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2007年1月22日 (月)

【入門】発起人の権限(2)

 前回は、発起人が、設立にあたり、どんなことをやっているのかを概観した上で、その行為が
 ① 発起人の権限の「範囲内」の行為であれば、設立後の会社に効果が帰属する(=財産は会社のものになるし、債務も会社が負担する。)
 ② 発起人の権限の「範囲外」の行為であれば、設立後の会社に効果が帰属しない
ということを説明しました。

 今回は、まず、設立後の会社に効果を帰属させるための、発起人の権限以外の要件を説明します。

2 効果帰属要件
 取引をする相手側の立場に立ってみると、発起人の権限の有無だけで、誰に契約の効果が帰属するのかを決められると、困る場合があります。

 たとえば、サミーさんは、松真さんが、「元裁判官で立派な家に住んでいるから、きっと信用できる人だろう」と思って、松真さんにHな本を100冊を売ったとしましょう。
 ところが、月末に、松真さんに、その本の代金30万円を請求したところ、松真さんは
  あれは、俺が買ったのではなくて、株式会社正直法務の開業準備のために買ったんだよ。定款には、財産引受として「Hな本30万円」という記載もあるから、会社に請求してくれよ。
と言って支払いを拒みました。
 サミーさんは、松真さん個人を信頼したのですから、いまさら見も知らぬ株式会社正直法務に請求をしろと言われても困ります。

 こういう問題が生じないようにするため、法律の世界では、
  契約をする人(代表者・代理人)が、第三者(会社・本人)にその契約の効力を帰属させようというときには、顕名(けんめい)をしなければならない
というルールになっています。

 顕名というと難しそうですが、会社ならば
  「株式会社正直法務 代表取締役 湯水金使」
という名義を使って契約する等、誰に効果が帰属するのかを明らかにして契約をしろというだけのことです。

 もっとも、発起人が設立準備をしているときは、まだ効果帰属主体である会社が存在していないので
 ①「株式会社正直法務 発起人代表 湯水金使」等の名義を使ったり
 ② 発起人の個人名義で契約するならば、契約内容において設立後の会社に効果帰属することを明らかにする
などの方策を用います。

 逆に、発起人が、個人名義で契約をしている場合には、顕名がない限り、発起人に効果が帰属します。
 発起人が、内心で「会社のためにやっている」と思っても駄目であり、この場合は、発起人が、個人で財産を取得し、代金も自分で払わなければいけません。
 もちろん、その財産は、会社のために買ったものなのでしょうから、通常は、発起人が購入した後に、
  ①設立前に、会社との間で売買契約(財産引受等)を締結する
  ②設立後に代表取締役と売買契約を締結するか(もっとも、財産の額が一定以上になると事後設立と呼ばれ、株主総会の決議が必要になります)する
ということになるでしょう。

 以上の①発起人の権限、②顕名に加え、③発起人の意思表示が有効であることが、発起人の行為を会社に効果帰属させるための3要件です。基本的には、民法の代理と同じだということが分かりますね。

3 発起人の行為の分類
(1)設立準備行為と開業準備行為
 解答例にもあるとおり、発起人の権限の範囲を検討するときには
 A 設立準備行為 ①設立を直接の目的とする行為
         ②設立のために必要な行為
 B 開業準備行為 ③財産引受
         ④財産引受以外の開業準備行為
の4つに分けて考えます。

 極めて、ラフな話をすると
 A 発起人は、会社の設立をする人ですから、設立準備行為は、原則できますが、
 B 開業準備行為については、どんな商品を仕入れるか等は、経営の専門家である取締役が決めればよいので、会社を設立する人に過ぎない発起人が決めるのは、余計なお世話だから、原則できない。ただし、③財産引受は、会社法が例外的に認めている。
ということになるでしょう。

 しかし、仮に「発起人の権限が設立準備行為に無制限に及ぶ」という学説に立つと
   発起人が費用を支払った場合には、定款に記載された設立費用を超えて、求償することはできないから、それ以上に会社の財産が減少しないが、発起人が費用を払っていない場合には、会社が、その未払い債務を債権者に支払わなければならなくなるから、設立の健全性を維持するという28条の趣旨が没却される
等という問題が生じることになります。

それで、
  設立準備行為であっても、発起人の権限が及ばない領域がある(=会社に効果帰属しない場合がある)と考えるべきではないか?
ということ等が論点となるのです。

(2)「設立を直接の目的とする行為」と「設立のために必要な行為」
 では、Aの設立準備行為を、なぜ、①設立を直接の目的とする行為と、②設立のために必要な行為に分けるのでしょうか。

 ①は、定款の作成行為、認証の申請、払込取扱委託契約の締結、検査役の選任、登記の申請等、会社法で、設立手続の一つとして規定している行為です。これらの行為は、どんな株式会社でも、必ず行わなければなりません。

 これに対し、②は、①以外の設立準備行為であり、設立のための事務員の雇用契約、設立準備のための事務所の賃貸契約等です。

 ②も、設立に役立つ行為ですが、会社法が義務づけている行為ではありません。事務員がいなくても設立はできますし、事務所を借りなくても、設立できます。つまり、①の行為がどんな株式会社にとっても必要不可欠な行為であるのに対し、②の行為は、必要不可欠ではないが、設立に役立つ行為です。

 ①と②の区別がつかない人は、28条4号かっこ書・会社法施行規則5条を見てください。
 そこに列挙されている設立費用の根拠となる契約が、①の行為です。すなわち、当該条文には、定款認証の手数料、定款に係る印紙税、設立時発行株式と引換えにする金銭の払込みの取扱いをした銀行等に支払うべき手数料及び報酬、検査役の報酬、株式会社の設立の登記の登録免許税が書かれていますが、それらの設立費用の発生原因となる法律行為を考えれば、先ほど、①の行為として列挙した行為になります。

 この28条4号かっこ書は、直接には、
   発起人が費用を支払った場合に、定款に記載がなくても、求償することができる設立費用
を規定しています。設立を直接の目的とする行為に係る費用は、どんな会社でも必ず必要な費用ですし、その費用が法定されていたり(認証手数料・印紙税・登録免許税)、過大になる可能性が低い(検査役の報酬、払込取扱銀行の手数料等)ので、定款に記載しなくても、求償ができることにしているわけです。

 ところが、求償の制限にとどまらず、こうした設立を直接の目的とする行為については、
     発起人の権限が及び、仮に費用が未払いだった場合には、会社にその費用の支払い債務が帰属する
と解するのが通説です。
 つまり、①の行為については
   求償可能な範囲=発起人の権限の範囲
であることは、ほぼ争いがありません。

 これに対し、②の行為は、先ほど述べたように、会社ごとに、いろいろなバリエーションがあり、費用も一律ではありません。たとえば、設立事務所を借りるにしても、六本木ヒルズを借りるのと、多摩センターで借りるのでは、家賃が違うでしょう。
 そのため、②の行為については、
   定款に記載した設立費用の範囲内で求償可能である
という点については争いはないものの
  X説 ②の行為はすべて発起人の権限の範囲内である=会社に効果帰属する。
  Y説 求償可能な範囲(28条4号)=発起人の権限の範囲=会社に効果が帰属する
  Z説 ②の行為は、発起人の権限の範囲外である=会社に効果帰属しない
という争いが生じるわけです。

 学説では、X説が多数説ですが、判例と100問は、Y説を採っています。

 このように、発起人の権限の範囲を考えるときに、同じ設立準備行為であっても、①の行為については権限が及ぶことについて争いはないが、②の行為については争いがあるから、①の行為と②の行為を分類しているのです。

(3)開業準備行為の分類
 Bの開業準備行為についても、③財産引受と④財産引受以外の開業準備行為の2つに分類されます。
 ③財産引受は、既に説明したとおり、財産の購入契約であり、それに対し、④それ以外の開業準備行為は、店舗の賃借契約の締結や、事業資金の借入契約等がこれに該当します。

 この③と④も、③財産引受については、定款に記載した場合に発起人の権限が及ぶことについて争いが無いのに対して、④については
  P説 財産引受の規定を類推適用する
  Q説 発起人の権限が及ばない
という学説上の争いがありますから(Q説が通説・100問説です)、やはり分けて論じる方が無難です。

 それで、100問でも、開業準備行為についても、③と④を区別して、解答しています。

 こうして見ると
 A 設立準備行為 ①設立を直接の目的の行為・・・・・28条4号かっこ書
         ②設立のために必要な行為・・・・・28条4号
 B 開業準備行為 ③財産引受・・・・・・・・・・・・28条2号
         ④財産引受以外の開業準備行為・・・条文なし
というように、①~④と条文は対応関係にありますから、
  発起人の権限と28条をリンクさせて考えるのが自然
だと思うのですが
  そういう見解(=判例・100問の見解)は、学会の中では「不合理な見解」とされ
なぜかマイナーな説になっています。
 私は、ちっとも不合理じゃないと思うのですが、そこらへんは、また次回にお話ししましょう。

(質問コーナー)
Q1
会社法461条には「効力を生ずる日」って書いてありますが,これは違法配当が有効だということでしょうか?

もともと,違法配当は「無効」のはずですが,なぜ会社法条文はあえて「効力」があることを前提とした文言になったのですか?
投稿 貳 | 2007年1月17日 (水) 23時30分
A1
 違法配当は、有効です。その理由は、商事法務に掲載された葉玉論文か、このブログの過去の記事を参照してください。

Q2
ところで、質問があります。
「監査役の会社に対する責任」です。
商法では、「会社に対し連帯して」責任を負うと言うことでしたが(商法277条)、
この条数に相当するとされる会社法423条1項では、「連帯して」という文言がなくなりました。

①この商法の「連帯して」というのは、どういう意味だったのでしょうか?
②そして、会社法では実際に、監査役の任務懈怠により会社に損害を被らせた場合、取締役や当該会社の他の監査役は、「連帯して」責任を負うのでしょうか。
投稿 マルコ | 2007年1月17日 (水) 23時41分
A2
430条で連帯債務になっています。

Q3
株式交換が行われる場合の新株予約権の処理についての質問です。
新株予約権を発行する場合に236条1項8号ニでは、株式交換が行われた場合に、完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができる旨を内容とすることが定められています。
一方、773条1項9号では、768条1項4号では、株式交換完全子会社の新株予約権者に対して、当該新株予約権に代わる株式交換完全親会社の新株予約権を交付するときには各号に掲げる事由を株式交換契約に定める、と規定しています。
①これは、236条1項8号ニで新株予約権の内容として完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができる旨を定めていなくても、773条1項9号で、完全親会社となる会社の新株予約権を交付することができるということなのでしょうか?
②そうすると236条1項8号ニで、わざわざ新株予約権の内容にそのような内容を盛り込むことは、新株予約権を取得しようとする人に対して、買取請求権(787Ⅰ③)を認めることになるだけで、会社側にとってはあまりメリットのある規定ではないのでしょうか?
投稿 Popeye | 2007年1月18日 (木) 01時31分
A3
① できます。
② 新株予約権者にメリットがあれば、新株予約権者は安心するので、高く発行できます。

Q4
 会社法では、発起人の権限の見直しがされていますが、権限及び決定の方法に関する総則規定が置かれていませんね。
 決定の方法に関して、登記実務は、会社法第40条第1項と同様に「議決権の過半数」説に立っていますが、学説では、従来どおり組合法理により「頭数の過半数」説のようです(江頭73頁ほか)。
 この段階で意思不統一のようでは、株式会社の設立に至らないので、あまり問題になることはないのかもしれませんが、条文の手当てが必要だったのでは、と思います。
投稿 内藤卓 | 2007年1月18日 (木) 10時30分
A4
 「発起人の議決権の過半数」による決定は、発起人が株式引受人として行動する場合、つまり、設立時役員の選任・解任に関する行為のときに限られます。
 発起人が、設立事務の責任者として活動する場合には、発起人の頭数の過半数です(組合法理という説明はおかしいと思いますが)。
 内藤さんが「意思不統一」とおっしゃている根拠は分かっていますが、すでにその点については、意思統一ができていると思います。

Q5
基本的な質問で申し訳ありませんが、監査役の設置について教えてください。
取締役会設置会社は、非公開会社でも会計参与を置いた場合を除き監査役を置かなければなりません。
そして、この監査役の権限を会計に関するものに限定する定款の定めを置いた場合なのですが、この会社は「監査役設置会社」にはならないが、「監査役を置かなければならない」という義務は果たしているということでよろしいのでしょうか?
条文上は、単に「監査役」となっているため、とりあえず監査役を置けば義務を果たしているとも読めるのですが、「監査役設置会社」の定義との関係で若干疑問に思ったので、回答よろしくお願いします。
投稿 飛来骨 | 2007年1月19日 (金) 15時04分
A5
会計監査限定監査役も、監査役ですので、義務は果たしています。

Q6
非取締役会設置会社において株主総会を招集する場合、議案については誰が決めることになるのでしょうか?
代表取締役がいる場合、当該代表取締役1人の判断で決定しても良いのでしょうか? もし、全取締役の協議で決める必要や、取締役会議事録に代わるような記録を残す必要があるでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2007年1月19日 (金) 17時42分
A6
取締役が二人以上いる場合には、業務執行の決定又はそれに準する決定として、取締役の過半数で決するべきでしょう。記録は不要です。

Q7
非取締役会設置会社においては、自己取引・利益相反取引の承認は株主総会で行うことになると思いますが、定款により議長となる者が当該決議において特別利害関係人に該当する場合、議長を交代する必要がありますでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2007年1月19日 (金) 17時44分
A7
議長の交代は不要だと思います。

Q8
親子関係について教えて下さい。
A株式会社とB合資会社がある場合。B合資会社の無限責任社員がA株式会社の代表取締役、有限責任社員の責任限度額の半額がA株式会社である場合、B合資会社はA株式会社の子会社となりますか?
会社法になって、株式会社以外でも親子会社の定義が当てはまると思いますが、無限責任社員がいる為、見分け方がよく分かりません。
投稿 サミーさん頑張れ! | 2007年1月20日 (土) 02時08分
A8
議決権の数等が分からないので、なんとも言いようがありません。

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