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2007年7月29日 (日)

ブルドック高裁決定(4)

7月26日の日本経済新聞夕刊で、この「会社法であそぼ。」を大きく取り上げて頂きました。
大杉・葉玉論争(というほど大げさではなかったと思いますが)を含め、大変好意的な記事であり、日経さんには、大変感謝しております。
 また、私の写真がカラーで載っていたので、昨日のバースデーパーティーで、子供たちに新聞を見せて
  ほら、パパが載っているぞ。すごいだろう。
と威張ることができました。日経さん。すばらしいバースデイプレゼントをありがとうございます。

 さて、この日経の記事には、私が愛読している磯崎さん、大杉先生、信託大好きおばちゃん、ろじゃあさんのブログのほか
hibiya_attoneyさんの
 Attorney@Penn LAW
というブログが紹介されていました。

 失礼ながら、このブログは存じ上げなかったので、早速、拝見したところ、専門的な記事が多く、大変、参考になりました。

ブルドック事件についても、いくつかの記事がアップされており、鋭い分析がされていましたので、本日は、その記事に触発を受け、ちょっと論争をしかけたいと思います。

私が、hibiya_attoneyさんの記事の中で反論したいと思ったのは
http://blog.livedoor.jp/hibiya_attorney/archives/50950260.html
の記事の中の
 
 「防衛策は取締役会決議で発動すべきもので総会に諮るべき性質のものではない」

という部分です。

 この結論を導かれている論拠を簡単にまとめると
① ある買収オファーが被買収企業の企業価値を損なうか否かについて株主が判断できる材料を持ち合わせているはずがない。
② 防衛策について総会に諮るのではなく、TOBに応じるか否かを個々の株主に判断させれば、それで株主意思の尊重という目的を果たす。
③ 総会決議による方法では、本来TOBに応じたかった株主から高値での株式売却の機会を奪ってしまうから、個々の株主にTOBに応じるか否かの機会を付与するほうが、究極的に株主の意思を尊重していることになる。
ということになると思います(まとめが雑で不正確であるとすれば、申し訳ありません)。

 まず、私は、hibiya_attoneyさんの出した結論が
   立法論なのか、解釈論なのか
   解釈論であるとして、学術的な視点から解釈しているのか、実務家として現実の裁判を見据えて解釈をしているのか
という2点が気になりました。

 立法論ならば、どういう結論を取るかは政治的判断ですが、解釈論であるとすれば、そこには、自ずと限界があります。
 また、解釈論であっても、学術的な視点から解釈しているのならば、判例を完全に否定し、自分の論理を貫けばよいのですが、実務家として解釈するのであれば、判例の存在を前提にしつつ、判例の射程を意識した解釈をする必要があります。

 私が、これから申し上げるのは、実務家の解釈論として、hibiya_attoneyさんの導いた結論が妥当かどうかという点です。ですから、hibiya_attorneyさんが立法論を述べている、もしくは、学術的な視点から解釈をされているとすれば、的外れな批判であると聞き流していただければ結構です。

 Hibiya_attorneyさんの結論には
  結論X 防衛策の発動は、株主総会に諮るべきではない
  結論Y 防衛策の発動は、取締役会で決するべきだ
という2つの主張が込められています。

 防衛策の発動の決定機関は、「株主総会か、取締役会か」という二者択一で決めるべき問題ではありません。
「株主総会も、取締役会も、決定権を有する」又は「一切、防衛策の発動は許されない」という結論もありうるはずですから、結論XYについて、それぞれ独立に正当性を検証する必要があります。
 
 私は、結論Yについては、留保つきながら賛成ですが、結論Xについては、反対です。
 
 まず、結論Xの「株主総会に諮るべきではない」とは、法的にどのような意味なのかを考えてみます。
 
 たとえば、
  定款で、防衛策の発動を株主総会の権限としても、その定款の定めは無効になる
という意味なのでしょうか?
 
 295条は、定款で株主総会の決議事項を増やすことを認めていますから、もし、当該定款の定めが無効であるというのならば、当該定めが、何らかの強行法規に反するという必要があります。
 しかし、株主総会に防衛策の発動の決定権を与えることを禁ずるような強行法規は存在しません。
 
 ですから、「株主総会に諮るべきではない」が先ほどの意味だとすれば、結論Xは、法的に採り得ないと思います。
 
 仮に、結論Xが
  定款に特別の定めがない場合には、株主総会の権限は、295条によって制限されているから、株主総会にはかるべきではない
という意味だとすれば、結論Xは、解釈論としては成り立つでしょう(私は、反対ですが)。

ただし、結論Xの根拠として
買収オファーが被買収企業の企業価値を損なうか否かについて、株主は判断材料を持たず、取締役会や独立委員会は持っている
ということをあげているのは賛成できません。

 株主に判断材料がなければ、取締役会がそれを与えればよいだけの話です。
 また、通常、ポイズン・ピルを導入しても、株主総会による消却を認めるわけですから、株主自体に判断材料がない(又は判断能力がない)というのは、発動において株主総会の判断を禁止する理由にはならないのではないでしょうか。
 
 また、日本の取締役会の構成・権限等は、アメリカの上場会社とは異なっていますし、独立委員会にいたっては、法的な制度ですらありませんから、アメリカ的な総会と役会の権限分配の考え方を日本にそのまま持ち込むことはできません。

 独立委員会は、普段、経営に参加していないという点では、株主と同じです。なぜ独立委員会は判断できるのに、株主は、判断できないのでしょうか。
 独立委員会は、委員になんの資格要件もないし、選任における中立性を確保するための手続きも用意されていません。善管注意義務も負っていません。このような独立委員会が、実際に出資をして切実な利害関係を有する株主より、すぐれた判断をできるという制度的保障は何もないように思います。

 私は、株主総会が取締役会より常に優れた判断をするとは思っていませんが、逆に取締役会の判断が常に株主総会の判断よりも優れているとも思いません。取締役の個性・能力・そのときに与えられた判断材料、自己保身の必要性等さまざまな事情によって、良い判断をすることもあれば、悪い判断をすることもあるでしょう。
 ですから、そうしたケースバイケースになりうる事実を根拠に、防衛策の発動権限について一般的な結論を導くのは妥当ではないと思います。

 次に、理由②の「TOBに応じるか否かを個々の株主に判断させれば、それで株主意思の尊重という目的を果たす」ということについても疑問があります。

 防衛策は、株主が、TOBに応じたくないが、事実上、応じざるをえないような状況に追い込まれる場合や買収者が企業価値を正当に評価していないにもかかわらず、株主が情報不足のために、そのような買収提案に応じる可能性があるような場合に、そうした不公正なTOBから株主を保護するためにも、発動されるものです(この点は、hibiya_attoneyさんも賛成していただけると思います)。
 TOBに応じるか否かを個々の株主が判断できるということと、不公正なTOBが実施されることを株主の力で回避することは、別次元の話であり、前者で株主の意思を尊重しているということが、後者の措置において、株主総会に諮ってはならないという理由にはなりません。

 また、理由③の「総会決議による方法では、本来TOBに応じたかった株主から高値での株式売却の機会を奪ってしまうから、個々の株主にTOBに応じるか否かの機会を付与するほうが、究極的に株主の意思を尊重していることになる。」というのも、いくつかの点でおかしいと思います。

 まず、防衛策が、株主の高値で株式を売却する機会を奪うことが悪いことであるのならば、株主総会で決する場合だけではなく、取締役会決議で発動することすら、許されないはずです。ですから、その理由は、株主総会による防衛策の発動を制限する理由にはならないはずです。

 また、防衛策は、株主を不公正なTOBから守ることも目的になっており、不公正なTOBに応じるか否かの機会を与えたからといって、株主の意思を尊重したことにはならないと考えます。
 
 さらに、日本の防衛策は、買収者に企業価値を正当に評価させ、買取価格を増額させることだけを目的としているのではなく、「企業価値・株主共同の利益を毀損する可能性のあるような買収者は大株主にさせない」という株主構成に関する政策目的が入っています。
 
 Hibiya_attoneyさんがおっしゃるように株主構成に関する政策を株主総会で決められるという積極的な理由があるかどうかは検討する必要はあります。しかし、権限分配論を判例がとる以上、株主総会で決められないとなれば、まして取締役会で決めることなどできないと思います。
 Hibiya_attoneyさんの結論XYを採るためには、「取締役会は株主構成に関する決定はできるが、株主総会では決定できない」と考えざるをえませんが、権限分配論から、そのような論理を導くことができるとは思えません。

 以上のような理由により、私は、「防衛策の発動を株主総会に諮るべきではない」という結論Xには反対です。
 なお、この私の結論は、結論Y(取締役会による発動を認めること)を否定するものではありませんし、株主総会と取締役会がともに防衛策の発動を判断できる場合においても、「必ず株主総会に諮るべきだ」と言っているわけでもありません。

 私は、日本において防衛策の議論が、今後、健全に発展していくためには、まずは、「防衛策が適法である」という判例が確立する必要があると思っています。
 ほんの4,5年前は、「防衛策なんて、すべて違法に決まっている」というのが通り相場でした。それが、関係各位の様々な努力により、ようやく「適法な防衛策もありうる」という流れが定着しつつあります。
 裁判で防衛策の適法性を主張するためには、権限分配論を前提する判例を生かしつつ、適法性をアピールする必要があり、そのためには、総会発動型の防衛策の存在が必要不可欠です。
 もし、総会発動型の防衛策が判例で認められなければ、取締役会発動型の防衛策が認められる可能性は限りなく0になるのではないかと思います。

 だからこそ、失礼を承知で、hibiya_attoneyさんのブログに対し反論させていただきましたが、もしお気を悪くされたとしたら、まことに申し訳ございませんでした。
 私の今回の記事について、ご意見があれば、遠慮なく、こき下ろしていただいて結構です。

(質問コーナー)
Q1
はじめまして、旧試験受験生です。
司法試験合格をするためのいろんな段階、レベルがあると思います。
初学者レベルから、合格にかなり近いレベルなど幅が広いと思います。
そのようなレベルに達成度を図るために、日々の勉強の中でどのような方法で自分の位置を把握していけばよいのでしょうか?模擬試験の成績も参考資料になると思います。
また、先生は、受験時代、とかスケジュール(何の問題集を何頁をする等)つくっていらっしゃいましたか?
投稿 旧試験受験生2 | 2007年7月24日 (火) 13時50分
A1
 自分の位置の把握は、演習(模試・答練等)しかないと思います。
 毎日、論文を書いて、友達どうしで採点してみるという方法を試してください。
 スケジュールは、かなり綿密に立てていました。

Q2
 はじめまして、ロースクール未修1年の者です。
受験指導校を利用して旧試の受験経験がありますが、ロースクールでは弁護士教官も旧試の択一過去問を捨てて基本書を丹念に読み込みなさい、と指導されています。
 受験指導校時代はとにかく塾で配布したテキストに帰りなさい、問題を解きなさい、の指導を受けており基本書は余裕があれば読んだらよいと言われてきました。
 むしろ、基本書の読みすぎるとあれこれ手をだすことになって、点数に結び付かない人が多いとさえ講師や直近の旧試験の最終合格者から言われてきたので、受験指導校の指導かロースクールの指導かどちらを信じてよいのかわからなくなっています。
 基本書に書いてある情報は予備校本に書いてあることとほぼ同じですし、むやみに基本書に手を出すより今年既修者試験で入学する人においつけるように問題集中心の勉強の方がよいのではないか、と考えています。
 先生はどうお考えでしょうか?
投稿 大山牛乳 | 2007年7月24日 (火) 18時29分
A2
基本書を読むだけでは、実力はつきません。
INPUTの範囲を広げすぎるのも、時間の無駄です。
とことん、OUTPUTをしましょう。

Q3
 監査役設置会社において、会社が取締役を訴える場合、監査役が会社を代表しますが(386条1項)、会社が取締役および監査役を訴える場合は、誰が会社を代表するのでしょうか?
投稿 レオ | 2007年7月24日 (火) 19時01分
A3
取締役に対しては、監査役
監査役に対しては、代表取締役
です。

Q4
独禁法や労働法的な観点を会社法の解釈でも付加すべきという事なのでしょうか?閉鎖的な取引慣行や労働組合との軋轢は、どちらかというと企業価値を損なう要素と扱われやすいような気がしますが。
ステークホルダーの利益はあくまで企業価値を支える従たる考慮事項であるはずで、他方において、低配当・低キャピタルゲインを我慢して株式を保持し続けてきた株主が、買収者が登場することで得ることができた利益が一顧だにされないことには、強い違和感を覚える人も多いと思います。
結局ステークホルダーといってみたかっただけちゃうんかと。
投稿 M&M | 2007年7月24日 (火) 20時36分
A4
今回の判例に違和感を覚える人は多いでしょうね。
私もそうです。ただ、貴重な判例ですから、実務家として無視はできないでしょう。

Q5
設立無効に関して質問があります。
専門学校では、株式会社の設立無効原因は「客観的無効原因」であって、企業維持の理念からは株式会社の本質・強行法規に違反した場合に限定すると習いました。
ここでいう本質・強行法規違反というのは、条文違反の場合すべてが当てはまるのでしょうか?
事例問題で、条文違反が株式会社の本質や強行法規に違反しているかどうかについて、当てはめを行うときに迷ってしまいます。
違反している条文の趣旨に遡って、本質や強行法規か否か考えていることが答案に出ていれば、無効原因になるとかいても、ならないとかいても点数はくるものなのでしょうか?
投稿 こんばんは | 2007年7月25日 (水) 22時03分
A5
設立無効原因は、典型的なものを暗記してください。
どうせ中途半端な理屈しかありません。

Q6
僕は現行司法試験を目指す大学三年生です。
 先生が脱時空勉強法でおっしゃられていた文用を学ぶのに良いと思われる先生お勧めの本、または作家の方を教えてください。
投稿 野球小僧 | 2007年7月26日 (木) 00時37分
A6
 私に勧めろというのなら、会社法100問と言わざるをえませんね。

Q7
財務報告に係る内部統制ルールでは、文書化したものが、プロ以外の人には何の役にも立たないことが明らかです。リスク統制対応表なんて、会計士以外の人に何か意味があるのでしょうか?
投稿 ワーキングプアの反撃 | 2007年7月26日 (木) 11時15分
A7
 会社の人が役に立たないと思うような文書は、意味がないでしょうね。
 役に立つような文書を提案してみたらいかがでしょうか。
それこそ、本当の内部統制です。

Q8
監査役の監査報告書と会計監査人の監査報告書の関係について質問です。
会計士から個別注記表を付けないようにとの要請があり、個別注記表のタイトルのみをはずした決算書で監査を受けたため、会計監査人の監査報告書では貸借対照表・損益計算書の監査をおこなった(個別注記表の文言なし)となっている一方、監査役には個別注記表がついた決算書を渡した(タイトルがあるかないかの違いのみで実質的には同一の決算書)ため、監査役の監査報告書では貸借対照表・損益計算書・個別注記表の監査を行ったとの文言となってしまっている。
このような場合、会社法に違反するのでしょうか?
投稿 経理担当者 | 2007年7月26日 (木) 11時28分

A8
実際に、個別注記表の監査を行っているのならば、監査は適法でしょう。
ただ、監査報告として、必要事項を記載したのか、記載していないのかが不明確なのは、あまりよくないですね。

Q9
324条や369条中の「議決に加わることができる」かどうかの判断に関しては、法律上の制約の有無以外に物理的な制約の有無もその判断基準となり得るのでしょうか?
投稿 hiro | 2007年7月26日 (木) 11時47分
A9
物理的な制約は、判断基準にならないでしょう。

Q10
金融機関に勤める者として困ることがあります。
重要な財産の処分についは取締役会設置会社では取締役会の決議を必要とされていますが、例えば融資に際して本社の土地建物に抵当権等の担保を設定する場合、代表者に取締役会決議の確認をして議事録の写しなどを要求すると「決議なんて不要だ、私の権限だ」とか「取締役は皆了解しているが、議事録なんて作ってないよ」などと返答されます。あるいは議事録の雛形を取り出して適当に日付を入れたりして「はいどうぞ」と手渡されたりします。中小企業は殆どこんな感じです。このままで担保設定すると、やはり後日、他の取締役などに無効を訴えられると負けてしまうのでしょうか。金融機関に要求される確認義務は非常に高いのですが確認すればするほど形になりません。先生は如何思われますか?
投稿 匿名希望 | 2007年7月26日 (木) 18時32分
A10
その事実がそのまま訴訟で立証されれば、負けるかもしれませんね。
一度、「取締役会決議がないようですので、貸しません」と言ってみましょう。

Q11
合併の対価として、「存続会社の株式かまたは現金のいずれかを株主が選べる」と定めることは可能でしょうか? 株主総会で合併契約書が承認されるのであれば問題ないように思っているのですが。。。
また、この状況で株主が選択できる株式数に上限を設けることは可能でしょうか。「一定数以上の株式が株主によって選択された場合、当該一定数以上の株式に相当する対価はプロラタかつ現金で支払われる」という規定です。
投稿 moyoko | 2007年7月27日 (金) 04時05分
A11
だめです。
裏技はありますが。

Q12
取締役が競業避止義務違反をして競業会社作った時、損害賠償とってもその会社が存続する限りその取締役は利益享受しつづけ、問題の解決にはならないですよね?
取締役に競業会社の株式引き渡すように請求するのが抜本的解決につながるとおもうんですけど、そのような請求するにはどんな構成をとればいいんでしょうか?
投稿 大学生 | 2007年7月27日 (金) 17時46分
A12
会社法で、株式の引き渡しを請求するのは、無理です。
取締役の就任契約のときに特約でも結べばできるでしょうかねえ。

Q13
この回のQ&A16に関連してですが、ある一つのみなし決議について「提案」および「同意の意思表示」は電磁的記録で、「議事録」は書面でと違う方法で作成することは可能でしょうか?
投稿 dunk | 2007年7月28日 (土) 11時20分
A13
可能です。

Q14
○回目の誕生日おめでとうございます。
葉玉先生のご健康と益々のご活躍を祈念いたします。
あっ、それと25日のセミナー、お疲れさまでした。
いろいろと勉強になりました。
投稿 野郎(しかも年上)ですみません | 2007年7月28日 (土) 22時41分
A14
ありがとうございます。
大体、どなたか分かりました。

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2007年7月24日 (火)

ブルドック高裁決定(3)

 1週間更新をさぼっている間に、村上ファンドの判決が出ました。
 興味深い判決なので、本当は、インサイダー取引について書きたいところです
が、そのころ東京地検特捜部にいた私が、何か書くのは差し障りがあるので、書け
ません。
 ここらへんは、質問されてもスルーする可能性が高いので、ご勘弁ください。
検察官経験者として、インサイダー取引の一般論はいつかお話しすることができたらなと思います。
 
本日は、ブルドック高裁決定に関し、ちょっと言い残したことがあったので、濫用的買収者について補足します。

 前回の記事で、私は、高裁決定について

「企業価値について、シェアホルダーのみならず、ステイクホルダーの利益を加
味して考えた上、本件公開買付などが、当該企業価値を毀損していると評価した
論理については、違和感を覚えます。」

と書きました。

しかし、高裁決定をよく読んでみると
「株式会社は,理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配す
るための営利組織であるが,同時にそのような株式会社も,単独で営利追求活動
ができるわけではなく,1個の社会的存在であり,対内的には従業員を抱え,対
外的には取引先,消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在で
あることは明らかであるから,従業員,取引先など多種多様な利害関係人(ステ
ークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべき
ものであり,企業価値について,専ら株主利益のみを考慮すれば足りるという考
え方には限界があり採用することができない。」
と言っているだけです。

 つまり、
 ステークホルダーの利益
が加味されたのではなく
 ステークホルダーとの不可分な「関係」を視野にいれろ
と言っているだけのようにも見えます。

 私は、以前このブログで「ステークホルダーの利益も企業価値に含まれるか
」という質問を受けたときに
  ステークホルダーからの信頼を失うと企業の活動に支障が出るという意味では、企業価値に含まれる
という趣旨のことを答えたことがありました。
 ステークホルダーに固有の利益があるわけではなく、ステークホルダーとの関係を大事にすることが会社の利益になるという意味で、そう言ったわけですが、もしかしたら、今回の高裁も私の考えと同じことを言っているのかもしれません

 ただ、私が、高裁は「ステークホルダーの利益」を保護したと考えたことには理由があります。

 私は、高裁が、わざわざ「ステークホルダー」を持ち出したのは、裁判官の趣味もあると思いますが、法律論的には、スティールが、TOBにおいて「全株式」の取得を目指していたことも原因の一つではないかと思っています。

 もし企業価値を「株主の利益のみ」と捉えるならば、全株式を取得した株主は、企業価値を自由に毀損する権利があると考えるのが素直です。 会社は、株主の所有物なのだから、全株式を保有している株主は、その会社を煮て食おうと焼いて食おうと自由であるという発想です。

少数株主が一人でもいれば、その保護を考える必要がありますが、100%子会社なら、少々無茶なことをしても問題ないと考える人が多いのではないでしょうか。

 実際、スティールは、全株式を取得した場合には、ブルドックの資産を処分することも考えていると正直に述べており、「そんなことが問題になるはずはない。」という認識だったのだと思うのです。

 ところが、高裁は、100%子会社になった後の資産処分すら
「最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益を追求し
ようとする存在といわざるを得ない」
と判示して非難しました。

 このように高裁は、
  全株式を取得した株主ですら、やってはいけないことがある
という理屈を導くために
  ステークホルダーとの関係
を持ち出したのではないかと思うのです。

外国などで濫用的買収者といえば、グリーンメイラーや二段階買収をやる者などを指すのが一般的でしょう。どちらも、少数株主の利益や公正な株式取引を害するおそれがあるため、そう評価されるわけです。
 したがって、全株を買い付ける人が、濫用的買収者になるというのは、たぶん、あまりピンと来ないのではないでしょうか。

 これに対し、ブルドック事件の高裁は、企業価値にステークホルダーとの関係
を含めて考えることにより
  全株式を取得する株主でも、ステークホルダーとの関係を毀損するような行
為をすれば、企業価値を毀損したことになる
という結論を導きました。

 この論理がどこまで正しいのか、議論あるところだと思います。

 ニッポン放送事件高裁決定が濫用的買収者の4類型を提示したときも、相当非難されていましたが、全株式をとってもやれないことがあるとすると
  「一体、どういう理屈やねん」
と言いたくなる人がもっと増えるでしょう。

また、
「企業価値にステークホルダーとの関係を加味するにせよ、ステークホルダーに独自の利益がなければ、その企業価値の処分権は、株主にあると考えざるをえないのではないか?」
とか
「高裁決定は、会社を「1個の社会的存在」と判示することで、「株主とは別人格なのだから、好き勝手にしてはいけない」と言いたいのかもしれないが、株主は、会社を解散する権限を有しており、社会的存在であることと処分権の問題は別ではないか。」
とか、いろんな疑問はあります。

しかし、全株式の取得を目指す者すら濫用的買収者と認定するという理由を考えようとすると、ステークホルダーとの関係を持ち出す方が、持ち出さない場合に比べると、わかりやすいので、「説明概念」として(それほどカチカチの理屈をつめず)、ステークホルダーとの関係を強調したのではないでしょうか。

 このように、高裁決定は、ステークホルダーの「利益を保護する」と断言したわけではない以上、企業価値の毀損は、きっと「会社の損害」であって、「ステークホルダーの損害」ではないと考えられるように思います。

とすると、ブルドック事件高裁決定における濫用的買収概念は、ニッポン放送事件高裁決定で示された「会社に・・損害」という要件を変更したものではなく、その要件を少し具体化しただけのような気がします。

何度読んでも、いろいろな見方ができる高裁決定ですので、もしかしたら、今日の記事も、後日「やっぱり読み方が間違っていた」と言ってしまうかもしれません。

 もうすぐ出るT&Aマスターでは、もう少し詳しく分析しましたが、今回の決定は、
  ニッポン放送高裁決定の立てた規範に、事実を当てはめて結論を出した。
  ただ、当てはめにおいて、独自のひねりを効かせた
と考えるのが良いように思います。

(質問コーナー)
Q1
企業で買収防衛策に関する仕事を担当している者です。

ブルドックソースの新株予約権の発行差止めに関する地裁、高裁決定を参考に実務対応をいろいろと考える際、対抗措置の発動に関する株主総会決議について、「定款に定めのある」株主総会決議なのか、または「定款に定めがない」株主総会決議なのか、といった点は特にポイントではないのでしょうか。あまり議論にはなっておらず、的外れな質問であろうかとも考えているのですが・・・。
投稿 海江田四郎 | 2007年7月15日 (日) 00時04分
A1
定款に定めがあれば、無償割当てが総会の権限の範囲内かという論点が減ります。

Q2
商法では会社分割は包括承継の性格を持っていました。会社法で権利義務の一部となり、有機的一体性などが問われなくなりましたが、例えば、貸付金のみ、不動産のみの移転であっても、これを「包括承継」というのでしょうか?。営業の移転⇒「包括承継」はピンときますが、貸付金の移転の場合に「包括」は、何を指すのでしょうか?すみません。よろしくお願いします。
投稿 けい | 2007年7月15日 (日) 10時52分
A2
会社分割が、部分的「包括承継」と言われていたのは、税制適格を得たかったための一種の方便です。包括承継は合併だけで、会社分割では、営業の移転も、個別財産の移転の集合体に過ぎません。

Q3
今日の記事の中で,
設立時募集株式の引受人について払込後の譲渡制限の条文がないのはなぜ
か?という質問に対し,「払込によって株主になるからです。」とご回答されていますが,102条2項によれば,会社成立時に株主になるとされているので,やはりこの場合も払込後会社成立前についての規定が必要なのではないでしょうか?
投稿 ADYTY | 2007年7月15日 (日) 20時43分
A3
訂正しました。「募集株式」と思いこんでいました。

Q4
 昨日、旧司法試験の論文試験(商法)がありました。
 商法の問題について、すぐにでも葉玉先生の解説を聞きたいと思っています。
 やはり、司法試験の問題は、新の問題とも併せて、次回の100問の改訂に盛り込む予定なのでしょうか?たとえそうだとしてもお待ちしています。
投稿 ヨボヨボ | 2007年7月16日 (月) 00時22分
A4
100問の改訂予定はありませんが、旧試験の問題を分析する暇がありません。

Q5
100問の154頁で新株の有利発行において、既存株主の取締役に対する損害賠償責任の追及(429条1項)を肯定しています。その際に、「損害」を株式の価値が減少した点に求めています。
ここで、既存株主の持株比率は、4分の1の限度でしか保護されていなかったと思う(113条3項本文)のですが、その点と整合性は、あるのでしょうか?
また、株価の低下というものも原則として株主は、甘受すべきですよね?
投稿 ごうし | 2007年7月16日 (月) 20時18分
A5
持株比率の維持の利益とは関係ないです。
「有利」発行により自己の株式の価値が低下する点が問題ということです。
 有利発行は株価の低下をもたらしますから、違法な有利発行が行われれば、株主に直接損害を与えることになります。

Q6
今大学生3年生なんですが将来企業法務の現場で働きたいと思っています。そして今司法書士の勉強しているのですが会社の法務部で働く場合何か資格が要るのでしょうか?
投稿 ヨース家 | 2007年7月16日 (月) 23時15分
A6
法務部で働いている人でも資格がない人は沢山いますが、資格があった方がベターでしょう。

Q7
 法律論はそうなのかもしれませんが、なぜスティールが濫用的であることを証明するのにあたかも他のアクティビストまでもが濫用的とみなされかねない表現を使ったのか皆目不思議です。
 スティールは別格であるということを信義則とかで包んだのでしょうが、多くの経済人は スティールが濫用的だにはそれほど違和感ないのですが、その根拠に違和感が大有りです。
質問、決定文の最後の解釈はどうすればいいでしょうか?
 「本件のような敵対的買収行為の対応が成熟し、しかもそれが相手方ないしそれ以下の内容・規模の企業にまで浸透するには、なお時間と経験を要するであろうことは諸所の事実に照らしやむをえないものであり、各企業の今後の重い課題である」
投稿 katsu | 2007年7月17日 (火) 02時21分
A7
当該決定の中で、一番法的に意味のない部分です。

Q8
高裁決定は、全体として、本件限りの解決を目指そうとしており、しかも、高裁決定で掲げられた具体的事実の中で
  スティールが、ステイクホルダーの利益を阻害している
という部分はほとんどない
会社の支配権を獲得しようとしながら、その会社の経営に対する定見や方策を持たないなら
1)第三者に高く売りつける
2)会社に高く買い取らせる
3)会社を資産や人材を切り売りする
のでなければ、投資ファンドは経済合理性が取れません。
そんなことは常識ですので、わざわざ裁判所が指摘する必要はないでしょう。
投稿 内部統制難民 | 2007年7月17日 (火) 07時47分
A8
第三者に株式を高く売りつけても、ステイクホルダーの利益は害されないでしょう。
どんな行為によって、誰の利益が害されるのかが、あいまいなまま、法的根拠にするのは、あまり良くありません。

Q9
法律解釈において一般条項(権利濫用、背信的悪意者)を利用するのは、原則的な処理をすると社会的に不相当な結果になるときの理由付けです。
伝統的な会社法の解釈では、会社の支配権の争奪は資本市場の規律で決すべきであり、会社経営者が介入すべきでないと考えていました。従って、会社の経営者が会社支配権に介入することは本来否定されるべきことなのですが、例外的にこれを認めないと、会社の総体的な価値が損なわれる場合には、支配権に関する資本政策(新株発行など)を許容するということなのでしょう。
高裁決定は、伝統的な会社法の考え方に沿った内容であると思います。
投稿 内部統制地獄 | 2007年7月17日 (火) 08時28分
A9
 一般条項は、法律の形式的適用によって個別事案に応じて不都合を修正するための原理だからこそ、まずは一般的な規範の定立ができないのか、どうかを検討するべきです。
 また、「権利濫用」なのか、「信義則」なのか、という問題もあります。

Q10
「高裁決定の方がお好み」ではなく、現時点では、「いずれも一長一短」という感触です、念のため。
投稿 おおすぎ | 2007年7月17日 (火) 09時51分
A10
失礼いたしました。大杉先生とは、今度、飲みながら、この件についてお話ししたいものです。

Q11
「原始定款の備え置き」につき質問させてください。
株式会社の発起人は,定款を発起人が定めた場所に備え置かなければならないことが法定されていますが(会31条1項),合同会社の社員になろうとする者には,定款の備え置きに関する義務を規定する法律がありません。
100問の第6問を読むと、所有と経営の制度的分離の有無が,株式会社と持分会社の設立手続の異同の制度趣旨になっているようですが,
 原始定款の備え置きは,これから社員になろうとする者への情報公開的な意味合いを持っていると考えると、株式会社の募集設立の場合はともかく,発起設立の場合には発起人だけが設立時発行株式の引受人となるのであり設立時において新たな株主(社員)の存在を想定できない以上,合同会社と同じであるように思います。
 定款の備え置きについて,株式会社の発起設立の場合と合同会社の設立とで分けたのは、どうしてなのでしょうか?
小生が株式会社と合同会社の基本的理解が乏しいのかもしれませんが,御教示いただきますよう何卒よろしくお願いいたします。
投稿 耳呈 | 2007年7月17日 (火) 11時38分
A11
 定款を見せてくれないような合同会社なら、社員になんかならない方がましです。人的信頼関係に基づく会社ですから。というのが理由です。

Q12
「会社」の経営の能率化と、業務執行に無関心・無意欲の不特定多数の「株主」とを結ぶライン上に、会社法上の大原則である「所有と経営の分離」があると自分は理解しています。
そのラインは、株式総会によって業務執行が監視・監督が出来ない原因となる「会社と株主の間隙」をも造り出すと理解するとすると・・・
401ページの・・・株主総会の決議事項は会社法又は定款に定めがある事項に「縮減」される・・・の「縮減」について、『圧縮』という用語に置き換えることは可能でしょうか?
・・・少なくとも、不正解ではないでしょうか?
投稿 至誠丸 | 2007年7月17日 (火) 16時08分
A12
 「圧縮」でも間違いじゃないかもしれません。

Q13
 監査役の任期について教えてください。
 監査役が1名の会社で、その1名の監査役が任期満了前に辞任した場合における後任監査役の任期についてです。
 旧商法下では補欠選任(前任者の在任期間を引き継ぐ)は認められないとされていたものが、会社法下では補欠選任が認められたと聞きました。
 どうして認められるようになったのですか?
投稿 つよしです | 2007年7月17日 (火) 17時59分
A13
 否定する合理的理由がないからです。

Q14
 私は、この夏にロースクールを受験するものですが、検察官に大変興味を持っています。そして、検察官について調べる中で、「犯罪被害者」という言葉をとてもよく目にします。
 そこで、質問なのですが、実際の検察官において、犯罪被害者とはどのような存在で、犯罪被害者とはどのような関りを持つのでしょうか。
 また、検察官の職務において、何が一番の目的あって、その他の事項の優先順位はどのようなものなのでしょうか。(例えば、事件の解明、被害者保護、加害者の処罰や更正など・・)
投稿 とも | 2007年7月18日 (水) 05時49分
A14
 検事は、被害者の傷を癒すために働く。
 しかし、検事は、被害者を疑って事件の解明に努めなければならない
 という難しい存在です。
 事件が解明されなければ、被害者が誰かも分かりません。
 被害者の顔をした加害者もいます。
 とはいえ、事件の解明のプロセスで、傷つきやすい被害者を再度傷つけることには最新の注意を払わなければなりません。
 何が一番というものではなく、すべて一番です。

Q15
こんにちわ。
先日葉玉先生の本読ませていただきました。
オウムの力・キリンの力・サイの力凄く参考になりました。
私は、条文へのあてはめがうまく書けなくて苦労しています。
本を読んで、キリンの力が弱いのかなと感じました。
キリンの力を高めるには、どのような方向で勉強して良いのか
お忙しいと思いますが、アドバイス頂けたら嬉しいです。
投稿 ガンバ | 2007年7月18日 (水) 09時41分
A15
 事例分析を通じて、典型的な条文の出方をマスターするのが出発点でしょう。
 先人に事例分析の仕方を教えてもらうのも重要です。

Q16
会社法370条の取締役会決議の省略の関係で教えてください。次のような理解でよいのでしょうか。
① 法370条に定める取締役からの「提案」は,電子メールでも可能であり,その際,電子署名は不要である。
② 同条の「同意の意思表示」を電子メール(電磁記録)によって行うとき,電子署名は不要である。
③ 同条によって,取締役会の決議があったものとみなされる場合,議事録の作成は,必要である(ただし,根拠がわかりません。施行規則101条4項にその場合の議事録記載事項の定めはあるものの,法371条は,「議事録又は前条の意思表示・・・」とあり,前条の意思表示を記載・記録した書面・電磁記録を本店に備え置く場合は,議事録は不要で,したがって議事録作成を前提としていないように思うのですが・・・)。
④ 取締役会の決議があったものとみなされる場合,議事録を作成し,これを備え置けば,意思表示を記載した書面等は備置き不要である。
⑤ 法370条の意思表示を記載・記録した書面・電磁記録を本店に備え置く場合,意思表示が電磁的記録によってなされたときは,電磁記録として備え置き,同意思表示が書面によってなされたときは,書面として備え置く必要がある?(同条の「意思表示を記録し,若しくは記録した書面若しくは電磁的記録」の読み方がよくわかりません。いわゆる「たすきがけの『又は』」なので,電磁記録による意思表示を書面化等も可能とも読める気がするのですが,しかし,書面による意思表示を例えば電磁的記録であるPDF(=コピー)で保存・備置きすることまで認めているのか疑問に思います。)。
投稿 田舎の弁護士 | 2007年7月18日 (水) 13時11分
A16
①②③はYES。
議事録を要求するのが会社法上苦しいのは承知の上で、必要があって規則に定めています。
④はNOです。この「又は」は「and/or」の「又は」です。⑤YES。

Q17
取締役の任期について質問します。
定款で「当会社の取締役の任期は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終の決算日までとする」
といった定めで決算日と同時に取締役の全員が任期満了する定めは可能でしょうか?
決算と同時に任期満了する他の方法はありますか?
投稿 採点相続人 | 2007年7月18日 (水) 17時48分
A17
短くする分にはOK。決算日で終了してもいいです。

Q18
株式交換や株式移転について質問ですが、交換や移転の際に完全子会社となる会社が保有する自己株式については、合併と異なり完全親会社の株式の割当が行われると思いますが、移転計画書や交換契約書において完全子会社となる会社が保有する自己株式については割当を行わないといった定めは可能でしょうか?割当てた場合においても最終的には、完全親会社が一定の時期に自己株式として取得することになるので出来ると思うのですが、768条3項等の関係がきになったもので。。。
投稿 サブマリン | 2007年7月19日 (木) 09時31分
A18
うーん。それは、どうでしょう。
自己株式を取得する契約を同時に結ぶことは可能でしょうが。

Q19
昨日、TMIの事務所説明会に参加し、先生のお話を伺うことができました。月並みですが、とても感動しました。
先生のおっしゃるTMI法律事務所のカラーは今まで訪ねた事務所のうち、一番自分にあっていると思うのですが、如何せん、自分の年齢や書類上のスペック(非東大など)がネックになっているようで、他の事務所に対して個別面接を希望してもなかなか呼ばれないのが現状で、TMIでも呼ばれないのではないかと思うと残念です。
説明会では、事務所は人数の規模で勝負しないという趣旨の説明がなされていましたが、今後、弁護士の質と量ともに確保しながら益々の発展を目指しているはずですから、やはり優秀で色のついていない若手を中心に採用される方針ではないかと考えますがいかがでしょうか。現に、TMIは「若さ」や「フレッシュさ」を強調されていたように思います。
しかし、一緒に働きたいと思えるか、ということを重視すると、採用に時間をかけていらっしゃるのであれば、書類審査の段階でかなり絞るよりも、個別面接で人物像も見ていただきたいと思うのです。特定の職歴を有する社会人経験の30代は、需要にフィットしなければなかなか採用に至らないのは分かるのですが、個別面接入り口で門前払いをされると自分という人間を見てもらう機会を与えられず悔しい思いをします。TMIだけは、年齢や学歴などで間違いの少ない大量採用だけはされないと信じています。
投稿 就職活動中 | 2007年7月19日 (木) 10時19分
A19
採用担当者に伝えました。
個別面接は、毎日、大変な数をこなしているのですが、それでも希望者が多いため、どうしても、書類審査をせざるをえない面もあるようです。TMIは、私大出身者も多いですし、社会人経験のある人も多いので、それだけで書類審査に落とされることはないと思いますが。

Q20
会社法750条4項にて、吸収合併の際に、吸収合併消滅会社の新株予約権は消滅する旨。
また同条5項にて、吸収合併消滅会社の新株予約権者は、吸収合併存続会社の新株予約権者となる旨が定められていますが、
一言で、「消滅会社の新株予約権は消滅会社から存続会社へ移転する」という表現をしてもよいのでしょうか。
それとも、条文に従って「消滅会社の新株予約権は消滅し、消滅会社の新株予約権者は存続会社の新株予約権者となる」というように二段階に分けた説明が必要なのでしょうか。
A20
駄目です。消滅会社の新株予約権と存在会社の新株予約権は、内容が別のものです。
移転するのではありません。

Q21

「脱時空勉強法 第6回 人は最高の情報源
質問強制ルールが情報の定着を促進する」
にて、ムー○ィ勝山のネタを引用なさっていたような気がしますが、気のせいでしょうか。
A21
気のせいではありません。

Q22
脱時空勉強術の、第7回がまだなので、
時節柄、殺人的に忙しいのかと心配です。
ところで、2代目サミーさん(というのかな?)はお元気ですか。
スケベという設定に似合わず、誠実そうだったあの語り方が懐かしいです。
たまには、帰ってきたサミーさんに代わって語って下さい。
投稿 QQ | 2007年7月20日 (金) 09時51分
A22
第7回が一週飛んだのは、私のせいではなく、編集の都合です。
サミーさんが懐かしいと言うことであれば、私が誠実そうに語るのでは駄目でしょうか。

Q23
取締役の利益相反取引行為について質問させて下さい。

A株式会社は、同社の取締役5人のうち、二人が取締役を勤め、一人が代表取締役を勤めるB株式会社と双務契約をする場合、この場合、私はB社代表取締役が、B社(第三者)のために、A社(株式会社)と取引をする直接取引(356条1項2号)の場合に該当すると認識しております。
それゆえ、本件契約をすることについての承認をするA社取締役会では、当該B社代表取締役となっている者は特別利害関係人に該当するものと思います。

それでは、本件契約はB社の平取締役との関係でも利益相反取引(間接取引356条1項3号)になるのでしょうか。
もしそのように考えますと、B社平取締役である二人についても、A社取締役会では特別利害関係人に該当するという話になってしまいます。
投稿 まちゃりん | 2007年7月20日 (金) 14時21分
A23
B社の平取締役との関係では、利益相反取引にはなりません。

Q24
一人会社において、発行可能株式総数の定めの変更を、取締役会に委任することは、できますか。
投稿 ryousuke | 2007年7月20日 (金) 20時01分
A24
発行可能株式総数は、定款の記載事項ですから、取締役会に委任することはできません。

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2007年7月17日 (火)

ブルドック高裁決定(2)

ブルドック抗告審決定における最大のポイントである
 「濫用的買収者」
についてお話します。

 私は、この記事を書くのに何日も悩んでいます。
 それは、抗告審決定は、スティールについて様々な事実認定をした上で、スティールを濫用的買収者だと評価しているのですが、どういう判断構造で、その結論に至ったか、見えにくいからです。
 
この見えにくさをもたらした最大の原因は、この決定が
  「濫用的買収者とはなにか」という定義(=要件)を明らかにせず
   信義則という一般条項や企業価値というあいまいな概念をクッションにして、具体的事実の羅列から、直接、濫用的買収者であるという結論を導いている
ことにあると思います。

本件の法律論部分は
 要件=買収者が、濫用的買収者である
 効果=会社が、買収者に少々経済的損害を与えるような買収防衛策を講じても、株主平等原則違反・不公正発行に該当しない。
という基本構造をとっており、しかも、「濫用的買収者」という概念は、会社法の明文にはない文言なのですから、本来ならば、決定の中で、ビシッと定義してほしいところです。

しかし、高裁は、
「真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行う「など」のいわゆる濫用的買収者」
と例示を示すだけで、濫用的買収者の明確な定義を避けているため、一般的な規範が見えません。

 私は、最初
   もしかしたら、高裁は、「スティールがグリーンメーラー的濫用的買収者かどうかだけを判断すれば十分である」と考えたのかもしれない
 とも思いました。
 
 しかし、それなら、高裁は、具体的事実の当てはめの部分で
 ①スティールは会社経営に参加する意思がないこと
 ②スティールは、専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身に転売することで売却益を獲得しようとしていること
という認定だけすれば十分なはずであり、今回の決定のように
 ③スティールが、様々な策を弄して「第三者」に転売することで売却益を獲得しようとしていること
 ④スティールが、最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益を追求しようとしていること
 ⑤いたずらに相手方に不安を与えていること
を認定する必要はありません。

 結局、高裁が、この③④⑤の部分も認定したことを考えると、高裁は、スティールがグリーンメイラーであると認定しただけではなく、ニッポン放送事件の高裁決定が傍論で触れた濫用的買収者の次の4類型、すなわち
(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)
(2)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合
(3)会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合
(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合
のうち
(1)+(2)+(4)
であると認定したと見るのが妥当でしょう。

 ただ、ブルドック抗告審決定では、「濫用的買収者」概念は、決定を直接基礎付ける法律論になっているのですから、個人的には
 ① (2)や(4)を含んだ濫用的買収者の要件を明らかにしてもらいたい
 ② (1)(2)(4)がアンドでつながるのか、オアでつながるのか、明らかにしてもらいたい
と思ってしまいます。

 しかし、高裁は
「この案件が処理できればよい」
という観点から、それらを明らかにしてくれませんでした。

 しかも、高裁は、
「このような抗告人関係者がした前記の経緯、態様による本件公開買付け等は、前記の企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するものとして信義誠実の原則に抵触する不当なものであり、これを行う抗告人関係者は本件については濫用的買収者であると認めるのが相当というべきである」
という悩ましい結論をとっています。

悩ましさの第1点は
 先ほどの①から⑤までの要件だけでは、濫用的買収者に該当しない
とされていることです。

つまり、①から⑤の要件を満たす者が、⑥今回の経緯、態様による公開買付け等をすることにより、「本件については濫用的買収者である」とされているのです。

この部分は
 スティールも、今後、別の買収をするときに、⑥今回の経緯、態様による公開買付け等を行わなければ、濫用的買収者にはならない、
と読めますし、きっとスティールに、少し気をつかったのではないかとも思います。

しかし、今回の決定では、①から⑤の要件を認定する間接事実として、⑥今回の公開買付け等の経緯や態様を挙げているので、⑥の要件を別個に設定する意味があったのかどうかは疑問ですし、①から⑤の要件と⑥の要件の関係も明らかではありません。

ただ
 買付者の属性+今回の買付態様=本件における濫用的買収者
という図式自体は、アプローチとして悪くないので
 買付者の属性として考慮すべき事項と
 今回の買付態様として考慮すべき事項
を区別して要件化することができれば、それなりに良い要件が定立できるかもしれません。

 悩ましさの第2点は、信義則とか、企業価値とか、あいまいな概念で濫用的買収者かどうかが決まるように見えるところです。

 そもそも、公開買付けという、株式の買主と売主との間の行為が、「第三者である会社との関係で信義則に抵触する」という論理は、信義則の通常の使い方と乖離しています。
 その使い方の当否は別として、少なくとも信義則違反の基礎となる具体的事実が何かをもう少し明確にしてもらえれば、先例としての価値が高まったはずなのですが、先ほどから述べているように、今回の判例は、個別事案の解決に重きを置いているため
   少なくとも①から⑥までの要件がそろえば、濫用的買収者になる
という以上のルールは読み取れないため、その射程が非常に狭くなったように感じます。

 また、企業価値について、シェアホルダーのみならず、ステイクホルダーの利益を加味して考えた上、本件公開買付などが、当該企業価値を毀損していると評価した論理については、違和感を覚えます。

 会社法上、株式の譲渡や会社の経営について、ステイクホルダーの利益を正面から保護する制度はありません。それにもかかわらず、高裁が、どのような論理によって、企業価値にステイクホルダーの利益を加味したのか、まったく分かりません。

 スティールが、公開買付により全株の買付を表明していることを重く見れば
   仮に100パーセント株主になったとしても、ステイクホルダーの利益を害することになるから、濫用的買収者にあたる
という理屈の方が説明しやすいのかもしれませんが、その理屈でいけば
   友好的公開買付や友好的組織再編でも、ステイクホルダーの利益を害する場合には、なんらかの保護が図られなければならない
ということになりかねず、こうした企業価値の強調は、会社法の解釈に大きな波紋を呼ぶことになります。

 高裁決定は、全体として、本件限りの解決を目指そうとしており、しかも、高裁決定で掲げられた具体的事実の中で
  スティールが、ステイクホルダーの利益を阻害している
という部分はほとんどないのに、なぜ、わざわざ「企業価値」に一定の法的意味を与え、それにステイクホルダーの利益を加味するという冒険をしたのか、大変、興味深いところです。

 私は、条文至上主義者であり、かつ、判例至上主義者ですから、当面は、企業価値について、高裁決定をベースに説明しようと思いますが、正直いって、これだけは、まったく理屈がないと思っています。

以上説明してきたとおり、今回の高裁決定は、濫用的買収者について、アドホックな認定をしているというのが実感であり、裁判所の裁量が広い分、当事者にとっては予見可能性が低いという今回の決定の特徴は、濫用的買収者概念にもあてはまりそうです。

今回の地裁決定と高裁決定は、
 裁判によるルールメイキングを志向する地裁
 裁判による個別事件の解決に重きを置きつつ、独自の価値観を織り交ぜる高裁
という対照的で面白い結果になりました。

野村先生や大杉先生は、高裁決定の方がお好みのようですが、
私は、果敢にルールメイキングをやろうとした地裁決定の心意気を買います。

高裁決定は、事案の解決という点では良かったと思いますし、いかにも裁判所らしい解決の仕方だと思いますが、高裁決定から読み取れる規範は、非常に限られた領域でしか使えないという点は、個人的には、非常に残念でした。

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2007年7月14日 (土)

良い弁護士

ブルドックの続きを書こうとしているのですが、今回の抗告審の「濫用的買収者」概念は、位置づけが難しくて、分析に手間取っています。

世間では、
「こんな定義だと、ファンドはみんな濫用的買収者だ」とか、
「大株主は、皆、経営しなければならないのか。所有と経営の分離はどうなったんだ」とか
「経営しない株主が悪いのなら、持ち合いの大株主とか、創始者の相続人の大株主なんかは、皆、濫用的大株主だ。」とか
いろいろ言われています。

 ただ、そんな単純な話ではないと思うので、抗告審決定の要件の意味をできるだけ正確に理解するために、もうちょっと時間をください。

 それから、毎週木曜日恒例の脱時空勉強術 第6回
「人は最高の情報源」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20070705/129213/
がアップされました。
 今回は、検事時代の体験を踏まえて、人から情報を引き出すためのノウハウ等を語っております。勉強術のみならず、取調べの基本も学ぶことができますから、検事になりたい人や若手検察官も読んでも面白いのではないかと思います。

さて、今日は、会社法ではなく、何の脈絡もないですが
 「よい弁護士とは何か」
について考えてみたいと思います。

「ぺん」さんから、次のような質問をもらいました。

「B志望の司法修習中の者です。
弁護士になるにあたって,自分はどうなりたいのか,今後の弁護士はどうなるのだろう,などなど考えたりします。そこで,葉玉先生からお聞きしたいことがあります。
1 葉玉先生が考える「よい弁護士」「一流の弁護士」像とはどのようなものか?先生はそれを目指すためにどのような点を注意しているのか?

2 中長期的にみて,今後の弁護士業界の動向をどう見るか(大規模化,専門化,外資系の台頭,インハウスローヤーなどなど)?
3 3000人時代で生き残っていくためには,どのような資質や能力が必要か(1と同じかもしれませんが)?
ぶしつけな質問で恐縮ですが,弁護士業界についてよく知らないので,今後どうなるかの自分の見通しが立っていません。先生のように途中から弁護士になった方はどのような認識をもったうえで弁護士になられたのか,教えていただけないでしょうか。」

 弁護士経験3か月の私が、よい弁護士とは何かを語るのはおこがましいですが、15年間、外から弁護士を見ていたので、それなりの「よい弁護士」像は持っています。

 私の「よい弁護士」の5要件は、次のとおりです。
(1)人から正確に話を聞くことができること
(2)将来の見通しがよいこと
(3)常識を持ちつつ、常識に縛られない解決ができること
(4)生活が安定していること
(5)愛情をもっていること

 順次、説明します。

(1)人から正確に話を聞くことができること
 弁護士は、クライアント・相手方・関係者など、人と人とのつながりを修復・改善するのが仕事です。
 裁判で勝ち負けをつけることも、人間関係に横たわる紛争を終結し、改善するための一手法に過ぎません。
 人と人とのつながりは、多種多様で、どれ一つ同じものではありません。
 ですから、先入観をもとにステレオタイプな解決をしてはならず、その案件に関わる人たちの言葉をよく聞き、客観的事実や、その人たちの心情を理解するのが、最適な解決につながります。

 私がどんなことを注意しているかは、脱時空勉強術を見てください(宣伝)

(2)将来の見通しがよいこと
 法律相談を受けたとき「この裁判は勝てますか」と聞かれ、
 「絶対、勝てる」
 と言える弁護士はいないと思いますし、決して言ってはならない言葉だと思います。
  時の経過、当事者の行動、新たに発見された証拠、裁判官が誰かなどによって、紛争解決の方向性が大きく変わることは、よくあることだからです。

 しかし、弁護士が
 ①現時点の証拠関係を前提とすれば、裁判所・行政・相手方が、どのような判断をする可能性が高いか
 ②現時点で発見さていない証拠として、どのようなものが考えられるか。
 ③自分の起こす行動が、紛争解決にどのような影響を与えるか。
 ④クライアントと相手方の意思が、今後、どのように変化する可能性があるか。
 ⑤現時点において、どのような問題が生ずると考えられるか

 ⑥以上を踏まえて、どこらへんが「落とし所」になるか。
ということを見通すことができれば、そのときどきで、適時・適切な対応を採ることができます。

 逆に、見通しの悪い弁護士は、無駄な動きが多く、時として、クライアントに不利益をもたらす行為を平気でやります。

 研修所では、「見通しのたて方」はあまり教えてくれませんが、「将来の見通しがよい」ことは、法律家にとって、最も重要な能力の一つだと思います。

 私は、この見通しの良さを身につけるために、なるべく、いろいろな領域の専門家と接して、その人の相場観を聞きだすことにしています。
 会社法に限らず、税法・金証法・独禁法など、それぞれの領域で、独特の事実認定・独特の解釈の仕方があり、本を読んだだけではなかなかわからないからです。

 また、法律の裏にあるバックヤードを知ることも重要です。バックヤードというのは、ある法律の条文を実行するまでの実務的な手続き・手順などのことです。法律家は、とかく観念論に走りがちなのですが、特に、買収防衛策など今までやったことのないようなスキームで案件を解決しようとするときは、バックヤードがわからなければ、思わぬところで失敗します。だから、バックヤードを知るために、実務から日常のフローをよく聞いておくことも大事です。

(3)常識を持ちつつ、常識に縛られない解決ができること
 案件を検討するときに、
  「普通は、こうだよ」「普通は、こうなるよ」
という常識を知らなければ、まともな弁護士にはなれません。

 しかし、
 「普通は、こうだけど、この案件では、普通じゃない方法を採った方がベターだな」
という判断『も』できなければ、「よい弁護士」にはなれないと思います。
 案件には、必ず個性があり、個性を無視した「普通の」解決法は、最善の解決法で無い場合も多いからです。

 また、最善の解決のために、普通の弁護士では思いつかないような革命的な解決策を考案し、それを実現することができれば、「一流の弁護士」になれますし、やっていて、仕事が面白いでしょう。

 「常識を持って、常識に縛られる」ことも、
 「常識が無いため、常識に縛られない」ことも、わりと簡単なのですが、
 「常識をもって、常識に縛られない」のは、なかなか難しいですね。
 ここらへんは、常識を身につける努力と、常識を常に疑い続ける努力を続けるしかありません。

(4)生活が安定していること
 「クライアントにとって最善の解決策が何か」
という問題と、
 「弁護士の生活が安定しているか(十分な収入を得ているか、プライベートで問題を抱えていないか等)」
という問題は、別問題のように見えて、大きく関連しています。

 犯罪に手を染めるような弁護士が駄目なのは当然ですが、
  収入が安定していない弁護士
  売り上げのノルマがあるような弁護士
は「クライアントにとって最善の解決策」ではなく、
  「収入面で最善の解決策」
を選ぶおそれがあります。弁護士の年俸として、「年収500万円だと弥生時代から働らかなければならない」というほど稼ぐのは無理だと思いますが、アテネオリンピックくらいの収入がないと、先行きが不安になってくるでしょう。

 また、家庭に悩みを抱えていると、仕事にも悪影響が出ます。
 本人は「仕事は普段どおりやっている」と思っていますが、外から見ると、ほとんどの場合、悪影響が出ています。

 弁護士は、機械ではないので、生活の安定が、良い仕事を生みますし、クライアントの信頼にもつながると思います。

(5)愛情をもっていること
 弁護士は、人を救う仕事です。
 紛争を解決するときにしかるべき形で、紛争を終結させることができれば、自分のクライアントはもちろん、相手方も救われることになります。

 クライアントからの依頼内容を実現することは重要ですが、さらに重要なのは
 その案件に関わった人の心を満足させ、人の心に安定をもたらすこと
であり、それがなければ、紛争解決がさらなる紛争をもたらすことになりかねません。

 そのためには、あらゆる者に愛情を持つことが大事だと思います。

 クライアントに対する愛情(「救ってあげたい」という気持ち)を持つのは当然のこと、相手方に対しても「恨み」「敵意」ではなく、一種の愛情(相手の気持ちを生かしつつ、解決する方法を探る気持ちや、相手が敗訴しても、それが相手のためになるんだという気持ち等)を持てるか、どうかが「よい弁護士」かどうかの境目なのではないでしょうか。

 負けた相手が
 「次は、こちら側で、あの弁護士を使ってみたい」
と思ってくれるような弁護士になれたらいいなと思います。

問2 中長期的にみて,今後の弁護士業界の動向をどう見るか(大規模化,専門化,外資系の台頭,インハウスローヤーなどなど)?
問3 生き残るために何をすべきか。

 合格者3000がずっと維持されれば、弁護士の数がものすごく増加するのは明らかです。
 しかし、弁護士の数が増えるほど、案件の数は増えませんから、必然的に
  どんな事務所でもできるような案件については、報酬が下がり
  この事務所しかできないという案件は、報酬は下がらない
という現象が起きるでしょう。
 
 企業法務の分野は、法務・税務の複雑化、契約書の複雑化が顕著であり、弁護士が一人だけで何でもできるという仕事は相対的に減っています。一つの案件が、複数の専門分野にまたがることも多いので、一つの事務所にさまざまな専門家が集まって、共同で処理することが必要不可欠です。
 そのため、企業法務についていえば、もう少し大規模化現象は継続し、その結果、企業法務の分野で法律事務所の寡占化が生ずる可能性は高いように思います。どの程度、寡占化が進むかは、コンフリクトについての考え方によっても、かなり違ってくるでしょうが。

 インハウスについては、新任弁護士の初任給が下がれば、増えるのは間違いないでしょう。
 しかし、企業が、一から企業内弁護士を育てることになると、弁護士以外の法務部員を育てるのと、あまり変わらなくなってしまいます。
 
 おそらく、企業がインハウスで弁護士を持つ最大のメリットは、その企業の内情を知り尽くしたプロに、その企業にない法的ノウハウを提供してもらって、案件の解決に役立てることでしょう。
 とすると、一から育てるよりも、大規模事務所からある程度経験をつんだ弁護士を、派遣してもらった方が、企業にとっては有益であるように思います。
 そうすることで、インハウスロイヤーを会社内でどう昇進させるかという難しい問題にも直面せずにすみます。
 そう考えてみると、インハウスロイヤーの増加は限定的かもしれません。

 なお、大規模事務所の増加は、企業法務に限りません。
 
一般民事についても、定型的案件を大規模に行うことで「安さ」を実現するスーパーマーケット的法律事務所が登場する可能性はあります(債務整理だけやる事務所は、一局面に過ぎません)。
 会社が「派遣社員」を使うようになったのと同じように、法律事務所が「派遣弁護士」を使うようになる可能性もあり、そうすると「弁護士を派遣する法律事務所」が登場するかもしれません。

 現状のように単に弁護士の数が増えるだけであれば、既存の法律事務所は、従来からの顧客を守ることで、それなりに食える(逆に言うと、新規で開業するのは、難しい)ということになるでしょうが、スーパーマーケット法律事務所や派遣法律事務所が出てきて、既存の法律事務所の顧客を奪い始めることになると大変です。

 私の実家は、福岡県で主として個人商店や小さなスーパーを相手にした卸売問屋をしていたので、よくわかるのですが、有名な大規模スーパーの進出により、従来のやり方をしていた個人商店やスーパーは、10年でほとんど全滅してしまいました。

 スーパーと法律事務所は、必ずしも同列では語れませんが、個人でやっている弁護士の仕事を効率化しようと思っても限界がありますから、定型的な案件についてディスカウント合戦が始まれば、個人商店的法律事務所は、基本的収入が減り、生き残りが難しくなります。

 ということは、個人商店的法律事務所が生き残るためには、
 弁護士を増やして定型的案件のシェアを拡大し効率化するか
 「この事務所しかできない」という専門化・ブティック化・ブランド化していく
という戦略をとるのが通常でしょう。

 すでに現時点で地方の県庁所在地の弁護士の数は、かなり飽和状態になってきていると言われていますので、従来型の法律事務所と違う形態の事務所が登場し、競争が激化したときが、次のエポックとなると思われます。

 個人的には、弁護士事務所の競争激化が、日本の国益にプラスになるとは思えないですね。
 競争が激化すれば、企業の利用する弁護士コストが安くなるという見方もありますが、その考え方は、ビジネスロイヤーとしての教育コストを誰が負担するかという視点が抜けていますし、大手事務所の新人弁護士の初任給がほとんど下がっていないことからすると、コスト安が実現するのかどうか、よくわかりません。
 弁護士が生き延びる努力をすることは当然ですが、需要と供給のバランスを人為的に崩せば、混乱が生ずるのが普通なので、供給の調整をもっとうまくやった方が良かったのではないか、というのが私の実感です。
 
 検事や裁判官もこれまでは「やめて弁護士になるか」と気軽に思っていましたが、もはや、弁護士になったときに検事・裁判官並みの報酬がえられる時代ではなくなりつつあります。
 検事・裁判官の人事にもそのうち影響が出てくるでしょう。

 また、新司法試験の合格者が多いのに、弁護士としての仕事がないという状態になれば、司法書士的仕事や税理士的仕事をするために、新司法試験を受けるという「合理的」な考えをする人も出てくるかもしれません。そうなると、単に弁護士業界だけの問題ではなくなります。
 合格者数の問題は、そのうちどこかで社会問題化するかもしれませんが、不都合が顕在化した後に是正するのは、難しい問題でもあります。
 「宙に浮いた年金」が早期に是正されていれば、今のように大変な問題にならなかったように、「宙に浮いた弁護士」問題も、「これは、なにかおかしいんじゃないか」と思い始めたときに、是正措置をとった方が良いと思います。
 需要を増やすか、供給を減らすか、みんなでもう少し真面目に検討したいところですね。

以上は、私の勝手な予測ですが、参考になりましたでしょうか。

(質問コーナー)
Q1
T-rodさんの質問に便乗しますが、権利株の譲渡の効力につい
て、
発起人の場合は出資の履行前(35条)と出資の履行後(50
条2項)があるのに、設立時募集株式の引受人については払込
み前(63条2項)しかなく、払込み後の条文がないのはなぜ
でしょうか?
A1
頻出ですが、大人の事情です。

Q2
企業再編の問題が出たときに
条文をうまく拾うコツがありましたら、教えてください。
投稿 流れ星 | 2007年7月 8日 (日) 23時47分
A2
条文の構造を理解することです。
目次を見れば、非常に整然と並んでいます。

Q3
会社法施行規則第2条第3項第3号に定める「役員」の解釈につ
いての質問です。
米国デラウェア州法上のCorporationにおけるOfficerは、「役
員」に含まれると解釈すべきでしょうか。「執行役」または「
これらに準ずるもの」に該当すると解釈しているのですが、い
かがでしょうか。
先生のご解釈をいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。
投稿 外資系企業法務担当者 | 2007年7月 9日 (月) 12時25分
A3
私は、Officerは、執行役に準ずるものに該当すると思います

Q4
今回のブルドック高裁決定を受け、濫用的買収者による会社価
値の毀損への対抗策としての買収防衛策を導入しないこと自体
が、取締役の善管注意義務違反となる可能性はないでしょうか

株主総会マターだから、問題ない、ということかもしれません
が、議案を提案しないこと自体、あるいは防衛策を検討しない
こと自体が善管注意義務違反にならないか心配になりまして。
投稿 パパ | 2007年7月11日 (水) 08時12分
A4
作為義務はないと思います。

Q5
定款に記載の無い買収防衛策に対し、株主総会の議案として、
普通決議で可決した場合と特別決議で可決した場合のそれぞれ
の決議の効力は何でしょうか?
投稿 チャーリー | 2007年7月10日 (火) 02時50分
A5
前回の記事のマトリクスを見てください。

Q6
会社法に関する質問ではないのですが、
睡眠をコントロールする方法はあるでしょうか?

私は来年の旧司法試験に合格するのですが、
毎日の勉強時間の確保が非常に厳しい生活なので、
あとは睡眠時間を削って勉強時間を捻出したいのですが、
なにかよい方法はないでしょうか?

もちろん、脱時空勉強術を実践しています。
この勉強術のおかげで飛躍的といっても過言ではないほど勉強
が進みます。
本当にありがとうございます。

が、もっともっと勉強したいので、あとは睡眠時間を削るしか
ないのですが、
日々、気合で生きている私もやはり寝ないと生きていかれず、
困っています。
それに最低6,7時間は寝ないと次の日が使い物になりません

なにかよい方法はないでしょうか?薬物には頼りたくありませ
ん。
体質、体力など個人差のあることなので、答えなどないかもし
れませんが。

ちなみに私は毎日フルタイムの仕事、小学生の子供二人と親の
世話、
食事の支度、掃除、洗濯をしています。
働かないと食べていかれないので、仕事は辞められません。
配偶者はもういません。
家事等はできる限り手抜きをしています。
生きていくのがやっとの毎日ですが、それでも、なんとか一日
合計1,2時間勉強時間を確保しています。
司法試験の勉強を始めて5年目、途中2年間勉強できなかったの
で、実質3年目というところです。
投稿 ジャスミン | 2007年7月10日 (火) 22時10分

A6
私も、6時間寝ないと頭が回りません。
体を壊すかどうかは、別として、頭を回転させるためにも
睡眠時間を削るのは、止めた方がよいと思います。
ボーッとするようでは、意味がありません。

ちなみに、私は、6時間の睡眠時間のうち、1時間程度は昼寝
に回すこともあります。
昼寝できる職場環境にあるかどうかにもよりますが。能率が落
ちてくる時間帯にやると効果的です。

なお、生活のことで大変だとは思いますが、小学生のお子さん
と家事を分担するということも考えられたらいかがでしょうか

私も、小学生2人の親であり、かなり甘やかして育てているよ
うな気もしますが、家事をさせれば、それなりのことはできる
ようになります。
 子供を世話をする対象としてだけではなく、一緒に生活を支
える同士として見ることができるようになれば、ジャスミンさ
んのためにも、子供さんのためにもプラスになるのではないか
と思います。

Q7
 事業譲渡について教えてください。
 事業=会社全体であるか一部門であるかを問わず、営利活動
ための
       諸々のパーツの有機的一体
であるとすると、

 異なる種類の事業を行うA~Dの4事業部を有するS社につ
いていえば、
一般的に

  S社全ての事業部の一括譲渡=事業譲渡
  A事業部のみを一式譲渡=事業譲渡

がいえるのだと思います。
 では、下のケースは何になりますか?
 事業の一部譲渡が複数あると見るのでしょうか?

A事業部の事業を廃業する。
A事業部の労働契約のみを競合T社が承継する。
取引先(客)との契約は一旦すべて終了する。
U社・V社・W社がS社の続きを引き受ける形で新たに取引先
(客)と契約をする。
A事業部の資材(パソコンなど「物」全て)はS社に残しB~
D事業部が使う。』
 つまり、諸々のパーツの行く先がバラバラだったり、取引先
との関係を承継
でなく終了/開始というようにした場合をどのように考えたら
よいのかということ
です。
 実務では必ずしも有機的一体の一式譲渡でなくてもある程度
の塊になって
れば事業譲渡という言葉が使われているみたいですが、事業譲
渡と財産個別
譲渡を分ける目安は何でしょう?
投稿 K UNIV. | 2007年7月11日 (水) 00時45分
A7
一般化して答えるのが難しいですが、質問では、A社からの移
転しているものが、労働契約のみのようですから、事業の譲渡
ではありません。
事業譲渡と個別財産の譲渡の区別は、有機的一体性があるかど
うか、です。

Q8
このたびは子会社の中間配当についてご教示ください。

子会社からの配当金を当社の上期決算に計上したいと考えてい
ます。

通常は
 定款所定の基準日 → 取締役会配当決議日 → 配当効力発生

となりますが、
 取締役会決議日 → 基準日=効力発生日
とすることは可能でしょうか?

なお、現在の定款は、
「当会社は、取締役会の決議により、毎年9月30日における
最終の株主名簿に記載された株主又は登録株式質権者に対し、
中間配当をすることができる。」
となっております。

また、この定款の規定から基準日を取ってしまい、期中にいつ
でも1回、取締役会決議で配当可能とすることは問題ないでし
ょうか?
投稿 msm | 2007年7月11日 (水) 09時15分
A8
取締役会決議を定款所定の基準日よりも前にすることは、可能
です。
基準日と効力発生日を合わせるのも可能ですが、基準日の最終
の株主名簿の株主に中間配当するので、効力発生をそれ以後に
する必要があります。とすると、10月1日(の最初の時点)
を効力発生日とするのが自然だと思います。

定款から中間配当の基準日を採ることは可能です。
中間配当の定め自体は残してください。

Q9
ロースクールの授業や課題などで文献をリサーチすることがあ
ります。会社法に関して調べものをするとき,先生がいつも手
元において参照する基本書や解説書はどのようなものでしょう
か。できれば複数教えていただけますでしょうか。

江頭先生や神田先生の基本書,立法担当者の解説本ぐらいは手
元にあるのですが,リサーチの幅を広げたいと思って質問させ
ていただきました。

投稿 ガンダム | 2007年7月11日 (水) 21時40分
A9
脱時空勉強術を見ていただけるとわかるのですが、手元にある
のは、今、使っている資料のみです。
「日頃から使う資料」と「探す資料」は、別と考えた方がよい
でしょう。
リサーチの幅は、目的によって異なります。
授業や課題程度でよければ、百選・重判・最高裁判例解説程度
で良いのではないでしょうか。せいぜいそこであげられている
参考資料まで。
 googleと違って、物理的リサーチは時間がかかります。文献
の幅を広げれば、指数関数的にかかる時間は増えます。リサー
チ時間を短く、その分、書く時間を増やした方が適切な場合が
おおいでしょう。

Q10
会社法499条1項の公告および催告について質問させてください

 
 清算株式会社は、債権者に対し、2ヶ月以上の一定の期間内
にその債権を申し出ることを官報に公告し、かつ、知れている
債権者には格別にこれを催告しなければなりません。(499条1
項)
 しかし、499条は449条3項のように、官報のほか定款の定め
にしたがう公告をすることで催告を省略する旨の規定を有しま
せん。
 このような違いはなぜ生じるのでしょうか?ご教授いただけ
れば幸いです。

投稿 maru | 2007年7月12日 (木) 00時34分
A10
499条の催告は、大事だからです。

Q11
子会社の総務系で働いているものです。今度グループ再編ということで、100%子会社間数社で合併をすることを予定しております。そこで、会社法の基本を学ぶために、「会社法マスター115講座」で勉強しております。
その235ページで、吸収型再編の「当事会社の数」で「必ず2会社間で行われる」とありますが、合併の場合、これについて、条文の定めなどはあるのでしょうか。数社間で合併の場合は、まとめてひとつの契約ということは、できないのでしょうか。
基本的な質問で申し訳ありませんが、実務的には違いがでてくる問題ですので、教えていただけますか。
投稿 総務経理部 | 2007年7月12日 (木) 11時41分
A11
吸収合併ですから、消滅会社と存続会社の2当事者で物事を取り決めなければ、実務的にもうまくいかないと思います。
もちろん、存続会社1社と、消滅会社2社の合計3社で、一枚の契約書を作成し、存続会社と消滅会社A、存続会社と消滅会社Bの2個の合併契約を締結することは可能です。
Q12
新株予約権の権利行使時の払込価額をゼロ円と定めることは可能でしょうか。また、この権利行使価額をゼロ円とすることについては特に株主総会の特別決議は不要と理解していますがよろしいでしょうか。払込価額をゼロ円としてしまえば、現物による払込の場合に要求される検査役の調査(会社法281条3項)を普通決議で回避できてしまうような気がしたため、質問させていただきました。ご教示いただけますと幸いです。
投稿 moyoko | 2007年7月13日 (金) 02時46分
A12
行使時の払込価額を0円にすることはできません。

Q13
種類株式について教えてください。
108条1項9号の取締役選任権付種類株式の発行は公開会社では発行できない趣旨は理解できるのですが、
108条1項8号の拒否権付種類株式で、当該種類株式の決議事項(108条2項8号イ)を取締役選任について定めると実質的に公開会社でも9号に近い種類株式を発行できることになると考えられます。(8号の種類株式保有者の意見が反映されるまで決議が成立しないという意味で)
そうなると、9号が公開会社では発行できない趣旨が没却されると思います。
そこで、なぜ、拒否権付種類株式が公開会社でも発行できるようになされたのですか?
投稿 ToTAN | 2007年7月14日 (土) 01時53分
A13
それは、政策的な判断という以上のものはありませんね。
理屈じゃありません。

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2007年7月10日 (火)

ブルドック高裁決定(1)

ブルドックの抗告審の決定が出ました。

大杉先生のブログ(http://blog.livedoor.jp/leonhardt/archives/50236807.html
磯崎さんのブログ(http://www.tez.com/blog/archives/000944.html
で、この決定について触れられていますが、私も、メモがわりに簡単に高裁決定について触れてみます。

抗告審における最大のサプライズは
  スティールを濫用的買収者と認定したこと
です。
 もっとも、この「濫用的買収者」概念については、頭を整理しないと、うかつなことが言えないところなので、本日は、それ以外の部分、つまり、高裁決定における防衛策の適法性判断の構造について、概観してみたいと思います。

さて、抗告審は、地裁決定と同様、ブルドックの買収防衛策の適法性を認めましたが、その論理は、地裁決定と異なっていました。

一言でまとめれば
  地裁決定は、株主総会の意思を尊重し、裁判所の裁量の範囲を限定したのに対し、
  高裁決定は、必要性・相当性という規範の中で、裁判所の裁量(解釈の幅)を広げた
ということができるのではないでしょうか。

すなわち、地裁決定は、「株主総会の特別決議+適正対価」という要件を満たせば、
   総会の判断が著しく不合理でない限り
総会の判断を尊重すると考えていたのに対し、高裁決定は
 ①買収防衛策は、合理的な事情がある場合には是認される
 ②手段としての新株予約権の適法性は、買収者の属性及び被買収者の属性も考慮の上、公開買付けの態様と対比し、買収防衛策を導入すべき必要性の存否、買収防衛策としての相当性の存否について検討の上、相対的に判断すべきである
という規範を定立したのです。

 この規範は、それ自体、至極もっともな規範なのですが、裁判官が、ケースごとに必要性と相当性を判断することができるというのは、当事者サイドとして、やっかいな面をもっています。規範が抽象的であるため、予測がつきにくいのです。

 しかも、今回の高裁決定は、前記の規範を前提とした上で
    スティールは濫用的買収者である(買収者の属性)
と認定し、それを軸に対抗手段としての必要性、相当性を論じており
    濫用的買収者である以上、必要性・相当性は、ある程度、緩やかに判断して良い
という論理で、ブルドックを勝たせていますから
    濫用的でない買収者
に対する防衛策の適法性については、何も判示していません。

 今回の高裁決定では、スティールの過去の買収事例や質問回答報告書等から濫用的買収者だと認定したのですが、スティールほど目立っていない買収者で同じ認定をもらう自信のある法律家は少ないはずであり、本件で買収者の属性が強調されれば、されるほど、他の会社の買収防衛策について適法性が問題となった場合に
  濫用的でない買収者に対しては、必要性・相当性が、ブルドックよりも、厳格に判断されることになるのだろうか
という点は心配になります。

 というのも、今回のブルドックの防衛策は
  株主総会の特別決議+適正対価
という、大変、高いハードルを乗り超えてきたものであるからです。
 正直言って
 「濫用的でない買収者に対しては、ブルドックよりもハードルを高くしろ」と言われても、何をやって良いかよく分かりません。

 ですから、買収防衛策を設計する立場からすれば、裁判所が

「今回の事件は、濫用的買収者が相手だったから、本当は、ブルドックさんほど買収者に配慮しなくても、勝てたんだよ」

と言ってくれていると助かるのですが、決定文を読む限り、高裁は

 ①少なくとも株主総会の特別決議を経て導入されたものであること
 ②新株予約権の譲渡により、新株予約権1個につき396円の交付を受けることが予定されており、本件新株予約権無償割当ては、スティール側に対し、「その不当性の程度との相関関係からすると過度の財産的損害を与えるののとはいえないこと」
 ③スティール以外の株主の利益という観点からは、同株主がこれを受忍していること

を理由としているので
  ブルドックはスティールに配慮しすぎ
ということまでは、言っていないようです。

 もっとも
  「不当性の程度との相関関係」
という言葉や

  「前記認定に係る事情の下でされた買収防衛策としての本件新株予約権無償割当てが経済的利益の観点から相当性を有するためには、防衛の趣旨、目的を超え、抗告人関係者に過度ないし不合理な財産的損害を与えないことで足りる」

  「本件の経緯に照らしてみると本件においては、この価格より低額であったとしても買収策としての相当性を欠くものではないとの評価も考えられる」

という判示内容からすれば

 「濫用的買収者ならば、少々の財産的損害を与えてもよい」

という論理は採用しているようです。

そこで、防衛策の適法性のレベルを検討するために、マトリクスを作ってみました。 「boueisaku.xls」をダウンロード

 マトリクスに書いたように、ブルドック高裁決定を前提としても、他の事例において

 「濫用的でない買収者に対しても、財産的損害を与えない防衛策は適法である」

というルールを採用する余地は残されていると考えられますが、

 「濫用的買収者に対して、株主総会の特別決議なしで、どの程度の財産的損害を与えられるか」
 「濫用的ではない者に対して、財産的損害を与える防衛策が可能か」
 「濫用的ではない買収者に対して、財産的損害を与えない防衛策を発動する場合、株主総会の特別決議は不要か」
という点については、今回の決定からは読み取ることができません。

 結局、高裁決定は

 「濫用的買収者に対する差別的取扱いは、無限定なものであってはならず、買収者以外の株主に不測の損害を与えてはならないから、買収防衛策として相当なものであることが必要である。この相当性を検討するに当たっては、買収防衛策を導入するに至った経緯及び手続、濫用的買収者あるはその他の株主に与える不利益の程度、当該買収に及ぼす効果等に買収行為の不当性の程度等を総合的に考慮すべき」

と判示していますので、個々の事案ごとに総合的に判断するしかなく、そこが、最初に申し上げたように、裁判所の裁量が広くなったと感じる点です。

 私は、東京地裁の決定の中で

 株主総会の決議に基づく新株予約権無償割当てについては、濫用的ではない買収者に対する発動であっても、適法とされる場合がある

と正面から認めた点を高く評価していましたが、高裁決定は、スティールを濫用的買収者と認定したため、その規範が存在するかどうかは、よく分からなくなりました。

 また、東京地裁決定のうち

 株主総会としては、買収者による経営支配権の取得が企業価値を損なうおそれがあると判断する場合には、株主全体の利益保護の観点から相当な対抗手段を採ることが許容され、その対抗手段の必要性の判断については、原則として、株主総会に委ねられるべきであり、当該株主総会の判断が明らかに合理性を欠く場合に限って、対抗手段の必要性が否定される。
という論理は、高裁決定では採用されませんでした。

 私は、以前の記事で、地裁決定のその部分について

 「非常に良い線だと思いますが、この規範を、理論的にどう位置づけるかは、少し考えたいところです」

とコメントしましたが、高裁も、その規範をそのまま採用してはくれなかったようです。

 高裁決定は、はじめて正面から「濫用的買収者」という事実認定をした点で画期的なものですが、他方
 「濫用的買収者ではない場合に、どうやったら適法になるのか」
という点は、今後の宿題として残されました。

  高裁決定は、裁判所の裁量を広げた分、論者によって、東京地裁決定よりも、ハードルがあがったと見る人と、下がったと見る人に分かれそうです。

 私は、高裁決定の理由を見る限り、東京地裁決定よりも、適法と認めるためのハードルが上がった(少なくとも、下がってはいない)ように思っていますが、「よく分からなくなった」というのが一番正確なのかもしれません。

 いずれにしても
「濫用的買収者に対する防衛手段の必要性・相当性」
については、一定の基準ができたのですから、各企業は、自社の買収防衛策の適法性を、この基準に照らして再考せざるをえないと思っています。

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2007年7月 8日 (日)

【入門】株式譲渡自由の原則(4)

ブルドックやら、司法試験ネタで、中断していた株式譲渡自由の原則の続きを
やりましょう。

株式譲渡自由の原則は、株主の投下資本回収手段を確保するために重要な原則
ですが
 「法律による制限」
 「定款による制限」
の2種類の制限があるというお話をしました。

今日は、法律による制限について、お話しします。

法律によって株式譲渡自由の原則が制限される場合を、さらに2つに分類する

(1)株券発行前の譲渡に対する制限
(2)会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限
に分けられます。

(1)株券発行前の譲渡に対する制限

 最初に「株式」と「株券」を区別することからはじめましょう。

「株式」というのは、株主が会社に対して持っている「権利」のことであり、
目に見えないもののです。

 「株券」というのは、株式という権利を流通させるための有価証券(=紙)
です。
 株券は、すべての会社について発行されるものではなく、株式会社は、定款
で「株券」を発行するかどうかを決めることができます。

 そのため、株式という権利を譲渡する方法としては
  ① 定款に「株券」を発行する旨の定めがある場合
       ・・・契約+株券の交付(128条1項)
    ②その定めがない場合
         ・・・契約のみ(ただし、株主名簿の名義書換が第三者対抗要
    件)
という2つのパターンがあります。

 この要件だけを見ると、株券を発行する会社の株式の方が、株券の交付が必
要な分だけ、譲渡がしにくいようにも見えますが、第三者対抗要件の具備まで
含めて考えると、
    株主名簿の名義書換をしなくても、株券の交付だけで第三者対抗要件が具
    備できる
いう点で
  株券発行会社の株式の方が流通させやすい
ということができます。

 しかも、株券発行会社の株式ならば、無権利者と株式売買契約をしても、善
意取得できますから、株式が欲しい人にとっては
  株券の交付さえ受けていれば、安心して株式を取得できる
ということができます。

以上の理解を前提に、株式譲渡自由の原則の例外と言われる128条2項を見
てみると、

「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。」

と規定されています。

 先ほど説明したように、株券発行会社の株式は、株券の交付によって、権利
移転が生じますから、株券の発行前に株式を譲渡しようとしても
   株券の交付ができません
から、本来、権利移転の効力は生じないはずです。

 それにも、かかわらず、なぜ128条2項のような規定が置かれているので
しょうか。

 この点について、反対説は
 
 株券は「有因証券」であり、株券を発行しなくても、株式はすでに成立して
いる。
 そのため、株券の発行前は、本来、意思表示によって、株式を譲渡すること
ができるはずである。
 しかし、株券発行前の譲渡を認めると、株券を渡す相手がどんどん変わって
しまうから、事務処理が大変である。
 そこで、128条2項は、会社の株券発行事務の渋滞を避けるために、会社
に対する対抗要件を定めたものにすぎない。

ということを考えているようです。

 しかし、この反対説は、次のような問題点をはらんでいます。
 
(1)128条1項は、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券
を交付しなければ、その効力を生じない。」と規定しているが、同項は、条文
上、株券の発行の前後を問わず、適用される。
 とすると、「株券の発行前は、意思表示によって株式の譲渡ができる」とい
う前提が間違っている。
(2)新株予約権証券や社債券も有因証券であるが、128条2項のような規
定はない。その考え方に立つと、新株予約権証券や、社債券が発行される前に
、意思表示でどんどん譲渡していいことになってしまう。
(3)反対説は「第三者対抗要件」をどう考えるか不明である。論理的には、
株券発行前の株式を指名債権ととらえ、確定日付ある証書による通知又は承諾
とすることになろうが、そうすると、株券の発行前の譲受人と発行後の譲受人
が存在する場合の対抗関係の処理がよく分からなくなる。

 (3)は、わかりにくいので、例をあげて説明しましょう。

 株式会社正直法務が、松真さんに新株を発行しましたが、株券の発行前に松
真さんは、湯水さんに株式を譲渡し、正直法務に対し、確定日付ある通知をし
たとします。
 正直法務は、128条2項があるので、そんな通知を無視して、松真さんに
株券を交付したところ、松真さんは、法曹川さんに、その株券を譲渡しました
。法曹川さんは、松真さんが湯水さんに株券発行前に譲渡したことは知ってい
ましたが、確定日付ある通知をしたことは知りませんでした。法曹川さんは、
「株券発行前だから譲渡は無効なはずだ」と思っていたのです。

 以上の事例で、仮に、株券発行前に譲り受けた湯水さんが、法曹川さんに勝
つということになると
        法曹川さんは、株券を譲り受ける前に、正直法務に、自分に優先
    する譲受人がいるかどうかを確認しなければならない
というルールを採用したことになってしまいます。

 もし、そんなルールになると、株券を譲り受ける人は、皆、その確認をしな
ければならなくなり、「株券の交付を受ければ、安心して株式を取得すること
ができる」という株券制度の目的を達成することができなくなってしまいます

 他方、悪意の法曹川さんが勝つというルールだとすれば、株券発行前の湯水
さんは、第三者対抗要件を備える方法がないということになりますが、これで
は、「128条2項は、対会社対抗要件の問題にすぎない」という反対説の前
提と矛盾します。だって、128条2項は、松真さんと湯水さんとの間で第三
者対抗要件を備える方法がないという法的効果も導いていることになりますか
ら。

ということで、どうも、株券発行前の株式の譲渡は
   対会社対抗要件の問題ではなく、
   権利移転の効力の問題
ととらえる方が合理的だと思います(条文も「その効力を生じない」となって
います)。つまり、128条2項は、1項から導かれる効果を注意的に規定し
たものと考えるわけです。

ただし、株券発行会社が、株主が株券の発行請求をしたにもかかわらず、不当
に株券を発行しなかった場合には、会社は、信義則上、株券の交付が欠如して
いることを理由に株式の譲渡の効力を否定することはできないと考えるべきで
しょう。

なお、以上の説明から、よくよく考えてみると、128条2項は
 株式譲渡自由の原則の「例外」
というのは適切ではないと思いませんか?

 手形を譲渡するときに、手形の交付が必要なことを、譲渡の「制限」とは言
わないのと同じように、128条2項は、譲渡自体を制限していないので、本
当は、「例外」というのは、不適切なのだと思います。

しかし、伝統的に「例外」に分類されているので、ここでも、一応、「例外」
扱いしてきます。

(2)会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限

 会社又は子会社が譲渡・取得の主体となる場合の制限は、

a 会社又は子会社が取得する場合(買い手)
b 会社が自己株式を譲渡する場合(売り手)
 (子会社が親会社株式を譲渡するのは、制限がありません)

に区別できます。

 aは、資本の空洞化を防止する観点から課される制限
 bは、会社が新株発行手続きを潜脱しないようにするための制限
です。

aも,bも、会社法において、非常に重要なところなのですが、他で詳しく説明
しますから、ここでは、説明を省略させてもらいます。

では、また。

(質問コーナー)
Q1
防衛策は「理論的には抑止力にならない気がするのですが。」という私の質問
に対して、
「①時間稼ぎにはなりますし、②8割の株主が防衛策に賛成したとなると、
TOBをかけても売り手がいないのではないかと思わせる政治的効果があります

とお答え頂きありがとうございます。

ただ、①についてはあまりに費用対効果が悪すぎますし(防衛策の目的が「交
渉のための時間稼ぎ」という点にあるのはよく言われることですが、発動効果
も「時間稼ぎ」の効果しかないという防衛策では、買収者との交渉材料にすら
使えない気がします。その割には、コストがかかりすぎると思います。)、②
については、むしろ防衛策発動の必要性を失わせる理由になるのではないかと
思います。そういう意味では、今回のブルドックの防衛策自体の効果は、「導
入のセレモニーを通じて、スティール死ね死ねモードを盛り上げた」という効
果があったにすぎないように感じるのですが、いかがでしょうか。

また、それだけの効果しかない防衛策であれば、そもそもスティールの訴えに
は保全の必要性がないことが明らかのような気がします。

投稿 paripasu | 2007年7月 1日 (日) 21時18分
A1
防衛策は、多分に政治的効果をねらって導入発動するものですから、費用対効
果は、あまり気にならないのでしょう。

Q2
早速質問ですが,ロー生はとにかく答案を書く量が少ないので,たくさん書け
とおっしゃっていたと思います。
これは,書くことが分からないような純粋未修者にも共通するのでしょうか。
参考答案の丸写しでもいいから書いたほうがいいのでしょうか。

また,葉玉先生が純粋未修者と仮定して,先生なら3年間を通じてどのような
自主ゼミ(生徒のみで組織)を組んで,どのように活動していきますか?具体
的にお答えいただければ幸いです。
お手数をおかけいたしますが,ご教授の程,よろしくお願いいたします。

投稿 絶対合格! | 2007年7月 2日 (月) 13時29分
A2
純粋未習であろうと、書いてみることです。
同じ問題を合格するまでに3回も4回も書きましょう。
見ながら書く丸写しは、駄目です。
まず、参考答案を読んで、その後、何も見ずに書くのはOKです。
自分で考えながら、書きましょう。

なお、3年間のカリキュラムをここで書くのは難しいので、また今度。

Q3
株式交換完全子会社に対する株式買取請求について、書き込ませていただいた
ものです。

丁寧にご回答していただき、ありがとうございました。

私の理解では、以下の通りたったのですが、よくわからないので再度確認させ
てください。

反対株主⇔株式交換完全子会社:
反対株主には、株式を引き渡す義務+対価をもらう権利(協議or裁判所で価格
決定)が生じる。要するに、株式は一瞬自己株式になる。

株式交換完全子会社⇔株式交換完全親株式会社:
株式交換完全子会社が自己株式(反対株主から取得した株式)を保有している
ので、株式交換完全子会社を株主として、株式交換完全親会社の株式(金銭等
)が割り当てられる。要するに、上記自己株式は、親会社に移転するとともに
、株式交換完全親会社の株式が株式交換完全子会社に割り当てられる(株式交
換も効力発生しているので。また、こう考えないと、当該株式交換により完全
親会社が発行すべき株式の数が変わってくる。)。

なので、反対株主は、「原則としては代金をもらう。786条3項の撤回をしたと
きは、代金を返して(or代金請求権を失って)、株式交換完全子会社が保有す
る親会社株式をもらう。」と考えております。

投稿 ぞう | 2007年7月 2日 (月) 15時26分
A3
一番、最後の「なので」と言うところが、問題なのだと思います。
つまり、株主は、買取請求をすることで、完全子会社との間で、完全子会社株
式の売買契約を締結したのと同じ効果を生じます。
 これを撤回するということは、完全子会社は、本来、株主に「完全子会社株
式」を返還すべき義務を負うということです。
 普通に考えれば、完全子会社は、完全子会社株式を返還することが履行不能
になっていますので、これが金銭返還義務に転化することになると考えるので
はないでしょうか。
 ぞうさんは、ここで、で「親会社株式」を返還する義務を負うと考えている
のですが、なぜ、そこで「親会社株式」になるのでしょうか?

Q4
見せ金による払い込みは無効で、これが会社の設立段階では、設立無効原因に
なります。
では、これが募集株式の発行の場合、株式会社の成立後における株式の発行
(828条1項2号)の無効原因になりうるでしょうか。
旧商法下の判例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrch
Kbn=02&hanreiNo=25537&hanreiKbn=01
の(四)は、会社法の下でどう考えれば宜しいでしょうか。
投稿 去年商法C | 2007年7月 3日 (火) 01時06分
A4
その判例自体を変更する必要はないと思います。

Q5
葉玉先生。
初めまして。
僕は司法試験ではないのですが、弁理士試験の勉強をしています。
葉玉先生の勉強法を参考に初心者の僕は、刺激を受けています。
基本的な質問で、申し訳ないですが
法律の勉強の仕方・条文を読む上で注意すべきこと
是非アドバイス頂ければと思いコメント書きました。
是非アドバイス宜しくお願いいたします。
投稿 ガンバ | 2007年7月 3日 (火) 12時16分
A5
会社法100問の最後の方にある勉強の仕方を読んでください。
詳しく書いています。

Q6
会社法の条文について質問させてください。
「支配人の競業の禁止」(会社法12条)については、
「支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為〔ニ 自己又は第三
者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。〕をしてはならない。

と規定されており、他方、取締役の「競業(および利益相反取引)の制限」(
会社法356条)については、
「取締役は、次に掲げる場合〔一 取締役が自己又は第三者のために株式会社
の事業の部類に属する取引をしようとするとき。〕には、株主総会において、
当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」
と規定されており、その体裁が異なっているように思います。

これには理由があるのでしょうか?

両者は対偶関係(許可がない→競業取引ダメ⇔競業取引をする→許可がいる)
にあり、実質的には同じことを言ってるような気もするのですが、支配人の場
合は競業取引は原則ダメといっているのに、取締役の場合はそうはいっていな
いので、取締役の場合は、少なくとも会社法上は「競業<避止>義務」なるも
のは観念できない(そのため、356条も「禁止」ではなく「制限」としている
)のかと思っていたのですが、100問をみると、普通に「取締役の競業避止
義務」という言葉が使われており、どうもこの理解は誤っている気がします。

長くなりましたが、
①支配人の競業の禁止と取締役の競業の制限の条文の体裁が異なる理由
②取締役に競業「避止」義務はあるのか
③競業「避止」義務違反があるとすると、その違反行為に対して、会社自身が
、直接会社法上の条文を根拠として差止請求をすることができるのか(360条
、385条による差止請求を除く)
という点について、よろしくご教授願います。

投稿 さる | 2007年7月 4日 (水) 05時56分
A6
①使用人と役員の違いを踏まえた、伝統的な表現の仕方の違いで、実質はそん
なに変わらないと思います。
②取締役も、株式会社の事前承認を得る必要があるので、避止義務はあるので
しょう。
③直接の差し止めというのは、ちょっと根拠が弱いかな。委任契約の内容にな
っていると考えれば、契約上の義務履行として差し止めはできると思います。

Q7
失念株がらみで、ご教授ください。
剰余金配当について、当事者意思が不明確な場合、民法575条1項を類推す
る、というくだりです。
民法の知識で言えば、575の趣旨は果実と利息と管理費などの簡易決済のた
め認められた規定であり、バランスが崩れたら、すなわち金払った場合には5
75条い1項は適用されず、果実は買い主の物になると思います。
とすれば、同条類推ならば、失念株主が譲渡人に支払いを済ませていれば配当
金は失念株主のものになると考えるのが素直と思いますが、如何でしょうか?
(そう書いても間違いではないでしょうか?)

投稿 択一通りました | 2007年7月 4日 (水) 22時36分
A7
それも、一つの考えです。

Q8
種類株式発行会社における会社法188条3項及び191条に関する質問です。
ご教授の程お願い申し上げます。

①普通株式と、配当優先株式(議決権なし)を発行している種類株式発行会社
(公開会社)において、会社法第115条の措置のために普通株式のみ株式分割
(1株→2株)と同時に単元株式数設定(2株を1単元)の効力発生するよう
第191条に基づき取締役会で定款変更決議をし、配当優先株式についてはなん
ら変更を加えなかった場合、普通株式についての単元株式数設定による定款変
更の効力は発生しないのでしょうか。
会社法第188条3項では単元株式数は全ての種類株式に設定しなければならない
とされています。

②①の説例で、第188条3項の文面どおり優先株式についても単元株式数を設定
する必要があるならば、1単元を1株とせざるを得ません。(商法時代の法務
省民事局商事課の商業登記事務取扱のQ&Aに同様の解釈があります)
普通株式については①のとおり、株式分割と同時に単元株式数を設定し、優先
株式については株式分割をせずに1単元を1株とする単元株式数を設定する場
合は、191条の適用はあるのでしょうか。
191条は株主にとって明らかに不利益が発生しない定款変更にまで、株主総会
の特別決議を求める必要がないと理解しているのですが、そうであれば本件説
例の場合も取締役会の決議をもって定款変更は可能と考えますがいかがでしょ
うか。
投稿 seiquro | 2007年7月 5日 (木) 13時48分
A8
なかなか悩ましい問題ですね。
①は、形式的に考えると、各種類について単元株式数を定めていないとすると
、191条の要件を満たさないと考えるんでしょうね。

なお、方法とししては、優先株式について、1:1.00000000000
001の株式の分割をすることが考えられますが、そんな姑息なことをするく
らいなら、正面から、分割も単元株式数の設定もなしでいいと考えたいところ
ですよね。でも、なかなか難しいです。

Q9
株式会社の発起設立において、設立時取締役の報酬を発起人会ないしは発起人
全員の同意で決めることはできませんか?
投稿 中小企業の味方 | 2007年7月 6日 (金) 00時09分
A9
定款で決めればできます。

Q10
最近会社法の勉強をはじめたばかりのものです。会社法199条4項や200条4項が
具体的に適用される場面がイメージできません。会社法の本は高いので本屋で
立ち読みしますがこの点を具体的に記述している本はないようです。第三者割
り当てにおいて種類株主総会の特別決議がいる場合とはどのような場面なのか
恐れ入りますがご教示ください。(できれば非公開会社と公開会社の場合の両
方についてくわしくおねがいします。)当該種類の株式は譲渡制限株式のこと
なのでしょうか。
投稿 初心者 | 2007年7月 6日 (金) 11時48分
A10
会社法の勉強をするのなら、高くても会社法の本を買わないといけないと思い
ます。
とりあえず、種類株主総会を詳しく勉強するより、もっと別のことを勉強しま
しょう。

Q11
監査委員の兼任禁止規定について教えてください。「当該会社の執行役又は業
務執行取締役」と監査委員の兼任が禁止されていますが当該会社の業務執行取
締役つまり委員会設置会社の業務執行取締役とはどういう意味なのでしょうか
。原則的に委員会設置会社の取締役は業務執行できないので取締役が執行役を
兼ねている場合のことですか。ご教示ください。よろしくお願いいたします。

投稿 初心者 | 2007年7月 7日 (土) 23時45分
A11
委員会設置会社の業務執行取締役は、取締役と執行役を兼ねている場合や、取
締役が違法に業務執行をした場合等です。

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2007年7月 1日 (日)

司法試験関連2題

今日は、司法試験関係で、2つお話しします
<第一の話題 旧司法試験の論文試験期間中の過ごし方>

旧司法試験は、もうすぐ論文試験ですね。

hkさんから
「私は、今年が論文初受験であるので、正直不安でいっぱいです。模試も受け
る予定でいますが、当日の過ごし方(休憩時間の過ごしかたや、試験時間中の
2時間での注意、心構え)といった、当日の立ち振る舞いについて、時間・コ
ンディション管理のプロとしてアドバイスをいただけないでしょうか?」とい
うご質問をいただきました。

試験というのは、準備と本番の両方がうまく行って、はじめて合格することが
できます。準備については、これまで散々記事に書いてきたので、そちらを見
てもらうとして、今日は、当日の過ごし方について、ちょっとお話ししましょ
う。

試験当日は、基本的には、出された問題を、時間内に、黙々と解くのが受験生
の仕事です。

当日の朝は、いつもどおりに早起きし(いつも早起きしていない人は、少なく
とも今から早起きのくせをつけましょう)、その日のために準備してきた自分
のノートを簡単に見返しましょう。

1時間で全部を見渡せるノートは、今、手許にありますか?
分厚いノートや教科書を使っているのなら、試験日の朝に、どこを見るのか、
今から付箋を貼っておきましょう。

難しいことはやらない。基本的な定義を声に出してよむだけでも十分です。

脱時空勉強術でも書きましたが、情報が自分に定着しているかどうかが重要で
あり、試験当日に詰め込んだような知識は何の役にも立ちません。

試験日に向けて、たくさんのINPUTとOUTPUTを繰り返してきたのですから、そ
の努力を信じて、答案用紙の最初の行の書き出しに詰まらないようにするため
に、基本的なことだけ、記憶喚起しましょう。

試験中は、次のことだけに気をつけ、平常心で答案を書きましょう。

1 答案用紙を間違わない。

 実際には間違えなくても、「間違ったかもしれない」という不安にとりつか
れると、以後の試験に集中できなくなります。
 答案用紙を間違わないためにも、1問、2問と順番に解くべきです。
 2問の方が簡単そうだと思っても、本番で書く順番を変えたりしない方が安
全です。

2 問題をよく読む。
 特に事例問題では、事例を取り違えないようにしましょう。
 図を書いて、当事者の関係を整理した上、もう一度、問題文と図を見比べま
しょう。
 問題文がアルファであり、オメガです。問題になっていないことを答えても
、点数はつきません。

3 時間をよく管理する。
 答案構成をはじめて15分たったら、必ず、書き始めましょう。
 本試験は、「間違えちゃいけない」「論点落としをしちゃいけない」という
プレッシャーが大きいので、書き始めるのに、いつも以上に勇気が必要になり
ます。
 しかし、答案構成で悩んでいても時間がかかるばかりです。とりあえず、書
き始めて、最後まで書き進めましょう。
 途中で論点落としに気がついたら、最後まで書き上げた後
    「なお、2の(3)で、・・・という点も問題となるので、付言する」
    とでも書いて、つけたせばいいのです。
    書かないよりは、ましです。
 
休み時間は、次の科目のことだけ考えましょう。提出したら、書き直せません
から、悩んでも無駄です。

あなたが、どんなにがんばっても、必ずあなたの答案には間違いがあります。
どんな人でも必ず間違いがあります。
間違いがあったから、必ず落ちるというわけではありません。

だから、間違いに気づいても、次の試験のことを考えましょう。

私の経験では、間違いに気づかない人、「俺は完璧に書けた」と思っている人
の方が、落ちます。

間違いに気づいたと言うことは、自分が冷静に問題を解けた証拠と思って喜ん
でください。
どんなに深刻な間違いがあっても、試験が終わるまで、心を折ってはいけませ
ん。途中から、試験を放棄するなど言語同断です。

過去の間違いに拘泥せず、前に前に進みましょう。

どんな優秀な人でも、試験中に「駄目だあ。もう落ちた。」と思う瞬間があり
ます。
そのときに「でも、やるしかない。」と開き直れるかどうかが合否を決めます

投げやりにならず、健気にがんばる。当たり前のことを当たり前にやる。
受験生にできるのは、それだけです。

神様は、健気な子供が好きです。

そう信じてがんばってください。

<第2の話題 漏洩問題>
 次に、あまり健気ではない感じの話題が、新司法試験でありました。

 新司法試験の考査委員の植村教授が解任されるという事件です。
 以前、このブログにも書き込みがありましたが、私は、事実関係を知らない
のに軽々にコメントすることができないと思い、差し控えていました。

 私が受験生時代から、「試験委員の誰それが、ゼミでここを重点的にやって
たから、ここが出るかもしれない」という類の話はあったものの、報道されて
いる事実が真実だとすると、前代未聞であり、解任は当然の処置でしょう。

 直接の漏洩行為はなかったということですが、植村教授が生徒に流した情報
を全て開示して、本試験の問題と比べられるようにし、国家公務員法違反の事
実がなかったかどうかを国民の目で確認できるようにした方がよいのではない
でしょうか。

 他方、今回の事件が「答案練習会」自体の自粛につながらないか、という点
は少し心配しています。

 植村教授は、考査委員だったから問題なのであって、もし考査委員でなかっ
たら、教育熱心ないい先生だと思います。実際、今回問題になっている問題が
、100問書かせたうちの1問なら、私は、もしかしたら植村教授を庇うかも
しれません。

 現在のロースクール生の多くに欠けているのは、「書く量」「解く量」です

 1つの事例について深く勉強しても、リーガルマインドは身につきません。
 たくさんの事例について分析し、自分の意見を実際に書いてみる。
 この訓練なくして、法律を自分のものとして定着させることはできません。

 私達が、新・会社法100問という本を出したのは、様々な事例についてプロ
の分析手法と考え方を示し、学生が自分のそれと比べ、学ぶためです。

 答案練習会というと、予備校的な香りがするせいか、それとも手間がかかる
せいか、ロースクールでは敬遠される傾向にあると聞きます。
 しかし、それは、大きな間違いです。

 裁判官は、先輩の判例を参考にしながら、沢山判決を書くことによって、立
派な判決を書くことができるようになります。
 検事は、先輩の調書を参考にしながら、調書を沢山取ることによって、調べ
の結果を正確に反映できる調書を作ることができるようになります。
 省庁の役人は、先輩の作成した資料を参考にしながら、資料を沢山作ること
によって、簡にして要を得た資料を作成できるようになります。

 実務に出れば、誰でもやることを、ロースクール生にやらせることの何がい
けないのでしょうか。
 答案練習会というのは、司法試験に合格するためだけにやるのでもなければ
、まして「山当て」のためにやるものでもありません。
 法律家としての文章作成能力を身につけるためにやるのです。
 
 今回の事件がきっかけで、慶応で答案練習会が開かれなくなったとしたら、
教育機関としての慶応の能力は大きく後退するでしょう。
 また、今回の事件を受けて、他のロースクールでも答案練習会禁止の動きが
広まるとすれば、もう新司法試験の資格として、ロースクール卒業を要求する
のを止めてしまった方がよいと思います。

 ただでさえ、今、新司法試験の合格者の質が問われています。

 旧司法試験の択一の問題と、新司法試験の択一の問題を比較してみてくださ
い。
 新司法試験の択一の方が圧倒的に簡単なのは、法律をかじったことがある人
にはすぐ分かります。
 それにもかかわらず、新司法試験の合格点の方が、旧司法試験の合格点より
も遙かに低いのです。

 同じ資格を得る手続きであるにもかかわらず、このような不公平が起こって
いることを、司法試験に関わっている人が、皆、重く受け止める必要があるの
ではないでしょうか。

 ロースクールの卒業生が、旧司法試験を受けても合格できるような状態にな
っていないとすれば、ロースクールの教育機関としての能力が問われることに
なりかねません。

 私は、予備校講師時代から、山当てが嫌いであり、実際に沢山の受験生が
「直前にやったところがでたので、楽勝でした」
と言っていたのに、悲惨な成績を取った姿を見てきたので、植村教授の行為に
よって受験生の合格率が飛躍的にあがるというようなことはないと思っていま
す。
 司法試験は、そんなに甘いものじゃありません。
 社会の信頼を損ね、不公平感を惹起させたのですから、植村教授に対してペ
ナルティーが加えられるのは当然ですが、それにより、試験に関わる者全体の
モラルが高まれば、雨降って地固まるということで、それなりに良い効果も生
むでしょう。

 ただし、今回の処分が、ロースクールの教育方法について妙な萎縮効果を与
えれば、その存在意義にも関わるということは意識しておくべきでしょう

(質問コーナー)
Q1
清算株式会社は、かつて取締役会設置会社であっても、監査役会設置会社又は
定款の定めがない限り、清算人会設置会社とはならない理由は、
「清算人会設置会社にすると、清算人を3人以上置かなければいけないとか、
面倒くさいから」
という先生のお答えでしたが、それでは、監査役会設置会社が清算人会の設置
が義務付けられる理由はなぜなんでしょうか?面倒であることには変わりがな
いわけですから、なにがしら理由があると思うのですが…
投稿 リアル初心者 | 2007年6月26日 (火) 03時22分
A1
論理的には要らないと思いますが、監査役会で3人以上も監査役がいるのに、
清算人が1人2人じゃ寂しいという理由で、義務づけられました。

Q2
営利法人としての目的は、利益を上げてかつ分配するという「ポンプ的な目的
」であり、定款所定の目的は、定款に設定しつつも「目的達成に必要となる範
囲に開く」という「パラソル的な目的」である・・・と理解しなければならな
いとすると・・・
100問の67の第一段落については、
「会社は、出資者である株主や社員が出資した財産を運用して、その得た利益
を株主や社員に分配するコトを目的とするという意味で、(そのポンプ的目的
の範囲において)営利法人であり、会社は、定款所定の目的の達成に必要とな
る(そのパラソル的目的の)範囲内においてて権利能力を持っている。」
と、書き換え可能でしょうか?
投稿 至誠丸 | 2007年6月26日 (火) 12時12分
A2
ポンプとパラソルは止めた方がいいと思いますが、その他はいいと思います。

Q3
株式交換時の株式交換完全子会社に対する反対株主の株式買取請求(会社法第
785条第5項)について質問させてください。

反対株主が、事前「通知」と総会における「反対」を行い、適法に株式買取請
求権を行使した場合、効力発生日に株式譲渡の効力が生じます(会社法第78
6条第5項)。

この効力発生の効果は、当該反対株主の株式交換完全子会社に対する債権(価
格は協議又は裁判所の決定)、と株主たる地位の移転(自己株取得)であると
考えられます。

【質問1】
かかる株主たる地位は株式交換完全子会社に移転したと同時に、株式交換完全
親会社株式に変わると理解して問題ありませんでしょうか。

「新・会社法 千問の道標」682頁 Q917の回答では、「当該請求をし
た完全子会社の株主が有する株式は、その効力発生日に完全子会社を経て完全
親会社に移転することとなる。」という表現がありましたので、「完全親会社
に移転する」の意味がわからず、少し混乱した次第であります。株式交換の場
合は、上のような理解でよいのですよね。

【質問2】
協議不成立で、申立てもなく、買取請求が撤回された場合は、株式交換完全子
会社は、原状回復として、当該反対株主請求をした者に株式交換完全親会社株
式(株式交換完全子会社株式に代えて交付された株式)を返せばよいのですよ
ね。

これも、「新・会社法 千問の道標」682頁 Q917の回答で、「通常は
、株式買取請求に係る株式の代金相当額の金銭を返還する義務を負うこととな
るものと解される」とあり、「株式の代金相当額の金銭を返還する」の意味が
わからず、混乱しまくった次第であります。
投稿 ぞう | 2007年6月26日 (火) 17時21分
A3
【質問1】
完全親会社株式に変わるわけではありません。千問の記述は、子会社の発行し
た株式が、もともとの株主から、親会社に移転して、親会社が株主になるとい
う意味です。
【質問2】
効力が生じてしまった後は、買取請求を撤回しても、親会社は、当該株主に、
親会社株式を発行することができません。だから、株式相当額の金銭を返還す
べきです。

Q4
僕は今大学4年生で,今年ロースクールを受験します。
適性試験も終わり,とりあえず目標ラインはクリアできました。
そして,そろそろ自分の志望校を絞っていこうかと思っています。
今のところ,一橋・京都を目標に設定していますが,両校とも人気が非常に高
く,現在通っている大学よりも,予備校が予想する難易度は数段上です。
一方,僕はいろいろな事情で,浪人は避けたいという気持ちが大きく,なかな
か絞ることができません。
どのロースクールを受けても確実に合格できる保証はないとわかっていても,
やはりネームバリューや過去の志望者数を見ると,ひるんでしまいます。
そこで,受験するロースクールを選ぶにあたって,どのような視点から選択す
ればいいのでしょうか?
投稿 いなかっぺ | 2007年6月26日 (火) 23時11分
A4
ロースクールの選択の基準は
1 教授が「私の授業を聞いていれば、十分だ」という趣旨のことを言わない
こと
2 教授が「択一試験なんて、3年生の1月からやれば十分だ」という趣旨の
ことを言わないこと
3 教授が司法試験と無関係な課題をあまり沢山出さないこと
でしょう。

Q5
先程の株式交換時の株式交換完全子会社に対する反対株主の株式買取請求(会
社法第785条第5項)についての質問の補足です。

「新・会社法 千問の道標」682頁 Q917の回答で、会社法では、株式
交換・株式移転の完全子会社における株式買取請求の対象となる株式に対して
は、完全親会社の株式が割り当てられないことを明らかにするという記載があ
り、会社法第786条第5項が引用されているのですが、どこをどう読めば、
このように読めるのかわかりません。

効力発生日に、完全子会社の自己株式の取得と、その完全子会社の自己株式に
対する完全親会社株式の割当が、同時に生じると考えた方が合理的ですし、条
文的にもそのようにしか読めないように思うのですが・・・

会社法第768条第1項第2号の「株式交換完全子会社の株主」には、株式交
換完全子会社は含まれないからという説明は、条文解釈上一応合理的ですが、
その場合、なぜ、株式交換完全子会社が保有している自己株式が何の対価もな
く株式交換完全親会社に移転するのか、不明です。

投稿 ぞう | 2007年6月27日 (水) 10時25分
A5
問題意識がよく分かりませんが、株式買取の効果が生じた上に、親会社株式の
割当まで受けられるのならば、株主は代金ももらえるし、親会社株式ももらえ
ることになりますね。
読み方がおかしいと思います。

Q6
会社法により、現物配当が許され(454条3項)、さらには456条のような規定
も設けられ、株主間で不平等が生じないように法は手当てをしています。
すなわち、454条3項で株主平等原則が規定されていますが、現物配当の場合は
別の規定により手当が既になされているという理解でよろしいのでしょうか?

また以前あった、株主優待制度は平等原則に反さないか、という論点(程度が
軽微で、合理的必要性があれば許されるという…)は、会社法になり消滅した
のでしょうか?なぜなら、株主優待制度は現物配当にあたり、456条等で処理
されると思われるからです。
投稿 かず | 2007年6月28日 (木) 13時03分
A6
株主優待制度は、現物配当にあたるものと、あたらないものがあります。
たとえば、割引券などは、交付時点では、財産の移転がない(割引券の用紙は
移転しますが・・・)ので、現物配当になりません。

Q7
葉玉先生、大好きです。
これからもお体に気をつけて、ブログ続けてください。
ブログも日経の連載もとても楽しみにしています。

投稿 YUKIKO | 2007年6月28日 (木) 21時56分
A7
ありがとうございます。名前を拝見する限り、女性だろうとお見受けいたしま
すので、素直に嬉しいです。
男性だと若干微妙ですが。

Q8
100問第1版 P227 審司法試験プレテストの問題について

3)議長は、現場株主の修正動議について、会社側議案に賛成多数を得ただけ
で、動議を否決したものと宣言してよいか。

見解:会社側議案への賛成多数は、修正動議の否決と解してよい。

理由:一般的には、株主が提案する剰余金の配当に関する議案は、会社側提案
と矛盾する場合と、会社側提案を前提としつつ剰余金の配当の積上げを提案す
る場合がある。前者であれば会社側の提案の可決は、当然修正動議の否決にな
り、後者であれば会社側提案の可決の後に、株主提案の採決を採らなければな
らない。

とあります。しかし、前者と後者の区別が今ひとつ理解できません。
具体的に「会社側提案を前提としつつ剰余金の配当の積上げを提案する場合」
とはいかなる場合でしょうか。
投稿 フジ | 2007年6月30日 (土) 22時05分
A8
T&Aマスターのサミーズカフェでも書いたのですが、旧商法時代は、配当は、
1年に1度しかできず、しかも、利益処分案の可決という形で決めていたので
、会社提案と株主提案は、必ず排他的関係に立つと言われていました。
それに対し、会社法では、配当の回数制限がなくなり、かつ、利益処分案は廃
止されたので、会社提案と株主提案は、両立しうるようになりました。
 ご質問は、取締役会限りで配当決定ができる会社で、取締役会決議で配当を
した後に、株主総会で株主提案の配当が可能であるのと同じように、定時株主
総会の中で、役員提案を可決した後に、上乗せして株主提案を可決することが
できるということです。

Q9
当社は来月子会社との合併を予定しております。
当初、株主とも事前協議がすすめられ、ご了承も得られていたのですが
ここにきて、株主の一人から株式買取請求権を行使する旨の通知がありました

当初から予定していなかった事態なので、対処法がわかりません。
買取価格の調整は済みそうなのですが、この場合、合併に際し交付する株式の
数などが変更するため別途合併契約の変更契約をする必要があるのでしょうか
。また登記手続きにおいては、どのような書類が追加的に必要となるのでしょ
うか。
投稿 Y | 2007年6月29日 (金) 23時36分
A9
合併契約を変更する必要はありません。

Q10
実もふたもないことを言うようですが、ブルドックの防衛策って、なにか効果
があるのでしょうか?買収者が経済的損害を受けないのであれば、何度でもT
OBをしかけることが可能ですので、理論的には抑止力にならない気がするの
ですが。
投稿 paripasu | 2007年6月30日 (土) 04時42分
A10
その点については、私も、以前から、財産的損害を与えないように配慮すると
、またTOBをしかければよいので、防衛効果は弱いと主張しています。
ただし、時間稼ぎにはなりますし、8割の株主が防衛策に賛成したとなると、
TOBをかけても売り手がいないのではないかと思わせる政治的効果があります

Q11
株主平等の原則の趣旨が及ぶとは109条を類推するということですか。この
場合の「法令違反」(247条1号)の「法令」が何をいうのか気になりまし
たので。
投稿 あいう~ | 2007年6月30日 (土) 11時55分
A11
類推か、直接適用かは、明らかではありませんが、まあ、適用するんでしょう
ね。

Q12
権利株の譲渡の効力を定めた条文についてです。会社法は50条2項で発起設立
の場合、63条2項で募集設立の場合を規定していると僕は理解しているのです
が、では、35条は何を規定した何のための条文なのでしょうか。
文言を読んでも、50条や63条との違いがよく分かりません。教えてください。
投稿 T-rod | 2007年6月30日 (土) 16時27分
A12
35条は、出資の履行をする前の権利です。
株式の胎児という記事を読んでください。

Q13
論文試験前の旧司法試験受験生です。取締役が利益相反取引をした場合の損害
賠償責任について、423条3項の任務懈怠推定条項の該当規定に関し次の理
解でよろしいでしょうか。ご教示いただければ幸いです。
事例①直接取引
株式会社A(取締役設置会社)の取締役X1はA社と取引した。その際、A社代表取
締役Y1がA社を代表した。この取引は事前に取締役会の承認を受け、取締役Z1
が決議に賛成した。その後A社に損害が発生した。
事例②直接取引
株式会社Aの取締役X2は、自己が過半数の株式を有し代表取締役を務めるB社を
代表して、A社と取引した。その際、A社代表取締役Y2がA社を代表した。この
取引は事前に取締役会の承認を受け、Z2が決議に賛成した。その後、A社に損
害が発生した。
事例③間接取引
株式会社Aの代表取締役Y3は、A社を代表し、A社取締役X3の金融機関Cに対する
個人債務を保証した。この取引は事前に取締役会の承認を受け、Z3が決議に賛
成した。その後、Cによる請求により、A社がこの債務を支払った。

以上の事例で、①のX1Y1Z1②X2Y2Z2③X3Y3Z3の任務懈怠推定の規定
文言について、

423条3項1号「356条1項の取締役」に該当するのが、①のX1、②のX2
、③のX3。
同項2号「取引することを決定した取締役」に該当するのが、①のY1、②のY2
、③のY3。
同項3号「取締役会の承認の決議に賛成した取締役」に該当するのが、①のZ
1、②のZ2、③のZ3。
でよろしいでしょうか。あたりまえだと一喝されそうですが、よろしくご教示
ください。

投稿 condimi | 2007年6月30日 (土) 19時14分
A13
千問Q452を見てください。

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