株式併合+有利発行=?
最近、モック社の株式併合及び新株予約権の有利発行のことが、
磯崎先生のブログ(http://www.tez.com/blog/archives/000996.html)や
大杉先生のブログ(http://blog.livedoor.jp/leonhardt/archives/50335104.html)や
山口先生のブログ(
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2007/09/post_5ea7.html)
などで取り上げられています。
モック社の行為の評価は、様々あると思いますが、こうしたブログを読んでいると、なんとなく
「会社法のせいで、こういうことができるようになった」
という雰囲気があるような気もするので、今日は、少しだけ、言い訳をさせてもらいます。
株式併合や有利発行で問題が生ずるのは
株式併合によって、少数株主が多数排除される場合(特に端数の代金が安価な場合)
引受人に大幅に有利な発行をすることによって、既存株主が大きな経済的損害を被る場合
でしょう。
では、これらが会社法になってはじめて生じた問題なのかというと、
会社法は、株式併合・有利発行の要件を緩めたわけではない
ので、これらの問題の本質的な部分は、会社法に非があるわけではなく、もともと存在していた問題です(ここまでが言い訳部分です)。
もちろん、会社法が
株式併合をした場合に授権枠が拡大する
というルールを取ったために、そのような行為が行われるときに、少数株主の損害が拡大する可能性があるという批判もあるでしょうが、そもそも、そのような少数株主に財産的損害を与える行為を適法に行うことはできないとすれば、株式併合による授権枠拡大というルールが採用されたとしても、損害が拡大するということはないはずです。
すなわち、会社法上、一つの規定を形式的に適用すればできそうだからといって、他の規定を含めて検討したときに実際に出来るかどうかは別問題であり、会社法全体として、それらの行為ができるのか、できないのかを検討するのが出発点だと思います。
たとえば、会社が、少数株主に大きな財産的損害を与えるような「株式併合+有利発行」を行おうとしても
(1) 特別利害関係人による著しく不公正な決議として、併合決議は取り消される
(2) 新株予約権の割当てが、著しく不公正な方法によるものとして差し止められる
(3) 取締役や引受人等の責任(対会社・対第三者)が生ずる
という制度によって、少数株主に損害が生じないような手当ては既にされています。
モック社の件は事実関係を知らないので、こうした保護制度の適用があるのかどうかは分かりませんが、一般論としていえば
(1) 引受人と大株主が同一人であるような場合はもちろん、引受人である法人の出資者が既存の大株主であるというような場合には、その大株主は特別利害関係人に該当するでしょうから、そのような場合に、端数処理代金が不当に安くなるようなスキームで株式併合決議を行えば、著しく不公正なものとして取り消されるでしょう。
(2) 「著しく不公正な方法」は、通常、経営者の支配権維持目的との関係で論じられことが多いのですが、払込価額の点についても、通常の有利発行の枠を超えて、「著しく不公正な払込価額」であるような場合には、差し止めの対象とされるでしょう。
なお、新株予約権の発行差し止めがされない場合に、新株予約権の行使に基づく株式発行の差し止めができるか等の論点が
(3) また、著しく不公正な払込価額であるような場合には、引受人(新株予約権者)に385条の責任が生じますし、また、通謀した取締役も、第三者に対する損害賠償責任を負うでしょう。
モック社も、当然、これらの株主保護制度については検討を加えた上で、今回のスキームを実施しているのでしょうから、今後、モック社が、どのような正当化根拠を主張するのか、一法律家としては興味津々です。現在の公表資料から読み取る限り、正当化根拠がまだよく分からないので、今後の展開に注目したいと思います。
以上の問題点の中で、個人的に、一番興味があるのは、新株予約権の有利発行が行われてしまった場合の
引受人の責任(285条)
です。
この責任(285条)は、新株予約権を行使した新株予約権者が、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で新株予約権を引き受けたときに、当該払込金額と当該新株予約権の公正な価額との差額に相当する金額を支払わなければならないというものです。
この285条責任と有利発行決議との関係については、若干の論点があり、「有利発行決議をもらったら285条の責任は原則として生じない」と書いている本もあります。
しかし
有利発行(238条1項3号)は「払込金額が当該者に特に有利な金額」であるのに対し、
引受人の責任(285条)は「著しく不公正な払込金額」
であり、それぞれ要件が違いますから、株主総会で有利発行の特別決議を得たとしても、「著しく不公正な払込金額」である場合には、引受人は285条の責任を負うと考えるべきだと思います(千問Q293参照)。
まあ、有利発行決議で285条責任を負わなくなるという論者も、例外的に負う場合があることを認めているので、結論としては、あまり変わらないのかもしれませんが。
それから、本来、有利発行は、4倍規制のある授権枠の中で行う(=既存株主の経済的価値の低下に歯止めがある)のが普通ですが、併合で授権枠を広げた上で、大量の有利発行をするという行為を行うわけですから、このような有利発行目的の授権枠の拡大が「著しく不公正」という要件との関係で、どのように評価されるのか、というのが2番目の注目ポイント。
さらに、株式併合により1株以上残っている株主は、引受人に対する代表訴訟を提起することができますが、端数のみになった人は、代表訴訟を提起することができません。
また、端数調整の場面では、株式買取請求権の行使時の株式価格決定のような手続きもないことから、端数のみになった人が、どのような対応策を取ることができるかというのが、3番目の注目ポイント。
スクイーズアウトでよく用いる全部取得条項付種類株式の取得の場合なら、価格決定の申し立て等があるので、その分、適法性は高いのですが、株式併合でスクイーズアウトすると、株価下落時には、少数株主にとって不利なので、まずは、決議取消事由のところで厳格に考えるのが筋ですが、株式の発行までされてしまうと
①株主として直接損害を被ったとして、取締役に対する損害賠償を請求することができるか
②大株主や引受人の背後による実質受益者に対しても不法行為に基づく損害賠償等を請求することができるか
などが一般的には問題になります。
最後に、税金の面。たとえば、本件のように引受人が外国法人である場合には、有利発行による受贈益は課税されるのでしょうか?
もし、受贈益について課税が生じた後に、285条で責任追及されて支払ったら、一体、どうなるんでしょうか?引受人自体に別に収益源があれば、そこで損金算入という手もあるのでしょうが、そうした収益がなければ、国が受贈益分の税金を取り得になるのでしょうか?やや傍流ですが、興味があるので、知っている人がいたら教えてください。
以上のように、一般論として考えても、会社法上の色々な論点が満載なので、会社法に興味がある方は、モック社関連の今後の動向には要注目だと思います。
(質問コーナー)
Q1
新・議決権制限プランの効果について質問です。このプランの目的は、買収者が過半数をはるかに超える株式(残余権)の取得を促進させることにあるのでしょうか?会社支配権の移転の際に、買収者にできるだけ多くの株式(残余権)を取得させる仕組みは、支配権移転の効率性を高める機能があることはよく知られています。ただ、昨年度、ご紹介されたプランと異なり、このプランでは、新株予約権無償割当てプランと異なり、買収者の足を止める効果は弱くなってはいませんか?ご紹介の新・議決権制限プランでは、議決権行使条件である株主総会決議で議決権を行使することが認められるように思われるからです。公開買付けの最低取得株式数を高く設定する誘因を与えること自体、望ましいと思いますが。
投稿 K@頭 | 2007年9月21日 (金) 23時21分
A1
「買収者の足止め効果」の意味次第ですが、買収者を絶対に多数派にさせないという力は弱まっています。というより、弱めています。
上場企業である以上、一定の株式数以上を買い集めた場合には、防衛策を解除できるようにするべきであるという議論があるからです。
もっとも、足止め効果を強くしようと思えば、議決権行使条項付株式の数を増やせば、いくらでも強くなります。
Q2
買収者の議決権行使を株主総会の決議を条件として制限することは、アメリカの州法における反敵対的企業買収法ではよく見られるようです(曖昧で申し訳ありません)。ただし、反敵対的企業買収法では、買収者以外の株主のみが議決権を行使できたように記憶しております。
投稿 K@頭 | 2007年9月21日 (金) 23時24分
A2
買収者が既に普通株式を取得している以上、その議決権を完全に無くすことは難しいです(工夫次第で不可能ではないと思っていますが)。
しかし、新議決権制限プランは、議決権行使条項付株式については、買収者以外の株主のみが議決権を行使できるという仕組みなので、当該株式の比率が高まるほど、アメリカ的になっていきますね。
Q3
会社法107条2項3号により、例えば対価を全て新株予約権にした場合、会社は「一定の事由」の生じた日以降、自己株のみを持ち、株主=自社という状態になりこれがしばらく続くのでしょうか?
投稿 素朴君 | 2007年9月22日 (土) 12時52分
A3
「しばらく続く」という意味次第ですが、定時株主総会を開催しなければならないので、どこかで新株を発行しなければなりません。
Q4
間もなく施行となる「金融商品取引法」は、会社法に負けず劣らず複雑怪奇で非常に苦労しております。
先生のお知り合いに「金商法であそぼ。」を始めて下さる方はいらっしゃらないでしょうか?
投稿 hiro | 2007年9月22日 (土) 13時09分
A4
会社法ですら、他の人が引き受けてくれなくて苦しんでいるところですから、いわんや金商法をや、ですね。
まあ、私で分かることならば、答えます。
Q5
今年ロースクールを受験するのですが,第一志望校の受験まで約2ヶ月に迫っています。
そこで,この2ヶ月は,どのようにして備えるのが良いのでしょうか?
投稿 現役受験生 | 2007年9月22日 (土) 13時09分
A5
すいません。私はロースクールの受験をしたことがないし、試験問題も見たことがないので適切なアドバイスはできません。
ただ、試験一般に言えることですが、直前2か月は、①演習の量を増やす、②同時期に3科目以上勉強し、3週間で全科目勉強するというスケジュールを立てることが必要です。
Q6
会社法や勉強法に関する質問ではないのですが、世間をにぎわせている弁護士懲戒請求事件についてはどうお考えになられていますか?
投稿 大学生 | 2007年9月24日 (月) 07時16分
A6
事実関係を知らないので、あまり考えはありません。
興味はあります。「発言者が弁護士でなかったらどうだろう?」「懲戒の対応に追われるというのが損害ならば、訴訟の被告として準備に追われるというのも損害になるのだろうか」とか、和解になじまなさそうな事件なので、判決が楽しみです。
Q7
株式移転の際の株券提供公告についてご教示ください(長文になりますが、ご容赦ください)。
(問題提起)
1.株券提供公告について、効力発生日の前日を提出期限とした場合、瑕疵ある手続きになると解されていますが(会社法219条1項。本ブログ2006年5月21日А1)、これは株式移転の場合でも同様でしょうか?
例えば、①10月2日を効力発生日とすべく株券提供公告を行ったが、公告文面が「10月1日までにご提出ください」となっていた場合、10月2日に設立登記を申請すると、瑕疵ある手続きとなるのでしょうか?
A7
10月2日が予定日だったら、公告内容は間違っており、瑕疵はあります。
「効力発生日まで」という表現を使わずに、あえて「10月1日まで」とするのならば、少なくとも10月1日が予定日で、その旨公告していたが、何らかの都合で10月2日にしか登記申請ができなかったという場合なら適法ということなのでしょう。公告自体には瑕疵はないですから。
Q8
③当初10月1日の効力発生を予定して前記文面の公告をした会社が、効力発生日を10月10日に変更したいと考えた場合、提出期限を「10月10日まで」とした株券提供公告を再度実施しなければならないのでしょうか?
A8
公告義務は果たしていますから、公告のやり直しは必ずしも要件ではないでしょう。
Q9
株式移転の場合、1ヶ月以上の株券提出期間が確保されている限り、提出期限以後の日を効力発生日とすることが可能である(しても瑕疵は生じない)と考えますが、いかがでしょうか?
A9
条文から離れすぎる解釈のように思います。
Q10
なお、法務省HP(http://www.moj.go.jp/ONLINE/COMMERCE/k11-1-09-03.pdfのp25)で公表されている公告文例は、このような場合を想定してか、「効力発生日までに当社にご提出ください」となっていますが、株主は効力発生日を把握できるとは限らず、この記載では提出期限がいつまでなのかが明確とはならないため、実務で行われているように、提出期限は日付で明記すべきであると考えています。
投稿 water | 2007年9月24日 (月) 14時42分
A10
「効力発生日(10月2日を予定しております)」だったら、いいのではないでしょうか。
Q11
先生のゼミ生の勉強方法について質問させてください。
質問への回答で、基本書は使用していませんというものがありました。
これは、葉玉先生のゼミ生は、ゼミ中に基本書を用いなかったという意味で、独自で学習する際には、基本書や百選は使用しているのでしょうか?
それともゼミ外の自分達で勉強する時間も含めて、論文、択一の問題集とそれに付属する解説を読むのみなのでしょうか。
もしくはその両者でもなく、中間的なものなのでしょうか。
宜しくお願いします。
民訴の過去問では、一行問題まで含めて演習をしていましたか?
投稿 | 2007年9月24日 (月) 15時22分
A11
Q12
葉玉先生、いつも興味深く拝見させてもらっています。
教えていただきたいのですが、
①募集株式の発行の際に、募集事項で、引受人を指定することはできるのでしょうか。
②また、そもそも第三者割当とは、募集事項で「○○(←株主以外の人、又は株主の一部の人)を引受人とする」と定めた場合をさすのでしょうか。
③さらに、割当自由の原則によって結果的に特定の人にだけ引き受けさせることが可能だと思うのですが、その場合は「第三者割当」の問題にはならないという理解で正しいのでしょうか。
質問の趣旨は、先生の記事の
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/1_90e5.html
にて、「c 株主の一人である松真さんに600株を割当てて発行するのは、「株主に対する発行」ではなく、「株主以外の者に対する発行」である」
という記述を読みまして、「そもそも第三者割当で引受人を決める場合、どういう手続でやるんだろう?」と思ったのが発端です。
投稿 GG | 2007年9月24日 (月) 16時05分
A12
Q10
三角合併を用いてグループ再編する場合において、
A社:親会社
B社:存続受け皿会社、A社の100%子会社
C社:消滅会社、A社が株式70%保有、第三者Dが株式30%保有
B社がC社株主に交付する合併対価はA社株式を予定
合併対価としてのA社株式取得原資のためにA社はB社の増資を引受ける。
このようなケースの場合、B社はC社の株主Dに対してA社株式を交付することは勿論として、C社の株主としてのA社に対しても必ずA社株式を交付しなければならないのでしょうか?
B社からA社に対して合併対価としてのA社株式交付手続を省略することは許されないでしょうか。
A社としては、増資してB社に払込んだ額の一部が、自社株で戻ってくることになります。もし、B社からA社に対するA社株式交付の省略が許されるのであれば、増資額がその分だけ低く抑えられます。よって、最終的なA社の財産額に差異は生じないように思うのですがいかがでしょうか。(A社としては金庫株が発生しない分、便宜であるようにも思います。)
会社法上、上記のような取扱が認められるか否かが読めなかった為、質問させていただきました。
投稿 MK | 2007年9月24日 (月) 22時04分
A10
A者のみに、交付しないということはできないでしょう。
Q11
ということは、取締役と会計参与の意見が一致せず会計参与が377条の意見陳述をする場合とは以下のようになるのでしょうか?
①臨時総会で会計参与が377条にもとづき意見陳述をする。
②取締役または会計参与が交代する
③交代した取締役と会計参与が計算書類を作成する
④定時総会で承認する
投稿 maru | 2007年9月25日 (火) 02時33分
A11
そうですね。
Q12
以下の「流れ」を、「株式発行のファスナー」と、自分は勝手に名付けでいますが・・・
募集→(公示)
(承諾)←申込
割当→(引受)
(X)←払込
交付→(名義)
(X)について、葉玉先生ならば、「ファスナーの歯」として、どんなイメージをお持ちなのかを、一回、是非聞いてみたいと、ずーと思っていました。
論点毎に、「流れに混ぜる(調合など)」ような感じで認識したり、「循環に嵌め込む(嵌入など)」ような感じで認識したりと・・・
ピッタリくる「言葉」がなかなか見つからないので、(目を上下させたり左右させたりと)煮詰まっております。
投稿 至誠丸 | 2007年9月25日 (火) 12時03分
A12
「受領」です。
Q13
取締役会非設置会社において、会社法200条により募集株式の募集事項の決定を取締役に委任した後に、この会社が取締役会設置会社となった場合、当該委任に基づいて、取締役会による募集事項の決定は可能でしょうか?
投稿 困っております | 2007年9月26日 (水) 19時44分
A13
そりゃ、無理でしょう。
取締役会設置会社になったんですから。
Q14
買収防衛策の発動を仮に取締役会決議で行った場合、相手が濫用的等でない限り、さしどめられると思います。
差止められると、取締役は面子以外に何か経済的リスクを負うのでしょうか?
面子以外の敗訴した取締役のワーストシナリオは何でしょうか?(解任されるというのは抜きにして、賠償とかあるのでしょうか?)
また、ブルドックのように、仮に特別決議で発動が容認された場合、その後株価がTOB価格まで届かなかった場合、取締役は恥をかくとか解任されるとか以外に何か株主代表みたいな訴訟リスクを負うのでしょうか。
投稿 katsu | 2007年9月27日 (木) 01時42分
A14
ぜったい防衛策の発動が違法とされるのに、あえて発動すれば、会社に訴訟関連費用や資金調達費用という損害が生じることになるので、その賠償を求められる可能性はあります。
株主総会で発動が容認された場合は、通常は、取締役の責任は問われないでしょう。
Q15
当社は、最近吸収分割を行いました。それに伴い、税務において、みなし事業年度の申告をすることになりました。
今、3月決算の会社ですが、8月を境に、期が変わることになります。
そうした場合、臨時株主総会を開催し、本決算と同様の処置をする必要がありますか?
根拠はないのですが、第○期に一回は、総会の決議が必要なのかぁと考えているのですが、それに関する根拠法を見出せないでいます。
投稿 HIME | 2007年9月27日 (木) 09時09分
A15
みなし事業年度については、国税庁のQ&Aを見てください。
Q16
遅ればせながら、ご子息ご誕生おめでとうございます!
投稿 小林・佐藤・田中 | 2007年9月27日 (木) 11時15分
A16
ありがとうございます。
この3つの名字を見てドキッとしてしまうのが元民事局付の悲しい性ですね(笑)。
今度、事務所に遊びに来てください。
| 固定リンク | コメント (22) | トラックバック (1)
最近のコメント