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2006年12月31日 (日)

【入門】設立と新株発行(2)

 大晦日です。
 つらいことを忘れるために「今日は、つらかった今年の最後の日だ」と考えるもよし、
 気合をいれるために「明日からは、勝負の年が始まる」と考えるもよし。
 何かと区切りにしやすい日です。

 30日から31日にうつるのも、31日から1日にうつるのも、時の流れは平等なように見えますが、人間にとって、「時」は、物理的なものではなく、精神的なものだということを忘れるべきではありません。

 「年を取れば時が立つのが早くなる」
 「仕事に集中していて、あっという間に時が過ぎた」
 「ボーッとしていたら、いつの間にか朝だった。」
 「ピッチャーの投げたボールが止まって見える」
などなど、人の精神によって、時の流れは変化します。
 
 原稿の締め切りに追われる私がいうのもなんですが、時を味方につけて、時をコントロールすることを心がけると、きっと来年は、充実した一年になると思います。
 
 さて、今日は役所が休みなので,質問コーナーはお休みさせていただき,設立と新株発行の残りを片付けたいと思います。

前回は、解答の全体像を説明しましたので、本日は、設立と新株発行の手続に差異をもたらす
  資金調達の迅速性
  株主の保護
という二つの視点について、もう少し詳しく説明します。

2 迅速性
 設立にせよ、新株発行にせよ、手続で、一番問題になるのは
  資金調達の目的を達成することができない場合に、手続きをどうするのか
という点です。
 
 「資金調達の目的を達成することができない」場合には、2つの場合があり、一つは
   目標の資金が調達できる見込みがなくなった場合
であり、もう一つは
  予定している期限までに、目標の資金が調達できない場合
です。

 例えば、サミーさんが11月1日に「12月28日発売のドラクエMJが発売されるらしい。」という情報をつかみ、「もし発売日に買うことができれば、ヤフオクで高く転売できるから、どうしても、12月28日までに買付資金がほしい。」と考えたとしましょう。
 この買付資金を調達するためには、銀行から借り入れをしたり、社債を発行したり、株式を発行したり、いろいろな方法がありますが、そのような資金調達行為をするための手続自体に、多大な時間が必要とされるのではな、タイムリーな資金調達はできません。
 
 また、手続が迅速に開始できたとしても、資金を提供してくれる人が見つからなかったり、資金を提供してくれる予定の人が28日までに資金を提供してくれなかったら、資金調達手続きを続けてもあまり意味がありません。
 「時は金なり」というように、必要な時機を逃し、コストに見合うだけの利益を得られる見込みが無いならば、無用な資金調達自体をやめるか、利益を得ることができるように資金調達の条件を変更したりする方が賢明なのです。
 このように
   資金が必要な時期に、迅速に資金調達の手続きをすることができるようにしたい。
   必要な時期までに資金が集まらなかったら、資金調達の全部又は一部を打ち切りたい。
ということを「資金調達の迅速性」の要請といいます。

 設立にせよ、新株発行にせよ、資金調達を目的とするのならば、ある程度、資金調達の迅速性を確保したいというのは当然でしょう。

 しかし、「早ければ早いほどいい」というわけでもありません。
 手続を考える上では、
  「迅速にすることによって、利害関係者の利益が害されることがないか」
ということを慎重に考える必要があります。

 例えば、株式を発行すれば、引受人に株主としての権利が付与されますから、持株比率は変わるのが普通です。
 持株比率は、会社の支配のあり方に大きな影響を与えますから、本来、出資者である株主が「自分達で決めたい」と思うことも多いでしょう。
 しかし、株主総会を開催するためには、コストも時間もかかりますから、株式発行のために株主総会が必要であるというルールは「資金調達の迅速性」という視点からはマイナス要因です。

 そこで、会社法は、迅速な資金調達の要請と、株主保護のバランスを、次のような制度を設けることで図っています。

(1)設立時
 設立は、会社のはじまりで、まだ事業が始まっていないので、資金調達の迅速性は弱く、むしろ、株主となる発起人や引受人の保護を重要視しています。

① まず、発起人は、これからやろうとする事業の規模を考えて、どれくらいの資金が必要かを割り出し、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(設立時出資額・28条4号)を決めます。
 この設立時出資額に見合う資金調達ができないうちに、会社を見切り発車しても、会社は潰れてしまう可能性が高いので
  設立時出資額に見合うだけの出資がされるまでは、設立することができない。
というルールが採用されています。
 言い換えれば、資金調達の迅速性よりも、会社の健全な設立を重視しているわけですね。

② また、設立手続は、「公開会社にするのか、非公開会社にするか」、「どんな種類の株式を発行するのか」「どのようなパワーバランスで株主を構成するか」などの資本政策を決定する機会でもあります。
 この資本政策の決定は、会社設立の企画者である発起人が行います。
 つまり、発起人は、全員で、株式の内容を定め(26条1項、28条)、また、誰が、いくらで、何株の株式を引き受けるか等設立時株式の発行に関する事項を定める権限を持っている(32条等)のです。
 「資金調達の迅速性」を考えると、発起人全員ではなく、多数決で決めた方が早く決まりますが、設立における資本政策はそれぞれの発起人にとって非常に重要なので、発起人全員の同意が必要とされています。

③ さらに、発起人が、責任をもって設立手続をするように、発起人は、必ず出資して、一株以上の株式を引き受けなければいけません(25条2項)。これは、「設立手続きが失敗すれば、自分も損をする」という立場に発起人を立たせて、まじめに設立手続きをさせようという趣旨の規定です。
 ところが、この25条2項があるため、発起人の一人が資金不足等の理由で出資の履行ができず、株式を引き受ける権利を失うことになれば、そのままでは、会社の設立手続を継続することができません。そのような場合には、発起人全員の同意により、出資をしなかった発起人の引き受ける株式数を減らしたり、その発起人を外して、定款を作り直したりするなど面倒な手続きが必要です。

 ①発起人が株主となる権利を失って設立手続が混乱するのはできるだけ回避した方が望ましいですし、②先ほどお話ししたように資本政策の決定は発起人全員の同意によって行うので、発起人から株主となる権利を奪うのは慎重な方がよいことから、発起人が出資の履行をしないときは、「失権手続」をして、はじめて株主となる権利を失うこととされています(36条)。逆に言えば、失権手続きをしない限り、出資の履行をしなくても、株主となる権利は失われません。

 失権手続といっても、難しい手続きではなく、発起人が、出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日の2週間以上前に「○月○日までに出資の履行をしなければならない」と通知するだけです。
 この通知をしたにもかかわらず、○月○日までに発起人が出資の履行をしないときには、その発起人は、設立時発行株式を引き受ける権利を失うのです。

 この失権手続も、「資金調達の迅速性」よりも、他の政策目的を優先させた制度の一つです(ただし、発起人が一株も引き受けていないにもかかわらず、何らかの事情で設立の登記がされた場合には、発起人は、「設立時発行株式を取得する権利」を失います)。

 なお、この失権手続は、募集設立における
    発起人以外の引受人
については、適用されません。発起人以外の引受人は、払込期日又は払込期間内に全額の払込みをしなければ、当然に、株主となる権利を失うこととされています(63条3項)。
 このように払込みをしない引受人がいる場合や、そもそも引受人がみつからないような場合に、そこで募集手続を打ち切って、それ以外の引受人についてだけ株式を発行する方式を「打ち切り発行」といいます。
 設立においては、設立時出資価額は確保しなければならないので、純粋な打ち切り発行ではありませんが、
  一部の引受人が出資をしないからといって、発起人等の出資の履行によって設立をすることができるならば、設立を禁止する必要はない
という考えかたから、一種の打ち切り発行方式を取っているのです。
 
(2)新株発行
 ① 新株発行をするときは、最初に、募集株式の数(199条1項1号)や払込金額(同項2号)を定めますが、その募集株式の数の全部について引受人が決まらなくても、引き受けられた株式だけで、株式が発行されます。
 また、引受人が、払込期日又は払込期間内に払い込みをしなければ、失権手続きをすることなく、株主となる権利を失います(208条5項)。
 すなわち、新株発行では、典型的な打ち切り発行方式が採用されています。
 これは、(1)設立の①③と比べてみればわかるとおり、これが設立と新株発行との一番大きな違いです。

 会社法が、新株発行において、このような手続を採用しているのは、「資金調達の迅速性」を優先しているからです。
 言い換えれば、会社が、一旦成立して自立的な活動を行っている以上、払込期日・払込期間内に予定通りの資金が調達できなかったとしても、
   とりあえず調達できた分だけ新株を発行し、不足額は、別の資金調達手段を考えた方がよい
という考え方を取っているのです。

② また、新株発行において、募集事項は、株主総会や取締役会の多数決で決定しますし、(全員の同意ではありません)、特に、公開会社では
   取締役会
が募集事項の原則的な決定機関になっています。
 株主総会を開催するのは大変なので、募集事項の決定を迅速に行うことができるようにすることが目的です。

 このように新株発行は、設立と比べて、資金調達の迅速性を確保するという点から様々な手続きを整備しているのが特徴です(なお、無効の訴えの提訴期間の長短という違いもありますが、それは100問でその趣旨を調べてください)。

4 株主の保護
(1)設立時
 先ほど説明したとおり、設立時には「発起人」の意思を尊重する手続きが採用されています。
 また、設立時に株主となる発起人や、それ以外の引受人の間の「平等」が図られることも重視されています。
 このうち発起人は、自ら設立事務を行い、全員の同意で定款を定め、全員の同意で設立時発行株式に関する事項を定めますから、他の発起人との平等の確保を自分の力で実現することができます。
 これに対し、発起人以外の引受人は、設立手続を自分で行わないので、他の引受人との平等が確保されるような法的な手当てが必要です。
 そこで、設立時募集株式の募集の条件は、当該募集ごとに、均等に定めなければならないこととされています(58条3項)。

(2)新株発行
 新株発行でも、新株の引受人間の平等が図られる点では、設立と共通しており、新株発行においても、募集事項は、募集ごとに、均等に定めなければならない(199条5項)というルールが定められています。

 他方、新株発行では、設立時と異なり
   既存の株主の利益
を保護する必要があります。
 具体的には、既存株主の
  ①議決権比率
  ②一株の経済的価値
を保護の対象となります。

 例えば、発行済株式総数100株(純資産額100万円・1株あたりの純資産額1万円)の会社でサミーさんが51株、代表取締役の松真さんが49株保有しているとしましょう。
 このとき、代表取締役の松真さんが、1株1000円で3株の新株発行をして、自分で引き受けたとすると、松真さんは
 ① サミーさんの議決権比率を低下させる50%未満にした。
 ② 1株あたりの純資産額が1万円あった株式を1万円未満にした。
という2つの不利益をサミーさんに与えることになりますから、この不利益をカバーする手続きを設ける必要があるのです。

 そこで、会社法は
  a-1 非公開会社では、議決権比率維持の利益を保護し、募集事項を株主総会の決議で決定する。
  a-2 公開会社では、定款で定めた発行可能株式総数の範囲内では、原則として議決権比率維持の利益を保護せず、取締役会が募集事項を決定するが、発行可能株式総数で歯止めをかけている。

  b 非公開会社か、公開会社かにかかわらず、一株の経済的価値は保護する(公開会社でも、有利発行については、募集事項を株主総会で決定する)。
という整理をしています。

 こう説明していると、「既存株主の保護」という別の要請がある分だけ、設立よりも、新株発行の方が、株主の保護に厚いように勘違いされるかもしれませんが、先ほど説明したとおり、設立では、発起人の意思を尊重するため、株式の発行に関する事項等は、発起人全員の同意によって定められますから、手続の面からは、設立の方が株主(になる人)の保護に厚い面があります。
 ですから、
   資金調達の迅速性の確保の見地から、新株発行の手続きを、設立よりも簡易にしているが、「既存株主の保護」の見地から、一定限度、歯止めをかけている
というイメージの方が正しい理解だと思います。

 既存株主の保護のためのオリジナルな制度といえば
   株式発行の差し止め請求権
があげられると思いますが、これも
  設立時には、発起人の全員の同意によって、株式の発行に関する事項が決められるから、差し止め請求権を認める必要がない
というだけの話であり
  株式の発行を株主総会や取締役会で決めることにした反面で、株主の保護の見地から、新株発行に歯止めをかけるために設けられた制度
なのです。

5 まとめ
 資金調達の迅速性と株主の保護という2つの視点で、設立と新株発行を比較をしてみましたが、最初にお話したとおり、これが唯一の答案構成ではありません。
 ただ、以上の説明でも分かるとおり
 (1)設立と新株発行は、資金調達の迅速性の要請の有無が一番大きな違いである。
 (2)株主(となる者)の手続的保護は、設立の方が強いが、新株発行は、既存株主の保護のための制度が設けられている。
 (3)設立も新株発行も、債権者の保護手続きは用意されていない。
ということを理解した上で、論述していくことが大切です。

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2006年12月28日 (木)

年末の質問コーナー

本日は、御用納めでした。会社法グループにとって、激動の1年が終わって、ややホッとしています。
今日は、質問が溜まっているので、質問コーナーのみにしますが、登記がらみ等調整の必要な問題は故意に飛ばしています。

最近の質問は、実務に直接影響を与えそうなマニアックなものが多いので、調整しないと答えられないものが多く、慎重に検討しています。
悪しからずご了承ください。
明日から家族旅行に行くので、もしかしたらインターネットに接続できないかもしれませんが、もし接続できるのならば、年内に「設立と新株発行」の残りを掲載したいと思います。

(質問コーナー)
Q1
会社計算規則37条による資本金等増加限度額の計算について教えてください。
株式引受人の募集に関しまして下記1と2では,同じ額の払込みがされ,同額の帳簿価額の自己株式の処分がされるにもかかわらず,資本金等増加限度額は1の方が多くなります。
下記1のように自己株式の処分と株式発行に手続を分けた場合の方が,2のように新株式の発行と自己株式の処分を組み合わせるケースよりも,結果として資本金等増加限度額が多くなるように規定したのはなぜでしょうか?
1 払込額500万円,自己株式処分割合100%(自己株式の帳簿価額1000万円)とする募集を行い,後日,払込額2000万円,新株式発行割合100%とする募集をした場合,資本金等増加限度額は合計で2000万円となります。
2 払込額2500万円,自己株式処分割合20%(自己株式の帳簿価額1000万円),株式発行割合80%とする募集を実施した場合,資本金増加限度額は1500万円になります。
投稿 yok | 2006/12/26 20:44:40
A1
私が作ったわけではないので理由は分かりませんが、いろいろあった方が当事者が工夫できるからでしょう。

Q2
取締役会非設置会社で、株主総会決議が必要な業務執行決定事項の範囲についてお教え下さい。
取締役会設置会社では、取締役会が取締役に委任できない事項というのが決まっています。これに対して非設置会社では、株主総会はあらゆる決議をできるという規定と、法令で株主総会決議事項になっているものを下部機関に委任できないという規定がありますが、法令で株主総会決議事項でないものについて取締役に委任してよいかどうかについては特にルールがないと考えてよいでしょうか。
投稿 すか吉 | 2006/12/27 10:59:13
A2
348条2項に掲げる事項等は取締役に委任することができません。

Q3
組織再編における株主通知・公告(会社法785条・797条)について教えてください。
785条4項2号・797条4項2号では、「株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合」、公告をもって株主への通知に代えることができる旨が規定されています。
「承認を受けた」と過去形で書かれていますが、これは、公告をする時点で、すでに株主総会決議がなされていることが必要という趣旨でしょうか。それとも、公告の時点で株主総会決議がなされていなくても、最終的に効力発生日の前日までに株主総会決議がなされれば、785条4項・797条4項の公告としての効力を有することになるのでしょうか。
投稿 年末も会社法 | 2006/12/27 11:40:27
A3
 これから承認を受ける場合も含まれると解するべでしょう。

Q4
 会社法施行規則124条7号の「社外役員の報酬等」に関する開示事項について、当該規定では「親会社またはその子会社から役員としての報酬等を受けているときは、その報酬等の総額」について開示する、とされています。
 この開示対象となる会社の範囲に「当該会社の子会社」が含まれていないことについて、当該規定は、あくまで当該会社の親会社またはその子会社(当該会社の兄弟会社)の「役員」(同2条3項3号)としての報酬等について開示するものであり、そもそも子会社から役員としての報酬等を受けている場合は、社外役員の要件に反することになるため除かれていると理解していますが、この理解で間違いないでしょうか?
投稿 naga | 2006/12/27 16:53:58
A4
 親会社の孫会社も、子会社ですから、通常は、親会社の子会社には、その会社の子会社も含まれます。

Q5
有利発行について質問させてください。
100問の20問では、前段においては総会決議がなくても、本来不要である株主への公示がある事例、後段においては公示も総会決議もない事例が問われており、前段は無効にならず後段は無効という結論になっております。
ということは、公示の有無が有利発行の効力に決定的意味を持つように思えます。
ところが21問の160ページから161ページにかけて、総会決議がなかった場合でも無効にならないと結論づけています。ここは本来公示など不要で総会決議が必要な場面ですから、『総会決議がなかった場合』というのは公示もなかったと解すべきと思いますが、そうすると20問との整合性がありません。
つまり20問後段と21問指摘箇所は同じ事例を想定しているのに結論が違うように思えるのです。
何かを見落とし、落とし穴にはまっているのかもしれませんが、しばらく考えても分かりませんでしたので、私の考えの間違いを御指摘下さい。
よろしくお願いいたします。
投稿 アンナ | 2006/12/27 20:44:34
Q5
総会決議がなかったからといって公示がなかったとは言えません。
一番問題になるのは、有利発行であるにもかかわらず、有利発行ではないものとして、役会決議+通知又は公告という手続きで募集が行われる場合であり、これは、総会決議はないが、公示はある場合です。

Q6
 有限会社の監査役は,株式会社の監査役とは異なって任意的機関だから,設置するしないも自由で解任に当たっても特に特別決議を要求する理由はないという風に考えてみましたが正しいでしょうか? また,株式会社にせよ有限会社にせよ,累積投票で選ばれた取締役が普通決議で解任することができるとすると,少数者の意思を反映するための累積投票制度が骨抜きになるから,特別決議を要求するのだと考えてみましたが,正しいでしょうか?
投稿 帝王 | 2006/12/28 0:36:27
A6
 株式会社の監査役も、任意的機関です。ですから、説明としては成功していないように思います。

Q7
本日は企業再編時の債権者保護につき以下の理解でよいかご教授ください。
1 債権とは、特定人が特定人に対して特定の給付を請求できる権利であることから、①債権者(「特定人が」)、②債務者(「特定人に対して」)、③債権の内容(「特定の給付を請求できる権利」)に変更がない限り、債権者は、会社の経営判断等に異議を述べる権利がないのが原則である。
2 しかし、例外的に、799条1項各号の場合だけは、①~③に変更はないが、対価の適正を判断する機会を与えるため、異議権を認めた。
3 企業再編時においては、あまり債権者の保護手続を考慮していないようにも思えるが、剰余金の配当制限(461条以下)や、役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条)、詐害行為取消権(民法424条)等の他の諸制度により債権者の保護は図られうるので会社の企業再編に広く異議権を認めなくとも構わない。
以上の様な理解で企業再編時の債権者保護を整理してみたのですが、間違いはないでしょうか?実務家の先生に聞くような質問ではないのかもしれませんが、宜しくお願いいたします。(根本的には会社法における債権者保護って何だ?という疑問があります。)
投稿 NK | 2006/12/28 2:25:18
A7
 「経営判断」に対する異議権という考え方はあまりしないと思います。
 異議は、「対価の適正」だけを判断するのではありません。
 「企業再編時においては、あまり債権者の保護手続を考慮していないように思える」とありますが、意味が不明です。多くの場合、債権者保護手続きが用意されています。

Q8
420条1項の代表執行役についてお伺いいたします。
当初執行役が一人しかいなく、当該執行役が代表執行役とみなされていたときに、後日、もう一人執行役を増員した場合には、改めて代表執行役を選定し直さなければならないと考えて宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/28 10:01:17
A8
代表執行役関係は、現在検討中ですので、確答はさけますあ、既に代表執行役に選定されている者がいる場合には、執行役が複数になったからといって、代表執行役を選定し直す必要はないと思います。

Q9
募集株式の総数引受契約の後,払込期日までの間に,当該会社が株式分割することは(不法行為かどうかは別にして)できると思いますが,引き受けるほうが分割相当分の株を取得するには,再度契約しなければならないのでしょうか?
投稿 サル頭 | 2006/12/28 15:34:54
A9
引受人が株主になる前に株式分割が行われたとすれば、引受人は、分割相当分の株式を取得することはできません。

Q10
各取締役が担当事業分野をもついわゆる担当役員制を採用する場合、この誰がどの分野を担当するかという担当分けについては取締役会で決議する必要がありますでしょうか?あるいは代表取締役(社長)が決定してもよいのでしょうか?業務執行をする限り、会社法363条1項2号の業務執行取締役として取締役会で選定する必要があるということになるのでしょうか?
投稿 あつし | 2006/12/28 15:49:02
A10
「担当」が業務執行権を与える趣旨ならば、取締役会で選定する必要があります。
使用人兼務取締役の使用人としての担当を決めるのならば、「重要な使用人の選任又は解任」に該当しない限り、役会決議はいりません。

Q11
「一時会計監査人」「一時取締役」「一時監査役」といった用語に関する疑問です。「一時会計監査人」についてみてみると、会社法346条4項は「一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない」と規定しており、旧商法特例法6条の4における文言と同様です。従来はこの条文にもとづき選任される者を「仮会計監査人」と称するのが一般的だったと思います。条文中の「一時」と「会計監査人の職務・・・」の間は一拍おいて読むと思っていたので、「一時会計監査人」と称するのには違和感を感じますが、現在各社のリリースを見ると、「一時会計監査人」という用語が一般的になっているようです。江頭先生の「株式会社法」では、「一時会計監査人」の用語が使用されており、前田先生の「会社法入門」では、「仮会計監査人」の用語が使用されています。このあたり何か議論があったのでしょうか?
投稿 あつし | 2006/12/28 16:12:08
A11
一時会計監査人にせよ、仮会計監査人にせよ、通称なので、どちらを使っても良いです。
正式名称は、「一時会計監査人の職務を行う者」です。

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2006年12月26日 (火)

【入門】設立と新株発行(1)

 クリスマスの夜は更けました。
 皆さんは、愛に囲まれた幸せな一夜を過ごされていますでしょうか。

 私の若い頃のクリスマスは、バブっていました。
 男も女も、本命・対抗・大穴のランクに応じて、クリスマス、イブ、イブイブと沢山の人とデートするのが「使命」であり、イブの昼と夜と深夜に、それぞれ別の人とデートするのが「達人」として賞賛されていました。
 逆に、クリスマスを一緒に過ごす人がいない者たちは、周りから、まるで人生の敗北者のごとく迫害されるので、26日になるまで、物陰に隠れながら過ごしたものです。

 バブルがはじけて約20年。
 「クリスマス=愛を深める日」という風潮はあいかわらずですが、以前に比べると、世間も、私の周りも、かなり健全になったような気がします。

 今の私にとって、クリスマスの喜びは、子供達の笑顔。
 朝、子供達が、ベッドから飛び起きて、クリスマスツリーに駆け寄り、プレゼントを見つけるなり
  「あっ、サンタさんが来てる!!」
と嬉しそうな声をあげるのを聞く瞬間が、私の至福の時です。
 あと何年、こうした楽しいクリスマスが迎えられるか分かりませんが、人と人のふれあいの中で、相手を大切に思う気持ちがあれば、最適の「愛」の形が見つかるはずです。
 家族愛も、人類愛も、ジャイアンツ愛も、皆同じです。
 残念ながら、会社法には「愛」という文字が入っていませんが、
   取締役と株主は、相互に愛をもって接しなければならない。
とかいう条文ができれば、会社法の印象が少しは改善するでしょうか?

 余談はこれくらいにして、今日は、第11問の「設立と新株発行の比較」について、お話ししましょう。

問題 「会社の設立に際して株式を発行する場合と、会社の設立後に資金調達を目的として株式を発行する場合とで、どのような差異があるか、また、どうしてそのような差異が設けられているかを論ぜよ」

この問題文に対し、端的に答えると、次のようになります。

1 差異
(1)発行する株式の内容等の決定手続き
  設立時:発起人全員の同意
  設立後: 公開会社 原則 役会決議
            例外 有利発行
      非公開会社 原則 総会決議
(2)失権手続の有無
  設立時:発起人については失権手続あり(その他の引受人については、なし)
  設立後:失権手続なし
(3)無効等の争い方
  設立時:設立無効の訴え
       提訴期間:2年
  設立後:株式発行無効の訴え
    公開会社:提訴期間6か月
   非公開会社:提訴期間1年
(4)差し止め請求権
  設立時:なし
  設立後:あり

2 差異が設けられている理由
 A 迅速性の要請 ・・・(1)(2)(3)について
  設立時:それほど迅速性は要求されない。
  設立後;すでに事業を営んでいる会社の資金調達のためのものなので、迅速性が要求される。

 B 既存株主との利害調整の要請・・(1)(4)について
  設立時:既存株主は存在しない。
  設立後:既存株主が存在するので、持株比率と経済的利益の維持を図る必要がある。

 以上を見ても分かるとおり、この問題は、それなりに拾い出すべき制度が多いので、受験生が実際に解答するときには
   差異(制度上の違い)を、もれなく拾うことができるか。
という点で結構な点差がつくと思います。

 また、ある程度、制度を拾えたとしても
 ① 手続きの差異が、設立時 VS 設立後の視点だけではなく、公開会社VS非公開会社等という視点から生じているものが多いので、この問題で、後者の視点をどの程度説明するか
 ② 制度の差異を述べて、淡々とその理由を書いていく方がわかりやすいか、理由ABという視点で、差異を2つに分類して説明する方が分かりやすいか
 ③ 理由Aに基づく手続上の差異と理由Bに基づく手続き上の差異を、どのように振り分けて、説明するか
等という点は悩むところです。

 会社法は、いろいろな種類の株式会社(公開VS非公開、取締役会設置VS非設置等)があるので、単一の視点で制度を分類して説明するのは、案外難しい場合が多いので、受験生が、試験本番で、見知らぬ制度間の比較をさせられるときには、整理のための「視点」を発見することに拘らず、制度の違いを淡々と述べる方がよいかもしれません。

 しかし、100問の解答例は、少しでも分かりやすくするために
   迅速性の要否から生ずる差異
   既存株主の存否から生ずる差異
に分けて、制度上の差異の内容を説明することにしました。

 どちらの答案構成でも構わないのですが、答案を書いているうちに
   設立時VS設立後の株式発行
という問題が
   発起設立VS募集設立
になったり
   公開会社VS非公開会社
になったりしないように注意する必要はあるでしょう。

 今日は、クリスマスの話題を書いているうちに、遅くなってしまったので、具体的な解説は次回に続きます。

(質問コーナー)
Q1
 本日は社外取締役の責任限定契約と社外取締役の登記義務について教えてください。
社外取締役等との責任限定契約(427条1項)ができる定款の定めがある会社において、社外取締役(2条15号)の要件を満たす取締役は、責任限定契約を締結していなくても社外取締役の旨の登記(911条25号)をしなくてはならないのでしょうか?視点を変えてお聞きすると、責任限定の定めの登記(911条24号)がされている会社において、取締役5名(ABCDE)のうちEのみ社外取締役の登記がなされている場合に、当該会社の登記事項証明書を見た場合、ABCDは社外取締役ではないと判断できるものでしょうか?
以上の点、宜しくお願いいたします。
投稿 NK | 2006/12/22 1:06:36
A1
 責任限定契約を締結しない場合には、社外取締役である旨の登記は不要です。
 したがって、ご質問の場合には、ABCDについて、「社外取締役ではない」という判断はできません。もしかしたら、社外取締役かもしれません。

Q2
 特例有限会社に関する整備法の規定に関してお教えください。
 郡谷氏編著の『中小会社・有限会社の新・会社法』P208によれば,特例有限会社の監査役の解任決議の決議要件は普通決議だとされていますが,なぜ,特例有限会社において累積投票で選任された取締役の解任の決議要件は特別決議であるのに,監査役の解任の決議要件は普通決議なのでしょうか?監査役について通常の株式会社と異なり,一方で,取締役について旧有限会社とも異なる規律にした理由をお教えください。
投稿 たつきち | 2006/12/22 1:30:29
A2
 大人の事情としかいいようがありません。

Q3
取締役会への報告の省略について、ご教示ください。
施行規則101条4項2号ロにおける「取締役会への報告を要しないものとされた日」とは、千問Q510を類推解釈して、通知が到達した時(通常到達した時を含む)になるのでしょうか?
取締役会議事録作成の実務を考えると、施行規則101条4項1号ハにおける「取締役会の決議があったものとみなされた日」とそろえておきたいのですが、通知を受けたことに対する期限付き意思表示を行うことによって日付をそろえるのは、無理がありますか?
投稿 としお | 2006/12/22 11:46:13
A3
 千問の類推解釈というのは、ちょっと笑えますが、通知が到達した日(通常到達した時を含む。)というのが妥当なところのように思います。
 なお、通知を受けることは、意思表示ではないので、「期限付き意思表示」という意味が分からないのですが、通知の効力発生時期について、特約をするということなのでしょうか?オウンリスクでということなのでしょうね。

Q4
非公開会社の募集株式発行承認の株主総会議案例として、199条1項にある募集事項と一緒に(同議案内で)割当者とその割当数まで決議しているものを見かけましたが、取締役会非設置会社の場合、この議案だけで第三者割当の際に必要な204条2項の「割当の決定もした」といえるのでしょうか?
私は、204条が「株式会社は、申込者の中から~」となっているので、第三者割当の場合「203条の申込の手続を経ずして204条の割当はできない」と勝手に解釈しているのですが・・・。
上記のような決議だけで手続が有効になるケースは、総会前に決議成立を条件に(もしくは決議後に)割当者と総数引受契約をする場合だけで、それ以外は上記の決議後、203条の手続きをして、改めて別の議案、もしくは別の回の総会で再度割当を決定しなくてはいけないと思っているのですが、この考え方で合っていますでしょうか?
投稿 かーご | 2006/12/22 16:44:14
A4
 実務上は、総数引受契約になっている場合もあるでしょうし、総数引受契約ではなくても、募集決議がされることを条件として、事前に申し込みをすることも可能なので、1回の株主総会で、募集決議と割当決議を続けてやることも可能です。

Q5
サミー先生、昨日21日(木)のQ10(A10)で回答いただいたことの続きなのです
が、A10でご回答いただいた①の計算規則の条文を教えていただけないでしょう
か。
また、黒字会社が赤字会社を吸収合併することによって、赤字会社で生じていた
欠損を引き続き存続会社である黒字会社で引き継ぐことができるでしょうか。
以前とは異なって税務上の取扱いが変更になり、このような場合も欠損を引き継
ぐことができるようになったとも聞いたため再度うかがう次第です。
投稿 DAN | 2006/12/22 17:59:11
A5
 組織再編をめぐる会計処理は、単純に計算規則の条文を示すだけでは誤解を生みますので、計算規則の詳解等の本を読んで勉強していただければ幸いです。

Q6
 19日のQ5のご回答に簡易・略式再編の要件を満たす場合には総会決議での承認は無効というようなご回答がありましたが、そういう意味でしょうか。
 もし、そうであれば、実務に大きな影響があります。登記でも100%親子の合併等において子会社の総会議事録を添付したら却下されてしまいます。実務では要件には該当するが、総会決議を経て確実な決定をしたということも多いですし、資産規模が20%前後で微妙な案件もあります。
 条文では「(総会承認の規定を)適用しない」とありますが、総会承認の規定には「(承認を)受けなければならない」ですから、「適用しない」とは総会の承認を受ける必要がない」という意味で、商法時代の解釈と変わらないと考えてはいけないでしょうか。商事法務1753号37頁以下の相澤・細川氏の解説文にも「総会の決議を省略することができる」とか「要しない」という表現を使っています。
投稿 司法書士K | 2006/12/23 13:02:15
A6
 簡易・略式再編の要件を充たす場合には、総会決議は無意味なので、それをやってもやらなくても、その再編行為は有効です(さらに言えば、その総会決議が他の要件で無効・取消しになっても、再編は有効です)。ですから、実務的には、何の影響もありません。

Q7
1 株式交換において、完全親会社となることができる会社を株式会社と合同会社に限る(2条31号)としたのはなぜか?
(株式を交換するんだから、株式会社に限る、と規定していれば分りやすいのですが、なぜ合同会社にも認めるのかが分りません。対価の柔軟性が許容されている会社法では、合同会社にも株式交換完全親会社となることを認めるとしても、なぜ合名・合資会社を認めないのかが分りません。)
2 株式移転において、完全親会社となることができる会社を株式会社に限る(2条32号)としたのはなぜか?
(なぜ持分会社を認めないのか、株式交換と異なり、なぜ合同会社を認めないのかが分りません。)
以上の質問は、葉玉先生時代に一部既出の質問なのですが、葉玉先生は「大人の事情」とのご回答でした。「大人の事情」=法務省の対内的政策理由と受け止めましたが、対内的政策理由はともかく、対外的政策理由(法務省が国民に説明するときの理由)について教えてください。
A7
 大人の事情というのは、「対内的政策理由」ではなく、「政治的な配慮で決まったものであり、理屈ではない。」という意味です。はっきりいって、法務省の対内的政策理由なんてものは、悲しいくらい何もありません。税収確保という発想は、会社法グループにはないし(むしろ、どうやったら税金が安くなるかと考えているかもしれません)、経産省や検察庁から来た人がいたにもかかわらず、経産省や検察庁への配慮もほとんどあまりません。

Q8
会社法298条第1項各号に掲げる事項は、その全部を一度の取締役会において決定しなければならないのでしょうか。
会社法施行規則67条には、「法第298条第1項各号に掲げる事項の全部を決定した日」という表現があり、部分的に日を改めて決定するケースも予定しているようなので、
全部を一度に決定する必要はないと考えていますが、それでよいでしょうか。
投稿 サラリーマン | 2006/12/24 1:05:19
A8
298条1項各号に掲げる事項を、数回の取締役会に分けて決定することもできます。

Q9
サミー先生、種類株式について以下の点につき教えてください。
1 甲種類株式(剰余金に関して優先的内容があり、取得請求権付。但し、取得請求権の対価は、金銭による時価)と乙種類株式(普通株)を発行している公開会社において、乙種類株式に譲渡制限を設定した場合に、甲種類株主総会の決議は必要か?
2 不要だとすると、条文上の根拠は、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」(322条1項本文)には該当しないから、でよいか?
3 必要だとすると、条文上の根拠は、「株式の内容の変更」(322条1項1号イ)に該当し、かつ「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」(322条1項本文)に該当するから、でよいか?
以上の点について宜しくお願いいたします。
投稿 NK | 2006/12/24 14:08:36
A9
 具体的なあてはめなので、具体的な条項を見ないで答えるのは危険ですが、ご質問の場合には、通常は、甲種株式には、損害を及ぼすおそれはなく、甲種株式の種類株主総会はいらないのではないでしょうか。

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2006年12月21日 (木)

【入門】資本三原則(5)

4 資本維持の原則
 前回,資本維持の原則について誤解を生じやすい点について,説明しました。
 今日は,資本維持の原則によって制限を受ける「剰余金の配当」について,基本的な理解を深めてもらいたいと思います。

(1)「出資の払戻し」と「剰余金の配当」の意義
 何度も書いてきましたが,株式会社の債権者は,出資財産について,株主よりも優越的な地位にあります(「株主は,出資財産について,債権者に劣後する」と言っても同じことです)。
 そのため,株式会社では,持分会社と異なり,「出資の払戻し」をすることができません。

 この「出資の払戻し」というのは,資本金を原資として,株主に会社財産を交付することをいいます。
 たとえば,松真さんが,株式会社正直法務に1000万円を出資した場合
  現金 1000万円 資本金 1000万円
という会社になり,その後,正直法務が,商売で200万円を儲けて
  現金 1200万円 資本金 1000万円
           その他利益剰余金 200万円
という会社になったとしましょう。
  ここで,松真さんが,「株主として,正直法務から100万円貰いたい」と考えたとき,正直法務は,どのような行為ができるでしょうか。

 このとき,初心者の皆さんは,正直法務が,松真さんに現金100万円を渡すのだから,単純に,現金を減らして
  現金 1100万円 資本金 1000万円
            その他利益剰余金 200万円
の会社にすればよいと思うかも知れませんが,会計の世界では,「複式簿記」というものがあるため,
   そういう会計処理はできません。

 複式簿記とは,Wikipediaによれば,「すべての簿記的取引を、資産、負債、資本、費用又は収益のいずれかに属する勘定科目を用いて借方(左側)と貸方(右側)に同じ金額を記入する仕訳(しわけ)と呼ばれる手法により、貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理する方法」のことをいいます。

 詳しくは,WIkipediaを見て貰えばいいのですが,ここで,ちょっと乱暴な説明をすれば,複式簿記では
   現金という資産(借方・左側)を減らすときには,貸方(右側)も何か減らさなければならない
というルールがあるということを覚えて貰いたいのです。

 例えば,先ほどの例で,正直法務が,株主である松真さんに,売買等の取引とは無関係に,現金200万円を交付したいのならば,貸方の「資本金」か,「その他利益剰余金」のどちらかを減らさなければいけません。

 このように株主に対して現金を支払うときに,減らす「貸方」のことを一般に「財源」と呼んでいます。
 「財源」というと,一般には
   パソコンを買いたいけど,俺には財源がないからなあ。
という風に,「現金を調達する方法」という意味で使ったりしますが,配当等においては,「財源」というのは,「現金を減らすのに対応して,どんな科目を減らすか」という会計的な意味で使われることがほとんどです。

 さて,先ほどの例で,松真さんが正直法務から200万円を返してもらうときに,仮に、「資本金」を財源とすることができるとすれば
 (借) 資本金100万円  (貸) 現金100万円
という仕分けがされて(複式簿記では,借方(左)の科目を減らすときには,貸方(右)に書き,貸方の科目を減らすときには,借方に書きます),正直法務は
 (借) 現金1100万円 (貸)資本金900万円
                その他利益剰余金200万円
の会社になります。
 これを見ると,借方と貸方は,どちらも合計1100万円で金額がそろっているので,複式簿記としては問題がなさそうですが
  資本金を財源として,株主に金銭を交付する行為は「出資の払戻し」と呼ばれ,株式会社では禁止されている
ので,このような処理をすることはできません
 (ちなみに,持分会社では,合同会社を含め,すべて出資の払戻しをすることができます)。

 これに対し,株式会社正直法務が,「その他利益剰余金」を原資として,松真さんに現金100万円を交付するとすれば
 (借) その他利益剰余金 100万円 (貸) 現金 100万円
という仕分けがされて(説明を簡単にするため、利益準備金の計上などの話は省略します)
 (借) 現金1100万円  (貸)資本金1000万円
                 その他利益剰余金 100万円
の会社になります。
 このように「剰余金」を原資にして株主に現金を交付することを「剰余金の配当」と呼んでいます。

(2)「剰余金の配当」と「利益配当」
 この剰余金の配当は、旧商法では「利益配当」と呼ばれていました。
 しかし、「利益配当」という概念は、
  「その他資本剰余金」を原資とする配当ができるか?
という疑問を生じさせます。

 そこで、会社法は、「その他資本剰余金」を原資とする配当をすることができることを明らかにするため「剰余金の配当」という文言を用いることになりました。

 ところで,「その他資本剰余金」とは,どんなものなのでしょうか。
 「その他資本剰余金」は、資本金の減少や自己株式の処分をした場合等に生ずる剰余金です。
 例えば、先ほどの例で、100万円の配当後に、正直法務が、500万円の資本金の減少(減資)をしたとしましょう。
 その場合
 (借)資本金500万円 (貸)その他資本剰余金500万円
という仕分けがされて
 (借)現金1100万円 (貸) 資本金500万円
                 その他資本剰余金500万円
                 その他利益剰余金100万円
という会社になります。
 この場合,正直法務は、「その他利益剰余金」を原資とする100万円のほかに,「その他資本剰余金」を原資として500万円の「剰余金の配当」をすることができます。

(3)分配可能額と「剰余金の配当」
 以上の理解を前提に,なぜ分配可能額による剰余金の配当制限(財源規制と言われます)がされているのかを理解してもらいましょう。

 前回お話ししたとおり,「剰余金の配当」を制限する分配可能額の基本となる額は
  最終事業年度の末日(期末)の
  「その他資本剰余金」+「その他利益剰余金」
です。

 例えば、(2)の減資の効力が発生した後にそのまま決算期を迎え、その後に,もし700万円の剰余金の配当がされたとすれば
 (借)その他資本剰余金500万円 (貸)現金700万円
    その他利益剰余金200万円
という仕分けがされて
 (借) 現金400万円 資本金500万円
             その他利益剰余金マイナス100万円
という会社になります。
 この状態は、
  資本金は500万円のままなので「出資の払戻し」はされていませんが、
  その他利益剰余金がマイナスになってしまっていて、資産が資本金よりも少なくなっているので、実質的には「出資の払戻し」をしてしまったのと同じ状態
です。

 このように「剰余金の配当」に制限をかけないと、株式会社において禁止されている「出資の払戻し」と同じことが実現されてしまうので、会社法は
  分配可能額=その他資本剰余金500万円+その他利益剰余金100万円
      =600万円
の範囲でしか,剰余金の配当をすることができないようにしているのです。

 そして,仮に分配可能額を超える剰余金の配当がされた場合(例えば,700万円の剰余金の配当がされた場合)には,
  株主と業務執行者が,会社に対し,受領した配当に相当する額(700万円)の金銭を支払う義務(462条1項)
を負うことになります。
 つまり,先ほどの例だと,株主の松真さんは,受け取った700万円の全額を会社に返還しなければならず,正直法務の業務執行者(代表取締役等)も,株主と連帯して,同一の責任を負います。

 また,故意に分配可能額を超える剰余金の配当を行うと,会社財産を危うくする罪(963条5項2号)が成立します。
 なお,分配可能額は,貸借対照表等から計算できるので,正確に貸借対照表を作った上で,そこから計算される分配可能額を超えるような配当をすると,すぐに犯罪がばれてしまいますから,いわゆる違法配当は,業務執行者が,粉飾決算をして,その他利益剰余金を水増しした虚偽の貸借対照表等を作成して行うパターンがほとんどです。

5 資本不変の原則
 資本不変の原則は,株式会社が,資本金を自由に減少させることは許されないという原則です。
 「不変」というと,増加と減少のどちらも禁止されているように見えますが,資本金が増加するのは,資本充実の原則に従っている限り,債権者にとっては何の不都合もないので
   資本金の減少のみ
が禁止されています。
 しかも,「禁止」といっても,絶対的に禁止されているわけではなく
   債権者保護手続(449条)を含む資本金の減少手続を取れば,資本金の減少が許される
ので,定義の中に「自由に」という言葉が入っています。
 
 以前,説明したとおり(http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/12786662),資本金の減少をするためには,欠損てん補の場合を含めて,どんな場合でも,債権者保護手続が要求されます(そこが,準備金の減少との大きな違いでした)。

 この資本不変の原則は,債権者の知らないうちに,資本金の減少により,その他資本剰余金が増えてしまうと,資本充実・維持の原則を採用した意味がないので,採用されているものです。
 個人的には,「資本不変の原則」というほど立派なものではなく,449条の内容と制度趣旨を述べているだけのような気もしますが,日本人は,「三」が好きなので,三原則目としてあげられているのでしょうね。

6 まとめ
 以上,「資本充実の原則」「資本維持の原則」「資本不変の原則」等の化けの皮を剥ぎながら,「債権者の保護」のために,どんな規定が置かれているのかを説明してきました。
 初心者の皆さんが,誤解をしないようにするため,普通の教科書に書いていないようなところまで説明をしましたが,理解していただけたでしょうか。

 長い文章を読んだ後は,簡単にまとめることが大事なので,最後にまとめを書いて終わります。

 <資本充実の原則>
 株式会社では
 ① 株主の間接有限責任を実現するため,引受人は,現実に出資を履行しない限り,株主になることはできないこととされている。
 ② 債権者は,出資された財産について,株主に対する優先的地位を有するが,株式会社では,株主に対して責任を追及することができないから,出資財産が株主へ流出することを防止する必要がある。
       そこで↓
 会社法は,株主が現実に出資した財産をベースに資本金の額を決定し(445条),出資の払戻し(資本金を原資として会社財産を株主に返還すること)を禁止した。
   この制度の下では↓
 資本金の額に相当する財産は,必ず,現実に会社に出資されているという意味で,資本充実の原則は実現されている。
        また↓
資本充実の原則を実現するための制度として
  ①設立・株式引受人の募集時における払込取扱銀行等の設置強制
  ②預合い罪
が設けられている。

 <資本維持の原則>
 債権者は,出資財産について,株主に対し優先的地位を有する。
  そのため↓
 株式会社は,出資の払戻しをすることはできないが,「剰余金の配当」「自己株式の取得」によって,出資の払戻しと同一の結果をもたらすおそれがある。
   そこで↓
 分配可能額による剰余金の配当等の制限(461条1項)等が設けられている。
  ←資本金の額に相当する純資産がない場合には,分配可能額は存在しないという意味で,資本維持の原則が採用されている。
      ↓
461条1項違反:
  ①株主・業務執行者の配当等相当額の金銭支払い義務(462条1項)
  ②会社財産を危うくする罪(963条5項2号)

<資本不変の原則>
 資本金の額が自由に減少されると,出資の払戻しを禁止し,剰余金の配当を制限した制度が容易に潜脱される。
  そこで↓
 資本金の減少をするためには,必ず,債権者保護手続(449条)を要することとされている。
 ←自由に資本金を減少することができないという意味で,資本不変の原則は採用されている。

(質問コーナー)
Q1
12/19Q1で、ご教示いただきたかったのは、非公開会社が人的吸収分割を行う場合の、会社法796条1項但書の適用についてです。
旧商法では、100%子会社が吸収分割会社、100%親会社が吸収分割承継会社となって、人的吸収分割を行う場合でも、旧商法374条ノ23第1項の簡易吸収分割の要件を満たせば、100%親会社側での株主総会決議が省略できました。
ところが、会社法では、人的分割が「物的分割+剰余金の配当」と整理されたことにより、瞬間的とはいえ、100%親会社が100%子会社に対して、100%親会社の株式を「交付する」ことになり、会社法796条1項但書に該当してしまうため、非公開会社が、簡易分割を選択できる余地がなくなってしまったということになるのでしょうか?
投稿 としお | 2006/12/19 10:14:48
A1
 会社法では,ご質問の場合,796条1項ただし書に該当し,人的分割はできないと思います。もっとも,100%親会社なので,無対価の吸収分割をすれば十分でしょう。

Q2
2006年12月19日 (火)の(質問コーナー)で以下のような答えを頂いたものです。
追加で質問させてください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Q21
814条1項について質問させてください。
814条1項によると、新設合併設立会社等の設立では30条1項を
適用しません。つまり、通常の設立の場合と異なり公証人の認証は不要です。この理由を教えてください。
投稿 maru | 2006/12/17 16:31:09
A21
合併時の定款等は,しっかりとした手続きのもとで作成されるので,後で内容が不明になったりすることが考えにくいからです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここでいう、「しっかりとした手続き」とは具体的にどのようなものを指すのか教えてください。
投稿 maru | 2006/12/19 22:03:06
A2
 合併契約において,新設合併設立株式会社の定款の内容を定め,それを開示し,株主総会の承認を得る等の合併手続です。

Q3
新株予約権の登記事項(911条3項12号)について質問させてください。
236条1項5号6号8号9号10号11号及び238条1項4号5号6号7号は 
なぜ、新株予約権の登記事項にならないのでしょうか?
登記事項になるかどうかの基準がいまいちよく分からないので教えてください。
投稿 maru | 2006/12/19 22:04:21
A3
「株式の数が,いつ,どの程度の出資によって,どの程度の数,増える可能性があるか」ということは公示するが,それ以外は公示しないという基準でしょう。

Q4
本日のA3ですが、「決算です」さんのご質問の子会社Aとの取引は、取締役が「第三者のためにする」直接取引であり、関連当事者との取引として開示される(今回は経過措置あり)のではないでしょうか。

また、会社法施行規則128条2号は間接取引を対象としているので、子会社Aとの取引は「第三者との間の取引」には該当しないと思うのですが、間違ってますでしょうか。

私も「第三者のためにする取引」と「第三者との間の取引」の違いがよくわからないのですが、
直接取引=法356条1項2号→関連当事者との取引
間接取引=法356条1項3号→事業報告の附属明細書
という理解でよろしいでしょうか。
投稿 ひがし | 2006/12/20 0:39:16
A4
違います。関連当事者の取引の注記と,事業報告の付属明細書は,記載事項がダブる場合であっても,双方に記載する必要があります。

Q5
資本金と準備金の額について教えてください。
新設型組織再編で設立される株式会社の設立当初の資本準備金の額は、資本金の額を超えても良いのでしょうか?
445条5項の場合は、445条1,2項は適用されないということでよろしいですか?
投稿 パラリーギャル | 2006/12/20 15:44:20
A5
資本金の額を超える場合もありえますが,会計基準によります。

Q6
会社が解散すると清算事務年度がスタートしますが、従来の事業年度はなくなるのでしょうか?
定時総会の開催日もそれによって変わるのでしょうか?
3月決算、6月総会の会社が、6月30日に解散した場合、清算事務年度は、7月1日から6月30日になります。
清算人が作成する貸借対照表等は、7月1日から6月30日のものになりますので、定時総会の開催日が変わらなければ、定時総会に提出するものは1年前のものになってしまいます。
会社法施行日をまたぐ清算株式会社の監査役の任期についてはどうでしょうか?
投稿 パラリーギャル | 2006/12/20 16:03:42
A6
清算株式会社は,事業をしないので,事業年度はなくなります。
定時総会の開催日は,変わります。
監査役の任期は,なお従前の例によります。

Q7
細かい話ですが、会社計算規則の附則第7条についてです。
条文は、「第百二十九条第一項第八号の規定は、この省令の施行後最初に到来する事業年度の末日に係る個別注記表であって、この省令の施行後最初に開催する株主総会の招集の通知に併せてその内容を通知すべきものについては、適用しない。」です。
3月決算会社の場合は、 18年6月が施行後最初に開催する株主総会となるので、19年3月期の注記ではこの条文は適用できず、関連当事者の注記をしなければならない、と読むのでしょうか?
注記をするとなると該当者との取引データーにフラグを立てるなどの事前準備が大変ですので、よろしくお願いします。
投稿 ゆたゆた | 2006/12/20 16:29:58
A7
平成18年6月に株主総会を開催した会社は,平成19年3月期の注記では,129条1項8号が適用されます。

Q8
新設型再編を行う際の株主、新株予約権者宛の公告について、公告方法を「電子公告」とした場合、その掲載期間については会社法940条に規定されていますが、新設型再編の場合の株主、新株予約権者宛の公告は、940条1項に示されている1~4号のいずれに該当すると考えればいいのでしょうか?
 新設型の場合、公告の時期は「株主総会決議の日から2週間以内」であり、株式、新株予約権の買取請求期間は「公告の日」から20日内なので、1号の「特定の日の一定の期間前に公告しなけれならない場合」には該当しないように読めますが、そうなると4号の「その他」に該当し、「公告の日から1ヶ月経過するまで」となります。
但し、当該公告は買取請求を前提に行われるものであり、買取請求期間満了をもって掲載終了となるのが自然と思われるので、公告掲載から20日経過をもって掲載終了と考えますが、いかがでしょうか?
なお、実務上は940条1項4号に該当するものと解釈し、1ヶ月間の掲載を要するものとされています。
投稿 naga | 2006/12/21 10:10:42
A8
 趣旨から言えば,おっしゃることもわからないわけではないですが,条文どおり,940条1項4号が適用されると思います。

Q9
吸収分割の対価を現金とする場合、対価の支払日を効力発生日よりも後(2ヵ月後)とすることは可能でしょうか。
例えば、分割対価を現金とし、かつ、その金額について、「承継純資産額(簿価)と同額」という定め方をしておいた上で、効力発生日の後、承継純資産の詳細金額(すなわち対価の金額)が確定した後(2ヵ月後)に、対価を支払うということができないか、ということを考えています。
対価が株式等の場合については、会社法759条4項に規定があり、効力発生日に分割会社が株主等となると定められていますが、対価が現金の場合については、対価の移転時期についての規定がありません。これは、対価が現金の場合には、対価の支払時期を自由に定められることを意味すると理解してよいのでしょうか。
投稿 再編スキーム検討中 | 2006/12/21 17:35:10
A9
商法グループの組織再編マニアと打ち合わせする必要がありますが,合併の対価としての金銭交付請求権自体は,効力発生日に生じているのでしょうが,支払日を遅らせることは可能だと思われます。

Q10
サミー先生、合併についてご教示下さい。
グループ企業の再編にあたり、黒字会社が赤字会社を吸収合併し、その後存続
会社である黒字会社の商号を消滅した赤字会社のものに変更する、という手法
には一般的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
①合併による合併差益を生じさせて財務諸表を良く見せる
②株式等の資産の含み損を実現させて節税を図る、といったことが考えられるでしょうか。
投稿 DAN | 2006/12/21 17:55:55
A10
会社法・計算規則の下では,①は難しくなっています。
②は,なんとも言えません。

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2006年12月19日 (火)

事業報告等についての質問

昨日は質問コーナーをお休みしたので、今日は、そのフォローです。

(質問コーナー)
Q1
略式・簡易組織再編の可否について、ご教示ください。
完全親会社が吸収分割承継会社、完全子会社が吸収分割会社となって、人的吸収分割を行う予定です。
両社とも、公開会社ではありません。
人的分割が「物的分割+剰余金の配当」と整理されたことにより、吸収分割の効力発生日において、吸収分割承継会社は、吸収分割会社に対して、吸収分割承継会社の株式を交付することになるので、略式・簡易組織再編はできないと考えますが、いかがでしょうか?
投稿 としお | 2006/12/11 22:08:33
A1
すいません。ちょっと問題意識がよく分かりません。

Q2
『千問の道標』Q172で、株主の権利行使の方法については、定款または定款の定めによる委任に基づき株式の取扱等に関して定められる株式取扱規程等において合理的な制約を加えることは可能とされていますが、ここで「定款の定めによる委任に基づく株式取扱規則」として、定款にどのような記載があるべきか。」
ですが、従来、多くの会社の定款では、「当会社の株式に関する取扱及び手数料等は、法令又は定款のほか、取締役会で定める株式取扱規則による。」のように、 特に、株主の権利行使について触れていません。この定款規定を変更することなく、株式取扱規則に株主の権利行使の制限規定を取締役会決議で規定しても問題ないでしょうか。
投稿 んーー | 2006/12/12 8:52:21
A2
定款の解釈は,各会社で決めることなので,なんともいいようがありません。

Q3
当社は会社法施行後、初の決算を向かえておりますが、附属明細書の記載事項についてわからないところがあります。ご教示戴けたら幸甚です。
事業報告の附属明細書では「第三者との間の取引であって、・・・利益が相反するものの明細」を記載するとありますが(会社法施行規則128条2号)、当社の取締役が代表取締役を務める当社の100%子会社Aは、この「第三者」に該当するでしょうか。「第三者」の意味がよくわかりません。
投稿 決算です | 2006/12/12 12:44:11
A3
 第三者には該当しますが,100%子会社との取引が「利益が相反するもの」に該当するかどうかということでしょうね。
 直接取引である以上,利益相反取引に該当すると考えた方がリスクは少ないでしょう。

Q4
 コーポレートガバナンスに退行している某会社に愛想を尽かしたので株式を
譲渡したいと思っております。
具体的には
1取締役会の廃止
2監査役の廃止
3取締役の任期を10年
4株式譲渡制限の規定設置
このような議題を臨時社員総会で議決しようとしている会社にはなんの未練もないので早速に株式の譲渡制限の議案に反対して買取請求をしたいと思っていますが
瑕疵なく会社に請求したく思っていますのでその手続きについて教えて下さい。
また買取価格のベースはやはり一株当たりの純資産価格が基本なのでしょうか?
投稿 ミュウジ | 2006/12/12 12:49:30
A4
 手続きは,116条,117条を見てください。
 買取価格は,協議によって決まりますので,ベースというのはありません。協議がまとまらないときは,裁判所が決めてくれます。

Q5
 略式組織再編や簡易組織再編の条文に「・・・である場合には、適用しない。」と規定されていますが、これは、株主総会に吸収合併契約等の承認権限がないというように読むのでしょうか。それとも、略式組織再編や簡易組織再編の要件に当てはまる場合であっても、あえて、株主総会で承認してもかまわないということなのでしょうか。私の勉強不足のための質問であると思われますが、どうぞよろしくお願いいたします。
投稿 ぷにたろう | 2006/12/12 20:31:47
A5
 「あえて,株主総会で承認してもかまわない」という意味が難しいですね。略式・簡易再編の要件に合致しているのならば,その承認には法的効果はないですよね。
 定款で略式・簡易は駄目と書いていた場合に,定款違反として差し止め(784条2項1号)の対象となる余地はあるのかもしれません。

Q6
千問のQ518 p377 縦5以降の文章について質問させてください。
 まず、その文章を引用しますね。
「また、会計監査人である公認会計士が会計参与に選任され、就任した場合には、会計監査人の欠格事由に該当することになるので、会計監査人の資格を失う。」 
 とあります。ここでいう欠格事由とは 337条3項1号に掲げられた事由を指すのですか?
投稿 maru | 2006/12/13 0:39:46
A6
そのとおりです。

Q7
 219条1項について質問させてください。
ある本にこんな文章が載っていました。まず 引用します。
「219条1項の株券提供広告及び通知の期間は1ヶ月以上でなければならず、たとえ総株主の同意を得ても、これを短縮することはできない。この公告は株主だけではなく、他の利害関係人の保護をも目的とする強行規定であると解されるからである。」
この文章でいう「他の利害関係人」とは具体的にどのような人を指すのでしょうか?
投稿 maru | 2006/12/13 0:41:37
A7
 著者に聞いてもらいたいところですが,株券の質権者とかでしょうか。

Q8
代表執行役についてご質問いたします。
1.代表執行役Aと執行役Bがいる委員会設置会社において、執行役の員数等について別段の定めをおいていない場合、Aが執行役を辞任すると、Bは420条の「この場合」に該当し、当然に代表執行役となると考えて宜しいのでしょうか?
2.代表執行役A、代表執行役B、執行役Cがいる委員会設置会社において、1と同様に別段の定めをおいていない場合、Aは代表執行役のみを自らの意思で辞任(執行役として残る)することはできないと考えて宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/13 8:38:39
A8
調整する必要があるので,しばらくお待ちください。

Q9
議決権制限株式と取締役選解任種類株式の会社法における整理について教えてください。
具体的にいえば「取締役5名中2名のみを選任することができる」という内容の議決権制限株式の有効性ということです。
議決権制限株式は平成13年に規制緩和されたものの、それぞれ特定数の取締役の選任議案についての議決権を有することとすると、いずれの株式も、本来有する全取締役の選任について一部権利行使が制限されることになるため、議決権制限株式となってしまい、議決権制限株式の発行数量の規制に抵触し(改正前商法222条5項)目的を達成することができなくなってしまいます。そこで、平成14年改正で取締役の選任について内容の異なる種類株式を発行するときは、当該種類株主総会において選任することとし、議決権制限株式の数量制限に抵触することなく目的を達成できるようになりました。(商事法務1642号30頁)
そうすると、会社法のもとでは議決権制限株式の発行数量規制が公開会社に限って維持されているため(会社法115条)、理論的には非公開会社においては議決権制限株式を利用することによってこのような仕組みをつくることは可能であると思われます。
もっとも、このように考えると108条1項9号の説明がつかなくなります。
会社法を前提として整合的に理解するとすれば、議決権制限株式は、「議案」レベルではなく「議題」レベルのものと理解するのでしょうか?
投稿 麦酒好きのLS生 | 2006/12/13 16:37:27
A9
議決権制限株式は,株主総会の議決権の制限であるのに対し,取締役選任権付株式は,種類株主総会の権限・議決権に関するものなので,法制的には,切り分けがされています。
とすると,議決権制限株式を「議題」レベルのものと解釈する必要はないように思います。

Q10
種類株主の保護について教えてください。
322条2項の定款の定めがある会社では、202条1項による株式引受人の募集に際して種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときに、反対株主に対し116条の株式買取請求を認めております。
一方で、199条1項の決議による募集事項の決定に関しては、199条4項の種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合の反対株主の買取請求を認める条文が見あたりません。
これは私の見落としでしょうか?それとも後者の場合に買取請求を認めないとする理由があるのでしょうか?
投稿 総務課の星 | 2006/12/13 17:22:26
A10
322条を制限列挙と考える立場に立てば,株主割当以外の募集事項の決定については,種類株主総会の決議は不要です。「基本的には,各種類株式の発行可能種類株式総数の枠内であれば,通常の新株発行がされる可能性があることは覚悟しておきなさい」ということでしょう。

Q11
非取締役会設置会社において,下記のそれぞれの場合に,株主総会の決議により代表取締役の選定を行ったとき,当該選定に瑕疵はありますか。
1 定款に株主総会決議で代表取締役の選定を行う旨の定めがない場合(疑問点は349条3項の「定款の定めに基づく」は「株主総会の決議」にもかかるのか否か)
2 定款に「当社の代表取締役は取締役の互選により選定する」旨の定めがある場合(疑問点は定款により349条3項後段(株主総会での選定)を排除できるかということ)
3 定款に「当社の代表取締役は取締役の互選により選定できる」旨の定めがある場合(疑問点は,代表取締役の選定方法を1個に限定しないで,株主総会決議でも取締役の互選でもできるようにしてもよいか否か) 
投稿 ポケット | 2006/12/13 20:23:19
A10
1 定款がなくても,株主総会の決議で代取を選定することはできます。
2 定款の趣旨によりますが,定款で株主総会の決議による選定を排除することはできると思います(そうでなければ,定款による選定を規定する意味がほとんどなくなりますから)
3 「できる」規定も適法だとされています。

Q12
設立費用について
会社法では施行規則5条の設立費用以外のものは定款に記載しなければ効力を生じないとあり、且つ963条で意識的に定款に載せなかった場合には罰則条項もあります。
一方、国税庁長官通達8-1-1では「定款記載を欠く設立費用」を設立後の会社の負担にすることを認めています。
会社法違反になることが法人税法では許容されているかのように読み取れるのですが、「会社法」と「国税庁長官通達」を実務上、どのように折り合いをつけるのかについてご解説いただければ幸甚です。
投稿 KIRABO | 2006/12/13 23:45:09
A12
帰属の問題と,税の問題は,別次元なので折り合いをつける必要はありません。

Q13
吸収合併に際しての代用自己株式交付について、ご教示ください。
①旧商法第409条ノ2に対応する条文が会社法では存在しないのですが、会社法第155条11号によって吸収合併と同時に取得する自己株式は、旧商法の時と同様に、合併に際して新株の発行に代えて交付することも可能だと考えますが、いかがでしょうか?
②上記①が可能だとした場合、吸収合併契約書に記載しておかなければ、存続会社の増加する株式数が不明になってしまうため、登記審査上、問題になってしまうと考えますが、いかがでしょうか?
投稿 としお | 2006/12/14 22:14:54
A13
 旧商法409条ノ2が,吸収合併によって取得する自己株式を,利用することまで認めていたのかどうかはともかく,旧商法と異なる取扱いになるわけではないでしょう。

Q14
 サミーさん始めまして。種類株式のところでどうにもよく分からないところがあり質問させていただきます。
 拒否権付株式の株主や取締役等選任権付株式の株主というのは種類株主総会以外の普通株主総会でも議決権を行使できるのでしょうか?例えば合併について拒否権のついている種類株式が存在する場合、当該株式を持つ株主は①合併について決議する普通株主総会と種類株主総会のいずれでも議決権を行使できる②合併についてだけは普通株主総会では議決権を行使できず、種類株主総会でしか議決権を行使できない。いずれなのでしょうか?また、当該株主が株式買取請求をする時に反対の議決権の行使についても①両方の株主総会で反対の議決権行使が必要②種類株主総会での反対決議だけでよい。いずれなのでしょうか
 取締役の選任について拒否権付株式についても同様に当該株式の株主は取締役選任決議自体には関与できるのでしょうか?
 また、召集通知などは別々に行わなければならないのでしょうか。それとも一括して行うこともできるのでしょうか
Q15
 拒否権付き株式の株主は,株主総会で議決権を行使することができます。
 取締役選任権付株式が発行されている場合,取締役の選任は,すべて種類株主総会で行われるので,株主総会の議決権を認める余地がありません。もちろん,それ以外の事項については,株主総会の議決権を行使することができます。
 招集通知は,「一括」でいいです。

Q16
 拒否権についての種類株主総会を開くには対象が決まってからでないと召集手続きはできないのでしょうか?例えば、取締役の選任について拒否権付株式について、普通株主総会で取締役を5人選任⇒直ちに種類株主総会の決議にかける。とか、そこで一人だけ拒否された⇒直ぐに別人を選任⇒その人間だけ直ちに再度種類株主総会の決議にかけるというようなことは可能なのでしょうか。
A16
 「対象が決まってからでないと・・」という意味がよく分かりませんが,拒否権の対象は,株式の内容として定まっています。その対象となる事項については,拒否権付株式の種類株主総会がない限り,効力が生じません。
 ご質問のような手続は,工夫すればできるのではないでしょうか。

Q17
 取締役等選任権付株式を発行する時には取締役等選任権付株式において選出できる取締役の数についてはどうなるのでしょうか。定款に取締役の人数は5人以内とすると規定されてた場合、普通株式と取締役等選任権付株式の人数配分を決めるのはどうするのでしょうか。
 この場合にはそもそもは定款に普通株式で何人・取締役等選任権付株式で何人というように定めるということなのでしょうか。それとも取締役等選任権付株式で何人選任できるとだけ定めておけばよいのでしょうか。
投稿 西郷どん | 2006/12/14 23:04:52
A17
 108条2項9号に記載のとおりに定めます。

Q18
10月25日のQ9に対する回答として、会社法施行前から存在する株式会社の定款の譲渡制限に関する規定につき、「当会社の株式を譲渡するには、・・・・・」から「当会社の株式を譲渡により取得するには、・・・・・」に変更したとしても、譲渡承認の機関について変更がなければ、変更登記の必要はないと答えていらっしゃいましたが、東京法務局で同様の事案につき相談したところ、会社が任意に変更して、定款の規定の文言と登記簿上の文言が異なることになった場合は変更登記が必要であるという回答をいただきました。会社法施行前から存在する譲渡制限会社の場合、整備法によるみなし規定により当然に「・・・譲渡により取得する・・・」という規定が存在することになるので、東京法務局のいうように、任意に変更する場面など存在しないような気がしますし、書面としての定款を書き換えてしまったら変更登記が必要だということであれば、すべての譲渡制限会社っで変更登記が必要ということになってしまうと思うのですが・・・。どのように考えればよいのでしょうか。
投稿 mieu | 2006/12/16 13:43:23
A18
みなし規定どおりに変更したのなら,単に確認的な変更に過ぎないわけですよね。
変更登記は不要だと思います。というか,その法務局は、何から何に変更させるつもりでしょうか?

Q19
訴えのことについてご教示おねがいします。
会社の組織に関する訴えを提起した敗訴原告の損害賠償責任を定める846条は,民法709条(又は同415条)の特則として責任を縮減する趣旨なのですか。それとも,民法の定める損害賠償責任とは別の法定責任ですか。
投稿 ポケット | 2006/12/17 9:12:15
A19
縮減する趣旨です。

Q20
 清算人の資格について質問させてください。
 公開会社においても清算人の資格を株主に限定できる(478条6項は331条2項を不準用)のは、なぜですか?
投稿 maru | 2006/12/17 16:30:05
A20
 「清算人を広く社会に求めなければならない」ということを,法的に強制しなくてもいいでしょう,という趣旨です。

Q21
814条1項について質問させてください。
814条1項によると、新設合併設立会社等の設立では30条1項を
適用しません。つまり、通常の設立の場合と異なり公証人の認証は不要です。この理由を教えてください。
投稿 maru | 2006/12/17 16:31:09
A21
合併時の定款等は,しっかりとした手続きのもとで作成されるので,後で内容が不明になったりすることが考えにくいからです。

Q22
預け合いについて質問させてください。
①100問の第13問で、有効説の理由として、「無効にすると債権者代位権が行使できない」と在りますが、無効でも64条2項の規定があれば代位できるように思いますが、如何でしょうか?
②同じく13問で、発起設立の場合「発起人が・・払い戻しができるので・・預けあいは通常考えられない」とありますが、何故払い戻しできるのかわかりません。払い込みが有効であれば発起人は払い込んだ金額について銀行に対し権利がないと思うのですが・・。
以上2点お願いします。独学のため的外れかもしれませんがよろしくお願いいたします。
投稿 アンナ | 2006/12/17 19:10:39
A22
① 64条2項を無効説の人がどう解釈するかの問題です。設立時には,発起人名義の別段預金口座に払込みがされます。それが,預合いであるため,会社名義の口座に振り替えられない場合には,64条2項があっても,代位は難しいように思います。次に,会社名義の口座に振り替えられている場合には,64条2項によって会社は返還請求をすることができ,代位も可能です。ただし,預合いをした発起人は,その「無効」とされた払込金の返還請求をすることができます(設立後は,発起人の出資義務が消滅するので,会社側から相殺することもできません)ので,発起人の方が,先に払い込んだお金を取り戻している可能性が高いでしょう。このように無効説の帰結は,普通に書くと非常におかしな結論になってしまいます。
 また、発起設立の時は、64条2項がないので、無効説ならば、代位の余地はありません。

② 会社が設立されるまでは,発起人名義の預金口座にお金が入っています。そして,発起設立の場合は,銀行との間で,払込保管契約の締結もしていないので,発起人は,その口座からお金を引き出そうと思えば,いつでも引き出すことができます。
 その口座にプールされているお金は,論理的には,設立中の会社のお金ですが,それを発起人が権限の範囲内で設立費用にあてることは許されています。
 個人的用途に使ったら,横領罪でしょう。

Q23
設立をめぐる制度と債権者保護の関係についての意見です。
設立無効の訴えの提起権者に債権者が含まれていないから債権者保護の制度ではないとするのは、制定法教条主義ではないでしょうか。方向は違いますが、新株発行無効事由の解釈において最高裁は債権者の保護を考慮しているかのような判示をしていますが、新株発行無効の訴えの提訴権者に債権者は含まれていません。まずは、あるべき債権者保護を構想し、それに従って法律を改正する(立法が駄目なら解釈を工夫する)べきであり、会社法の設立手続に債権者保護が含まれていないのはそう立法した(債権者保護は要らないと判断した)からであり、前から債権者保護は目的としてなかったと強弁する必要はないと思います。
 発起人の担保責任が実際上問題になるのは会社が倒産しているときであり、従って担保責任の追及は管財人が債権者のために行うとはいえないでしょうか(ドイツではそういう例が多いようです)。
A23
 立法論と解釈論を混同されていると思います。法律の枠内で,もっとも合理的にその趣旨を解釈するのが,解釈論です。提訴権者に債権者が含まれていないのに、それを債権者保護のための制度とするのは、解釈の枠を超えています。

 なお,発起人の担保責任が廃止された現在では,あまり実益のない議論かもしれませんが,設立時に払込未了があった場合に,発起人等の無過失の担保責任があった方が,倒産時の債権者にとって少しは得になる,という命題は正しいと思います。
 ただ,なぜ,倒産時の債権者に得をさせる必要があるのでしょうか? 債権者の保護とは,どういう意味なのかを考えるべきです。
 旧商法で、「発行価額」を資本金としてしまったから、そのフォローとして、担保責任が必要なのであって、最初から、払込金額だけを資本金としているのなら、フォローする必要はないと思います。
 なお,実際には払い込まれていないのに資本金の額を過大に登記した場合に,登記された資本金を信頼した債権者を保護したいというのならば,53条や,429条2項で,発起人や取締役の責任を追及すれば十分です。

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2006年12月17日 (日)

【入門】資本三原則(4)

(本日は,質問コーナーはお休みです)

3 資本充実の原則の続き
 前回,
   「資本金の額を,払込価額をベースに算定すること」(445条)
が,会社法における「資本充実の原則」の本質だという説明をしました。

 その他に,資本充実の原則に関する制度をあげるとすると,私は
(1) 金銭出資を行う場合に,払込みの取り扱いをする「銀行等」に発起人等の口座を作った上で,そこに払込みをしなければならないこと(払込取扱銀行等の義務付け)
(2) 預合いが処罰されること
の2つがあげられると思います。

 (1)の払込取扱銀行等の義務付けは,払込みがされたかどうかについて,客観的な記録を残すためのものです。この制度は,資本金のベースになる払込価額を客観化するという意味で資本充実の原則に役に立ちます。

 (2)は,払込みがされて会社財産になったお金を使えないようにするような「約束」をしたことを処罰するものです。払込みがされた以上,その額は資本金に算入されますが,預合いがされると,払込取扱銀行に対する払込金の返還請求権を差し押さえても取立てをすることができず,その会社の債権は,債権者の引き当てになるような価値ある財産にはなりません。それで,預合いを処罰して,これを抑止しているのです。

 従来の通説的な考え方では,これらに加え
 a 払込取扱銀行等の保管証明責任 
 b 検査役による現物出資財産の調査
 c 引受人による相殺禁止
  d 引受払込担保責任
が資本充実の原則のあらわれであると言われてきましたが,dは廃止されてしまいましたし,aからcについては,会社法のもとで,「資本充実のための制度」であると説明することは難しいように思います。

a 払込取扱銀行等の保管証明責任
 保管証明責任は,預合いがされたときに,会社の預金を使えるようにするという点で,資本充実に役に立つ側面はあります。私も,その機能を否定するわけではありません。

 しかし,会社法では,保管証明責任は,「募集設立」の場合にしか適用されないため,これを「資本充実のための制度だ」と言いきることには躊躇せざるをえません。

 資本充実は,資本金に対する会社債権者の信頼を確保するための制度ですから,「発起設立」においても確保されるべきものです。
 それなのに,なぜ保管証明責任が「発起設立」や「新株発行」では適用されないのでしょうか?
 保管証明責任を資本充実のための制度という立場から説明してしまうと,その理由を説明するのは困難です。

 逆に,保管証明責任を「発起人が払込金を持ち逃げすることを防止するための制度」と説明すれば,発起設立と募集設立で取り扱いが違うことを説明することができます。

 保管証明制度は,登記と密接に関連していて,「募集設立」の場合,払込取扱銀行の保管証明がなければ,設立の登記をすることができません。
 また,設立の登記をしない限り,払込取扱銀行は,払込金が入っている預金口座を会社の口座に振り替えてくれず,払戻しに応じることもありません。
 この結果,保管証明制度は,
   設立まで,払込金を一円も使わせないようにして,発起人が払い込まれたお金を持ち逃げしたり,使いこんだりすることを防止する機能
を果たしているのです。
 このような「持ち逃げ防止機能」は,設立手続を行わない引受人が存在する「募集設立」で強く必要とされるものですから,会社法のもとでも,募集設立では,保管証明制度が残されています。

 これに対し,「発起設立」の場合は,各発起人が設立手続に関与する権限を有しているので,他の人が持ち逃げすることについて自衛することができますし,「新株発行」においては,すでに会社が成立した後の手続なので,発起人が持ち逃げする事態は生じません。だから,いずれの場合も,保管証明制度は採用されておらず,その結果,払込取扱銀行等の保管証明責任もないのです。

 以上からすれば,払込取扱銀行の保管証明責任は,「募集設立時の引受人の保護のための制度」が,たまたま資本充実にも役に立っているという方が正確であり,「資本充実のための制度」と説明するのは妥当ではないと思います。

 b 検査役による現物出資財産の調査
 検査役による調査は,現物出資する引受人と,他の引受人・株主との間の実質的な不公平を防止するための制度です。
 例えば,松真さんが現金100万円を出資して1株の株主になったのに,湯水さんは,アンパンマンのパンツを「100万円のパンツだ」と強弁して,それを現物出資し,1株の株主になったとすれば,松真さんは,くやしくてたまらないでしょう。
 それで,会社が現物出資を受けるときには,裁判所が選任した検査役によって,その価額が相当かどうかを調査しなければならないこととされているのです。
 
 現物出資がされた場合,資本金の額は,「給付をした財産の額」(445条1項)をベースに算定されます。
 この「財産の額」は,定款や募集事項として定めた現物出資財産の額ではなく,客観的な「時価相当額」のことですから,検査役の調査が,資本充実に役立つ側面があるのは否定できません。

 しかし,検査役の調査を怠った場合の法的効果は,発起人等が現物出資財産の不足額てん補責任の免責要件の一つを充たさない(52条2項)というだけのことであり,しかも,この不足額てん補責任は,違法配当責任(462条)と異なり,株主全員の同意があれば,免除することができるものですから,債権者の保護を目的としたものではないというほかありません。
 資本充実の原則を「株主平等」の見地から説明するのならばともかく,「債権者の保護」から説明するのならば,どこかで「債権者の関与」があるか,「株主の同意によっても免除できない」などという制約が必要なはずです。

 ところが,検査役の調査は,そのような制度設計になっていませんから,結局,これも,引受人・株主間の公平のための制度が,たまたま,資本充実にも役立っていると説明するのが精一杯であろうと思います。

 c 引受人による相殺禁止
 株式の引受人は,会社に対して債権を持っていても,その債権を自働債権として,出資金の支払義務を相殺することはできません(208条3項)。従来の考え方によれば,この制度も,現実の払込みを強制する点で資本充実の原則のあらわれであるとされていました。
 しかし,
  会社が,出資金の支払請求権を自働債権として,引受人に対する債務を相殺することはできる
ことを考えると,引受人による相殺禁止は,債権者保護を目的とする資本充実の原則とは関係のない制度であるということが,すぐ分かります。これが債権者の保護のための制度ならば,債権者の同意なく,会社が相殺することも禁止されるはずだからです。
 この制度は,本来,会社が,現物出資を認めたときだけ,検査役の調査等の手続きを経て現物出資をすることができるという制度を採用しているのに,引受人が相殺すると,引受人が,自分の意思で,債権の現物出資をしたのと同じ状態を作り出すことになるから,現物出資に関する規制を潜脱できないようにするため,引受人による相殺を禁止しているだけなのです。

 以上のように従来,資本充実の原則のあらわれと言われていた制度でも,会社法のもとで,子細に検討してみると,「資本充実のための制度」ということができないものが沢山あります。

 前回の解説に対して,とーりすがりさんが

「今回の話ですが、改正前商法につき、なぜ設立無効や打ち切り発行について触れないのか大変疑問に感じます。それこそミスリーディングでは?」

というコメントをいただきましたが,このコメントからも,従来の説明が沢山の誤解を生んでいたことを伺い知ることができます。

 まず,旧商法において,払込未了の程度が著しい場合は「設立無効事由」が生ずるというのが通説でしたが,設立の無効は,訴えによってしか主張することができません。
 そして,設立の無効の訴えの提訴権者には
   「債権者」が含まれていません
から,払込未了の程度が著しく,資本充実が全く果たされていないような状態であったとしても,債権者は,設立を無効とすることができないのです。
 この点からしても,設立の無効は,債権者の保護のための制度ではないということは明らかであり,債権者の保護という観点で解説するときに,設立の無効に触れる方が,よほどミスリーディングなのです(前回,資本充実は,引受人間の平等や健全な設立という方が説明しやすいという話をしましたが,設立無効の訴えは,まさに,そうした政策目的を達成するための制度です)。

 また,旧商法においては,新株発行時に限って「打ち切り発行」が認められていたものの,①設立時は,打ち切り発行は認められていなかったので,前回の解説がそのまま当てはまりますし,②新株発行においても,引受担保責任が規定されていたので,「払込みがないにもかかわらず,資本金が増加する」という事態が生じてしまい,これまた前回の解説がそのまま当てはまります。

 「資本充実の原則」は,説明の道具に過ぎないので,どのように捉えてもよいのですが,もし「債権者の保護」という切り口で,資本充実の原則を語りたいのならば,実際の制度が債権者の保護のために整備されているかどうか(つまり,債権者の同意なく,その制度を回避することができないように配慮されているか)を考えて論じなければ,論理的な説明にはなりえないと思います。
 

4 資本維持の原則
 資本維持の原則とは,資本金の額に相当する財産が現実に会社に保有されていない場合には,剰余金の配当等をすることができないという原則のことをいいます。

 株式会社では,出資の払戻しが禁止されていますが,その払戻し禁止の手段として
  ① 出資金の額を資本金としてメモする。
  ② 純資産が資本金以下のときは,配当をしたり,株主から自己株式を取得してその対価を支払うことができないようにする
という方法が取られており,これを「資本維持の原則」と呼んでいるのです。

(1)よくある誤解①
 資本維持の原則を「会社は,資本金に相当する財産を維持しなければならない原則」と定義する人がいます。

 この定義は,若干,罪作りな定義であり,初心者が
   株式会社には,資本金に相当する財産が必ず存在するのだから,債権者が害されることはない。
と誤解したり
   資本金に相当する財産が存在しないと,すぐに債権者が害されてしまう。
と誤解したりする原因になっています。

 その誤解は,「資本金」「資産」「純資産」「資本の欠損」「債務超過」の意味を誤解していることから生じるものなので,まず,次の例を見ながら,それらの用語に関する誤解を解いてください。

① サミーさんが現金1000万円を出資して,株式会社正直法務を設立すると
  現金1000万円 資本金1000万円
の会社ができます。

② 次に,正直法務が,松真銀行から,2000万円を借りて,1800万円分の会社法100問初版を買うと,会社の財産状態は
 現金        1200万円   借入金2000万円
 会社法100問初版 1800万円  資本金1000万円
となります。

③ その後,会社法100問第二版が出版されることとなったため,正直法務は,初版を,300万円分割引して売った場合,会社の財産状態は
  現金2700万円  借入金2000万円
            資本金1000万円
            その他利益剰余金 -300万円
となります(「その他利益剰余金」については,後で説明します)。

 このとき
  「借入金」の額は,「資本金」の額を上回っていますが,正直法務は,松真銀行に,借入金を,楽々返すことができます。
 資本金というのは,「サミーさんが過去に,いくら出資したのかをメモしたもの」に過ぎず,現実の資産は,「現金2700万円」なので,借入金2000万円を返済することができるのです(純資産=2700万円―2000万円=700万円なので,債務超過にはなっていません)。

 また,このとき,純資産額700万円は,資本金1000万円を下回っているので,「資本の欠損」が生じている状態になっていますが,
  資本の欠損が生じていても,債務を返済することはできる
ということも分かっていただけますよね。

 以上のように,初心者の方は,③時点の財産状態を,頭にたたき込むことで
  資本金というのは,現実の資産の額とは関係ないこと
  資本の欠損というのは,十分なバッファがないことを意味し,「債務超過」とは違う概念であること
を理解してください。

④ さらに,正直法務が,商品の売買をして,1000万円の損失が生じたとしましょう。そうすると,会社の財産状態は
  現金 1700万円  借入金2000万円
             資本金1000万円
             その他利益剰余金 マイナス1300万円
となります。こうなると,資産1700万円に対し,負債が2000万円あるので,純資産額がマイナス300万円になります。このように帳簿上の純資産額が,マイナスになることを「債務超過」(又は,簿価債務超過)と言います(ついでにいえば,純資産額が,資本金の額を下回っているので,「資本の欠損」も生じています。)

 先ほども言ったとおり,「資本金」は単なるメモですから,正直法務の債務返済能力とは,何の関係もありません。
 他方,「資産」である現金の額は,債務返済能力をはかる上では重要な指標であり,正直法務は,このままでは,債務を返済することができません。
 もっとも,正直法務は,債務超過になったからといって,すぐ倒産するわけではなく,松真銀行の借入金を返済するために,湯水銀行から2000万円借りてくれば,返済は可能です。
 このように債務の返済のために資金を出し入れすることを「資金繰り」といいますが,債務超過であっても,資金繰りがうまく言っていれば,倒産しないこともあるし,純資産がプラスでも,資金繰りができなければ,倒産することもあります。
 「資金繰り」は,会社法上の概念ではないので,覚える必要はありませんが,「債務超過」と「倒産」は違うということも理解しておいてください。

 さて,以上述べてきたように,会社に資本の欠損が生じたり,会社が債務超過になったりすることはありますが,経営を失敗して,そうなったのなら仕方ありません。
 また,会社法は,資本の欠損や債務超過が生じたからといって
  株主のサミーさんに,資本の欠損分や債務超過のマイナス額について追加出資義務を負わせているわけでもないし
  会社を強制的に解散させるわけでもありません。

 つまり,会社法は
  資本金に相当する財産を現実に維持し続けなければならない義務を課しているわけではなく
  単に出資金の払戻しを禁止しているだけ
なのです。

 以上の誤解①を理解していただけたら,なぜ,私が
 資本維持の原則を「会社は,資本金に相当する財産を維持しなければならない原則」と定義するのは,罪作りである
と言っているのかも分かると思います。

(2)よくある誤解②
 誤解②は
  分配可能額による配当等の制限(461条)=資本維持の原則
と勘違いしている人が多いということです。
 分配可能額による配当等の制限は,資本維持の原則を含んではいますが,「その他の理由による制限」も含まれていることを忘れてはなりません。

a 基本的な分配可能額
 剰余金の配当や自己株式の取得を制限している461条は,足したり引いたりが大変で,初心者が理解することは不可能ですから,このブログで,基本を覚えましょう。

 分配可能額は、まず、「最終事業年度の末日(一般的には3月31日)時点における 「その他利益剰余金」の額と「その他資本剰余金」の額の合計額(計算規則177条3号・4号)が基本になります。

 おおざっぱな話をすると,
 「その他資本剰余金」というのは,「出資に関連して会社に入ってきた財産の価額のうち,資本金にも,資本準備金にも計上されていないもの」
 「その他利益剰余金」というのは,「資本剰余金ではない剰余金のうち,利益準備金に計上されていないもの」
のことをいいます。

 実際の純資産額は,後で述べる様々な要素を控除しなければならないのですが,基本だけを数式化すれば
 資産-負債
 =純資産
 ≒資本金+資本剰余金+利益剰余金
 ≒資本金+(資本準備金+その他資本剰余金)+(利益準備金+その他利益剰余金)
となります。

 ですから
 基本的な分配可能額=決算期の「その他資本剰余金+その他利益剰余金」
          =決算期の「純資産-(資本金+資本準備金+利益準備金)」
ということになりますね。

b  利益準備金・資本準備金
 資本準備金は,以前,お話ししたとおり,払込金額のうち資本金に組み入れなかった額が基本となっています。
 例えば,1000万円出資して,800万円を資本金にしたら,残り200万円が資本準備金になります。
 
 とすると,資本充実の原則だけからすれば,
  分配可能額=純資産-(資本金+資本準備金)
だけで十分なはず(つまり,純資産が出資金(=資本金+資本準備金)よりも多い場合には,分配できるはず)です。

 ところが,461条は,さらに「利益準備金」も差し引くことを要求していますね。これは,なぜでしょう。
 利益準備金というのは,
  会社が,「その他利益剰余金」を原資にして剰余金の配当をしたときに,その配当額の10分の1を積み立てる
ものです。
 簡単に言えば,会社が株主に配当として財産を流出させるときは
  配当の10分の1は,債権者の取り分として,会社内に留保しておきなさい。
というルールであり,「資本維持の原則」とは異なる観点から,配当の制限をしているものなのです。

 実は,会社が「その他資本剰余金」を原資にして剰余金の配当をしたときには,その配当額の10分の1は,「資本準備金」に積み立てられるので,先ほど,
   出資金=資本金+資本準備金
と記載したのは,若干,不正確であり,本当は,
  資本準備金の控除は,資本充実の原則だけではなく,利益準備金と同じ政策目的も入ってる
わけです。

c  資産の部の調整
 先ほど
   基本的な分配可能額=純資産-(資本金+資本準備金+利益準備金)
と説明しましたが,この式は
   基本的な分配可能額=(資産-負債)-(資本金+資本準備金+利益準備金)
と言い換えることもできます。

 この式から明かなように,「資産」の額が増えれば,分配可能額も増えますが,計算書類上,「資産」に計上されていても,財産的価値がないと評価せざるをえないものがあり,そうしたものについては分配可能額の計算で控除しています。
 
 具体的には,
 ① のれんの2分の1及び繰延資産の額の合計額から資本金・資本準備金の額を減じて得た額(その他資本剰余金の額を限度とする)(計算規則186条1号)
 ② その他有価証券・土地の評価損がある場合における当該差損額(計算規則186条2号・3号)
です。

 ②の「評価損」というのは,有価証券・土地を買った後,時価が大きく下がったときの差損のことをいいます。
 正直法務が,1000万円で株式会社民事薬局の株式を買ったものの,今では,200万円に値下がりしてしまったとしましょう。
 800万円も評価損があるのに,買ったときの1000万円という価格を基準に分配可能額を計算してしまうと,現在の債権者を害するような配当がされてしまうおそれがありますよね。だから,有価証券・土地の評価損は,分配可能額から控除するのです。

 同じように,「のれん」や「繰延資産」は,会計上,特定の目的から資産として計上することが認められているものであり,資産としての価値がない(又はあまりない)ので,のれんは2分の1,繰延資産は全額について,分配可能額から控除することにしています。

 この①②は,資本維持の原則のあらわれといってもよいかもしれませんが,「資本金・資本準備金」に着目したものではありませんし,会計上の目的で「資産」に計上された金額を調整するためのテクニカルな控除ルールに過ぎないということもできます。

d  自己株式
 会社が自己株式を保有している場合には,基本的な分配可能額から,さらに,
  自己株式の帳簿価額(461条2項2号)
を控除します。
 帳簿価額というのは,「簿価」ともいいますが,普通は「取得したときの価額」のことです。
 現金を支払って自己株式を取得しても,自己株式は,資産としては価値のないものなので,分配可能額から控除します。もっとも,自己株式は,もともと資産としては計上されないので,この控除も,資本維持の原則のあらわれというより,計算上のテクニカルな理由によるものと言った方がいいかもしれません。

e 純資産額規制
 純資産額中剰余金以外の額が300万円に満たない場合には、その不足額が控除されます。
 その結果,純資産額が300万円に満たない場合には,分配可能額は0になります。
 この規制は,資本金が0円であろうと適用されるもので,資本維持の原則とは何の関係もありません。
 最低資本金制度を廃止するに当たり,債権者の保護を弱めないようにするために,配当等によって,純資産を300万円未満にすることができないようにしたものです。

 以上のように分配可能額による剰余金の配当等の制限(461条)は,資本維持の原則だけではなく,いくつかの政策目的を実現するための制度です。
 資本維持の原則の重要性を否定するわけではありませんが,461条の条文の理解のためには,それぞれの控除科目ごとに,その制度趣旨を理解するように心がけましょう。

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2006年12月11日 (月)

【入門】資本三原則(3)

3 資本充実の原則
(1)定義
 資本充実の原則というのは,一般には,
  株主が資本に見合うだけの財産を現実に会社に拠出しなければならない
という原則だと言われています。
 
 大昔,私が,商法を勉強し始めたころは,純粋かつ無邪気だったので
  100万円の株式を引き受けた人が,現実に100万円を出資しないと,債権者がその100万円について強制執行することができないから,資本充実の原則は当然だな。
と「誤解」していました。

 その後,旧商法を勉強していくうち,徐々に,その誤解が解けていき
① 会社は,出資された100万円を元手にして,いろいろなものを買ったり,他人に貸付をしたりするので,その100万円自体が,債権者の強制執行の対象となるとは限らない。
② 旧商法では,引受人が出資をしないまま,設立された場合でも,引受人の出資義務は残るとされていたので,会社債権者は,会社の引受人に対する出資履行請求権を差押えて,強制執行することができる(「現実の出資」がなくても,強制執行は可能だった)。
③ 引受人が100万円を出資した後,代表取締役が,その引受人(株主)にその100万円を貸し付けたら,債権者にとって,現実の出資がなかったのと同じことになってしまう(見せ金は,まさに,そういう状態を最初から企図してやることですね)。
というようなことに気づき
  「現実に拠出する」という行為は,「債権者」の保護のために,本当に役に立つのか?
という疑問がわいてきました。

 受験時代は,それはそれで「きっと頭のいい人は,何か考えがあって,そう説明しているに違いない」と思いつつ,なんとなく答案を書いていればよかったのですが,会社法の立案担当者になると,そういう,いい加減な説明では許されません。

(2)旧商法の問題点
 そこで,資本充実の原則が,債権者の保護にどのように役に立つかを,真剣に考えてみると,旧商法上の制度は,債権者保護という観点からは,多数の問題をはらんでいることが分かりました。
 
 例えば,引受人は「現実に財産を拠出しなければならない」と言いながら
  引受人が,払込未了のまま,設立された場合でも,株主になる
というルールが採用されていましたし
  資本金は,株式の発行価額をベースに算定する
というルールは,
  払込未了であっても,株式が発行された以上,資本金が計上される
ということを意味していました。
 つまり,一般論としては,「資本充実の原則が採用されている」,と説明しながら
  制度上は,現実の拠出がなくても,資本金が増える
という制度だったわけです。

 旧商法は,そうした矛盾をカバーするために,発起人等の払込担保責任等を認めていたのですが
  払込担保責任は,所詮,会社の発起人に対する債権に過ぎない
のですから,「現実の拠出」がない点では同じです。

 このように,旧商法の下で,不十分な資本充実の原則が実現されていなかったのは,
  払込みの有無とは無関係に,先に,資本金の額が決められていた
からでした。

(3)旧商法において現実の拠出が要求された理由は何か。
 この「先に資本金の額を決める」ルールは,前回説明した「資本確定の原則」の下では,
  定款で資本金を定めたのだから,その資本金が現実に拠出されるまでは,会社の設立を認めないよ。
  拠出した引受人と,拠出していない引受人との間で不公平が生ずるし(株主間の公平),
  現金や現物ならば,事業に使えるけど,引受人への債権じゃ,事業のために使いにくいからね(健全な設立)。
と簡単に説明することができます。

 また,資本確定の原則が放棄された後,旧商法は,定款で「設立時に発行する株式の総数」を定めることを要求したわけですが,その旧商法のもとでも,
  株主間の公平・会社の健全な設立
という観点からは,現実の拠出が義務づけられていることは,それなりに説明できたのだと思います。

 さらに,旧商法のもとでも
 株主が,間接有限責任しか負わないということを正当化するためには,会社に対する出資義務を履行済みであることが要求される。
と説明することもできたでしょう。

 ところが,資本充実の原則についての一般的な説明では,そうした「株主の保護」等の観点からの説明よりも,「債権者の保護」という観点からの説明を強調しようとしていました。

 この説明が,資本充実の原則についての理解を難しくしたような気もします。

(4)債権者の保護とは何か。
 以前にも説明しましたが,会社の設立前の時点では,会社の債権者は,存在していません(発起人の権限内の行為により,将来,会社の債権者になる人はいますが)。

 また,新株発行の場合にも,資本充実の原則は適用されるわけですが,新株発行という行為は,特殊な場合を除き,会社の純資産を増やす行為なので,新株発行時の会社債権者にとっては,プラスになりこそすれ,マイナスにはならないのです。
 例えば,現在,純資産がマイナス1億円の債務超過の会社があるとしましょう。この会社に,株式の引受人が1億円の出資をしてくれれば,その1億円は,すべて債権者の引き当てになるのですから,債権者は,大喜びです。
 しかし,その債権者は,もともと債務超過の会社と取引をしていた以上,本来,債権の全額を取り立てできなくても仕方がないはずであり,たまたま,1億円を出資してくれる人が現れたからといって,その予想外の期待を保護する必要はありません。

 このように,
   引受人が「現実の拠出」を行わなくても,債権者にとっては,現状よりもマイナスになるわけではなく,具体的な債権侵害は生じない。
というのは,誰も否定することのできない客観的な事実であり,この点が次回説明する
 「資本維持の原則」との最も大きな違い
です。

 こうした事実を前提に「資本充実の原則」を「債権者の保護」という観点から説明するとすれば
  ① 株主になれば,会社財産に対する一定の支配力を持つことになり,その点では,債権者よりも有利な立場に立つのだから,現実に財産を拠出していない引受人(リスクを十分に負担してない引受人)には,株主としての権利を行使させるべきではない。
と説明するか
  ② 資本充実の原則を採用すれば,資本金の額は,
  「一旦は会社に資本金の額に相当する財産が現実に拠出された」
ことを表すので,それを公示することによって,その会社と取引をする者が
  「この会社は,少なくとも,資本金が増えた時点では,資本金程度の財産を用意することができる力があったんだな」
という情報を与えることに意味がある
と説明するか,のどちらかになると思います。

 ところが,旧商法は,
① 現実に財産を拠出していない者でも株主になることができたので,①の要請を満たしていなかったし
② 払込未了でも,株式が発行されれば,資本金の額が増えていたので,②の要請も満たしていなかった
のです。

 とすると,実は
  旧商法には,債権者保護のための,資本充実の原則は,存在しなかった。
というのが正解なのではないでしょうか(笑)。
 少なくとも,債権者保護のための資本充実の原則が不十分であったということは否めません。

 なぜ,旧商法が,そのような不完全な資本充実の原則を取っていたかというと,
① 前回話したとおり,資本確定の原則を廃止したときに,株主保護等のための制度を作ったが,それが,債権者保護という観点からは,あまり良い制度ではなかった。
② 資本金と株式との相互依存関係を断ち切ろうとしていたが,断ち切れなかった。
ということが原因であると思います。

 定款で直接資本金の額を定める資本確定の原則にせよ,株式の「発行価額」をベースに資本金を定める制度にせよ,「払込みの有無にかかわらず,資本金の額が定まる制度」の下では,資本金の額に見合うだけの財産が現実に拠出されない場合が生ずるのは仕方ありません。

(5)会社法における資本充実の原則
 以上のような旧商法の問題点を克服するために,会社法は
 ① 設立時であろうが,新株発行時であろうが,現実の拠出をしない限り,絶対に株主になれない。
 ② 資本金の額は,発行価額ではなく,「現実に拠出された財産の価額」をベースに定める
ということにしました。
 
 この会社法のルールのもとでは,先ほど説明した債権者の保護のための①の要請も,②の要請も満たすことができます。
 その意味で,私は
  会社法によって,はじめて完全な資本充実の原則が採用された
と言ってもいいのではないかと思うのです。
 他方,仲間の郡谷さん・岩崎さんは,論文で,従来の不完全な資本充実の原則を批判した上
  資本充実の原則は廃止された
と論じています。
 実際,引受人が現実の拠出を要求される理由は,株主間の公平であったり,間接有限責任の徹底という側面が大きいので,無理に「債権者の保護」を持ち出す必要性が乏しいのは事実ですし
  定款等によって「先に」資本金が定まり,その資本金に見合うだけの財産が現実に拠出される
という意味の「資本充実の原則」は廃止されたので,郡谷さん・岩崎さんの論文は正しいと思います。

 また,会社法は
  充実した部分だけが,資本金になる
と言っているので,「資本充実の原則」というより
  充実資本の原則
と呼んだ方がいいのかも知れません。

 ただ,表現の問題よりも,中身の方が大切なので,初心者の皆さんは,
  ① 資本充実の原則でいう「債権者の保護」とは何か
  ② 会社法が,現実の拠出を要求しているのはなぜか。
  ③ 会社法における資本金の定め方は,旧商法と何が違うか。
ということを,本日の記事をもとに理解していただいた上
  資本充実の原則は,リニューアルされて実効性が増した。
と考えるのが,よいのではないかと思います。

(次回に続く)

(質問コーナー)
12月8日のQ9の補足
「会社法207条9項1号の「募集株式の引受人に割り当てる株式の総数」とは,旧商法280条ノ8但書と同様に現物出資者に対して与える株式の総数のことを指すのですか。それとも旧商法とは異なり文字通り,現物出資者か金銭出資者かを問わす,今回割り当てる全株式の総数を指すのですか。」という質問に対し,「文字通りと読むのが素直でしょうね。」と答えましたが,私としては
 「文字通り,現物出資者に対して与える株式の総数です」というつもりでした。
同僚から指摘を受けて,質問をよく読むと,「文字通り」が,「全株式の総数」の方にかかっていることに気がつきまして,私の答えでは誤解を与えてしまうので,謹んで訂正いたします。

Q1
新株予約権についてです。
募集株式の発行等に関し、旧法では新株引受権の制度が存在していました。会社法では、これも新株予約権として整理されたということですが、「割当てを受ける権利」は、そのままで新株予約権として譲渡することが可能でしょうか?それとも、権利株の譲渡を禁ずる規定に引っかかり、新株予約権の無償交付(277)にしなければしてはならないことになるのでしょうか。
投稿 しーぽん | 2006/12/10 1:07:17
A1
割当てを受ける権利は,譲渡することはできません。
譲渡するなら,新株予約権でやってください。

Q2
募集株式の発行における通知の件です。
株主割当の際、202条4項の通知が必要ですが、その後、再び203条1項の通知が必要になるように読めます。
いずれも申込の勧誘と思われるので、ダブルでするのは無駄なように思えるのですが、どうすべきでしょうか?
いろいろ文献を探したところ、前田11版では、203条1項通知がいらないような書き方ですし、江頭株式会社法では、両方いるが通常は一緒にすればよい、というような書き方でした。
はて?
投稿 しーぽん | 2006/12/10 1:08:12
A2
株主割り当てでも,203条1項の通知は,必要です。202条4項の通知と兼ねることはできます。

Q3
株式等交付請求権とはいったい?
会社法は新株予約権制度を充実し、種々雑多なものをここに統合したように考えていたのですが、ふと計算規則を眺めていると、87条8項に「株式等交付請求権」なるものがあがっています。
新株予約権以外の権利であって、当該株式会社に対して行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう、と定義してあるのですが、ウウム。
いったい新株予約権とどこが違うというのでしょうか?
投稿 しーぽん | 2006/12/10 1:08:47
A3
擬似ストックオプション等のことです。

Q4
サミー様
分かりやすい入門講義をいつもありがとうございます。
今回の入門講義の中で質問があります。
> ② 新株発行を,出資者の集まりである株主総会ではなく,経営の専門家である取締役会で決めることができるようにする(授権資本制度・新株発行の権限を株主総会)
という部分のかっこ書の中の「新株発行の権限を株主総会」という記述は,「新株発行の権限は,原則株主総会にあるが,一定の場合には取締役会が新株発行できる」と考えてよいでしょうか?
勉強不足のため,的外れな質問であったらすみません。。。
投稿 まち | 2006/12/10 12:18:08
A4
旧商法における授権資本制度の導入時の説明であることを前提にお話しすると,新株発行の権限は,有利発行以外は,取締役会が,有利発行の場合は株主総会が持っているということになるでしょう。「原則株主総会」という説明の仕方は,ややミスリーディングです。

Q5
分割型会社分割を計画中ですが、分からないことばかりです。
1.対価は、抱合わせ株式は不可ですね。分割会社にとって自己株式の取得となりますが、155条で許容していません。
2.剰余金の配当として承継会社株式を分配する場合の端数処理の規定はないのでしょうか。234条に規定されていません。
3.施行規則178条2号や179条2号の意味が分かりません。分割対価の承継会社株式に代えて分割会社株式を交付してもよいという意味でしょうか、1号と同様に調整金のようなもので5%未満なら分割会社株式を含めてよいという意味でしょうか。前者とした場合に、分割型といえるのでしょうか。
4.分割会社で分割に伴い資本減少して、それを承継会社が引き継いだ形になっても(計算規則65条、81条)、旧商法の人的分割と構成が変わったから、登録免許税も旧商法の0.15%でなく、普通の増資と同じく0.7%になるという増税の見解がありますが、ほんとでしょうか。
投稿 KE | 2006/12/10 15:41:11
A5
1 不可です。
2 現物配当ですので,基準株式数を設定することなどにより端数調整は可能です。
3 178条2号等は,分割型分割とは関係ないです。
4 担当外なのでノーコメントです。

Q6
337条3項2号の読み方について教えてください。
まず、この条文は いったいどこで区切って呼んでいけばいいのでしょうか?「若しくは」があまりにも沢山入っていて区切りどころがわかりません。そして その結果として 私にとっては解釈不能になっています。

つぎに、 株式会社の子会社若しくはその取締役 という文言の中の「その」とは何を指すのでしょうか?株式会社の取締役なのか、株式会社の子会社の取締役なのか?それとも他の解釈があるのでしょうか?
投稿 maru | 2006/12/10 21:16:50
A6
{株式会社の子会社or当該子会社の(取締役、会計参与、監査役or執行役)}から,
(公認会計士or 監査法人)の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者
or
その報酬を受けている者の配偶者

Q7
 取締役の任期短縮と比較して執行役の任期短縮について質問させてください。
 取締役の任期を短縮するには 定款または株主総会の決議が必要です。(332条1項但書)
 これに対して、執行役の任期は定款によってのみ短縮が可能です。(402条7項但書)
 なぜ このような違いが生じるのか教えてください。
投稿 maru | 2006/12/10 21:18:07
A7
 執行役は,株主総会で選任されないからです。

Q8
会社法施行規則182条5号について質問させていただきたいと思います。
会社法施行規則182条5号は、イで、「最終事業年度に係る計算書類等」とあり、「計算書類等」には「事業報告」が含まれますが、吸収合併存続会社に会社法施行後の事業報告がまだない場合には、最終事業年度に係る「営業報告書」で足りるのでしょうか。
投稿 ハニャ? | 2006/12/10 23:57:48
A8
営業報告書で結構です。

Q9
変態設立事項の検査役の調査
会社法33条に「発起人は、定款に変態設立事項の定めがあるときは、公証人の認証後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならないとあり、そして検査役は必要な調査を行い、裁判所に報告をしなければならない。そして、この報告を受けた場合、裁判所は変態設立事項を不当と認めたときは、これを変更する決定をしなければならない」旨の定めがあります。

(1)定款の附則の記載方法として「当会社の設立費用は、金500万円以内とし会社がこれを負担する。」というような総額記載でよろしいのでしょうか?

(2)すなわち、定款には詳細内訳項目(施行規則5条の項目、設立事務所の賃借料、設立事務員に対する給与、印刷費、広告費、創立総会の費用、司法書士登記費用、弁護士等による証明費用など)を記載してはおかないで、検査役の調査に対して、その求めに応じて、詳細内訳項目情報を提供することでよろしいのでしょうか?

(3)裁判所が不当と認める場合というのは、どのような場合が想定されるのでしょうか?会社の運営に支障をきたすことがないようにというのが趣旨だとすると、払い込み予定資本金に対しての一定の目安などがあるのでしょうか?因みに、設立資本金は2500万円の予定ですが、発起人全員で500万円程度の設立準備費用を想定して決めております。
投稿 KIRABO | 2006/12/11 0:45:37
A9
総額記載で足ります。
「不当」というのは,「不当」というしかありません。
目安はありません。

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2006年12月10日 (日)

【入門】資本三原則(2)

今日は,資本原則の内容について,具体的に説明しましょう。

1 資本金とは,何か。
会社法をある程度勉強した人に,「資本金は何のための制度か」と聞くと,すぐに
 債権者の保護のための制度
という答えが返ってきます。

 「株主は,間接有限責任を負うに過ぎないため,会社債権者の唯一の引き当ては会社財産であるから,会社法は,資本充実・維持・不変の原則を採用した」
という固定的なフレーズが頭にこびりついていませんでしょうか?
 実際,資本金を「会社財産確保のための一定の計算上の数額」と定義付けることが多いのも,これまで,資本制度は「株式会社における債権者保護」という文脈でのみ語られてきたからだと思います。

 しかし,会社法では
  直接無限責任社員の存在する持分会社でも「資本金」は存在する
のですから,「資本金」の説明を,債権者保護との関連だけで説明することは難しくなりました(先ほどの「資本金」の定義も,株式会社を論ずる文脈では正しいものの,持分会社を含めた文脈では,言葉足らずになってしまいました)

 もともと,資本金というのは,簡単に言えば
  社員が会社に出資した財産の価額の総額をメモしたもの(数字)
であり
  出資時点から,現時点まで,どの程度,財産が増減したのかを把握するために考えられた会計上の工夫
なのです。

 たとえば,サミーさんが,株式会社正直法務に,100万円を出資した場合,資本金として「100万円」とメモします。
 その後,正直法務が商売をして,10年後に純資産(=資産-負債)が300万円になったとき,サミーさんが,10年前の「資本金 100万円」というメモをみれば
  正直法務は,10年間,商売を続けて,200万円(300万円-100万円)も,利益を出したんだな
と分かるでしょう(もし,正直法務が,途中で,サミーさんに配当を出していたら,200万円+配当分だけ利益を出したということが分かります)。

 このように資本金は,「過去に」出資した財産の価額を記した「メモ」に過ぎないということが分かっていただければ
 ① 資本金は,「現在」いくら会社に財産が残っているあるかということは,何も表していない。
 ② 資本金という制度だけでは,債権者の保護には何の役にも立たない。
 ③ 資本金は,社員が出資した財産の価額をベースに決められるものなので,社員の権利義務と密接な関連がある。
ということは,容易に理解していただけると思います。

 もっとも,「資本金」というメモ自体は,株式会社と持分会社に共通の概念でありますが,株式会社の世界では
  株式会社に特有の政策目的を達成するために,資本金というメモを利用して,特殊なルール
を採用しています。

 このルールが「資本原則」と呼ばれるものなので,「資本原則」の内容を理解するためには,その資本原則が
 ① どのような政策目的を達成するためのものなのか。
 ② その政策目的を達成するために,資本金を,どのような形で利用しているのか。
を分析していくのが早道です。

 それで,以下,資本確定の原則,資本充実の原則,資本維持の原則,資本不変の原則について,①②の視点をもとに分析していくことにします。

2 資本確定の原則
 まず「資本確定の原則」から始めます。

 前回お話ししたとおり,資本確定の原則は,すでに,ずっと昔に,「廃止」されているルールです。

 読者の中には
   俺は,今つきあっている女を大事にしたいから,昔の女のことに触れないでくれ
という哲学を持っている人もいるとは思いますが,次にお話しする「資本充実の原則」や,授権資本制度を理解する上で,資本確定の原則の内容を知っておいた方がいいので,しばし,お付き合いください。

 資本確定の原則というのは,
  「定款」で資本金の額を決める
制度のことです。

 なぜ,定款で資本金を決めていたかというと,
  ① 無理な設立をして,出資が無駄になることを防止する(健全な設立)
  ② 既存株主の持株比率を保護する(持株比率維持)
という2つの政策目的を実現するためでした。

①の政策目的(健全な設立)は,いわば,海外ツアーの最低携行人数みたいなものです。
 「ハワイ旅行3泊5日5万円。ただし,10人以上応募がなければ,中止」というような広告をよく見かけますよね。10人以上応募してくれないと,赤字になるから,そのような条件でツアーを募集するのでしょうが,会社の設立も似たようなところがあります。

 例えば,自動車メーカーを立ち上げるのに,最低100億円の資金が必要であるにもかかわらず,出資金が1億円しか集まらなかったのならば,どうしたらよいでしょうか。
 会社の立ち上げに必要な出資金が集まらないのならば,無理に設立をしても,すぐに会社が潰れて,出資金が無駄になってしまいます。とすれば,設立に必要な出資金が集まるまで,設立をすることがでいないようにした方が,出資者の保護に役立ちます。
 そこで,資本確定の原則のもとでは,発起人が,定款を作るときに,予め会社をスタートするのに必要な「資本金」の額を定款に記載させ,その額に見合うだけの出資金の拠出者が決まるまでは,設立することができないようにしていたのです。

 ②の政策目的(持株比率の維持)は,
  株主が,会社に対する影響力を確保することを認める
ということです。
 資本確定の原則が採用されていた時代は,資本金と株式の数が連動していた(資本金が増えれば株式の数が増える,資本金が減れば株式の数は減る)時代でしたから,
  資本金を定款で決めるということは,「株式の数」も定款で決める
ということであり,さらにいえば
  新株を発行して,個々の株主の持株比率を変えるためには,定款を変更しなければならない
ということを意味していました。
 「持分会社」のように社員全員の同意まではいらないものの,総会の特別決議で定款の変更をしなければ新株発行ができないとしておけば,多数派株主が新株発行によって,少数派株主に転落することはありません。
 こうした会社に対する支配権の維持という政策目的を,「資本金を定款に記載する」という手段によって,実現していたわけです。

 以上のように,資本確定の原則で実現しようとした政策目的は,いずれも
  株主の保護                                    
のためのものであり,この政策目的自体は,決して不当なものではありません。

 しかし,この資本確定の原則のもとでは,新株発行による資金調達をしようとするたび,定款変更が必要となるので,資金調達がやりにくいという欠点がありました。
 つまり,政策目的の実現手段として,「資本金」を利用したことが裏目に出たわけです。

 そこで,こうした欠点を修正するために
 ① 資本金を定款の記載事項から除き,定款変更をしなくても,新株発行ができるようにし(資本確定の原則の放棄)
 ② 新株発行を,出資者の集まりである株主総会ではなく,経営の専門家である取締役会で決めることができるようにする(授権資本制度・新株発行の権限を株主総会)
という改正が行われて,資金調達が簡単にできるようにされました。

 ただし,①の政策目的(健全な設立)については,会社法においても,定款で
 「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)
を定めなければならないとすることで実現されていますし,

②の政策目的(持株比率の維持)についても,取締役会の新株発行権限に制限をかけないと,経営者が自分の仲間だけに株式を発行して,会社を乗っ取ったりするおそれがあるので,定款で
  発行可能株式総数(37条)
を定めなければならないことして,持株比率を極端に希薄化することはできないような工夫がされています。

 つまり,かつて「資本確定の原則」で実現していた政策目的を,定款の記載事項を工夫することにより,別の形で実現しているのです。

 ただし,上記の27条4号や37条が存在することをもって
  「資本確定の原則が,一定限度,維持されている」と表現するのは良くない
と思います。
 なぜなら,27条4号や37条は
  上記①②の政策目的を「資本金」を利用せずに,別の手段で実現することを目指して作られた制度
であり,「資本確定の原則」を延命させるために作られたものではないからです。

 また,会社法の世界では,資本原則というと,なんでも「債権者保護」と結びつける傾向があり,ともすれば,資本確定の原則すら,無理矢理,債権者保護と結びつけて説明しようとする人もいるのですが,そうした説明は,初学者に誤解を与えるだけです。

 今日のところは,
 1 「資本確定の原則」は,株主の保護のための制度であったこと
 2 しかし,資金調達の便宜を図るために,資本確定の原則が廃止され,授権資本制度が採用されたこと
 3 資本確定の原則によって実現しようとしていた政策目的は,27条4号や37条によって実現されていること
を理解していただければ十分ですが,くれぐれも,「資本金=債権者保護」という短絡的な考え方からは脱皮していだだきたいと思います。
<次に続く>

(質問コーナー)
Q1
株主総会招集通知と、反対株主への通知について
 非公開の取締役会設置会社が、臨時株主総会を開催し、総会開催日を効力発生日として、定款を変更し発行済普通株式の全部に、全部取得条項付を付することとしています。
 この場合、会社法116条3項により効力発生日(臨時総会開催日)の20日前までに各株主に通知をしければなりませんが、この通知は、20前までに到達することが必要でしょうか? また、この通知をもって、会社法299条1項の通知に代えたいと考えますがいかがでしょうか?
 会社法116条4項の規定により、公告する方法により通知に代える場合、「年月日開催の臨時総会において、定款を変更して普通株式の全部につき、株主総会の決議によってその全部を当社が取得する旨の定めを設けることとしていますので」との公告で、可能でしょうか? この場合、招集通知は会社法299条1項の1週間前の発送でよろしいでしょうか?
投稿 橋爪伸由 | 2006/12/08 11:02:29
A1
1 116条3項の通知は,到達は要件ではありません。
2 116条3項の通知と,299条1項の通知は,兼ねることはできます。「代える」ことはできません。
3  後段の質問は,趣旨がよく分かりません。299条1項の通知は,非公開会社ならば1週間前の発送で足ります。

Q2
会社以外の者の間で新株予約権が譲渡される場合と、会社が自己新株予約権を処分する場合とでは、なぜ証券の交付時期に差があるのでしょうか。
自分なりに勉強しましたが、よく理解できませんでした。よろしくお願い致します。
投稿 写真 | 2006/12/08 22:09:47
A2
 株式の場合,新株の発行と自己株式の処分の効力発生時期を揃える必要があります。
 株券発行会社が募集株式を交付する場合,株券の発行がなくても,株式は発行されますから,自己株式の処分に株券の交付が必要とすると,引受人が,新株発行を受けるか,自己株式の処分を受けるかによって,株主となる時期がばらばらになります。
そこで,株式については,自己株式の処分については,株券の交付不要とされています。
 その正当化根拠は,自己株式を処分した当事者である発行会社が,その譲渡の効力を否定し,引受人が株主として権利行使を行うことを否定するのは,信義則に反するという点があげられるでしょう。
 自己新株予約権の処分の場合,募集手続は不要ですが,上に述べた正当化根拠は,当てはまりますから,自己株式の処分と平仄を取ったわけです。

Q3
会社法100問第2版の第83問(P479)の解答例についてお伺いしたいのですが、
一の三段落目で
「株主が出資した財産を『債権者』に無断で払い戻すことができないようにして…」
となっているのですが、この『債権者』は、『株主』の間違いではないのでしょうか?
同じ段落の続きでは、赤字部分で
「債権者の会社に対する強制執行が『株主』への払戻しによって容易に免脱されないような制度…」
となっており、こちらのほうでは『株主』への払戻しとなっていたので、前者も『株主』なのではないかと思いまして。
投稿 まつ(会社法初心者) | 2006/12/09 0:33:08
A3
 すいません。そのとおり「株主」が正解です。

Q4
早速、新株予約権の行使について質問させていただきます。会社法281条2項で、行使の際の現物出資の目的物の価額が出資額に足りないときは金銭で補うことが定められていますが、逆に目的物の価額が出資額より多くなってしまった場合、差額を発行会社から新株予約権者に金銭で返すようなことは可能なのでしょうか?それとも、かかる目的物は出資額ちょうどに相当するものとして扱われ、そのような精算は不可能なのでしょうか。ご回答よろしくお願いします。
投稿 アソシエイト | 2006/12/09 13:31:31
A4
 現物出資は,現物出資財産を時価がいくらか関係なく,定めた価額のものとして,出資するものですから,精算は難しいですね。
 時価100万円のものを,80万円で売ったからといって,買主が,後で20万円返してくれということができないのと同じです。

                                                               

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2006年12月 8日 (金)

【入門】資本三原則(1)

第8問の資本三原則について,お話しします。

問題文は,「株式会社の資本に関する三原則を述べなさい。」という極めてシンプルなものですが,「資本に関する三原則」という言葉は,条文上,定義されたものではないので,この問題は,ある意味,すごく不親切な問題です。

ただ,問題文に文句を言っても仕方がないので

「資本に関する三原則とは・・・・である。」

というオウム返しの術を使った上で,原則ごとに

1 なぜそのような原則が取られるのか

2 条文上の根拠は何か。

3 論点とそれに対する考え方

を順に書いていくのがオーソドックスな答案でしょう。

もっとも,資本原則の定義・内容は,商法改正によって変化を遂げてきました。
たとえば,旧商法の制定時には
  ①資本確定の原則
  ②資本充実・維持の原則
  ③資本不変の原則
が三原則だったわけですが,その後の改正により,
  資本の額を「定款で定めない」
こととなったため,資本確定の原則が廃止されました。

 そして,普通,3原則のうち,1原則が廃止されれば,2原則になるはずですが,なぜか,いつの間にか,②の資本充実・維持の原則が2つに分かれて
 ①資本充実の原則
 ②資本維持の原則
 ③資本不変の原則
が三原則と呼ばれるようになったのです。

 私は,「私的自治の原則」のように,民法がどれだけ改正されても,生き残るようなものなら,「原則」の称号にふさわしいと思いますが,資本原則は,商法改正のたびに,その内容が大きく変わり,原則の数え方まで変わっていますから,「原則」と呼ぶのは少し恥ずかしい感じがします。
 しかも,実際には
 資本充実の原則は445条
 資本維持の原則は461条
 資本不変の原則は449条
等で,それぞれの内容をほぼ実現しているので
  わざわざ,それらの制度に「資本原則」というラベルを貼る実益はない
と言い切る人がいるのは当然です。

 よく
   立案担当者の中で,資本充実の原則は廃止されたと説明する人もいれば,資本充実の原則が徹底されたと説明する人もいるのですが,どっちですか。
と聞かれるのですが,別に内部でケンカをしているわけでも,矛盾しているわけでもなく,
  どちらも正しい
のです。ただ,
  文脈によって,「資本充実の原則」の定義を使い分けている
だけなのです。

 今日は,忙しくて,記事を書き始めたのが遅かったため,資本原則の具体的な説明は,次回に回します。
 ただ,本日,初心者の皆さんに,是非,分かっておいていただきたいのは
  資本原則は,株式会社法の大原則とされていたため,厳密な定義がされないまま,いい加減に議論がされる傾向がある。
  定義をはっきりさせないまま,議論するのは時間の無駄。
ということです。

 これが分かった上で,次回に備えて
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50592401
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50592404
を予習すれば,資本原則のマスターは,あっという間ででしょう。

(質問コーナー)
Q1
 昨日,種類株主総会と代表取締役についての質問をした者です。
 定款で定めれば,種類株主総会でも代表取締役を定めることができるのではないでしょうか(会社法321条参照)?
投稿 iインカーン | 2006/12/05 0:42:21
A1
 321条の定款の定めは,108条との関係で,制約を受けざるをえないと思います。
 そうでなければ,108条に列挙されていない種類の株式がいくらでも作れることになってしまうからです。

Q2
会社法では、計算書類と事業報告に係るスケジュールが別個に規定されていますが、計算書類と事業報告を同じ日に提出をしますと、最終的に特定監査役から特定取締役への通知が1週間ずれてしまいます。(4週間の期間を要した場合)
①この場合、事業報告の通知期限を特定取締役と特定監査役が計算書類の日付に合わせる形で合意した日を定めなければなりませんか。
また、合意はどのタイミング(監査前、監査中など)に結ぶのでしょうか
②ずれていると監査役会はそれぞれのために分けて(2回)開催する必要がありますか。(あまり現実的でないと思いますが)
③同日に出した場合、スムーズにとり行う方法はございますか。
投稿 | 2006/12/05 0:59:44
A2
①の意味が分かりませんが,通知の日を揃えるために合意をすることはできます。合意のタイミングは,特に制限はないですが,通知期限の到来後にのばすのは難しいような気がします。
②2回開催する必要はないと思います。

Q3
会社法133条2項で、法務省令で定める場合を「除き」と規定され、その法務省令(施22条2項)で、株券を提示して請求した場合が規定されてます。
つまり、株券発行会社でも、提示がなければ「除かれないから」、共同で名義書換という理解で宜しいのでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/05 8:10:04
A3
そうです。

Q4
機関に関する質問をさせてください。
千問の道標のQ510についてです。
取締役会の書面決議について、「決議があったものとみなされる日」とは、決議事項の提案につき議決に加わることのできる取締役全員の書面又は電磁的記録による意思表示が提案者に到達したとき、をいうとのことですが、この「決議があったとみなされる日」を会社の提案書で別の日(たとえば同意書面の提出締め切り日の翌日)などと定めることはできるでしょうか。
投稿 ☆ | 2006/12/05 9:27:06
A4
それは,無理そうです。
やるなら,期限付き同意をするのかなあ。

Q5
サミーさん、会社代表者の互選について教えてください。
① 取締役会非設置の株式会社は、定款の定めに基づく「取締役の互選」によって、取締役の中から代表取締役を定めることができるとされていますが(会社法349条3項)、この互選する主体について、仮に『社外取締役以外の取締役の互選』と定めることまで会社法は許容しているのでしょうか。
② (①と同様に)持分会社でも、定款の定めに基づく「社員の互選」によって、業務執行社員の中から代表社員を定めることができるとされていますが(会社法599条3項)、互選する主体について、仮に『業務執行社員の互選』と定めることまで会社法は許容しているのでしょうか。
 そして、会社代表者については登記事項であることから、①②のとおり互選した場合、登記所が受け付けてくれるのかも気になっています。ぜひご教示ください。
投稿 マメ | 2006/12/07 15:00:32
A5
①は,想定していないと考えた方がよいでしょう。
②も,難しそうですねえ。

Q6
清算関係について、もう一つ教えてください。
委員会設置会社が解散し法定清算人が就任する場合、取締役兼代表執行役だった者は、当然代表清算人になるのでしょうか?
旧商法では430-1,129-2が根拠となり、代表清算人になるとされていましたが、会社法にはそのような規定がないので気になりました。
当然代表清算人になるとした場合、根拠条文は何になるのでしょうか?
また、ならないとした場合、何か理由があるのでしょうか?
いろいろな本を読んでみたのですが、どれ1つとしてそのことについて触れた物はありませんでしたので、ぜひ教えてください。
投稿 パラリーギャル | 2006/12/07 15:27:26
A6
代表執行役が,代表清算人になるという根拠はないはずです。
いい加減に考えれば,代表清算人になるという整理でもよかったのかもしれませんが,取締役でない代表執行役や普通の執行役はどうするのか,整理がつかないので,規定を置かなかったと思います。解散を決める株主総会で,一緒に決めればいいだけの話ですから。

Q7
私の質問の仕方が悪かったので、再度、略式組織再編の可否について質問させてください。
吸収分割会社が、吸収分割承継会社の特別支配会社である場合において、無対価で、吸収分割を行うのですが、両社とも公開会社でない場合には、会社法796条1項但書の「交付する」に該当しなくなるため、略式組織再編は当然に可能と考えてよろしいでしょうか?
投稿 としお | 2006/12/07 15:39:47
A7
無対価の場合は,796条1項ただし書は適用されません。

Q8
 吸収合併契約書に、存続会社が交付する金銭等に関する事項として、「甲は、本合併に際して普通株式200株を発行し、本合併の効力発生日前日最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(甲及び乙を除く)に対して、その所有する乙の普通株式1株につき甲の普通株式1株の割合をもって割り当て交付する。」というような定めをした場合、合併対価の交付に関する基準日の設定として、乙株式会社において基準日の公告または基準日に関する定款の定めが必要となるでしょうか。
 それとも、合併の効力発生日の到来をもって消滅会社の株主は存続会社の株主となり、合併対価は、効力発生日前日最終の株主名簿にもとづいて交付することになるから、あえて基準日と認識する必要はないのでしょうか。よろしくお願い致します。
投稿 ぷにたろう | 2006/12/07 16:06:52
A8
 契約の解釈ですから,答えようがないです。定めちゃったら,基準日を置いたと考えた方が安全でしょうね。

Q9
会社法207条9項1号の「募集株式の引受人に割り当てる株式の総数」とは,旧商法280条ノ8但書と同様に現物出資者に対して与える株式の総数のことを指すのですか。それとも旧商法とは異なり文字通り,現物出資者か金銭出資者かを問わす,今回割り当てる全株式の総数を指すのですか。
投稿 ポケット | 2006/12/07 19:51:42
A9
文字通りと読むのが素直でしょうね。

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2006年12月 5日 (火)

清算会社等に関する質問

今日は,質問が沢山きているので,質問コーナーだけにします。

(質問コーナー)
Q1
MBO(マネージングバイアウト)というのは、
通常、マネジメントバイアウトと言われるものですな。
投稿 しーぽん | 2006/12/03 1:13:16
A1
日本も,アメリカも,マネージング・バイアウト,マネジメント・バイアウトの両方とも同じ意味で使っていると思います。ググってみてください。

Q2
株式交換についてお教え下さい。
清算持分会社である合同会社が株式交換完全親合同会社となる
株式交換はできないという理解でよろしいでしょうか?

株式会社(会509条1項3号)と異なり,会社法674条に規定がなく,
また,社員の加入の適用排除はあるものの(会674条1号),
対価を持分以外とすれば(会770条1項3号),可能なようにも
読めます。
投稿 たつきち | 2006/11/29 0:53:37
A2
清算合同会社が完全親会社となる株式交換は,対価が,持分以外ならば,可能です。

Q3
株式会社と代表清算人との委任関係についてなのですが,
①まず会社法においては,当該関係は,「会社と代表取締役との関係」と同様の規律がされています(会349①ないし③と483①ないし③,会362③と489③)。したがって,清算人の地位と代表清算人の地位とが分離している会社(定款の定めに基づく互選又は清算人会決議により代表清算人が選定される会社)では,清算人としての就任承諾とは別に「代表清算人としての就任承諾」が必要であると理解しています。
②ところが商業登記法では,「代表清算人としての就任承諾」というものは前提とされてはおらず,清算人としての就任承諾を証明することにより,代表権の有無にかかわらず,清算人の登記が可能であると規定されているように思われます(商登73②)。
③どっこい平成18年3月31日付民商第782号民事局長通達では,代表清算人の選定方法にかかわらず,「代表清算人としての就任承諾」が必要であるとされています(同通達第2部第5の2(2)イ(ァ)d)。
以上の3つを整合的に説明するのはなかなか難しいと考えておりますが,私の理解は間違っていますでしょうか。
投稿 yasuko | 2006/12/03 16:32:46
A3
商業登記法では,かつて有限会社について「代表取締役」の就任承諾という文言を用いていないにもかかわらず,代表取締役の就任承諾を必要としていました。それと,同じ理屈が,清算人について,今も残っているのだと思います。

Q4
清算株式会社についてなのですが,
①取締役会を置く旨の定款の定めの効力は,清算の開始によっても有効に存続する(相澤哲・松本真「清算株式会社の機関設計」月間登記情報541号28頁)。
②会社の解散によっても,株式の譲渡制限に関する定めの効力は停止しない(相澤哲・郡谷大輔「新会社法の解説(11)」旬刊商事法務1747号17号)。
という2つの考えを前提とすると,取締役会を株式譲渡承認機関とする旨の定款の定めがある会社が解散した場合においては,
①解散登記と併せて当該定めの登記を変更または廃止する必要はなく,この場合,取締役会設置会社である旨のみが登記官の職権により抹消される。
②当該清算株式会社の株式を譲渡しようとする株主は,「株主総会」の承認を得なければならない。
という結論でよろしいでしょうか。よろしくお願いいたします。
投稿 yasuko | 2006/12/03 17:02:52
A4
①は,そうですね。
また,もともと「株式会社」の承認を要する旨の定めがあれば,②のように,清算により,株主総会が承認機関になります。
ただ,②については「取締役会」を承認機関とする旨の定めを置いているとすると,そのままでは,矛盾のある登記申請ということになるので,承認機関についての定款変更が必要だと思います。

Q5
本日は、募集株式の発行につき、教えてください。以前ご回答いただいた部分もあるのですが、知識の整理のため、再度、確認の意味もこめまして、質問させてください。
1 第二編第二章第八節第二款「募集株式の割当て」の款自体は、全ての募集株式を発行する株式会社に適用がある、との理解で良いか?
2 204条1項前段の「株式会社」とは、募集株式が譲渡制限株式でない全ての株式会社を射程範囲とする、との理解で良いか?
3 204条1項後段の「株式会社」とは、株主総会が募集事項の決定機関である株主割当の場合を除く、募集株式が譲渡制限株式でない全ての株式会社を射程範囲とする、との理解でよいか?
4 募集事項の決定決議とは異なる日に割当ての決定をしたとすると、決定決議とは別に別途割当てのための決議をしなければならない、との理解で良いか?例えば、株主総会を再度開催する必要がある、との理解で良いか?
5 非公開会社が譲渡制限株式を第三者割当てで募集した場合、割当ての取締役会決議が必要との規範は妥当か?
6 204条2項本文は、募集株式が譲渡制限株式である場合で、かつ、第三者割当ての場合を射程範囲とする(株主割当の場合は適用されない。)、との理解で良いか?
投稿 NK | 2006/12/03 21:27:47
1 基本的にはそうですが,202条の場合は,204条1項から3項は適用されません。
2と3 「株式会社」は,全ての株式会社ですね。募集株式が譲渡制限株式の場合でも,204条1項前段は適用されます(そうでなければ,2項の「前項の決定」がありえないことになります)。
4 意味がちょっとわかりませんが,募集事項の決定と割当ての決議を一緒にすることはできます。
5 非公開会社でも,割当ての取締役会決議は必要です。
6 そのとおりです。

Q6
会計規153条より、計算書類は作成した取締役が各監査役に提出すると読み取れますが、事業報告の場合、これに該当する条文が見当たりません。計算書類と同じ理解でよろしいでしょうか。
投稿 RICHA | 2006/12/03 23:35:26
A6
業務執行者は,計算書類を作成し,監査を受けなければならないので,事業報告を作成した業務執行者が各監査役に提出しなければいけません。

Q7
特定監査役についてですが、小会社に複数の監査役がいる場合、特定監査役はどうやって決めるのでしょうか。(機関および方法)
投稿 ABC | 2006/12/03 23:39:01
A7
 小会社という概念は,会社法にありませんので,非大会社ということを前提にお話しします。
 非大会社で,監査役会設置会社ではないことを前提にすれば,監査役全員で,任意の方法で定めてよいです。

Q8
計算書類と定時株主総会招集について、ご指導願います。
計算書類、株主資本等変動計算書の注記で、●年●月●日の定時株主総会において、次のとおり決議を予定しております。と記載するような事例を見受けますが、計算書類を作成した後で、株主総会招集のための取締役会を開催し、総会日付が正式に決定すると思いますが、計算書類の作成、監査、承認の段階ではあくまでも株主総会予定日を記載するという理解でしょうか。場合によっては、監査を受けた時に記載してある日付を変更することはあって良いという理解でしょうか。
投稿 すねお | 2006/12/03 23:48:58
A8
●年●月●日よりも前に,日本が沈没するかもしれないので,将来の日時は,当然のことながら,予定日です。ただし,確定日を注記に記載した場合には,その日時を自由に変更するということはできず,何らかの告知が必要でしょう。

Q9
種類株式発行会社(取締役会設置会社)が株式分割をする場合に、184条が適用されるのは、株式ごとの分割割合が種類株式ごとに共通である場合のみである、との理解で宜しいでしょうか?すなわち、種類株式発行会社において、株式分割は種類株主総会決議が必要であるのが原則である(322条1項2号)ところ、株式ごとの分割割合が種類株式ごとに共通である場合は、損害を及ぼす恐れがないため、322条1項2号の特則として取締役会に権限を認めた184条がある、との理解で宜しいでしょうか?
投稿 NK | 2006/12/04 0:38:33
A9
A種株式のみ分割する場合も184条1項は適用されます。
184条1項の効力を生じさせないようにするために,322条1項2号があるので,322条の方が特則だと思います。

Q10
① 公開会社でない取締役会設置会社以外の株式会社において、取締役選解任権付株式を発行している場合に、種類株主総会の決議によって代表取締役を定めることができるか?
② 公開会社でない取締役会設置会社において、取締役選解任権付株式を発行している場合に、定款の定めに基づき、種類株主総会の決議によって代表取締役を定めることができるか?
投稿 iインカーン | 2006/12/04 2:51:47
A10
 代表取締役選任権付種類株式は,駄目だと思いますが,株主ごとに異なる取扱いをする定めとして工夫すれば,同一の効果を導く制度を設計可能だと思います。

Q11
100問2版P237「417」についてお伺いいたします。
株券発行会社で、株式取得者が名義書換を請求する場合は、当該株券発行会社から貰う場合以外、常に株券の提示は必要ではないのですか?
「正」の「名義株主と取得者との共同請求も可能」とは、株券を提示しなくても名義書換が可能ということでしょうか?
投稿 南斗六星 | 2006/12/04 8:11:24
A11
 前段の質問の意味がちょっと分かりません。共同でない場合には,株券の提示をして単独の名義書換請求をするので,「常に」必要ではないわけではないでうね。
 なお,株券を提示しなくても,共同ならば名義書換をすることができます。

Q12
Q&A9の「ただし、登記は必要。」の意味を教えてください。
解散の登記と同時に株式譲渡の承認機関を取締役会から別の機関に変更する登記が必要で、継続の登記をするときは、同時に株式譲渡の承認機関を取締役会とする変更登記が必要ということでよろしいでしょうか?                        
投稿 パラリーギャル | 2006/12/04 9:25:29
A12
 解散の登記と同時に,取締役会設置会社の登記が抹消されるので,継続の登記のときに,取締役会設置の登記を再度する必要があります。

Q13
 普通株式のみを発行している会社(取締役会設置会社)が、株主総会で①定款を変更(種類株式)し、②発行済の普通株式の全部を全部取得条項付株式とし、③全部取得条項付株式を取得することとしました。
 そのため、効力発生時には、株主が存在しないこととなりますが、効力発生日の翌日に募集株式の発行決議をしたいのですが、株主総会を開催することが出来ませんので、取締役会で決議をしたいと考えていますが、可能でしょうか?
投稿 橋爪伸由 | 2006/12/04 10:11:38
A13
 公開会社ならば,取締役会で募集事項を決定することができますが,非公開会社では,株主総会の決議が必要です。できないというのは,言い訳にはなりません。そのような全部取得をする方が悪いということになります。

Q14
本日のQ9に関連したことなのですが、法人が解散して清算を開始した場合に、
株式の譲渡制限の承認機関を取締役会にしている会社においては、譲渡承認機関を他の機関に変更登記する必要は無しという考え方でよろしいしょうか。関連質問として、法人が清算開始した場合は出資の譲渡は認められないのでしょうか、従前は法人清算開始後は出資の移動は認めないというような記述をどこかで見ました。会社法において法人清算開始後に出資の譲渡は問題なしとした場合、当初の質問との関連なのですが、その譲渡の承認機関はどこになってしまうのか、またその場合、譲渡承認機関はあらためて登記して公示する必要があるのか、ということです。
投稿 無資格実務家 | 2006/12/04 10:22:12
A14
承認機関を取締役会にしていれば,承認機関を変更する必要があります。
「法人」というのは,会社のことですか?清算中も株式譲渡は可能です。

Q15
会計監査限定監査役と事業報告の監査についてお教え下さい。
 監査役の権限が会計監査に限定されている場合においても、会社法436条の規定では「事業報告」の監査まで必要としています。その一方、会社法389条~施行規則129条では監査報告書の中に「事業報告の監査権限がない」旨を記載するとなっています。
 一見すると矛盾しているように思われるのですが、このような規定の置き方は、何か意図があってのことなのでしょうか?
 また、同様の場合において、(1)取締役が事業報告を監査役に提出しなかった、(2)監査役が事業報告の受領を拒否した、という事例では、実質的に監査権限がないにもかかわらず、手続上の瑕疵や任務懈怠といった問題が当然に発生するのでしょうか?
投稿 チョビ | 2006/12/04 15:28:46
A15
 会計監査限定監査役は,事業報告の監査を行いません。436条は,いろいろな会社をまとめて書いているだけで,具体的には,法務省令で監査の範囲をはきまります。

Q16
自己株式の取得の件ですが、公開大会社で役員の任期が1年以内の定時総会までの場合には、株主との合意により自己株式を取得する際に、取得事項を取締役会で定める旨を定款で定めることができます(会社法459条1項1号、160条1項)。

この場合に、定款で「取締役会に関連する事項については取締役会において定める取締役会規則による」という定めをして取締役会規則で自己株式の取得事項を定める規定を置いて、自己株の取得が可能でしょうか?
取締役会規則は、取締役会の決議がなければ変更できないので、この規則に定めがあればOKの様な気もするのですが・・・・
ご教示願えますでしょうか。
投稿 Eisuke | 2006/12/04 16:24:25
A16 
取締役会が取得事項を定め、代表取締役等に委任していないのならばよいです。取締役会規則の中で、代表取締役等に委任していたらダメです。

Q17
株式会社が(非公開、取締役会、監査役設置会社)株主総会により解散すると、その日で事業年度(例えば4/1~3/31の場合)は終わり、その翌日から清算事務年度となりますが、
①事業年度途中(2006/8/31)で解散決議をした場合は、2006/9/1より清算事務年度となるので、解散後初めての定時総会は2007/8/31以降になるのでしょうか?
②事業年度末日(2006/3/31)から定時総会(2006/6/30予定)までの間に、臨時総会(2006/4/30)により解散決議を行った場合は、事業年度は
【1】2005/4/1~2006/3/31(事業年度)
【2】2006/4/1~2007/4/30(事業年度)
【3】2007/5/1~2007/4/30(清算事務年度)
となりますが、【1】に関する定時総会は避けられず、解散後最初の定時総会は①と違い2006/6/30にしなくてはならないのでしょうか?
投稿 ハシモト | 2006/12/04 18:18:32
A17
① 普通はそうですが、清算事務年度の変更をすれば、8月31日よりも前がありえると思います。
② 清算株式会社になった時点で、509条が適用されます。

Q18
早速ですが、『新・会社法100問』第44問「権限委譲」について質問させて頂きます。
100問の解答例では、機関の権限委譲の問題について、「明文の例外が認められているかどうかによって決せられる」という立場を採用しています。
そして、(1)事業の全部又は重要な一部の譲渡の決定、(2)取締役の報酬の決定、(3)代表取締役又は代表執行役の選定については、その観点ですっきりと説明されています。
しかし、代表取締役の選定・代表執行役の選定の部分では、そのような例外規定があるか否かという議論が曖昧になっています。
解答例では295条2項と、295条3項の反対解釈によって結論を導いていますが、このような解釈を(4)で用いるのであれば、上記(1)~(3)でも同じ解釈を用いるべぎてはないのでしょうか?
また、前田先生や江頭先生の基本書でも100問のような説明はされていません。
100問の解答例をどのように理解すれば良いのか、お忙しいところ大変恐縮ですが、ご教授頂ければ幸いに存じます。
投稿 悩める受験生 | 2006/12/04 20:05:06
A18
 明文があるかどうかで判断する話と,295条2項の話は,同じです。

Q19
橋爪様のスキームで、既存の普通株式全部を、全部取得条項付種類株式とする決議後、③の全部取得条項付株式を取得する旨の決議において、その取得対価としては、当該会社の株式を割り当てるものとし(171条1項1号イ)、1株の発行価額を相当な高額に設定のうえ、1株に満たない端数株主には、一部株式を売却して、その売却金をもって交付するものとしたとします。
普通株式を、全部取得条項付種類株式とする定款変更に反対する株主が、株式買取請求権を行使し、価格の決定の申立て(117条2項)をしようとするとき、その申立時において、効力発生日、取得日の到来によって、端数しか持たないこととなってしまった反対株主については、株主ではないとして、その申立を否定されませんでしょうか?
価格の決定の申立ては、条文からは、買取請求をした反対株主に認められたものと考えられますし、その後の効力発生日、取得日の到来によって、反対株主が、端数しか持たなくなったとしても、これを否定する理由はないように思います。また、これを認めないと、多数株主によって、容易に、少数株主の株式買取請求権を排除できることになります。
投稿 瀬戸際の法務担当 | 2006/12/04 20:35:52
A19
反対株主に該当する以上,買取請求をすることはできます。もっとも,買取請求の途中で,対象株式に変化があった場合の処理は,難しい問題が沢山ありますので,調整中です。

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2006年12月 2日 (土)

事業の価値と株主の保護

 今日は、閑話休題っぽいネタで
  事業の価値と株主の保護
についてお話ししたいと思います。

 会社が、事業の現物出資をして株式を発行したり、事業を承継させる会社分割や合併を行うときに、しばしば論じられるのは、その事業が「債務超過」又は「実質債務超過」であっても、受け入れた会社が株式を発行することができるか、という問題です。

 昔から、「債務超過の会社を吸収合併することができるか」という論点はあり、この点については、旧商法のもとでも「無対価ならばできる」というのが通説でした。
 この通説は、「存続会社の株式が発行されないならば」という意味で「無対価」という言葉が使っていたので、対価が柔軟化された会社法では、無対価でなくても、「存続会社の株式以外の財産」を対価とするような合併ならば許されるというのは、誰もが認めるところだろうと思っています。

 これに対し、実質債務超過の事業を受け入れて、「株式を発行することができるか」という点については、現在も意見の対立があるところです。

 株式発行否定説は、
   株主になるためには、出資によって、リスクを負うことが必要であり、実質債務超過の事業を譲渡するような場合には、譲渡人がかえって、負担が軽くなるのだから、リスクを負担することにはならない
ということを根拠にしているようです。

 これに対し、
   事業の価値を決めるのは、当事者なのだから、実質債務超過というあいまいな概念を用いて、株式の発行を禁止するのは法律関係を不安定にする。株主の保護や債権者の保護がきちんと図られるのならば、株式の発行自体を禁止する必要はない。
というのが私達の考えです。
 実質債務超過という言葉の意味のあいまいさについては、以前、葉玉さんが記事にしていますので、そちらを参考にしてください。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50521126

 実際、事業を構成する財産(物、債権、債務等)の値段が「客観的」にいくらなのかを決めるのは、非常に難しい。
 「物」の値付けが難しいのは、上のリンクの記事を見て貰えればわかりますが、特許やノウハウ等も価値評価をすることが大変難しい財産の一つです。
 例えば、一般的には全く使えないような知的財産であるが、ある特定の会社が使ったら、100億円の利益を得ることができるような場合、流通性がないから価値はゼロなのか、それとも、その会社にとっては100億円の利益が得られるから、価値も100億円なのか? 一般的な価値がゼロだから、その知的財産を出資することはできないというのでは、怒る人もいるでしょう。

 難しいのは、権利の評価だけではありません。義務だって評価は難しい。1000万円の債務を負っていれば、マイナス1000万円かもしれませんが、事業譲渡が問題になる場面では、話はそんなに単純ではありません。
 大手企業に商品を納入する義務は、それだけを見ればマイナスですが、その後に継続して商品を納入することができる期待があれば、その期待に価値が生まれます。

 極端な話、例えば、長澤まさみさんが、ドラマの疲れを癒すために、ある会社に電話でマッサージを依頼したとしましょう。
 その場合、私は、その会社が
  「長澤さんの体をマッサージしなければならない義務」
を10万円で売ってくれるのならば、喜んで買います。
 一般的には
 「金を払って、債務を引き受けるのはおかしい。」
と考えるのでしょうが、実際には、債務に値段がつくことだってあるのです。

 このような個々の財産の評価の難しさが分かっているので、事業の価値を評価するときには、純資産を見るだけではなく、配当還元法であるとか、ディスカウントキャッシュフロー法であるとか、いろいろな評価方式を使って評価します。

 しかし、評価方式ごとに、何倍もの開きのある価格が算定されるのが一般的であり、そのこと一つをとっても、いかに「客観的な価値」というものが幻想なのかを思い知らせてくれます。

 こうしたことを考えると、株式発行否定説は、客観的評価のあいまいさや、その評価を適法性の要件とすることの危険性、さらには、一般人にとってはマイナス財産としてしか評価できないが、当事者には極めて高い経済的価値があるものの存在を、見逃していると言わざるを得ないと思います。

 このように事業の価値の相対性を前提にすれば、

一般人が「実質的債務超過」と評価する事業を承継するような場合でも、承継会社が、その事業にプラスの価値があると判断し、株主や債権者が、十分な情報をもとに、承継会社の判断に賛成するのならば、

株式の発行自体を禁止する必要はありません。

 むしろ、大事なのは、株式の発行の可否ではなく
  株主や債権者に十分な情報を与えること
  反対した株主や異議を述べた債権者を保護すること
の2点なのです。

 たとえば、株主の保護の制度としては
  事業の現物出資による新株発行においては、現物出資財産の価額てん補責任
  会社分割や合併においては、反対株主の株式買取請求権
等が考えられ、これらの制度をきちんと機能させていくことが、事業の承継や組織再編に関する諸制度の法的安定性を高めるための要になると思います。

 例えば、最近、MBO(マネージングバイアウト)による非上場化が流行していますが、MBOが行われるときは、通常、株主に
  ① 経営者が出資したSPCによる公開買付に応じる。
  ② 公開買付後に会社とSPCとの株式交換等が行われる場合に、反対せずに、対価を受け取る。
  ③ 株式交換等反対して株式買取請求権を行使する。
という3回の対価の受け取りの機会が与えられます。
 
 経営者側としては、①と②と③の価格は、安ければ安い方が良いため、株主側に
   ①の公開買付にに応じないと、②や③では、もっと安い値段を提示されるかもしれない
という恐怖感があると、非常に安い公開買付価格で、公開買付への応募を事実上強制されるような事態が生じることになりかねません。

 しかし、①から③のうち、③だけは、会社と株主の協議が整わなければ、裁判所が
  「公正な価格」
を決めてくれるという特徴があります。
 ここでいう「公正な価格」は、株式交換等の当事会社が決めた対価に不満な株主を救うために一般的な価格を保障する趣旨で決定される価格ですから、今日の前半で述べたような相対的な価格ではなく
  一般的な価格
ということになります。

 もちろん、既に述べたとおり、一般的な評価方式を用いても、その価格はバラバラになりますが、その欠点を、裁判所の良識によって補うために、わざわざ非訟事件にしているわけですから、裁判所には、諸般の事情を考慮して、適切な価格を決めてもらう必要があります。

 「裁判所は、公開買付価格や株式交換の対価の額に惑わされずに、真に「公正な価格」で買取を認めてくれる」

という信頼が生まれてくれば、株主は
  公開買付価格が安いときは、株式買取請求権を行使すればよい
という安心を得ることができます。

 そうなれば、公開買付をする側も
  公開買付価格が安いと、公開買付自体が失敗する可能性がある
と考えて、適正な値付けをするようになるでしょう。

 株式買取請求権という最後の砦がしっかりと機能することにより、良い循環が生まれるのです。

 これまで行われてきたMBOにおける公開買付価格が妥当かどうかは、私には分かりませんが、制度の健全性を保つために、株式買取請求における「公正な価格」の持つ重要性がこれから高まっていくように思います。

(質問コーナー)
Q1
 略式組織再編・簡易組織再編についてご教示ください。
 非公開会社の完全親子会社間において、無対価で、吸収型再編を行うのですが、この場合、会社法条文上の「交付する」に該当しないため、当然に、略式組織再編・簡易組織再編が選択可能でしょうか?
 また、その場合、会社法796条3項1号の合計額は、必然的に「ゼロ」となり、ゼロを除することができなくなることは、どのように理解したらよろしいのでしょうか?
投稿 としお | 2006/11/30 9:35:53

A1
 796条3項1号の合計額がゼロならば、簡易合併をすることはできます。
 ゼロで除することはできませんが、ゼロを除するとゼロです。
 ちなみに、2号が0ならば、その問題は生じますが、その場合は、簡易合併はできません。

Q2
 A社100%出資による完全子会社(以下、「B社」)の設立に際して、『A社株の一部を現物出資することの可否』についてご教授下さい。

①会社法135条1項(親会社株式の取得の禁止)は、「子会社は、親会社株式を取得してはならない」と規定しており、仮に、当該現物出資を許容すると、B社(子会社)が、A社株式(親会社株式)を取得する状況が作出されるたため、当該現物出資は「不可」と考えますが、いかがでしょうか。

②この点、会社法135条1項5号・施行規則23条4号(子会社による親会社株式の取得の例外的許容事項)の「親会社株式を無償で取得する場合」にあたり、当該現物出資は「可能」という解釈は成り立つのでしょうか。

③「発起人が割当を受ける設立時株式の数」を、「発起人による(現物)出資」に対する(有償)対価とみてよいか否かが問題となっている気がしています。
以上、宜しくお願い申し上げます。

投稿 現代のファイロ・ヴァンス | 2006/11/30 10:25:52
A2
 A社が自己株式を処分するためには募集手続が必要です。ですから、無償は無理ですし、B社を設立する場面ですから、A社の募集手続にB社が応募することができず、135条を持ち出すまでもなく、無理でしょう。

Q3
議決権の不統一行使について質問させてください。

株主はその有する株式を統一しないで行使することができます。
(313条1項)
ところが、取締役会設置会社では 株主は株主総会の3日前までに理由を通知しないと 議決権の不統一行使をすることができません。(313条2項)
この様に、取締役会の設置の有無で差が出る理由について教えてください。
 また募集設立では 将来、会社が取締役会設置会社になるかどうかを問わず、設立時株主は創立総会の3日前までに理由を通知しないと 議決権の不統一行使をすることができません。(77条1項)この様に募集設立で 将来、会社が取締役会設置会社になるかどうかを問わず 理由の通知を要求する理由について教えてください。

投稿 maru | 2006/11/30 14:06:48
A3
伝統です。

Q4
 会社更生法第224条第6項に「第182条の3第3項の規定により更生計画において更生会社が同項に規定する株式交換をすることを定めた場合」とあり、同法第182条の3第3項では、「株式交換(更生会社が株式交換完全親会社となるものに限る。)」と規定されています。
 しかし、千問の道標671頁の解説にあるとおり、「株式交換は、完全子会社となる会社の行為であり・・・会社法上「株式交換をする株式会社」(234条1項7号等)とは、完全子会社のみを指す。」のはずですから、会社更生法の規定は、会社法と矛盾しているように思いますが、いかがでしょうか。

投稿 内藤卓 | 2006/11/30 16:53:05
A4
法律ごとの概念の相対性ということで勘弁してください。

Q5
欠損填補のための資本金・準備金の額の減少について教えてください。
定時総会でいわゆる欠損填補のための資本金の額の減少(会社法309条2項9号イロ)を行う際に、単に分配可能額のマイナスを消すだけでなく、表示上の欠損(その他利益剰余金のマイナス)をも消すためには、会社法309条2項9号イロの普通決議とは別に、会社法452条による剰余金の計数変動(会社計算規則50条1項1号により増加するその他資本剰余金をその他利益剰余金に振り替える処理)の株主総会決議が必要ということになるのでしょうか。
他方、欠損填補のための利益準備金の額の減少の場合は、会社計算規則52条1項1号により、直接、その他利益剰余金の額を増加させることができるので、資本金・資本準備金の額の減少の場合とは異なり、会社法448条の株主総会決議のみによって、表示上の欠損も消すことができるという理解でよいでしょうか。
投稿 法務スタッフ | 2006/11/30 19:30:07
A5
資本金を減少しても、その他資本剰余金が増加するだけですので、その他利益剰余金を増加させたければ、452条の決議が必要でしょう。利益準備金を減少すれば、その他利益剰余金が増加するので、別途452条の決議は不要です。

Q6
権利株の譲渡についてご教授ください。
発起人については、出資履行前の権利株の譲渡について成立後の会社に対抗できないとする規定が35条に設けられており、出資履行後についても50条2項に設けられています。
ところが、設立時募集株式の引受人については、履行前の権利株の譲渡について63条2項に規定がある他、出資履行後、会社成立前の権利株の譲渡については規定が見当たりません。
これは、何か理由があるのでしょうか?

投稿 しーぽん | 2006/12/01 2:03:58
A6
それは、確か、ずーっと昔にご指摘がありましたが、特に理由はありません。
でも、会社に対抗することはできないと解すべきでしょう。

Q7
1. 平成8年成立の非公開会社(いわゆる閉鎖会社)
2. 定款には、3月決算、6月定時総会の定めがあり、種類株式を発行する定めがない
3. 旧特例法上の小会社であったが、平成18年2月増資により資本金が1億円を超えた(大会社には該当しない)

以上の様な株式会社において、平成16年定時総会で就任した監査役Aは、会社法施行と同時に任期が満了します。これを防ぐために、

4. 平成18年4月臨時総会において、監査役の範囲を限定する旨の定めを会社法施行と同時に設定する旨の条件付決議

をしました。この場合には、監査役Aの任期について整備法95条が適用されますが、同条にいう「従前の例」とは、旧特例法26条3項でしょうか。それとも、旧商法273条1項でしょうか。

監査役の監査の範囲が拡大しなくなった以上、後者の4年の任期を維持するのが自然だと思われます。が、経過措置本の100ページには「施行時に在任する監査役については、次に掲げる行為等が行われない限り、(1)で述べた現行商法の任期に関する規律が適用される((1)⑤および⑥を除く)」とあり、(1)④のケースが除外されていないのが引っかかっています。
投稿 シーン | 2006/12/01 2:39:19
A7
 なお従前の例による以上、旧特例法26条3項も適用になると解するほかないでしょう。

Q8
新株予約権の目的とされた株式に取得条項を付す旨の定款変更がされた場合には、当該新株予約権者は新株予約権買取請求できないのは、なぜですか?

組織再編についての実務書で何か良いものを知っていたら、教えてください。
もちろん、千問、100問は、既に購入済ですので、それら以外でお願いします(笑)

投稿 パラリーギャル | 2006/12/01 9:05:11
A8
新株予約権買取請求の範囲は、もっぱら政策的な判断というしかないです。
組織再編についての実務書は、まだあまり出ていないと思いますが、郡谷・和久編著の計算詳解が一番よくまとまっています。

Q9
4月5日のQ&A3で葉玉先生は以下のようにご回答されております。

「477条6項で第4章第2節の規定が適用除外されているので、取締役会を置く旨の定款の定めは、清算株式会社では効力を失います。
 清算株式会社が、取締役会設置会社として継続したい場合には、継続決議の際に、取締役会を置く旨の定款の定めをしなければいけません。」

一方、相澤先生・松本先生の清算株式会社の機関設計(登記情報12月号)で
「取締役会を置く旨の定款の定めがある清算株式会社が継続をした場合には、特に定款変更を要することなく取締役会を置くべきこととなる。」
と書かれています。

後者に変更になったと考えてよろしいでしょうか?
A9
 そのとおりです。葉玉さんが答えを書いたころは、主として登記との関係で、保守的な見解を採っていました。
 その後、各方面とすりあわせの結果、「継続時の定款変更は不要」ということで話がまとまりました。ただし、登記は必要です。

Q10
111条2項について教えてください。
株式の内容として譲渡制限のみを規定している非公開会社が、新たに剰余金の配当(108条1項1号)と譲渡制限(108条1項4号)の事項を規定した異なる内容の株式を発行しようとする場合には、『ある種類株式の内容として第108条第1項第4号…に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合』(111条2項)に該当するのでしょうか?
よろしくお願いします。

投稿 リー | 2006/12/01 16:11:59
A10
該当しません。

Q11
会社法第8条1項の「不正の目的」について、教えて下さい。他の会社であると誤認される商号を使用するのは、とりもなおさずそのまま「不正な目的」だと思います。つまり、条文の「不正な目的をもって」は、当然のことへの説明語に思われます。登記簿で公示されている以上、他の会社の商号は知ってしかるべきなので、不正ではない「他の会社であると誤認される商号の使用」がありうるのでしょうか、と疑問に思いました。古い資料ですが、昭和57年4月8日の、参議院会議録の、「96国会、法務委員会第7号」の政府委員のかたの説明にも「不正の目的とは、ある名称を自己の商号として使用することにより、世人をして、自己の営業を他人の営業と誤認させようとする意図をいうと理解されてる」とありました。もしかすると、不正の目的とは、この「意図」の有無で決するのでしょうか。
投稿 はりこのトラ | 2006/12/01 18:06:28
A11
登記されている商号を使用したからといって、不正の目的が必ずあるわけではありません。不正の目的は、意図です。

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