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2008年7月27日 (日)

株券電子化と担保

 証券会社の株券電子化への対応が遅れているという新聞記事を見ました。
  http://mainichi.jp/select/biz/news/20080708k0000m020106000c.html?inb=yt

 もう、ずいぶん前から、株券電子化の施行日は来年1月5日ということを念頭に、証券保管振替機構、証券会社、発行会社、株主名簿管理人等多数の関係者がスケジュールを組んでいるにもかかわらず、その記事によれば

『証券業界では「無理してスケジュール通りにやる必要はない」と、早くも実施日の先送りを求める声も出ている。』

ということらしいです。

 しかし、今さら「先送り」等と言っている証券会社は
  試験日が決まっているのに、勉強をしてこなかった受験生
と同じであり、いくら「先送り」を求めても、採点者(金融庁)から
  不合格(行政処分)
にされるだけで、施行日が先送りになることなどないと思います。
 すでに、1月5日を前提に定款変更をした発行会社などもありますから、4年前から分かっている株券電子化に対応してこなかった会社のために施行日を先送りすれば、かえって大変な混乱が生じるのではないでしょうか。

 私は、いくつかの証券会社の株券電子化対応の仕事をやっていますが、システムの問題を含め、今の時点で先延ばしを求めなければならないほど大変なことは何もありません。
 これから真面目に一生懸命取り組めば、何の問題もなく、来年1月5日に間に合います
から、遅れている証券会社さんは、一刻も早く着手してください。
 (唯一、代用有価証券の取扱いについては、すべての証券会社が問題意識をもって、金融庁と折衝しないと大変なことになると思いますから、日本証券業協会さんにがんばって欲しいところです。)

 他方、私が、株券電子化の仕事で、もっとも危機感をもっているのが
   株券の担保
です。
 株券電子化の対応の中で、これだけは
    担保権者が、何千万円、何億円もの実害を被る可能性があり
しかも
    自社の担保には何の問題もないと誤信している担保権者が多い
ので、本日は、株券の担保について注意喚起をしたいと思います。

 さて、銀行等の金融機関や大手の事業会社の多くは、債権担保のために、融資先や取引先から上場株券の差入れを受けいれています。そのうち100%近くが略式質か、略式譲渡担保です。

 この略式質・略式譲渡担保について、何もせずに放っておくと、来年1月5日に、当該担保権は第三者対抗要件を失い、さらに、担保権自体消滅するリスクがありますから、電子化前に、株券を預託した上で、保振法上の質権・譲渡担保権にするなど担保権の保全をはからなければならないのです。

 私は、昨年から、セミナーがある度にずっと
  「担保が危ないし、手間もかかるから、早めに検討を始めてください」
と言い続けてきましたし、TMIで一緒に働いている高山先生や荻野先生と一緒に、株券電子化に対応した
   担保差入書のひな型(通称TMIひな型)
を作成して、セミナーの度ごとに配布して
   電子化前も、電子化後も使える最も安全で便利な担保提供証書
という触れ込みで、普及に務めてきました(ちょっと威張らせていただきますと、おそらく、現在、日本全国の金融機関・事業会社で作成されている新しい担保提供証書のほとんどは、TMIひな型をベースにしたものだと思います)。

 そのため、新たに担保権を設定する場合には、そのひな型をベースにしていただければ、あまり問題はないと思っているのですが
   既存の担保を株券電子化に対応させること
は、単に担保差入書の差し替えだけに止まりません。
 株券担保の取り方には、様々なパターンがあるため、預託時に工夫しなければ、適切に保全できない場合があるのです。

 たとえば、
  (1) 設定者と、株券の名義人が異なっている
  (2) 設定者が死んで相続人が沢山いる
  (3) 設定者について倒産手続が進行中である
  (4) 親会社と子会社の両社に宛てて、担保が差し入れられている
  (5) 子会社の債務を担保しているのに、親会社宛に担保が差し入れられている
  (6) 信用金庫や信用組合が流質特約付きの質権を設定している。
などの事情がある場合には、対応を誤れば、せっかく確保している担保が無効になったり、担保の実行ができないおそれがあります。

 なぜ株券の電子化によって、こうした問題が顕在化するかというと
① 従来は、「株券を占有していれば、なんとかなる」という発想から、約定、株券の名義、差入先、権利の性質等について、あまり綿密なチェックがされていなかったが、株券を預託する場合には、それらを明確にせざるをえなくなった。
② 株券は、共同占有や代理占有を観念できるが、株券を預託する場合には、共同名義の口座を開設したりすることが難しく、また、代理占有を観念するのも難しい
③ 実務家は、親会社と完全子会社を一体的に把握しているため、債権者と担保権者が一致しなければならないという民法の原則を忘れがちになる
というようなところに原因があるように思います。

 世の中には、1件、数千万円以上の株券担保を取っている例は多く、株券担保が債権保全の要になっているにもかかわらず、
  担保権者の知識不足から、間違った電子化への対応をしている例
が、結構あります。
 実際、株券担保管理サービスを提供している証券会社の営業マンも、担保のプロではないので、イレギュラーな担保の取り方をしているにもかかわらず、あまり問題意識を持たないまま、間違った受け入れ方をしたような場合もあります。

 ケアレスミスで担保が無効になると大変なので、ぜひ、今のうちに、次の事項をチェックしてください。そのうち、1つでもNoがあれば、通常とは異なる対応をしなければならないので、一刻も早く、検討した方がよいと思います。。

① 債務者=担保提供者=株券の名義人か?
② 債務者、担保提供者、株券の名義人は、生きているか?
③ 債務者は、担保提供者は、支払不能等ではないか?
④ 株券は、新株券か(併合前、商号変更前、合併前等の株券ではないか)?
⑤ 債権者=担保権者となっているか。
⑥ 担保権者は、単独か?

(質問コーナー)
Q1
>私の記憶に間違いがなければ
>アメリカでは、株主の承諾がなければ
>他の株主に氏名・住所を知られることはありません。
もちろん、知った上で返答してますよ。それにしても、あまりにも杓子定規な答えだったので、もう一度だけ言わせてもらいます。
こちらが言いたいのは、法律のあるなし論じゃないんです。機能するのか、しないのかだけです。
ポイズンピルにしても、アメリカでは6割の企業が導入しているにもかかわらず
この20年でほとんど発動されてこなかったものが日本では、いきなり最悪の形で発動されましたし、北越や王子といった、産業構造の変化に必要な買収でも条件闘争に到ることすらありません。
残念ながら、その先進的な株主閲覧権の権利も日本では、マイナスに働く可能性が高い。

日本の半法人資本主義と、アメリカの株主資本主義では経営者と株主の意識が、メジャーリーグと少年野球ほど違い同じ制度でも、まったく変質してしまっているという感覚は持ちませんか?残念ながら、最初に言ったとおり、経営者御用達弁護士という評価は変わりませんでした。
投稿 カール | 2008年7月20日 (日) 18時34分
A1
 会社法制にしても、実際の会社の運営にしても、どこでバランスを取るかという政策論に過ぎず、「最悪」とか、「先進的」とかいう話は、あるサイドに立つ人の一方的な見方に過ぎません。その意味で、私は、「アメリカ=優、日本=劣」という図式を持ち出すのは間違っていると思います。単にバランスの取り方が違うだけなのです。
 どのような会社法制、会社経営が、「国民全体を幸せにするか」という発想でアプローチすると、カールさんの見え方も少し変化するかもしれませんね。

Q2
「会社法マスター115講座」について質問です。
237ページ7行目、812条となっていますが、812条は新設分割の規定なのでもしかして792条の誤りなのではないかと思うのですが、この理解で正しいですか?
よろしくお願いいたします。
投稿 | 2008年7月21日 (月) 18時31分
A2
誤植問題は、以前、会社法100問のときに大問題になったので、即答しないことにしています。
とりあえず、会社法マスター115口座の公式訂正ページを載せておきます。
http://www.lotus21.co.jp/works/Book/book_new.html#01

Q3
葉玉先生の意見に納得するには、資本原則について一応納得して、確定原則が今回の会社法では不採用になった意味を知っていないと、ムズカシイかもしれません。
なんといっても、会計原則は、特に株式会社の会計処理基準は、資本原則と齟齬を生じないように導出されています。
そして、各国で、「再生産の原資」について、いろんな考え方や感じ方がありますし、しかも、企業を取り巻く環境の次第によって、「再生産の原資」は多様に変化するのですし。
ココで、質問があります。
旧充実原則を、「引受人の財産の一部が、現実に会社に拠出されて、資本金の額に相当する株金総額を充填しなければならないとする原則」と、表現することが出来ますか?
投稿 至誠丸 | 2008年7月22日 (火) 09時10分
A3
 「旧」充実原則を、どこまで遡って考えるかによって、表現が変わります。
 会社法直前の旧商法を前提にお答えすると、「株金総額」というのは、額面総額のことですので、その点で、その表現は適切ではありません。
 「株金総額」を「金額」にすれば、間違いではない感じです。

Q4
 合資会社で既存の社員が、無限A・有限B
  Aが死亡し、その相続人がBおよびC
  このとき、社員の持分をBおよびCで承継可能でしょうか?
  できないとすると、相続財産全体でどのような処理になるでしょう?
  すでに、Bが有限で存在するものが、さらに無限責任社員の持分を承継すると、地位が重複してどうなっているのかよくわかりません。
  608条2項の(社員以外の者に限る)読み方と関係するでしょうか。この規定の意味もわかりません。
A4
 無限責任者Aが死亡すれば、Aは退社します。
 そうすると、BおよびCは、退社に伴う持分の払戻請求権を相続します。
 BおよびCが持分を承継するためには、608条1項の定款の定めが必要です。 
 当該定めがある場合、無限責任社員の地位を承継するのですから、Bも無限責任社員となると考えます。
 608条2項は、604条2項8社員の加入時期を定款の変更時としている)の例外を定めるための規定なので、すでに社員であるものが承継した場合を除いているだけです。

Q5
 合資会社で既存の社員が、無限A・有限B
  Bが死亡。その相続人たるCおよびDが遺産分割をし、Cのみが社員の持分を承継可能でしょうか?
  また、もし、Bが出資の一部未履行であった場合も遺産分割をし、Cのみが社員の持分を承継可能でしょうか?
投稿 たかだ | 2008年7月23日 (水) 08時18分
A5
 608条1項の定めがあれば、可能でしょう。
 また、一部未履行分は、Cのみが債務を負うと考えるべきでしょう。

Q6
会社法469条1項但書では、事業譲渡(事業の全部譲渡)における反対株主の株式買取請求を制限しております。
事業譲渡と似ている会社分割について、469条1項但書と同じような規定がないのはなぜでしょうか?
また、
分割会社において、会社分割と同時に解散を決議した場合、分割会社の反対株主は買取請求権を行使できないのですか?
投稿 ご質問 | 2008年7月23日 (水) 17時20分
A6
会社分割+解散だと、もろに合併みたいですね。
平仄の取り忘れでしょうか?理由はよく分かりません。

Q7
葉玉先生、こんにちは
現在、私は伊藤塾の本科コースに在籍しています。
現在、基礎知識取得段階としてテキストの読み込みを何度も行っています。

ここで質問ですが、今後は知識の更なる定着を目指し、問題演習に取り組もうと思います。
各予備校から問題集が出版されていますが、伊藤塾に在籍しているのであれば、LECや早稲田から出版されている問題集は避けたほうが良いですか?
投稿 こんちゃん | 2008年7月23日 (水) 23時21分
A7
 何でもOKです。どんどん使いましょう。

Q8
会社法2条9号の後段の定義「この法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいう」には、会計監査限定監査役(小監査役)は含まれるのでしょうか、含まれないのでしょうか。
A8
「小監査役を置かなければならない」という規定はないので、質問の意味がよく分かりません。
 たしか、ずっと以前に同じ質問があったような気がします。

Q9
取締役会の決議の省略(会社法370条)に関して、この条文の中の監査役には、会計監査限定監査役は含まれるのでしょうか、含まれないのでしょうか。
A9
 問題提起の仕方がやや不正確です。
 会計監査限定監査役のいる会社は、監査役設置会社ではないの、カッコ書きの適用がありません。

Q10
先日、旧司法試験の論文試験を受験してきましたが模試をあまり受けていないせいかどうも規範定立から当てはめというのがいまいちうまくいきません。
たとえば刑訴などでは、「罪証隠滅の恐れがあることなどから合理的な理由があれば必要な処分(111条)として許される」などとあっさり書いてしまいがちです。このようはものはやはり規範定立としては不十分なのでしょうか?
また仕事が忙しくて試験勉強をする暇があまりなく、予備校などにも直接通えないものとしてはこれからどのような勉強をしていけばよいでしょうか。
投稿 とむ | 2008年7月24日 (木) 11時18分
A10
 よく書けている答案を読み、自分で沢山論文を書くしか道はありません。

Q11
業務担当取締役というのは363条1項2号の取締役、という理解で正しいでしょうか?
A11
そのとおりです。

Q12
使用人兼務取締役に業務執行権があるというその根拠となる条文はどれになるのでしょうか?(使用人兼務取締役も363条1項2号の取締役?)
A12
使用人なので、代表取締役の手足として、業務執行できます。

Q13
 先日、旧司法試験の論文試験が行われて、6科目受験して来ました。
 試験終了後、問題を見返してみると、自分の圧倒的な努力不足を痛感しました。
 先生に一つお伺いしたいことがあります。
 先生が過去見ていた受験生の間で、
  ある日まで努力していなかった(努力していたように見えなかった)が、
  ある日を境に猛烈に努力し、受かった人間というのを先生はご存知でしょうか?
 もし、御答いただければ非常にありがたいのですが。
投稿 旧司法試験の受験生 | 2008年7月25日 (金) 07時03分
A13
 ほぼ全員そうではないでしょうか。
 司法試験は、勉強すれば合格し、勉強しなければ合格しない。
 誰でも最初は、努力しておらず、したがって、合格しない。
 そのうち、努力し、合格する。
 それだけの話です。

Q14
葉玉先生、こんにちは。
また質問になってしまって恐縮なのですが、ロースクール生時代に、法律事務所へエクスターンシップやサマークラークに行くのと行かないのとでは、就職に差がつくというのは本当でしょうか?
周囲にも、圧倒的に差がつくという人がいる一方、余り関係ないのではないか、という弁護士の先生もいらして、どちらが本当なのか良く分からないのですが・・・。
仮に、ロースクール在籍中にはいけなくても、卒業後に事務所にお邪魔しても就職活動としては問題ないのでしょうか?
投稿 まゆまゆ | 2008年7月26日 (土) 13時29分
A14
事務所にもよりますが、大手事務所では、差がつくと思います。

Q15
①目の前の勉強から逃げないように先生はどのようにされていらっしゃいましたか?1年の勉強のスケジュールなどを事前に立てていらっしゃいましたか?
②今年受験を失敗したのですが、その原因は自分の実力を過信していたということがあります。どうやって自分の実力を客観的に把握し、合格までの距離をうめていけばよいとかんがえますか?
③働きながら勉強する場合、職種は、法律に関係のある仕事(行政書士司法書士の補助、法律事務所の職員)に関連あるほうが資格取得後にも良いのでしょうか?
実際、事務員等で法律の実務は勉強、経験できるものなのでしょうか?
③これが今一番悩んでいることなのですが、自分の実力+努力で本当に合格でできるのかってことです。2年間勉強している間、根拠のない自信をもっていたのですが、甘いものではないと痛感しております。やはり客観的にみれば司法試験は合格率は1~2%の試験であることは変わりはないので難しいですから。もうあきらめて目標を変更する必要あるのかなと考えてます。どうおもわれますか?
投稿 旧試験受験生2 | 2008年7月26日 (土) 13時32分
A15
① 具体的ノルマを決めることです。択一20問とか。抽象的なノルマは、あまり役に立ちません。
 なお、適切な1年のスケジュールを、未合格者が自分一人で立てるのは無理でしょう。予備校の先生にでも、聞いた方がいいかもしれません。
② 答案練習会に参加することです。徹底的に。
③ 努力すれば、必ず、合格します。実力というのは、努力の結果であり、努力だけが唯一の指標です。
 あきらめたら、合格しません。
 ただ、あきらめて目標を変更するのも、人生です。

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2008年7月20日 (日)

会計慣行と長銀事件

長銀事件で最高裁が無罪判決を出しました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080718153916.pdf

この事件の公訴事実は、簡単にいえば、長銀の代表取締役等が、取立不能と見込まれる貸出金の償却又は引当をしないことにより,当期未処理損失を過少に圧縮し、虚偽の有価証券報告書を提出した、さらに、配当可能利益がないのに配当を行ったというものです。

 具体的には、長銀の関連ノンバンク向け貸付について、長銀が従来の会計慣行に従った方式で処理したのに対し、検察官は、
① 大蔵省の金融検査部長が平成9年3月5日に出した資産査定通達等により補充された改正後の決算経理基準が、「公正ナル会計慣行」である。
② 長銀の会計処理は、改正後の決算経理基準に反している
と主張して、本来行うべき「貸出金の償却又は引当をしなかった」としたわけです。

 元検事だから検察官の味方をするわけではありませんが、新基準があれば、新基準に従った処理をすべきであるというのは、常識的な話であり、その考え方自体は、それほどおかしなものではありません。

 しかし、最高裁は
 新基準のうち、今回問題となっている資産査定の部分については、被告人らの行為の時点においては、どのような評価を行えばよいか不明確だったので、改正前の決算経理基準に従っている処理したとしても、それが、「公正ナル会計慣行」に反するものとはいえない
と判断しました。

 一言でいえば、
  新基準の内容がまだ十分明確になっていなかったから、旧基準でやってもOKです
ということです。

 この判断は
 ① 資産査定通達が、定性的でガイドライン的なものであり、本件の時点において、具体性・定量性のある基準があるとは言い難かった(資産査定を厳格化するということは決まっているが、関連ノンバンクに対する貸付のような事例で、どの程度の償却をし、どの程度引当金を積むかよく分からなかった)
 ② 他の銀行(18銀行中14銀行)も、長銀と同様の処理を行っていた
という事実関係のもとで出されたもので、一般化することは難しいかもしれませんが、最高裁が
  「公正ナル会計慣行」は唯一ではない
ということを認めた点では、非常に興味深いところです。

 ご承知のように株式会社は、貸借対照表等を作成し、これを公告し、債権者等に閲覧させる義務を負っています。債権者などは、その貸借対照表等を見て、その会社の信用度を測ったりするわけです。

 この制度の目的を十分に果たすためには、貸借対照表等を作る際の基準となる「会計慣行」は、「唯一」である必要があります。会社ごとに会計慣行が違ってしまうと、貸借対照表等を見ても、その数字がどんな会計慣行に基づいて計算されたものか分からない限り、本当の中身を理解できないからです。

 長銀事件を例にとれば
   長銀のように旧基準を用いた貸借対照表と
   新基準を用いた銀行の貸借対照表が、混在している状況
になってしまうと、少なくとも旧基準を用いたのか、新基準を用いたのかを開示してくれない限り、それらの銀行の貸借対照表を同列にして比較することはできません。

 他方で、「唯一」の会計慣行というルールが足かせになる場合もあります。

 典型的なのは、中小企業会計であり、上場企業を念頭において、複雑で精緻な会計慣行が形成され、それを中小企業にも適用されてしまうと、中小企業は、コスト的にも能力的にも、対応が極めて困難になってしまいます(規模の違い)。

 また、会計慣行の唯一性を強調しすぎれば、株式会社のうち銀行だけが、他の株式会社と異なる会計慣行をとることを説明することが難しくなります(業種の違い)。

 さらに、長銀事件のように、会計慣行が政策的理由により変更されるような場合、新会計慣行が何を求めているのか、明確ではなく、会社ごとに対応が異なる場合もあります(時代の変化)。

 結局、会計慣行の「唯一」性に拘りすぎると、何かと実務に支障が生じますから、会計慣行は、必要に応じて、ある程度多様性を許容する形にならざるをえず、今までも、理屈はどうあれ、そうした取扱いがされてきたはずです。
 
 長銀事件では、新基準のあいまいさが仇となり、旧基準に対応した会計処理が適法とされました。最高裁の脳裏に、会計「慣行」となるためには、単に役所が決めるだけではなく、それが実務で使われるようにならなければならないという発想があったかどうかは分かりませんが、企業側にとっては、少しだけホッとすることができる判決でした。

 現在、企業会計基準委員会(ASBJ)は、コンバージェンスに向けて、会計基準を矢継ぎ早に開発しています。
 この会計基準の法的位置づけについては、若干、難しい論点があるものの、ASBJの会計基準は、会社法と金融商品取引法において、公正妥当な会計慣行であるとして認められています。
 ASBJは、長銀事件で問題となった資産査定通達より、明確な新基準を策定していますから、長銀事件で何か劇的な影響を受けるわけではありません。

 しかし、基準だけで、すべての事象に対応するのは不可能であるのもまた事実であり、会計基準が頻繁に策定される現在の社会情勢の中で、「有価証券報告書の虚偽記載」や「違法配当」の意味を考える上で長銀事件は重要な示唆を含んでいると思います。
 新基準が施行されれば、それに従うのが当然ではありますが、基準から明確に導き得ない点について、企業が従来どおりの会計処理を行った場合、その処理が後に明確化された基準に反していたとしても、「会計慣行」には反するわけではないという程度に一般化されれば、担当者も、会計監査人も、少しはホッとするでしょう。

 また、会計慣行の問題ではありませんが、内部統制報告書の虚偽記載があるか否かの判断においても、同様の考え方ができれば、過剰対応を回避するのに役立つかもしれません。

(質問コーナー)
Q1
>行からの資金調達がいきなりストップし

すみません、意味がよくわからなかったのですが、誤記でしょうか?
でも「銀行からの」「行政からの」「公からの」のいずれでも意味が通るし、判断付きませんでした。
投稿 | 2008年7月14日 (月) 00時36分
A1
銀行です。

Q2
・新株予約権に取得請求権付がないのには理由がありますか。
・株式会社の株式移転の無効の訴えの原告についてなのですが
他の組織再編と異なり株式移転だけ
株式移転について承認をしなかった債権者が
含まれていないのは何か理由があるのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月14日 (月) 01時31分
A2
(1)新株予約権は、株式のオプションです。それにオプションをつけると、社債予約権とか、新株予約権予約権とか、米予約権とか、多彩なものができてしまうので、あまり正面から規定したくないからです。
(2)すいません。ちょっとした大人の事情です。

Q3
蛇の目ミシン等の判決を読んでて思ってたのですが、やはり、反社会的勢力との関係維持(取引)については経営判断原則の適用はないと考えるのですね。
TMIの新人採用面接、楽しんでらっしゃいますね(笑)葉玉先生と話す事だけを目的として採用面接に行ってもよろしいのでしょうか?(笑)
ところで、先生は司法修習地をいかなる基準で選択されましたか?また、何故、裁判官や弁護士ではなく任検の道を選択されたのでしょうか?何が決め手となりましたか?
投稿 しょ | 2008年7月14日 (月) 02時14分
A3
 司法修習地は、両親のことを考え、故郷の福岡を選択しました。
 検事になったのは、修習中に一番面白かったのと、いいタイミングで指導担当検事が誘ってくれたからです。

Q4
検査役についてなのですが
具体的にどのような人がなるのでしょうか。
何か資格を保有している人なのでしょうか。
投稿 勉強中 | 2008年7月14日 (月) 17時49分
A4
弁護士が多いですね。

Q5
>カールさんのご家族が、上場株式に投資しただけで
>家族の氏名・住所が第三者に知られることに違和感が
>ないのなら私の気持ちは分からないでしょう。
違和感があるかないかと言われればあります。しかし、この問題を、そうやって単純化してしまうのには賛成しません。その規制の先にある、市場の生態系に与える影響を吟味してからでないと、コンプライアンス不況の二の舞になるからです。
そもそも株主というのは、収益の最大化を目的としているわけです。健全な買収者が現れ、市場よりもプレミアムつきで買い取ってくれことは大歓迎ですし、健全な買収者の活動は、幅広く経営者に規律を植えてくれるでしょう。
葉玉さんの思惑とは別に、株主の有形無形の権利を奪う可能性があるということです。つまり、一言だけ言いたいのは、閲覧禁止による買収者の減少の度合いや、市場に与える影響を、精査することなしに、軽んじるのはやめていただきたいということです。

そういえばアメリカで、著名ブランド、バドワイザーが外資に買収されましたが、日本の未熟な経営者、株主にこういったことができるでしょうか。いまだに株主の権利が希薄な日本で、コンプライアンス、買収防衛策ばかりが論じられ、実際の市場の機能がおざなりになる現状を憂います。
投稿 カール | 2008年7月14日 (月) 18時58分
A5
私の記憶に間違いがなければ、アメリカでは、株主の承諾がなければ、他の株主に氏名・住所を知られることはありません。

Q6
3万8千回ぐらい読み返しましたが、あなたがまともに考えている文面を見つけられませんでした。
馬鹿でどうもすみません。
幸せなカリスマ人生を送れてよかったすね。
投稿 ひで | 2008年7月14日 (月) 20時36分
A6
私は、3万8000回も読み返していませんが、一応、まともに考えてお話をしています。
ひでさんの拘りは、「書きぶり」にあります。
法律の「書きぶり」は、ひでさんの感覚でも、私の感覚でもなく、先例によって決められます。ひでさんが、条文を書く立場に立ち、会社法や他の法律の規定ぶりを調べ、さらに、私の文章に込められた実務上の要請を読み解き、立案担当者がなぜその書きぶりを選択したかを考えれば、きっと分かっていただけると思います。
また、ひでさんは、馬鹿ではないと思います。
それから、私は幸せですが、カリスマではありません。

Q7
>A4
>一部の株式を取得するとき、みんな平等に減らすのならば、定款で決めなくてよいという意味です。
例えば3000株取得しようとしたが株主が10000人いる場合など、端数が生じ、どうしても平等にならない場合については、どのようにお考えでしょうか。
投稿 | 2008年7月14日 (月) 21時41分
A7
その場合は、取得方法を規定する必要があると思います。

Q8
①以下の理解でよろしいでしょうか?
「取締役は上記(1)の取締役であろうと「社外取締役」として選任された取締役であろうと、業務執行権はある。但し、上記(2)のとおり、「社外取締役」として選任された取締役が業務執行したら社外取締役ではなくなる。」
A8
違います。平取締役には業務執行権はありません。
社外取締役が、業務執行をする場合というのは、違法に業務執行をする場合のことをいいます。
適法に業務執行を行うことができるのは、代表取締役と業務担当取締役と使用人兼務取締役です。

Q9
会社法176条3項について質問させてください。
会社法176条3項では、相続人等に対する売渡請求について、「株式会社はいつでも請求を撤回することができる」とありますが、これは、取締役会設置会社であれば、取締役会決議をもって、いつでも撤回することができる、ということなのでしょうか?
それとも、この売渡請求には、会社法461条1項5号にあるとおり、財源規制があるので、売渡請求の決議後に分配可能額を超えることが明らかとなった場合に、会社はいつでも撤回できる、とする趣旨なのかなと考えたのですが、いかがでしょうか?
投稿 winwin | 2008年7月15日 (火) 09時26分
A9
財源規制とは関係なく、いつでも撤回することができます。
取締役会決議でもよいですし、取締役に決定を委任することもできます。

Q10
先般「(社外取締役との)責任限定契約は利益相反取引か」という質問をさせていただきました。
幸いまだご回答はいただいておりませんので(←せかすつもりではありません。ご容赦を)、その質問の趣旨を書いておきたいと思います。
1.社外取締役との責任限定契約が会社法上の利益相反取引であるとすると、当然会社法356条・365条の開示・承認・事後報告の義務を負うことになろうかと思います。
2.しかしながら、どうもこの点実務上しっくりきません。そもそもこの責任限定契約は社外取締役の人材確保のために締結するものです。言ってみれば(社外取締役就任とセットで)会社が社外取締役にお願いをして締結してもらうものです。にもかかわらず、当該社外取締役に、取締役会で開示・承認・事後報告の義務を負わせるのか?という感覚的な違和感があります。
3.「本ブログのテーマは法的なもので、感覚的なものではない」とお叱りを受けそうです。
では、「このような会社法上に規定された取引は、たとえ形式的には「利益相反取引」であったとしても、必ずしもそのとおりの規制を受けるものではない(定型的な取引であるので取締役会の承認は不要)」等の理屈は立てられないものでしょうか?
4.「そんなことを議論している暇があったら、社外取締役に頼めばいいではないか」と思われるかもしれませんが、当該者が経済界の超重鎮であったりした場合、実務的にはかなり深刻な問題となったりするのです。
5.せめて、開示や事後報告につき他の取締役を代理人とすることはできないでしょうか?(何とか本人が開示・報告をしないですむ方法はないでしょうか)
投稿 こども | 2008年7月15日 (火) 10時03分
A10
 すいません。すっかり回答を失念していました。
 おっしゃるように、責任限定契約は、形式的には利益相反取引の要件に該当しますが、
① 責任限定契約は、会社法の規定(427条)に基づき、内容に法定限度が定められた契約であること
② 定款の規定が必要であり、株主総会の特別決議で事前に締結を許容していること
から、456条・465条の例外と考えるべきでしょう。

Q11
598条について質問させてください。法人が業務を執行する社員である場合、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任しなければいけません。この職務をおこなうべきものは、当該法人の従業員である必要はないですよね?
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月16日 (水) 00時09分
A11
従業員である必要はありません。

Q12
598条の職務執行者について引き続き質問させてください。内国会社の代表取締役のうち少なくとも1名は、日本に住所を有する必要があること及び外国会社の日本における代表者のうち少なくとも1名は、日本に住所を有する必要があることの2点から考えると以下の考えは正しいのでしょうか?
つまり、職務執行者のうち少なくとも1名は日本に住所を有する必要があると理解してよいでしょうか?お手数ですが、ご教授願います。
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月16日 (水) 14時00分
A12
千問Q794をご参照ください。

Q13
株式会社における設立手続とその無効について質問させてください。
①定款の作成についての発起人の意思表示に瑕疵等があったり、②設立時発行株式に関する事項の決定についての「同意」(32条1項)に意思表示の瑕疵等があったりしたら、発起人はそのような「定款作成」や「同意」の無効・取消しを主張できますか?
仮にできるとして、「定款作成」や「同意」が無かったことになれば、それは設立の無効原因となりますか?
投稿 会社法の名無し | 2008年7月16日 (水) 18時30分
A13
定款の作成も同意も、意思表示ですから、無効・取消を主張することができます。
 それが設立無効事由になるかは、解釈です。
 定款の作成については、どのような瑕疵があったかによると思います。
 設立時発行株式についての同意は、すでに引受がされ、発行されているのですから、取締役会の決議がない新株発行と同じに考えると、無効原因にはしにくいように思います。

Q14
>勉強を継続するのに「精神的な強さ」は不要です。
>「義務感」と「楽しみ」と「刺激」をコントロールするだけです。
>弁護士の仕事も同じです。
わたしは司法試験受験生です。
今まで専念して勉強できる環境にありました。
しかし、勉強の資金がなくなってきたので働こうと思うのですが、働いてても受かるものなんでしょうか?
働きながら受かる人って要領が良い人しか受からないとおもうのですが
強さって必要ないんですかね
受かるのかどうか不安になりながら勉強するのって強さだとおもうのです
投稿 司法受験生 | 2008年7月17日 (木) 13時05分
A14
働きながら合格する人はいます。
要領が良くないと合格しにくいのは、働いていても働いていなくても同じです。
「要領」というより、「勉強時間を確保できる能力」があるかどうかが鍵になると思います。
なお、「精神的な強さ」というのが、つらくても受験する意思を失わないことという意味ならば、必要です。なにせ受験しなければ、合格しないので。
でも、多くの受験生は、とりあえず、勉強してもしなくても、受験をしますよね。ということは、最低限の「精神的な強さ」をもっているのです。
私は、数多くの受験生を見て
 不安だから勉強に手がつかない
という現象は一時的にあっても合格とはほとんど因果関係はなく、不合格の原因のほとんどが
 不合格への不安や不合格したときの落胆をすぐ忘れ、目の前の勉強から現実逃避する
 やっていることが難しいと、すぐ逃げる
 目の前に基本書を置いていると読んだ気持ちになり、実はボーッとしている。
 演習をヤマほどしなければならないのに、本だけ読んで分かった気になっている。
 科目ごとの勉強の時間配分に気をつかっていない
というような点にあると思います。
 だから、「精神的な強さ」なんて、どうだっていいと思うわけです。

Q15
葉玉先生、こんにちは。利益相反取引の範囲について質問させて下さい。

事例1【AがXY両社の代表取締役を兼任する場合に、X社がY社の債務を保証した場合】は間接取引にあたる、とするのが判例・通説だと思います(江頭〔2版〕p.406)が、これはどういう風に論証すれば良いでしょうか?
A15
YがXに保証を委託し、Xが受託した場合には、それ自体、直接取引ですので、どちらも代取がAである場合は、基本的には、2号でよいと思います。
 3号は取締役の利益のためなので、単に代表取締役であるということだけではなく、Y社が保証を受けることにより、間接的にAが利益を受ける事情が必要であると思います。

Q16
利益相反取引に関して質問させて下さい。

ターゲット会社の社外取締役が代表取締役をしている会社の第三者割当増資をターゲット会社が引き受ける場合、当該社外取締役は、直接取引たる行為として規制をうけますか?

投稿 ネットくん | 2008年7月17日 (木) 15時01分
A16
引受契約も、取引ですから、第三者のためにする直接取引に該当すると考えます。
定型的な行為といえるほど、沢山の応募者がいれば、別でしょうが。

Q17
会社法319条の株主総会の決議の省略についてご教示ください。
取締役会設置会社では、株主総会決議の省略をする場合であっても、決議の省略をすることや株主総会の目的である事項について、あらかじめ取締役会で決議することが必要なのでしょうか。
投稿 権兵衛 | 2008年7月18日 (金) 17時17分
A17
決議の省略ならば、取締役の提案で足ります。

Q18

葉玉先生
いつもブログを見させていただいております。初めて、書き込みさせていただきます。
私は、アスキーソリューションズ(現エーエスアイ)という会社の株主です。
この会社は、5月まで大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場していたのですが、上場時の粉飾やその後も複数回の決算の訂正・修正などを問題視され、上場廃止となりました。
上場廃止後、資金繰りがうまくいかなくなり、今月11日に民事再生の申立となりました。

会社は債務超過となっておりますし、資金繰りに問題が生じているので、民事再生の申立をしたこと自体はやむを得ないと思っているのですが、釈然としない部分があります。
釈然としないことは、上場時の審査において粉飾した決算を使ったにもかかわらず、その責任を誰も取らないまま、株主に責任を取らせようとしていることです。
粉飾や決算の修正・訂正が上場廃止理由で、それにより資金繰りが悪化した。
その責任を刑事、民事両面で責任のあった人(私は社長と監査役だと思っていますが、監査法人や幹事証券会社や大阪証券取引所かもしれません)がしかるべき責任をとり(資金を会社に入れたり、刑事罰を受けたりし)、その後、株主に痛みを求めるのなら分かるのですが、どうもしっくりきません。
また、民事再生において、会社が選任した弁護士が監督委員となっているのですが、これだけ問題のある行動をしてきた会社だけに会社が選任した弁護士がやるというのも、納得感がありません。
株主が監視をするため会社再建委員会を作り、チェックさせて欲しいと意見しましたが、無視されています。
私は法務知識に欠ける部分があると思いますが、先生はこういった会社がこのまま民事再生をおこなうということをどうお考えになりますか。
法律的に考えて、私の考えはおかしいでしょうか。
多忙かとは存じますが、ご回答いただければ幸甚です。
投稿 澤田 | 2008年7月19日 (土) 10時05分

A18
 申し訳ありませんが、具体的な事例に対するコメントは差し控えさせていただきます。

Q19
S54・11・16の判例に株主総会決議無効確認の訴えを提起し、訴訟継続中に、その決議から3ヶ月の日時が経過した場合、その後に決議取消の訴えを追加することができるとあったのですが
無効となる自由と取消となる自由が重なる場合があるということでしょうか。
どういう場合かよく分かりません。
会社法でもこの判例は有効ですか。
投稿 三日月 | 2008年7月20日 (日) 04時25分
A19
 もちろん、無効事由と取消事由は、論理的には異なりますが、当事者の事実主張は、かならずしも法律的に整理されているわけではなく、その事実主張の中に両者が含まれていることはありえます。また、事実の法的評価について、当事者と裁判所の考え方が異なる場合もあります。
 そういう意味で「重なる」ことはあると思います。

Q20
 葉玉先生、おはようございます。元司法試験講師の葉玉先生に伺いたいことがあります。論文の学説選択についてです。

  ①自分の論文における学説選択の基準は原則としては入門講座の講師の薦める説に従っています。ただ、特に憲法と刑事訴訟法で自分の価値観とは相いれない説が勧められることがあります。このような場合、自分の価値観と相いれない説でもあくまで合格のためと割り切ってその説で答案を書いたほうがよいでしょうか。

  ②外国人の地方参政権について伺いたいのですが、自分はこの論点については認められないという立場です。認められない最大の理由としては国家の安全保障です。ただ、この点を展開していくと法律の答案ではなく政治学の答案になってしまいそうです。このような場合、一言言及するくらいの方がよいのでしょうか。また、そもそも禁止説ではなく判例の立場といわれている許容説または要請説で書いたほうがよいのでしょうか。

投稿 不孤 | 2008年7月20日 (日) 07時37分
A20
 ① 自分の価値観と相容れないならば、相容れる説を選択すればよいと思います。
 ただし、独自すぎる説は、危険なので、メジャーな基本書に書かれている説にしてくださいね。

 ② 私も、禁止説を指示しています。それから、国家の安全保障を実質的理由としてあげるのはいいと思いますが、理論的理由をきちんといえようにしてください。

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2008年7月13日 (日)

反社会的勢力への対応

 私は、TMI総合法律事務所の新人弁護士の採用担当なので、最近は、毎日のように面接しています(TMIに面接に来ていただいているロースクールの卒業生の皆さん、ありがとうございます)。
 他方、弁護士としての本業も一生懸命にやらなければならないので、おのずと趣味の時間が削られます。
 ということで、ブログの更新をさぼっておりました。読者の皆様ごめんなさい。

 さて、今日は、最近、重要性が増している「反社会的勢力への対応」について、お話ししたいと思います。

 私は、検事時代に、ある地検で暴力係検事をしていたことがあります。
 この係は、
   暴力をふるって否認している被疑者を自白させる係
ではなく
   暴力団関係の事件を担当する係
です。
 私が暴力係だったころも(14年前くらい)、警察は
  暴力団とつきあうのをやめよう
ということは言っていましたが、実際には
  銭湯やサウナで「入れ墨の方、お断り」という看板が出るくらい
で、なかなか社会のルールとしては浸透しませんでした。

 私は、拳銃の撃ち込みや抗争事件、恐喝事件等を処理しながら、暴力団の活動を止めるには、どんな事件をやったらいいんだろうと思っていました。
 そうして考えたあげく、活動資金を止めるのが一番だと思い、警察に「資金源を止める事件をやりましょうよ。」等と飲み会の席で言っていたところ、私が、暴力係になって2年目からは、高利貸し(出資法)や白タク(道路運送法)など暴力団の資金源になっている行為を摘発してくれました。
 やって見ると、この手の資金源になっている犯罪は、組長ほか幹部を逮捕するのにはもってこい事件でした。
 拳銃の撃ち込み事件は、実行犯が「組長の指示でやりました」とでも言ってくれないと難しいのですが、資金源の事件は、お金の流れを追えば、ほとんどの場合、組長に行き着きます。
 今まで暴力事件を主としてやってきた警察官に、経済犯罪の調べをさせて、調書をとってもらうと、財政経済担当の警察官とは色合いの違うユニークな調書ができあがってきて、それなりの苦労はありましたが、警察の方は、「暴力団のトップに切り込む手法として新たな発見があった」と言って大変喜んでくれました。

 その後、東京地検で、総会屋に対する利益供与事件をやったのですが、その事件が、商法改正(利益供与罪の強化)や上場会社の総会屋との関係断絶の本格化につながり、その動きが総会屋の衰退につながったのを見て、「金の流れ」を止めることが、暴力団や総会屋などの反社会的勢力の根絶に有効な手法であることを改めて実感しました。

 さらに、法務省民事局にいたとき、マネーロンダリング対策の国際会議であるFATF(Financial Action Task Force)に代表として駆り出されました。このFATFは、アルシュ・サミットをきっかけに立ち上がったマネロン対策の部会なのですが、私が何度かFATFに出ているうち、911テロが起こりまして、それをきっかけに、「テロ資金の流通防止」というやや趣を異にする目的がFATFに組み込まれたのです。

 今から振り返ってみると、最近、活発化している金融面における反社会的勢力排除の動きと国際連携は、FATFが起源となっている部分も多いように思います。

 さて、以上のような私の経験からすると、最近の反社会的勢力への対応の各界の動きは、本当に目を見張るものがあります。

 平成19年6月19日に犯罪対策閣僚会議が策定した                            
 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/dai9/9siryou8_2.pdf
を皮切りに、
(1) 全国銀行協会による「反社会的勢力介入排除対策協議会」の設置と、反社会的勢力のデータベースの共有化の検討
http://www.zenginkyo.or.jp/news/2008/05/27160002.html
(2) 日本証券業協会による「証券取引および証券市場からの反社会的勢力の排除」
http://www.jsda.or.jp/html/houkokusyo/hoan_g.html
(3) 証券取引所による反社会的勢力排除に向けた上場制度の整備
http://www.tse.or.jp/rules/comment/071127-jojo.pdf
等、急速に反社会的勢力排除の動きが現実化しています。

 昔から何度となく掲げられていた「暴力団とのつきあいをやめよう」という標語と、今回の動きの決定的な差は
  金融界が中心となって反社会的勢力の排除が行われている
ことです。

 このことは、
  上場企業のみならず、中小企業を含めて、すべての事業者が反社会的勢力排除を事実上強制される
ことを意味します。

 反社会的勢力とのつきあいがある企業は、場合によっては
   銀行から融資を受けられないし、
   証券取引もできない
    その企業が、上場企業であれば、上場廃止となる
ということですから、すべての企業にとって、その存続のために反社会的勢力との関係断絶が必要不可欠になったのです。

 他方、金融業界の急速な動きに対し、事業会社サイドは今ひとつ動きが鈍いような気がします。
 もちろん、上場企業は
  企業行動憲章や内部統制の中に反社会的勢力対応を盛り込んだり
  反社会的勢力と関係のないことの確認書を出したり
しなければならなかったので、まったく意識していないわけではないでしょう。
 しかし、それ以上のことはあまり進んでおらず、形式的な規定整備に止まっているような印象があります。

 でも、現実には、スルガコーポレーションのように反社会的勢力の利用が発覚したとたん、行からの資金調達がいきなりストップし、民事再生に追い込まれる事態も生じています。蛇の目ミシンのように反社会的勢力からの脅しに屈することにより、取締役が巨額の損害賠償責任を負わされることもあります。

 こうした動きを、会社法の側面から見ると
   反社会的勢力との取引については、その取引が適法か違法かにかかわらず、関係を維持すること自体が善管注意義務を問われるリスクが高い
 しかも、反社会的勢力との関係維持については、経営判断の原則が適用されない
ということなのでしょう。

 昔ならば、反社会的勢力との関係について、「事なかれ主義」に基づき特別な担当者をしつらえて窓口をしぼりこみ、くさいものに蓋して、経営者に伝えないのが、常道でした。
 しかし、今や経営者に求められる善管注意義務の要求水準が変化し、あらゆるレベルにおいて反社会的勢力と決別せざるをえなくなったわけです。

 もちろん、こうしたルールを適用する前提として
   取引先が反社会的勢力であるかどうかを確認する
という作業が必要になり、事業会社は、そこで
   「そんなの分からないよ」
と思考停止に陥りがちです。

 各社で反社会的勢力データベースを構築することを期待されていますが、実際には、個社で対応するのでは、有効なデータベースが構築できるはずはありません。
 といって、プロのコンサルに頼むと結構お金がかかりますし、そのデータの正確性もよく分かりません。

 そこで、私は、お客様から
  どうやって取引先が反社会的勢力かどうか見分けるんですか?
と聞かれたときは、とりあえず
 ①その取引先が、銀行から融資を受けているか
 ②その取引先が、証券会社に口座を開設しているか
の2点で判断すればよいとアドバイスしています。

 すなわち、現在の反社会的勢力への対応は、金融界を中心とした動きであり、全国銀行協会も、証券業協会も、データベースを構築して、顧客をチェックすることになるのですから、①②の要件をクリアするのならば、その2つの業界のデータベースでは、反社会的勢力とは認定されていないということが分かります。

 ①②のチェックをおざなりにやって、取引先の嘘を見抜けなければ意味がありませんし、チェックの手法は、これだけではありません。
 また、定期的なチェックもかかせません。
 ただ、企業が
  「どうせ反社会的勢力かどうか、分からないから、対策を何も採らない」
という最悪の選択をしないように
  調べようと思えば、それなりに調べる方法がある
ということを知っていただきたくて、簡単な判別法をアドバイスしているのです。

 一番、大事なことは
  取引先が反社会的勢力と関連している
と判明したときの対応であり、ここで失敗すると
  自社が、突然、倒産する
ということすらあるのです。
 現在の社会情勢は、反社会的勢力と付き合う会社は、たとえ被害者的立場のものであっても、反社会的勢力と同視されるという厳しいものです。
 この動きを逆手にとり、反社会的勢力が
  私と関係していることを公表しますよ。
  そうすると、御社は、おしまいですよ。
と脅しのネタに使ってくることも考えられます。
 また、トップの問題意識が高くても、一部の社員が反社会的勢力に取り込まれ、情報を上にあげてこない可能性もあります。

 しかし、どんな過去があろうとも
   経営者が、自社が反社会的勢力と取引を知ったときに、どう対応するか
という判断を誤らなければ、会社を救う道はいくらでもあります。

 反社会的的勢力は、裏の人間ですから、経営者が、裏に行こうとすれば、彼らの手に落ちます。そして、警察の捜査が入った瞬間に、その会社は死亡します。

 逆に、経営者が、すぐに弁護士や警察と協議し、表の世界で勝負すれば、今の世の中、普通だったら無理筋の解決法でも、反社会的勢力に対してならば通用するのです。

 内規の整備や契約書への反社条項の追加等形式面での対応も重要ですが
 取引先の確認と取引先が反社会的勢力であると確認された場合の適切な対応が100倍大事だと思います。

 

(質問コーナー)                                                             
Q1
387条2項は、会社法への移行に伴って実質的に改正されたところはないと認識しています(旧法の279条2項に同趣旨の規定があります)。会社法前段階での改正によって、判例の射程が制限されることになったということでしょうか。
判例百選等の解説にはそのあたりのことが詳しく解説されていません。
いつ、何が、どう変わったから、現在では役会への一任が駄目と解されるようになったのでしょうか。
また、上記質問中①の点からも、取締役と監査役で扱いを異にする理由を見出すことができません。
取締役会への一任が、取締役の場合は許容されることがあるが、監査役の場合は許容される余地がない、というのであれば、その理由を教えていただけませんでしょうか。
投稿 いつも質疑応答お疲れ様です | 2008年7月 1日 (火) 19時08分
A1
監査役は、取締役を監査する立場ですから、取締役会が報酬を自由に決めるのはまずいということでしょう。

Q2
「吸収合併」又は「株式交換」の場合、対価の全部又は一部が持分等であるときは、消滅会社において略式手続の規定(784条)が適用される余地はない
・「吸収分割」の場合、対価の全部又は一部が持分等であるときは、消滅会社において略式手続の規定(784条)が適用される余地がある
以上のように理解しているのですが正しいでしょうか。
(784条1項は「前条第1項の規定は、」適用しないと規定していることから、783条1項の適用される「吸収分割」の場合にだけ略式手続がある)
投稿 初心者 | 2008年7月 1日 (火) 22時30分
A2
そうです。

Q3
法律と関係のない質問で恐縮ですが、「情報整理」について質問させて下さい。
仕事をしていると、特に、日々大量の情報を扱うことになります。
その情報をバラバラにしていると、後先の検索が困難になるので、誰もが一度は情報を整理しようと考えると思います。
そして、時間を見つけては、情報整理に取り掛かるのですが、これが一筋縄ではいきません。
情報をある基準(属性)をもとに階層的に分類したとしても、その基準(属性)では分類できない情報が出てきたり、それを何とか分類しようとすると、階層がとてつもなく深くなったり、あるいは、情報分類の基準(属性)に一定の共通性を見つけようと思っても、結局その共通性を見つけ出すのが困難で、仮に、共通性が見つかったとしても、その再分類に時間がかかってしまう等、結局、時間がかかる一方で、最終的には、情報分類に意味はないのではないかと考えてしまいます。
しかしながら、情報を分類しないと、やはり、どこに何があったか探し出すのは困難ですし、情報整理をしないわけにもいきません。
周りの人間に聞いてみたところ、厳密なルールをもって分類をしていないとの答えが多く、それは正しいとは思うのですが、やはり、時間が経つと、情報がごちゃごちゃしてきますし、何より、心理的に何か気持ち悪さが残ります。
最近では、階層による分類ではなく、フラットに整理する方法も流行っていると聞きましたが、現在では、情報はデジタル化している以上、PC上の管理(ディレクトリ管理)をしないわけにもいきません。
前置きが長くなりましたが、葉玉先生は、私より、もっと多くの情報を扱っておられると思いますが、先生は、その膨大な情報をどのように管理・整理されていらっしゃるのでしょうか?
投稿 直樹 | 2008年7月 2日 (水) 02時43分
A3
私の考え方は、賛否両論ありますが、次のとおりです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20070628/128602/

Q4
取得条項付株式について
108条3項の要綱についてなのですが、会社法施行規則20条に1項5号ハのカッコ内がよく分かりません。
「当該種類の株式の株主の有する当該種類の株式の数に応じて定めるものを除く」
これは要綱よりも細かくなるから、要綱段階で定めなくてもいいという理解でよいのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月 2日 (水) 04時52分
A4
一部の株式を取得するとき、みんな平等に減らすのならば、定款で決めなくてよいという意味です。

Q5
司法試験の論文演習について質問があります。
先生のブログを読んで論述問題に解答することができるようになるためにはとにかく実際に時間を計って問題を解くことが重要であることがよくわかりました。
しかし、たとえば会社法100問にのってるような問題は難しくて、酷いときは条文を写すので精一杯いう状態になってしまいます。
そこで、会社法115講座を使いながらやろうと思っています。そこで、100問と115講座を併用しようという場合に何か効果的・効率的な方法がありましたら教えてください。
ちなみに私は入門者ではありませんが初学者です。
投稿 受験生 | 2008年7月 2日 (水) 15時34分
A5
論文を書いていて、「条文を写す」のに時間がかかるというのは、やり方がおかしいように思います。
100問と115講座の併用の方法ですが、まずは、115講座で概要を理解したら、後は100問で個別の問題演習をとことんやるのがいいと思います。

Q6
ジョイントベンチャー等のために合同会社を作ったとき、親会社は合同会社の持分を持っているわけですが、
株式会社の場合の親会社を持株会社と呼ぶのに倣って、この合同会社の親会社を持分会社と呼ぶのは不適切でしょうか?
「持ち持分会社」と呼ぶのが一番正確なのでしょうけれど、なんか変な感じがします。
投稿 巴 | 2008年7月 2日 (水) 22時30分
A6
呼び名は、自由にどうぞ。でも、変です。

Q7
自分は愚にもつかぬ屁理屈をこねてブログを荒らしているんだろうかと悲観しましたが、7月 1日A12を見てもう一度ご教授を乞う気になりました。
会社法で、持分会社の出資の払戻の規定を新設したのは何故ですか。
またその際、払戻が「できる」とはしないで、払戻を請求する社員と会社が対立すれば空文化してしまう可能性があるのに敢えて社員が請求できる規定にしたのは何故ですか。
投稿 ひで | 2008年7月 3日 (木) 14時37分
A7
今までの議論をよく読んでください。
もう語り尽くしました。

Q8
 発起人が見せ金で払込みをした場合、設立無効事由に当たることになると思います。そして、『会社法100問第2版』p118によりますと、設立の登記後に25条2項違反となることを回避する方法はない、とあります。しかし、このような瑕疵が常に治癒することができないとしては、厳格に過ぎないかと感じました。
 そこで、設立無効事由を緩和する立場に立ち、36条1項を類推適用することはできないでしょうか?すなわち、設立後であっても、発起人が改めて有効な払込みをした場合、瑕疵は治癒されて会社は有効に成立すると解することはできないのでしょうか?
投稿 にわか九州人 | 2008年7月 4日 (金) 21時00分
A8
 まあ、そういう解釈をすることを否定するものではありませんが、立案当時の議論では、無効事由になるということでした。

Q9
株主Aが基準日後に株式をBに譲渡した場合で、総会決議ではAが議決権を行使したという場合、総会決議の取消訴訟を提起できるのは、訴訟提起時の株主であるとのご回答で、Aは、もう会社と関係ないので、決議がなんであれ、構わないのではないでしょうか、ということですが、配当決議(実務においては、基準日株主に対して配当がなされることが多いと聞きます)においては、やはりAが実質的にその利害にかかわっており、むしろBに訴訟提起を認める必要がないのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
A9
配当決議を取り消しても、Aは、配当を貰えません。
Bは、会社から不当に財産が流出することを防止することで、利益を得ます。

Q10
Q19に関して確認させてください。
つまり、取締役選任決議に瑕疵がある場合に、決議が取り消されるまでに第三者に対して損害を与えた場合には、908条2項の類推などを媒介として、当該取締役は429条1項の責任を負うことはあるが、会社に損害を与えた場合には、423条1項は問題とならず、単に不法行為責任が問題となるということでよろしいでしょうか。
投稿 CCC | 2008年7月 4日 (金) 23時08分
A10
明示的に論じられてはいませんが、そうなるでしょう。

Q11
先生、勉強を継続するためにどうやったら精神的に強くなれますか?
自分に負けずに精神的に強くなりたいです。
弁護士の仕事でもプレッッシャー等はあると思いますが、どうやってそれらにうちかってますか?
投稿 司法受験生 | 2008年7月 5日 (土) 00時36分
A11
勉強を継続するのに「精神的な強さ」は不要です。
「義務感」と「楽しみ」と「刺激」をコントロールするだけです。
弁護士の仕事も同じです。

Q12
競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
多数説・判例は「計算説」で有力説は「名義説」ですか?
だったらそれで大勢についてよろしいかと。
計算説:法律上の権利義務が誰に規則するかではなく、経済上の利益が誰に帰属するかが重要。
名義説:当然逆で権利義務の帰属主体を重視。
そこそこレアなケースとは思いますが、下記のような状況設定で。
㈱松真商店は中古品の販売業とする。この商店をほぼ一人で切り盛りしているのがサミー取締役とします。
Xから、新しく事務所を開くので中古の机・椅子4セットを購入したとの意思表示があり、在庫があったので値段交渉もOKで商談成立。
時を同じくして偶然にも、Yから事務所を閉めるので机・椅子を買い取ってほしいとの要請がありました。
そこでサミー取締役は、Yのところに出向いて、机・椅子6セットを二束三文で現金で購入(仕入れ)しました。
商店の帳簿上は机・椅子2セット分の出金(仕入れ代金)と在庫計上をしました。
そして、いそいそと購入依頼のあったXのところに4セットを納入に行き、現金を受け取りました。
サミーさんの一連の商取引は、㈱松真商店のサミーとしてであり、販売先のXと仕入先のYも当然にそう思っております。
経済上の利益はサミーさんに帰属しますが、相手方からすると外見上は商店名義での取引となっております(Xには商店名義の現金受け取りの領収書を切るとか)。
が、帳簿上ではその形跡はいっさ残っていない。
しかし、これは競業忌避義務に違反であって、その利益はサミーさんに帰属している。
これを商店サイドで証明するには、X・Yとの取引を証明すればよいわけですよね。
各人に証言させて、「確かに私は、4セット購入しました。」、「私は6セットを引き取ってもらいました。」でそれぞれが「商店と取引したつもり。」でしたとの証言があればよいはず。
だったら、この証言により、取引の利益が商店に残らず、サミーさんにいってしまったことが判明。
よって競業取引義務違反。
なんか問題ありますか?
権利義務の帰属いかんやとかでなく、わかりやすいと思いますが?!
投稿 良きサマリア人 | 2008年7月 5日 (土) 01時46分
A12
問題あります。
その事例では、計算説より名義説の方が、会社にとって有利です。
名義説ならば、会社は、サミーに対して、サミーが横領した売却代金をについて不当利得返還請求権を行使すればよいだけです。

Q13
 司法試験論文試験においては論理の矛盾・破綻・飛躍などは絶対にしてはならないといわれています。
  ①論理の矛盾。破綻・飛躍をしないようにするためにはどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。
  ②また、論理の矛盾・破綻・飛躍をしてしまった場合、それを発見するにはどのような点に注目すればよいでしょうか。
投稿 | 2008年7月 5日 (土) 12時40分
A13
 論理の矛盾等は、よくあることなので、「絶対に」などと強迫観念に囚われる必要はありません。
 また、それを「発見」しようと考える必要もありません。
 まずは、判例通説の論理をきちんと追った論文を書く練習をしましょう。

Q14
会社法911条3項26号について教えてください。
「社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結について定款の定め登記があるときは社外監査役の登記を抹消を要しない」
とあるのですが理由がよく分かりません。
監査役会が存在するときに、責任を軽減してやったのだから、監査役会の定めを廃止してもそれくらいの責任は負うべきということなのでしょうか。
投稿 三毛猫 | 2008年7月 6日 (日) 04時39分
A14
意味がよくわかりませんが、責任限定契約も一緒に抹消しろという話ではないでしょうか。

Q15
社債の財務代理人について質問させてください。会社法上、社債管理者を置かなくてもよい場合(会社法702条但書き)においても、財務代理人をほとんどの会社で置いているようです。この財務代理人は 会社法上の要請なのでしょうか?
それともほかの法律の要請?もしくは実務上の慣習なのでしょうか?ご教授ねがいます。
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月 6日 (日) 13時29分
A15
実務の慣習です。

Q16
会社法855条について質問です。
同条は取締役解任の訴えを固有必要的共同訴訟と定めているものと理解していますが、訴状において誤って、会社のみ、あるいは当該取締役のみを被告とした場合には、「訴状が民事訴訟法133条2項(1号)に違反する場合」として裁判長の補正命令(民事訴訟法137条1項前段)の対象となるのでしょうか?
裁判所がこのような原告の過誤を見逃し、補正命令をせずに被告適格が欠けるとして訴えを却下するという処理には違和感があります。
投稿 今宵フィッツジェラルド劇場で | 2008年7月 6日 (日) 21時47分
A16
当事者は補正できると思いますが、133条1項は形式不備の場合なので、当事者適格の欠缺の場合には適用されないのではないでしょうか?きちんと調べていませんが。

Q17
退任登記未了の退任取締役の第三者責任で、
908条2項ではなく、1項の類推適用としているのは、どうしてですか?
908条2項を適用する点で、何が問題となるのですか?
投稿 はな | 2008年7月 6日 (日) 23時43分
A17
908条2項は「故意又は過失によって不実の事項を登記した者」です。会社は、退任登記をしていないだけで、「不実の登記をした」といえるかという問題があります。また、908条1項と比べると、「故意・過失」という要件も加わります。

Q18
公開会社法が将来的に制定されると聞きました。
会社法により、株式会社が公開会社と非公開会社に分かれましたが、登記簿上で公開会社かどうかを表示するような制度に変わることはあるのでしょうか?
投稿 uriya | 2008年7月 7日 (月) 00時19分
A18
公開会社法が制定されるかどうかは、未定です。
私は、不要または無意味だと思います。

Q19
「業務執行取締役」の定義がよく分からなくなりましたので教えて下さい。
(以下、取締役会設置会社を前提とする)
「業務執行取締役」は、会社法2条15号によれば、
①代表取締役(363条1項1号)
②363条1項2号の取締役
③業務を執行したその他の取締役(2条15号)
となります。
ところで2条15号は「業務を執行したその他の取締役」(③)と書いていますが、それでは「まだ業務を執行していないその他の取締役」はどうなるのでしょうか?というのが質問の趣旨です。
この人も「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったこと」(2条15号)の有無によって異なってきそうです。
以下、「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったこと」がある人を「経験者」、そうでない人を「未経験者」といいます。
1.「経験者」
a.取締役に選任された時から業務執行をするまで
 ⇒社外取締役でも業務執行取締役でもない取締役
b.業務執行をした時以降
 ⇒業務執行取締役
2.「未経験者」
a.取締役に選任された時から業務執行をするまで
 ⇒社外取締役
b.業務執行をした時以降
 ⇒業務執行取締役
こういうことになるのでしょうか?
だとして、会社法は
(1)1.a.における「社外取締役でも業務執行取締役でもない取締役」なる存在を想定しているのでしょうか?
また
(2)2.a.において「社外取締役」が業務執行をすることもあること、および「社外取締役」が業務執行をしたとたんに「社外取締役」でなくなるということを想定しているのでしょうか?(私は社外取締役はずっと業務執行はせず業務執行取締役の監視にあたるもの、と考えていましたので)。
そもそも上記のような解釈で正しいのでしょう?
投稿 息子 | 2008年7月 7日 (月) 05時44分
A19
(1)普通に存在します。従業員で働いていた人が、取締役に選任されたけど、単なる平取締役だという場面ですよね。
(2)社外取締役が、業務執行をしてしまったら、社外でなくなるということを規定するために、そういう定義を置いています。

Q20
2007年2月23日のブログ『種類株式と株主割当て』で、「322条1項は、明文上第三者に対する募集株式の発行については、原則として適用されないということになっているのは発行可能種類株式総数の範囲で、募集株式が発行されるのは、原則として、他の種類株主は覚悟しておきなさい。という趣旨です。つまり、配当優先株式の発行可能種類株式総数が1000株で、現在300株しか発行されないのなら、後700株について、募集株式の発行がされるのは、予想すべきことなのです。」とありました。このように会社法を理解する場合に、199条や200条のように、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会が必要となるのは何故なのでしょうか。
是非教えてください。
投稿 | 2008年7月 7日 (月) 18時17分
A20
 すいません。質問の趣旨がわかりません。譲渡制限株式の話ですか?

Q21
(1) 刑事又は民事訴訟において、書証として取締役会議事録の提出の要求がなされた場合、会社は拒否できるでしょうか。会社法371条3項、4項又は6項を拒否の根拠として主張して、認められうるでしょうか。
A21
 どのような根拠で、提出の要求がなされたかにより、刑事訴訟法・民事訴訟法によって規律されます。

Q22
取締役会議事録について、民事訴訟法271条4号ニの自己利用文書に該当するとして、文書提出を拒否することができるでしょうか。
A22
自己利用文書には該当しないでしょう。

Q23
米国訴訟のディスカバリー手続において取締役会議事録の提出を求められた場合、日本の会社法又は民事訴訟法を根拠に拒否することは難しいと考えられます。しかし上記(1)又は(2)の問いで「拒否できる」場合があるとしたら、日本の訴訟ですら提出義務がないのに、外国の訴訟で提出義務があるとされるのはおかしいように感じますがいかがでしょうか。
投稿 訴訟担当見習い | 2008年7月 8日 (火) 00時14分
A23
主権や法律に対する考え方の違いですが、米国法は米国法、日本法は日本法なので、「おかしい」とはいえません。

Q24
株主のプライバシーを事由に、閲覧禁止という立場ですか?その発想は、本当に株主のために考えたものでしょうか?自分は、ブログ全体に流れる、経営者御用達弁護士の限界を感じます。
投稿 カール | 2008年7月 8日 (火) 21時37分
A24
 カールさんのご家族が、上場株式に投資しただけで、家族の氏名・住所が第三者に知られることに違和感がないのなら、私の気持ちは分からないでしょう。
 また、私のようなビジネス法務で生きる弁護士は、株主名簿の閲覧請求権を拒む立場に立つこともあれば、請求するような立場に立つこともあります。カールさんは、企業が株主になることを忘れています。この問題は、経営者御用達かどうかは、無関係です。

Q25
葉玉先生こんにちは
2006年1月4日の解説についてご質問させていただきたいのですが、
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50447629.html

取締役会設置会社については、365条2項において
「……第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。」
という規律があり、 ここでいう「取引をした取締役」は、
①直接取引では、利益相反取引の相手方である取締役+会社側の代表取締役・代理人である取締役 (②間接取引 略)
を指します。 とあります。
ここで質問ですが、そうすると、2人の取締役が同じ報告をしなければならない、ということになるのでしょうか?それは(少なくとも実務的には)ナンセンスだと思いますが……
また、仮に会社側の代表取締役のみが報告した場合はどういう問題になるのでしょうか?
投稿 こども | 2008年7月 9日 (水) 18時49分
A25
 連名で、どちらかが報告すればよろいのではないでしょうか。
 ただ、言い分が食い違うことだってありえますから、そのときは別々でしょう。

Q26
会社法239条について質問させてください。
239条の委任をする場合でも、募集新株予約権の内容自体は確定的に定める必要があり、会社法236条1項各号の事由(行使に際して出資される財産の価格等)の決定まで委任することはできないと理解しております。
 それでは、239条に基づいて委任をうけた取締役(会)はいったい何を決定できるのでしょうか。
1、新株予約権を発行する数(上限の範囲内で)、とか、払込金額(下限以上で)ということでしょうか?
2、その他にも決定できる事項はありますか?
投稿 登記職人見習中 | 2008年7月 9日 (水) 21時01分
A26
 238条1項のうち、239条1項各号に掲げられていないものです。

Q27
6月22日つけの勉強法に関して質問があります。先生は、適切な資料を、熟達者より尋ね、自分なりの言葉でまとめよ、とのことだったのですが、センスがないのか、司法試験科目に関しては、網羅的に理解したということもあって、ノートがながくなりがちになってしまいます。
 最低限の情報となると、法律の場合、定義、要件、効果、趣旨ということになるのではないかと思うのですが、正直なところ、それだけをまとめることは、市販されている教材もあることですし、あまり効果を発揮するように思えないのです。それでも、記憶の定着などの効果を信じ、作成するべきでしょうか。
 反対に、上述の通り、網羅的に(論理の運びを正確かつ到密に)行おうとすると、ものすごい分量のものができてしまいます。これでは、基本書を何度も読み返したほうが、効率的なように思えるんです。
 もしよろしければ、先生作成のノート、あるいは、その抜粋という形でもお示しいただけないのでしょうか。
投稿 司法試験受験生 | 2008年7月 9日 (水) 22時46分
A27
 まとめること自体が勉強です。
 手を動かすことによって、身につくのです。
 読むだけでは身につきません。

Q28
ロースクール2年生です。
新司法試験の勉強素材についてお伺いします。
新司法試験に1発合格するために,勉強素材を以下の3つに絞り込み,何度も繰り返すことを計画しています。
1.市販の予備校テキスト(情報集約・加工用)
2,新旧司法試験論文過去問集
3.新旧司法試験短答式過去問集(一部新作問題込み)
基本書も判例百選もケースブックも熟読しない,というお粗末な計画です。
しかし,新司法試験までの2年弱という短い時間,および,私の現在の能力を考えると,上記3つを何度も繰り返して身につけるのが,私にとっては精一杯のように感じています。

司法試験受験生の態度・覚悟として甘いでしょうか。
葉玉先生のご意見を伺えると幸いです。
投稿 ロースクール2年生 | 2008年7月11日 (金) 22時30分
A28
自分にあった勉強なら、それでも良いでしょう。

Q29
 地方の実務家です。
 全部取得条項付種類株式を利用した少数株主排除と株主総会決議無効原因について。
 例えば,普通株式のみを発行している会社がありました。発行済み株式総数は490株で,親会社が400株を所有しています。残り90株は少数株主です。
 少数株主を完全に排除するため,普通株式を全部取得条項付株式に転換し,会社がその全部取得条項付株式を取得し,その対価として別種類株式を交付することとしました。その割合は,全部取得条項付き株式100株につき,別種類株式1株です。これにより、親会社に整数の別種類株式を与えるが,少数株主には端数株式のみを与えて,会社法234条の手続きを経て現金を交付することを予定しています。これに必要な定款変更や株主総会特別決議は一日で完了しました。
 この場合,結局のところ,親会社には別種類株式を与えるが,少数株主は別種類株式の整数を取得する余地はないことになります。この場合,会社法171条2項や,株主平等原則に違反するなどとして,株主総会特別決議の無効原因となりうるでしょうか。
 先生の御見解や,参考文献等があればご教示ください。
投稿 | 2008年7月11日 (金) 23時
A29
 無効原因にはならないでしょう。
 決議取消事由は、ありえます。
 ただ、対価が適正であれば、著しく不当とはいえないと思います。、
 通常は、反対株主の買取請求で権利保護を図るべき場合です。

Q30
葉玉先生、はじめまして。
私は(20代後半の)大学1年生です。
2010年現行司法試験に合格するために、伊藤塾の本科生として司法試験対策に取
り組んでいます。
私が通っている大学では、単位取得要件として、新書を月最低10冊読んでレポ
ートとして提出する講義があります。
読書は楽しいのですが、司法試験対策に使える時間が激減してしまいますが、読
書と司法試験合格に相関関係はありますか?
例えば、読書をすればするほど論文を書くスピードや判例を読むスピードが速く
なるなど。
A30
読書は役に立ちますが、読書だけでは論文を書くスピードや判例を読むスピードは速くなりません。

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2008年7月 1日 (火)

競業避止義務における名義説

先週、告知するのを忘れていましたが、好評をいただいております
インターネット無料公開講座 会社法マスター115講座で学ぶ会社法
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115web_gaiyou.html

  第3回
がアップロードされています。
 会社法に興味のある方は、ぜひご覧下さい。
 台本無しのぶっつけ本番でやっていますから、2ちゃんねる等で若干「言い間違い」を指摘されていますが、可愛い間違い(自分で可愛いというな、というツッコミがありそうです)なので、その部分は
  「葉玉、アホやなあ」
と一言言って聞き流してください。

今日は、2つネタがあります。
 一つは、東京永和法律事務所の皆さんのTMIへの加入
 もう一つは、競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
です。

1 東京永和法律事務所の皆さんのTMIへの加入
 事務所による公表前だったのですが、日経で、升永英俊弁護士を始めとする東京永和法律事務所の皆さんがTMIに加入するという報道がされました。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080628AT1D2705T27062008.html

升永先生は、日本で最も有能かつ有名な訴訟弁護士といっても過言ではないほど訴訟に精通されている方です。

青色発光ダイオードの事件が特に有名ですが、税務訴訟等においても画期的な判決を得られており、法曹界において、升永先生が民事訴訟の第一人者であることを否定する方は誰もいらっしゃらないでしょう。

このニュースについて、「TMI説明会参加」さんから
「葉玉先生,TMIの説明会は人柄重視という点を全面に出しており,興味深かったです。ところで,TMIによる東京永和法律事務所の吸収は,TMIのクライアントにとってどのような効果をもたらすのでしょうか。」
というご質問を受けました。

 今回の加入により、TMIのクライアント様にもたらされる効果のうち最大のものは、
  「極めて有能な訴訟弁護士に訴訟を依頼することができる」
ということでしょう。
 升永先生は、職務発明等で会社を相手方とする訴訟も手がけられてきましたが(当然加入にあたってコンフリクトチェックをしています)、会社を代理した訴訟も数多くされています。
 TMIのクライアント様にとっては、紛争解決のための強力な武器を手にいれたと言ってもよいと思います。

 TMIは、もともと大手事務所の中でも訴訟が多い事務所だと自負しています。アソシエイトでも、一人2-3件の訴訟を抱えているのがザラで、難しい訴訟を20件以上抱えている猛者もいますから、訴訟はTMIの重点分野の一つであることは分かっていただけると思います。
 ですから、TMIに東京永和法律事務所の皆さんが加入していただくことにより、ノウハウの共有等を通じて、訴訟部門が一層強化されるというメリットも非常に大きいです。
 私も、訴訟をやっていますので、升永先生のお知恵をお借りする日が来るのを楽しみにしています。

2 競業避止義務における「自己または第三者のために」の解釈
 司法試験的ネタです。
 上智で教えているときに、競業避止義務(会社法356条1項1号)における「自己または第三者のために」の解釈について質問を受けました。

 この「ために」については、
  自己または第三者の名義で(自己または第三者が権利義務の主体となる)という名義説
  自己または第三者の計算において(自己または第三者が実質的な損益の帰属主体となる)という計算説
の対立があります。

 この点、私は名義説を採っているのですが、江頭先生等有力な商法学者の皆さんが計算説を採られている(「株式会社法」第二版399頁等)ことから、上智で
  葉玉先生を信じていいんですか?
という質問を受けました。

 私を信じる信じないは別として、私的には、「名義説しかないだろう」と思っています。

 介入権が廃止された会社法において、「名義説」と「計算説」の違いが出てくるのは
   会社名義ではあるが、自己または第三者の計算で取引をした場合に、競業避止義務が生ずるか
ということだけです。

江頭先生は、この場合について、
  名義説では、「会社の知名度を利用し、取締役・第三者の計算(費用負担を含む。)で行う行為を規制できない」
という指摘をされています。

 この指摘に対する反論を考える前提として、「名義」とは何かを、もう少し具体化しておく必要があります。

 たとえば、株式会社松真商店(代表取締役 松真本男)の取締役であるサミーが、会社の知名度を利用して競業取引をしたとしましょう。

 会社の知名度を利用したということは、「株式会社松真商店」という名で取引をしたということです。
 しかし、サミーさんが、この取引を「株式会社松真商店」に効果帰属させる意思で行ったかというと、そうではない場合がほとんどではないでしょうか。
 すなわち、「名板貸し」という制度があるように、サミーさんが、「株式会社松真商店」という他人の商号を使用して、自己に効果を帰属させる意思で取引を行ったということです。
 この「自己に効果を帰属させる意思で、他人の商号を相手方に示す場合」を計算説の論者が「自己名義」と判断するのか、「他人名義(会社名義)」と判断するのか、よく分からないのですが、私は、これは「自己名義」であると考えます。
 名義説は、誰に法的な効果が帰属するかを問題にするので、サミーさんが、自己に法的効果を帰属させる意思で、実際に、サミーさんに法的効果が帰属する以上、「株式会社松真商店」は、サミーさんによる自己名義取引となり、競業避止義務の対象となるという理解です。

実際的にも、サミーさんは、株式会社松真商店が、この取引で生じた売掛金債権を取り立てたり、取得した財産を松真商店のものと主張されることを許したくないでしょう。
 また、サミーさんには代表権がないので、仮に、サミーさんがこの取引を会社に効果帰属させる意思で行ったとしても、原則として会社には効果帰属せず、サミーさんが、無権代理人の責任を負うだけですから、わざわざサミーさんが「会社に効果帰属させる」と考えたとも思えません。
 とすると、こうした商号の不正利用のほとんどは、「会社名義」ではなく、あくまでも、会社の商号を利用したサミーさん名義の取引としてされるのがほとんどであろうと思います。
 もし、計算説が、こうした「自己名義」として会社の商号を利用することをもって、「会社名義、自己の計算」と考えているということであれば、私の言うところの「名義説」と「計算説」は、同じです。

他方、計算説が、「株式会社松真商店に法的に効果帰属するが、自己または第三者の計算で行われた場合」という場面を想定しているのであれば、356条1項1号は、あまり意味のない規定になってしまうように思います。

そもそも、取締役に競業避止義務を課す意味は、説明義務を尽くさなかったり、承認を得ないで取引をした取締役に対する損害賠償責任について、「得た利益」の額を損害と推定することにあります(423条2項)。

しかし、会社に取引の法的効果が帰属しているとすれば、
  その取引によって取得した債権や物は、会社に帰属している
わけですから、少なくとも、会社は、現存している債権や物について、特に取締役や第三者の承諾を得なくても、当然に、直接権利を行使することができます。
 また、現在、取締役等が物を占有しているのならば、物上請求権で取り戻しをすることができるし、もし取締役等が売掛金を取立てて私的に流用していたとすれば不当利得返還請求権を行使することができます。
 とすると、その場面では、過失責任である423条1項よりも、無過失でも請求できる物上請求権や不当利得返還請求権の方が会社にとって有利です。

 しかも、423条2項の「利益」は、おおざっぱにいえば「収益-費用」ですから、会社は、収益と費用の両方について立証責任を負っていますが、不当利得返還請求権の場合には、会社はとりあえず「会社に法的に帰属する財産を取締役が私的に流用した」というこ事実を立証すればよいので、その点でも、不当利得返還請求権の方が有利です。
 また、計算説では、「会社に帰属している財産」と423条2項の推定規定の関係をどのように考えるのか、よく分かりません。会社に帰属している財産については、「利益」から除くのでしょうか?

 あえて、計算説で423条2項が生きる場面があるとすれば
  ①無権代表であるために会社に法的な効果帰属が生ぜず、取締役が無権代理人としての責任を負う場合において
  ②取締役に対する損害賠償責任を追及する
という場面か
  ①会社に法的効果が帰属し
  ②第三者の計算で行われた取引について
  ③すでに第三者が費消した会社財産について(会社財産が現存していない)
  ④取締役に対する損害賠償責任を追及する
という場面のどちらかになると思われます。

 前者は、取締役に法的効果が帰属するのと同一の効果が生じているので、名義説と事実上、異なりません。
 後者については、そもそも、そのような狭い領域を想定して、推定規定が置かれたものと考えるのは不自然ですし、第三者に対して不当利得返還請求権を行使できるにもかかわらず、取締役に対する推定規定を置く必然性もよく分かりません。

 他方、名義説に立てば、当該推定規定は
  取締役や第三者に法律上の効果が帰属し、会社が、取引によって取得した物や債権を取得することができないので、取締役に対する損害賠償によって、そこで得た利益の返還を求めるための規定
として意味を持ちます。
 こちらの解釈の方が推定規定の存在意義をよく説明できると思います。

 以上の理由により、私は、名義説の方が合理的で、かつ、実質的妥当性を有するものと考えています。

(質問コーナー)
Q1
100問の85で、「自己株取得が会社支配の公正害するという弊害については、主に『取得した自己株式の譲渡について特段の規制がなかった』ことから主張された」、のくだりが理解できません。
その主張は、自己株譲渡に規制がないことが、なぜ会社支配の公正を害することにつながると考えていたのでしょうか?                                                
投稿 アンナ | 2008年6月22日 (日) 09時57分
A1
 説明すると長くなるので、機会をあらためて説明します。
 ふに落ちなければ、とりあえず無視しても結構です。

Q2
>他方、正規の料金(通常、メーターで料金を算定しているはずです)を支払ったときに、タクシーから、ビールやおしぼりをサービスとしてもらうのは、犯罪でもないし、「倫理に反している」といって目くじらを立てるのは、馬鹿馬鹿しいことだと思います。
自由競争ならその通りだと思います。
ただ、実際はあの人達は自分に利益を与えてくれる特定の個人タクシーを携帯電話で呼び出して使っていたそうです。
そりゃ確かにどのタクシーでも料金は同じですけど、その中のどれかを選ぶときに
自分に物や金券をくれるタクシーを選ぶのは適切なのか微妙な気がします。
投稿 | 2008年6月22日 (日) 16時00分
A2
 「適切」かどうかは、評価が分かれるでしょう。
 同じ値段なら、普通のタクシーよりベンツのタクシーを呼びたくなるのは、「不適切」でしょうか。
 いずれにせよ「水増し」が違法であって、サービスを受けること自体は、違法ではないという一線を忘れるべきではありません。

Q3
サミーさんの方が,「水増し」の問題と、「ビール」の問題を混同しているようですよ。
「ビール」の問題はそもそも存在していないというか,たいして問題視されていません。一部の低レベルなコメンテーター等を除き,誰も問題視していないことを問題視されているような書き方をしていたので,私は感覚の違いを指摘し,むしろ論点を区別することを進言したのですが・・・
サミーさんの先日の記事には,「サービスのビール」という言葉がある一方,「ビールをキックバック」ともはっきり書かれてありますが,これこそ「水増し」の問題と混同していることのあらわれです。
好きなタクシーを選んで乗るということは,入札のしようがないことので,随意契約のお礼としてのビールのサービスが100%違法というつもりはありませんが,メーターを過剰にカウントしたり,チケットに過大な金額を記入することの温床になっていることは,TVレベルでの証言も複数なされています。そういう状況下で,公務員はサービス残業で大変なんだから,ビールくらい大目に見ろ的なコメントは,空気が読めていないと言われてもしかたないと思います。関係はありませんが,スノー印の社長のコメントを思い出しました。
ちなみに,いわゆる霞ヶ関の公務員に関しては,残業が大変なのは分かりますが,サービスで残業していることに,批判こそすれ同情の余地はないと思います。
投稿 ぉぃぅ | 2008年6月22日 (日) 19時38分
A3
 記事を読んでいただければ分かりますが、私は、「世間の人」が「キックバック」したと騒いでいると書いただけです。私自身は混乱していません。
 ぉぃぅさんのコメントを見て、こうした誤解を生むからこそ、居酒屋タクシー報道など大きく取り上げるべきではないと意を強くしました。
 不適切な報道にもとづき世論が誤解しているときに、「空気を読んで」その誤解をそのままにするのは、おかしいことです。
 また、「温床になっていること」が真実なのかどうかの検証も必要でしょうし、そもそも「温床に鳴っていること」と「実際に水増しをしたこと」は、明確に区別すべきです。
 「水増し」は処分の対象すべきですが、「水増し」なしで、単にビールをもらっただけの公務員は処分すべきではありません。

Q4
立案担当者が、会計書類と株主名簿の性質・制度趣旨の相違を捨象して安易に閲覧拒否事由を揃えたため、高裁は苦労したのです。無理のある解釈論を展開しなければ妥当な結論を導けない規定は、立法論的には間違っています。高裁決定は、3号を実質的に無効化したものと私は思います。なお、企業秘密の保護と株主のプライバシー保護とは、全く次元の異なる問題でしょう。
投稿 閲覧拒否事由 | 2008年6月22日 (日) 23時59分
A4
 高裁決定は、3号を無効化していません。情報の利用目的を制限することや、取得した情報を管理することを株主が疎明しなければならないという規範は、3号なしではありえません。
 株主の情報は、本来、企業秘密にすべき情報ですから、企業秘密と株主のプライバシーは切り離せません。顧客情報と株主情報は、保護の重要性において、区別すべきではありません。
 株主から議決権勧誘が行われた総会では、必ず一般株主から
  「私のところに○○から手紙が来た。会社は、株主情報をきちんと管理しているのか」
という厳しい質問が来るのが現実であることを認識すべきです。
 
Q5
356条1項2号3号の利益相反取引についてなのですが,2号が直接取引,3号が間接取引とされていますが,両者の区分がよくわかりません。

例えば,①P社取締役Aが取締役を務めるQ社とP社が取引をする場合は,当該取引はP社にとって直接取引か間接取引かいずれになるのでしょうか?
また,②P社取締役Aが30%の株式を有するQ社とP社が取引をする場合は,当該取引はP社にとって直接取引か間接取引かいずれになるのでしょうか?
投稿 受験生 | 2008年6月23日 (月) 09時28分
A5
 ①は、取締役AがP社に対し意思表示をしていないならば、直接取引ではありません。
 単にQ社の取締役であるというだけでは、間接取引にもなりません。
 ②直接取引にはなりません。間接取引にもならないでしょう。

Q6
裁判員制度による裁判に係る上訴との関係についてですが、
最高裁の広報活動でもマスコミでも、ほとんど触れられていないように見受けられますが、なぜですか。意識的に?
この点に関する広報内容次第では裁判員制度の危惧も緩和されると思います。
この制度と上訴との関係が今後の課題であるとの学術論文も拝見しました。
投稿 地方公務員OB
A6
私は、裁判員制度は間違った制度であると思っていますので、コメントを差し控えさせていただきます。

Q7
会社法の条文を見ていて思ったのですが、
332条4項3号「その発行する株式の全部の内容として~」
336条4項4号「その発行する全部の株式の内容として~」
の両者の条文は同じ意味内容を有しているのでしょうか?
結構会社法は細かい条文の文言まで拘っておられるように感じております。
これは単に言葉の順番が入れ替わっただけなので意味としては同じかと思いますが、もし同じ意味なのであれば統一してもらいたかったです。
投稿 | 2008年6月23日 (月) 12時33分
A7
 そうですね。気付いたときには、遅かったという感じのところです。

Q8
瑣末な件での質問ですが、「役員の欠格事由」で、役員は、破産法の犯罪者でなければ、現に破産者であってもよいのでしょうか。
委任ですと当然、破産者は除かれると思うのですが・・・
「業務執行確認書」を役員に求めている内に気になり始めて
しまいました。
よろしくお願いいたします。
(小会社の閑散役)
投稿 ご苦労さん | 2008年6月23日 (月) 15時57分
A8
 頻出論点です。
 破産者であっても、役員になることはできます。
 破産は、委任の終了事由ですので、在任中に破産手続きの開始決定がされれば、一旦、資格を失いますが、再度選任することはできます。

Q9
 判例によれば、多額の借財につき、取締役会の決議がなく、相手方が悪意又は有過失であれば、当該借財の法律関係は無効とされます。
 以上の状況を前提にして、当該会社が非公開会社で、株主の全員が当該借財につき同意している場合には、相手方が悪意又は有過失であっても、当該借財についての法律関係は有効になるのでしょうか?有効になる場合、その理由は、取締役会は、究極的には株主の利益のためにあるから、ということでよろしいのでしょうか?
投稿 べんじ | 2008年6月23日 (月) 17時55分
A9
 そうですね。株主全員の同意ならば、有効としてもいいかもしれませんね。理由も、そんなところでしょう。

Q10
現行法上、全部取得条項付株式は、種類株式として108条でのみ発行可能であり、107条により全部の株式にかかる条項を付すことはできません。
よって、いわゆる100%減資を行うためには、全部取得条項を付する定款変更に先立って、何らかの種類株式(いわゆる、当て馬株式)を定める定款変更が必要とされています。
しかし、100%減資の後に行われる募集株式の発行については、先の「当て馬」株式ではなく、取得した全部取得条項付種類株式を交付することも可能とされています(論点解説Q125)。
では、なぜ、このように「当て馬株式」を発行してまで全部取得条項付株式を108条の種類株式とのみする必要があったのでしょうか?取得条項付株式と同様、発行する全部の株式の内容として全部取得条項付株式を発行できる旨の定めを置くことができなかった理由はどこにあるのでしょうか?
投稿 全部取得条項付種類株式 | 2008年6月23日 (月) 18時15分
A10
 種類株式にする合理的理由はありません。
 偉い人の趣味です。

Q11
論点解説のQ122で、敵対的買収防衛策として全部取得条項付種類株式を用いることができるか、という問に対し、買収者の株式だけを取得することはできず、また、買収者のみに異なる対価を交付するようなことはできないから、それ自体を敵対的買収防衛策として機能させることは難しいとあります。
例えば、100%減資と同様に、いったん全株式を金銭等を対価に取得して、その後、非敵対的買収者のみを対象として株式を発行する、という方法により、敵対的買収者を排除することには問題ないのでしょうか?
法律上の問題はないが、財源制限がかかるから、現実問題として買収防衛策のために100%減資を実施することは考えにくい、と理解してよろしいでしょうか?
投稿 全部取得条項付種類株式 | 2008年6月23日 (月) 18時15分
A11
一旦、株主を0にするのならば、それもよいでしょう。
新株発行の決定を取得前にやってしまうと、新株発行の差し止めをくらいそうですね。

Q12
>A8
  学問として「法律を体系化する」ということがどういうことなのか、よく分かりません。
(中略)
…何か、会社法立案担当者の真骨頂、といった趣のコメントですね。
このブログでは長年、会社法の批判者たちからいろんな論争がふっかけられ、
サミーさんが決然と反論する、というのが繰り返されている。
しかし、いつまでたっても今一つ議論が噛み合わないように見えるのは、
こういう根本的な考え方の相違のせいなんでしょうね。
投稿 | 2008年6月23日 (月) 20時12分
A12
 私は、従来の通説が、合理的といえなくなっている部分については、率直に問題点を指摘してきました。その指摘をベースに反論が繰り広げられれば、学問的には進化です。
 他方、単に「そんなこと聞いてなかった」という手続論の批判だと、学問的には無意味です。
 法律は体系的なものであり、ある部分を変えることにより、別の部分を変えざるを得ないということは、よくあります。なぜ、改正されたのかという理由をできるだけお話しするのが私達の責任であると思います。

Q13
株式移転無効の訴えについて質問させて下さい。
 株式交換・株式移転は、消滅する会社はなく、各社の財産の変動もないことから債権者異議手続きを要しません。
 しかし、新株予約権付社債についての社債権者は、株式交換・株式移転によって債務者が変わるわけですから、例外的に債権者異議手続きを経る必要があります。(789条1項3号、810条1項3号、799条1項3号)。
 そこで、株式交換については承認をしなかった債権者は株式交換無効の訴えを提起できるわけですが(828条2項11号)、どういうわけか、株式移転無効の訴えの提訴権者に株式移転の承認をしなかった債権者は挙がっていません(828条2項12号参照)。立法ミス(?)でしょうか。
 現状としては、828条2項11号を類推適用して株式移転について承認をしなかった債権者は、株式移転無効の訴えを提起できると解するほかないような気がします。いかがでしょうか。
投稿 complex | 2008年6月23日 (月) 23時11分
A13
 3年前くらいに答えたような気がします。
 当事者適格に関する規程を類推適用できるかどうかは微妙な気がしますが、とりあえず、そのような主張をするのも、よいかもしれません。

Q14
葉玉先生の勉強方法は非常に参考になります。
一つお尋ねしたいのですが、
 2 調べたことを、どんどん自分の言葉で文章化し、声に出して読んでみる
ということは、まさしくその通りだと思います。
ローの実務家の教員の方も同じ趣旨のことをおっしゃっています。
私も論文を読んだり、激しい対立のある議論などを勉強するさいには
自分で文章化をしています。
しかし、そのように文章化をしていると、情報が多元化してしまうように思うのです。
葉玉先生も、以前優秀な人は一冊のぼろぼろの本を持っている
とおっしゃっておられましたように、情報の一元化は重要だと思うのです。
この場合、文章化したテキストは、どう一元化に利用したらよいのでしょう?
よろしければ、葉玉先生のお考えをお聞かせください。
投稿 マラネロ | 2008年6月23日 (月) 23時54分
A14
 一冊のノートにまとめればよいのではないでしょうか?

Q15
刑法のお話で恐縮です。
(1)罪数処理の問題なのですが、有償処分目的であっせんの依頼をうけて、盗品を保管し、その後、依頼どおりあっせんした者には、256条2項の盗品保管罪と、有償処分あっせん罪が成立し、保管行為は、あっせん行為の前提として類型的に評価され尽くしているとして「有償処分あっせん罪のみ」が成立するということでよろしいのでしょうか。
(2)とすると、この場合は数個の行為が異なる構成要件にまたがる場合の「包括1罪」ということになるのでしょうか。
(3)あるいは、そもそも、保管罪とあっせん処分罪が成立し、両者は併合罪ということになるのでしょうか(法定刑が同じと思いますので、併合罪としていいものか、悩んでおります)。
一般的基本書などでは触れていない箇所のようで、ご教示いただけますと幸いです(罪数処理は判例で触れていない場合には、実務家の方々は何を参考にされていらっしゃるのでしょうか。。)。
投稿 一般受験生 | 2008年6月24日 (火) 06時40分
A15
 包括一罪でしょね。
 実務家の罪数処理はフィーリングですね。よく分からなければ併合罪です。

Q16
「会社法マスター115講座(第2版)」図表84-1の1行目、
 持分会社の常務を行う権利(590Ⅲ)  については、
591Ⅰ後段があるため、「業務を執行しない社員の権利」には含まれないのではないですか?誤植でしょうか??
それとも、業務を執行する社員が一人しかいないときは、業務を執行しない社員にも持分会社の常務を行う権利(590Ⅲ)があるということでしょうか?
投稿 元 | 2008年6月24日 (火) 15時21分
A16
 誤植情報は、100問返品騒動以来、とりあえずお聞きして、そのうちまとめて発表することにしています。

Q17
新株発行予約権の発行については払い込みの相殺が可能なのに、なぜ行使段階では相殺はできないのでしょうか?
投稿 ドモホルンリンクル | 2008年6月24日 (火) 23時12分
A17
新株予約権は、無償でも発行できるし、単なる債権なので、発行時の相殺は特に禁止されません。
行使段階では、株式が発行されますので、現実の払込が重視されます。

Q18
株主Aが基準日後に株式をBに譲渡した場合で、総会決議ではAが議決権を行使したという場合において、その総会決議において決議取消訴訟を提起することができるのはAとBのいずれなのでしょうか。それとも双方でしょうか。
基準日制度が基準日時の株主を総会時の株主だとする制度である以上、取消訴訟についてもAができるとすべきだと思う一方、831条の条文上はあくまで訴訟提起時における株主を想定しているようですがいかがでしょうか。
A18
 訴訟提起時の株主です。Aは、もう会社と関係ないので、決議がなんであれ、構わないのではないでしょうか。

Q19
一般的に、取締役選任決議について瑕疵があり、その決議が取り消された場合においては、表見法理により取引相手等の第三者を保護できると説明されています。この議論というのは、取締役の第三者に対する責任などにおいては意味がわかるのですが、取締役の会社に対する責任についても妥当する議論でしょうか。実質論として、取り消されるまでに取締役が行った行為については、会社に責任を負うのが当然とも思えるのですが、会社が第三者でないとするとどういたロジックがあるのかわかりません。
A19
 会社の善悪は、代表取締役を基準にするので、普通、表見法理というのは難しいと思います。そもそも、損害賠償責任については、表見法理の問題ではないでしょう(外形標準は別として)。
 取締役が悪ければ、不法行為責任を問えばよいと思います。

Q20
上と関係するのですが、一般的に、選任決議が取り消されたとしても、それによって報酬を当然に返還する必要はないと説明されます。これは実質的には当然なのですが、形式的には法律上いかなる論理を踏んでいるのでしょうか。
A20
 取締役は、対価として労務を提供しているため、不当利得の要件のうち、利得がないということなのでしょう。

Q21
「会社法と実務」の無料講義を拝聴しております。非常にわかりやすく,真剣にDVDの購入を検討しているところです。(発売はいつ頃の予定なのでしょうか?)
さて,この「会社法と実務」の第3回講義で,代表権の制限について,対抗できない「第三者」は,直接の第三者に限られる,と説明しておられましたが,これは一般的な見解なのでしょうか?
表見法理的な規定については,それが直接の第三者に限るか否か,常に問題になるかと思うのですが,
①会社法908条の登記(特に2項)
②代表取締役の代表権の制限(349条5項)
③表見代表取締役
④手形法8条の責任
について,それぞれ,直接の第三者に限るのか,それとも広く第三者まで含むのか,について,サミーさんのご見解をいただけませんでしょうか?
なお,私は,直接信頼が必要な規定(③)については,保護されるのは直接の第三者に限定されるが,信頼をしていないものを保護しない規定(①,②,④)については,保護されるのは直接の第三者に限定されない,というのが判例等の態度かと考えています。具体的には,
①→直接の第三者に限らない
②→直接の第三者に限らない
③→直接の第三者に限る(民法の表見代理と同じ。)
④→直接の第三者に限らない
と考えておりました。
表見法理,ということを突き詰めていけば,いずれも直接信頼することが必要なのでしょうが,少なくとも登記に関しては,判例は直接登記を見て信頼していることを要しないとしていますし,②についても,表見支配人に関して最判昭和37年5月1日は,手形法の事案において,直接の相手方に限らず一般の第三者を含むと解したと評されているようで
投稿 めるも | 2008年6月25日 (水) 12時25分
A21
 そうですね。自説を言えとわれれば、めるもさんと同じです。
 おそらく、「善意」のみを要件としている規定は、転得者も含むと解してよいのではないかと思います。
 ただ、第三者が含まれるかどうかは、解釈が分かれるところであり、第三者の範囲を広げる解釈を是とするには勇気がいります。

Q22
取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付株式を取得する際の財源規制について質問させてください。
取得請求権付株式や取得条項付株式の取得の対価として株式以外の財産が交付される場合,会社法166条1項,170条5項によれば,財源規制の対象になりますよね。
株式以外の財産が金銭である場合は当然でしょうし,社債である場合もなんとなくはわかるのですが,新株予約権と新株予約権付社債の場合までが財源規制の対象になっているのはなぜなのでしょうか?
新株予約権であれば会社財産は全く流出せず,財源規制する必要がないように思えてしまうのですが,いかかでしょうか?
さらには,全部取得条項付株式の場合は,取得対価が当該会社の株式であっても財源規制の対象になりますよね(461条1項4号)。
投稿 飛鳥食品 | 2008年6月25日 (水) 16時33分
A22
 対価の交付により、資産が減少するのであれば、財源規制をかける必要があります。
 ご指摘の有価証券の交付により、資産が減少するかどうかを検証してみましょう。

 なお、全部取得条項付種類株式の取得対価が当該会社の株式の場合には、財源規制の対象とはならないと思います。

Q23
荏原製作所の定時総会で、計算書類が報告事項から決議事項になったことにつき、先生は、決議事項にする必要があったとお思いですか?
投稿 senchan | 2008年6月25日 (水) 23時01分
A23
事実認定の問題と、リスクヘッジの問題です。
現場にいないと判断しづらいですね。

Q24
A社とその完全子会社B社があります。A社の取締役甲はB社の代表取締役を兼任しています。A社は株主総会の決議により年額100百万円以内の取締役の報酬枠があります。このような状況で、①甲がB社から年額50百万円の報酬を受けることは問題ないでしょうか?②甲がB社から年額200百万円の報酬を受けることは問題ないでしょうか?
①、②それぞれ、B社の株主総会で当該報酬について承認されているとの前提です。どうか宜しくお願い申し上げます。
投稿 心 | 2008年6月25日 (水) 23時48分
A24
①② B社の総会決議があれば問題ありません。

Q25
今日の時事通信の「修習生約2400人のうち、現時点で約500人の就職が決まっていない」との記事(参照http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2008062500859)には正直びっくりしました。
法曹サービスの需要が今まで予測されていたように伸びないのなら、確かに同じパイの奪い合いになってしまい、新しく法曹の世界に入るものが活躍できる機会も少なくなると思います。 そこで将来法曹の世界に入り込むものとしては、未開拓の法曹の分野を切り開いていくしかないと考えます。 
ところがどうでしょう。 法科大学院では、法律の知識を持った人だけのギルドのようであり、積極的に新しい法曹サービスの拡大になるような努力をされているのでしょうか。 なぜ隣接分野の専門家を講師や、教授として受け入れないのでしょうか。 心理学、社会学、統計学などの他の分野の専門家を受け入れ交流することによって法曹サービスに新しい需要を喚起する起爆剤になると思うのですが。
 弁護士をされて、上智大学法科大学院で教えられている葉玉さんだからこそ率直な質問を投げかけたいです。
投稿 元アメリカ留学生 | 2008年6月26日 (木) 00時09分
A25
 法曹サービスの新しい需要を喚起する役割を、法科大学院に期待するのは無理です。
 隣接分野の専門家はすでにある程度入っていますが、新しい需要を喚起する起爆剤にはなりえません。
 おそらく、その役割を果たせるのは、頭が柔らかく、他人の話に耳を傾ける熟練した弁護士なんでしょう。
 もしかしたら、新人弁護士が捨て身で新分野を切り開くというパターンもありうるかもしれません(多くは、失敗に終わるでしょうが)。

Q26
会社法124条4項、基準日後株主に対する議決権付与に関して、質問させてください。
(中略)
これによれば、
 ・基準日後に株式を取得した者に対して、会社の判断で議決権行使させることを認めている一方で、
 ・基準日株主の権利を害することができない
ということですが、
基準日後株主に議決権を付与するとすれば、
基準日株主の議決権割合が減少してしまいますので、
基準日株主の権利が害されると思うのです。
-------
 基準日後に新たに募集株式の募集により新株を発行した場合には、当該発行した株式についての基準日株主は存在しないので、基準日株主を害する場合が生ずることはなく、124条4項を適用することができる。
 なお、この場合においては、株式会社が基準日後の株主に議決権を認めることにより、基準日株主の議決権割合を減少することとなるが、そのこと自体は、124条4項の規定が予定しているところであり、基準日株主を害する場合にはあたらず、124条4項ただし書は適用されない。(「論点解説 新・会社法 千問の道標」132、133ページから引用)
-------
ですが、
先生の「論点解説 新・会社法 千問の道標」によれば、
基準日株主の議決権割合を減少させてしまうことについては、
「124条4項の規定が予定しているところ」とあります。                  
Q1.具体的に、基準日株主の議決権割合を減少させることが、なぜ、基準日株主の権利を害さないのと言えるのか、お教えください。
Q2.基準日後株主への議決権付与が、全部だけでなく、一部を認めるということであれば、公平性にかけるとおもうのですが、これについては、なぜ、基準日株主の権利を害さないのでしょうか。これは株主平等の原則に反しないのでしょうか?
Q3.上記2つが基準日株主の権利を害しないのであれば、基準日株主の権利を害するとは、いったいどういったケースを指すのでしょうか。
投稿 かしだおレッド | 2008年6月26日 (木) 16時35分
A26
 Q1 公開会社の議決権割合は、基本的に保護されていません。
 Q2 問題意識が分かりません。
 Q3 失念株主に議決権を与えるような場合でしょう。

Q27
取締役会非設置会社の取締役決定書((決議書)作成義務について質問させてください。
 取締役会設置会社では、取締役会議事録作成義務があります。(会社法369条3項、会社法施行規則225条1項6号)
 これに対して、取締役会非設置会社では取締役会決定書(決議書)作成義務はあるのでしょうか?また、仮に作成義務があるとしたら根拠条文及び記載事項についてもご教授願います。お忙しいところ大変申し訳ないのですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
投稿 登記職人見習中 | 2008年6月27日 (金) 11時06分
A27
 作成義務はありません。

Q28
6/22のQ14について追加でご質問させていただきたいのですが、先生のご回答では、
>2 その開示方法は、条文に反しますので、開示分が含まれているならば、せめて、「含まれている」という開示が必要でしょう。
とありますが、この「含まれている」という開示について、具体的には「開示済の金額○○○円が含まれている」等、開示済である具体的な金額まで示すことが必要になるのでしょうか?
投稿 naga | 2008年6月27日 (金) 16時35分
A28
それが安全そうです。

Q29
司法試験の合格レベルの目標とはどういうことをさすのでしょうか?
模試で合格点をとること以外に何か具体的な例がありましたらおねがいします
単純に法律の要件、効果を知ってるだけでもダメだと思うんですけど
やはり事案が解決できるというものですか?
投稿 受験生 | 2008年6月27日 (金) 23時13分
A29
 事案解決能力です。

Q30
前回と今回の動画で「有限責任事業協同組合」という言葉が出てきましたが、正しくは「有限責任事業組合」ではないでしょうか?
投稿 | 2008年6月28日 (土) 00時37分
A30
 そのとおりです。
 台本なしで喋っているので、つい、「事業協同組合」っていっちゃうんですよね。
 「事業協同組合」の仕事をやっていたのでクセになっているんです。

Q31
親会社株式の取得制限について質問させて下さい。
135条において原則親会社株式の取得は制限されていますが、その立法趣旨は自己株式取得のように財源規制がおこなえないから、と習いました。
これはどのように困難なのでしょうか?どの基本書にも具体的な説明がなく、現在も技術的に困難なのかが気になってしまい、論文の理由付けで迷っております。
A31
子会社は、親会社の分配可能額を知らないし、コントロールもできません。
 親会社が、配当して、分配可能額が減っても気付かないことだってあります。

Q32
マスター115のWEB講義をありがたく閲覧しておりますが、こちらの更新スケジュールは不定期なのでしょうか?
次回の更新楽しみにしております。
投稿 受験生・甲 | 2008年6月28日 (土) 21時12分
A32
3回目がアップされました。
残りは有料です。

Q33
 検事についていくつか質問させてください。
  1、検察官の仕事は大変な激務で月の残業時間が130~150時間を超えることも珍しくないと聞いたことがあります。そのような中で葉玉先生はどのようにしてその日の疲れをとって翌日の勤務に向かわれていたのでしょうか。
A33
 否認している被疑者を最初に自白させれば、そんなに働かなくても大丈夫です。

Q34
  2、検察官は17年勤務すると年金の受給資格が得られるとある本(反転~闇社会の守護神と呼ばれて)に書いてあったのですが、本当なのでしょうか。
A34
 知りません。

Q35
  3、以前、論証集の作成についてアドバイスをいただき、現在作成に取り掛かっています。ただ、有職受験生ですので、平日には1日に多くて3時間くらいしか勉強時間がとれません。先生が論文を書けるようになるには1日1通は答案を書くようにとのアドバイスがありましたが上記のように論証カードの作成のため答案の作成が全くできていない状況です。これでは本末転倒のような感じがします。
論証カードの作成と答案作成のいずれを優先させたらよいでしょうか。
      ①論証カードの作成をやめ、答案作成一本に絞る
      ②論証カードの作成を優先し、完成後に答案作成をする
      ③仕事の出勤日は論証カード作成、休日は答案作成
      ④仕事の出勤日に答案作成、休日に論証カード作成
 パターンとしては上記の4通りがあると思われますが、先生が合理的だと思われる順番についてご教示ください。
投稿 不孤 | 2008年6月28日 (土) 23時22分
A35
④でしょうか。

Q36
葉玉先生、いや葉玉教授

葉玉教授が勤められている上智大学法科大学院は大変特徴のある入試選抜をされていると有名です。 つまり、外国語が堪能な受験生を別枠で採用するというものです。

そこで質問です。 外国語の堪能さと法律の習熟度とにはどんな因果関係があるのですか、葉玉教授個人が考える感想をお聞かせください。

投稿 上智ロー受験者 | 2008年6月29日 (日) 01時17分
A36
 因果関係はないでしょう。

Q37
葉玉先生は、最近ベストセラーとなった『公認会計士vs特捜検察』は、お読みになられたでしょうか。一部、弁護士のブログでも取り上げられています。

ここ数年、いわゆる国策捜査という言葉が一般にも語られるようになり、田中森一氏『反転』や佐藤優氏『国家の罠』といった、当事者の語った特捜検察の実情について、ベストセラーとなっています。それ以前にも、三井某氏の告発や、魚住某氏のノンフィクションもあります。

先生は、それらの本や、そこに書かれたことと、検察の実情について、どのように評価されているのでしょうか。それらの「暴露本」は、荒唐無稽なトンでも本なのか、一片の真実が含まれているのでしょうか。仮に、真実が含まれているとすると、(三井氏や、一部のローランキングの検察関係者は別として)、検察内部からの問題提起はあまり見受けられないのは、なぜなのでしょうか。----
投稿 一読者 | 2008年6月29日 (日) 17時05分
A37
そうした本は、事実誤認が多いから、検察は、面白がってはいるが、相手にはしていないという感じでしょうか。

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