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2008年1月25日 (金)

証券取引等監視委員会

 今週の月曜日に、TMI総合法律事務所の会議室に、証券取引等監視委員会(SESC)の方をお迎えし、当事務所の弁護士向けにセミナーをしていただきました。

 SESCは、これまでも、市場関係者のところに出向いて、広報および意見交換の機会を設けてきたそうであり、その一環として、当事務所にも来ていただいた次第です。

 当日は、SESCの次長、総務課長、課長補佐のお三方から、SESCの組織や今後の活動方針、さらに、問題になりそうな事象、弁護士に期待する役割などについて教えていただきました。

 現在のSESCの次長は、裁判官出身で、私が、法務省民事局時代に、内閣法制局の参事官をされていた方です。長時間一緒に仕事をさせていただいたので、その仕事ぶりを良く存じ上げていますが、私が言うのも僭越ですが、私がこれまで出会った中で最も頭の切れる凄い方です(正直言って、いまだに、全く頭があがりません。)

 また、総務課長は、「大蔵省出身」、「ハンサム」、「弁舌さわやか」いう三拍子揃った、「これでモテなければ嘘だろう」というナイスガイです(本題とは、関係のないコメントで失礼の段ご容赦ください)。
 ちなみに、ご経歴をお聞きしたところ、私が検事時代及び民事局付時代にやっていた様々な仕事について、大蔵省・金融庁・SESC側から、ことごとく関わっていらっしゃったことが分かり、「世間は狭い」と感じた次第です。

 SESCの皆様は、守秘義務がありますから、具体的な事件については、一切話されませんでしたが、株価操縦事件やインサイダー取引事件等について調査をする場合の切り口や注視する点などについてかなり突っ込んだお話をされ、会場は大いに盛り上がりました。

 私が、特に印象に残ったのは、次の点です(なお、要約がテキトーなので、下の記載を根拠にSESCにクレームを付けるようなことはしないでくださいね。)

① SESCは、人的リソースに限界がある中で、証券市場の公正を実現するため、さらに意欲的に活動範囲を拡大しようとしている。

② SESCは、違法な行為しか摘発することができないものの、「異常な株式の分割」「異常な株式の併合と有利発行」「異常なMSCB」など適切とはいえない行為が頻発していることに鑑み、それらの行為についても、その背後に違法な行為がないか、監視の目を光らせている。

③ 金商法157条1号(有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること)は、要件が抽象的で検事に嫌われているが、会社法等の諸規定を媒介にして活用することができないかと、検討している。

④ 証券取引がクロスボーダー化しているのに伴い、各国の調査機関同士の連携も飛躍的に強化されている。

⑤ SESCが調査している事件が氷山の一角に過ぎないのは明らかであるから、証券市場関係者への啓発と情報交換を通じて、証券市場の公正確保のための協力を求めている。

SESCの皆様のお話は、具体的な経験に裏打ちされたもので、書物では得られない説得力に満ちあふれていました。当事務所の弁護士にとっても、企業のコンプライアンスを考える上で、担当官の生の考えにふれ、質疑応答をすることができたことは、貴重な経験になったものと思います。

 私は、いまだ検事の血が半分流れているのか、SESCの皆様の不公正取引抑止にかける情熱に触れ、ワクワクしましたが、他方で、インサイダー取引をはじめ不公正取引の網が広がることにより、白い行為がグレーになることについては、「普通の人々を不幸に巻き込むことにならなければよいが・・・」と心配しています。

 なかなか答えの出ない問題ですが、SESCの方も、「定期的な意見交換をしたい」とおっしゃっていましたので、そうした意見交換の場で、問題意識の共有を図ることができたら、SESCにとっても、企業にとっても、良い結果が生まれるように思います。

(質問コーナー)
Q1
端的に質問させていただきますと、なぜ、ブルドック事件のような防衛策の発動の場面においては、「株主の多数意見=適法」なのかということです。
先生がご回答くださったように、「株主総会の決議がある場合でも、取締役会が最終的に決定しなければならないし、それにより、取締役が善管注意義務違反にならないとは言い切れ」ないわけです。
そして、このことは、善管注意義務違反だけではなくて、およそ取締役(会)の行為の適法性の有無の判断を取締役(会)は株主総会に完全に委ねてはいけないということをも同時に意味すると思います。
しかし、最高裁は、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものである」としています。
これは、なぜなのでしょうか?
そもそも、業務の執行は、その重要度が増せば増すほど、企業価値、株主の利益に影響を及ぼす可能性が高いものです。この最高裁の論理だと極端にいけば、「非常に重要な業務執行については、株主総会の多数意思があれば適法である」ということになってしまうのではないでしょうか?
わたしは、重要度が高い業務であればあるほど、経営のプロの取締役会が最終的に判断すべきであるというのが本筋な気がしますがいかがでしょうか?
投稿 AAA | 2008年1月17日 (木) 02時23分
A1
「受任者に過ぎない取締役が、委任者である株主の構成に変動を与えることを決めてはいけない。」というルールがある以上、経営のプロかどうかはともかく、取締役会には決めさせることができません。
 となると、株主総会における多数決で、「少数派の大株主」を排斥することができるかという難しい問題に直面するが「会社の利益ひいては株主共同の利益」の保護という理屈ならば、その問題は乗り越えられそうだと考えたので、そのように判示したのでしょう。

Q2
さっそくですが、会社法100問の問61(競業避止義務)について質問をさせてください。
解答例には、株式会社Aは、同社の取締役甲に対して「委任契約上の義務の履行として競業行為の差止めを求めることができる」(第2版では347頁)とされていますが、その根拠条文は何条になりますか?
投稿 Davis | 2008年1月17日 (木) 09時41分
A2
契約上の義務なので、意思表示理論から、導かれます。
「そういう約束をしたのだから、守ってよね」というのが根拠です。

Q3
よく「価額」と「価格」を使い分けられていることがあります。
両者の用語の意味に何か(日本語や法的に)違いがあるのでしょうか。
投稿 すみません | 2008年1月18日 (金) 16時23分
A3
それは、昔、何か議論したようなおぼろげな記憶がありますが、忘れました。
あまり気にするほどのことではないでしょう。

Q4
親会社による債務超過子会社の簡易合併について2点ほど質問させて頂きたくお願い致します。
 会社法施行後は、子会社の簿価債務超過状態を親会社が増資を引き受けることによって解消したとしても簡易合併を行うことができない、というのは本当でしょうか。(以前にも投稿がありましたが改めて確認させてください。)
A4
本当です。裏技はありますが。

Q5
上記1.が本当だとすると、親会社が連結配当規制適用会社(計算規則2条3項72号)となることによって、債務超過子会社の簡易合併を実施することが考えられますが(施行規則195条3項)、ある会社(ここでは親会社)が連結配当規制適用会社となる時点について、立法担当者の解説では連結配当規制の適用を受ける旨決定のうえその旨注記された計算書類の監査を受けた計算書類の取締役会設置会社にあっては取締役会、その余の会社にあっては株主総会の承認決議を経た時点から連結配当規制適用会社となる旨述べられています(商事法務1767号46頁)。そこで、当該決議(=連結配当規制適用会社となる時点)と簡易合併手続の先後関係についてご質問なのですが、当該決議は合併契約の締結前に経ておく必要があるのでしょうか、それとも簡易合併の判断基準時である合併の効力発生日の前日までに経るのであればそれまでに(親会社が連結配当規制適用会社となっていない状態で)当事会社において合併契約の締結や債権者保護手続などの合併手続きを進めていても問題ないのでしょうか。
投稿 sophia | 2008年1月18日 (金) 16時47分
A5
難しい問題ですが、簡易合併の判断基準時までに要件を満たすかどうかでしょう。

Q6
監査役と株主の権限について、質問があります。
非公開会社が、大会社でなく、かつ、取締役会を任意設置している場合、
監査役設置が強制されます(327条2項)。したがって、2条9号後段によって、監査役
設置会社になります。
もっとも、非公開ですし、監査役会も会計監査人も設置しないことが可能ですので、
監査権限を会計関連に限定することが出来ます(389条1項)。
このような会社で、株主の差止め請求権(360条)などが、制限されてしまう(360条3項)のは、合理的なのでしょうか?
監査役もそれらを行使できません(389条7項・385条)し、株主の行使も厳格になってしまいます。
非公開会社において、差止め請求権の株式保有要件が緩和されている(360条2項)
のと合致しない規制のようにも感じます。
投稿 鉄 | 2008年1月19日 (土) 09時48分
A6
会計監査権限に限定された監査役の会社は、監査役設置会社ではありません。
したがって、株主の差し止め請求権は制限されません。

Q7
株式会社が意思表示を行う法的仕組みに関して、自然人のそれと(意思表示)と対比させて論じなさい。っていう、質問に困っていますが教えていただけますでしょうか???
投稿 | 2008年1月21日 (月) 17時16分
A7
 
自然人の内心的効果意思 = 株主総会または取締役会の決議
                            +代表取締役の内心的効果意思

自然人の表示行為    = 代表取締役による表示行為

という感じでしょうね。

Q8
 会社法第797条2項2号のすべての株主については、条文を読む限り、吸収合併等に反対する旨の通知を存続会社にする必要はないと考えます。
 そこで、質問です。
 同条2号の株主が、同条5項の株式の数を明らかにして株式買取請求をする場合、事前または同時に反対する旨の通知や意思表示をして買取請求する必要があるのでしょうか。 賛成した同条2号の株主は、買取請求をすることはできますか。
 また、同条5項の株式の数を明らかにして買取請求する株式の数は、所有する株式全部ではなく一部でも可能でしょうか。
投稿 | 2008年1月22日 (火) 14時04分
A8
 2号の株主は、反対の意思表示は不要ですし、一部の買取を求めることもできます。

Q9
会社法234条の読み方で質問させていただきます。吸収合併に際した端数の発生です。
合併にあたり消滅する会社の株主は、AとB(当方)の2名で、Aが2000株、Bが1270株を持っていました。合併比率は、存続会社:消滅会社=1:0.525でしたので、Aは1050株、Bは666.75株、存続会社の株式が割り当てられることになります。ここで、合併契約に端数について何も書かれていない場合、会社法では端株は廃止されましたので、Bの0.75は切捨てられ、競売などの処分は不要となると考えていますが、正しいでしょうか。1名の株主にしか端数が発生していなくても、端数の“合計数”に1に満たない端数がある場合にあたると思いますし、会社法の条文で「切り捨てる」と書いてある以上、四捨五入して1になる端数を切り捨てることをBが不満に思ったとしても、やむをえないと思いますので、処分は不要との結論になると考えています。
投稿 senchuan | 2008年1月22日 (火) 23時08分
A9
234条1項5号で端数処理されます。

Q10
会社法では、「定める」「規定する」「定め」「規定」が使い分けられていますが、
その使い分けの基準を教えていただけないでしょうか。
投稿 smoky | 2008年1月23日 (水) 13時24分
A10
 「規定する」は、「~条に規定する」という使い方、規定は条文です。
 「定める」は、それ以外ですね。

Q11
監査役の監査期間についてですが、商法においては計算書類受領した日から4週間以内と定められていましたが、会社法では事業報告書(施行規則132条)計算関係書類(計算規則160条)において、○週間経過した日となっております。
これは、各書類を受領した日から最低○週間(実質的には○週間+1日)を確保するようにしたというようなことを聞いた覚えがあります。
そこで、監査役の監査が早く終わってしまい、4週間を経過した日以前に監査報告書を作成し、取締役に通知することはできるのでしょうか?
投稿 あっ!と 法無 | 2008年1月23日 (水) 15時11分
A11
監査役がそれで十分と思えば、早くしてもかまいません。

Q12
株式の譲渡制限規定についての質問です。
会社法では株式譲渡の承認機関を代表取締役等にすることが可能となりましたが、会社法139条但書の承認機関を種類株主総会とすることは可能でしょうか。
例えば、種類株式発行会社(A株式・B株式)でA株式を譲渡する際に、B株式の種類株主総会の承認を要するというようにすることです。
株式譲渡制限規定の本来の趣旨からは若干認めずらいと思いますが、いかがでしょうか。
また、拒否権付の種類株式を使えば同様の効果を期待できますが、そちらはいかがでしょうか。
投稿 ご質問 | 2008年1月24日 (木) 12時48分
A12
 ファーストインプレッションですが、種類株主総会は、会社の機関の一つであること御及び種類株主層かは、定款で定めた事項について、決議することができることから、、承認機関とすることもできると考えます。
 
Q13
ものすごくしょーもない質問であり、法令上だけの問題ではなくなりそうですが、企業法務を担うものとしては、実務上、気になるところではあります。
東証一部上場企業であることを前提にお考えいただければ幸いです。
ご回答のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。
①監査役と執行部門管理職(例:総務部長、法務部長)が懇親会(つまりは飲み会)を開催することについて、問題はないか。
②①において、会社の費用で処理した場合、問題はないか。
③①において、監査役が懇親会費全てをポケットマネーで支払った場合、問題はないか。
④①において、執行部門管理職が懇親会費全てをポケットマネーで支払った場合、問題はないか。
④上述で問題があるとすれば、「どちらが誘ったか」の観点がポイントになるのか。
⑤本問題を考える際、飲み会の内容(話題)がポイントになるのか。
投稿 企業法務人 | 2008年1月24日 (木) 17時34分
A13
まあ、懇親会くらいいいんじゃないでしょうか。
社会的儀礼の範囲内であれば、どちらがお金を払ってもいいでしょう。
ただし、贈収賄にならないようにしてください。そういう意味で話題には気をつけましょう。

Q14
有限責任事業組合の組合員が法人の場合、職務執行者を選定する必要がありますが、この場合、この組合員である法人の代表取締役は、当該LLPの業務をすることはできない(LLPの業務に関する執行権は制限される?)のでしょうか?例えば、組合員の同意で組合契約を変更する場合、通常は職務執行者が同意しますが、これを代表取締役が行った場合、問題があるのでしょうか?

上記とは別に、組合員が全員法人である場合、LLPの重要な財産を組合員に譲渡する場合、利益相反となるかと思いますが、そのときのLLP側の譲渡に関する全員の同意は、当該財産の譲渡を受ける組合員について、特別代理人を選任する必要はあるのでしょうか?
投稿 ちりがみ | 2008年1月24日 (木) 17時46分
A14
会社法ではないので、スルーさせてもらいます。経産省に質問することをお勧めします。

Q15
会社法52条3項、及び33条10項3号について質問です。
33条10項3号では、現物出資財産等が不動産である場合、弁護士等の証明に加え、不動産鑑定士の鑑定評価を要求しています。他方、会社法52条3項において、不足額填補の責任主体が「証明者」となっています。
この場合、52条3項に基づいて、不動産鑑定士に対して不足額の填補を請求でいるのか分かりませんでした。
文言からすると、「証明者」は弁護士等であり、不動産鑑定士はこれにあたらないように思うのですが、どうなのでしょうか。
投稿 受験生です | 2008年1月24日 (木) 23時50分
A15
不動産鑑定士は、証明者には含まれません。

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2008年1月17日 (木)

120条2項の推定規定

 7日の仕事始めから、怒濤のような仕事が押し寄せてきて、ブログの更新が遅れてしまいました。

 その間、毎日jpに「アルファブロガーに聞く」ということで、私のインタビューが掲載されました。このブログの裏話に類することも、つい喋ってしまいましたので、興味ある方はご覧ください。
http://mainichi.jp/life/electronics/news/20080115mog00m300031000c.html

なお、内藤卓先生のブログで
「最近更新ペースが落ちていますね。「お金を払って来るお客さんに提供するサービスのレベルと、ブログで無料で質問にお答えする部分のレベルを、どう折り合いをつけるか」ということでしょうか。 」
と指摘されてしまいましたが、決して、そういう訳ではありません。民事局時代と比べても、今の方が忙しいというのが原因です。
http://blog.goo.ne.jp/tks-naito/c/56eae484a32bd5c890e84dce1e23b641

また、木村税理士のブログに、アルファブロガーアワードの授賞式のときの動画がアップされました。これは、さらに裏話的なことも口走ってしまいましたので、興味のある方も見ないでください(というと、普通は、見てしまうんですよね)。
http://kimutax.livedoor.biz/archives/50938086.html

さて、昨年のモリテックス判決以来、私は、「株主に対する利益供与」のことが、相当、気になっています。
 私は、検事時代に、旧商法の利益供与事件の捜査に携わり、その際に、かなり法律的な検討を加えたためか、民事上の利益供与について定める会社法120条の解釈について一家言を持っています。

 このモリテックスの東京地裁判決では、モリテックスが、議決権行使書面を提出した株主に対し、500円のQUOカードを交付するという一種の株主優待制度が、会社法120条の利益供与の禁止に違反するかという点が一つの争点となりました。
 そして、結論だけ言えば、裁判所は、当該事例においては、当該株主優待は120条違反だと認定しました。

 この認定自体については、まだ係争中なので、とやかく言うつもりはないのですが、法理論的に気になっているのは、次の3点です。
① モリテックスのような株主優待は、120条2項の「特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたとき」に該当しないのだろうか。
②「株主の権利の行使に関し」というのは、一体、どういう意味なのだろうか。
③ 当該判例は、株主の権利の行使に関するものと認定した上で、「例外」的に違法性が阻却される場合があることを判示しているが、本当にそのような「例外」があるのか。

 このうち、本日は、①の120条2項の適用範囲について、お話しします。

 利益供与の禁止義務違反(120条1項)と利益供与罪(947条1項)は、ともに「株主の権利の行使に関すること」が要件としていますが、前者については、当該要件の存在について推定規定が存在しています。それが、120条2項です。

 総会屋に対して無償で利益を供与した場合に、120条2項が適用されるのは当然ですが、本件のように一定の要件を満たした株主に対してのみ、無償で利益を供与する場合に、120条2項が適用されるかどうかは、これまで明示的に議論されていないように思います。実際、モリテックス事件でも、120条2項については、論点になっていないようです。

 この「特定の株主」という文言は、120条2項のほか、特定の株主からの自己株式の取得を定めた160条にも出てきますが、昔の文献を調べても、「特定の株主」という文言の意義について、明確に解釈が示されていません。

 「葉玉さん」とか「松真さん」とかいうのは、明らかに「特定の株主」なのは分かります。しかし、これが「議決権を行使した株主」「その会社の役職員である株主」「10万株以上保有している株主」だったらどうかは、どうも不明確です。

 株主平等の原則(109条1項)の趣旨からすれば、1株単位で保有株式数に応じて行われる利益供与以外は、すべて「特定の株主に対して・・供与をしたとき」に該当するとの考え方もありえるかもしれませんね。おそらく、160条の「特定の株主」については、保有株式数に応じる取扱いをしない場合を広く含むことになるでしょうから、120条2項の「特定の株主」だって同義であるという人がいても不思議ではありません。

 しかし、120条2項は、総会屋対策の一環として昭和56年商法改正により設けられた旧商法294条ノ2第2項を継承した規定ですから、当時の立法趣旨に鑑みれば、その株主の特殊な属性(たとえば、総会屋であることや創業者であること)に着目した利益供与についてのみ、120条2項が適用されると考えるべきです。

 言い換えれば、120条2項の「特定の株主」は、氏名等により特定された株主や、株主の特殊な属性によって特定された株主のことをいい、一定の客観的要件を充たせば、どの株主に対しても利益が供与されるような株主優待を受ける株主は、含まれないと解すべきでしょう。

 このように解釈すれば、議決権行使型の株主優待制度のように、「どんな株主でも、議決権を行使さえすれば、その利益を享受できる場合」には、「特定の株主」に対する利益供与に該当しないという結論を導くことができます。

 基本的には、この解釈でいいと思っているのですが、ただ、次の2点が気になります。

第1は、 「会社提案に賛成した株主にQUOカード進呈」というモロに利益供与になってしまう事例についても、120条2項が適用されないことになってしまうのではないかということです。この点については、120条2項の推定は働かないものの、「株主の権利の行使に関する」ことの立証は容易なので、特に問題はないと言う理屈で解決することはできそうです。

第2は、無議決権種類株式を発行している会社において、議決権行使型の株主優待制度を実施した場合に、120条2項が適用されないかということです。これは、無議決権種類株式の株主が利益を供与することができないということを考えると、120条2項が適用されるリスクはありうるように思います。

 もちろん、「株式の種類ごとに株主の取扱いを別にするような場合には、120条2項は適用されない」という考えも十分成り立ちうるように思いますが、議決権行使型の利益供与は、「株主の権利の行使に関し」という要件との軋轢が大きいので、保守的に考えれば、種類株式発行会社では、そうした株主優待を辞めるか、無議決権種類株主にも平等に利益を享受できる制度を構築する方が望ましいような気がします。

次回は、その他の利益供与の論点についてお話します。

(質問コーナー)
Q1
早速ですが、100問の20の有利発行の話で、株主の取締役に対する423の検討で、会社自体への損害認定は無理だろうと書かれています。
一方、100問の17におきまして、取締役と通じて著しく不公正な価格出引き受けたものがいた場合の取締役などの責任については423責任を負うとされています。私にはこの場合も有利発行同様会社には損害はないように思えますが、いかがでしょうか。
投稿 アンナ | 2008年1月 6日 (日) 23時27分
A1
 そうですね。引受そのものについては、会社に損害は生じないでしょう。もっとも、引受人に対する責任追及に要した訴訟費用等は、423条責任を負う可能性はあります。

Q2
事業譲渡の意義についてひとつ質問させてください。
判例は、事業譲渡の要件として、①有機的一体として機能する財産の譲渡、②事業活動の承継、③競業避止義務の負担をあげています。
この③の競業避止義務の負担について、百問90-2の解説では、特約で排除できる場合には、③の要件を欠くことになり、事業の譲渡に該当しなくなると解されるとしておられます。
 もし、競業避止義務の負担が会社法467条1項1号・2号及び会社法21条の事業譲渡の不可欠の要件とするのであれば、21条の条文はどのように解釈するべきなのでしょうか?
 すなわち、会社法21条は、「事業を譲渡した会社・・・・は、当事者の別段の意思表示がない限り」と規定しており、条文上は、特約により競業避止義務を全面的に排除した場合でも「事業を譲渡した会社」に該当すると解するのが自然に思えます。(「事業を譲渡した会社」は、特約によれば、20年間どころか今すぐにでも同一の事業を行ってもよい=競業避止義務を負わない→競業避止義務を負わなくても「事業を譲渡した会社」である、と読めるため)
 そうすると、条文解釈としては、競業避止義務を特約により排除した場合であっても事業譲渡に該当する、という解釈の方が素直に思えます。もっとも、競業避止義務をメルクマールとする方が、株主総会決議が必要な事業譲渡か否かの判断にあたっては妥当だと思いますが、そうすると素直な条文解釈を操作しなければいけないように思います。どのように考えたらよいのでしょうか。
 なお、22条23条などは、競業避止義務を特約で排除した場合も適用されると思いますが、これも、競業避止義務を負わない場合には事業譲渡に該当しない、とする説からは、説明が困難ではないかと思います。(昭和40年最高裁判決は、「商法24条以下にいう営業の譲渡と同一意義」としており、会社法21条に限定はしていないと思われます。)
長くなりましたが、競業避止義務を特約で排除した場合には事業譲渡にあたらない、という見解について、会社法21条(及び22条・23条)との関係について解説いただけると幸いです。
投稿 めろ | 2008年1月 7日 (月) 23時17分
A2
 100問は、最高裁判決と同一の立場を採るという前提に、競業避止義務を排除した場合には、事業譲渡に該当しないと考えています。
 おっしゃるように、21条と同義ということを厳密に解釈すれば、本当は、競業避止義務は要件にならないはずです。
 しかし、最高裁があえて、競業避止義務を要件に入れた意味は、基準の明確化と467条1項1号の趣旨(譲渡会社が事業目的を遂行できなくなる)ということにあると思いますので、結論は、100問の解答で良いと考えます。
 ですから、厳密に言うと、会社法468条1項1号と会社法21条の事業の譲渡は異なる意味ではあるけれども、それでも、最高裁が、21条1項の事業の譲渡と「同義」と言っているのは、「単なる財産の移転ではない」という文脈で言っているのだと理解しています。

Q3
募集新株予約権の発行について教えてください。
236条1項2号の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法として確定額によらずに例えば、「当該募集新株予約権の発行後最初の募集株式発行の払込金額の70%とする。」というような定め方をすることは可能でしょうか。
このような定めは払込金額の決定方法であって客観的算定方法とはいえないのでしょうか。
投稿 七色吐息 | 2008年1月 7日 (月) 23時50分
A3
ちょっと工夫を要するものの、そのような定めもできないわけではないと思います。

Q4
はじめまして、会社法で悩んでいます。
法363-2の「取締役は、3箇月に1回以上、自己の職務執行の状況を取締役会に報告」と書かれていますが、当社は非上場(機関:取締役会+監査役)3月31日決算で7、10、1月の下旬に四半期決算の報告の取締役会を開催しています。
4月は決算書類を監査役に提出する取締役会を開催しています。
6月に総会開催の取締役会を開催しています。
今度の4月は決算書類を監査役に提出する取締役会を開催せずに監査役に決算書類を提出しようと思いますが、この4月開催を5月におこなうにと法に抵触するのでしょうか、ご教授お願いします。
当社では、3箇月に1回以上とは、四半期決算を中心に取締役会を開催することと思っております。
投稿 会社ではワタベと呼ばれてます。 | 2008年1月 8日 (火) 17時03分
A4
1月の次が5月になるということですね。あまりよくないような気がします。

Q5
剰余金の配当を行ったときの準備金の積立で質問があります。このとき、準備金が資本金の4分の1まで到達していなければ、配当の10分の1を積み立てることになっているとおもいますが、かりに10分の1がきっかり割り切れないとき端数はどうすればいいのでしょうか?(1円くらい切り捨てようが切り上げようが好きにして!ということでしょうか?)
投稿 アストレイ | 2008年1月 8日 (火) 19時38分
A5
あまり考えたことはないですが、10分の1以上にすべきなので、切り上げが安全ですね。

Q6
組織再編行為における反対株主の買取請求制度での買取価格(=公正な価格)についてご教授いただきたく、よろしくお願いいたします。

「論点解説 新・会社法 千問の道標」(P.682)によると公正な価格は、

(1)「株式買取請求権の効力発生時における時価」、つまり、「反対株主が株式買取請求したときの株価」が基準
(2)これに、組織再編行為が原因で株価が下がったと思われる部分があれば、その部分について補償する(=上乗せして買い取る)
(3)シナジー効果で株価が騰がった場合は、そのシナジーを織り込んだ価格になる

となっています。
旧商法における「決議ナカリセバ」部分がとれた最大の理由は(3)のシナジー分も補償すべきだということにあるのだと思いますが、それだけでしょうか?
(3)は(1)にあるように「反対株主が買取請求したときの株価」にすでに織り込まれており、実質的には買取価格に反映させないことになろうかと思います。
これはこれで、株価の持つ性質からみても妥当な考え方だとは思うのですが、一方で、旧商法下の判例(東京地判S58.2.10)を見ると、公正な価格は「公表前の一定期間の平均株価」となっており、「反対株主が買取請求したときの株価」については何ら考慮されておりません。
「決議ナカリセバ」を単純に「公表前の一定期間の平均株価」としたのは、買取請求期間までの時間差を考慮していないため、①株価の持つ性質(サブプライムローン問題に関係のない会社の株価まで暴落している現在の状況に見られるように外部環境次第で騰がったり下がったりする性質)をまったく考慮していないこと、つまり、組織再編の発表以外の原因で株価が下がった分を買取請求時から除外していないこと、②買取請求時までの間に「公表前の一定期間の平均株価」というプットオプション(売却権利)を買取請求者に与えることになり、一方的な株価上昇による利益のみを享受できることになってしまい、買取請求制度の意義を著しく逸脱した買取請求を助長しかねないことから、これは不適当であるという意図は入ってないでしょうか?
会社法下においても、旧商法下と同様に最低限、「組織再編前の価値」を補償することは同じであると考えから、会社法下でも「決議ナカリセバ」は生きているとすれば、上記判例の考え方を否定しないとつじつまが合わないことになってしまい、このあたりの論理をどのように構築するか悩んでいます。
投稿 悩める実務家 | 2008年1月 9日 (水) 11時29分
A6
 場合によっては、「決議なかりせば」を考慮するときもあるでしょう。
 そういうことをすべて含んで「公正な価格」です。

Q7
剰余金の配当について質問です。
分配可能額をこえる剰余金配当が有効か無効かの議論はいろんな本で見るのですが、会社法454条の株主総会決議を欠いていた場合等手続規制違反の場合の剰余金配当の効力はどのように考えるのでしょうか。
投稿 SON | 2008年1月10日 (木) 02時07分
A7
無効と考えるのが通説だと思います。
個人的には、一律に無効でいいのかという疑問はありますが。

Q8
19年3月期決算の監査のために、特定取締役および特定監査役として選定していた取締役Aと監査役Bを、20年3月期決算の監査のために再度、特定取締役および特定監査役として選定したいと考えております。この場合、事業年度が替わっているので、改めて選定する必要はございますでしょうか。ちなみに、監査役Bは19年6月総会で再選され重任しております。
投稿 株之助 | 2008年1月10日 (木) 22時10分
A8
事業年度ごとに決める必要はないと思います。

Q9
早速ですが、事業譲渡につきましてご教示いただきたい点がございます。
①会社法第469条第3項の通知ですが、譲渡会社・譲受会社いずれも株主が一人である場合(いわゆる兄弟会社)において、当該株主が事業譲渡を了承しているときにも必要となりますでしょうか?制度趣旨からしますと通知は不要に思われるのですがいかがでしょうか?
②会社法第467条第1項但書の場合、債権者保護手続期間中に事業譲渡の効力が生じる内容の事業譲渡契約を締結することは可能でしょうか?債権者保護手続期間が設けられた趣旨からしますと、債権者保護期間経過後に効力が生じる契約を締結せざるを得ないように思われるのですが、いかがでしょうか?
お忙しいと存じますが、よろしくお願い申し上げます。
P.S.アルファブロガー受賞おめでとうございます。投票したブログが受賞すると、こちらもうれしいものですね。
投稿 のぶ | 2008年1月11日 (金) 19時03分
A9
① 法定の通知を条文の根拠なく省略できるのかという点について、私は、慎重に考えるべきだと思います。なお、東京法務局民事行政部第一法人登記部門統括登記官土手敏行さんは、期間の短縮は可能だという見解を述べていらっしゃいます。
 ただ、一人株主が了承しているというのは、通知があるのではないでしょうか?
 それとも、期間の短縮の問題でしょうか?
② 事業譲渡には、債権者保護手続きはありませんが、どういう意味でしょうか。

Q10
連続した組織再編のことで質問させてください。株式移転で親会社を設立した後に、現在の事業の一部を親会社に会社分割で移動させようとした場合、株式移転によって親会社が設立される日に会社分割の効力を発生させる方法はあるのでしょうか?親会社設立前に会社分割の手続きを開始することができるかどうかわからなくて困っています。
投稿 マスタージャパン | 2008年1月11日 (金) 22時16分
A10
それは、難しそうですね。

Q11
取締役会の重要な業務執行権限(362条4項)について立案担当者の見解は、株主総会の権限とすることはできるが、取締役会からその権限を奪うことはできないというものであったと思います。

私は、この見解は、損害賠償責任を負う取締役(会)が権限を有することによって、取締役(会)が責任をもって経営にあたることを可能にすると同時にそれを要求することに意味があると思っています。

一方、ブルドックの最高裁決定では、株主の多数の承認があったことが強調されています。先生もこの決定を支持されています。

しかし、上述の見解(またはその趣旨)からすれば、防衛策の発動を決定する権限は取締役会があくまで負っているはずであり、株主総会にその権限を委ねたとしても、取締役会は自己の責任をもって最終的に決定しなければならないのではないでしょうか?
このような観点からすれば、あくまで株主総会の多数の意思があったかどうかは、取締役会の判断が合理的かどうかを示す一要素にすぎないということになりませんでしょうか?
投稿 AAA | 2008年1月13日 (日) 02時19分
A11
 質問の趣旨が良く分かりませんが、善管注意義務の問題として、ご質問されているのでしょうか?
 おっしゃるように株主総会の決議がある場合でも、取締役会が最終的に決定しなければならないし、それにより、取締役が善管注意義務違反にならないとは言い切れません。
 忠実義務との関係で、善管注意義務違反にならない若しくは過失がないという可能性は高まるでしょうが。

Q12
葉玉先生こんにちは、いつも楽しく拝見してます。不動産鑑定士をめざしている者ですが、会計学と経済学のお勧めの本がありましたら紹介してください。
会社法と関係なくてすみません。
投稿 KATU | 2008年1月14日 (月) 12時59分
A12
よく分かりません。
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(浜辺教授コーナー)*興味のある人だけお読みください。
1 「天下り」に関する論点
【浜辺教授】誰でもがやっている仕事ではなく、特別に重要な領域の仕事をしていた方が、その職務権限と関係のある事業を行うことや、自営業を営むことについては、前の職場の利益(この場合でいえば、国家の利益)にとって損失が生じる懸念があることは、上記の国家公務員法の趣旨や、民間事業者の競業禁止の考え方の底流にある考え方だと思います。
【葉玉】
 なぜ、公務員が辞めて弁護士になると、国家の利益に損失が生じるのか、ぜんぜん分かりません。
【浜辺教授】
次々に、難解な法律を作っては、弁護士転身などという法律家が続々と出てきて、困ることにならないのでしょうか?それとも、そうなっても何らの問題もないというのでしょうか?弁護士への風当たりも強い昨今ですから、これはもう少し他人の目も気にする必要があるように思うわけです。
【葉玉】
 法律の立案プロセスに携わっていただければ、それが自分勝手に作れるものではないことは明らかです。ですから難解な法律を作って、弁護士転身などという法律家を排出するようなシステムにはなっていません。
 また、「法律を作ったから、クライアントが列をなす」ということはありませんし、たった一つの法律だけで、弁護士がずっと飯を食えるはずないのは、浜辺教授ほど弁護士経験が深い方であれば、ご存じのことだと思います。
 さらに、任期付任用で公務員として働いている弁護士の給与は、同期の検事とほぼ同等ですが、弁護士時代の半分以下になることはご存じでしょうか。
 任期付任用公務員は、安月給で2-3年働き、その間、クライアントとの関係は途切れるというリスクを犯しながら、皆さん、自分の経験を深め、能力を高めるということだけで頑張っています。
 検事も同じです。検事の給料は、他の公務員と比べると高いですが、残業手当はつきません。休日出勤手当も抑えられています。残業で午前様になったときのタクシー代も自前のことが多いです。公務員宿舎はかなり値上がりしてしまいましたし、転勤時の引っ越し代も全額でません。正直いって、金銭面では、あまり報われません。国民の利益のためにがんばろうと思っているから、つらい仕事でも頑張っているのです。そういう現実を知っている私から見れば「難解な法律を作っては、弁護士転身」などという有り得ないストーリーを言うこと自体、世間知らずというほかありません。

3 株式会社と有限会社の問題
【浜辺教授】
従前の考え方では、有限責任社員のみの会社で、①②の義務がないけれども、「有限会社」ということであれば、株式会社ほど信用はないことを前提に注意して取引しやすいということで、それほど不都合はなかったのではないかと思います。
【葉玉】
 「有限会社は、株式会社ほど信用はない」というのが、区分立法の悪弊だということは、これまで、お話ししたとおりです。もっと、「中身を見ろ」というために「有限会社」の新設が禁止されたと考えてもいいかもしれません。

4 会社法の「わかりにくさ」に関する問題。
【浜辺教授】「分かりにくくするために、2条で定義していない」などとは、誰も口が裂けても言えないことだと思いますので、本書が述べているのは、一つの推理であり、論評です。
【葉玉】
 口が裂けても言えないから、そう言っているのではありません。違うから違うと言っているだけです。
【浜辺教授】
葉玉先生は、「「金銭等」というのは、会社法上の独自の法概念ではなく、一般的な概念を短くするために使っているだけなので、私の感覚から行っても、2条に置くべきものではないと思います」というのですが、会社法施行規則の定義条項である第2条第2項第34号では「金銭等」の定義があり、場当たり的な説明のように思います。
【葉玉】
施行規則二条二項は、会社法の施行規則という性質上、会社法の定義と同じ定義を使う言葉を列挙すること自体に意味のある規定です。会社法二条とは、まったく役割が異なります。ですから「場当たり的」な説明ではありません。

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2008年1月 5日 (土)

2008年の展望

あけまして、おめでとうございます。
おかげさまで、弁護士として、無事、最初のお正月を迎えることができました。
私は、「弁護士業お休み、育児業フル稼働」という休みのようなそうでないような正月を過ごしているのですが、会社員の方の中には、4日が仕事始めの方もいらっしゃったと思います。
 ご苦労様です。このブログを見ていらっしゃる方は、企画・法務・総務系の方が多く、これから総会シーズンに向け、気苦労の増える時期ですので、手を抜かず、さりとて、飛ばし過ぎないよう、適度にがんばっていきましょう。

 また、受験生の皆さんは、(合格するつもりのない方を除き)、正月なんて関係なく、勉強していたと思いますが、いよいよ試験のある年に突入しました。勉強できるのは、あと4ヶ月です。5月が試験だから、5ヶ月あるなんて勘違いせず、毎日、悔いのない勉強を続けてください。

 さて、本日は、正月企画として、「2008年 企業法務の展望」をお送りいたします。
 展望といっても、さして高い展望台から見た展望ではなく、思いついたことを気ままに書きますので、見通しのよくない展望になってしまうかもしれません。
 
1 株券電子化
 ちょうど1年後には、株券電子化です。
 私のセミナーをお聞きの皆さんは、「結構、やること多いなあ」という気持ちになっていらっしゃるとは思いますが、本当に、こまごまとやることがあります。
 多かれ少なかれ、上場企業が、2008年中に、何らかの対応を迫られるのが「株券電子化」です。
 商事法務で、2月ころに株券電子化への実務対応について連載する予定なので、上場会社の皆さんや、上場株式を担保に取っている皆さんは、ぜひ、その連載に目を通していただき、今年の5月までには、「ほぼ対応は終わったね」という感じになってほしいと思っております。
 今年前半に何もやっていないと、結構、きついかもしれません。
 
2 金商法・独禁法の課徴金制度強化
 金融庁は「金商法」、公正取引委員会は「独禁法」の課徴金制度を強化する意欲であふれております。
 ねじれ国会なので、法改正がどうなるかは、よく分からんところもありますが、民主党も、課徴金制度の強化に積極的であると思われるので、遅かれ早かれ、課徴金制度は強化されます。
 証券取引等監視委員会にせよ、公正取引委員会にせよ、調査をいっそう活発に行うと公言していますし、役所というところは、法改正の意義をアピールし、予算を沢山もらうために、法改正直後は特にがんばる傾向にありますから、今年から来年にかけては、インサイダー・虚偽報告・談合などの調査は強化されることになるでしょう。
 私は、自己の利益のために、故意に金商法違反や独禁法違反をやった者が調査・捜査の対象となるのはやむをえないと思いますが、企業犯罪は、比較的罪悪感が薄かったり、悪しき慣行に逆らい難かったりするため、いわゆる「うっかりインサイダー」「専門家すら見解が分かれるような会計処理の間違いによる虚偽報告」のような事例も実際には起こります。
 こうした「うっかり系」の違反事例で、上場会社の役職員が生活基盤を揺るがされ、会社の信頼も地に落ちるような結果になるのは、気の毒で仕方ありません。
 各社ともコンプライアンス体制(規約)は、形式的には整備されているとは思いますが、私の経験では、「形骸化」や「誤解に基づく機能不全」に陥っていることが多いので、実際に、コンプライアンス体制が機能しているかどうかは、きちんとチェックしておいた方がよいと思います。もっとも、特に営業系の力の強い会社は、法務部がコンプライアンスなどと言うと、「お前、誰が食わせてやっていると思うんだ」と言わんばかりな態度を採られたりして大変です。
 ただ、「社内の常識が世間の非常識」になっていると、発覚と同時に「会社ぐるみの犯行」として厳しく糾弾され、営業がどんなにがんばっても「万事窮す」となってしまいます。
  コンプライアンス違反は、インフルエンザと同じです。実際に罹患しないと病院に行かない人が多いのですが、罹患してしまうと、治療は難しく、症状も重篤になります。逆に、予防接種をしていれば、予防できるし、罹患しても症状を軽くすることができます。
 課徴金制度強化は「今、そこにある危機」ですから、これを機会に「うっかり系」違反や「悪癖系」違反をなくす体制を(なるべく手間とコストをかけずに)整備した方が、来年のお正月を気持ちよく迎えられると思います。

3 アクティビスト対策と買収防衛策
 大発会から株価が下がり、なんとなくきな臭い雰囲気が漂ってきています。私は、上場会社から買収防衛策の策定を依頼されたときは、まず、その会社の時価総額や株主構成等の分析をして、敵対的買収のリスクをレポートすることにしているのですが、今の株価水準からもう1割下がると、多くの企業が危険水域に入ってしまいます。
 株価の下げ局面では「買収防衛策など導入すると、外国人が投資しなくなって、株価が余計に下がる」という見解が披露されるのが常です。日本の上場企業の買収防衛策の導入率は、欧米に比べて格段に低く、そうした見解がどこまで本当なのかは、半分疑ってかかった方がよいと思っていますが、いずれにせよ、いまだに日本社会では「買収防衛策=株主の権利を阻害」というイメージの方が強いのが現実です。
 とはいえ、企業業績は上がっているのに、株価が下がっているという今の局面は、アクティビストにとって絶好の買い場になる可能性があります。 
 また、昨年は、株主提案はことごとく退けられましたが、アクティビストが、この株価動向の中で、一般株主を味方につけて、増配提案や買収提案などをする可能性も高くなっています。
 一般的には、上場企業が、アクティビストを無視することは、だんだん難しくなっているのが現状でしょう。
 買収防衛策の導入についても、昨年、ブルドック決定により、新株予約権無償割当て型防衛策の限界が見えましたし、また、サッポロVSスティールパートナーズの攻防戦が本格化すれば、さらに適法な「買収防衛策」の輪郭が見えてくることが予想されます。
 私は、判例の動向を踏まえて、株主の意思を重視し、敵対的買収者に財産的損害を与えない(かといって、会社が新株予約権を買い取ったりしない)買収防衛策への切り替えが必要な時期になっているとは思いますが、一旦、導入した企業の多くは、「すぐに切り替えるわけにもいかないし、どうしたものか」と悩んでいるのが現実です。
 センシティブな問題で、それがため、「横並び」意識が働きやすい分野ではありますが、適法で実効的な買収防衛策のかたちが見えない現状では、昨年のブルドック事件のような象徴的なケースが今年も起こる可能性は高いように思います。
 買収防衛策を導入した企業も、導入していない企業も、もうしばらく、この問題に振り回されることになるかもしれません。

(質問コーナー)
Q1
葉玉先生の「会社法100問」第二版の3番の問題における63ページの1において、閲覧「謄写」権(442条)とあるのですが、株式会社においても合同会社(625条)のように閲覧請求権のみならず謄写権もあるのでしょうか。
あるとしたら、条文上の根拠をご教示ください。
442条3項2号には「謄本の交付の請求」とありますが、これが根拠でしょうか。
だとしたら、謄写請求とされなかった理由をご教示ください。
投稿 麻耶 | 2008年1月 3日 (木) 03時31分
A1
謄本の交付請求権を、通常、謄写権と呼んでいます。
株式会社の場合、沢山の株主がいることが前提なので、謄写請求権としてしまうと、どこで、どのような方法で株主に謄写をさせるのかという難しい問題が起こってしまいます。持ち出しをさせるわけにもいかないし。そこで、会社でコピーして、そのコピーを渡すという、謄本の交付請求として規定されています。

Q2
葉玉先生、あけましておめでとうございます!昨年の「三つの誕生日」のエントリー以来、久しぶりに先生のブログを読んで涙しました。このブログは大好きですが、正直内容的にレベルが高すぎて、付いていけない部分が多いです。ですから、今年は葉玉先生の「子育て奮闘記」や「教育論」、「日本再生への提言」から、「六本木ナイト事情」にいたるまで、幅広い投稿を期待しております。サービス精神旺盛な先生がみな大好きですので、よろしくお願いします!
投稿 マチャミ星人 | 2008年1月 3日 (木) 14時11分
A3
六本木ナイト事情を中心に企画を考えたいと思います。
Q3
葉玉さん、明けましておめでとうございます
僕は葉玉さんの出身地である久留米市に住んでいる者です。
葉玉さんのブログを拝見して、非常に興味を覚えました。
将来必ず葉玉さんを訪ねていきます。
その時までしっかり勉強を怠りませんので、一言「よく、来てくれました」と言ってください。
お願いします。
これからも素晴らしい、素敵なブログを提供してください。
葉玉さんご家族にとって、幸せな一年でありますように(^^♪
投稿 y.o | 2008年1月 3日 (木) 21時36分
A3
将来といわず、いつでもお気軽に遊びに来てください。
TMIには、なぜか久留米大学附設出身の弁護士が5人もいますので、久留米話しで盛り上がりましょう。

Q4
質問というのは、公開会社の定義(2条5号)についてです。
授業で、「公開会社というのは、すべての株式について譲渡制限がないか、
一部の種類の株式についてだけ譲渡制限がある株式会社のことをいう」
と教わったのですが、2条5号をみると、
「その発行する全部又は一部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社のこと」とあり、
どうしても、一部の株式について譲渡制限を設ければ「公開会社ではない株式会社」になるように思ってしまうのです。
そもそも一部だけ設けるとは種類株式であると思うし、それは定款によって定められたものではないのか・・・
とか思う始末で、頭が混乱してしまいます。
これは、私の文言の読み方がおかしいのでしょうか。
どう読めば、「一部の種類の株式についてだけ譲渡制限がある株式会社」を、
公開会社というように考えられるのでしょうか。
ぜひ、教えてもらいたいです。
A4
A種株式に譲渡制限なし、B種株式に譲渡制限あり、だとすると、
「その発行する一部の株式(A種株式)の内容として、譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」に該当しますから、公開会社に該当します。

ここからは、浜辺先生との論争編なので、興味のある方のみどうぞ。

1 浜辺教授の議論の仕方(品位の問題を含む)について
浜辺教授「葉玉先生は、「活発な議論を通じて、問題点を克服していくプロセスに大きな喜びを感じ」るとのことですから、私もこの際ですから、幅広く、日ごろからちょっとは葉玉先生に聞いてみたいと思っていた事柄を、これを契機に、いろいろとぶつけさせていただいたわけです。」
【葉玉】
 浜辺先生の議論の仕方で、気分を害したようなことはありません。結構、楽しんでいます。というものも、噂レベルの話は、通常、誰が言ったかわからないので、反論することができないのですが、浜辺教授が、それをおっしゃっていただければ、事実と違うところは、「事実と違う、的外れだ」と反論することができるからです。
 自分自身では、尻すぼみになっているとは思っていませんが、浜辺教授が「ここが尻すぼみだ」と指摘していただければ、いつでも戦線を拡張するのはやぶさかではございません。もっとも、事実ではなく、表現レベルのところで、議論しても仕方がないとは思っています。
 ただし、「天下り」という表現については、検事や裁判官が、弁護士という自営業者になることを、「天下り」と表現することは、不適切です。いわゆるキャリア官僚ですら、職務権限と無関係な会社に就職したり、自営業を営むことは、「天下り」には該当しません。
 また、民事局付は、課長補佐級ですので、「中央官庁、立法担当者の高級官僚ないしそれに準じる人たち」には、通常該当しません。
 そもそも、天下り批判の本質は、官民の癒着、利権の温床化、官庁による押し付けなどにありますが、行政処分や行政指導などとほぼ無関係な会社法について、癒着や利権などというものは存在しませんし、私の就職について、法務省や検察庁が弁護士事務所に口利きをしてくれたわけでもありません。
 私は、自分が会社法の立案担当者の一人であったことが、自分の就職に有利であったことを否定しているのではありません。
 しかし、「天下り」という世間的に評判の悪いレッテルを貼ることにより、まったくベースが異なるものを、同列に取り扱って、批判の対象とする浜辺教授の方法論は、不適切というほかありません。
 また、浜辺教授が、「立法作業」に携わった検察官や裁判官を対象に限定しているのは、多くのヤメ検、ヤメ裁を敵にまわしたくないからかもしれませんが、「天下り」批判は、むしろ行政処分の公平性等を中心に展開されているものであり、なぜ、浜辺教授が「立法作業」に限定されるのか、意味が分かりません。元高裁長官という威光を背景に裁判所に圧力をかけたり、元検事長という威光を背景に検察庁の処分に影響を与えたりするような事例でもあれば、それこそが「天下り」と批判されるべきことなのでしょうが、実際には、そのような事例がほぼ起こりえないことは、裁判官や検察官出身者ならば、誰でも知っています。
 また、「立案担当当時に得た知識を弁護士として利用するのが悪い」という考えも、非常に偏った考えです。たとえば、浜辺教授の同僚である稲葉教授は、立案担当当時の知識を存分に生かされながら、弁護士としても、早稲田ローの教授としても活躍されているのであり、それ自体、大変すばらしいことだと思います。
 逆に、「立案担当当時の知識を生かすこと」自体を批判できないとすれば、浜辺教授独自の「天下り」批判は、すべて論拠を失うでしょう。

2 「論理的」か「論理的でないか」の議論について
浜辺教授「私が今回の論争の中で「会社法」を素材として議論しようとした切り口は、
①ただ単に「理論的にどうか」ということだけではなく、
②政治的に見てどうだったか、どういう意味があったのか、
③倫理的な観点から何か問題はないか、なかったか、あるいは隠れていないか
④経済的にどういう影響があったか、マクロで、あるいはミクロで、それぞれどうか
⑤言語学的(あるいはコミュニケーション)において立法担当者とユーザー(一般国民)の関係はどうか、
⑥会社法という実体法をどうするかだけでなく、手続法など、他の法令との関係はどうか、
⑦この新しい法律によって実務はどう変わるのか、どう変えていくべきか、
等などの多角的な議論をしようとしたわけで、それを①だけとか、④だけ、ということでは、会社法をめぐる議論は十分ではないと、思ったわけです。それを「次元が違う」といわれれば、当然ではあるのです。上記の問題について、いちおう、葉玉先生の考え方(何を考え、何を考えていないか、何を避けているか、はぐらかしているか、次元が異なるとして片づけているのか等)は、だいたい30日のコメントで分かりました。答えているところ(いないところ)と、その答え方を見て、了解しました。」
【葉玉】
 私は、浜辺教授の議論の切り口自体は、特に問題ではないと思っています。ただ、たとえば、「弱者救済という政策目標を達成するために、平成2年に導入された最低資本金制度を維持するという結論を導くのは、論理的ではない」というように、浜辺教授が「会社法はこれでいいのか」で提示された批判自体が論理的におかしいと申し上げているだけです。
 もちろん、論理は、説得の道具ですので、浜辺教授の論理の方が説得的だと考える方もいらっしゃると思いますし、私の論理を絶対視しているわけではありません。
 なお、私は、「避けたり」「はぐらかしたり」しているつもりはありません。浜辺教授が、そう感じられているところをおっしゃっていただければ、きちんと説明いたします。

3 株式会社と有限会社の問題
浜辺教授「葉玉先生は、24番で、「有限会社自体が、有限会社という商号をかえたくないと思っている場合には、そのままの商号でも不都合はありません。むしろ、商号を無理矢理変更すること自体が規制になってしまいます」といいますが、それであれば、「有限会社という商号を使いたいという場合には、有限会社という商号も認め、特例有限会社などという制度を導入する必要もないという考え方はできなかったのですか。できてしまった法律を前提に反論されているようですが、当方は「どういう制度をデザインすべきだったか」を議論しておりました。
 しかも葉玉先生は、(25番)で、「有限会社」という名称を禁止するのは、特例有限会社が残っているため、仕方ないと開き直っているのですが、本書でも解説している通り、有限会社は希少価値が生じているので、これから人々が自主的に「特例有限会社」を返上していく件数は減っていくことでしょう。
結局、こうした中途半端で、奇妙なことにしかならないのであれば、当初の制度デザインがおかしかったのではないか、という点が問題の趣旨でした。」
【葉玉】
 浜辺教授の「有限会社」という商号に関するこだわりや、何を「中途半端で奇妙」とおっしゃっているのかが、十分、理解できていないところもあるのですが、経過措置というものは、激変を緩和するための措置ですから、中途半端なのが常であり、それをもって、「制度デザイン自体がおかしい」というのは、論理に飛躍があるように思います。
 たとえば、特例有限会社には、①決算公告義務がありませんし、②資本金が5億円を超えても、会計監査人の設置義務がありません。他方、会社法上の取締役会のない株式会社では、それらの義務がかかってきます。
 この①②について、浜辺教授は、どちらが制度的に望ましいとお考えなのでしょうか。もし、弱者=労働者取引先=債権者ということであれば、有限責任社員のみの会社で、①②の義務がないということを、どのように考えられるのでしょうか?
 私は、個人的には、有限責任社員のみの会社だからといって、①②の義務を必須とする論理的必然性はないという価値観の持ち主ではありますが、法制審議会の議論では、①②は必須であるというのが大勢であり、それが会社法の立法に生かされたわけです。会社法の整理は、私の趣味には合っていませんが、政策論としては正当性があり、「おかしい」とは思いません。
 さて、この政策を前提に、会社法は、株式会社と有限会社という枠組みを一体化したわけですが、なぜ「有限会社」という枠組みを放棄したかは、これまでお話したとおりです。
 そして、株式会社と有限会社を一体化するという制度デザインを採ったときに、既存の有限会社に、新たに①②の義務を課すべきか否かは、激変緩和措置の問題です。
 激変緩和措置は、既得権益の保護のために行われるものですから、新制度で「政策的に正しい」と考えられたことについても例外が設けられるのが当然です。これを「中途半端」というのならば、経過措置など設けることはできません。

浜辺教授「葉玉先生が「むしろ、会社法の多くの部分では昔からの理論が生きていると思っています」というのは、その通りで、ある種の先祖帰りをしているという評価があります。つまり、せっかく進歩発展してきたものを元に戻してしまって、それでいいのか、ということが問題でした。」
【葉玉】
 「これまでの商法改正により、本当に進歩発展したのか」ということを問いかけたのが会社法であると思っています。

浜辺教授「有限会社の社債発行について・・葉玉先生は、「有限会社も、株式会社と同じ規制がかかり、かつ、それで十分です」との回答でしたが、私の理解によれば、特例有限会社は株式会社のように決算公告が義務づけられないので、特例有限会社には株式会社と同じ規制がかかっているわけではないものと思います。」
【葉玉】
 有限会社でも、社債を発行する場合には、原則として、金融商品取引法が適用されるため、会社法上の「決算公告」義務の有無は関係なくなります。
 また、私募として、金商法上の開示義務がかからない場合には、むしろ通常の消費貸借契約と同様に考えるべきであり、「決算公告をしていないから、お金を借りてはいけない」という理論がないのと同様、「決算公告をしていないから、社債を発行してはならない」という理論もないと思います。

4 会社法の「わかりにくさ」に関する問題。
 浜辺教授「会社法2条、151条、154条をめぐる「金銭等」の表現のあり方に関する私の質問について、30日には葉玉先生から何もコメントがありませんでした。そこで、この点はしつこいようですが、安心できないので、元立法担当者の考えをお聞かせ頂きたいと思います。」
【葉玉】
 会社法には、2条以外にも、沢山の定義があり、それを全部2条に規定すると、2条が、100号以上に膨らみ、かえって分かりにくくなってしまいます。浜辺教授は、それを「非論理的な理由」などとおっしゃっていますが、分かりやすいか、分かりにくいかは、論理が決めることではありません。
 会社法の立案プロセスにおいては、2条にできる限り多くの定義を置く案もありましたが、定義をどこで行うかは、法務省に決定権はなく、いくつかの案を権限ある当局に示した上で、当局のご判断で現在の案に落ちついたものです。
 基本的な発想は、会社法独自で、かつ、全体で使う基本的な定義は、2条に置くという整理になっていると思います。
ですから、分かりにくくするために、2条で定義していないというのは、邪推以外の何ものでもありません。
 なお、浜辺教授の指摘されている「金銭等」というのは、会社法上の独自の法概念ではなく、一般的な概念を短くするために使っているだけなので、私の感覚から行っても、2条に置くべきものではないと思いますし、そもそも、浜辺教授がこのブログで述べられたようなことをいうために、ご著書の「金銭等」に関する部分を書かれたとしたら、その記述の方が、会社法151条や2条よりも、よほど「わかりにくい」ように思います。

5 「個人事業」の捉え方
浜辺教授「個人事業から始めることには、何らのネガディブなことはないという基本が、葉玉先生と私とは異なっているようです。」
【葉玉】 
 個人事業から始めることには、何らかのネガティブなことはないです。個人でやりたければ、個人でやればよい。そこは、浜辺教授と私との間に差異はありません。
 しかし、株式会社で始めることも、認めても良い。これが私の考えであり、浜辺教授との大きな違いです。
 浜辺教授は、会社の方が有利という誤ったメッセージを送るという趣旨のご発言をされていますが、会社を作ることによって、個人より有利な面もあるし、不利な面もあるのですから、別に、会社がよいと思って作ったなら、他人がつべこべ言うことはないと思います。そのような抽象的な危惧感で、事業者が、間接有限責任で事業を行う利益を奪う必要はありません。

6 会社法の規制緩和について
 浜辺教授「単純な規制緩和には弊害もあるので、それを規律する何らかの方策と併せて検討していくべきであって、その中には、規制緩和が実務にどういう影響を与えるのかをにらみながら検討すべきは当然で、会社法は特にそういう検討が重要な領域であったはずです。」
【葉玉】
 会社法は、規制緩和が実務にどういう影響を与えるかをにらみながら検討しています(経過措置は、その典型例です)
 もちろん、予想もしないような影響が生ずる可能性があることまで否定はしませんが、浜辺教授が「最低資本金制度の廃止」について述べられている影響は、現実的なものとは思えないと申し上げているだけです。
 
7 会社法の本当の誤り
 浜辺教授「葉玉先生がいう「会社法の本当の誤り」とはこういうものだ、というのがあるとしたら、それはどういうものなんでしょうか?もし、何か既に気がついているものがあれば、それを教えてくれれば幸いです。」
【葉玉】
 私自身が、会社法の誤りだと思うところは、「大人の事情」などと言いながら、このブログで明らかにしています。
 もっとも、浜辺教授が期待しているような重大な誤りというのは、ないと思っています。
 個人的には、
 1 資本金という概念が、登録免許税と会計監査人の設置強制以外に法的意味を持たないという整理ができるのならば、もうちょっと世間の人が誤解しないような概念に変えられないだろうか
 2 監査役を、取締役会において議決権のない監査専門取締役と整理すれば、外国人に監査役を説明するときに説明しやすいのではないか(委員会設置会社だからガバナンスが効いているという誤解も解けるのではないか)。
 3 買収防衛策について、もう少し正々堂々とした規定があってもよいのではないか。
などと思っていますが、どれもハードルが高い割には、実益が少ないので、ぜんぜん期待していません。

ちなみに、金商法と会社法を一体化して、「上場会社法」を作ろうという構想がありますが、これは、これで面白い発想です。上場会社法ができれば、金融庁や経産省に仕事を押し付けることができ、法務省は大分楽ができるので、未来の民事局付のためには賛成したいところです(笑)。
 ただし、上場会社法ができれば、その分野における法制審議会の力は、確実に弱体化しますので、それが、是か否か、微妙ですね。審議会というのは、官庁ごとにメンバーの人選の仕方も、運営の仕方も違いますから、各官庁が、法制審議会と同じように立案プロセスを進めてくれるだろうという誤解があると、ちょっと怖い気がします。
 個人的には、興味深いので、「上場会社法」を見てみたいと思うものの、「統合するだけならば、意味がないし、意味をもたせようとして頑張りすぎれば、会社法に関係する者みんなが傷つくリスクがある」と思う次第です。

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