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2006年12月 8日 (金)

【入門】資本三原則(1)

第8問の資本三原則について,お話しします。

問題文は,「株式会社の資本に関する三原則を述べなさい。」という極めてシンプルなものですが,「資本に関する三原則」という言葉は,条文上,定義されたものではないので,この問題は,ある意味,すごく不親切な問題です。

ただ,問題文に文句を言っても仕方がないので

「資本に関する三原則とは・・・・である。」

というオウム返しの術を使った上で,原則ごとに

1 なぜそのような原則が取られるのか

2 条文上の根拠は何か。

3 論点とそれに対する考え方

を順に書いていくのがオーソドックスな答案でしょう。

もっとも,資本原則の定義・内容は,商法改正によって変化を遂げてきました。
たとえば,旧商法の制定時には
  ①資本確定の原則
  ②資本充実・維持の原則
  ③資本不変の原則
が三原則だったわけですが,その後の改正により,
  資本の額を「定款で定めない」
こととなったため,資本確定の原則が廃止されました。

 そして,普通,3原則のうち,1原則が廃止されれば,2原則になるはずですが,なぜか,いつの間にか,②の資本充実・維持の原則が2つに分かれて
 ①資本充実の原則
 ②資本維持の原則
 ③資本不変の原則
が三原則と呼ばれるようになったのです。

 私は,「私的自治の原則」のように,民法がどれだけ改正されても,生き残るようなものなら,「原則」の称号にふさわしいと思いますが,資本原則は,商法改正のたびに,その内容が大きく変わり,原則の数え方まで変わっていますから,「原則」と呼ぶのは少し恥ずかしい感じがします。
 しかも,実際には
 資本充実の原則は445条
 資本維持の原則は461条
 資本不変の原則は449条
等で,それぞれの内容をほぼ実現しているので
  わざわざ,それらの制度に「資本原則」というラベルを貼る実益はない
と言い切る人がいるのは当然です。

 よく
   立案担当者の中で,資本充実の原則は廃止されたと説明する人もいれば,資本充実の原則が徹底されたと説明する人もいるのですが,どっちですか。
と聞かれるのですが,別に内部でケンカをしているわけでも,矛盾しているわけでもなく,
  どちらも正しい
のです。ただ,
  文脈によって,「資本充実の原則」の定義を使い分けている
だけなのです。

 今日は,忙しくて,記事を書き始めたのが遅かったため,資本原則の具体的な説明は,次回に回します。
 ただ,本日,初心者の皆さんに,是非,分かっておいていただきたいのは
  資本原則は,株式会社法の大原則とされていたため,厳密な定義がされないまま,いい加減に議論がされる傾向がある。
  定義をはっきりさせないまま,議論するのは時間の無駄。
ということです。

 これが分かった上で,次回に備えて
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50592401
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50592404
を予習すれば,資本原則のマスターは,あっという間ででしょう。

(質問コーナー)
Q1
 昨日,種類株主総会と代表取締役についての質問をした者です。
 定款で定めれば,種類株主総会でも代表取締役を定めることができるのではないでしょうか(会社法321条参照)?
投稿 iインカーン | 2006/12/05 0:42:21
A1
 321条の定款の定めは,108条との関係で,制約を受けざるをえないと思います。
 そうでなければ,108条に列挙されていない種類の株式がいくらでも作れることになってしまうからです。

Q2
会社法では、計算書類と事業報告に係るスケジュールが別個に規定されていますが、計算書類と事業報告を同じ日に提出をしますと、最終的に特定監査役から特定取締役への通知が1週間ずれてしまいます。(4週間の期間を要した場合)
①この場合、事業報告の通知期限を特定取締役と特定監査役が計算書類の日付に合わせる形で合意した日を定めなければなりませんか。
また、合意はどのタイミング(監査前、監査中など)に結ぶのでしょうか
②ずれていると監査役会はそれぞれのために分けて(2回)開催する必要がありますか。(あまり現実的でないと思いますが)
③同日に出した場合、スムーズにとり行う方法はございますか。
投稿 | 2006/12/05 0:59:44
A2
①の意味が分かりませんが,通知の日を揃えるために合意をすることはできます。合意のタイミングは,特に制限はないですが,通知期限の到来後にのばすのは難しいような気がします。
②2回開催する必要はないと思います。

Q3
会社法133条2項で、法務省令で定める場合を「除き」と規定され、その法務省令(施22条2項)で、株券を提示して請求した場合が規定されてます。
つまり、株券発行会社でも、提示がなければ「除かれないから」、共同で名義書換という理解で宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/05 8:10:04
A3
そうです。

Q4
機関に関する質問をさせてください。
千問の道標のQ510についてです。
取締役会の書面決議について、「決議があったものとみなされる日」とは、決議事項の提案につき議決に加わることのできる取締役全員の書面又は電磁的記録による意思表示が提案者に到達したとき、をいうとのことですが、この「決議があったとみなされる日」を会社の提案書で別の日(たとえば同意書面の提出締め切り日の翌日)などと定めることはできるでしょうか。
投稿 ☆ | 2006/12/05 9:27:06
A4
それは,無理そうです。
やるなら,期限付き同意をするのかなあ。

Q5
サミーさん、会社代表者の互選について教えてください。
① 取締役会非設置の株式会社は、定款の定めに基づく「取締役の互選」によって、取締役の中から代表取締役を定めることができるとされていますが(会社法349条3項)、この互選する主体について、仮に『社外取締役以外の取締役の互選』と定めることまで会社法は許容しているのでしょうか。
② (①と同様に)持分会社でも、定款の定めに基づく「社員の互選」によって、業務執行社員の中から代表社員を定めることができるとされていますが(会社法599条3項)、互選する主体について、仮に『業務執行社員の互選』と定めることまで会社法は許容しているのでしょうか。
 そして、会社代表者については登記事項であることから、①②のとおり互選した場合、登記所が受け付けてくれるのかも気になっています。ぜひご教示ください。
投稿 マメ | 2006/12/07 15:00:32
A5
①は,想定していないと考えた方がよいでしょう。
②も,難しそうですねえ。

Q6
清算関係について、もう一つ教えてください。
委員会設置会社が解散し法定清算人が就任する場合、取締役兼代表執行役だった者は、当然代表清算人になるのでしょうか?
旧商法では430-1,129-2が根拠となり、代表清算人になるとされていましたが、会社法にはそのような規定がないので気になりました。
当然代表清算人になるとした場合、根拠条文は何になるのでしょうか?
また、ならないとした場合、何か理由があるのでしょうか?
いろいろな本を読んでみたのですが、どれ1つとしてそのことについて触れた物はありませんでしたので、ぜひ教えてください。
投稿 パラリーギャル | 2006/12/07 15:27:26
A6
代表執行役が,代表清算人になるという根拠はないはずです。
いい加減に考えれば,代表清算人になるという整理でもよかったのかもしれませんが,取締役でない代表執行役や普通の執行役はどうするのか,整理がつかないので,規定を置かなかったと思います。解散を決める株主総会で,一緒に決めればいいだけの話ですから。

Q7
私の質問の仕方が悪かったので、再度、略式組織再編の可否について質問させてください。
吸収分割会社が、吸収分割承継会社の特別支配会社である場合において、無対価で、吸収分割を行うのですが、両社とも公開会社でない場合には、会社法796条1項但書の「交付する」に該当しなくなるため、略式組織再編は当然に可能と考えてよろしいでしょうか?
投稿 としお | 2006/12/07 15:39:47
A7
無対価の場合は,796条1項ただし書は適用されません。

Q8
 吸収合併契約書に、存続会社が交付する金銭等に関する事項として、「甲は、本合併に際して普通株式200株を発行し、本合併の効力発生日前日最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(甲及び乙を除く)に対して、その所有する乙の普通株式1株につき甲の普通株式1株の割合をもって割り当て交付する。」というような定めをした場合、合併対価の交付に関する基準日の設定として、乙株式会社において基準日の公告または基準日に関する定款の定めが必要となるでしょうか。
 それとも、合併の効力発生日の到来をもって消滅会社の株主は存続会社の株主となり、合併対価は、効力発生日前日最終の株主名簿にもとづいて交付することになるから、あえて基準日と認識する必要はないのでしょうか。よろしくお願い致します。
投稿 ぷにたろう | 2006/12/07 16:06:52
A8
 契約の解釈ですから,答えようがないです。定めちゃったら,基準日を置いたと考えた方が安全でしょうね。

Q9
会社法207条9項1号の「募集株式の引受人に割り当てる株式の総数」とは,旧商法280条ノ8但書と同様に現物出資者に対して与える株式の総数のことを指すのですか。それとも旧商法とは異なり文字通り,現物出資者か金銭出資者かを問わす,今回割り当てる全株式の総数を指すのですか。
投稿 ポケット | 2006/12/07 19:51:42
A9
文字通りと読むのが素直でしょうね。

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コメント

サミーさん、ご教示いただきありがとうございました!

代表者の互選については、本筋(条文の規定)から外れないように、定款に定めることにします。

投稿: マメ | 2006年12月 8日 (金) 10時25分

株主総会招集通知と、反対株主への通知について
 非公開の取締役会設置会社が、臨時株主総会を開催し、総会開催日を効力発生日として、定款を変更し発行済普通株式の全部に、全部取得条項付を付することとしています。
 この場合、会社法116条3項により効力発生日(臨時総会開催日)の20日前までに各株主に通知をしければなりませんが、この通知は、20前までに到達することが必要でしょうか? また、この通知をもって、会社法299条1項の通知に代えたいと考えますがいかがでしょうか?
 会社法116条4項の規定により、公告する方法により通知に代える場合、「年月日開催の臨時総会において、定款を変更して普通株式の全部につき、株主総会の決議によってその全部を当社が取得する旨の定めを設けることとしていますので」との公告で、可能でしょうか? この場合、招集通知は会社法299条1項の1週間前の発送でよろしいでしょうか?

投稿: 橋爪伸由 | 2006年12月 8日 (金) 11時02分

監査報告等の通知期限についてご教示下さい。

施行規則第132条、第152条等の解釈として、「監査役が取締役に監査報告を通知すべき期間を定めたもの」という意味の他に、会社法第442条で定める計算書類等の備置き期間との関係上、「取締役が監査役に計算書類等を提出する場合には、総会の日から逆算して、備置き期間並びに監査報告の通知期限の両方を満たすだけの期間を置かなければならない」という意味を含むとの見解があるようです。

この見解による具体例として、取締役会と監査役のみの機関設計の会社において、取締役が監査役に対して計算関係書類・事業報告・附属明細書を全て同時に提出する場合には、総会の日から逆算して、
 法第442条より2週間
 規則第132条及び第152条より4週間
の最低6週間の間を置く必要があることになります。

上記のような単純事例の場合は分かるのですが、各書類が別々に提出された場合には、総会の日からの逆算自体が不可能になる気がします。

規則第132条、第152条等については、上記のような解釈をすべきなのでしょうか?

投稿: | 2006年12月 8日 (金) 11時12分

会社以外の者の間で新株予約権が譲渡される場合と、会社が自己新株予約権を処分する場合とでは、なぜ証券の交付時期に差があるのでしょうか。
自分なりに勉強しましたが、よく理解できませんでした。よろしくお願い致します。

投稿: 写真 | 2006年12月 8日 (金) 22時09分

いつも、詳細な記事を書いてくださり、本当に参考になります。

会社法100問第2版の第83問(P479)の解答例についてお伺いしたいのですが、
一の三段落目で
「株主が出資した財産を『債権者』に無断で払い戻すことができないようにして…」
となっているのですが、この『債権者』は、『株主』の間違いではないのでしょうか?
同じ段落の続きでは、赤字部分で
「債権者の会社に対する強制執行が『株主』への払戻しによって容易に免脱されないような制度…」
となっており、こちらのほうでは『株主』への払戻しとなっていたので、前者も『株主』なのではないかと思いまして。

もし、私の理解が間違っているようでしたら、ご教示いただければ幸いです。

投稿: まつ(会社法初心者) | 2006年12月 9日 (土) 00時33分

サミーさん、いつも丁寧に記事を書いていただいて、ありがとうございます。早速、新株予約権の行使について質問させていただきます。会社法281条2項で、行使の際の現物出資の目的物の価額が出資額に足りないときは金銭で補うことが定められていますが、逆に目的物の価額が出資額より多くなってしまった場合、差額を発行会社から新株予約権者に金銭で返すようなことは可能なのでしょうか?それとも、かかる目的物は出資額ちょうどに相当するものとして扱われ、そのような精算は不可能なのでしょうか。ご回答よろしくお願いします。

投稿: アソシエイト | 2006年12月 9日 (土) 13時31分

Q3のご解答有難うございました。
今まで間違って覚えていました。
助かりました。

投稿: 南斗六星 | 2006年12月 9日 (土) 14時08分

決算スケジュールにおいて、事業報告、計算書類ともにまずは、作成した取締役が、それぞれを特定監査役および会計監査人へ提出することになりますが、
この場合、作成した取締役に代わって、特定取締役(実際、経理担当取締役ではなく、代表取締役社長を選定した場合)としても問題ないでしょうか。

投稿: ふるたち | 2006年12月10日 (日) 00時47分

337条3項2号の読み方について教えてください。

まず、この条文は いったいどこで区切って呼んでいけばいいのでしょうか?「若しくは」があまりにも沢山入っていて区切りどころがわかりません。そして その結果として 私にとっては解釈不能になっています。

つぎに、 株式会社の子会社若しくはその取締役 という文言の中の「その」とは何を指すのでしょうか?株式会社の取締役なのか、株式会社の子会社の取締役なのか?それとも他の解釈があるのでしょうか?

投稿: maru | 2006年12月10日 (日) 00時55分

取締役の任期短縮と比較して執行役の任期短縮について質問させてください。

取締役の任期を短縮するには 定款または株主総会の決議が必要です。(332条1項但書)
 これに対して、執行役の任期は定款によってのみ短縮が可能です。(402条7項但書)
 なぜ このような違いが生じるのか教えてください。

投稿: maru | 2006年12月10日 (日) 01時03分

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