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2006年9月13日 (水)

財源規制違反の効力(補足)

財源規制違反の配当の効力について、商事法務で論文を書いたのですが、その後、2点ほど、この問題について質問を受けたので、今日は、有効説にたって、その質問にお答えしたいと思います。

疑問1 財源規制違反の配当を有効だとすると、違法な配当決議がされた場合に、株主が、違法な配当を請求することができることになるので、おかしい。

 有効説にたっても、株主は、違法配当を請求することはできません。財源規制に違反する配当は、461条1項に違反するので、株主の配当請求権の行使に対しては、分配可能額がないことが抗弁となります。有効説は、配当してしまったら、有効と評価すると言っているだけです
 会社法の解釈では、行為規範と評価規範という二つの面を区別して考える必要があります。
 行為規範というのは、これから行為を行う際に、どのような行為を行うべきかというルール、評価規範というのは、既に行われた行為について、その効力をどのように評価するかというルールのことです。
 たとえば、株主総会の特別決議なしで、株式の有利発行をやろうとするときに、行為規範としては、有利発行をすることは違法であり、株式発行の差し止めの対象となります。 しかし、一旦、株式が発行されてしまえば、その発行は有効と評価されます。これが、行為規範と評価規範の違いです。会社法は、法律関係の安定の見地から、行為規範と評価規範が別れる論点が多く、違法配当もその一つだと思うのです。

 つまり、配当前であれば、「財源規制違反の配当をすべきではない」という行為規範が働くので、取締役の違法行為差し止めの対象となるが、一旦、配当されてしまえば、これを有効と評価して、株主と業務執行者の責任により債権者を保護する。これが、有効説のアプローチです。

疑問2 財源規制違反の決議は、株主総会の決議無効の典型例なのに、有効説が、その決議を有効と考えているのは、おかしい。

 有効説は、必ずしも財源規制違反の配当をした株主総会の決議を有効だとする見解ではありません。疑問1で述べたとおり、配当が行われた場合には、財源規制に違反していても、その配当は有効となるという見解です。
 ただし、私は、無効説のように、単純に「株主総会決議は、内容が法令違反なので、無効」と考えているわけではありません。

 461条1項は、「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。」と規定しています。

 ポイントは、「その効力を生ずる日における」というところです。

 つまり、①株主総会の決議時の分配可能額を超えていなくても、配当の効力発生日の分配可能額を超えるのならば、配当はできないし、②株主総会の決議時の分配可能額を超えるような配当決議であっても、配当の効力発生日の分配可能額を超えないならば、配当してもよいのです。

無効説は、株主総会の決議が無効だから、それに基づく配当も無効であるという旧来の論理の延長線上にあるように思いますが、「利益配当は、年1回だけ」という旧商法では、それで対応できても、配当の回数が無制限になった会社法では、その考えでは対応できません。

 たとえば、6月1日の時点で分配可能額が1000万円の会社が、その日、株主総会で総額800万円の配当決議をし、効力発生日を7月1日にしたとしましょう(第一配当)。この決議は有効です。
 ところが、6月15日に株主総会を開催し、その日を効力発生日として500万円の配当決議をする(第二配当)とどうなるでしょうか。第二配当の効力発生日である6月15日の時点では、まだ第一配当がされていないので、分配可能額は1000万円であり、第二配当は、461条1項に違反しません。
 そして、第二配当で500万円を配当すると、その時点で分配可能額は500万円になるので、第一配当の効力発生日である7月1日の時点では、800万円の第一配当は、その日の分配可能額を超えてしまいます。
 この場合、無効説は、どのような論理で、第一配当の効力を説明するのでしょうか?
 
 逆の例も、あります。
 たとえば、6月1日の時点で分配可能額が1000万円の会社が、その日、株主総会で総額1200万円の配当決議をし、効力発生日を7月1日にしたとしましょう(無効説ですと、その決議は無効であると考えるでしょう)。
 しかし、6月15日に株主総会を開催し、その日を効力発生日として500万円の資本金の減少を行い、剰余金を増加させると(債権者保護手続きは終了しているものとします)、6月15日に分配可能額は1500万円になり、7月1日の1200万円の配当は、分配可能額の配当になります。

 このように財源規制違反の問題は、配当の効力発生日における分配可能額を基礎に論理を構成すべきでなのです。

 仮に、無効説が、財源規制違反の配当の効力を、株主総会決議の効力とダイレクトにリンクさせて考えているとすれば、会社法上、対応できない事例が出てくるものと思われます。
 これに対し、有効説は、株主総会の決議の有効・無効にかかわらず、配当の効力発生日における分配可能額を超えていたら配当できないという行為規範があることを前提に、その行為規範に違反して配当しても、その配当は有効と評価するという見解ですから、無効説のような問題は生じません。

 なお、財源規制違反の配当を内容とする株主総会の決議が、どんな場合でも無効とならないかというと、そうではありません。例えば、株主総会の決議の日を配当の効力発生日として、財源規制違反の配当をすれば、決議内容の法令違反で決議は、無効になるでしょう。決議の日と効力発生日が異なる場合でも、配当の効力発生日に配当額が分配可能額を超えることを避けることができないような決議であるならば、決議が無効とされることになるでしょう。ただし、その場合でも、配当してしまえば、その配当は有効と評価されることになりますが。

 以上のように、会社法では、剰余金の配当の回数制限を無くしたり、財源規制について配当と自己株式の取得とを統一的に規律することにしたために、様々な場面を想定した財源規制の在り方が検討され、現在の条文に結実しています。

 有効説は、こうした検討の結果を最も合理的な解決が得られるということで主張しているものなので、できれば、私が論文であげた事例や今日ブログであげた事例において、無効説だと、どのような結論を採るのかを知りたいところです。

(質問コーナー)
Q1
子会社による親会社(連結配当規制適用会社)株式の保有に関して、2006.8.3のQ11で回答されていましたが、この点に関する「千問の道標」等の解説をどう理解すべきかについて、いまだ疑問があるので、改めて質問させていただきます。
千問Q237では、「135条3項は、・・・親会社の株式を取得した子会社について、これを相当の時期に処分すべき・・・。」「当該親会社株式の市場価格等の諸事情を勘案して、・・・状況によっては、相当長期間保有することになる場合もあるものと考えられる。」と原則を解説したうえで、さらに、「連結配当規制適用会社については、・・・相当の時期についても、より柔軟な解釈が可能となる・・・。」とされています。(同趣旨のより詳細な解説として、商事法務1760号7頁、1767号45頁(共に相澤・郡谷)もあります。)
とすると、連結配当規制適用会社については、子会社による保有に伴う実質的な弊害がなく、かつ、経営判断として合理的な理由がある場合には、1年以内あるいは数年といった数値的な目安によることなく、相当期間保有し続けることも違法ではないと考えますが、いかがでしょうか
投稿 平蔵 | 2006/09/13 0:44:08
A1
そうですね。1年以内とかいう数値目標はないですね。1年以上保有し続けたから、即、違法となるということはありません。

Q2
子会社による親会社株式取得規制の例外として、会社法施行規則23条12号は、「親会社株式を発行している株式会社(連結配当規制適用会社に限る。)の他の子会社から当該親会社株式を譲り受ける場合」と規定していますが、ここでの「他の子会社」とは、連結子会社および持分法適用子会社に限られると解釈すべきでしょうか。あるいは、文言どおり、非連結の子会社も含まれていると解釈すべきでしょうか。
投稿 平蔵 | 2006/09/13 0:46:42
A2
うーん。23条12号は、連結配当規制が及んでいる場合には、子会社が、他の子会社が既に保有している親会社株式を取得しても、資本の空洞化が進むわけではないという趣旨によるものなので、非連結の子会社は、その趣旨からは逸脱してしまいますねえ。ちょっと調整マターですね。

Q3
書籍についてお聞きしたいのですが、会社の合併手続(手順)について書かれているお奨めの書籍などありましたら教えて頂けないでしょうか?
投稿 www | 2006/09/13 1:13:38
A3
実務本は、まだないように思いますが、郡谷さん達が書いた計算規則の詳解の組織再編のところは、一番、分かりやすいです。

Q4
 取締役会非設置会社についてです。
 会社法202条3項1号の「取締役の決定」とは取締役が複数いる場合は、「取締役の過半数の一致」という解釈でよろしいのでしょうか?
A4
 そうえす。

Q5
 債権者保護手続きについてです。
 例えば、会社法789条2項の官報の公告ですが、会社債権者が一人もいない場合は公告・債権者への個別催告は不要と考えてよろしいのでしょうか?特に個別催告については、債権者がいないわけですから、催告しようがないと思われます。
A5
公告は、不法行為債権者がいるかもしれめんから、必要です。
催告は知れている債権者がいないので、不要です。

Q6
相続人等に対する売渡し請求についてです。
会社法177条2項・5項で売渡し請求後20日以内に価格決定の申立てがない場合、請求の効力が失われるとのことですが、失効時点で、未だ176条の1年以内であった場合、再度請求可能でしょうか(既判力類似の効力があるのでしょうか)?
A6
再請求は可能でしょう。

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コメント

葉玉先生、遅ればせながら、新装開店おめでとうございます。ずいぶん可愛らしくなって、先生のイメージにぴったりですね。
さて、新装記念(?)に質問させてください。
会社法463条1項に「・・・効力を生じた日における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について・・・求償の請求に応ずる義務を負わない。」とあります。
この「善意」の判定について、少し具体的に教えてくださいませんでしょうか。
例えば、定時株主総会の決議による剰余金の配当の場合、当該株主総会の招集関係書類を基に計算すると分配可能額が不足していることが明らかであった場合(最終事業年度の末日後も分配可能額は増加していないものとします)、その招集関係書類を受け取った株主は善意となるのかどうか、というようなことです。
先生のお考えでは、例えばどのようなケースで、株主は善意となるのでしょうか。

投稿: みひろ | 2006年9月14日 (木) 00時43分

移転おつかれさまでした。
葉玉先生の書き込みを毎日楽しみにしていますので,
お体に気をつけてがんばってください。
一つ気になった点だけ指摘させてください。

*移転後の本文のカラーについて
読んでいて少し目に負担を感じました。
先生のお気に入りの配色であれば変更していただくのは大変恐縮なのですが,
もしよければ黒系のカラーに変更していただけたらと思います。

失礼しました。

投稿: ヨボヨボ | 2006年9月14日 (木) 02時42分

新・ブログオープン、おめでとうございます。
「会社法であそぼ。」で、葉玉先生にいろいろとご教示いただき、新法での組織再編を無事に完了することができました。
大変ありがとうございました。
新しいブログ、メルヘンですね。内容とのギャップがいいかんじです。
ところで、投稿者のnameをみると「Sammy」と書いてありました。 これは、ネットの世界での先生のお名前でしょうか?

投稿: 実務者はつらいよ | 2006年9月14日 (木) 09時56分

葉玉先生、ブログの新装オープンおめでとうございます。

実は私もヨボヨボさんの意見に同感で、下地のグリーンが目に刺さるように感じます。旧ブログは大丈夫だったのですが。

ご一考いただければ幸いです。

投稿: たれぬこ | 2006年9月14日 (木) 10時34分

移転お疲れ様です★(私は、かわいくってこっちも好きですョ)

昨日はQ8の御回答ありがとうございました。
登記不要とのこと。大変ありがたいお言葉です。

では、再度の質問になってしまうのですが、
整備法61条5項に清算人が含まれるのは、
どのような場合が想定されたからなのでしょうか?

新法施行をまたいだ清算株式会社についての
書籍がほとんどないため、宜しくお願い致します。

急に寒い日が続きますが、お体に気を付けてお過ごし下さいませ。

投稿: ほにょ | 2006年9月14日 (木) 14時52分

いつも丁寧にお答えいただき、助かっております。今後ともぜひ拝見させていただきます。というよりも、宜しくお願いします。
さて、早速質問で恐縮なのですが、貸借対照表の公告に代わる電磁的方法による措置を利用する場合に、旧商法下では取締役会決議を必要とする旨明言がありますが(旧商283⑦)、会社法では特に決定機関が定められていません(440③)。
これは、業務執行の決定として当然に取締役会決議を要する趣旨という理解でよろしいでしょうか。それとも、単なる業務執行として代表取締役が決定できると解することも可能でしょうか。
宜しくお願いします。

投稿: yasuko | 2006年9月14日 (木) 15時12分

お引っ越しおめでとうございます。
関係ないかもしれませんが、うちの子もカエルが好きです。
さて、良かったら、また教えてください。
累積投票によって選任された設立時取締役(89条)は、株式会社の成立の時までの間、解任できないということでよろしいでしょうか?
91条、92条に解任の規定がありますが、どちらにも当てはまらない気がします。
成立後に解任すれば、十分でしょ。ということで、規定しなかったのでしょうか?

投稿: パラリーギャル | 2006年9月14日 (木) 16時41分

いつも楽しく拝見させていただいています。
質問させてください。
当社は法施行後最初の総会をまだ行っておらず、定款の発行可能株式総数の規定には「株式消却が行われた場合はそれに相当する株式数を減ずる旨」の但書があります。
千問Q248では当該定めは有効とありますが、『会社法施行前後の法律問題』(P18の3行目~)では「定款の記載事項について、会社法に相当する概念等が存在しない場合には、特に経過措置ない限り、その規定は効力を失う」旨の記載があります。
当社の場合は施行後最初の総会をまだ行っていないので、今は但書の規定は効力がない。しかし最初の総会後そのまま但書の規定を残しておくと効力が生ずると考えればよいのでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。

投稿: つよしです | 2006年9月14日 (木) 17時58分

葉玉様

はじめまして。

突然の質問恐縮ですが、
商事法務の「会社法施行前後の法律問題」113P~
を読んでもよくわからないので、ご意見お願いいたします。

【現行定款・登記簿】
当会社は、商法266条第12項の規定により、取締役会の決議をもって、同条第1項第5号の行為に関する取締役(取締役であったものを含む)の責任を法令の限度において免除することができる。
当会社は、商法280条第1項の規定により、取締役会の決議により、監査役(監査役であった者を含む)の責任を法令の限度において免除することができる。
  ↓
【新定款】
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、監査役の同意及び取締役会の決議によって、同法第423条第1項の取締役(取締役であった者も含む。)の責任を法令の限度内において免除することができる。
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議によって、同法第423条第1項の監査役(監査役であった者も含む。)の責任を法令の限度内において免除することができる。

この会社はもちろん小会社・非公開会社です。、
いまさら言うまでもないことですが、旧商法では責任一部免除規定の設定には、監査役の業務権限の範囲は関係なかったところ、会社法では責任免除の規定を設置できるのは監査役設置会社のみとなりました。当該会社は、会社法施行当時、監査役の業務権限の範囲は会計監査のみであり、このたび定款を変更して、会社法に基づく責任免除の規定に変更する場合には、監査役の業務権限についても(会計監査)から(会計監査+業務監査)に変更し、監査役の退任・選任の手続きが必要になるのでしょうか?

あと、定款変更しなかった場合の旧規定の効力は
施行日前の行為に基づく損害賠償責任についてだけ及ぶのか?それとも施行日後の行為に基づく損害賠償責任にも及ぶのか?
文献によってまちまちなような気がします。
素直に読めば前者だと思うのですけど。

突然の質問で恐れ入りますが、ご意見頂戴できれば
幸いです。

投稿: 眠り猫 | 2006年9月14日 (木) 21時02分

損失の処理についてお教えください。

旧商法では当期未処分損失の全額を次期繰越損失としたい場合、株主総会にその内容の損失処理案を上程し決議をとれば良かったのですが、会社法では損失(利益)処分案を株主総会に上程できません。
会社法においてはこの場合、単に繰越利益剰余金の当期末残高がマイナスの株主資本等変動計算書を作成し、監査を受け、取締役会で承認し、株主総会で報告すれば足りるのでしょうか?
ちなみに、次期繰越損失を出さないため、会社法452条に定める剰余金の処分として、別途積立金を取り崩して繰越利益剰余金をその分増加させようと思えばできるのですが、あえて損失を次期に繰り越したい場合の話です。
また、会社法452条をみると「損失の処理」をする場合は株主総会の決議が要るように読めるのですが、本件のような旧商法でいうところの、未処分損失の全額を次期に繰越す場合は「損失の処理」には該当しないと考えてよろしいでしょうか?

投稿: おばかな総会担当者 | 2006年10月17日 (火) 00時13分

はじめまして。

自己株式の取得の効力について教えてください。

株主総会の承認決議を経ずに、自己株式の取得を実行した場合、原則として無効であるという見解を前提として、株主総会の承認決議を欠いていることに加えて、分配可能額が存在しないにもかかわらず、自己株式の取得を実行した場合、当該自己株式の取得の効力はどうなるのでしょうか?

財源規制に違反した自己株式の取得も有効であるというの会社法の立場ということですが、この見解に立つと、上記のような場合、自己株式の取得の効力はどうなるのでしょうか?

よろしくお願いいたします。

投稿: まこまこ | 2006年11月 4日 (土) 19時25分

相互保有株式のことについて質問させて下さい。現在株式会社が5社あって互いに25%づつの株式を保有しています。この場合会社法施行規則67条1項により、議決権行使の禁止は適用されず、有効に決議が可能でしょうか。

投稿: うさぎ | 2006年11月21日 (火) 17時33分

始めまして、教えてもらいたいのですが、非公開株式会社で株主が2名、総株数200株、1名ずつ100株を保有し、代表取締役(取締役)選任を行う時、意見が分かれ代表が決まらない場合は、どうしたらよいのでしょう?

投稿: けんけん | 2009年4月27日 (月) 10時04分

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