ブルドック高裁決定(4)
7月26日の日本経済新聞夕刊で、この「会社法であそぼ。」を大きく取り上げて頂きました。
大杉・葉玉論争(というほど大げさではなかったと思いますが)を含め、大変好意的な記事であり、日経さんには、大変感謝しております。
また、私の写真がカラーで載っていたので、昨日のバースデーパーティーで、子供たちに新聞を見せて
ほら、パパが載っているぞ。すごいだろう。
と威張ることができました。日経さん。すばらしいバースデイプレゼントをありがとうございます。
さて、この日経の記事には、私が愛読している磯崎さん、大杉先生、信託大好きおばちゃん、ろじゃあさんのブログのほか
hibiya_attoneyさんの
Attorney@Penn LAW
というブログが紹介されていました。
失礼ながら、このブログは存じ上げなかったので、早速、拝見したところ、専門的な記事が多く、大変、参考になりました。
ブルドック事件についても、いくつかの記事がアップされており、鋭い分析がされていましたので、本日は、その記事に触発を受け、ちょっと論争をしかけたいと思います。
私が、hibiya_attoneyさんの記事の中で反論したいと思ったのは
http://blog.livedoor.jp/hibiya_attorney/archives/50950260.html
の記事の中の
「防衛策は取締役会決議で発動すべきもので総会に諮るべき性質のものではない」
という部分です。
この結論を導かれている論拠を簡単にまとめると
① ある買収オファーが被買収企業の企業価値を損なうか否かについて株主が判断できる材料を持ち合わせているはずがない。
② 防衛策について総会に諮るのではなく、TOBに応じるか否かを個々の株主に判断させれば、それで株主意思の尊重という目的を果たす。
③ 総会決議による方法では、本来TOBに応じたかった株主から高値での株式売却の機会を奪ってしまうから、個々の株主にTOBに応じるか否かの機会を付与するほうが、究極的に株主の意思を尊重していることになる。
ということになると思います(まとめが雑で不正確であるとすれば、申し訳ありません)。
まず、私は、hibiya_attoneyさんの出した結論が
立法論なのか、解釈論なのか
解釈論であるとして、学術的な視点から解釈しているのか、実務家として現実の裁判を見据えて解釈をしているのか
という2点が気になりました。
立法論ならば、どういう結論を取るかは政治的判断ですが、解釈論であるとすれば、そこには、自ずと限界があります。
また、解釈論であっても、学術的な視点から解釈しているのならば、判例を完全に否定し、自分の論理を貫けばよいのですが、実務家として解釈するのであれば、判例の存在を前提にしつつ、判例の射程を意識した解釈をする必要があります。
私が、これから申し上げるのは、実務家の解釈論として、hibiya_attoneyさんの導いた結論が妥当かどうかという点です。ですから、hibiya_attorneyさんが立法論を述べている、もしくは、学術的な視点から解釈をされているとすれば、的外れな批判であると聞き流していただければ結構です。
Hibiya_attorneyさんの結論には
結論X 防衛策の発動は、株主総会に諮るべきではない
結論Y 防衛策の発動は、取締役会で決するべきだ
という2つの主張が込められています。
防衛策の発動の決定機関は、「株主総会か、取締役会か」という二者択一で決めるべき問題ではありません。
「株主総会も、取締役会も、決定権を有する」又は「一切、防衛策の発動は許されない」という結論もありうるはずですから、結論XYについて、それぞれ独立に正当性を検証する必要があります。
私は、結論Yについては、留保つきながら賛成ですが、結論Xについては、反対です。
まず、結論Xの「株主総会に諮るべきではない」とは、法的にどのような意味なのかを考えてみます。
たとえば、
定款で、防衛策の発動を株主総会の権限としても、その定款の定めは無効になる
という意味なのでしょうか?
295条は、定款で株主総会の決議事項を増やすことを認めていますから、もし、当該定款の定めが無効であるというのならば、当該定めが、何らかの強行法規に反するという必要があります。
しかし、株主総会に防衛策の発動の決定権を与えることを禁ずるような強行法規は存在しません。
ですから、「株主総会に諮るべきではない」が先ほどの意味だとすれば、結論Xは、法的に採り得ないと思います。
仮に、結論Xが
定款に特別の定めがない場合には、株主総会の権限は、295条によって制限されているから、株主総会にはかるべきではない
という意味だとすれば、結論Xは、解釈論としては成り立つでしょう(私は、反対ですが)。
ただし、結論Xの根拠として
買収オファーが被買収企業の企業価値を損なうか否かについて、株主は判断材料を持たず、取締役会や独立委員会は持っている
ということをあげているのは賛成できません。
株主に判断材料がなければ、取締役会がそれを与えればよいだけの話です。
また、通常、ポイズン・ピルを導入しても、株主総会による消却を認めるわけですから、株主自体に判断材料がない(又は判断能力がない)というのは、発動において株主総会の判断を禁止する理由にはならないのではないでしょうか。
また、日本の取締役会の構成・権限等は、アメリカの上場会社とは異なっていますし、独立委員会にいたっては、法的な制度ですらありませんから、アメリカ的な総会と役会の権限分配の考え方を日本にそのまま持ち込むことはできません。
独立委員会は、普段、経営に参加していないという点では、株主と同じです。なぜ独立委員会は判断できるのに、株主は、判断できないのでしょうか。
独立委員会は、委員になんの資格要件もないし、選任における中立性を確保するための手続きも用意されていません。善管注意義務も負っていません。このような独立委員会が、実際に出資をして切実な利害関係を有する株主より、すぐれた判断をできるという制度的保障は何もないように思います。
私は、株主総会が取締役会より常に優れた判断をするとは思っていませんが、逆に取締役会の判断が常に株主総会の判断よりも優れているとも思いません。取締役の個性・能力・そのときに与えられた判断材料、自己保身の必要性等さまざまな事情によって、良い判断をすることもあれば、悪い判断をすることもあるでしょう。
ですから、そうしたケースバイケースになりうる事実を根拠に、防衛策の発動権限について一般的な結論を導くのは妥当ではないと思います。
次に、理由②の「TOBに応じるか否かを個々の株主に判断させれば、それで株主意思の尊重という目的を果たす」ということについても疑問があります。
防衛策は、株主が、TOBに応じたくないが、事実上、応じざるをえないような状況に追い込まれる場合や買収者が企業価値を正当に評価していないにもかかわらず、株主が情報不足のために、そのような買収提案に応じる可能性があるような場合に、そうした不公正なTOBから株主を保護するためにも、発動されるものです(この点は、hibiya_attoneyさんも賛成していただけると思います)。
TOBに応じるか否かを個々の株主が判断できるということと、不公正なTOBが実施されることを株主の力で回避することは、別次元の話であり、前者で株主の意思を尊重しているということが、後者の措置において、株主総会に諮ってはならないという理由にはなりません。
また、理由③の「総会決議による方法では、本来TOBに応じたかった株主から高値での株式売却の機会を奪ってしまうから、個々の株主にTOBに応じるか否かの機会を付与するほうが、究極的に株主の意思を尊重していることになる。」というのも、いくつかの点でおかしいと思います。
まず、防衛策が、株主の高値で株式を売却する機会を奪うことが悪いことであるのならば、株主総会で決する場合だけではなく、取締役会決議で発動することすら、許されないはずです。ですから、その理由は、株主総会による防衛策の発動を制限する理由にはならないはずです。
また、防衛策は、株主を不公正なTOBから守ることも目的になっており、不公正なTOBに応じるか否かの機会を与えたからといって、株主の意思を尊重したことにはならないと考えます。
さらに、日本の防衛策は、買収者に企業価値を正当に評価させ、買取価格を増額させることだけを目的としているのではなく、「企業価値・株主共同の利益を毀損する可能性のあるような買収者は大株主にさせない」という株主構成に関する政策目的が入っています。
Hibiya_attoneyさんがおっしゃるように株主構成に関する政策を株主総会で決められるという積極的な理由があるかどうかは検討する必要はあります。しかし、権限分配論を判例がとる以上、株主総会で決められないとなれば、まして取締役会で決めることなどできないと思います。
Hibiya_attoneyさんの結論XYを採るためには、「取締役会は株主構成に関する決定はできるが、株主総会では決定できない」と考えざるをえませんが、権限分配論から、そのような論理を導くことができるとは思えません。
以上のような理由により、私は、「防衛策の発動を株主総会に諮るべきではない」という結論Xには反対です。
なお、この私の結論は、結論Y(取締役会による発動を認めること)を否定するものではありませんし、株主総会と取締役会がともに防衛策の発動を判断できる場合においても、「必ず株主総会に諮るべきだ」と言っているわけでもありません。
私は、日本において防衛策の議論が、今後、健全に発展していくためには、まずは、「防衛策が適法である」という判例が確立する必要があると思っています。
ほんの4,5年前は、「防衛策なんて、すべて違法に決まっている」というのが通り相場でした。それが、関係各位の様々な努力により、ようやく「適法な防衛策もありうる」という流れが定着しつつあります。
裁判で防衛策の適法性を主張するためには、権限分配論を前提する判例を生かしつつ、適法性をアピールする必要があり、そのためには、総会発動型の防衛策の存在が必要不可欠です。
もし、総会発動型の防衛策が判例で認められなければ、取締役会発動型の防衛策が認められる可能性は限りなく0になるのではないかと思います。
だからこそ、失礼を承知で、hibiya_attoneyさんのブログに対し反論させていただきましたが、もしお気を悪くされたとしたら、まことに申し訳ございませんでした。
私の今回の記事について、ご意見があれば、遠慮なく、こき下ろしていただいて結構です。
(質問コーナー)
Q1
はじめまして、旧試験受験生です。
司法試験合格をするためのいろんな段階、レベルがあると思います。
初学者レベルから、合格にかなり近いレベルなど幅が広いと思います。
そのようなレベルに達成度を図るために、日々の勉強の中でどのような方法で自分の位置を把握していけばよいのでしょうか?模擬試験の成績も参考資料になると思います。
また、先生は、受験時代、とかスケジュール(何の問題集を何頁をする等)つくっていらっしゃいましたか?
投稿 旧試験受験生2 | 2007年7月24日 (火) 13時50分
A1
自分の位置の把握は、演習(模試・答練等)しかないと思います。
毎日、論文を書いて、友達どうしで採点してみるという方法を試してください。
スケジュールは、かなり綿密に立てていました。
Q2
はじめまして、ロースクール未修1年の者です。
受験指導校を利用して旧試の受験経験がありますが、ロースクールでは弁護士教官も旧試の択一過去問を捨てて基本書を丹念に読み込みなさい、と指導されています。
受験指導校時代はとにかく塾で配布したテキストに帰りなさい、問題を解きなさい、の指導を受けており基本書は余裕があれば読んだらよいと言われてきました。
むしろ、基本書の読みすぎるとあれこれ手をだすことになって、点数に結び付かない人が多いとさえ講師や直近の旧試験の最終合格者から言われてきたので、受験指導校の指導かロースクールの指導かどちらを信じてよいのかわからなくなっています。
基本書に書いてある情報は予備校本に書いてあることとほぼ同じですし、むやみに基本書に手を出すより今年既修者試験で入学する人においつけるように問題集中心の勉強の方がよいのではないか、と考えています。
先生はどうお考えでしょうか?
投稿 大山牛乳 | 2007年7月24日 (火) 18時29分
A2
基本書を読むだけでは、実力はつきません。
INPUTの範囲を広げすぎるのも、時間の無駄です。
とことん、OUTPUTをしましょう。
Q3
監査役設置会社において、会社が取締役を訴える場合、監査役が会社を代表しますが(386条1項)、会社が取締役および監査役を訴える場合は、誰が会社を代表するのでしょうか?
投稿 レオ | 2007年7月24日 (火) 19時01分
A3
取締役に対しては、監査役
監査役に対しては、代表取締役
です。
Q4
独禁法や労働法的な観点を会社法の解釈でも付加すべきという事なのでしょうか?閉鎖的な取引慣行や労働組合との軋轢は、どちらかというと企業価値を損なう要素と扱われやすいような気がしますが。
ステークホルダーの利益はあくまで企業価値を支える従たる考慮事項であるはずで、他方において、低配当・低キャピタルゲインを我慢して株式を保持し続けてきた株主が、買収者が登場することで得ることができた利益が一顧だにされないことには、強い違和感を覚える人も多いと思います。
結局ステークホルダーといってみたかっただけちゃうんかと。
投稿 M&M | 2007年7月24日 (火) 20時36分
A4
今回の判例に違和感を覚える人は多いでしょうね。
私もそうです。ただ、貴重な判例ですから、実務家として無視はできないでしょう。
Q5
設立無効に関して質問があります。
専門学校では、株式会社の設立無効原因は「客観的無効原因」であって、企業維持の理念からは株式会社の本質・強行法規に違反した場合に限定すると習いました。
ここでいう本質・強行法規違反というのは、条文違反の場合すべてが当てはまるのでしょうか?
事例問題で、条文違反が株式会社の本質や強行法規に違反しているかどうかについて、当てはめを行うときに迷ってしまいます。
違反している条文の趣旨に遡って、本質や強行法規か否か考えていることが答案に出ていれば、無効原因になるとかいても、ならないとかいても点数はくるものなのでしょうか?
投稿 こんばんは | 2007年7月25日 (水) 22時03分
A5
設立無効原因は、典型的なものを暗記してください。
どうせ中途半端な理屈しかありません。
Q6
僕は現行司法試験を目指す大学三年生です。
先生が脱時空勉強法でおっしゃられていた文用を学ぶのに良いと思われる先生お勧めの本、または作家の方を教えてください。
投稿 野球小僧 | 2007年7月26日 (木) 00時37分
A6
私に勧めろというのなら、会社法100問と言わざるをえませんね。
Q7
財務報告に係る内部統制ルールでは、文書化したものが、プロ以外の人には何の役にも立たないことが明らかです。リスク統制対応表なんて、会計士以外の人に何か意味があるのでしょうか?
投稿 ワーキングプアの反撃 | 2007年7月26日 (木) 11時15分
A7
会社の人が役に立たないと思うような文書は、意味がないでしょうね。
役に立つような文書を提案してみたらいかがでしょうか。
それこそ、本当の内部統制です。
Q8
監査役の監査報告書と会計監査人の監査報告書の関係について質問です。
会計士から個別注記表を付けないようにとの要請があり、個別注記表のタイトルのみをはずした決算書で監査を受けたため、会計監査人の監査報告書では貸借対照表・損益計算書の監査をおこなった(個別注記表の文言なし)となっている一方、監査役には個別注記表がついた決算書を渡した(タイトルがあるかないかの違いのみで実質的には同一の決算書)ため、監査役の監査報告書では貸借対照表・損益計算書・個別注記表の監査を行ったとの文言となってしまっている。
このような場合、会社法に違反するのでしょうか?
投稿 経理担当者 | 2007年7月26日 (木) 11時28分
A8
実際に、個別注記表の監査を行っているのならば、監査は適法でしょう。
ただ、監査報告として、必要事項を記載したのか、記載していないのかが不明確なのは、あまりよくないですね。
Q9
324条や369条中の「議決に加わることができる」かどうかの判断に関しては、法律上の制約の有無以外に物理的な制約の有無もその判断基準となり得るのでしょうか?
投稿 hiro | 2007年7月26日 (木) 11時47分
A9
物理的な制約は、判断基準にならないでしょう。
Q10
金融機関に勤める者として困ることがあります。
重要な財産の処分についは取締役会設置会社では取締役会の決議を必要とされていますが、例えば融資に際して本社の土地建物に抵当権等の担保を設定する場合、代表者に取締役会決議の確認をして議事録の写しなどを要求すると「決議なんて不要だ、私の権限だ」とか「取締役は皆了解しているが、議事録なんて作ってないよ」などと返答されます。あるいは議事録の雛形を取り出して適当に日付を入れたりして「はいどうぞ」と手渡されたりします。中小企業は殆どこんな感じです。このままで担保設定すると、やはり後日、他の取締役などに無効を訴えられると負けてしまうのでしょうか。金融機関に要求される確認義務は非常に高いのですが確認すればするほど形になりません。先生は如何思われますか?
投稿 匿名希望 | 2007年7月26日 (木) 18時32分
A10
その事実がそのまま訴訟で立証されれば、負けるかもしれませんね。
一度、「取締役会決議がないようですので、貸しません」と言ってみましょう。
Q11
合併の対価として、「存続会社の株式かまたは現金のいずれかを株主が選べる」と定めることは可能でしょうか? 株主総会で合併契約書が承認されるのであれば問題ないように思っているのですが。。。
また、この状況で株主が選択できる株式数に上限を設けることは可能でしょうか。「一定数以上の株式が株主によって選択された場合、当該一定数以上の株式に相当する対価はプロラタかつ現金で支払われる」という規定です。
投稿 moyoko | 2007年7月27日 (金) 04時05分
A11
だめです。
裏技はありますが。
Q12
取締役が競業避止義務違反をして競業会社作った時、損害賠償とってもその会社が存続する限りその取締役は利益享受しつづけ、問題の解決にはならないですよね?
取締役に競業会社の株式引き渡すように請求するのが抜本的解決につながるとおもうんですけど、そのような請求するにはどんな構成をとればいいんでしょうか?
投稿 大学生 | 2007年7月27日 (金) 17時46分
A12
会社法で、株式の引き渡しを請求するのは、無理です。
取締役の就任契約のときに特約でも結べばできるでしょうかねえ。
Q13
この回のQ&A16に関連してですが、ある一つのみなし決議について「提案」および「同意の意思表示」は電磁的記録で、「議事録」は書面でと違う方法で作成することは可能でしょうか?
投稿 dunk | 2007年7月28日 (土) 11時20分
A13
可能です。
Q14
○回目の誕生日おめでとうございます。
葉玉先生のご健康と益々のご活躍を祈念いたします。
あっ、それと25日のセミナー、お疲れさまでした。
いろいろと勉強になりました。
投稿 野郎(しかも年上)ですみません | 2007年7月28日 (土) 22時41分
A14
ありがとうございます。
大体、どなたか分かりました。
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