授権枠
世間はお盆休みが終わってようやく活動開始という感じです。
ふと気がつけば10日も更新していないことに気がつきました。
一見、私も、お盆休みを取っていたように見えるかもしれませんが、実際は、ひたすら仕事をしていました(しかも、物書きの仕事でパソコンでずっと文字を打っていました)。
そのため、ブログを書く暇も意欲もなくなり、10日間がまたたく間に過ぎてしまったのです。
私の愛読している大杉教授のブログやisologueも、夏休みになってしまいましたので、このまま8月を終えたい気分も、かなり強いのですが、長期休暇をして、読者の皆様に愛想をつかされると悲しいので、isologueで取り上げられた「授権枠」について、お話ししたいと思います。
http://www.tez.com/blog/archives/000969.html
授権枠というのは、慣用的に使われている言葉で、法律的には、定款で定められた「発行可能株式総数」のことをいいます。
もっとも、授権枠を「発行可能株式総数から発行済株式総数を控除した数」、つまり、「あと何株発行できるか」という意味で使うことも多いです。
授権枠については、次の記事で説明していますので、参考にしてください。
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50357979.html
さて、この授権枠は、新株予約権無償割当て型の買収防衛策を設計する上では、極めて重要な制度です。
新株予約権無償割当型の買収防衛策は、買収者以外の株主の株式を増加させて、買収者の持株比率を下げる防衛策ですから、授権枠が少なければ、持株比率を十分に下げることができず、防衛することができません。
また、授権枠は、株主総会の特別決議で定款変更をしなければ増加させることができませんから、この授権枠による制約は、取締役会や株主総会の普通決議で発動するタイプの防衛策の最大の弱点でもあります。
つまり、一度発動させると授権枠の多くを費消してしまい、二度目のTOBでは、十分な防衛ができなくなってしまうのです。
(私の買収防衛策のセミナーでは、この弱点をもとに「ほふく前進戦術」という防衛策破りの裏技を伝授し、そうした攻めに対応できる防衛策は何か、ということを考えたりしています)。
私は、基本的には、新株予約権無償割当てでは、あまり実効性のある防衛策を設計できないと思っていますが、あえて実効的な防衛策を実現しようとするならば、今回のブルドックがやったように
株主総会の特別決議で定款を変更して授権枠を拡大する
という方策を組み合わせざるを得ないでしょう。
ただ、isologueでも触れられていますように、今回のブルドックの授権枠の定款変更は、
「平成19年10月1日時点における当社の発行済株式の総数が5千万株以上であること」を条件として、授権枠の拡大の定款変更の効力を生じるものとしています。
2年ほど前に、isologueで授権枠の拡大について議論になったときに
(http://www.tez.com/blog/archives/000556.html)、磯崎さんが
「(このプランの新株予約権が行使等されて発行済株式数が増加した場合に限って)、定款記載の発行可能株式総数を行使等前と後の発行済株式数の比を乗じて得た数に増加する」
という停止条件付決議ができないかというご提案をされたときに、私は
「残念ながら、ご指摘の「停止条件付」決議は、会社法でも認められないと思います。」
というコメントをつけたことがありました。
授権枠の制度は、株主の保護のために、取締役会の株式発行権限を制限するために定款の必要的記載事項とされているのだから、その制度趣旨を無にするような決議は認められないため、そのようなコメントをつけたのです。
もし、磯崎さんのご提案の停止条件付決議ができるとすれば、取締役会が、無制限に株式や新株予約権を発行することができることになりかねません。
もっとも、既に株式や新株予約権の発行の決議がされていて、近日中に発行済株式総数が増加することが決定されている場合には、株式の発行を停止条件として、発行可能株式総数を拡大する旨の定款変更を決議することはできます。
これは、授権枠の制度趣旨を没却するような停止条件ではないため、例外的に認められているものです。
この停止条件を、どこまで緩く設定することができるかということは、一応、問題になるでしょうが、具体的な株式・新株予約権の発行決議がない場合や発行期日が設定されていない場合には、停止条件は違法になるものと思います。
今回のブルドックの停止条件は、一般的な停止条件と異なり、必ず授権枠を拡大するものではありません。
株主総会の特別決議を取る段階では、スティールが撤退すれば、新株予約権ひいては株式が発行されない可能性があったため、授権枠の拡大に停止条件をつけざるをえなかったわけです。
このブルドックの停止条件は、
①新株予約権の無償割当て決議を前提とし、一定の条件のもと、一定の期日までに、新株予約権の行使等により株式が発行されることになっていましたから、一般的に認められている停止条件付決議とほぼ同じであり
②一般的停止条件と異なる点は、授権枠の拡大を「行わない」場合が広がっているだけですから、取締役会の権限を抑制するという授権枠制度の趣旨を没却することはありません
したがって、この停止条件は、会社法上、許される停止条件付き決議であるといえるわけです。
磯崎さんは
「本株主総会第○号議案に基づき発行された新株予約権の行使または取得により、発行済株式の総数が5千万株以上となった場合」といった条件でもOKだったのか?
というご疑問をお持ちのようです。
私は、これまで述べてきた理由により、ブルドックの新株予約権であるならば、新株予約権の行使等によって発行済株式総数が増加したことを停止条件として授権枠を増加させることとしても、授権枠拡大の時期及び範囲が明確なので、取締役会の発行権限を制限するという授権枠の趣旨を没却せず、有効であると思います。
登記実務と絡むところなので、あまり断言的なことは言いたくないものの、すべての停止条件が明確かどうかというより、現在認められている停止条件付決議よりも制限的な条件をつける限りにおいては、問題はおこらないのではないでしょうか。
(質問コーナー))
Q1
先生は日本の買収防衛について賛成論者ですか反対論者ですか?
根拠もセットでお答えいただけたら幸いです。
投稿 ToTAN | 2007年8月15日 (水) 19時33分
A1
会社の自治によるものですから、私は、賛成でも、反対でもありません。
Q2
見せ金について質問させてください。
見せ金について、百問の14問では払込みを無効とした上で通常、業務上横領罪に該当するとされております。
しかし、払込みが無効と言うことになると、払込金は会社に帰属するものではなくなり、他人たる会社のお金を横領したことにならず刑法252条1項には当たらないのではないでしょうか?
たとえば、代表取締役になる予定であった発起人が見せ金を行い、代表取締役になった時点で払込金を引き出して借入金の弁済に充てたとしても、それは自分のお金を引き出しただけということになりませんか?
また、有名なトウシン誤振込事件(最判平8年4月26日民集50-5-1267)のように、その口座に振り込まれたことで払込金が口座管理人たる発起人に帰属したと考え、それが会社設立とともに会社に帰属し、結果として会社のお金を横領したことになると考えるのでしょうか?
さらに、会社に帰属すると考えたとしても、それは会社にとっては不当利得になるはずだから、それを単に発起人へ返還して借入金の弁済に充てさせただけと構成するとやはり横領罪の成立が難しくなりそうです。
この場合、払込金がは誰に帰属すると考えたらよいのでしょうか?あるいは、刑法252条2項の「公務所から保管を命ぜられた場合」と考えるのでしょうか。
投稿 tororo | 2007年8月16日 (木) 12時02分
A2
見せ金は、一旦、会社名義の口座に振り替えられた後、代表取締役がお金を引き出して、自分の借金の返済にあてるので、会社のお金です。お金は、占有あるところに所有ありですから。
Q3
葉玉先生、基本的なことで申し訳ありませんが、お教えください。
取締役会での職務執行報告の「3箇月に1回以上」ですが、この意味は、次のいずれでしょうか。
①3箇月を1期間とし、当該期間中のいずれかの日に報告すればよい。
すなわち、1~3月、4~6月を1期間と考えた場合、各期間中に1回以上報告すればよいので、1/15の次は6/30に行うことも適法である。
②3箇月毎の月に報告する義務あり。
すなわち、1/15の次は、4月中のいずれかの日に行う必要あり。
③3箇月以内の間隔で報告する義務あり。
すなわち、1/15の次は、4/15以前の日に行う必要あり。
投稿 しん | 2007年8月16日 (木) 16時32分
A3
調べたわけではありませんが、普通は③でしょうね。
Q4
とりいそぎ誤植だと思われる、おかしいかと思うところを質問します。
過去に出ていた場所だとしたら、ご容赦を。
未出の修正だとイイのですが・・・
新・会社法100門の、p416のQ858の、
「取締役の職務代表者を選任する」の部分の、「職務代表者」は、「職務代行者」の誤植だと思うのですが?
投稿 至誠丸 | 2007年8月16日 (木) 16時46分
A4
そうですね。ありがとうございました。
Q5
会社法整備法88条の端数等無償割当てについて、ご教授ください。
例えば、1株所有していた株主Aに対して、新たに99株が無償で割り当てられるとします。また、株主Aはその有する1株について、Bを質権者とする登録質を設定していたとします。この場合、Aに新たに割り当てられる99株についてはBを質権者とする登録質が設定されたことになり、株主名簿にその旨の記載がなされるのでしょうか?
整備法ではこの場合に該当する規定を見つけることができません。会社法152条1項が適用(類推適用?)されることになるのでしょうか?
投稿 法務課員 | 2007年8月17日 (金) 18時05分
A5
会社法152条1項の類推適用なのでしょうね。
Q6
1000問の57頁の図表2-2のことで質問です。横枠の既存株式の全部について内容を変更のところの全部取得条項付のところは網掛けになっているのは種類株式発行会社以外の会社だからだとしたら剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の制限等も108条の規定であり、網掛けになっていないのはなぜでしょうか?
投稿 司法くん | 2007年8月17日 (金) 19時40分
A6
たしかに徹底していないような気がしますね。108条1項しかないものは、全部網掛けでしょう。
Q7
報道などによると、次の会社法改正として、「会計監査人の選任権と報酬決定権を監査役(会)に付与せよ」との議論があるようですが、これにつき、以下(先生の私見で結構ですので)ご教示下されば幸いです。
(なお、報道でははっきりしないのですが、「選任権」については株主総会権限であることに変わりはないでしょうから、「選任議案の提出権」との理解を前提とします。)
①会計監査人との監査契約を締結する際の会社側代表(権)者は、監査役になるのでしょうか。(そうしないとリクツに合わないように思います。特に報酬額が契約内容になっている場合は。)
②(もし①がYESなら)会計監査人に対する訴え(株主代表訴訟)において、会社を代表するのも監査役になる(従って、提訴請求の提出先も監査役になる)のでしょうか? (これは必ずしもリクツ上そうしないといけないと言えないようにも思いますが。)
投稿 POPOLON | 2007年8月19日 (日) 22時45分
A7
どうとでも決められると思います。
内部的意思決定の話と代表の話は次元が違いますので、監査契約の締結の代表権を誰に与えるかは、論理的に決まるものではないでしょう。
Q8
先日葉玉先生のセミナー「企業買収防衛策の死角」に出席した者です。その中のレジュメ(28P、pp55)に適法な新株無償割当とあり、導入については、「定款に株主総会に無償割当て権限付与」とあるのですが、同時に「毎年定時総会において特別決議を取り無償割当ての委任をしていくのがベスト」と記載されています。これは、発動(無償割り当て)については、取締役会に委任するということでしょうか。そうすると、発動するかどうかの判断は、取締役会で行うということでよいとのことでしょうか。もっとも、買収者が20%以上の株式保有など、客観的な発動要件であれば、委任してもいいかもしれませんが、濫用敵買収者とか、必要な情報を提供しないようなある程度主観的な要件でも、取締役会でいいのでしょうか(ブルドックでは、発動も株主総会で決議しているので)
投稿 お局法務部員 | 2007年8月20日 (月) 04時58分
A8
発動を取締役会の決議で行うことになります。
私は、基本的に客観的な発動要件を前提にし、取締役会に裁量を与えずに発動すればよいと思っています。
もっとも、一定の裁量を与えたとしても、株主総会の委任に基づくものなので、現在の取締役会発動型よりも適法性は高く評価されると思います。
Q9
千問の道標の問125ですが、2の①何らかの種類株式(いわゆる当て馬株式)を定める定款の変更とありますが、現在、非公開及び種類株式発行会社以外の会社(いわゆる普通株式のみ発行)場合で、
1.以下のとおり定款変更決議を行う。
①甲種類株式(株式の内容に格別の定めの無い株式)
②乙種類株式(当該株式を株主総会の決議によって全部取得することができる株式)
2.既存の種類株式(いわゆる普通株式)を乙種類株式とする内容変更を甲種類株主総会決議(会111条2項)で行う。
3.以下の議題を同時に株主総会で決議する。
①乙種類株式の全部を取得
②100%減資
③新たな株主に対して募集株式の発行
といった手続きをとった場合、上記の何らかの種類株式(いわゆる、当て馬株式)を全部取得条項を定めたことにより相対的に既存の普通株式が種類株式となったと考えて行うことが可能でしょうか?
投稿 がんばれカープ | 2007年8月20日 (月) 16時32分
A9
質問の意味がよく分かりませんが、質問を読む限り、できそうなことを言っていると思います。
Q10
吸収型組織再編の場合、いわゆる対価の柔軟化が19年5月から施行されていますが、例えばその対価の種類について、全株主同じ種類の資産でなければいけないのでしょうか?
価額に異論が無ければ株主平等の原則には抵触しないと思うのですが・・・
今回株式交換を行おうとしているのですが、
条文768-3では同じでなければいけないとはっきり書いていないと思います。
投稿 会社法初心者 | 2007年8月20日 (月) 16時47分
A10
基本的には、株主Aと株主Bには、同じ種類の財産を交付しなければいけません。
Q11
株式上場会社の新株予約権の発行について1点お尋ねさせてください。
会社法第240条2項及び4項並びに会社法施行規則第53条からは、株主保護のため新株予約権の割当日の2週間前までに発行事項を通知することとし、この2週間という周知期間は短縮できないように読めますが、証券取引法第8条3項の規定を満たした場合は、この期間が2週間なくとも有効に発行できるように読めます。この場合、特別法が優先されるものとして、たとえば財務局より1週間と指定された場合は、周知期間は1週間として登記手続に入ることができると考えてよいのでしょうか?
投稿 りーさ | 2007年8月21日 (火) 11時58分
A11
周知期間2週間は短縮されないと思います。
Q12
会社勤めをしたことがないせいか、テキストを読んでも状況がいまいちイメージできません。
具体的な場面をイメージできるようになるには、どうすればいいでしょうか。
また、お勧めの本などございましたら、教えていただけるとありがたいです。
投稿 アストロガンガー | 2007年8月22日 (水) 00時22分
A12
良い先生から授業を習うことです。独学では難しいでしょう。
Q13
葉玉先生、はじめまして。私はいまロースクール2年生です。答案作成について質問があります。問いに「裁判所はどのような判断をすべきか論述せよ。」「弁護士はどのような立論をすべきか検討せよ。」などとある場合、自分が裁判官や弁護士になったつもりで論述すべきか、第三者の立場から論述すべきなのか、迷ってしまいます。また、もし弁護士として論述する場合、弁護士に不利だけれども、誰でも知っている論点があるときにも悩みます。このような論点は、まったく書かない方がいいですか?一応書いて最後に「主張すべきでない」などと記す方がいいでしょうか?初歩的な質問で申し訳ありませんが、ご教示のほどよろしくお願います。
投稿 sakura | 2007年8月22日 (水) 14時07分
A13
弁護士に不利なところは、「一見不利だけど、こう対応すればよい」と書けばよいのではないでしょうか。
Q14
株券を実際に発行している株券発行会社における、
会社法219条1項1号の公告及び通知の時期についてご教示ください。
旧商法350条1項においては「決議ヲ為シタルトキ」と規定されていましたが、会社法219条1項本文においては「行為をする場合」と規定されていますので、会社法施行によって、株主総会で定款変更決議がなされる前でも、公告及び通知が可能になったと考えておりますが、いかがでしょうか?
投稿 としお | 2007年8月24日 (金) 18時10分
A14
公告及び通知はできます。
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