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2008年3月28日 (金)

会社法マスター115講座【第2版】

 私事ながら、4月から
    上智のロースクールの教授
になります。
 もちろん、TMIを辞めるわけではなく、弁護士としての仕事を続けながら、週2回ほど教壇に立つということです。
 いろいろと教えるのですが、言うまでもなく「会社法と実務」という講座で会社法も教えます。

 その「会社法と実務」の教科書として使うのが、この度、改訂されました
     会社法マスター115講座(第2版)
     葉玉匡美 郡谷大輔【編著】
     (ロータス21)
です。
 4月8日が発行日ですが、大手書店では、なぜか、もう並んでいます。
  私が、教科書として使うくらいですから、当然、
     会社法の入門書として最高のおすすめ本
といえるでしょう(宣伝モード)。
 しかも、値段は
         定価2400円+税
であり、専門家が使える会社法の本としては、格安の値段設定です。

 初版は大好評で、ロータス21史上、最高に売れた単行本になりました。
(ちなみに、ロータス21は、会社法マスター115講座(初版)と(第2版)以外は、今のところ単行本を出していません)

 第2版は、基本的には、初版と同じコンセプト。
 会社法の入門者から専門家まで、会社法に関わる人全てが使いやすい本を目指しました。

 1講座は、原則として、本文と図表の見開きで完結。
 左ページの本文だけ読むとアッという間に、会社法のアウトラインが分かります。
 より詳しいことを知りたければ、右頁の図表を見てください。

 今回、信託法、金証法、企業会計基準の見直しに伴う「会社法」「会社法施行規則」「会社計算規則」の改正に対応しただけではなく、株券の電子化に向けて、「振替株式」の説明を入れたり、会社法に関する最新の情報を提供しています。

 使い勝手のよい図表も、初版から半分くらいバージョンアップ。
 さらに21個の図表を追加して、全部で236点も大盤振る舞い。この図表が頭に入れば、はっきり言って、会社法のエキスパートになること間違いなし。

 結構勉強になるのが、「買収防衛策の設計の焦点」「過年度修正」「三角合併における外国株の交付」「内部統制」など最近の会社法の動きを捉えたコラム。あいかわらずニヒルな文体で、旧商法愛好者の神経を刺激すること間違いなし。

 個人的には、分配可能額や組織再編など、条文を見るだけでは頭がスパゲッティーになるところを、うまく整理している点が気に入っています。
 実務家にとっては、会社法の制度の大枠を知りたいときや、あるテーマに関連する条文がどこにあるか分からないときのハンドブック代わり使えるでしょう。

 また、ロースクール、司法試験、司法書士試験、会計士試験の受験生は、この本で知識を整理し、100問や1000問等で勉強したことを、この本にメモると、試験突破への最高の武器になります。

 しかも、(今は、まだ言えませんが)、現在、この
   会社法マスター115講座(第2版)をご購入された方のみが味わえる
   驚愕のサプライズ企画
が進行中であり、ご購入者に、決して損はさせません。
 この企画は、法律書出版の世界に一石を投ずることは間違いありません。

 というわけで、皆様、なにとぞ、お手元に一冊置いていただければ、幸いです。

 なお、たつきちさんから、早速、会社法マスター115講座(第2版)につき質問が入っておりますが、そのうち、まとめてお答えします。

(質問コーナー)
Q1
計算書類等について、「提出」と「提供」の違いを教えてください。
最初、書面と電磁的記録の違いかな、と思っていたのですが、
437条では「提供」のみ規定され、438条では「提出し、又は提供」となっているので、どこが違うのかわからなくなってしまいました。
投稿 名無し受験生 | 2008年3月23日 (日) 01時53分
A1
内閣法制局ではないので、あまりこだわる必要はありません。
「書類」とか「書」という文字が使われているものが含まれると「提出」をつけるという用例にしたがっただけです。

Q2
定款に576の事項のみを記載する合名会社及び合資会社において、624の出資の払戻がされたときは、582や859の適用が可能だと理解しました。
だとすると、会社(他の社員の多数)の理解がなければ社員が出資を回収するには結局退社を覚悟しなければならないわけで、それなら最初から退社すればよく、わざわざ624で払戻を会社に強制する意味がないのではないかと感じます。つまり会社としては社員の地位を維持しながら払戻だけを認めるかどうかを事実上選択できるので、624の請求は意味を成さないのではないかと思うのですが、どう考えるべきでしょうか。
投稿 ひで | 2008年3月23日 (日) 16時48分
A2
 たとえば、ひでさんが、合資会社ひでに、100万円出資したものの、自分の借金の返済にこまって、とりあえず、合資会社ひでから100万円採りたいときに、どういう方法を採るのが一番いいでしょうか?
 「強制する」かどうかではなく、出資の払戻しとして法律上の原因を与えることに意味があります。

Q3
3月24日の日経新聞に「対立株主総会増加」というコラムがあって、葉玉さんや大杉さんのコメントも出ているのを拝見しました。
その記事の中で「英国の基準日は総会開催時点の48時間以内と義務付けられている。」という記載があるんですが、普通に考えると、基準日に株主を確定し、その株主に招集通知送ってから総会開催すると思うんですけど、48時間では物理的にとてもそんなことはできません。
英国の総会は、基準日のとらえ方が何か日本と根本的に違うんでしょうか。
投稿 こやぎ | 2008年3月26日 (水) 20時42分
A3
 英国の総会のことは、よく分かりません。
 私の乏しい知識によれば、英国の上場企業の場合、株式の決済は、クレストの口座簿上の振替により行われ、その振替によって、株主名簿のる登録が行われたものとみなされることとなったので、株主の確定は、毎日行われているはずです。
 ただ、総会開催時点の48時間以内に基準日を設定するのは、こやぎさんがおっしゃるように、物理的に難しいですよね。本当なのでしょうか?

Q4
「会社法マスター115講座(第2版)」27頁に、具体性について、「不要。目的は、特定の事業を記載する必要はない。単に「事業」のみでもよい。」と解説してありますが、???です。登記官の審査の対象から外されたとはいえ、これでは、公示する意味がありません。登記所においては、受理されないですね。
投稿 内藤卓 | 2008年3月28日 (金) 18時58分
A4
すでに法務省が
「社法施行後の登記官による登記の申請書に記載された目的の審査に当たって,当該目的が具体的に記載されているか否かの観点からの審査は行わないこととしましたのでお知らせします。
 登記された会社の目的の記載内容が抽象的にすぎる場合には,許認可や取引きにおいて一定の不利益を受ける可能性もありますので,十分ご注意ください。」
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI65/result_minji65-1.html
と公表していますし、そのパブコメでは「商業」「商行為」でもよいこととされています。
登記所でも受理されるはずです。

Q5
 会社法施行規則130条3項の「監査役会監査報告の審議」について,法務省の見解として,電話会議も困難な,多忙な監査役がいるケースを慮って,
「全監査役が同時に意見交換ができなくてもよい。
 例えば,B監査役が予め(多忙な)A監査役の意見を聞いておいて,当日,Bが他の監査役にAの意見を紹介して,これを前提にA以外の者の間で意見交換してもよい。」
というものがあるそうですが,本当でしょうか。
(法務省に電話する以外に,上記見解の有無を確認する方法はないのでしょうか。)
 この場合,当該監査役会の議事録の記載ぶりは,
「B監査役は,A監査役が別紙の監査役会監査報告の内容について承諾する旨の意見を表明していることを説明し審議に入った。」
というものでよろしいでしょうか。
投稿 はる | 2008年3月28日 (金) 20時16分
A5
「会議を開催する方法又は情報の送受信により同時に意見の交換をすることができる方法」となっていますので、1回は「同時性」は必要です。
たとえば、2回、審議する場合には、どちらか1回は、おっしゃる方法でもいいと思います。

Q6
現実問題としては、公告などチェックしない株主がほとんどですし、名義書換を怠ったような株主は別として、通知とは週知性の度合いが違うのではないかと思います。
従来は、株主の意識として「重要なものは総会で決まるのだから、公告など見なくとも総会の召集通知さえ見れば良い」という前提があったと思うのですが、総会がなければその前提もなくなります。簡易組織再編の場合も、影響が小さいから保護の必要も小さいだろうというのならわかります。
でも、略式組織再編の場合は特別支配会社の思い通りの再編がなされるわけですから、経営陣と少数株主の間で利益が相反する場合もありうるでしょうし、少数株主にとって影響の大きい不利益な決定がされるおそれも高いと思います。
そのような状況の下で、「事業の全部の譲渡」や「金銭を対価とする合併」といったものでさえ、前触れもなく突然やってくる。毎週のように公告をチェックしなければ、買取請求も差止請求もできなくなる。これは自己責任で片付けられるでしょうか。株主はお客様ではないとしても、これはもう経営陣が支配株主だけをお客様扱いしている状況と言えないでしょうか。この場合も従来のスタンスそのままでいいのかなと思っています。
僭越ながら、少数株主の保護のために、469条4項1号や785条4項1号などは問題ないのかなと思いました。立法論ですし、この点について議論などは存じあげないので、理解の間違いがありましたら申し訳ありません。
投稿 K.H | 2008年3月23日 (日) 03時47分
A6
略式組織再編における少数株主保護については、おっしゃるような問題はあるのでしょう。
デラウェアのように「賛成した人だけは、株式買取請求権がない」という法制度の方が少数株主にとっては便利でしょう。
他方で、会社にとっては、どれだけの株主が買取請求権を行使するか分からないということになると、組織再編をやりづらくなります。
バランスをどこに採るか、政策論的には検討に値するでしょう。

Q7
紳助が三波伸介になってます。
本村氏とは、かなり近い関係と想像していましたが、そこまで深い関係とは・・・。
附設出身ならM田S子情報も持っているのでは・・・?知ってても言えないか?またサミーさんに先生の代わりに言ってもらうわけには・・・いかないですよね。
投稿 どーでもよいコメ | 2008年3月23日 (日) 13時39分
A7
ご指摘ありがとうございます。
M田S子さんは、私よりも、少し年齢が上で、「ミス附設」だったという噂を聞いたことがあります。たしか、お兄さんが、附設の卒業生だったと思います。ちなみに、一度、M田S子さんが、附設の同窓会に顔を出したとか聞いたようなが・・。

Q8
葉玉匡美弁護士は「行列」から出演のオファーがあったり、出たいと思ったりしないのですか?
アルファブロガーの授賞式を拝見していますと、個人的には十分「行列」でもやっていけると思うのですが。是非観てみたいです。
投稿 rd3 | 2008年3月24日 (月) 01時09分
A8
皆さんから、よく「行列にでないの?」と聞かれますが、オファーはありません。
オファーがあっても、今でも十分「色物」なので、「行列」には出ません。

Q9
 二項強盗罪が既遂になるための要件について、混乱してしまったので質問させて下さい。
 『推定相続人である子が、被相続人たる親を殺した』という事例で、二項強盗による強盗殺人罪(240条後段)の成否を論じるに際して、その既遂時期の判断基準は、生命侵害の有無を基準にする、というのが判例・通説ですよね。
 では、債権者が債権を行使することを困難または不可能にすることを要する(具体性・確実性のある財産上の利益移転を要する)、とういうのは強盗殺人罪の成否において、体系上どのような位置づけになるのでしょうか? 
A9
 そのような状況になければ、そもそも「二項強盗」には該当しないという位置づけでしょう。

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2008年3月22日 (土)

定款変更の動議

 今日の二本目は
   株主総会における動議の取り扱い
というまじめなネタです

 このネタは、次回のT&Aマスターでも触れる予定ですが、総会についての相談を受けているうち、実務的には容認できない解釈が一部でささやかれているようなので、ブログでも取り上げます。

 「動議」というのは、法律用語ではないのですが、
   株主総会の最中に株主が提案を行い、採決するよう求めること
をいいます。

 株主の提案権(304条)は、議題の範囲内であれば、原則として自由に行使することができるので、取締役会が定めた議題について、株主が
   私は、こういう案の方がよいと思います。
などといって新しい提案をしたら、議長は、会社提案と同様、その議案について採決をしなければなりません。

 逆に、株主の提案が、議題の範囲ではなかった場合には、その提案は不適法ですから、議長は却下することになり、採決する必要はありません。

 このように株主提案が、議題の範囲内かどうかは、議事の進め方に大きな影響を与えますが、最近
  「定款の一部変更の件」という議題
の捉え方について
  その議題は、定款のすべての条文の変更が議題となっており、株主は、どんな条文の変更でも提案できる
という見解があると聞いて、ちょっとビックリしました。

 この見解は、議題が「定款の一部変更の件」とされている場合は、たとえば、
  会社が「定款第5条の変更」だけを提案している場合でも、株主は「定款第9条の変更」も提案することができる
というもので、この結論だけを聞いても、大変不合理な見解のように思います。

 その場合、株主としては、定款第5条の変更については、事前に招集通知や議決権行使書面、株主参考書類等で情報提供されているので、議論すべきポイントがわかりますが、定款第9条については何も知らされていません。
 当然のことながら、書面による議決権行使や電子投票をした株主にとっては、定款第9条の変更のことなど晴天の霹靂ですから、万一、総会で株主提案が可決されてしまえば、それらの株主の予測可能性を害することにもなります。
 
 したがって、実務上も、政策的にも、この見解は、到底容認できないものと思います。

 ところが、この見解は、会社法を根拠としていると聞いて、二度びっくり。
 
すなわち、こういう理屈だそうです。

『旧商法342条2項は、定款の変更を行う場合には、議案の要領を総会の招集通知に記載しなければならないことを規定していた。
 そのため、「定款の一部変更の件」という議題も、「定款第5条の変更」という議案とを一体的に捉えることができ、そのような議題であっても、「定款第5条の変更の件」という議題に限定して考えることができた。
 ところが、会社法は、旧商法342条2項に相当する規定を置かなかったので、議題と議案を一体的に捉えることができなくなった。
 そのため、「定款の一部変更の件」という議題は、文字通り、どんな一部でも変更できるものと考えるほかなくなってしまった。』

 この理屈は、いくつもの前提の上に構築されているのですが、少なくとも、会社法が、旧商法342条2項に相当する規定を置かなかったのは、招集通知と株主総会参考書類等の記載事項の整理を行っただけであり、その見解が述べるような不合理な議題の解釈をするためではありません。

 もともと、議題は、取締役会の決議で定めるものであり、法律が具体的な議題の内容を決めるわけではありません。
 たとえば、最初から「定款第5条の変更の件」と定めれば、5条だけが議題になるのですから、旧商法342条2項があろうとなかろうと、
   取締役会がどのような趣旨で「議題」を定めたのか
によって、その内容が決まるはずです。
 
 先ほどの事例では、取締役会が
  「定款のどんな条文でも変更してもいいですよ。」
と考えて議題を設定しているはずはなく
  「定款第5条の変更について審議したい」
と考えているのは明らかです。
 また、招集通知や株主総会参考書類等を読んだ株主も、そう判断するのが普通です。

 ですから、たとえ議題が「定款の一部変更の件」とされていても、招集通知や株主総会参考書類等に書かれている議案と総合的に捉えて
  その議題は、「定款第5条の変更の件」と解釈すべき
であり株主が議場で「第6条の変更」の提案をしても、議長は不適法却下すべきでしょう。

 このほか、T&Aマスターでは、
  追加配当の株主提案がされた場合の考え方
などについて書かせてもらいましたが、こうした動議に対する対応は、決議取消の訴えなどの理由ともなるため、法務スタッフを悩ませるタネになっています。
 いろいろな考え方はあるにせよ、常識に従った対応をすれば、適法となるような解釈を導くことが大切だと思います。

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本村健太郎弁護士

今日は、
  最初に皆様にとって、どーでもよいネタ

  株主総会における動議の取り扱いという大事なネタ
の二本立てです。

最初に、「どーでもよいネタ」から。

最近、「行列ができる法律相談所」でレギュラーになっている
 本村健太郎弁護士
は、私の母校である久留米大学附設中学、高校、東京大学文Ⅰ、法学部の一つ下の後輩です。
 単に一つ後輩というだけではなく
  中学のときは、柔道部で一緒
  高校のときは、演劇部で一緒
  大学のときは、1年間同じ劇団
という関係でしたので、健太郎(いつも、そう読んでいたので、失礼ながらそう呼ばせてもらいます)の青春の3ページくらいは、それなりに知っています。

 健太郎は、大学の途中から、「劇団麦の会」というところに所属して、テレビとかにたまに出演するようになりました。私は、大学以来ほとんど会っていなかったので、弁護士として地道に働いているのだと思っていましたが、WIKIPEDIAを見てみると、結構、いろいろと出演していたんですね。

 健太郎は、シャイでまじめで優秀な男ですが、「目立ちたい」という情熱を奥底にもっていて、その情熱が不器用な純朴さとともに現れてくるところが彼の持ち味です。

 苦節15年、メジャーをめざして努力していたようなので、最近のブレイクぶりを見るにつけ
  よかったなあ!健太郎!
と声をかけてやりたくなります。

 実は、先週の「行例」で、健太郎が「初恋の人」とご対面という企画があって、その前フリとして
  附設高校の演劇部時代の再現ドラマ
がありました。その再現状況は、私が現実に経験したことで、「あの高校生の中に俺の役がいるはずだ」という感じのできごとなので、あまりの懐かしさに思わず涙が流れました(ちょっと誇張あり)。

  私は、「初恋の人」と聞いた瞬間に、「合宿に来た女の子に違いない」と思いました。附設高校は、男子校で、久留米の山の中に立っているので、ほとんど女性との出会いなどないのです。
 ですから、健太郎が女の子と出会うとすれば、筑後地区の高校の演劇部の部員が、毎年、夏休みに一堂に会して行う合宿くらいしか考えられないわけです。
 高校の演劇部というのは、共学の高校でも、圧倒的に「女子部員」が多く、その合宿は、90%は女子高生で、残り10%が男子、しかも男子のほとんどが附設高校生という夢のような企画でした。
 演劇部の顧問の先生が一緒に寝泊りしますので、合宿自体は決して不純なものではないものの、普段山の中の男子校に閉じ込められている山猿の心は、ほとんど不純物で占められていました。
 健太郎も、山猿の一人として、合宿に来ていた可愛い女子高生に色目を使い、あろうことか、後日、電話でデートに誘ったらしいのですが、あっさり振られてしまったというのが、再現ドラマの内容でした。
 
 私は
   へえー。あのシャイな健太郎がそんなことをやっていたんだ。
とやや驚きをもってみていたのですが、島田伸介さんが、登場した初恋の人に
   なぜ、本村先生のデートの誘いを断ったんですか?
と聞いたところ、その初恋の人が
   実は、本村君と一緒にいた先輩のことが好きだったんです。
というようなことを言ったのです。

 私は、一瞬、
   おっ、俺のことか?
と思いました。いや、別に根拠はありません。

ところが、健太郎がすかさず
   タマキ先輩?
と、私の同級生で演劇部きっての二枚目の名前をあげたところ、初恋の人は
   うん。
とうなづき、それでおしまい。
 私のほのかな期待は、2秒で打ち砕かれました。

 私は、公共の電波を用いて、このような内輪ネタで盛り上がること自体、放送法上の問題があるのではないかということを検討するともに、健太郎に対し
  せめて健太郎くらいは「葉玉先輩のことが好きだったの?」といって欲しかった
と言いたくなったので、そういう気持ちを率直にブログに記しておきます。

 まあ、健太郎が「葉玉先輩?」と言って、初恋の人が
  誰、それ?
とか返したら、かえって傷つくんでしょうけど。


 長くなったので、二本目は、別の記事にします。
(質問コーナー)
Q1
前回のQ15に対する回答の中に、まとめノートを作るとありましたが、どのようなことをまとめればよいのでしょうか?
基本書を要約するという意味でしょうか?
それとも、論文問題や択一問題を解く過程で判明した、自分に欠けていた知識などをまとめるという意味でしょうか?
投稿 ぺちか | 2008年3月16日 (日) 22時59分
A1
ペチカさんの発想は、何かINPUTすべき情報があって、それをまとめるというイメージですが、私は、そういう方法はとりませんでした。
INPUTは、教科書や論文、択一問題など様々なものがあります。
それらをすべて、OUTPUT(特に論文)に役に立つ形で、できる限り統一した形でまとめていくのがよいと思います。
 まとめる際のポイントは
1 重要な部分は文章で書く。
2 それ以外の部分は、キーワードと接続詞だけを書く(全部文章にすると一覧性が悪く、読み返しに時間がかかる)
3 随時、付け加えたり削除したりするので、ルーズリーフやB5カード、パソコンを用いる。
4 パソコンを用いる場合には、必ず印刷物も作成する。
5 作るのに時間をかけず、繰り返し読むのに時間をかける

Q2
さてカネボウの決定では、実務上重要な点として巨額の鑑定費用の負担割合という問題があったように思います。今回、主張額からの乖離率を用いて約5400万円のうち原告側が約4500万円を負担すべきとされましたが、これは原告側の最初の主張額に大きな設定ミスがあっただけであって、真っ当な訴訟戦術を採ればこのような結果は避けられる、という理解でよいのでしょうか。それとも、裁判所はこの点ではあまり少数株主側に配慮しないのでしょうか。
投稿 マメシバ | 2008年3月17日 (月) 01時35分
A2
 裁判所は、配慮することもできますから、これは、裁判のプロセス全体から適切に判断したというほかありませんね。何をもって公平というか、難しいところです。

Q3
妙な質問にご教導ありがとうございます。
(1)3月 9日 A3「出資の払戻をすれば、出資額が減少しますから、原則として、配当も減少します」と3月16日A5は、矛盾を来たしていると感じますが、如何でしょうか。また払戻でなく、出資未了の場合はどうでしょうか。
(2)そもそも582の適用場面はありうるのでしょうか?社員がこれを避けるには、とにかく出資を履行し、直ちに払い戻せばよいだけなので、実質的にこの条項の出番はないと感じるのですが。
投稿 ひで | 2008年3月18日 (火) 17時58分
A3
(1) 矛盾しています。3月9日の記事を読み返したところ、このQ3も、合名会社と合資会社のことだったことに気がつきました。私は、合同会社と思い込んでいました。すいませんでした。合名会社と合資会社の場合には、出資の払い戻しにより、当然には、出資の価額は減少しません。
(2)  出資の価額が変わらなければ、出資の払い戻しをしても、出資義務は残ると解すべきでしょう。したがって、582条の適用場面はあります。

Q4
公告を見逃した株主の話が出ていますので、会社法について先生に質問があります。
略式組織再編の場合でも、公開会社であれば通知を公告に代えられるということでいいのでしょうか(事業譲渡なら469条4項1号)。そうだとすると、略式だとあたりまえですが総会招集通知も無いため、株主は公告でしか組織再編を知る術が無いことになるかと思います。
特別支配会社がいる場合には少数株主に不利益な決定がなされる可能性も高いと思うのですが、わずか20日間公告を見落としただけで買取請求をする機会を失ってしまいます。カネボウで何万人もの株主が営業譲渡(産活法を活用して決議省略)に気付かず清算結了まで何年も拘束されているのを見ると、略式の場合は通知くらい義務付けていいのではないかと思うのですが、いかがでしょう。この条文の意義についてよろしければお聞かせ下さい。解釈に間違いがあればスミマセン。
投稿 K.H | 2008年3月19日 (水) 03時17分
A4
 株式譲渡自由の原則のもと、株主は常に変化しており、株主名簿上の株主が株式買取請求権を行使することができる株主であるとは限りません。したがって、理論的には、公告の方が周知性が高い場合もあり、公告でもよいこととされています。株主としても、お客様ではないので、自己の権利を守るためには、公告くらいは、チェックするべきであるというのが、従来からの商法・会社法のスタンスですね。
 
Q5
4月からロースクールに入学するか迷っているものです。
法曹界のことについて教えてください。
実は私は昨年のロー入試では国立の試験に失敗し、私立のローに行くことになったのですが、大手の法律事務所のHP等を見てるとやはり東大を始めとした国立出身の方が多いように感じます。
もちろん仕事は学歴ではなく実力で勝負するものだとは思いますが、東大出身者の多さはすごく目に付きます。
先生は弁護士が仕事をするに当たって出身ローの名前は重要だと思いますか。
それとも法曹界は出身ローや学部に関わらず、自分の努力次第で成功を勝ち取ることができる世界ですか。
法曹界の実情があまり分からず、不安なので教えてください。
投稿 335 | 2008年3月20日 (木) 02時24分
A5
法曹として仕事をするときに、自分の学歴を言うこともなければ、相手の学歴を聞くこともありませんから、仕事上は、学歴は関係ないですね。
就職の面では、大手法律事務所の中には、東大出身の方が優秀な弁護士になる確率が高いという発想で東大出身を中心に採用しているところもあるでしょう。
ただ、どの事務所もそうだというわけではありません。
たとえば、TMIでは、「多様な人材を確保しなければ、多様な仕事に最適の対応をすることは難しい」という発想のもと、学歴を優先するような採用をせず
 「一芸に秀でた常識人」
を採るという発想で採用しています。
他の事務所でも、それぞれ採用ポリシーが違いますから
  特定のロースクールを優先的に採る事務所もあれば
  気にしないところもある
と思いますが、総じて、出身ローよりも、「その人に魅力があるか」を見ているのではないでしょうか。
 ですから、大学やロースクールを気にする前に、自分が、採用担当者になったつもりで、自分を客観視し
   「採用担当者が、自分と他の人を見比べたときに、自分を選ぶポイントとなる魅力ってなんだろう」
と考えてみるとよいでしょう。
 また、ロースクールの卒業生は、法律事務所に就職するにせよ、会社に就職するにせよ、全体に「受け身」であるような印象があります。
 「どこに就職してもいいんだけど、お前のところの面接に来てやったよ」
という態度の人と
 「他ではなく、どうしても御社・御事務所に就職したいんです」
という人は、当然、採用担当者に対する受けが違います。
 こんなことは就職活動の常識に属することですが、企業の方とお話していると、
「ロースクール生は、「御社に入りたい」という意欲がいまひとつ伝わってこない」
という声をまま聞きますので、念のため。
 
Q6
葉玉先生、こんにちは。
「新・会社法100問」の、94問の、P554の7行目と8行目と11行目の、「共通(支配企業の形成)」の「通」は、「共同(支配企業の形成)」の『同』では無いかと思うのですが・・・

投稿 至誠丸 | 2008年3月20日 (木) 12時15分
A6
すいません。誤植です。

Q7
吸収分割手続において、会社法784条3項の簡易吸収分割に該当するため、分割会社の株主総会の承認を省略しようと考えております。
分割会社は種類株式発行会社であるため、会社法322条1項による種類株主総会の開催の要否について教えてください。
会社法322条1項の「ある種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」とは、種類株式発行会社で、一部の種類株主についてのみ損害を及ぼす恐れがある場合にのみ適用があり(例えば、ある事業の業績によって優先配当を受けることが出来る種類株式が発行されているような場合において、当該事業を分割するときに、当該種類株式について種類株主総会の承認がなければ、吸収分割の効力が発生しない)、吸収分割そのものが全ての種類株主(会社全体)に損害を及ぼす恐れがある場合には会社法322条1項は適用されないという解釈でよいのでしょうか。
投稿 seiquro | 2008年3月20日 (木) 17時07分
A7
解釈はそれでよいと思いますが、実際に種類株主ごとの影響が均等とするのは難しそうですね。
Q8
葉玉先生A15に関連して質問があります。
『⑤最低3000問以上択一を解くこと』の、3000問とは全て異なる問題なのでしょうか、それとも同じ問題集の繰り返しでも3000問にカウントしてよいのでしょうか?
新司法試験の対策として、教えてください。よろしくおねがいします。
投稿 ブルー | 2008年3月20日 (木) 17時37分
A8
各科目違う問題が200問程度あれば、同じ問題集の繰り返しでもいいでしょう。

Q9
会社法施行規則第74条第4項6号ロについて、次の2点を御教授下さい。
なお、千問のこの部分は読ませていただいております。
①多額の金銭とありますが、多額かどうかは各社の判断に任せるといった意味でよろしいのでしょうか?(そうであれば、参考に先生の御存知の基準を教えていただけると幸いです。)
②上記金銭は、役員等としての報酬を除いてありますが、これはどういった種類の金銭を意味しているのでしょうか?例えば何かのあっせんして、お礼をもらったとか、「よくない意味での収入、正当でない収入」という種類の金銭なのでしょうか?
以上、宜しく御願い致します。
投稿 貝塚 | 2008年3月21日 (金) 10時02分
A9
① 各社の判断に任せるわけではありませんが、結局は、各社が自主的に判断するしかないでしょう。
② よい悪いは関係ないです。顧問料とか、贈与であるとか、いろいろです。

Q10
株式会社同士の吸収合併時の実務について、お教えいただきたいことがあります。合併により消滅する会社は、会社法471条の規定により解散されることにはなりますが、475条の規定により清算手続きは求められていません。
実務上、合併日以降に消滅会社の名前で発行する印鑑付きの書類等(たとえば、税務申告書など)がありますが、これは、旧消滅会社の代表者の名前で押印するものでしょうか?今回のケースでは、合併と同時に消滅会社の代表者(Aさん)は存続会社に移籍しないので、Aさんの名前で印鑑を押すことに抵抗があります。かといって、清算人をおくこともできないんですよね。
投稿 合併請負人 | 2008年3月21日 (金) 14時48分
A10
存続会社の代表者が代表します。

Q11
利益剰余金がマイナスの場合の取扱い
分配可能額が十分にあったとして、期中に利益剰余金から配当を連続して行いました。その結果、期末時点で利益剰余金がマイナスになりました。(資本剰余金があるため分配可能額でみれば、プラス)。この場合、期末に資本剰余金から利益剰余金に振替をしなければならないのでしょうか。(利益剰余金を0にすることを上限に)。私の理解では、振替をせず利益剰余金をマイナスのままにしておいても問題ないと考えているのですが・・。表示上は気持ち悪いですが。
A11
普通は、利益剰余金がなくなった時点で、資本剰余金を配当原資として配当するんでしょうね。
資本剰余金から利益剰余金の振り替えは、自由にはできません。
そのままにするんでしょうね。
Q12
臨時決算の取扱い
配当原資を確保するために期中に、臨時決算を行い、臨時計算書類を行った場合の取扱いをご教示下さい。
臨時決算をして利益が出た場合、それは利益剰余金として配当原資に追加でき、その金額を利用して配当できるかと思います。しかしその後、業績が急激に悪化して、赤字会社になってしまい、期末時点では配当原資がなくなりかつ利益剰余金はマイナスになってしまいました。この場合、臨時決算を行ってえた利益を原資とした配当に違法性を問われることはあるのでしょうか。
A12
配当自体は、その時点で分配可能額の範囲内であれば、違法ではありません。
欠損てん補責任は生じます。

Q13
.海外子会社の取扱い
そもそもで恐縮ですが、親会社は子会社を管理していると思いますが、海外の子会社の配当に関し、財源を規制しているのは日本の会社法ですか?それとも現地の会社法類似法ですか?
投稿 くろすけ | 2008年3月22日 (土) 10時10分
A13
海外の子会社は、海外の会社法で設立されているはずです。したがって、配当制限も、設立準拠法によります。

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2008年3月16日 (日)

株式の価格決定の裁判

 先週の金曜日に、カネボウ株式の価格決定の裁判がありました。

 2年近く争って、結果は、カネボウの主張していた162円を上回る360円となったため、「異例の決定」として大きく新聞報道されました。

 価格決定の申立て事件は、中小企業の相続争いまがいのものを含めて、それなりの数の裁判例があり、必ずしも会社側の主張が通るわけではないので、会社の主張が通らなかったということだけならば、それほど異例の決定というわけではないでしょう。

 しかし、カネボウは、元上場会社であり、今回の申立人による株式買取請求権の行使についても、非上場化後の企業再生スキームの一環として行われた事業譲渡に伴うものだったため、大きな注目を集めたわけです。

 カネボウを実質的に支配している企業連合は、当該事業譲渡前に
   162円でTOBを実施して、約83%の株式を取得した
こともあり、今回の裁判でも
   当該TOB価格を「公正ナル価格」
と主張していました。
 そのため、今回の「360円」という決定は、
      反対株主に対して、これから、いくら払うか
という問題だけではなく、
   TOB価格が安すぎたのではないか?
   なぜ、会社は、そんなTOBに賛成したのか?
   そもそも事業譲渡の価格が安すぎたのではないか?
等という再生スキーム全体についての問題を提起することになりそうであり、カネボウにとっては承伏しかねる決定なのだと思います。

 もちろん、一般的に言えば
  「TOBに応じるのは株主の自由であり、株主が納得してTOBに応募した以上、後にTOB価格よりも高い「公正ナル価格」の決定がされたからといって、文句を言う筋合いではない。」
  「事業の価格は、株式の価格とは直接の関連性がない」
等と言うことはできるでしょう。

 ただ、
  TOB価格と2倍以上の開きがある価格と判断されたこと
    裁判所は、事業譲渡がなかったと仮定した場合のDCF方式により株式価格を算定しており、事業の価格と株式の価格が全く無関係とはいえないこと
などを考えると、当時の取締役が賛同した再生スキームについて
   善管注意義務違反にならないか
と不安になるのは当然でしょう。

 では、裁判所は、どのような判断プロセスをたどって、360円という結論に達したのでしょうか。

 株式買取請求権の行使に伴う価格決定の申立は、株式の価格をめぐって申立人(株主)と相手方(会社)が主張と立証を尽くし合う点では訴訟的ですが、「公正ナル価格」がいくらなのかは、要件事実の立証によって法律的に機械的に決まるようなものではありません。
 価格決定の申立の裁判は、「非訟事件」であり、その価格は、裁判所が、その裁量で
   適当に
決めます(「いい加減に」という意味ではありません)
 今回の決定の理由の中でも、一番最初に
   「価格は、俺が、自由に決めるんだぞ。」
という趣旨のことを難しい言葉で述べられていますが、そう書いてあっても無くても、そもそも、価格決定は、裁判所が
  「これだ!」
と決めれば、その価格になります。

 とはいえ、裁判所は、決定に際して、理由を述べなければならないので
    「ボクの結婚記念日が3月6日だから、360円にしました。」
などということはできません。

 一般的には、申立人と会社が、自分に有利な
     株価の算定方式
を主張し合い、その算定方式をもとに株価を評価した鑑定書を裁判所に提出します。
 そして、裁判所は
   どの算定方式にするか
   算定方式に当てはめる前提事実としてどのようなものを選択するか
等を決めて、最後に、微調整して判断するのです。

 株式の算定方式は、上場株式ならば、市場価格がベースになりますから、それほど算定に苦労することはありません。
 レックスホールディングの価格決定申立てのように
    どれだけの期間(1か月か、3か月か、6か月)の平均株価を取るのか
     (または、効力発生日の株価を取るのか)
という点は争点になりえますが、どの範囲にするかは、最後は、裁判所の
    気合い
で決まります。

 他方、非上場株式の算定方式は、多種多様で、決め手がありません。
 一般には
  時価純資産方式
  類似業種比準方式
  ディスカウントキャッシュフロー(DCF方式)
  配当還元方式
等があり、これらを単独で、または、組み合わて、適当と考えられる金額を決めます。

 このうち、本件のような事例において
   配当還元方式
を裁判所に採用してもらうことは、特別な事情がないと、なかなか難しいように思います。

 それは、
 ① 配当は、取締役会や多数派株主が配当を決定するため、少数派株主の株式の価格を、多数派の意思で左右することができるという点で、公正さを確保しにくいこと
 ② 譲渡された事業の価値を株式の評価対象とすることが難しいこと
等の難点があるからです。

 ですから、配当還元方式は、種類株式であるとか、配当だけを目的としていることが明確なスキームで株式を取得した場合(特殊な従業員持株会等)でないと、それを「公正」というのは苦しいのです。

 時価純資産方式は、資産管理会社のように、事業の割に大きな資産を持っている会社にふさわしい判断方式です。
 他方、収益性の高い事業を持つ会社や時価評価が難しいノウハウや知的財産権を多数保有する会社の株式の価値を時価純資産方式で算定すると、低く評価されすぎてしまうという難点があります。

 このように配当還元方式や時価純資産方式は、どちらかといえば、株価が安く評価される方式であるため、相続税対策としてはそれらの算定方式が使えるようにスキームを組んだりするものの、株式の価格決定の申立てでは、それなりの理由がないと使いにくいように思います。

 以上に対して
  類似業種比準方式
  DCF方式
は、ともに事業の価値を織り込んで株式を評価するという点では共通しています。
 しかし、今後、事業を継続していくことを前提にして、その事業自体の価値を評価するという点を重視すれば、DCF方式が最適です。

 カネボウは、事業譲渡により抜け殻のような状態になったので、本来、DCF方式の評価にはなじみません。
 しかし、事業譲渡における反対株主の株式買取請求権は
   事業譲渡がなかったと仮定した場合の公正な価格
で株式の買い取りを求めることができる権利ですから、裁判所が
   事業譲渡がなければ、カネボウが得たであろうキャッシュフローを仮定してDCF方式で算定した
というのは、それなりの合理性があると思います。

 もっとも、DCF方式は、「将来のキャッシュフロー予測」自体が不正確であれば、まともな株価が算定できないという欠点があります。
 実際、いいかげんな事業計画をもとに、いいかげんなキャッシュフロー予測を行い、恣意的な株価を設定する投資スキームもあります(ですから、投資家の皆さんは「DCF方式で計算すると一株○○万円」という目論見書をもって、未上場株式の引受の勧誘に来ても、話半分(もしくは、話100分の1)くらいで聞いていた方がよいでしょう)。

 結局、DCF方式を採用したうえで、その計算の基礎となる将来のキャッシュフローをどのように設定するのかが、裁判を行う上で最大の課題であり、カネボウでは、そのことを突き詰めているうちに約2年の歳月がかかったでしょう。

 両当事者とも、決定に不満で即時抗告したようですから、今回の決定の当不当については、コメントを差し控えますが、私は常々
   株式買取請求権は、少数株主にとって最後の砦
と申し上げていますから、今回の決定は「異例の決定」というわけではなく
   価格決定の申立の裁判が正常に機能している
ことを示す好例であると思っています。

 事業譲渡や組織再編を行おうとする場合には、どうしても多数派株主の損得勘定が優先しがちですが、カネボウの裁判例は
   「公正な価格」とは何かを真剣に検討しなければならない
ということを改めて考えさせられるできごとのように思います。。

 なお、今回の決定は、旧商法の適用を前提としたものですが、会社法的にも
 1 保振に預託したままの買取請求権の行使が認められるか。
 2 どの時点で取得した株式について、買取請求権を行使することができるか
 3 会社が、株主に対して個別に通知せず、公告だけしかしなかったため、行使期間を認識できなかったと主張する株主や買取請求権の行使期間に長期出張中で事実上、行使できなかった者の期間経過後の買取請求権の行使は認められるか
など興味深い論点はいくつかあります。
 それらの点については、機会を改めて解説することにします。

(質問コーナー)
Q1
定款に576の事項のみを記載する合名会社及び合資会社において、624の出資の払戻がされたときは、当該社員にかかる定款の定めのうち出資の価額は、変更を生じますか?
A1
 合名会社・合資会社では、出資の払戻をしても、「出資の価額」は当然には減少しません。(合同会社については、632条)

Q2
 出資の払戻した額は580Ⅱの「既に持分会社に対し履行した出資の価額」から控除すると考えていいですか?
A2
 出資の額の減少を伴わなければ、そのとおりです。

Q3
その場合、913⑦の「既に履行した出資の価額」が減少したとして変更登記をすべきですか?
A3
 登記は必要でしょう。有限責任社員の直接責任分を公示する趣旨ですから。

Q4
 663の場合はどうなりますか?
A4
 出資した額が、定款の出資の価額に満たなければ、663条の適用があります。

Q5
 622や666の「各社員の出資の価額」とは、既に履行した出資の価額から払い戻された価額を控除した価額ですか?
投稿 ひで | 2008年3月 9日 (日) 13時36分
A5
 622条、666条は、払い戻された額を控除しない額、すなわち、定款の額だと思います。
 一見、不公平なような気もしますが、理屈としては、定款の出資額の方がすっきり説明できそうです。

Q6
 今昔買った会社法100問の初版を使って勉強を始めたのですが、2版を買いたいと思い始めています。ですが、2006年の11月に出版されているのでそろそろ改定されないか不安なのですが、近々改訂版(第3版)を出されるご予定はございますか?
投稿 pink | 2008年3月 9日 (日) 17時30分
A6
 当分、改訂しません。

Q7
去年の合格者ですが、択一模試を何回か受けて、あしきり点はおそらくクリアは
できるだろうという感触があれば受けてみる価値はあると思います(論文の採点
がされるので、次の年に役立つ)しかし、肢きりがクリアできそうにないのであれば、貴重な1回を使って受験する意味は少ないと思います。
投稿 a | 2008年3月 9日 (日) 19時27分
A7
 私は、そう思いません。

Q8
前回のQ8で質問させていただいた者です。
>Q8.会社法施行規則126条(会計監査人設置会社の特則)についてです。
>弊社は前回の定時株主総会の終結のときをもって会計監査人が任期満了により退任し、同株主総会で新しい会計監査人を選任し現在に至っております。
>この場合、当事業年度の事業報告には、新旧両方の会計監査人について記載が求められるのでしょうか? それとも、「新」だけの記載でよいのでしょうか?
>A8.9号を除き、事業報告作成時点の会計監査人、すなわち、「新」だけだと思います。
>会計監査人は、当然再任が原則なので、任期満了というのは、不再任の決議をしたか、辞任されたか、どちらか(たぶん、後者)だと思います。
では、「旧」が「一時会計監査人」であった場合はどうでしょうか? (弊社の現実は、このケースです。) 「新」会計監査人の就任による一時会計監査人の退任は、「辞任」にも当然「解任」にもあたらないのではと思いますが…。
投稿 ツェーベーツェー | 2008年3月10日 (月) 11時05分
A8
 一時会計監査人も、同様に考えるべきでしょう。

Q9
初めてコメント欄に書かせて頂きますのは、株券の電子化への対応ついて、ご質問があるからです。
葉玉先生の商事法務の記事を拝見いたしましたが、1823号(中)の34頁に、税制適格ストック・オプションへの言及がございます。ここで、「新株予約権の内容を、株券の電子化に対応した税制適格要件に変更しなければならないものが多い」ということですが、これは、株券の電子化に伴って、税制適格要件が変わるということでしょうか。それとも、要件は変わらないが、株券があることを前提とした記載ぶりになっているので、変えたほうが良いということでしょうか。また、どのように変えれば良いのでしょうか。
何らかの修正が必要であるか検討しているのですが、よくわからず、もし葉玉先生のご意見が頂けるようですと、大変ありがたく思います。
投稿 清美と申します。 | 2008年3月10日 (月) 17時09分
A9
 株券と振替株式では、税制適格要件が異なります(実質的には、ほとんど同じなのですが、法律的には別の要件です)。どのように変えれば良いかは、商売のタネなので、個別に相談に来てください(笑)。

Q10
第326条1項の「株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。」とありますが「一人」と「二人以上」をわけているのには理由があるのでしょうか?
投稿 08秋生 | 2008年3月10日 (月) 21時07分
A10
 他の法律等で使われている用例に従っただけです。

Q11
資格試験上は、法文上の使い方が絶対でしょうから、
例えば、択一試験等で、
「株式会社は会社法155条以下の規定に基づき自己株式の取得をすることができる。」(こんな引っ掛けの肢が実際にあるかどうかはしりませんが。)
という肢があった場合には、
誤りと判断しなければならないのではないですか?
投稿 rd | 2008年3月10日 (月) 23時26分
A11
 そんな問題はでません。

Q12
 「受け控え」の記事、大変為になりました。
 「ロースクールでの留年」についても
 葉玉先生の御感想を御聞かせ下さい。
投稿 三留五郎 | 2008年3月11日 (火) 00時37分
A12
 故意に留年するかどうかですか。通常、意味のない行為のように思います。

Q13
 現在司法修習中です。私は葉玉先生と、全く同意見です。
 そこで、おそらく今後社会問題にも成ると思うのですが、
 何度も何度も何度も落ちながら、昔と同じく、旧試験を続けている人々、私自身、夢をあきらめずにがんばる姿は、ときに美しいと思うのですが、それだけでは片付けられない、
 というか、何年やってもそのままでは、その気持ちでは…
 という「ベテ」達が、周りに山ほどおります。
 彼らに何度アドバイスをしても、彼らの心には響かないようです。
 彼らに対する先輩からのお言葉をいただけませんでしょうか。
 投稿 びあ | 2008年3月11日 (火) 08時00分
A13
 司法試験受験生には、初心者も、ベテランも存在しません。
 「法律がわかっていないから合格しない」「努力がまだ足りないから合格しない」
 これだけは、すべての受験生に共通しています。
 30過ぎで合格した人を沢山知っていますが、ほとんどの人が「最後の2年は一生懸命勉強した」と言います。
 ガムシャラに、能率的に、時を惜しんで、2年間勉強できたときに合格します。

Q14
外国会社でも、株式会社という文字が使用できるという登記所も都内にあります
困るんですけどね
投稿 みうら | 2008年3月11日 (火) 17時10分
A14
それは、困りますね。

Q15
現在国立大学のロースクールに通っている、未修1年の者です。
この1年間ロースクールで勉強してきましたが、力が付いたといういう実感が全くもてませんでした。
「基本書と判例を読み込め!!」というのが、私が通うローの先生方の進める基本的勉強スタイルでした。しかし、いざ読み込むとはどいうことかと先生方に尋ねても、明確な回答は得られませんでした。
そこでお聞きしたいのですが、葉玉先生のおっしゃる効率的な勉強とは、具体的には、どういう目的のもと、どういう手段を用いて勉強をすることをいうのでしょうか?
投稿 ぺちか | 2008年3月12日 (水) 18時21分

正しい合理的な勉強というものを詳しく教えていただけないでしょうか?
投稿 受験生 | 2008年3月14日 (金) 11時05分
A15
 ① 身近な説例を用いて、法律がどのように使われるのかを具体的に示してくれる先生に習うこと
 ② 各科目、原則として、2冊以上の本を読まない。少数の本を何度も読む。
 ③ 1冊のまとめノートを作る
 ④ 基本的な定義・条文の趣旨・判例を、演習を繰り返すことで、定着させること
 ⑤ 最低3000問以上択一を解くこと
 ⑥ 最低500問以上論文を書くこと
 ⑦ その法律を深く理解している先生に、たくさん質問すること

Q16
子会社の合併について教えてください。
100%子会社で当社が1億ほど貸付をしています。
資本金は1千万ですが、債務超過(純資産の部は△1億)、資産合計は1000万です。
当社は純資産5億、資産50億です。
当社の株主は50名ですが、譲渡制限会社です。
この場合当社において株主総会が必要となるのでしょうか?
投稿 あっ!と 法無 | 2008年3月13日 (木) 19時11分
A16
そのままでは簡易合併はできないので、株主総会は原則として必要です。
裏技はあります。

Q17
事業の全部譲り受けに関して質問です。
事業の全部譲り受けにおいては、
譲渡会社の積極財産と消極財産が『結果的に』包括的に承継されるのと同様の事態が生じ、
譲受会社の債権者にとっては包括承継と同様の危険性が生まれると思うのですが、
全部譲受について譲受会社の債権者保護規制が見当たりません。
吸収分割や吸収合併の存続会社において債権者保護規制があり、
全部譲受会社に債権者保護規制が無い。
この違いはどのような趣旨から生まれたものなのか、
教えていただけませんでしょうか。
投稿 silver | 2008年3月14日 (金) 12時06分
A17
 債権者保護は、詐害行為取消や、債務承継時の同意があるので、十分です。

Q18
親会社が子会社(代表取締役は親会社と同一人物です)との間で締結している限度貸付契約の金利を引き下げることになりました。この場合でも取締役会の決議は必要なのでしょうか?同様に契約の他の条件(使途、限度額、期間等)の変更を行う場合もやはり取締役会の決議は必要となるのでしょうか?またこの場合、代表取締役は決議に参加できるのでしょうか?
投稿 Hiro | 2008年3月14日 (金) 13時42分
A18
 変更契約も利益相反取引に該当するので、原則として取締役会の決議が必要です。
 なお、決議には、特別利害関係人は、参加することはできません。

Q19
住居侵入と窃盗が牽連犯の関係にたつ場合、訴因は一つとみるのでしょうか。それとも2つと見るのでしょうか。最初窃盗で起訴後、訴因変更で住居侵入の罪を加える場合、公訴事実の単一性があるとして、訴因を追加すると考えるべきなのか、それとも公訴事実の狭義の同一性がある(基本的事実の同一性または、非両立性が認められる)として訴因を変更すると考えるべきなのか、どちらなのでしょうか。有斐閣の刑事訴訟法アルマには公訴事実の単一性というワードが出てこないのですが、訴因変更の場合に公訴事実の単一性ということは考慮しなくてもよいのでしょうか?
投稿 ただし | 2008年3月15日 (土) 18時31分
A19
 私は、科刑上一罪についての「公訴事実の単一性」という概念は、「公訴事実の同一性」が認められる場合を類型化したものにすぎないと理解しています。
 窃盗に住居侵入の事実を加えることは、新事実を加えるので、訴因の「追加」にあたると思いますが、科刑上一罪であるということを重視して「変更」と呼んでも、大した違いはありません。
 条文上、「公訴事実の同一性」が認められるかどうかが、要件なのですから、それだけを判断すれば足り、その判断の中で、「単一性」が同一性を認める理由になるのだと思います。

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2008年3月 9日 (日)

受け控え再考

 今年も、また「新司法試験の受け控え」の検討シーズンがやってまいりました。

 現在の新司法試験の三振制は、短慮かつ浅はかな、気の迷いともいうべき制度であり、一言で言えば、資格試験史に残る最悪の制度です。
 人権を重んじ、理性的かつ合理的な者であれば、三振制の基礎となっていた「合格率8割」という誇大広告的前提が崩れたその瞬間から、一刻も早く三振制を撤廃すべきであるという結論にいたると思うのですが、なぜか、まだ残っています。
 この三振制は、意思の弱い受験生を惑わせ、その者の人生を狂わせることすらあります。そのため、毎年、「受け控え」のような、ある意味「どうでもいい」ことに悩む人もでてきてしまうのです。

 さて、ムラタさんから、次の質問をいただきました。

「3月に卒業を迎える社会人ロースクール生です。仕事が忙しく、勉強時間は1日3時間程度しか取れません。先生は、受け控えは最悪の選択と何度も書かれていますが、いかなる場合にも妥当するのでしょうか。だとしたらなぜなのですか。
 先生が以前書かれていたとおり、将来、なにが起こるか(自身の死、親の不幸など)わからないし、1年控えても実力がつくかは未確定です。
 でも明らかに、実力的にみて、まったく今年の合格の可能性がない場合、1年見送り、ロースクールの負担がなくなるのですから、試験対策をしっかりやり・・・そこから受験したほうが合理性があるように思うのですが。
 翌年受かるつもりでも失敗することがあるのが試験ですから、3回のチャンスをフルに生かしたほうがよいと思うのです。
 まして、社会人や、その他事情で、勉強時間がどうしても取れない者も、受け控えは最悪といえるのでしょうか。」

多くの人は、私が何をいうか、すぐに想像できると思いますが・・
 病気等の事情がない限り、受け控えは、
   「何の意味もない最悪の選択」
です。

 その理由はいくつもありますが、ムラタさんが、社会人で時間がないならば
   時間が限定されているからこそ、実力の有無にかかわらず、とにかく受験すべきである
と思います。

 それは、
  本試験を一度受けないと、「何を勉強しなければならないのか」がわからないし
  この1年間、合理的で真剣な勉強をする時間を確保するモチベーションを維持できない
からです。                                       

 同じ1年間の勉強でも、目標が明確かどうかによって、全く能率が違います。
 また、「全然解けなかった。このままでは、やばい。」という絶望を本試験で味わうかどうかによっても、その後のモチベーションが全く違います。

 そもそも、「3回のチャンス」などという考え方は、非常に危険です。
 常に「今度の試験で合格する」と考えて勉強しなければ、おそらくこれからの1年間、勉強よりも、常に仕事や他のことが優先され、勉強時間は、たいして増えないと予想されます。
 そして、たぶん来年も
  「今年は無理だ。あと1年勉強した方が確率が高まる」
と考えて受け控えになり、その次の年は、
   「もう後がないから、実力はないけど、仕方がないから受験しよう」
という後ろ向きの発想で受験を続けることになります。

 私は、極めて多くの司法試験受験生を見てきましたが、そのような後ろ向きの発想で、実力が伸びる勉強をしている人は見たことがありません。

 はっきりいえば、「仕事が忙しいから時間が取れない」ということ自体、甘えです。
 たとえば、会社法立案担当者の郡谷さんは、会社法を作りながら、司法試験の勉強を始め、旧試験に合格しました。その他にも、仕事をしながら合格する人も沢山いますし、仕事以外で忙しいけれでも、合格する人もいます。視覚障害で、健常者が普通にやっている勉強方法を採ることができないのに、合格する人もいます。

 人それぞれ、自分の置かれた環境とハンディの中で試験と戦っているのです。

 「仕事をしている」というのは、単なる言い訳です。
 受験生ならば、試験までの限られた時間の中で
  「仕事や生活上の無駄な時間をどう切り詰めるのか」
  「3時間の勉強時間の中で、どのように効率を高めるのか」
を考えるべきです。
 「仕事をしているから、勉強時間がない」などという発想をするから、「勉強時間がないから、受験するのをやめよう」という訳の分からないことを考えているのです。

 もちろん、ムラタさんが、受け控えをしたければ、それはムラタさんの自由です。
 新司法試験くらいの合格率であれば、来年合格できる可能性はあるでしょう。
 ただし、その可能性は、たぶん、今年、受験した場合の可能性と大した違いはありません。

 ムラタさんが
  「これからは、今まで以上に勉強時間が取れるのだから、その方が合格する確率が高まる」
と考えているのならば、一つだけ質問させてください。
 「一体、ムラタさんは、1年間で、あと何時間勉強すれば、合格する実力が身につくか分かっていますか?」
 この問いに対して、たとえば
  「あと3000時間勉強すれば、合格できます」
と自信をもって答えられるのならば、どうぞ受け控えしてください。その3000時間を1年間できちんと割り振れば、合格できるのでしょうから。

 しかし、もしそうでないのならば、
  「あと何時間勉強しなければならないか分からないけど、1年間勉強すれば、合格の確率が高まる」
と考える根拠は何なのでしょうか?
 
 「勉強時間が短いより、長い方がまし」という程度の発想ならば、何年勉強しても、実力は伸びません。勉強時間も重要な要素ですが、「何をどのような方法で勉強するか」の方がよっぽど重要です。
 極端な話、この1年間に、どんなに勉強時間を増やしたとしても、「ただただ六法を暗記していただけ」では、合格しません。
 「そんな馬鹿なことはしない」と思うかもしれませんが、これが、「ただただ基本書を暗記していただけ」と言い換えても同じです。
 やるべきことが分からないままなす努力は、時間の無駄です。
 逆に、効率的な勉強をしたならば、1年間もあれば、合格レベルに達することができるはずであり、3年も必要ありません。

 「ロースクールを修了すれば、時間が取れる。時間が取れるから、勉強が進む」というのは、無計画で無思慮な考え以外の何ものでもないのです。
  「時間があるから勉強が進む」のではありません。
 「必要な勉強を、限定された時間の中で進める」のです。

 ムラタさんも、ロースクールに入学した時に、2年ないし3年後には、受験があることは分かっていたはずです。その間に、受験に必要な勉強を続けてきたのではないのですか?
 1日3時間も勉強時間を取れるのならば、3年もあれば、新司法試験に合格する実力を身につけることは十分可能なはずです。
 少なくとも、3時間も毎日勉強してきて(かつ、ロースクールを卒業できた)にもかかわらず、「今年合格する可能性がない」ということはありえず、そういう状態があるとすれば
(1) 3時間勉強してきたというのは、間違い
(2) 無駄な努力ばかりしてきた
のどちらか又は双方です。

 つまり、そのような状態にあるという人は
  時間の使い方に間違いがある
  勉強の方法に間違いがある
のどちらか又は双方であり、そのまま1年間、受験を伸ばしても、何の意味もありません。

 司法試験の受験は、サイコロを転がす「確率」の世界で合格するのではありません。
 実力があれば、1回で合格するし、なければ、3回受けても合格しません。
 「3回のチャンスをフルに生かしたほうがよい」という意味のは、試験の世界にサイコロ賭博を持ち込むようなもので、まったく間違っています。
 予備試験があるのですから、そもそも3回と決めていること自体も間違っています。

 また、受け控えによって得られる利益は
    2年不合格が続いたとしても、3年目に、予備試験抜きで受験することができる
という程度の利益に過ぎず、そんなアホくさいどうでもいい利益を得るために、「本試験」という貴重な経験を1~2年先延ばしにするのは愚の骨頂です。
 現在の新司法試験のレベルを考えれば、「2年連続不合格」のことを考えるくらいなら、その2年間の勉強の能率をどれだけ高めるかを考えた方がよっぽど合格率が高まるでしょう。

 以上、述べてきたように、受験生にとって必要なのは
 ① 目の前の試験を受験する
 ② その試験に合格するために、限られた時間で何をすればよいのかを計画する(そして、勉強の進度に応じて、計画を修正していくこと)
 ③ その計画を実行する
 たった、これだけです。

(質問コーナー)
Q1
461条1項違反の配当の効力について、文言を重視する有効説は非常に説得的に思います。
もっとはっきり有効説しか採りえないような規定をしてもよかったのではないかと思うのですが(461条1項違反の配当があっても配当は有効とする、等)それを避けたのは立法段階でも無効説論者の方がいらっしゃったからなのでしょうか?
投稿 コカコーラ | 2008年3月 3日 (月) 02時44分
A1
 「違法配当は有効とする」というような規定の仕方は、ほとんど先例がないことと、会社法の他の規定(たとえば、組織再編等の無効の訴え等)についても、全部似たようなことを書かなければならないとするとおかしくなるから、書かなかっただけで、「避けた」わけではないと思います。

Q2
会社法上、「自己株式」とは、株式会社が有する自己の株式を意味します(113条4項)。
したがって、「自己株式」はどんなにがんばっても取得できません。
よって、「自己株式の取得」という表現は不正確で、「自己の株式の取得」という表現を用いるべきでしょう(会社法第二編第二章第四節の「株式会社による自己の株式の取得」という表現参照)。
投稿 rd | 2008年3月 3日 (月) 02時58分
A2
「自己株式の取得」という表現は、会社法実務の中では一般的な用法であり、不正確なわけではありません。
 法文上の使い方が絶対ではないので、実務的には、あまり厳密に区別すると、かえって聞く方・読む方を戸惑わせることになるように思います。

Q3
>A4
 前提がよく分からないのですが、「出資の払戻し」ではなく、退社による持分の払戻しでしょうか?
いえ、「出資の払戻し」の話です。
 単に出資を払い戻しただけでは退社にも持分減少にも当たらず、配当請求権や意思決定に参画する権利は変動しないが、その際582や859が適用されなければこれらの規定が事実上骨抜きになるのでは?と言う疑問です。
投稿 ひで | 2008年3月 3日 (月) 16時02分
A3
 株式会社で、会社が、取得請求権付株式を発行をした後、株主が、その取得請求権をすぐに行使したからといって、払込未了になるわけではありません。それと同じように、 一度、出資をしたのですから、582条を適用する余地はありまんし、出資の払戻をすれば、出資額が減少しますから、原則として、配当も減少しますので、その結論が不当とは思いません(622条)。意思決定に参画する権利は、原則として、社員1人1票なので、持分がある限り、存在しますが、持分会社の意思決定権は、もともと出資額に比例しないという法制度なので当然だと思います。

Q4
特例有限会社が商号変更により通常の株式会社に移行した後の最初の事業年度中に、吸収合併を行い存続会社となる場合において、会社法第799条第2項第3号に規定する債権者保護手続として、会社法施行規則第199条各号で規定する計算書類に関する事項において、仮に当特例有限会社が事前に官報等で決算の開示をしていた場合、同条1号のイでの公告は有効であろうと解釈するがいかがでしょうか?また、整備法第28条にあるとおり、事前に開示した公告は適用除外と解し、あくまでも施行規則第199条7号の貸借対照表の要旨を公告する必要があるのでしょうか?
投稿 HAMA | 2008年3月 3日 (月) 18時44分
A4
 「仮に当特例有限会社が事前に官報等で決算の開示をしていた場合」という意味がよく分かりませんが、任意に公告していたということでしょうか?
 いずれにせよ、「法第四百四十条第一項又は第二項の規定により」公告をしている場合には該当しそうにはないですよね。ありえない解釈ではないかもしれませんが、リスクがあるので、私ならやらないかなあ。

Q5
新株予約権の株式会社自身に対する発行の可否についてもう少し教えて下さい。敵対的買収防衛策の一つとして新株予約権を株式会社に発行することは(面倒くさいので)できない、とのご回答をいただいたのですが、会社法上、その発行の目的を問わず、株式会社は新株予約権を株式会社自身に対して発行することはできない、と考えてよろしいでしょうか?私の浅い理解では、株式会社は発行してしまった新株予約権を自己新株予約権として取得することは可能であるが、最初から自分自身に対して新株予約権を発行することはできないととらえています。これは正しい理解でしょうか?もっとも、敵対的買収防衛策以外に、自らに対して新株予約権を発行するという動機が株式会社にあるのかと言われると、あまり見あたらないのですが。
投稿 しん | 2008年3月 3日 (月) 22時07分
A5
 面倒くさいので、できないわけではなく、どんなスキームを考えていらっしゃるのかが分からず、すべての新株予約権の割当て形態について、自己宛発行ができないことを説明するのが面倒くさいという意味です。
 会社が、発行済み新株予約権の取得はできるが、自己宛で発行することはできないという理解は正しいです。

Q6
法の立案者が有効を前提に立案しているのに、「無効だ」と言う主張は論理的ではありません。
「無効を前提に立案すべきだ」と言うのなら、分かります。また、「無効だ」がそういう意味の主張なら、どう見ても立法論的解釈です。
もし、立案者以外のほとんどの学者が「無効だ」と言ったら、有効を前提に立案した法の規定が、新たな立法によることなく「無効」になるものなのでしょうか?
ひょっとすると、国会の採決は「無効」のつもりでされている、と解釈することになるのかな?
投稿 ロン | 2008年3月 3日 (月) 22時09分
A6
 立案者が何を言おうと、条文上、解釈できるのならば、「無効だ」と主張することはできます。もちろん、立案者以外のほとんどの学者が「無効だ」と言ったら、有効を前提に立案した法の規定が、新たな立法によることなく「無効」になるということもありません。
 私が、前回お話ししたことは、実定法の国である日本の会社法の、現在の条文の解釈として、無効説というのは、なかなか成り立たないのではないだろうか、という疑問にすぎません。

Q7
私は、非公開会社とは、全株式譲渡制限会社だと理解しています。しかし、会社法200条4項は、非公開会社において、譲渡制限種類株式が発行されているように読めるのですが、200条4項はどのような事態を想定しているのでしょうか。
投稿 しげる | 2008年3月 4日 (火) 17時35分
A7
 質問の趣旨がはっきりしませんが、たとえば、非公開会社である種類株式発行会社があって、A種株とB種株を発行しているとしましょう。200条4項は、A種株の発行について、株主総会で委任するときは、A種株の種類株主総会も必要であるという規定です。
 また、公開会社における譲渡制限株式の有利発行の場合でも適用されますね。

Q8
会社法施行規則126条(会計監査人設置会社の特則)についてです。
弊社は前回の定時株主総会の終結のときをもって会計監査人が任期満了により退任し、同株主総会で新しい会計監査人を選任し現在に至っております。
この場合、当事業年度の事業報告には、新旧両方の会計監査人について記載が求められるのでしょうか? それとも、「新」だけの記載でよいのでしょうか?
辞任または株主総会決議以外による解任の場合は、同条⑨で記載が求められていますが、任期満了による退任の場合の扱いが解りません。(それとも、任期満了による退任は株主総会決議による解任に含まれる…ということなのでしょうか?)
会社役員(施規2条3項④により、会計監査人は含まれないとの認識でよろしいですか?)の場合、施規119条に「直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していたものであって、当事業年度の末日までに退任したものを含む」という但し書きがあって非常に解りやすいのですが、会計監査人については同様な記載がなく、新旧とも記載必要と考えられるのですが、いかがでしょうか?
投稿 ツェーベーツェー | 2008年3月 4日 (火) 18時48分
A8
9号を除き、事業報告作成時点の会計監査人、すなわち、「新」だけだと思います。
会計監査人は、当然再任が原則なので、任期満了というのは、不再任の決議をしたか、辞任されたか、どちらか(たぶん、後者)だと思います。

Q9
33条8項で発起人が設立時発行株式の引受けを取り消した場合この人は発起人でなくなり定款とずれてしまうと思うのですがこの場合設立は始めからやり直しになるのですか?

A9

【当初のAがややミスリードなので、修正】
33条9項は、変更命令の対象となった変態設立事項を廃止して、設立手続を継続することを認めていますが、その変態設立事項には、引受の取り消しをした発起人の現物出資等も含まれるものと考えられます。このように引受の取り消しは、必ずしも、やり直しを意味しません。引き受けの取り消しをしても、発起人でなくなるわけではなく、その後に、別の条件で引受をすることも可能です。

Q10
199条4項で譲渡制限株式だけ特別な扱いをしている趣旨がわからないのですが教えていただけませんか?
投稿 受験生K | 2008年3月 6日 (木) 15時19分
A10
譲渡制限というのは、持株比率の維持の利益を確保するものですよね。
199条4項は、ある種類の譲渡制限株式内における持株比率の維持を保障するものです。

Q11
募集株式の引受人の責任について質問があります
212条1項の「取締役と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合」と有利発行の場合の違いがわからないのですが教えていただけないでしょうか?
投稿 ロー人 | 2008年3月 6日 (木) 15時57分
A11
 ①取締役と通謀が必要なこと
 ②単に「特に有利」なだけではなく、「著しく不公正」である必要があること
が違います。

Q12
①208条3項において、株式の引受人からの相殺を禁止していますが、逆に会社からの相殺は許されるのでしょうか?
 葉玉先生は、同条項の趣旨を債権の現物出資に対する規制の潜脱を防止する点にあると解されておられるようであり、現物出資に対する規制の趣旨は、株主間の公平を図る点にあると思われます。そうすると、会社側から相殺をしようとする場合も、これらの趣旨は妥当し、同様に禁止されるのでしょうか?
 この点、江頭先生のように208条3項の趣旨を資本充実を図る点に求めれば、会社側から相殺する場合も現実に金銭が会社に払い込まれない以上、会社債権者が害されるおそれがあり、同条項の趣旨も妥当し、当然に会社からの相殺も禁止されるように思われます。
投稿 けんてぃ | 2008年3月 6日 (木) 21時28分

A12
 会社からの相殺は許されます。理由は、千問か、100問に書いたように思います。

Q13
新株予約権の目的である株式に譲渡制限・全部取得条項を付す場合には新株予約権買取請求が認められているのに、何故取得条項が付された場合は認められないのでしょうか?
投稿 かか | 2008年3月 7日 (金) 01時09分
A13
 新株予約権買取請求権は、株式買取請求権の並びで規定されています。
 すなわち、株式に取得条項を付すためには、株主又は種類株主全員の同意が必要なので、株主には株式買取請求権を認める必要はなく(会社法110・111条1項)、そのために、新株予約権買取請求権も認められていないのです。
 
 しかし、新株予約権者の同意は要求されていないので、新株予約権の目的である株式に重要な変更が加えられたことからすれば、新株予約権買取請求権を認めるべきという考えもありえます。
 ただ、株主が全員同意したんだから、それに従うべきという考え方もそれなりに合理性があるように思います。

Q14
外国会社は、日本における名称として「株式会社」を商号中に使用することはできるのでしょうか?
会社法7条によると「会社でない者」は商号中に会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないとされていて、2条1号で会社は「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社」と定められていますから、外国会社は「会社」には含まれず「会社でない者」にあたり、「株式会社」を商号中にいれることはできないということになるように見えるので、どうなのか疑問に思いました。
こちらの不勉強なだけとは思いますが、よくわからないのでよろしくお願いします。
投稿 カミレツ | 2008年3月 7日 (金) 16時20分
A14
 外国会社は「株式会社」を用いることはできません。

Q15
取締役会決議について質問させてください。
取締役会の構成員全員が369条2項の特別利害関係人にあたるような議案の場合には、いかにして決議を成立させるのでしょうか?
また、取締役会構成員のうちの一人を除く全員が特別利害関係人にあたる場合、その一人のみで取締役会を開くということはできるのでしょうか。
投稿 白くま | 2008年3月 7日 (金) 20時00分
A15
1人では、開催できません。
一人ずつ、特別利害関係人を外して、決議を成立させたりします。

Q16
会社法施行前、名義書換代理人はTransfer Agency(TA)でしたが、株主名簿管理人は英語では何と言うのですか。
投稿 山茶花 | 2008年3月 7日 (金) 22時18分
A16
TAでいいでしょう。
今の実態は、どちらかというと、Registrorかもしれませんが。

Q17
募集株式発行無効の訴えと不存在確認の訴えについてです。
中央07年度入試において、「非公開会社における募集株式発行で総会決議の無い発行に対して裁判所に出来る請求を、発行から4ヶ月の場合と13ヶ月の場合を分けて答えよ」との出題がなされました。
参考答案ではその差異を828条の出訴期間の問題とし、前者を無効の訴え・後者を不存在の訴えとしています。
無効原因と不存在原因はそもそも同じ、もしくは同様のものと想定して、出訴期間の有無だけに差異があるのでしょうか。
判例の集積が無いため使い分けが不明ですので、お願いします。
投稿 受験生・甲 | 2008年3月 7日 (金) 22時52分
A17
 募集株式発行の無効原因と不存在原因は、違います。
 不存在というのは、手続の瑕疵の程度が大きく、募集株式の発行手続が存在しないのと同視できるような場合です。
 詳しくは、100問を見てください。

Q18
以前このような質問がありました。
 
「会社法808条1項2号について質問させてください。
 808条1項2号括弧書によれば、新設分割設立会社が持分会社である場合には、新設分割株式会社の新株予約権の新株予約権者は新設分割株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することはできません。 
 なぜ、新設分割設立会社が持分会社である場合に新株予約権の買取請求が認められないのでしょうか?理由を教えて下さい。
投稿 maru | 2007年5月11日 (金) 01時49分
【回答】】
 新設分割によって、新株予約権が消滅することも、承継されることもないからです。
  
なぜ株式会社と持分会社で評価が分かれるのか、どうしても分かりません。
投稿 司法書士:たか | 2008年3月 8日 (土) 18時59分
A18
 株式会社と持分会社で評価が分かれてはいません。
 新株予約権買取請求は、新設会社の株式を目的とする新株予約権に変更されるような場合に限って認められているところ、新設会社が、持分会社の場合、そのような新株予約権に変更される余地がないから、認められていないということです。

Q19
会社法第7編第二章「訴訟」で規定された訴訟類型以外の訴訟(たとえば,設立不存在確認など)も認められるのでしょうか?
個人的には認められると思うのですが。「訴訟」について独立した章を設けて整備したのは,それ以外の訴訟を認めない趣旨なのかもしれないと不安に思いましたので。
投稿 ありかわ | 2008年3月 8日 (土) 19時39分
A19
 会社法に列挙された訴訟類型以外の訴訟が、認められるかどうかは、民事訴訟法の解釈によって決まります。
 たとえば、確認訴訟ならば、確認の訴えの利益があるかどうかが問題になると思います。
 ちなみに、「設立不存在確認の訴え」は、難しいような気がします。

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2008年3月 3日 (月)

違法配当無効説は立法論?

最近、仕事上は、株主総会の準備関係が増えており、季節柄、このブログも、これから総会関係の質問が増えてくることでしょう。

 そこで、今のうちに、理論的な話題として、「財源規制違反の配当の効力」を取り上げておきたいと思います。

 この論点は、立案担当者と学説との意見が分かれているということで有名な論点です。
 最近、大阪大学の吉本教授が論文を書かれたり、中央大学の大杉教授がブログで取り上げたり(http://blog.livedoor.jp/leonhardt/archives/50529456.html)、ようやく無効説による詳細な検討を拝読することができるようになってきました。

 もっとも、結論を、やや過激に言えば、
  現行法では、有効説しかありえず、無効説は立法論的解釈論である
と思っています。

 まず、無効説が、有効説に対する批判としてあげる
 有効説では、株主が、違法配当の場合でも配当金支払請求をすることができるのではないか。
という点について、反論しておきましょう。

 私は、この批判には、、無効説の誤解が混ざっていると思っています。
 すなわち、
   分配可能額がないにもかかわらずした配当決議は、必ずしも無効ではない
のです。
 おおすぎ先生は
  「分配可能額を超える配当を総会が決議したとき、どうなるでしょうか。総会決議は訴えによるまでもなく無効で(830条2項参照)、会社は配当金支払義務を負いません(株主は配当金支払請求権を得ません)。」
とブログで触れられているのですが、会社法461条は
 「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為が『その効力を生ずる日における』分配可能額を超えてはならない。」
としているだけですから
  ① 総会決議時に配当額が分配可能額を超えていても、効力発生日に分配可能額の範囲内であれば461条には違反しませんし
 逆に
  ② 総会決議時には、分配可能額の範囲内であっても、効力発生日に分配可能額を超えていれば461条に違反し、配当することはできません。

 旧商法は、定時株主総会における利益処分案で配当を決定していたので、決議時の最終の貸借対照表から計算される配当可能利益を超える配当を決議すれば、決議自体が無効であると解さざるを得なかったのです。
 しかし、会社法は、配当決議が何回でもできるので、「配当決議」と「分配可能額」の関係が旧商法とは異なっています。
 ですから、「決議が無効だから、株主に配当支払請求権はない」という理論は、それ自体は間違いではないものの、たとえば、上記②の場合には、通用しない理論なのです。
 無効説は、「決議の無効」と「配当の無効」を区別しなければ、会社法に則した解釈論にはならないように思います。

 逆に、有効説にたっても、決議が無効になることは皆無ではないのですが、461条は、決議を無効にするための規定ではなく
   決議が無効の場合はもちろん、決議が有効の場合であっても、配当の効力発生日に分配可能額を超えるような配当はすることができない
というルールを定めているに過ぎません。
 461条は、いわば配当を行うための法定の条件を定めた規定です。

 ですから、仮に決議が有効であったとしても、株主には、条件付配当請求権が生じているだけで、株主側から条件が成就しない時点で、会社に配当を支払わせることができません。

 以上で分かっていただけたと思いますが
  「有効説では、株主が、違法配当の場合でも配当金支払請求をすることができるのではないか。」
という無効説の批判は、「決議の効力」=「配当の効力」という図式を前提にしている点で誤解があり、有効説に立っても、会社が、461条により、株主による配当請求権を拒むことができるのは当然です(無効説にたっても、上記②の場合は、私と同じ結論を採らざるを得ないでしょう)。

 なお、行為規範としては、461条に違反する配当を行うことはできないものの、一旦、違法配当が行われた場合には、評価規範として、その効力を有効とするのが妥当であるというのは、論文で述べたとおりなので、ここでは、詳しく述べません。

 次に、無効説の問題点について、論じます。

 私は、無効説は
  「会社法の文理に反する」
という一点において、どうしても容認することができません。

 会社法は、現代の法制執務に基づいて作られた法律です。したがって、会社法の条文を解釈する場合においても、明治時代から昭和初期にかけて制定された法律とは、自ずと条文の読み方が異なります。

 おおすぎ先生は、
 「461条1項の「効力を生ずる日」とか463条1項の「効力を生じた日」という文言は、有効説の論拠とまではいえないでしょう。」
と言われますが、そうではないでしょう。
 はっきりいって、「効力を生じた日」という文言を、無効説の立場から解釈しようとすると、「立法上の過誤である」というしかないと思いますが、それは「立法上の過誤」ではなく、「解釈の過誤」なのです。

 また、無効説は、取得請求権付株式・取得条項付株式を、分配可能額がないのに会社が取得した場合に、取得を無効とする166条1項但書き・170条5項と、461条の規定の仕方が異なる点を、どのように解釈するのでしょうか?
 無効説では、「両者を区別する理由はない」という利益考量を論じることができても
   なぜ、両者の規定ぶりが違うのか
について合理的な説明を加えることはできません。

 さらに、無効説では、462条1項による株主に対する返還請求権を不当利得の特則であると考えるようですが、それは、同項の規定ぶりからは、無理です。
 462条1項は、株主に対する請求権と、業務執行者に対する請求権を混在させて規定しています。業務執行者に対する請求権は、不当利得の特則ではありえませんから、もし、株主に対する請求権を不当利得の特則として定めるのならば、業務執行者と区別して独立の規定を置くべきであり、このように混在させて規定するということは考えられません。
 また、同項には、「民法第七百三条又は第七百四条の規定にかかわらず」という適用除外のための文言も使われていません。

 現代の法制執務では、一般法と特別法の関係についての規定ぶりはうるさく注意されるので、商法時代よりも気をつかいながら、適用除外規定を置いており、462条1項に民法703条704条についての言及がないというのは、それらの規定の特則ではないと考えるべきです。

(ちなみに、463条2項は、債権者代位の特則であると説明することが多いのですが、463条2項の要件を満たしても、民法423条1項の要件を満たさないため、「民法第四百二十三条第一項の規定にかかわらず」という文言が入っていません。つまり、463条2項は、民法423条1項を拡張したものなのです)。

 なお、実質的な観点から見ても、有効説が、無効説よりも債権者保護を図ることができ、また、分配可能額を超える対価を払って自己株式の取得をした場合において、株主総会決議の瑕疵を生じさせないという点において、優れています。

 私は、本音ベースでいえば、違法配当が有効だろうと無効だろうと、どちらでもいいんですが、文理に忠実で、実質において優れているのは有効説であるという確信はあります。

 無効説は、今のところ、今日述べたような「文理」の点に対する言及がほとんどなく、それがない限り、立法論的解釈であるといわざるをえないと思っています。

 無効説からの反論をお待ちしております。

(質問コーナー)
Q1
創立総会の権限(会社法第66条)についてご教示ください。
創立総会で選任される設立時取締役及び設立時監査役の報酬につき創立総会に決定の権限があるかどうかについては、旧商法時代は、学説・判例ともに、創立総会にこの権限を認めておりましたが、会社法においても、同様に認めると考えてよろしいのでしょうか?
それとも、会社法第66条の「その他株式会社の設立に関する事項」ではないので、会社法においては、創立総会にはこの権限がないと、変更されたことになるのでしょうか?
投稿 としお | 2008年2月27日 (水) 15時53分
A1
 設立時取締役及び設立時監査役の報酬は、設立に関する事項でしょう。

Q2
取締役会決議と代表取締役についてです。
354条は役会決議を欠く代表取締役の行為は心裡留保として処理する百選71の立場を「選任の役会決議を欠いた場合」につき特に明文で規定したものなのでしょうか。
またそう理解した場合に心裡留保の相手方保護要件が「善意・無過失」であるに関わらず354条の相手方保護要件が「善意・無重過失」(百選57)と軽減されたのは何故なのでしょうか。
投稿 受験生・甲 | 2008年2月27日 (水) 19時42分
A2
心裡留保とは、ぜんぜん違います。
354条は「名称を付した」ことを帰責性とする一種の外観法理です。

Q3
 設立時監査役に不足額填補責任(52条)が生じないのはなぜでしょうか?
投稿 これからは | 2008年2月29日 (金) 07時23分
A3
 まあ、新株発行時の現物出資とのバランス感覚です。

Q4
 出資の払戻について定款に何の定めもしていない合名会社又は合資会社において、社員又は社員の持分を差押えた債権者の請求により出資の払戻がされた場合には、
(1)当該社員の持分又は出資の価額に関する定款の定めもしくは登記事項は、当然には変更の義務やみなし変更は生じない。従って当該社員は、払い戻す前と同様に自益権及び共益権を行使できる。
(2)払い戻された額について出資の未履行となるから、会社がその履行を求めてもこれを怠ったときは、利息や損害賠償の責任を生じ、除名の対象となる。
と言う理解でよろしいか。
投稿 ひで | 2008年2月29日 (金) 14時20分
A4
 前提がよく分からないのですが、「出資の払戻し」ではなく、退社による持分の払戻しでしょうか?

Q5
新司法試験合格を目指す受験生です。
あるコミュに
皆さんさんご存じのように、債権法改正が進んでおります
私は、現在早稲田のLSにおりますが、早稲田には債権法改正の委員長である鎌田先生がいらっしゃいます。先日、大学近くで鎌田先生と話をさせていただきまして(と言っても茶飲み話レベルですが)、債権法改正について聞いて参りました。

本当に世間話のレベルを超えていませんのでしっかりと聞いたわけではありませんが、とりあえず情報を流します。

1.債務不履行にもとづく解除の要件から帰責事由要件なくす
2.危険負担制度なくす
3.債権者代位なくす。無資力なら破産・保全は民事保全で
4.ファイナンスリースを典型契約化
5.商法総則を取り込みたい
6.新典型契約はファイナンスリースくらいかな。あまり増やさない

とのことです。結構抜本的に変えるつもりのようです。
また何か聞けましたら報告させていただきます。
とあったのですが、これらはもう無くなるので手を抜いて勉強したほうがいいのでしょうか?
あと、過去問はもう使えなくなるのでしょうか??
投稿 | 2008年3月 2日 (日) 14時09分

A5
 債権法改正のように、遠い未来のことを心配しなくても、大丈夫です。
 まずは、目の前の民法を勉強しましょう。

Q6
株主提案権について質問です。
305条の議案要領通知を取締役に対して請求した場合、かかる請求は、304条の議案提出を兼ねるのでしょうか(そもそも304条は「株主総会において」議案を提出することができると規定されていますが、これは総会に出席して総会の場で議案を提出しなければならないという意味なでしょうか)。

A6
 言葉の問題はあるものの、議案提出を兼ねていると考えて良いでしょう。

Q7
例えば敵対的買収防衛策の一つとして、新株予約権を株式会社自身に対して発行
することは可能でしょうか?私は「できない」、と考えました。理由は、(1)新
株予約権を株式会社に対する債権だととらえれば、自らに対する債権を自らに付
与することになっておかしな話になる、(2)新株予約権を株式会社自身に対して
発行可能だとすると、株式会社が自らに対して株式を発行する権利を与えること
になり、会社法が想定している株主と株式会社との間の基本的な関係を不安定に
するため、です。これらは正しい理解でしょうか?何となくすっきりした説明に
なっていない気がいたします。仮に株式会社が自らに新株予約権を発行できない
として、一番すっきりとした説明はどのような説明になりますでしょうか?どう
ぞよろしくお願いいたします。
A7
敵対的買収防衛策の一つとして株式会社に新株予約権を発行することはできません。理由は、新株予約権の発行形態によって違いますが、面倒くさいので、できないということだけ覚えてください。

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