した方がよいでしょう。

Q11
利益相反取引に関して、質問させてください。
第1に、356条1項2号の「取締役が…第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」の「取締役」、「第三者」、「株式会社」が誰を指すのか、わかりません(厳密に定義することはできないのでしょうか)。
A11
厳密に定義しています。
「株式会社」は、取締役会の決議を要するかどうかが問題となる株式会社です。仮にこの株式会社を「X社」としましょう。
「取締役」は、X社の取締役です。この取締役をAとしましょう。
「第三者」とは、X社およびA以外の者のことです。Y社としましょう
したがって、Aが取締役をしているX社と、Aが代表取締役を務めているY社が契約する場合等のことを意味しています。

Q12
「取締役会設置会社A社の建物を、取締役設置会社B社が買い取る取引において、以下のような考え方は正しいか?
A株式会社(代取Q,平取P)―B株式会社(代取P,平取R)
     建物
 ⅰ)A社をQが代表し,B社をPが代表して取引→A社の取締役会の承認必要
(理由)A社の「取締役」であるPが,自らB社の代表取締役として(「第三者のために」),A「会社」を相手に行う取引であるから,A社にとって利益相反取引(356条1項)に該当し,A社の取締役会の承認が必要となる。
 ⅱ)省略
 ⅲ)省略
 ⅳ)A社をPが代理し,B社をRが代理して取引→A社の取締役会の承認必要
(理由①)B社の「取締役」であるPが自らがA社を代理して(「第三者のため」),B「会社」を相手に行う取引であるから,A社にとって利益相反取引(356条1項)に該当し,A社の取締役会の承認が必要となる。
(理由②)B社を代理するRは,契約当事者の相手方であるA社の役員等ではないため,B社にとっては,利益相反取引とならず取締役会の承認不要。」

 これに対して、先生は「i)正しい、iv)B社の取締役会が必要」と回答されていました。ここで質問なのですが、
[質問2-1]
まず、ⅰ)ではB社での承認は不要なのでしょうか。それは、PがA社(=第三者)を代表していないから、「第三のために」という要件が欠けて、B社においてBとPの利益対立がないから、というのが理由なのですか?
A12
そうです。条文に該当しません。
学説の中には、Pが、「A社をも実質的に代表している」と考えて、B社の承認を必要とする見解はありますが、私は、その考え方には、賛同できません。

Q13
[質問2-2]
次に、ⅳ)でB社での承認が必要なのは、ⅰ)でA社での承認が必要なのと同じ状況であるからでしょうか。
A13
B社の取締役Pは、A社(第三者)を代理していますから、B社の取締役会の承認が必要です。

Q14
[質問2-3]
最後に、ⅳ)でA社において承認が必要なのは、PがB社において代取であってRに影響を及ぼすため、PがB社を代表していると見うる(B社=「第三者のため」といえる)からなのでしょうか(そうすると理由①②は誤解でしょうか?)。
投稿: 学部2年生 | 2008年11月 7日 (金) 15時23分
A14
A社の承認は、不要です。回答はそういう趣旨です。

Q15
司法試験受験時代の葉玉先生はアルコールを飲むことはありましたか?
アルコールを口にすると、記憶力が低下して記憶した条文や定義が無駄になると聞きました。
投稿: こんちゃん | 2008年11月 8日 (土) 01時22分
A15
お酒は友達と飲んでいました。
酒を飲んで、条文や定義を忘れるというのならば、裁判官・検事・弁護士は、ほとんどの人が、条文や定義を忘れているはずです。
もちろん、酒を飲んでいる最中は、つとめて法律のことは忘れるようにしています。

Q16
任務懈怠責任と過失責任の相違について少々混乱していますので、確認させてください。

条文に、「職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合はこの限りでない」という文言があります(例えば52条2項2号や120条4項)。文言だけ見ると、任務懈怠責任に親和性があると思いますが、これは過失責任を意味するものですよね?
これに対して、任務懈怠責任は忠実義務違反を含む法令違反を指すと考えていいのでしょうか?
やはり、文言だけを見ると「任務懈怠≒法令違反」というのはおかしな気もするのですが・・・?
次に、上記の解釈が正しい場合の質問ですが、425条以下の「重大な過失」の「過失」は「職務を行うについて注意を怠った」という意味になるのでしょうか?
投稿: 混迷 | 2008年11月10日 (月) 11時21分
A16
任務懈怠「責任」、過失「責任」という言葉の使い方が混乱を招いていると思います。
たとえば、423条の責任の要件に、「任務懈怠」と「過失」があるのです。
重大な過失は、職務を行うについて、著しく注意を怠ったことを言います。

Q17
事業譲渡と会社分割について教えてください。
一般に、事業譲渡は債権債務を特定して譲渡できるから簿外債務承継の危険は少ないのに対し、会社分割は包括承継であるから簿外債務承継の恐れがあると論じられているようです。
他方で、会社分割においても、分割承継会社・分割設立会社が承継する債権債務を特定できることから、やはり簿外債務の承継のリスクを避けることができるとする見解も見受けられます。
また、仮に会社分割でも簿外債務承継のリスクを回避できるとして、それは、会社分割について、旧来「営業の全部又は一部を・・・承継せしむる」と定義されていたのが、会社法制定により、「事業に関して有する権利義務の全部又は一部を…承継させる」との定義に変わったことによるものでしょうか。それとも、旧法下から、実は会社分割でも、簿外債務の承継のリスクを避けることができたのでしょうか。
投稿: もう | 2008年11月10日 (月) 15時36分
A17
会社法改正以前から、事業の特定のために、どの財産を移転させるのかを具体的に特定しなければならなかったので、簿外債務承継のリスクは、ほとんどありませんでした。
ただ、分割契約の内容によっては、PL責任などの不法行為責任を承継することはあります。

Q18
会社法405条4項「当該各項の報告の徴収」の部分、報告はお金を徴収するようなものではないと思うのですが、なぜ文言に「徴収」と使っているのですか?
投稿: 3年生 | 2008年11月10日 (月) 18時30分
A18
用例があるからです。
ちなみに、細かいことを気にしすぎると、全体を見失うので、勉強をする際には気をつけましょう。

Q19
一流大手事務所に入っても、出来が悪いとバンバン肩たたきされて、10年後には2割ぐらいしか生き残れないって言うのはほんまなんでしょうか?
弁護士には労働組合もないっていうのもほんとなんでしょうか?
僕の学校(文京区の国立LS)の連中は、幸せ度ランキング、大手渉外≧任官・任検≧町弁 と言う感じで、大手渉外には入れたら超エリートで人生バラ色、、安定も高給も保証されて、定年まで安心して仕事が出来るぞ~、大手渉外バンザイ!と言う感じなんですけど。。。。
せっかく一流大学法学部・一流ロー出て新司法試験受かったんだから、人生保障してー、雇用の安定がないのんはやめてー、労働組合ほしいよーと言う声も多いです。
まあ、弁護士には、学生の延長上で一流企業に入れば将来安泰、と言う意識が間違っているのかもしれませんが。。。葉玉先生のお考えとか実態をお教え下さい。
投稿: たけりん | 2008年11月11日 (火) 11時18分
A19
「大手渉外」というくくりで、話をすることはできません。弁護士がどんどん入れ替わる事務所もあれば、ほとんど弁護士が辞めていかない事務所もあります。
TMIは、ほとんど弁護士が辞めていかない事務所だと思います(肩たたきをしていることもないはずです)。
アソシエートの弁護士の実態も、事務所によって違いますから、事業主とするのか、雇用とするのかも、事務所によって違います。
労働組合に入りたければ、労働組合のある事務所(少ないと思いますが)に入るか、企業に入るのがよいでしょう。
ちなみに、どんな事務所、どんな会社に入っても、「人生保障」はついていません。

Q20
①葉玉先生は、司法試験受験時代一日「12時間」勉強したそうですが、
それは、大学の講義を聴く時間も含めてでしょうか?
それとも自習している時間でしょうか?
出席しない科目があるとして
②どのような理由で休講なさいましたか?
投稿: K | 2008年11月12日 (水) 11時23分
A20
大学の講義は、まったく聴いていませんでした。法律科目については、テスト以外に大学に行ったことがありません。
ですから、出席しない理由を考えたことがありません。

Q21
以前,「相続と株主名簿の関係」の記事http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50658328.html
で,相続人を株主として取り扱うとしても,「会社が、招集通知や配当金を株主名簿に従って送ったところ、真の相続人でない人や、相続人のうちの一部が勝手に配当金を自分のものにしたり、議決権を行使した」場合には,「株主名簿の免責力の問題であり、会社が善意無重過失である限り、免責されます。」としておられますが,この根拠条文はどこに求められているのでしょうか。
①招集通知は,126条1項によって,会社の主観を問わず適用されるということでよろしいのでしょうか?
②また,配当金の送付は,「通知又は催告」には含まれないと思いますので,126条1項は適用されず,一般的な株主名簿の効力としての免責力(手形法40条3項類推(→善意無重過失でよい)や民法478条(→善意無過失が必要))を根拠としているということでよろしいのでしょうか?
投稿: たけ | 2008年11月13日 (木) 12時01分
A21
①②とも、そのとおりです。

Q22
 本日旧司法試験の合格発表があり、なんとか合格していました。
 会社法を理解する上で、社会における会社法の使われ方を知る上で、
  このブログは非常に役に立ちました。
 どうもありがとうございました。
投稿: 旧試験の受験生 | 2008年11月14日 (金) 00時45分
A22
 本当におめでとうございます。
 狭き門をくぐり抜け、感慨もひとしおでしょう。
 就職が厳しい時期なので、一刻も早く就職活動をすることをお勧めします。

Q23
会社法34条1項の「引受け後遅滞なく」につき質問させてください。
ここでいう「引受け」とはどの時点をさしているのでしょうか?
「引受け」という文言からは、
① 「発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける方法」(25条1項1号)を定めた時点
とも思えます。
しかし、
具体的に各発起人に割当てられた株式数が決まらないと遅滞なく払い込みができないので、
② 各「発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数」(32条1項1号)を定めた時点
とも思えます。
もしくは、
③それ以外のべつの時点
があるのか
投稿: 登記職人見習中 | 2008年11月15日 (土) 02時27分
A23
発起人が、それぞれ何株引受をするのかが決まった時点です。

Q24
今日は弁護士という職業について質問させてください。
現在自分は経済学部に通う大学3年生で,周りが就職活動をしているということもあり,自分自身も将来のことをあれこれ考えているのですが,将来やりたいこととして,税法やファイナンスなどの企業法務があります。
ですが,企業法務を十分にやるには会計士という資格だけでは役不足ではないかと思い,ダブルライセンスを取ろうかと検討しております。
そこでお聞きしたいのですが,
・企業法務をやるには会計士では果たせる役割に何か制限があるのでしょうか
・ダブルライセンスのメリットというのは何かありますか
お答えしていただけると幸いです。
投稿: 会計士受験生 | 2008年11月16日 (日) 22時50分
A24
 「会計士」は、「法務」をやる職業ではないので、企業「法務」をやろうとすると弁護士法違反に問われるリスクがあります。
 TMIにも、会計士の資格をもった弁護士が多数います。弁護士をやる上では、「会計士の資格」があることがセールスポイントになりますし、会計の知識は企業法務には必要不可欠です(実際には、世の中には、会計の知識のない弁護士も多数いますが)。

Q25
先生の座右の書を教えていただけないでしょうか?
日頃の試験勉強に役立てたいと考えております。
投稿: 司法試験受験生 | 2008年11月17日 (月) 00時16分
A25
千問の道標と会社法100問と会社法マスター115です(笑)。いつも右側に置いています。
好きな本はあっても、座右の書と呼べるほどのものはないですね。

Q26
会社法は、読みにくいのですが、
取締役、監査役は、欠格事由で法人はダメと書いてありますが(331条1項1号)、
欠格事由で法人がダメと書いてないものは全て法人もなれるということですか??
ならば発起人、募集設立の引受人も法人がなれるということですか??
投稿: よいこ | 2008年11月17日 (月) 11時38分
A26
なれます。

Q27
ケースブック会社法第3版の第4章株式会社のファイナンス第2節負債の諸問題writing①(213ページ)が何を問うているのかよく分かりません。よろしかったら教えてください。
投稿: えりこ | 2008年11月17日 (月) 18時06分
A27
ケースブック会社法は持っていません。著者にお聞きください。

Q28
 会社法349条4項と386条1項2項と最判平成15年12月16日の関係について質問させて下さい。
 私の理解を述べさせていただきます。
(1)349条4項により原則として代表取締役が代表権を有する。
(2)監査役設置会社の場合で、取締役(取締役であった者を含む)と会社との間の訴訟では、386条1項により例外的に監査役が代表権を有する。
(3)監査役設置会社の場合で、取締役(取締役であった者を含む)と会社との間の訴訟であっても、馴れ合いのおそれがないときは、386条1項の趣旨が妥当しないから、同条項の適用が解釈上排除され、原則に戻り、代表取締役のみが代表権を有する。最判平成15年12月16日は、そのままでは維持できない(立案担当者による新・会社法の解説p104参照)がこのような法理を導ける限度において意味をなお有している。また、この(3)の場合、監査役が代表取締役と競合して代表権を有しているとはいえない。最判平成15年12月16日は監査役と代表取締役とに競合して代表権を認めていたが、会社法の下ではそのようには解されない。386条2項も内容からして馴れ合いのおそれがあるときの規定であって、(3)の場合は馴れ合いのおそれがないときなのだから、(3)の場合に386条2項から監査役の代表権を導くことはできない。
投稿: s-k | 2008年11月17日 (月) 23時22分
A28
最高裁は、条文を根拠にしており、条文が変わった以上、条文通りと考えるべきでしょう。
馴れ合いのおそれという抽象的な概念で、代表権限が変わるのは、どうかなあと思います。訴訟要件なので、法的に不安定なのは、避けるべきです。

Q29
会社法362条(取締役会の権限)についてなのですが、同条4項の取締役会専権事項は、
条文に記していないので定款の定めで各取締役に委任できないのでしょうか?

これに対して、348条3項(取締役の権限)については、同条2項を根拠に定款で別段の定めが可能と解してよろしいのでしょうか?
投稿: | 2008年11月18日 (火) 07時38分
A29
基本的には、そう考えて良いでしょう。

Q30
先生はじめまして。
いつもブログで勉強させていただいております。
私は司法書士受験生です。
先生は、勉強に行き詰まったとき、どのようにモチベーションをUPさせていましたか?
私は、最近、義務感で勉強していて、気持ち的にかなり落ち込んでいます。
投稿: akina | 2008年11月18日 (火) 08時17分
A30
モチベーションは、好きな漫画を読んでアップさせていました。
「ガラスの仮面」とか、「がんばれ元気」とか読むと、がんばろうという気力が沸いてきましたね。

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2008年11月 3日 (月)

金融庁の株価対策

最近、株価が下がったり、上がったりのジェット・コースター状態で、私も、株式市場から目が離せません。
私は、インサイダーが怖くて個別株は買えないので、この安値局面でも、日経225と、投資信託(J-REIT関係)にだけ投資しています。

さて、この株式市場の乱高下に対し、麻生総理の指示によるものだとは思いますが、金融庁が矢次ばやに手を打っています。

市場は需給で価格が決まるので、売りを抑えて、買いを増やすのが、株価支えの常とう手段です。

売りを抑えるという点で金融庁が取ったのは空売り規制。
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20081027-2.html
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20081029-1.html

下げを加速する空売り規制は、数年前は評判の悪い政策だったのですが、今回は、速効性があるということで評判はまずます。一般的には、空売りで儲けることは悪だとは思わないものの、今回のように市場がヒステリックなときに、空売りで自分だけ儲けようとするのは、国賊扱いされてもやむをえないというところでしょうか?

他方、買いを増やすのは、なかなか難しいところですが、金融庁は、こんなときこそ、上場企業の自助努力を促そうと、自己株式取得ルールの緩和を打ち出しました。
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20081014-2.html

中身は、1日の買付数量制限を増加させ、買付時間の制限をなくすというものです。

ただ、これだけで、自己株式を取得しやすくなるかというと、なかなかそうは行きません。
それは、インサイダー取引という怖いルールがあるからです。

以前から私が主張しておりますように
 資本取引である自己株式の取得をインサイダー取引の対象から、完全に外す
という英断をしてくれれば、よいのですが、現時点ではそうなっていないので
  現在、重要事実のある会社
は、自己株式の取得をすることが著しく困難です。
 円高・株安のご時世に、下方修正に関する重要事実のない会社は、稀ですので、上場企業は、買いたくても買えない状況に陥っています。

 特に、株価の下落を受けて、上場会社が保有している株式が、取得価格の2分の1以下となっていることが多いため、上場企業は
   このままの株価で12月末を迎えれば、下方修正は必至。
   とすると、もう重要事実が発生しているのではないか?
と疑心暗鬼になっています。

法的には、業績予想の下方修正は、12月末で減損が明らかになり、取締役会が当該修正を承認したときから重要事実になると解釈するのが通説だと思いますが、あまりにも株価が下落しすぎていると
  12月末までに株価が戻るとは思えない
  減損になるのが必至なら、もう重要事実が発生しているのではないか
と心配するのが人の常。
 こういう心配が起こらないように、ぜひ金融庁のHPで、自己株式取得に関するQ&Aを載せて
   Q 中間決算期後に、わが社の保有株式の株価が2分の1以下となってしまいました。この時点で、インサイダー取引の重要事実は発生したものと考えるべきでしょうか。
  A いいえ。まだ重要事実は発生しておりません。
というQ&Aを入れてもらいたいです。

それから、金融庁は、買い強化の一環として、従業員持株会にも目をつけています。
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20081027-1.html
これは、従業員持株会についてのインサイダー規制等の適用除外規定について、日本証券業協会の会員を通じて周知を図り、
「日本証券業協会のガイドラインにおいては、「一定の計画に従った買付け」について、原則として、月中における特定の日に買い付けることが示されているが、この点について、必ずしも各月で特定の1日に買い付ける必要はなく、複数の日における買付けを行うことが可能であることを明確化すること」
を要請したものです。

金融庁のお気持ちはわかりますが、この要請に基づき
  よし。うちの会社でも新規加入や拠出金の増額のキャンペーンをやろう
とかいうことになって、重要事実を知っている人たちが新規加入等をやってしまったら、インサイダー取引になってしまいます。

この点につきましても
 インサイダー取引にならないように政令で明確化していただくか
 実は、新規加入等についても、現在の規定で適用除外の対象となっているという解釈をQ&Aで明らかにするか
していただくと、非常に助かります。

以上、金融庁への要望でした。

(質問コーナー)
Q1
「オリックスよりも勝率が低い」とありますが、今年のオリックスはパリーグ2位です。勝率0.524です。それだけです。
投稿: ぞう | 2008年10月29日 (水) 09時20分
A1
そうでした。今年のソフトバンクの成績を信じられない私の妄想でした。
オリックスをソフトバンクに改めます。
オリックスおよびファンの皆様すいませんでした。

Q2
株主代表訴訟の原告適格について質問をさせてください。
株式併合で1株未満の株主となった場合や、定款変更で代表訴訟提起権のない単元未満株主となった株主の原告適格が維持されるかどうかの問題で、これが否定されるという見解にたつ場合、851条1項各号により訴訟追行権を保護される者との区別はどのように説明すればよいのでしょうか。
投稿: けつき | 2008年10月29日 (水) 11時32分
A2
典型的か、非典型的かの違いでしょうね。

Q3
会社法100問(第2版)の一問一答の部分で質問をさせて下さい。
第377問なのですが、ここでは株券発行会社の株主AがBに株式を売却したところ、B及びAが名義書換を失念している間に、会社が株券不発行会社になったことを奇貨としてAがCに意思表示で当該株式を譲渡し、対抗要件を備えた、ということになっています。
この場合、解答には対抗要件を備える以上Cが株式を取得するとなっていますが、以下の様に考えることは出来ないでしょうか。
つまり、「最初のBに対する株式譲渡は128条1項の要件を満たし、AB間では問題なく譲渡は有効。従って、(Bが対会社対抗要件(130条2項)を備えていない点から、Aが会社に対して株主であることを主張できるかの問題はあるとしても)、とにかくAは第三者に株式を譲渡しうる地位をこの時点で失っていると考えるべきである(無権利者)。
そうだとすると、無権利者からの株式の譲受人であるCは、これを善意取得するほか株式を有効に取得し得ないが、株券不発行会社においては131条の適用の余地はない(仮に122条の書面の交付をAから受けたとしても、これで131条を類推することも無理な様な気がします)以上、やはりCは株式を取得し得ない。
よって、Cも無権利者となるから、無権利者が対抗要件を備えても、それは無意味でありいわば不動産登記でいう不実登記のようなものである。Bは株主たる地位を失わない。」
以上の様に考えるのはおかしいでしょうか。私は、やはりAは当事者間では株主たる地位を喪失している様に思えるので、無権利者と思うのですが、解答の考え方は、不動産売買における二重譲渡の場合の不完全物権変動の様に、株主名簿にAに関する記載がある場合、株主たる地位は完全にはBに移転していない、従ってCに譲渡し得る、と考えるのでしょうか。
この点、少し分からなかったので教えいていただけたら幸いです。
投稿: TK | 2008年10月29日 (水) 13時30分
A3
そういう考え方も一説としてはありうるでしょうが、株券不発行の立案時にTKさんの説も検討の上、100問のような考え方に至りました。

Q4
旧試の論文試験について2点質問させてください。
1点目。
 先生が受験生だったころに、論文を紙面に表現するにあたり、形式面で最も気 をつけていたことは何でしょうか?
 例えば、①原則例外パターンの問題だと、その思考過程を論理的に飛躍が無 いように示すこと、②要件をすべて検討すること、③ナンバリングで階層構造を 明らかにすることetc
2点目。
 長らく試験指導をやっていないと思うのですが、一般的に論文受験生に欠落し ているのではないかと思われる点などありますか?
抽象的な質問になってしまい申し訳ないのですが、ご回答のほどよろしくお願い致します。
投稿: TJ | 2008年10月29日 (水) 13時30分
A4
形式面で気をつけていたのは
 読めるような字を書くこと
 主語と述語を必ず書くこと
です。
 合格しない論文受験生に欠落しているものは
  勉強量
です。

Q5
旧試論文についてなのですが、
先生は字を綺麗に書くことに気をつけていましたか?
字が汚いと減点されるのでしょうか?
略字は使ってもいいのでしょうか?
合格者再現答案ではこのあたりが明らかにならないので大変悩んでいます。
投稿: TJ | 2008年10月29日 (水) 13時39分
A5
字は、汚くてもよいですが、読めないと点のつけようがありません。
略字は嘘字です。

Q6
わたくしのロースクールの生協の本屋さんでは、会社法100問は、当初今年秋改訂予定と表示してあり、現在は、来春改訂予定と掲示してあります。葉玉先生は、そのつもりでなくても、ダイヤモンド社としては、改訂予定ということでしょうか?
投稿: 某ロー生 | 2008年10月29日 (水) 17時34分
A6
ダイヤモンド社が改訂するわけではないので、そういうことはないと思います。

Q7
会社法100問の92問目について質問させていただきます。
一問一答の1107で,423条1項の損賠請求ができるとありますが,429条1項ではないのでしょうか。
また,423条1項で正しければ,会社にどのような損害が生じているのか。423条1項の他に429条1項の請求もできないのか。
投稿: こんにちは | 2008年10月30日 (木) 22時19分
A7
そうですね。429条1項の方がよさそうですね。

Q8
6月に東証上場会社の常勤監査役を退任して、新興IT会社の常勤監査役を勤めています。その会社は「大会社の非公開会社」なのですが、先日株式の譲渡承認の案件が取締役会にかかって考え込んでしまいました。
そもそも譲渡制限は株主間の利害の問題であり、一般的に取締役会は株の保有者をコントロールできないはずなのに、どうして会社法第139条で株式の譲渡の承認権(=拒否権)を取締役会設置会社においては株主総会ではなく取締役会に与えているのでしょうか?ちなみにこの会社の取締役は、全員「雇われ取締役」で、ほとんど株を持っていません。
投稿: 茶飲みじじい | 2008年10月31日 (金) 12時19分
A8
通常の譲渡制限会社は、多数派=オーナー=取締役であり、取締役会で判断した方がニーズにあうからでしょう。
「雇われ取締役」の会社では、あまり譲渡制限はなじまないですよね。

Q9
刑務所前医務課長ら不起訴=受刑者の「虐待」告訴、についてですが先日の別の刑務所内の事件でも、人が亡くなっているのに執行猶予がつきました。
法律に限界があるのはわかります。しかし、それを変えようとする動きも報道もありません。葉玉さん自身は、判決また受刑者に対してどうお考えですか?
投稿: トモ7 | 2008年10月31日 (金) 14時07分
A9
変えるべき事実があるかどうかが、問題です。
事実を知らない私が、不起訴の内容についてコメントすべきではないでしょう。
最近、病院のたらいまわしが問題になっていますが、刑務所内で働く医師は、産婦人科以上に希望者がいません。
医者の給料は、各段に安いです。
治療のための予算も十分ではありません。
国民は3割負担ですが、受刑者の治療は、事実上、すべて国家が負担しています。
受刑者は、一般人よりも、詐病を訴える動機があります。
そういう現実の中で、誰がどの程度のお金を払い、どのような治療をすべきか、という問題だと思います。

Q10
会社法100問の92問目の追加質問をさせていただきます。
1.P541の4「効力発生日が到来した場合,~無効の訴えを提起することが考えられる」とありますが,効力発生日が到来する前から合併はすでに承認されたのであるから無効の訴えはできるのではないでしょうか。発生日が到来したら,訴え提起が制限される(期間等)だけなのでは?効力発生日が到来してからでないと,「効力発生は10年後」なんていう場合,ずっと訴えられない状態が続いてしまいますし。
A11
効力が発生していないならば、無効の訴えではなく、差し止めを求めるべきでしょう。

Q12
2.P544の上から3行目,「また~」の箇所について。計算書類等閲覧等請求権(442条3項)とありますが,規則182条1項4号に「計算書類等」とあるので,株主は782条の請求をすれば十分であり,あえて,442条3項をする必要はないのでは?
投稿: こんにちは | 2008年11月 1日 (土) 13時27分
A12
確かにそうですね。規則ができる前に書いた答案だったので、その分余計になっていますね。

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2008年9月19日 (金)

MBOと株式価格決定

同じビルに入居しているリーマンブラザースの件で、私も周りの弁護士も様々なご質問をいただいております。アメリカと日本の倒産手続が同時に進み、金融庁が資産の国内保有命令を出すなど、法律的にはいろいろ面白いのですが、ちょっとホットすぎて、ブログで書けません。

そこで、レックスホールディングの価格決定の申し立て事件の東京高裁決定について、少し検討します。

この価格決定の申し立てという制度は、全部取得条項付種類株式の取得が行われた場合に、株主は、株主総会で定められた対価を受け取ることができるのですが、jその価格に納得がいかない場合に、裁判所にその対価の価格を決めてもらう制度です。

非訟事件で、法律的には、「公正な価格」で決めろといっているだけですから、結局、裁判所が、気合いで、価格を決めることになります。
もちろん、気合いとはいうものの、裁判所としては、なんらかの理屈で価格を決定しないと格好がつかないので、今回の東京高裁決定も、いろいろな検討を加えています。

詳細に検討すればいろいろな論点がありますが、
1 非上場化した後に株式を取得した場合に、「市場価格」をベースに決定できるか
2 会社の公表により株価が下落した場合に、公表【前】の株価を算定の基礎にできるか
3 公表【後】の株価を算定の基礎にできるか
4 TOB公表後の株価を算定の基礎にできるか
5 何ヶ月の平均株価をとるか
6 強制取得されることによって株主が失う利益(将来の株価の値上がりの期待の利益)を「公正な価格」に織り込むか。
というあたりが主たる争点でしょう。

この点、東京高裁決定を、おおざっぱにまとめると、次のとおりです。
1 非上場化した後に株式を取得した場合でも「市場価格」をベースに決定できる。
【コメント】
 MBO後、数年たっていれば、別でしょうが、一連のプロセスでの価格決定の申し立てなので、市場価格ベースはやむをえないところでしょう。
 東京高裁は、レックス側が純資産価額方式、類似業種比準方式等を併用して算定している株価は採用できないものとしています。このあたりは、カネボウのときの記事を参考にしてください。
 http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_1797.html
 継続企業で、つい直前まで上場会社だった会社に、純資産価額方式はさすがに難しいでしょう。
 類似業種は、比較すべき上場会社が適切であれば、採用する余地があるのでしょうが、市場価格との乖離が大きすぎて、裁判所に対する説得力を持たなかったようです。
 DCFは、レックス側が政策的に使わなかったような感じですね(邪推です)。
 
2&3 業績の下方修正などの公表により株価が下落した場合に、公表【前】の株価も、公表【後】の株価も、ともに算定の基礎にできる。
【コメント】
 ここのところが最大のポイントです。東京高裁は、レックスの公表について、結構、微妙な判断をしています。
 つまり、
① 株価を下げる目的で公表したものではなかった(レックスに有利)
② 下方修正の原因は、資産の評価替え等が主であって、実質的な企業価値の毀損が生じたものではない(株主に有利)
③ それにもかかわらず、こういう公表の仕方をしたら、実態以上に市場は悲観的な対応を取る可能性が高いから、適切な公表の仕方とはいいがたい(株主に有利)
④ とはいえ、公表内容そのものは、実態を表したもので、虚偽ではない(レックスに有利)
という感じなのです。
 それで、結局、
  公表によって、市場価格は下落したが、実態として、企業価値の毀損があったわえけではないので、「公表前」の価格も算定の基礎にする。
 逆に、結果的に公表内容は真実なのであるし、ある程度の期間をとれば、公表後におきた過剰対応下落分についても平準化されるので、公表後の株価も算定の基礎にする
という結論に落ち着きました。
 このことを応用すると
   下方修正が、大事故で企業の資産が著しく毀損したというような企業価値の毀損を原因とするものであれば、それ以前の株価は算定の基礎にしない
 公表内容が虚偽だったら、公表後の株価は算定の基礎にしない
というルールも導けそうですが、そこらへんは、結局、裁判官の「気合」の入り方次第でしょう。

4 TOB公表後の株価は算定の基礎にできない。
【コメント】
 TOB価格に引きずられちゃうから、ということです。
 でも、MBOではなく、第三者のTOBだったら、算定の基礎にしてもよいかも。

5 6か月の平均株価をとる
【コメント】
日証協の基準や実例から、6ヶ月というのが一般的ということが理由です。
昔と違い、現在は、4半期報告の時代ですから、3ヶ月のほうが実態にあうようになるかもしれません。

6 強制取得されることによって株主が失う利益(将来の株価の値上がりの期待の利益)を「公正な価格」に織り込む。その分として、他のTOB事例などから、平均株価の20%のプレミアムを乗せる。
【コメント】
  ここは、難しいところです。
  株価は将来上がるかもしれないし、下がるかもしれない。
  株主は、強制取得されることにより、株価の値上がりへの期待を奪われるかわりに、株価の値下がりリスクからは開放されます。
 東京高裁も決定文に書いているとおり、こうした将来見込みは、デューデリしたり、事業計画を検証したりしなければ、合理性のある判断はできないと思います。
 ただ、東京高裁は、そうした判断をするための資料をレックスが提出しなかったことから、他のTOB事例の平均的なプレミアムである20%を「将来の値上がり期待分」として認めてあげました。
 ですから、20%という数字を一人歩きさせ、「6ヶ月平均の20%増しが判例の立場」と一般化するのは、間違いであり、ここの部分はケースバイケースの要素が強いでしょう。

以上、ざっと東京高裁の決定をみた感想まがいの解説でした。
では、また。

(質問コーナー)
Q 1
旧の司法試験を受けているものですが,このブログは大変勉強になります。
①100問
②判例百選・重判
③葉玉ブログ
を会社法学習の三種の神器と言っていいのではないかとさえ思っております。
ところで,このブログのコンセプトからして,会社法学習者(司法試験受験者を含む)からばりばりの実務家まで幅広く想定しておられ,最近の記事は,特に実務家を対象にされているものが多いように思います。
そこで,この辺りで,会社法学習者を対象にした,実務に出るまでにここまでは知っておいて欲しい,という事項を対象にした記事・Q&Aをまとめて書籍化される,というお考えはないのでしょうか?
司法試験受験生には100問が大変人気があると伺っており,同様のコンセプトでブログを書籍化した場合にも,それなりの読者がつくことが予想されます。
ぜひご検討お願いします。
投稿: picaro | 2008年9月11日 (木
A1
ご声援ありがとうございます。
企画はあるのですが、時間がないのが実情です。
会社法100問も在庫がなくなったので、第3版を出せといわれているのですが、やる暇がありません(会社法100問は、増刷予定もないです)。
花より男子を見ている場合ではないようです。

Q2
うちくる見逃してしまいました。放映前に告知して欲しかったです。
再放送無いんでしょうか?
投稿: 会社法漫遊 | 2008年9月12日 (金) 01時0
A2
再放送を見ていただくほどの活躍はしておりませんので・・

Q3
会社法13条に表見支配人、354条に表見代表取締役の規定が有ります。
13条は但し書きで悪意者を除き、354条は本文で善意者に限っています。
これは立証責任を転換したものなのでしょうか?
民法の表見規定に倣えば、民法110条のように本文で書いていれば善意の立証責任は代理人の相手方になり、但し書きなら本人に相手方悪意の立証責任があると記憶しています。
しかし、表見支配人と表見代表取締役の規定にあてはめると、より保護されるべき(私の勝手な価値観ですが・・・)表見代表取締役の相手方が善意を立証すべきことになり、なんだか腑に落ちないのです。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
投稿: 混迷 | 2008年9月12日 (金) 01時21分
A3
難しいところですね。支配人のほうが権限が狭いですし、支配人は登記事項ではあるものの、支配人の登記はめったにされませんから、名称付与を根拠に厚く保護してあげるほうがいいようにも思います。

Q4
ちょうど話題に出た株懇の株式取扱規程モデルについて質問させてください。モデルの第1条(目的)に「当会社における株主権行使の手続きその他株式に関する取扱いについては・・・」とあります。以前このブログを拝見したとき、「その他」は並列を意味し、「その他の」は例示を意味するというような記事を見ました。「株主権行使の手続き」は「株式に関する取扱い」の例示に当たると思いますので、規定の書きぶりとしては「当会社における株主権行使の手続その他の株式に関する取扱いについて」が適当ではないでしょうか?(どちらでも間違いではないのかもしれませんが、少しばかり気になったもので・・・)
投稿: ここりこ | 2008年9月12日 (金) 07時08分
A4
法制局的に突き詰めると、もっといろいろありますので、お手柔らかにということです。

Q5
無事、今年の新司法試験に合格しました。すごくほっとしています。
勉強法に迷ったとき、先生の教えを参考にして勉強してきました。ありがとうございます。
ご多忙の中恐縮ですが、就職について質問させて下さい。
私は、今のところ検事を第一志望として考えています。
その理由は、検察官の方の講義で、「検事は、被疑者と信頼関係を築くことが重要である」という話に感銘を受けたということ、もう一つは、真実を自分の足で追及していくという姿勢が自分の肌に合っているじゃないか、ということです。
逆に、心配事もあります。
それは、犯人から恨まれることが多いので、気軽に外出できないのではないか、ということです。特に家族に危害が加えられるのではないか、ということが心配です。
先生は、検事の仕事の醍醐味は何だと思われますか?また、逆に、検事であるとこによって、危険を感じたり、不自由を感じたりすることはありましたか?あと、私は気が強いというタイプではないのですが、検察官はやはり質実剛健な方が多いのでしょうか?

投稿: べんじ | 2008年9月13日 (土) 13時35分
A5
検事や家族に危害を加えても、他にいくらでも代わりがいるので、襲われません。
まったく心配いりません。

Q6
葉玉先生、「会社法で遊ぼ。」創設以来、いつも楽しく拝読させて頂いております。
当方、不合格の結果を受け、新司法試験を撤退することに致しました。
司法試験を励み続けること8年、あらゆる努力と我慢をして臨んだ今回の試験、今回こそはきっと合格してるはず、仮に今回の答案が試験委員の心に届かなかったら潔く辞めようと決心して掲示板を見に行きました。
番号は有りませんでした。何度も、何度も確認しても有りませんでした。
雨の降る日比谷公園で8年分、声を出して泣きました。27歳にして初めての悔し涙でした。
潔く撤退しようと思っていてもやはり心の何処かで割り切れない自分がいます。でももう終わり。
2日経った今、長い間支えてくれた家族、友人、恩師、こんな自分を信じてついてきてくれた恋人に心から感謝しています。
そして、直接お会いしたことは有りませんが、blogを通して会社法の世界をご教授して頂けたことを大変ありがたく思っております。
葉玉先生、ありがとうございました!
投稿: 甘酸っぱい27歳 | 2008年9月13日 (土) 15時28分
A6
私は、LECで2年半教えましたが、今の業務に直接役立つことはわずかです。
また、検事で刑事事件を8年くらい一生懸命やりましたが、弁護士の業務に直接役立つことはわずかです。
しかし、それらの仕事を懸命にやったことが、私の「自信」の源であり、今の私の基礎となっています。
あなたが、勉強した8年間は、司法試験合格という形では実を結ばなかったかもしれませんが、その経験を「無駄」にするのか、それとも、あなたが懸命に生きた証として、将来に生かすことができるのかは、これからのあなた次第です。
 
Q7
今回のQAに
>A10
ローで何をやろうと、新司法試験の選択で何を取ろうと、就職にはあまり関係ないと思います。
と、ありますが現ロースクール教授・大手事務所人事からの非常にありがたい見解と受け取りました。
これは即ち、ローでやる程度の専門分野の修得には何ら期待していないということでしょうか?
ローによっては「就職後」を見据えたカリキュラムを売りにしている所が多々あり、その中には葉玉先生の勤める渉外系も多くみられます。
私もこのような「売り」に反応し、そのような先取りを一つのメリットとして捉えていたのですが上記のようにおっしゃられると入学後の青写真を考え直さざるを得ないような気がしてきました。
具体的には、就活の際にその事務所の専門分野を履修した事をアピールするよりも、GPAをアピールすべきなのでしょうか?
即ち専門分野で高GPAが取るのが一番だとは思いますが、そのような科目で高GPAを取るのが難しいと言われている場合は他の当たり障りの無い、高GPAを狙える科目を履修した方がいいのでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿: ロー受験生 | 2008年9月13日 (土) 23時32分
A7
 ローで勉強する程度の時間をかけたくらいで、即戦力になると考えるほど楽観的な採用担当者はあまりいないのではないでしょうか。
 ただ、関心のあることを勉強するのは、悪いことではありません。
 また、GPAをあげることを第一に置くのも、戦術的にはありうるでしょう。

Q8
以前の記事で、「未習者を侮るなかれ」という記事について質問します。
チームを作らせて、チームが一丸となって勉強するように指導する。
というアドバイスがあったのですが、具体的には何人ぐらいのチームが理想とお考えでしょうか。
2人では少ないでしょうか。
ご回答よろしくお願いします。
投稿: 来年絶対受かってやる。 | 2008年9月15日 (月) 12時09分
A8
2人でもいいと思います。

Q9
こんばんは。「黒猫のつぶやき」というブログに、法科大学院と新司法試験について、とても衝撃的なことが書かれておりました。葉玉先生のご意見をお伺いしたく思います。
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/dfb76f05822a47bba1aca141ad6909b8
投稿: ルミハテ | 2008年9月16日 (火) 01時02分
A9
すいません、どこらへんが衝撃的か、よくわからないです。
ちなみに、私は、東大ローは、ローで入試対策をしていないのに、こんなに合格しているのはすごいという趣旨の発言はおかしいと思います。
東大ローは入学するときは、一番難しいので、合格率が一番であるのが当然なのに、ローは、ロー生の実力を伸ばしきれておらず、ロー生も勉強の方向を間違えているのではないか、と評価するのが正しいのではないでしょうか。

Q10
3連休に法と経済学の専門書を読んでいると、法制作者が考慮しなければならないのは国民一人ひとりの効用(物質的なもの、非物質的なものを含む)だけであり、公正や正義という基準を考えるべきではないとの主張がありました。
具体的には、金持ちだけがある法の施行によって効用が増えるのであっても、その法は施行されるべきだ。 効用の再分配は、法ではなくて税制度で調整するのが妥当である、と。
この筆者(ハーバード法科大学院教授Steven Shavell)の論理に従うと、格差問題も法律で解決するのではなくて、税制で解決するとなるのですが、葉玉先生はどうお考えでしょうか?。 また、法政策を担当していらっしゃった時には、何を基準に法律を作成していたのでしょうか?
投稿: まるまる | 2008年9月16日 (火) 11時57分
A10
その考え方は、非現実的で、誤りに満ちていますね。
法と経済学については、親近感を持つ部分もあるのですが、経済学によって経済政策の目的を達成できないのと同じように、法と経済学で法の目的を達成することはできません。
法は、ニーズと既得権益と信念と妥協の塊ですね。

Q11
現在、会社法のゼミに所属しており、
買収防衛策についての卒論を書こうとしているのですが、
葉玉先生がこういうことを調べてみると面白いんじゃないか??など
興味を持たれているテーマがあれば教えていただけないでしょうか??

難解すぎて理解できないかもしれませんが、お願いします。
投稿: ほいほほい2 | 2008年9月16日 (火) 18時22分
A11
ライツプランを無効化する買収方法なんか面白いのではないでしょうか。

Q12
ぜひぜひ台湾バージョンの「花より男子」ドラマをご覧下さい。
投稿: | 2008年9月16日 (火) 20時22分
A12
また時間がなくなりそうです。

Q13
取締役が他社の取締役になっても、その会社の代表取締役にならない限り競業避止義務にならないと本に書いてあるのですが、経営に参加する以上、競業避止義務になると思うのですが??
投稿: どうしても | 2008年9月17日 (水) 00時48分
A13
禁止されているのは、「取引」なのです。
代表取締役でも、実質的に「取引」をする場合には、規制は及びますが、就任および平取締役の通常の活動なら「取引」にはなりません。詳しくは会社法100問をみてください。
Q14
株式取扱規程についてですが、
今回の株式取扱規程については株主の権利行使手続に深く踏み込んでおり、株主に手続の内容を開示する必要があるとのご指摘がございましたが、
具体的にはどのような「開示」方法により株主へ開示するのがよいのでしょうか。また、その際には手続きの内容を概要として開示すべきなのか、もしくは規程全文を開示すべきなのか、についてもお考えをお聞かせいただければ幸いです。
投稿: 株取担当 | 2008年9月18日 (木) 12時31分
A14
会社の自治にゆだねられますが、私はクライアント様に両方の案を提示しています。

Q15
以前の質問にお答えいただき、ありがとうございました。
 会社法の条文解釈で質問です。お忙しい中、よろしくお願いします。
1、423条3項1号の「取締役」とは、356条1項2号の株式会社と取引をした「取締役」又は、同3号の株式会社と利益が相反する(債務を保証されたような)「取締役」でしょうか?
 もしそうであれば、後者の「取締役」が、株式会社に損害賠償する責任を負う理由は、保証人の求償権(民法)が会社法(特別法)では損害賠償に転化するから、と理解してよろしいでしょうか?
A15
3号の取締役は、「取引」はしていません。
Q16
2、423条3項2号の「取引をすること決定した取締役」とは、356条1項2号の取引を決定した株式会社側の取締役又は、同3号の取引を決定した株式会社側の取締役でしょうか?
A16
そうです。
3、会社法の条文でよく意味が分からない場合に使える、コンメンタールや択一六法のような条文解説の本で、初級・中級者向けにお勧めのがありましたら、教えていただけたら助かります。
A16
会社法100問の条文索引でも使ったらどうでしょうか

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