取締役の欠員
おかげさまで、インターネット無料公開講座 会社法マスター115講座で学ぶ会社法
http://www.lotus21.co.jp/works/streaming/kaisha115/kaisha115web_gaiyou.html
は、順調にアクセス数を伸ばしているようです。
TMIのクライアント様からも
「法務担当者の勉強用に最適」
という嬉しい評価をいただきました。
また、会社法の苦手なロースクール生がいれば、ロースクールの会社法とは、ひと味違う説明になっているはずです(上智の私の授業とは、そんなに違いはないですけど)。
ところで、最近の時事ネタでは
アデランス
が気になります。
もちろん、個人的には、アデランスの「製品」も気になるのですが(涙)、 どちらかというと、アデランスの「会社」の方がもっと気になります。
ご承知のように、5月29日に、アデランスホールディングスの株主総会で、2名の社外取締役の選任は可決されたのですが、社長ら7人の取締役の再任は否決されました。
これまでも、経営権争いで、会社提案が否決され、株主提案が可決されるという例はありますが、株主提案もなく、単純に会社提案のみ否決されたというのは、聞いたことがありません。
その原因と対策を探るというのも意義深いものではありますが、「会社法であそぼ。」としては、とりあえず、この事例を会社法の勉強に役に立てようと思います。
以下、クイズ形式で、今回の一連の動きを復習してみましょう。
さて、アデランスは
9名の取締役の任期満了に伴い
2名の社外取締役は退任し
①2名の社外取締役の選任と、②7名の取締役の再任
を会社提案していました。
②の取締役の選任議案は、候補者ごとに賛否を表明することができる(施行規則66条1項1号参照)のですが、報道によれば、総会前日に締め切られる書面による議決権行使の段階で、①の社外取締役には○を、②それ以外の取締役には×をつけるものが多く、総会当日の出席者が全員②に賛成したとしても、②の再任議案は否決されることが明らかだったようです。
【第1問】
書面による議決権行使の結果で②の議案が否決されることが明らかな場合、取締役は、そのまま株主総会で否決されることが明らかな議案を採決する以外に、何か打つ手があったのでしょうか。
【第1問回答】(6月6日修正)
それ以外の手はなかったでしょう。
(解説))
普通の場合ですと、否決されることが明らかな会社提案については、議題自体を取り下げるという選択肢もありますが、今回、取締役の任期満了に伴う選任については、株主総会で議題にせざるをえません。
アデランスは、定款では取締役の員数を「12名以下」として、下限は設けていませんから、下限は3名(331条4項)になります。
とすると、①の2名の取締役だけでは、下限に達しないため、員数を欠くことは明らかです。
過料の制裁(976条22号)は、「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。」とありますから、議題の撤回自体は過料の対象とならないと思いますが、総会終了(=任期満了)によって、すぐに選任手続を執る義務が生ずるので、議題を撤回するのは勇気が必要でしょう。
次に、株主総会の当日に、何かできることがあったかということについて検討すると、②の取締役7名の否決が目に見えているのですから
株主総会の現場で、誰か別の取締役候補者を株主提案し、そこで決議を採る
という方法もありますが、書面による議決権行使は、出席者に数えられますから、株主総会の現場で過半数が取っても、全体で賛成多数が得られない限り、選任できません。
とすると、今回は、員数を欠くことになるため、社外取締役2名のほか、従前の取締役9名(退任予定のものも含む)が、「新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する」(346条1項)ので、
とりあえず、定時株主総会は、このまま取締役の選任議案を否決させ
臨時株主総会を開催し、候補者の構成を少し変えて、もう一度、トライしよう
というのが普通の選択なのかなあと思います。
【第2問】
もし、今回、社外取締役候補者が3名で、その3名のみの可決が確実であると仮定した場合、会社は、どうすべきでしょうか。
【第2問回答】
その時は、議題を撤回するしかなかったかもしれません
(解説)
もし、今回の①の社外取締役候補者が「3名」だったとしたら、「員数を欠く」ことになりません。
とすると、その社外取締役3名だけで、経営をせざるをえないという異常事態になったかもしれないからです。
そもそも、「社外取締役候補者」ということで議案を提出しているにもかかわらず、結果的に最低1名は代表取締役とならざるをえないというのは、どうにもおかしな話です。
その3名では、代表取締役の就任承諾も取れないでしょうし。
したがって、そのような場合には、議題自体を撤回せざるをえなかったのではないかと思います。
【第3問】
今回、従来の9名の取締役が全員、「取締役としての権利義務を有する者」として残ったのですが、退任予定だった社外取締役は、辞められないのでしょうか。
【第3問】
難問です。
(解説)
今回は、従来の取締役の合計9名が同時に任期満了なので、346条1項によって、同時に「取締役としての権利義務を有する者」になります。これは、法律上、当然にそうなるので仕方ありません。
しかし、もともと欠員は1名ですから、その9名中、2名が辞任しても、欠員にはなりません。
そう考えると、取締役が辞任することができるのと同様、「取締役として権利義務を有する者」も辞任によって欠員が生じるような場合でない限り、辞任できると考えてもよさそうです(少なくとも346条1項の趣旨に反しません)。
ただ、346条1項は、「新たに選任された役員が就任するまで」と規定しているので、条文上は、「辞任」という概念はなさそうで、この部分は悩みの種です。取締役として権利義務有するものと会社との間には、委任契約もないので、辞任は難しいかおしれません。
【第4問】
今後、いつまでに取締役を選任しなければならないのでしょうか。
【第4問回答】
選任手続を「怠る」と過料になるので、正当な事由がない限り、すぐに取締役の選任手続を行うべきです。
この点、以前、某監査法人が金融庁から処分を受けて会計監査人の欠格事由が生じたときに、同じ問題が生じましたが、会計監査人の欠格については、監査役(監査役会)に一時会計監査人の選任権を認めた(346条4項)法の趣旨から、定時株主総会まで、会計監査人を選任しなくてもよいと解されています。
これに対し、取締役の欠員は、そのような解釈はされていませんから、来年の定時株主総会まで放っておくことはできないでしょう。
他方、このまますぐに臨時総会を開催して、何もせぬまま、取締役候補者もそのまま提案すれば、また否決されるでしょうから、経営者としては、スティールに限らず、株主と調整し、誰ならば選任してもらえるのか、調整せざるをえません。
きちんと調整すれば、今回、否決された候補者が、次には可決されるかもしれません。
【第5問】
どういう展開になると、会社にとってまずいでしょうか。
【第5問回答】
今後、選任手続が遅れて、利害関係人の申立てにより、裁判所が、一時取締役を選任すると(346条2項)、従前の取締役は、皆、「取締役としての権利義務を有する者」でなくなってしまいます。それは、かなりまずい。
(理由)
社外取締役2名+一時取締役1名で、取締役会を構成して、アデランスの経営をやるのは、事実上、困難です。今回、選任された社外取締役2名は、辞めたくても、辞められません(欠員になるので)。
もちろん、裁判所は、「必要があるとき」に、一時取締役を選任することになっているので、選任手続が順調に進めば、それを尊重し、すぐに一時取締役を選任するということはないと思いますが。
【最後に】
敵対的買収では、「大株主に経営責任があるのか」という問題によくぶつかります。
よく買収者側は「純投資なんだから、50%以上持ったとしても、自分で経営計画を示す必要なんかない。」と言ったりします。
それはそれで、理屈ではあるものの、今回のアデランスの事例を見る限り、ただ「NO」というだけの大株主だと、会社の存続にかかわる事態を生じかねないというのも、また真実です。
報道を見ると、いつものように「今回の件で持ち合いが進むと、外国人の日本株への投資意欲が削がれる」というワンパターンの解説がされていますが、何の提案もせず、「NO」というだけの株主が会社の支配権を持つくらいなら、持ち合いでもいいので安定株主がいた方が、会社にとっても、少数株主にとっても幸せです。
どんな形であれ、経営者が株主のことを重視し、株主が経営者を信頼するという状態が一刻も早く回復することを願うばかりです。
(質問コーナー)
Q1
①株券電子化について教えてください。以前質問させていただいた者です。
『社株法159条2項の「名義人等」について、同条項の委任に基づく命令26条で、株券の所持者による申請により株券喪失登録が抹消された場合は、当該申請者が「名義人等」になるとされていますが、この申請は決済合理化法の施行日以前のものに限られるという理解でよいでしょうか』というQに対し、『登録者の抹消申請は、施行後も可能です』というAをいただきました。Qにある『株券の所持者』は電子化により無効になった株券の所持者でもよいということでしょうか。
②先生がご提案される買収防衛策『株主意思確認プラン』の事前の意思確認手続も株主総会で実施するということなのでしょうか。
投稿 剣闘士 | 2008年5月29日 (木) 10時56分
A1
① 無効になった株券の所持者でもいいです。
② 株主総会で実施します。
Q2
家庭の事情や病気、仕事の都合で受け控える人もいます。
勉強を開始した時期も人それぞれです。
純粋未修の全員が、最低でも6年は勉強している既習を相手に3年で8科目をキャッチアップできるとは思えません。受け控えなければ勉強開始5年までに合格しなければ三振なのですから、受け控えを考える人の気持ちもわかります。受け控えなどせずとも合格して当然というなら、法学部不要論につながるでしょう。
また、任官を目指すなら下位合格よりも、受け控え後一桁二桁で合格したほうが可能性が高いというのも事実だと感じます。
受け控えが、減点事由になるのは当然なのでしょうが、欠格事由になるとは驚きました。
葉玉さんやTMIがそういうポリシーであることを公表していただけるのは、意味の無い履歴書を出して労力を無駄にする被害者を防止する上で好ましいと思います。
でも、これが「大手事務所」の常識なのでしょうか?
私には、「現役合格でなければ東大文一とは認めない」という発言と同じくらいの香ばしさを感じます。
もしこういうのが本当に常識であるならば、各事務所もそのポリシーを公表してほしいものです。
これから毎年何百人もの受け控え経験合格者、複数回受験経験合格者が出るのですから。
投稿 いちおう修習生 | 2008年5月29日 (木) 21時53分
A2
「受け控え」とは、家庭の事情や病気等の事情がないにもかかわらず、受験しない人のことをいいます。
以前の私の記事を見ていただければ分かりますが、私は、病気等で、受けようと思っても受けられないことがあるから、受け控えなどやめなさい、と言っています。病気等で受けられなかった場合は、当然、そのことは考慮されるでしょう。
次に
「純粋未修の全員が、最低でも6年は勉強している既習を相手に3年で8科目をキャッチアップできるとは思えません」
とのことですが、それは、全く違います。
はっきり言って、法学部生が漫然と4年で身につけてきたことなど、真剣に半年やれば、あっという間に乗り越えられます。
今の新司法試験のレベルならば、たとえ、今、法律の知識が0であっても、真剣に司法試験に合格したいと考えて努力すれば、ほとんどの人は、2年あれば合格レベルまで行けると思います(早い人は1年)。そして、3年くらいで8割は合格するのではないでしょうか。
それから、「任官を目指すなら下位合格よりも、受け控え後一桁二桁で合格したほうが可能性が高い」
とのことですが、私は、公務員を目指すならば、年齢を1歳加えることの方がリスクが高いと思います。
また
「受け控えしたら、次の年、1桁2桁になる」
というのは、本当でしょうか?
2000人以上合格する時代ですから、1点2点で、大きく順位は交代します。1-99番に入るというのは、誰も確実に成し遂げられるようなことではありません。
私の経験によれば、その順位に来る人は、効率的な勉強をすることができる人であり、ロースクール時代にそこまで実力を高められなかったような人(=受け控えをする人)ではありません。
Q3
この度、親子会社間で吸収合併をすることになりましたが、
合併契約につき、合併比率についてご質問させていただきます。
甲を存続会社、乙を消滅会社とした場合
「合併に際し、乙の株式1株につき、甲の株式0.004を割り当てる。
但し、端株については四捨五入とする。」
といった規定は有効でしょうか。株主平等原則上、問題が生じるよう
にも思えます。宜しくご教授下さい。
例 乙株主 A:1800株 B:1700株
合併に伴いA:1800×0.004=7.2
B:1700×0.004=6.8
それぞれ四捨五入し、
ABともに7株
投稿 吉岡 | 2008年5月30日 (金) 19時01分
A3
一株に充たない端数は、まとめて売って、金銭処理です(234条)。
Q4
前回弁護士の仕事について質問させてもらったものです。
司法試験終わって、結果は不合格だと思います。
勉強の仕方がやはり甘いのかなって。
勉強だけに専念できた受験生なのに結果だせなかったので
才能がないのかなっておもってしまいます。。
投稿 受験生 | 2008年5月30日 (金) 23時01分
A4
司法試験には、才能は不要です。
「才能」といえるようなものを持っている合格者は、全体の1%でしょう。
努力が足りないことを才能のせいにしては合格できません。
Q5
そんな大手法律事務所があるのかは分かりませんが、その方は、受け控えしておりました。
葉玉先生が仰るように、3年間毎日12時間、効率的な勉強方法・内容で学習を継続すれば合格できるんだろうと思います。
ただ、純粋未修者は、最初のとっかかりが難しいと思います。何を使って如何なる学習方法がよいのかは、情報が多すぎて、選択に困るからです。
3年間勉強し、司法試験を受けて振り返ると、やはり優れた教え手がいるロースクールが強いのかなと思います。
投稿 しょ | 2008年5月31日 (土) 00時55分
A5
既習者か、純粋未遂者かを問わず、受験生が「お客さん」のような気持ちでいる限り、合格するのには時間がかかります。
「誰かが自分に合格法を教えてくれる」という受け身は絶対駄目です。
合格者がどのような勉強をしていたのか知っている人に、しつこく話を聞き
分からないところがあれば、しつこく、先生に食い下がり
模試で点数が取れなければ、しつこく、しつこく、演習を繰り返す。
かっこよく合格しようなどと考えず、恥を捨て、自分が合格する力を身につけるためには、どの人のところにいけばよいか、何を頼んだらよいか、をとことん追求することしかありません。
いわば「営業型受験生」は、早く合格します。
私は、上智ローで教えていますが、上智のロー生も、まだまだ「お客さん」気分が抜けない感じです。人の迷惑を顧みず、先生に食らいついていくことが重要です。
先生というのは、「生徒から、面倒なことを頼まれる」ために、給料をもらっているのです。
Q6
法205条に規定されている契約がないことを前提に、申込期日と払込期日を同日とする第三者割当増資は可能でしょうか。
問題意識は、法204条第3項の払込期日の前日までに申込者に割り当てる募集株式数を通知しなければならないと言う条文の解釈にあります。申込者を「申し込んだ人」と解すれば、申込期日と払込期日を同日にすることは不可能になります。
従来の分類で言う第三者割当増資の場合、発行決議と割当先の決定を同日に行うの通常かと思います。この場合、申込を条件として法204条第1項の割当をしたと解することになるかと思います。とすれば、同条第3項についても条件付きでの通知も可能かと考えています。
また、申込者を申込予定者を含むと考えれば、同じ結論にたどり着けると思います。
総会対策で有名な某事務所の先生に疑問を呈されて、条件付き通知で何が悪いと強弁してしまいました。
投稿 デラシネの法務 | 2008年5月31日 (土) 01時31分
A6
申込者は、「203条2項の申込みをした者」と定義されています。
それは、そうと、「申込期日」ってなんでしょうね。その「申込期日」という概念が法的概念でないとすれば、申込期日より前の日に、法的な申込みが行われていたということはできそうです。その場合、「条件付」という法律構成を取らなくても、「申込期日」と「払込期日」は同日でもよいことになります。
デラシネの法務さんが、「こういうことをやりたい」ということが明確であれば、それを法的に説明することはできそうです。
そういうのを実現してあげるのがプロの法律家の仕事でしょう。
| 固定リンク | コメント (31) | トラックバック (2)
最近のコメント