役会による自己株式取得
本日は、「定款授権による取締役会決議による自己株式取得」について、質問を頂きましたので、その点についてお話しします。
質問内容
「旧商法では、定款授権に基づく取締役会決議により取得できる自己株式の取得限度額が、「最終の貸借対照表」を基準として計算されることから、決算確定前になされた取締役会決議に基づき、決算確定後に自己株式を取得することはできないとされていました(郡谷大輔「自己株式の取得方法の見直し等に関する商法等の改正の解釈・運用上の論点」商事法務1674号8頁)。
この解釈は、会社法でも妥当するのでしょうか。
投稿 N | 2007年2月26日 (月) 09時54分」
株式会社は、自己株式を取得する場合、原則として、株主総会の決議が必要です(156条)。
しかし、これには、いつくか例外があり、
1 子会社からの株式取得(164条)
2 市場からの取得で定款による授権がある場合(165条)
3 459条の会計監査人設置会社において定款の授権がある場合
については、取締役会の決議で、自己株式を取得することができます。
このうち、2については、Nさんのおっしゃるように、旧商法においては、決算確定前の取締役会決議で、決算確定後の自己株式を取得することはできないこととされていました。
しかし、会社法においては、剰余金の配当が何回でもできるようになったことに対応するため、「分配可能額」(461条)という新たな枠が設けられ、
剰余金の配当の効力発生日の時点で、分配可能額を超えてはならない。
というルールがあるだけで
剰余金の配当の「決議の時点」における分配可能額を超えていないことは要求されていない
ですし、
剰余金の配当の決議を、いつしなければならないのか
という点にも何も制限が設けられていません。
したがって、例えば、
分配可能額がマイナスの時点で「次の決算確定後に分配可能額がプラスになること」を条件に、「決算確定後の日を効力発生日とする」剰余金の配当決議を行うこと
も可能です。
これを前提にして、質問の自己株式の取得について考えると、会社法のもとでは、
自己株式の取得決議の日については、何も制限されていないこと
自己株式の所得についても効力発生日において分配可能額を超えていなければ適法であること
剰余金の配当と自己株式の取得とで区別して考える理由がないこと
から、旧商法と異なり
決算確定前の取締役会の決議によって、決算確定後に自己株式の取得をすることができる
と考えてよいと思います。
(質問コーナー)
Q1
神田先生「会社法」(8版)77頁に、以下の記述があります。
「会社が定款を変更して、株式譲渡制限の定めまたは上記(ア)〔引用注:取締役・監査役の選解任について内容の異なる数種の株式〕の定款の定めを廃止した場合には、(イ)の総会〔引用注:種類株主総会〕により選任された取締役の任期は、その定款変更の効力が生じた時に満了する(332条4項3号)。」
私には、332条4項3号から選解任種類株式の匂いを感じ取ることができません。どう読めば良いのでしょうか。
A1
332条4項3号は、取締役等選任条項の廃止は含んでいません。
Q2
同じく神田先生96頁図表6です。名義書換がない場合、譲受人は会社に対し株主であることを主張できません(130条)。その例外として、“権利行使に株券提出が必要な場合”との記述があります。これは、具体的にどのような状況を想定しているのでしょうか。
投稿 あと3ヶ月 | 2007年2月24日 (土) 15時05分
A2
それは、神田先生に聞いて貰わないと・・。
Q3
459条1項本文括弧書きの「取締役の任期の末日が選任後一年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の日後の日であるもの」がどのような文法構造になっているのかよく分かりません。
教科書には、取締役の任期が1年を超えないことを意味するとされますが、どうやったらそう読めるのかが分からないのです(解釈としてでなく,日本語として分からないだけです)。
「事業年度のうち最終のもの」は事業年度の末日の変更(決算日の変更)を行ったときに1年間で事業年度が2つ設定される事態がありうることに対応したためと立法担当者の方は説明しており、その点は理解できました。
投稿 条文が読めない子 | 2007年2月24日 (土) 15時31分
A3
正確には、任期の終了が、1年というより、次の総会の終結より後にならなければよいです。
例えば、3月末が決算期の会社において、6月15日の総会で選任された取締役の任期が1年と1日だったとします。
すると、「取締役の任期の末日」は、翌年6月16日になります。
これに対し、「選任後一年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」は、翌年3月末日に終了する(6月15日からは、1年以内です)事業年度のことです。
そして、」定時株主総会の終結の日後の日であるもの」とは、翌年6月の定時株主総会の終結の日(例えば、翌年6月18日に開催されたとします)の後の日(6月19日)になります。
とすると、任期が6月16日までだとしても、6月19日よりも前なので1年を超えることはあります。
普通は、「定時株主総会の終結の日まで」が任期ですが。
Q3
初心者です。会社法は、「その他」と「その他の」で、それぞれ並列、例示を示すような書き方をしているのでしょうか。
投稿 デーブ | 2007年2月25日 (日) 20時08分
A3
そうです。現代の法律は、すべて、そのように整理されています。法制執務を読んでください。
Q4
商業登記の登記の事由で 組織変更により設立と記載するので
組織変更って設立の一種なんだと思い込んでいました。
設立の一種でないならば定めた効力発生日に組織変更の効力が生じるのにも納得できます。
それでは、特例有限会社から株式会社への商号変更による設立も設立ではないと理解して良いのでしょうか?
また特例有限会社から株式会社への商号変更による設立では、組織変更と異なり 効力発生日をあらかじめ定めることができず、登記申請日が効力発生日となります。
このように、組織変更と特例有限会社から株式会社への商号変更とはなぜパラレルに考えることができないのでしょうか?
さらに 組織変更では 設立とともに解散登記も経由同時申請しなければならないと認識しています。それでは、組織変更によっても法人格には何も変更がないことと、解散登記をすることとをどのように整合的に説明すれば良いのでしょうか?
投稿 maru | 2007年2月26日 (月) 00時12分
A4
登記で「設立の登記」「解散の登記」をするからといって、設立の効果や、解散の効果が生ずるわけではありません。
もともと、登記独特の言い回しですから、実体法の効果とは、直接の関係はなく、整合性を取るべきものでもありません。
Q5
会社法382条の①不正な行為と②法令若しくは定款に違反する事実と③著しく不当な事実の違いをご教授下さい。また、不正な行為については将来の行為についても含まれていますが、法令定款違反・不当な事実は過去のみでしょうか?
①②③の違いを認識していれば、このような疑問も生じないと思いますが。
よろしくお願いいたします。
投稿 監査役初心者 | 2007年2月26日 (月) 10時14分
A5
「不正」は、内規を含む広い概念です。条文上、「取締役が」不正の「行為をし」となっていることに注意が必用です。
「法令若しくは定款に違反する事実」は、文字通りの意味。
「著しく不当な事実」は、法令・定款に違反しないが、著しく不当な場合です。
こちらは、「事実がある」となっていますから、取締役が行為をする場合には限られません。
将来の行為は、「するおそれがある」場合なので、含まれます。
Q6
取締役会の決議要件の加重に関し、「決議要件が加重される事項を、定款とは別に定めることができるか?(定款には『別途定める』旨を記載する。)」という点です。
会社法では、取締役会の決議要件につき定款をもって過重することが認められており(会社法第369条第1項かっこ書)、実際、たとえば、合弁会社において、代表取締役の選定、募集株式の発行等につき取締役の全員一致を要件とすることがあります。
この場合、定款に「代表取締役の選定については取締役の全員一致が要件」という風に決議要件が加重される事項が個々的に明示されている必要があるのでしょうか?それとも、定款には「取締役の全員一致をもって別途定める事項については取締役の全員一致が要件」という風に決議要件が加重される事項がある旨だけを規定し、個々的な事項については定款とは別に定めることも可能なのでしょうか?
会社法第369条1項には「これを上回る割合を定款で定めた場合」と書いてあるため、「割合」について定款で定めなければならないのは分かるのですが、決議要件が加重される事項まで定款で定める必要があるのかどうかとなると、なんともいやはや・・・。
投稿 うにょん。 | 2007年2月26日 (月) 18時41分
A6
定款で定めるべき事項について、下位の内規に再委任することは、原則として許されないでしょう。
Q7
譲渡制限株式取得の承認主体について、以下のうち可能なものはありますか?
1.会社の使用人
2.支配人
3.(取締役会設置会社の)取締役
3-2.(非取締役会設置会社の)取締役
3-3.取締役A(個人)
3-4.取締役AとB
3-5.取締役AかB
3-6.取締役過半数
3-7.総取締役
4.代表取締役A(個人)
5.監査役
6.株主A
7.総株主
8.株主数の過半数や2/3
9.株主総会として、定款で、承認決議の要件だけを加重(2/3や総株主)
会社法139条1項は、承認主体について、
解釈や判例・実務に任せ(上記のような)多様な設定を可能にする趣旨で定められたのですか?
それとも単に「機関」等の文言を失念しただけですか?
投稿 庶民 | 2007年2月27日 (火) 20時15分
A7
「機関」とすると、会計監査人を承認機関に定められることになりますので、そのような文言をいれるのはおかしいです。
「株式会社」と規定した場合、法人の意思決定方法として可能なものであれば、可能です。しかし、法人の代理による決定は許されないので、1や2はダメでしょう。
また、監査役は、その職責と矛盾する権限を定款で与えることはできないので、ダメでしょう。
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