2008年7月20日 (日)

会計慣行と長銀事件

長銀事件で最高裁が無罪判決を出しました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080718153916.pdf

この事件の公訴事実は、簡単にいえば、長銀の代表取締役等が、取立不能と見込まれる貸出金の償却又は引当をしないことにより,当期未処理損失を過少に圧縮し、虚偽の有価証券報告書を提出した、さらに、配当可能利益がないのに配当を行ったというものです。

 具体的には、長銀の関連ノンバンク向け貸付について、長銀が従来の会計慣行に従った方式で処理したのに対し、検察官は、
① 大蔵省の金融検査部長が平成9年3月5日に出した資産査定通達等により補充された改正後の決算経理基準が、「公正ナル会計慣行」である。
② 長銀の会計処理は、改正後の決算経理基準に反している
と主張して、本来行うべき「貸出金の償却又は引当をしなかった」としたわけです。

 元検事だから検察官の味方をするわけではありませんが、新基準があれば、新基準に従った処理をすべきであるというのは、常識的な話であり、その考え方自体は、それほどおかしなものではありません。

 しかし、最高裁は
 新基準のうち、今回問題となっている資産査定の部分については、被告人らの行為の時点においては、どのような評価を行えばよいか不明確だったので、改正前の決算経理基準に従っている処理したとしても、それが、「公正ナル会計慣行」に反するものとはいえない
と判断しました。

 一言でいえば、
  新基準の内容がまだ十分明確になっていなかったから、旧基準でやってもOKです
ということです。

 この判断は
 ① 資産査定通達が、定性的でガイドライン的なものであり、本件の時点において、具体性・定量性のある基準があるとは言い難かった(資産査定を厳格化するということは決まっているが、関連ノンバンクに対する貸付のような事例で、どの程度の償却をし、どの程度引当金を積むかよく分からなかった)
 ② 他の銀行(18銀行中14銀行)も、長銀と同様の処理を行っていた
という事実関係のもとで出されたもので、一般化することは難しいかもしれませんが、最高裁が
  「公正ナル会計慣行」は唯一ではない
ということを認めた点では、非常に興味深いところです。

 ご承知のように株式会社は、貸借対照表等を作成し、これを公告し、債権者等に閲覧させる義務を負っています。債権者などは、その貸借対照表等を見て、その会社の信用度を測ったりするわけです。

 この制度の目的を十分に果たすためには、貸借対照表等を作る際の基準となる「会計慣行」は、「唯一」である必要があります。会社ごとに会計慣行が違ってしまうと、貸借対照表等を見ても、その数字がどんな会計慣行に基づいて計算されたものか分からない限り、本当の中身を理解できないからです。

 長銀事件を例にとれば
   長銀のように旧基準を用いた貸借対照表と
   新基準を用いた銀行の貸借対照表が、混在している状況
になってしまうと、少なくとも旧基準を用いたのか、新基準を用いたのかを開示してくれない限り、それらの銀行の貸借対照表を同列にして比較することはできません。

 他方で、「唯一」の会計慣行というルールが足かせになる場合もあります。

 典型的なのは、中小企業会計であり、上場企業を念頭において、複雑で精緻な会計慣行が形成され、それを中小企業にも適用されてしまうと、中小企業は、コスト的にも能力的にも、対応が極めて困難になってしまいます(規模の違い)。

 また、会計慣行の唯一性を強調しすぎれば、株式会社のうち銀行だけが、他の株式会社と異なる会計慣行をとることを説明することが難しくなります(業種の違い)。

 さらに、長銀事件のように、会計慣行が政策的理由により変更されるような場合、新会計慣行が何を求めているのか、明確ではなく、会社ごとに対応が異なる場合もあります(時代の変化)。

 結局、会計慣行の「唯一」性に拘りすぎると、何かと実務に支障が生じますから、会計慣行は、必要に応じて、ある程度多様性を許容する形にならざるをえず、今までも、理屈はどうあれ、そうした取扱いがされてきたはずです。
 
 長銀事件では、新基準のあいまいさが仇となり、旧基準に対応した会計処理が適法とされました。最高裁の脳裏に、会計「慣行」となるためには、単に役所が決めるだけではなく、それが実務で使われるようにならなければならないという発想があったかどうかは分かりませんが、企業側にとっては、少しだけホッとすることができる判決でした。

 現在、企業会計基準委員会(ASBJ)は、コンバージェンスに向けて、会計基準を矢継ぎ早に開発しています。
 この会計基準の法的位置づけについては、若干、難しい論点があるものの、ASBJの会計基準は、会社法と金融商品取引法において、公正妥当な会計慣行であるとして認められています。
 ASBJは、長銀事件で問題となった資産査定通達より、明確な新基準を策定していますから、長銀事件で何か劇的な影響を受けるわけではありません。

 しかし、基準だけで、すべての事象に対応するのは不可能であるのもまた事実であり、会計基準が頻繁に策定される現在の社会情勢の中で、「有価証券報告書の虚偽記載」や「違法配当」の意味を考える上で長銀事件は重要な示唆を含んでいると思います。
 新基準が施行されれば、それに従うのが当然ではありますが、基準から明確に導き得ない点について、企業が従来どおりの会計処理を行った場合、その処理が後に明確化された基準に反していたとしても、「会計慣行」には反するわけではないという程度に一般化されれば、担当者も、会計監査人も、少しはホッとするでしょう。

 また、会計慣行の問題ではありませんが、内部統制報告書の虚偽記載があるか否かの判断においても、同様の考え方ができれば、過剰対応を回避するのに役立つかもしれません。

(質問コーナー)
Q1
>行からの資金調達がいきなりストップし

すみません、意味がよくわからなかったのですが、誤記でしょうか?
でも「銀行からの」「行政からの」「公からの」のいずれでも意味が通るし、判断付きませんでした。
投稿 | 2008年7月14日 (月) 00時36分
A1
銀行です。

Q2
・新株予約権に取得請求権付がないのには理由がありますか。
・株式会社の株式移転の無効の訴えの原告についてなのですが
他の組織再編と異なり株式移転だけ
株式移転について承認をしなかった債権者が
含まれていないのは何か理由があるのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月14日 (月) 01時31分
A2
(1)新株予約権は、株式のオプションです。それにオプションをつけると、社債予約権とか、新株予約権予約権とか、米予約権とか、多彩なものができてしまうので、あまり正面から規定したくないからです。
(2)すいません。ちょっとした大人の事情です。

Q3
蛇の目ミシン等の判決を読んでて思ってたのですが、やはり、反社会的勢力との関係維持(取引)については経営判断原則の適用はないと考えるのですね。
TMIの新人採用面接、楽しんでらっしゃいますね(笑)葉玉先生と話す事だけを目的として採用面接に行ってもよろしいのでしょうか?(笑)
ところで、先生は司法修習地をいかなる基準で選択されましたか?また、何故、裁判官や弁護士ではなく任検の道を選択されたのでしょうか?何が決め手となりましたか?
投稿 しょ | 2008年7月14日 (月) 02時14分
A3
 司法修習地は、両親のことを考え、故郷の福岡を選択しました。
 検事になったのは、修習中に一番面白かったのと、いいタイミングで指導担当検事が誘ってくれたからです。

Q4
検査役についてなのですが
具体的にどのような人がなるのでしょうか。
何か資格を保有している人なのでしょうか。
投稿 勉強中 | 2008年7月14日 (月) 17時49分
A4
弁護士が多いですね。

Q5
>カールさんのご家族が、上場株式に投資しただけで
>家族の氏名・住所が第三者に知られることに違和感が
>ないのなら私の気持ちは分からないでしょう。
違和感があるかないかと言われればあります。しかし、この問題を、そうやって単純化してしまうのには賛成しません。その規制の先にある、市場の生態系に与える影響を吟味してからでないと、コンプライアンス不況の二の舞になるからです。
そもそも株主というのは、収益の最大化を目的としているわけです。健全な買収者が現れ、市場よりもプレミアムつきで買い取ってくれことは大歓迎ですし、健全な買収者の活動は、幅広く経営者に規律を植えてくれるでしょう。
葉玉さんの思惑とは別に、株主の有形無形の権利を奪う可能性があるということです。つまり、一言だけ言いたいのは、閲覧禁止による買収者の減少の度合いや、市場に与える影響を、精査することなしに、軽んじるのはやめていただきたいということです。

そういえばアメリカで、著名ブランド、バドワイザーが外資に買収されましたが、日本の未熟な経営者、株主にこういったことができるでしょうか。いまだに株主の権利が希薄な日本で、コンプライアンス、買収防衛策ばかりが論じられ、実際の市場の機能がおざなりになる現状を憂います。
投稿 カール | 2008年7月14日 (月) 18時58分
A5
私の記憶に間違いがなければ、アメリカでは、株主の承諾がなければ、他の株主に氏名・住所を知られることはありません。

Q6
3万8千回ぐらい読み返しましたが、あなたがまともに考えている文面を見つけられませんでした。
馬鹿でどうもすみません。
幸せなカリスマ人生を送れてよかったすね。
投稿 ひで | 2008年7月14日 (月) 20時36分
A6
私は、3万8000回も読み返していませんが、一応、まともに考えてお話をしています。
ひでさんの拘りは、「書きぶり」にあります。
法律の「書きぶり」は、ひでさんの感覚でも、私の感覚でもなく、先例によって決められます。ひでさんが、条文を書く立場に立ち、会社法や他の法律の規定ぶりを調べ、さらに、私の文章に込められた実務上の要請を読み解き、立案担当者がなぜその書きぶりを選択したかを考えれば、きっと分かっていただけると思います。
また、ひでさんは、馬鹿ではないと思います。
それから、私は幸せですが、カリスマではありません。

Q7
>A4
>一部の株式を取得するとき、みんな平等に減らすのならば、定款で決めなくてよいという意味です。
例えば3000株取得しようとしたが株主が10000人いる場合など、端数が生じ、どうしても平等にならない場合については、どのようにお考えでしょうか。
投稿 | 2008年7月14日 (月) 21時41分
A7
その場合は、取得方法を規定する必要があると思います。

Q8
①以下の理解でよろしいでしょうか?
「取締役は上記(1)の取締役であろうと「社外取締役」として選任された取締役であろうと、業務執行権はある。但し、上記(2)のとおり、「社外取締役」として選任された取締役が業務執行したら社外取締役ではなくなる。」
A8
違います。平取締役には業務執行権はありません。
社外取締役が、業務執行をする場合というのは、違法に業務執行をする場合のことをいいます。
適法に業務執行を行うことができるのは、代表取締役と業務担当取締役と使用人兼務取締役です。

Q9
会社法176条3項について質問させてください。
会社法176条3項では、相続人等に対する売渡請求について、「株式会社はいつでも請求を撤回することができる」とありますが、これは、取締役会設置会社であれば、取締役会決議をもって、いつでも撤回することができる、ということなのでしょうか?
それとも、この売渡請求には、会社法461条1項5号にあるとおり、財源規制があるので、売渡請求の決議後に分配可能額を超えることが明らかとなった場合に、会社はいつでも撤回できる、とする趣旨なのかなと考えたのですが、いかがでしょうか?
投稿 winwin | 2008年7月15日 (火) 09時26分
A9
財源規制とは関係なく、いつでも撤回することができます。
取締役会決議でもよいですし、取締役に決定を委任することもできます。

Q10
先般「(社外取締役との)責任限定契約は利益相反取引か」という質問をさせていただきました。
幸いまだご回答はいただいておりませんので(←せかすつもりではありません。ご容赦を)、その質問の趣旨を書いておきたいと思います。
1.社外取締役との責任限定契約が会社法上の利益相反取引であるとすると、当然会社法356条・365条の開示・承認・事後報告の義務を負うことになろうかと思います。
2.しかしながら、どうもこの点実務上しっくりきません。そもそもこの責任限定契約は社外取締役の人材確保のために締結するものです。言ってみれば(社外取締役就任とセットで)会社が社外取締役にお願いをして締結してもらうものです。にもかかわらず、当該社外取締役に、取締役会で開示・承認・事後報告の義務を負わせるのか?という感覚的な違和感があります。
3.「本ブログのテーマは法的なもので、感覚的なものではない」とお叱りを受けそうです。
では、「このような会社法上に規定された取引は、たとえ形式的には「利益相反取引」であったとしても、必ずしもそのとおりの規制を受けるものではない(定型的な取引であるので取締役会の承認は不要)」等の理屈は立てられないものでしょうか?
4.「そんなことを議論している暇があったら、社外取締役に頼めばいいではないか」と思われるかもしれませんが、当該者が経済界の超重鎮であったりした場合、実務的にはかなり深刻な問題となったりするのです。
5.せめて、開示や事後報告につき他の取締役を代理人とすることはできないでしょうか?(何とか本人が開示・報告をしないですむ方法はないでしょうか)
投稿 こども | 2008年7月15日 (火) 10時03分
A10
 すいません。すっかり回答を失念していました。
 おっしゃるように、責任限定契約は、形式的には利益相反取引の要件に該当しますが、
① 責任限定契約は、会社法の規定(427条)に基づき、内容に法定限度が定められた契約であること
② 定款の規定が必要であり、株主総会の特別決議で事前に締結を許容していること
から、456条・465条の例外と考えるべきでしょう。

Q11
598条について質問させてください。法人が業務を執行する社員である場合、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任しなければいけません。この職務をおこなうべきものは、当該法人の従業員である必要はないですよね?
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月16日 (水) 00時09分
A11
従業員である必要はありません。

Q12
598条の職務執行者について引き続き質問させてください。内国会社の代表取締役のうち少なくとも1名は、日本に住所を有する必要があること及び外国会社の日本における代表者のうち少なくとも1名は、日本に住所を有する必要があることの2点から考えると以下の考えは正しいのでしょうか?
つまり、職務執行者のうち少なくとも1名は日本に住所を有する必要があると理解してよいでしょうか?お手数ですが、ご教授願います。
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月16日 (水) 14時00分
A12
千問Q794をご参照ください。

Q13
株式会社における設立手続とその無効について質問させてください。
①定款の作成についての発起人の意思表示に瑕疵等があったり、②設立時発行株式に関する事項の決定についての「同意」(32条1項)に意思表示の瑕疵等があったりしたら、発起人はそのような「定款作成」や「同意」の無効・取消しを主張できますか?
仮にできるとして、「定款作成」や「同意」が無かったことになれば、それは設立の無効原因となりますか?
投稿 会社法の名無し | 2008年7月16日 (水) 18時30分
A13
定款の作成も同意も、意思表示ですから、無効・取消を主張することができます。
 それが設立無効事由になるかは、解釈です。
 定款の作成については、どのような瑕疵があったかによると思います。
 設立時発行株式についての同意は、すでに引受がされ、発行されているのですから、取締役会の決議がない新株発行と同じに考えると、無効原因にはしにくいように思います。

Q14
>勉強を継続するのに「精神的な強さ」は不要です。
>「義務感」と「楽しみ」と「刺激」をコントロールするだけです。
>弁護士の仕事も同じです。
わたしは司法試験受験生です。
今まで専念して勉強できる環境にありました。
しかし、勉強の資金がなくなってきたので働こうと思うのですが、働いてても受かるものなんでしょうか?
働きながら受かる人って要領が良い人しか受からないとおもうのですが
強さって必要ないんですかね
受かるのかどうか不安になりながら勉強するのって強さだとおもうのです
投稿 司法受験生 | 2008年7月17日 (木) 13時05分
A14
働きながら合格する人はいます。
要領が良くないと合格しにくいのは、働いていても働いていなくても同じです。
「要領」というより、「勉強時間を確保できる能力」があるかどうかが鍵になると思います。
なお、「精神的な強さ」というのが、つらくても受験する意思を失わないことという意味ならば、必要です。なにせ受験しなければ、合格しないので。
でも、多くの受験生は、とりあえず、勉強してもしなくても、受験をしますよね。ということは、最低限の「精神的な強さ」をもっているのです。
私は、数多くの受験生を見て
 不安だから勉強に手がつかない
という現象は一時的にあっても合格とはほとんど因果関係はなく、不合格の原因のほとんどが
 不合格への不安や不合格したときの落胆をすぐ忘れ、目の前の勉強から現実逃避する
 やっていることが難しいと、すぐ逃げる
 目の前に基本書を置いていると読んだ気持ちになり、実はボーッとしている。
 演習をヤマほどしなければならないのに、本だけ読んで分かった気になっている。
 科目ごとの勉強の時間配分に気をつかっていない
というような点にあると思います。
 だから、「精神的な強さ」なんて、どうだっていいと思うわけです。

Q15
葉玉先生、こんにちは。利益相反取引の範囲について質問させて下さい。

事例1【AがXY両社の代表取締役を兼任する場合に、X社がY社の債務を保証した場合】は間接取引にあたる、とするのが判例・通説だと思います(江頭〔2版〕p.406)が、これはどういう風に論証すれば良いでしょうか?
A15
YがXに保証を委託し、Xが受託した場合には、それ自体、直接取引ですので、どちらも代取がAである場合は、基本的には、2号でよいと思います。
 3号は取締役の利益のためなので、単に代表取締役であるということだけではなく、Y社が保証を受けることにより、間接的にAが利益を受ける事情が必要であると思います。

Q16
利益相反取引に関して質問させて下さい。

ターゲット会社の社外取締役が代表取締役をしている会社の第三者割当増資をターゲット会社が引き受ける場合、当該社外取締役は、直接取引たる行為として規制をうけますか?

投稿 ネットくん | 2008年7月17日 (木) 15時01分
A16
引受契約も、取引ですから、第三者のためにする直接取引に該当すると考えます。
定型的な行為といえるほど、沢山の応募者がいれば、別でしょうが。

Q17
会社法319条の株主総会の決議の省略についてご教示ください。
取締役会設置会社では、株主総会決議の省略をする場合であっても、決議の省略をすることや株主総会の目的である事項について、あらかじめ取締役会で決議することが必要なのでしょうか。
投稿 権兵衛 | 2008年7月18日 (金) 17時17分
A17
決議の省略ならば、取締役の提案で足ります。

Q18

葉玉先生
いつもブログを見させていただいております。初めて、書き込みさせていただきます。
私は、アスキーソリューションズ(現エーエスアイ)という会社の株主です。
この会社は、5月まで大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場していたのですが、上場時の粉飾やその後も複数回の決算の訂正・修正などを問題視され、上場廃止となりました。
上場廃止後、資金繰りがうまくいかなくなり、今月11日に民事再生の申立となりました。

会社は債務超過となっておりますし、資金繰りに問題が生じているので、民事再生の申立をしたこと自体はやむを得ないと思っているのですが、釈然としない部分があります。
釈然としないことは、上場時の審査において粉飾した決算を使ったにもかかわらず、その責任を誰も取らないまま、株主に責任を取らせようとしていることです。
粉飾や決算の修正・訂正が上場廃止理由で、それにより資金繰りが悪化した。
その責任を刑事、民事両面で責任のあった人(私は社長と監査役だと思っていますが、監査法人や幹事証券会社や大阪証券取引所かもしれません)がしかるべき責任をとり(資金を会社に入れたり、刑事罰を受けたりし)、その後、株主に痛みを求めるのなら分かるのですが、どうもしっくりきません。
また、民事再生において、会社が選任した弁護士が監督委員となっているのですが、これだけ問題のある行動をしてきた会社だけに会社が選任した弁護士がやるというのも、納得感がありません。
株主が監視をするため会社再建委員会を作り、チェックさせて欲しいと意見しましたが、無視されています。
私は法務知識に欠ける部分があると思いますが、先生はこういった会社がこのまま民事再生をおこなうということをどうお考えになりますか。
法律的に考えて、私の考えはおかしいでしょうか。
多忙かとは存じますが、ご回答いただければ幸甚です。
投稿 澤田 | 2008年7月19日 (土) 10時05分

A18
 申し訳ありませんが、具体的な事例に対するコメントは差し控えさせていただきます。

Q19
S54・11・16の判例に株主総会決議無効確認の訴えを提起し、訴訟継続中に、その決議から3ヶ月の日時が経過した場合、その後に決議取消の訴えを追加することができるとあったのですが
無効となる自由と取消となる自由が重なる場合があるということでしょうか。
どういう場合かよく分かりません。
会社法でもこの判例は有効ですか。
投稿 三日月 | 2008年7月20日 (日) 04時25分
A19
 もちろん、無効事由と取消事由は、論理的には異なりますが、当事者の事実主張は、かならずしも法律的に整理されているわけではなく、その事実主張の中に両者が含まれていることはありえます。また、事実の法的評価について、当事者と裁判所の考え方が異なる場合もあります。
 そういう意味で「重なる」ことはあると思います。

Q20
 葉玉先生、おはようございます。元司法試験講師の葉玉先生に伺いたいことがあります。論文の学説選択についてです。

  ①自分の論文における学説選択の基準は原則としては入門講座の講師の薦める説に従っています。ただ、特に憲法と刑事訴訟法で自分の価値観とは相いれない説が勧められることがあります。このような場合、自分の価値観と相いれない説でもあくまで合格のためと割り切ってその説で答案を書いたほうがよいでしょうか。

  ②外国人の地方参政権について伺いたいのですが、自分はこの論点については認められないという立場です。認められない最大の理由としては国家の安全保障です。ただ、この点を展開していくと法律の答案ではなく政治学の答案になってしまいそうです。このような場合、一言言及するくらいの方がよいのでしょうか。また、そもそも禁止説ではなく判例の立場といわれている許容説または要請説で書いたほうがよいのでしょうか。

投稿 不孤 | 2008年7月20日 (日) 07時37分
A20
 ① 自分の価値観と相容れないならば、相容れる説を選択すればよいと思います。
 ただし、独自すぎる説は、危険なので、メジャーな基本書に書かれている説にしてくださいね。

 ② 私も、禁止説を指示しています。それから、国家の安全保障を実質的理由としてあげるのはいいと思いますが、理論的理由をきちんといえようにしてください。

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2008年3月 3日 (月)

違法配当無効説は立法論?

最近、仕事上は、株主総会の準備関係が増えており、季節柄、このブログも、これから総会関係の質問が増えてくることでしょう。

 そこで、今のうちに、理論的な話題として、「財源規制違反の配当の効力」を取り上げておきたいと思います。

 この論点は、立案担当者と学説との意見が分かれているということで有名な論点です。
 最近、大阪大学の吉本教授が論文を書かれたり、中央大学の大杉教授がブログで取り上げたり(http://blog.livedoor.jp/leonhardt/archives/50529456.html)、ようやく無効説による詳細な検討を拝読することができるようになってきました。

 もっとも、結論を、やや過激に言えば、
  現行法では、有効説しかありえず、無効説は立法論的解釈論である
と思っています。

 まず、無効説が、有効説に対する批判としてあげる
 有効説では、株主が、違法配当の場合でも配当金支払請求をすることができるのではないか。
という点について、反論しておきましょう。

 私は、この批判には、、無効説の誤解が混ざっていると思っています。
 すなわち、
   分配可能額がないにもかかわらずした配当決議は、必ずしも無効ではない
のです。
 おおすぎ先生は
  「分配可能額を超える配当を総会が決議したとき、どうなるでしょうか。総会決議は訴えによるまでもなく無効で(830条2項参照)、会社は配当金支払義務を負いません(株主は配当金支払請求権を得ません)。」
とブログで触れられているのですが、会社法461条は
 「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為が『その効力を生ずる日における』分配可能額を超えてはならない。」
としているだけですから
  ① 総会決議時に配当額が分配可能額を超えていても、効力発生日に分配可能額の範囲内であれば461条には違反しませんし
 逆に
  ② 総会決議時には、分配可能額の範囲内であっても、効力発生日に分配可能額を超えていれば461条に違反し、配当することはできません。

 旧商法は、定時株主総会における利益処分案で配当を決定していたので、決議時の最終の貸借対照表から計算される配当可能利益を超える配当を決議すれば、決議自体が無効であると解さざるを得なかったのです。
 しかし、会社法は、配当決議が何回でもできるので、「配当決議」と「分配可能額」の関係が旧商法とは異なっています。
 ですから、「決議が無効だから、株主に配当支払請求権はない」という理論は、それ自体は間違いではないものの、たとえば、上記②の場合には、通用しない理論なのです。
 無効説は、「決議の無効」と「配当の無効」を区別しなければ、会社法に則した解釈論にはならないように思います。

 逆に、有効説にたっても、決議が無効になることは皆無ではないのですが、461条は、決議を無効にするための規定ではなく
   決議が無効の場合はもちろん、決議が有効の場合であっても、配当の効力発生日に分配可能額を超えるような配当はすることができない
というルールを定めているに過ぎません。
 461条は、いわば配当を行うための法定の条件を定めた規定です。

 ですから、仮に決議が有効であったとしても、株主には、条件付配当請求権が生じているだけで、株主側から条件が成就しない時点で、会社に配当を支払わせることができません。

 以上で分かっていただけたと思いますが
  「有効説では、株主が、違法配当の場合でも配当金支払請求をすることができるのではないか。」
という無効説の批判は、「決議の効力」=「配当の効力」という図式を前提にしている点で誤解があり、有効説に立っても、会社が、461条により、株主による配当請求権を拒むことができるのは当然です(無効説にたっても、上記②の場合は、私と同じ結論を採らざるを得ないでしょう)。

 なお、行為規範としては、461条に違反する配当を行うことはできないものの、一旦、違法配当が行われた場合には、評価規範として、その効力を有効とするのが妥当であるというのは、論文で述べたとおりなので、ここでは、詳しく述べません。

 次に、無効説の問題点について、論じます。

 私は、無効説は
  「会社法の文理に反する」
という一点において、どうしても容認することができません。

 会社法は、現代の法制執務に基づいて作られた法律です。したがって、会社法の条文を解釈する場合においても、明治時代から昭和初期にかけて制定された法律とは、自ずと条文の読み方が異なります。

 おおすぎ先生は、
 「461条1項の「効力を生ずる日」とか463条1項の「効力を生じた日」という文言は、有効説の論拠とまではいえないでしょう。」
と言われますが、そうではないでしょう。
 はっきりいって、「効力を生じた日」という文言を、無効説の立場から解釈しようとすると、「立法上の過誤である」というしかないと思いますが、それは「立法上の過誤」ではなく、「解釈の過誤」なのです。

 また、無効説は、取得請求権付株式・取得条項付株式を、分配可能額がないのに会社が取得した場合に、取得を無効とする166条1項但書き・170条5項と、461条の規定の仕方が異なる点を、どのように解釈するのでしょうか?
 無効説では、「両者を区別する理由はない」という利益考量を論じることができても
   なぜ、両者の規定ぶりが違うのか
について合理的な説明を加えることはできません。

 さらに、無効説では、462条1項による株主に対する返還請求権を不当利得の特則であると考えるようですが、それは、同項の規定ぶりからは、無理です。
 462条1項は、株主に対する請求権と、業務執行者に対する請求権を混在させて規定しています。業務執行者に対する請求権は、不当利得の特則ではありえませんから、もし、株主に対する請求権を不当利得の特則として定めるのならば、業務執行者と区別して独立の規定を置くべきであり、このように混在させて規定するということは考えられません。
 また、同項には、「民法第七百三条又は第七百四条の規定にかかわらず」という適用除外のための文言も使われていません。

 現代の法制執務では、一般法と特別法の関係についての規定ぶりはうるさく注意されるので、商法時代よりも気をつかいながら、適用除外規定を置いており、462条1項に民法703条704条についての言及がないというのは、それらの規定の特則ではないと考えるべきです。

(ちなみに、463条2項は、債権者代位の特則であると説明することが多いのですが、463条2項の要件を満たしても、民法423条1項の要件を満たさないため、「民法第四百二十三条第一項の規定にかかわらず」という文言が入っていません。つまり、463条2項は、民法423条1項を拡張したものなのです)。

 なお、実質的な観点から見ても、有効説が、無効説よりも債権者保護を図ることができ、また、分配可能額を超える対価を払って自己株式の取得をした場合において、株主総会決議の瑕疵を生じさせないという点において、優れています。

 私は、本音ベースでいえば、違法配当が有効だろうと無効だろうと、どちらでもいいんですが、文理に忠実で、実質において優れているのは有効説であるという確信はあります。

 無効説は、今のところ、今日述べたような「文理」の点に対する言及がほとんどなく、それがない限り、立法論的解釈であるといわざるをえないと思っています。

 無効説からの反論をお待ちしております。

(質問コーナー)
Q1
創立総会の権限(会社法第66条)についてご教示ください。
創立総会で選任される設立時取締役及び設立時監査役の報酬につき創立総会に決定の権限があるかどうかについては、旧商法時代は、学説・判例ともに、創立総会にこの権限を認めておりましたが、会社法においても、同様に認めると考えてよろしいのでしょうか?
それとも、会社法第66条の「その他株式会社の設立に関する事項」ではないので、会社法においては、創立総会にはこの権限がないと、変更されたことになるのでしょうか?
投稿 としお | 2008年2月27日 (水) 15時53分
A1
 設立時取締役及び設立時監査役の報酬は、設立に関する事項でしょう。

Q2
取締役会決議と代表取締役についてです。
354条は役会決議を欠く代表取締役の行為は心裡留保として処理する百選71の立場を「選任の役会決議を欠いた場合」につき特に明文で規定したものなのでしょうか。
またそう理解した場合に心裡留保の相手方保護要件が「善意・無過失」であるに関わらず354条の相手方保護要件が「善意・無重過失」(百選57)と軽減されたのは何故なのでしょうか。
投稿 受験生・甲 | 2008年2月27日 (水) 19時42分
A2
心裡留保とは、ぜんぜん違います。
354条は「名称を付した」ことを帰責性とする一種の外観法理です。

Q3
 設立時監査役に不足額填補責任(52条)が生じないのはなぜでしょうか?
投稿 これからは | 2008年2月29日 (金) 07時23分
A3
 まあ、新株発行時の現物出資とのバランス感覚です。

Q4
 出資の払戻について定款に何の定めもしていない合名会社又は合資会社において、社員又は社員の持分を差押えた債権者の請求により出資の払戻がされた場合には、
(1)当該社員の持分又は出資の価額に関する定款の定めもしくは登記事項は、当然には変更の義務やみなし変更は生じない。従って当該社員は、払い戻す前と同様に自益権及び共益権を行使できる。
(2)払い戻された額について出資の未履行となるから、会社がその履行を求めてもこれを怠ったときは、利息や損害賠償の責任を生じ、除名の対象となる。
と言う理解でよろしいか。
投稿 ひで | 2008年2月29日 (金) 14時20分
A4
 前提がよく分からないのですが、「出資の払戻し」ではなく、退社による持分の払戻しでしょうか?

Q5
新司法試験合格を目指す受験生です。
あるコミュに
皆さんさんご存じのように、債権法改正が進んでおります
私は、現在早稲田のLSにおりますが、早稲田には債権法改正の委員長である鎌田先生がいらっしゃいます。先日、大学近くで鎌田先生と話をさせていただきまして(と言っても茶飲み話レベルですが)、債権法改正について聞いて参りました。

本当に世間話のレベルを超えていませんのでしっかりと聞いたわけではありませんが、とりあえず情報を流します。

1.債務不履行にもとづく解除の要件から帰責事由要件なくす
2.危険負担制度なくす
3.債権者代位なくす。無資力なら破産・保全は民事保全で
4.ファイナンスリースを典型契約化
5.商法総則を取り込みたい
6.新典型契約はファイナンスリースくらいかな。あまり増やさない

とのことです。結構抜本的に変えるつもりのようです。
また何か聞けましたら報告させていただきます。
とあったのですが、これらはもう無くなるので手を抜いて勉強したほうがいいのでしょうか?
あと、過去問はもう使えなくなるのでしょうか??
投稿 | 2008年3月 2日 (日) 14時09分

A5
 債権法改正のように、遠い未来のことを心配しなくても、大丈夫です。
 まずは、目の前の民法を勉強しましょう。

Q6
株主提案権について質問です。
305条の議案要領通知を取締役に対して請求した場合、かかる請求は、304条の議案提出を兼ねるのでしょうか(そもそも304条は「株主総会において」議案を提出することができると規定されていますが、これは総会に出席して総会の場で議案を提出しなければならないという意味なでしょうか)。

A6
 言葉の問題はあるものの、議案提出を兼ねていると考えて良いでしょう。

Q7
例えば敵対的買収防衛策の一つとして、新株予約権を株式会社自身に対して発行
することは可能でしょうか?私は「できない」、と考えました。理由は、(1)新
株予約権を株式会社に対する債権だととらえれば、自らに対する債権を自らに付
与することになっておかしな話になる、(2)新株予約権を株式会社自身に対して
発行可能だとすると、株式会社が自らに対して株式を発行する権利を与えること
になり、会社法が想定している株主と株式会社との間の基本的な関係を不安定に
するため、です。これらは正しい理解でしょうか?何となくすっきりした説明に
なっていない気がいたします。仮に株式会社が自らに新株予約権を発行できない
として、一番すっきりとした説明はどのような説明になりますでしょうか?どう
ぞよろしくお願いいたします。
A7
敵対的買収防衛策の一つとして株式会社に新株予約権を発行することはできません。理由は、新株予約権の発行形態によって違いますが、面倒くさいので、できないということだけ覚えてください。

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2008年2月27日 (水)

失念株主に対する配当

ご無沙汰しておりました。
この2週間、ブログを書かねば、と思いながら、本当に「たった1時間の暇もない」というくらい働かざるをえず、午前2時に帰っては、疲れて寝るという繰り返しでした。

さて、久しぶりに午前0時に帰宅したので、何か書こうとしたところ、質問コーナーに質問が溢れており、それだけで気力を使い果たしそうです。

それでも、もうひと踏ん張りがんばります。

先日、商事法務で「電子化3連発」という感じのタイトル(もっと真面目なタイトルだったと思います)で連載をしていて、放送株等の外国人制限銘柄について考える機会がありました。

 若干、マイナーではありますが、株主名簿というものが考えるきっかけには、もってこいの題材なので、本日は
  外国人制限銘柄で、失念株主である外国人に配当をすることができるか
という点について触れたいと思います。

 放送会社は、外国人の持株比率が20%を超えると、放送免許が取り消されてしまいますので、上場株式を発行している一般放送事業者が、総株主通知に基づいて外国人の名義書換をした結果、欠格事由に該当することとなるときは、株主名簿の名義書換を拒むことができることとされています。

 株券の電子化後は、外国人が名義書換を拒否された場合であっても、振替口座簿上の口座には記録が残っていますから、その外国人が株式を失うことはありません。

 しかし、当該外国人は、株主名簿への記載を拒否されているため、原則として、自己が株主であることを発行会社に対して対抗することができません(会社法130条1項)。
 要するに、失念株主ですから、議決権や剰余金の配当など基準日を設定して付与される株主の権利の取得を主張することはできないわけです。

 もちろん、一般的には、放送会社が、失念株主に対し、対抗要件が欠けていることを主張せず、任意に株主と認めることは許されています。しかし、、放送会社が、名義書換を拒否した失念株主である外国人を株主として認めてしまうと、欠格事由に該当してしまうので、実際には、そのような取扱いをすることはできません。

 では、放送会社が、議決権は与えないけれども、剰余金の配当をするということができるのでしょうか。

 これを認めるためには、まず、会社法において、失念株主について、議決権との関係では株主と認めないが、剰余金の配当との関係では株主として認めるということを会社法130条1項が許容しているものと解釈しなければなりません。

こうしたことができるかどうかについて、基本書等には書いてないのですが、一般的には、株主平等の原則を貫徹しながら、そのような行為を行うことは難しいだろうと思います。

 もちろん、会社が、対抗要件の欠缺を主張するかどうかは、会社の裁量に委ねられるますから、合理的理由があれば、議決権については対抗要件の欠缺を主張して、失念株主による議決権行使を拒みつつ、剰余金の配当請求権については対抗要件の欠缺を主張せず、失念株主にこれを認めるということも直こうちに妨げられるものではないと考えられないわけではありません。

 しかし、特定の失念株主にのみ配当を認めるのは、株主平等の原則に反すると考えるのが通説であるため、この失念株主である外国人に対する配当を認めるとすると
 (1)失念株主である外国人と、失念株主である外国人の平等
 (2)失念株主である外国人と、それ以外の失念株主との平等
の両方を考えて配当せねばならず、結局、基準日後に失念株主が次々と配当請求をしてきたら、実務は回りません(特に(2))。

 また、ある事業年度において、失念株主に対して一切権利行使を認めていなかった会社が、別の事業年度には、剰余金の配当についてのみ権利行使を認めるような行為は、取締役会の恣意的な判断が介在する余地があり、また、基準日の名義株主に不測の損害を与えるおそれがあります。特に、株券の電子化後においては、失念株主である外国人に対して配当すれば、配当総額が増加するため、一般株主は
 「失念株主である外国人に配当するくらいなら、剰余金として残しておけ」
と思うでしょう。

 そう考えると、少なくとも株券の電子化後は、失念株主である外国人への配当というのは、基本的には止めた方がよいように思います。

 もう一つ気になるのは、議決権のみ制限して、配当を支払う行為が、放送法第52条の8第2項の趣旨に反すると監督官庁に言われないかという点です。

 放送法第52条の8第2項の名義書換拒否は、「そもそも株主として認めない」という制度であるのに対し、いわゆる間接保有外国人株主の増加によって欠格事由になることを防止するための第52条の8第3項は、「議決権のみを制限する」という制度です。

 このように、放送法が、外国人の議決権制限だけを目的としているのならば、同条2項も、3項と同じように議決権制限にすればよかったのに、あえて、名義書換拒否制度を残したということは、「そもそも株主として認めない」という点に意味があるからなのでしょう。

とすると、一般放送事業者が、名義書換を拒否した外国人に剰余金の配当をして、議決権のみ制限したのと同様の効果を生じさせるのは、52条の8第2項の趣旨から許されるのかという問題を生じさせてしまい、ちょっと怖い感じがします。

このように、あれこれ考えると、失念株主である外国人への配当というのは、理論的にはありえないわけではないものの、実際には、難しいように思います。

(質問コーナー)
Q1
持分会社の出資払戻につきご教授ありがとうございます。
ご教示の例で、払い戻した10万円について582条や859条を適用する余地はないと言う事でしょうか。
そうすると極端な話、出資をした翌日に全額または1円のみを残して払い戻す事にも応じる義務があり、利息損賠除名は問題にならないと言う事でしょうか。
 また、時期や額を問わず、会社にキャッシュがない場合は、払戻をするには借り入れせざるを得ず、その弁済責任は結局社員個人に来る(580)と言う理解でよろしいか。
投稿 ひで | 2008年2月15日 (金) 09時48分
A1
一旦出資している人の払戻を制限したければ、定款で制限すればよいだけのことです。
人的会社ですから、翌日に払い戻しを請求する人は、そもそもいない方がよいのではないでしょうか。なお、出資の減少については、583条2項の責任は生じます。
 後段のご質問は、借り入れせざるえないわけではないです。金銭の調達は、借り入れだけではないので。ただ、開き直って放っておけば、払戻請求をした者は、会社財産を差し押さえて、強制執行するということになるでしょう。

Q2
社外監査役の適格性についてです。
会社法第2条16にある社外監査役の定義において、支配人その他の使用人に、とあります。じつは現在当社の顧問を一年やっていた者を社外監査役にという話があり検討しています。この顧問は実質名ばかりでこの間なにもしてはいません。また顧問契約は結んでいますが、あきらかに雇用契約ではありません。弁護士、会計士などの顧問の場合は社外監査役の適格性はあると読んだことがありますが、今回の顧問(実質のともわない)の場合はどうでしょうか。なお
当社は大会社、非公開会社、監査役4人(うち2人が社外、非常勤)の会社です。私は、今回のケースは会社と使用関係はなく社外の適格性あり、と判断していますが、人により、なにがなんでも会社と関係があれば社外ではない、と言う人もおり、先生のご意見をお尋ねするしだいです。 よろしくお願いします。
投稿 平野 敦司 | 2008年2月15日 (金) 10時07分
A2
 「顧問」が本当に名ばかりならば、社外性の要件はみたすでしょう。

Q3
 強盗罪でつまづいていた者です。ご回答のおかげで、かなり頭が整理できました。
 ご回答の内容は
①強盗罪も窃盗罪も、被害者の意思に反して財物の占有を移転する行為である
②強盗罪の「反抗を抑圧」とは、「財物の占有移転の意思を抑圧すること」である
③強盗罪の「反抗を抑圧」は、被害者が反抗する意思を現に有していなくとも可能
と理解しました(「反抗を抑圧」の具体的内容を説明しない教科書等が多く、困っておりました。ありがとうございました!)。
 これを踏まえ、「反抗を現実に抑圧することの要否」に関する見解を整理すると、
A)反抗の抑圧に足りる程度の暴行脅迫あれば、現実の抑圧なくとも、強盗未遂罪が成立するほか、財物の占有移転さえ認められれば強盗既遂罪も成立するとの見解
B)反抗の抑圧に足りる程度の暴行脅迫があれば、現実の抑圧なくとも強盗罪の実行着手を認める一方、強盗既遂の要件としては、反抗の現実の抑圧が必要とする見解
C)反抗の現実の抑圧がなければ、強盗罪は未遂罪も既遂罪も成立し得ないとする見解
 が考えられます。最判昭和24・2・8は、A)と理解されているようですが、B)を否定しているのでしょうか。C)を否定していることは明らかですが、実務上一般的な解釈は、A)B)いずれでしょうか(A説から「強取」の意義を説明するのは無理があるのでB説が妥当ではないかと思うのですが)。
 あと、「憐れみからの交付」という論点は、Ⅰ反抗の現実の抑圧が強盗既遂の要件か否か、Ⅱ要件だとして、憐れみの心情が伴う場合にも抑圧を認めうるか、の二つに分けて考えるべきなのでしょうか?
 度々の投稿で申し訳ありません。236条の要件や論点相互の関係を整理できず、理解が安定しないのです。
投稿 らくだ | 2008年2月15日 (金) 13時15分
A3
 Aでしょう。理論的にはBもありえますが、財物を交付しているのに、反抗抑圧がない場合という事実認定はほとんどありえません。

Q4
組織再編における債務承継の仕組み(分割の場合と合併の場合の違い)について、千問の932を読んで以下のように理解したのですが、合ってますでしょうか?
分割における債務の承継は免責的債務引受の一種である。この場合の債権者保護手続は、免責的債務引受に対する債権者の承諾に相当する。従って、不当に個別催告を欠いた場合には、分割会社は引き続き債務を負う(並存的債務引受となる)。759Ⅱ,Ⅲはこの趣旨を明文化したものであり、不法行為債権者に対する個別催告を欠いた場合にも同様に解すべきである。
これに対して、合併における債務の承継は相続に類似する包括承継であり、債権者の承諾の有無を問わず、債務は当然に承継される。従って、不当に個別催告を欠いた場合にも、債務承継の効果に影響はなく、合併無効の訴えをなしうるに留まる。合併無効が認められた場合、遡及効が否定されていることから、旧会社による債務引受を要する(新会社を免責するためには債権者の承諾が必要)。
投稿 moltu | 2008年2月15日 (金) 19時49分
A4
合併無効の効果は、843条です。その他は、まあそんな感じでしょうか。

Q5
取締役の利益相反取引のうちの間接取引(356条1項3号)には、ある人(X)が兼任取締役(代表取締役ではない)となっている二つの会社(A社とB社)が取引する場合も含まれると考えてもよろしいのでしょうか。Xと、その属する会社(AとB)は法主体としては別個であり、A社とB社は「取締役以外の者」といえ、両社にとって3号の間接取引に当たるようにも思うのですが、いかがでしょうか。この場合はやはり2号の直接取引に当たると考えた方がよろしいのでしょうか。
投稿 ta | 2008年2月16日 (土) 02時22分
A5
説例の場合、会社の相手方が当該会社の取締役ではないので、直接取引には該当せず、通常は、間接取引にも該当しません。

Q6
私は昨年にロースクールに未修生として入学し、今春2年生になります。
この1年で一通り六法(商法は会社法のガバナンスだけなのですが)を修了したので、
旧司法試験にチャレンジしてみたい、という気持ちになり、今は択一の勉強をしています。
しかし、私は論文答練をうけたことがありません。
周りのみんなは、答練を受けたことがないのに、
しかも必ずしも旧試合格に直結しない学習に時間を取られるローの講義を受けつつ、
たった200人の合格者枠に食い込むのは至難の業だ、といいます。
確かに、私はゼミを組んで答案を書くということしかやったことがありません。
合格者以上の能力を持つ人に答案を批評していただいたことはないのです。
予備校の答練を受けずとも、論文を書く訓練は合格に十分な程度に行えるものなのでしょうか。
投稿 miche | 2008年2月16日 (土) 02時52分
A6
答案を書いたことがないのに合格する確率は、宝くじを1枚買って100万円があたる確立くらいでしょうか。

Q7
失念株に関して質問させて下さい。
株主名簿の名義書換が未了の状態で、株主割当による募集株式が発行された場合、株主割当を受ける権利が、譲渡人、譲受人のどちらに帰属するか、という論点があります。
ここで質問なのですが、どちらかの説を採ることによって、結論がどのようなに異なってくるのでしょうか?
株主割当を受ける権利は会社に対する権利なので、譲渡人に帰属しようが、譲受人に帰属しようが、あまり結論に差異はないのでは?と思ってしまいます。譲受人に帰属するとする説も、譲渡人が払込をすれば、結局、譲渡人が株主になるといいますし…。
株式の譲渡の効力に関して、「会社に対しては無効であるが、当事者間では有効」という論証がありますが、私自身この意味に関して理解が不足しているからかもしれません。
投稿 クローバ | 2008年2月16日 (土) 14時23分
A7
会社法100問を読んでもらいたいのですが、株式の割当を受ける権利は、名義株主である譲渡人しか行使できませんし、払込をすれば、一旦は、譲渡人が株主になります。後は、譲受人がその株式の引き渡しを請求することができるかというだけの問題です。

Q8
新会社法100問につき質問させていただきます。
問94の解答例の二2(二)に「・・・甲会社が乙会社の株式を有してる場合においても、乙会社は自己の株式の割り当てを受けず・・・」とありますが、この部分は「・・・甲会社が乙会社の株式を有してる場合においても、甲会社は自己の株式の割り当てを受けず・・・」が正しいのではないでしょう?
投稿 TF | 2008年2月16日 (土) 16時31分
A8
すいません。そうですね。

Q9
決議取消しの訴えについて質問させてください。
①百選45事件にもあるように、自分自身は招集通知を受け取っている丙が、他の株主である甲に対する招集通知手続の法令違反を根拠に決議取消の訴えを提起することが出来るとする見解が判例・通説だと思います。
②他方、議決権を行使することが出来ない株主は決議取消しの訴えの提訴資格は有しないというのが通説だと思います。
そこで疑問なのですが、議決権を有しない株主は、他の議決権を有する株主への通知を欠くことを理由に決議取消の訴えを提起することが出来るんでしょうか?
これまでは②の話を①の前提として考えていました。しかし、①の論点では「決議取消の訴えは」「株主総会の公正を確保するためのものであるから」(新100問240頁から引用しました)という理由付けは決議取消の訴えについての性質からの論証ですからあらゆる取消事由についても妥当すると言え、またこの理由付けは議決権の有無にかかわらずあらゆる株主に妥当すると思います。そうであるなら、②の論点は(少なくとも決議取消しの訴えに関しては)不要と言えそうです。
しかし、私のもっている基本書では②と①の関係を明確に整理している物がなかった(読み解くことが出来なかった)ので、混乱しています。
投稿 mino | 2008年2月16日 (土) 20時47分
A9
 「議決権を有しない株主」とは、無議決権株式の株主のことを想定していますか?それとも失念株主でしょうか?前者だとすれば、原告適格はあると考えます。

Q10
 葉玉先生、こんばんわ。度々の質問に答えていただきありがとうございます。自分なりに考えた結果、司法試験を目指すことにしました。
 そこで伺いたいのですが、自分は一度司法試験を中断する前に某予備校の入門・論文・択一の基幹講座を受講していました(しかし、受講していたとはいっても「ただ聞いていただけ」に近い状態です)が、もう一度入門講座から聞きなおした方がよいでしょうか。商法・会社法及び行政法については新たに入門講座を受講する必要があると思っています。
投稿 不孤 | 2008年2月17日 (日) 00時43分
A10
 自分が、いつ合格したいのかを考え、そのゴールからさかのぼって、入門講座を聴いている暇があるかどうかを考えましょう。

Q11
合同会社における超過配当の処理について質問です。
会社法は、623条2項を合同会社では適用しない(630条3項)としていますので、合同会社の会社債権者は、社員に直接超過額を請求できないようにする趣旨といえます。
しかし、630条2項によって、株主に支払いを請求する際、債権者代位権一般の場合と同様、会社が受領拒絶する場合があるので、債権者は自己への支払を請求できるように思います。
そうすると、630条2項の趣旨を没却してしまうのではないでしょうか。
630条2項の場合は、債権者が自己への支払いを請求できないと解釈すべきなのでしょうか。
投稿 受験生A | 2008年2月17日 (日) 16時35分
A11
 意味がちょっと分かりません。

Q12
今回は会社法についてではないのですが、裁判員制度のことでお尋ねします。
新聞で19の裁判所で模擬裁判を実施したところ、判決が無罪から懲役14年までバラつきが出たという記事を読みました。
刑事裁判に当たりはずれがあることになるのか?と心配ですが、サミー先生はどうお考えですか?
投稿 春吉 | 2008年2月18日 (月) 17時54分
A12
裁判官による裁判でも、当たり外れはあります。
まあ、裁判員制度は、真実を発見するための制度でもなければ、量刑を安定させるための制度でもないので、真実とは異なる結論になったり、量刑が不統一になるのは、民意を反映させる結果として、仕方ないでしょう。

Q13
利益供与について、とてもわかりやすかったです!
法律家の文章はこういうものなのかあ、と思いました。
先生は昨年、新試験の後、「受け控え百害あって一利ナシ」と
おっしゃっておられました。
大変お恥ずかしいことながら、自分は、未修で昨年択一落ちで今年も大して実力&択一の点も伸びませんでした。
そういう者の二度目の挑戦について、どのようにお考えですか?二度目の受け控えは、一度目の受け控えとは意味が違いますか?
最終段階まで基本を詰める猛勉強&先生のオススメの演習は続けます。でも、どうしても210点を超えなさそうならば、
今年はやめた方がいいのかな、とも薄っすら思う訳です。
アドバイスよろしくお願いします。
投稿 | 2008年2月19日 (火) 10時34分
A13
昨年からの1年で伸びなかったのに、今年受け控えして、来年までの間に実力が伸びる根拠は何でしょうか?「2回受験機会が残っている」というと安心が欲しいのでしょうか?
受け控えなど何の意味もない行為です。大事なのは、今のままで伸びないのならば、どのように自分を変化させるかです。

Q14
今日は、会社法とはまったく関係のない質問なのですが、条文の読み方についてご指導いただければと思って、書き込みさせていただきます。
刑訴法60条1項3号
「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」
警職法2条1項
「何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」
という条文の読み方が不明です。
日本語的には「逃亡〔する〕とき」「何らかの犯罪を犯〔す〕と疑うに足りる~」というのが正しい気がするのですが、意味的には「逃亡〔した/している〕とき」「何らかの犯罪を犯〔した/している〕とき」という方がしっくりきます。
会社法の立案に携わった方として、こういった条文の読み方にもお詳しいものと思い、畑違いとは存知ながらぶしつけにも質問させていただきました。
投稿 雪小坊主 | 2008年2月19日 (火) 18時12分
A14
条文の書き方が下手なのでしょう。法律が古いし。

Q15
大変基本的な質問で恐縮ですが、資本金・準備金の額の減少について定めた会社法447条3項、及び448条3項が実際にどのような場合に用いられるのかが分かりません。

会社法100問や神田先生・江頭先生の基本書を調べたのですが現実の会社でどういった場合に447条3項・448条3項が用いられるのか、については記述がございませんでした。
投稿 受験生 | 2008年2月20日 (水) 10時33分
A15
 会社に剰余金があっても、分配可能額がないと、配当できません。資本金や準備金を減らして、剰余金を作れば配当できます。そういう使い方です。

Q16
商事法務No.1824(2/15号)を見ての質問です。先生の著による電子化実務対応の件でなく、会社法施行規則ほか改正の件です。(申し訳ありません)
会社法施行規則128条(事業報告の附属明細書)についてです。
弊社(A社)はC社の完全子会社であり、B社も同様にC社の完全子会社で、A社とB社は同一の部類の事業を営んでいます。なお、AB両社の代表取締役が各々相手方の取締役(非常勤)に就任しています。
1.A社の代表取締役がB社の取締役(非常勤)に就任していますが、この件について、「B社における業務執行権限がない場合、A社の事業報告の附属明細書に施行規則128条1号の規定による記載は不要」との認識でよろしいでしょうか?
2.A社とB社間において取引が存在する場合、B社の代表取締役がA社の取締役に就任していることから、施行規則128条2号の「第三者との間の取引であって、当該株式会社と会社役員…(中略)…との利益が相反するものの明細」として、当該取引の明細を記載する必要がありますでしょうか?
3.今回の改正案によると、施行規則128条2号に当たる部分が削除されるようですが、これは同じく今回改正される予定の計算規則140条(関連当事者との取引に関する注記)との関係によるものなのでしょうか?
投稿 ツェーベーツェー | 2008年2月20日 (水) 16時08分
A16
1・2 A社の代表取締役兼B社の取締役をX、B社の代表取締役兼とA社の取締役をYとします。B社の取引の相手方は、自社の取締役であるXですから、直接取引になります。
 A社の取引の相手方は、自社の取締役でらるYですから、やはり直接取引です。したがって、附属明細書ではなく、関連当事者取引で記載します。B社における業務執行権の有無は関係ないですね。
3 そのとおりです。

Q17
私はロースクール卒業後、芸能・放送関係の分野で活動したいと思っているのです。そのためにロースクールでは、選択科目やインターンなどはどのような点に注意すればよいでしょうか?
またそのような分野に強い法律事務所とかはありますか?
投稿 ハチベエ | 2008年2月20日 (水) 18時55分
A17
 芸能・放送関係の分野で活動したいというのは、行列ができる法律相談所に出演したいということでしょうか?それなら、私の附設中学・高校の1年後輩である本村健太郎先生をご紹介します。
 エンタメ法ということであれば、特に注意点はないです。実地でやりましょう。
 ちなみに、TMI総合法律事務所は、福留選手の代理人を務めた水戸先生を始め、スポーツ・エンタメは強いと思います。

Q18
 発行可能株式総数についての条文である37条と98条についての質問なのですが、募集設立の場合に株式会社設立の時までに発行可能株式総数を決めるのは創立総会のみですか?それとも創立総会と発起人全員のどちらかですか?
基本的な質問ですがよろしくお願いします
投稿 みるきん | 2008年2月21日 (木) 23時44分
A18
 95条参照です。

Q19
私は高校を一年生を二度経て、この春高校3年生になるクロといいます。
小学校6年生の頃から弁護士になりたいと思い続けて、とうとう来年の春に大学受験を控えています。
そこで質問なのですが、高卒でも受験資格のあるロースクールなんてところはあるのでしょうか。
弁護士を目指すことで莫大な学費がかかることは
頭では理解していたつもりですが
いざ目の当たりにすると、とてもじゃありませんが
親に甘える気にはなれずにいます。
今までは大学四年間でしっかりと法学を学んで、ゆくゆくはロースクールへ。
なんて思っていたのですが
もしあと一年、死ぬほど勉強をして入学資格のあるロースクールがあるならばと
考えてしまいました。
本当に無知な質問でお恥ずかしいのですが
もしよろしければ、お返事を頂けたら、本当に嬉しく思います。
投稿 クロ | 2008年2月22日 (金) 02時48分
A19
大学抜きで、いけるロースクールはありません。

Q20
本日22日の日経1面の、「働くニホン」という記事の冒頭に紹介されている事例を読んで気になったのですが、従業員に対して株価値下がりによる損失の一部を会社が負担する制度は違法ではないのですか?
他にも、従業員は一割引きで株を買える制度を聞いたことがあります。
このような制度は法律上問題ないのでしょうか(例えば株主平等原則違反や違法配当等)?
投稿 受験生 | 2008年2月22日 (金) 14時53分
A20
 スキームが分からないので何とも言えません。

Q21
総会で解散決議をして清算手続に入る会社は、新たな契約を締結をすることはできますでしょうか?
たとえば、子会社が解散する場合において、親会社に清算事務局業務(官報公告の手配、債権者への通知、登記申請準備など)を委託し、事務委託料を支払う(一括前払い)というようなことは可能でしょうか?
もろもろの理由で、親会社のスタッフが一切を取り仕切っているというような場合、タダというわけにもいかないようですので・・・。
投稿 必ず清算する人 | 2008年2月22日 (金) 21時20分
A21
清算の目的の範囲内ならば、契約は可能です。

Q22
葉玉先生、こんにちは。
今年の春に大学を卒業予定の者です。
今年の旧試験で最終合格するつもりなので、
試験を受けるにあたり、
なにか励ましのお言葉をいただけないでしょうか?
お忙しいところ申し訳ありませんがよろしくお願いします。
投稿 marbury v. madison | 2008年2月22日 (金) 21時55分
A22
 司法試験は、沢山勉強した人が合格します。
 勉強量が少ない人が落ちます。
 たった、それだけの試験です。
 あなたが、周りの誰よりも勉強したと思うのならば、合格します。

Q23
取締役会の定足数について質問があります。
最判昭41・8・26では、「取締役の定足数は現存する全取締役の員数を基礎として算定すべきであって、特別の利害関係を有する取締役の員数を控除して算定すべきではない」旨判示されています。
しかし、369条1項の「取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し」と規定されています。
これは、特別の利害関係を有する取締役は定足数から控除されると読めると思うのですが、昭和41年判例との整合性はどのように解すればよろしいでしょうか?
投稿 メガネ | 2008年2月24日 (日) 22時39分
A23
 条文に書いているとおりです、特別利害関係人は議決に加わることができないので、出席にはカウントしません。

Q24
議決権行使に対する物品提供について
「2 定足数を満たす目的」というものを指摘されておりますが、この定足数を満たす目的であれば許されるかどうか、ということについては、「定足数を満たさないよう流会にする目的」という反対派の意思も想定されるところです。そうしますと、形式的には委任状獲得合戦がなくとも、「権利行使に関し」に該当するという推定が覆るとまではいえず、利益供与に該当するおそれがあるとも考えられますが、いかがでしょうか。
投稿 Kazu | 2008年2月25日 (月) 16時19分
A24
 争いあるところですが、「定足数を充たさないよう流会する目的」というのは、合理的ではないですね。その意思はあまり、気にしなくていいように思います。

Q25
isologue(イソログ)経由ネタですが
レクシスネクシス・ジャパンの「Business Law Journal」創刊号に
葉玉匡美先生の「買収防衛策の策定の要点」が載ってますね。
詳しくは↓公式サイトで。(目次だけですが)
http://www.businesslaw.jp/contents/
 
と、勝手に宣伝しちゃいましたが
葉玉先生の最近記事で、改めてどんな内容なのか
説明あるかもしれませんが、一応、このブログ読者の
皆さんに速報(?)という形でお知らせしておきます。 
 
葉玉先生以外の記事でも面白そうな記事が結構ありますね。

投稿 ポップン | 2008年2月25日 (月) 17時55分
A25
 結構、興味深い雑誌です。
 私の論文は、かなり痛烈な感じですね。

Q26
取得条項付株式について質問です。
当該株式の一部を会社が別に定める日に取得するとする場合の取得条項として、以下のような定め方は可能でしょうか?
「当会社は、平成20年4月1日以降、毎年取締役会の定める日にB種優先株式の一部を取得することができるものとし、取得の対象となる株式は、取締役会の決議により適宜定める。」
1.一部を取得する場合の取得対象の株式を取締役会の裁量で定めてよいかという点
2.「会社が別に定める日」としてこのような定めが適法であるかという点
について、それぞれ確信がもてずにおりますので、ご教示いただきたく
投稿 ハヤ | 2008年2月25日 (月) 19時18分
A26
危なそうです。

Q28
役員退職慰労金制度の廃止について教えていただけないでしょうか。
私の勤務する会社でも役員退職慰労金制度の制度廃止及びそれに伴う打ち切り支給をしようということになったのですが、ものの本によると役員退職慰労金制度の廃止は取締役会と監査役会の決議が必要でその後株主総会決議となると書いてあったのですが、そうあっさりと書いてあるだけで、なぜそれが必要になるのかさっぱり分からず、おまけに取締役会決議は不要で株主総会決議だけなのではないかというの意見も聞こえてきて、すっかり混乱しています。
まず、株主総会開催の前に取締役会決議をすべき内容は株主総会開催の決議を除くと
(1)役員退職慰労金制度の制度廃止
(2)制度廃止に伴う打ち切り支給
の両方になるのでしょうか、それとも(1)、(2)のいずれかになるのでしょうか。またそれはどの条文等が論拠になるのでしょうか。
また監査役会、株主総会で決議すべきものはどれになるのでしょうか。
本当に素人な質問でごめんなさい。多分当たり前すぎるのか余り書いてないのです。
投稿 わたしも会社法で遊びたい | 2008年2月23日 (土) 20時11
A28
(1)と(2)は、別の議案です。
(1)は、株主総会で報酬等決議を撤回する議案です。
(2)は、新たな「報酬等」の支給議案です。
 根拠は、取締役が361条・監査役が387条でしょう。
 
 (1)は、決議自体に取締役会と監査役会の決議は不要ですが、取締役・監査役の委任契約の内容を不利益に変更するものですから、取締役・監査役の全員の同意が必要でしょう。

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2007年12月22日 (土)

浜辺先生に対する再反論

うれしいことに「会社法はこれでいいのだ(1)」に対し
  浜辺陽一郎先生
が、反論してくださいました。
題して、「会社法は、やっぱりダメだこりゃ(1)」。
 当方は天才バカボン、浜辺先生はドリフの大爆笑というところが、なんとなく世代を感じさせますが、本当にありがとうございます。

では、さっそく反論に対する再反論といきましょう。

>浜辺先生 「相手方敵地に乗り込む「遠征」みたいなものになりますので、あんまり気持ちの良いものではありません。」
葉玉: お気持ちは、お察しいたします。もっとも、浜辺先生の書き込みを削除したり、変更したりすることはありませんので、その点はご安心ください。ブログ読者に双方の言い分を存分に見ていただき判断してもらいましょう。
 もちろん、浜辺先生が、私を、早稲田の授業に呼んでいただければ、喜んで、参上いたします。

>浜辺先生:(ダミー会社が)「増えていなければ良い」という話ではありません。私が指摘したかったのは、「そういう設立が可能になり、より容易になる」「だから皆さん、注意しましょう」と言いたかったのが一つ。」
葉玉: この点は、「株式会社のブランド価値」さんが、コメントで反対意見を述べられていますが、私も、「ダミー会社の設立が可能になり、より容易になる」という抽象的な危険性は、最低資本金を維持する理由にはなりえないと思います。最低資本金制度の維持がダミー会社の設立を抑制する具体的な効果がないのに、それを維持する必要はありません。

>浜辺先生「むしろ根本的に問題なのは、会社法全体を通して問題なのは、「多数派がよければそれで良し」という少数者、弱者切捨ての論理です。つまり、「そんなダミー会社が沢山できたら、問題だが、数が少なければいいじゃないか」という発想です。」
葉玉: この浜辺先生の反論は、論理的ではありません。私は、ダミー会社が違法な行為を行うのならば、たった1社であっても、1回の行為であっても、許されないと思いますし、また、「数が少なければいい」などとも思っていません。
 私は、その違法行為の抑止手段として、最低資本金制度を用いるのは間違っているといっているだけです。それは、最低資本金制度は、ダミー会社を抑止する実質的な効果はないからです。
 そもそも、浜辺先生の論理は、「会社の設立」という基礎的行為と、「会社を用いた違法行為」という具体的な行為を同列に取り扱っている点に難点があります。もし、本当に、会社を用いた違法行為を完全に0にしなければならないというのならば、「会社」という制度自体を否定する以外方法はありません。
 こういうと、おそらく「そんな極端なことは言っていない」と反論されるかもしれませんが、それはすなわち、浜辺先生は、会社によって「不都合な事態が起きたり、場合によっては不正がまかり通ったり、許されたり、野放しになったり、被害にあう人」は、出現することを一定数は許容しているということになります。要するに、浜辺先生と私の考え方は、程度の差でしかなく、質的な差はありません。
 
真に考えなければならないのは、そうした違法行為をどのような手段で抑止するかという点です。私は、最低資本金制度という効果のない制度で抑止するのはナンセンスであると思いますし、ダミー会社の問題は、会社法という枠組みだけではなく、刑法や警察行政との連携によって解決されるべき問題であると思います。

>浜辺先生:「「規制」は、具体的な効果を得られない限り、行うべきではない、との主張ですが、こんな方針でしか立法できないとなれば、社会的に必要な規制(とりわけ弱者保護とか、不公正の是正といった問題を克服するための政策課題)はいつまでたってもできないという弊害が生じるだろう」
葉玉: 現在、社会的に必要な弱者保護や不公正の是正などのための規制が沢山ありますが、どれも、具体的な効果があるという前提で立法されているはずです。
 実際に規制を実施してみて、具体的な効果が得られないものもあるでしょうが、具体的な効果が得られないことが明らかになれば、基本的には廃止するのが、(おおげさですが)憲法上の要請なのではないでしょうか。

>浜辺先生「かつての最低資本金制度が中途半端なものであったかどうかは難しい問題ですが、どんな規制もどこかで線引きする妥協が必要なことはあるわけで、それが経済社会の現実であったということは考慮する必要があるでしょう。」
葉玉: 立法に妥協が必要なのは、当然です。ただ、その論理を使えば、最低資本金制度そのものが、経済社会の現実にあわなかったため、今回の会社法改正で、これを維持したいという考え方をもつ人も、廃止について妥協せざるをえなかったというしかありません。

>浜辺先生「株式会社を名乗って、有限責任のメリットを享受するための基礎としてのあるべき姿として、何が必要なのかが明らかにされる必要はないのでしょうか。」
葉玉:この記述には、いくつかの問題があります。
 まず第一に、「有限責任のメリットを享受するための基礎」という考え方自体に違和感を覚えます。この考え方の基礎には、「会社は、出資者の道具に過ぎず、本来、出資者は、会社債権者に対しても、責任を負うべきだが、一定の基礎があった場合には、有限責任を認めてあげよう」という思想があるように思うのです。
 私は、会社は、法的な意味でも、実態としても、出資者とは切り離された存在であると思っています。出資者の責任が問題となるのは、主として
① 会社が適法な契約に基づいて負担した債務
② 会社の出資者が、会社の行為のひとつとして違法行為を行ったことによって生じた債務
の2つですが、②については、間接有限責任かどうかという問題ではなく、むしろ出資者が直接の不法行為者として責任を負う場面です。
 間接有限責任は、①の場合です。この場合、相手方は「会社」という法人と契約しているのですから、会社に対する権利を取得することは意思表示の内容となっていますが、その契約に名前もでてこないような背後の出資者の財産を当てにする意思は見受けられません。
 ですから、論理的には
 法人格を認めるということ=原則として、それ以外の者への責任追及はしないこと
なのです(このことは、合名会社と合資会社は母法では、組合と考えられていたのに、日本でうっかり法人として規定されたというエピソードからも読み取れるところです)。
その意味でいえば、「有限責任のメリットを享受するための基礎」というのは、「法人格を認めるための基礎」という以上の意味はあまりありません。

 もし、浜辺先生のおっしゃっているのが、「法人格を認めるための基礎」という意味であれば、それは、会社法そのものが強行法規であること、そして、取締役等の行為規制や責任、BSの公告、さらには、罰則を定めていることなど各種規制が存在していることが、その基礎となっています。これらの基礎を前提に株式会社とすることについては、株式会社と有限会社の一体化の議論の中で、法制審議会でも認められているところです。

第2に、「株式会社を名乗って・・」という部分について、反論いたします。
 浜辺先生は、「法令を遵守するのは大変であるし、株式会社を名乗りながら、現実に法令をクリアーしていない人々は後ろめたさもあったわけです。ところが、今回の会社法は、もう恥も外聞もなく、「どうだ、立派な株式会社だ。もう文句はないだろう」と誰でも言えるようになってしまって、「法人成り」を追認する立法でした。」と書かれていますが、この記述は、それ自体、あまり意味のない反論であると同時に、浜辺先生がブランド価値について「有限会社との間で逆転現象が生じて」いるという部分と論理的に整合していないと思います。

 旧商法の株式会社と、会社法の株式会社の主たる違いは、取締役1人でも株式会社と名乗れるようになったことや、配当制限について、いままでは1000万円の資本金がベースになっていたのが、純資産300万円というベースになったこと等です。
 このうち、配当制限は、法人成りを追認するという点とはあまり関係がないので、浜辺先生がおっしゃりたいのは、「旧商法の下では、取締役3人、監査役1人が必要で、登記はしているけど、実態としては、取締役1人しか経営にタッチしておらず、名前だけ借りているような状態でうしろめたさがあった。それを、会社法は、1人でも株式会社を適法に作れるようになり、恥も外聞もなく、立派な株式会社といえるようになった」ということなのでしょう。

 ところで、この法人成りの「株式会社」を追認することが本当に悪いことなのでしょうか?
 会社法成立前の時点ですら、日本の株式会社の99%以上は、実態としては、代表取締役が一人で切り盛りしているような会社だったと思います。このような立法事実がある場合に
① 株式会社というブランドを上場企業・大企業に限定し、弱者の株式会社に対する信頼を守るため、既存の99%の株式会社を有限会社にする法制度を採用する
② 実態に法制度を合わせる
のどちらかを選択するしかありません。もし法制度を改正せず放置するという選択肢をとれば、実質的違法状態(活動しない取締役や監査役がいる状態)を放置することになるからです。

 浜辺先生は「相対立する要請を、どのように調整をするのかが、本来、立法担当者が整理すべき作業であったのではなかったのではないのか。それをしないで、拙速にとりあえず何か壊して、何も残っていないじゃないか」と反論されていますが、株式会社と有限会社の一体化の問題は、法制審議会における最大のテーマのひとつとして活発に議論し、整理された問題です。
 浜辺先生は、「法的リテラシーの低い人」のことを考えよとおっしゃっていますが、今回の会社法の整理は、実態に法制度をあわせただけですから、法的リテラシーの高低にかかわらず、株式会社の内部者や株式会社と取引をする人を混乱させることはないと思います(そもそも、法的リテラシーの低い人が、取締役が3人以上であるとか、監査役がいることを重視して、株式会社と取引しているとは思えません。むしろ「株式会社」という認識すらなく、取引をしているのが実態なのではないでしょうか)。
 
また、浜辺先生は、ブランド価値について「有限会社との間での逆転現象」があるとおっしゃっていますが、ここでいうブランド価値は、浜辺先生がそれまで話題にしていた「規制によってもたらされるブランド価値」とは違っています。有限会社の方が、有限会社型株式会社よりも、基本的には規制が緩いので使いやすいという意味です。その意味では、有限会社にブランド価値がありますが、それならば、旧商法の株式会社よりも会社法の株式会社の方がブランド価値が高いということになるでしょう。

>浜辺先生「そうした悪い人間の餌食になる「法的弱者」が会社法の犠牲者となるわけですが、「お上の法律には間違いはない」という、(もちろん、そんなことは誤りなのですが)、現実にはそういうナイーブな考えの人たちも多いことを為政者は十分に踏まえて規制を構築していくことが必要だと思うのです。・・・そうした意味において、「そもそも、そのようなものを議論すること自体、意味がない」というのは、結局、エリート官僚による「弱者切り捨て」の横暴な論理にほかならない、というのが私の考えです。」
葉玉:レトリックとしては、面白いのですが、的外れな批判です。
 まず、浜辺先生が的を外している1点目は、会社法の位置づけです。
 会社法は、会社に関する基本法です。会社法だけで、会社を用いた違法行為を防止することができないのは当然ですし、実際に、具体的な法的弱者の救済を行う制度は、刑法や各種消費者保護立法によって用意されています。基本法で弱者救済をすべてまかなわなければならないというのならば、会社法ではなく、「民法」が一番「弱者切捨て」の横暴な法律ということになるでしょう。すべての法制度のバランスの中で会社法の果たす役割を考えた上で「弱者切捨て」なのかどうかを考えるべきです。そういう視点からみれば、会社法の改正においては、「ナイーブな考えの人たち」のことを配慮しながら作られています。
 
 浜辺先生の第二の的外れは、実効性のない最低資本金制度を廃止したり、取締役一人でも株式会社を設立するという実態を反映した立法をしたことを、「弱者切捨て」につなげているところです。
 最低資本金制度の導入の前までは、35万円あれば会社が設立できていたわけですが、そのときは弱者切捨て状態だったのでしょうか?
 昔から、有限会社という規制の緩い有限責任形態の会社も存在していたわけですが、それは、ダミー会社として、どんどん使われ、弱者切捨てがされていたのでしょうか?
 逆に、法的リテラシーの低い人は、「この会社は有限会社だから、だまされないようにしよう」と考えていたのでしょうか?
 
 どのテーマを切り取っても、私には、 NO という答えしか思い浮かびません。
 
 他方で、最低資本金制度のために、株式会社や有限会社を作るのに苦労し、見せ金で設立している会社も多数あるというのが現実です。そうした苦労を強いること、または、違法行為を誘発することを許容してまで守るべきものが、かつての最低資本金制度にはあったのでしょうか。私は、なかったと断言します。
 私には、浜辺先生が最低資本金制度の廃止を批判されること自体、中小企業の実態を見ない、弱者切捨ての論理にうつります。
 
 私は、最低資本金制度の廃止の悪影響について「そのようなものを議論すること自体、意味がない」とは、まったく思いませんし、実際に議論されてきました。しかし、法制審議会の議論やパブコメでも、多数の方が最低資本金制度の廃止を支持されていたという現実もあります。
 ですから、私は、むしろ、浜辺先生から「最低資本金制度は、こんなに意味があった。弱者救済のためにこんなに役にたっていた」という反論をお聞きしたいくらいです。
 議論は大いに行うべきであり、もし最低資本金制度に意味があるのならば、私も一市井人として、次の会社法改正のテーマに取り上げてもらえるよう陳情したいくらいです。
 ただ、今のところ、私には、平成2年の最低資本金制度は、百害あって一利なしの中途半端なものだったとしか、思えません。

 以上縷々再反論を試みましたが、次回は、浜辺先生の著書の別の部分について、批判をしたいと思います。
 浜辺先生は、お忙しいようですので、すぐに反論をしていただかなくても結構ですし、もちろん、私の言うことなど無視されてもかまわないのですが、お時間が許せば、また有益な議論をさせていただけたら、幸いです。

(質問コーナー)
Q1
森淳二朗・上村達男編「会社法における主要論点の評価」(日本経済社)などにおける上村達男教授の会社法に対するご批判にも反論なされることを期待しております。
投稿 rd | 2007年12月20日 (木) 05時30分
A1
もう2回ほど、浜辺先生の本について反論したいことがありますので、その後、読んでみます。

Q2
葉玉師匠、こんにちは。
「活躍した弁護士ランキング」へのランクイン、ホントにおめでとうございます。
師匠の熱気や活力(イキミ)をもらって、自分の仕事にも勉強にも「ハズミ」がつきます!
3年といわず、何10年でも是非続けてください。
いろんな先生方と、師匠との勝負の行方は・・・気になっております(笑)
投稿 至誠丸 | 2007年12月20日 (木) 11時15分
A2

ありがとうございます。もっとも、勝負をしているのではなく、議論をしているのですから、行方はよく分かりません。お互いの見解の弱点が分かれば、プラスと考えます。

Q3
一つ目は、葉玉先生が考えるローに入るまでにしておいた方がよい勉強はどのようなものでしょうか。要件事実を勉強すべきと漠然とした話は聞くのですが、具体的に何をすればよいのかうまく把握できなく困っています。
二つ目は、私は司法試験の受験経験が去年の一回のみで、加えてあまり勉強せずに受験しているので司法試験の勉強の仕方の知識の貯蔵がありません。
そこで、葉玉先生が考える新司法試験合格のための勉強方法・約二年間のタイムスケジュールを教えていただけないでしょうか。
以上二点、受験生へのお年玉代わりにでも答えていただければ幸いです。
長くなり申し訳ありません。
投稿 ブルー | 2007年12月21日 (金) 10時43分
A3
要件事実というのは、法律の要件となる事実という意味なので、民法などを普通に勉強すれば身につくはずですが、若干、技術的な側面があるため、要件事実第1巻とかを読んでみるのもひとつでしょう。
司法試験は実務家になるための試験ですから、その勉強の基本は、演習をして実際に答案を書くことです。また、択一試験の問題を解くことです。それが、試験のための勉強であると同時に、実務家としての能力を高めるための勉強でもあります(中教審の報告も、答練そのものが悪いのではなく、受験技術に焦点を合わせた指導がよくないと言っているだけです)。
 とにかく、自分の考え方を書くことによって整理するというのが法曹にもっとも必要とされる技術だと思います。

Q4
年明けから択一までの学習計画を見直すにあたり、時間配分について悩んでいます。憲民刑に重心を移しつつも、知識状態を保つため、また商訴から離れていないという安心感を持つため、商訴の記憶喚起の時間をあらかじめ組み込んでしまいたいのです。習熟度や毎日の学習時間等で違ってくるとは思いますが、商訴への時間配分について、スパンや一日に振り分ける割合等の目安がもしあれば、アドバイスを頂けませんでしょうか(ちなみに択一合格経験なし、一日10時間前後の学習時間です)。どうぞよろしくお願い致します。
投稿 つき | 2007年12月21日 (金) 13時53分
A4
今、択一の過去問を解いてみて、何点取れるかによって、違います。
あまり取れないならば、商訴は1日1時間ですね。
8割確実に取れるならば、3時間くらいかな。

Q5
権利株についての質問なのですが、発起設立の場合は、35条と52条2項で、払込によって引受人となる地位と、成立時に株主となる地位のそれぞれについて規定があるのですが、募集設立の場合には、63条2項の払込によって引受人となる地位についての規定しかないと思うのですが、これは募集設立については、払込後はその地位を譲渡してもよいという趣旨でしょうか?そうであれば、その理由を教えていただきたいと思います。
投稿 ロースクール生 | 2007年12月21日 (金) 14時40分
A5
頻出論点ですが、譲渡不可です。

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2007年12月18日 (火)

会社法はこれでいいのだ(1)

 会社法も施行から1年半を経て、実務もかなり落ち着いてきたように思います。

 法律を具体的な問題に適用する限り、疑問がなくなることはないので、このブログの質問コーナーには、あいかわらず沢山の質問が寄せられますが、会社の日常業務の範囲内での解釈問題は、ほぼ実務の運用が固まってきたかなという印象です。

 会社法は、旧商法と比べて、条文の構造や表現もかなり変わりましたし、一見、同じような条文でも、解釈が大きく変わったところもあります(たとえば、ストック・オプションの決議要件とか)。

 会社法の条文や会社法立案担当者が示した解釈についての批判や反対説もようやく文献として目にすることができるようになってきました。

 中には、単に「昔は良かった。」という非論理的で懐古趣味のみのものもありますし、論争するに値すると思われる鋭い考え方もあります。
 また、会社法の単純ミスを指摘してもらい、他の法律の改正のときの整備でちょこちょこ修正することができ、助かったものもあります。法律的には等価であると思って改正したが、他の法律のことを考えると、等価ではなかったという面を指摘していただいたこともあります。

 私は、自分の考え方を批判されるのが大好きであり、批判してくれた方に対しては反論して、活発な議論を通じて、問題点を克服していくプロセスに大きな喜びを感じます。
 また、会社法の成立を機会に、従来「常識」とされ根拠なく信じられていた論点を含めて、もう一度の解釈論の構築がされることを大いに期待しています。

 そういう期待を込めて、今日は
 浜辺陽一郎教授の
 「会社法はこれでいいのか」(平凡社新書)
という本をご紹介したいと思います。

 この本の中には、沢山の会社法や立案担当者に対する批判が書かれていますが、これから、そのいくつかについて、反論を試みようと思います。

 題して「会社法は、これでいいのだ」。

 今日は、「地に落ちる株式会社のブランド価値」論の正当性を検証します。

 この本の中で、浜辺教授は、
①会社法において最低資本金規制がなくなっり、非常に気軽で浅はかな考えで、十分な財産的裏付けも計画性もないまま会社が設立されるようになる
②ダミーの会社が設立しやすくなり、それが犯罪や執行妨害に利用されるような恐れも高まる
③これまで株式会社には規制があったゆえに、株式会社にブランド価値があったが、これからは株式会社といっても、それを裏付けるブランド価値は会社法からは導かれない
という主張をされています。

 これは、本当でしょうか。

 私は、間違いであると思います。

 浜辺教授が前提としている「最低資本金制度」は平成2年商法改正で導入され、それが完全に実施されていたのは、平成8年から、新事業創出促進法が改正される平成15年までの約7年間しかありません。

 たとえば、昭和56年改正商法のもとでは、7人の発起人が5万円ずつ出資すれば、会社が設立できていたわけですが、その時代に「十分な財産的裏付けも計画性もないまま会社が設立」されていたのでしょうか。ダミー会社が沢山設立されていたのでしょうか。

 逆に最低資本金制度が採用された後に、そうした会社が設立されていなかったのでしょうか。そのようなダミー会社を作る意思がある人は、見せ金をすることにより、会社を設立するため、最低資本金制度はあまり役に立たなかったのではないでしょうか。

 さらに、会社法が成立した後、そのようなダミー会社が増えたのでしょうか。

 おそらく、どれも実証的な研究がされていないため、浜辺教授も私も正確に答えをもっていないというのが現実ではないでしょうか。

 たとえば、会社の倒産件数は、平成2年時点と比べると、むしろ、それ以降の方が増加し、最低資本金制度を完全に導入した平成8年移行は、飛躍的に倒産が増えています。当然のことながら、倒産と最低資本金制度は無関係です。
 また、最低資本金制度の導入により、破産時の配当率が高まったということもありません。

 私は、最低資本金制度を導入するのならば、最低1億円以上の出資金で、見せ金をできない厳密な手続きを用意するとともに、資本の欠損が3年以上続いた場合には、解散もしくは別の会社類型(たとえば、有限会社とか)にする等の措置を講じるべきだと思います。個人が、3000万円くらいまでは借りられても、1億円も借りるのは、なかなか難しいですから、1億円にすれば、設立時にスクリーニングができます。また、最低資本金というからには、設立時にハードルを設けるだけではなく、それを維持してこそ、意味があるはずです。

 これに対し、300万円とか1000万円とかいう金額の最低資本金制度(しかも、資本の欠損が生じても、解散はさせない)というのは、ハードルとして低すぎて、見せ金によるハードル超えを誘発するだけであり、効果がほとんどないにもかかわらず、理念だけが先走った制度であったと言われても仕方がないと思います。

 最低資本金制度の撤廃により、資本金を0円とすることが可能になったことについて、「出資をしたのに、0円というのは理論的におかしい。出資をした以上、必ず出資の足跡が残るはずだ」という趣旨の批判もありますが、旧商法のもとでも、株式の数を減らさないまま減資をすることは認められていましたから、資本金を永続する「出資の足跡」と考えること自体、おかしいわけであり、的外れな批判です。

 「規制」は、具体的な効果を得られない限り、行うべきではありません。平成2年当時の立案担当者は、政治的な調整が必要であったため、当初の目標とかなり違ったものになってしまったと反論するかもしれませんが、政治的な妥協で中途半端で効果のない(少なくとも実証されない)規制になったのならば、本来、その規制を設けるべきではありません。

 「これだけ議論し、努力してきたのだから、今更止められない」「俺は、俺の理想である株式会社制度を作りたい」という気持ちは分からないではないもの、それが中小企業にとってどれだけ負担になるのかを考えれば、最低資本金制度の導入を見送る勇気をもつべきでした。

しかし、その勇気無く、中途半端な最低資本金制度ができたそのため、結局は、最低資本金制度は、会社法で撤廃されてしまいました。

以上のように、私は、従来の「最低資本金制度」には、設立のハードルを中途半端に上げるだけで、実際上の効果はなく、撤廃して当然であると思いますし、その撤廃による悪影響などないと考えます。

また、会社法によって「株式会社のブランド価値」が下がるという点もおかしいです。

 ブランド価値という以上、世間の人が「株式会社」「有限会社」についてどのようなイメージを持つかということだと思います。

浜辺教授が、旧商法時代にあった株式会社のブランド価値を高めていたという「規制」が何かは、明示されていませんが、それが最低資本金制度だとするならば、それは明らかにおかしいでしょう。株式会社のブランド価値は、最低資本金制度導入前から形作られてきたものです。

また、その規制が「取締役会の設置義務」だというのなら、それもおかしい。有限会社は、法律上、取締役会を設置することはできませんでしたが、定款の中には、取締役会をうたっているところも多く、また、一般人は、そのような違いがあることすら、知らないことが多く、その点でブランド価値に違いが生じたとはいえません。

私は、「株式会社というブランド」は、上場企業や大企業が株式会社であるという事実によって成り立っているだけであり、法制度がどのようなものかは、大して影響を与えないと思います。もし法制度によるブランド化を図りたいならば、それに見合う高い設立及び維持のハードルを設けなければ意味がないのです。

他方、私は、そもそも、株式会社をブランド化すること自体には、何の法的意味も見いだせません。上場企業だって倒産するし、株主を害するようなことをやる会社もあります。中小企業だってコンプライアンスのしっかりした安定的企業もあります。会社の大小、まして、資本金の大小によって、ブランド化しようとする法制は、国民に誤ったラッテルを示す「偽装表示」みたいなものです。

結局、「株式会社のブランド価値」が会社法によって落ちるとは思わないとは思いませんし、そもそも、そのようなものを議論すること自体、意味がないというのが私の考えです。

今日のところは、この辺にして続きは次回に。

(質問コーナー)
Q1
いつも楽しく拝見しています。組織再編の債権者保護手続において異議の申出があった場合の債権者を害するおそれがないときとはいかなる判断基準によるのかご教示ください。
投稿 企業戦士 | 2007年12月 1日 (土) 11時41分
A1
判断基準というのは、特にないと思います。すべての債権者に支払いをすることができるならば、害するおそれはないということになります。

Q2
三角合併の際の1株に満たない端数の処理について質問です。
234条では、「次の各号に掲げる行為に際して当該各号に定める者に当該株式会社の株式を交付する場合において、・・・」とされていますが、三角合併の場合は当該株式会社の親会社の株式を交付することから、234条に定める端数に応じて金銭を交付する処理はできないのでしょうか。
ご教示ください。
投稿 凸凹 | 2007年12月 1日 (土) 23時38分
A2
234条によっては、できませんが、三角合併契約における対価の内容として、端数についての処理を定めることはできるでしょう。

Q3
いわゆる人的分割(758条8号等)を行う場合,分割会社側で簡易分割の要件を充たす場合は,分割会社の株主総会の承認を省略することができるのでしょうか。改正前商法は物的分割の場合にだけ,分割会社側で簡易が許されたように理解しております。
投稿 悩める49歳 | 2007年12月 2日 (日) 11時30分
A3
簡易分割の要件を満たせば、できます。

Q4
業務執行取締役について質問させてください
会社法363条1項2号の「代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの」は代表行為はできるのですか?
ここに述べられている業務執行行為の範囲が対内的なものに限られているのか対外的なものを含んでいるのかがわからないのですが…
ご教示ください
投稿 かいけいし受験生 | 2007年12月 2日 (日) 23時39分
A4
代表権がなければ、代表行為はできません。
業務執行と代表は、次元の異なる概念です。

Q5
会社法100問297頁の,「議題提出権等の継続保有要件は,いつまで充足していなければならないか」という論点に関する記述についての質問です。
297頁の記載には,「議題提出権は議決権行使のための権利であり,基準日後に株式を売却しても議決権を失うことはないから,株主総会終結時まで保有を強制するのは合理的ではない」とあります。しかし,会社法124条4項は基準日後の売却であっても,譲渡人が承諾している場合には適用される以上,「基準日後に株式を売却しても『譲渡人が承諾をしない限り』議決権を失うことはない(124条4項ただし書参照)」と記載するのが正確ではないでしょうか?
投稿 春夏秋冬 | 2007年12月 3日 (月) 11時10分
A5
単に譲渡人承諾するだけではなく、会社も議決権行使を認めなければならないので、本当に正確に書こうすると面倒くさいですね。

Q6
基準日後・総会前に株式を取得した株主の買取請求について、
ご教示願います。
2007年12月1日 A3
> 合併承認総会の基準日の時点では、適時開示がされているはずで、
> 合併承認がされる可能性があることを知って買った株主に、買取
> 保証をしてあげる必要性はないと思いますので、基準日後の買取
> 請求権の行使については、私は、反対です。

形式的には785条2項1号ロに該当するかと思うのですが、
請求権行使を認めない法律構成はどうお考えでしょうか?

権利濫用とするか、同号の「株主」を基準日現在の株主と解釈するか、
などと考えてみたのですが…。

それから、基準日株主が、基準日後にさらに買い増した場合、
同じ理屈で買い増し部分について買取請求権を認めるべきではない、
と考えてよいのでしょうか?
投稿 msm | 2007年12月 3日 (月) 13時45分
A6
「議決権を行使することができない株主」の解釈問題だと思います。
総会を開催する場合の基準日は、単に議決権の基準日ではなく、株式買取請求権の基準日と解釈すれば、基準日後の株主が、権利を行使することをできないことは説明することができます。
逆に、簡易合併等のように総会を開催しない場合には、基準日が設定されませんので、効力発生日の前日の株主ならば誰でも行使することができます。

Q7
会社法第176条の相続人等に対する売渡しの請求について質問があります。
当該請求の効力発生について、会社法第126条は適用されますでしょうか。126条は、到達主義(民法第97条)の実質的な例外として株主に対する通知・催告といった準法律行為に適用されるものかと思いますが、相続人等に対する売渡しの請求についても適用されるものでしょうか。
また、相続人等は、あくまでも株主ではないということで、直接適用はないとしても、類推適用がなされ、会社法第126条が規定される、若しくは、発信主義がとられると考えられるのでしょうか。
私としては、規定上、明確に発信主義がとられる旨規定されていない以上は、126条の適用、類推適用、発信主義の適用はないと考えております。
投稿 やすーーん | 2007年12月 3日 (月) 17時59分
A7
相続人は、名義書換をすることなく、株主であることを会社に対抗することができます。その反面で、会社から相続人である株主に通知する場合には、126条が適用されます。

Q8
『新・会社法100問』4問目の出資の履行確保のための制度について質問です。
100問では,出資の履行確保を会社債権者保護のためではなく,会社の事業活動と社員間の公正な利益分配の前提となっているという視点を打ち出しておられます。
しかし,設立時における出資の履行の確保について,直接責任を負う場合には,「会社の債権者は,直接社員にその責任を追及すればよいのだから,出資の履行時期は社員や会社の判断に委ねられている。」とされており,なぜか会社債権者保護の視点が導入されており,代わりに社員間の利益分配の前提という視点が欠落しているように思います。
また,間接責任にいたっては,会社の事業活動と社員間の公正な利益分配の前提という視点とはまったく異なった観点から(株式会社の制度設計という視点から?)説明されているような気がします。
会社の事業活動と社員間の公正な利益分配の前提となっているという視点から一貫した説明をすると,どのような説明になるのでしょうか?
特に後者の視点については,具体的なイメージがまったくわきません。それなのに,具体的な解釈にいかされているわけではないので,非常に混乱してしまいます。ご説明を加えていただけませんでしょうか。
投稿 ame | 2007年12月 4日 (火) 08時39分
A8
 会社債権者にとっては、有限責任か、無限責任かは、大きな違いですが、直接責任か、間接責任かは、大した問題ではありません。
 出資の履行というのは、間接責任を実現するための正当化要素であるという点では、社員の責任と関係していますが(これは、株式会社でも合同会社でも同じです)、会社債権者の保護を強化するという意味はありません。
 詳しくは、また機会を改めてお話ししますが、とりあえず、そういう目で読んでください。

Q9
募集株式の発行を第三者割当でする場合、無償で発行するということは可能なのでしょうか。また、株式無償割当において、特定の株主にのみ割当てるというのは可能なのでしょうか。種類株式発行会社の場合とそうでない場合について教えて頂けるとありがたく存じます。
投稿 guavatea | 2007年12月 4日 (火) 09時41分
A9
無償の第三者発行はできません。
株式無償割当も、特定の株主にのみ割り当てることはできません。
特定の種類株式の株主にのみ割り当てることはできます。

Q10
100問のComprehension Test Q1116において、事業の全部譲受けの場合には、合併手続の潜脱防止のため、株主総会の決議及び株式買取請求権の保障が必要とされている、とありますが、他方で、事業の一部の譲受けの場合には、分割手続の潜脱防止のための手続は設けられていないようです。
これはなぜなのでしょうか?
神田先生曰く「会社法が事業の譲受けについては、譲渡の場合と異なり、全部の場合だけを規定し重要な一部の場合を規定していないのは不均衡であるが、むしろ立法論としては、主要諸外国と同様に、事業の譲受けについては総会決議は不要とすべきであろう。」とのことですが、私も、素人考えに、合併手続の潜脱防止というのなら分割手続の潜脱防止も考えるべき(=事業の重要な一部の譲受けの場合にも総会決議を必要とすべき)だし、事業譲受けと吸収分割の差異をいうのなら事業譲受けと吸収合併の差異もいえる(=事業の譲受けについて全面的に総会決議を不要とすべき)ように思います。
何か事業の全部を譲り受ける場合と一部を譲り受ける場合で、異なる規制はありましたでしょうか?
投稿 会社法勉強中 | 2007年12月 4日 (火) 11時37分
A10
 事業の全部の譲り受けに、総会決議を要求していること自体がおかしいのですが、伝統というのも侮れない力を持っていると言うことです。

Q11
新株発行差止請求に関して質問させてください。
募集株式の発行に際し、一部の株主に対する招集通知を欠いた株主総会による決議を経ていた場合、差止請求訴訟の前に(あるいは同時に)831条1項1号の株主総会決議取消しの訴えを提起する必要はあるのでしょうか?
それとも、かかる招集手続違反自体が210条1号の法令違反にあたるとして、差止請求だけで足りるのでしょうか?
投稿 taro | 2007年12月 4日 (火) 18時08分
A11
 決議取消しの訴えを提起しなくても、差し止めの仮処分を申し立てることはできます。

Q12
新・会社法100問(第2版)の13.預合いについて質問させてください。
この部分を読めば読むほど、なるほど、預合いについては有効説しかないな、という気になってきます。94条2項によって第三者を保護する法律構成も納得です。質問というのは、この94条2項についてなのですが、①「善意の第三者(他の発起人、会社、当該預金債権を差し押さえた善意の債権者等)との関係では」とありますが、他の発起人、会社についても、善意の第三者足りうるのでしょうか。
確かに、ある発起人が勝手に約束をして、他の発起人が迷惑をこうむるということは考えうると思いますが、差押債権者のように、請求権行使場面が想定できません。
 まず、会社は預金債権を有しますので、それを直接行使するということが当然に考えられますが、当該会社の債権を行使するのに、「第三者」足りうるのでしょうか?(民法の議論では、代理人が虚偽表示をした場合、本人は「第三者」足りえないとされていると思います。)
 また、他の発起人が行使するとすると、代表者として会社の債権を行使することになると思うのですが、この代表者が「第三者」足りうるのでしょうか?(民法上、代理人は「第三者」足りえないと思います。)
 また、②94条2項適用という法律構成を用いた場合、基本的に債権者は保護されると考えていいでしょうか?
 100問では、会社債権者が当該預金債権を行使することは困難、というような記述が散見されますが、基本的に会社債権者は虚偽の附款について善意であることを考えると、主張・立証の面でそれほど困難ではないように思うのですが。
投稿 旧司法試験受験生の生き残り | 2007年12月 6日 (木) 15時41分
A12
 会社債権者が、会社の債権を差し押さえた場合には、第三者に該当すると思います。

Q13
反対株主に対する通知についてお聞きしたいのですが、会社法第785条第3項及び797条第3項において「その株主」とありますが、これは反対株主を指すのでしょうか?例えば、合併の承認の株主総会があり、この株主総会において反対した株主が存在しない場合(議決権を行使できない株主はいない場合)においても総会後、効力発生日の20前までに株主に全員に対して通知を送る必要があるのでしょうか?
投稿 サブマリン | 2007年12月 7日 (金) 15時07分
A13
 反対株主ではなく、全株主です。確かに反対株主が存在しない場合には無駄なようにも思いますが、法律上、例外が置かれていないので、通知はせざるをえません。

Q14
合併についての株券提供公告について質問です。
219条では合併の際に株券提供公告をしなければならない旨規定されていますが,これは消滅会社が存続会社の完全子会社でもしなければならないのでしょうか?
なんだかとても無意味な公告をしなければいけないような気がします・・・
通知で足りると思うのですが,かかる公告は必要でしょうか?
また,仮に公告するとして,この公告は債権者保護手続の公告と同時に行うのはアリでしょうか?
投稿 匿名な人 | 2007年12月 7日 (金) 17時20分
A14
株券発行会社である以上、株券提供公告はやむをえないですね。
公告を兼ねることは可能でしょう。

Q15
会計監査人の解任請求が株主提案権の行使によりなされた場合についてお伺いします。
通常、取締役が会計監査人の解任請求をした場合は、監査役の同意を得ることが必要ですが(会社法334条1項2号)、株主提案権の行使(303条1項)によりなされた場合にも、やはり監査役の同意がなければ解任を株主総会の目的とすることはできないのでしょうか。334条1項2号の趣旨が取締役から監査部門の独立性を守ることであるとすれば、株主提案による場合には監査役の同意は必要ないとも思えますが、条文の文言上からは、やはり同意が必要であるようにも思えます。
この点について判断がつかず、株主提案権の行使による会計監査人の解任請求を株主総会招集通知に記載すべきか迷っています。ご教示いただければ幸いです。
投稿 rm | 2007年12月 7日 (金) 17時28分
A15
 あまり考えたことのない問題ですが、議題にせざるをえないのではないでしょうか。

Q16
「違法な剰余金配当の効力」の有効説に対する批判について質問します。
有効説に対する弥永先生の批判として、
「自己株式の取得が有効であるとすれば、譲渡人である株主が会社に対して株式の交付を請求する自然な法的構成が考えにくくなり問題が残る」とあります。
この意味が全く理解できません。どういうシチュエーションが想定されているのでしょうか?
 あと、葉玉先生の「会社法100」問を問題集として学習しているのですが、
たちかえる基本書としては、どれが、一番使いやすいのかをご教示ください。
投稿 新司受験生 | 2007年12月 9日 (日) 14時10分
A16
 株主が会社に対して代金相当額を返還した場合に、株式を返してもらう根拠があるかということでしょう。私は、代位という自然な法的構成があると思いますが。
 基本書は、なんでもよいのではないでしょうか。

Q17
さて,会社法上の仮処分の実効性について質問させていただきたく思います。

会社法上の差止請求権として,①取締役の違法行為差止請求権(360条)と②新株発行差止請求権(210条)等があります。この差止仮処分違反の行為の効力として,②については,最高裁平成5年12月16日判決が無効説をとることを明らかにし,実務的にも無効説が確立したものとされているようです。
<Question1>では,①取締役の違法行為差止仮処分違反の行為の効力についても,②と同様,仮処分の実効性を図るために無効と考えられているのでしょうか?

ある文献では,①については,民事保全法58条1項が不動産の登記請求権保全のための処分禁止の仮処分つき,当該仮処分の登記がなされた場合に限って,これに抵触する限度で後になされた行為は債権者に対抗することができないとしていること等から,不作為を命じる仮処分について登記等による公示がなされない限り,原則として第三者には対抗することができないものとしています。(同文献では,②については,最高裁の無効説を承認しています。)

しかし,②について無効説をとるのであれば,①についても無効説をとるのが素直かと思いますが,
<Question2>両者で,制度上,扱いを異にしてよい合理的差異というものは存在しますか?
投稿 めんも | 2007年12月 9日 (日) 22時10分
A17
① 取締役の違法行為差し止め仮処分に違反しても、その行為は、有効です。100問にも記載があります。

② 名宛人が違います。取締役を名宛人としていうのに、会社の行為を無効にするのは困難です。

Q18
設立中の会社の権利能力を認めるのに民訴29条を適用する理論に関して先生の肯否とご意見あればお伺いしたいと思います。
抽象的ですが宜しくお願いします。
投稿 七誌のゼミ生 | 2007年12月11日 (火) 14時44分
A18
設立中の会社には、権利能力はありません。これは、明らかです。

Q19
剰余金分配請求についての質問です。
仮に、出資にあたって剰余金分配を望まない者がいるとします。この場合、この意向を反映させる手段として属人的種類株式(会社法109条2項)が考えらると思いますが、会社法108条1項1号の種類株式としても発行は可能なのでしょうか?通常、教科書などで同条同号で発行することができる例として、優先株又は劣後株が挙げられているのですが、無配当株についての記述を見たことがありません。しかし、会社法105条2項も踏まえ考えれば、条文上は可能だと思うのですが、間違いでしょうか?
投稿 受験生です。 | 2007年12月11日 (火) 21時30分
A19
無配当株式も設計可能です。

Q20
役員退職慰労金についてのご質問です。
解散決議をおこない清算業務中の会社において、株主総会で決議をすれば、元取締役の役員退職慰労金の名目で支払いは可能でしょうか?
またその法的根拠は、会社法361条(取締役の報酬等)482条ということになるのでしょうか。
解散決議の際に、退職慰労金に関する決議をするのが普通という話を社内の関連部署から聞いたので、お伺いする次第です。
投稿 ちょろまつ | 2007年12月11日 (火) 23時55分
A20
可能でしょう。

Q21
私は来年からロースクールの既習に進学する予定なのですが、現状のレベルからして、三振のリスクを考えても、来年旧試験にチャレンジする価値は高いのではないかと考えています。
来年から合格者200人と減少する旧試験に挑むことは無謀でしょうか?それともリスクをとっても挑む価値のあるものでしょうか?
葉玉先生の意見を聞かせてください。
投稿 ヨムヨム君 | 2007年12月12日 (水) 00時54分
A21
 200人も通るなら、受けていいんじゃないでしょうか。

Q22
新株予約権の取得条項について質問させてください。
たとえば「退職したときは無償で新株予約権を取得することができる」との取得条項がある場合、これは236条1項7号のイ・ロのどちらの定めとみるべきでしょうか?
会社法の施行に伴い、「消却できる」という消却事由を「取得できる」という取得事由に引き直して登記がされている例が多く見られますが、このような「取得できる」という定めは会社法が予定している取得事由の定め方ではないように思います。
そのため、このような「できる」条項については、会社法の規定に則して、その性質を決定する作業が必要になると考えます。
私見では、「できる」条項は、236条1項7号ロ(及び規定振りによってはハ)の定めをしたものと解すべきであり、これに基づく取得は、273条の規定に従って行うことになると考えますが、いかがでしょうか?
旧法では、消却には常に取締役会の決議が必要であったわけですから、これを「取得できる」と引きなおした場合でも、取締役会の決議がなければ取得できないと解するのが自然であると考えますし、仮に「できる」条項が236条1項7号イの定めと解すると、取得事由が生じた場合には自動的に取得されることとなり、多くの場合、そのような条項を設けた会社の意思に反するような気がします。
なお、以上のことは、会社法施行後に発行された新株予約権に「できる」条項が付されている場合にも同様に妥当すると考えますが、いかがでしょうか?
投稿 water | 2007年12月12日 (水) 13時19分
A22
解釈問題ですが、そのような解釈でいいと思います。

Q23

会社法100問(第2版)、61問について質問があり、メールさせていただきました。
61問目347p小問(1)1販売行為の差し止めについて(一)で、
解答例では、「委任契約の内容として、取締役は競業避止義務を負っており、取締役がこの義務に違反する場合には、会社に損害が発生するおそれがあるか否かにかかわらず、会社は、当該委任契約上の義務の履行として当該取締役に対して、競業行為の差止を求めることができる。」とされています。
そこで、質問なのですが、
①この場合に会社を代表して差し止めを求めることができるのは、誰なのでしょうか。この場合も、386条、408条と同じく(353条・364条については省略します)、監査役設置会社は、監査役、委員会設置会社は監査委員、それ以外の会社は代表取締役(353条・364条については省略します)なのでしょうか?
②仮に、386条、408条と同じだとした場合に、たとえば、監査役が、競業行為の差止を求める場合(385条)との関係は、どうなるのでしょうか?
③①に関連しますが、ここにいう「それ以外の会社」は、委員会設置会社でない取締役会で、かつ、公開会社でない会計参与設置会社だけではないでしょうか?理由は、解答例が、取締役会設置会社であることを前提にかかれていること、327条2項です。
④③に関連しますが、この問題は、「株式会社A」としか書かれていないので、厳密に言えば、解答例のように取締役会設置会社に限定せず、非取締役会設置会社の場合についても、考えたほうがよいのでしょうか?
以上よろしくお願いします。
投稿 ロー生、T。 | 2007年12月14日 (金) 12時22分
A23
① 監査役等でしょう。
② 385条は、どんな法律に違反する場合も含む一般的規定です。委任契約に基づくものは、委任契約で定めたものだけです。
③④ そうですね。

Q24
譲渡制限のついた株式の譲渡担保設定の効力について質問させてください。
譲渡制限株式を譲渡担保に供する場合も取締役会の承認を要するのか,という論点について,従来は不要説が有力であったようです。これに対し,最判昭和48年6月14日は,譲渡担保設定は株式の譲渡にあたると解すべきとしています。

株券発行会社においては,会社の承認を得なくても第三者対抗要件を具備できるわけですから,譲渡担保を実行するまでは会社の承認を得る必要はない以上,譲渡担保設定を株式の譲渡にあたると解しても当事者間の目的は達成できたのだと思います。

しかし,会社法下の株券不発行会社においては,名義書換え及びその前提として会社の承認を得なければ,第三者対抗要件も具備することができません。
そうだとすると,譲渡担保を設定しても,その後第三者に譲渡され会社の承認がなされた場合には,譲渡担保権者は譲渡担保を設定した意味がなくなるため,目的を達成しえなくなると思います(損害賠償請求権は,担保権を実行するにいたった譲渡担保権設定者との関係においては無力)。

とすると,会社法下では,株式の譲渡担保はどのように行われることが想定されているのでしょうか。
譲渡担保に際して設定者に会社の承認を得ることを要求しているのでしょうか。
それとも,譲渡担保自体が廃れてしまったのでしょうか。
それとも,何か理解に誤りがあるのでしょうか。
投稿 旧司法試験受験生 | 2007年12月14日 (金) 12時56分
A24
 会社法というより、株券不発行会社における譲渡担保ということですよね。
 その場合は、登録譲渡担保でなければ、第三者に対抗できないので、事実上、譲渡担保は使いにくいでしょう。また、会社側が「譲渡担保」であると言われたからといって、承諾なしに名義書換に応じることはできません。議決権を行使することができるようになるので。結局、「譲渡担保に承諾は不要」という結論自体は、あまり意味がないのです。

Q25
百問の第29問で,847条で株主に継続保有要件を課しているのは,事後株付け防止の観点からと説明されていますが,株主代表訴訟は,行為時に株主でなくても提起されていると解されており(最高裁平成5年9月9日第一小法廷判決参照),また株主総会決議取消の訴えのように期間制限もないため,6か月の継続保有要件を課したところで,6か月経過後に訴えを提起すればよいため,実際に事後株付け防止策になっていないのではないでしょうか。
それとも,無策よりはまし,という感覚なのでしょうか。
投稿 旧司法試験受験生 | 2007年12月14日 (金) 17時28分
A25
無策よりはましで。

Q26
妻子持ち社会人旧試験受験生です。
合併と名板貸しのあいのこのような事例で質問させてください。
吸収合併後(登記後)、引き続き消滅会社の名前で行われた行為について、取引の相手方は存続会社に対し責任を問うことができるのでしょうか?できるとしてその法律構成をどのように整理すべきでしょうか?
それとも、合併登記後は、消滅した会社の名称を使用してなされた取引自体が7条に反し無効となるのでしょうか?
例、A社がB社に吸収合併された後、①消滅会社A社の代取甲が引続きA社代取甲としてC社に注文を出していた場合、存続会社B社はその代金支払債務を否認できるか。
②合併前のA社の債務の代金を、C社がA社代取甲名義の銀行口座に対して支払った場合、B社はその弁済を否認することができるか。

①Bが商品を受領していれば、甲に旧商号の使用を許諾していたと看做し、会社法9条を類推して、自己の(吸収した旧会社Aの)商号を使用して事業を行うことを甲に許諾したBは、自己と誤認して取引した相手方C社に対し、甲と連帯して債務を弁済する責任を負うと解して宜しいでしょうか?
Bが商品を受領していなければ、民法113条の無権代理としてBの追認がない限り無効と解すべきでしょうか?
②の場合については、合併の効果としてAの預金口座は全てBに当然承継されている(会社法2条)はずなので、BはCの弁済を否認することはできないと解して宜しいでしょうか?
以上、机上の空論のようなレベルの低い質問で恐縮ですが、ご教示いただけますようお願い申し上げます。
投稿 おとうちゃん | 2007年12月15日 (土) 00時22分
A26
①「A社」という表示がB社のために行うことを示しているのならば、単なる無権代表の問題です。B社が商品を受領すれば、追認でしょう。
 「A社」という表示が消滅したA社のため、ということを示しているのならば、B社は責任を負わないでしょう。A社の消滅を対抗できますし。
② そうでしょう。

Q27
受賞おめでとうございます。と素直に言いたいのですが、入門編(100問の解説)の更新もお願いできませんでしょうか。11月5日以降ストップしていると思います。お忙しくて出来ないようであればその旨も発表していただければと。
投稿 熟読者 | 2007年12月16日 (日) 02時43分
A27
入門編のご希望があることは承知していますし、やろうという意思もあるのですが、申し訳ありません。

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2006年12月28日 (木)

年末の質問コーナー

本日は、御用納めでした。会社法グループにとって、激動の1年が終わって、ややホッとしています。
今日は、質問が溜まっているので、質問コーナーのみにしますが、登記がらみ等調整の必要な問題は故意に飛ばしています。

最近の質問は、実務に直接影響を与えそうなマニアックなものが多いので、調整しないと答えられないものが多く、慎重に検討しています。
悪しからずご了承ください。
明日から家族旅行に行くので、もしかしたらインターネットに接続できないかもしれませんが、もし接続できるのならば、年内に「設立と新株発行」の残りを掲載したいと思います。

(質問コーナー)
Q1
会社計算規則37条による資本金等増加限度額の計算について教えてください。
株式引受人の募集に関しまして下記1と2では,同じ額の払込みがされ,同額の帳簿価額の自己株式の処分がされるにもかかわらず,資本金等増加限度額は1の方が多くなります。
下記1のように自己株式の処分と株式発行に手続を分けた場合の方が,2のように新株式の発行と自己株式の処分を組み合わせるケースよりも,結果として資本金等増加限度額が多くなるように規定したのはなぜでしょうか?
1 払込額500万円,自己株式処分割合100%(自己株式の帳簿価額1000万円)とする募集を行い,後日,払込額2000万円,新株式発行割合100%とする募集をした場合,資本金等増加限度額は合計で2000万円となります。
2 払込額2500万円,自己株式処分割合20%(自己株式の帳簿価額1000万円),株式発行割合80%とする募集を実施した場合,資本金増加限度額は1500万円になります。
投稿 yok | 2006/12/26 20:44:40
A1
私が作ったわけではないので理由は分かりませんが、いろいろあった方が当事者が工夫できるからでしょう。

Q2
取締役会非設置会社で、株主総会決議が必要な業務執行決定事項の範囲についてお教え下さい。
取締役会設置会社では、取締役会が取締役に委任できない事項というのが決まっています。これに対して非設置会社では、株主総会はあらゆる決議をできるという規定と、法令で株主総会決議事項になっているものを下部機関に委任できないという規定がありますが、法令で株主総会決議事項でないものについて取締役に委任してよいかどうかについては特にルールがないと考えてよいでしょうか。
投稿 すか吉 | 2006/12/27 10:59:13
A2
348条2項に掲げる事項等は取締役に委任することができません。

Q3
組織再編における株主通知・公告(会社法785条・797条)について教えてください。
785条4項2号・797条4項2号では、「株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合」、公告をもって株主への通知に代えることができる旨が規定されています。
「承認を受けた」と過去形で書かれていますが、これは、公告をする時点で、すでに株主総会決議がなされていることが必要という趣旨でしょうか。それとも、公告の時点で株主総会決議がなされていなくても、最終的に効力発生日の前日までに株主総会決議がなされれば、785条4項・797条4項の公告としての効力を有することになるのでしょうか。
投稿 年末も会社法 | 2006/12/27 11:40:27
A3
 これから承認を受ける場合も含まれると解するべでしょう。

Q4
 会社法施行規則124条7号の「社外役員の報酬等」に関する開示事項について、当該規定では「親会社またはその子会社から役員としての報酬等を受けているときは、その報酬等の総額」について開示する、とされています。
 この開示対象となる会社の範囲に「当該会社の子会社」が含まれていないことについて、当該規定は、あくまで当該会社の親会社またはその子会社(当該会社の兄弟会社)の「役員」(同2条3項3号)としての報酬等について開示するものであり、そもそも子会社から役員としての報酬等を受けている場合は、社外役員の要件に反することになるため除かれていると理解していますが、この理解で間違いないでしょうか?
投稿 naga | 2006/12/27 16:53:58
A4
 親会社の孫会社も、子会社ですから、通常は、親会社の子会社には、その会社の子会社も含まれます。

Q5
有利発行について質問させてください。
100問の20問では、前段においては総会決議がなくても、本来不要である株主への公示がある事例、後段においては公示も総会決議もない事例が問われており、前段は無効にならず後段は無効という結論になっております。
ということは、公示の有無が有利発行の効力に決定的意味を持つように思えます。
ところが21問の160ページから161ページにかけて、総会決議がなかった場合でも無効にならないと結論づけています。ここは本来公示など不要で総会決議が必要な場面ですから、『総会決議がなかった場合』というのは公示もなかったと解すべきと思いますが、そうすると20問との整合性がありません。
つまり20問後段と21問指摘箇所は同じ事例を想定しているのに結論が違うように思えるのです。
何かを見落とし、落とし穴にはまっているのかもしれませんが、しばらく考えても分かりませんでしたので、私の考えの間違いを御指摘下さい。
よろしくお願いいたします。
投稿 アンナ | 2006/12/27 20:44:34
Q5
総会決議がなかったからといって公示がなかったとは言えません。
一番問題になるのは、有利発行であるにもかかわらず、有利発行ではないものとして、役会決議+通知又は公告という手続きで募集が行われる場合であり、これは、総会決議はないが、公示はある場合です。

Q6
 有限会社の監査役は,株式会社の監査役とは異なって任意的機関だから,設置するしないも自由で解任に当たっても特に特別決議を要求する理由はないという風に考えてみましたが正しいでしょうか? また,株式会社にせよ有限会社にせよ,累積投票で選ばれた取締役が普通決議で解任することができるとすると,少数者の意思を反映するための累積投票制度が骨抜きになるから,特別決議を要求するのだと考えてみましたが,正しいでしょうか?
投稿 帝王 | 2006/12/28 0:36:27
A6
 株式会社の監査役も、任意的機関です。ですから、説明としては成功していないように思います。

Q7
本日は企業再編時の債権者保護につき以下の理解でよいかご教授ください。
1 債権とは、特定人が特定人に対して特定の給付を請求できる権利であることから、①債権者(「特定人が」)、②債務者(「特定人に対して」)、③債権の内容(「特定の給付を請求できる権利」)に変更がない限り、債権者は、会社の経営判断等に異議を述べる権利がないのが原則である。
2 しかし、例外的に、799条1項各号の場合だけは、①~③に変更はないが、対価の適正を判断する機会を与えるため、異議権を認めた。
3 企業再編時においては、あまり債権者の保護手続を考慮していないようにも思えるが、剰余金の配当制限(461条以下)や、役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条)、詐害行為取消権(民法424条)等の他の諸制度により債権者の保護は図られうるので会社の企業再編に広く異議権を認めなくとも構わない。
以上の様な理解で企業再編時の債権者保護を整理してみたのですが、間違いはないでしょうか?実務家の先生に聞くような質問ではないのかもしれませんが、宜しくお願いいたします。(根本的には会社法における債権者保護って何だ?という疑問があります。)
投稿 NK | 2006/12/28 2:25:18
A7
 「経営判断」に対する異議権という考え方はあまりしないと思います。
 異議は、「対価の適正」だけを判断するのではありません。
 「企業再編時においては、あまり債権者の保護手続を考慮していないように思える」とありますが、意味が不明です。多くの場合、債権者保護手続きが用意されています。

Q8
420条1項の代表執行役についてお伺いいたします。
当初執行役が一人しかいなく、当該執行役が代表執行役とみなされていたときに、後日、もう一人執行役を増員した場合には、改めて代表執行役を選定し直さなければならないと考えて宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/28 10:01:17
A8
代表執行役関係は、現在検討中ですので、確答はさけますあ、既に代表執行役に選定されている者がいる場合には、執行役が複数になったからといって、代表執行役を選定し直す必要はないと思います。

Q9
募集株式の総数引受契約の後,払込期日までの間に,当該会社が株式分割することは(不法行為かどうかは別にして)できると思いますが,引き受けるほうが分割相当分の株を取得するには,再度契約しなければならないのでしょうか?
投稿 サル頭 | 2006/12/28 15:34:54
A9
引受人が株主になる前に株式分割が行われたとすれば、引受人は、分割相当分の株式を取得することはできません。

Q10
各取締役が担当事業分野をもついわゆる担当役員制を採用する場合、この誰がどの分野を担当するかという担当分けについては取締役会で決議する必要がありますでしょうか?あるいは代表取締役(社長)が決定してもよいのでしょうか?業務執行をする限り、会社法363条1項2号の業務執行取締役として取締役会で選定する必要があるということになるのでしょうか?
投稿 あつし | 2006/12/28 15:49:02
A10
「担当」が業務執行権を与える趣旨ならば、取締役会で選定する必要があります。
使用人兼務取締役の使用人としての担当を決めるのならば、「重要な使用人の選任又は解任」に該当しない限り、役会決議はいりません。

Q11
「一時会計監査人」「一時取締役」「一時監査役」といった用語に関する疑問です。「一時会計監査人」についてみてみると、会社法346条4項は「一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない」と規定しており、旧商法特例法6条の4における文言と同様です。従来はこの条文にもとづき選任される者を「仮会計監査人」と称するのが一般的だったと思います。条文中の「一時」と「会計監査人の職務・・・」の間は一拍おいて読むと思っていたので、「一時会計監査人」と称するのには違和感を感じますが、現在各社のリリースを見ると、「一時会計監査人」という用語が一般的になっているようです。江頭先生の「株式会社法」では、「一時会計監査人」の用語が使用されており、前田先生の「会社法入門」では、「仮会計監査人」の用語が使用されています。このあたり何か議論があったのでしょうか?
投稿 あつし | 2006/12/28 16:12:08
A11
一時会計監査人にせよ、仮会計監査人にせよ、通称なので、どちらを使っても良いです。
正式名称は、「一時会計監査人の職務を行う者」です。

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2006年10月 5日 (木)

法務省令の改正案

会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080003&OBJCD=&GROUP=
がはじまりました(2006年11月2日まで)。

名無しさんから「法務省が意見募集にかけている省令の改正の趣旨について、簡単にご説明いただければ幸いです。」というご依頼がありましたので,簡単にご説明します。

今回の省令改正は,普通はあまり関わり合いのない分野の改正です。

会社法施行規則のうち実質的な改正点は,公開会社の事業報告において,
「株式会社が,当該事業年度に株式その他の持分又は新株予約権の「処分」の状況を記載しなければならないこととする。」
ということくらいです。
 既に記載事項となっている「取得」と同程度の重要性をもつ「処分」を記載すべきであるという声に対応しました。
 残りの部分は,現行規則の明確化又はチョンボ直しです。

 次に,会社計算規則の実質的な改正点は次の通りです。

1 創立費・株式発行費の資本控除規定を当分の間凍結する。
 (趣旨)
 国際会計基準では創立費等は資本控除とされていたので,現行規則は資本控除の規定を置いていました。ところが,その後,会計基準の世界で流れが代わり,結局,企業会計基準委員会が「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」として,当面は,資本控除を行わないことになってしまいました。法務省としては,企業会計基準委員会の事務局と密に連絡を取り合いながら,現行規則を制定したのですが,企業会計基準委員会の流れがそちらにいった以上,会社計算規則でも,当分の間は,創立費等の資本控除の規定を凍結することにしました。
 W大学の某教授はお喜びになると思いますが,当分の間,凍結されただけで,削除したものではありません。

2 抱き合わせ株式(存続会社が有する消滅会社株式)の会計処理
 共通支配下関係にある会社間で吸収合併する場合に,抱き合わせ株式について
消滅会社の株主資本の額から抱き合わせ株式の帳簿価額を控除した上で,のれんの額・資本金等の変動額を算定することにしました。

3 子会社・孫会社間の吸収合併等の会計処理
 現行規則では,親会社と子会社間で吸収合併をする場合には,共通支配下関係の取引の特則が置かれているのですが,子会社・孫会社間の吸収合併には,特則が置かれていません(通常の共通支配下関係と同じ取扱い)。
 今回の改正では,子会社と孫会社間の吸収合併について,最上位の親会社と子会社の間の吸収合併等と同じ取扱をすることにしました。

4 共通支配下関係にある会社間の無対価の吸収合併・新設合併の会計処理
 当該場合においては,持分プーリング法に準じた処理(ただし,資本金・資本準備金は増えません)をすることを許容することとしました。

5 その他詳しいことは,「省令案の概要」をご覧下さい。

(質問コーナー)
Q1
ところで、質問コーナーでは、質問者の名前を書いていただけないでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿 エル | 2006/10/03 21:55:19
A1
どうも,すいません。慣れないもので。
以後,名前を書くことにします。

Q2
剰余金の配当の効力日とはいつを指すのでしょうか。総会、役会の決議日または支払開始日のどちらでしょうか。
①今度の取締役会で中間配当金を決議するのですが、会社法は効力発生日を 決議とありますが、当然支払開始日を決議するのでしょうか?
②個別注記表、株主資本等変動計算書で効力発生日を記載するようになっていますが、これも支払日ですか?
 また、この6月の株主総会では効力発生日については、特に決議しませんでしたが。とりあえずこれも支払日でよいですか。
投稿 会社法初級 | 2006/10/04 1:19:10
A2
(1) 配当の決定時において「当該剰余金の配当がその効力を生ずる日」(454条1項3号)として定めた日が効力発生日です。
(2)株主総会で定めるときも,本当は,効力発生日を定める必要がありますので,特に決議しなかったというのはまずいと思いますが,その場合は,株主総会の決議の日を効力発生日とする決議があったものと見るのが通常でしょう。

Q3
吸収分割に関する質問ですが、ある会社(A社)が、吸収分割により事業に係る権利義務の一部を他社(B社)に承継させる際、承継先であるB社の代表取締役がA社の代表取締役でもある場合、A社における分割契約の承認取締役会の議決には、A社の代表取締役は「特別利害関係人」として加わることができないのでしょうか?
但し、「B社はA社の完全子会社ではない」ことを前提としています。
会社法356条に定める「取引」の概念に、会社分割による事業承継が含まれるかどうか、といった内容になるかと思いますが、ご解答の程よろしくお願いいたします。
投稿 naga | 2006/10/04 17:59:09
A3
356条の「取引」には,吸収分割契約も含まれまると思います。
ご質問の場合には,双方代理になっているわけですから,特別利害関係人として加わることはできないでしょう。

Q4
今日は、立案担当者の方々が書かれた文献の記載について教えてください。
「立案担当者による新・会社法の解説」88頁の中段後ろから2行目に、会社法になって株式の買受け及び減資・減準備金の場合に一般的に種類株主総会が必要とされなくなったことの理由として、「株式の買受けおよび剰余金の配当に統合された資本金等の減少に伴う払戻しについては、原則として定款の定めに基づかなければ種類ごとに格別の取扱いをすることができない」とあります。
しかし、減資+自己株取得として行う場合は、定款に定めがなくても種類ごとに異なる取扱い(減資の後、ある種類の株式のみ買い受ける)ができるのではないでしょうか。
この記載の意味について教えてください。
投稿 ジェフリー・サルポン | 2006/10/05 0:47:09
A4
すいませんが,当該記載をした者が近くにいないので,その真意は確かめられません
おっしゃるとおり,定款の定めがなくても,自己株式の取得は,種類ごとにできます。

Q5
会社法では、取締役や監査役がする仕事に関し、「業務の執行」と「職務の執行」とは明確に区別しているようです。これに関し、「論点解説新・会社法(初版)」のQ398では、「業務の執行」とは、「会社の目的である具体的事業活動に関与すること」を意味する旨の記述があり、「職務の執行」については、具体例を掲げて説明されています。
ここの記述を読んでみても、私の悪い頭では、これら二つの仕事の線引きが難しいです。私の頭では、「職務の執行」とは、「会社法における取締役や監査役の個々の仕事を遂行すること」をいい、取締役については、会社の売上に絡む職務を執行すれば、「業務の執行」をしたことになり、監査役については、「業務の執行」は有り得ず、「職務の執行」だけをしたことになるのかな? と考えます。
なにか分かりやすい線引きみたいなところを教えて頂けませんでしょうか。
A6
判断が難しければ,総会の手続,役員等の選定,監査関係以外はみな業務執行だと思えばよいのではないでしょうか。

Q7
例えば、会社法施行前からある株式会社で、代表取締役以外の取締役や監査役で、実際には名前だけでなんらの仕事もしていない役員がいるケースがあると思います。このような名目上の役員に対し報酬等を支給している場合、その報酬等には、「職務執行の対価」としての性格がないように思います。だとすれば、このような報酬等の支給は、違法になるのでしょうか。
投稿 とっちー | 2006/10/05 10:56:17
A7
名目上の役員も,役員としての任務を負っており,その任務に対して対価が支払われています。その役員は,単に任務懈怠をしているだけであり,報酬の支給自体が違法になるわけではありません。

Q8
剰余金の配当がその効力を生ずる日」を定めるにあたり、その日を当該配当の決議を行う日の半年先で、翌事業年度となる日を定めることは可能でしょうか。
葉玉先生の「引退宣言」の日の質問コーナーでは、基準日から3ヶ月を超えるケースのお話がありましたが、基準日を定めずに配当決議を行う(非公開会社ではあり得る話だと思います)とすれば、効力発生日における財源規制の問題が生じるリスクはあるものの、翌事業年度に配当を支払う決議も可能だと思われますが、いかがでしょうか。
投稿 たろすけ | 2006/10/05 17:06:39
A8
 なかなか難しい問題です。基準日を定めた場合の「効力発生日」は,剰余金の配当請求権の発生日で,かつ,支払期日となると考えるのが一般的です。
 基準日を定めない場合には,効力発生日の株主に剰余金の配当請求権が発生するので,ご質問の方法では,目的が達成できないように思います。
 たろすけさんの問題意識を分析すると,基準日や効力発生日とは,別の「支払期日」を設けることができるかという問題なのでしょう。
 あまり議論されたことのない問題なので,断言できませんが,効力発生日=支払期日でなければ,461条1項の財源規制がうまく働かないところが気になるところです。

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2006年9月13日 (水)

財源規制違反の効力(補足)

財源規制違反の配当の効力について、商事法務で論文を書いたのですが、その後、2点ほど、この問題について質問を受けたので、今日は、有効説にたって、その質問にお答えしたいと思います。

疑問1 財源規制違反の配当を有効だとすると、違法な配当決議がされた場合に、株主が、違法な配当を請求することができることになるので、おかしい。

 有効説にたっても、株主は、違法配当を請求することはできません。財源規制に違反する配当は、461条1項に違反するので、株主の配当請求権の行使に対しては、分配可能額がないことが抗弁となります。有効説は、配当してしまったら、有効と評価すると言っているだけです
 会社法の解釈では、行為規範と評価規範という二つの面を区別して考える必要があります。
 行為規範というのは、これから行為を行う際に、どのような行為を行うべきかというルール、評価規範というのは、既に行われた行為について、その効力をどのように評価するかというルールのことです。
 たとえば、株主総会の特別決議なしで、株式の有利発行をやろうとするときに、行為規範としては、有利発行をすることは違法であり、株式発行の差し止めの対象となります。 しかし、一旦、株式が発行されてしまえば、その発行は有効と評価されます。これが、行為規範と評価規範の違いです。会社法は、法律関係の安定の見地から、行為規範と評価規範が別れる論点が多く、違法配当もその一つだと思うのです。

 つまり、配当前であれば、「財源規制違反の配当をすべきではない」という行為規範が働くので、取締役の違法行為差し止めの対象となるが、一旦、配当されてしまえば、これを有効と評価して、株主と業務執行者の責任により債権者を保護する。これが、有効説のアプローチです。

疑問2 財源規制違反の決議は、株主総会の決議無効の典型例なのに、有効説が、その決議を有効と考えているのは、おかしい。

 有効説は、必ずしも財源規制違反の配当をした株主総会の決議を有効だとする見解ではありません。疑問1で述べたとおり、配当が行われた場合には、財源規制に違反していても、その配当は有効となるという見解です。
 ただし、私は、無効説のように、単純に「株主総会決議は、内容が法令違反なので、無効」と考えているわけではありません。

 461条1項は、「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。」と規定しています。

 ポイントは、「その効力を生ずる日における」というところです。

 つまり、①株主総会の決議時の分配可能額を超えていなくても、配当の効力発生日の分配可能額を超えるのならば、配当はできないし、②株主総会の決議時の分配可能額を超えるような配当決議であっても、配当の効力発生日の分配可能額を超えないならば、配当してもよいのです。

無効説は、株主総会の決議が無効だから、それに基づく配当も無効であるという旧来の論理の延長線上にあるように思いますが、「利益配当は、年1回だけ」という旧商法では、それで対応できても、配当の回数が無制限になった会社法では、その考えでは対応できません。

 たとえば、6月1日の時点で分配可能額が1000万円の会社が、その日、株主総会で総額800万円の配当決議をし、効力発生日を7月1日にしたとしましょう(第一配当)。この決議は有効です。
 ところが、6月15日に株主総会を開催し、その日を効力発生日として500万円の配当決議をする(第二配当)とどうなるでしょうか。第二配当の効力発生日である6月15日の時点では、まだ第一配当がされていないので、分配可能額は1000万円であり、第二配当は、461条1項に違反しません。
 そして、第二配当で500万円を配当すると、その時点で分配可能額は500万円になるので、第一配当の効力発生日である7月1日の時点では、800万円の第一配当は、その日の分配可能額を超えてしまいます。
 この場合、無効説は、どのような論理で、第一配当の効力を説明するのでしょうか?
 
 逆の例も、あります。
 たとえば、6月1日の時点で分配可能額が1000万円の会社が、その日、株主総会で総額1200万円の配当決議をし、効力発生日を7月1日にしたとしましょう(無効説ですと、その決議は無効であると考えるでしょう)。
 しかし、6月15日に株主総会を開催し、その日を効力発生日として500万円の資本金の減少を行い、剰余金を増加させると(債権者保護手続きは終了しているものとします)、6月15日に分配可能額は1500万円になり、7月1日の1200万円の配当は、分配可能額の配当になります。

 このように財源規制違反の問題は、配当の効力発生日における分配可能額を基礎に論理を構成すべきでなのです。

 仮に、無効説が、財源規制違反の配当の効力を、株主総会決議の効力とダイレクトにリンクさせて考えているとすれば、会社法上、対応できない事例が出てくるものと思われます。
 これに対し、有効説は、株主総会の決議の有効・無効にかかわらず、配当の効力発生日における分配可能額を超えていたら配当できないという行為規範があることを前提に、その行為規範に違反して配当しても、その配当は有効と評価するという見解ですから、無効説のような問題は生じません。

 なお、財源規制違反の配当を内容とする株主総会の決議が、どんな場合でも無効とならないかというと、そうではありません。例えば、株主総会の決議の日を配当の効力発生日として、財源規制違反の配当をすれば、決議内容の法令違反で決議は、無効になるでしょう。決議の日と効力発生日が異なる場合でも、配当の効力発生日に配当額が分配可能額を超えることを避けることができないような決議であるならば、決議が無効とされることになるでしょう。ただし、その場合でも、配当してしまえば、その配当は有効と評価されることになりますが。

 以上のように、会社法では、剰余金の配当の回数制限を無くしたり、財源規制について配当と自己株式の取得とを統一的に規律することにしたために、様々な場面を想定した財源規制の在り方が検討され、現在の条文に結実しています。

 有効説は、こうした検討の結果を最も合理的な解決が得られるということで主張しているものなので、できれば、私が論文であげた事例や今日ブログであげた事例において、無効説だと、どのような結論を採るのかを知りたいところです。

(質問コーナー)
Q1
子会社による親会社(連結配当規制適用会社)株式の保有に関して、2006.8.3のQ11で回答されていましたが、この点に関する「千問の道標」等の解説をどう理解すべきかについて、いまだ疑問があるので、改めて質問させていただきます。
千問Q237では、「135条3項は、・・・親会社の株式を取得した子会社について、これを相当の時期に処分すべき・・・。」「当該親会社株式の市場価格等の諸事情を勘案して、・・・状況によっては、相当長期間保有することになる場合もあるものと考えられる。」と原則を解説したうえで、さらに、「連結配当規制適用会社については、・・・相当の時期についても、より柔軟な解釈が可能となる・・・。」とされています。(同趣旨のより詳細な解説として、商事法務1760号7頁、1767号45頁(共に相澤・郡谷)もあります。)
とすると、連結配当規制適用会社については、子会社による保有に伴う実質的な弊害がなく、かつ、経営判断として合理的な理由がある場合には、1年以内あるいは数年といった数値的な目安によることなく、相当期間保有し続けることも違法ではないと考えますが、いかがでしょうか
投稿 平蔵 | 2006/09/13 0:44:08
A1
そうですね。1年以内とかいう数値目標はないですね。1年以上保有し続けたから、即、違法となるということはありません。

Q2
子会社による親会社株式取得規制の例外として、会社法施行規則23条12号は、「親会社株式を発行している株式会社(連結配当規制適用会社に限る。)の他の子会社から当該親会社株式を譲り受ける場合」と規定していますが、ここでの「他の子会社」とは、連結子会社および持分法適用子会社に限られると解釈すべきでしょうか。あるいは、文言どおり、非連結の子会社も含まれていると解釈すべきでしょうか。
投稿 平蔵 | 2006/09/13 0:46:42
A2
うーん。23条12号は、連結配当規制が及んでいる場合には、子会社が、他の子会社が既に保有している親会社株式を取得しても、資本の空洞化が進むわけではないという趣旨によるものなので、非連結の子会社は、その趣旨からは逸脱してしまいますねえ。ちょっと調整マターですね。

Q3
書籍についてお聞きしたいのですが、会社の合併手続(手順)について書かれているお奨めの書籍などありましたら教えて頂けないでしょうか?
投稿 www | 2006/09/13 1:13:38
A3
実務本は、まだないように思いますが、郡谷さん達が書いた計算規則の詳解の組織再編のところは、一番、分かりやすいです。

Q4
 取締役会非設置会社についてです。
 会社法202条3項1号の「取締役の決定」とは取締役が複数いる場合は、「取締役の過半数の一致」という解釈でよろしいのでしょうか?
A4
 そうえす。

Q5
 債権者保護手続きについてです。
 例えば、会社法789条2項の官報の公告ですが、会社債権者が一人もいない場合は公告・債権者への個別催告は不要と考えてよろしいのでしょうか?特に個別催告については、債権者がいないわけですから、催告しようがないと思われます。
A5
公告は、不法行為債権者がいるかもしれめんから、必要です。
催告は知れている債権者がいないので、不要です。

Q6
相続人等に対する売渡し請求についてです。
会社法177条2項・5項で売渡し請求後20日以内に価格決定の申立てがない場合、請求の効力が失われるとのことですが、失効時点で、未だ176条の1年以内であった場合、再度請求可能でしょうか(既判力類似の効力があるのでしょうか)?
A6
再請求は可能でしょう。

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