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2008年9月19日 (金)

MBOと株式価格決定

同じビルに入居しているリーマンブラザースの件で、私も周りの弁護士も様々なご質問をいただいております。アメリカと日本の倒産手続が同時に進み、金融庁が資産の国内保有命令を出すなど、法律的にはいろいろ面白いのですが、ちょっとホットすぎて、ブログで書けません。

そこで、レックスホールディングの価格決定の申し立て事件の東京高裁決定について、少し検討します。

この価格決定の申し立てという制度は、全部取得条項付種類株式の取得が行われた場合に、株主は、株主総会で定められた対価を受け取ることができるのですが、jその価格に納得がいかない場合に、裁判所にその対価の価格を決めてもらう制度です。

非訟事件で、法律的には、「公正な価格」で決めろといっているだけですから、結局、裁判所が、気合いで、価格を決めることになります。
もちろん、気合いとはいうものの、裁判所としては、なんらかの理屈で価格を決定しないと格好がつかないので、今回の東京高裁決定も、いろいろな検討を加えています。

詳細に検討すればいろいろな論点がありますが、
1 非上場化した後に株式を取得した場合に、「市場価格」をベースに決定できるか
2 会社の公表により株価が下落した場合に、公表【前】の株価を算定の基礎にできるか
3 公表【後】の株価を算定の基礎にできるか
4 TOB公表後の株価を算定の基礎にできるか
5 何ヶ月の平均株価をとるか
6 強制取得されることによって株主が失う利益(将来の株価の値上がりの期待の利益)を「公正な価格」に織り込むか。
というあたりが主たる争点でしょう。

この点、東京高裁決定を、おおざっぱにまとめると、次のとおりです。
1 非上場化した後に株式を取得した場合でも「市場価格」をベースに決定できる。
【コメント】
 MBO後、数年たっていれば、別でしょうが、一連のプロセスでの価格決定の申し立てなので、市場価格ベースはやむをえないところでしょう。
 東京高裁は、レックス側が純資産価額方式、類似業種比準方式等を併用して算定している株価は採用できないものとしています。このあたりは、カネボウのときの記事を参考にしてください。
 http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_1797.html
 継続企業で、つい直前まで上場会社だった会社に、純資産価額方式はさすがに難しいでしょう。
 類似業種は、比較すべき上場会社が適切であれば、採用する余地があるのでしょうが、市場価格との乖離が大きすぎて、裁判所に対する説得力を持たなかったようです。
 DCFは、レックス側が政策的に使わなかったような感じですね(邪推です)。
 
2&3 業績の下方修正などの公表により株価が下落した場合に、公表【前】の株価も、公表【後】の株価も、ともに算定の基礎にできる。
【コメント】
 ここのところが最大のポイントです。東京高裁は、レックスの公表について、結構、微妙な判断をしています。
 つまり、
① 株価を下げる目的で公表したものではなかった(レックスに有利)
② 下方修正の原因は、資産の評価替え等が主であって、実質的な企業価値の毀損が生じたものではない(株主に有利)
③ それにもかかわらず、こういう公表の仕方をしたら、実態以上に市場は悲観的な対応を取る可能性が高いから、適切な公表の仕方とはいいがたい(株主に有利)
④ とはいえ、公表内容そのものは、実態を表したもので、虚偽ではない(レックスに有利)
という感じなのです。
 それで、結局、
  公表によって、市場価格は下落したが、実態として、企業価値の毀損があったわえけではないので、「公表前」の価格も算定の基礎にする。
 逆に、結果的に公表内容は真実なのであるし、ある程度の期間をとれば、公表後におきた過剰対応下落分についても平準化されるので、公表後の株価も算定の基礎にする
という結論に落ち着きました。
 このことを応用すると
   下方修正が、大事故で企業の資産が著しく毀損したというような企業価値の毀損を原因とするものであれば、それ以前の株価は算定の基礎にしない
 公表内容が虚偽だったら、公表後の株価は算定の基礎にしない
というルールも導けそうですが、そこらへんは、結局、裁判官の「気合」の入り方次第でしょう。

4 TOB公表後の株価は算定の基礎にできない。
【コメント】
 TOB価格に引きずられちゃうから、ということです。
 でも、MBOではなく、第三者のTOBだったら、算定の基礎にしてもよいかも。

5 6か月の平均株価をとる
【コメント】
日証協の基準や実例から、6ヶ月というのが一般的ということが理由です。
昔と違い、現在は、4半期報告の時代ですから、3ヶ月のほうが実態にあうようになるかもしれません。

6 強制取得されることによって株主が失う利益(将来の株価の値上がりの期待の利益)を「公正な価格」に織り込む。その分として、他のTOB事例などから、平均株価の20%のプレミアムを乗せる。
【コメント】
  ここは、難しいところです。
  株価は将来上がるかもしれないし、下がるかもしれない。
  株主は、強制取得されることにより、株価の値上がりへの期待を奪われるかわりに、株価の値下がりリスクからは開放されます。
 東京高裁も決定文に書いているとおり、こうした将来見込みは、デューデリしたり、事業計画を検証したりしなければ、合理性のある判断はできないと思います。
 ただ、東京高裁は、そうした判断をするための資料をレックスが提出しなかったことから、他のTOB事例の平均的なプレミアムである20%を「将来の値上がり期待分」として認めてあげました。
 ですから、20%という数字を一人歩きさせ、「6ヶ月平均の20%増しが判例の立場」と一般化するのは、間違いであり、ここの部分はケースバイケースの要素が強いでしょう。

以上、ざっと東京高裁の決定をみた感想まがいの解説でした。
では、また。

(質問コーナー)
Q 1
旧の司法試験を受けているものですが,このブログは大変勉強になります。
①100問
②判例百選・重判
③葉玉ブログ
を会社法学習の三種の神器と言っていいのではないかとさえ思っております。
ところで,このブログのコンセプトからして,会社法学習者(司法試験受験者を含む)からばりばりの実務家まで幅広く想定しておられ,最近の記事は,特に実務家を対象にされているものが多いように思います。
そこで,この辺りで,会社法学習者を対象にした,実務に出るまでにここまでは知っておいて欲しい,という事項を対象にした記事・Q&Aをまとめて書籍化される,というお考えはないのでしょうか?
司法試験受験生には100問が大変人気があると伺っており,同様のコンセプトでブログを書籍化した場合にも,それなりの読者がつくことが予想されます。
ぜひご検討お願いします。
投稿: picaro | 2008年9月11日 (木
A1
ご声援ありがとうございます。
企画はあるのですが、時間がないのが実情です。
会社法100問も在庫がなくなったので、第3版を出せといわれているのですが、やる暇がありません(会社法100問は、増刷予定もないです)。
花より男子を見ている場合ではないようです。

Q2
うちくる見逃してしまいました。放映前に告知して欲しかったです。
再放送無いんでしょうか?
投稿: 会社法漫遊 | 2008年9月12日 (金) 01時0
A2
再放送を見ていただくほどの活躍はしておりませんので・・

Q3
会社法13条に表見支配人、354条に表見代表取締役の規定が有ります。
13条は但し書きで悪意者を除き、354条は本文で善意者に限っています。
これは立証責任を転換したものなのでしょうか?
民法の表見規定に倣えば、民法110条のように本文で書いていれば善意の立証責任は代理人の相手方になり、但し書きなら本人に相手方悪意の立証責任があると記憶しています。
しかし、表見支配人と表見代表取締役の規定にあてはめると、より保護されるべき(私の勝手な価値観ですが・・・)表見代表取締役の相手方が善意を立証すべきことになり、なんだか腑に落ちないのです。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
投稿: 混迷 | 2008年9月12日 (金) 01時21分
A3
難しいところですね。支配人のほうが権限が狭いですし、支配人は登記事項ではあるものの、支配人の登記はめったにされませんから、名称付与を根拠に厚く保護してあげるほうがいいようにも思います。

Q4
ちょうど話題に出た株懇の株式取扱規程モデルについて質問させてください。モデルの第1条(目的)に「当会社における株主権行使の手続きその他株式に関する取扱いについては・・・」とあります。以前このブログを拝見したとき、「その他」は並列を意味し、「その他の」は例示を意味するというような記事を見ました。「株主権行使の手続き」は「株式に関する取扱い」の例示に当たると思いますので、規定の書きぶりとしては「当会社における株主権行使の手続その他の株式に関する取扱いについて」が適当ではないでしょうか?(どちらでも間違いではないのかもしれませんが、少しばかり気になったもので・・・)
投稿: ここりこ | 2008年9月12日 (金) 07時08分
A4
法制局的に突き詰めると、もっといろいろありますので、お手柔らかにということです。

Q5
無事、今年の新司法試験に合格しました。すごくほっとしています。
勉強法に迷ったとき、先生の教えを参考にして勉強してきました。ありがとうございます。
ご多忙の中恐縮ですが、就職について質問させて下さい。
私は、今のところ検事を第一志望として考えています。
その理由は、検察官の方の講義で、「検事は、被疑者と信頼関係を築くことが重要である」という話に感銘を受けたということ、もう一つは、真実を自分の足で追及していくという姿勢が自分の肌に合っているじゃないか、ということです。
逆に、心配事もあります。
それは、犯人から恨まれることが多いので、気軽に外出できないのではないか、ということです。特に家族に危害が加えられるのではないか、ということが心配です。
先生は、検事の仕事の醍醐味は何だと思われますか?また、逆に、検事であるとこによって、危険を感じたり、不自由を感じたりすることはありましたか?あと、私は気が強いというタイプではないのですが、検察官はやはり質実剛健な方が多いのでしょうか?

投稿: べんじ | 2008年9月13日 (土) 13時35分
A5
検事や家族に危害を加えても、他にいくらでも代わりがいるので、襲われません。
まったく心配いりません。

Q6
葉玉先生、「会社法で遊ぼ。」創設以来、いつも楽しく拝読させて頂いております。
当方、不合格の結果を受け、新司法試験を撤退することに致しました。
司法試験を励み続けること8年、あらゆる努力と我慢をして臨んだ今回の試験、今回こそはきっと合格してるはず、仮に今回の答案が試験委員の心に届かなかったら潔く辞めようと決心して掲示板を見に行きました。
番号は有りませんでした。何度も、何度も確認しても有りませんでした。
雨の降る日比谷公園で8年分、声を出して泣きました。27歳にして初めての悔し涙でした。
潔く撤退しようと思っていてもやはり心の何処かで割り切れない自分がいます。でももう終わり。
2日経った今、長い間支えてくれた家族、友人、恩師、こんな自分を信じてついてきてくれた恋人に心から感謝しています。
そして、直接お会いしたことは有りませんが、blogを通して会社法の世界をご教授して頂けたことを大変ありがたく思っております。
葉玉先生、ありがとうございました!
投稿: 甘酸っぱい27歳 | 2008年9月13日 (土) 15時28分
A6
私は、LECで2年半教えましたが、今の業務に直接役立つことはわずかです。
また、検事で刑事事件を8年くらい一生懸命やりましたが、弁護士の業務に直接役立つことはわずかです。
しかし、それらの仕事を懸命にやったことが、私の「自信」の源であり、今の私の基礎となっています。
あなたが、勉強した8年間は、司法試験合格という形では実を結ばなかったかもしれませんが、その経験を「無駄」にするのか、それとも、あなたが懸命に生きた証として、将来に生かすことができるのかは、これからのあなた次第です。
 
Q7
今回のQAに
>A10
ローで何をやろうと、新司法試験の選択で何を取ろうと、就職にはあまり関係ないと思います。
と、ありますが現ロースクール教授・大手事務所人事からの非常にありがたい見解と受け取りました。
これは即ち、ローでやる程度の専門分野の修得には何ら期待していないということでしょうか?
ローによっては「就職後」を見据えたカリキュラムを売りにしている所が多々あり、その中には葉玉先生の勤める渉外系も多くみられます。
私もこのような「売り」に反応し、そのような先取りを一つのメリットとして捉えていたのですが上記のようにおっしゃられると入学後の青写真を考え直さざるを得ないような気がしてきました。
具体的には、就活の際にその事務所の専門分野を履修した事をアピールするよりも、GPAをアピールすべきなのでしょうか?
即ち専門分野で高GPAが取るのが一番だとは思いますが、そのような科目で高GPAを取るのが難しいと言われている場合は他の当たり障りの無い、高GPAを狙える科目を履修した方がいいのでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿: ロー受験生 | 2008年9月13日 (土) 23時32分
A7
 ローで勉強する程度の時間をかけたくらいで、即戦力になると考えるほど楽観的な採用担当者はあまりいないのではないでしょうか。
 ただ、関心のあることを勉強するのは、悪いことではありません。
 また、GPAをあげることを第一に置くのも、戦術的にはありうるでしょう。

Q8
以前の記事で、「未習者を侮るなかれ」という記事について質問します。
チームを作らせて、チームが一丸となって勉強するように指導する。
というアドバイスがあったのですが、具体的には何人ぐらいのチームが理想とお考えでしょうか。
2人では少ないでしょうか。
ご回答よろしくお願いします。
投稿: 来年絶対受かってやる。 | 2008年9月15日 (月) 12時09分
A8
2人でもいいと思います。

Q9
こんばんは。「黒猫のつぶやき」というブログに、法科大学院と新司法試験について、とても衝撃的なことが書かれておりました。葉玉先生のご意見をお伺いしたく思います。
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/dfb76f05822a47bba1aca141ad6909b8
投稿: ルミハテ | 2008年9月16日 (火) 01時02分
A9
すいません、どこらへんが衝撃的か、よくわからないです。
ちなみに、私は、東大ローは、ローで入試対策をしていないのに、こんなに合格しているのはすごいという趣旨の発言はおかしいと思います。
東大ローは入学するときは、一番難しいので、合格率が一番であるのが当然なのに、ローは、ロー生の実力を伸ばしきれておらず、ロー生も勉強の方向を間違えているのではないか、と評価するのが正しいのではないでしょうか。

Q10
3連休に法と経済学の専門書を読んでいると、法制作者が考慮しなければならないのは国民一人ひとりの効用(物質的なもの、非物質的なものを含む)だけであり、公正や正義という基準を考えるべきではないとの主張がありました。
具体的には、金持ちだけがある法の施行によって効用が増えるのであっても、その法は施行されるべきだ。 効用の再分配は、法ではなくて税制度で調整するのが妥当である、と。
この筆者(ハーバード法科大学院教授Steven Shavell)の論理に従うと、格差問題も法律で解決するのではなくて、税制で解決するとなるのですが、葉玉先生はどうお考えでしょうか?。 また、法政策を担当していらっしゃった時には、何を基準に法律を作成していたのでしょうか?
投稿: まるまる | 2008年9月16日 (火) 11時57分
A10
その考え方は、非現実的で、誤りに満ちていますね。
法と経済学については、親近感を持つ部分もあるのですが、経済学によって経済政策の目的を達成できないのと同じように、法と経済学で法の目的を達成することはできません。
法は、ニーズと既得権益と信念と妥協の塊ですね。

Q11
現在、会社法のゼミに所属しており、
買収防衛策についての卒論を書こうとしているのですが、
葉玉先生がこういうことを調べてみると面白いんじゃないか??など
興味を持たれているテーマがあれば教えていただけないでしょうか??

難解すぎて理解できないかもしれませんが、お願いします。
投稿: ほいほほい2 | 2008年9月16日 (火) 18時22分
A11
ライツプランを無効化する買収方法なんか面白いのではないでしょうか。

Q12
ぜひぜひ台湾バージョンの「花より男子」ドラマをご覧下さい。
投稿: | 2008年9月16日 (火) 20時22分
A12
また時間がなくなりそうです。

Q13
取締役が他社の取締役になっても、その会社の代表取締役にならない限り競業避止義務にならないと本に書いてあるのですが、経営に参加する以上、競業避止義務になると思うのですが??
投稿: どうしても | 2008年9月17日 (水) 00時48分
A13
禁止されているのは、「取引」なのです。
代表取締役でも、実質的に「取引」をする場合には、規制は及びますが、就任および平取締役の通常の活動なら「取引」にはなりません。詳しくは会社法100問をみてください。
Q14
株式取扱規程についてですが、
今回の株式取扱規程については株主の権利行使手続に深く踏み込んでおり、株主に手続の内容を開示する必要があるとのご指摘がございましたが、
具体的にはどのような「開示」方法により株主へ開示するのがよいのでしょうか。また、その際には手続きの内容を概要として開示すべきなのか、もしくは規程全文を開示すべきなのか、についてもお考えをお聞かせいただければ幸いです。
投稿: 株取担当 | 2008年9月18日 (木) 12時31分
A14
会社の自治にゆだねられますが、私はクライアント様に両方の案を提示しています。

Q15
以前の質問にお答えいただき、ありがとうございました。
 会社法の条文解釈で質問です。お忙しい中、よろしくお願いします。
1、423条3項1号の「取締役」とは、356条1項2号の株式会社と取引をした「取締役」又は、同3号の株式会社と利益が相反する(債務を保証されたような)「取締役」でしょうか?
 もしそうであれば、後者の「取締役」が、株式会社に損害賠償する責任を負う理由は、保証人の求償権(民法)が会社法(特別法)では損害賠償に転化するから、と理解してよろしいでしょうか?
A15
3号の取締役は、「取引」はしていません。
Q16
2、423条3項2号の「取引をすること決定した取締役」とは、356条1項2号の取引を決定した株式会社側の取締役又は、同3号の取引を決定した株式会社側の取締役でしょうか?
A16
そうです。
3、会社法の条文でよく意味が分からない場合に使える、コンメンタールや択一六法のような条文解説の本で、初級・中級者向けにお勧めのがありましたら、教えていただけたら助かります。
A16
会社法100問の条文索引でも使ったらどうでしょうか

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2008年9月11日 (木)

株式取扱規則

 どうでもよいことですが、遅ればせながら、ここ1か月ほど、完全に
  「花より男子」
にはまっています。
 ブログがなかなか更新されないのも、半分は、そのせいです。

 ふとしたことから、コミックの第1巻を読み始めたところ、すぐに37巻全部読み切り、気付いたら、DVDの「花より男子」「花より男子2」を大人買いして一気に見てしまいました。
 特に、元演劇少年の私としては、牧野つくし役の井上真央さんの感情表現の豊かさに、思わず唸り、完全に引き込まれましたね。

 ちなみに「花より男子」は、このブログの読者の関心とは180度別の方向を向いているラブコメです。
 間違っても
  葉玉教授推薦! 法務担当者必見のドラマ!!
という誤解のもと購入しないでください。
 ただ、
   本日の新司法試験の合格発表で泣きたくなった人は、「花より男子」でも見て
   「私は、踏まれても踏まれても立ち上がる雑草のつくしよ。」
   とつぶやいてみる
というのもいいかもしれません。

 なお、私の今の悩みは、オヤジ一人で「花より男子F」を見に行く勇気がないことです。

 以上、本当にどうでもよい近況報告でした。

さて、本題の「株券電子化時代の株式取扱規程」についてお話ししましょう。
株懇が、来年1月5日に予定されている株券電子化に対応した株式取扱規程のモデルを公表しました。
http://www.kabukon.net/pic/18_1.pdf

「株式取扱規程(株式取扱規則)」というのは、法律上の概念ではないので、会社法の初心者にはなじみがないかも知れませんが、上場会社における株主対応においては、極めて重要な内部規則です。

たとえば、現行の株式取扱規程ならば、「株券の種類」や「株券の再発行の手続」等株式の取扱いに関する手続が規定されています。

こうした株式に関する取扱いは、株主の権利行使にも密接に関わっており、定款で直接規定を置くことも可能ですが、手続的技術的な事項であるため、通常は、定款で、取締役会に委任されています。

ところで、現行の株式取扱規程は
  「株券」の存在を前提に規定されている
ため、株券電子化によって、ほぼ全面的な改定が必要です。

したがって、上場会社は、どんなに遅くとも、今年の12月の取締役会で、株券電子化対応の株式取扱規程を決議しなければなりません。
そして、その準備のための大きな助けになるのが、株懇が作成した「株式取扱規程モデル」なのです。

今回の株式取扱規程は、発行会社と株主の関係のみならず、証券保管振替機構や証券会社等株式に関する事務に関わる者すべてと協調しながら、手続を整備しなければならないという難しいものです。
 そうした難しい調整を乗り越えて、株懇モデルを作成された株懇の皆様の努力には、心から敬意を表します。

私は、昔から株懇の方と懇意にさせていただいていることもあり、この株式取扱規程モデルができあがるプロセスで、いくつかコメントさせていただきましたが、非常によいモデルができあがり、本当にうれしい限りです。

ただし、上場会社の皆様に分かっていただきたいのは
  株懇モデルは、あくまでも「モデル」であって、上場会社のすべてが、このモデルをそのまま丸写しすればいいというものではない
ということです。

会社ごとに定款も違いますし、株主名簿管理人も違います。また、現行の株式取扱規程も会社ごとに特殊な規定を置いている場合もあります。

ですから、今回の株懇モデルをもとに、各社がカスタマイズして、自社に適した株式取扱規程を作りあげることが求められています(実際、会社によっては、株懇モデルの丸写しでは、実際に行われる手続が株式取扱規程違反になる場合もあります)

細かい注意点をあげれば、きりがありませんが、とりあえず、次の点に注意してください。

(1) 定款に、「届出印」など今回の株式取扱規程と矛盾する手続規定がある会社があるときは、定款変更をしなければならない
(2)定款の授権規定と、株式取扱規程モデル第1条の目的の表現が一致しない会社があるので、一致させる。株式取扱規程は、あくまでも定款の授権に基づくものであり、定款と整合性を保たなければならない。
(3)株主名簿管理人ごとに手続が異なる部分があるため、株主名簿管理人によっては、株懇モデルを修正しなければならない場合がある。
(4)情報提供請求や総株主通知の正当な理由など株懇モデルには触れられていないが、株式取扱規程で触れた方がよい事項がある
(5) 「通知場所」など機構が取りつがない届出について、手続を整備する必要がある。

その他、細かい点で実情に合わせたり、加えたりする必要がある部分がありますので、上場会社の皆さんは、株式取扱規定の検討は、なるべく早く着手された方がよいと思います。

また、現在は、各上場会社は
   株式取扱規程を公表していません
が、今回の株式取扱規程は
   株主の権利行使手続に深く踏み込んでいます
ので、すくなくとも、株主に手続の内容を開示する必要があると思います。
 開示を怠れば、株主提案権や株主名簿閲覧請求権の行使などにおいて手続を巡るトラブルが生ずる可能性がありますから、ある程度の周知期間をとるべきでしょう。

 このような周知期間を設けなければならないとすれば、できれば
  10月または11月の取締役会の決議
で対応した方が望ましく、検討にあてることができる時間は多くありません。

 なお、ここからは、私の仕事のコマーシャルですが、10月20日に金融財務研究会で
「新しい株式取扱規則の実務~株券電子化法の立案担当者による解説~」
というセミナーをやります。株懇モデルを逐条で開設し、注意点も指摘しますので、興味のある方は、ぜひご参加ください。
http://www.kinyu.co.jp/seminar.html

 また、TMIでは、各社の実情に応じて「株式取扱規程(TMIひな型)」を数種類作っていますので、早めに株式取扱規則の改訂に着手したいという方がいらっしゃれば、ご相談いただければ幸いです(すいませんが、有料です)。

 最後は商売に走ってしまいましたが、株式取扱規程は、発行会社と株主との間のお約束です。ミスってしまうと、株主権の行使に関し株主総会が紛糾することにもなりかねません。
 実情に沿わない株式取扱規程を制定することのないよう細心の注意を払ってください。


(質問コーナー)
Q1
前回のQ10に関して追加で質問させてください。ということは、役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて選任したならば、条件付きか期限付きかに限らず補欠の役員であると理解して良いですよね?また、期限付きで選任した役員にも会社法329条及び会社法施行規則96条の摘要があることから、期限付きで役員を選任する場合には 当該候補者が補欠の会社役員である旨等(会社法施行規則96条2項各号)の記載が議事録に表現されていることが必要ですよね?お忙しいところ大変恐縮ですが、以上につきご教授していただければ幸いです。
投稿: 登記職人見習中 | 2008年9月 3日 (水) 11時27分
A1
そうです。

Q2
どうしてもせざるを得ない行為がインサイダーの要件に引っ掛かることは当然ありうることだと思います。
刑罰や課徴金の名目だけでなく、必要な行為は認めた上でインサイダーに相当する利益を徴収するか、どこかにプールすればいいことのように思うのですが・・・。
投稿: 軽業 | 2008年9月 3日 (水) 16時31分
A2
プールというのは、法制的には難しいですね。

Q3
124条3項は、
基準日を定めたときは当該基準日及び基準日株主が
行使できる権利につき公告するべしと定め、
その但し書きにおいて、定款に定めをおいたときは
この限りでない旨定めてあります。

 しかし、特に譲渡制限会社においては公告の措置をとる程の
実益も乏しく思われ、また定款に基準日を確定して定めることも
便宜でないよう思います。
そこで、この公告に代え、通知する旨を定款におくことで良いと
考えますが、いかがでしょうか。
是非にかかわらず、趣旨理由を交えお教えいただけますと
非常に救われます。ご教授お願いいたします。
投稿: アイモイレインロウ | 2008年9月 3日 (水) 21時29分
A3
公告は、公告であり、通知ではありませんから、定款で公告に代えて通知とすることはできません。
法律上、公告または通知となっているときは、その規定は意味がありませんし、公告及び通知とされている場合には、株主名簿上の株主に限らず、失念株主等にも当該事項を知らせて、名義書換等を促す趣旨だからです。

Q4
事業年度中に資本金が5億円以上になった会社が、6月の定時総会終結の時から大会社となった場合の決算公告は、非大会社としての公告でよろしいでしょうか?
投稿: senchan | 2008年9月 4日 (木) 10時53分
A4
大会社として公告するのですから、損益計算書の公告が必要だと思います。

Q5
723条2項に自己社債というのが
出てきますが
自分が発行した社債を自分で持っている
ってどういう場面で生じるんでしょうか。
社債権者が会社に対する債務を
社債で支払った場合などでしょうか?
投稿: 三毛猫 | 2008年9月 5日 (金) 04時45分
A5
社債権者が、合併時に消滅会社が存続会社の社債を持っていた場合、自己の社債を買った場合や代位で取得した場合等です。

Q6
1、会社法609条1項「社員の持分を差し押さえた債権者は、」の「債権者」とは、会社・社員いずれの債権者のことでしょうか。
2、その「債権者」は、いつでも当該社員の持分を差し押さえる事ができるのでしょうか。それとも、当該社員が退社する際にのみ差し押さえる事ができるのでしょうか。
投稿: リビア山猫 | 2008年9月 5日 (金) 11時54分
A6
1 社員の持分を差し押さえられるのは、社員の債権者です。
2 退社前でも、差押えは可能です。

Q7
インサイダー取引規制については、上場会社の一担当者として(下っ端ですが)、意外と気を使わせられる部分が多いな、と普段から思っています。
とくに、最近煩雑だと思い始めた、自己株式の取得については、「証券会社に取得の指図をするときに他の重要事実(子会社解散、業績修正など)が会社で決定され公表前の状態であった場合にはインサイダー取引にあたる、だから、信託銀行と契約して、証券会社への取得の指示のタイミング等は一任する」ということを行うところが多いと聞きました。当社でもそのような形に移行せざるをえないとの認識ではいますが、わざわざ信託銀行を間にかませて余計な経費をかけてまで、というのが率直な感想ではあります。なにも会社自身が値上がり(下がり)益を追求するなんてことないでしょうし、普通は、上限数・上限価格を決めるものだと思うので、たとえば急激に買い付けて市場にインパクトをあたえたりといった形でなければ、事前に株主(市場参加者)の皆さんにお知らせして行ったことを「買い付けた期間中に重要事実があったからインサイダーだ」なんていう杓子定規なことはやめてほしいな、というのが本心です。
先生は、このような考えにどう思われるでしょうか?普段あまりかかわっていない話であれば、すみません。
投稿: ろぷろぷ | 2008年9月 5日 (金) 18時48分
A7
 気持ちはよく分かります。
 また、信託銀行をかませても、課徴金を課された例もあるので、信託方式が万能であるわけではありません。それが、また話を難しくしています。

Q8
TMIや四大法律事務所で働くには英語ができることが必須なのでしょうか?必須であるとしてどの程度の能力が要求されるのでしょうか?ご回答よろしくお願いします。
投稿: ほみしん | 2008年9月 6日 (土) 08時57分
A8
結果的に、英語の仕事をまったくしない弁護士もいると思いますが、何らかの形で英語が関わることが多いので、英語は必須でしょう。
ただ、英語の能力を重視して採用する場合もあれば、それ以外の能力を重視して採用する場合もあるので、「最低これだけ必要」というレベルはないでしょう。

Q9
ある種類の株式の内容として譲渡制限を設定する場合、この譲渡制限種類株式を対価として取得する取得請求権付種類株式の種類株主総会が必要です(111条2項2号)。
しかし、ある種類の株式の内容として取得条項を設定する場合、この取得条項付種類株式を対価として取得する取得請求権付種類株式の種類株主総会を要求した条文が見当たりません。 このように取得請求の対価を取得条項付株式にする例はあまり無いのかもしれませんが、会社法上は可能なことだと思います。

このような場合、取得条項付種類株式を対価とする取得請求権付種類株式の種類株主総会は必要ないのでしょうか?
322条で対応できそうな気もしますが、そうすると111条2項2号をわざわざ置いた理由が解らなくなります・・・?

また、もし322条か何かで種類株主総会が必要な場合、決議要件は種類株主全員の同意になるのでしょうか?
投稿: 会社法漫遊 | 2008年9月 6日 (土) 14時58分
A9
頻度とバランスの問題でしょうね。
いずれにせよ322条でカバーされ、その決議は、特別決議です。

Q10
私は渉外弁護士事務所で働きたいと考えているのですが、
そのためには、新司法試験でこの科目を選択したほうがよい、ということはありますでしょうか?
例えば、知的財産法や租税法を選択した方が有利だ、ということはあるのでしょうか。
あるいは、選択科目として選んでいなくとも、
ロースクールでこのような科目を履修しておいた方がよい、ということはあるのでしょうか。
租税法には興味をもっているのですが、なかなか習得が難しそうで、
しかも、マイナーな科目であるため、受験戦略的には好ましくなくて悩んでいます。
志の低い態度なのかもしれないですが…。
投稿: massa | 2008年9月 8日 (月) 06時19分
A10
ローで何をやろうと、新司法試験の選択で何を取ろうと、就職にはあまり関係ないと思います。

Q11
特定の株主からの自己株式取得議案(会社法156・160条)について教えて下さい。
旧法時代は旧商法210条で「・・・特定ノ者ヨリ買受クルトキハ其ノ者」と規定されていましたので、「特定の株主からの自己株式取得」の際には取得する「株主の氏名」を議案に記載していました。
会社法においては、会社法160条に「・・・第158条第1項の規定による通知を特定の株主に対して行う旨を定めることができる。」とありますので、
1. 
「特定の株主」の氏名まで具体的に記載する必要はなく、「特定の株主から取得する」旨の記載だけで宜しいのでしょうか?
2.
細かい話ですが、「・・・通知を特定の株主に対して行う旨・・・」とありますので、議案に記載すべきは「特定の株主(若しくは取得する株主の氏名?)から取得する旨」だけでなく、「特定の株主に対して『通知』を行う旨」も記載する必要があるのでしょうか?
投稿: EF | 2008年9月 8日 (月) 15時12分
A11
1 通常、氏名を記載する必要があると思います。
2 通知を行う旨定めるので、議案もそうなると思います。

Q12
株券の電子化に関してお聞きしたいことがあります。
ある上場会社の株券を占有して留置権を主張している場合、当該株券が電子化されてしまうと、当該株券の占有が失われる以上、留置権が消滅してしまうことは避けられないのでしょうか?
投稿: ES | 2008年9月 8日 (月) 19時20分
A12
商事留置権のことでしょうが、原則として、商事留置権は、株券電子化には対応していません。
もっとも、ケースによっては、別の手法で担保として利用することはできます。

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2008年9月 3日 (水)

インサイダー取引と課徴金の件数

 日本経済新聞の法務インサイドで、インサイダー取引の特集があり、その中で、私の持論である「自己株式の取得について適用除外をもっと広げてもらいたい」という趣旨のコメントを引用していただきました。

 以前、インサイダー取引について記事を書きましたが
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_4d10.html
そのころから状況が変化しているかというと、そんなに変化はありません。
 
 私の仕事のうち2割ぐらいは、インサイダー取引に関連するものであり、あいかわらず、インサイダー取引が経済活動に与える負荷は、相当なものがあります。

相談内容は
  「証券取引等監視委員会から強制調査を受けたが、どう対応するか」
というものもありますし、
  「この事実は、重要事実に該当するか」
とか
  「このスキームを実行しようとすると、インサイダー取引に該当するリスクがあるが、どうやったら回避できるか」
とか、インサイダー取引にならないようにするための予防法務的なご相談もあります。

 ただ、沢山のご相談があるにもかかわらず、少なくとも私のところに相談にこられる方は、誰一人として
  「インサイダー取引で儲けたい」
とか
  「儲けようとしてインサイダー取引をしてしまった」
という人はいません。
 相談のすべては
  普通の自己株式の取得
  普通のM&A
  普通のストックオプションの行使
という普通の経済活動をするときの話であり、そのほとんどが、
  インサイダー取引に形式的には該当しそうだが、実質的には、インサイダーによって利益を得たり、投資家に損害を与える可能性がないもの
なのです。

 検事時代は、「悪いインサイダー取引」しかみていなかったので、インサイダー取引が形式犯であることについては
  便利だなあ
と思っていましたが、弁護士になると
  網が広すぎて、まともな人の普通の行動がひっかかってしまう
という負の側面を敏感に感じるようになりました。

 最近の法制面の動きとしては
 1 金商法が改正され、課徴金が強化された
 2 規制改革の一環として、子会社の解散についての軽微基準が今年度または来年度に導入される動きがある。
という点があげられます。

 子会社の解散については、有名なコマツ事件があります。
 心ある法律家や企業関係者であれば、誰に聞いても
  「コマツさんが可哀想だ。」
と口にする、子会社の解散を重要事実とするインサイダー取引の課徴金事案です。

 それなりの上場会社であれば、子会社が何十何百とあり、なかには、活動実態がなくなった子会社もあります。ですから、子会社の解散など日常茶飯事といっても過言ではありません。
 コマツ事件が報道されるまでは、そうした幽霊子会社の解散が適時開示の対象であるということすら、意識されていなかったと思います。

 そうした「常識」の中で、コマツさんは、株価に影響を与える可能性がほぼ0である幽霊会社の解散を重要事実が発生したと言われ、それを知って、自己株式の取得をしたから、課徴金を払えと言われたのですから、普通の人は
  マジかよ。
  たまらんなあ。
と思ったわけです。

 こうした常識が、今回の規制改革で実現しそうなので、それはそれで喜ばしいわけですが、本来ならば、子会社の解散に軽微基準を設けなかったのは、明らかにポカであり、こんなのは、規制改革会議から言われる前に、さっさと軽微基準を設けた方が潔いと思います。

 また、子会社の解散だけが問題なのではありません。
 以前、私が、規制改革会議で提言したように
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_b76f.html
悪質ではない行為を類型的にインサイダー取引規制から除外することが重要なのです。

「課徴金勧告が2倍増 インサイダーなど監視委07年度31件」
 http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200808290070a.nwc
という記事にもあるとおり、証券取引等監視委員会による課徴金調査は、活発化しています。
 それ自体は、公正な市場の実現のために価値のあることだとは思いますが、「事件数」が重要なのではなく、
「課徴金を課すべき事案について課徴金を課し、そうでない事案については課徴金を課さない」
という実質が重要なのです。

 検察庁も、証券取引等監視委員会も、行政機関であるため、「事件数」が、予算、ひいては、人員配置にも大きな影響を与えます。
 そのため、一定の「事件数」をこなすことが組織の存続のために必要不可欠なことは理解しています。

 しかし、
 「やるべき事件が多数あるから、組織を大きくする」
という判断は正しいけれど
 「組織が大きくなったから、一定以上の事件数をこなさなければならない」
 「組織を大きくするために、事件数を増やす」
というのは間違いです。

 私も検事だったので、現場レベルでは
  こんなに調査したのに、事件にしないのはもったいない
とか
  人並みの数は、立件したい
という気持ちがあることは分かりますが、それを大所高所からコントロールすることのが組織の役目です。

 コマツ事件が、子会社の解散の軽微基準設定の動きにつながったように、実質を伴わない形式犯に対する罰則の適用は、規制対象の縮小のための法令改正に直結し、場合によっては、規制対象を縮小しすぎて
  やるべき事件についてやれない
という事態すら引き起こす可能性もあります。

 インサイダー取引に限りませんが、規制当局が
  やるべき事件をやり、やるべきでない事件はやらない
という常識を働かせることが、規制当局にとっても、規制される方にとってもハッピーなのだと思います。

(質問コーナー)
Q1
いつも楽しく拝見しています。株券電子化に関し、定款のみなし変更についての質問です。商事法務掲載の「株券の電子化に向けた実務対応」に、施行日後の定款の閲覧等の開示にあたり以下のようにお書きになっていたと存じます。

Quote

(なお、「株券を発行する旨」については、決済合理化法により、廃止の決議があったものとみなされるため、開示においても、該当条文を削除して開示すべきである。)

Unquote

決済合理化法の附則6条1項を探し出し(と言っても法令データ提供システムにも有斐閣の2冊組にも無かったので、金融庁HPで法律案を見ました)ところ、以下のとおりでした。

Quote

保管振替株券に係る株式について施行日において株券を発行しない旨の定款の定めを設けていない発行者は、当該株式につき施行日を効力発生日とする株券を発行しない旨の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなす。

Unquote

法文を読み、現在一般的な定款にある「株券を発行する」旨の記載が、「株券を発行しない」旨の記載に置き換わるものかと考えましたが、そうではなく該当条文を削除するというのはどうしてでしょうか?
投稿 悩める若葉マーク担当者 | 2008年8月25日 (月) 13時14分
A1
決済合理化法は、会社法の整備法によって改正され、最新の決済合理化法では、株券を発行する旨の定めを廃止することとなっています。

Q2
前回のQ2以下の質問とお答えを頂いた者です。
>Q3
百問p273の6によれば、「非取締役設置会社になることにより、混乱を回避することができる」と書かれていますが、たとえばもし出題の設定が公開会社の場合、取締役会は設置義務ですから、当該会社が公開会社でありつづけたい場合、あてはまらない理由付けではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

また、そもそも、先生は、p270で定款変更を行えば、取締役会を廃止することができると述べられていますが、やはり公開会社等では、取締役会は設置義務ですから、汎用性のない理由付けかと思うのですがいかがでしょうか。

もし、私の疑問が適切な場合、公開会社において、選任解職権を株主総会に委譲し、かつ、取締役会に選任等の権限を残した場合における、他の許容性的な理由付けはございませんでしょうか?

新司法試験では公開会社又は取締役会設置会社(の形態を維持したいと当事者は思っている)のケースが出題されるかと思うので、先生の理屈付けは試験との関係ではリスキーでしょうか?

なるべく、条文に忠実な先生の解釈を自説にしていきたいので、ご教示お願いいたします。
A3
だっちさんは、「理由付け」についての考え方を変えた方がよさそうです。
ちょっと問題意識にずれがあります。

申し訳ありません。、「理由付け」についての考え方を変えた方がよいというのは、先生の考え方はどうなのでしょうか?私の考える理由付けとは、具体的なケースで事案解決につながる理屈だと思っております。先生の理由付け具体的事案を前提としない、教科書的な説明としてのものであれば、理解も共感もできます。しかし、公開会社等の取締役会設置義務があるという具体的ケースではあてはまらず、そのような場合には、どのように処理すればよいのでしょうか?
長々と質問してしまい申し訳ございません。よろしくお願い致します。
投稿 だっち | 2008年8月26日 (火) 00時20分

A2
法律が「Aということをやる場合にはXが必要、Bということをやる場合にはYが必要」という考え方を採っているときに、「Aということをやりたいけど、Xはやりたくない」ということについての理由付けというのは、存在しません。

Q3
 以前質問させていただいた旧試験の受験生です。
 自分が質問していない場合でも、他の人の質問の答えなどを勉強の参考にさせていただいております。
 上の質問コーナーのQ9を見て、聴きたいことができたので、質問させてください。

>24点くらいなら、実践的なノートができていないのだと思います。

 「実践的なノート」とはどういうものを想定されているのでしょうか?
 もしよろしければ、具体的に御聞かせ願い得ないでしょうか?
投稿 旧司法試験の受験生 | 2008年8月26日 (火) 03時13分
A3
 実践的なノートとは、次のようなノートです。
1 1科目2ー3時間で見渡せる。
2 自分の身体にしみこんでいる知識については書かれていない。
3 自分の身体にしみこんでいない知識については、1目見るだけで、文章が浮かんでくる。
4 問題を解くのに必要な形で、知識の整理がされている。
5 他人の考えたことの丸写しではなく、自分の思考方法に則して、知識が整理されている。

Q4
業務執行取締役に関する質問につきまして、いろいろご教示頂きありがとうございます。
多分最後の質問になると思う(と自らに期待している)のですが、使用人兼務取締役と業務担当取締役については、
○重要な使用人の選任の決定は取締役会を行う
○業務担当取締役は取締役会がその決議によって選定する
ということでいずれも、取締役会が選任(の決定)・選定するわけですが、
①当社では人事部長は通常、取締役が兼務せず、使用人である
②このたび初めて人事部長に取締役が就任することとなった
③それを含め、部長全員の選任の決議を、取締役会で行った(当社では通常、部長以上の人事発令は取締役会で決議する)
というとき、その取締役は使用人兼務取締役なのでしょうか、それとも(人事部長という業務を担当する)業務担当取締役なのでしょうか?
私は多分、取締役会で決議する以上、一律に業務担当取締役かなと思うのですが、例えば以下のような発令の名称等で相違があるのでしょうか?
a.取締役兼人事部長
b.取締役人事部長
c.取締役人事部長担当
あるいは取締役会の意思によって決まるのでしょうか?(そうすると、あまり実益はないかもしれませんが、決議の際に、どちらであるのか明確にしておくべきなのでしょうか?)
投稿 | 2008年8月26日 (火) 08時12分
A4
取締役会の意思によって決まります。
取締役の他に使用人としての地位を併有させるかどうかを決めてください(または、決議の趣旨から読み取ってください)。通常、使用人でなくなるとすれば、使用人としての退職金の問題が生ずるので、意識されているのではないでしょうか。

Q5
計算書類が監査資格のない監査役によって監査された場合、計算書類の確定はなされないと思うのですが、その場合、それに基づいてなされた剰余金配当決議というのは、当然に取消の対象となるのでしょうか?
もしなるとしたら、その場合の論理構成はどうなるのでしょうか?
投稿 まっくろくろすけ | 2008年8月26日 (火) 10時31分
A5
計算書類の確定の問題と配当決議の効力は別次元の問題です。
平成20年3月期の計算書類が確定していない場合、平成19年3月期が最終事業年度となり、それをベースに分配可能額が計算されるだけです。

Q6
先日の「株券電子化セミナー」に参加しました。
何度となく先生の「電子化セミナー」を聞いているのですが、少し疑問に思ったことがあります。

1.
「同意期限日までに特定振替機関に対し、保管振替株券に係る株式につき新振替法第十三条第一項の同意を与えた発行者は、同意期限日までに、次に掲げる事項を公告しなければならない。 」
という決済合理化法附則8条に基づき、「同意」→「公告」の準備をしているのですが、そもそも、まだ施行されていない法律の第十三条に基づいて同意や公告ってできるのでしょうか?
付則で「同意期限日までに・・・」とあることから、この附則に基づいて、施行されていなくても第十三条の同意ができるってことでしょうか・・・?
既に2社ほど電子公告で行っているようではあるのですが、、、。

2.
先般のセミナーで「投資法人は手続きが少し違うんですよ・・・」というような事を仰ってたと思います。
色々違うところはあると思うのですが、例えば「株式会社は一ヶ月前までに公告しなければならない」ところ、投資法人は「公告」と『通知』もしなければならないといったことだと思うのですが、この『通知』の根拠条文って何処にあるのでしょう?
見落としてしまったのかもしれませんが、施行されていない「新社振法」に基づくことはないと思うので、決済合理下法の附則に書いてあるとおもうのですが・・・。
投稿 CD | 2008年8月28日 (木) 16時12分
A6
1 もちろん、できます。条文は、それを前提に組み立てられています。
2 附則15条が適用される限りにおいては、新振替法が適用されます。

Q7
>A2
>お気持ちは非常によく分かるのですが、なかなか難しいところです。
>「今の時点では呼べないが、定員が足りなければ呼びたい人」をどうするかということです。
>「駄目でした」と言えば、もう呼べませんし、かといって、「来てください」とも言えないし。どうするのが一番良いのか、よく考えます。

新卒採用業務にかかわった経験がある社会人であれば、上記のような悩みは誰しもかかえますが、必ず期限を決めて応募者に返答をしています。それは、応募者と採用者が互いに同等の立場にたつ当然の社会のマナーとしてです。
よく弁護士業界は、一般社会と違う村社会と揶揄されますが、かりに採用候補者に返答期限を告げに、待たせるだけなら、かなり非常識だと言えます。
すなわち、採ってやるというエゴの現れであり、10年以上昔の採用現場のようです。いまだに、こんな採用していること自体、応募者が可愛そうです。
躊躇無く、即刻、返送すべきです。
投稿 通りすがり | 2008年8月28日 (木) 18時50分

横から質問して大変恐縮ですが、「必ず期限を決めて応募者に返答」とは、いわゆる「大企業の新卒採用」の際のマナーではないでしょうか?企業であっても、中途採用の際の対応や中小企業の新卒採用の対応は異なるのではないかと思います。法律事務所には大手といえども大企業のような人事部はなく、大企業の新卒定期採用同様の処理をする余力はないでしょうから、通常の企業でいえば中途採用同様の扱いであったとしてもやむを得ないのでは?
投稿 通りすがりさんへ | 2008年8月29日 (金) 14時27分
A7
 通りすがりさんが、おっしゃることも理解できますので、悩みが深いのですが、弁護士は、一人一人が事業者であり、弁護士の「就職」は、通常の「就職」とは違う点があることもご理解いただければ幸いです。弁護士は、スタッフとは勤務形態も報酬体系も異なります。アソシエイトは、共同事業者ではありませんが、仲間の弁護士であり、形式的にも実質的にも、パートナーが「指揮」権をもっているわけではありません。
 また、「通りすがりさんへ」さんがおっしゃる側面もあります。

Q8
いつも大変勉強させて頂いています、葉玉先生ファンの一受験生です。
今年の3月にロースクールを修了し、5月の試験を受けましたが、あと一歩、短答の点数が届かず、不合格になりました。純粋未修で、3年間自分のやるべき事が見えないまま試験に突入してしまった結果の玉砕でした。体調を壊していたため、この3ヶ月、まともな勉強をしていないのですが、ようやく本格的に再開し始めたところです。
そこで、また新たな悩みが生じました。
この間、色々とアクシデントが重なり、出費もかさんだため、軍資金の底が見えはじめてしまいましたので、週2~3日(6時間/日)程度のアルバイトをしようか悩んでいます。このまま切り詰めれば、来年の試験まではなんとか持ちますが、精神的にははやり不安を感じてしまいます。一方で、勉強が進むにつれて時間不足も感じていて・・・。
ここは思い切って、あと9月弱勉強に徹するべきでしょうか。
個人的な質問ですみません。葉玉先生のご意見を伺えれば幸いです。
投稿 修了生 | 2008年8月29日 (金) 17時20分
A8
 私は、受験時代、1日4時間、週5日、塾の先生や家庭教師のアルバイトをしてました。
 屋外での肉体労働で6時間だと、疲れにより、勉強ができないかもしれませんが、適度のバイトは、1日のメリハリがついて勉強の集中力があがります。
 
Q9
 新会社法100問〔第2版〕のP243の「株式の時価の引き下げ」のところで、
「株式の時価が高騰すると、市場における株式の流通性が低くなるため、株式一株当たりの適正な価値として本来付されるべき価値よりも低い価額で市場価値が形成されることにより資金調達コストが高くなる」とあるのですが…
「資金調達コストが高くなる」という点がよく理解できません。
なぜ、時価が高騰しているのに、適正価値よりも低い価額となるのでしょう。
「ガッ」とあがったら、「ガッ」と下がるということでしょうか??
でもそれなら、時価を引き下げる必要ないですよね??
まったく理解できていません。お手数ですが宜しくお願いします。
あともう一点、TMIの弁護士の方々は、ほぼ全員(??)使用言語が日本語、英語とあるのですが、実際にはどの程度の英語力があるのでしょう??
皆バイリンガルというかんじですか??
投稿 ほいほほい | 2008年8月30日 (土) 20時56分
A9
 1株1000万円の株式を100分割したところ、流通性が増して人気が出て、1株12万円、100株で1200万円になったとします。
 分割前だと1株の新株発行で1000万円しか調達できませんでしたが、分割後なら、それまでの1株に相当する100株で1200万円調達することができます。

 なお、TMIの弁護士は英語に堪能な方が多いですが、もちろん、能力には差があります。私も、案件で英語の文章を読みこなさなければならないこともあるし、英語だけの会議にも出ていますが、子供の頃から外国暮らしの人や、2年間留学して帰ってきた人ほどは喋れません。
 
Q10
補欠役員の定義について質問させてください。江頭会社法(P359)及び千問Q420によると補欠役員の選任は条件付の選任であると判断できます。それでは、期限付きで選任された役員を補欠役員と呼ぶことは出来ないのでしょうか?
例えば、監査役Aさんが平成○年9月30日をもって監査役を辞任により退任するので、補欠監査役として平成○年10月1日付でBさんを選任したい旨、という議案のなかで「補欠監査役」という言葉を使うことは可能でしょうか?補欠役員を条件付で選任されたものに限るならば上記議案での用語の使い方には疑問をはさまざるを得ませんよね?お忙しいところ大変恐縮ですがご教授願います。
投稿 登記職人見習中 | 2008年9月 1日 (月) 19時29分
A10
そういう人も「補欠監査役」です。

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