定款変更の動議
今日の二本目は
株主総会における動議の取り扱い
というまじめなネタです
。
このネタは、次回のT&Aマスターでも触れる予定ですが、総会についての相談を受けているうち、実務的には容認できない解釈が一部でささやかれているようなので、ブログでも取り上げます。
「動議」というのは、法律用語ではないのですが、
株主総会の最中に株主が提案を行い、採決するよう求めること
をいいます。
株主の提案権(304条)は、議題の範囲内であれば、原則として自由に行使することができるので、取締役会が定めた議題について、株主が
私は、こういう案の方がよいと思います。
などといって新しい提案をしたら、議長は、会社提案と同様、その議案について採決をしなければなりません。
逆に、株主の提案が、議題の範囲ではなかった場合には、その提案は不適法ですから、議長は却下することになり、採決する必要はありません。
このように株主提案が、議題の範囲内かどうかは、議事の進め方に大きな影響を与えますが、最近
「定款の一部変更の件」という議題
の捉え方について
その議題は、定款のすべての条文の変更が議題となっており、株主は、どんな条文の変更でも提案できる
という見解があると聞いて、ちょっとビックリしました。
この見解は、議題が「定款の一部変更の件」とされている場合は、たとえば、
会社が「定款第5条の変更」だけを提案している場合でも、株主は「定款第9条の変更」も提案することができる
というもので、この結論だけを聞いても、大変不合理な見解のように思います。
その場合、株主としては、定款第5条の変更については、事前に招集通知や議決権行使書面、株主参考書類等で情報提供されているので、議論すべきポイントがわかりますが、定款第9条については何も知らされていません。
当然のことながら、書面による議決権行使や電子投票をした株主にとっては、定款第9条の変更のことなど晴天の霹靂ですから、万一、総会で株主提案が可決されてしまえば、それらの株主の予測可能性を害することにもなります。
したがって、実務上も、政策的にも、この見解は、到底容認できないものと思います。
ところが、この見解は、会社法を根拠としていると聞いて、二度びっくり。
すなわち、こういう理屈だそうです。
『旧商法342条2項は、定款の変更を行う場合には、議案の要領を総会の招集通知に記載しなければならないことを規定していた。
そのため、「定款の一部変更の件」という議題も、「定款第5条の変更」という議案とを一体的に捉えることができ、そのような議題であっても、「定款第5条の変更の件」という議題に限定して考えることができた。
ところが、会社法は、旧商法342条2項に相当する規定を置かなかったので、議題と議案を一体的に捉えることができなくなった。
そのため、「定款の一部変更の件」という議題は、文字通り、どんな一部でも変更できるものと考えるほかなくなってしまった。』
この理屈は、いくつもの前提の上に構築されているのですが、少なくとも、会社法が、旧商法342条2項に相当する規定を置かなかったのは、招集通知と株主総会参考書類等の記載事項の整理を行っただけであり、その見解が述べるような不合理な議題の解釈をするためではありません。
もともと、議題は、取締役会の決議で定めるものであり、法律が具体的な議題の内容を決めるわけではありません。
たとえば、最初から「定款第5条の変更の件」と定めれば、5条だけが議題になるのですから、旧商法342条2項があろうとなかろうと、
取締役会がどのような趣旨で「議題」を定めたのか
によって、その内容が決まるはずです。
先ほどの事例では、取締役会が
「定款のどんな条文でも変更してもいいですよ。」
と考えて議題を設定しているはずはなく
「定款第5条の変更について審議したい」
と考えているのは明らかです。
また、招集通知や株主総会参考書類等を読んだ株主も、そう判断するのが普通です。
ですから、たとえ議題が「定款の一部変更の件」とされていても、招集通知や株主総会参考書類等に書かれている議案と総合的に捉えて
その議題は、「定款第5条の変更の件」と解釈すべき
であり株主が議場で「第6条の変更」の提案をしても、議長は不適法却下すべきでしょう。
このほか、T&Aマスターでは、
追加配当の株主提案がされた場合の考え方
などについて書かせてもらいましたが、こうした動議に対する対応は、決議取消の訴えなどの理由ともなるため、法務スタッフを悩ませるタネになっています。
いろいろな考え方はあるにせよ、常識に従った対応をすれば、適法となるような解釈を導くことが大切だと思います。
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コメント
葉玉先生こんにちは。いつも楽しく拝見しています。
細かい質問で申し訳ないのですが、
計算書類等について、「提出」と「提供」の違いを教えてください。
最初、書面と電磁的記録の違いかな、と思っていたのですが、
437条では「提供」のみ規定され、438条では「提出し、又は提供」となっているので、
どこが違うのかわからなくなってしまいました。
どうかご教示下さいますよう、宜しくお願いします。
投稿: 名無し受験生 | 2008年3月23日 (日) 01時53分
変な解釈をする(できる?)人は、相当法的知識が深く、頭の回転も良いのでしょうけど・・・。
精巧な偽札を作る人や精巧なコンピューターウイルスを作る人も、まともな仕事をしても充分裕福に生きていけるだろうに何故、という前々からの疑問がまた脳裏をかすめました。
投稿: まじめなコメ | 2008年3月23日 (日) 14時14分
しつこくてすみません。
定款に576の事項のみを記載する合名会社及び合資会社において、624の出資の払戻がされたときは、582や859の適用が可能だと理解しました。
だとすると、会社(他の社員の多数)の理解がなければ社員が出資を回収するには結局退社を覚悟しなければならないわけで、それなら最初から退社すればよく、わざわざ624で払戻を会社に強制する意味がないのではないかと感じます。つまり会社としては社員の地位を維持しながら払戻だけを認めるかどうかを事実上選択できるので、624の請求は意味を成さないのではないかと思うのですが、どう考えるべきでしょうか。
投稿: ひで | 2008年3月23日 (日) 16時48分
葉玉様
会社法マスター115講座の第2版につき質問があります。
(なお,丸数字については機種依存文字のため,「マル1」などとさせてください。)
1.P127 図表53-2 会計監査人の任期について
特別な理由による任期の満了(338条3項)として
マル4 会計監査人設置の定めを廃止する定款変更
のほかにマル1からマル3までが記載されておりますが,
このような事由によっても会計監査人の任期が満了するのでしょうか?
ちなみに初版をみましたところ,
マル1からマル3は記載されておりませんでした。
改訂の意図をお教えいただければ幸いです。
2.P238 図表97-2 人的分割類似行為の要件について
それぞれの場合のマル2の「承継会社の株式の合計額」は
「承継会社の株式以外の財産の合計額」ではないでしょうか?
読み違えであれば申し訳ありません。
年度末のお忙しいところ恐縮ですが,よろしくお願いいたします。
投稿: たつきち | 2008年3月25日 (火) 02時32分
Mr. 葉玉
誕生日付近に、環境がやり易くなるプログラムが採用されているとして
、
①職業選択自由神聖確証
②重大な平等原則違反除去され、平等が(重要な部分で)回復される
マデは、むしろ、下手なプログラムであると思います。
(他に同じような事を書く人が少ないのは、重大な平等原則違反の事実をむしろ推認させるものと、)
…まったく、私は主流派であってきたが、昔の社会の弱者の戯言を書くことになるとは、本当に予想していなかった。
10年前の新興宗教の弱者と描かれた人間の言いそうなことを言ってるわけだが、本当に、話せば分かる方の人間にこの措置かよ、とやるせない思いです。
国家が、平等原則違反をするなら、大学生にも公職の特別の役職を用意するなりしてほしいものだが。平等の回復。
今日の対立点
能力者多数派は、(従来型)司法試験の論文式試験を合格する程度の独自・誤作動対応スペックをもっているのではないか。
(この時世でなお(一応書いておくが))職業選択自由を主張しているのに、独自・誤作動対応スペックの程度が低く取引になっているのは、どうなんだろう。
3月22日記す
論合業之知人(東京大学)
投稿: 論合業之知人 | 2008年3月26日 (水) 13時18分
3月24日の日経新聞に「対立株主総会増加」というコラムがあって、葉玉さんや大杉さんのコメントも出ているのを拝見しました。
その記事の中で「英国の基準日は総会開催時点の48時間以内と義務付けられている。」という記載があるんですが、普通に考えると、基準日に株主を確定し、その株主に招集通知送ってから総会開催すると思うんですけど、48時間では物理的にとてもそんなことはできません。
英国の総会は、基準日のとらえ方が何か日本と根本的に違うんでしょうか。
投稿: こやぎ | 2008年3月26日 (水) 20時42分
葉玉先生、こんにちは。今回初めて質問をさせていただきます。
会社法とは離れてしまうのですが、刑法に関する質問です。
二項強盗罪が既遂になるための要件について、混乱してしまったので質問させて下さい。
『推定相続人である子が、被相続人たる親を殺した』という事例で、二項強盗による強盗殺人罪(240条後段)の成否を論じるに際して、その既遂時期の判断基準は、生命侵害の有無を基準にする、というのが判例・通説ですよね。
では、債権者が債権を行使することを困難または不可能にすることを要する(具体性・確実性のある財産上の利益移転を要する)、とういうのは強盗殺人罪の成否において、体系上どのような位置づけになるのでしょうか?
私の混乱の原因は、この「債権者が債権を行使することを困難または不可能にすることを要する(具体性・確実性のある財産上の利益移転)」という要件の体系上の位置づけがわからない、ことなのです。
基本書から読み取れるのは、
・上述した生命侵害の有無は、強盗殺人の既遂要件
・私が混乱している要件は、強盗殺人ではなく、あくまで二項強盗の既遂要件(「財産上不法の利益を得」たといえるか)
という位置づけです。
このように考えた場合は、二項強盗罪と暴行罪の区別は当該暴行が財産上の利益移転に向けられているか否か、で決すればよいのでしょうか()?
そのうえで、①二項強盗罪が既遂になる(「財産上不法の利益を得」た)といえるためには、具体性・確実性のある財産上の利益移転を要する、ということでよいのでしょうか?(処分行為を不要とするので、既遂時期を明確にするため)
これに対して、②具体性・確実性のある財産上の利益移転の要否を実行行為の問題として、そもそも二項強盗たりうるためには、具体性・確実性のある財産上の利益移転に向けられた「暴行」を要する、という考えもあるようです。(処分行為を不要とするので処罰範囲の適正化を図るため)
具体性・確実性のある財産上の利益移転の要件は、二項強盗罪ないし強盗殺人罪でどのような位置づけにあるのか教えてください。(①なのか、②なのか、それ以外なのか。)
長くなってしまって申し訳ありません。
投稿: もうすぐロー新入生 | 2008年3月27日 (木) 14時03分
せっかくもうすぐロー生ならローで議論した方が有益では?
投稿: 横やり | 2008年3月28日 (金) 17時18分
持分会社の退社は自由ではない
特別な事情か 全員の合意が必要
投稿: みうら | 2008年3月28日 (金) 18時11分
「会社法マスター115講座(第2版)」27頁に、具体性について、「不要。目的は、特定の事業を記載する必要はない。単に「事業」のみでもよい。」と解説してありますが、???です。登記官の審査の対象から外されたとはいえ、これでは、公示する意味がありません。登記所においては、受理されないですね。
投稿: 内藤卓 | 2008年3月28日 (金) 18時58分
いつも楽しく拝見しています。
一点お教えください。
会社法施行規則130条3項の「監査役会監査報告の審議」について,
法務省の見解として,電話会議も困難な,多忙な監査役がいるケースを慮って,
「全監査役が同時に意見交換ができなくてもよい。
例えば,B監査役が予め(多忙な)A監査役の意見を聞いておいて,
当日,Bが他の監査役にAの意見を紹介して,これを前提に
A以外の者の間で意見交換してもよい。」
というものがあるそうですが,本当でしょうか。
(法務省に電話する以外に,上記見解の有無を確認する方法は
ないのでしょうか。)
この場合,当該監査役会の議事録の記載ぶりは,
「B監査役は,A監査役が別紙の監査役会監査報告の内容について
承諾する旨の意見を表明していることを説明し審議に入った。」
というものでよろしいでしょうか。
よろしくご教授ください。
投稿: はる | 2008年3月28日 (金) 20時16分
う、次のお題が入ってしまいましたが、コメントさせていただきます。
許容すべき定款変更動議の範囲ですが、「議題」ないしは「条文単位」と形式で切るのも不合理と考えます。
例えば、会社が「定款一部変更の件」なる議題で定款第5条の変更を提案している場合において
第5条と第6条が密接に関連しており、
会社の変更案には第6条の変更も必須と考える場合
は、第6条の変更動議も許容されるべきものと考えます。
先生は、参考書類による情報提供を理由に挙げておられますが、こと定款変更に関しては、問題にならないと考えます。
そもそも、株主参考書類の記載は変更点の対比表のみ(理由もちょっとは書いてありますが)です。
前後の条文との関連などは示されず、議論すべきポイントを真に理解するには、定款を閲覧するなど株主が追加的に行動することが必要です。対比表のみを示すという実務は株主のそのような努力を前提にしているものです。
かくして、定款変更に関しては、株主への「情報提供」といえるものは元々ほとんどありません。規則73条1項・2項からも、参考書類は議案を示せば要件を満たすのですから。
また、「書面行使や電子投票をした株主にとっては晴天の霹靂で、株主提案が可決されてしまえばそれらの株主の予測可能性を害する」、という点についても「議題」を条文単位で絞ることでは救えないと思います。
すなわち、「第5条の変更」という議題で提案されていた場合において、同じ議題だからと言って第5条をとんでもなく変更するような提案は許されるべきではありません。
私は、許容すべき定款変更動議の範囲は、「提案された(議題ではなく)議案と相当の関連性あるものであるか」及び「議場にいない株主に不測の損害を与えるか否か」という抽象的実質的基準で判断すべきと考えます。
旧来の「議場での増配提案は修正動議として認めるべきか」と同様の考え方です。
定款変更の場合に取締役会の提案趣旨がキモなのはおっしゃるとおりですが、”どのような趣旨で「議題」を定めたのか”と「議題」にフォーカスするのはいかがかと思います。
先生の論と私の論の相違は、議題が「定款第5条の変更の件」となっている場合に、その変更と密接に関連する第6条変更の提案が許されるかという点に現れます。
私の論のように実質的判断のみとすると、会社としては、よほど関連性がないという場合以外は、動議をむげに却下するリスクはとりにくいという判断になるかもしれません。
特に会社法施行時のように多数の条文を変更する場合は慎重にならざるを得ませんね。
なお、「議場にいない株主に不測の損害を与えるか否か」というメルクマールを強調しておかないと、以下のようなことが生じ得るのではないでしょうか。
【例】
・委任状制度採用の会社で、機関投資家が相当の株式を保有
・会社は、定款のある条文について変更を提案。
裏では機関投資家には反対を食らいそうな変更案(A)を考えるが、
会社提案としては当たりさわりの無い案(B)を記載
・委任状を集める。議場での動議への対応は白紙委任という内容
・議場で、会社シンパのサクラ株主からA案とすべき旨の修正動議を提出
させる
・会社もそれに賛成。
委任状提出者も白紙委任に基づき賛成票にカウントされ、修正動議可決
・A案のつもりで委任状を提出した機関投資家はびっくり
(機関投資家は間接保有が多く議場にはほとんど出てきませんからね)
これは一例ですが、委任状制度は会社側のフリーハンドが過度に大きくなる問題があると考えます。
さらに、受任者の主張に反する内容の委任状は受任しないでよい=株主の議決権がスポイルされる危険がある、という問題もあります。
早々に議決権行使書に一本化すべきではないでしょうか。
投稿: ラッシャー木村 | 2008年3月29日 (土) 00時13分
葉玉先生
こんにちわ。いつも参考にさせて頂いています。
早速ですが、質問させていただきたくご連絡いたしました。
自己株式の取得についてです。
同族会社のクライアント(過去の増資時の払込価額より現在の純資産価額は半分に近い会社)で、過去の株主からの払込価額に近いにて自己株式を取得したいと考えています。よって、500円で取得した株主もいれば、750円で取得した株主もいます。極力資金の流出を控えるため、500円で取得した株主には750円の対価を渡すことなく、500円に近い価額で取得したいという意向です。
そこで質問なのですが、上記のような方法で株主個々に取得価額を変えて実際取得するということは可能でしょうか。たとえば、157条1項2号を「所有する株式の取得価額(額面金額)」とするなど。もしくは、160条の決議をしまくるとか(でも、他の株主からの買取請求に応えなければなりませんよね!?)
うまく質問の意図をお伝えできているか不安ですが、
お忙しい中恐縮ですが何卒よろしくお願いいたします。
けんじ
投稿: けんじ | 2008年6月 3日 (火) 15時15分
葉玉先生
定款変更の動議について、基本的には会社提案の対象となっている条文についての動議のみ、議場に諮ればよいとのことですが、その対象条文であればどんな内容でも良いのでしょうか。
たとえば、今年の定時総会で多くの上場会社が、株券電子化に対応して形式的に定款変更を実施することと思います。
参考書類に電子化対応である旨を明記して、上程した場合には、対象条文の動議であっても「電子化と関わりのない動議」であれば、議長は不適法却下してよいと考えられますでしょうか。
投稿: ほうむ~ | 2009年3月 5日 (木) 15時44分
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投稿: Johnd621 | 2019年5月17日 (金) 22時32分