« 共有持分の売り渡し請求 | トップページ | 所在不明株主の要件 »

2006年10月29日 (日)

社債権者集会決議の省略の可否

マイナーな話題ではありますが、最近、質問を受けた事項の中で気になっている
  「社債権者集会の決議の省略の可否」
についてお話しします。

ご存じのように、株主総会の決議や取締役会の決議については、決議の省略の規定があります。

しかし、監査役会、委員会と社債権者集会の決議については、「決議の省略」の規定がありません(監査役会と委員会への「報告の省略」の規定はあります)。

このうち、監査役会と委員会の決議の省略については、取締役会の決議の省略の規定を設けるにあたり、法制審議会の過程で話題になったものの、省略は妥当ではないということになったので、省略の規定は設けませんでした。

また,社債権者集会の決議については、省略のことが中間試案に載っていましたが,旧商法でも、株主総会の決議の省略があるにもかかわらず、社債権者集会の決議の省略はなかったことや、社債権者の保護の観ら決議の省略を肯定するのが妥当だろうかという疑問もあり、決議の省略の規定は設けませんでした。

 ところが、最近、ある人から、
「社債権者の全員が同意すれば、社債権者集会の決議は省略できるのではないか」
という質問を受けましたので、解釈として、決議の省略が可能かどうかを、再度、検討してみましたが、やはり
 法律の規定がない以上、社債権者集会の決議の省略は、できない
と答えざるをえないように思います。

 極めてラフに考えれば「社債権者がみんな同意しているのだから、決議を省略してもいいのではないか」という考え方も成り立たないわけではないでしょう。

 しかし、社債権者集会は、単純に、私的自治だけに委ねられているわけではありません。

 社債権者は、一般公衆である蓋然性が高いので、社債権者を後見的に保護する見地から、社債権者集会の決議を行ったとしても、裁判所の認可を受けなければ、その決議は効力を生じないとされているのです(734条2項)。
 そして、裁判所は、①社債権者集会の招集の手続又はその決議の方法が法令又は第六百七十六条の募集のための当該社債発行会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料に記載され、若しくは記録された事項に違反するとき、②決議が不正の方法によって成立するに至ったとき③決議が著しく不公正であるとき、④決議が社債権者の一般の利益に反するときには、認可することができないこととされていることを考えると、会社法は、社債権者の手続的利益には、ことのほか気をつかっているように見受けられます。

 「社債権者がみんな同意している」というと聞こえはいいのですが、法律家としては、社債権者が、適切な情報のもとで、自由な意思のもとで、同意したのかどうかが気になります。
 株主総会の決議が省略されるよう会社の株主は、株主相互の関係が緊密な小規模会社が多いと思いますが、社債権者は、会社の外部者であり、社債権者相互の緊密な関係も類型的には想定しにくいことを考慮すると、招集手続や集会における議論や決議という手続を重視する方が、自由意思の確保という点からは安全です。
 社債権者集会の決議の省略の規定を設けなかったのは、そうした疑問を払拭できなかったということも理由のひとつでありますし、現実問題として、同意書面や議事録の備置・閲覧等の規定も用意されていないので、解釈によって、決議の省略を認めるというのは、相当ハードルが高いと思います。

 さらに、社債権者集会の決議要件は、普通決議なら定足数はないし、特別決議ならば、議決権の総額の五分の一以上が定足数なので、書面投票を含めて考えれば、社債権者集会の開催を省略しなければ困るというほどの必要性もないのではないでしょうか(ニーズとしては、期間の短縮が考えられますが、社債権者集会を開催しなければならないほどの事態が生じているのに、期間の短縮の利益をどこまで重視すべきかは立法論としても検討する必要があります)。

 以上の理由から
 社債権者が全員同意していたとしても、社債権者集会の決議の省略は認められない
というのが、私の結論ですが、解釈はいろいろあっていいので、オウンリスクでトライするのを否定するものではありません。
 ただ、裁判所が認可してくれない可能性が高いので、やめた方がいいのではないかとも思います。

(質問コーナー)
Q1
会社法100問について最近勉強を始めたものですが質問させてください。問14P86(二)(1)につき借り入れは発起人としてなし、その後代表取締役になっているにすぎないため、利益相反にあたらないのでは?問16P93につき報酬について定款の記載があったか否かで場合分けしてもよろしいですか? 宜しくお願いします
投稿 東洋 | 2006/10/27 1:37:47
A1
発起人には、株式会社の設立を条件として、設立後の会社の資金を貸し付ける権限はありません。したがって、株式会社の資金を貸し付けているとすれば、代表取締役のはずで、貸し付けていないとすれば、単純な業務上横領です
財産引受以外の開業準備行為に対する報酬について、一切、帰属する余地がないという見解にたてば、定款の記載の有無で場合分けをする意味がありません。逆に、財産引き受けの規定の類推適用をする見解にたてば、場合分けをすることになるでしょう。

Q2
Q7について回答していただきありがとうございます。やはり会社法では一部の株式の転換することに関する条文はなかったのですね。
A7について重ねて質問をさせいていただきたいのですが、なぜ会社法は一部の株式の転換について定めていないのですか?
よろしくお願いします。
投稿 リー | 2006/10/27 8:40:53
A2
同一種類の株式の一部についてのみ、種類を転換するのは、株主平等の原則との関係で難しい問題があるからです。

Q3
当期純損失を計上したので、①期末配当は無配、②資本準備金を取り崩して資本の欠損のてん補に充てる・・・ということを考えている場合、株主総会での決議の仕方はどのようになるでしょうか?
まず「剰余金の処分の件」を付議して、期末配当を行わない旨のみを決議し、さらに別途「準備金の額の減少の件」を付議し、資本準備金を取り崩して資本の欠損のてん補に充てる旨を決議すればよろしいのでしょうか?
投稿 悩める株式課員 | 2006/10/27 11:40:56
A3
期末配当を無配にするのには、特に決議は必要ありません。
資本準備金を取り崩して、資本の欠損のてん補に当てるためには、欠損の額に相当する額の資本準備金を減少させる決議を行います。
Q4
弊社では新株予約権を発行しており、行使条件として、「権利者である社員は行使時においても社員であることを要する」旨を定めています。
今般、権利者の1人である社員が退職し、行使することができなくなるので、新株予約権の一部消滅の登記を申請したら認められました。
ただ、10/7の質問コーナーA3のご回答「現在の新株予約権者が行使できなくなったから,当然に消滅するのではなく,誰が新株予約権者になったとしても行使できなくなったときに消滅するということです。」ということであれば、弊社の取った方法および法務局が消滅登記を認めたのは間違いだったということはないでしょうか?(自己新株予約権として取得してから取締役会決議の基づき消却するのが正しいやり方?)
ご教示の程何卒よろしくお願い申し上げます。
投稿 ストックオプショニア | 2006/10/27 12:09:53
A4
まあ、新株予約権の条件の解釈にかかる問題ですので、必ずしも間違いではないのでしょう。
Q5
 関連当事者との注記(同140条)の記載対象となる取引の範囲について、Q5・A5(10月27日)で「今のところ,会計基準と異なる取扱いをする予定はありません。」とのご回答をいただきました。ありがとうございました。会計基準の制定により、解釈が変わったという理解でよろしいのでしょうか?
投稿 MALLORCA | 2006/10/27 17:53:20
A5
8月9日の段階から、事情によっては関連当事者に該当するという答えですので、解釈が変わっているわけではないと思うのですが。
Q6
新株予約権の消滅(会社法287条)について、会社法で新設された規定のため、文献には記述がなかなか見当たらないので、教えていただければと思います。
 例えば、新株予約権をABそれぞれに有利条件で1000株ずつ付与する取締役会決議+株主総会特別決議がなされ、ABそれぞれと1000株ずつ付与する契約を交わし登記しました。ところが、Bが懲戒解雇されたため新株予約権の行使条件を充足しなくなったので、Bに付与した新株予約権1000株が消滅しました。
 この場面で、Bに付与して消滅すべき枠を流用して、同じ条件でCに1000株付与することはそもそも可能でしょうか?可能だとして取締役会の決議のみで足りるのでしょうか、再度株主総会の特別決議も必要となるのでしょうか?
 株式の消却については神田秀樹会社法第7版116頁に取締役の決議だけで消却分の再度発行が可能っぽい話が出ていました。新株予約権の消滅も授権資本制度をスライドさせて同様に考えることが合理的ではないかと思いますが、他方、新株予約権の数に変更が生じた場合は登記事項であるところ(会社法911条3項12号イ→915条1項)、2000株で登記しているので、Bの新株予約権消滅によりいったん1000株に減少させる登記をなすのが筋であるため、このような流用を想定していないようにも思えたので、いずれも分があるように見えるのです。
投稿 ろぼっと軽ジK | 2006/10/27 18:08:32
A6
発行可能株式総数の話と、発行決議の話がごっちゃになっていませんでしょうか?
1000個の新株予約権を有利発行する決議をして、1000個の新株予約権を発行しているのですから、「枠」という話は出てこないはずです。
ちなみに、有利発行した株式を消却したからといって、次に同種の株式の有利発行を取締役会決議で行えるわけではありません。
Q7
会社法370条に関連して。監査役の権限が会計監査に限定されている非公開小会社ですが、定款に、取締役会の決議の省略のための規定を定めときに、「当該提案について監査役が異議を述べたときを除く」と定める事は可能でしょうか。
投稿 はりこのトラ | 2006/10/27 22:45:57
A7
370条の規定ぶりから考えると、会計監査限定監査役の異議を要件とすることはできないと思います。

Q8
資本金の額を減少する場合について質問させてください。
株式会社は 資本金の額の減少がその効力を生ずる日前ならば、いつでも当該日を変更することができますよね(449条7項参照)。
 そして、この条文につき 商事法務No1746 p32において 決定機関の定めはないので 株主総会や取締役の決議によらず、業務を執行するものが変更することができる との記載があります。
 しかし、個人的には 447条1項3号において 株主総会の特別決議を経て定めた 資本金の減少がその効力を生ずる日 を株主総会の決議を経ずに変えてしまうことに違和感を覚えています。これは株主総会の決議を蔑ろにするものではないでしょうか?
投稿 maru | 2006/10/29
A8
ないがしろにすると感じる人もいれば、感じない人もいるでしょう。どう感じようとも、法律論ではありません。
仮に変更を許したくないのならば、株主総会で、その趣旨の決議をすれば、取締役には忠実義務があるので、その決議に拘束されると思います。

|

« 共有持分の売り渡し請求 | トップページ | 所在不明株主の要件 »

コメント

株主総会における議題提案権(303条)及び議案通知請求権(305条)について2つ程質問させてください。
 
質問その① 議題提案権及び議案通知請求権は、取締役会設置会社において、6ヶ月前から総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権保有を要件としています。しかし 取締役会非設置会社においてはそのような要件を置いていません。この違いはなぜ生じるのでしょうか?

質問その② 取締役会設置会社のおける議題提案権、議案通知請求権は 300個以上の議決権保有を その要件のひとつとしています。しかし 他の少数株主権は 総株主の10分の1 だとか 100分の1保有という分数値を要件としています。なぜ 議題提案権、議案通知請求権のみが300個以上という具体的な数値を要件としているのでしょうか?

以上2点につきご教授くだされば幸いです。

投稿: maru | 2006年10月30日 (月) 01時26分

会社法363条1項に「業務を執行」する取締役が定められ、2項でこれらの者が自己の「職務の執行」の状況を報告しなければならないとあります。以前このブログ(10月5日Q5で、「総会の手続、役員等の選定、監査関係意外はみな業務執行だと思えばよい」と回答されておりましたが、この回答だと、上記363条2項の「職務の執行の状況」は何を報告すればいいのか理解できません。分かりやすく解説いただけませんでしょうか?

投稿: 悩み続けて早3ヶ月 | 2006年10月30日 (月) 08時36分

質問させていただきます。

株式譲渡と対抗要件についてです。
会社の遅滞などによって会社に対して対抗要件無しに株式譲渡を対抗できる場合は、第三者に対しても対抗できると考えるのでしょうか。
例えば、株券不発行会社において株式譲受人が譲渡人と名簿の書換えを請求したものの、会社が不当に遅滞させている場合において、譲渡を譲受人らが会社に対して名簿の記載なしに対抗できると判例で解されていますが、同時に、譲渡人の債権者が株式の差押えをした場合などです。

また、書換えを請求している間や譲渡制限株式について承認請求・買取人指定請求をしている最中に差押えられた場合などは、やはり未だ株主名簿に記載されていないため、たとえ請求が差押えよりも早い時期になされていたとしても、差押えが優先するのでしょうか。

不勉強で申し訳ないのですが、ご回答よろしくおねがいします。

投稿: 勉強中 | 2006年10月30日 (月) 16時45分

サミー様 初めて質問致します。現在、法科大学院に通っている者です。 よろしくお願いします。
業績連動型報酬について2点お尋ねしたいのですが、
①取締役には、業績連動型報酬が規定されておりますが(361Ⅰ②)、なぜ監査役には 業績連動型報酬の適用条文がないのでしょうか。ほぼ同様の職務についている監査委員には 409Ⅲ②で業績連動型報酬を採用できるのと比べると、監査役と監査委員の両者で規定の仕方 がどうして違うのか理由が分かりません。
②409条但書で会計参与については、確定額報酬に限っておりますが、その反対解釈でそれ以外の 機関である監査役に業績連動型報酬を採用しても違法とならないのでしょうか。

この2点についてお答えください。

投稿: N&K | 2006年10月30日 (月) 20時42分

まだ勉強を始めて間もない初心者ですが、よろしければお答えください。
最近になって100問を始め、最初に「本書を使った勉強法」を見てからやっています。事例問題については3つの力をどうやって行使するか何となくはイメージできるのですが、一行問題においては具体的にどうやって使っていけばいいのかまだつかみきれません(例えば、オウム返しの能力を磨くためにノートに書き出す、などです)。
なので、一行問題における3つの力の使い方を具体的に教えていただけたら幸いです。
非常に抽象的な質問で申し訳ありませんが、可能な範囲で結構ですのでよろしくお願いします。

投稿: ビギナー | 2006年10月30日 (月) 21時15分

合併による債権者保護手続きについて教えて頂きたいことがあります。
知れたる債権者には格別に催告しなければなりませんが、催告の内容は
公告内容と同じこと(次に掲げる事項)でいいのでしょうか。789条2項の「格別にこれを催告…」の「これ」とは何を指すのかがよくわかりません。旧商法も同じ様な文言になっていますが実務上は例えば貸借対照表は催告書に記載していなかったようであるので教えてください。

投稿: 補助者 | 2006年10月31日 (火) 00時23分

全部取得条項付種類株式の取得についてお伺いいたします。

株主総会で全部取得条項付種類株式の取得し、取得の対価を募集株式の払込金のみとする特定募集を行う場合に、議案は、全部取得条項付種類株式の取得の件と募集株式の発行の件は同一議案としないとまずいと思うのですが如何ですか。
全部取得条項付種類株式の取得の件だけ可決とか募集株式の発行の件だけが可決などないと思いましたのでご質問させて頂きました。

投稿: 南斗六星 | 2006年10月31日 (火) 08時14分

監査報告についてお教えください。
監査役会設置会社においては、「監査役の監査報告」と「監査役会の監査報告」があります。招集通知に添付すべきは後者のみとされていますが(会社法施行規則第133条1項2号ロ)、備え置くべき監査報告(会社法442条1項)については特段の定めがありません。監査役・監査役会のいずれの監査報告も備置対象となるという理解でよろしいでしょうか。

投稿: しん | 2006年10月31日 (火) 12時57分

サミーさん、取締役の特別利害関係人についてご教示下さい。
会社法第369条2項の「議決に加わることができない」の解釈ですが、
①これは、”Ⅰ取締役会に出席はできるが、定足数に算定されず当然議決権も行使することはできない”なのか、”Ⅱ取締役会自体に出席できずまったく関与できない”のどちらでしょうか?またⅢそれ以外の解釈でしょうか?
②①Ⅱの場合、取締役会自体にまったく関与できないですが、当該特別利害関係人はその取締役会を招集できるのでしょうか?また①Ⅱの場合、どうでしょうか?以上、大変お忙しいとは存じますが、よろしくお願い致します。

投稿: よっち | 2006年11月 2日 (木) 11時25分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 社債権者集会決議の省略の可否:

« 共有持分の売り渡し請求 | トップページ | 所在不明株主の要件 »